(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131665
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】合成ダイヤモンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C30B29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042078
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】523097307
【氏名又は名称】CARBONE ALCHEMY株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185270
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 貴史
(74)【代理人】
【識別番号】100225347
【弁理士】
【氏名又は名称】鬼澤 正徳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 陽介
(72)【発明者】
【氏名】高須 多明
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 愛
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 学
(72)【発明者】
【氏名】大竹 直美
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BA03
4G077DB02
4G077DB07
4G077DB16
4G077EA02
4G077EB01
4G077ED06
(57)【要約】
【課題】特定のドーパントを加えることなく複数の色彩を有し、見る角度によって異なる色調を楽しめる合成ダイヤモンドを提供する。
【解決手段】本発明は、貝殻を焼成して炭素酸化物ガスを得る工程と、炭素酸化物ガスと水素とを反応させてメタン含有ガスを得る工程と、メタン含有ガスと水素含有ガスとを含む反応ガスを化学気相蒸着により活性化し、活性化された反応ガスを用いてダイヤモンド種結晶を成長させることで合成ダイヤモンドを得る工程とを含む、合成ダイヤモンドの製造方法である。化学気相蒸着は、マイクロ波プラズマ法であることが好ましく、貝殻は、ホウ素成分及び/又はリン成分を含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻を焼成して炭素酸化物ガスを得る工程と、
前記炭素酸化物ガスと水素とを反応させてメタン含有ガスを得る工程と、
前記メタン含有ガスと水素含有ガスとを含む反応ガスを化学気相蒸着により活性化し、活性化された反応ガスを用いてダイヤモンド種結晶を成長させることで合成ダイヤモンドを得る工程と、
を含む、合成ダイヤモンドの製造方法。
【請求項2】
前記化学気相蒸着がマイクロ波プラズマ法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記貝殻がホウ素成分及び/又はリン成分を含有する請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ダイヤモンドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成ダイヤモンドの製造技術が広く知られており、例えば、高温高圧法によりダイヤモンド基盤を形成するダイヤモンド基盤形成工程と、化学気相蒸着法により前記ダイヤモンド基盤上にダイヤモンド結晶を成長させる第1ダイヤモンド結晶成長工程と、前記工程において成長させた前記ダイヤモンド結晶の次に成長させたい表面を研磨するダイヤモンド結晶研磨工程と、前記工程において研磨された前記表面上に、化学気相蒸着法により次のダイヤモンド結晶を成長させる第2ダイヤモンド結晶成長工程とを備える多色ダイヤモンドの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は、前記ダイヤモンド結晶研磨工程及び前記第2ダイヤモンド結晶成長工程は、所望の回数繰り返され、前記化学気相蒸着法における水素及びメタンの混合ガスは、周期表における第1周期から第3周期までの元素、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、及び、イリジウムからなる一群から選択された少なくとも1種類の元素からなるドーパントが含有されている。ドーパントとは、製品にドーピングされる不純物のことである。
【0003】
特許文献1に記載の方法によると、1つのダイヤモンドにおいて、複数の色彩を有し、見る角度によって異なる色調を楽しめる多色ダイヤモンドを提供することができる。
【0004】
