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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131658
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】球形二重殻タンクの施工方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 88/04 20060101AFI20240920BHJP
   F17C 13/08 20060101ALI20240920BHJP
   E04H 7/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B65D88/04 B
F17C13/08 302A
E04H7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042064
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】門田 高明
(72)【発明者】
【氏名】松村 健彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 翔一
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA04
3E170AB29
3E170JA01
3E170JA05
3E170NA04
3E170NA10
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB11
3E172AB15
3E172BA06
3E172BB06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD05
3E172CA25
3E172DA03
3E172DA04
3E172DA14
3E172DA15
3E172DA17
(57)【要約】
【課題】球形二重殻タンクの施工において、内槽の仮設支持材から支持構造物への荷重移行、および支持構造物による荷重調整の工程の作業性を向上させる。
【解決手段】球形二重殻タンク1の施工方法は、外槽3の内面に複数の仮設支柱7を立設し、仮設支柱7の上に2内槽を構築し、複数の仮設支柱7の各々と内槽2との間に、油圧ジャッキ8を配置し、内槽2を複数の仮設支柱7によって支持させた状態で、油圧ジャッキ8を動作させて内槽2を揚重するとともに、これら油圧ジャッキ8の各々に加わる荷重を調整することで、内槽2を支持する荷重バランスを調整し、油圧ジャッキ8から内槽2を支持するハンガーロッド5に荷重移行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内槽と外槽とを有する球形二重殻タンクの施工方法であって、
前記外槽の内面に複数の仮設支持材を立設し、当該仮設支持材の上に前記内槽を構築し、
前記複数の仮設支持材の各々と前記内槽との間に、油圧ジャッキを配置し、
前記内槽を前記複数の仮設支持材によって支持させた状態で、前記油圧ジャッキを動作させて前記内槽を揚重するとともに、これら油圧ジャッキの各々に加わる荷重を調整することで、前記内槽を支持する荷重バランスを調整し、
前記油圧ジャッキから前記内槽を支持する支持構造物に荷重移行する、球形二重殻タンクの施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の球形二重殻タンクの施工方法において、
前記複数の仮設支持材は、前記外槽の下部の内面から上方へ立設された複数の仮設支柱であり、
前記内槽の下部が、前記複数の仮設支柱により支持された状態で構築される、球形二重殻タンクの施工方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の球形二重殻タンクの施工方法において、
前記支持構造物が、前記外槽の内面に設置された上部支持点と、前記内槽の外面に設置された下部支持点とを繋ぎ、前記内槽を吊り支持する複数のハンガーロッドである、球形二重殻タンクの施工方法。
【請求項4】
請求項3に記載の球形二重殻タンクの施工方法において、
前記荷重バランスの調整の後に、前記上部支持点と前記下部支持点との間の距離に応じて前記ハンガーロッドの長さ調整を行い、さらに、
前記ハンガーロッドの上端を前記上部支持点へ、下端を前記下部支持点へそれぞれ取り付け、
前記荷重移行は、前記ハンガーロッドの前記取り付けの後の、前記油圧ジャッキの荷重抜きにより実現される、球形二重殻タンクの施工方法。
【請求項5】
請求項3に記載の球形二重殻タンクの施工方法において、
前記ハンガーロッドには荷重センサが付設され、
前記油圧ジャッキの荷重抜きの後に、前記荷重センサの計測結果に基づき前記複数のハンガーロッドによる前記内槽の支持状態をチェックし、
前記複数のハンガーロッドの前記荷重バランスが不適切であるとき、少なくとも一部の前記ハンガーロッドの長さを再調整する、球形二重殻タンクの施工方法。
【請求項6】
請求項2に記載の球形二重殻タンクの施工方法において、
