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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131683
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】抽出装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/02 20060101AFI20240920BHJP
   C11B 9/02 20060101ALI20240920BHJP
   C11B 1/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B01D11/02 101
C11B9/02
C11B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042098
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】浦井 孝之
【テーマコード(参考)】
4D056
4H059
【Fターム(参考)】
4D056AB14
4D056AB18
4D056AB19
4D056AC22
4D056BA11
4D056CA03
4D056CA17
4D056CA21
4D056CA22
4D056CA23
4D056CA36
4D056DA02
4H059BC12
4H059BC23
4H059BC44
4H059CA11
4H059CA18
4H059CA73
4H059CA87
4H059CA96
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抽出物の捕集系を短時間で容易且つきれいに洗浄することができる抽出装置を提供する。
【解決手段】抽出装置100は、原料Mを収容するマイクロ波を透過可能な密閉容器10と、マイクロ波を発振して原料に照射するマイクロ波発振装置24と、密閉容器に連通可能な一端18aを有し、マイクロ波の照射により原料から出る蒸気を通す配管18、32と、配管を通る蒸気を冷却して液化する冷却装置30と、配管を通って液化された抽出物Eを捕集するための容器42を配置可能で且つ配管の他端32bに連通可能な密閉空間S4を有する負圧チャンバ40と、負圧チャンバの密閉空間、配管の内部空間S3、及び密閉容器の内部空間S1を減圧する減圧ポンプ50と、配管の一端を密閉容器に気密に接続可能で且つ接続を解除可能なコネクタ16と、配管の他端を負圧チャンバの密閉空間に気密に接続可能で且つ接続を解除可能なコネクタ34と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を収容するとともにマイクロ波を透過可能な密閉容器と、
前記マイクロ波を発振して前記密閉容器内の原料に照射するマイクロ波発振装置と、
前記密閉容器に連通可能な一端を有し、前記マイクロ波の照射により前記原料から出る蒸気を通す配管と、
前記配管を通る蒸気を冷却して液化する冷却装置と、
前記配管を通って前記冷却装置によって液化された抽出物を捕集するための容器を配置可能で且つ前記配管の他端に連通可能な密閉空間を有する負圧チャンバと、
前記負圧チャンバの前記密閉空間、前記配管の内部、及び前記密閉容器の内部を減圧するための減圧装置と、
前記配管の前記一端を前記密閉容器に気密に接続可能で且つ接続を解除可能な第1コネクタと、
前記配管の前記他端を前記負圧チャンバの前記密閉空間に気密に接続可能で且つ接続を解除可能な第2コネクタと、
を有する抽出装置。
【請求項2】
前記第1コネクタは、前記配管の前記一端に向けて収束する収束面を有して該配管の外側に固定した第1栓部と、前記第1栓部の前記収束面に気密に接触する第1凹面及び前記配管の前記一端を通す貫通孔を有し前記密閉容器に気密に固定した第1受部と、を有し、
前記第2コネクタは、前記配管の前記他端に向けて収束する収束面を有して該配管の外側に固定した第2栓部と、前記第2栓部の前記収束面に気密に接触する第2凹面及び前記配管の前記他端を通す貫通孔を有し前記負圧チャンバに気密に固定した第2受部と、を有する、
請求項1に記載の抽出装置。
【請求項3】
前記負圧チャンバの前記密閉空間、前記配管の内部、及び前記密閉容器の内部の負圧を調整するためのレギュレータをさらに有する、
請求項1に記載の抽出装置。
【請求項4】
前記冷却装置は、前記配管を埋設する冷却液を収容した水槽と、前記水槽内に収容した冷却液を冷却する冷却機と、を有する、
請求項1に記載の抽出装置。
【請求項5】
前記冷却装置は、前記配管に接触して取り付けた複数の放熱フィンと、複数の前記放熱フィンの間に風を送るための送風装置と、を有する、
請求項1に記載の抽出装置。
