(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131673
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】高周波磁場印加装置および磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/20 20060101AFI20240920BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01R33/20 101
G01N24/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042087
(22)【出願日】2023-03-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、文部科学省、委託事業「量子計測・センシング技術研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴行
(57)【要約】
【課題】窒素-空孔中心を含有する磁気共鳴素子を備えた磁気センサにおいて、かかる磁気共鳴素子の厚さ方向の磁場を良好に検出あるいは計測することを可能とする構成を提供すること。
【解決手段】高周波磁場印加装置(3)は、誘電体基板(300)と、アンテナ素子部(301)と、貫通孔(308)と、を備えている。アンテナ素子部は、給電によりマイクロ波の高周波磁場を発生するように誘電体基板の一面(300a)上に形成された導体膜からなり、磁気共鳴素子に対向配置されている。貫通孔は、誘電体基板の一面に沿った沿面方向について磁気共鳴素子に対応する位置にて、誘電体基板とアンテナ素子部とを貫通するように設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素-空孔中心を含有する磁気共鳴素子(2)を備えた磁気センサ(1)に用いられる高周波磁場印加装置(3)であって、
誘電体基板(300)と、
給電によりマイクロ波の高周波磁場を発生するように前記誘電体基板の一面(300a)上に形成された導体膜からなり、前記磁気共鳴素子に対向配置されるアンテナ素子部(301)と、
前記一面に沿った沿面方向について前記磁気共鳴素子に対応する位置にて、前記誘電体基板と前記アンテナ素子部とを貫通するように設けられた貫通孔(308)と、
を備えた高周波磁場印加装置。
【請求項2】
前記アンテナ素子部は、前記マイクロ波の波長をλとした場合にnλ/2(nは自然数)の線路長を有する伝送線路共振器としての構成を有し、
前記貫通孔は、前記線路長における一端からmλ/4(mは2n以下の自然数且つ奇数)に対応する位置であって且つ線路幅における中央に設けられた、
請求項1に記載の高周波磁場印加装置。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記誘電体基板の他面(300b)に向かうにつれて拡径するテーパ部(308a)を有する、
請求項1に記載の高周波磁場印加装置。
【請求項4】
前記磁気共鳴素子にて発生した熱を吸収するように、前記磁気共鳴素子と前記アンテナ素子部との間に設けられた放熱基板(32)をさらに備えた、
請求項1に記載の高周波磁場印加装置。
【請求項5】
前記アンテナ素子部は、コプレーナ導波路共振器としての構成を有する、
請求項1に記載の高周波磁場印加装置。
【請求項6】
磁気センサ(1)であって、
窒素-空孔中心を含有する、磁気共鳴素子(2)と、
前記磁気共鳴素子に対してマイクロ波の高周波磁場を印加するように、前記磁気共鳴素子に対向配置された高周波磁場印加装置(3)と、
前記磁気共鳴素子に励起光を照射するように設けられた照射装置(4)と、
前記磁気共鳴素子にて発生した蛍光を検出するように設けられた検出装置(5)と、
を備え、
前記高周波磁場印加装置は、
誘電体基板(300)と、
前記誘電体基板の一面(300a)上に形成された導体膜からなり、給電により前記高周波磁場を発生するように設けられたアンテナ素子部(301)と、
前記一面に沿った沿面方向について前記磁気共鳴素子に対応する位置にて、前記誘電体基板と前記アンテナ素子部とを貫通するように設けられた貫通孔(308)と、
を備え、
