(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131654
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】燃料電池スタックの組立方法および積層装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2404 20160101AFI20240920BHJP
B65G 57/04 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
H01M8/2404
B65G57/04
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042057
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】関口 浩
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 透
【テーマコード(参考)】
3F029
5H126
【Fターム(参考)】
3F029BA09
3F029CA52
3F029CA82
5H126AA22
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE11
(57)【要約】
【課題】燃料電池スタックのセル積層体を精度よく構成する。
【解決手段】燃料電池スタックの組立方法は、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータ3とを、所定領域で交互に積層して、セル積層体を構成する積層工程を含む。積層工程は、吸着パッド74を介してセパレータ3を吸着し、所定領域の上方に搬送する搬送工程と、所定領域の周囲で上方に向けて延在する組立シャフト57に沿って、セパレータ3を位置決めしながら下降する下降工程と、セパレータ3の下面が所定領域で積層済みの他のセパレータ3の上面に当接すると、吸着パッド74の吸着を解除する吸着解除工程と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータとを、所定領域で交互に積層して、セル積層体を構成する積層工程を含む、燃料電池スタックの組立方法であって、
前記膜電極構造体および前記セパレータはいずれも積層体要素であり、
前記積層工程は、
吸着部を介して前記積層体要素を吸着し、前記所定領域の上方に搬送する搬送工程と、
前記所定領域の周囲で上方に向けて延在するガイド部材に沿って、前記積層体要素を位置決めしながら下降する下降工程と、
前記積層体要素の下面が前記所定領域で積層済みの他の積層体要素の上面に当接すると、前記吸着部の吸着を解除する吸着解除工程と、を含む燃料電池スタックの組立方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックの組立方法において、
前記積層工程は、さらに、前記ガイド部材を保持する第1位置と前記ガイド部材から離間する第2位置との間を移動可能に設けられた上下一対のガイド支持部である上ガイド支持部および下ガイド支持部を、前記下降工程における前記積層体要素の下降位置に応じて移動する移動工程を含み、
前記移動工程では、前記積層体要素が前記上ガイド支持部と前記下ガイド支持部との間の所定位置に下降するまで、前記上ガイド支持部を前記第2位置に、かつ、前記下ガイド支持部を前記第1位置に移動し、前記積層体要素が前記所定位置まで下降すると、前記上ガイド支持部を前記第1位置に、かつ、前記下ガイド支持部を前記第2位置に移動することを含む燃料電池スタックの組立方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池スタックの組立方法において、
前記下降工程では、アクチュエータの駆動によって移動するベース部に、上下方向に収縮可能な弾性体を介して前記吸着部を支持しながら、前記積層体要素を下降することを含む燃料電池スタックの組立方法。
【請求項4】
所定領域で積層体要素を積層して積層体を形成する積層装置であって、
前記積層体要素を吸着する吸着部を有し、昇降可能に設けられた可動体と、
前記所定領域の周囲で上方に向けて延設され、前記可動体の下降時の前記積層体要素の縁部の位置を規制するガイド部材と、
前記可動体を昇降するアクチュエータと、
前記吸着部および前記アクチュエータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記可動体が、前記積層体要素の下面が前記所定領域で積層済みの他の積層体要素の上面に当接する目標位置まで移動するように前記アクチュエータを制御するととともに、前記可動体が前記目標位置に移動すると、前記積層体要素の吸着を解除するように前記吸着部を制御することを特徴とする積層装置。
【請求項5】
請求項4に記載の積層装置において、
前記アクチュエータは第1アクチュエータであり、
前記ガイド部材を保持する第1位置と前記ガイド部材から離間する第2位置との間を移動可能に設けられた上下一対のガイド支持部である上ガイド支持部および下ガイド支持部と、
前記上ガイド支持部および前記下ガイド支持部を駆動する第2アクチュエータと、
前記積層体要素の下降位置を検出する位置検出部と、をさらに備え、
前記制御部は、さらに、前記位置検出部により検出された前記積層体要素の下降位置が前記上ガイド支持部と前記下ガイド支持部との間の所定位置に達するまでは、前記上ガイド支持部を前記第2位置に、かつ、前記下ガイド支持部を前記第1位置に移動し、前記所定位置に達すると、前記上ガイド支持部を前記第1位置に、かつ、前記下ガイド支持部を前記第2位置に移動するように前記第2アクチュエータを制御することを特徴とする積層装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の積層装置において、
前記可動体は、前記アクチュエータの駆動により昇降するベース部と、前記ベース部から弾性体を介して前記吸着部を上下方向に相対移動可能に支持する支持部と、をさらに有することを特徴とする積層装置。
【請求項7】
請求項4または5に記載の積層装置において、