また、合成ダイヤモンドは、宝飾品用途に用いられるのはもちろんのこと、硬さ、熱伝導性、化学的安定性及び透光性に優れることから、超精密加工用バイト、線引きダイス、ドレッサー、医療用ナイフ等の加工工具や耐摩工具のほか、ヒートシンク、ボンディングツール、各種窓材や超高圧アンビル等といった工業用途に広く用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、化学気相蒸着法によりダイヤモンド基盤上にダイヤモンド結晶を成長させる第1及び第2のダイヤモンド結晶成長工程において、水素及び炭素源物質の混合ガスを原料とする。一般に、炭素源物質としてメタンガスが用いられるが、当該メタンガスは、工場等から排出されるCO2を回収して得られる。そのため、特許文献1に記載の方法のように、混合ガスに、周期表における第1周期から第3周期までの元素、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、及び、イリジウムからなる一群から選択された少なくとも1種類の元素からなるドーパントを加えなければ、複数の色彩を有し、見る角度によって異なる色調を楽しめる多色ダイヤモンドを提供することができない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、上記ドーパントを加えることなく複数の色彩を有し、見る角度によって異なる色調を楽しめる合成ダイヤモンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、貝殻を原料にすることで上述したドーパントを加えないで多様な色彩に富んだ合成ダイヤモンドを単に提供できるにとどまらず、本来であれば廃棄物として処理される貝殻を有価物として再利用でき、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)にも資することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
第1の特徴に係る発明は、貝殻を焼成して炭素酸化物ガスを得る工程と、前記炭素酸化物ガスと水素とを反応させてメタン含有ガスを得る工程と、前記メタン含有ガスと水素含有ガスとを含む反応ガスを化学気相蒸着により活性化し、活性化された反応ガスを用いてダイヤモンド種結晶を成長させることで合成ダイヤモンドを得る工程と、を含む、合成ダイヤモンドの製造方法を提供する。
【0010】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記化学気相蒸着がマイクロ波プラズマ法である方法を提供する。
【0011】
貝殻は炭酸カルシウムを含有するため、貝殻を焼成すると以下に示す炭酸カルシウムの熱分解反応が起こる。
CaCO3→CaO+CO2
【0012】
また、炭素酸化物ガス(CO2)と水素とを反応させると、メタン含有ガスが得られる(メタネーション)。
CO2+4H2→CH4+2H2O
【0013】
そして、メタン含有ガスと水素含有ガスとを含む反応ガスを化学気相蒸着により活性化し、活性化されたメタン含有ガスがダイヤモンド種結晶の結晶成長に寄与し、活性化された水素含有ガスは、結晶化した合成ダイヤモンド表面の炭素原子と化学結合し、合成ダイヤモンド表面のグラファイト化を防ぐ。そうすることで、合成ダイヤモンドが得られる。
【0014】
ここで、貝殻は、炭酸カルシウムを主成分とするが、炭酸カルシウム以外にも由来となる生物ごとに異なる種々の成分を含む。例えば、牡蠣の貝殻を例にすると、牡蠣の貝殻は、以下のように多種多様な成分を含む。
炭酸カルシウム 89.3%
フミン酸 1.13%
窒素 0.28%
リン酸 0.23%
酸化カリウム 0.17%
酸化マグネシウム 0.66%
酸化マンガン 300ppm
鉄 400ppm
酸化ホウ素 630ppm
亜鉛 85.3ppm
銅 15.9ppm
モリブデン 2.1ppm
【0015】
これらの成分には、周期表における第1周期から第3周期までの元素、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、及びイリジウムからなる一群から選択される少なくとも1種類の元素に相当する窒素、リン、酸素、マグネシウム、マンガン、鉄、ホウ素及びモリブデンがもともとの原料に含まれている。
【0016】
第1及び第2の特徴に係る発明によると、合成ダイヤモンドが炭素原子のみならず、由来となる生物ごとに異なる種々の不純物成分を含有し、当該不純物成分は、周期表における第1周期から第3周期までの元素、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、及びイリジウムからなる一群から選択される少なくとも1種類の元素を含むことから、この不純物成分に起因し、由来となる生物ごとに異なる特有の色合いをもった合成ダイヤモンドを提供できる。また、本来であれば廃棄物とされる貝殻を有価物として再利用でき、SDGsにも資する。
【0017】
本発明によると、合成ダイヤモンドが炭素原子のみならず、由来となる生物ごとに異なる種々の不純物成分に起因する特有の色合いをもつ点で宝飾性に優れた合成ダイヤモンドを、特定のドーパントを加えることなく提供できる。また、本来であれば廃棄物とされる貝殻を有価物として再利用でき、SDGsにも資する。
【0018】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記貝殻がホウ素成分及び/又はリン成分を含有する方法を提供する。
【0019】
第3の特徴に係る発明によると、合成ダイヤモンドに含まれる炭素原子の一部をリン原子に置き換えたn型半導体や、炭素原子の一部をホウ素原子に置き換えたp型半導体を提供でき得るため、貝殻に含まれる不純物によって合成ダイヤモンドにデバイス機能性を発現させることができ得る。
【0020】