前記検出装置は、前記貫通孔を通過した前記蛍光を集光するように前記誘電体基板を挟んで前記磁気共鳴素子と対向配置された対物レンズ(501)を備えた、
磁気センサ。
【請求項7】
前記アンテナ素子部は、前記マイクロ波の波長をλとした場合にnλ/2(nは自然数)の線路長を有する伝送線路共振器としての構成を有し、
前記貫通孔は、前記線路長における一端からmλ/4(mは2n以下の自然数且つ奇数)に対応する位置であって且つ線路幅における中央に設けられた、
請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記貫通孔は、前記誘電体基板の他面(300b)に向かうにつれて拡径するテーパ部(308a)を有する、
請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記磁気共鳴素子にて発生した熱を吸収するように、前記磁気共鳴素子と前記アンテナ素子部との間に設けられた放熱基板(32)をさらに備えた、
請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記アンテナ素子部は、コプレーナ導波路共振器としての構成を有する、
請求項6に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素-空孔中心を含有する磁気共鳴素子を備えた磁気センサ、および、これに用いられる高周波磁場印加装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ODMRすなわち光検出磁気共鳴を利用して、磁気を検出あるいは計測する手法が、従来種々提案されている。ODMRはOptically Detected Magnetic Resonanceの略である。ここで、窒素-空孔対を含む磁気共鳴素子であるダイヤモンド結晶を用いることで、常温大気中で高感度な磁場計測を行うことが可能となる。このような、窒素-空孔対を含むダイヤモンドを用いたODMRは、例えば、脳磁気検出や、ICが発生する磁場の検出や、車載磁気センサ等に、好適に適用される。ICはIntegrated Circuitの略である。この点、特許文献1に記載の装置は、窒素-空孔中心を含有するダイヤモンド基板を、ループ状のマイクロ波共振器の内側に配置した構成を有している。特許文献1に記載の装置においては、磁場の検出対象(例えばIC)は、ダイヤモンド基板およびマイクロ波共振器の下側に配置される。そして、斜め上方から励起レーザ光がダイヤモンド基板に向けて照射され、上方に設けられたカメラで蛍光が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第11,519,989号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置においては、マイクロ波共振器により印加される高周波磁場は、ループの軸方向、すなわち、ダイヤモンド基板の厚さ方向となる。このため、検出可能な磁場の方向は、原理上、高周波磁場に対して垂直な方向である、ダイヤモンド基板の表面に沿った沿面方向となる。一方、ダイヤモンド基板の厚さ方向の磁場を検出するためには、ダイヤモンド基板における磁場検出対象と対向する表面に沿った沿面方向に高周波磁場を形成する必要がある。このような高周波磁場を発生させる方法として、特許文献1に記載の構成においては、ダイヤモンド基板の上方または下方に導体線路を設けることが考えられる。しかしながら、ダイヤモンド基板の上方にはカメラを含む検出光学系が存在し、下方には磁場検出対象が存在するため、このような導体線路を設けると検出の障害となり得る。
【0005】
本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、窒素-空孔中心を含有する磁気共鳴素子を備えた磁気センサにおいて、かかる磁気共鳴素子の厚さ方向の磁場を良好に検出あるいは計測することを可能とする構成を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の高周波磁場印加装置(3)は、窒素-空孔中心を含有する磁気共鳴素子(2)を備えた磁気センサ(1)に用いられるものであって、
誘電体基板(300)と、
