(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131612
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】アーク炉の電極昇降装置
(51)【国際特許分類】
H05B 7/152 20060101AFI20240920BHJP
H05B 7/20 20060101ALI20240920BHJP
F27B 3/28 20060101ALI20240920BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H05B7/152
H05B7/20
F27B3/28
F27D19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041989
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 弘希
(72)【発明者】
【氏名】望月 晋太郎
【テーマコード(参考)】
4K045
4K056
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA01
4K045DA02
4K045RB02
4K056AA05
4K056BB08
4K056CA20
4K056FA04
(57)【要約】
【課題】炉期に応じた電極昇降制御の速度感度特性を適切に設定し、操業効率を向上するアーク炉の電極昇降装置を提供する。
【解決手段】実施形態は、電極とスクラップとの間のアーク電流、アーク電圧、投入電力演算部にあらかじめ設定された設定電流および設定電圧にもとづいて、インピーダンス偏差を演算するインピーダンス偏差演算部と、前記インピーダンス偏差に対する速度指令値をプロットして得られる複数の速度感度特性を有する目標速度演算部と、を備える。投入電力演算部には、設定電流および設定電圧の組が複数設定されている。前記インピーダンス偏差演算部は、投入電力演算部から前記設定電流および前記設定電圧の組を順次入力し、前記前記設定電流および前記設定電圧にもとづいて、前記複数の炉期から対応する炉期を判断する。前記目標速度演算部は、判断された炉期に応じた速度感度特性を前記複数の速度感度特性から選択して設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解するスクラップ上に離れて配置された電極を昇降させる電極昇降機構を制御する速度指令値を生成して、前記電極と前記スクラップとの間に形成されるアークを制御するアーク炉の電極昇降装置であって、
前記電極から前記スクラップに投入される複数の炉期にそれぞれ応じた複数の設定電流、前記複数の炉期のそれぞれ応じた複数の設定電圧ならびに前記複数の設定電流および前記複数の設定電圧がそれぞれ投入される複数期間からなる複数の組の時系列を含む投入電力パターンがあらかじめ設定された投入電力演算部から、前記複数の設定電流および前記複数の設定電圧を1組ずつ順次入力し、前記1組の設定電流および設定電圧、前記電極と前記スクラップとの間に印加されるアーク電圧、ならびに、アークの形成時に前記電極に流れるアーク電流にもとづいて、インピーダンス偏差を演算するインピーダンス偏差演算部と、
前記インピーダンス偏差に対する速度指令値をプロットして得られる複数の速度感度特性を有する目標速度演算部と、
を備え、
前記インピーダンス偏差演算部は、
順次入力された前記1組の設定電流および設定電圧にもとづいて、前記複数の炉期にそれぞれ対応させるように設定された複数の信号のうち、いずれかの信号を選択して前記目標速度演算部に出力し、
前記目標速度演算部は、前記複数の信号から選択された前記信号に対応する速度感度特性を前記複数の速度感度特性から選択して設定し、設定した前記速度感度特性にもとづいて、前記インピーダンス偏差演算部から出力された前記インピーダンス偏差に応じた前記速度指令値を前記電極昇降機構に出力するアーク炉の電極昇降装置。
【請求項2】
前記目標速度演算部は、前記複数の速度感度特性において、炉期が進むごとに狭くなる不感帯を有し、炉期が進むごとにインピーダンス偏差に対する速度の変化率が小さくなるように設定された請求項1記載のアーク炉の電極昇降装置。
