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特開2024-131662空間磁場測定システム、及び空間磁場測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131662
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】空間磁場測定システム、及び空間磁場測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/10 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01R33/10
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042072
(22)【出願日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 東京ビッグサイトで開催された「JIMA2022 第11回総合検査機器展」(開催期間:令和4年9月14日~16日)において、令和4年9月14日に展示された。 ポートメッセなごやで開催された「第5回名古屋EV・HV・FCV技術展(名古屋オートモティブワールド2022内)」(開催期間:令和4年10月26日~28日)において、令和4年10月26日に展示された。 東京ビッグサイトで開催された「第15回EV・HV・FCV技術展(オートモティブワールド2023内)」(開催期間:令和5年1月25日~27日)において、令和5年1月25日に展示された。
(71)【出願人】
【識別番号】591011775
【氏名又は名称】電子磁気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 成弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 一彦
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AA03
2G017AA08
2G017AB02
2G017AC08
2G017BA14
2G017BA15
2G017BA18
(57)【要約】
【課題】事前準備が容易で測定対象の制約が少ない空間磁場測定システムを提供する。
【解決手段】任意空間を走査可能な磁気プローブ装置2と、任意空間の空間磁場を表示する端末装置3と、を含む空間磁場測定システム1であって、磁気プローブ装置2は、1又は複数の3軸磁気センサ21からなる磁気センサ部12と、磁気センサ部12と一体に構成されたトラッキングカメラ20a及び慣性計測ユニット20bを含み、磁気センサ部12の位置及び姿勢を推定する自己位置推定部20と、を備え、端末装置3は、自己位置推定部20の推定値に基づいて3軸磁気センサ21の測定値を変換し、磁気センサ部12が走査した空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出する演算部30と、任意空間の3次元磁気ベクトルを表示する表示部33と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意空間を走査可能な磁気プローブ装置と、前記任意空間の空間磁場を表示する端末装置と、を含む空間磁場測定システムであって、
前記磁気プローブ装置は、
1又は複数の3軸磁気センサからなる磁気センサ部と、
前記磁気センサ部と一体に構成されたトラッキングカメラ及び慣性計測ユニットを含み、前記磁気センサ部の位置及び姿勢を推定する自己位置推定部と、を備え、
前記端末装置は、
前記自己位置推定部の推定値に基づいて前記3軸磁気センサの測定値を変換し、前記磁気センサ部が走査した空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出する演算部と、
前記任意空間の前記3次元磁気ベクトルを表示する表示部と、を備える、空間磁場測定システム。
【請求項2】
前記端末装置は、前記空間磁場のうち前記空間座標に依存しない磁気ベクトルを地磁気ベクトルとして前記3次元磁気ベクトルから差し引く、請求項1に記載の空間磁場測定システム。
【請求項3】
前記端末装置は、事前に取得した測定対象のオブジェクトデータに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、請求項1に記載の空間磁場測定システム。
【請求項4】
前記端末装置は、前記トラッキングカメラが取得した測定対象の画像に前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、請求項1に記載の空間磁場測定システム。
【請求項5】
前記端末装置は、前記自己位置推定部が生成した環境データに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、請求項1に記載の空間磁場測定システム。
