(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131626
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】伝送装置、電力系統保護システム、遅延補正方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02H 3/28 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H02H3/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042008
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭由
(57)【要約】
【課題】IP伝送時の伝送遅延の設定を実際のシステム稼働前に行うことができる電力系統保護システムを提供する。
【解決手段】伝送装置11は、タイマ部111と、測定部112と、設定部113と、送受信部114と、制御部115とを備える。IPネットワーク30を用いたIP伝送の開始前に受信したキャリア信号に応じて、測定部112、212は、第1・第2遅延時間を所定回数測定し、設定部113、213は、IPネットワーク30の第1・第2遅延量として、測定部112、212により所定回数測定した第1・第2遅延時間の平均値である第1・第2平均遅延時間を設定する。制御部115は、IPネットワークを用いたデータのIP伝送中、第1・第2遅延量に基づいて、IPネットワーク30による第1遅延量と第2遅延量との遅延差を短縮するように、送受信部114、214のデータの受信タイミングを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統を保護するための保護リレー装置に接続され、他の保護リレー装置に接続された他の伝送装置との間でIPネットワークを介してデータを送受信する伝送装置であって、
前記他の伝送装置にキャリア信号を送信する際に該キャリア信号にタイムスタンプを挿入するとともに、前記他の伝送装置からキャリア信号を受信する際に該キャリア信号内のタイムスタンプを検知するタイマ部と、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送の開始前に受信したキャリア信号に応じて、前記キャリア信号の受信時に検知した前記タイムスタンプと、該キャリア信号の受信時刻とから遅延時間を測定する測定部と、
前記他の伝送装置から前記伝送装置への前記キャリア信号の上り伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記測定部により所定回数測定した前記遅延時間の平均である第1平均遅延時間を設定する設定部と、
前記他の伝送装置に前記第1平均遅延時間を送信するとともに、前記伝送装置から前記他の伝送装置への前記キャリア信号の下り伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記他の伝送装置において所定回数測定した前記遅延時間の平均である第2平均遅延時間を受信する送受信部と、
前記IPネットワークを用いた前記データのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記送受信部の前記データの受信タイミングを制御する制御部と、
を備える、伝送装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記遅延差に基づいて、設定すべき前記第1平均遅延時間を増減させるように前記設定部を制御する、
請求項1に記載の伝送装置。
【請求項3】
前記所定回数は、前記IPネットワークの正規分布に基づいて設定される、
請求項1又は請求項2に記載の伝送装置。
【請求項4】
電力系統を保護するための保護リレー装置を備える電力系統保護システムであって、
送電線の第1端子側に接続された第1遮断器を制御する第1保護リレー装置と、
前記第1保護リレー装置に接続され、IPネットワークを介して他の伝送装置とデータのIP伝送を行うように構成された第1伝送装置と、
前記送電線の第2端子側に接続された第2遮断器を制御する第2保護リレー装置と、
前記第2保護リレー装置に接続され、前記IPネットワークを介して前記第1伝送装置とデータのIP伝送を行うように構成された第2伝送装置と、
を備え、
前記第1伝送装置と前記第2伝送装置の各々は、
他方の伝送装置にキャリア信号を送信する際に該キャリア信号にタイムスタンプを挿入するとともに、前記他方の伝送装置からキャリア信号を受信する際に該キャリア信号内のタイムスタンプを検知するタイマ部と、
前記IPネットワークを用いた前記データのIP伝送の開始前に受信したキャリア信号に応じて、前記キャリア信号の受信時に検知した前記タイムスタンプと、該キャリア信号の受信時刻とから遅延時間を測定する測定部と、
前記他方の伝送装置から自伝送装置への前記キャリア信号の上り伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記測定部により所定回数測定した前記遅延時間の平均である第1平均遅延時間を設定する設定部と、
前記他方の伝送装置に前記第1平均遅延時間を送信するとともに、前記自伝送装置から前記他方の伝送装置への前記キャリア信号の下り伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記他方の伝送装置において所定回数測定した前記遅延時間の平均である第2平均遅延時間を受信する送受信部と、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記送受信部の前記データの受信タイミングを制御する制御部と、
を含む、電力系統保護システム。
【請求項5】
前記第1伝送装置と前記第2伝送装置の各々の前記制御部は、前記遅延差に基づいて、設定すべき前記第1平均遅延時間及び前記第2平均遅延時間の少なくとも一方を増減させるように前記設定部を制御する、
請求項4に記載の電力系統保護システム。
【請求項6】
前記所定回数は、前記IPネットワークの正規分布に基づいて設定される、
請求項4又は請求項5に記載の電力系統保護システム。
【請求項7】
前記第1保護リレー装置及び前記第2保護リレー装置の各々は、前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送中における前記電力系統の異常を判定する判定部を含み、