【請求項3】
前記目標速度演算部は、前記複数の速度感度特性において、前記複数の速度感度特性のうちボーリング期に対応する第1速度感度特性は、前記複数の速度感度特性のうち溶解初期に対応する第2速度感度特性よりも、広い不感帯を有し、インピーダンス偏差に対する速度の変化率が大きい請求項1記載のアーク炉の電極昇降装置。
【請求項4】
前記目標速度演算部は、前記複数の速度感度特性において、前記複数の速度感度特性のうち溶解末期に対応する第3速度感度特性は、前記複数の速度感度特性のうち溶解期に対応する第4速度感度特性よりも、広い不感帯を有し、インピーダンス偏差に対する速度の変化率が大きい請求項1記載のアーク炉の電極昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、製鋼用アーク炉の電極昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク炉は、炉用変圧器を介して電極に電力を供給し、各相の電極とスクラップ間にアーク放電を発生させてスクラップを溶解する。アーク炉の電極昇降装置は、モータ速度制御により電極を昇降操作し、アーク長を適切な長さに制御する。
【0003】
アーク炉は操業1回につき初装、追装、精錬等の炉況に分けられ、さらに炉況は溶解初期、ボーリング期、溶解期、溶解末期等の各炉期に分けられる。炉期は、それぞれ炉内の状態が異なる。
【0004】
従来の電極昇降装置においては、炉期を時間カウントで判断し、時間カウントで判断された炉期に応じて、不感帯を変更している。これにより、電極昇降制御の特性を炉内の状態に応じて変更して、操業効率を向上させている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
時間カウントは、炉況ごと、スクラップの種類ごとに変わるため、各状況に対応する大量のパターンがあるばかりでなく、スクラップの分布や溶鋼の成分調整作業等の影響で、各炉期の時間は毎操業一定ではない。たとえば、オペレータが目視等で炉の状況を判断しながら、手動介入することにより、その炉期の時間が変わる場合等がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、炉期に応じた電極昇降制御の速度感度特性をより適切に設定し、操業効率を向上するアーク炉の電極昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、溶解するスクラップ上に離れて配置された電極を昇降させる電極昇降機構を制御する速度指令値を生成して、前記電極と前記スクラップとの間に形成されるアークを制御するアーク炉の電極昇降装置である。このアーク炉の電極昇降装置は、前記電極から前記スクラップに投入される複数の炉期にそれぞれ応じた複数の設定電流、前記複数の炉期のそれぞれ応じた複数の設定電圧ならびに前記複数の設定電流および前記複数の設定電圧がそれぞれ投入される複数期間からなる複数の組の時系列を含む投入電力パターンがあらかじめ設定された投入電力演算部から、前記複数の設定電流および前記複数の設定電圧を1組ずつ順次入力し、前記1組の設定電流および設定電圧、前記電極と前記スクラップとの間に印加されるアーク電圧、ならびに、アークの形成時に前記電極に流れるアーク電流にもとづいて、インピーダンス偏差を演算するインピーダンス偏差演算部と、前記インピーダンス偏差に対する速度指令値をプロットして得られる複数の速度感度特性を有する目標速度演算部と、を備える。前記インピーダンス偏差演算部は、順次入力された前記1組の設定電流および設定電圧にもとづいて、前記複数の炉期にそれぞれ対応させるように設定された複数の信号のうち、いずれかの信号を選択して前記目標速度演算部に出力する。前記目標速度演算部は、前記複数の信号から選択された前記信号に対応する速度感度特性を前記複数の速度感度特性から選択して設定し、設定した前記速度感度特性にもとづいて、前記インピーダンス偏差演算部から出力された前記インピーダンス偏差に応じた前記速度指令値を前記電極昇降機構に出力する。
