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特開2024-131618磁気ディスク装置およびその制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131618
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】磁気ディスク装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 21/21 20060101AFI20240920BHJP
   G11B 5/09 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G11B21/21 E
G11B5/09 361
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041995
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昌幸
(57)【要約】
【課題】スペーシングを目標値へと迅速に至らせることができる磁気ディスク装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】磁気ディスク装置は、データライトの開始またはデータリードの開始に際し、予め、磁気ディスクと磁気ヘッドとのスペーシングを目標値で飽和させるための定常電力より高い電力を規定時間にわたり前記磁気ヘッドのヒータに供給し、その規定時間の経過後、前記磁気ヘッドのヒータに供給する電力を前記定常電力へと徐々に減少させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスクに対するデータライト用のライト素子および前記磁気ディスクからのデータリード用のリード素子を有するとともに、供給される電力により発熱し当該磁気ヘッドを前記磁気ディスク側に膨張させるヒータを有する磁気ヘッドと、
前記データライトの開始に際し、予め、前記磁気ディスクと前記磁気ヘッドとのスペーシングを目標値で飽和させるための定常電力より高い電力を規定時間にわたり前記ヒータに供給し、その規定時間の経過後、前記ヒータに供給する電力を前記定常電力へと徐々に減少させるコントローラと、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記データライトの開始に際し、予め、前記規定時間において前記定常電力を前記ヒータに供給しながら、その規定時間の最初の第1時間において一定の加算電力を加え、残りの第2時間において徐々に減少する加算電力を加える、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記第1時間およびその第1時間において加える前記加算電力の値を可変設定する、
請求項2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記磁気ヘッドおよびその周辺部の特性を測定する手段として、
前記定常電力Psを前記規定時間txだけ前記ヒータに供給し、続いて、データライト時の前記スペーシングが前記目標値で飽和し得る大きさの定常電力Ps´を前記ヒータに供給しながらエラーレート測定用のデータを前記磁気ディスクの所定のセクタにライトする第1制御を実行する第1制御手段と、
前記規定時間txを一定時間Δtずつ増加方向に段階的に変化させながら前記第1制御を繰り返し実行し、その実行ごとに前記セクタにライトされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を前記規定時間に対応付ける第2制御を実行する第2制御手段と、
前記第2制御において段階的に変化する各規定時間txのうち、前記ビットエラーレートが目標値(飽和値または所要値)となるときの規定時間txをスペーシング飽和時間として選定し、そのスペーシング飽和時間tx内で電力“Ps´+ΔP”を前記ヒータに供給し、そのスペーシング飽和時間txの経過後、前記定常電力Ps´を前記ヒータに供給しながらエラーレート測定用のデータを前記セクタにライトする第3制御を実行する第3制御手段と、
前記第3制御におけるスペーシング飽和時間txの初めに第1時間t1を設定し、その第1時間t1において所定の加算電力ΔPを加え、その加算電力ΔPを前記スペーシング飽和時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させる第4制御を実行する第4制御手段と、
前記第3制御のスペーシング飽和時間txを短縮して設定した状態で前記加算電力ΔPを増加方向に段階的に変化させながら前記第4制御を繰り返し実行し、その実行ごとに前記セクタにライトされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を前記加算電力ΔPの値に対応付ける第5制御を実行する第5制御手段と、
前記第1時間t1を増加方向に一定時間ずつ段階的に変化させ、前記第5制御で測定したビットエラーレートが飽和するときの加算電力ΔPをその第1時間t1において加え、その加算電力ΔPを前記スペーシング飽和時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させながら前記第4制御を繰り返し実行し、その実行ごとに前記セクタにライトされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を前記加算電力ΔPの値に対応付けてかつ前記段階的に変化する第1時間t1をパラメータとして保持する第6制御を実行する第6制御手段と、
前記第6制御で測定した各ビットエラーレートの飽和エラーレートが所定値となるときの前記第1時間t1と前記加算電力ΔPとの関係を加算電力テーブルとして決定する第7制御を実行する第7制御手段と、
を含む請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記第1時間および前記加算電力ΔPの値を前記加算電力テーブルに基づいて可変設定する、
請求項4に記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