前記油圧ジャッキを配置するために、前記仮設支柱に付設された第1ブラケットと、前記仮設支柱による前記内槽の支持位置とは異なる位置において、前記第1ブラケットと対向するように前記内槽の外面に付設された第2ブラケットとの間に、前記油圧ジャッキを介在させる、球形二重殻タンクの施工方法。
【請求項7】
請求項1に記載の球形二重殻タンクの施工方法において、
前記球形二重殻タンクが、液化水素を貯蔵する前記内槽の容量が2000m以上のタンクである、球形二重殻タンクの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、球形の内槽と外槽とを備える球形二重殻タンクの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温の液化ガスを貯留する施設として、二重殻タンクが知られている。一般に二重殻タンクは、低温液化ガスを貯留する内槽と、前記内槽を取り囲む外槽と、前記内槽と前記外槽との間の断熱層とを含む。前記外槽の内部で前記内槽を支持する構造として、ロッドで前記内槽を吊り支持するハンガーロッド方式が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53-124317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハンガーロッド方式による施工では、外槽の内面に立設した仮設支持材上への内槽の組み立て、前記内槽の周囲に配設された複数のハンガーロッドへの荷重移行、および前記内槽をバランス良く支持するための前記複数のハンガーロッドの荷重調整の工程が必要となる。しかし、例えば前記内槽の容量が2000m程度以上の大型タンクの施工では、使用する作業治具や作業装置も大型化・大重量化し、前記荷重移行や前記荷重調整の作業が困難化する。
【0005】
本開示の目的は、内槽の仮設支持材から支持構造物への荷重移行、および支持構造物による荷重調整の工程の作業性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面に係る球形二重殻タンクの施工方法は、内槽と外槽とを有する球形二重殻タンクの施工方法であって、前記外槽の内面に複数の仮設支持材を立設し、当該仮設支持材の上に前記内槽を構築し、前記複数の仮設支持材の各々と前記内槽との間に、油圧ジャッキを配置し、前記内槽を前記複数の仮設支持材によって支持させた状態で、前記油圧ジャッキを動作させて前記内槽を揚重するとともに、これら油圧ジャッキの各々に加わる荷重を調整することで、前記内槽を支持する荷重バランスを調整し、前記油圧ジャッキから前記内槽を支持する支持構造物に荷重移行する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、内槽の仮設支持材から支持構造物への荷重移行、および支持構造物による荷重調整の工程の作業性を向上させる球形二重殻タンクの施工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の施工方法の施工対象となる球形二重殻タンクの一部破断側面図である。
図2図2は、本開示の球形二重殻タンクの施工方法の一実施形態に係る施工手順を示す、工程チャートである。
図3図3は、内槽を仮支持する仮設支柱の配置を示す球形二重殻タンクの平面図である。
図4図4は、前記仮設支柱の配置を示す球形二重殻タンクの側断面図である。
図5図5は、図4に示す仮設支柱の拡大図である。
図6図6は、ハンガーロッド単体の拡大図を含む、前記ハンガーロッドによる内槽の支持状態を示す球形二重殻タンクの側断面図である。
図7図7は、ハンガーロッドおよびスウェイロッドの取り付け状況を示す球形二重殻タンクの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本開示に係る球形二重殻タンクの施工方法の実施形態を詳細に説明する。本開示の施工方法の施工対象となる球形二重殻タンクは、低温の液化ガスを貯留するタンクであって、内槽および外槽からなる二重殻構造を備えた球形のタンクである。施工された球形二重殻タンクに貯留される液化ガスは、例えば液化水素、液体ヘリウム、液体窒素、液化天然ガス又は液化石油ガスなどの低温液化ガスである。
【0010】
[タンク構造]
図1は、本開示の施工方法の施工対象となる球形二重殻タンク1の一部破断側面図である。球形二重殻タンク1は、極低温の液化ガスを貯留するタンクであって、球形の二重殻構造を備えたタンク本体10と、タンク基礎GLに立設されタンク本体10を支持するタンク支柱4とを含む。タンク本体10は、低温液化ガスを貯留する貯留空間を有する球形の内槽2と、内槽2を同心状に取り囲む球形の外槽3と、内槽2と外槽3との間の真空断熱層11とを含む。本実施形態では、内槽2は、液化水素を貯蔵し、容量が2000m以上、例えば容量が2500m~10000mクラスの大型タンクを想定している。
【0011】
内槽2は、実際に低温液化ガスを貯留する槽であって、ステンレス鋼板等の金属で構成された密閉体である。内槽2は、内槽トップクラウン2A、内槽アッパーリング2B、内槽センターリング2C、内槽ロアーリング2Dおよび内槽ボトムクラウン2Eからなる。内槽トップクラウン2A、内槽ボトムクラウン2Eは、それぞれ内槽2の上端部分、下端部分を構成する球冠である。内槽アッパーリング2Bは内槽2の上層領域、内槽センターリング2Cは内槽2の赤道領域、内槽ロアーリング2Dは内槽2の下層領域を各々構成する球帯である。これら球冠および球帯は、球体の一部を構成する球面を持つ複数枚のパネルを、突き合わせ溶接等により一体化してそれぞれ組み立てられ、前記球冠と前記球帯、もしくは前記球帯同士も突き合わせ溶接等により一体化される。内槽2は、真空断熱層11となる所定間隔の空間を置いて外槽3によって取り囲まれている。