【請求項6】
前記密閉容器と前記冷却装置の間の前記配管を途中で分割可能で且つ気密に接続可能に設けた第3コネクタをさらに有し、
前記密閉容器の重力方向の下方に前記冷却装置を配置し、前記冷却装置の重力方向の下方に前記負圧チャンバを配置し、前記第2及び第3コネクタによる接続を解除することにより前記冷却装置を着脱可能にした、
請求項1に記載の抽出装置。
【請求項7】
前記密閉容器を配置する加熱空間を囲む前記マイクロ波を透過不能な筐体を有し、前記加熱空間に前記マイクロ波を照射する前記マイクロ波発振装置を備えた加熱装置をさらに有し、
前記加熱装置の前記筐体が、前記配管を挿通可能な挿通孔を有し、
前記筐体の前記挿通孔の径が、前記マイクロ波の波長の1/2未満である、
請求項1に記載の抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、植物の枝葉から有効成分を抽出するための抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1のマイクロ波抽出装置は、原料を入れる閉鎖容器と、閉鎖容器内を減圧させるためのポンプと、閉鎖容器内にマイクロ波を照射して原料を加熱するためのマイクロ波発生手段と、加熱により原料から発生した水蒸気を回収器に向けて送るための導管と、導管を通る水蒸気を冷却して液化させる手段と、を有する。
【0003】
例えば、特許文献1の装置に異なる種類の原料を投入してその成分を抽出する場合、前に投入した原料の残渣と、導管の内面に残った抽出成分を洗浄する必要がある。この場合、例えば、閉鎖容器内に残っている残渣を取り出して、閉鎖容器に洗浄水などを投入して導管を通して流出させ、閉鎖容器の内面と導管の内面を洗浄する。このような洗浄を行うことにより、次に投入する原料から抽出した抽出物に、その前に投入した原料の成分が混入する不具合を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8-512337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した装置の洗浄には、多量の洗浄水を必要とし、洗浄に要する時間も長く、作業負担も大きい。例えば、原料の種類を頻繁に変える運用をした場合、原料を入れ替える度に装置を洗浄する必要があり、装置の稼働率が著しく低下してしまう。また、閉鎖容器と導管の内部は、負圧を維持する密閉された空間となっており、抽出物の流路となる閉鎖容器と導管の内面に凸凹があるため、洗浄水を流すだけでは閉鎖容器の内面と導管の内面をきれいに洗浄することは難しい。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、抽出物の捕集系を短時間で容易且つきれいに洗浄することができる抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の抽出装置の一態様は、密閉容器と、マイクロ波発振装置と、配管と、冷却装置と、負圧チャンバと、減圧装置と、第1コネクタと、第2コネクタと、を有する。密閉容器は、原料を収容するとともにマイクロ波を透過可能である。マイクロ波発振装置は、マイクロ波を発振して密閉容器内の原料に照射する。配管は、密閉容器に連通可能な一端を有し、マイクロ波の照射により原料から出る蒸気を通す。冷却装置は、配管を通る蒸気を冷却して液化する。負圧チャンバは、配管を通って冷却装置によって液化された抽出物を捕集するための容器を配置可能である。負圧チャンバは、配管の他端に連通可能な密閉空間を有する。減圧装置は、負圧チャンバの密閉空間、配管の内部、及び密閉容器の内部を減圧する。第1コネクタは、配管の一端を密閉容器に気密に接続可能で且つ接続を解除可能である。第2コネクタは、配管の他端を負圧チャンバの密閉空間に気密に接続可能で且つ接続を解除可能である。
【0008】
本発明の抽出装置の一態様によると、第1コネクタは、配管の一端に向けて収束する収束面を有して配管の外側に固定した第1栓部と、第1栓部の収束面に気密に接触する第1凹面及び配管の一端を通す貫通孔を有し密閉容器に気密に固定した第1受部と、を有する。第2コネクタは、配管の他端に向けて収束する収束面を有して配管の外側に固定した第2栓部と、第2栓部の収束面に気密に接触する第2凹面及び配管の他端を通す貫通孔を有し真空チャンバに気密に固定した第2受部と、を有する
本発明の抽出装置の一態様は、負圧チャンバの密閉空間、配管の内部、及び密閉容器の内部の負圧を調整するためのレギュレータをさらに有する。
【0009】
本発明の抽出装置の一態様によると、冷却装置は、配管を埋設する冷却液を収容した水槽と、水槽内に収容した冷却液を冷却する冷却機と、を有する。
【0010】