前記第1伝送装置と前記第2伝送装置の各々の前記設定部は、前記判定部により前記電力系統の異常が検出された場合であっても、前記制御部により制御された前記送受信部の前記データの受信タイミングを保持する、
請求項4又は請求項5に記載の電力系統保護システム。
【請求項8】
前記電力系統の伝送ルートが変更された場合には、前記第1伝送装置と前記第2伝送装置の各々において、
前記測定部は、前記遅延時間を再度所定回数測定し、
前記設定部は、前記測定部により再度所定回数測定された遅延時間に基づいて、前記第1遅延量及び前記第2遅延量として、前記IPネットワークの前記第1及び第2平均遅延時間を再度設定し、
前記制御部は、再度設定した前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記送受信部の前記データの受信タイミングを再度制御する、
請求項4又は請求項5に記載の電力系統保護システム。
【請求項9】
電力系統を保護するための第1及び第2保護リレー装置と、前記第1及び第2保護リレー装置にそれぞれ接続され、他方の保護リレー装置に接続された他方の伝送装置との間でIPネットワークを介してデータを送受信する第1及び第2伝送装置とを備える電力系統保護システムにおける前記第1及び第2伝送装置において実行される遅延補正方法であって、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第1伝送装置から前記第2伝送装置へのIPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第1伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第2伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第1遅延時間を所定回数測定し、
前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記所定回数測定した前記第1遅延時間の平均である第1平均遅延時間を前記第1伝送装置に設定し、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記IPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第2伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第1伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第2遅延時間を所定回数測定し、
前記第1伝送装置から前記第2伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記所定回数測定した前記第2遅延時間の平均である第2平均遅延時間を前記第2伝送装置に設定し、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記第1及び第2伝送装置の各々において前記データの受信タイミングを制御する、
遅延補正方法。
【請求項10】
電力系統を保護するための第1及び第2保護リレー装置と、前記第1及び第2保護リレー装置にそれぞれ接続され、他方の保護リレー装置に接続された他方の伝送装置との間でIPネットワークを介してデータを送受信する第1及び第2伝送装置とを備える電力系統保護システムに用いられるコンピュータに、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第1伝送装置から前記第2伝送装置へのIPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第1伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第2伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第1遅延時間を所定回数測定する処理と、
前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記所定回数測定した前記第1遅延時間の平均である第1平均遅延時間を前記第1伝送装置に設定する処理と、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記IPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第2伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第1伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第2遅延時間を所定回数測定する処理と、
前記第1伝送装置から前記第2伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記所定回数測定した前記第2遅延時間の平均である第2平均遅延時間を前記第2伝送装置に設定する処理と、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記第1及び第2伝送装置の各々において前記データの受信タイミングを制御する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、伝送装置、電力系統保護システム、遅延補正方法、及びプログラムに関し、特に、電力系統の保護に際してデータ伝送にIP(Internet Protocol)ネットワークを利用する伝送装置、電力系統保護システム、遅延補正方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力保安網(伝送網)には、送電線等における事故の発生などの緊急事態を検出して、当該送電線等を電力送電網から切り離す電力系統保護システムが設けられている。この電力系統保護システムでは、各保護リレー装置により各端子の電流値データを示すキャリア(CR)信号が下流の保護リレー装置に伝達される電流差動方式が多用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
電力系統保護システムは、各保護リレー装置において計測される伝送網の各端子の流入電流値の和に基づいて、上記事故等の発生を判定している。そのため、電流値データの同時性が重要であり、伝送網の上り下りの伝送遅延の時間差の要件が厳しい(例えば、200μs以下)。したがって、電力保安網では、この要件を満たすことができる光PDH(Plesiochronous Digital Hierarchy)伝送が広く用いられていた。
