(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131611
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】窒化ケイ素板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/587 20060101AFI20240920BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C04B35/587
C04B35/64
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041986
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】松本 理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
(57)【要約】
【課題】厚さが小さいものも含みうる複数種の厚さの窒化ケイ素板を、割れ、凹み及び変形を抑制しつつ、面積の大小に関わらず効率よく得る。
【解決手段】複数種の厚さのグリーンシートを分離剤を介して積層して焼結し、焼結後の分離によって複数種の厚さの窒化ケイ素板を得ることを特徴とする窒化ケイ素板の製造方法である。複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.15mm以下である第1のグリーンシートであり、かつ、少なくとも1種は厚さが0.2mm以上である第2のグリーンシートであり、表面に分離剤を塗布した前記第2のグリーンシートと、表面に分離剤を塗布しない前記第1のグリーンシートとを、交互に積層することが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素の出発原料を含む複数種の厚さのグリーンシートを分離剤を介して積層して焼成し、焼成後の分離によって複数種の厚さの窒化ケイ素板を得ることを特徴とする窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項2】
前記出発原料が窒化ケイ素粉末又はシリコン粉末である請求項1記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項3】
前記複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.15mm以下である第1のグリーンシートである請求項1記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項4】
前記複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.2mm以上である第2のグリーンシートである請求項3記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項5】
前記第1のグリーンシートの表面には分離剤を塗布しない請求項3又は4記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項6】
前記第1のグリーンシート同士を連続して積層しない請求項3又は4記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項7】
複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.15mm以下である第1のグリーンシートであり、かつ、少なくとも1種は厚さが0.2mm以上である第2のグリーンシートであり、
表面に分離剤を塗布した前記第2のグリーンシートと、表面に分離剤を塗布しない前記第1のグリーンシートとを、交互に積層する請求項1記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項8】
焼結した窒化ケイ素粒子を含有し、厚さが0.12mm以下であり、3点曲げ強度が600MPa以上であり、表面粗さSaが0.3μm以上である窒化ケイ素板。
【請求項9】
前記窒化ケイ素粒子が柱状のβ型窒化ケイ素粒子であり、前記表面粗さSaが2μm以上である請求項8記載の窒化ケイ素板。
【請求項10】
前記窒化ケイ素板の少なくとも1つの面は焼結上がり面である請求項8記載の窒化ケイ素板。
【請求項11】
前記窒化ケイ素板の1つの面の面積が、2500mm2 以上である請求項8記載の窒化ケイ素板。
【請求項12】
