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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131636
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】防振軌道の施工方法及び防振軌道
(51)【国際特許分類】
   E01B 37/00 20060101AFI20240920BHJP
   E01B 1/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E01B37/00 C
E01B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042026
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】渕上 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴蔵
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 尚嗣
【テーマコード(参考)】
2D056
2D057
【Fターム(参考)】
2D056AA02
2D056AA05
2D057CA03
(57)【要約】
【課題】設計上必要なスラブ版の最小厚さを確保しつつ、軌道の全高を低くすることができる防振軌道の施工方法及び防振軌道を提供する。
【解決手段】防振軌道2のスラブ版5と剛性路盤1との間の防振材7によって、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法であって、スラブ版5の底部5cに埋設された埋設型枠6の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7を挿入する防振材挿入工程#900を含む。防振材挿入工程#900は、埋設型枠6の厚さをスラブ版5のかぶりとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7を挿入する工程を含む。防振軌道2の施工方法は、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間に不陸整正部8を挿入し、不陸整正部8の厚さを変化させることによって剛性路盤1の不陸を整正する不陸整正工程#1000を含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振軌道のスラブ版と剛性路盤との間の防振材によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法であって、
前記スラブ版の底部に埋設された埋設型枠の凹部と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入する防振材挿入工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、
前記防振材挿入工程は、前記埋設型枠の厚さを前記スラブ版のかぶりとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠の凹部と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入する工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項3】
請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、
前記剛性路盤上に前記埋設型枠を配置する埋設型枠配置工程と、
前記スラブ版の底部に前記埋設型枠が埋設されるように、前記剛性路盤と軌きょうとの間にこのスラブ版を構築するスラブ版構築工程と、
前記埋設型枠の凹部と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入するために、この剛性路盤から前記スラブ版を扛上するスラブ版扛上工程とを含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項4】
請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、
前記防振材の下部と前記剛性路盤との間の不陸整正部の厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項5】
請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、
前記不陸整正工程は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間の袋体の内部に、この袋体の内部で硬化する注入材を注入する工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項6】
防振軌道のスラブ版と剛性路盤との間の防振材によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道であって、
前記防振材の上部を収容する凹部を有し、前記スラブ版の底部に埋設される埋設型枠を備えること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項7】
請求項6に記載の防振軌道において、
前記埋設型枠は、この埋設型枠の厚さを前記スラブ版のかぶりとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠であること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項8】
請求項6に記載の防振軌道において、
前記埋設型枠は、場所打ちコンクリート製の前記スラブ版の底部に、前記防振材の設置位置と対応する位置に埋設されていること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項9】
請求項6に記載の防振軌道において、
前記防振材の下部と前記剛性路盤との間で厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正部を備えること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項10】
請求項9に記載の防振軌道において、
前記不陸整正部は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間に挿入される袋体を備えており、この袋体の内部に注入材が注入されてこの袋体の内部でこの注入材が硬化すること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項11】
請求項6に記載の防振軌道において、
前記埋設型枠は、この埋設型枠の凹部の所定の位置に前記防振材の上部を位置決めすることによって、この防振材の姿勢を維持すること、
