(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131627
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】触媒成形体、触媒成形体の製造方法、炭化水素製造装置および炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/78 20060101AFI20240920BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240920BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240920BHJP
C07C 9/14 20060101ALI20240920BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20240920BHJP
B01J 23/80 20060101ALN20240920BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
B01J23/78 M
B01J37/08
B01J35/10 301G
C07C9/14
C07C1/12
B01J23/80 M
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042010
(22)【出願日】2023-03-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発 液体燃料へのCO2利用技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 行寛
(72)【発明者】
【氏名】高▲崎▼ 智
(72)【発明者】
【氏名】梶田 琢也
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA12
4G169AA15
4G169BA01B
4G169BB12C
4G169BC02B
4G169BC31B
4G169BC35B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BD04C
4G169CC22
4G169CC23
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169EC06X
4G169EC06Y
4G169EC07X
4G169EC08X
4G169EC15X
4G169EC15Y
4G169EC16X
4G169EC16Y
4G169EC21Y
4G169EC25
4G169FB07
4G169FB30
4G169FB36
4G169FC05
4G169FC07
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA19
4H006BA30
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE20
4H006BE41
4H039CA19
(57)【要約】
【課題】液状炭化水素の製造効率の向上を図る。
【解決手段】第2触媒成形体10は、酸化第二鉄を含む触媒粉体が成形された触媒成形体であって、比表面積が5~25m
2/gであり、平均細孔径が35~60nmであり、細孔容積が0.1mL/g以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化第二鉄を含む触媒粉体が成形された触媒成形体であって、
比表面積が5~25m2/gであり、平均細孔径が35~60nmであり、細孔容積が0.1mL/g以上である、
触媒成形体。
【請求項2】
酸化第二鉄を含む触媒粉体と有機物との混合物を成形して成形体を作製し、
前記成形体を500℃以上700℃以下の温度で焼成して前記有機物を焼失させることを含む、
触媒成形体の製造方法。
【請求項3】
前記成形体の焼成温度が600℃以上700℃以下である、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスを導入する入口、および前記原料ガスから生成される炭化水素を排出する出口を有する反応器と、
前記反応器内に配置されて前記原料ガスから炭素数5以上の炭化水素を生成する請求項1に記載の触媒成形体と、を備える、
炭化水素製造装置。
【請求項5】