【0004】
また、電力系統保護システムでは、各保護リレー装置のデータ伝送をIP化する代替装置等がないため、現状では電力保安網において光PDH伝送を継続して利用せざるを得ない。しかしながら、光PDH伝送の技術は1980年代に構築されたものであり、かなり古い技術であり、この技術を採用している伝送装置を維持するための部品の確保が難しくなっている。そのため、電力系統保護システムの各保護リレー装置の伝送装置を最新技術であるIPネットワークを利用したIP伝送装置に置き換える必要がある。
【0005】
ここで、特許文献1には、IPネットワークにおいて、他ディジタル保護継電装置(保護リレー装置)から自ディジタル保護継電装置(保護リレー装置)に送信されたアナログデータと自ディジタル保護継電装置で取り込んだアナログデータの同時性を確保するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】芹澤善積、「電力安定供給のための情報通信技術」、2005年3月号、46巻3号、P.294-299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、上りデータ伝送と下りデータ伝送において遅延時間が異なる場合について考慮されておらず、上り下りの伝送遅延時間が異なる状況が想定され得るIPネットワークへの適用が困難であった。
【0009】
また、電力系統保護システムによる送電線の事故等の監視フローが実行されているときに各保護リレー装置間で電流値データを送受信する場合には、通常IP伝送時のジッタ吸収処理と伝送遅延処理とを同時に行う必要がある。この場合、通常の事故等監視時においては電力系統保護システム全体の処理負荷が増大してしまうという問題もある。
【0010】
本開示は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、電力系統保護システムの事故監視フローにおけるIP伝送時の伝送遅延の設定を実際のシステム稼働前に行うことにより、IP伝送における伝送遅延の時間差の要件を満たすことができるとともに、電力系統を保護するためのシステム稼働時の処理負荷を軽減することができる伝送装置、電力系統保護システム、遅延補正方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の伝送装置は、
電力系統を保護するための保護リレー装置に接続され、他の保護リレー装置に接続された他の伝送装置との間でIPネットワークを介してデータを送受信する伝送装置であって、
前記他の伝送装置にキャリア信号を送信する際に該キャリア信号にタイムスタンプを挿入するとともに、前記他の伝送装置からキャリア信号を受信する際に該キャリア信号内のタイムスタンプを検知するタイマ部と、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送の開始前に受信したキャリア信号に応じて、前記キャリア信号の受信時に検知した前記タイムスタンプと、該キャリア信号の受信時刻とから遅延時間を測定する測定部と、
前記他の伝送装置から前記伝送装置への前記キャリア信号の上り伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記測定部により所定回数測定した前記遅延時間の平均である第1平均遅延時間を設定する設定部と、
前記他の伝送装置に前記第1平均遅延時間を送信するとともに、前記伝送装置から前記他の伝送装置への前記キャリア信号の下り伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記他の伝送装置において所定回数測定した前記遅延時間の平均である第2平均遅延時間を受信する送受信部と、
前記IPネットワークを用いた前記データのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記送受信部の前記データの受信タイミングを制御する制御部と、
を備えている。
【0012】
本開示の電力系統保護システムは、
電力系統を保護するための保護リレー装置を備える電力系統保護システムであって、
送電線の第1端子側に接続された第1遮断器を制御する第1保護リレー装置と、
前記第1保護リレー装置に接続され、IPネットワークを介して他の伝送装置とデータのIP伝送を行うように構成された第1伝送装置と、
前記送電線の第2端子側に接続された第2遮断器を制御する第2保護リレー装置と、
前記第2保護リレー装置に接続され、前記IPネットワークを介して前記第1伝送装置とデータのIP伝送を行うように構成された第2伝送装置と、
を備え、
前記第1伝送装置と前記第2伝送装置の各々は、
他方の伝送装置にキャリア信号を送信する際に該キャリア信号にタイムスタンプを挿入するとともに、前記他方の伝送装置からキャリア信号を受信する際に該キャリア信号内のタイムスタンプを検知するタイマ部と、
前記IPネットワークを用いた前記データのIP伝送の開始前に受信したキャリア信号に応じて、前記キャリア信号の受信時に検知した前記タイムスタンプと、該キャリア信号の受信時刻とから遅延時間を測定する測定部と、
前記他方の伝送装置から自伝送装置への前記キャリア信号の上り伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記測定部により所定回数測定した前記遅延時間の平均である第1平均遅延時間を設定する設定部と、
前記他方の伝送装置に前記第1平均遅延時間を送信するとともに、前記自伝送装置から前記他方の伝送装置への前記キャリア信号の下り伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記他方の伝送装置において所定回数測定した前記遅延時間の平均である第2平均遅延時間を受信する送受信部と、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記送受信部の前記データの受信タイミングを制御する制御部と、
を含む。
【0013】
本開示の遅延補正方法は、
電力系統を保護するための第1及び第2保護リレー装置と、前記第1及び第2保護リレー装置にそれぞれ接続され、他方の保護リレー装置に接続された他方の伝送装置との間でIPネットワークを介してデータを送受信する第1及び第2伝送装置とを備える電力系統保護システムにおける前記第1及び第2伝送装置において実行される遅延補正方法であって、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第1伝送装置から前記第2伝送装置へのIPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第1伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第2伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第1遅延時間を所定回数測定し、