を特徴とする防振軌道。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防振軌道のスラブ版と剛性路盤との間の防振材によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法及び防振軌道に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅や学校、ホテル、駅部の店舗などの静穏な環境が求められる箇所に近接するトンネル区間では、列車走行時の振動を積極的に低減することを目的として、フローティングスラブ軌道と呼ばれる防振軌道が採用される事例がある。フローティングスラブ軌道には、コイルばねやゴム製の防振材が用いられ、国内では主にコイルばね防振装置を用いた「コイルばね防振軌道」の採用事例が多い。
【0003】
従来の軌道構造(以下、従来技術1という)は、プレキャスト製のフローティングスラブを剛性路盤上に水平に支持する支持脚と、フローティングスラブの下面と剛性路盤の上面との間で振動を低減する弾性材と、弾性材と剛性路盤との間の隙間を埋める詰め物などを備えている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1は、支持脚の高さを調整してフローティングスラブを水平にした状態で、フローティングスラブと剛性路盤との間に弾性材を設置し、弾性材と剛性路盤との間の隙間にレジンコンクリートなどの詰め物を施工した後に、支持脚を剛性路盤から遠ざけてフローティングスラブを正確に設置している。
【0004】
従来の軌道用フローティングスラブの型枠構造(以下、従来技術2という)は、プレキャスト製のフローティングスラブの型枠の底壁から突出して路盤に対するこの型枠の高さを調整する支持脚と、この型枠とこの路盤との間の隙間に挟み込まれる防振ゴムと、この防振ゴムとこの路盤との間に施された詰め物などを備えている(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2は、支持脚の高さを調整して型枠のレベルを調整し、防振ゴムと路盤との間にレジンコンクリートなどの詰め物を施した後に、鉄筋を配した型枠にコンクリートを打設している。
【0005】
従来の軌道構造におけるレベル調整工法(以下、従来技術3という)は、プレキャスト製のフローティングスラブを所定の高さで水平になるように調整する支持脚と、このフローティングスラブと剛性路盤との間に設置される弾性体と、この弾性体とこの剛性路盤との間に空間を形成するパッキンなどを備えている(例えば、特許文献3という)。この従来技術3は、フローティングスラブの上面に形成された注入孔から、パッキンによって囲まれた空間にレジンモルタルなどの充填材を注入して、弾性体と剛性路盤との間の空間に充填された充填材が硬化した後に、剛性路盤から支持脚を遠ざけている。
【0006】
従来のフローティングスラブの防振装置(以下、従来技術4という)は、圧縮コイルばねの弾性体から構成される防振ユニット及び減衰装置によって、基礎構造物上にフローティングスラブを支持している(例えば、特許文献4参照)。この従来技術4は、フローティングスラブの平坦な底面を防振ユニットの上部によって支持しており、フローティングスラブ上を列車が横行するときに発生する振動を圧縮コイルばねによって吸収及び減衰させている。
【0007】
従来のバラスト防振軌道(以下、従来技術5という)は、プレキャストコンクリート製スラブをコンクリートスラブ上にコイルばね支承によって支持している(例えば、特許文献5参照)。この従来技術5は、製造工場で予め製作されたコンクリートスラブを現場に搬入し、このコンクリートスラブの底面両縁部にこのコンクリートスラブの長さ方向に連続して形成された切欠部をコイルばね支承によって支持している。また、この従来技術5は、コンクリートスラブ上にレベル調整された台座部を構築し、この台座部上にコイルばね支承を設置している。
【0008】
従来の内装式振動絶縁装置(以下、従来技術6という)は、フローティングスラブを地盤上に弾性振動絶縁器によって支持している。この従来技術6は、フローティングスラブの貫通孔内に取り付けられて弾性振動絶縁器を圧縮することによって、フローティングスラブを地盤の表面から持ち上げている。この従来技術6は、地盤と弾性振動絶縁器との間にすべり止め板を挟み込んだり、弾性振動絶縁器によってフローティングスラブを支持結合するときの作業のために、地盤上のコンクリート製土台によってフローティングスラブを支持したりしている。
【0009】
ブレンナー峠地下トンネル北側アクセスルート(以下、従来技術7という)では、プレキャストコンクリート型枠がトンネル内の剛性路盤上に水平に設置されるように台座を設けている(例えば、非特許文献1参照)。この従来技術7では、剛性路盤上に構築した台座上に防振材を介してプレキャストコンクリート型枠を設置した後に、このプレキャストコンクリート型枠に鉄筋を組みコンクリートを打設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07-138901号公報
【0011】
【特許文献2】特開平08-027702号公報
【0012】
【特許文献3】特開平08-003901号公報
【0013】
【特許文献4】特開平09-100501号公報
【0014】
【特許文献5】特開2008-303567号公報
【0015】
【特許文献6】特表2012-515882号公報
【0016】
【非特許文献1】getzner engineering a quit future、“ケーススタディ ブレンナー峠地下トンネル北側アクセスルート”、[online]、2018年9月、[令和5年1月26日検索]、インターネット<URL:https://www.getzner.com/ja/case-studies/northern-approach-route-to-the-brenner-base-tunnel>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
フローティングスラブ軌道に用いられるスラブ版については、工場製品であるプレキャスト製のものを用いる場合と、現場で鉄筋コンクリートを製作する場合がある。フローティングスラブ軌道の適用にあたっては、広い周波数帯において振動低減効果を得るため、軌道の固有振動数を10Hz以下とする事例が多い。このとき、一般的なスラブ軌道のスラブ版に比べて、フローティングスラブ軌道のスラブ版では単位長さあたりの重量が重くなる傾向にあるため(例えば2トン/m以上)、それらをそのまま現地へ搬入することは困難となる。そこで、従来技術1などに示すように、鉄筋を有するプレキャスト製の埋設型枠を現地へ搬入して防振材の上に設置し、その後、型枠内にスラブ版の鉄筋を組んでからコンクリートを打設するハーフプレキャスト工法による施工法がある。
【0018】
フローティングスラブ軌道の防振材をトンネルのインバートなどの剛性路盤上に設置する場合、剛性路盤上の不陸を整正するために一律にモルタルを用いた充填層を設けたり、従来技術1などのように各防振材の下に不陸調整層や台座を設けたりする場合がある。このため、従来技術1などに示すハーフプレキャスト工法や防振材の設置方法によりフローティングスラブ軌道を敷設する場合、軌道の全高が高くなり、トンネルの断面形状が大きくなるなど、トンネル躯体に影響を及ぼすと考えられる。