本発明の抽出装置の一態様によると、冷却装置は、配管に接触して取り付けた複数の放熱フィンと、複数の放熱フィンの間に風を送るための送風装置と、を有する。
【0011】
本発明の抽出装置の一態様は、密閉容器と冷却装置の間の配管を途中で分割可能で且つ気密に接続可能に設けた第3コネクタをさらに有し、密閉容器の重力方向の下方に冷却装置を配置し、冷却装置の重力方向の下方に負圧チャンバを配置し、第2及び第3コネクタによる接続を解除することにより冷却装置を着脱可能にした。
【0012】
本発明の抽出装置の一態様は、加熱装置をさらに有する。加熱装置は、密閉容器を配置する加熱空間を囲むマイクロ波を透過不能な筐体を有し、加熱空間にマイクロ波を照射するマイクロ波発振装置を備える。加熱装置の筐体は、配管を挿通可能な挿通孔を有する。筐体の挿通孔の径は、マイクロ波の波長の1/2未満である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、抽出物の捕集系を短時間で容易且つきれいに洗浄することができる抽出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る抽出装置を示す概略図である。
図2図2は、図1の抽出装置の密閉容器と配管を接続したコネクタを示す部分断面図である。
図3図3は、図2のコネクタの接続を解除した状態を示す部分断面図である。
図4図4は、図1の密閉容器から導出した配管と冷却装置を通る配管を接続したコネクタを示す外観図である。
図5図5は、図4のコネクタの接続を解除した状態を示す外観図である。
図6図6は、図1の冷却装置の一例である水冷装置を示す概略図である。
図7図7は、図1の冷却装置の他の一例である空冷装置を送風装置側から見た概略図である。
図8図8は、図7の空冷装置を反対側から見た概略図である。
図9図9は、図1の抽出装置の変形例の要部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る抽出装置100は、密閉容器10と、加熱装置20と、冷却装置30と、負圧チャンバ40と、減圧ポンプ50と、コントローラ60と、を有する。抽出装置100は、例えば、樹木の枝葉に含まれるモノテルペンなどの有効成分を抽出するための装置である。加熱装置20、冷却装置30、負圧チャンバ40、減圧ポンプ50、及びコントローラ60は、図示しないキャビネット等に収容配置してもよい。
【0016】
密閉容器10は、例えば、デシケータなどの透明なガラス製の容器であり、原料Mを入れる容器本体12と容器本体12の開口部11を密閉する蓋体14を有する。原料Mは、例えば、樹木の枝葉、かんきつ類の皮や実、ハーブなどの草などである。密閉容器10は、ガラスに限らず、マイクロ波を透過可能な材料により形成することができる。容器本体12の開口部11の縁には、略円環状のフランジ部13がある。蓋体14の縁にも、フランジ部13と略同径の円環状のフランジ部15がある。フランジ部13の蓋体14側の面とフランジ部15の容器本体12側の面は、互いに気密に接触可能な面である。
【0017】
蓋体14は、容器本体12の開口部11を塞いだ状態(図1の状態)で、容器本体12から離れる方向に膨出したドーム形状を有する。蓋体14は、その頂部に、コネクタ16を備える。コネクタ16は、配管18の一端18aを密閉容器10の内部空間S1に気密に接続可能であり、且つ接続を解除可能なものである。コネクタ16は、本願の特許請求の範囲に記載した「第1コネクタ」の一例である。コネクタ16については後に詳述する。
【0018】
加熱装置20は、例えば、マイクロ波を透過不能な金属材料により形成した筐体22を有する。筐体22は、図示しない開閉ドアを有する。開閉ドアは、筐体22の内部空間S2を開放及び閉塞する。筐体22の内部空間S2には、密閉容器10を収容配置することができる。筐体22の内部空間S2は、本願の特許請求の範囲に記載した「加熱空間」の一例である。以下、加熱装置20の筐体22の内部空間S2を加熱空間S2と称する。
【0019】
加熱装置20は、その天壁に、マイクロ波発振装置24を備える。マイクロ波発振装置24は、コントローラ60の制御によりマイクロ波を発振して、加熱空間S2に配置した密閉容器10内の原料Mに照射する。原料Mに含まれる水分子にマイクロ波が当たると原料Mが加熱される。加熱装置20は、筐体22の側壁の一部に挿通孔23を有する。挿通孔23は、コネクタ16の後述する栓部161を挿通可能な大きさ及び形状、もしくは後述するコネクタ31の固定部材315を挿通可能な大きさ及び形状を有する。また、挿通孔23は、マイクロ波を通過不能な大きさ及び形状を有する。配管18は、加熱により原料Mから出る蒸気を通す。
【0020】