前記窒化ケイ素板の少なくとも1つの面に樹脂材料が接触している請求項8~11のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーデバイスの高電力化や小型化に伴に、発熱部材とヒートシンクのギャップを埋めるための熱界面材料(TIM)の重要性が認識されている。TIMには、熱抵抗が低いこと、強度が高いこと、用途に応じて薄いこと等が要求される。
【0003】
現在、TIMとしては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナ等の高熱伝導性のセラミックの粒子(フィラーと呼ばれる)を樹脂中に分散させた材料で成形したものが広く使われており、これは容易に薄く成形することができる。
【0004】
しかしながら、同材料からなるTIMにおいて、熱の伝播は粒子同士の接触点で行われるため、熱抵抗を減らすには粒子の充填密度を高めたいところ、樹脂中に分散させる以上限界があり、熱抵抗を現行以上に減らすことは難しい。
【0005】
そこで、熱抵抗がより低いTIMとして、セラミック板が検討されている(特許文献1)。本発明者らは、熱伝導性のみならず強度や破壊靭性も高い窒化ケイ素(Si3N4)の焼結板(以下単に「窒化ケイ素板」という。)に注目し検討している。
【0006】
窒化ケイ素板は、次の方法で製造するのが一般的である(特許文献2)。まず、窒化ケイ素粉末と焼結助剤とバインダーなどの有機成分を混合し、厚さ0.2~0.6mm程度のグリーンシートを成形する。次に、グリーンシートの表面に分離剤を塗布し、複数枚のグリーンシートを重ねた積層体を準備する。その積層体を焼成してグリーシートを緻密化した窒化ケイ素板とし、その後1枚毎に分離する。
【0007】
しかしながら、厚さが上記よりも小さい窒化ケイ素板を上記方法で直接製造することは、次の(ア)~(ウ)の点から困難であった。
【0008】
(ア)添加した焼結助剤の一部が、液相を形成したり、揮発し、拡散したりすることで、積層体のグリーンシート同士をわずかに融着させることが問題となる。窒化ケイ素板にある程度の厚さがある場合は、この融着を引き剥がすことが可能である。しかしながら、窒化ケイ素板の厚さが例えば0.1mmと小さい場合は、わずかに融着した窒化ケイ素板同士を引き剥がす際にかかる応力によって、割れが生じてしまう。また、目視では割れが確認できなくとも、微細なクラックが生じており、曲げ強度の低下が確認されることもあった。
【0009】
(イ)窒化ケイ素板同士の融着を回避するためには、グリーンシートの表面に塗布する分離剤の量を増加させることが考えられる。しかしながら、積層工程で使用される分離剤としては、有機溶剤を含む窒化ホウ素(BN)スラリー又は窒化ケイ素ペーストが一般的である。そのため、分離剤の塗布量を増加させると、その有機溶剤が薄いグリーンシートに添加されたバインダー成分を溶かしてしまい、グリーンシートの変形原因となる。
【0010】
(ウ)さらには、過剰に塗布した分離剤が塊となって、積層したグリーンシート間に存在しやすくなり、その塊が凹みや割れの不良につながってしまう。
【0011】
そこで、従来、厚さの小さい窒化ケイ素板を得るためには、上記の方法で例えば厚さ0.2mm程度の窒化ケイ素板を作製した後、例えば厚さ0.1mm程度にまで研磨するのが一般的であり、製造効率が低かった。よって、この方法で大面積の窒化ケイ素板を得ることは、製造効率の点で困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2019-176060号公報
【特許文献2】特開2011-178598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の課題は、複数種の厚さの窒化ケイ素板(薄板も含みうる)を、割れ、凹み及び変形を抑制しつつ、面積の大小に関わらず効率よく得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1]窒化ケイ素の出発原料を含む複数種の厚さのグリーンシートを分離剤を介して積層して焼成し、焼成後の分離によって複数種の厚さの窒化ケイ素板を得ることを特徴とする窒化ケイ素板の製造方法。
【0015】
[作用]
複数種の厚さのグリーンシートを分離剤を介して積層して焼成するときに、グリーンシート同士がわずかに融着したとしても、複数種の厚さのうち1種は他種よりも厚さが相対的に大きいことから、グリーンシートの割れや変形を抑制しつつ、この融着を引き剥がしてシートを分離することができる。
【0016】
[2]前記出発原料が窒化ケイ素粉末又はシリコン粉末である[1]記載の窒化ケイ素板の製造方法。
出発原料が窒化ケイ素粉末である場合、焼成時にグリーンシートは緻密化した焼結体(窒化ケイ素板)となり、窒化は不要である。