給電によりマイクロ波の高周波磁場を発生するように前記誘電体基板の一面(300a)上に形成された導体膜からなり、前記磁気共鳴素子に対向配置されるアンテナ素子部(301)と、
前記一面に沿った沿面方向について前記磁気共鳴素子に対応する位置にて、前記誘電体基板と前記アンテナ素子部とを貫通するように設けられた貫通孔(308)と、
を備えている。
請求項6に記載の磁気センサ(1)は、
窒素-空孔中心を含有する、磁気共鳴素子(2)と、
前記磁気共鳴素子に対してマイクロ波の高周波磁場を印加するように、前記磁気共鳴素子に対向配置された高周波磁場印加装置(3)と、
前記磁気共鳴素子に励起光を照射するように設けられた照射装置(4)と、
前記磁気共鳴素子にて発生した蛍光を検出するように設けられた検出装置(5)と、
を備え、
前記高周波磁場印加装置は、
誘電体基板(300)と、
前記誘電体基板の一面(300a)上に形成された導体膜からなり、給電により前記高周波磁場を発生するように設けられたアンテナ素子部(301)と、
前記一面に沿った沿面方向について前記磁気共鳴素子に対応する位置にて、前記誘電体基板と前記アンテナ素子部とを貫通するように設けられた貫通孔(308)と、
を備え、
前記検出装置は、前記貫通孔を通過した前記蛍光を集光するように前記誘電体基板を挟んで前記磁気共鳴素子と対向配置された対物レンズ(501)を備えている。
【0007】
なお、出願書類の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付される場合がある。しかしながら、かかる参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の単なる一例を示すものにすぎない。よって、本発明は、上記の参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁気センサの概略構成図である。
【
図2】
図1に示された高周波磁場印加装置の概略構成を示す平面図である。
【
図3】
図2におけるIII-III断面の一部を拡大して示す断面図である。
【
図4】比較例における磁場分布の計算機シミュレーション結果を示す図である。
【
図6】
図2におけるIII-III断面での磁場分布の計算機シミュレーション結果を示す図である。
【
図8】
図2に示された実施形態における貫通孔の位置を示す平面図である。
【
図9】一変形例に係る構成における貫通孔の位置を示す平面図である。
【
図10】他の一変形例に係る構成における貫通孔の位置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例は、一連の実施形態の説明の後に、まとめて記載する。また、後述するように、各図およびこれを用いた以下の説明は、専ら、本実施形態に係る概略的な構成および機能を説明するために簡略化されたものであって、実際に製造販売される具体的な装置構成とは必ずしも一致するとは限らない。さらに、図示および説明の便宜上、各図において、右手系XYZ座標を設定する。各図におけるXYZ座標は、互いに整合しているものとする。但し、Z軸正方向あるいはZ軸負方向は、必ずしも重力作用方向を意味するものではない。
【0010】
(全体構成)
磁気センサ1は、磁気共鳴素子2における光検出磁気共鳴を利用して、磁気共鳴素子2に近接あるいは接触する被測定物Mにおける磁気を検出あるいは計測するように構成されている。具体的には、
図1に示されているように、磁気センサ1は、磁気共鳴素子2と、高周波磁場印加装置3と、照射装置4と、検出装置5とを備えている。
【0011】
磁気共鳴素子2は、窒素-空孔中心を含有するダイヤモンド基板であって、薄板状に成形されている。すなわち、磁気センサ1は、いわゆるダイヤモンド磁気センサとしての構成を有している。高周波磁場印加装置3は、磁気共鳴素子2に対してマイクロ波の高周波磁場を印加するように設けられている。照射装置4は、磁気共鳴素子2に励起光R1を照射するように設けられている。検出装置5は、磁気共鳴素子2にて発生した蛍光R2を検出するように設けられている。なお、この種のダイヤモンド磁気センサの基本構成および動作原理については、本願の出願時点において、既に公知あるいは周知となっている。よって、図示および説明の簡略化の観点から、この種のダイヤモンド磁気センサにおける動作原理や、この種のダイヤモンド磁気センサに通常設けられる他の構成については、本明細書においては、図示および説明を省略する。この種のダイヤモンド磁気センサにおける動作原理や、この種のダイヤモンド磁気センサに通常設けられる他の構成については、上記の特許文献1の他、本発明の発明者による先行出願に係る特開2020-38086号公報や特開2022-128554号公報等を参照されたい。
