(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131600
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】歯車装置のケース
(51)【国際特許分類】
F16H 57/03 20120101AFI20240920BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16H57/03
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041968
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】前野 良太
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA17
3J027FA36
3J027GB03
3J027GC02
3J027GE11
3J027GE27
3J063AB15
3J063AC01
3J063BA01
3J063BB12
3J063BB41
3J063CD41
3J063XC01
(57)【要約】
【課題】ケースのフランジをコンパクトに構成する。
【解決手段】歯車装置1のケース30は、内周面に軸方向に沿う複数のピン溝32gを有する筒状形状のケース本体31と、ケース本体31の外周面からの距離が所定の高位領域33a、及び、外周面からの距離が高位領域33aよりも短い低位領域33bを有するフランジ33と、少なくとも低位領域33bに対応する周方向位置において、ケース本体31のピン溝32gの径方向外側位置に配置され、ケース本体31のピン溝32g部分よりも硬度又は剛性の大きい補強部35と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に軸方向に沿う複数のピン溝を有する筒状形状のケース本体と、
前記ケース本体の外周面からの距離が所定の高位領域、及び、前記外周面からの距離が前記高位領域よりも短い低位領域を有するフランジと、
少なくとも前記低位領域に対応する周方向位置において、前記ケース本体の前記ピン溝の径方向外側位置に配置され、前記ケース本体のピン溝部分よりも硬度又は剛性の大きい補強部と、
を備える歯車装置のケース。
【請求項2】
前記補強部は、前記ケース本体のピン溝部分よりも剛性の大きい素材で構成される、
請求項1に記載の歯車装置のケース。
【請求項3】
前記補強部の軸方向長さは、前記フランジの軸方向長さよりも大きい、
請求項1に記載の歯車装置のケース。
【請求項4】
前記補強部は、径方向から見て、前記ピン溝の軸方向範囲の80%以上と重なっている、
請求項1に記載の歯車装置のケース。
【請求項5】
前記補強部は、径方向から見て、前記ピン溝の軸方向範囲の全体と重なっている、
請求項4に記載の歯車装置のケース。
【請求項6】
前記フランジは、複数の前記低位領域を周方向に間欠的に有し、
前記補強部は、前記複数の低位領域の各々に対応して、周方向に間欠的に設けられる、
請求項1に記載の歯車装置のケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置のケースに関する。
【背景技術】
【0002】
減速機等の歯車装置では、内周面に複数のピン溝を有するケースの外周部に、径方向の高さ(厚さ)が一様でないフランジが設けられる場合がある。この種のケースでは、内周面のピン溝を加工する場合に、フランジが薄く剛性が低い部分でケースが撓み変形を起こすおそれがある。これを回避するためには、フランジが薄い部分のピン溝を加工するときに切削工具の押し付け力を弱める必要があり、より多くの加工時間を要してしまう。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の技術では、ケース外周面のフランジを、ピン溝の軸方向領域の所定範囲以上をカバーするように設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、ピン溝の軸方向領域に対応させてフランジを軸方向に厚くする必要が生じる。フランジが厚くなると、モータ等との取り合い位置の変化や重量の増加等を招来してしまう。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ケースのフランジをコンパクトに構成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、歯車装置のケースであって、
内周面に軸方向に沿う複数のピン溝を有する筒状形状のケース本体と、
前記ケース本体の外周面からの距離が所定の高位領域、及び、前記外周面からの距離が前記高位領域よりも短い低位領域を有するフランジと、