【0012】
外槽3は、炭素鋼等の金属で構成された密閉体である。外槽3は、内槽2と同様に、球面を持つ複数枚のパネルの組立体からなる、外槽トップクラウン3A、外槽アッパーリング3B、外槽センターリング3C、外槽ロアーリング3Dおよび外槽ボトムクラウン3Eにより構成されている。外槽トップクラウン3A、外槽ボトムクラウン3Eは、それぞれ外槽3の上端部分、下端部分を構成する球冠である。外槽アッパーリング3Bは外槽3の上層領域、外槽センターリング3Cは外槽3の赤道領域、外槽ロアーリング3Dは外槽3の下層領域を各々構成する球帯である。
【0013】
真空断熱層11は、外槽3と内槽2との間隙を真空断熱空間として利用し、内槽2の保冷性を高めるための層である。内槽2の周囲が真空断熱空間とされることで、内槽2に貯留される低温液化ガスが極低温の液化水素であっても、BOR値を所定の低レートに抑制することが可能となる。真空断熱層11は、粉体断熱材又は固体断熱材を含んでいても良い。例えば、粒状パーライトやグラスウール等の断熱材が真空断熱層11に充填されていても良い。
【0014】
タンク支柱4は、タンク基礎GLから鉛直方向に立設された金属柱である。タンク基礎GLは、少なくともタンク支柱4の立設箇所に打設されたコンクリート層である。タンク支柱4は、タンク本体10を周方向に所定ピッチで取り囲むように、複数本が立設されている。隣接するタンク支柱4をブレースで連結して、強度補強を図ることが望ましい。
【0015】
外槽3は、その赤道付近でタンク支柱4にて支持されている。内槽2は、ハンガーロッド方式で外槽3に吊り支持されている。詳しくは、外槽センターリング3Cの内面には外槽ハンガーブラケット31(上部支持点)が設置され、内槽ロアーリング2Dの外面には内槽ハンガーブラケット21(下部支持点)が設置されている。これらブラケット21、31を繋ぐように、ハンガーロッド5(支持構造物)が架設されている。ハンガーロッド5は、内槽2の赤道方向の周囲に複数本が均等に配置され、各々が外槽ハンガーブラケット31を吊り支点、内槽ハンガーブラケット21を支持点として、内槽2を吊り支持している。
【0016】
従来、ハンガーロッド方式による球形二重殻タンク1の施工では、
・工程1)外槽3の内面に立設した仮設支持材上へ、内槽2を組み立てる工程、
・工程2)チェーンブロック等の揚重設備で内槽2を吊り上げ、内槽2と外槽3とをハンガーロッド5で繋いで、仮設支持材からハンガーロッド5へ荷重移行する工程、
・工程3)内槽2をバランス良く吊り支持するため、複数のハンガーロッド5の各々に加わる荷重を調整する工程、
が順次実行されていた。
【0017】
しかし、例えば内槽2の容量が2000m程度以上の大型タンクの施工では、上掲の従来方式を採用すると種々の問題が生じることが判明した。例えば、内槽2の大型化により重量も増加することから、揚重能力の小さい(10t以下)チェーンブロックを用いた場合、多数個のチェーンブロックの配置が必要となり、その配置作業に多くの労力を要する。他方、揚重能力の大きい(10t以上)チェーンブロックを採用した場合、その重量が100kgを超過するため、真空断熱層11に相当する狭隘な空間への人力での搬入出作業、ハンドリングが困難となる。
【0018】
また、内槽2の大重量化に伴い、ハンガーロッド5自体が大型化するとともに、荷重移行後の荷重調整が困難となる。前記荷重調整は、ハンガーロッド5に装備されているターンバックルを回転させてロッド長さを調整する作業となる。しかし、内槽2の吊り荷重が加わった状態での人力でのターンバックルの回転操作は、非常に困難である。このため、再び荷重を仮設支持材に移した上でターンバックルの回転操作を行い、ハンガーロッド5のロッド長を調整するという作業が必要となり、調整作業が繁雑化する。とりわけ、荷重移行前の内槽2のバランスが悪いと、ターンバックルの操作作業が多くなり、より作業手間が増加する。さらに、チェーンブロックによる揚重位置は、内槽2の赤道付近であり、ハンガーロッド5の吊り位置と重複する。チェーンブロックおよびハンガーロッド5が共に大型化している上に、両者の作業位置がタンク高さ方向で重なることとなり、狭隘空間での作業性がより悪化する。本開示に係る球形二重殻タンク1の施工方法は、以上のような問題を解消することを企図している。
【0019】
[球形二重殻タンクの施工方法]
図2は、本実施形態に係る球形二重殻タンク1の施工方法の具体的な施工手順の一例を示す工程チャートである。前記施工方法は、次の工程S1~S11を含む。
・工程S1;タンク基礎GLの構築のための基礎工事およびタンク支柱4の建方。
・工程S2;外槽3の下部組み立て。
・工程S3;内槽2を仮支持する仮設支柱7の外槽3への取り付け。
・工程S4;内槽2の組み立ておよび外槽3の上部組み立て。
・工程S5;ハンガーロッド5を架設するためのブラケットの取り付け。
・工程S6;油圧ジャッキ8による内槽2のジャッキアップ準備および内槽2の揚重。