請求項1に記載の触媒成形体を用いて、原料ガスに含まれる二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とから炭素数5以上の炭化水素を製造することを含む、
炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒成形体、触媒成形体の製造方法、炭化水素製造装置および炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化炭素と水素から、エネルギー密度の高い液状の炭化水素を触媒の存在下で生成させることが知られている(特許文献1参照)。また、水素および一酸化炭素を含む合成ガスから、フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch process)反応(以下では適宜「FT反応」という)により液状炭化水素を製造する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、様々な経済活動で発生する二酸化炭素の削減が大きな課題の一つとなっている。大気や排ガス等に含まれる二酸化炭素を上述した液状炭化水素の製造に利用すれば、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献できる。本発明者らは、炭素数5以上の液状炭化水素の製造技術について鋭意検討を重ね、液状炭化水素の製造効率の向上を図る技術を見出した。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、液状炭化水素の製造効率の向上を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、酸化第二鉄を含む触媒粉体が成形された触媒成形体である。この触媒成形体は、比表面積が5~25m2/gであり、平均細孔径が35~60nmであり、細孔容積が0.1mL/g以上である。
【0007】
本発明の他の態様は、触媒成形体の製造方法である。この製造方法は、酸化第二鉄を含む触媒粉体と有機物との混合物を成形して成形体を作製し、成形体を500℃以上700℃以下の温度で焼成して有機物を焼失させることを含む。
【0008】
本発明の他の態様は、炭化水素製造装置である。この装置は、二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスを導入する入口、および原料ガスから生成される炭化水素を排出する出口を有する反応器と、反応器内に配置されて原料ガスから炭素数5以上の炭化水素を生成する上記態様の触媒成形体と、を備える。
【0009】
本発明の他の態様は、炭化水素の製造方法である。この方法は、上記態様の触媒成形体を用いて、原料ガスに含まれる二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とから炭素数5以上の炭化水素を製造することを含む。
【0010】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液状炭化水素の製造効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る炭化水素製造装置の模式図である。
【
図2】各実施例および各比較例における細孔径分布を示す図である。
【
図3】各実施例および各比較例における物性値を示す図である。
【
図4】各実施例および各比較例におけるXRDパターンを示す図である。
【
図5】各実施例および各比較例における反応試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。したがって、実施の形態の内容は、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。実施の形態に記述される構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
図1は、実施の形態に係る炭化水素製造装置1の模式図である。
図1では、反応器2の内部を透視した状態を示している。炭化水素製造装置1は、反応器2と、逆シフト触媒層4と、FT触媒層6とを備える。反応器2は、入口2aおよび出口2bを有する。二酸化炭素および水素を含む原料ガスは、入口2aから反応器2内に導入される。反応器2内で原料ガスから生成される炭化水素は、出口2bから反応器2外に排出される。反応器2は、逆シフト触媒層4およびFT触媒層6を収容する。逆シフト触媒層4は、FT触媒層6より原料ガスの流れの上流側に、換言すればFT触媒層6より入口2a側に配置される。