【0019】
この発明の課題は、設計上必要なスラブ版の最小厚さを確保しつつ、軌道の全高を低くすることができる防振軌道の施工方法及び防振軌道を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2図4及び図7図9に示すように、防振軌道(2)のスラブ版(5)と剛性路盤(1)との間の防振材(7)によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法であって、前記スラブ版の底部(5c)に埋設された埋設型枠(6)の凹部(6a)と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入する防振材挿入工程(#900)を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法(#100)である。
【0021】
請求項2の発明は、請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、図5(A)に示すように、前記防振材挿入工程は、前記埋設型枠の厚さ(T)を前記スラブ版のかぶり(C)として考慮できるコンクリート製の埋設型枠(6)の凹部と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入する工程を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法である。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、図7及び図8に示すように、前記剛性路盤上に前記埋設型枠を配置する埋設型枠配置工程(#300)と、前記スラブ版の底部に前記埋設型枠が埋設されるように、前記剛性路盤と軌きょう(13)との間にこのスラブ版を構築するスラブ版構築工程(#600)と、前記埋設型枠の凹部と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入するために、この剛性路盤から前記スラブ版を扛上するスラブ版扛上工程(#800)とを含むことを特徴とする防振軌道の施工方法である。
【0023】
請求項4の発明は、請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、図7及び図8に示すように、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間の不陸整正部(8)の厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正工程(#1000)を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法である。
【0024】
請求項5の発明は、請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、図4及び図6に示すように、前記不陸整正工程は、前記防振材の下部(7b)と前記剛性路盤との間の袋体(9)の内部に、この袋体の内部で硬化する注入材(A)を注入する工程を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法である。
【0025】
請求項6の発明は、図2図4及び図9に示すように、防振軌道のスラブ版(5)と剛性路盤(1)との間の防振材(7)によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道であって、前記防振材の上部(7a)を収容する凹部(6a)を有し、前記スラブ版の底部(5c)に埋設される埋設型枠(6)を備えることを特徴とする防振軌道(2)である。
【0026】
請求項7の発明は、請求項6に記載の防振軌道において、図5(A)に示すように、前記埋設型枠は、この埋設型枠の厚さ(T)を前記スラブ版のかぶり(C)として考慮できるコンクリート製の埋設型枠(6)であることを特徴とする防振軌道である。
【0027】
請求項8の発明は、請求項6に記載の防振軌道において、図3及び図9に示すように、前記埋設型枠は、場所打ちコンクリート製の前記スラブ版の底部に、前記防振材の設置位置と対応する位置に埋設されていることを特徴とする防振軌道である。
【0028】
請求項9の発明は、請求項6に記載の防振軌道において、前記防振材の下部(7b)と前記剛性路盤との間で厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正部(8)を備えることを特徴とする防振軌道である。
【0029】
請求項10の発明は、請求項9に記載の防振軌道において、図4及び図6に示すように、前記不陸整正部は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間に挿入される袋体(9)を備えており、この袋体の内部に注入材(A)が注入されてこの袋体の内部でこの注入材が硬化することを特徴とする防振軌道である。
【0030】
請求項11の発明は、請求項6に記載の防振軌道において、図2図4及び図9に示すように、前記埋設型枠は、この埋設型枠の凹部の所定の位置に前記防振材の上部を位置決めすることによって、この防振材の姿勢を維持することを特徴とする防振軌道である。
【発明の効果】
【0031】
この発明によると、設計上必要なスラブ版の最小厚さを確保しつつ、軌道の全高を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の平面図である。
図2図1のII-II線で切断した状態を示す断面図である。
図3図1のIII-III線で切断した状態を示す断面図である。
図4図2のIV部分を拡大して示す断面図である。
図5】この発明の第1実施形態に係る防振軌道のスラブ版の埋設型枠の作用を説明するための模式図であり、(A)は第1実施形態のコンクリート製の埋設型枠を使用した場合の模式図であり、(B)は通常のモルタル製の埋設型枠を使用した場合の模式図である。
図6】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の不陸整正部の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のVI-VIA線で切断した状態を示す断面図である。
図7】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法の工程図である。
図8】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法の手順を説明するための模式図であり、(A)は縁切り材敷設工程の模式図であり、(B)は埋設型枠設置工程の模式図であり、(C)は軌きょう構築工程の模式図であり、(D)は型枠設置工程の模式図であり、(E)はスラブ版構築工程の模式図であり、(F)は取り外し工程の模式図であり、(G)はスラブ版扛上工程の模式図であり、(H)は防振材挿入工程の模式図であり、(I)は不陸整正工程の模式図であり、(J)はレール設置工程の模式図である。
図9】この発明の第2実施形態に係る防振軌道の縦断面図である。
