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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131637
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】防振軌道の施工方法及び防振軌道
(51)【国際特許分類】
   E01B 37/00 20060101AFI20240920BHJP
   E01B 1/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E01B37/00 C
E01B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042027
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】渕上 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴蔵
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 尚嗣
【テーマコード(参考)】
2D056
2D057
【Fターム(参考)】
2D056AA02
2D056AA05
2D057CA03
(57)【要約】
【課題】剛性路盤の不陸を簡単に整正することができるとともに、軌道の全高を低くすることができる防振軌道の施工方法及び防振軌道を提供する。
【解決手段】防振軌道2のスラブ版5と剛性路盤1との間の防振材6によって、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法であって、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の不陸整正部7の厚さを変化させることによって、剛性路盤1の不陸を整正する不陸整正工程#900を含む。不陸整正工程#900は、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の袋体8の内部に、袋体8の内部で硬化する注入材を注入する工程を含む。防振軌道の施工方法は、スラブ版5を剛性路盤1から扛上するスラブ版扛上工程#700と、スラブ版5と剛性路盤1との間に防振材6を挿入する防振材挿入工程#800とを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振軌道のスラブ版と剛性路盤との間の防振材によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法であって、
前記防振材の下部と前記剛性路盤との間の不陸整正部の厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、
前記不陸整正工程は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間の袋体の内部に、この袋体の内部で硬化する注入材を注入する工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項3】
請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、
前記スラブ版を前記剛性路盤から扛上するスラブ版扛上工程と、
前記スラブ版と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入する防振材挿入工程とを含み、
前記不陸整正工程は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間で、前記不陸整正部の厚さを変化させて、この剛性路盤の不陸を整正する工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項4】
請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、
前記スラブ版に前記防振材及び前記不陸整正部を取り付けた状態で、この不陸整正部と前記剛性路盤との間に隙間があくように、このスラブ版をこの剛性路盤上に仮設するスラブ版仮設工程を含み、
前記不陸整正工程は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間で、前記不陸整正部の厚さを変化させて、この剛性路盤の不陸を整正する工程を含むこと、
を特徴とする防振軌道の施工方法。
【請求項5】
防振軌道のスラブ版と剛性路盤との間の防振材によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道であって、
前記防振材の下部と前記剛性路盤との間で厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正部を備えること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項6】
請求項5に記載の防振軌道において、
前記不陸整正部は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間に挿入される袋体を備えており、この袋体の内部に注入材が注入されてこの袋体の内部でこの注入材が硬化すること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項7】
請求項5に記載の防振軌道において、
前記不陸整正部は、前記防振材の下部に接合された状態で、前記スラブ版と前記剛性路盤との間にこの防振材とともに挿入されること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項8】
請求項5に記載の防振軌道において、
前記スラブ版は、前記防振材の上部を収容する凹部を備えること、
を特徴とする防振軌道。
【請求項9】
請求項5に記載の防振軌道において、
前記スラブ版と前記剛性路盤との間の所定の位置に前記防振材及び前記不陸整正部を位置決めする位置決め部を備えること、
を特徴とする防振軌道。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防振軌道のスラブ版と剛性路盤との間の防振材によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法及び防振軌道に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅や学校、ホテル、駅部の店舗などの静穏な環境が求められる箇所に近接するトンネル区間では、列車走行時の振動を積極的に低減することを目的として、フローティングスラブ軌道と呼ばれる防振軌道が採用される事例がある。フローティングスラブ軌道には、コイルばねやゴム製の防振材が用いられ、国内では主にコイルばね防振装置を用いた「コイルばね防振軌道」の採用事例が多い。