・工程S7;油圧ジャッキ8間の内槽2の支持荷重の調整。
・工程S8;ハンガーロッド5の長さの調整および取り付け。
・工程S9;ハンガーロッド5の長さ調整により初期軸力を導入確認。
・工程S10;油圧ジャッキ8からハンガーロッド5へ荷重移行しながら、ハンガーロッド5の軸力確認、規定外の場合はジャッキアップ後ロッド長さの再調整。
・工程S11;スウェイロッド6の取り付け作業。
以下、上記の工程S1~S11の各々について説明する。なお、本開示の要点に係る工程については詳述するが、その他の工程は簡略的に説明する。
【0020】
<工程S1>
工程S1では、図1に示したタンク基礎GLの構築のため、タンク本体10の設置予定箇所の下方にコンクリートを打設する。また、タンク基礎GLから鉛直方向に立設されるように、所要本数のタンク支柱4の建方が行われる。このほか、外槽3の下部を構築するための足場が組み立てられる。
【0021】
<工程S2>
工程S2では、外槽3の中層~下層部分に相当する、外槽センターリング3C、外槽ロアーリング3Dおよび外槽ボトムクラウン3Eの組み立てが行われる。先ず、タンク支柱4で直接支持される外槽センターリング3Cが組み立てられる。具体的には、タンク支柱4の上端に外槽センターリング3Cを構成する分割片パネルを取り付けながら、外槽センターリング3Cを構成する球帯を組み立てる。前記分割片パネルの各々は、外槽3の球径に沿うように曲げ加工が施されている。続いて、外槽ロアーリング3Dを構成する分割片パネルを、それぞれ外槽センターリング3Cの下方に取り付けることで、外槽ロアーリング3Dを構成する球帯を組み立てる。そして、球冠状の外槽ボトムクラウン3Eが組み立てられると共に、当該外槽ボトムクラウン3Eが外槽ロアーリング3Dの下面に取り付けられる。
【0022】
<工程S3>
工程S3では、外槽3の下部を構成する外槽ロアーリング3Dの内面に、内槽2を仮支持する仮設支柱7(仮設支持材)が立設される。図3は、仮設支柱7の配置を示す球形二重殻タンクの平面図、図4は、仮設支柱7の立設状態を示す側断面図である。仮設支柱7は、内槽2の内槽ロアーリング2Dを直接支持可能な位置に、複数本が配設される。図3では、球帯をなす内槽ロアーリング2Dの円周方向に、9本の仮設支柱7が均等間隔を置いて配設された例が示されている。なお、仮設支柱7の立設位置は、タンク支柱4による外槽3の支持位置よりも下方を構成する外槽3の下部であれば良い。
【0023】
図3および図4には、内槽2の外面に設置された内槽ハンガーブラケット21(下部支持点)、内槽スウェイブラケット22および仮支持ブラケット23(第2ブラケット)と、外槽3の内面に設置された外槽ハンガーブラケット31(上部支持点)および兼用ブラケット32(上部支持点)とが示されている。なお、内槽ハンガーブラケット21が実際に取り付けられるのは、後の工程S5である。
【0024】
内槽ハンガーブラケット21は、内槽ロアーリング2Dの上端付近であって、タンク支柱4の配設位置と対向する位置に取り付けられている。仮支持ブラケット23は、内槽ハンガーブラケット21よりもやや下方の位置であって円周方向に異なる位置において、内槽ロアーリング2Dに取り付けられている。内槽スウェイブラケット22は、内槽2の赤道付近に取り付けられている。外槽ハンガーブラケット31および兼用ブラケット32は、外槽3の赤道付近に、円周方向に均等間隔を置いて配設されている。これらブラケット31、32の配設位置は、タンク支柱4の配設位置と一致している。
【0025】
内槽ハンガーブラケット21と外槽ハンガーブラケット31または兼用ブラケット32とは、内槽2を吊り支持させるためのブラケットであり、両者間にはハンガーロッド5が架設される。図3のラインL1は、ハンガーロッド5が架設されるラインを示している。内槽スウェイブラケット22と兼用ブラケット32とは、内槽2の横振れを抑制するために水平方向に張架されるスウェイロッド6を取り付けるためのブラケットである。図3のラインL2は、スウェイロッド6が架設されるラインを示している。つまり、兼用ブラケット32は、ハンガーロッド5およびスウェイロッド6の双方の、外槽3側の取り付け位置を提供するブラケットである。
【0026】
仮設支柱7の詳細構造を説明する。図5は、図4に示す仮設支柱7の拡大図である。仮設支柱7は、剛性を有する金属からなり、主柱71、補助柱72およびジャッキ受け台73(第1ブラケット)を含む。主柱71は、外槽3の下部二面から鉛直上方に立設され、内槽2の垂直荷重を受ける柱材である。主柱71は、外槽ロアーリング3Dの内面に溶接される下端711と、仮支持ブラケット23が当接する上端フランジ712とを備える。補助柱72は、主柱71の傾倒を抑止する方杖である。補助柱72は、外槽ロアーリング3Dの内面に溶接される下端721と、主柱71の上端付近に溶接される上端722とを備える。図3に示すように、補助柱72は、上面視でV字型を呈するように、一本の主柱71に対して2本が取り付けられている。
【0027】
ジャッキ受け台73は、内槽2を揚重する油圧ジャッキ8を据え付ける台座を提供するために、主柱71に付設されたブラケットである。ジャッキ受け台73は、主柱71の上端付近から側方に突出しており、その上面に油圧ジャッキ8が搭載される平坦な座面74を有している。ジャッキ受け台73は、V字型に配設された一対の補助柱72の間において、主柱71に溶接されている。