前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記所定回数測定した前記第1遅延時間の平均である第1平均遅延時間を前記第1伝送装置に設定し、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記IPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第2伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第1伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第2遅延時間を所定回数測定し、
前記第1伝送装置から前記第2伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記所定回数測定した前記第2遅延時間の平均である第2平均遅延時間を前記第2伝送装置に設定し、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記第1及び第2伝送装置の各々において前記データの受信タイミングを制御する。
【0014】
本開示のプログラムは、
電力系統を保護するための第1及び第2保護リレー装置と、前記第1及び第2保護リレー装置にそれぞれ接続され、他方の保護リレー装置に接続された他方の伝送装置との間でIPネットワークを介してデータを送受信する第1及び第2伝送装置とを備える電力系統保護システムに用いられるコンピュータに、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第1伝送装置から前記第2伝送装置へのIPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第1伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第2伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第1遅延時間を所定回数測定する処理と、
前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第1遅延量として、前記所定回数測定した前記第1遅延時間の平均である第1平均遅延時間を前記第1伝送装置に設定する処理と、
前記IPネットワークを用いたIP伝送の開始前に、前記第2伝送装置から前記第1伝送装置への前記IPネットワークを介したキャリア信号の送信時に前記第2伝送装置により前記キャリア信号にタイムスタンプを挿入し、前記第1伝送装置による前記キャリア信号の受信時に前記タイムスタンプを検知することにより得られる第2遅延時間を所定回数測定する処理と、
前記第1伝送装置から前記第2伝送装置への前記キャリア信号の伝送時の前記IPネットワークの第2遅延量として、前記所定回数測定した前記第2遅延時間の平均である第2平均遅延時間を前記第2伝送装置に設定する処理と、
前記IPネットワークを用いたデータのIP伝送中に、前記IPネットワークの前記第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、前記第1及び第2伝送装置の各々において前記データの受信タイミングを制御する処理と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、IP伝送における伝送遅延の時間差の要件を満たすことができるとともに、電力系統を保護するためのシステム稼働時の処理負荷を軽減することができる電力系統保護システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態にかかる電力系統保護システムの概略図である。
【
図3】実施の形態にかかる遅延補正処理の概略を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態にかかる遅延補正処理の概略を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、特許請求の範囲にかかる発明を以下の実施の形態に限定するものではない。また、本実施の形態で説明する構成のすべてが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0018】
<電力系統保護システムの構成及び動作>
図1は、本実施の形態にかかる電力系統保護システムの概略図である。
図1を参照しながら、本実施の形態にかかる電力系統保護システム1の構成を説明する。本開示の電力系統保護システム1は、第1端子41側の遮断器42と第2端子43側の遮断器44との間の送電線40における事故(例えば、漏電など)の発生、すなわち、電力系統の異常を判定(検出)するためのものである。
【0019】
図1に示すように、電力系統保護システム1は、保護リレー装置10と、伝送装置11と、保護リレー装置20と、伝送装置21とを備える。保護リレー装置10、20の各々は、伝送装置11、21を介してIP(Internet Protocol)ネットワーク30に接続され、IPネットワーク30を介して各種データを送受信するように構成される。本例では、保護リレー装置10及び伝送装置11を入力側とし、保護リレー装置20及び伝送装置21を出力側とする。すなわち、保護リレー装置10から保護リレー装置20への伝送が上りIP伝送であり、保護リレー装置20から保護リレー装置10への伝送が下りIP伝送である。
【0020】
図1に示す例では、送電線40の第1端子41及び第2端子43の側に遮断器42、44がそれぞれ接続されており、これらの遮断器42、44は、変流器12、22を介して接続される保護リレー装置10、20によりそれぞれ制御される。
【0021】