【請求項6】
1又は複数の3軸磁気センサからなる磁気センサ部で任意空間を走査する磁気測定工程と、
前記磁気センサ部と一体に構成されたトラッキングカメラ及び慣性計測ユニットにより、前記磁気センサ部の位置及び姿勢を推定する自己位置推定工程と、
前記自己位置推定工程の推定値に基づいて前記3軸磁気センサの測定値を変換し、前記磁気センサ部が走査した空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出する演算工程と、
前記任意空間の前記3次元磁気ベクトルを表示する表示工程と、を含む、空間磁場測定方法。
【請求項7】
前記演算工程においては、前記任意空間の空間磁場のうち前記空間座標に依存しない磁気ベクトルを地磁気ベクトルとして前記3次元磁気ベクトルから差し引く、請求項6に記載の空間磁場測定方法。
【請求項8】
前記表示工程においては、事前に取得した測定対象のオブジェクトデータに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、請求項6に記載の空間磁場測定方法。
【請求項9】
前記表示工程においては、前記トラッキングカメラが取得した測定対象の画像に前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、請求項6に記載の空間磁場測定方法。
【請求項10】
前記表示工程においては、前記自己位置推定工程で生成した環境データに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、請求項6に記載の空間磁場測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間磁場測定システム、及び空間磁場測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の製品から発生する磁場を測定してノイズ源の特定や磁気干渉の解析等を行うため、対象物周辺の三次元空間の磁場分布を測定して可視化する空間磁場測定装置が使用される。
【0003】
このような空間磁場測定装置は、例えば特許文献1のように可動式のXYZステージにより磁気プローブを走査させる方法や、当該磁気プローブをロボットアームで三次元的に移動させる方法により、三次元空間の各測定位置における磁場と位置座標との対応データを測定することで実現することができる。しかし、これらの方法では、XYZステージやロボットアームの大きさ及び可動域による制限があるため、測定対象物の大きさに伴って装置も大型にしなければならず、軽量化、省スペース化、低価格化が妨げられてしまう。
【0004】
これに対し、例えば特許文献2乃至4の従来技術では、磁気プローブを手動で走査する空間磁場測定装置が開示されている。より具体的には、特許文献2乃至4に開示された従来技術では、磁気プローブで測定対象物の周辺空間を手動で走査すると共に、当該測定対象物と走査中の磁気プローブとを撮像するカメラを用いて、画像から算出された磁気プローブの測定位置及び角度とそのタイミングで測定された磁場との対応データで空間磁場の測定を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-190709号公報
【特許文献2】特開2013-238581号公報
【特許文献3】国際公開2009/028186号
【特許文献4】国際公開2014/002466号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術では、磁気プローブの位置座標、及び角度を特定するための磁気プローブの可動領域を事前に定義し、当該可動領域が画角内に収まるようカメラをセッティングするなど、磁気測定の事前準備が負担となる。また、測定対象が例えば鋼管内部や複雑な形状である場合など当該可動領域を撮像できるようにカメラをセッティングすることができない場合も生じ得る。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、事前準備が容易で測定対象の制約が少ない空間磁場測定システム、及び空間磁場測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、任意空間を走査可能な磁気プローブ装置と、前記任意空間の空間磁場を表示する端末装置と、を含む空間磁場測定システムであって、前記磁気プローブ装置は、1又は複数の3軸磁気センサからなる磁気センサ部と、前記磁気センサ部と一体に構成されたトラッキングカメラ及び慣性計測ユニットを含み、前記磁気センサ部の位置及び姿勢を推定する自己位置推定部と、を備え、前記端末装置は、前記自己位置推定部の推定値に基づいて前記3軸磁気センサの測定値を変換し、前記磁気センサ部が走査した空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出する演算部と、前記任意空間の前記3次元磁気ベクトルを表示する表示部と、を備える、空間磁場測定システムである。