よって、第3の特徴に係る発明によると、工業用途により優れた合成ダイヤモンドを提供できるとともに、本来であれば廃棄物とされる貝殻を原料としているため、廃棄物の再利用という点でも優れる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、不純物成分に起因し、由来となる生物ごとに異なる特有の色合いをもった合成ダイヤモンドを、特定のドーパントを加えることなく提供できる。また、本来であれば廃棄物とされる貝殻を有価物として再利用でき、SDGsにも資する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
<合成ダイヤモンドの製造方法>
本実施形態に記載の方法は、貝殻を焼成して炭素酸化物ガスを得る工程と、炭素酸化物ガスと水素とを反応させてメタン含有ガスを得る工程と、メタン含有ガスと水素含有ガスとを含む反応ガスを化学気相蒸着により活性化し、活性化された反応ガスを用いてダイヤモンド種結晶を成長させることで合成ダイヤモンドを得る工程とを含む。
【0024】
〔貝殻を焼成して炭素酸化物ガスを得る工程〕
[貝殻]
原料となる貝殻の種類は特に限定されないが、炭酸カルシウム以外の成分を多く含むことが好ましい。これにより、得られる合成ダイヤモンドが炭素原子のみならず、由来となる生物ごとに異なる種々の不純物成分を含むことから、この不純物成分に起因する特有の色合いをもった合成ダイヤモンドを提供できる。また、本来であれば廃棄物とされる貝殻を有価物として再利用でき、SDGsにも資する。
【0025】
中でも、貝殻は、牡蠣の貝殻に例示されるように、ホウ素成分及び/又はリン成分を含有する貝殻であることが好ましい。牡蠣の貝殻は、炭酸カルシウムだけでなく、以下のように多種多様な成分を含む。
炭酸カルシウム 89.3%
フミン酸 1.13%
窒素 0.28%
リン酸 0.23%
酸化カリウム 0.17%
酸化マグネシウム 0.66%
酸化マンガン 300ppm
鉄 400ppm
酸化ホウ素 630ppm
亜鉛 85.3ppm
銅 15.9ppm
モリブデン 2.1ppm
【0026】
貝殻がホウ素成分及び/又はリン成分を含有すると、宝飾性に優れた合成ダイヤモンドを提供できるにとどまらず、合成ダイヤモンドに含まれる炭素原子の一部をリン原子に置き換えたn型半導体や、炭素原子の一部をホウ素原子に置き換えたp型半導体を提供でき得る点で工業用途にもより優れた合成ダイヤモンドを提供できる。
【0027】
貝殻がもつ本来の成分以外の成分が混ざるのを防ぐため、貝殻は、予め洗浄されたものであることが好ましい。洗浄に用いる液媒は特に限定されるものでなく、水のほか、アルコール類等の水系材料が挙げられる。
【0028】
また、その後の熱分解反応を効率よく進める観点から、洗浄した後は、100℃程度で乾燥させることが好ましい。
【0029】
炭素酸化物ガスを効率よく進める観点から、貝殻は、粉砕されたものであることが好ましい。炭素酸化物ガスの収率を高める観点から、貝殻の一次平均粒子径は、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
また、貝殻粉末の二次凝集に起因する作業性の減少を抑える観点から、貝殻の一次平均粒子径は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。
【0031】
[焼成]
貝殻は炭酸カルシウムを含有するため、貝殻を焼成すると以下に示す炭酸カルシウムの熱分解反応が起こる。
CaCO3→CaO+CO2
【0032】
熱分解反応は吸熱反応であり、炭素酸化物ガス(主成分:CO2)を十分な収率で得る観点から、反応温度は、800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましく、1000℃以上であることがさらに好ましい。
【0033】
一方で、過剰なエネルギーコストを抑える観点から、反応温度は、1500℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましい。
【0034】
〔メタン含有ガスを得る工程〕
本工程は、以下式で表されるように炭素酸化物ガス(主成分:CO2)と水素とを反応させてメタン含有ガスを得る工程であり、通称メタネーションと呼ばれる。
CO2+4H2→CH4+2H2O
【0035】
メタネーションの手法は、サバティエ反応を始め、従来より知られる手法でよい。メタネーションにおいては、触媒を用いることが好ましいことが知られている。触媒としては、Ni系、Ru系、Rh系、アルミナを担体としたRh/Mn/Al系、Rh/Al系、Ni/Al系、Pd/Al系、Pt/Al系、Niを活性成分としてセリアやジルコニアを担体としたNi/Ce系やNi/Zr系等、各種のものを用いることができる。
【0036】
〔合成ダイヤモンドを得る工程〕
本工程は、メタン含有ガスと水素含有ガスとを含む反応ガスを化学気相蒸着(CVD法:Chemical Vapor Deposition)により活性化し、活性化された反応ガスを用いてダイヤモンド種結晶を成長させる工程である。
【0037】
[化学気相蒸着]
本実施形態では、化学気相蒸着法を用い、高温低圧下でメタン含有ガスからダイヤモンドを作る。種結晶となるスライスしたダイヤモンド種結晶の上に炭素原子を降らせて沈積させる。
【0038】