挿通孔23は、例えば、筐体22を貫通した円形の孔である。挿通孔23が円形である場合、その直径は、マイクロ波の波長の1/2未満である。挿通孔23が円形ではない場合、挿通孔23の縁にある2点を結ぶ直線のうち最も長い直線がマイクロ波の波長の1/2未満の長さになる形状及びサイズの孔であればよい。本願の特許請求の範囲における「挿通孔の径」は、挿通孔23の縁にある2点を結ぶ最長の直線の長さを意味する。このように、挿通孔23の径をマイクロ波の波長の1/2未満にすることで、マイクロ波が挿通孔23を通って加熱空間S2から筐体22の外に出ることを防止することができる。例えば、マイクロ波の振動数が2.4GHzである場合、挿通孔23の径は6cm未満であればよい。
【0021】
配管18の他端18bは、コネクタ31により、冷却装置30を通る配管32の一端32aに気密に接続することができる。コネクタ31は、配管18の他端18bと配管32の一端32aの接続を解除することができる。コネクタ31により気密に接続した配管18、32は、本願の特許請求の範囲に記載した「配管」の一例である。言い換えると、コネクタ31は、配管18、32を途中で分割可能で且つ気密に接続可能である。コネクタ31は、配管18、32の内部空間S3を流れる蒸気の流れ方向に沿って冷却装置30の上流側に配置されている。コネクタ31は、本願の特許請求の範囲に記載した「第3コネクタ」の一例である。コネクタ31については後に詳述する。
【0022】
冷却装置30は、コネクタ31を介して配管18の他端18bに接続した配管32を通る蒸気を冷却して液化させる。冷却装置30を通って冷却装置30から導出された配管32の他端32bは、コネクタ34を介して負圧チャンバ40の密閉空間S4に気密に接続することができる。コネクタ34は、配管32の他端32bと負圧チャンバ40の接続を解除することができる。コネクタ34は、上述したコネクタ16と同じ構造を有する。コネクタ34は、本願の特許請求の範囲に記載した「第2コネクタ」の一例である。
【0023】
冷却装置30には、後述する水冷式や空冷式などがある。冷却装置30は、配管32を流れる蒸気を冷却して液化することができるものであればいかなるものであってもよく、例えば、ペルチェ素子を利用した冷却装置などを用いてもよい。冷却装置30は、コネクタ31、34による接続を解除することにより、抽出装置100から取り外すことができ、別の冷却装置に交換することもできる。
【0024】
本実施形態のように、冷却装置30を交換可能にすることにより、種類の異なる原料を抽出装置100に投入してその成分を抽出する場合に有利となる。つまり、原料の種類を変更した際には、冷却装置30を別の冷却装置に交換すればよく、すぐに次の原料に対する抽出処理を開始することができる。また、冷却装置30を交換可能にすることにより、抽出装置100で処理する原料Mの種類、抽出装置100に要求される冷却性能、抽出装置100のサイズなどに応じて適切な冷却装置30を選択して使用することができる。なお、冷却装置30は、配管とコネクタを追加することで複数台を直列につなぐこともできる。この場合、抽出装置100の要求性能に応じた台数の冷却装置30を組み込むこともできる。
【0025】
負圧チャンバ40は、コネクタ34を介して配管32の他端32bに連通する密閉空間S4を有する。負圧チャンバ40は、閉位置に配置することにより密閉空間S4を密閉可能で、且つ開位置に配置することで密閉空間S4を開放可能な図示しない蓋体を有する。密閉空間S4内には、配管32を通って冷却装置30により冷却されて液化された抽出物Eを捕集するための容器42を配置することができる。容器42は、蓋体を開閉することにより、密閉空間S4に出し入れすることができる。
【0026】
負圧チャンバ40と冷却装置30の間には、バネ等の弾性部材35がある。弾性部材35は、負圧チャンバ40の上面に対し冷却装置30を弾性支持する。言い換えると、冷却装置30は、弾性部材35の弾性変形を伴って、負圧チャンバ40に対して離接可能な状態で負圧チャンバ40の上に載置されている。負圧チャンバ40と冷却装置30の間には、冷却装置30の上下方向の移動をガイドする図示しないガイド部材等を設けてもよい。弾性部材35は、スポンジやゴムなどでもよい。
【0027】
減圧ポンプ50は、負圧チャンバ40の密閉空間S4を吸引して密閉空間S4を減圧させて負圧にする。密閉空間S4が減圧されると、密閉空間S4に気密に連通した配管18、32の内部空間S3と、配管18、32の内部空間S3を介して密閉空間S4に気密に連通した密閉容器10の内部空間S1も同じ圧力まで減圧される。減圧ポンプ50は、本願の特許請求の範囲に記載した「減圧装置」の一例である。
【0028】