出発原料がシリコン粉末である場合、焼成時にグリーンシートは窒化するとともに緻密化した焼結体となる。酸素量が低いシリコン粉末を使用すると、窒化後に生成する窒化ケイ素粒子に含まれる酸素量を低くすることができる。さらには、焼成時に生成する液相内の酸素量が減少し、窒素濃度が高まることで、棒状のβ型窒化ケイ素粒子への相転移温度が低下し、β型窒化ケイ素粒子の粒成長速度が速くなる。そのため、焼結後の窒化ケイ素基板内の結晶粒子径は大きくなり、熱伝導率と表面粗さは増加する。また、結晶内に固溶する酸素量が低下することでも熱伝導率を増加させる効果がある。
【0017】
[3]前記複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.15mm以下である第1のグリーンシートである[1]又は[2]記載の窒化ケイ素板の製造方法。
厚さが0.15mm以下である窒化ケイ素板を得ることができ、当該厚さが要求される用途に対応することができる。
【0018】
[4]前記複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.2mm以上である第2のグリーンシートである[1]~[3]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板の製造方法。
厚さが0.2mm以上である窒化ケイ素板を得ることができ、当該厚さが要求される用途に対応することができる。
【0019】
[5]前記第1のグリーンシートの表面には分離剤を塗布しない[3]又は[4]記載の窒化ケイ素板の製造方法。
分離剤に含まれる有機溶剤が、第1のグリーンシートに添加されたバインダー成分を溶かすことがないので、シートの変形を防ぐことができる。
【0020】
[6]前記第1のグリーンシート同士を連続して積層しない[3]~[5]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板の製造方法。
第1のグリーンシート同士を引き剥がすことがなくなるので、前記割れを抑制することができる。
【0021】
[7]複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.15mm以下である第1のグリーンシートであり、かつ、少なくとも1種は厚さが0.2mm以上である第2のグリーンシートであり、
表面に分離剤を塗布した前記第2のグリーンシートと、表面に分離剤を塗布しない前記第1のグリーンシートとを、交互に積層する[1]又は[2]記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【0022】
[8]焼結した窒化ケイ素粒子を含有し、厚さが0.12mm以下であり、3点曲げ強度が600MPa以上(好ましくは650MPa以上)であり、表面粗さSaが0.3μm以上である窒化ケイ素板。
【0023】
[作用]
厚さが0.12mm以下であり、3点曲げ強度が600MPa以上であることにより、TIM等の用途に好適である。また、表面粗さSaが0.3μm以上であることにより、該板表面に設ける放熱グリスや樹脂層との密着性が高まり、熱伝導率が高くなる。
【0024】
[9]前記窒化ケイ素粒子が柱状のβ型窒化ケイ素粒子であり、前記表面粗さSaが2μm以上である[8]記載の窒化ケイ素板。
【0025】
柱状のβ型窒化ケイ素粒子により、焼結体の熱伝導率が向上する。また、該粒子の端が板表面から露出又は突出していることにより、表面粗さSaが2μm以上となり、前記放熱グリスや樹脂層との密着性がさらに高まり、熱伝導率が高くなる。
【0026】
[10]前記窒化ケイ素板の少なくとも1つの面は焼結上がり面である[8]又は[9]記載の窒化ケイ素板。
焼結上がり面は、上記の表面粗さSaを減少させない。
【0027】
[11]前記窒化ケイ素板の1つの面の面積が、2500mm2 以上である[8]~[10]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板。
大面積が求められるTIM等の用途に好適である。
【0028】
[12]前記窒化ケイ素板の少なくとも1つの面に樹脂材料が接触している[8]~[11]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板。
窒化ケイ素板の当該面に他部材を密着させるとき、樹脂材料が隙間を生じにくくすることにより、熱伝導率が高くなる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、複数種の厚さの窒化ケイ素板(薄板も含みうる)を、割れ、凹み及び変形を抑制しつつ、面積の大小に関わらず効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は実施例の窒化ケイ素板の製造方法におけるグリーンシートの積層工程を説明する概略図である。