前記吸着部の吸着面と同一平面上に延在する先端面を有し、前記吸着部を包囲する筒体をさらに備えることを特徴とする積層装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックの組立方法および燃料電池スタックの組立に用いることができる積層装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池に関する技術開発が行われている。このような燃料電池に関する技術として、従来より、ロボットのハンドに設けられた吸着パッドを介してセパレータを吸着した上で、ロボットによりセパレータを所定位置に搬送し、積層するようにした燃料電池スタックの組立方法が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の組立方法では、セパレータを突き当て部材に突き当てて位置決めした後、吸着を解除してセパレータを降ろしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のように、吸着を解除してセパレータを自由落下により降ろす方法では、セパレータに反りやうねりがある場合に、積層位置がずれて組立用のシャフトなどに引っ掛かり、積層が困難となるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータとを、所定領域で交互に積層して、セル積層体を構成する積層工程を含む、燃料電池スタックの組立方法であって、膜電極構造体およびセパレータはいずれも積層体要素であり、積層工程は、吸着部を介して積層体要素を吸着し、所定領域の上方に搬送する搬送工程と、所定領域の周囲で上方に向けて延在するガイド部材に沿って、積層体要素を位置決めしながら下降する下降工程と、積層体要素の下面が所定領域で積層済みの他の積層体要素の上面に当接すると、吸着部の吸着を解除する吸着解除工程と、を含む。
【0006】
本発明の他の態様は、所定領域で積層体要素を積層して積層体を形成する積層装置であって、積層体要素を吸着する吸着部を有し、昇降可能に設けられた可動体と、所定領域の周囲で上方に向けて延設され、可動体の下降時の積層体要素の縁部の位置を規制するガイド部材と、可動体を昇降するアクチュエータと、吸着部およびアクチュエータを制御する制御部と、を備える。制御部は、可動体が、積層体要素の下面が所定領域で積層済みの他の積層体要素の上面に当接する目標位置まで移動するようにアクチュエータを制御するととともに、可動体が目標位置に移動すると、積層体要素の吸着を解除するように吸着部を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セパレータに反りやうねりがある場合であっても、組立用のシャフトなどに引っ掛かることなく、セパレータを精度よく積層することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法が適用される燃料電池スタックの全体構成を概略的に示す斜視図。
【
図2A】
図1の燃料電池スタックに含まれるセパレータの平面図。
【
図2B】
図1の燃料電池スタックに含まれる電極アッセンブリの平面図。
【
図3】セパレータの積層時に生じる課題を説明する図。
【
図4】本発明の実施形態に係る積層装置を概略的に示す側面図。
【
図6】
図4の吸着パッドの要部構成を拡大して示す断面図。
【
図7A】吸着パッドでの吸着によりセパレータのうねりが矯正された状態を示す図。
【
図7B】吸着パッドでの吸着によりセパレータの反りが矯正された状態を示す図。
【
図8】本発明の実施形態に係る積層装置の制御構成を示すブロック図。
【
図9A】
図8のECUで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図10A】本発明の実施形態に係る積層装置の動作の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図10Dを参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法により組み立てられた、燃料電池スタック100の概略構成を示す斜視図である。燃料電池スタック100は、燃料電池の主たる要素を構成する。燃料電池は、例えば車両に搭載され、車両駆動用の電力を発生することができる。燃料電池は、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することもできる。
【0010】
図1には、互いに直交する3軸方向を、便宜上、X方向、Y方向およびZ方向で示す。X方向は、燃料電池スタック100を構成する複数の発電セル1の積層方向であり、例えば車両の前後方向、左右方向または上下方向に相当する。
図1に示すように、燃料電池スタック100は、セル積層体10と、セル積層体10のY方向両端部に配置されたエンドユニット20と、セル積層体10を包囲するケース30と、を有し、全体が略直方体形状を呈する。
【0011】
ケース30は、セル積層体10のY方向に沿って延在する4つの側面に対向した4つの側壁300を有し、全体が略ボックス状に構成される。ケース30のY方向両端面は開放され、これら開放面はエンドユニット20で覆われる。
図1のA部には、ケース30の側壁300の一部を破断して示す。
図1のA部に示すように、セル積層体10は、複数の発電セル1(便宜上、単一のセル1のみ示す)をY方向に積層して構成される。
【0012】
発電セル1は、電解質膜と電極とを含む接合体を有する電極アッセンブリ2と、電極アッセンブリ2のY方向両側に配置され、電極アッセンブリ2を挟持するセパレータ3と、を有する。電極アッセンブリ2とセパレータ3とは、Y方向に交互に配置される。
【0013】
図2Aは、セパレータ3の平面図である。
図2Aに示すように、セパレータ3は、断面が波板状の前後一対の金属製の薄板31,32を有し、これら一対の薄板31,32の外周部同士を接合して一体に構成される。セパレータ3には耐腐食性に優れた導電性の材料が用いられ、例えばチタン、チタン合金、ステンレス等を用いることができる。一対の薄板31,32は、セパレータ3の内部に冷却媒体(例えば水)が流れる冷却流路を形成するようにプレス成形などによって凹凸状に形成され、冷却媒体の流れにより発電セル1の発電面が冷却される。
【0014】
薄板31の表面を凹凸状に形成することにより、セパレータ3の薄板31と電極アッセンブリ2との間に、X方向に沿って水素を含む燃料ガスが流れるアノード流路が形成される。薄板32の表面を凹凸状に形成することにより、セパレータ3の薄板32と電極アッセンブリ2との間に、X方向に沿って酸素を含む酸化剤ガスが流れるカソード流路が形成される。
【0015】
セパレータ3のX方向一端部および他端部には、セパレータ3を貫通する複数の貫通孔3a~3cおよび3d~3fがそれぞれZ方向に並んで開口される。セパレータ3のZ方向一端部および他端部には、それぞれ樹脂製のタブ35が溶接やロウ付けなどで接合され、セパレータ3の縁部からはZ方向一方および他方に向けてそれぞれタブ35が突設される。タブ35は、平面視略矩形状を呈し、その中央部に、積層時のセパレータ3の位置決め用の貫通孔35aが開口される。一対のタブ35は、X方向に互いに異なる位置に設けられる。
【0016】