磁気ディスクに対するデータライト用のライト素子および前記磁気ディスクからのデータリード用のリード素子を有するとともに、供給される電力により発熱し当該磁気ヘッドを前記磁気ディスク側に膨張させるヒータを有する磁気ヘッドと、
前記データリードの開始に際し、予め、前記磁気ディスクと前記磁気ヘッドとのスペーシングを目標値で飽和させるための定常電力より高い電力を規定時間にわたり前記ヒータに供給し、その規定時間の経過後、前記ヒータに供給する電力を前記定常電力へと徐々に減少させるコントローラと、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記データリードの開始に際し、予め、前記規定時間において前記定常電力を前記ヒータに供給しながら、その規定時間の最初の第1時間において一定の加算電力を加え、残りの第2時間において徐々に減少する加算電力を加える、
請求項6に記載の磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記コントローラは、前記第1時間およびその第1時間において加える前記加算電力の値を可変設定する、
請求項7に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
前記コントローラは、
前記磁気ヘッドおよびその周辺部の特性を測定する手段として、
前記定常電力Psを前記規定時間txだけ前記ヒータに供給し、続いて、同じ定常電力Psを前記ヒータに供給しながらエラーレート測定用のデータを前記磁気ディスクの所定のセクタからリードする第8制御を実行する第8制御手段と、
前記規定時間txを一定時間Δtずつ増加方向に段階的に変化させながら前記第8制御を繰り返し実行し、その実行ごとにリードされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を前記規定時間txに対応付ける第9制御を実行する第9制御手段と、
前記第9制御において段階的に変化する各規定時間txのうち、ビットエラーレートが目標値(飽和値または所要値)となるときの規定時間txをスペーシング飽和時間として選定し、そのスペーシング飽和時間tx(=1.0msecまたは0.6msec)内で電力“Ps+ΔP”を前記ヒータに供給し、そのスペーシング飽和時間txの経過後、前記定常電力Psを前記ヒータに供給しながらエラーレート測定用のデータを前記セクタからリードする第10制御を実行する第10制御手段と、
前記9制御におけるスペーシング飽和時間txの初めに第1時間t1を設定し、その第1時間t1において所定の加算電力ΔPを加え、その加算電力ΔPを規定時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させる第11制御パターンを実行する第11制御手段と、
前記第10制御のスペーシング飽和時間txを短縮して設定した状態で前記加算電力ΔPを増加方向に段階的に変化させながら前記第11制御を繰り返し実行し、その実行ごとに前記セクタからリードされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を前記加算電力ΔPの値に対応付ける第12制御を実行する第12制御手段と、
前記第1時間t1を増加方向に一定時間ずつ段階的に変化させ、前記第12制御で測定したビットエラーレートが飽和するときの加算電力ΔPをその第1時間t1において加え、その加算電力ΔPを前記スペーシング飽和時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させながら前記第11制御を繰り返し実行し、その実行ごとに前記セクタからリードされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を前記加算電力ΔPの値に対応付けてかつ前記段階的に変化する第1時間t1をパラメータとして保持する第13制御を実行する第13制御手段と、
前記第13制御で測定した各ビットエラーレートの飽和エラーレートが所定値となるときの前記第1時間t1と前記加算電力ΔPとの関係を加算電力テーブルとして決定する第14制御を実行する第14制御手段と、
を含む請求項6に記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
前記第12制御手段、前記第13制御手段、および前記第13制御手段は、前記リード素子のリード信号に対する出力ゲイン調整値を前記ビットエラーレートの測定結果として扱う、
請求項9に記載の磁気ディスク装置。
【請求項11】
前記磁気ヘッドと前記磁気ディスクとのスペーシングを検知するスペーシングセンサ、
をさらに備え、
前記第12制御手段、前記第13制御手段、および前記第13制御手段は、前記スペーシングセンサの出力電圧を前記ビットエラーレートの測定結果として扱う、
請求項9に記載の磁気ディスク装置。
【請求項12】
磁気ディスクに対するデータライト用のライト素子および前記磁気ディスクからのデータリード用のリード素子を有するとともに、供給される電力により発熱し当該磁気ヘッドを前記磁気ディスク側に膨張させるヒータを有する磁気ヘッド、
を備えた磁気ディスク装置の制御方法であって、
前記データライトの開始または前記データリードの開始に際し、予め、前記磁気ディスクと前記磁気ヘッドとのスペーシングを目標値で飽和させるための定常電力より高い電力を規定時間にわたり前記ヒータに供給し、その規定時間の経過後、前記ヒータに供給する電力を前記定常電力へと徐々に減少させる、
磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項13】
磁気ディスクに対するデータライト用のライト素子および前記磁気ディスクからのデータリード用のリード素子を有するとともに、電力を供給されることで、当該磁気ヘッドを前記磁気ディスク側につきだすヒータを有する磁気ヘッドと、
前記データライトの開始前に、第1電力を前記ヒータに供給し、前記第1電力の供給開始から規定時間経過後、前記ヒータへ供給される前記電力を、前記第1電力から当該第1電力よりも小さい第2電力まで徐々に減少させるコントローラと、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項14】