【0003】
従来の軌道構造(以下、従来技術1という)は、プレキャスト製のフローティングスラブを剛性路盤上に水平に支持する支持脚と、フローティングスラブの下面と剛性路盤の上面との間で振動を低減する弾性材と、弾性材と剛性路盤との間の隙間を埋める詰め物などを備えている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1は、支持脚の高さを調整してフローティングスラブを水平にした状態で、フローティングスラブと剛性路盤との間に弾性材を設置し、弾性材と剛性路盤との間の隙間にレジンコンクリートなどの詰め物を施工した後に、支持脚を剛性路盤から遠ざけてフローティングスラブを正確に設置している。
【0004】
従来の軌道用フローティングスラブの型枠構造(以下、従来技術2という)は、プレキャスト製のフローティングスラブの型枠の底壁から突出して路盤に対するこの型枠の高さを調整する支持脚と、この型枠とこの路盤との間の隙間に挟み込まれる防振ゴムと、この防振ゴムとこの路盤との間に施された詰め物などを備えている(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2は、支持脚の高さを調整して型枠のレベルを調整し、防振ゴムと路盤との間にレジンコンクリートなどの詰め物を施した後に、鉄筋を配した型枠にコンクリートを打設している。
【0005】
従来の軌道構造におけるレベル調整工法(以下、従来技術3という)は、プレキャスト製のフローティングスラブを所定の高さで水平になるように調整する支持脚と、このフローティングスラブと剛性路盤との間に設置される弾性体と、この弾性体とこの剛性路盤との間に空間を形成するパッキンなどを備えている(例えば、特許文献3という)。この従来技術3は、フローティングスラブの上面に形成された注入孔から、パッキンによって囲まれた空間にレジンモルタルなどの充填材を注入して、弾性体と剛性路盤との間の空間に充填された充填材が硬化した後に、剛性路盤から支持脚を遠ざけている。
【0006】
従来のバラスト防振軌道(以下、従来技術4という)は、プレキャストコンクリート製スラブをコンクリートスラブ上にコイルばね支承によって支持している(例えば、特許文献5参照)。この従来技術4は、コンクリートスラブ上にレベル調整された台座部を構築し、この台座部上にコイルばね支承を設置し,製造工場で予め製作されたコンクリートスラブをこのコイルばねによって支持している。
【0007】
従来の内装式振動絶縁装置(以下、従来技術5という)は、フローティングスラブを地盤上に弾性振動絶縁器によって支持している。この従来技術5は、フローティングスラブの貫通孔内に取り付けられて弾性振動絶縁器を圧縮することによって、フローティングスラブを地盤の表面から持ち上げている。この従来技術5は、地盤と弾性振動絶縁器との間にすべり止め板を挟み込んだり、弾性振動絶縁器によってフローティングスラブを支持結合するときの作業のために、地盤上のコンクリート製土台によってフローティングスラブを支持したりしている。
【0008】
ブレンナー峠地下トンネル北側アクセスルート(以下、従来技術6という)では、プレキャストコンクリート型枠がトンネル内の剛性路盤上に水平に設置されるように台座を設けている(例えば、非特許文献1参照)。この従来技術6では、剛性路盤上に構築した台座上に防振材を介してプレキャストコンクリート型枠を設置した後に、このプレキャストコンクリート型枠に鉄筋を組みコンクリートを打設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07-138901号公報
【0010】
【特許文献2】特開平08-027702号公報
【0011】
【特許文献3】特開平08-003901号公報
【0012】
【特許文献4】特開2008-303567号公報
【0013】
【特許文献5】特表2012-515882号公報
【0014】
【非特許文献1】getzner engineering a quit future、“ケーススタディ ブレンナー峠地下トンネル北側アクセスルート”、[online]、2018年9月、[令和5年1月26日検索]、インターネットURL:https://www.getzner.com/ja/case-studies/northern-approach-route-to-the-brenner-base-tunnel>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
フローティングスラブ軌道に用いられるスラブ版については、工場製品であるプレキャスト製のものを用いる場合と、現場で鉄筋コンクリートを製作する場合がある。フローティングスラブ軌道の適用にあたっては、広い周波数帯において振動低減効果を得るため、軌道の固有振動数を10Hz以下とする事例が多い。このとき、一般的なスラブ軌道のスラブ版に比べて、フローティングスラブ軌道のスラブ版では単位長さあたりの重量が重くなる傾向にあるため(例えば2トン/m以上)、それらをそのまま現地へ搬入することは困難となる。そこで、従来技術1などに示すように、鉄筋を有するプレキャスト製の埋設型枠を現地へ搬入して防振材の上に設置し、その後、型枠内にスラブ版の鉄筋を組んでからコンクリートを打設するハーフプレキャスト工法による施工法がある。
【0016】
フローティングスラブ軌道の防振材をトンネルのインバートなどの剛性路盤上に設置する場合、剛性路盤上の不陸を整正するために一律にモルタルを用いた充填層を設けたり、従来技術1などのように各防振材の下に不陸調整層や台座を設けたりする場合がある。このため、従来技術1などに示すハーフプレキャスト工法や防振材の設置方法によりフローティングスラブ軌道を敷設する場合、軌道の全高が高くなり、トンネルの断面形状が大きくなるなど、トンネル躯体に影響を及ぼすと考えられる。
【0017】