【0012】
(高周波磁場印加装置)
図2および
図3は、本実施形態に係る磁気センサ1に用いられる高周波磁場印加装置3の概略構成を示す。なお、
図3は、
図2におけるIII-III断面による高周波磁場印加装置3の断面構成の概略を示すものであるが、図示の都合上、寸法関係は、
図2とは必ずしも整合しているとは限らないものとする。以下、本実施形態に係る高周波磁場印加装置3の構成の詳細について説明する。
【0013】
磁気共鳴素子2は、図中Z軸方向に厚さ方向を有する薄板状に形成されている。磁気共鳴素子2と高周波磁場印加装置3とは、図中Z軸方向に配列されている。具体的には、磁気共鳴素子2は、高周波磁場印加装置3よりもZ軸正方向側にて、高周波磁場印加装置3に近接しつつ対向配置されている。
【0014】
高周波磁場印加装置3は、プリント基板30と、同軸コネクタ31と、放熱基板32とを備えている。図中、XYZ座標は、Z軸がプリント基板30の板厚方向と平行となり、XY平面がプリント基板30の板厚方向と直交するように設定されている。同軸コネクタ31は、プリント基板30の端部に固定されている。放熱基板32は、磁気共鳴素子2にて発生した熱を吸収するように、磁気共鳴素子2とプリント基板30との間に設けられている。放熱基板32は、蛍光R2の透過性と電気絶縁性と放熱性とに優れた材料(例えば窒化ケイ素等)により、図中Z軸方向に厚さ方向を有する薄板状に形成されている。
【0015】
プリント基板30は、一定の板厚を有する平板状の誘電体基板300の少なくとも一面に導体膜が形成された構成を備えている。具体的には、誘電体基板300は、一対の主面であるアンテナ形成面300aおよび裏面300bを有している。「主面」とは、板状部材における板厚方向と平行な法線方向を有する表面であって、「板面」とも称される。アンテナ形成面300aおよび裏面300bは、XY平面と平行に形成されている。アンテナ形成面300aまたは裏面300bに沿った方向(すなわち図中XY平面と平行な方向)を、以下「沿面方向」と称する。かかる沿面方向は、磁気共鳴素子2における被測定物Mと対向する表面に沿った方向であるとともに、磁気共鳴素子2の厚さ方向に対して垂直な方向である。本実施形態においては、誘電体基板300は、比誘電率が4.3~5.0程度であるFR-4、あるいは、これよりも比誘電率が高い材料(例えば比誘電率が9.6であるアルミナ基板)により、Z軸方向に板厚方向を有する薄板状に形成されている。FR-4はFlame Retardant Type 4の略である。誘電体基板300は、X軸方向に長手方向を有するとともにY軸方向に幅方向を有する長方形状に形成されている。
【0016】
磁気共鳴素子2に向かう外向き法線を有するアンテナ形成面300a上には、銅等の良導体からなる導体膜である、アンテナ素子部301および給電線路部302が形成されている。アンテナ素子部301は、給電線路部302により給電されることで、マイクロ波の高周波磁場を発生するように設けられている。アンテナ素子部301は、放熱基板32を挟んで磁気共鳴素子2に対向配置されるようになっている。すなわち、放熱基板32は、磁気共鳴素子2とアンテナ素子部301との間で挟まれるように設けられている。本実施形態においては、放熱基板32の一面は磁気共鳴素子2と接合され、他面はアンテナ素子部301と接合されている。そして、磁気共鳴素子2は、アンテナ素子部301と重なるようにプリント基板30に接合された放熱基板32上に固定的に支持されている。
【0017】
アンテナ素子部301は、マイクロ波の波長をλとした場合にnλ/2(nは自然数)の線路長を有する伝送線路共振器としての構成を有しており、X軸方向に延設されている。「線路長」は、マイクロ波電流の通流方向に沿ったアンテナ素子部301の長さであって、本実施形態においてはX軸方向寸法である。具体的には、本実施形態においては、アンテナ素子部301は、いわゆる半波長共振器(すなわちn=1)としての構成を有している。