前記第2電力は、前記磁気ディスクと前記磁気ヘッドとのスペーシングを目標値で飽和させるための定常電力である、請求項13に記載の磁気ディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気ディスク装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクとその磁気ディスクに対するデータの書込み/読取りを行う磁気ヘッドを備える磁気ディスク装置では、磁気ヘッドに電気ヒータを設け、この電気ヒータの発熱により磁気ヘッドを磁気ディスク側に熱膨張させ、その熱膨張によって磁気ディスクと磁気ヘッドとの間隔いわゆるスペーシングを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開2010/0027155号明細書
【特許文献2】米国特許第9070397号明細書
【特許文献3】米国特許第7388726号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スペーシングの制御に際しては、電気ヒータへの供給電力が小さいと磁気ヘッドが磁気ディスクに近づくまでに時間がかかり、電気ヒータへの供給電力が大きいと磁気ヘッドが磁気ディスクに近づき過ぎてしまう。このため、電気ヒータへの供給電力をどのように制御するかが重要な課題となっている。
【0005】
実施形態の目的は、スペーシングを目標値へと迅速に至らせることができる磁気ディスク装置およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の磁気ディスク装置は、磁気ディスクに対するデータライト用のライト素子および前記磁気ディスクからのデータリード用のリード素子を有するとともに、供給される電力により発熱し当該磁気ヘッドを前記磁気ディスク側に膨張させるヒータを有する磁気ヘッドと;前記データライトの開始に際し、予め、前記磁気ディスクと前記磁気ヘッドとのスペーシングを目標値で飽和させるための定常電力より高い電力を規定時間にわたり前記ヒータに供給し、その規定時間の経過後、前記ヒータに供給する電力を前記定常電力へと徐々に減少させるコントローラと;を備える。
【0007】
実施形態の磁気ディスク装置の制御方法は、磁気ディスクに対するデータライト用のライト素子および前記磁気ディスクからのデータリード用のリード素子を有するとともに、供給される電力により発熱し当該磁気ヘッドを前記磁気ディスク側に膨張させるヒータを有する磁気ヘッド、を備えた磁気ディスク装置の制御方法であって、前記データライトの開始または前記データリードの開始に際し、予め、前記磁気ディスクと前記磁気ヘッドとのスペーシングを目標値で飽和させるための定常電力より高い電力を規定時間にわたり前記ヒータに供給し、その規定時間の経過後、前記ヒータに供給する電力を前記定常電力へと徐々に減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、各実施形態の構成を概略的に示す図。
図2図2は、各実施形態における磁気ヘッドの要部の構成を示す図。
図3図3は、図2の構成を磁気ディスク側から視た図。
図4図4は、各実施形態において、電気ヒータに供給する電力とスペーシングとの関係を示す図。
図5図5は、各実施形態において、電気ヒータに供給する電力の値に応じて磁気ヘッドの熱膨張およびスペーシングが変化する様子を示す図。
図6図6は、各実施形態において、スペーシングが目標値に飽和し得る大きさの定常電力を電気ヒータに供給し続けた場合に、磁気ヘッドの熱膨張およびスペーシングが変化する様子を示す図。
図7図7は、各実施形態において、スペーシングが目標値に飽和し得る大きさの定常電力を電気ヒータに供給する際に、最初に加算電力ΔP1を加えた場合のスペーシングの変化と最初に加算電力ΔP2を加えた場合のスペーシングの変化を対比して示す図。
図8図8は、各実施形態において、スペーシングが目標値に飽和し得る大きさの定常電力を電気ヒータに供給する際に、最初に矩形波状の一定の加算電力ΔPを加えた場合のスペーシングの変化を示す図。
図9図9は、第1実施形態において、データライトの開始に際し、予め、スペーシングが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力を電気ヒータに供給する際に、最初に一定の加算電力ΔPを加算し、続いて徐々に減少する加算電力ΔPを加えた場合のスペーシングの変化を示す図。
図10図10は、第1実施形態において、スペーシングHが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを電気ヒータに供給する際に、最初の第1時間t1において一定の加算電力ΔPを加え、続く第2時間t2において徐々に減少する加算電力ΔPを加える制御を示す図。
図11図11は、第1実施形態の第1制御を示す図。
図12図12は、第1実施形態の第2制御を示す図。
図13図13は、第1実施形態の第3および第4制御を実線で示す図。
図14図14は、第1実施形態の第5制御を示す図。
図15図15は、第1実施形態の第5制御を示す図。
図16図16は、第1実施形態の第6制御を示す図。
図17図17は、第1実施形態の第7制御を示す図。
図18図18は、第1実施形態の第1および第2制御を概略的に示すフローチャート。
図19図19は、第1実施形態の第3、第4、および第5制御を概略的に示すフローチャート。
図20図20は、第1実施形態の第6および第7制御を概略的に示すフローチャート。
図21図21は、第2実施形態の第8制御を示す図。
図22図22は、第2実施形態の第9制御を示す図。
図23図23は、第2実施形態の第10および第11制御を示す図。
図24図24は、第2実施形態の第8制御で得られるリード信号を最適な状態に調整するためのゲインと規定時間txとの関係を示す図。
図25図25は、各実施形態におけるスペーシングセンサおよびその周辺回路の構成を概略的に示す図。
図26図26は、第2実施形態におけるスペーシングセンサの出力電圧と規定時間txとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]第1実施形態