図2Bは、電極アッセンブリ2の平面図である。
図2Bに示すように、電極アッセンブリ2は、膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)21と、膜電極接合体の周囲を支持する樹脂製のフレーム22と、を有する。膜電極接合体21は、電解質膜と、電解質膜のY方向一方側のアノード流路に対向して設けられたアノード電極と、電解質膜のY方向他方側のカソード流路に対向して設けられたカソード電極とを有する。膜電極接合体21を、膜電極構造体と呼ぶこともある。電解質膜は、例えば固体高分子電解質膜である。アノード電極は、電解質膜の表面に形成された触媒層と触媒層の外側に形成されたガス拡散層とを有する。カソード電極も、電解質膜の表面に形成された触媒層と触媒層の外側に形成されたガス拡散層とを有する。
【0017】
アノード電極では、アノード流路およびガス拡散層を介して供給された燃料ガス(水素)が、触媒の作用によってイオン化され、電解質膜を通過してカソード電極側へ移動する。このとき生じた電子は、外部回路を通過し、電気エネルギとして取り出される。カソード電極では、カソード流路およびガス拡散層を介して供給された酸化剤ガス(酸素)と、アノード電極から導かれた水素イオンおよびアノード電極から移動した電子とが反応し、水が生成される。生成された水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水は電極アッセンブリ2の外部へ排出される。
【0018】
電極アッセンブリ2のX方向一端部および他端部には、フレーム22を貫通する複数の貫通孔2a~2cおよび2d~2fがそれぞれZ方向に並んで開口される。貫通孔2a~2fは、セパレータの貫通孔3a~3fにそれぞれ連通するように設けられる。セル積層体10(
図1)を形成する際、単一の電極アッセンブリ2は単一のセパレータ3に溶着または接着等により一体に接合され、予め一組の単位セルが形成される。そして、単位セルの積層が行われる。そのため、電極アッセンブリ2のフレーム22には、セパレータ3と異なり、積層時の位置決め用のタブは設けられない。
【0019】
図1におけるY方向一方側および他方側のエンドユニット20はいずれも、セル積層体10のY方向外側に配置されたターミナルプレートと、ターミナルプレートのY方向外側に配置された絶縁プレートと、絶縁プレートのY方向外側に配置されたエンドプレートとを有する。ターミナルプレートは、金属製の略矩形状の板状部材であり、セル積層体10で電気化学反応により生成された電力を取り出すための端子部を有する。絶縁プレートは、非導電性を有する樹脂製またはゴム製の略矩形状の板状部材であり、ターミナルプレートとエンドプレートとを電気的に絶縁する。エンドプレートは、金属製または高強度に構成された樹脂製の板状部材である。
【0020】
Y方向一方側のエンドユニット20には、X方向一端部および他端部に、エンドユニット20を貫通する複数の貫通孔20a~20cおよび20d~20fがZ方向に並んで開口される。貫通孔20aは、セル積層体10の内部に燃料ガスを供給するための貫通孔である。貫通孔20bは、セル積層体10から外部に冷却媒体を排出するための貫通孔である。貫通孔20cは、セル積層体10から外部に酸化剤ガスを排出するための貫通孔である。貫通孔20dは、セル積層体10の内部に酸化剤ガスを供給するための貫通孔である。貫通孔20eは、セル積層体10の内部に冷却媒体を供給するための貫通孔である。貫通孔20fは、セル積層体10から外部に燃料ガスを排出するための貫通孔である。
【0021】
セル積層体10の左右方向両端部には、貫通孔20a~20fに連通するようにY方向に延在する複数の流路(マニホールド)が形成される。これら流路は、
図2A、
図2Bの貫通孔3a~3f,2a~2fの集合によって形成される。これら流路を介して、セル積層体10の内部のアノード流路とカソード流路には、それぞれ反応ガスとして燃料ガスと酸化剤ガスとが導かれ、発電セル1で発電が行われる。また、セル積層体10の内部の冷却流路に冷却媒体が導かれ、発電面が冷却される。なお、図示は省略するが、一対のエンドユニット20には、タブ35の貫通孔35aに対応する位置に貫通孔が開口される。
【0022】
以上のように構成された燃料電池スタック100の組立方法は、概略すると以下のようになる。まず、組立台から上方に突設された組立シャフトに沿って、組立台上にY方向一端側のエンドユニット20を搭載する。そして、エンドユニット20の上方に、セパレータ3と電極アッセンブリ2とを交互に所定枚数だけ積層する(積層工程)。より詳しくは、単一のセパレータ3に単一の電極アッセンブリ2を接合してなる一組の単位セルを、組立シャフトをタブ35の貫通孔35aに挿通して単位セルを位置決めしながら、所定組数だけ積層する。積層工程の最後には、Y方向他端側のエンドユニット20を積層し、これにより加圧前の積層体を形成する。
【0023】
次いで、加圧機を用いて積層体に上方から加圧力を付与し、積層体を積層方向に縮める(加圧工程)。上下のエンドユニット20間の長さが所定長さになると、積層体に圧縮荷重が付加されたまま、エンドユニット20間の長さが所定長さに保持されるように、ボルトを用いてエンドユニット20に連結部材を締結する。例えば上下のエンドユニット20に、連結部材としてケース30の上下両端部を固定する(締結工程)。これにより、所定長さのセル積層体10が形成される。次いで、セル積層体10を含む全体を持ち上げて、セル積層体10を組立シャフトから離脱する(離脱工程)。最後に、エンドユニット20に穿設された組立シャフト用の貫通孔を塞いで、燃料電池スタック100を外部からシールする。
【0024】
ところで、セパレータ3は薄板によって構成されるため、セパレータ全体に反りやうねりが生じるおそれがある。また、セパレータ3に接合されたタブ35が曲がるおそれもある。その場合には、
図3に示すように、タブ35の貫通孔35aと組立シャフト57とが平行状態にないため、積層工程においてタブ35の貫通孔35aが組立シャフト57に引っ掛かり、セパレータ3(単位セル)のスムーズな積層(矢印A方向の移動)を行うことができないおそれがある。そこで、単位セルのスムーズな積層を行うことができるよう、本実施形態は以下のように構成する。
【0025】
本実施形態に係る燃料電池スタック100の組立方法は、特に積層工程に特徴がある。単位セルの積層は、積層装置を用いて行われる。
図4は、本発明の実施形態に係る積層装置50の全体構成を示す概略的に示す図である。以下では、図示のように上下左右方向を定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。上下方向は重力方向であり、
図1のY方向(積層方向)に相当する。左右方向は
図1のZ方向に相当する。