【0028】
内槽2側の仮支持ブラケット23は、仮設支柱7の各々に対向するように、内槽ロアーリング2Dの外面に付設されている。仮支持ブラケット23は、支持片231およびジャッキアップ片232を含む。支持片231は、仮設支柱7の主柱71により支持される、側面視で略三角形の部材である。支持片231は、主柱71の上端フランジ712に対向する受けフランジ233を下方側に、内槽ロアーリング2Dへの取り付け代となる取り付け片234を上方側に有している。上端フランジ712と受けフランジ233とは縁切りされており、仮設支柱7が内槽2の荷重を受けているときでも、両者は単に接面しているだけである。取り付け片234は、内槽ロアーリング2Dの外面の曲面に沿う内面を有する板材であり、内槽ロアーリング2Dの外面に溶接される。
【0029】
ジャッキアップ片232は、支持片231からタンク径方向外側に突出するように、支持片231に溶接されたブラケットである。ジャッキアップ片232は、仮設支柱7による内槽2の支持位置となる支持片231と異なる位置であって、ジャッキ受け台73と対向する位置に配置されている。ジャッキアップ片232は、ジャッキ受け台73の座面74と正対する平面からなる受圧フランジ235を有している。油圧ジャッキ8は、受圧フランジ235と座面74との間に介在され、受圧フランジ235は油圧ジャッキ8から揚重の反力を受ける面となる。なお、仮設支柱7およびジャッキアップ片232は、用済み後に撤去される。
【0030】
<工程S4>
工程S4では、仮設支柱7を利用した内槽2の組み立てと、外槽3の上部の組み立てとが行われる。先ず、仮設支柱7の上に内槽ロアーリング2Dが組み立てられる。内槽ロアーリング2Dには、仮支持ブラケット23が溶接される。続いて、内槽ロアーリング2Dを支持体として、内槽ボトムクラウン2Eおよび内槽センターリング2Cが順次組み立てられる。さらに、組み立ての済んだ内槽2の半球体の内部に溶接作業用の内面足場が組み立てられた後、内槽アッパーリング2Bおよび内槽トップクラウン2Aが順次組み立てられ、内槽2の組み立てを終える。所要本数のハンガーロッド5およびスウェイロッド6の内外槽間への取り入れを終えた後、外槽アッパーリング3Bおよび外槽トップクラウン3Aが順次組み立てられる。これにより、外槽3の組み立ても完了する。
【0031】
<工程S5>
工程S5では、ハンガーロッド5(およびスウェイロッド6)を架設するためのハンガーブラケットの取り付けが行われる。先ず、外槽センターリング3Cの内面であって外槽3の赤道位置に、外槽ハンガーブラケット31および兼用ブラケット32が溶接される。これらブラケット31、32の取り付け高さ位置を基準レベルとして、仮設支柱7に支持された内槽2とタンク支柱に支持された外槽3との相対高さレベル差が求められる。このレベル差を埋めるように、内槽2のジャッキアップ高さが決定される。仮設支柱7による仮支持高さにジャッキアップ高さを加えた高さが、概ね内槽2の据え付け高さとなる。
【0032】
ジャッキアップ高さの決定後、内槽ハンガーブラケット21の取り付け位置の調整が行われる。例えば、外槽ハンガーブラケット31にハンガーロッド5の上端を吊り下げた状態として、内槽ロアーリング2Dに対する内槽ハンガーブラケット21の上下方向および円周方向の位置を決定する。この決定の後、内槽ハンガーブラケット21が内槽ロアーリング2Dの外面に溶接される。図4は、外槽ハンガーブラケット31が外槽3に、内槽ハンガーブラケット21が内槽2に、それぞれ取り付けられた状態を示している。
【0033】
<工程S6>
工程S6では、内槽2のジャッキアップのため、各仮設支柱7と内槽2の仮支持ブラケット23との間に油圧ジャッキ8を配置するジャッキアップ準備作業と、その後の油圧ジャッキ8による内槽2の揚重とが実行される。油圧ジャッキ8は、図5に示した通り、仮設支柱7に付設されたジャッキ受け台73の座面74と仮支持ブラケット23の受圧フランジ235との間に介在され、油圧ジャッキ8のラムが受圧フランジ235と対向した状態とされる。この段階では、まだ内槽2は仮設支柱7で支持された状態である。
【0034】
その後、油圧ジャッキ8を動作させて、内槽2をジャッキアップする。ジャッキアップに際しては、工程S5で決定したジャッキアップ高さ若しくはその近傍の高さに至るまで、各仮設支柱7に設置されている油圧ジャッキ8の全て(本実施形態では9台)を同時に動作させる。この動作により、内槽2の支持荷重は、仮設支柱7から油圧ジャッキ8に移行する。なお、所要のジャッキアップ高さまで内槽2を一気にジャッキアップしても良いが、一定高さ毎に実際の内槽2の揚重高さを確認しながらジャッキアップすることが望ましい。
【0035】
<工程S7>
工程S7では、内槽2をジャッキアップしている複数の油圧ジャッキ8の各々に加わる支持荷重を、個別に調整する荷重調整が行われる。この荷重調整の目的は、内槽2を支持する荷重バランスを調整することにある。具体的には、本実施形態では9箇所に設置された油圧ジャッキ8の支持荷重のバラツキが、所定の誤差範囲;例えば荷重バラツキが±10%以内に収まるように、それぞれの油圧ジャッキ8のジャッキアップ量が個別に調整される。好ましい実施形態としては、先の工程S6の一斉ジャッキアップで、工程S5で決定したジャッキアップ高さの直前の高さまで内槽2をジャッキアップし、残りのジャッキアップ高さ分を、各々の油圧ジャッキ8で支持荷重を確認しながら個別にジャッキアップさせる方法を例示できる。前記支持荷重は、例えば油圧ジャッキ8に備えられている圧力ゲージの表示値にて把握することができる。