以下、第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、磁気ディスク装置1は、記録メディアとして円盤形の磁気ディスク2を備える。磁気ディスク2は、中心部がスピンドルモータ(SPM)3の回転軸に取付けられ、そのスピンドルモータ3の動力を受けて所定方向に回転する。この磁気ディスク2の近傍にアーム状のアクチュエータ4が配置されている。なお、1枚に限らず複数枚の磁気ディスク2がスピンドルモータ3に取付けられる構成であってもよい。磁気ディスク2の枚数に応じた個数の磁気ヘッド10が設けられる。スピンドルモータ3は、SVC6から供給される電力により駆動される。
【0010】
アクチュエータ4は、基端部が磁気ディスク2から外れた位置で回動自在に枢支され、先端部が磁気ディスク2の中心部の近傍まで延伸している。このアクチュエータ2の基端部と対応する位置にボイスコイルモータ(VCM)5が配置され、そのボイスコイルモータ5の動力によりアクチュエータ4の先端部が磁気ディスク2の内周と外周の間で径方向に回動する。
【0011】
アクチュエータ4の先端部に、磁気ヘッド10が配置されている。磁気ヘッド10は、図2および図3に示すように、先端部にスライダ11を備え、そのスライダ11の下面側(磁気ディスク2と対向する側)にヘッドエレメント12を備え、アクチュエータ4の回動に伴い磁気ディスク2の径方向に移動(シーク)する。磁気ディスク2の円周には等間隔でトラック情報や位置決め情報が書かれたサーボが複数配置され、これらサーボの相互間がデータ領域として使用される。スライダ11は、磁気ディスク2の回転時、その回転による風圧を受けて浮き上がり、磁気ヘッド10を磁気ディスク2から離れる方向に浮上させる。
【0012】
ヘッドエレメント12は、磁気ディスク2に磁気データを書込むライト素子13、磁気ディスク2から磁気データを読取るリード素子14、発熱用の電気ヒータ(単にヒータともいう)15、およびヘッドエレメント12と磁気ディスク2の表面2aとの間隔いわゆるスペーシングを検知するスペーシングセンサ(HDIセンサ)16を含む。ライト素子13、リード素子14、およびスペーシングセンサ16は、ヘッドエレメント12の下面に露出状態で向けられ、磁気ディスク2の表面2aに対向する。電気ヒータ15は、ヘッドエレメント12の内部に配置されている。
【0013】
磁気ディスク装置10の制御の中枢となるコントローラ(CPU)20に、スピンドルモータ3およびボイスコイルモータ5を駆動するSVC(サーボコンボ)6、リード/ライトチャネル(R/Wチャネル)を含む信号処理回路21、フラッシュROM23、DRAM24、ハード・ディスク・コントローラ(HDC)25が接続されている。そして、信号処理回路21にプリアンプ22が接続され、ハード・ディスク・コントローラ(HDC)25にホストコンピュータ100が接続されている。
【0014】
プリアンプ22は、信号処理回路21から供給されるライトデータに応じたライト信号(ライト電流)をライト素子13に供給するとともに、リード素子14から出力されるリード信号を増幅して信号処理回路21に供給する。また、プリアンプ22は、電気ヒータ15への電力供給を信号処理回路21を通じたコントローラ20からの指示に応じて制御するとともに、スペーシングセンサ16の出力を信号処理回路21に供給する。
【0015】
信号処理回路21は、プリアンプ22から供給されるリード信号をディジタル変換してコントローラ20に供給する処理とコントローラ20から供給されるライトデータをアナログ変換してプリアンプ22に供給する処理を実行する。
【0016】
ハード・ディスク・コントローラ25は、コントローラ20と共にデータのリード/ライトを制御するとともに、ホストコンピュータ100との間でリード/ライトデータの転送をエラー訂正処理等を含めて制御するインタフェースとして機能する。
【0017】
コントローラ20は、リード/ライトの制御、磁気ディスク2上の目標トラックに対する磁気ヘッド10の位置決めに必要なサーボ制御、電気ヒータ15への電力供給制御などを実行する。フラッシュROM23は、不揮発性のメモリであり、コントローラ20が実行する制御プログラムや各種データを記憶する。フラッシュROM(記憶手段)23には、磁気ヘッド10の電気ヒータ15に対する電力供給を制御するための後述の加算電力テーブル23aが格納される。DRAM24は、揮発性のメモリであり、コントローラ20がフラッシュROM23内の制御プログラムを実行する際のワークエリアなどとして機能する。
【0018】
なお、コントローラ20、信号処理回路21、ハード・ディスク・コントローラ25については、1チップの集積回路に組み込まれる構成であってもよい。
【0019】
(スペーシングの説明)
磁気ディスク2の回転時、スライダ11の働きにより、ヘッドエレメント12と磁気ディスク2の表面2aとの間にスペーシングが発生する。磁気ディスク2に対する高密度記録を実現するためには、このスペーシングを縮小し、ヘッドエレメント12と磁気ディスク2の表面2aと磁気ディスク2との距離を極限まで近づける必要がある。ヘッドエレメント12の電気ヒータ15に電力を供給すると、電気ヒータ15が発熱し、その発熱によってヘッドエレメント12が磁気ディスク2側に熱膨張する。この熱膨張により、ライト素子13、リード素子14、およびスペーシングセンサ16が磁気ディスク2側につきだされて磁気ディスク2の表面2aに接近する。電気ヒータ15に供給する電力Pを制御することで、ヘッドエレメント12と磁気ディスク2の表面2aとのスペーシングHを適切な状態に調節することができる。
【0020】
電気ヒータ15に供給する電力PとスペーシングHとの関係を図4に示し、電力Pの値に応じてヘッドエレメント12の熱膨張およびスペーシングHが変化する様子を図5示している。電力Pを0の状態からP1へと徐々に増やすと、ヘッドエレメント12が磁気ディスク2側に熱膨張し、スペーシングHがH2に縮小する。電力PをさらにP3に増やすと、ヘッドエレメント12がさらに熱膨張し、スペーシングHが0となってヘッドエレメント12が磁気ディスク2の表面2aに接するタッチダウン状態となる。このタッチダウン状態から電力PをP2に減らすと、ヘッドエレメント12の熱膨張が減少して磁気ディスク2の表面2aから離れ、スペーシングHが0より大きいH1(=例えば目標値Hs)となる。