【0026】
図4に示すように、積層装置50は、組立台55と、組立台55の上方で動作するロボット60と、ロボット60に取り付けられた吸着ユニット70と、組立台55の左右側方に設けられた左右一対のグリップ装置80とを有する。
図4では、グリップ装置80の上方に吸着ユニット70が位置し、かつ、吸着ユニット70によりセパレータ3が吸着された状態を示す。なお、以下では、積層装置50を用いて積層されるセパレータ3を、すなわち積層対象であるセパレータ3を、ワークと呼ぶことがある。
【0027】
組立台55は、略水平に配置された基台56と、基台56の上面から上方に延在する左右一対の組立シャフト57とを有する。組立シャフト57は略円柱形状であり、その上端部は上方に向かうに従い徐々に径が細くなる。これにより、タブ35の貫通孔35aに組立シャフト57を容易に挿通できる。
【0028】
ロボット60は、アーム61,62とアーム62の先端部に設けられたハンド63とを有する多関節型の産業用ロボットである。アーム61とアーム62とは回動軸60aを介して回動可能に連結され、アーム62とハンド63とは回動軸60bを介して回動可能に連結される。なお、ロボット60の構成(アームの個数など)は図示したものに限らない。アーム61,62とハンド63とは、例えば回動軸60a,60bに設けられたサーボモータなどのロボット用アクチュエータの駆動により回動し、これによりハンド63の位置および姿勢が変化する。ロボット用アクチュエータは、ECU(
図8)により制御される。
【0029】
図5は、吸着ユニット70を上方から見た図(
図4の矢視V図)である。
図4,
図5に示すように、吸着ユニット70は、ハンド63に固定されたベースプレート71と、ベースプレート71の下方にベースプレート71に対し略平行に配置された可動プレート72と、ベースプレート71から可動プレート72を支持するプレート支持部73と、可動プレート72に支持された複数の吸着パッド74とを有する。
【0030】
図5に示すように、ベースプレート71は、平面視略矩形状を呈し、その中央部がハンド63に固定される。可動プレート72は、ベースプレート71よりも一回り大きい平面視略矩形状を呈し、可動プレート72の前後両端部はベースプレート71よりも前後方向外側に突出し、可動プレート72の左右両端部はベースプレート71よりも左右方向外側に突出する。可動プレート72の周縁部の形状は、セパレータ3の周縁部(
図2A)の形状とほぼ同一である。したがって、可動プレート72の左右両端部には、セパレータ3のタブ35と同様、左右方向に突出する突出部75が設けられる。突出部75には、タブ35と同様、上下方向に貫通孔75aが設けられる。
【0031】
図4、
図5に示すように、プレート支持部73は、ベースプレート71の4つの角部の近傍にそれぞれ設けられる。プレート支持部73は、ベースプレート71の上面から上方に突出されたケース731と、ベースプレート71を貫通して上下方向に延在するロッド732と、ベースプレート71と可動プレート72との間に介装されたばね733とを有する。ケース731は、上面が閉塞され、かつ、下面が開放された筒体である。
【0032】
ロッド732の下端部は可動プレート72に固定され、上端部はケース731に上下動可能に挿入される。なお、図示は省略するが、プレート支持部73には、ロッド732の上端部がケース731の外側に移動しないようにロッド732の上方および下方への移動を制限する移動制限部(下方移動制限部、上方移動制限部)が設けられる。移動制限部は、例えばロッド732の外周面から突出したロッド側突起と、ケース731の内周面の上下2箇所から突出したケース側突起とにより構成することができる。すなわち、上下のケース側突起の間にロッド側突起を配置し、ロッド側突起がケース側突起に当接することで、ロッド732の上下方向の移動を制限することができる。ロッド732は、可動プレート72の重力により、初期時点では下方に引っ張られ、ケース内を下方に最大に移動した当接した初期位置にある。なお、移動制限部の構成は上述したものに限らない。
【0033】
ばね733は、例えばロッド732を包囲して設けられたコイルばね(より詳しくは圧縮コイルばね)である。ばね733の下端面は可動プレート72の上面に当接し、上端面はベースプレート71の下面に当接する。これにより、可動プレート72は、ばね733を介してベースプレート71から上下動可能に支持され、ばね733を縮退しながらベースプレート71と可動プレート72とが接近可能である。
【0034】
図5に示すように、吸着パッド74は、ベースプレート71の前後方向外側および左右方向外側において可動プレート72の下面に取り付けられる。より詳しくは、可動プレート72の前後方向両端部に、左右方向に並んで複数の吸着パッド74が設けられるとともに、突出部75に、貫通孔75aを挟んで前後一対の吸着パッド74が設けられる。吸着パッド74の配置はこれに限らず、可動プレート72の左右両端部(突出部75以外)にさらに吸着パッド74を設けられてもよい。
【0035】
図6は、吸着パッド74の構成を概略的に示す断面図である。
図6に示すように、吸着パッド74は、略円筒形状のパッド部741と、パッド部741の上端部が固定される略リング状のパッド支持部742とを有する。パッド部741は、ゴムや樹脂などの弾力性を有する部材によって構成される。パッド支持部742は、例えば金属によって構成される。
【0036】
吸着パッド74の周囲には、吸着パッド74を包囲するように略円筒形状の金属製のパイプ76が配置される。パイプ76の外周面は段付き状に構成され、パイプ76の上側の外周面に、ねじ部が設けられる。可動プレート72には貫通孔72aが開口される。貫通孔72aは例えばねじ孔であり、パイプ76の上端部はねじ孔に螺合して貫通孔72aから上方に突出する。パイプ76の外周面にはナット761が螺合し、これによりパイプ76が可動プレート72に固定される。パイプ76の上端部には、不図示の継手を介して配管77が接続される。
【0037】
吸着パッド74のパッド支持部742は、パイプ76の内周面に気密に固定される。例えばパッド支持部742の外周面とパイプ76の内周面とにそれぞれねじ部を設け、パッド支持部742を所定位置まで螺合した後、周面がシールされてパイプ76に固定される。なお、パッド支持部742を溶接などによってパイプ76の内周面に固定してもよく、シール材を介して内周面に固定してもよい。パイプ76の上端部を、貫通孔72aを通過することなく可動プレート72の下面に固定するようにしてもよい。この場合、可動プレート72の貫通孔72aを通過するようにパッド支持部742を構成するとともに、パッド支持部742の上端部を、ナット761などを介して可動プレート72に固定するようにしてもよい。
【0038】