【0018】
給電線路部302は、アンテナ素子部301に給電するための導体膜であって、X軸方向に延設されつつ、同軸コネクタ31とアンテナ素子部301との間に配置されている。給電線路部302は、その一端である基端(すなわちX軸負方向側の端)が同軸コネクタ31における非接地端子とハンダ付け等により電気的に接続されている。給電線路部302の他端である先端(すなわちX軸正方向側の端)は、非パターン部である給電ギャップ303を介して、アンテナ素子部301の線路長方向における一端(すなわちX軸負方向側の端)と容量結合するように形成されている。給電線路部302には、インピーダンス整合のための高インピーダンス線路部304が設けられている。高インピーダンス線路部304は、給電線路部302における他の部分よりも線路幅(すなわちY軸方向寸法)が小さくなるように形成されている。
【0019】
アンテナ形成面300a上における、アンテナ素子部301および給電線路部302の周囲には、銅等の良導体からなる導体膜である接地パターン部305が形成されている。接地パターン部305は、同軸コネクタ31における接地端子と電気的に接続されている。アンテナ素子部301および給電線路部302と接地パターン部305との間には、非パターン部である囲繞ギャップ306が設けられている。「非パターン部」とは、導体膜パターンが形成されておらず、誘電体基板300の絶縁性表面が露出する部分をいうものとする。このように、アンテナ素子部301は、いわゆるコプレーナ導波路共振器としての構成を有している。また、磁気共鳴素子2とは反対側に向かう外向き法線を有する裏面300bには、銅等の良導体からなる導体膜である裏面接地パターン部307が形成されている。裏面接地パターン部307は、沿面方向について、アンテナ素子部301や給電ギャップ303や給電線路部302の先端部よりも外側に設けられている。
【0020】
プリント基板30には、貫通孔308が形成されている。貫通孔308は、沿面方向について磁気共鳴素子2に対応する位置にて、誘電体基板300とアンテナ素子部301とを貫通するように設けられている。すなわち、貫通孔308は、誘電体基板300の板厚方向について、放熱基板32を挟んで磁気共鳴素子2と対向するように配設されている。本実施形態においては、貫通孔308は、磁気共鳴素子2よりも小さな内径を有する丸孔として形成されている。
【0021】
貫通孔308は、アンテナ素子部301における電流が最大の箇所、すなわち、アンテナ素子部301の線路長における一端からmλ/4(mは2n以下の自然数且つ奇数)に対応する位置であって且つ線路幅(すなわちY軸方向寸法)における中央に設けられている。具体的には、本実施形態においては、貫通孔308は、アンテナ素子部301の長手方向における中心位置(すなわちm=n=1)に配置されている。
【0022】
貫通孔308は、テーパ部308aを有している。テーパ部308aは、貫通孔308の裏面300bにおける開口部に設けられている。貫通孔308は、裏面300bに向かうにつれて拡径するように、皿モミ加工等により円錐面状に形成されている。テーパ部308aは、磁気共鳴素子2にて発生した蛍光R2が貫通孔308を通過して検出装置5に設けられた対物レンズ501に入射する際に、蛍光R2にケラレが発生しないような形状を有している。対物レンズ501は、貫通孔308を通過した蛍光R2を集光するように、誘電体基板300を挟んで磁気共鳴素子2と対向配置されている。
【0023】
(効果)
以下、上記の通りの、本実施形態に係る磁気センサ1および高周波磁場印加装置3の構成により奏される効果について、比較例と対比しつつ説明する。比較例は、プリント基板30が貫通孔308を有しない構成である。
【0024】
上記構成によれば、高周波磁場印加装置3にマイクロ波帯域(例えば2.87GHz程度)の高周波電流を入力することで、高周波磁場印加装置3は、アンテナ素子部301の近傍にて、沿面方向にマイクロ波の高周波磁場を発生する。すると、アンテナ素子部301の近傍に配置された磁気共鳴素子2に、沿面方向の高周波磁場が印加される。これにより、高周波磁場の方向である沿面方向に対して垂直な面直方向の磁場を検出あるいは計測することが可能となる。以下、高周波磁場印加装置3における高周波磁場の発生態様について、