【0021】
スライダ11による磁気ヘッド10の浮上量は、磁気ヘッド10の個体差、磁気ディスク2の径方向のシーク位置、環境温度の変化などの影響を受けて一定とはならない。このため、タッチダウン状態となる電力Pを基準にしてスペーシングHを目標値Hsへと導く調整が従来から一般的な対処方法となっている。
【0022】
スペーシングHが所望の目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを電気ヒータ15に供給し続けた場合に、ヘッドエレメント12の熱膨張およびスペーシングHが変化する様子を図6に示す。定常電力Psの供給により、ヘッドエレメント12の熱膨張が徐々に増していき、それに伴いスペーシングHが徐々に減少して目標値Hsで飽和する。
【0023】
磁気ヘッド10と磁気ディスク2の特性を最大限に活用するためには、スペーシングHが十分に飽和した状態で使用することが必要となる。ただし、データライト開始時やデータリード開始時、電力Pを供給してからスペーシングHが目標値Hsに達するまでにはある一定時間を必要とする。スペーシングHが目標値Hsに達する前にデータライトを実施すると、ライト能力不足による書き込み不良が起こる。スペーシングHが目標値Hsに達する前にデータリードを実施すると、リード出力不足によるリードエラーを起こすことがある。このリードエラーは、周回待ちによってスペーシングHが安定するため、リトライによる再リードで救済が可能である。
【0024】
ただし、データライト時は確実にデータをライトしておく必要があるため、通常プリヒートと呼ばれる機能を持つ。これはデータライト開始前から所定の電力Pをある一定時間にわたり供給しておく機能で、プリヒート時間が経過するまではライトは禁止状態になる。プリヒートの時間は、スペーシングHが十分に飽和し得る値やリードデータに所定のエラーレートが得られる値に、決めておく必要がある。しかし、上記したように、スライダ11による磁気ヘッド10の浮上量は磁気ヘッド10の個体差、磁気ディスク2の径方向のシーク位置、環境温度の変化などの影響を受けて一定とならないので、最もプリヒート時間がかかる条件に合わせて全てのプリヒート時間を決定しなければならない。またプリヒート時間を個別に調整する場合、プリヒート時間を個々の条件に合わせて変更し、プリヒートの電力PはスペーシングHが目標値Hsで飽和し得る大きさに設定するのが一般的である。プリヒート時間は確実にライト開始を待つ時間のため、ライト開始セクタがこの時間内にあたると1周待ちした後にライトを開始することとなる。このような事態はプリヒート時間が長いほど発生する確率が上がり、パフォーマンス悪化につながる。
【0025】
データライト時はライト素子13に電流を流すことで磁界を発生させ、その磁界によって磁気ディスク2の磁極を任意に変更する。ライト素子13に電流が流れることでも発熱が生じ、ヘッドエレメント12が熱膨張する。このため、データライト時は、ライト素子13に電流が流れることによる発熱分と電気ヒータ15の発熱分とでスペーシングHが目標値Hsで飽和するよう、電気ヒータ15に供給する電力Pをプリヒート時に比べて低減する必要がある。
【0026】
なお、データリード時のリードエラーは上記したようにリトライで救済可能なため、プリヒートは行わない。リード開始位置と電力Pの供給開始タイミングが重なってもリードエラーが起こらなければ回転待ちは起こらない。しかし、電力Pの供給開始直後はスペーシングHが大きく、リードデータの出力不足によるリードエラーが起こり、リトライ処理によるパフォーマンス悪化が発生する確率が高くなることが問題である。
【0027】
本実施形態は、磁気ヘッド10の個体差、磁気ディスク2の径方向の位置、環境温度の変化などの影響を受けることなく、スペーシングHを目標値Hsへと確実に至らせることができ、しかもスペーシングHが目標値Hsに達するまでの時間を短縮できることを目的とする。
【0028】
スペーシングHが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを電気ヒータ15に供給する際に、最初に加算電力ΔP1を加えた場合のスペーシングHの変化と最初に加算電力ΔP2(>ΔP1)を加えた場合のスペーシングHの変化を図7に対比して示している。スペーシングHが同じ状態となるまでに要する時間は加算電力ΔP1を加える場合よりも加算電力ΔP2を加える場合の方が短い。また、同じ時間で見ると、加算電力ΔP2を加える場合の方が加算電力ΔP1を加える場合よりもスペーシングHは小さくなる。また、スペーシングHは、電力Pを低減した直後に大きく変化し、そこから徐々に電力Pに応じた値で飽和する。したがって、高い電力Pを加えることで、スペーシングHを短時間で目標値Hsへと到達させることできる。ただし、スペーシングHを目標値Hs一定に保つためには、電力Pの低減方法を考慮する必要がある。
【0029】
スペーシングHが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを電気ヒータ15に供給する際に、最初に矩形波状の一定の加算電力ΔPを加えた場合のスペーシングHの変化を図8に示している。この場合、スペーシングHは、加算電力ΔPが0となる時点で一旦大きく変動し、その後に飽和して安定するような動作となる。エラーレートを安定するにはスペーシングHが一旦大きくなる現象を避ける必要がある。
【0030】
データライトの開始に際し、予め、スペーシングHが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを電気ヒータ15に供給する際に、最初に一定の加算電力ΔPを加算し、続いて徐々に減少する加算電力ΔPを加えた場合のスペーシングHの変化を図9に示している。スペーシングHが一旦大きくなる現象を避けている。
【0031】