【0009】
本発明の第1の態様に係る空間磁場測定システムによれば、磁気センサ部を備える磁気プローブ装置により任意空間を走査することで、磁気プローブ装置で走査された空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出することができる。このとき、空間磁場測定システムは、磁気センサ部と一体に構成されたトラッキングカメラ及び慣性計測ユニットにより磁気プローブ装置が自己の空間位置及び姿勢を推定することができるため、当該空間座標を取得するためのカメラ等の外部機器やそのセッティングが不要になる。また、空間磁場測定システムは、測定対象が例えば鋼管内部、隣接する2つの機器の隙間、又は複雑な形状の物体の近傍であって、外部から磁気プローブ装置を撮影することができない空間であっても、磁気プローブ装置をかざすことができれば磁気測定が可能になる。従って、本発明によれば、事前準備が容易で測定対象の制約が少ない空間磁場測定システムを提供することができる。
【0010】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記端末装置は、前記空間磁場のうち前記空間座標に依存しない磁気ベクトルを地磁気ベクトルとして前記3次元磁気ベクトルから差し引く、空間磁場測定システムである。
【0011】
本発明の第2の態様に係る空間磁場測定システムによれば、磁気センサ部で測定された空間磁場から地磁気成分を抽出してキャンセルすることにより、地磁気ノイズの影響が緩和された磁場測定が可能になる。
【0012】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記端末装置は、事前に取得した測定対象のオブジェクトデータに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、空間磁場測定システムである。
【0013】
本発明の第3の態様に係る空間磁場測定システムによれば、例えば測定対象の設計図面等のような既知のオブジェクトデータと、その周辺で測定・算出された3次元磁気ベクトルとの空間的な対応関係をクリアに可視化することができる。
【0014】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記端末装置は、前記トラッキングカメラが取得した測定対象の画像に前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、空間磁場測定システムである。
【0015】
本発明の第4の態様に係る空間磁場測定システムによれば、事前に測定対象の情報が無い場合であっても、磁気測定中のトラッキングカメラの画像と、当該画像の撮像タイミングで自己位置推定部により推定された空間座標とに基づいて、算出された3次元磁気ベクトルとの空間的な対応関係を可視化することができる。
【0016】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記端末装置は、前記自己位置推定部が生成した環境データに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、空間磁場測定システムである。
【0017】
本発明の第5の態様に係る空間磁場測定システムによれば、磁気プローブ装置の自己位置推定と共に環境データを生成するアルゴリズムを利用することにより、空間磁場の測定と測定対象の形状スキャンとを磁気プローブ装置の走査で同時に行うことができ、算出された3次元磁気ベクトルとの空間的な対応関係を正確に可視化することができる。
【0018】
<本発明の第6の態様>
本発明の第6の態様は、1又は複数の3軸磁気センサからなる磁気センサ部で任意空間を走査する磁気測定工程と、前記磁気センサ部と一体に構成されたトラッキングカメラ及び慣性計測ユニットにより、前記磁気センサ部の位置及び姿勢を推定する自己位置推定工程と、前記自己位置推定工程の推定値に基づいて前記3軸磁気センサの測定値を変換し、前記磁気センサ部が走査した空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出する演算工程と、前記任意空間の前記3次元磁気ベクトルを表示する表示工程と、を含む、空間磁場測定方法である。
【0019】
本発明の第6の態様に係る空間磁場測定方法によれば、磁気センサ部により任意空間を走査することで、走査された空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出することができる。このとき、磁気センサ部と一体に構成されたトラッキングカメラ及び慣性計測ユニットにより自己の空間座標を推定することができるため、当該空間座標を取得するためのカメラ等の外部機器やそのセッティングが不要になる。また、測定対象が例えば鋼管内部、隣接する2つの機器の隙間、又は複雑な形状の物体の近傍であって、外部から磁気センサ部を撮影することができない空間であっても、磁気センサ部をかざすことができれば磁気測定が可能になる。従って、本発明によれば、事前準備が容易で測定対象の制約が少ない空間磁場測定方法を提供することができる。