【0015】
逆シフト触媒層4は、第1触媒成形体8を含む。例えば逆シフト触媒層4は、複数の第1触媒成形体8が層状に敷き詰められることで形成される。第1触媒成形体8は、主に逆シフト反応に用いられる。第1触媒成形体8には公知の触媒を用いることができるが、一例としての第1触媒成形体8は、銅を含む銅系触媒体で構成される。第1触媒成形体8は、金属銅、酸化銅(CuO)、またはこれらの両方を含有する。第1触媒成形体8が触媒として機能する間、第1触媒成形体8は少なくとも金属銅を含む。このため、第1触媒成形体8は、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の第1触媒成形体8は、酸化銅を含むことが多い。第1触媒成形体8における銅成分の含有量は、第1触媒成形体8に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算したときに、第1触媒成形体8全体の質量を基準として、20~100質量%であることが好ましい。
【0016】
第1触媒成形体8は、さらに酸化亜鉛(ZnO)を含有していてもよい。第1触媒成形体8が酸化亜鉛を含有することにより、炭素数5以上の液状炭化水素(C5+)をより効率的に生成させることができる。第1触媒成形体8に含まれる銅元素の量を全て酸化銅の量に換算したときに、酸化亜鉛の量の割合が、酸化銅と酸化亜鉛の合計量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。
【0017】
また、第1触媒成形体8は、ロジウム、白金、または鉄-クロムからなる群から選択される少なくとも1つの金属や合金を含有していてもよい。これらの金属や合金を含有することにより、原料ガスに含まれる二酸化炭素からより効率よく一酸化炭素を生成できる。
【0018】
第1触媒成形体8は、銅成分を担持する担体をさらに含有してもよい。第1触媒成形体8が酸化亜鉛を含有する場合、通常は酸化亜鉛も担体に担持される。担体は、例えばγ-アルミナ等のアルミナであることが好ましい。第1触媒成形体8における担体の含有量は、銅の含有量、酸化亜鉛の含有量およびアルミナの含有量の合計を基準として、例えば0.5~60質量%であり、好ましくは1~50質量%、より好ましくは1~40質量%である。ここでの銅の含有量は、第1触媒成形体8に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算した量を意味する。
【0019】
銅成分と酸化亜鉛を含有する第1触媒成形体8は、例えば、沈殿物の生成工程と、沈殿物の焼成工程と、焼成体の成形工程とを含む方法によって得ることができる。沈殿物の生成工程では、例えば、銅と亜鉛を含む沈殿物がアルミナ等の担体を含む溶液からの共沈法によって生成される。これにより、銅成分、酸化亜鉛および担体を含有する沈殿物が得られる。沈殿物は、例えば、銅と亜鉛の水酸化物、炭酸塩、またはこれらの複合塩を含む。沈殿物の焼成工程では、沈殿物が例えば150℃~400℃で所定時間焼成される。これにより焼成体が得られる。得られた焼成体は粉体化される。
【0020】
そして、焼成体の成形工程において、焼成体と有機物とが混合されて粒状に成形される。これにより第1触媒成形体8が得られる。有機物は、滑剤として機能する。有機物としては、グラファイト、カーボンブラック等の炭素材料が例示される。
【0021】
第1触媒成形体8の形状は特に制限されず、例えば円柱状、角柱状、球状または不定形であってもよい。第1触媒成形体8の粒径(最大幅)は、例えば1mm以上50mm以下である。第1触媒成形体8に含まれる粉体の粒径(最大幅)は、例えば1μm以上1000μm未満である。焼成体の成形方法は特に制限されず、押出成形や錠剤成形等の公知の成形方法を採用することができる。なお、焼成体は粉体のまま用いられてもよい。
【0022】
第1触媒成形体8上では、以下の式(1)に示す逆シフト反応が主に起こり、原料ガスに含まれる二酸化炭素および水素から一酸化炭素および水が生成される。これにより、一酸化炭素と、未反応の水素とを少なくとも含む合成ガスが得られる。逆シフト反応を進行させる間、第1触媒成形体8は例えば200℃~400℃に加熱されてもよい。
H2+CO2→CO+H2O (1)
【0023】