図1に示すように、保護リレー装置10は、A/D(Analog/digital)変換回路101と、P/S(Parallel/Serial)変換回路102と、S/P変換回路103と、判定部104とを備える。また、保護リレー装置20は、A/D変換回路201と、P/S変換回路202と、S/P変換回路203と、判定部204とを備える。上述のように、保護リレー装置10は伝送装置11に接続され、保護リレー装置20は伝送装置21に接続される。そして、伝送装置11及び伝送装置21は、IPネットワーク30を介して互いに接続され、各種データを送受信するように構成される。なお、2つの保護リレー装置10、20は同一の構成を有する。そのため、以下では、代表して保護リレー装置10の構成を主に説明する。
【0022】
保護リレー装置10は、送電線40に接続された変流器12で得た電流値データ及び電圧値データ(アナログ値)を取り込む。A/D変換回路101は、取り込んだ電流値データ及び電圧値データをデジタルデータに変換し、該デジタルデータをP/S変換回路102及び判定部104に出力する。P/S変換回路102は、各種デジタルデータを並列信号から直列信号に変換し、変換後のデジタルデータを直列伝送方式にて伝送装置11に出力する。
【0023】
伝送装置11は、保護リレー装置10から順次送られてくるデジタルデータをIPネットワーク30に出力し、該IPネットワーク30を介して保護リレー装置20側の伝送装置21に該デジタルデータを送信する。
【0024】
一方、保護リレー装置20は、送電線40に接続された変流器22で得た電流値データ及び電圧値データ(アナログ値)を取り込む。A/D変換回路201は、取り込んだ電流値データ及び電圧値データをデジタルデータに変換し、該デジタルデータをP/S変換回路202及び判定部204に出力する。P/S変換回路202は、各種デジタルデータを並列信号から直列信号に変換し、変換後のデジタルデータを直列伝送方式にて伝送装置21に出力する。
【0025】
伝送装置21は、保護リレー装置20から順次送られてくるデジタルデータをIPネットワーク30に出力し、該IPネットワーク30を介して保護リレー装置10側の伝送装置11に該デジタルデータを送信する。
【0026】
保護リレー装置10は、伝送装置11により受信した保護リレー装置20側のデジタルデータを取得する。取得したデジタルデータは、S/P変換回路103に出力され、直列信号から並列信号に変換される。S/P変換回路103は、並列信号に変換したデジタルデータ、すなわち、保護リレー装置20により取り込まれた電流値データ及び電圧値データ(デジタル値)を判定部104に出力する。
【0027】
判定部104は、送電線40が接続された電力系統を保護するための演算処理を行い、演算結果に基づいて遮断器42を遮断・開放させる遮断指令や開放指令を生成する。具体的には、判定部104は、同じタイミングにおいて保護リレー装置10側で取り込んだ電流値データ(デジタル値)と保護リレー装置20側で取り込んだ電流値データ(デジタル値)に基づいて、遮断器42と遮断器44との間の送電線40における事故の発生の有無(すなわち、電力系統の異常)を判定する。判定部104は、この判定結果に基づいて、遮断器42に関する遮断指令や開放指令を出力する。
【0028】
図示を省略しているが、保護リレー装置10は、判定部104から出力された遮断指令に応じて、遮断器42を遮断する制御を行う。また、保護リレー装置10は、判定部104から出力された開放指令に応じて、遮断器42を開放する制御を行う。
【0029】
ここで、判定部104による判定は、各端子41、43へ流入する流入電流値(デジタル値)に基づいてなされる。具体的には、判定部104は、各端子41、43へ流入する流入電流値の和が所定値以上になったことに応じて、送電線40において事故が発生したと判定し、遮断器42を遮断するための遮断指令を出力する。そのため、これら流入電流値が同時にサンプリングされていることが重要である。この同時性を担保するために、各伝送装置11、21は、
図2に示すように構成される。
【0030】
<伝送装置の構成>
次に、伝送装置11、21の構成を説明する。
図2は、
図1に示す各伝送装置の概略図である。
図2に示すように、伝送装置11は、タイマ部111と、測定部112と、設定部113と、送受信部114と、制御部115とを備える。また、伝送装置21は、タイマ部211と、測定部212と、設定部213と、送受信部214と、制御部215とを備える。なお、2つの伝送装置11、21は、特許請求の範囲に記載の第1伝送装置及び第2伝送装置にそれぞれ対応し、同一の構成を有する。そのため、以下では、代表して伝送装置11の構成を主に説明する。
【0031】
なお、図示しないが、各伝送装置11、21は、少なくとも処理を実行するためのプログラムを実行するプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit))と、プログラムを記憶するメモリ(記憶媒体)とから物理的に構成される。各伝送装置11、21は、記憶媒体に記憶されたプログラムを実行することにより、タイマ部111、211と、測定部112、212と、設定部113、213と、送受信部114、214と、制御部115、215の各処理を実行する。
【0032】
タイマ部111は、保護リレー装置10側のローカル時刻を測定部112に出力するように構成される。なお、タイマ部111は、IPネットワーク30を介してローカル時刻を取得し、取得したローカル時刻を測定部112に出力してもよい。また、タイマ部111は、保護リレー装置10から保護リレー装置20へキャリア(CR)信号を送信する際には、送信すべきCR信号にローカル時刻を示すタイムスタンプを挿入する。このタイムスタンプは、保護リレー装置10からCR信号を送信したときのローカル時刻を示すものである。さらに、タイマ部111は、保護リレー装置20からCR信号を受信した際には、受信したCR信号内のタイムスタンプを検知して、該タイムスタンプが示すローカル時刻を測定部112に出力する。なお、本実施の形態では、保護リレー装置10、20間のCR信号の送受信は、伝送装置11、21間のIPネットワーク30を用いたIP伝送の開始前、すなわち、電力系統保護システム1による送電線40の事故監視フローを開始する前に実施される。
【0033】
測定部112は、伝送装置11が伝送装置21からCR信号を受信したとき、このCR信号から検知したタイムスタンプが示すローカル時刻と、CR信号の受信時にタイマ部111から取得した受信時刻とから、CR信号の送信に掛かる遅延時間を測定するように構成される。なお、測定部112は、特許請求の範囲に記載の測定部に対応し、この遅延時間は、特許請求の範囲に記載の遅延時間及び第1遅延時間に対応する。
【0034】
本例では、伝送装置21は、IPネットワーク30を用いたIP伝送の開始前に、伝送装置11に向けて所定回数CR信号を送信する。伝送装置11の測定部112は、伝送装置21からCR信号を受信するたびに、第1遅延時間を測定して、図示しないメモリ等に保存する。そして、測定部112は、所定回数測定した第1遅延時間からその平均値を演算し、第1平均遅延時間としてメモリ等に保存する。