図4~
図7に示した計算機シミュレーション結果を参照しつつ説明する。
【0025】
図4は、比較例に係る、磁気共鳴素子2の中心を通りYZ平面と平行な断面(すなわち
図2におけるIII-III断面に相当する断面)における磁場分布の計算機シミュレーション結果を示す。
図5は、
図4における磁気共鳴素子2の周囲を拡大したものである。図中、三角印は、磁場の方向を示す。三角印の濃さは、磁場の強度を示し、色が薄いほど磁場の強度が大きいことを示す。後掲する
図6および
図7についても同様である。
【0026】
本実施形態においては、プリント基板30の一面に設けたアンテナ素子部301と、磁気共鳴素子2とを、プリント基板30の板厚方向すなわち磁気共鳴素子2の厚さ方向に沿って配列しつつ、互いに近接配置している。すると、
図4および
図5に示されているように、磁気共鳴素子2およびその周囲の磁場は、沿面方向、すなわち、磁気共鳴素子2における被測定物Mと対向する表面に沿った沿面方向となる。これにより、プリント基板30の板厚方向すなわち磁気共鳴素子2の厚さ方向の磁場を検出あるいは計測することが可能となる。しかしながら、貫通孔308を設けない比較例の構成においては、励起光R1の照射と、被測定物Mの配置と、蛍光R2の検出とを、アンテナ素子部301側で行う必要があり、装置構成が複雑化する等の難点がある。
【0027】
ここで、プリント基板30における、磁気共鳴素子2と対向する位置に、誘電体基板300およびアンテナ素子部301を貫通する貫通孔308を設けることで、かかる貫通孔308を通過した蛍光R2を裏面300b側から観測することが可能となる。具体的には、コプレーナ導波路共振器であるアンテナ素子部301の線路幅における中心を通るように、貫通孔308を形成している。すると、アンテナ形成面300a側と裏面300b側とで高周波磁場の方向が逆であるために、
図6および
図7に示されているように、貫通孔308におけるアンテナ形成面300a側の開口部の近傍の領域で、磁場がほとんどゼロとなる。もっとも、かかる領域から板厚方向に沿って若干離れると、沿面方向の高周波磁場がほぼ均一に発生している。そこで、本実施形態においては、磁気共鳴素子2は、プリント基板30の板厚方向について、アンテナ素子部301から、所定のギャップ分、離れた位置に配置される。
【0028】
本実施形態においては、透明な放熱基板32が、磁気共鳴素子2とアンテナ素子部301との間に設けられる。具体的には、磁気共鳴素子2は、プリント基板30におけるアンテナ素子部301が形成された側の面に接合された放熱基板32上に、固定的に支持される。かかる構成によれば、放熱基板32の厚さを調整することで磁気共鳴素子2とアンテナ素子部301との間に必要なギャップを良好に設定および保持しつつ、磁気共鳴素子2にて発生した熱を良好に放熱することが可能となる。
【0029】
本実施形態においては、貫通孔308の軸方向における対物レンズ501側の開口部に、テーパ部308aが形成されている。これにより、対物レンズ501に入射する蛍光R2のケラレの発生を良好に抑制することが可能となる。
【0030】
このように、本実施形態によれば、窒素-空孔中心を含有する磁気共鳴素子2に対して沿面方向の高周波磁場を印加するための高周波磁場印加装置3を、磁気共鳴素子2の光学的観測に対して障害とならないように配置しつつ、沿面方向の高周波磁場を発生させることが可能となる。したがって、かかる構成によれば、沿面方向に対して垂直な面直方向、すなわち、磁気共鳴素子2の厚さ方向あるいはプリント基板30の板厚方向の磁場を、良好に検出あるいは計測することが可能となる。
【0031】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一の符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0032】
本発明は、上記実施形態にて示された具体的な装置構成に限定されない。すなわち、上記の通り、上記実施形態における説明は、本発明の技術的に必要且つ充分な限度の範囲内のものであり、その他の細部については省略してある。また、各図およびこれを用いた上記の説明は、専ら、本実施形態に係る概略的な構成および機能を説明するために簡略化されたものであって、実際に製造販売される具体的な装置構成とは必ずしも一致するとは限らない。