吸着パッド74のパッド部741の外周面は、パッド支持部742の外周面よりも小径であり、パッド部741の外周面とパイプ76の内周面との間には隙間がある。パッド部741の下端面は吸着面741aであり、吸着面741aはパイプ76の下端面(先端面)76aと同一面上に位置する。吸着パッド74の内部には、パッド支持部742の上端面から吸着面741aにかけて、吸着パッド全体を上下方向に貫通する内部通路74aが設けられる。内部通路74aは、パイプ76および配管77を介して真空発生器に連通する。
【0039】
真空発生器がオンして内部通路74aが真空状態になると、ワーク(セパレータ3)に対して吸着力が作用し、ワークを吸着することができる。真空発生器がオフすると、吸着力が除去され、吸着面からワークを離脱することができる。真空発生器のオンオフは、真空発生器と内部通路74aとを接続する流路の途中に設けられた電磁弁の開閉を含む。真空発生器のオンオフ(例えば電磁弁の開閉)は、ECU(
図8)により制御される。
【0040】
本実施形態では、吸着パッド74の周囲に金属製のパイプ76を設けるので、吸着パッド74でセパレータ3(ワーク)を吸着した際に、セパレータ3の反りやうねりなどの撓みを矯正することができる。例えば
図7Aに示すように、セパレータ3にうねりがある場合、タブ35の上端面が吸着パッド74により吸着されると、吸着力によってタブ35の上端面がパイプ76の下端面76aの全面に密接する。また、
図7Bに示すように、セパレータ3に反りがある場合にも、タブ35の上端面が吸着パッド74により吸着されると、吸着力によってタブ35の上端面がパイプ76の下端面76aの全面に密接する。
【0041】
これにより、セパレータ3の反りやうねりが矯正されて、左右のタブ35の上端面が同一水平面状に位置するようになる。その結果、セパレータ3が全体的に均一な水平姿勢となる。これにより、
図3と異なり、組立シャフト57の上方から、セパレータ3のタブ35の貫通孔35aに、組立シャフト57をスムーズに挿通することができる。
図5に示すように、吸着パッド74は、可動プレート72の周縁部に設けられるが、セパレータ3のタブ35に対応する位置には、貫通孔75aを挟んで一対の吸着パッド74が互いに接近して設けられる。このため、タブ35に水平姿勢となるような強い矯正力を付与することができ、貫通孔35aと組立シャフト57との引っ掛かりを確実に防ぐことができる。
【0042】
図4に示すように、左右一対のグリップ装置80はそれぞれ、上グリップ81と、上グリップ81の所定距離L1だけ下方に配置された下グリップ82とを有する。上グリップ81と下グリップ82の構成は互いに等しい。
図5には、グリップ装置80として、左右一対の上グリップ81の平面図が示される。なお、下グリップ82の平面図も
図5に示したものと同一である。
【0043】
図5に示すように、グリップ装置80は、吸着ユニット70の左右方向外側に固定的に配置されたブラケット83と、ブラケット83から左右方向内側に向けて突設された前後一対のレバー84とを有する。レバー84は、略直方体形状を呈し、上下方向に延在するピン85を介して、ブラケット83の端部に回動可能に支持される。
図5の実線は、レバー84の閉位置(閉姿勢)を示す。閉位置では、一対のレバー84の端面84b同士が互いに当接する。この端面84bは、組立シャフト57(
図4)を把持する把持面であり、把持面84bには、組立シャフト57の位置および形状に対応して、上下方向にわたって略半円形状ないし略三角形状の凹部84aが設けられる。閉位置では、組立シャフト57が一対の凹部84aの内側に挟まれて保持される。
【0044】
図5の二点鎖線は、レバー84の開位置(開姿勢)を示す。開位置では、一対のレバー84が閉位置から前後方向外側に約90°回動する。これにより、組立シャフト57からレバー84が離間し、突出部75の左右方向外側の端面よりもレバー84が左右方向外側に退避する。その結果、グリップ装置80と干渉することなく、吸着ユニット70が昇降可能となる。レバー84は、グリップ用アクチュエータの駆動により回動(開閉)する。グリップ用アクチュエータは、レバー84を閉位置と開位置との間で回動する空圧シリンダなどのアクチュエータである。グリップ用アクチュエータは、ECU(
図8)により制御される。
【0045】
図8は、積層装置50の制御構成を示すブロック図である。
図8に示すように、積層装置50は、ECU90と、ECU90にそれぞれ通信可能に接続された角度センサ91と、ロボット用アクチュエータ92と、グリップ用アクチュエータ93と、真空発生器94とを有する。
【0046】
角度センサ91は、ロボット60の回動軸60a,60bの回転角を検出するセンサであり、ロータリーエンコーダやレゾルバにより構成される。角度センサ91からの信号に基づいてハンド63の位置および姿勢を検出(算出)することができ、これによりハンド63と一体のベースプレート71の位置および姿勢を検出できる。
【0047】
ECU90は、CPU,ROM,RAMおよびその他の周辺回路を有するコンピュータを含んで構成される電子制御ユニットである。ECU90は、角度センサ91からの信号に基づいて、吸着装置70の現在位置、例えば吸着パッド74の吸着面74aの位置を検出(算出)する。そして、吸着面74aの現在位置に基づいて、ロボット用アクチュエータ92およびグリップ用アクチュエータ93を制御するとともに、真空発生器94をオンまたはオフする。なお、真空発生器94のオンオフ制御には、真空発生器94と吸着パッド74の内部通路74aとを接続する流路の途中に設けられた電磁弁の開閉制御が含まれる。
【0048】
吸着面74aの位置検出に関し、予めECU90のメモリには、ロボット60のハンド63と吸着面74aとの位置関係(ハンド63から吸着面74aまでの3軸方向の相対距離)が記憶される。そして、ECU90は、角度センサ91からの信号に基づいてロボット60のハンド61の基準点(例えば基台56の上面の中心点)からの3次元位置を算出するとともに、この3次元位置に予め記憶された、ハンド63から吸着面74aまでの相対距離を加算することで、基準点に対する吸着面74aの位置、すなわちケース731内をロッド732が下方に最大移動した初期位置を検出する。この場合の吸着面74aの位置には、基台56から吸着面74aまでの高さが含まれる。
【0049】
図9A,
図9Bは、予め定められたプログラムに従いECU90で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えば基台56の上面にエンドユニット20が搭載された後、単位セル(一組の電極アッセンブリ2とセパレータ3)の積層開始が指令されると開始され、単位セルの所定枚数の積層が終了するまで繰り返される。処理が開始される初期時点では、グリップ装置80の上グリップ81が開放され、下グリップ82が閉鎖されている。また、初期時点では、吸着ユニット70が初期位置に位置する。初期位置では、吸着ユニット70が、積層用の単位セルが保管されたトレイ(不図示)の上方に位置する。