【発明の効果】
【0009】
実施形態によれば、炉期に応じた電極昇降制御の速度感度特性をより適切に設定し、操業効率を向上するアーク炉の電極昇降装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係るアーク炉の電極昇降装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係るアーク炉の電極昇降装置の速度感度特性を例示する模式的なグラフ図である。
【
図3】第2の実施形態に係るアーク炉の電極昇降装置を例示する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るアーク炉の電極昇降装置を例示する模式的なブロック図である。
図1には、電極昇降装置8とともに、アーク炉100を構成する各構成要素が示されている。まず、アーク炉100の構成について説明する。
図1に示すように、アーク炉100は、炉用変圧器1と、変流器2と、補助変圧器3と、電極4と、炉体6と、投入電力演算部7と、電極昇降装置8と、インバータ12と、モータ13と、を有する。
【0013】
炉用変圧器1の1次側には、プラントの母線が接続され、母線から電力が供給される。炉用変圧器1の2次側には、電極4が接続される。炉用変圧器1の2次側には、電極4に供給される電流を検出するように変流器2が設けられている。変流器2は、電極昇降装置8に接続されている。
【0014】
電極4の下方には、炉体6が配置され、炉体6には、スクラップ5が装入される。炉体6は、たとえば中性点に接続され、接地される。電極4と炉体6との間の電圧を検出するように補助変圧器3が接続され、補助変圧器3の出力は、電極昇降装置8に接続されている。なお、以下では、スクラップ5は、炉体6の電位と同電位であるものとし、補助変圧器3は、電極4とスクラップ5との間の電圧を検出するものとする。
【0015】
炉用変圧器1は、1次側巻線および2次側巻線を有しており、2次側巻線には複数のタップが設けられている。炉用変圧器1は、タップチェンジャ機能を有する。炉用変圧器1のタップチェンジャ機能とは、炉用変圧器1がタップ位置指令を入力し、複数のタップから、入力したタップ位置に応じたタップを選択して接続する機能である。タップチェンジャ機能に関連して、炉用変圧器1の2次側には、タップ位置指令を入力する端子および現在のタップ位置を表す信号を出力する端子を有する。
【0016】
投入電力演算部7は、炉用変圧器1のタップ位置指令を入力する端子に接続されている。投入電力演算部7は、炉用変圧器1のタップ位置を表す信号を出力する端子に接続されている。投入電力演算部7は、電極昇降装置8に接続されている。
【0017】
投入電力演算部7には、炉期に応じた投入電力のパターンである投入電力パターンがあらかじめ設定されている。投入電力パターンは、設定電流Iref、設定電圧Vrefおよび電力を投入する期間の組が複数組設定されている。投入電力演算部7は、投入電力パターンに応じて、設定電流Irefおよび設定電圧Vrefを電極昇降装置8に出力する。投入電力演算部7は、設定電圧Vrefに応じて、電極4とスクラップ5との間に印加する電圧のためにタップ位置を算出し、タップ位置に対応するタップ位置指令を生成して炉用変圧器1に出力する。炉用変圧器1は、タップ位置指令によってタップ位置を設定して、設定したタップ位置を表す信号を、投入電力演算部7および電極昇降装置8に出力する。
【0018】
投入電力演算部7に設定される投入電力パターンとは、炉期に応じた設定電流Iref、設定電圧Vrefおよびその電力を投入する期間の組の時系列のデータである。たとえば、ある材の製鋼工程では、投入電力パターンは、第1設定電流Iref1[kA]、第1設定電圧Vref1[V]および期間T1[Hr]の組、第2設定電流Iref[kA]、第2設定電圧Vref2[V]および第2期間T2[Hr]の組、第3設定電流Iref3[kA]、第3設定電圧Vref3[V]および第3期間T3[Hr]の組、ならびに、第4設定電流Iref4[kA]、第4設定電圧]Vref4[V]および期間T4[Hr]の組を含んでいる。これらの組は、この順に実行されるように構成されている。なお、投入電力パターンには、設定電流Irefおよび設定電圧Vrefが0となる期間を含むようにしてもよい。設定電流Irefおよび設定電圧Vrefが0の期間は、たとえば、スクラップを追装する期間とされる。