【0036】
<工程S8>
工程S8では、工程S7の荷重調整後の状態において、内槽ハンガーブラケット21と外槽ハンガーブラケット31との間の距離に応じて、ハンガーロッド5の長さ調整が行われる。この長さ調整の後、ハンガーロッド5が内槽ハンガーブラケット21と外槽ハンガーブラケット31との間に取り付けられる。
【0037】
図6は、ハンガーロッド5単体の拡大図を含む、ハンガーロッド5による内槽2の支持状態を示す側断面図である。ハンガーロッド5は、ロッド本体51、上固定具52(上端)、下固定具53(下端)およびターンバックル54を含む。ロッド本体51の軸方向の長さは、ターンバックル54の正転または反転により調整が可能である。上固定具52は、外槽ハンガーブラケット31に固定され、下固定具53は内槽ハンガーブラケット21に固定される。上固定具52は、外槽ハンガーブラケット31の取り付け孔31H(図4)とピン結合される上ピン孔52Hを備える。下固定具53は、内槽ハンガーブラケット21の取り付け孔21Hとピン結合される下ピン孔53Hを備える。
【0038】
ロッド本体51には、ロードセル55(荷重センサ)が取り付けられている。ロードセル55は、ロッド本体51に加わる荷重に相当する軸力を計測するための歪みセンサである。図6では、模式的にロードセル55およびその計装ケーブルの配置状況を示しているが、実際にはロッド本体51の軸方向および周方向の多点にロードセル55が設置される。なお、ロードセル55は施工後にハンガーロッド5から取り外される。
【0039】
ハンガーロッド5の長さ調整に際し、図4に示される内槽ハンガーブラケット21の取り付け孔21Hと、外槽ハンガーブラケット31の取り付け孔31Hとの間の距離が計測される。この距離計測の手法に制限はないが、好ましい手法はハンガーロッド5を実際に使用して実測する手法である。図6に示すように、ハンガーロッド5の上固定具52が有する上ピン孔52Hと、外槽ハンガーブラケット31が有する取り付け孔31Hとを位置合わせし、上固定ピン52Pを挿入することで両者を連結する。これにより、ハンガーロッド5は、外槽ハンガーブラケット31に吊り下げられた状態となる。図6には、この状態のハンガーロッド5も図示されている。
【0040】
外槽ハンガーブラケット31に上端側を位置固定した状態で、ハンガーロッド5の下固定具53の下ピン孔53Hと、内槽ハンガーブラケット21の取り付け孔21Hとの位置が合うよう、ターンバックル54を回転させてロッド本体51の軸長を調整する。軸長の調整後、下ピン孔53Hおよび取り付け孔21Hを位置合わせして、下固定ピン53Pを挿入することで両者を連結する。この連結によって、図6に示すように、外槽ハンガーブラケット31と内槽ハンガーブラケット21との間が、ハンガーロッド5で橋絡された状態となる。
【0041】
<工程S9>
工程S9は、ハンガーロッド5の長さ調整を行い、初期軸力の導入確認を行う工程である。工程S9では、ブラケット21、31間に取り付けられた全てのハンガーロッド5の軸力を確認するとともに、軸力の大きなバラツキが生じないよう、ハンガーロッド5の長さが再調整される。ハンガーロッド5を実際の取り付け箇所に添い当ててロッド長さの調整を行い、内槽ハンガーブラケット21と下固定具53との取り合いを行っても、上下の固定ピン52P、53Pには一定の遊びがあるため、ロッド長さの再調整が必要となる。
【0042】
具体的には、外槽ハンガーブラケット31と内槽ハンガーブラケット21との間にハンガーロッド5を取り付けた後、ロッド本体51に装着されているロードセル55の計測値をチェックしながら、ターンバックル54を回転させてロッド長さの再調整を行う。例えば、ハンガーロッド5の自重を差し引いた初期軸力の範囲を予め定めておき、全てのハンガーロッド5が前記初期軸力を有する状態となるよう、各ハンガーロッド5のロッド長さが調整される。
【0043】
<工程S10>
工程S10では、内槽2を支持する構造体を、油圧ジャッキ8からハンガーロッド5へ移行する荷重移行が行われる。端的に言うと、油圧ジャッキ8の荷重抜きを行う作業、つまり油圧ジャッキ8のジャッキダウン作業である。単純に荷重移行を行うだけで問題の無い状況であれば、そのまま工程S10を終了しても良い。しかし、ジャッキダウン後にハンガーロッド5間で軸力の大きなバラツキが生じた場合、荷重バランスの調整作業は大きな軸力が導入された状態ではロッド長さの再調整は困難である。従って、再度のジャッキアップを行い、各ハンガーロッド5のロッド長さの再調整を実施する。ジャッキアップ及びロッド長さの再調整とは、この作業のことである。
【0044】
荷重バランス調整作業の一例を説明する。ここでは、段階的にジャッキダウンを行い、その都度ハンガーロッド5の軸力をチェックする手法を例示する。まず、第1次ジャッキダウンとして、内槽2を支持している全ての油圧ジャッキ8の圧力ゲージをチェックしながら、初期荷重の所定の一部(例えば1/4荷重)の荷重抜きが行われるよう、全油圧ジャッキ8を同時にジャッキダウンする。そこでジャッキダウンを一時停止し、全ハンガーロッド5の軸力をロードセル55の計測値にて確認する。つまり、ハンガーロッド5による内槽2の支持状態をチェックすることで、荷重バランスを確認する。