【0050】
図9Aに示すように、ECU90は、まず、ステップS1で真空発生器94をオンする。これにより吸着パッド74に吸着力が作用し、セパレータ3(単位セル)が吸着される。より詳しくは、可動プレート72の突出部75の貫通孔75aの位置を、セパレータ3のタブ35の貫通孔35aの位置に一致させた状態で、セパレータ3が吸着される。このとき、セパレータ3の上面(タブ35の上端面など)がパイプ76の下端面76aに密接することで、セパレータ3のうねりや反りが矯正される(
図7A,
図7B)。このため、セパレータ全体を水平姿勢に保持できる。
【0051】
次いで、ステップS2で、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、角度センサ91からの信号に基づき吸着ユニット70(例えば吸着面74a)の現在位置を把握しながら、吸着ユニット70を予め定められた下降開始位置に移動する(搬送工程)。下降開始位置は、例えば
図4に示す位置である。下降開始位置では、吸着されたセパレータ3のタブ35の貫通孔35aが組立シャフト57の上方に位置する。より厳密には、貫通孔35aと貫通孔75aの中心線が、組立シャフト57の中心線の延長線上に位置する。次いで、ステップS3で、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、角度センサ91からの信号に基づき吸着ユニット70の現在位置を把握しながら、吸着ユニット70(吸着パッド74)の前後方向および上下方向の位置を一定に保ったまま、吸着ユニット70を下降させる(下降工程)。
【0052】
これにより、
図10Aに示すように、セパレータ3(厳密には電極アッセンブリ2と一体の単位セル)が矢印A1方向に移動し、セパレータ3のタブ35の貫通孔35aに組立シャフト57が挿通されながら、セパレータ3が組立シャフト57に沿って下降する。この段階では、組立シャフト57は下グリップ82により保持されているので、長尺の組立シャフト57の撓みが防止される。このため、セパレータ3の貫通孔35aが組立シャフト57に引っ掛からずに、セパレータ3はスムーズに下降することができる。また、上グリップ81のレバー84は開位置であるため、セパレータ3は上グリップ81に干渉することなく、上グリップ81の下方まで下降できる。
【0053】
次いで、ステップS4で、ECU90は、角度センサ91からの信号に基づき吸着ユニット70が所定位置に到達したか否かを判定する。換言すると、ECU90は、
図10Bに示すように、セパレータ3(吸着面74a)が基台56から所定高さH1だけ上方である所定位置に到達したか否かを判定する。所定位置は、セパレータ3が上グリップ81の下方かつ下グリップ82の上方となる位置である。所定位置では、セパレータ3や吸着ユニット70と干渉することなく、上下のグリップ81,82を開閉することが可能である。ステップS4で否定されるとステップS3に戻り、吸着ユニット70の下降を継続する。ステップS4で肯定されるとステップS5に進む。
【0054】
ステップS5では、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、吸着ユニット70の下降を停止する。次いで、ステップS6で、ECU90は、上グリップ81のグリップ用アクチュエータ93に制御信号を出力し、
図10Bに示すように、上グリップ81のレバー84を閉位置に移動する(移動工程)。次いで、ステップS7で、ECU90は、下グリップ82のグリップ用アクチュエータ93に制御信号を出力し、
図10Bに示すように、下グリップ82のレバー84を開位置に移動する(移動工程)。
【0055】
次いで、ステップS8で、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、角度センサ91からの信号に基づき吸着ユニット70の現在位置を把握しながら、吸着ユニット70(例えば吸着パッド74)の前後方向および上下方向の位置を一定に保ったまま、吸着ユニット70を下降させる。これにより、
図10Bの矢印A2に示すように、セパレータ3が組立シャフト57に沿って下降する。この段階では、組立シャフト57が上グリップ81により保持されているので、長尺の組立シャフト57の撓みが防止される。このため、セパレータ3の貫通孔35aが組立シャフト57に引っ掛からずに、セパレータ3はスムーズに下降できる。また、下グリップ82のレバー84は開位置であるため、セパレータ3は下グリップ82に干渉することなく、
図10Cに示すように、下グリップ82の下方まで下降できる。
【0056】
次いで、ステップS9で、ECU90は、角度センサ91からの信号に基づき吸着ユニット70が目標位置に到達したか否か、すなわち、セパレータ3が
図10Cの矢印A3方向へ移動することにより、セパレータ3が目標位置に到達したか否かを判定する。目標位置は、
図10Dに示すように、既に積層された積層体(積層工程が完了する前の積層体であり、これを完成前積層体と呼ぶ)10Aの上面位置に相当し、基台56から目標高さH2だけ上方の位置が目標位置となる。ECU90は、積層済みのセパレータ3の枚数(完成前積層体10Aの枚数)に基づいて、さらに、完成前積層体10Aの重力による全体の押しつぶれ量を考慮して、目標高さH2を算出するとともに、目標位置を算出する。
【0057】
より具体的には、予めECU90のメモリには、セパレータ3の1枚当たりの厚さ(厳密には単位セルの1組当たりの厚さ)が記憶されるとともに、セパレータ3の積層数と押しつぶれ量との関係が記憶される。この関係を用いて、目標高さH2を算出する。
目標高さH2は、セパレータ3が積層される度に高くなる。
【0058】
セパレータ3の厚みには誤差があるため、算出された目標位置は、実際の完成前積層体10Aの上面位置と異なることがある。その場合、完成前積層体10Aの上面が、吸着パッド74により吸着されたセパレータ3を介してロボット60により押圧されるおそれがある。この場合には、ベースプレート71と可動プレート72との間のばね733が縮退される。これにより、吸着パッド74、吸着パッド74に吸着されたセパレータ、および完成前積層体10Aに、過大な押し付け荷重が作用することを防止することができる。また、セパレータ3の厚みの誤差をばね733で吸収できるため、ECU90が目標位置を精度よく算出する必要はない。
【0059】