図10図9のX部分を拡大して示す縦断面図である。
図11】この発明の第3実施形態に係る防振軌道の埋設型枠の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1図4に示す剛性路盤1は、防振軌道2を支持する路盤である。剛性路盤1は、防振軌道2上を列車が通過するときの荷重を支持する構造物である。剛性路盤1は、コンクリート版又は鉄筋コンクリート版によって構成されたコンクリート路盤であり、スラブ版5を介して列車荷重による繰返し作用を受ける。剛性路盤1は、例えば、トンネル内で使用されるインバートなどである。
【0034】
図1図4に示す防振軌道2は、スラブ版5と剛性路盤1との間の防振材7によって、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する軌道である。防振軌道2は、図2図4に示すように、レール3と剛性路盤1との間に設置されており、スラブ版5と剛性路盤1との間に隙間が形成されるように、防振材7を用いて剛性路盤1上にスラブ版5を支持する。防振軌道2は、例えば、列車の走行に伴って発生する振動及び騒音の低減を目的として、コンクリート路盤を介して軌道を防振材料で部分的に支持する防振対策法の一つとして地下鉄道などで使用されるフローティング軌道である。図1図4に示す防振軌道2は、スラブ版5の支持支承にゴム又は合成樹脂などの弾性材を使用したフローティングスラブ軌道である。防振軌道2は、例えば、固有振動数の1.4倍以上の周波数領域における振動を低減する。防振軌道2は、図1図3に示すレール3と、まくらぎ4と、図1図4に示すスラブ版5と、図2図4に示す埋設型枠6と、防振材7と、図2図4及び図6に示す不陸整正部8などを備えている。
【0035】
図1図3に示すレール3は、鉄道車両の車輪を支持し案内して鉄道車両を走行させる部材である。レール3は、このレール3の底部がレール締結装置によってまくらぎ4に締結され取り付けられている。まくらぎ4は、レール3を支持する支持体(支承体)である。まくらぎ4は、図1に示すように、左右のレール3を固定して軌間を正確に保持しており、レール3から伝達される列車荷重をスラブ版5に分散させるために、図2及び図3に示すようにレール3とスラブ版5との間に設置されている。図1図3に示すまくらぎ4は、レール3に対して直角に並べて敷設される横まくらぎである。まくらぎ4は、コンクリート製のPC(プレストレストコンクリート(Prestressed concrete))まくらぎ、又はまくらぎ底面にゴム製などの弾性材を貼付した弾性まくらぎなどである。まくらぎ4は、図1及び図3に示すように、レール3の長さ方向に所定の間隔をあけて配置されており、レール3を離散的に支持している。
【0036】
図1図4に示すスラブ版5は、まくらぎ4を支持する支持体(支承体)である。図1図4に示すスラブ版5は、現場で型枠を組み、この型枠内に必要な鉄筋を組み込み、型枠内にコンクリートを打設して固めた場所打ちコンクリート製(現場打ちコンクリート製)のスラブ版である。スラブ版5は、道床バラストとまくらぎとを用いた一般的な有道床軌道の保守作業を低減するために、レール締結装置を介してレール3を直接支持、又はまくらぎ4を介してレール3を支持する鉄筋コンクリート製の部材である。スラブ版5は、図5(A)に示すように、砂、砂利、砕石などの骨材、水硬性セメント及び水を適当な割合で配合しこれらを練り混ぜて一体硬化させたコンクリート5Aと、コンクリート5A内に埋め込まれてコンクリート5Aを補強する格子状に組まれた鉄筋5Bとによって一体化された鉄筋コンクリート構造である。スラブ版5は、図1図3に示すように、このスラブ版5の上面を構成する上部5aと、図1図2及び図4に示すようにこのスラブ版5の両側面を構成する側部5bと、図2図4に示すようにこのスラブ版5の底面を構成する底部5cなどを備えている。スラブ版5は、図2及び図3に示すように、このスラブ版5の上部5aにまくらぎ4の底部が埋め込まれている。スラブ版5は、図2図4及び図5(A)に示すように、埋設型枠6を備えている。
【0037】
図2図4及び図5(A)に示す埋設型枠6は、スラブ版5の底部5cに埋設される型枠である。埋設型枠6は、コンクリート打設後も取り外すことなくスラブ版5の一部として使用される。埋設型枠6は、コンクリート打設前に工場で所定の形状に加工し、現場に搬入されてスラブ版構築時にスラブ版5に埋め込まれる。埋設型枠6は、現場で最小限の人力で設置可能であり、経済性に優れ、軽量であるため設置作業や運搬作業が容易である。埋設型枠6は、図5(A)に示すように、この埋設型枠6の厚さTをスラブ版5のかぶりCとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠である。ここで、かぶりCとは、図5(A)に示すスラブ版5の鉄筋5Bの表面から底部5cの表面までのコンクリート5Aの最小厚さである。埋設型枠6は、例えば、厚さTが20~30mm程度である。
【0038】
図5は、現場でコンクリートを打設してスラブ版を製作するときに、第1実施形態のコンクリート製の埋設型枠6を使用した場合と、通常のモルタル製の埋設型枠106を使用した場合とを比較して示す模式図である。図5(A)に示す埋設型枠6は、第1実施形態のコンクリート製であり、図5(B)に示す埋設型枠106は通常のモルタル製である。図5(A)に示す埋設型枠6は、土木学会「コンクリート標準示方書」で規定されている品質の確認された保護層とみなされるため、この埋設型枠6の厚さT(例えば30mm)がかぶりCとして考慮されるため、スラブ版5の厚さが薄くなる。一方、図5(B)に示す埋設型枠106は、この埋設型枠106の厚さT(例えば30mm)がかぶりCとして考慮されず、この埋設型枠106と鉄筋105Bとの間にコンクリート105AのかぶりCを設ける必要があり、図5(A)に示すスラブ版5に比べてスラブ版105の厚さが厚くなる。
【0039】
図2図4及び図5(A)に示す埋設型枠6は、例えば、土木学会「2017 コンクリート標準示方書(設計編)」に記載されているポリマーセメントモルタル製、ポリマー含侵コンクリート製又は繊維補強コンクリート製などである。埋設型枠6は、例えば、セメントを含有する標準配合粉体又はプレミックス結合材、水、高性能減水剤、鋼繊維又は有機繊維の専用繊維材などが配合された超高強度繊維補強コンクリート(Ultra-High Strength Fiber Reinforced Concrete(UFC))製が強度、耐久性及び靭性などに優れ特に好ましい。埋設型枠6は、図5(A)に示すように、超高強度繊維補強コンクリートなどの材料を使用することによって、この埋設型枠6の厚さTがかぶりCとして考慮される。
【0040】
埋設型枠6は、図3に示すように、スラブ版5の底部5cの長さ方向に沿って連続して埋設されている。埋設型枠6は、場所打ちコンクリート製のスラブ版5の底部5cに、防振材7の設置位置と対応する位置に埋設されている。埋設型枠6は、図4に示すように、この埋設型枠6の凹部6aの所定の位置に防振材7の上部7aを位置決めすることによって、防振材7の姿勢を維持する。埋設型枠6は、平面形状が四角形の長板状部材であり、図2に示すようにこの埋設型枠6の中心線とスラブ版5の側部5bとの間の距離が所定値(例えば、50cm程度)になるようにスラブ版5に埋設される。埋設型枠6は、図2図5(A)に示す凹部6aと、図2図4及び図5(A)に示す傾斜部6bと、図2図5(A)に示す突出部6cなどを備えている。