この発明の課題は、剛性路盤の不陸を簡単に整正することができるとともに、軌道の全高を低くすることができる防振軌道の施工方法及び防振軌道を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2図4及び図6図12に示すように、防振軌道(2)のスラブ版(5)と剛性路盤(1)との間の防振材(6)によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道の施工方法であって、前記防振材の下部(6b)と前記剛性路盤との間の不陸整正部(7)の厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正工程(#900;#1200)を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法(#100)である。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、図2図4図7図8及び図10図12に示すように、前記不陸整正工程は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間の袋体(8)の内部に、この袋体の内部で硬化する注入材(A)を注入する工程を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法である。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、図6図8に示すように、前記スラブ版を前記剛性路盤から扛上するスラブ版扛上工程(#700)と、前記スラブ版と前記剛性路盤との間に前記防振材を挿入する防振材挿入工程(#800)とを含み、前記不陸整正工程は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間で、前記不陸整正部の厚さを変化させて、この剛性路盤の不陸を整正する工程を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法である。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1に記載の防振軌道の施工方法において、図8図10に示すように、前記スラブ版に前記防振材及び前記不陸整正部を取り付けた状態で、この不陸整正部と前記剛性路盤との間に隙間(Δ)があくように、このスラブ版をこの剛性路盤上に仮設するスラブ版仮設工程(#1100)を含み、前記不陸整正工程は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間で、前記不陸整正部の厚さを変化させて、この剛性路盤の不陸を整正する工程を含むことを特徴とする防振軌道の施工方法である。
【0022】
請求項5の発明は、図2図4図8図11及び図12に示すように、防振軌道のスラブ版(5)と剛性路盤(1)との間の防振材(6)によって、このスラブ版からこの剛性路盤に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道であって、前記防振材の下部(6b)と前記剛性路盤との間で厚さを変化させることによって、この剛性路盤の不陸を整正する不陸整正部(7)を備えることを特徴とする防振軌道(2)である。
【0023】
請求項6の発明は、請求項5に記載の防振軌道において、図2図4図8図11及び図12に示すように、前記不陸整正部は、前記防振材の下部と前記剛性路盤との間に挿入される袋体(8)を備えており、この袋体の内部に注入材(A)が注入されてこの袋体の内部でこの注入材が硬化することを特徴とする防振軌道である。
【0024】
請求項7の発明は、請求項5に記載の防振軌道において、図8に示すように、前記不陸整正部は、前記防振材の下部に接合された状態で、前記スラブ版と前記剛性路盤との間にこの防振材とともに挿入されることを特徴とする防振軌道である。
【0025】
請求項8の発明は、請求項5に記載の防振軌道において、図11に示すように、前記スラブ版は、前記防振材の上部を収容する凹部(5e)を備えることを特徴とする防振軌道である。
【0026】
請求項9の発明は、請求項5に記載の防振軌道において、図12に示すように、前記スラブ版と前記剛性路盤との間の所定の位置に前記防振材及び前記不陸整正部を位置決めする位置決め部(16a,16b)を備えることを特徴とする防振軌道である。
【発明の効果】
【0027】
この発明によると、剛性路盤の不陸を簡単に整正することができるとともに、軌道の全高を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の平面図である。
図2図1のII-II線で切断した状態を示す断面図である。
図3図1のIII-III線で切断した状態を示す断面図である。
図4図2のIV部分を拡大して示す断面図である。
図5】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の不陸整正部の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のV-VA線で切断した状態を示す断面図である。
図6】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法の工程図である。
図7】この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法の手順を説明するための模式図であり、(A)は縁切り材敷設工程の模式図であり、(B)は軌きょう構築工程の模式図であり、(C)は型枠設置工程の模式図であり、(D)はスラブ版構築工程の模式図であり、(E)は取り外し工程の模式図であり、(F)はスラブ版扛上工程の模式図であり、(G)は防振材挿入工程の模式図であり、(H)は不陸整正工程の模式図であり、(I)はレール設置工程の模式図である。
図8】この発明の第2実施形態に係る防振軌道の縦断面図であり、(A)はプレキャスト製のスラブ版を現場に仮設した状態を示す縦断面図であり、(B)はプレキャスト製のスラブ版を現場に設置した状態を示す縦断面図である。
図9】この発明の第2実施形態に係る防振軌道の施工方法の工程図である。
図10】この発明の第2実施形態に係る防振軌道の施工方法の模式図であり、(A)はスラブ版仮設工程の模式図であり、(B)は不陸整正工程の模式図であり、(C)はレール設置工程の模式図である。
図11】この発明の第3実施形態に係る防振軌道の縦断面図である。
図12】この発明の第4実施形態に係る防振軌道の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1図4に示す剛性路盤1は、防振軌道2を支持する路盤である。剛性路盤1は、防振軌道2上を列車が通過するときの荷重を支持する構造物である。剛性路盤1は、コンクリート版又は鉄筋コンクリート版によって構成されたコンクリート路盤であり、スラブ版5を介して列車荷重による繰返し作用を受ける。剛性路盤1は、例えば、トンネル内で使用されるインバートなどである。
【0030】