【0019】
第1設定電流Iref1[kA]、第1設定電圧Vref1[V]および期間T1[Hr]の組は、たとえば、溶解初期に対応する。第2設定電流Iref2[kA]、第2設定電圧Vref2[V]および第2期間T2[Hr]の組は、たとえば、ボーリング期に対応する。第3設定電流Iref3[kA]、第3設定電圧Vref3[V]および第3期間T3[Hr]の組は、たとえば、溶解期に対応する。第4設定電流Iref4[kA]、第4設定電圧Vref4[V]および期間T4[Hr]の組は、たとえば、溶解末期に対応する。投入電力演算部7は、このような投入電力パターンにしたがって、設定電流Irefおよび設定電圧Vrefを電極昇降装置に出力し、タップ位置を生成して炉用変圧器1に出力する。
【0020】
なお、投入電力パターンは、アーク炉100のオペレータによる手動介入により修正されて、投入電力の期間が延長され、あるいは短縮されることがある。投入電力演算部7は、修正された期間に応じて、そのパターンにおける設定電流Irefおよび設定電圧Vrefを出力する。
【0021】
投入電力パターンは、たとえば、プラントごとに同一のものが設定される。あるいは、投入電力パターンは、たとえば、アーク炉ごとやスクラップの種類ごとに同一のものが設定される。このようなパターンは、アーク炉を運用するプラントや製鋼メーカ等により設定され、投入電力演算部7には、このような投入電力パターンが設定される。
【0022】
電極昇降装置8は、変流器2によって検出されたアーク電流IFBおよび補助変圧器3によって検出されたアーク電圧VFBを入力する。電極昇降装置8は、投入電力演算部7から設定電流Irefおよび設定電圧Vrefを入力する。電極昇降装置8は、以下の式(1)にしたがって、インピーダンス偏差ΔZを演算する。
【0023】
ΔZ=(IFB/Iref)-(VFB/Vref) (1)
【0024】
電極昇降装置8には、投入電力演算部7から出力された設定電流Irefおよび設定電圧Vrefの組に対応する炉期があらかじめ設定されている。上述の例では、入力した組が第1設定電流Iref1および第1設定電圧Vref1の場合には、電極昇降装置8は、炉期が溶解初期と判断する。入力した組が第2設定電流Iref2および第2設定電圧Vref2の場合には、電極昇降装置8は、炉期がボーリング期と判断する。入力した組が第3設定電流Iref3および第3設定電圧Vrefの場合には、電極昇降装置8は、炉期が溶解期と判断する。入力した組が第4設定電流Iref4および第4設定電圧Vref4の場合には、電極昇降装置8は、炉期が溶解末期と判断する。
【0025】
電極昇降装置8は、炉期に応じた速度感度特性を有している。速度感度特性は、炉期ごとに適切な不感帯が設定されている。速度感度特性の不感帯とは、インピーダンス偏差が0でなくても電極4を昇降させる速度指令値を0に設定するインピーダンス偏差の値である。たとえば、不感帯は、炉期が進むごとに狭く設定される。不感帯が狭い場合には、インピーダンス偏差に応じて電極4をより精密に昇降させることができる。一方、不感帯が広い場合には、ある程度の大きさのインピーダンス偏差のときでも電極4を昇降させること停止する。そのため、溶解初期のインピーダンスの変動が激しい場合であっても、電極4がスクラップ5に衝突して破損する等の事故を生じにくくすることができる。不感帯は、炉期の進行によらず、炉期ごとに設定されてもよい。たとえば、ボーリング期や溶解末期において、インピーダンス偏差の変動が激しくなる場合があり、このような場合のボーリング期や溶解末期に対応した速度感度特性では、不感帯はより広く設定される。
【0026】
電極昇降装置8は、設定電流Irefおよび設定電圧Vrefによって判断した炉期に応じた速度感度特性を選択して設定する。電極昇降装置8は、設定した速度感度特性を用いて、インピーダンス偏差ΔZに応じた速度指令値をインバータ12に出力する。
【0027】