【0041】
図2図5(A)に示す凹部6aは、防振材7の上部7aを収容する部分である。凹部6aは、埋設型枠6の底部を構成し、防振材7の上部7aが接合するように、この凹部6aの底面が平坦に形成されており、防振材7の上部7aよりも僅かに幅が広く形成されている。凹部6aは、剛性路盤1と対向する側が開口した溝であり、スラブ版5の長さ方向に沿って直線状に形成されている。凹部6aは、防振材7の上部7aと接触した状態で防振材7に支持される。
【0042】
図2図4及び図5(A)に示す傾斜部6bは、凹部6aの底面に向かって上方に傾斜する部分である。傾斜部6bは、突出部6cの表面から凹部6aの底面に傾斜する平坦面である。傾斜部6bは、凹部6aの中心と防振材7の上部7aの中心とが僅かにずれた状態で、凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7が挿入されたときに、凹部6aの中心と防振材7の中心とが一致するように、防振材7の上部7aをガイドする。
【0043】
図2図5(A)に示す突出部6cは、凹部6aから突出する部分である。突出部6cは、図2図4及び図5(A)に示すように、埋設型枠6の両縁部を構成し、スラブ版5の底部5cの表面と同じ高さになるように、この突出部6cの表面が平坦に形成されている。突出部6cは、剛性路盤1上でスラブ版5を構築するときに、この突出部6cの表面が剛性路盤1上に設置された状態でコンクリートが打設される。
【0044】
図2図4に示す防振材7は、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する部材である。防振材7は、スラブ版5と剛性路盤1との間に挟み込まれるように挿入されている。防振材7は、スラブ版5と剛性路盤1との間に隙間が形成されるようにこれらの間に配置されることによって、剛性路盤1上にスラブ版5を弾性支持する防振装置である。防振材7は、例えば、スラブ版5の幅方向にスラブ版5の左右の側部5bから0.5m程度離れた位置に配置されており、スラブ版5の長さ方向に1m程度間隔をあけて配置されている。防振材7は、図4に示すように、上部7aと下部7bなどを備えている。防振材7は、剛性路盤1とスラブ版5との間の隙間に合わせて、防振材7の高さを調整可能なように高さ調整機構を付加可能である。
【0045】
防振材7は、水平面で切断したときの断面形状が円形又は四角形であり、外観が柱状のゴム製又は合成樹脂製の部材である。防振材7は、コイルばね防振装置と同等のばね定数とすることが可能であり、任意の形状に変更可能で、施工性及び経済性の観点から有利なウレタン製の防振材が好ましい。
【0046】
上部7aは、防振材7の上側を構成する部分である。上部7aは、スラブ版5の埋設型枠6の凹部6aに収容される部分である。上部7aは、凹部6aと密着するように平坦面に形成されており、この上部7aの上端面が凹部6aに固定されるように、この上部7aの上端面に接着剤などによって接着層が形成されている。下部7bは、防振材7の下側を構成する部分である。下部7bは、この下部7bの下端面が不陸整正部8の袋体9の表面に固定されるように、接着剤などによって接着剤層が形成されており、袋体9の表面と密着するように平坦面に形成されている。
【0047】
図2図4及び図6に示す不陸整正部8は、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間で剛性路盤1の不陸を整正する部分である。ここで、不陸とは、図4に示すように、剛性路盤1の表面が平滑ではなく凹凸であることや、剛性路盤1の表面が水平ではなく傾きがあることなどをいう。不陸整正部8は、図2図4に示すように、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間に挿入されており、これらの間で厚さを変化させることによって剛性路盤1の不陸を整正する。不陸整正部8は、防振材7の下部7bに接合された状態で、スラブ版5と剛性路盤1との間に防振材7とともに挿入される。不陸整正部8は、図2図4及び図6に示す袋体9と、図4及び図6(A)に示す注入部10と、排出部11などを備えている。
【0048】
図4に示す注入材Aは、不陸整正部8内に注入される部材である。注入材Aは、硬化性樹脂などの不陸調整材である。注入材Aは、例えば、主剤と硬化剤とを混合し所定時間経過後に硬化する2液混合型のエポキシ系、ポリウレタン系、ポリエステル系又はビニルエステル系などの樹脂液である。注入材Aは、袋体9内に注入するときには液状であり、袋体9内に注入されてから所定時間経過すると硬化して袋体9と一体となる。
【0049】
図2図4及び図6に示す袋体9は、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間に挿入される部分である。袋体9は、注入材Aの注入前には厚さが薄くなって潰れた状態であり、注入材Aの注入後には厚さが厚くなって膨らんだ状態になる。袋体9は、内部に注入材Aが注入されて内部で注入材Aが硬化する不陸調整材注入用袋であり、内部に注入される注入材Aの注入量に応じて任意の厚さに変化する。袋体9は、図6に示すように、防振材7の下部7bよりも大きく形成されており、平面形状が四角形に形成されている。袋体9は、図6(B)に示す被覆部9a,9bなどを備えており、被覆部9aと被覆部9bとの間の空間が注入材Aを充填する充填室として機能し、この空間に注入材Aが封入される。
【0050】
図6(B)に示す被覆部9aは、袋体9の表面側を構成する部分であり、被覆部9bは袋体9の裏面側を構成する部分である。被覆部9a,9bは、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂又はビニルエステル系樹脂などの合成繊維を熱、機械的又は化学的な作用によって接着又は絡み合わせた不織布である。被覆部9a,9bは、この被覆部9a,9bを重ね合わせた状態で、注入部10の流路10b及び排出部11の流路11bを除くこの被覆部9a,9bの周縁部を、熱溶着などによって互いに接合されて袋状に形成されている。
【0051】
図4及び図6(A)に示す注入部10は、袋体9内に注入材Aを注入する部分である。注入部10は、袋体9の角部に袋体9と一体に形成されている。注入部10は、注入材Aを供給する注入材供給装置から注入材Aが注入される注入口10aと、注入口10aと袋体9内とを接続する流路10bと、流路10bを流れる注入材Aが袋体9内に向かって流入するのを許容し注入材Aが注入口10aに向かって流出するのを阻止する一方向弁10cなどを備えている。
【0052】
排出部11は、袋体9内に注入材Aを注入するときに、袋体9内の空気を袋体9外に排出する部分である。排出部11は、袋体9の注入部10と対向する袋体9の角部に袋体9と一体に形成されている。排出部11は、袋体9内の空気が排出する排出口11aと、排出口11aと袋体9内とを接続する流路11bと、袋体9内の空気が排出口11aに向かって流出するのを許容し袋体9内の注入材Aが排出口11aに向かって流出するのを制限するフィルタ部11cなどを備えている。