【
図2】
図2は実施例1で得られた窒化ケイ素基板の表面微構造を示すレーザー顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は実施例6で得られた窒化ケイ素基板の表面微構造を示すレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
窒化ケイ素板は、原料を混合する混合工程と、原料をスラリー化してグリーンシートを成形する成形工程と、グリーンシートを積層する積層工程と、積層状態のグリーンシートを焼成して窒化ケイ素板を得る焼成工程と、積層状態の窒化ケイ素板を分離する分離工程とを含んでなる製造方法により製造することができる。各工程の一例を次に説明する。
【0032】
混合工程において、窒化ケイ素板の出発原料としては、窒化ケイ素粉末又はシリコン粉末を例示できる。出発原料には、焼結助剤(希土類酸化物粉末、マグネシウム化合物粉末等)を添加し、ボールミルで十分に混合し粒度調整する。
【0033】
成形工程において、上記の混合粉末にバインダー、可塑剤及び有機溶剤を添加してスラリーとし、スラリーを真空脱泡し粘度調整する。このスラリーから、ドクターブレード法、押出成形法、鋳込成形法等によって、複数種の厚さのグリーンシートを成形する。
複数種の厚さのグリーンシートのうち、少なくとも1種は厚さが0.15mm以下である第1のグリーンシートであり、かつ、少なくとも1種は厚さが0.2mm以上である第2のグリーンシートであることが好ましい。
【0034】
積層工程において、複数種の厚さのグリーンシートを分離剤を介して積層し、積層体とする。
前記第1のグリーンシートの表面には分離剤を塗布しないこと、かつ、前記第1のグリーンシート同士を連続して積層しないことが好ましい。
表面に分離剤を塗布した前記第2のグリーンシートと、表面に分離剤を塗布しない前記第1のグリーンシートとを、交互に積層することが好ましい。
【0035】
焼成工程において、出発原料が窒化ケイ素粉末である場合には、グリーンシートの積層体を加熱して窒化ケイ素粉末を緻密化した焼結板にする。出発原料がシリコン粉末である場合には、グリーンシートの積層体を窒素雰囲気中で加熱してシリコン粉末を窒化させるとともに緻密化した焼結板にする(反応焼結法)。第1のグリーンシートから第1の窒化ケイ素板が得られ、第2のグリーンシートから第2の窒化ケイ素板が得られる。
【0036】
分離工程において、積層状態で得られた窒化ケイ素板を1枚毎に引き剥がして分離する。
【0037】
上記の製造方法によって、焼結された窒化ケイ素粒子を含有し、厚さが0.12mm以下であり、表面粗さSaが0.3μm以上であり、3点曲げ強度が600MPa以上である窒化ケイ素板を得ることができる。
【0038】
ここで、出発原料がシリコン粉末である場合、窒化ケイ素粒子が柱状のβ型窒化ケイ素粒子であり、表面粗さSaが2μm以上である窒化ケイ素板を得ることができる。
【0039】
窒化ケイ素板の少なくとも1つの面、特に上記の表面粗さSaである面は、焼結上がり面であることが好ましい。
【0040】
また、窒化ケイ素板の一方の表面の面積が、例えば2500mm2 以上といった大面積である窒化ケイ素板を得ることができる。
【0041】
また、窒化ケイ素板の少なくとも1つの面に樹脂材料が接触している態様とすることができる。
樹脂材料としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、反応硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱伝導性樹脂シート、高熱伝導性フィラー(金属粉末、セラミックス粉末等)が添加された樹脂等を例示できる。
樹脂材料の形態としては、特に限定されないが、樹脂層を例示できる。
【0042】
本発明の窒化ケイ素板の用途としては、特に限定されないが、TIM、回路基板、放熱板、絶縁板、高周波窓等を例示できる。
【実施例0043】
次に、本発明を具体化した表1に示す実施例1~6について比較例1~3と比較して説明する。なお、実施例の各部の材料、数量及び条件は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0044】
【0045】
まず、実施例1の窒化ケイ素板の製造方法について説明する。
・混合工程において、窒化ケイ素の出発原料としてβ型窒化ケイ素の含有量が10%以下であるα型窒化ケイ素粉末を用い、焼結助剤を添加して表1に示す配合組成とし、有機溶剤(トルエンとエタノールの混合溶媒)と分散剤を添加し、窒化ケイ素製の粉砕メディアを使用したボールミルで24時間混合した。