図1図4に示す防振軌道2は、スラブ版5と剛性路盤1との間の防振材6によって、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する軌道である。防振軌道2は、図2図4に示すように、レール3と剛性路盤1との間に設置されており、スラブ版5と剛性路盤1との間に隙間が形成されるように、防振材6を用いて剛性路盤1上にスラブ版5を支持する。防振軌道2は、例えば、列車の走行に伴って発生する振動及び騒音の低減を目的として、コンクリート路盤を介して軌道を防振材料で部分的に支持する防振対策法の一つとして地下鉄道などで使用されるフローティング軌道である。図1図4に示す防振軌道2は、スラブ版5の支持支承にゴム又は合成樹脂などの弾性材を使用したフローティングスラブ軌道である。防振軌道2は、例えば、固有振動数の1.4倍以上の周波数領域における振動を低減する。防振軌道2は、図1図3に示すレール3と、まくらぎ4と、図1図4に示すスラブ版5と、防振材6と、図2図5に示す不陸整正部7などを備えている。
【0031】
図1図3に示すレール3は、鉄道車両の車輪を支持し案内して鉄道車両を走行させる部材である。レール3は、このレール3の底部がレール締結装置によってまくらぎ4に締結され取り付けられている。まくらぎ4は、レール3を支持する支持体(支承体)である。まくらぎ4は、図1に示すように、左右のレール3を固定して軌間を正確に保持しており、レール3から伝達される列車荷重をスラブ版5に分散させるために、図2及び図3に示すようにレール3とスラブ版5との間に設置されている。図1図3に示すまくらぎ4は、レール3に対して直角に並べて敷設される横まくらぎである。まくらぎ4は、コンクリート製のPC(プレストレストコンクリート(Prestressed concrete))まくらぎ、又はまくらぎ底面にゴム製などの弾性材を貼付した弾性まくらぎなどである。まくらぎ4は、図1及び図3に示すように、レール3の長さ方向に所定の間隔をあけて配置されており、レール3を離散的に支持している。
【0032】
図1図4に示すスラブ版5は、まくらぎ4を支持する支持体(支承体)である。図1図4に示すスラブ版5は、現場で型枠を組み、この型枠内に必要な鉄筋を組み込み、型枠内にコンクリートを打設して固めた場所打ちコンクリート製(現場打ちコンクリート製)のスラブ版である。スラブ版5は、道床バラストとまくらぎとを用いた一般的な有道床軌道の保守作業を低減するために、レール締結装置を介してレール3を直接支持、又はまくらぎ4を介してレール3を支持する鉄筋コンクリート製の部材である。スラブ版5は、図5(A)に示すように、砂、砂利、砕石などの骨材、水硬性セメント及び水を適当な割合で配合しこれらを練り混ぜて一体硬化させたコンクリートと、コンクリート内に埋め込まれてコンクリートを補強する格子状に組まれた鉄筋とによって一体化された鉄筋コンクリート構造である。スラブ版5は、図1図3に示すように、このスラブ版5の上面を構成する上部5aと、図1図2及び図4に示すようにこのスラブ版5の両側面を構成する側部5bと、図2図4に示すようにこのスラブ版5の底面を構成する底部5cなどを備えている。スラブ版5は、図2及び図3に示すように、このスラブ版5の上部5aにまくらぎ4の底部が埋め込まれている。
【0033】
図2図4に示す防振材6は、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する部材である。防振材6は、スラブ版5と剛性路盤1との間に挟み込まれるように挿入されている。防振材6は、スラブ版5と剛性路盤1との間に隙間が形成されるようにこれらの間に配置されることによって、剛性路盤1上にスラブ版5を弾性支持する防振装置である。防振材6は、例えば、スラブ版5の幅方向にスラブ版5の左右の側部5bから0.5m程度離れた位置に配置されており、スラブ版5の長さ方向に1m程度間隔をあけて配置されている。防振材6は、図4に示すように、上部6aと下部6bなどを備えている。防振材6は、剛性路盤1とスラブ版5との間の隙間に合わせて、防振材6の高さを調整可能なように高さ調整機構を付加可能である。
【0034】
防振材6は、水平面で切断したときの断面形状が円形又は四角形であり、外観が柱状のゴム製又は合成樹脂製の部材である。防振材6は、コイルばね防振装置と同等のばね定数とすることが可能であり、任意の形状に変更可能で、施工性及び経済性の観点から有利なウレタン製の防振材が好ましい。
【0035】
上部6aは、防振材6の上側を構成する部分である。上部6aは、スラブ版5の底部5cと接合する部分である。上部6aは、スラブ版5の底部5cと密着するように平坦面に形成されており、この上部6aの上端面が底部5cに固定されるように、この上部6aの上端面に接着剤などによって接着層が形成されている。下部6bは、防振材6の下側を構成する部分である。下部6bは、この下部6bの下端面が不陸整正部7の袋体8の表面に固定されるように、接着剤などによって接着剤層が形成されており、袋体8の表面と密着するように平坦面に形成されている。
【0036】
図2図5に示す不陸整正部7は、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間で剛性路盤1の不陸を整正する部分である。ここで、不陸とは、図4に示すように、剛性路盤1の表面が平滑ではなく凹凸であることや、剛性路盤1の表面が水平ではなく傾きがあることなどをいう。不陸整正部7は、図2図4に示すように、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間に挿入されており、これらの間で厚さを変化させることによって剛性路盤1の不陸を整正する。不陸整正部7は、防振材6の下部6bに接合された状態で、スラブ版5と剛性路盤1との間に防振材6とともに挿入される。不陸整正部7は、図2図5に示す袋体8と、図4及び図5に示す注入部9と、排出部10などを備えている。
【0037】
図4に示す注入材Aは、不陸整正部7内に注入される部材である。注入材Aは、硬化性樹脂などの不陸整正材である。注入材Aは、例えば、主剤と硬化剤とを混合し所定時間経過後に硬化する2液混合型のエポキシ系、ポリウレタン系、ポリエステル系又はビニルエステル系などの樹脂液である。注入材Aは、袋体8内に注入するときには液状であり、袋体8内に注入されてから所定時間経過すると硬化して袋体8と一体となる。
【0038】
図2図5に示す袋体8は、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間に挿入される部分である。袋体8は、注入材Aの注入前には厚さが薄くなって潰れた状態であり、注入材Aの注入後には厚さが厚くなって膨らんだ状態になる。袋体8は、内部に注入材Aが注入されて内部で注入材Aが硬化する不陸整正材注入用袋であり、内部に注入される注入材Aの注入量に応じて任意の厚さに変化する。袋体8は、図5に示すように、防振材6の下部6bよりも大きく形成されており、平面形状が四角形に形成されている。袋体8は、図5(B)に示す被覆部8a,8bなどを備えており、被覆部8aと被覆部8bとの間の空間が注入材Aを充填する充填室として機能し、この空間に注入材Aが封入される。