インバータ12は、速度指令値に応じた速度でモータ13を駆動し、モータ13は、昇降機構を介して接続された電極4を昇降させ、所望のアーク電流IFBとなるように電極とスクラップ5との間の距離を制御する。
【0028】
本実施形態に係る電極昇降装置8の構成について説明する。
本実施形態に係る電極昇降装置8は、インピーダンス偏差演算部9と、目標速度演算部10と、加減速演算部11と、を備える。
【0029】
インピーダンス偏差演算部9は、投入電力演算部7の出力に接続されている。インピーダンス偏差演算部9は、投入電力演算部7から出力された設定電流Irefおよび設定電圧Vrefを用いて、炉期を判定する。インピーダンス偏差演算部9には、設定電流Irefおよび設定電圧Vrefの組と炉期との対応関係を表すテーブルがあらかじめ設定されている。インピーダンス偏差演算部9は、テーブルを参照して炉期を判断し、炉期を表す指令値を目標速度演算部10に出力する。
【0030】
インピーダンス偏差演算部9は、設定電流Iref、設定電圧Vref、変流器2によって検出されたアーク電流IFBおよび補助変圧器3によって検出されたアーク電圧VFBを式(1)に代入してインピーダンス偏差ΔZを演算して、目標速度演算部10に出力する。
【0031】
目標速度演算部10は、炉期に応じた複数の速度感度特性を有する。目標速度演算部10は、複数の速度感度特性のうち、インピーダンス偏差演算部9から出力された炉期を表す指令値に対応する速度感度特性を選択して設定する。
【0032】
速度感度特性について説明する。
図2は、第1の実施形態に係るアーク炉の電極昇降装置の速度感度特性を例示する模式的なグラフ図である。
図2の横軸はインピーダンス偏差ΔZであり、縦軸は速度指令値Vである。
図2では、3種類の炉期についての速度感度特性が示されており、この例では、実線のプロットは、溶解初期およびボーリング期の速度感度特性を示し、破線のプロットは溶解期の速度感度特性を示し、一点鎖線のプロットは溶解末期の速度感度特性を示している。速度感度特性において、インピーダンス偏差ΔZが0からDまでの区間では、速度指令値は0とされ、“D”を不感帯と呼ぶ。不感帯の大きさは、炉期に応じて異なるように設定されている。
【0033】
図2に示すように、本実施形態に係る電極昇降装置8では、速度感度特性は、溶解初期およびボーリング期から、溶解期、溶解末期と炉期が進むごとに、不感帯Dは狭くなるように設定されている。これによって、炉期の進行にともなって、アーク放電が安定し、電極4の昇降動作がゆるやかになることに応じて、より精密に電極4の昇降動作を制御することが可能になる。
【0034】
また、本実施形態に係る電極昇降装置8では、溶解の早い段階では、速度感度が高く設定されている。速度感度が高いとは、
図2のグラフ図のプロットの傾きが急峻であることである。本実施形態に係る電極昇降装置8では、溶解の早い段階の炉期において、速度感度を高く設定しつつ、不感帯Dを広くとることによって、スクラップの形状が残っている状態において、電極4を急速に昇降動作させて、操業効率を向上させながら、電極4のスクラップ5への衝突等の事故を効果的に防止できる。
【0035】
なお、上述したように、不感帯Dの広さや速度感度特性の速度感度は、上述に限らず、適切なものを任意に選択、設定して適用することができる。たとえば、ボーリング期や溶解末期において、インピーダンス偏差ΔZの変動が大きくなる場合には、
図2の場合よりも不感帯Dを広くし、速度感度を高く設定するようにしてもよい。
【0036】
このように、本実施形態に係る電極昇降装置8では、炉期に応じて、適切な速度感度特性を選択し、設定することによって、より精密かつ安全にインピーダンス一定制御をすることが可能になり、適切なアーク長に制御することができる。
【0037】
図1に戻って説明を続ける。
図1に示すように、目標速度演算部10は、炉期に応じて設定した速度感度特性に、インピーダンス偏差演算部9から出力されたインピーダンス偏差を適用して、速度指令値を算出し、加減速演算部11に出力する。
【0038】