【0020】
<本発明の第7の態様>
本発明の第7の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記演算工程においては、前記任意空間の空間磁場のうち前記空間座標に依存しない磁気ベクトルを地磁気ベクトルとして前記3次元磁気ベクトルから差し引く、空間磁場測定方法である。
【0021】
本発明の第7の態様に係る空間磁場測定方法によれば、磁気センサ部で測定された空間磁場から地磁気成分を抽出してキャンセルすることにより、地磁気ノイズの影響が緩和された磁場測定が可能になる。
【0022】
<本発明の第8の態様>
本発明の第8の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記表示工程においては、事前に取得した測定対象のオブジェクトデータに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、空間磁場測定方法である。
【0023】
本発明の第8の態様に係る空間磁場測定方法によれば、例えば測定対象の設計図面等のような既知のオブジェクトデータと、その周辺で測定・算出された3次元磁気ベクトルとの空間的な対応関係をクリアに可視化することができる。
【0024】
<本発明の第9の態様>
本発明の第9の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記表示工程においては、前記トラッキングカメラが取得した測定対象の画像に前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、空間磁場測定方法である。
【0025】
本発明の第9の態様に係る空間磁場測定方法によれば、事前に測定対象の情報が無い場合であっても、磁気測定中のトラッキングカメラの画像と、当該画像の撮像タイミングで自己位置推定工程により推定された空間座標とに基づいて、算出された3次元磁気ベクトルとの空間的な対応関係を可視化することができる。
【0026】
<本発明の第10の態様>
本発明の第10の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記表示工程においては、前記自己位置推定工程で生成した環境データに前記3次元磁気ベクトルを重畳して表示する、空間磁場測定方法である。
【0027】
本発明の第10の態様に係る空間磁場測定方法によれば、自己位置推定と共に環境データを生成するアルゴリズムを利用することにより、空間磁場の測定と測定対象の形状スキャンとを磁気センサ部の走査で同時に行うことができ、算出された3次元磁気ベクトルとの空間的な対応関係を正確に可視化することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、事前準備が容易で測定対象の制約が少ない空間磁場測定システム、及び空間磁場測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る空間磁場測定システムの外観構成図である。
図2】磁気プローブ装置、及び端末装置の主要な内部構成を示すブロック図である。
図3】空間磁場測定システムの動作例を示すシーケンス図である。
図4】3次元磁気ベクトルの第1方向から見た場合の表示例である。
図5】3次元磁気ベクトルの第2方向から見た場合の表示例である。
図6】3次元磁気ベクトルの第3方向から見た場合の表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、又は省略などを行なっており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0031】
図1は、本発明に係る空間磁場測定システム1の外観構成図である。空間磁場測定システム1は、任意空間を走査可能な磁気プローブ装置2、及び当該任意空間の空間磁場を表示する端末装置3を含む。空間磁場測定システム1は、測定者が例えば電子機器等の測定対象周辺における三次元空間で磁気プローブ装置2を走査することで、端末装置3において当該三次元空間の磁場分布が可視化される。
【0032】
本実施形態に係る磁気プローブ装置2は、外観構成として、把持部10、基部11、磁気センサ部12、及び空間センサ部13を備える。尚、磁気プローブ装置2の各構成要素は、図1に示す配置に限定されるものではなく、同等の機能を備える限り様々な配置・形状とすることができる。
【0033】