【0039】
図5(B)に示す被覆部8aは、袋体8の表面側を構成する部分であり、被覆部8bは袋体8の裏面側を構成する部分である。被覆部8a,8bは、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂又はビニルエステル系樹脂などの合成繊維を熱、機械的又は化学的な作用によって接着又は絡み合わせた不織布である。被覆部8a,8bは、この被覆部8a,8bを重ね合わせた状態で、注入部9の流路9b及び排出部10の流路10bを除くこの被覆部8a,8bの周縁部を、熱溶着などによって互いに接合されて袋状に形成されている。
【0040】
図4及び図5(A)に示す注入部9は、袋体8内に注入材Aを注入する部分である。注入部9は、袋体8の角部に袋体8と一体に形成されている。注入部9は、注入材Aを供給する注入材供給装置から注入材Aが注入される注入口9aと、注入口9aと袋体8内とを接続する流路9bと、流路9bを流れる注入材Aが袋体8内に向かって流入するのを許容し、注入材Aが注入口9aに向かって流出するのを阻止する一方向弁9cなどを備えている。
【0041】
排出部10は、袋体8内に注入材Aを注入するときに、袋体8内の空気を袋体8外に排出する部分である。排出部10は、袋体8の注入部9と対向する袋体8の角部に袋体8と一体に形成されている。排出部10は、袋体8内の空気が排出する排出口10aと、排出口10aと袋体8内とを接続する流路10bと、袋体8内の空気が排出口10aに向かって流出するのを許容し袋体8内の注入材Aが排出口10aに向かって流出するのを制限するフィルタ部10cなどを備えている。
【0042】
次に、この発明の第1実施形態に係る防振軌道の作用を説明する。
図2図4に示す防振軌道2上を列車が通過するときに、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる振動を防振材6が吸収する。その結果、列車通過時にスラブ版5から剛性路盤1に伝わる振動や騒音が低減されるため、沿線に伝わる騒音や振動も低減される。図4に示すように、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間に不陸整正部7が挿入されて、図4及び図5(B)に示すように不陸整正部7の袋体8の内部に注入材Aが注入されると、図4に示すように不陸整正部7の厚さが任意の厚さに変化して、剛性路盤1の不陸が整正される。その結果、剛性路盤1上に必要以上にモルタル層を厚く形成して、剛性路盤1の不陸を整正したり、剛性路盤1上にコンクリート製の土台を形成して、剛性路盤1の不陸を整正したりする必要がなくなって、防振軌道2の全高が低くなり、トンネル断面形状が最小化される。
【0043】
次に、この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法について説明する。
図6に示す防振軌道の施工方法#100は、スラブ版5と剛性路盤1との間の防振材6によって、スラブ版5から剛性路盤1に伝わる列車通過時の振動を低減する防振軌道2の施工方法である。防振軌道の施工方法#100は、図6及び図7に示すように、縁切り材敷設工程#200と、軌きょう構築工程#300と、型枠設置工程#400と、スラブ版構築工程#500と、取り外し工程#600と、スラブ版扛上工程#700と、防振材挿入工程#800と、不陸整正工程#900と、レール設置工程#1000などを含む。防振軌道の施工方法#100では、製造工場などにおいて完成状態にして現場に搬入して設置されるフルプレキャスト製のスラブ版や、製造工場などにおいて半完成状態で現場に搬入して現場でコンクリートを打設して設置されるハーフプレキャスト製のスラブ版とは異なり、図7(E)に示すように場所打ちコンクリートによってスラブ版5が構築されて防振軌道2が敷設される。
【0044】
図6及び図7(A)に示す縁切り材敷設工程#200は、剛性路盤1上に縁切り材11を敷設する工程である。図7(A)~(E)に示す縁切り材11は、図7(E)に示すように、コンクリートを打設して剛性路盤1上にスラブ版5を構築した後に、図7(F)に示すように剛性路盤1の上面からスラブ版5の底部5cを分離するために、剛性路盤1とスラブ版5との間に介在させる部材である。縁切り材11は、例えば、ポリエチレン又はエチレン酢酸ビニルなどの合成樹脂製であり、平面形状が四角形のはく離シートである。図7(E)に示すように、剛性路盤1上に構築するスラブ版5の幅よりも幅が広い縁切り材11を用意し、構築するスラブ版5の長さ方向に連続して剛性路盤1上に縁切り材11が敷設される。
【0045】
図6及び図7(B)に示す軌きょう構築工程#300は、剛性路盤1上に間隔をあけて軌きょう12を構築する工程である。図7(B)に示す軌きょう12は、左右のレール3とまくらぎ4とをレール締結装置によって締結してはしご状に構成した部材である。軌きょう支持装置13は、軌きょう12を所定の高さで支持する装置である。軌きょう支持装置13は、高さ調整可能な支持柱13aを備えている。縁切り材11上で間隔をあけてまくらぎ4を配列させて、左右のレール3をまくらぎ4に締結し軌きょう12が構築される。次に、レール3の長さ方向に間隔をあけて、前後のまくらぎ4の間に軌きょう支持装置13を縁切り材11上に配置する。構築されるスラブ版5の厚さに合わせて軌きょう支持装置13の支持柱13aの高さを調整し、軌きょう支持装置13によって軌きょう12を所定の仕上がり位置まで持ち上げる。その結果、剛性路盤1と軌きょう12との間に所定の隙間をあけた状態で、軌きょう支持装置13によって軌きょう12が保持される。
【0046】
図6及び図7(C)に示す型枠設置工程#400は、スラブ版5を構築するための型枠14を設置する工程である。図7(C)に示す型枠14は、図1図4に示すスラブ版5を構築するために必要なコンクリートを打ち込むための枠組みである。構築されるスラブ版5の幅及び長さに合わせて、型枠14が縁切り材11上に設置される。
【0047】
図6及び図7(D)に示すスラブ版構築工程#500は、スラブ版5を構築する工程である。スラブ版構築工程#500では、図7(D)に示すように、剛性路盤1と軌きょう12との間にスラブ版5を構築する。図1図4に示すスラブ版5を構築するために必要な鉄筋が型枠14内で組まれた後に、型枠14内にコンクリートが打設される。型枠14内のコンクリートが硬化すると、縁切り材11を介在させた状態で場所打ちコンクリート製のスラブ版5が剛性路盤1上に構築される。軌きょう支持装置13によって剛性路盤1からまくらぎ4が所定の高さで支持された状態でコンクリートが打設されるため、まくらぎ4の底部がスラブ版5の上部5aに埋め込まれる。
【0048】