【0053】
次に、この発明の第1実施形態に係る防振軌道の作用を説明する。
図2図4に示す防振軌道2上を列車が通過するときに、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる振動を防振材7が吸収する。その結果、列車通過時にスラブ版5から剛性路盤1に伝わる振動や騒音が低減されるため、沿線に伝わる騒音や振動も低減される。図2図5(A)に示すように、凹部6aを有する埋設型枠6がスラブ版5の底部5cに埋め込まれているため、防振材7の上部が埋設型枠6の凹部6aに収容される。また、図5(A)に示すように、埋設型枠6の厚さTをスラブ版5のかぶりCとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠6を使用している。その結果、埋設型枠6の凹部6aの深さ分だけ防振軌道2の全高が低くなるとともに、スラブ版5の厚さが薄くなって防振軌道2の全高が低くなり、トンネル断面形状が最小化される。
【0054】
図4に示すように、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間に不陸整正部8が挿入されて、図4及び図6(B)に示すように不陸整正部8の袋体9の内部に注入材Aが注入されると、図4に示すように不陸整正部8の厚さが任意の厚さに変化して剛性路盤1の不陸が整正される。その結果、剛性路盤1上に必要以上にモルタル層を厚く形成して剛性路盤1の不陸を整正したり、剛性路盤1上にコンクリート製の土台を形成して剛性路盤1の不陸を整正したりする必要がなくなって、防振軌道2の全高が低くなり、トンネル断面形状が最小化される。
【0055】
次に、この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法について説明する。
図7に示す防振軌道の施工方法#100は、スラブ版5と剛性路盤1との間の防振材7によって、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道2の施工方法である。防振軌道の施工方法#100は、図7及び図8に示すように、縁切り材敷設工程#200と、埋設型枠設置工程#300と、軌きょう構築工程#400と、型枠設置工程#500と、スラブ版構築工程#600と、取り外し工程#700と、スラブ版扛上工程#800と、防振材挿入工程#900と、不陸整正工程#1000と、レール設置工程#1100などを含む。防振軌道の施工方法#100では、製造工場などにおいて完成状態にして現場に搬入して設置されるフルプレキャスト製のスラブ版や、製造工場などにおいて半完成状態で現場に搬入して現場でコンクリートを打設して設置されるハーフプレキャスト製のスラブ版とは異なり、図8(E)に示すように場所打ちコンクリートによってスラブ版5が構築されて防振軌道2が敷設される。
【0056】
図7及び図8(A)に示す縁切り材敷設工程#200は、剛性路盤1上に縁切り材12を敷設する工程である。図8(A)~(F)に示す縁切り材12は、図8(F)に示すように、コンクリート5Aを打設して剛性路盤1上にスラブ版5を構築した後に、図8(G)に示すように剛性路盤1の上面からスラブ版5の底部5cを分離するために、剛性路盤1とスラブ版5との間に介在させる部材である。縁切り材12は、例えば、ポリエチレン又はエチレン酢酸ビニルなどの合成樹脂製であり、平面形状が四角形のはく離シートである。図8(F)に示すように、剛性路盤1上に構築するスラブ版5の幅よりも幅が広い縁切り材12を用意し、構築するスラブ版5の長さ方向に連続して剛性路盤1上に縁切り材12が敷設される。
【0057】
図7及び図8(B)に示す埋設型枠設置工程#300は、剛性路盤1上に埋設型枠6を設置する工程である。防振材7の設置位置に対応する位置に埋設型枠6がスラブ版5に埋設されるように、凹部6aを下側に向けて埋設型枠6が縁切り材12上に設置される。このとき、左右の埋設型枠6が所定の間隔をあけて平行になるように、構築するスラブ版5の長さ方向に連続して縁切り材12上に埋設型枠6が敷設される。
【0058】
図7及び図8(C)に示す軌きょう構築工程#400は、剛性路盤1上に間隔をあけて軌きょう13を構築する工程である。図8(C)に示す軌きょう13は、左右のレール3とまくらぎ4とをレール締結装置によって締結してはしご状に構成した部材である。軌きょう支持装置14は、軌きょう13を所定の高さで支持する装置である。軌きょう支持装置14は、高さ調整可能な支持柱14aを備えている。縁切り材12上で間隔をあけてまくらぎ4を配列させて、左右のレール3をまくらぎ4に締結し軌きょう13が構築される。次に、レール3の長さ方向に間隔をあけて、前後のまくらぎ4の間に軌きょう支持装置14を縁切り材12上に配置する。このとき、軌きょう支持装置14の左右の支持柱14aを埋設型枠6の外側に配置する。構築されるスラブ版5の厚さに合わせて軌きょう支持装置14の支持柱14aの高さを調整し、軌きょう支持装置14によって軌きょう13を所定の仕上がり位置まで持ち上げる。その結果、剛性路盤1と軌きょう13との間に所定の隙間をあけた状態で、軌きょう支持装置14によって軌きょう13が保持される。
【0059】
図7及び図8(D)に示す型枠設置工程#500は、スラブ版5を構築するための型枠15を設置する工程である。図8(D)に示す型枠15は、図5(A)に示すスラブ版5を構築するために必要なコンクリート5Aを打ち込むための枠組みである。構築されるスラブ版5の幅及び長さに合わせて、左右の埋設型枠6の外側及び左右の埋設型枠6の両端に、埋設型枠6を囲むように型枠15が縁切り材12上に設置される。
【0060】
図7及び図8(E)に示すスラブ版構築工程#600は、スラブ版5を構築する工程である。スラブ版構築工程#600では、図8(E)に示すように、スラブ版5の底部5cに埋設型枠6が埋設されるように、剛性路盤1と軌きょう13との間にスラブ版5を構築する。図5(A)に示すスラブ版5を構築するために必要な鉄筋5Bが型枠15内で組まれた後に、型枠15内にコンクリート5Aが打設される。型枠15内のコンクリート5Aが硬化すると、縁切り材12を介在させた状態で場所打ちコンクリート製のスラブ版5が剛性路盤1上に構築される。軌きょう支持装置14によって剛性路盤1からまくらぎ4が所定の高さで支持された状態でコンクリートが打設されるため、まくらぎ4の底部がスラブ版5の上部5aに埋め込まれる。
【0061】
図7及び図8(F)に示す取り外し工程#700は、レール3、軌きょう支持装置14及び型枠15を取り外す工程である。図8(F)に示すように、スラブ版5のコンクリート5Aが硬化した後に、レール締結装置を緩めてまくらぎ4からレール3が一旦取り外されるとともに、軌きょう支持装置14及び型枠15がスラブ版5から取り外される。軌きょう支持装置14の支持柱14aを撤去した跡には、スラブ版5に貫通孔5dが形成されるため、コンクリート又はセメントモルタルを貫通孔5dに流し込むことで貫通孔5dが埋められる。
【0062】