把持部10は、測定者が磁気プローブ装置2を把持し易い形状に形成されている。基部11は、磁気プローブ装置2の後述する各機能モジュールを制御すると共に、電源スイッチ11a、及び複数の操作ボタン11bが設けられている。磁気センサ部12は、後述する複数の3軸磁気センサ(図1では図示を省略)がアレイ状に内蔵された平板状部材であり、本実施形態においては5×5の磁気センサアレイを構成している。空間センサ部13は、詳細を後述するように、磁気プローブ装置2の自己位置を推定するためのセンサ類が内蔵されている。
【0034】
端末装置3は、本実施形態においては汎用PCであり、空間磁場測定のためのアプリケーションを介して、磁気プローブ装置2との通信を行いながら空間磁場の演算処理及び可視化等を行う。
【0035】
続いて、磁気プローブ装置2、及び端末装置3の内部構成についてより詳細に説明する。図2は、磁気プローブ装置2、及び端末装置3の主要な内部構成を示すブロック図である。磁気プローブ装置2は、機能ごとのモジュールとして、自己位置推定部20、3軸磁気センサ21、操作部22、バッテリ23、制御部24、及びプローブ通信部25を含む。
【0036】
自己位置推定部20は、上記した空間センサ部13に内蔵されており、三次元空間における磁気プローブ装置2の位置及び姿勢の推定値を取得するためのトラッキングカメラ20a、及び慣性計測ユニット20bを含む。
【0037】
トラッキングカメラ20aは、本実施形態においては2台のカメラモジュールを含み、任意空間において走査される磁気プローブ装置2の周囲の映像を取得する。これにより、自己位置推定部20は、当該映像の変化から磁気プローブ装置2の三次元空間における移動量を逐次算出する。当該算出においては、例えばSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)等の公知のアルゴリズムを使用して自己位置推定を行うことができる。尚、SLAMアルゴリズムでは、自己位置推定と同時に周囲の環境データの作成を行うことができる。
【0038】
慣性計測ユニット20bは、IMU(Inertial Measurement Unit)とも呼ばれ、並進運動及び回転運動を検出する。慣性計測ユニット20bは、本実施形態においては、3軸速度センサ、3軸加速度センサ、及び3軸地磁気センサを含む9軸IMUが採用されている。自己位置推定部20は、これらの測定値に基づいて磁気プローブ装置2の三次元空間における姿勢(3軸方向の傾斜角)を算出することができる。尚、上記の自己位置推定部20は、慣性計測ユニット20bの測定データを併せて利用することにより自己位置推定の精度を向上させてもよい。
【0039】
3軸磁気センサ21は、3軸方向の空間磁場を測定するセンサ素子であり、1又は複数が上記した磁気センサ部12に内蔵される。本実施形態では、3軸磁気センサ21は、5×5のアレイとして構成され、それぞれのセンサにおいて3次元の空間磁場を独立して測定する。
【0040】
操作部22は、磁気プローブ装置2の電源のON/OFFを切り替える上記の電源スイッチ11a、及び磁気計測の開始/終了の切り替え操作や各種モードの選択等を行うための複数の操作ボタン11bを含む。尚、操作部22には、磁気プローブ装置2の状態を表示するためのLED等の表示機構を備えてもよい。
【0041】
バッテリ23は、把持部10に内蔵された充電式の電源装置であり、本実施形態においては制御部24を介して磁気プローブ装置2の各モジュールに電力を供給する。
【0042】
制御部24は、例えば公知のマイコン制御回路からなり、磁気プローブ装置2の全体の動作を管理する。より具体的には、制御部24は、測定者による操作部22からの入力操作に応じて、自己位置推定部20及び3軸磁気センサ21で逐次測定されるデータを取得し、プローブ通信部25を介して当該データを端末装置3に送信する。
【0043】
プローブ通信部25は、端末装置3との間で無線の双方向通信を行うための通信モジュールであり、例えばWi-Fi(無線LAN)やBluetooth(登録商標)等の通信手段を採用することができる。
【0044】
一方、端末装置3は、主要な機能ごとのモジュールとして、演算部30、端末通信部31、入力部32、表示部33、及び記憶部34を含む。
【0045】
演算部30は、空間磁場測定のためのアプリケーションを実行し、磁気プローブ装置2からのデータを処理することにより空間磁場を算出する。端末通信部31は、磁気プローブ装置2のプローブ通信部25との間で無線通信を行う通信モジュールである。入力部32は、例えばキーボードやマウスであり、測定者によりアプリケーションの操作や各種パラメータの設定等が行われる。表示部33は、例えばPC用ディスプレイであり、アプリケーションを介して演算部30が算出した任意空間の3次元磁気ベクトルを表示する。記憶部34は、演算部30が算出した3次元磁気ベクトルを必要に応じて記憶する。
【0046】
次に、空間磁場測定システム1を用いた空間磁場測定方法の手順の一例について説明する。図3は、空間磁場測定システム1の動作例を示すシーケンス図である。
【0047】