【0045】
全ハンガーロッド5の軸力のバラツキが規定値以内ならば、次の所定の一部の荷重抜きを行う第2次ジャッキダウンが実行される。一方、軸力のバラツキが規定値を超過し荷重バランスが不適切である場合、ジャッキダウン分の一部または全部を戻すように、全ての油圧ジャッキ8を再びジャッキアップする。これは、荷重が付加された状態では、ハンガーロッド5のターンバックル54を回せないからである。その後、ハンガーロッド5の軸力を確認しながら、ターンバックル54を適宜回転させて、ロッド長さを調整する。例えば、軸力が大きすぎるハンガーロッド5については、ロッド長さを長くする方向にターンバックル54を回転させる。
【0046】
ロッド長さの調整を終えたら、再び全油圧ジャッキ8を同時に、先の第1次ジャッキダウンと同じ分だけジャッキダウンする。その後、全ハンガーロッド5の軸力をロードセル55の計測値にて確認する。全ハンガーロッド5の軸力のバラツキが規定値以内に収まっているならば、第2次ジャッキダウンに移行する。未だに軸力のバラツキが規定値を超過しているならば、再度ジャッキアップしてロッド長さを再調整する。以下、同様にて段階的なジャッキダウン作業および必要に応じたジャッキアップ作業を繰り返し、最終的に油圧ジャッキ8が担持していた荷重を全てハンガーロッド5へ移行させる。
【0047】
<工程S11>
工程S11では、スウェイロッド6の取り付け作業が行われる。図7は、ハンガーロッド5およびスウェイロッド6の取り付け状況を示す球形二重殻タンク1の平面図である。スウェイロッド6の一端は外槽3の兼用ブラケット32に、他端は内槽2の内槽スウェイブラケット22に、それぞれ接続されている。スウェイロッド6も、図6に示したハンガーロッド5と同様の構成を備えており、ブラケット22、32間の距離に応じてロッド長さの調整が行われた上で、ブラケット22、32間に架設される。
【0048】
その後、油圧ジャッキ8およびその配管類の撤去、ハンガーロッド5からのロードセル55の回収、仮設支柱7の撤去等の作業が行われる。仮設支柱7は、主柱71の根元付近で切断して撤去される。仮支持ブラケット23のジャッキアップ片232も、切断して撤去される。この後にも、球形二重殻タンク1の施工ための作業は種々存在するが、本明細書では説明を省く。
【0049】
[本実施形態の施工方法の利点]
以上説明した本実施形態に係る球形二重殻タンク1の施工方法によれば、次のような利点を享受できる。本実施形態では、内槽2の支持するハンガーロッド5への荷重移行前に、油圧ジャッキ8で支持された状態において内槽2の荷重バランスが調整される。つまり、ハンガーロッド5に内槽2の荷重が加わる前に荷重バランスが調整されるので、作業の容易化を図ることができる。すなわち、球形二重殻タンク1が大型化し内槽2が大重量となれば、ハンガーロッド5自体が大型化し、その上に内槽2の支持荷重が加わっていると、ターンバックル54を回転させること自体が難しく、ロッド長さの調整が困難となる。本実施形態では、内槽2の荷重バランス調整を荷重移行作業に前置することで、ハンガーロッド5のロッド長さの調整作業を容易化できる。
【0050】
なお、上記実施形態では、工程S10において荷重移行後のロッド長さの再調整を行う例を示した。しかし、工程S7および工程S8の事前の荷重バランス調整によってハンガーロッド5の長さ調整を概ね終えているので、荷重移行後に一から荷重バランス調整を行う場合に比べて、大幅に作業負担を軽減できる。
【0051】
また、本実施形態では、揚重装置として油圧ジャッキ8が用いられる。油圧ジャッキ8は、チェーンブロック等に比べて揚重能力のわりに機器重量およびサイズが小さく、内外槽間の真空断熱層11が狭隘な空間であっても、大重量の内槽2の揚重作業を行い易い利点がある。従って、大型の球形二重殻タンク1であっても、その建設工事を効率的に進めることができる。なお、真空断熱層11の空間を広くすると大型のチェーンブロック等の作業装置の搬入出の作業性を改善し得る。しかし、真空断熱層11の空間を拡大すると、タンクサイズが大きくなって鋼板の使用量が増え、コストアップを招来するので好ましくない。
【0052】
さらに、複数の仮設支柱7が内槽2を下支えする構造であって、油圧ジャッキ8の配置位置は内槽2の下部である。このため、油圧ジャッキ8と内槽2を最終的に支持するハンガーロッド5とのタンク高さ方向の配置位置が明確に分かれる。つまり、ハンガーロッド5は赤道付近の外槽ハンガーブラケット31が揚重位置となり、油圧ジャッキ8は内槽2の下部が揚重位置となる。従って、真空断熱層11の空間において、ハンガーロッド5の関連作業の位置と、仮設支柱7および油圧ジャッキ8の関連作業の位置とが区分けされ、内外槽間の狭隘空間でも互いの作業空間を確保し易い利点がある。以上の利点より、内槽2の容量が2000m以上となるような大容量の球形二重殻タンク1であっても、本実施形態の適用により、当該タンクの建設工事の効率化を図ることができる。
【0053】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0054】