図6及び図7(E)に示す取り外し工程#600は、レール3、軌きょう支持装置13及び型枠14を取り外す工程である。図7(E)に示すように、スラブ版5のコンクリートが硬化した後に、レール締結装置を緩めてまくらぎ4からレール3が一旦取り外されるとともに、軌きょう支持装置13及び型枠14がスラブ版5から取り外される。軌きょう支持装置13の支持柱13aを撤去した跡には、スラブ版5に貫通孔5dが形成されるため、コンクリート又はセメントモルタルを貫通孔5dに流し込むことで貫通孔5dが埋められる。
【0049】
図6及び図7(F)に示すスラブ版扛上工程#700は、剛性路盤1からスラブ版5を扛上する工程である。図7(F)に示す扛上装置15は、スラブ版5を持ち上げて支える装置である。扛上装置15は、例えば、作動油の流体圧によって重量物を昇降させる油圧ジャッキなどである。扛上装置15によって剛性路盤1からスラブ版5の底部5cを垂直方向に所定の高さ(例えば、6~10cm程度)まで持ち上げて、スラブ版5の底部5cと剛性路盤1との間に隙間があいた状態で、扛上装置15によってスラブ版5が支持される。剛性路盤1からスラブ版5を持ち上げた状態で、剛性路盤1上から縁切り材11が撤去される。
【0050】
図6及び図7(G)に示す防振材挿入工程#800は、スラブ版5と剛性路盤1との間に防振材6を挿入する工程である。図4及び図5に示す不陸整正部7の袋体8の上部に防振材6の下部6bが接着された状態で、スラブ版5の底部5cの下方に防振材6の上部6aが位置するように、剛性路盤1とスラブ版5との間の隙間から防振材6が挿入される。
【0051】
次に、図4に示す防振材6の上部6aに形成された接着剤層にスラブ版5の底部5cが接着されるように、扛上装置15によってスラブ版5を一旦降下させたり、防振材6を扛上させる専用の治具などを使用して防振材6を持ち上げたりする。その結果、スラブ版5の底部5cに防振材6の上部6aが固定されて、防振材6の上部6aがスラブ版5の底部5cに位置決めされるとともに、防振材6の位置ずれや傾きが防止されて、防振材6が所定の位置に正しい姿勢で正確に設置される。防振材6の上部6aがスラブ版5の底部5cに接着した状態で、扛上装置15によってスラブ版5を再度持ち上げて、スラブ版5が所定の高さに保持されると、袋体8の被覆部8bの下面と剛性路盤1の表面との間に隙間が形成される。剛性路盤1とスラブ版5との間の隙間に防振材6が挿入されると、これらの間に不陸整正部7も挿入されて、図4及び図6に示す不陸整正部7の注入部9の注入口9aがスラブ版5の側部5bから突出する。
【0052】
図6及び図7(H)に示す不陸整正工程#900は、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間で不陸を整正する工程である。不陸整正工程#900では、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の不陸整正部7の厚さを変化させることによって、剛性路盤1の不陸を整正する。不陸整正工程#900では、図4に示すように、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の袋体8の内部に、袋体8の内部で硬化する注入材Aを注入する。図4及び図5に示す注入部9の注入口9aに注入材供給装置を接続し注入材Aを注入すると、スラブ版5の側部5bから注入材Aが流路9bを通じて袋体8の内部に流入する。被覆部8aと被覆部8bとの間の隙間に注入材Aが浸入すると袋体8が膨張する。このとき、袋体8の内部から外部に注入材Aが逆流するのを一方向弁9cが阻止する。
【0053】
図4に示す防振材6の上部6aに接着層が形成されているため、袋体8が膨張すると防振材6が押し上げられて、防振材6の上部6aがスラブ版5の底部5cと密着し、防振材6の上部6aがスラブ版5の底部5cに固定される。その結果、防振材6の上部6aがスラブ版5の底部5cに位置決めされるとともに、防振材6の位置ずれや傾きが防止されて、防振材6が所定の位置に正しい姿勢で正確に設置される。袋体8が膨張すると、剛性路盤1と防振材6の下部6bとの間の隙間を袋体8が埋めるとともに、袋体8の被覆部8bの下面が剛性路盤1の表面に沿って密着するため剛性路盤1の不陸を袋体8が埋める。
【0054】
図5に示す袋体8の内部に注入材Aが注入されると、袋体8の内部の空気が排出部10の流路10bを流れて排出口10aから排出される。袋体8の内部から空気が排出して排出口10aから注入材Aが僅かに滲み出したときに注入材供給装置を停止させて所定時間経過させ、袋体8の内部で注入材Aを硬化させて注入材Aと被覆部8a,8bとを一体化させる。注入材Aの硬化後に扛上装置15によってスラブ版5を降下させて、防振材6の上部6aとスラブ版5の底部5cとを完全に接着させる。その結果、スラブ版5の底部5cと剛性路盤1との間に防振材6が完全に固定されて、剛性路盤1から扛上装置15が撤去される。
【0055】
図6及び図7(I)に示すレール設置工程#1000は、スラブ版5にレール3を設置する工程である。図7(I)に示すように、まくらぎ4にレール3をレール締結装置によって締結して、一旦取り外したレール3がスラブ版5に再設置される。次に、レール3の底面とまくらぎ4の上面との間に可変パッドのような調整用パッキンを挿入して、レール3の高さを調整しレール3の頭頂面(レール面)を整正する。
【0056】
この発明の第1実施形態に係る防振軌道の施工方法及び防振軌道には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の不陸整正部7の厚さを変化させることによって、剛性路盤1の不陸を整正する不陸整正工程#900を含む。また、この第1実施形態では、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間に挿入された状態で厚さを変化させることによって、剛性路盤1の不陸を不陸整正部7が整正する。このため、不陸整正部7の厚さを任意の厚さに可変することによって、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の隙間を簡単に埋めることができるとともに、剛性路盤1の不陸を簡単に整正することができる。例えば、剛性路盤1の不陸の程度によるが、数mm~十数mm程度の厚さで防振材6の下部6bにおける不陸を整正することができる。その結果、従来技術1のようなモルタルにより剛性路盤1の不陸を整正する場合や、剛性路盤1上に台座を構築して剛性路盤1の不陸を整正する場合に比べて、不陸整正部7が必要以上に厚くなるのを防ぐことができ、防振軌道2の全高を低くすることができる。
【0057】