少なくとも前記低位領域に対応する周方向位置において、前記ケース本体の前記ピン溝の径方向外側位置に配置され、前記ケース本体のピン溝部分よりも硬度又は剛性の大きい補強部と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ケースのフランジをコンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[歯車装置の全体構成]
図1は、本実施形態に係る歯車装置1の縦断面図であり、
図2は、歯車装置1の横断面図である。
図1は、
図2のEFGH線での断面図である。
図2は、右半部が
図1のII矢視図、左半部が
図1のIII-III線での断面図である。
以下では、図中の中心軸Axに沿った方向を「軸方向」、中心軸Axに垂直な方向を「径方向」、中心軸Axを中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結される側(
図1の左側)を「負荷側」といい、負荷側とは反対側(
図1の右側)を「反負荷側」という。
【0011】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る歯車装置1は、振り分け型の偏心揺動型減速機である。具体的に、歯車装置1は、偏心体21a、21bを有する偏心体軸21と、軸心(中心軸Ax)からオフセットされた貫通孔に偏心体21aが通される第1の外歯歯車22Aと、軸心からオフセットされた貫通孔に偏心体21bが通される第2の外歯歯車22Bとを有する。
【0012】
偏心体軸21は、図示しないモータの出力軸と噛合する偏心体軸歯車23を有し、当該偏心体軸歯車23を介して入力軸から回転が入力される。外歯歯車22A、22Bの貫通孔は、周方向の複数箇所(例えば3箇所)に設けられており、複数の偏心体軸21が通される。偏心体21a、21bは、偏心体軸受27Aを介して回転自在に外歯歯車22A、22Bの貫通孔に配置される。
【0013】
さらに、歯車装置1は、出力軸(キャリア体)24と、出力軸24の反負荷側に固定される支持板241と、外歯歯車22A、22Bと噛合う内歯歯車32を有するケース(ケーシング)30とを備える。偏心体軸21と出力軸24との間及び偏心体軸21と支持板241との間には、偏心体軸用軸受27Bがそれぞれ配置される。ケース30は、主軸受28a、28bを介して出力軸24と支持板241とを回転自在に支持する。出力軸24は、図示しない被駆動部材に固定される。
【0014】
このような構成により、歯車装置1では、モータの駆動により偏心体軸歯車23を介して偏心体軸21に回転運動が伝達されると、偏心体21a、21bが回転して外歯歯車22A、22Bを互いに異なる位相で偏心揺動させる。この偏心揺動により、外歯歯車22A、22Bと内歯歯車32との噛み合う位置が周方向に変化し、両者の歯数が異なることで、外歯歯車22A、22Bが回転(自転)する。そして、外歯歯車22A、22Bの自転成分が出力軸24を介して被駆動部材に出力される。
【0015】
[ケースの具体構成]
ケース30は、筒状形状に形成されたケース本体31と、ケース本体31の内周面に設けられた内歯歯車32と、ケース本体31の外周部に設けられた鍔状のフランジ33とを有する。
ケース30は、本実施形態では鋳造品であり、例えばFCD450等のダクタイル鋳鉄製である。ただし、ケース30の素材は特に限定されず、例えばダクタイル鋳鉄以外の鋳鉄、鋳鋼、アルミニウム合金鋳物(ダイキャスト含む)等で構成されてもよい。
【0016】
内歯歯車32は、内歯として機能する複数の内歯ピン32pと、複数の内歯ピン32pを保持する複数のピン溝32gとを有する。各内歯ピン32pは、軸方向に延在する円柱状のピンである。各ピン溝32gは、軸方向に沿う断面略半円状の溝であり、ケース30の内周面に周方向に等間隔に形成されて内歯ピン32pが回転自在に配置される。
【0017】
フランジ33は、ケース本体31の外周部のうち、ピン溝32gの径方向外側位置に配置されている。具体的に、フランジ33は、円筒鍔の周上4個所(
図2の上下左右の各位置)を接線方向に沿って切除(Dカット)した形状に形成されている。これにより、フランジ33は、ケース本体31の外周面からの(径方向)距離が所定の高位領域33aと、ケース本体31の外周面からの(径方向)距離が高位領域33aよりも短い低位領域33bとを有している。つまり、高位領域33aがDカットされていない円弧状部分であり、低位領域33bがDカットされた直線状部分である。
高位領域33aには、軸方向に沿った複数のボルト穴(貫通孔)33hが形成されている。ボルト穴33hには、ケース30をモータアダプタ等に締結するボルト(図示省略)が挿通される。
高位領域33aおよび低位領域33bは、周方向に交互に配置され、それぞれ4つが周方向に間欠的に配置されている。
なお、高位領域33a及び低位領域33bの位置や数量は特に限定されない。
【0018】