この点を考慮し、コントローラ20は、データライトの開始に際し、予め、スペーシングHを目標値Hsで飽和させるための定常電力(第2電力)Psより高い電力(第1電力)Pを規定時間txにわたり電気ヒータ15に供給し、その規定時間txの経過後、電気ヒータ15に供給する電力Pを定常電力Psへと徐々に減少させる制御を実行する。定常電力(第2電力)Psは、電力P(第1電力)よりも小さい。
【0032】
具体的には、コントローラ20は、図10に示すように、スペーシングHが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを電気ヒータ15に供給する際に、最初の第1時間t1において一定の加算電力ΔPを加え、続く第2時間t2において徐々に減少する加算電力ΔPを加える制御を実行する。そして、第2時間t2が経過した後のデータライト時、コントローラ20は、スペーシングHが目標値Hsに達した状態を保持できるよう定常電力Psの供給を継続する。この制御により、定常電力Psのみを加える場合に比べ、スペーシングHが目標値Hsに達するまでに要する時間を短縮することができる。
【0033】
加算電力ΔPを加えることをオフセットともいう。第1時間t1のことをプリヒート時間や加算時間ともいう。第2時間t2のことを加算電力減少(削減)時間ともいう。第1時間t1およびその第1時間t1において加える加算電力ΔPの値については、フラッシュROM23内の後述の加算電力テーブル23aに基づき、コントローラ20が可変設定する。加算電力テーブル23aの内容については、測定結果等に応じて自由に書き換えが可能なものとする。電力Pの制御方法については、位相制御・電圧制御・オン,オフ制御などそのいずれを用いてもよい。これら制御のいずれかをプリアンプ22が実行する。
【0034】
そして、コントローラ20は、スライダ11による磁気ヘッド10の浮上量が磁気ヘッド10の個体差、磁気ディスク2の径方向のシーク位置、環境温度の変化などの影響を受けて一定とはならないことに対処し、磁気ヘッド10およびその周辺の特性を測定する手段として、次の第1~第7制御手段を含む。
【0035】
(1)第1制御手段は、図11に示すように、定常電力Psを規定時間txだけ電気ヒータ15に供給し、続いて、データライト時のスペーシングHが目標値Hsで飽和し得る大きさの定常電力Ps´を電気ヒータ15に供給しながらエラーレート測定用のデータを磁気ディスク2の所定の1つのセクタ(ターゲットセクタという)にライトする第1制御を実行する。これは、スペーシング飽和時間を測定するための制御である。定常電力Ps´は、データライト時にライト素子13に流れる電流による発熱増加分だけ定常電力Psより値が低い。
【0036】
(2)第2制御手段は、図11の規定時間txを一定時間Δtずつ増加方向に段階的に変化させながら上記第1制御を繰り返し実行し(例えば100回繰り返し)、その実行ごとに上記ターゲットセクタにライトされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を図12に示すように規定時間txに対応付ける第2制御を実行する。
【0037】
この第2制御は、エラーレートが飽和する値“-2.1”となるまでまたは許容し得る所要値“例えば-2.0”でとなるまで電力ΔPを加え続けなければならない時間を判断するための制御である。
【0038】
この第2制御により、エラーレート飽和特性が得られる。同一のターゲットセクタでのエラーレート測定であるため、エラーレートの変動要因はスペーシングHの影響のみとなり、エラーレート飽和特性はスペーシング飽和特性と等価と扱える。図12の例では、“3msec”以上をプリヒート時間(電力加算時間)として与え、十分に飽和したエラーレートが得られる時間を計測することでエラーレート飽和時間“2msec”を測定でき、それをスペーシング飽和時間と判断することができる。また、エラーレート飽和時間は、リードエラーが発生しない所要エラーレートでも定義可能で、例えばリードエラーが起こり得ない所要エラーレートが-“2.0”の場合、“1.1msec”となる。
【0039】
(3)第3制御手段は、図13に破線で示すように、上記第2制御において段階的に変化する規定時間txのうち、ビットエラーレートが目標値(飽和値“-2.1”または所要値“-2.0”)となるときの規定時間tx(=2.0msecまたは1.1msec)をスペーシング飽和時間として選定し、そのスペーシング飽和時間tx内で電力“Ps´+ΔP”を電気ヒータ15に供給し、そのスペーシング飽和時間txの経過後、定常電力Ps´を電気ヒータ15に供給しながらエラーレート測定用のデータを上記ターゲットセクタにライトする第3制御を実行する。
【0040】
(4)第4制御手段は、図13に実線で示すように、スペーシング飽和時間txの初めに第1時間t1を設定し、その第1時間t1において所定の加算電力ΔPを加え、その加算電力ΔPをスペーシング飽和時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させる第4制御を実行する。
【0041】
(5)第5制御手段は、図13のスペーシング飽和時間tx(=2.0msec)を所望の例えば0.2msecまで短縮して設定した状態で加算電力ΔPを増加方向に段階的に変化させながら上記第4制御を繰り返し実行し、その実行ごとに上記ターゲットセクタにライトされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を図14に示すように加算電力ΔPの値に対応付ける第5制御を実行する。スペーシング飽和時間tx(=0.2msec)を得るには、加算電力ΔPを“12.3mW”に設定すればよい。
【0042】
加算電力ΔPを供給した状態でのエラーレート計測は、ヘッドエレメント12が磁気ディスク2に接触してしまう可能性がある。これを避けるため、加算電力ΔPを低い値から増加しながらビットエラーレートを計測し、所定のビットエラーレートが得られた段階で測定を中断する。データライトするセクタはターゲットセクタのみに留め、ライト完了直後に電力Pの供給を停止する必要がある。データライト時に加える電力Pは、加算電力ΔPとエラーレートの近似式から求めればよい。
【0043】