FT触媒層6は、第2触媒成形体10を含む。例えばFT触媒層6は、複数の第2触媒成形体10が層状に敷き詰められることで形成される。第2触媒成形体10は、主にFT反応に用いられる。第2触媒成形体10は、酸化第二鉄(Fe2O3)を含む鉄系触媒体で構成される。第2触媒成形体10における鉄成分の含有量は、第2触媒成形体10に含まれる鉄成分の量を全て酸化第二鉄の量に換算したときに、第2触媒成形体10全体の質量を基準として、5~100質量%であることが好ましい。
【0024】
また、一例としての第2触媒成形体10は、任意に選択される1種以上のアルカリ金属を含有する。アルカリ金属は、酸化第二鉄を主成分とする担体に担持される。第2触媒成形体10に含有されるアルカリ金属は、好ましくはナトリウム、カリウムおよびセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である。第2触媒成形体10は2種以上のアルカリ金属を含有してもよい。第2触媒成形体10がアルカリ金属を含むことにより、液状炭化水素をより効率的に生成させることができる。
【0025】
第2触媒成形体10におけるアルカリ金属の含有量は、第2触媒成形体10のうちアルカリ金属以外の部分の量を基準として、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましい。第2触媒成形体10がナトリウムを含む場合、第2触媒成形体10におけるナトリウムの含有量は、0.2~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。第2触媒成形体10がカリウムとセシウムを含む場合、第2触媒成形体10におけるカリウムとセシウムの合計の含有量は、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましい。第2触媒成形体10がセシウムを含む場合、第2触媒成形体10におけるセシウムの含有量は、0.2~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。アルカリ金属の含有量が上記範囲内であると、一酸化炭素から炭化水素への転化率がより向上する傾向がある。
【0026】
第2触媒成形体10は、例えば、沈殿物の生成工程と、沈殿物の焼成工程と、アルカリ金属の添加工程と、触媒粉体の成形工程と、成形体の焼成工程とを含む方法によって得ることができる。沈殿物の生成工程では、三価の鉄(Fe3+)を含有する水溶液から、水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)を含む沈殿物が生成される。沈殿物の焼成工程では、沈殿物が例えば120℃~400℃で所定時間焼成される。これにより、水酸化鉄が焼成されて酸化第二鉄が得られる。アルカリ金属の添加工程では、酸化第二鉄にアルカリ金属を含む水溶液が滴下され、その後に当該第二酸化鉄が焼成される。これにより、酸化第二鉄とアルカリ金属とを含む触媒粉体が得られる。
【0027】
触媒粉体の成形工程では、触媒粉体と有機物とが混合され、得られた混合物が粒状に成形されて成形体(後述する第2触媒成形体10の前駆体)が作製される。有機物は、滑剤として機能する。有機物としては、後述する成形体の焼成工程において少なくとも一部が焼失するものであればよく、グラファイト、カーボンブラック等の炭素材料が例示される。成形体の形状は特に制限されず、例えば円柱状、角柱状、球状または不定形であってもよい。触媒粉体の成形方法は特に制限されず、押出成形や錠剤成形等の公知の成形方法を採用することができる。
【0028】
そして、成形体の焼成工程において、成形体が500℃以上700℃以下の温度で、より好ましくは600℃以上700℃以下の温度で焼成される。これにより、成形体中の有機物が焼失して、第2触媒成形体10が得られる。第2触媒成形体10の粒径(最大幅)は、例えば1mm以上50mm以下である。第2触媒成形体10に含まれる粉体の粒径(最大幅)は、例えば0.1μm以上1000μm未満、あるいは0.1μm以上0.5μm以下である。
【0029】
第2触媒成形体10は、比表面積が5~25m2/gである。また、第2触媒成形体10は、平均細孔径が35~60nmである。また、第2触媒成形体10は、細孔容積が0.1mL/g以上である。上述のように成形体を500℃以上700℃以下の温度で焼成することで、有機物が焼失して多数のメソ孔が形成されるとともに、酸化第二鉄の凝集が起こる。これにより上述の比表面積、平均細孔径および細孔容積を達成できる。第2触媒成形体10がこれらの物性値を満たすことで、第2触媒成形体10に対する原料ガスの拡散性が向上する。この結果、液状炭化水素の選択率を高めることができる。つまり、液状炭化水素の製造効率の向上を図ることができる。