磁気プローブ装置2は、測定者により電源スイッチ11aが操作されることで電源がONとなる(ステップS1)。これにより磁気プローブ装置2では、制御部24が起動し、各種センサの初期化処理が行われる(ステップS2)。
【0048】
また、端末装置3は、測定者により空間磁場測定のアプリケーションが起動されることにより、後述する演算及び表示のための初期化処理が行われる(ステップS3)。
【0049】
端末装置3は、初期化処理が完了すると、入力部32を介した測定者の入力操作に基づいて、端末通信部31から磁気プローブ装置2に対する呼出を行う(ステップS4)。これに対し、磁気プローブ装置2は、プローブ通信部25から端末装置3へ応答を行う(ステップS5)。これにより磁気プローブ装置2と端末装置3との通信が確立される。尚、通信確立のための呼出は、磁気プローブ装置2から端末装置3へ行なってもよい。
【0050】
また、端末装置3は、測定者の入力操作に基づいて、空間磁場測定の表示モードが選択される(ステップS6)。ここで、表示モードとは、測定・算出された3次元磁気ベクトルを表示部33に表示する際に重ね描きされる測定対象の描画方法の選択肢であり、本実施形態においては、オブジェクトモード、撮像画像モード、又は環境データモードから選択される。
【0051】
オブジェクトモードでは、事前に作成された測定対象の3DCADデータ、もしくは事前撮影された測定対象の3Dオブジェクトデータに対し、3次元磁気ベクトルを重畳して表示する。撮像画像モードでは、磁気プローブ装置2の走査時にトラッキングカメラ20aが取得した測定対象の画像に、3次元磁気ベクトルを重畳して表示する。環境データモードでは、自己位置推定部20が自己位置推定の過程で生成した環境データに対して、3次元磁気ベクトルを重畳して表示する。
【0052】
次に、測定者は、磁気プローブ装置2の操作ボタン11bのうち地磁気測定ボタンを押下し、測定対象から離れた位置で磁気プローブ装置2を3軸方向に回転させることで地磁気測定を行う(ステップS7)。尚、磁気プローブ装置2は、回転中の三次元空間における姿勢情報と、当該姿勢情報に同期して測定される3軸磁気センサ21の測定磁気データと、を纏めて地磁気データとして端末装置3に送信する(ステップS8)。
【0053】
端末装置3は、磁気プローブ装置2から受信した地磁気データに基づいて、例えば空間磁場のうち空間座標に依存しない磁気ベクトルを地磁気ベクトル(Gx、Gy、Gz)として算出する(ステップS9)。尚、地磁気ベクトル(Gx、Gy、Gz)の算出は、他の公知のアルゴリズムを使用してもよい。また、地磁気の影響を考慮しない場合には、ステップS7~ステップS9の手順を省略してもよい。
【0054】
続いて、測定者は、操作ボタン11bのうち測定開始ボタンを押下し、測定対象の周辺における任意空間を磁気プローブ装置2で走査することにより空間磁場の測定を開始する(ステップS10)。空間磁場測定が開始されると、磁気プローブ装置2は、自己位置推定部20で取得される3軸磁気センサ21の空間データと、3軸磁気センサ21で取得される磁気データとを逐次、端末装置3に送信する(ステップS11)。
【0055】
ここで、空間データは、自己位置推定部20で推定された時系列の3次元位置データ{x(t),y(t),z(t)}、及び時系列の姿勢データ{ψ(t),θ(t),φ(t)}を含む。また、磁気データは、複数の3軸磁気センサ21それぞれで取得される時系列の磁気ベクトルデータ{Bx(t),By(t),Bz(t)}を含む。これらのデータは、高速のサンプリング周波数で取得される。
【0056】
端末装置3は、磁気プローブ装置2から空間データ及び磁気データを受信すると、それらのデータから3軸磁気センサ21が走査した空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出して表示部33に表示する(ステップS12)。
【0057】
より具体的には、演算部30は、慣性計測ユニット20bの位置及び姿勢として逐次取得される3次元位置データ{x(t),y(t),z(t)}及び姿勢データ{ψ(t),θ(t),φ(t)}に基づいて、複数の3軸磁気センサそれぞれの空間座標を算出することができる。尚、慣性計測ユニット20bとそれぞれの3軸磁気センサとの相対位置は事前に記憶されている。
【0058】
また、演算部30は、逐次取得される姿勢データ{ψ(t),θ(t),φ(t)}に基づいて、複数の3軸磁気センサ21それぞれの磁気ベクトルデータ{Bx(t),By(t),Bz(t)}をベクトル変換(回転)することにより、各タイミングの磁気プローブ装置2の姿勢に拘らず、空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを算出することができる。ここで、上記のように地磁気ベクトル(Gx、Gy、Gz)が算出されている場合には、これを差し引くことにより地磁気の影響がキャンセルされた3次元磁気ベクトルを算出することができる。
【0059】