【0035】
ここで、第1遅延時間を測定する所定回数は、IPネットワーク30の正規分布に基づいて設定されるものである。IPネットワーク30の正規分布に基づけば、複数回計測した第1遅延時間の計測値の95%以上を含む第1遅延時間の最小値は、その最大遅延幅の27.8%となり、99.7%以上を含む第1遅延時間の最小値は、その最大遅延幅の16.7%となる。例えば、所定回数を100回とすれば、99%の確率で最大遅延幅が21.3%となり、IPネットワーク30の遅延要件を満たす。このように、所定回数は、IPネットワーク30の遅延要件を満たすように適宜設定されればよい。
【0036】
設定部113は、第1平均遅延時間に基づいて、伝送装置21から伝送装置11へのCR信号の伝送時のIPネットワーク30の遅延量(通常IP伝送時のジッタ吸収分を除く)を設定するように構成される。設定部113は、設定した遅延量を第1遅延量としてメモリ等に保存する。そして、送受信部114は、保存した第1遅延量をIPネットワーク30を介して伝送装置21に送信するように構成される。
【0037】
なお、伝送装置21においても同様の処理が実施される。すなわち、伝送装置11は、IPネットワーク30を用いたIP伝送の開始前に、伝送装置21に向けて所定回数CR信号を送信する。伝送装置21の測定部212は、伝送装置11からCR信号を受信するたびに、第2遅延時間を測定して、図示しないメモリ等に保存する。そして、測定部212は、所定回数測定した第2遅延時間からその平均値を演算し、第2平均遅延時間としてメモリ等に保存する。
【0038】
設定部213は、第2平均遅延時間に基づいて、伝送装置11から伝送装置21へのCR信号の伝送時のIPネットワーク30の遅延量(通常IP伝送時のジッタ吸収分を除く)を設定するように構成される。設定部213は、設定した遅延量を第2遅延量として図示しないメモリ等に保存する。そして、送受信部214は、保存した第2遅延量をIPネットワーク30を介して伝送装置11に送信するように構成される。
【0039】
制御部115は、IPネットワーク30を用いたデータのIP伝送中には、上記保存した第1遅延量と、送受信部114を介して伝送装置21から受信した第2遅延量とに基づいて、IPネットワーク30による第1遅延量と第2遅延量との遅延差を短縮するように、送受信部114のデータの受信タイミング、すなわち、伝送装置11から保護リレー装置10への受信したデータの出力タイミングを制御するように構成される。具体的には、制御部115は、通常伝送時のジッタ吸収を考慮した遅延差が実質的に0となるように設定部113を制御し、設定部113は、制御後の第1遅延量をジッタ吸収(IP遅延補正+通常IP伝送時のジッタ吸収)に設定する。そして、伝送装置11は、設定したジッタ吸収に基づいて、送受信部114を介して受信したデータを保護リレー装置10に出力する。
【0040】
同様に、制御部215は、IPネットワーク30を用いたデータのIP伝送中には、上記保存した第2遅延量と、送受信部214を介して伝送装置11から受信した第1遅延量とに基づいて、IPネットワーク30による第1遅延量と第2遅延量との遅延差を短縮するように、送受信部214のデータの受信タイミング、すなわち、伝送装置21から保護リレー装置20への受信したデータの出力タイミングを制御する。具体的には、制御部215は、通常IP伝送時のジッタ吸収を考慮した遅延差が実質的に0となるように設定部213を制御し、設定部213は、制御後の第2遅延量(IP遅延補正+通常IP伝送時のジッタ吸収)をジッタ吸収に設定する。そして、伝送装置21は、設定したジッタ吸収に基づいて、送受信部214を介して受信したデータを保護リレー装置20に出力する。
【0041】
このように、本例の電力系統保護システム1では、IPネットワーク30を用いたIP伝送の実際の開始前に、各伝送装置11、21の設定部113、213によりIP伝送遅延を補正・設定している。そして、電力系統保護システム1は、電力系統の監視時(すなわち、通常IP伝送時)には、通常行われるジッタ吸収処理に加え、遅延補正処理により得られたIPネットワーク30の遅延量を設定(補正)する処理を行うこととなる。
【0042】
電力系統保護システム1の伝送装置11、21は、このような処理により、IPネットワーク30の第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差に基づいて、設定すべき第1平均遅延時間及び第2平均遅延時間の少なくとも一方を増減させるように設定部113、213を制御することとなる。設定の具体例は、
図4を用いて後述する。
【0043】
なお、設定部113は、保護リレー装置10の判定部104により電力系統の異常が検出された場合であっても、原則として設定した第1遅延量を変更することなく、そのまま該第1遅延量を保持すればよい。すなわち、設定部113は、電力系統の異常が検出されたとしても、制御部115により制御された送受信部114のデータの受信タイミングを保持すればよい。同様に、設定部213は、保護リレー装置20の判定部204により電力系統の異常が検出された場合であっても、原則として設定した第2遅延量を変更することなく、そのまま該第2遅延量を保持すればよい。すなわち、設定部213は、電力系統の異常が検出されたとしても、制御部215により制御された送受信部214のデータの受信タイミングを保持すればよい。伝送装置11、21をこのように構成することにより、電力系統保護システム1のシステム稼働時の処理負荷をさらに軽減することができる。
【0044】
一方、電力系統の伝送ルートを変更する場合には、伝送ルート変更に伴い、IPネットワーク30の遅延量が変わってしまう。そのため、伝送装置11の測定部112は、伝送装置21から受信したCR信号から検知したタイムスタンプが示すローカル時刻と、CR信号の受信時にタイマ部111から取得した受信時刻とから、CR信号の送信に掛かる第1遅延時間を再度所定回数測定する。同様に、伝送装置21の測定部212も、伝送装置11から受信したCR信号から検知したタイムスタンプが示すローカル時刻と、CR信号の受信時にタイマ部211から取得した受信時刻とから、CR信号の送信に掛かる第2遅延時間を再度所定回数測定する。そして、設定部113、213の各々は、所定回数測定した第1遅延時間及び第2遅延時間から得られた第1平均遅延時間及び第2平均遅延時間に基づいて、伝送装置21、11から伝送装置11、21へのCR信号の伝送時のIPネットワーク30の各遅延量を再度設定し、再度設定した遅延量を第1遅延量及び第2遅延量としてメモリ等に保存する。さらに、制御部115、215の各々は、再度設定したIPネットワーク30の第1遅延量と第2遅延量との遅延差を短縮するように、送受信部114、214のデータの受信タイミングを再度制御する。