ステップS9で否定されるとステップS8に戻り、吸着ユニット70の下降を継続する。ステップS9で肯定されるとステップS10に進む。ステップS10では、ECU90は、真空発生器94に制御信号を出力し、真空発生器94をオフする。これにより吸着パッド74によるセパレータ3の吸着が解除される(吸着解除工程)。この場合、セパレータ3が完成前積層体10Aの上面に当接した後に吸着が解除されるので、セパレータ3は自由落下せず、セパレータ3を精度よく位置決めした状態で完成前積層体10Aの上面に良好に積層できる。以上のステップS1~ステップS10の処理が、セパレータ3(単位セル)を積層するまでの処理である。
【0060】
次いで、
図9BのステップS11に進み、吸着ユニット70を初期位置に戻す処理が開始される。ステップS11では、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、吸着ユニット70を上昇させる。このとき、下グリップ82のレバー84は開位置であるため、吸着ユニット70は下グリップ82と干渉することなく下グリップ82の上方まで移動できる。次いで、ステップS12で、吸着ユニット70が所定位置に到達したか否かを判定する。この判定は、ステップS4と同様の判定であり、所定位置は、上グリップ81と下グリップ82との間の位置に設定される。ステップS12が否定されると、ステップS11に進み、吸着ユニット70の上昇が継続される。ステップS12が肯定されると、ステップS13に進む。
【0061】
ステップS13では、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、吸着ユニット70の上昇を停止する。次いで、ステップS14で、ECU90は、下グリップ82のグリップ用アクチュエータ93に制御信号を出力し、下グリップ82のレバー84を閉位置に移動する。次いで、ステップS15で、ECU90は、上グリップ81のグリップ用アクチュエータ93に制御信号を出力し、上グリップ81のレバーを閉位置に移動する。このとき、可動プレート72は下グリップ82と上グリップ81の間に位置するため、可動プレート72と上下のグリップ81,82とが干渉することなく、グリップ81,82を開閉することができる。
【0062】
次いで、ステップS16で、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、吸着ユニット70を上昇させる。このとき、上グリップ81のレバー84は開位置であるので、吸着ユニット70(可動プレート72)が上グリップ81と干渉することなく、吸着ユニット70は上昇できる。次いで、ステップS17で、ECU90は、角度センサ91からの信号に基づき吸着ユニット70が所定の離脱位置まで上昇したか否かを判定する。離脱位置は、可動プレート72が組立シャフト57の上端よりも上方に移動して、貫通孔75aが組立シャフト57から離脱する位置である。離脱位置を、ステップS2の下降開始位置と同一位置に設定してもよい。
【0063】
次いで、ステップS18で、ECU90は、ロボット用アクチュエータ92に制御信号を出力し、吸着ユニット70をトレイの上方の初期位置に移動する。以上で、積層工程の1サイクルが終了する。以降、所定枚数のセパレータ3(単位セル)が積層されるまで、同一の処理が繰り返される。
【0064】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料電池スタックの組立方法は、電解質膜と電極とを含む電極アッセンブリ2(膜電極構造体)と、セパレータ3とを、所定領域である基台56上で交互に積層して、セル積層体10を構成する積層工程を含む。積層工程は、吸着パッド74を介してセパレータ3(厳密には電極アッセンブリ2が一体に設けられた単位セル)を吸着し、所定領域の上方に搬送する搬送工程(ステップS2)と、所定領域の周囲で上方に向けて延在する組立シャフト57に沿って、セパレータ3を位置決めしながら下降する下降工程(ステップS3)と、セパレータ3の下面が所定領域で積層済みの他の積層体要素(完成前積層体10A)の上面に当接すると、吸着パッド74の吸着を解除する吸着解除工程(ステップS10)と、を含む(
図9A)。この組立方法では、組立シャフト57に沿ってセパレータ3を自由落下させるのではなく、完成前積層体10Aの上面に当接するまで、セパレータ3をロボット60が搬送する。このため、セパレータ3に反りやうねりがある場合であっても、セパレータ3の積層位置がずれることなく、精度よくセル積層体10を構成することができる。
【0065】
(2)積層工程は、さらに、組立シャフト57を保持する閉位置(第1位置)と組立シャフト57から離間する開位置(第2位置)との間を移動可能に設けられたレバー84を、上下一対のグリップ装置80を構成する上グリップ81および下グリップ82のレバー84を、下降工程におけるセパレータ3の下降位置に応じて移動する移動工程(ステップS6,ステップS7)を含む(
図9A)。移動工程では、セパレータ3が上グリップ81と下グリップ82との間の所定位置に下降するまで、上グリップ81のレバー84を開位置に、かつ、下グリップ82のレバー84を閉位置に移動する。そして、セパレータ3が所定位置まで下降すると、上グリップ81のレバー84を閉位置に、かつ、下グリップ82のレバー84を開位置に移動する(
図9A)。これにより、組立シャフト57に沿ったセパレータ3の下降時に、長尺の組立シャフト57が少なくとも上グリップ81および下グリップ82のいずれかで保持される。このため、組立シャフト57の撓みを防止することができ、組立シャフト57に沿ってセパレータ3をスムーズに目標位置まで下降させることができる。
【0066】
(3)下降工程では、ロボット用アクチュエータ92の駆動によって移動するベースプレート71に、上下方向に収縮可能なばね733を介して吸着パッド74を支持しながら、セパレータ3を下降する(
図10D)。これにより、セパレータ3を搬送するロボット60によって完成前積層体10Aに過大な荷重が作用することを防止することができる。このため、セパレータ3の積層位置に誤差がある場合であっても、セパレータ3を目標位置まで良好に下降させることができる。
【0067】
(4)積層装置50は、所定領域である基台56上でセパレータ3を積層してセル積層体10を形成するように構成される。この積層装置50は、セパレータ3を吸着する吸着パッド74を有し、昇降可能に設けられた吸着ユニット70と、所定領域の周囲で上方に向けて延設され、吸着ユニット70の下降時のセパレータ3の縁部の位置を規制する組立シャフト57と、ロボット60を介して吸着ユニット70を昇降するロボット用アクチュエータ92と、吸着パッド74による吸着を可能にする真空発生器94と、真空発生器94とロボット用アクチュエータ92とを制御するECU90と、を備える(
図4,