【0030】
本実施の形態における比表面積、平均細孔径および細孔容積は、水銀圧入法を用いて算出される。すなわち、第2触媒成形体10を所定温度で所定時間加熱し乾燥させる。乾燥させた第2触媒成形体10について、水銀圧入法により細孔直径約0.0036~200μmの細孔分布を求める。得られた測定結果から、Washburnの式:PD=-4σcosθ(式中、Pは圧力、Dは細孔直径、σは水銀の表面張力、θは水銀と試料との接触角である)を用いて細孔径を算出する。得られた細孔径分布の測定データから、比表面積、平均細孔径および細孔容積を算出する。
【0031】
第2触媒成形体10上では、以下の式(2)または式(3)に示すFT反応が主に起こり、一酸化炭素および水素から炭化水素および水が生成される。本実施の形態では、一例として炭素数1以上40以下の炭化水素が生成される。FT反応を進行させる間、第2触媒成形体10は例えば200℃~400℃に加熱されてもよい。
nCO+(2n+1)H2→CnH2n+2+nH2O (2)
nCO+2nH2→CnH2n+nH2O (3)
【0032】
本実施の形態の炭化水素製造装置1では、二酸化炭素および水素を含む原料ガスが入口2aから反応器2内に導入される。原料ガスが反応器2内に導入されると、まず第1触媒成形体8の存在下で原料ガスの逆シフト反応が進行し、一酸化炭素と、未反応の二酸化炭素および水素とを少なくとも含む合成ガスが得られる。続いて、第2触媒成形体10の存在下で合成ガスのFT反応が進行し、炭化水素が生成されて出口2bから排出される。この態様によれば、逆シフト反応で生じた一酸化炭素を反応器2から取り出すことなく、そのままFT反応に供することができる。したがって、原料ガスから炭化水素を簡易に生成できる。
【0033】
生成される炭化水素には、メタン、エタン、プロパン、ブタンといった炭素数1~4のガス状の炭化水素(CH4、C2-C4)と、炭素数5以上であり常圧で液状の炭化水素(C5+)とが含まれる。液状炭化水素としては、炭素数5以上の直鎖アルカン等が例示される。出口2bから排出された炭化水素は、炭化水素製造装置1の後段でガス成分と油分とに気液分離され、必要に応じて分留されて、所望の成分として抽出される。
【0034】
なお、第2触媒成形体10は、逆シフト反応の触媒としても機能する。したがって、第2触媒成形体10のみでも、式(1)に示す逆シフト反応と、式(2)または式(3)に示すFT反応とを進行させて、原料ガスに含まれる二酸化炭素および水素から炭素数5以上の炭化水素を製造することができる。したがって、第1触媒成形体8は省略することも可能である。ただし、第1触媒成形体8と第2触媒成形体10とを組み合わせた場合は、液状炭化水素の製造効率をより高めることができる。
【0035】
原料ガスには一酸化炭素が含有されていてもよい。つまり、反応器2に第1触媒成形体8および第2触媒成形体10が収容される場合、本実施の形態に係る炭化水素の製造方法は、第2触媒成形体10を用いて、原料ガスあるいは合成ガスに含まれる一酸化炭素および水素からFT反応により液状炭化水素を製造することを含む。一方、反応器2に第2触媒成形体10のみが収容される場合、本実施の形態に係る炭化水素の製造方法は、第2触媒成形体10を用いて、原料ガスに含まれる二酸化炭素および水素から逆シフト反応およびFT反応により液状炭化水素を製造することと、原料ガスに含まれる一酸化炭素および水素からFT反応により液状炭化水素を製造することとの少なくとも一方を含む。
【0036】
原料としての二酸化炭素および水素の供給元は、特に制限されない。二酸化炭素は、一例として大気中から直接空気回収(DAC)等によって二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置から供給される。二酸化炭素回収装置は、火力発電や化学プラント等から排出された排ガス中から化学吸着法等によって二酸化炭素を分離回収してもよい。これにより、大気中や排ガス中の二酸化炭素の削減が期待できる。
【0037】