負圧チャンバ40と減圧ポンプ50の間には、レギュレータ52がある。レギュレータ52は、負圧チャンバ40の密閉空間S4、配管18、32の内部空間S3、及び密閉容器10の内部空間S1の負圧を所望する値に調整する。レギュレータ52は、負圧チャンバ40の密閉空間S4を大気に開放することもできる。負圧チャンバ40は、レギュレータ52とは別に、密閉空間S4を大気に開放するための図示しない吸気管とバルブを備えてもよい。負圧チャンバ40の密閉空間S4、配管18、32の内部空間S3、及び密閉容器10の内部空間S1が1つの密閉された空間を形成しているため、減圧ポンプ50とレギュレータ52は、負圧チャンバ40以外、例えば配管18、32の途中などに接続してもよい。
【0029】
コントローラ60は、減圧ポンプ50を動作させて、負圧チャンバ40の密閉空間S4、配管18、32の内部空間S3、及び密閉容器10の内部空間S1を減圧させる。コントローラ60は、加熱装置20のマイクロ波発振装置24を制御して、所望する強度のマイクロ波を発振して加熱空間S2に照射し、密閉容器10の内部空間S1に収容した原料Mを所望する温度まで加熱する。
【0030】
抽出装置100は、図1に示すように、密閉容器10を配置する加熱装置20の重力方向の下方に冷却装置30を備え、冷却装置30の重力方向の下方に負圧チャンバ40を備える。本実施形態のように、原料Mを入れる密閉容器10を冷却装置30の上方に配置すると、密閉容器10を冷却装置30の下方に配置した場合と比較して、配管18を通る蒸気が配管18の内面で結露する量を少なくすることができる。
【0031】
図2及び図3に示すように、配管18の一端18aを密閉容器10に接続するコネクタ16は、配管18の一端18aの近くの外側に固定した栓部161と、密閉容器10の蓋体14の頂部に固定した受部163を有する。図3に示すように、栓部161の後述する円錐台部分161cには、シリコン管165を取り付けてある。図2では、図面を見易くするため、シリコン管165の図示を省略してある。
【0032】
栓部161は、配管18の外側に一体に設けてもよく、配管18の外面に接着固定してもよく、溶着により固定してもよい。栓部161は、配管18の一端18aに向けて収束する円錐面17を外周面に有する円錐台部分161cと、円錐台部分161cの一端18aから離間した側に設けた円環部分161aと、円環部分161aと円錐台部分161cを一体につないだ円筒部分161bを有する。円環部分161a、円筒部分161b、及び円錐台部分161cは、同軸に接続され、中心を通る断面円形の貫通孔162を備える。貫通孔162は、配管18を挿通するための孔である。貫通孔162の内径は、配管18の外径と略同じである。例えば、配管18の一端18aを栓部161の円環部分161a側から貫通孔162に圧入して気密に固定してもよい。
【0033】
栓部161は、本願の特許請求の範囲に記載した「第1栓部」の一例である。栓部161は、シリコンゴムなどの耐薬性が高く弾性のある素材により形成してもよい。この場合、シリコン管165はなくてもよい。栓部161の円錐面17は、本願の特許請求の範囲に記載した「収束面」の一例である。栓部161の「収束面」は、本実施形態のような円錐形に限らず、以下に説明する受部163側の凹面に対して気密に接触することができる形状であればよい。「収束面」は、受部163の凹面に面で接触することが望ましいが、「収束面」の周方向につながる環状の線の全長が受部163の凹面に接触する形状であってもよい。
【0034】
受部163は、略円筒形に形成されており、蓋体14の頂部を貫通して取り付けられている。受部163の中心にある貫通孔164は、蓋体14を容器本体12に取り付けた状態で、密閉容器10の内部空間S1と密閉容器10の外部を連通する。受部163の貫通孔164の内面は、栓部161の円環部分161aを嵌合する円環状の段部164aと、比較的大径の円筒面164bと、栓部161の円錐台部分161cの円錐面17と同形の円錐凹面19と、比較的小径の円筒面164cを同軸に有する。
【0035】
受部163は、本願の特許請求の範囲に記載した「第1受部」の一例である。受部163も、栓部161と同様に、シリコンゴムなどの耐薬性が高く弾性のある素材により形成してもよい。受部163の円錐凹面19は、本願の特許請求の範囲に記載した「第1凹面」の一例である。受部163の「第1凹面」は、栓部161の「収束面」と気密に接触する形状を有していればよく、栓部161の「収束面」の形状に合わせて設定すればよい。「気密に接触する形状」とは、図2に示すようにコネクタ16を接続した状態で、配管18の内部空間S3と密閉容器10の内部空間S1が気密な密閉空間を形成することができる形状であり、本実施形態のような面接触の他に上述したような線接触が考えられる。
【0036】