(2) この第1実施形態では、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の袋体8の内部に、袋体8の内部で硬化する注入材Aを注入する工程を不陸整正工程#900が含む。また、この第1実施形態では、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間に挿入される袋体8を不陸整正部7が備えており、袋体8の内部に注入材Aが注入されて袋体8の内部で注入材Aが硬化する。このため、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間に簡単な構造の袋体8を挟み込み、注入材Aを袋体8に注入するだけで、剛性路盤1の不陸を短時間で簡単に整正することができる。
【0058】
(3) この第1実施形態では、スラブ版5を剛性路盤1から扛上するスラブ版扛上工程#700と、スラブ版5と剛性路盤1との間に防振材6を挿入する防振材挿入工程#800とを含み、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間で、不陸整正部7の厚さを変化させて、剛性路盤1の不陸を整正する工程を不陸整正工程#900が含む。このため、現場でコンクリートを打設してスラブ版5を構築したときに、スラブ版5の底部5cと剛性路盤1との間に防振材6を簡単に挿入することができる。また、例えば、従来技術1などのような予め製造工場で製造した重量のあるプレキャストコンクリート製スラブ版を現場に搬入して、大型の重機などによって敷設する手間を省略することができる。
【0059】
(4) この第1実施形態では、防振材6の下部6bに不陸整正部7が接合された状態で、前記スラブ版と前記剛性路盤との間にこの防振材とともに不陸整正部7が挿入される。このため、スラブ版5と剛性路盤1との間に防振材6とともに不陸整正部7を簡単に挿入することができ、防振材6とともに不陸整正部7をスラブ版5の底部5cに簡単に位置決めすることができる。
【0060】
(第2実施形態)
以下では、図1図5に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図8に示すスラブ版5は、図1図4に示すスラブ版5とは異なり、プレキャスト製のスラブ版である。スラブ版5は、例えば、工場若しくは現場近くの設備で鉄筋を組みコンクリートを打設して、予め完成品として製造されており、この完成品を現場に搬入して設置されるフルプレキャスト製のスラブ版、又は、工場若しくは現場近くの設備で鉄筋を組みコンクリートを打設して予め半製品として製造されており、この半製品を現場に搬入して鉄筋を組みコンクリートを打設して完成品にして設置されるハーフプレキャスト製のスラブ版である。
【0061】
防振材6は、工場、現場近くの設備又は現場で、この防振材6の上部6aがスラブ版5の底部5cの所定の位置に接着剤などによって予め接着され固定されている。防振材6は、スラブ版5の底部5cに接合された状態で、スラブ版5と剛性路盤1との間に挿入される。
【0062】
不陸整正部7は、工場、現場近くの設備又は現場で、この不陸整正部7の袋体8の表面が防振材6の下部6bに接着剤などによって予め接着され固定されている。不陸整正部7は、防振材6の下部6bに接合された状態で、前記スラブ版と前記剛性路盤との間に防振材6とともに挿入される。不陸整正部7は、図8(A)に示すように、現場仮設時には袋体8と剛性路盤1との間に隙間Δを形成するように扛上装置15によって所定の高さで保持されている。不陸整正部7は、図8(B)に示すように、現場設置時には袋体8と剛性路盤1との間に隙間Δが埋まり、剛性路盤1の不陸が生成されるように、袋体8に注入材Aが注入されて注入材Aが硬化する。
【0063】
図9及び図10(A)に示すスラブ版仮設工程#1100は、スラブ版5を剛性路盤1上に仮設する工程である。スラブ版仮設工程#1100では、図8(A)に示すように、スラブ版5に防振材6及び不陸整正部7を取り付けた状態で、不陸整正部7と剛性路盤1との間に隙間Δがあくように、スラブ版5を剛性路盤1上に仮設する。プレキャスト製のスラブ版5の底部5cに防振材6の上部6aが接着され、防振材6の下部6bに不陸整正部7の袋体8が接着された状態で、スラブ版5が現場に搬入される。図10(A)に示すように、扛上装置15によって剛性路盤1からスラブ版5の底部5cを垂直方向に所定の高さまで持ち上げた状態で、扛上装置15によってスラブ版5が所定の高さで保持される。その結果、図9(A)に示すように、不陸整正部7の袋体8と剛性路盤1との間に隙間Δが形成される。
【0064】
図9及び図10(B)に示す不陸整正工程#1200は、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間で不陸を整正する工程である。不陸整正工程#1200では、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間で、不陸整正部7の厚さを変化させて、剛性路盤1の不陸を整正する。防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の袋体8の内部に注入材Aを注入すると、これらの間で袋体8が膨張して不陸整正部7の厚さが変化する。袋体8の内部の注入材Aが硬化すると、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の隙間Δを袋体8が埋めるとともに、剛性路盤1の不陸を袋体8が埋める。注入材Aの硬化後に剛性路盤1から扛上装置15が撤去されて、スラブ版5が防振材6によって支持された状態で、スラブ版5が剛性路盤1上に支持される。
【0065】
図9及び図10(C)に示すレール設置工程#1300は、スラブ版5にレール3を設置する工程である。図10(C)に示すように、まくらぎ4にレール3をレール締結装置によって締結して、レール3がスラブ版5設置される。次に、レール3の底面とまくらぎ4の上面との間に可変パッドのような調整用パッキンを挿入して、レール3の高さを調整しレール3の頭頂面(レール面)を整正する。
【0066】
この発明の第2実施形態に係る防振軌道の施工方法及び防振軌道には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第2実施形態では、スラブ版5に防振材6及び不陸整正部7を取り付けた状態で、不陸整正部7と剛性路盤1との間に隙間Δがあくように、スラブ版5を剛性路盤1上に仮設するスラブ版仮設工程#1100を含み、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間で、不陸整正部7の厚さを変化させて、剛性路盤1の不陸を整正する工程を不陸整正工程#1200が含む。このため、現地でコンクリートの打設を行わないプレキャスト製のスラブ版5について、防振材6の下部6bと剛性路盤1との間の隙間Δを簡単に埋めることができるとともに、剛性路盤1の不陸を簡単に整正することができる。また、第1実施形態のスラブ版扛上工程#700におけるスラブ版5を扛上する工程が不要になり、厚みのあるプレキャスト製のスラブ版5であっても短時間で施工することができる。