水素は、一例として水電解モジュールから供給される。水電解モジュールは、水の電気分解によって水素および酸素を生成する。水電解モジュールは、電力供給装置から水電解に必要な電力の供給を受ける。電力供給装置としては、再生可能エネルギーを利用して発電する発電装置、例えば風力発電装置や太陽光発電装置等が例示される。これにより、水素の生成、ひいては目的物である炭化水素の製造に伴う二酸化炭素の排出量を低減できる。なお、電力供給装置は、再生可能エネルギーを利用する発電装置に限定されず、系統電源であってもよいし、再生可能エネルギー発電装置や系統電源からの電力を蓄えた蓄電装置等であってもよい。また、これらの2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0038】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[第1項目]
酸化第二鉄を含む触媒粉体が成形された触媒成形体(10)であって、
比表面積が5~25m2/gであり、平均細孔径が35~60nmであり、細孔容積が0.1mL/g以上である、
触媒成形体(10)。
[第2項目]
酸化第二鉄を含む触媒粉体と有機物との混合物を成形して成形体を作製し、
成形体を500℃以上700℃以下の温度で焼成して有機物を焼失させることを含む、
触媒成形体(10)の製造方法。
[第3項目]
成形体の焼成温度が600℃以上700℃以下である、
第2項目に記載の製造方法。
[第4項目]
二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスを導入する入口(2a)、および原料ガスから生成される炭化水素を排出する出口(2b)を有する反応器(2)と、
反応器(2)内に配置されて前記原料ガスから炭素数5以上の炭化水素を生成する第1項目に記載の触媒成形体(10)と、を備える、
炭化水素製造装置(1)。
[第5項目]
第1項目に記載の触媒成形体(10)を用いて、原料ガスに含まれる二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とから炭素数5以上の炭化水素を製造することを含む、
炭化水素の製造方法。
【実施例0039】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0040】
(実施例1)
[第1触媒成形体の調製]
γ-アルミナ(住友化学工業社製、BK-105)5.0gをホモミキサーで撹拌して純水1.0L中に懸濁させた。得られた懸濁液に、硝酸銅水和物(ナカライ試薬社製)31.7gと硝酸亜鉛水和物(ナカライ試薬社製)38.1gとを含む水溶液300mLを室温で素早く加えた。そして、室温で懸濁液をさらに1時間撹拌した。その後、ホモミキサーによる撹拌を続けながら、炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)35.0gを含む水溶液300mLを懸濁液に滴下した。当該滴下は、ローラーポンプを用いて室温にて5mL/分の滴下速度で実施した。滴下により生成した沈殿物を含む懸濁液を35℃で24時間放置することにより熟成させた。熟成後の懸濁液から、デキャント操作により上澄みを除去し、残った沈殿物を再び水で希釈した。このデキャントと希釈の操作を4回繰り返した。
【0041】
その後、吸引ろ過によって沈殿物を取り出した。そして、この沈殿物を再び純水中に懸濁させてから吸引ろ過により沈殿物を取り出す操作を4回繰り返した。この操作により沈殿物を十分に水洗した。得られた沈殿物を120℃で24時間の加熱により乾燥させた。乾燥後の沈殿物を空気流通下で、150℃で1時間、200℃で1時間、250℃で1時間、300℃で1時間、350℃で1時間、400℃で4時間の順で加熱することにより焼成した。焼成により、銅成分と酸化亜鉛を含有する銅系触媒体の粉体を得た。この粉体を乳鉢で微粉化した。銅系触媒体20gとグラファイト0.4gとを混合して混合物を作製した。得られた混合物を打錠成形機(理研精機社製)を用いて40MPaの圧力で成形した。これにより、直径3mm、高さ3mmの円柱状の第1触媒成形体を得た。
【0042】
[第2触媒成形体の調製]
硝酸鉄・九水和物(富士フィルム和光純薬製)146.9gを純水120mLに70℃で撹拌しながら溶解させ、鉄イオンの濃度が3mol/Lの溶液を調製した。得られた溶液に、水酸化ナトリウム47.9gを純水70mLに融解させた水酸化ナトリウム溶液(16.6mol/L)を溶液のpHが11~12になるように滴下した。これにより、水酸化鉄(III)の沈殿物を含有する溶液を作製した。この溶液に含まれる沈殿物を真空ポンプを用いてろ過した。得られたろ過物をアルカリ金属が所定量以下となるように繰り返し洗浄した。当該洗浄を実施した理由は、アルカリ金属が不定量残留していると、後のアルカリ金属の添加工程において、酸化第二鉄に担持させるアルカリ金属の添加量を調整することが難しくなるためである。