例えば、受部163の円錐凹面19に対して、栓部161の円錐台部分161cを球形にしてもよく、この場合、両者の接触は円形の線接触となる。また、受部163の円錐凹面19の頂角と栓部161の円錐台部分161cの頂角を異ならせてもよく、この場合も、両者の接触は円形の線接触となる。しかし、両者を面で接触させるためには、受部163の円錐凹面19の頂角と栓部161の円錐台部分161cの頂角を略同じ角度にする必要があり、気密性を高めるためには本実施形態のような同形の円錐面にすることが望ましい。
【0037】
配管18の一端18aをコネクタ16により蓋体14に接続する場合、図3に示すように、栓部161を固設した配管18の一端18aを蓋体14に固設した受部163の貫通孔164に入れる。これにより、栓部161の円錐台部分161cが貫通孔164に嵌り、円錐台部分161cの円錐面17が受部163の円錐凹面19に面で接触する。この状態(図2の状態)で、配管18の一端18aは、密閉容器10の内部空間S1に配置される。
【0038】
また、このとき、栓部161の円環部分161aが、受部163の段部164aに緩く嵌合する。栓部161の円環部分161aは、段部164aに嵌合することで、栓部161の架空の中心軸と受部163の架空の中心軸を同心状に配置するように機能する。これにより、栓部161が受部163に対して傾斜して取り付けられる不具合を防止して、栓部161の円錐面17を受部163の円錐凹面19に対し確実に面で接触させることができる。
【0039】
栓部161の円環部分161aと受部163の段部164aは、栓部161の円錐面17が受部163の円錐凹面19に面で接触した状態で、軸方向に互いに近付く方向へのわずかな移動が可能な状態で緩く嵌合している。円錐台部分161cの円錐面17が配管18の一端18aに向けて収束しており、受部163の円錐凹面19が円錐面17と同形に形成されているため、図2の状態から栓部161がさらに図示下方に押し込まれることはない。なお、この状態(栓部161を固設した配管18の一端18aを受部163の貫通孔164に挿し込んだだけ)では、配管18を容易に引き抜くことができ、栓部161が受部163から分離可能な状態である。
【0040】
コネクタ16は、減圧ポンプ50により負圧チャンバ40の密閉空間S4を減圧させることにより、配管18と密閉容器10の気密な接続を完了する。つまり、栓部161を受部163に挿し込んだ状態で、負圧チャンバ40の密閉空間S4が減圧されると、配管18、32の内部空間S3と密閉容器10の内部空間S1も減圧され、内部空間S1に負圧が生じて、配管18の栓部161が内部空間S1の方向に引っ張られる。これにより、栓部161の円錐台部分161cの円錐面17が受部163の円錐凹面19にさらに押し付けられて密着され、同形の面同士の押圧接触により気密が保たれる。円錐台部分161cに被着したシリコン管165は、円錐面17と円錐凹面19の間の気密性をさらに向上させている。このようなコネクタ16の接続状態は、密閉容器10の内部空間S1の負圧が無くなるまで保持される。言い換えると、レギュレータ52を大気に開放して負圧チャンバ40の密閉空間S4を大気圧に戻すことにより、コネクタ16による接続を容易に解除することができる。
【0041】
なお、密閉容器10の内部空間S1が負圧になると、容器本体12のフランジ部13と蓋体14のフランジ部15も密着されて、内部空間S1が密閉されて気密性が保持される。また、内部空間S1の負圧を解消することで、蓋体14を容器本体12と容易に分離することができ、容器本体12内に残った原料Mの残渣を取り出すことができ、密閉容器10の内面の洗浄が可能となる。
【0042】
図4及び図5に示すように、コネクタ31は、密閉容器10から導出した配管18の他端18bと冷却装置30を通る配管32の一端32aを気密に接続する。コネクタ31は、配管18の他端18b近くの外面に固設した略円筒形の栓部311と、軸方向の中央にナット312を一体に備える略円筒形の連結部材313と、栓部311を間に挟んで連結部材313の雄ネジ314に螺合する略円筒形の固定部材315を有する。コネクタ31は、配管32の一端32a近くの外面に固設した略円筒形の栓部311と、連結部材313の反対側の雄ネジ314に螺合する略円筒形の固定部材315をさらに有する。
【0043】
配管32の一端32aに固設した栓部311は配管18の他端18bに固設した栓部311と同じ構造を有し、連結部材313の軸方向の両端に螺合する2つの固定部材315も同じ構造を有する。よって、ここでは、配管18の他端18bを連結部材313の一端に接続する構造について説明し、配管32の一端32aを連結部材313の他端に接続する構造については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0044】