この第5制御については、図13のスペーシング飽和時間tx(=2.0msec)を所望の例えば0.22msecに短縮して設定した状態で加算電力ΔPを増加方向に段階的に変化させながら上記第4制御を繰り返し実行し、その実行ごとに上記ターゲットセクタにライトされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を図15に示すように加算電力ΔPの値に対応付ける制御としてもよい。スペーシング飽和時間tx(=0.22msec)を得るには、加算電力ΔPを“11.0mW”に設定すればよい。
【0044】
(6)第6制御手段は、図13の第1時間t1を例えば0.22~2.0msecまで増加方向に一定時間(例えば0.02msec)Δtずつ段階的に変化させ、上記第5制御で測定したビットエラーレートが飽和するときの加算電力ΔP(=“12.3mW”)をその第1時間t1において加え、その加算電力ΔPをスペーシング飽和時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させながら上記第4制御を繰り返し実行し、その実行ごとに上記ターゲットセクタにライトされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を図16に示すように加算電力ΔPの値に対応付けてかつ段階的に変化する第1時間t1をパラメータとして保持する第6制御を実行する。
【0045】
(7)第7制御手段は、図17に示すように、上記第6制御で測定した各ビットエラーレートの飽和エラーレートが所定値(飽和値“-2.1”または所要値“-2.0”)となるときの第1時間t1と加算電力ΔPとの関係を加算電力テーブル23aとして決定し、その加算電力テーブル23aをフラッシュROM23に格納する第7制御を実行する。図17は、飽和エラーレート(飽和値“-2.1”)に対応する加算電力テーブル23aの例である。飽和エラーレート(所要値“-2.0”)に対応する加算電力テーブル23aを生成してフラッシュROM23に格納してもよい。各ビットエラーレートの飽和エラーレートごとに対応する多数の加算電力テーブル23aをフラッシュROM23に格納することも可能である。
【0046】
スペーシング飽和時間を測定するための第1制御および第2制御を図18のフローチャートに概略的に示している。“txs”は、規定時間txの増加限度値である。スペーシング飽和時間txを求めるための第3制御、第4制御、および第5制御を図19のフローチャートに概略的に示している。加算電力テーブル23aを生成するための第6制御および第7制御を図20のフローチャートに概略的に示している。
【0047】
加算電力テーブル23aに従って第1時間taおよび加算電力ΔPを設定することにより、磁気ヘッド10の個体差、磁気ディスク2の径方向の位置、環境温度の変化などの影響を受けることなく、スペーシングHを目標値Hsへと確実に至らせることができ、しかもスペーシングHが目標値Hsに達するまでの時間を短縮できる。電力Pの制御によるスペーシングHの応答性が向上する。プリヒートによる回転待ち低減が図れ、データライト時のパフォーマンス向上が図れる。
【0048】
[2]第2実施形態
コントローラ20は、データリードの開始に際し、予め、スペーシングHを目標値Hsで飽和させるための定常電力(第2電力)Psより高い電力(第1電力)Pを規定時間txにわたり電気ヒータ15に供給し、その規定時間txの経過後、電気ヒータ15に供給する電力Pを定常電力Psへと徐々に減少させる制御を実行する。
【0049】
具体的には、コントローラ20は、図10に示したように、スペーシングHが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを電気ヒータ15に供給する際に、最初の第1時間t1において一定の加算電力ΔPを加え、続く第2時間t2において徐々に減少する加算電力ΔPを加える制御を実行する。そして、第2時間t2が経過した後のデータリード時、コントローラ20は、スペーシングHが目標値Hsに達した状態を保持できるよう定常電力Psの供給を継続する。この制御により、定常電力Psのみを加える場合に比べ、スペーシングHが目標値Hsに達するまでに要する時間を短縮することができる。
【0050】
第1時間t1およびその第1時間t1において加える加算電力ΔPの値については、フラッシュROM23内の後述の加算電力テーブル23aに基づき、コントローラ20が可変設定する。加算電力テーブル23aの内容については、測定結果等に応じて自由に書き換えが可能なものとする。電力Pの制御方法については、位相制御・電圧制御・オン,オフ制御などそのいずれを用いてもよい。これら制御のいずれかをプリアンプ22が実行する。
【0051】
そして、コントローラ20は、スライダ11による磁気ヘッド10の浮上量が磁気ヘッド10の個体差、磁気ディスク2の径方向のシーク位置、環境温度の変化などの影響を受けて一定とはならないことに対処し、磁気ヘッド10およびその周辺の特性を測定する手段として、次の第8~第14制御手段を含む。
【0052】
(8)第8制御手段は、図21に示すように、スペーシングHが目標値Hsに飽和し得る大きさの定常電力Psを規定時間txだけ電気ヒータに供給し、続いて、同じ定常電力Psを電気ヒータに供給しながらエラーレート測定用のデータを磁気ディスクの所定の1つのターゲットセクタからデータをリードする第8制御を実行する。
【0053】
(9)第9制御手段は、図21の規定時間txを一定時間Δtずつ増加方向に段階的に変化させながら上記第8制御を繰り返し実行し、その実行ごとにリードされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を図22に示すように規定時間txに対応付ける第9制御を実行する。エラーレートが飽和する値“-2.1”となるまでまたは許容し得る所要値“例えば-2”でとなるまで電力ΔPを加え続けなければならない時間を判断するための制御である。
【0054】
この制御により、エラーレート飽和特性が得られる。同一のターゲットセクタでのエラーレート測定であるため、エラーレートの変動要因はスペーシングHの影響のみとなり、エラーレート飽和特性はスペーシング飽和特性と等価と扱える。図22の例では、“3msec”以上をプリヒート時間(電力加算時間)として与え、十分に飽和したエラーレートが得られる時間を計測することでエラーレート飽和時間“1msec”を測定でき、それをスペーシング飽和時間と判断することができる。また、エラーレート飽和時間は、リードエラーが発生しない所要エラーレートでも定義可能で、例えばリードエラーが起こり得ない所要エラーレートが-“2.0”の場合、“0.55msec”となる。