ケース本体31の内部には、当該ケース本体31を補強するための4つの補強部35が配置されている。
補強部35は、各低位領域33bに対応して、周方向に間欠的に設けられる。具体的に、補強部35は、低位領域33bに対応する周方向位置において、ケース本体31のピン溝32gの径方向外側位置に配置されている。
補強部35の軸方向長さは、フランジ33の軸方向長さよりも大きく、本実施形態ではフランジ33の軸方向長さの2倍程度である。また、補強部35は、径方向から見て、ピン溝32gの軸方向範囲の80%以上と重なっているのが好ましく、ピン溝32gの軸方向範囲の全体と重なっているのがより好ましい。本実施形態の補強部35は、ピン溝32gの軸方向範囲の全体(全域)よりもやや広い範囲に亘って配置されている。
なお、補強部35は、少なくとも低位領域33bに対応する周方向位置に配置されていれば、その位置や数量は特に限定されず、例えば全周に亘ってリング状に設けられてもよい。
【0019】
補強部35の素材は、本実施形態では、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼であり、鋳包みによりダクタイル鋳鉄製のケース30に一体的に鋳造される。ただし、補強部35は、ケース本体31のうち当該補強部35以外の部分(例えばピン溝32g部分)よりも剛性の大きい(高い)素材で構成されていればよく、その素材は特に限定されない。例えば、補強部35は、ダクタイル鋳鉄のヤング率176GPaに対して、これによりも大きいヤング率(例えば200GPa程度)を有する一般構造用圧延鋼(例えばSS400)等の金属材料であってもよい。
【0020】
[実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、ケース30は、少なくともフランジ33の低位領域33bに対応する周方向位置において、ケース本体31のピン溝32gの径方向外側位置に配置され、ケース本体31のピン溝32g部分よりも剛性の大きい補強部35を備えている。
そのため、補強部35によって低位領域33bの剛性が向上する。これにより、ケース本体31の内周面のピン溝を加工する場合に、切削工具の押し付け力を弱めたりすることなく、低位領域33bでの撓み変形を抑制できる。したがって、ピン溝の軸方向領域に対応させてフランジを厚くする必要があった従来に比べ、ケース30のフランジ33をコンパクトに構成することができる。
ひいては、ケース30の軽量化を図ることができ、歯車装置1をロボットの手先等に適用した場合に、可搬重量や動作速度に優れるロボットを実現できる。また、補強部35としてさらに剛性の高い鋼材を鋳包みすることで切削速度を従来よりも上げることも可能である。
【0021】
また、本実施形態によれば、補強部35の軸方向長さは、フランジ33の軸方向長さよりも大きい。
これにより、フランジ33の低位領域33bの剛性をより確実に向上させることができる。
【0022】
また、本実施形態によれば、補強部35は、好ましくは、径方向から見て、ピン溝32gの軸方向範囲の80%以上と重なっており、より好ましくは、ピン溝32gの軸方向範囲の全体と重なっている。
これにより、ピン溝32gに対応する軸方向範囲の剛性をより確実に向上させることができる。
【0023】
[変形例]
上記実施形態では、別体の補強部35をケース30と一体的に鋳包みすることで、当該補強部35によりフランジ33の低位領域33bの剛性を補うこととした。
しかし、補強部として、「剛性」ではなく、低位領域33bに対応する部分の「硬度」を向上させたものを適用してもよい。つまり、補強部は、少なくとも低位領域33bに対応する周方向位置において、ケース本体31のピン溝32gの径方向外側位置に配置され、ケース本体31のピン溝32g部分よりも「硬度」の大きいものであってもよい。
【0024】
このような補強部の実現手法としては、例えば高周波焼入れが挙げられる。ピン溝32gの加工前に、高周波焼入れによってケース30のうち上記補強部の硬度を向上させればよい。
これにより、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0025】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、本発明に係る歯車装置の一例として、振り分け型の偏心揺動型減速機を例示した。しかし、本発明に係る歯車装置は、ケース(ケース本体)の内周面にピン溝を有するものであれば特に限定されない。例えば、センタークランク型の偏心揺動型減速機や単純遊星型減速機、撓み噛合い式減速機等であってもよい。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 歯車装置
30 ケース
31 ケース本体
32 内歯歯車
32g ピン溝
32p 内歯ピン
33 フランジ
33a 高位領域
33b 低位領域
33h ボルト穴
35 補強部