図7及び図8(G)に示すスラブ版扛上工程#800は、埋設型枠6の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7を挿入するために、剛性路盤1からスラブ版5を扛上する工程である。図8(G)に示す扛上装置16は、スラブ版5を持ち上げて支える装置である。扛上装置16は、例えば、作動油の流体圧によって重量物を昇降させる油圧ジャッキなどである。扛上装置16によって剛性路盤1からスラブ版5の底部5cを垂直方向に所定の高さ(例えば、6~10cm程度)まで持ち上げて、スラブ版5の底部5cと剛性路盤1との間に隙間があいた状態で、扛上装置16によってスラブ版5が支持される。剛性路盤1からスラブ版5を持ち上げた状態で、剛性路盤1上から縁切り材12が撤去される。
【0063】
図7及び図8(H)に示す防振材挿入工程#900は、スラブ版5の底部5cに埋設された埋設型枠6の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7を挿入する工程である。防振材挿入工程#900では、図5(A)に示す埋設型枠6の厚さTをスラブ版5のかぶりCとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠6の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7が挿入される。図4及び図6に示す不陸整正部8の袋体9の上部に防振材7の下部7bが接着された状態で、埋設型枠6の凹部6aの下方に防振材7の上部7aが位置するように、剛性路盤1とスラブ版5との間の隙間から防振材7が挿入される。
【0064】
次に、図4に示す防振材7の上部7aに形成された接着剤層に埋設型枠6の凹部6aが接着されるように、扛上装置16によってスラブ版5を一旦降下させたり、防振材7を扛上させる専用の治具などを使用して防振材7を持ち上げたりする。その結果、埋設型枠6の凹部6aに防振材7の上部7aが固定されて、防振材7の上部7aが埋設型枠6の凹部6aに位置決めされるとともに、防振材7の位置ずれや傾きが防止されて、防振材7が所定の位置に正しい姿勢で正確に設置される。防振材7の上部7aが埋設型枠6の凹部6aに接着した状態で、扛上装置16によってスラブ版5を再度持ち上げて、スラブ版5が所定の高さに保持されると、袋体9の被覆部9bの下面と剛性路盤1の表面との間に隙間が形成される。剛性路盤1とスラブ版5との間の隙間に防振材7が挿入されると、これらの間に不陸整正部8も挿入されて、図4及び図6に示す不陸整正部8の注入部10の注入口10aがスラブ版5の側部5bから突出する。
【0065】
図7及び図8(I)に示す不陸整正工程#1000は、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間で不陸を整正する工程である。不陸整正工程#1000では、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間の不陸整正部8の厚さを変化させることによって、剛性路盤1の不陸を整正する。不陸整正工程#1000では、図4に示すように、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間の袋体9の内部に、袋体9の内部で硬化する注入材Aを注入する。図4及び図6に示す注入部10の注入口10aに注入材供給装置を接続し注入材Aを注入すると、スラブ版5の側部5bから注入材Aが流路10bを通じて袋体9の内部に流入する。被覆部9aと被覆部9bとの間の隙間に注入材Aが浸入すると袋体9が膨張する。このとき、袋体9の内部から外部に注入材Aが逆流するのを一方向弁10cが阻止する。袋体9が膨張すると、剛性路盤1と防振材7の下部7bとの間の隙間を袋体9が埋めるとともに、袋体9の被覆部9bの下面が剛性路盤1の表面に沿って密着するため剛性路盤1の不陸を袋体9が埋める。
【0066】
図6に示す袋体9の内部に注入材Aが注入されると、袋体9の内部の空気が排出部11の流路11bを流れて排出口11aから排出される。袋体9の内部から空気が排出して排出口11aから注入材Aが僅かに滲み出したときに注入材供給装置を停止させて所定時間経過させ、袋体9の内部で注入材Aを硬化させて注入材Aと被覆部9a,9bとを一体化させる。注入材Aの硬化後に扛上装置16によってスラブ版5を降下させて、剛性路盤1から扛上装置16が撤去される。
【0067】
図7及び図8(J)に示すレール設置工程#1100は、スラブ版5にレール3を設置する工程である。図8(J)に示すように、まくらぎ4にレール3をレール締結装置によって締結して、一旦取り外したレール3がスラブ版5に再設置される。次に、レール3の底面とまくらぎ4の上面との間に可変パッドのような調整用パッキンを挿入して、レール3の高さを調整しレール3の頭頂面(レール面)を整正する。
【0068】
この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法及び防振軌道には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、スラブ版5の底部5cに埋設された埋設型枠6の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7を挿入する防振材挿入工程#900を含む。また、この第1実施形態では、防振材7の上部7aを収容する凹部6aを有する埋設型枠6がスラブ版5の底部5cに埋設される。このため、防振材7の設置位置にのみ埋設型枠6を適用するだけで、防振材7が設置される埋設型枠6の設置面を簡単に凹形状にすることができる。その結果、従来技術1などのフローティングスラブ軌道を敷設する場合に比べて、防振軌道2の全高を低くすることができ、トンネルの断面形状を最小化することができる。
【0069】
(2) この第1実施形態では、埋設型枠6の厚さTをスラブ版5のかぶりCとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠6の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7を挿入する工程を防振材挿入工程#900が含む。また、この第1実施形態では、埋設型枠6がこの埋設型枠6の厚さTをスラブ版5のかぶりCとして考慮できるコンクリート製の埋設型枠である。このため、設計上必要なスラブ版5の最小厚さを確保することができる。例えば、従来技術5のようなプレキャスト製のコンクリートスラブの底面両縁部に切欠部を形成した場合には、図5(B)に示すように埋設型枠106の厚さTをかぶりCとして考慮することができない。このため、埋設型枠106と鉄筋105Bとの間にコンクリート105AのかぶりCを設ける必要があり、スラブ版105の厚さが厚くなる。この第1実施形態では、例えば、超高強度繊維補強コンクリートなどの材料を埋設型枠6に用いることによって、スラブ版5の厚さが必要以上に厚くなるのを防ぐことができ、防振軌道2の高さを抑えることができる。
【0070】