加減速演算部11は、目標速度演算部10から出力された速度指令値に対して加減速演算を行う。加減速演算部11は、演算された値を速度指令値としてインバータ12に出力する。たとえば、加減速演算部11では、加減速のレートがあらかじめ設定されており、速度指令値の変化に対して、加減速レートを適用して、速度指令値を逐次算出する。
【0039】
本実施形態に係る電極昇降装置の効果について説明する。
インピーダンス偏差演算部9は、投入電力演算部7に設定された投入電力パターンに対応するように炉期判断基準のパターンを有している。そのため、投入電力演算部7に設定された投入電力パターンに応じた炉期の判断を確実に行うことができる。投入電力パターンは、オペレータの手動介入により修正させることがあるが、本実施形態に係る電極昇降装置8では、インピーダンス偏差演算部9は、投入電力演算部7で設定された投入電力の推定値を算出して判断するので、時間カウントによらず、正確に炉期の判断を行うことができる。
【0040】
また、本実施形態に係る電極昇降装置8では、目標速度演算部10が、炉期に応じた複数の速度感度特性を有する。炉期に応じた速度感度特性では、炉期の進行とともに不感帯を狭くする。これによって、より小さなインピーダンス偏差であっても、電極4の昇降動作の速度制御を行うことができるので、より精密な制御が可能になる。
【0041】
さらに、本実施形態に係る電極昇降装置8では、目標速度演算部10が有する炉期に応じた速度感度特性は、炉期に応じて、インピーダンス偏差に対する速度の変化率が設定されている。初期の炉期の場合には、より広い不感帯とし、より急峻な速度感度特性とすることによって、より安全かつ迅速に溶解を進行させ、炉期が進むごとに不感帯を狭めて、よりゆるやかな速度感度特性とすることによって、より精密に電極4の昇降動作を制御することができる。
【0042】
また、速度感度特性は、アーク炉ごとに適切なものを任意に設定でき、ボーリング期や溶解末期において、インピーダンス偏差ΔZの変動が大きくなる場合には、これに応じて、ボーリング期および溶解末期の不感帯をその直前の炉期の不感帯よりも広くし、速度感度を高く設定することができる。このようにすることによって、アーク炉や装入するスクラップの特性等に応じて、より適切な速度感度特性を適用することが可能になり、高精度かつ高い生産性でアーク炉を運用することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係るアーク炉の電極昇降装置を例示する模式的なブロック図である。
図3に示すように、アーク炉200は、炉用変圧器1と、変流器2と、補助変圧器3と、電極4と、炉体6と、投入電力演算部7と、電極昇降装置208と、油圧シリンダ215と、を有する。
図1に示したアーク炉100のインバータ12およびモータ13に代えて、油圧シリンダ215を有している。電極昇降装置208は、油圧シリンダ215のための速度指令値を生成し、油圧シリンダ215に出力する。このほかの構成要素は、
図1に示したアーク炉100の場合と同じである。同一の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0044】
電極昇降装置208は、インピーダンス偏差演算部9と、目標速度演算部210と、加減速演算部211と、を備える。目標速度演算部210および加減速演算部211は、油圧シリンダ215のための速度指令値を生成するほかは、
図1に示した電極昇降装置8の場合と同様に構成され、同様に動作する。
【0045】
図1の電極昇降装置8と同様に動作することによって、本実施形態に係る電極昇降装置208も電極昇降装置8と同様の効果を奏する。
【0046】
このようにして、炉期に応じた電極昇降制御の速度感度特性をより適切に設定し、操業効率を向上するアーク炉の電極昇降装置を実現することができる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1…炉用変圧器、2…変流器、3…補助変圧器、4…電極、5…スクラップ、6…炉体、7…投入電力演算部、8、208…電極昇降装置、9…インピーダンス偏差演算部、10、210…目標速度演算部、11、211…加減速演算部、12…インバータ、13…モータ、100、200…アーク炉