【0043】
その後、得られた沈殿物を120℃で12~20時間加熱して乾燥させた。乾燥後の沈殿物を、空気流通下で5℃/分の昇温速度で雰囲気温度を上げながら、最終的に400℃で5時間加熱することにより焼成した。この結果、28.7gの酸化第二鉄を得た。得られた酸化第二鉄20gに水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、120℃で12~20時間乾燥した。続いて、空気流通下で5℃/分の昇温速度で雰囲気温度を上げながら、最終的に400℃で5時間加熱することにより焼成した。これにより、酸化第二鉄を主成分とする担体と、担体に担持されたアルカリ金属とを含有する鉄系触媒体の粉体を得た。
【0044】
鉄系触媒体20gとグラファイト0.4gとを混合して混合物を作製した。得られた混合物を打錠成形機(理研精機社製)を用いて40MPaの圧力で成形した。これにより、直径3mm、高さ3mmの円柱状の成形体を得た。得られた成形体を500℃で5時間加熱することにより焼成し、第2触媒成形体を得た。
【0045】
[物性測定]
得られた第2触媒成形体の比表面積、平均細孔径、細孔容積、気孔率および嵩密度を水銀圧入法により算出した。まず、前処理として第2触媒成形体を120℃で4時間加熱し、恒温乾燥させた。続いて、水銀圧入法により細孔直径約0.0036~200μmの細孔分布を求めた。得られた測定結果から、Washburnの式を用いて細孔径を算出した。測定条件は、水銀の表面張力を480dynes/cmとし、水銀と試料との接触角を140度とした。また、測定装置としてオートポアV9620(マイクロメリティクス社製)を使用した。結果を
図2に示す。また、得られた細孔径分布の測定データから、比表面積、平均細孔径、細孔容積、気孔率および嵩密度を算出した。結果を
図3に示す。また、第2触媒成形体のXRD測定で得られるXRDパターンから酸化第二鉄の結晶子径を算出した。結果を
図4に示す。
【0046】
[反応試験]
内径1.27cmの固定床式反応管に、第1触媒成形体0.5g、第2触媒成形体3.5gを充填し、反応管の入口側から第1触媒成形体、第2触媒成形体の順で配置した。続いて、大気圧下、1容量%の水素と窒素からなる流通ガスを反応管内に200Ncc/分の流量で流通させながら、触媒の温度を室温から1時間かけて150℃まで昇温した。150℃に保ったまま、流通ガスに含まれる水素の濃度を2容量%、10容量%、20容量%、50容量%、および100容量%の順に変更した。水素濃度100容量%の流通ガス(水素ガス)に変更してから、流通の状態を2時間保持した。その後、水素ガスの流通を継続しながら、触媒の温度を200℃/時間の速度で350℃まで昇温し、350℃で5時間保持することにより、触媒を還元処理した。
【0047】
還元処理後、水素ガスを200Ncc/分の流量で流通させながら、触媒を320℃に降温した。降温後、流通ガスの圧力を0.8MPaに昇圧した。昇圧後、二酸化炭素を67Ncc/分の流量で追加し、水素と二酸化炭素からなる原料ガスを6時間、反応管に流通させた。ガスの空間速度GHSVは4000mL・h-1・gcat
-1であり、原料ガスのH2/CO2モル比は3である。6時間の間に反応管から流出した液状物を捕集した。また、反応管から流出したガスを試験終了直前の5分間捕集した。液状物の上澄みの油分をガスクロマトグラフ/水素炎イオン化型検出器(GC-FID)によって分析した。ガスはガスクロマトグラフ/熱伝導度検出器(GC-TCD)および水素炎イオン化型検出器(GC-FID)によって分析した。
【0048】
分析結果から、各生成物の収率、二酸化炭素の転化率(CO2転化率)、一酸化炭素の転化率(CO転化率)、各生成物の選択率、一酸化炭素からの各生成物の選択率(COからの生成物選択率)、および炭素数5以上の液状炭化水素の選択率(C5+選択率)を算出した。
【0049】
生成物収率は、供給した二酸化炭素の量に対する各生成物の量の炭素基準の割合である。収率を算出した生成物は、一酸化炭素(CO)、メタン(CH
4)、炭素数2~4の生成物(C2-C4)、炭素数5~9の生成物(C5-C9)、炭素数10以上の生成物(C10+)、および含酸素化合物(メタノール、エタノール、カルボン酸等)とした。CO
2転化率は、供給したCO
2に対する反応したCO
2の割合であり、各生成物の合計収率である。CO転化率は、生成したCOが炭化水素に転化した割合であり、各生成物の合計収率に対するCOを除く各生成物の合計収率の割合に相当する。生成物選択率は、転化したCO