栓部311は、その中心に、配管18の他端18bを挿通する挿通孔311aを有する。栓部311は、挿通孔311aを持たずに配管18と一体に設けてもよく、配管18の外面に接着固定してもよく、或いは、溶着により固定してもよい。挿通孔311aの内径は、配管18の外径と略同じである。栓部311は、挿通孔311aに配管18の他端18bを圧入して気密に固定してもよい。栓部311は、その表面に、軸方向の中央から軸方向の両端に向けて収束した2つの円錐面311b、311cを有する。栓部311は、わずかに弾性変形が可能なシリコンゴムにより形成してもよい。
【0045】
連結部材313は、ナット312の軸方向の両端に2つの円筒部313a、313bを一体に備える。円筒部313a、313bは、それぞれの周面に雄ネジ314を備える。連結部材313は、ナット312と2つの円筒部313a、313bを貫通した断面円形の通気孔316を有する。円筒部313aのナット312から離間した端部には、配管18に固設した栓部311の円錐面311cに面で接触する円錐凹面316aがある。円錐凹面316aは、通気孔316の内面の一部であり、通気孔316の端部にあり、通気孔316の軸方向の中心に向けて収束した、円錐面311cと同形の面である。反対側の円筒部313bの端部にも、円錐凹面316aと同形の円錐凹面316bがある。
【0046】
固定部材315は、その中心を通る貫通孔317を有する。貫通孔317は、その内面に、配管18の外径よりわずかに大きい内径の筒面317aと、筒面317aの一端から拡径した円錐凹面317bと、円錐凹面317bの他端に連続した雌ネジ317cを有する。固定部材315は、筒面317a側から配管18の他端18bを貫通孔317に挿通した後、配管18の他端18b近くに栓部311を固設することにより配管18に取り付けられる。貫通孔317の円錐凹面317bは、栓部311の円錐面311bと同形の面であり、円錐面311bに面で接触することができる。
【0047】
雌ネジ317cは、連結部材313の円筒部313aの雄ネジ314に螺合する。栓部311を間に挟んで固定部材315を連結部材313の円筒部313aに螺着すると、栓部311の円錐面311bが固定部材315の円錐凹面317bに気密に押し付けられ、栓部311の反対側の円錐面311cが連結部材313の円筒部313aの円錐凹面316aに気密に押し付けられる。この状態(図4の状態)で、配管18の他端18bが連結部材313の通気孔316の途中に配置され、反対側に同様に連結される配管32と連通する。コネクタ31によるこのような接続は、少なくとも一方の固定部材315を連結部材313から取り外すことで容易に解除することができる。
【0048】
或いは、コネクタ31は、配管18、32の内部空間S3の負圧を利用して気密な接続を完了する構造を有してもよい。この場合、例えば、上述したように連結部材313と固定部材315を締結固定する代わりに、連結部材313の円筒部313a、313bに固定部材315をラッチ爪等により簡易的に固定する構造を採用してもよい。或いは、このような簡易的な固定構造は無くてもよい。例えば、連結部材313の両端に固定部材315を簡易固定した状態では、栓部311の円錐面311bが固定部材315の円錐凹面317bに必ずしも接触していなくてもよく、栓部311のもう一方の円錐面311cも連結部材313の円錐凹面316aに必ずしも接触していなくてもよい。これら円錐面と円錐凹面の接触は、配管18、32の内部空間S3を負圧にすることによって達成することができる。なお、このような簡易固定を採用した場合、コネクタ31による連結を解除する際には、配管18、32の内部空間S3の負圧を解消した後に、配管18、32を互いに離れる方向に引っ張って、2つの固定部材315のうちの一方を連結部材313と分離すればよい。
【0049】
冷却装置30を通る配管32の他端32bを負圧チャンバ40の密閉空間S4に気密に接続するコネクタ34は、図2、3を用いて説明した上述したコネクタ16と同じ構造を有する。つまり、コネクタ34は、配管32の他端32b近くに固設した栓部161と、負圧チャンバ40の天壁に固設した受部163を有する。配管32に固設した栓部161は、「第2栓部」の一例であり、栓部161の円錐面17は、本願の特許請求の範囲に記載した「収束面」の一例である。負圧チャンバ40に固設した受部163は、「第2受部」の一例であり、受部163の円錐凹面19は、「第2凹面」の一例である。
【0050】
コネクタ34によって配管32の他端32bを負圧チャンバ40の密閉空間S4に接続する場合、栓部161を固設した配管32の他端32bを負圧チャンバ40に固設した受部163の貫通孔164に挿し込んで、冷却装置30を負圧チャンバ40の上に重ねて配置する。このとき、冷却装置30と負圧チャンバ40の間に設けた弾性部材35は、栓部161の円錐面17が受部163の円錐凹面19に弱い押圧力で接触するか或いは両者の間にわずかな隙間が形成される程度の弾性力で冷却装置30を支持することが望ましい。なお、栓部161を受部163に挿し込む方向は、鉛直方向である。