【0055】
(10)第10制御手段は、図23に破線で示すように、上記第9制御において段階的に変化する各規定時間txのうち、ビットエラーレートが目標値(飽和値または所要値)となるときの規定時間txをスペーシング飽和時間として選定し、そのスペーシング飽和時間tx(=1.0msecまたは0.6msec)内で電力“Ps+ΔP”を電気ヒータに供給し、そのスペーシング飽和時間txの経過後、定常電力Psを電気ヒータに供給しながらエラーレート測定用のデータを上記ターゲットセクタからリードする第10制御を実行する。
【0056】
(11)第11制御手段は、図23に実線で示すように、上記第10制御のスペーシング飽和時間txの初めに第1時間t1を設定し、その第1時間t1において所定の加算電力ΔPを加え、その加算電力ΔPを規定時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させる第11制御を実行する。
【0057】
(12)第12制御手段は、上記第10制御のスペーシング飽和時間txを短縮して設定した状態で前記加算電力ΔPを増加方向に段階的に変化させながら上記第11制御を繰り返し実行し、その実行ごとに上記ターゲットセクタからリードされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を第1実施形態の図14および図15と同様に加算電力ΔPの値に対応付ける第12制御を実行する。
【0058】
(13)第13制御手段は、図23の第1時間t1を増加方向に一定時間ずつ段階的に変化させ、上記第12制御で測定したビットエラーレートが飽和するときの加算電力ΔPをその第1時間t1において加え、その加算電力ΔPを前記スペーシング飽和時間txが終了するまでの残りの第2時間t2(=tx-t1)において徐々に減少させながら前記第11制御を繰り返し実行し、その実行ごとに上記ターゲットセクタからリードされるデータのビットエラーレートを測定し、その測定結果を第1実施形態の図16と同様に加算電力ΔPの値に対応付けてかつ前記段階的に変化する第1時間t1をパラメータとして保持する第13制御を実行する。
【0059】
(14)第14制御手段は、第1実施形態の図17と同様に、上記第13制御で測定した各ビットエラーレートの飽和エラーレートが所定値(飽和値または所要値)となるときの第1時間t1と加算電力ΔPとの関係を加算電力テーブルとして決定し、その加算電力テーブル23aをフラッシュROM23に格納する第14制御を実行する。1つの飽和エラーレートに対応する加算電力テーブル23aをフラッシュROM23に格納してもよいし、各ビットエラーレートの飽和エラーレートごとに対応する多数の加算電力テーブル23aをフラッシュROM23に格納してもよい。
【0060】
加算電力テーブル23aに従って第1時間taおよび加算電力ΔPを設定することにより、磁気ヘッド10の個体差、磁気ディスク2の径方向の位置、環境温度の変化などの影響を受けることなく、スペーシングHを目標値Hsへと確実に至らせることができ、しかもスペーシングHが目標値Hsに達するまでの時間を短縮できる。電力Pの制御によるスペーシングHの応答性が向上する。データリードのリトライによる回転待ち低減が図れ、データリード時のパフォーマンス向上が図れる。
【0061】
データリード時は、データライト時と同様にビットエラーレートの測定に基づく第1時間t1および加算電力ΔPの調整のほか、出力ゲイン調整値やスペーシングセンサ16の出力電圧などに基づく第1時間t1および加算電力ΔPの調整も可能である。出力ゲイン調整値は、プリアンプ22から出力されるリード信号をRDCの入力において最適化するゲイン値のことを指し、RDC内の出力値がある一定の大きさとなるように調整する。
【0062】
加算電力ΔPの供給時間(規定時間)txに対するターゲットセクタの出力ゲイン調整値の飽和特性を図24に示す。これは、図22のエラーレート飽和特性と同様のため、出力ゲイン値をビットエラーレートの測定結果として扱うことで第1時間t1および加算電力ΔPの同様の調整が可能となる。飽和値でなく所要値で決定する場合、出力ゲイン調整値に所要絶対値は存在しないため、所要値については飽和調整値を基準にしてある一定値を加える相対値で定義可能である。
【0063】
スペーシングセンサ(HDIセンサー)16およびその周辺回路の構成を図25に概略的に示し、そのスペーシングセンサ16の出力電圧Vdと加算電力ΔPの供給時間(規定時間)txとの関係を図26に示している。
【0064】
抵抗素子であるスペーシングセンサ16に定電流源30から定電流を供給し、そのスペーシングセンサ16に生じる電圧を差動増幅回路31で増幅し、それをスペーシングセンサ16の出力電圧Vdとしている。出力電圧Vdは図22のエラーレート飽和特性と同様のため、その出力電圧Vdをビットエラーレートの測定結果として扱うことで第1時間t1および加算電力ΔPの同様の調整を行うことができる。飽和値でなく所要値で決定する場合、出力電圧Vdの値に所要絶対値は存在しないため、所要値については飽和調整値を基準にしてある一定値を減算する相対値で定義可能である。
【0065】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…磁気ディスク装置、2…磁気ディスク、4…アクチュエータ、10…磁気ヘッド、11…スライダ、12…ヘッドエレメント、13…ライト素子、14…リード素子、15…電気ヒータ、16…スペーシングセンサ、20…コントローラ、H…スペーシング、Hs…目標値、P…電力、Ps…定常電力、ΔP…加算電力、tx…規定時間、t1…第1時間、t2…第2時間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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