そして、表示部33は、表示モードとして選択された測定対象の画像に対し、対応する位置座標に演算部30で算出された3次元磁気ベクトルを重ねて描画する。これにより、測定者は、磁気プローブ装置2で走査した任意空間における位置座標ごとの3次元磁気ベクトルを略リアルタイムで可視化することができる。
【0060】
ここで、磁気プローブ装置2は、操作者が測定対象の周囲を走査する期間中、空間データ及び磁気データの測定及び送信を継続する(ステップS13、磁気測定工程、自己位置推定工程)。また、端末装置3は、磁気プローブ装置2から逐次受信する空間データ及び磁気データに基づいて3次元磁気ベクトルの演算と描画を継続する(ステップS14、演算工程、表示工程)。これにより、表示部33には、磁気測定の期間中に逐次算出される3次元磁気ベクトルが画像上に追加されていくことになる。尚、表示部33は、逐次算出された3次元磁気ベクトルを磁気測定の終了後に一括で表示してもよい。
【0061】
測定者は、操作ボタン11bのうち測定終了ボタンを任意のタイミングで押下しで磁気測定を終了することができる(ステップS15)。このとき、端末装置3は、磁気プローブ装置2から磁気測定の終了が通知されることで(ステップS16)、3次元磁気ベクトルの演算及び追加表示を終了する(ステップS17)。尚、測定者は、必要に応じて、測定された3次元磁気ベクトルを記憶部34に保存する操作を行う。
【0062】
そして、磁気プローブ装置2は、続けて次の磁気測定を行わない場合には、電源スイッチ11aにより電源OFFとされる(ステップS18)。また、端末装置3は、入力部32を介して空間磁場測定のアプリケーションを終了するよう操作される(ステップS19)。
【0063】
尚、空間磁場測定方法の上記の一連の手順はあくまでも一例であり、所望の結果を得られる限り動作順序の変更や割込み操作等が可能になるよう適宜仕様を変更してもよい。
【0064】
続いて、空間磁場測定システム1で得られた3次元磁気ベクトルの表示例について説明する。ここでは、平面上に載置したU型磁石Pを測定対象として、当該U型磁石Pの直上付近の空間を磁気プローブ装置2で走査した場合の例を示す。
【0065】
図4は、3次元磁気ベクトルの第1方向から見た場合の表示例である。図5は、3次元磁気ベクトルの第2方向から見た場合の表示例である。図6は、3次元磁気ベクトルの第3方向から見た場合の表示例である。すなわち、図4図6は、測定対象の周辺の3次元磁気ベクトルとして測定された同一のベクトル分布を異なる視点から表示したものである。
【0066】
図4図6の対応関係を示すため、U型磁石Pは、両端のN極及びS極の端面が向く方向をX方向とし、N極及びS極が互いに離間する方向をY方向とするXY平面上に載置されていることとし、厚み方向がZ方向に相当するものとして図示されている。また、個々の3次元磁気ベクトルは、磁気の方向が三角錐で表され、磁気の強さが当該三角錐の濃淡で表されている。ここでは、事前に作成されたU型磁石Pのオブジェクトデータに3次元磁気ベクトルを重畳するオブジェクトモードで測定磁気の表示が行われている。
【0067】
各図に見られるように、磁気プローブ装置2で走査したU型磁石Pの直上付近に3次元磁気ベクトルが分布している様子を測定できている。また、N極及びS極付近で特に強い磁場が測定されており、磁力線のN極での湧き出しとS極での吸い込みに対応した正確な磁気ベクトルが算出されている。このため、本発明に係るハンディタイプの磁気プローブ装置2であっても、任意空間の空間磁場を正確に測定できていることが確認できる。
【0068】
以上のように、本発明に係る空間磁場測定システム1によれば、3軸磁気センサ21を備える磁気プローブ装置2により任意空間を走査することで、磁気プローブ装置2で走査された空間座標ごとの3次元磁気ベクトルを測定することができる。このとき、空間磁場測定システム1は、3軸磁気センサ21と一体に構成されたトラッキングカメラ20a及び慣性計測ユニット20bにより磁気プローブ装置2が自己の空間座標を推定することができるため、当該空間座標を取得するためのカメラ等の外部機器やそのセッティングが不要になる。また、空間磁場測定システム1は、測定対象が例えば長尺の鋼管内部、隣接する2つの機器の隙間、又は複雑な形状の物体の近傍など、外部から磁気プローブ装置2を撮影することができない空間であっても、磁気プローブ装置2をかざすことができれば磁気測定が可能になる。従って、本発明によれば、事前準備が容易で測定対象の制約が少ない空間磁場測定システム1を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 空間磁場測定システム
2 磁気プローブ装置
3 端末装置
20 自己位置推定部
20a トラッキングカメラ
20b 慣性計測ユニット
21 3軸磁気センサ
30 演算部
33 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6