【0045】
<伝送装置の動作(遅延補正処理)>
次に、伝送装置11、21により実施される本実施の形態にかかる遅延補正処理を説明する。
図3は、本実施の形態にかかる遅延補正処理の概略を示すフローチャートであり、
図4は、本実施の形態にかかる遅延補正処理の概略を示すタイミングチャートである。
【0046】
本開示では、IPネットワーク30を用いたIP伝送の遅延補正処理は、電力系統保護システム1による送電線40の事故監視フローを開始する前に実施される。このように、本開示の電力系統保護システム1では、電力系統保護システム1による送電線40の事故監視フローと同時に遅延補正処理を行っていないので、通常の送電線の事故監視時に電力系統保護システム1全体の処理負荷を軽減することができる。
【0047】
遅延補正処理では、まず、伝送装置11の測定部112は、伝送装置21がCR信号を所定回数送信することに応じて、該CR信号を受信するたびに、第1遅延時間を測定する(ステップS1)。測定部112は、測定毎に第1遅延時間を図示しないメモリ等に保存する。次いで、測定部112は、保存した所定数の第1遅延時間に基づいて、第1平均遅延時間を演算する(ステップS2)。
【0048】
次いで、設定部113は、第1平均遅延時間に基づいて、伝送装置21から伝送装置11へのCR信号の伝送時のIPネットワーク30の遅延量(第1遅延量)を設定する(ステップS3)。
【0049】
次に、伝送装置21の測定部212は、伝送装置11がCR信号を所定回数送信することに応じて、該CR信号を受信するたびに、第2遅延時間を測定する(ステップS4)。測定部212は、測定毎に第2遅延時間を図示しないメモリ等に保存する。次いで、測定部212は、保存した所定数の第2遅延時間に基づいて、第2平均遅延時間を演算する(ステップS5)。
【0050】
次いで、設定部213は、第2平均遅延時間に基づいて、伝送装置11から伝送装置21へのCR信号の伝送時のIPネットワーク30の遅延量(第2遅延量)を設定する(ステップS6)。
【0051】
次に、制御部115、215の各々は、ステップS3で設定した第1遅延量とステップS6で設定した第2遅延量との遅延差を短縮するように、送受信部114、214のCR信号(データ)の受信タイミング、すなわち、伝送装置11、21から保護リレー装置10、20への受信したデータの出力タイミングを制御する(ステップS7)。
【0052】
最終的に、遅延補正処理によれば、
図4のタイミングチャートに示すように、第1遅延量及び第2遅延量を設定することにより、通常IP伝送時において伝送装置11、21におけるIPネットワーク30によるIP伝送遅延を補正することとなる。
【0053】
具体的には、
図4(A)に示すように、保護リレー装置10の伝送装置11から保護リレー装置20の伝送装置21へのCR信号の送信時には、まず、(1)保護リレー装置10は、CR信号としてa~jに区分けされた電流値データのアナログ信号を変流器12を介して取得する。保護リレー装置10は、(2)A/D変換回路101により、取得したアナログ信号をデジタル信号N~9(PKT:パケット)に変換する。保護リレー装置10は、P/S変換回路102により、このPKTを並列信号から直列信号に変換し、変換後のデジタル信号を直列伝送方式にて伝送装置11に出力する。伝送装置11は、IPネットワーク30を介してPKTを保護リレー装置20の伝送装置21に送信する。
【0054】
(3)伝送装置21がPKTを受信すると、伝送装置21は、所定のタイミングで、受信したPKTを保護リレー装置20に出力する。このとき、IPネットワーク30を介した伝送によりPKTの送信から受信までの時間だけ伝送遅延(IPネットワーク遅延)が生じている。そのため、伝送装置21は、(4)遅延補正処理による遅延補正とジッタ吸収の合計分だけさらに遅延させて、PKTを保護リレー装置20に出力する。
【0055】
その結果、保護リレー装置20には、(5)遅延補正とジッタ吸収の合計分だけさらに遅延したPKTが入力されることとなる。そして、入力されたPKTは、S/P変換回路204により、直列信号から並列信号に変換され、変換後のデジタル信号が直列伝送方式にて判定部204に出力される。
【0056】
一方、
図4(B)に示すように、保護リレー装置20の伝送装置21から保護リレー装置10の伝送装置11へのCR信号の送信時には、まず、(6)保護リレー装置20は、CR信号としてa~jに区分けされた電流値データのアナログ信号を変流器22を介して取得する。保護リレー装置20は、(7)A/D変換回路201により、取得したアナログ信号をデジタル信号N~9(PKT:パケット)に変換する。保護リレー装置20は、P/S変換回路202により、このPKTを並列信号から直列信号に変換し、変換後のデジタル信号を直列伝送方式にて伝送装置21に出力する。伝送装置21は、IPネットワーク30を介してPKTを保護リレー装置10の伝送装置11に送信する。
【0057】
(8)伝送装置11がPKTを受信すると、伝送装置11は、所定のタイミングで、受信したPKTを保護リレー装置10に出力する。このとき、IPネットワーク30を介した伝送によりPKTの送信から受信までの時間だけ伝送遅延(IPネットワーク遅延)が生じている。
【0058】
なお、
図4に示す本例では、伝送装置21から伝送装置11への伝送遅延が伝送装置11から伝送装置21への伝送遅延よりも小さい場合を図示している。そのため、伝送装置11は、(9)遅延補正処理による遅延補正とジッタ吸収の合計分だけさらに遅延させて、(A)の伝送装置21から保護リレー装置20への出力タイミングと同じタイミングでPKTを保護リレー装置10に出力する。
【0059】
その結果、保護リレー装置10は、(5)遅延補正とジッタ吸収の合計分だけさらに遅延したPKTを出力することとなる。そして、入力されたPKTは、S/P変換回路104により、直列信号から並列信号に変換され、変換後のデジタル信号が直列伝送方式にて判定部104に出力される。
【0060】