【0067】
(第3実施形態)
図11に示すスラブ版5は、図1図4及び図8に示すスラブ版5とは異なり、凹部5eと傾斜部5fなどを備えている。凹部5eは、防振材6の上部6aを収容する部分である。凹部5eは、スラブ版5の底部5cに形成されており、防振材6の上部6aが接合するように、この凹部5eの底面が平坦に形成されており、防振材6の上部6aよりも僅かに幅が広く形成されている。凹部5eは、剛性路盤1と対向する側が開口した溝であり、スラブ版5の長さ方向に沿って直線状に形成されている。凹部5eは、防振材6の設置位置と対応する位置にスラブ版5の底部5cの長さ方向に沿って連続して形成、又は防振材6の設置位置と対応する位置毎にスラブ版5の底部5cの長さ方向に沿って間隔をあけて離散的に形成されている。凹部5eは、防振材6の上部6aと接触した状態で防振材6に支持される。
【0068】
傾斜部5fは、凹部5eの底面に向かって上方に傾斜する部分である。傾斜部5fは、スラブ版5の底部5cの表面から凹部5eの底面に傾斜する平坦面である。傾斜部5fは、凹部5eの中心と防振材6の上部6aの中心とが僅かにずれた状態で、凹部5eと剛性路盤1との間に防振材6が挿入されたときに、凹部5eの中心と防振材6の中心とが一致するように、防振材6の上部6aをガイドする。
【0069】
次に、この発明の第3実施形態に係る防振軌道の製造方法について説明する。
プレキャスト製のスラブ版である場合には、製作後に取り外し可能な型枠を使用してスラブ版5が製作される。例えば、凹部を有する鋼製型枠にコンクリートを工場で打設して、このスラブ版5の底部5cに凹部5eが形成された完成品又は半完成品のプレキャスト製のスラブ版5が製造される。
【0070】
この発明の第3実施形態に係る防振軌道には、第1実施形態及び第2実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第3実施形態では、防振材6の上部6aを収容する凹部5eをスラブ版5が備えている。このため、防振材6が設置されるスラブ版5の底部5cの設置面を簡単に凹形状にして製造することができる。その結果、従来技術1などのフローティングスラブ軌道を敷設する場合に比べて、防振軌道2の全高を低くすることができ、トンネルの断面形状を最小化することができる。
【0071】
(第4実施形態)
図12に示す防振軌道2は、位置決め部16a,16bを備えている。位置決め部16a,16bは、スラブ版5と剛性路盤1との間の所定の位置に防振材6及び不陸整正部7を位置決めする部分である。位置決め部16a,16bは、スラブ版5と剛性路盤1との間に防振材6及び不陸整正部7を挿入するときに、これらの間の所定の位置に防振材6及び不陸整正部7を位置決めするために使用される指標である。位置決め部16aは、不陸整正部7の注入部9の流路9bに取り付けられており、位置決め部16bはスラブ版5の側部5bに取り付けられている。位置決め部16a,16bは、例えば、作業者が目視で確認可能な着色テープ又は着色板などである。
【0072】
この発明の第4実施形態に係る防振軌道には、第1実施形態~第3実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第4実施形態では、スラブ版5と剛性路盤1との間の所定の位置に防振材6及び不陸整正部7を位置決め部16a,16bが位置決めする。このため、位置決め部16aと位置決め部16bとの位置を合わせて、スラブ版5の底部5cと剛性路盤1との間に防振材6及び不陸整正部7をスラブ版5の側部5bから挿入することで、防振材6及び不陸整正部7を正規の位置に簡単に設置することができる。
【0073】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、防振材6がウレタン製の防振材である場合を例に挙げて説明したが、防振材6がコイルばねなどの他の弾性材である場合や防振材が減衰材を備える場合についても、この発明を適用することができる。例えば、金属板とゴムとを重ね合わせた積層ゴムや厚板状のゴムなどの弾性材を使用したり、作動油によって振動を減衰させるダンパなどを防振材に組み込み使用したりすることができる。また、この実施形態では、袋体8の平面形状が四角形である場合を例に挙げて説明したが、平面形状が円形又は楕円形などの四角形以外の場合についても、この発明を適用することができる。
【0074】
(2) この第2実施形態では、スラブ版5の底部5cに防振材6及び不陸整正部7を取り付けた状態で、スラブ版5を現場に搬入して剛性路盤1上に仮設する場合を例に挙げて説明したが、スラブ版5のみを現場に搬入して剛性路盤1上にスラブ版5を仮設してから、防振材6及び不陸整正部7をスラブ版5に取り付ける場合についても、この発明を適用することができる。また、この第2実施形態では、レール設置工程#1300においてレール3をまくらぎ4に設置する場合を例に挙げて説明したが、スラブ版仮設工程#1100においてレール3をまくらぎ4に設置する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第2実施形態及び第4実施形態では、スラブ版5の底部5cが平坦面である場合を例に挙げて説明したが、スラブ版5の底部5cが凹部5eを備える場合についても、この発明を適用することができる。
【0075】
(3) この第3実施形態では、凹部5eを備えるスラブ版5がプレキャスト製のスラブ版である場合を例に挙げて説明したが、スラブ版5が場所打ちコンクリート製のスラブ版である場合についても、この発明を適用することができる。また、この第3実施形態では、傾斜部5fを備えるスラブ版である場合を例に挙げて説明したが、傾斜部5fを省略してスラブ版5の底部5cと凹部5eとの間に段部(段差部)を形成し、凹部5eの側面を底面に対して垂直な壁部にこの段部を形成する場合についても、この発明を適用することができるである。さらに、この第4実施形態では、スラブ版5の底部5cに凹部5eを備える場合を例に挙げて説明したが、スラブ版5の底部5cが平坦面である場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 剛性路盤
2 防振軌道
3 レール
4 まくらぎ
5 スラブ版
5c 底部
5e 凹部
6 防振材
6a 上部
6b 下部
7 不陸整正部
8 袋体
9 注入部
10 排出部
11 縁切り材
12 軌きょう
13 軌きょう支持装置
14 型枠
15 扛上装置
16a,16b 位置決め部
T 厚さ
A 注入材
Δ 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12