・次の成形工程において、上記混合粉末に、バインダー(ポリビニルブチラール)と可塑剤(アジピン酸ジオクチル)と有機溶剤とを添加してスラリーとした。スラリーを真空脱泡してスラリー中の有機溶剤の割合を35wt%以下とし、スラリーの粘度を15000~25000cpsに調整した。このスラリーから、成形速度を220mm/min以上としたドクターブレードによって、乾燥後の厚さが0.12mmである第1のグリーンシートと、乾燥後の厚さが0.45mmである第2のグリーンシートをそれぞれ成形した。得られた各グリーンシートを140mm×140mmの大きさに切断して複数枚準備した。
・次の積層工程において、分離剤として有機溶剤を含むBNスラリーを使用し、
図1に示すように、表面(両面)に分離剤3をスプレー塗布してから有機溶剤を揮発させた第2のグリーンシート2と、表面に(両面のいずれにも)分離剤をスプレー塗布しない第1のグリーンシート1とを、下から上へ交互に積層していき、最下段と最上段とに第2のグリーンシート2を配置することで、9枚の第1のグリーンシート1と10枚の第2のグリーンシート2との計19枚からなる積層体を準備した。
・次の焼成工程において、積層体を、乾燥空気中500℃で脱バインダーした後、1900℃で4時間かけて焼成し、全グリーンシートを緻密化した焼結体(窒化ケイ素板)とした。第1のグリーンシートから第1の窒化ケイ素板が得られ、第2のグリーンシートから第2の窒化ケイ素板が得られた。
・次の分離工程において、第1の窒化ケイ素板及び第2の窒化ケイ素板を1枚毎に引き剥がして分離した。
【0046】
次に、実施例2~4の窒化ケイ素板の製造方法は、成形工程において、第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの各厚さを表1のとおりに変更した点と、積層工程において、第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの各枚数と第2のグリーンシートへの分離剤の塗布量を表1のとおりに変更した点においてのみ、実施例1と相違するものであり、その他は実施例1と共通である。
【0047】
次に、実施例5,6の窒化ケイ素板の製造方法は、下記のとおり混合工程、成形工程、積層工程及び焼成工程において実施例1と相違するものであり、その他は実施例1と共通である。
・混合工程において、窒化ケイ素の出発原料として酸素量が0.6wt%以下であるシリコン粉末を用い、適量のシリコン粉末を樹脂製のポットへ投入し、シリコン粉末と有機溶剤と分散剤を、窒化ケイ素製の粉砕メディアを使用し、ボールミルで粒度調整した。粒度調整後のシリコン粉末の酸素量は1.0wt%以下であった。その後、焼結助剤を添加して表1に示す配合組成とし(シリコン粉末についてはシリコンが完全に窒化ケイ素に窒化した際の窒化ケイ素換算)、ボールミルで1時間混合した。
・成形工程において、第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの各厚さを表1のとおりに変更した。
・積層工程において、第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの各枚数と第2のグリーンシートへの分離剤の塗布量を表1のとおりに変更した。
・焼成工程において、積層体を、乾燥空気中500℃で脱バインダーした後、真空中で約1000℃まで加熱し、0.2MPaの窒素加圧雰囲気中で約1000℃から約1350℃まで1℃/minで昇温させることで、全グリーンシートを窒化した後、0.9MPaの窒素加圧雰囲気中で1350℃から1900℃まで昇温させ、1900℃で8時間かけて焼成し、全グリーンシートを緻密化した焼結体(窒化ケイ素板)とした。
【0048】
次に、比較例1の窒化ケイ素板の製造方法は、成形工程で成形した第1のグリーンシートのみを使用し、積層工程において、片面に分離剤をスプレー塗布してから有機溶剤を揮発させた第1のグリーンシートを、19枚積層して積層体を準備した点において、実施例1と相違するものであり、その他は実施例1と共通である。
【0049】
次に、比較例2の窒化ケイ素板の製造方法は、積層工程において、第1のグリーンシートへの分離剤の塗布量を表1のとおりに変更した点においてのみ、比較例1と相違するものである。
【0050】
次に、比較例3の窒化ケイ素板の製造方法は、混合工程を実施例6の混合工程と同じにし、第1のグリーンシートの厚さを表1のとおりに変更し、積層工程において、第1のグリーンシートの枚数と第1のグリーンシートへの分離剤の塗布量を表1のとおりに変更し、焼成工程を実施例6の混合工程と同じにした点において、比較例1と相違するものである。
【0051】