以上説明したように、本実施の形態による伝送装置11、21は、電力系統を保護するための保護リレー装置10、20にそれぞれ接続され、他の保護リレー装置20、10に接続された他の伝送装置21、11との間でIPネットワーク30を介してデータを送受信する伝送装置である。伝送装置11、21の各々は、他の伝送装置21、11にキャリア信号を送信する際に該キャリア信号にタイムスタンプを挿入するとともに、他の伝送装置21、11からキャリア信号を受信する際に該キャリア信号内のタイムスタンプを検知するタイマ部111、211と、IPネットワーク30を用いたデータのIP伝送の開始前に受信したキャリア信号に応じて、キャリア信号の受信時に検知したタイムスタンプと、該キャリア信号の受信時刻とから第1遅延時間及び第2遅延時間を測定する測定部112、212と、他の伝送装置21、11から伝送装置11、21へのキャリア信号の上り伝送時のIPネットワーク30の第1遅延量として、測定部112、212により所定回数測定した第1遅延時間及び第2遅延時間の平均である第1平均遅延時間及び第2平均遅延時間を設定する設定部113、213と、他の伝送装置21、11に第1平均遅延時間及び第2平均遅延時間を送信するとともに、伝送装置11、21から他の伝送装置21、11へのキャリア信号の下り伝送時のIPネットワーク30の第2遅延量として、他の伝送装置21、11において所定回数測定した第2遅延時間及び第1遅延時間の平均である第2平均遅延時間及び第1平均遅延時間を受信する送受信部114、214と、IPネットワーク30を用いたデータのIP伝送中に、IPネットワーク30の第1遅延量と第2遅延量との遅延差を短縮するように、送受信部114、214のデータの受信タイミングを制御する制御部115、215と、を備えるように構成されている。このように、本実施の形態による伝送装置11、21では、電力系統保護システム1の事故監視フローにおけるIP伝送時の伝送遅延の設定を実際のシステム稼働前に行っているので、IP伝送における伝送遅延の時間差の要件を満たすことができるとともに、電力系統を保護するためのシステム稼働時の処理負荷を軽減することができる。
【0061】
本実施の形態による伝送装置11、21では、保護リレー装置10、20を介在することなく、電力系統保護システム1の事故監視フローにおけるIP伝送時の伝送遅延の設定を行っている。そのため、本実施の形態による伝送装置11、21を既存の保護リレー装置にそのまま適用することができる。これにより、既存の保護リレー装置に追加の機器、部材を必要とすることがないので、保護リレー装置の大型化を防止することができる。
【0062】
また、本実施の形態による電力系統保護システム1は、電力系統を保護するための保護リレー装置10、20を備える電力系統保護システムであって、送電線40の第1端子41側に接続された遮断器(第1遮断器)42を制御する保護リレー装置(第1保護リレー装置)10と、保護リレー装置10に接続され、IPネットワーク30を介して伝送装置(他の伝送装置)21とデータのIP伝送を行うように構成された伝送装置(第1伝送装置)11と、送電線40の第2端子43側に接続された遮断器(第2遮断器)44を制御する保護リレー装置(第2保護リレー装置)20と、保護リレー装置20に接続され、IPネットワーク30を介して伝送装置11とデータのIP伝送を行うように構成された伝送装置21とを備えている。そして、伝送装置11、21の各々は、他方の伝送装置21、11にキャリア信号を送信する際に該キャリア信号にタイムスタンプを挿入するとともに、他方の伝送装置21、11からキャリア信号を受信する際に該キャリア信号内のタイムスタンプを検知するタイマ部111、211と、IPネットワーク30を用いたデータのIP伝送の開始前に受信したキャリア信号に応じて、キャリア信号の受信時に検知したタイムスタンプと、該キャリア信号の受信時刻とから第1遅延時間、第2遅延時間(遅延時間)を測定する測定部112、212と、他方の伝送装置21、11から自伝送装置11、21へのキャリア信号の上り伝送時のIPネットワーク30の第1遅延量、第2遅延量として、測定部112、212により所定回数測定した第1遅延時間、第2遅延時間の平均である第1平均遅延時間、第2平均時間を設定する設定部113、213と、他方の伝送装置21、11に第1平均遅延時間、第2遅延時間を送信するとともに、伝送装置11、21から他方の伝送装置21、11へのキャリア信号の下り伝送時のIPネットワーク30の第2遅延量として、他方の伝送装置21、11において所定回数測定した第2遅延時間、第1遅延時間の平均である第2平均遅延時間、第1平均遅延時間を受信する送受信部114、214と、IPネットワーク30を用いたデータのIP伝送中(すなわち、電力系統保護システム1による送電線40の事故監視フローの実行中)に、IPネットワーク30の第1遅延量と前記第2遅延量との遅延差を短縮するように、送受信部114、214のデータの受信タイミング(すなわち、伝送装置11、21から保護リレー装置10、20への受信したデータの出力タイミング)を制御する制御部115、215とを含むように構成される。このように、本実施の形態による電力系統保護システム1では、伝送装置11、21間のIPネットワーク30を用いたIP伝送の開始前、すなわち、電力系統保護システム1による送電線40の事故監視フローを開始する前にIP伝送による遅延補正が実施される。これにより、第1及び第2遅延量の遅延差の要件を満たすことができるとともに、電力系統保護システム1による事故等の検出信号を伝送する方法としてIP伝送を採用することができる。また、このような遅延補正処理を伝送装置11、21間のIPネットワーク30を用いたIP伝送の開始前、すなわち、電力系統保護システム1による送電線40の事故監視フローを開始する前に行うことにより、送電線40の事故監視フローの実行中にIP伝送による遅延補正を行う場合に比べて、通常の事故監視時に電力系統保護システム1全体への処理負荷を軽減することができる。
【0063】
上述した伝送装置11、21における処理の一部又は全部は、コンピュータプログラムとして実現可能である。このようなプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給することができる。
【0064】
なお、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示による電力系統保護システム等は、電力系統の保護のためのデータ伝送にIPネットワークを利用したIP伝送装置を備える電力系統保護システムのIPデータ伝送の用途に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 電力系統保護システム
10、20 保護リレー装置
11、21 伝送装置
111、211 タイマ部
112、212 測定部
113、213 設定部
114、214 制御部