図8)。ECU90は、吸着ユニット70が、セパレータ3の下面が所定領域で積層済みの他の積層体要素(完成前積層体10A)の上面に当接する目標位置まで移動するようにロボット用アクチュエータ92を制御するととともに、吸着ユニット70が目標位置に移動すると、セパレータ3の吸着を解除するように真空発生器94を制御する(
図9A)。これにより、セパレータ3に反りやうねりがある場合であっても、セパレータ3を位置ずれすることなく、精度よくセル積層体10を構成することができる。
【0068】
(5)積層装置50は、組立シャフト57を保持する閉位置と組立シャフト57から離間する開位置との間を移動可能に設けられたレバー84を有する上下一対のグリップ装置80を構成する上グリップ81および下グリップ82と、上グリップ81および下グリップ82を開閉駆動するグリップ用アクチュエータ93と、セパレータ3の下降位置を検出する角度センサ91と、をさらに備える(
図8)。ECU90は、さらに、角度センサ91により検出されたセパレータ3の下降位置が上グリップ81と下グリップ82との間の所定位置に達するまでは、上グリップ81のレバー84を開位置に、かつ、下グリップ82のレバー84を閉位置に移動し、所定位置に達すると、上グリップ81のレバー84を閉位置に、かつ、下グリップ82のレバー84を開位置に移動するようにグリップ用アクチュエータ93を制御する(
図9A)。これにより組立シャフト57に沿ってセパレータ3を下降させるとき、組立シャフト57の撓みを防止することができ、セパレータ3を精度よく完成前積層体10Aの上面に搭載することができる。
【0069】
(6)吸着ユニット70は、ロボット用アクチュエータ92の駆動により昇降するベースプレート71と、ベースプレート71からばね733を介して吸着パッド74を上下方向に相対移動可能に支持するプレート支持部73と、をさらに有する(
図4)。これにより、ロボット60を用いて完成前積層体10Aの上面にセパレータ3を搭載する場合に、完成前積層体10Aに過大な荷重が作用することを防止することができる。
【0070】
(7)積層装置50は、吸着パッド74の吸着面741aと同一平面上に延在する下端面76aを有し、吸着パッド74を包囲するパイプ76をさらに備える(
図6)。これにより、セパレータ3の反りやうねりを矯正した状態で、セパレータ3を組立シャフト57に沿って下降させることができ、セパレータ3のスムーズな下降動作が可能である。
【0071】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。上記実施形態では、予め電極アッセンブリ2(膜電極構造体)とセパレータ3とを一体化して単位セルとした上で、セパレータ3を吸着するようにしたが、電極アッセンブリ2とセパレータ3とを一体化することなく、電極アッセンブリ2とセパレータ3を交互に吸着するようにしてもよい。すなわち、積層体要素としての膜電極構造体とセパレータのいずれか一方を吸着するようにしてもよく、双方を吸着するようにしてもよい。上記実施形態では、ECU90が真空発生器94のオンオフを制御することにより、吸着部としての吸着パッド74の動作を制御するようにした。つまり、ECU90と真空発生器94とを、吸着部を制御する制御部として用いたが、制御部の構成はこれに限らない。
【0072】
上記実施形態では、ガイド部材としての組立シャフト57を基台56の上面から立設したが、下側のエンドユニット20から立設するようにしてもよい。この場合、加圧工程の後、または締結工程の後、ガイド部材を上方から引き抜くようにしてもよい。上記実施形態では、組立シャフト57を略円柱形状に構成し、組立シャフト57がセパレータ3のタブ35の貫通孔35aに挿通されるようにしたが、ガイド部材はセパレータの縁部の位置を規制するものであればよく、円柱形状に限らない。例えセパレータ3の縁部に凹部または凸部を設け、これに係合するようにガイド部材を構成してもよい。ガイド部材をエンドユニット20の上面から上方に突設するとともに、燃料電池スタック100の要素としてケース30内に格納するようにしてもよい。
【0073】
上記実施形態では、基台56の周囲に組立シャフト57を立設し、基台上でセパレータ3などの積層体要素を積層するようにしたが、積層工程が行われる所定領域は上述したものに限らない。上記実施形態では、吸着ユニット70を昇降可能に設けたが、吸着部を有する可動体の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、ロボット用アクチュエータ92により吸着ユニット70を搬送および昇降するようにしたが、ロボット60を介さずに搬送および昇降するようにしてもよく、可動体を昇降するアクチュエータ(第1アクチュエータ)の構成は上述したものに限らない。
【0074】
上記実施形態では、開閉可能なレバー84を有する上下一対のグリップ装置80をガイド支持部として構成した。すなわち上グリップ81および下グリップをそれぞれ上ガイド支持部および下ガイド支持部として構成したが、ガイド支持部の構成は上述したものに限らない。したがって、第1位置はレバー84の閉位置でなくてもよく、第2位置はレバー84の開位置でなくてもよい。グリップ用アクチュエータ93(第2アクチュエータ)の構成も上述したものに限らない。
【0075】
上記実施形態では、角度センサ91からの信号に基づいてセパレータ3の下降位置を検出するようにしたが、他のセンサを用いて下降位置を検出してもよく、位置検出部の構成はこれに限らない。上記実施形態では、プレート支持部73を介して吸着パッド74をベースプレート71から相対移動可能に支持するようにした。すなわち、吸着ユニット70のベースプレート71(ベース部)から弾性体としてのばね733を介して吸着パッド74を上下方向に相対移動可能に支持するようにしたが、支持部の構成はこれに限らない。上記実施形態では、吸着パッド74を包囲するようにパイプ76を設けたが、筒体の構成は上述したものに限らない。
【0076】
上記実施形態では、積層装置50を用いて燃料電池スタック100のセル積層体10を構成するようにしたが、本発明の積層装置は、位置決めしながら積層体要素を積層して他の積層体を構成する場合にも同様に適用することができる。
【0077】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0078】
2 電極アッセンブリ、3 セパレータ、10 セル積層体、35 タブ、35a 貫通孔、50 積層装置、56 基台、57 組立シャフト、70 吸着ユニット、71 ベースプレート、73 プレート支持部、74 吸着パッド、76 パイプ、90 ECU、91 角度センサ、92 ロボット用アクチュエータ、93 グリップ用アクチュエータ、94 真空発生器、100 燃料電池スタック、733 ばね