以上のようにして製造した実施例1~6の第1の窒化ケイ素板と第2の窒化ケイ素板、及び、比較例1~3の第1の窒化ケイ素板を、その外周をレーザーでカットして110mm×110mmの試料とした。試料の表面は焼結上がり面である。そして、各試料について次の観察及び測定を行った。
【0052】
(i)分離工程時の割れ
第1のグリーンシートの試料における分離工程時の割れの有無を、まず目視により観察し、それで割れが確認できなかったものはさらに顕微鏡で観察した。結果を表1に示す。なお、第2のグリーンシートの試料は、いずれにも割れが無かった。
【0053】
(ii)厚さ
ヘッド形状が両球面のマイクロメータを使用して試料の厚さを測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(iii)3点曲げ強度
各厚みの基板を全長40mm×幅20mmの試験片に加工し、株式会社島津製作所製の万能試験機:型式「AG-IS」を使用して、クロスヘッドスピード0.5mm/分、支点間距離30mm、室温(23±2℃)で3点曲げ試験し、3点曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(iv)凹みの最大深さ
第1の窒化ケイ素板の試料のうちには板表面に点状の凹みがあるものがあった。この凹みは、分離剤が塊となって積層時のシート間に存在し、その分離剤で押された生じたものと考えられる。そこで、目視によって凹みの有無を確認し、その中で最も大きな凹みに関して最大深さを株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VKX-150を用い、対物レンズ倍率:×20、画像補正:面傾き自動補正、フィルター種別:ガウシアン、S-フィルター:2μm、F-オペレーション:なし、L-フィルター:0.2mm、終端効果の補正:あり、の条件で測定した。目視で凹みが確認できなかったものに関しては、レーザー顕微鏡による測定を行わなかった。
【0056】
(v)表面粗さSa
第1の窒化ケイ素板の試料の板表面(焼結上がり面)について、500μm×500μmの領域の表面粗さである算術平均高さSaを、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VKX-150を用い、対物レンズ倍率:×20、画像補正:面傾き自動補正、フィルター種別:ガウシアン、S-フィルター:2μm、F-オペレーション:なし、L-フィルター:0.2mm、終端効果の補正:あり、の条件で測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(vi)表面微構造の観察
第1の窒化ケイ素板の試料の板表面(焼結上がり面)について、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VKX-150を用い、対物レンズ倍率:×50の条件で観察を行った。
図2に実施例1の表面微構造を示し、
図3に実施例6の表面微構造を示す。原料としてシリコン粉末を用い、反応焼結法によって得られた実施例6の窒化ケイ素基板では、実施例1の窒化ケイ素粉末を原料として得られた窒化ケイ素基板よりもβ型柱状粒子の粒成長が進んでいた。
【0058】
[評価]
実施例1~6の第1の窒化ケイ素板は、厚さが0.12mm以下であるにもかかわらず、割れ、凹み及び変形が実質上なく、3点曲げ強度が600MPa以上であり、表面粗さSaが0.3μm以上であった。
詳しくは、実施例1~4は、3点曲げ強度が800MPa以上と特に高く、表面粗さSaが0.3μm以上であった。出発原料としてα型窒化ケイ素粉末を使用したことでβ型窒化ケイ素が過度に粒成長しなかったため、800MPa以上の高い曲げ強度を得ることができた。
実施例5,6は、3点曲げ強度が600MPa以上であり、表面粗さSaが2μm以上と特に大きかった。出発原料としてシリコン粉末を用いたことでβ型窒化ケイ素の粒成長が進んだため、基板表面の応力集中によって実施例1~4よりも曲げ強度は低下した。
これに対し、比較例1~3の第1の窒化ケイ素板はに、割れ、凹み及び変形があり、3点曲げ強度が530MPa以下であった、
【0059】
実施例1~6の第1の窒化ケイ素板及び第2の窒化ケイ素板は、例えば片面に樹脂層としてカプトン粘着テープ(株式会社寺岡製作所、品番:650S#12)を貼り付けて複合板とすることもできる。
【0060】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
焼結した窒化ケイ素粒子を含有し、厚さが0.12mm以下であり、3点曲げ強度が600MPa以上であり、表面粗さSaが0.3μm以上である窒化ケイ素板であって、
前記窒化ケイ素粒子が柱状のβ型窒化ケイ素粒子であり、前記表面粗さSaが2μm以上である窒化ケイ素板。