2に対する各生成物の割合である。COからの生成物選択率は、転化したCOに対する各生成物の割合である。C5+選択率は、転化したCOに対するC5-C9およびC10+の割合(C5-C9のCOからの生成物選択率とC10+のCOからの生成物選択率との合計)である。結果を
図5に示す。
【0050】
(実施例2)
成形体の焼成温度を600℃としたことを除いて、実施例1と同様に物性測定および反応試験を実施した。各結果を
図2~
図5に示す。
【0051】
(実施例3)
成形体の焼成温度を700℃としたことを除いて、実施例1と同様に物性測定および反応試験を実施した。各結果を
図2~
図5に示す。
【0052】
(比較例1)
成形体を焼成しなかったことを除いて、実施例1と同様に物性測定および反応試験を実施した。各結果を
図2~
図5に示す。
【0053】
(比較例2)
成形体の焼成温度を400℃としたことを除いて、実施例1と同様に物性測定を実施した。結果を
図2および
図3に示す。なお、XRD測定と反応試験の実施は省略した。
【0054】
(比較例3)
成形体の焼成温度を800℃としたことを除いて、実施例1と同様に物性測定および反応試験を実施した。各結果を
図2~
図5に示す。
【0055】
(比較例4)
鉄系触媒体の粉末をそのまま用いたことを除いて、実施例1と同様に反応試験を実施した。結果を
図5に示す。
【0056】
(比較例5)
鉄系触媒体の粉末を600℃で焼成して用いたことを除いて、実施例1と同様に反応試験を実施した。結果を
図5に示す。
【0057】
図2は、各実施例および各比較例における細孔径分布を示す図である。
図3は、各実施例および各比較例における物性値を示す図である。
図4は、各実施例および各比較例におけるXRDパターンを示す図である。
図2に示すように、細孔径は、成形体の焼成温度が600℃までは増大することが確認された。また、
図3に示すように、比表面積は、成形体の焼成温度が上昇するにつれて減少することが確認された。また、平均細孔径は、成形体の焼成温度が上昇するにつれて増大することが確認された。また、実施例1~3の比表面積は5~25m
2/gの範囲に含まれ、比較例1~3の比表面積は当該範囲から外れることが確認された。また、実施例1~3の平均細孔径は35~60nmの範囲に含まれ、比較例1~3の平均細孔径は当該範囲から外れることが確認された。
【0058】
また、細孔容積および気孔率は、成形体の焼成温度が600℃まではほぼ変化せず、700℃以上で大幅に減少することが確認された。また、実施例1~3および比較例1,2の細孔容積は0.1mL/g以上であり、比較例3の細孔容積は当該範囲から外れることが確認された。また、酸化第二鉄の結晶子径は、成形体の焼成温度が上昇するにつれて増加することが確認された。また、
図4に示すように、成形体の焼成温度が600℃以上で第2触媒成形体中のグラファイトがほぼ完全に焼失することが確認された。
【0059】
図5は、各実施例および各比較例における反応試験の結果を示す図である。
図5に示すように、実施例1~3では、比較例1~4よりも高いC5+選択率が得られた。以上より、比表面積が5~25m
2/gであり、平均細孔径が35~60nmであり、細孔容積が0.1mL/g以上である第2触媒成形体によれば、液状炭化水素の製造効率が向上することが確認された。
【0060】
また、成形体の焼成温度を500℃以上700℃以下とすることで、上述の物性値を満たす第2触媒成形体をより確実に製造できることが確認された。成形体の焼成温度を上げていくと、成形体中の有機物がより多く焼失して細孔が増え、細孔容積も増大する。一方で、酸化第二鉄の凝集により比表面積が減少し、また平均細孔径が増大する。成形体を500℃以上700℃以下で焼成することで、これらの現象のバランスが図られ、上述の物性値を達成できると考えられる。
【0061】
また、成形体の焼成温度を600℃以上700℃以下とすることで、グラファイトをほぼ完全に焼失させることができ、より高いC5+選択率が得られることが確認された。なお、比較例2における成形体の焼成温度は、鉄系触媒体を生成する際の焼成温度と同じ400℃である。このため、比較例2について反応試験を実施した場合は、比較例1と同様の結果が得られると推測される。
1 炭化水素製造装置、 2 反応器、 2a 入口、 2b 出口、 4 逆シフト触媒層、 6 FT触媒層、 8 第1触媒成形体、 10 第2触媒成形体。