化学気相蒸着法には、熱フィラメント法、マイクロ波プラズマ法、燃焼法等があり、特に限定されないが、宝飾用途としてはマイクロ波プラズマ法が広く用いられる。以下では、化学気相蒸着法がマイクロ波プラズマ法であるものとして説明する。
【0039】
反応ガスは、メタン含有ガスと大量の水素とを混合して用いる。
【0040】
反応ガスは、特定の元素からなるドーパント、すなわち、周期表における第1周期から第3周期までの元素、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、及びイリジウムからなる一群から選択される少なくとも1種類の元素からなるドーパント(ホウ素及び/又はリンを除く)を含有しないことが好ましい。
【0041】
本発明において、ドーパントとは、原料に対して意図的に外添する不純物をいい、第1周期元素とは、元素の周期表のうち第1周期にある元素(水素、ヘリウム)をいい、第2周期元素とは、元素の周期表のうち第2周期にある元素(リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン)をいい、第3周期元素とは、元素の周期表のうち第3周期にある元素(ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素、アルゴン)をいう。
【0042】
これらの成分は、合成ダイヤモンドの色合いに影響するため、これらの成分が入っていると、合成ダイヤモンドの色合いから由来となる貝殻の種類を予測できなくなる可能性があり、貝殻の由来となる生物種を楽しむという本発明の趣旨に反してしまう。
【0043】
一方で、ドーパントとしてホウ素成分及び/又はリン成分を加えることは、好ましい。合成ダイヤモンドに含まれる炭素原子の一部をリン原子に置き換えたn型半導体や、炭素原子の一部をホウ素原子に置き換えたp型半導体を提供でき得るため、貝殻に含まれる不純物によって合成ダイヤモンドにデバイス機能性を発現させることができ得る。そのため、工業用途により優れた合成ダイヤモンドを提供できるとともに、本来であれば廃棄物とされる貝殻を原料としているため、廃棄物の再利用という点でも優れる。
【0044】
ただし、ホウ素成分及び/又はリン成分の添加量は、合成ダイヤモンドの色合いから由来となる貝殻の種類を予測できる範囲にとどめることが好ましい点に留意を要する。
【0045】
反応ガスにおけるメタン含有ガスと水素との混合比は特に限定されないが、結晶成長によって得られる合成ダイヤモンドの黒鉛化を防ぐ観点から、メタン含有ガスの体積に対する水素の体積が50倍以上であることが好ましく、70倍以上であることがより好ましく、100倍以上であることがさらに好ましい。
【0046】
また、メタン含有ガスに由来する炭素原子を十分な量で得る観点から、メタン含有ガスの体積に対する水素の体積は、200倍以下であることが好ましく、150倍以下であることがより好ましく、120倍以下であることがさらに好ましい。
【0047】
反応容器に供給する反応ガスの圧力は、大気圧以下であることが好ましい。一般に、反応ガスの圧力は、0.1気圧以上1気圧以下である。
【0048】
ダイヤモンド種結晶は、市販のものを用いても良いが、本実施形態に記載の方法によって得られた合成ダイヤモンドのうち十分な大きさの径を得ることができなかった不良品を用いても良い。これにより、反応歩留を高めることができるだけでなく、種結晶も十分な量の不純物を含有することから、より色合いに優れた合成ダイヤモンドを提供できる。
【0049】
反応ガスをプラズマで分解して活性化させるに際し、スライスしたダイヤモンド種結晶(基板)の温度を800℃以上1300℃以下に保ち、基板表面に炭素原子を結晶化させることが好ましい。プラズマによって反応性が高まった水素(原子状水素)が結晶化した合成ダイヤモンド表面の炭素原子と化学結合し、合成ダイヤモンド表面のグラファイト化を防ぐ。そうすることで、合成ダイヤモンドが得られる。
【0050】
また、反応装置でのプラズマ照射面と蒸着面との距離の関係等に例示される諸条件を変更することで、ダイヤモンド結晶成長の速度、結晶構造を制御することができる。
【0051】
ここで、貝殻は、炭酸カルシウムを主成分とするが、炭酸カルシウム以外にも由来となる生物ごとに異なる種々の成分を含む。そして、これらの成分には、周期表における第1周期から第3周期までの元素、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、及びイリジウムからなる一群から選択される少なくとも1種類の元素に相当するカリウム、マグネシウム、マンガン、鉄及びモリブデンが含まれている。
【0052】
本実施形態に記載の発明によると、合成ダイヤモンドが炭素原子のみならず、由来となる生物ごとに異なる種々の不純物成分に起因する特有の色合いをもつ点で宝飾性に優れた合成ダイヤモンドを、特定のドーパントを加えることなく提供できる。また、本来であれば廃棄物とされる貝殻を有価物として再利用でき、SDGsにも資する。
【0053】
特に、貝殻がホウ素成分及び/又はリン成分を含有する場合、合成ダイヤモンドに含まれる炭素原子の一部をリン原子に置き換えたn型半導体や、炭素原子の一部をホウ素原子に置き換えたp型半導体を提供でき得るため、貝殻に含まれる不純物によって合成ダイヤモンドにデバイス機能性を発現させることができ得る。そのため、工業用途により優れた合成ダイヤモンドを提供できるとともに、本来であれば廃棄物とされる貝殻を原料としているため、廃棄物の再利用という点でも優れる。