(3) この第1実施形態では、剛性路盤1上に埋設型枠6を配置する埋設型枠配置工程#300と、スラブ版5の底部5cに埋設型枠6が埋設されるように、剛性路盤1と軌きょうとの間にスラブ版5を構築するスラブ版構築工程#600と、埋設型枠6の凹部6aと剛性路盤1との間に防振材7を挿入するために、剛性路盤1からスラブ版5を扛上するスラブ版扛上工程#800とを含む。また、この第1実施形態では、場所打ちコンクリート製のスラブ版5の底部5cに、防振材7の設置位置と対応する位置に埋設型枠6が埋設されている。このため、現場でコンクリートを打設してスラブ版5を構築するときに、埋設型枠6をスラブ版5に簡単に埋め込むことができる。その結果、例えば、従来技術5のような予め製造工場でコンクリートスラブの両縁部の長さ方向に連続して切欠部が形成された重量のあるプレキャストコンクリート製スラブ版を現場に搬入して、大型の重機などによって敷設する手間を省略することができる。
【0071】
(4) この第1実施形態では、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間の不陸整正部8の厚さを変化させることによって、剛性路盤1の不陸を整正する不陸整正工程#1000を含む。また、この第1実施形態では、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間に不陸整正部8が挿入された状態で不陸整正部8の厚さを変化させることによって、剛性路盤1の不陸を不陸整正部8が整正する。このため、不陸整正部8の厚さを任意の厚さに可変することによって、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間の隙間を簡単に埋めることができるとともに、剛性路盤1の不陸を簡単に整正することができる。例えば、剛性路盤1の不陸の程度によるが、数mm~十数mm程度の厚さで防振材7の下部7bにおける不陸を整正することができる。その結果、従来技術1のようなモルタルにより剛性路盤1の不陸を整正する場合や、剛性路盤1上に台座を構築して剛性路盤1の不陸を整正する場合に比べて、不陸整正部8が必要以上に厚くなるのを防ぐことができ、防振軌道2の全高を低くすることができる。
【0072】
(5) この第1実施形態では、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間の袋体9の内部に、袋体9の内部で硬化する注入材Aを注入する工程を不陸整正工程#1000が含む。また、この第1実施形態では、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間に挿入される袋体9を不陸整正部8が備えており、袋体9の内部に注入材Aが注入されて袋体9の内部で注入材Aが硬化する。このため、防振材7の下部7bと剛性路盤1との間に簡単な構造の袋体9を挟み込み、注入材Aを袋体9に注入するだけで、剛性路盤1の不陸を短時間で簡単に整正することができる。
【0073】
(6) この第1実施形態では、埋設型枠6の凹部6aの所定の位置に防振材7の上部を位置決めすることによって、防振材7の姿勢を維持する。このため、従来技術1などのようなスラブ版の平坦な底部に防振材を固定する場合に比べて、埋設型枠6の凹部6aに防振材7を所定の位置で固定することができる。その結果、防振材7の設置位置を適切な位置に維持することができ、防振材7の位置ずれを防止するとともに、防振材7の姿勢を適切な姿勢に維持し防振材7の傾きを防止することができる。
【0074】
(第2実施形態)
以下では、図1図6に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図9及び図10に示すスラブ版5は、図2図5に示すスラブ版5とは異なり、図9に示すように場所打ちコンクリート製のスラブ版5の底部5cに、防振材7の設置位置と対応する位置毎に埋設型枠6が埋設されている。スラブ版5は、このスラブ版5の底部5cの長さ方向に沿って間隔をあけて埋設型枠6が離散的に埋設されており、図10に示すように埋設型枠6がある部分P1と、埋設型枠6がない部分P2とが存在する。スラブ版5は、埋設型枠6がある部分P1については、埋設型枠6が超高強度繊維補強コンクリートなどであるため、この埋設型枠6の厚さTがスラブ版5の最小かぶりC1として考慮される。一方、スラブ版5は、埋設型枠6がない部分P2については、埋設型枠6がある部分P1の最小かぶりC1に埋設型枠6の深さDを加えたかぶりC2(=C1+D)となる。
【0075】
図9及び図10に示す埋設型枠6は、平面形状が四角形又は円形の板状部材である。凹部6aは、この凹部6aの幅又は内径が防振材7の上部7aよりも僅かに大きく形成されており、上部7aと平面形状が略同一の平坦面に形成されている。この第2実施形態には、第1実施形態の効果に加えて、凹部6aを有する埋設型枠6を必要な箇所に配置すれば足りるため低コスト化をより一層図ることができる。
【0076】
(第3実施形態)
図11に示す埋設型枠6は、図2図4図5図9及び図10に示す埋設型枠6の傾斜部6bに換えて、段部6dを備えている。段部6dは、埋設型枠6の凹部6aと突出部6cとの間に形成された段差部である。段部6dは、埋設型枠6の凹部6aの側面を底面に対して垂直に形成された壁部である。この第3実施形態には、第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果がある。
【0077】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、スラブ版5が場所打ちコンクリート製である場合を例に挙げて説明したが、スラブ版5がプレキャストコンクリート製である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、超高強度繊維補強コンクリート製の埋設型枠6を使用する場合を例に挙げて説明したが、超高強度繊維補強コンクリート製以外の埋設型枠を使用する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、埋設型枠6が突出部6cを備える場合を例に挙げて説明したが、突出部6cを省略して埋設型枠6の縦断面形状を直方体に形成する場合についても、この発明を適用することができる。
【0078】
(2) この実施形態では、防振材7がウレタン製の防振材である場合を例に挙げて説明したが、防振材7がコイルばねなどの他の弾性材である場合や防振材が減衰材を備える場合についても、この発明を適用することができる。例えば、金属板とゴムとを重ね合わせた積層ゴムや厚板状のゴムなどの弾性材を使用したり、作動油によって振動を減衰させるダンパなどを防振材に組み込み使用したりすることができる。また、この実施形態では、袋体9の平面形状が四角形である場合を例に挙げて説明したが、平面形状が円形又は楕円形などの四角形以外の場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 剛性路盤
2 防振軌道
3 レール
4 まくらぎ
5 スラブ版
5A コンクリート
5B 鉄筋
5c 底部
6 埋設型枠
6a 凹部
7 防振材
7a 上部
7b 下部
8 不陸整正部
9 袋体
10 注入部
11 排出部
12 縁切り材
13 軌きょう
14 軌きょう支持装置
15 型枠
16 扛上装置
C,C1,C2 かぶり
T 厚さ
A 注入材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11