本開示の第1の態様に係る球形二重殻タンクの施工方法は、内槽と外槽とを有する球形二重殻タンクの施工方法であって、前記外槽の内面に複数の仮設支持材を立設し、当該仮設支持材の上に前記内槽を構築し、前記複数の仮設支持材の各々と前記内槽との間に、油圧ジャッキを配置し、前記内槽を前記複数の仮設支持材によって支持させた状態で、前記油圧ジャッキを動作させて前記内槽を揚重するとともに、これら油圧ジャッキの各々に加わる荷重を調整することで、前記内槽を支持する荷重バランスを調整し、前記油圧ジャッキから前記内槽を支持する支持構造物に荷重移行する。
【0055】
第1の態様によれば、内槽の支持構造物に内槽荷重が加わる荷重移行の前に荷重バランスを調整するので、荷重移行後に荷重バランス調整を行う場合に比べて作業の容易化を図ることができる。また、油圧ジャッキは、チェーンブロック等に比べて揚重能力のわりに機器重量およびサイズが小さく、内外槽間が狭隘な空間であっても、大重量の内槽の揚重作業を行い易い利点がある。従って、大型の球形二重殻タンクであっても、その建設工事を効率的に進めることができる。
【0056】
第2の態様に係る球形二重殻タンクの施工方法は、第1の態様の施工方法において、前記複数の仮設支持材は、前記外槽の下部の内面から上方へ立設された複数の仮設支柱であり、前記内槽の下部が、前記複数の仮設支柱により支持された状態で構築される。
【0057】
第2の態様によれば、複数の仮設支柱が内槽の下部を支持する構造体が構築されるので、油圧ジャッキの配置位置は内槽下部になる。このため、油圧ジャッキと内槽の支持構造物とのタンク高さ方向の配置位置を分けることができ、内外槽間の狭隘空間でも作業空間を確保し易い。
【0058】
第3の態様に係る球形二重殻タンクの施工方法は、第1または第2の態様の施工方法において、前記支持構造物が、前記外槽の内面に設置された上部支持点と、前記内槽の外面に設置された下部支持点とを繋ぎ、前記内槽を吊り支持する複数のハンガーロッドである。
【0059】
ハンガーロッドは上部支持点が揚重位置となり、油圧ジャッキは内槽下部が揚重位置となる。第3の態様によれば、ハンガーロッドおよび油圧ジャッキのそれぞれの作業位置をタンク高さ方向で明確に異ならせることができる。従って、内外槽間における互いの作業の交錯を回避し易い。
【0060】
第4の態様に係る球形二重殻タンクの施工方法は、第3の態様の施工方法において、前記荷重バランスの調整の後に、前記上部支持点と前記下部支持点との間の距離に応じて前記ハンガーロッドの長さ調整を行い、さらに、前記ハンガーロッドの上端を前記上部支持点へ、下端を前記下部支持点へそれぞれ取り付け、前記荷重移行は、前記ハンガーロッドの前記取り付けの後の、前記油圧ジャッキの荷重抜きにより実現される。
【0061】
第4の態様によれば、ハンガーロッドの長さ調整を、荷重バランスの調整が行われた後に行う。このため、ハンガーロッドの長さ調整自体で荷重バランスを取る作業に比べて、大幅に作業効率を高めることができる。
【0062】
第5の態様に係る球形二重殻タンクの施工方法は、第3の態様の施工方法において、前記ハンガーロッドには荷重センサが付設され、前記油圧ジャッキの荷重抜きの後に、前記荷重センサの計測結果に基づき前記複数のハンガーロッドによる前記内槽の支持状態をチェックし、前記複数のハンガーロッドの前記荷重バランスが不適切であるとき、少なくとも一部の前記ハンガーロッドの長さを再調整する。
【0063】
第5の態様によれば、荷重移行後の荷重バランスの調整を、荷重センサの計測結果の確認、その後のハンガーロッドの長さの再調整により、一層正確に行うことができる。
【0064】
第6の態様に係る球形二重殻タンクの施工方法は、第2の態様の施工方法において、前記油圧ジャッキを配置するために、前記仮設支柱に付設された第1ブラケットと、前記仮設支柱による前記内槽の支持位置とは異なる位置において、前記第1ブラケットと対向するように前記内槽の外面に付設された第2ブラケットとの間に、前記油圧ジャッキを介在させる。
【0065】
第6の態様によれば、第1および第2ブラケットが設置されるので、油圧ジャッキの配置作業を容易化できる。また、油圧ジャッキの支持状態を安定化できる利点もある。
【0066】
第7の態様に係る球形二重殻タンクの施工方法は、第1の態様の施工方法において、前記球形二重殻タンクが、液化水素を貯蔵する前記内槽の容量が2000m以上のタンクである。
【0067】
第7の態様によれば、内槽の容量が2000m以上とされる。このような大容量の球形二重殻タンクであっても、本開示の適用により、建設工事の効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 球形二重殻タンク
10 タンク本体
2 内槽
21 内槽ハンガーブラケット(下部支持点)
23 仮支持ブラケット(第2ブラケット)
3 外槽
31 外槽ハンガーブラケット(上部支持点)
32 兼用ブラケット(上部支持点)
4 タンク支柱
5 ハンガーロッド(支持構造物)
52 上固定具(上端)
53 下固定具(下端)
55 ロードセル(荷重センサ)
7 仮設支柱(仮設支持材)
73 ジャッキ受け台(第1ブラケット)
8 油圧ジャッキ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7