【0033】
具体的には、例えば、本発明は、二次元的な磁場分布を測定可能な、いわゆる磁気イメージングセンサに適用されることが好適である。かかる磁気イメージングセンサは、対物レンズ501で集光した蛍光R2を二次元イメージセンサで検出することによって実現され得る。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されない。すなわち、本発明は、或る位置あるいは領域における磁場の強度のみを出力する磁気センサ1に対しても、好適に適用され得る。
【0034】
上記実施形態においては、磁気共鳴素子2は、Z軸方向に厚さ方向を有する板状に形成されている。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されない。すなわち、例えば、磁気共鳴素子2は、幅と奥行きと高さとが略等しい正六面体状に形成され得る。あるいは、磁気共鳴素子2は、Z軸方向に高さ方向を有する柱状に形成され得る。よって、本発明における検出可能な外部磁場の方向は、磁気共鳴素子2の「高さ方向」と称することが可能である。磁気共鳴素子2や放熱基板32の沿面方向形状すなわちXY平面に沿った面内形状についても、特段の限定はなく、正方形状であってもよいし、円形や楕円形や多角形状であってもよい。貫通孔308についても、沿面方向形状に特段の限定はなく、上記実施形態のような円形であってもよいし、楕円形であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0035】
プリント基板30の構成についても、特段の限定はない。例えば、アンテナ素子部301における平面形状(すなわち沿面方向における形状)については、適宜変容が可能である。すなわち、アンテナ素子部301の形成パターンは、上記実施形態のような、直線状に延びる帯状に限定されない。また、アンテナ素子部301は、コプレーナ導波路共振器としての構成に限定されない。よって、例えば、アンテナ素子部301は、マイクロストリップ線路共振器として形成されていてもよい。すなわち、アンテナ形成面300a側の接地パターン部305は、省略され得る。この場合、裏面接地パターン部307は、誘電体基板300の裏面300bにおける、少なくとも、アンテナ素子部301、給電線路部302、および給電ギャップ303に対応する沿面方向位置に形成される。典型的には、この場合、裏面接地パターン部307は、誘電体基板300の裏面300bにおけるほぼ全面にわたって設けられる。
【0036】
よって、アンテナ素子部301は、半波長共振器に限定されず、一波長分の線路長を有していてもよいし、3/2波長分の線路長を有していてもよい。これらの場合の、貫通孔308の線路長方向における形成位置について、以下説明する。
図8は、上記実施形態のような半波長共振器の場合を示す。この場合、貫通孔308の形成位置は、線路長における中央、すなわち、一端からλ/4に対応する位置となる。一方、
図9は、線路長が一波長分の場合を示す。この場合、貫通孔308の形成位置は、一端からλ/4および/または3λ/4に対応する位置となる。また、
図10は、線路長が3/2波長分の場合を示す。この場合、貫通孔308の形成位置は、一端から、λ/4と3λ/4と5λ/4とのうちの少なくともいずれか1つに対応する位置となる。このように、アンテナ素子部301は、マイクロ波の波長をλとした場合にnλ/2(nは自然数)の線路長を有する伝送線路共振器としての構成を有し、貫通孔308は、線路長における一端からmλ/4(mは2n以下の自然数且つ奇数)に対応する位置であって且つ線路幅における中央に設けられる。
【0037】
上記の説明において、互いに継ぎ目無く一体に形成されていた複数の構成要素は、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されてもよい。同様に、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されていた複数の構成要素は、互いに継ぎ目無く一体に形成されてもよい。また、上記の説明において、互いに同一の材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに異なる材料によって形成されてもよい。同様に、互いに異なる材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに同一の材料によって形成されてもよい。
【0038】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0039】
(観点)
上記の通りの、実施形態および変形例における説明から明らかなように、本明細書による開示は、少なくとも、以下の観点を含む。
[観点1]
窒素-空孔中心を含有する磁気共鳴素子(2)を備えた磁気センサ(1)に用いられる高周波磁場印加装置(3)であって、
誘電体基板(300)と、
給電によりマイクロ波の高周波磁場を発生するように前記誘電体基板の一面(300a)上に形成された導体膜からなり、前記磁気共鳴素子に対向配置されるアンテナ素子部(301)と、
前記一面に沿った沿面方向について前記磁気共鳴素子に対応する位置にて、前記誘電体基板と前記アンテナ素子部とを貫通するように設けられた貫通孔(308)と、
を備えた高周波磁場印加装置。
[観点2]
前記アンテナ素子部は、前記マイクロ波の波長をλとした場合にnλ/2(nは自然数)の線路長を有する伝送線路共振器としての構成を有し、
前記貫通孔は、前記線路長における一端からmλ/4(mは2n以下の自然数且つ奇数)に対応する位置であって且つ線路幅における中央に設けられた、
観点1に記載の高周波磁場印加装置。
[観点3]
前記貫通孔は、前記誘電体基板の他面(300b)に向かうにつれて拡径するテーパ部(308a)を有する、
観点1または2に記載の高周波磁場印加装置。
[観点4]
前記磁気共鳴素子にて発生した熱を吸収するように、前記磁気共鳴素子と前記アンテナ素子部との間に設けられた放熱基板(32)をさらに備えた、
観点1~3のいずれか1つに記載の高周波磁場印加装置。
[観点5]
前記アンテナ素子部は、コプレーナ導波路共振器としての構成を有する、
観点1~4のいずれか1つに記載の高周波磁場印加装置。
[観点6]
磁気センサ(1)であって、
窒素-空孔中心を含有する、磁気共鳴素子(2)と、
前記磁気共鳴素子に対してマイクロ波の高周波磁場を印加するように、前記磁気共鳴素子に対向配置された高周波磁場印加装置(3)と、
前記磁気共鳴素子に励起光を照射するように設けられた照射装置(4)と、
前記磁気共鳴素子にて発生した蛍光を検出するように設けられた検出装置(5)と、
を備え、
前記高周波磁場印加装置は、
誘電体基板(300)と、
前記誘電体基板の一面(300a)上に形成された導体膜からなり、給電により前記高周波磁場を発生するように設けられたアンテナ素子部(301)と、
前記一面に沿った沿面方向について前記磁気共鳴素子に対応する位置にて、前記誘電体基板と前記アンテナ素子部とを貫通するように設けられた貫通孔(308)と、
を備え、
前記検出装置は、前記貫通孔を通過した前記蛍光を集光するように前記誘電体基板を挟んで前記磁気共鳴素子と対向配置された対物レンズ(501)を備えた、
磁気センサ。
[観点7]
前記アンテナ素子部は、前記マイクロ波の波長をλとした場合にnλ/2(nは自然数)の線路長を有する伝送線路共振器としての構成を有し、
前記貫通孔は、前記線路長における一端からmλ/4(mは2n以下の自然数且つ奇数)に対応する位置であって且つ線路幅における中央に設けられた、
観点6に記載の磁気センサ。
[観点8]
前記貫通孔は、前記誘電体基板の他面(300b)に向かうにつれて拡径するテーパ部(308a)を有する、
観点6または7に記載の磁気センサ。
[観点9]
前記磁気共鳴素子にて発生した熱を吸収するように、前記磁気共鳴素子と前記アンテナ素子部との間に設けられた放熱基板(32)をさらに備えた、
観点6~8のいずれか1つに記載の磁気センサ。
[観点10]
前記アンテナ素子部は、コプレーナ導波路共振器としての構成を有する、
観点6~9のいずれか1つに記載の磁気センサ。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気センサ
2 磁気共鳴素子
3 高周波磁場印加装置
300 誘電体基板
300a アンテナ形成面(一面)
301 アンテナ素子部
308 貫通孔
4 照射装置
5 検出装置
51 対物レンズ