【0051】
この状態で、減圧ポンプ50により負圧チャンバ40の密閉空間S4を負圧にすると、配管32の他端32bに固設した栓部161が受部163に向けて吸引され、栓部161の円錐面17が受部163の円錐凹面19に押し付けられて気密に密着する。このとき、冷却装置30が弾性部材35により上下に移動可能に支持されているため、栓部161が受部163に近付く方向へのわずかな移動を許容する。つまり、コネクタ34の接続も、負圧チャンバ40の密閉空間S4を負圧にすることで完了する。また、コネクタ34による接続は、負圧チャンバ40の密閉空間S4の負圧を解消することにより容易に解除することができる。
【0052】
図6に示すように、冷却装置30は、例えば水冷式のものであってもよい。
この場合、冷却装置30は、例えば、配管32の少なくとも一部を埋設する冷却液Lを収容した水槽33と、水槽33内の冷却液Lを循環させて冷却液Lを冷却するための冷却機36を有する。配管32は、内部を通る蒸気と冷却液Lとの間の熱交換を促進するため、コイル状に巻いた金属管などであってもよい。或いは、冷却機36を別体にして、コイル状の配管32を埋設した水槽33だけを負圧チャンバ40の上に重ねて配置してもよい。この場合、水槽33を交換する際には、冷却水を抜いてから、冷却機36との間の配管を取り外せばよい。
【0053】
或いは、図7及び図8に示すように、冷却装置30は、空冷式のものであってもよい。
この場合、冷却装置30は、例えば、ミアンダ状に折り曲げた配管32に接触して取り付けた複数の放熱フィン37と、複数の放熱フィン37の間に風を送るための送風装置38を有する。配管32は、熱伝導率の高い金属管などを用いてもよい。複数の放熱フィン37は、冷却効率を高めるため、できるだけ多く設けることが望ましく、互いに平行に配置してエアーの流通方向を送風装置38の送風方向と一致させることが望ましい。
【0054】
以下、図1を参照して、上述した抽出装置100を用いた成分抽出方法について説明する。
まず、準備作業として、抽出したい成分(以下、目的成分と称する)を含む原料Mを密閉容器10の容器本体12内に入れ、蓋体14で容器本体12の開口部11を塞ぐ。そして、この密閉容器10を加熱装置20の加熱空間S2に入れ、蓋体14に固設した受部163の貫通孔164に配管18の一端18aに固設した栓部161を挿し込んで、加熱装置20の開閉ドアを閉める。また、準備作業として、負圧チャンバ40の密閉空間S4内に配置した配管32の他端32bの下に抽出物Eを捕集するための容器42を置いて、負圧チャンバ40の蓋体を閉める。
【0055】
この状態で、減圧ポンプ50を作動させて負圧チャンバ40の密閉空間S4を目的成分によって決まる所定の負圧まで減圧させる。これにより、原料Mを入れた密閉容器10の内部空間S1と配管18、32の内部空間S3も、負圧チャンバ40の密閉空間S4と同じ負圧まで減圧される。これら負圧チャンバ40の密閉空間S4、配管18、32の内部空間S3、及び密閉容器10の内部空間S1(以下、負圧空間S1、S3、S4と称する)の負圧は、原料Mの種類と原料Mから抽出したい目的成分に合わせて、レギュレータ52により調整する。例えば、原料Mがトドマツの枝葉であり、抽出したい目的成分がモノテルペンである場合、負圧空間S1、S3、S4の負圧を約15kPaに調整する。負圧空間S1、S3、S4を負圧にすると、密閉容器10の蓋体14が容器本体12に気密に密着し、コネクタ16、31、34がそれぞれ気密に接続する。
【0056】
この後、マイクロ波発振装置24により加熱装置20の加熱空間S2にマイクロ波を照射し、密閉容器10内の原料を加熱する。このとき、密閉容器10の内部空間S1が所定の負圧まで減圧されているため、マイクロ波の照射によって原料Mから蒸気が出る加熱温度(すなわち、原料Mに含まれる水分の沸点)は、大気圧下と比べて低くなる。例えば、上述したように、原料Mがトドマツの枝葉であり、抽出したい目的成分がモノテルペンである場合、原料Mから蒸気が出る加熱温度は、約50℃となる。つまり、負圧空間S1、S3、S4の減圧度を調整することで、原料Mの加熱温度を目的成分の抽出に適した所望する温度に設定することができ、原料Mから目的成分を多く含む抽出物Eを取り出すことができる。
【0057】
原料Mから出た目的成分を多く含む蒸気は、配管18を通って冷却装置30の配管32を流れて冷却されて液化される。液化された抽出物Eは、負圧チャンバ40の密閉空間S4に配置した容器42で捕集される。容器42で捕集される抽出物Eは、原料Mが例えばトドマツの枝葉である場合、親水性の水性層と疎水性の油性層に分離する。目的成分であるモノテルペンは油性層に含まれている。抽出物Eの油性層は、例えば香料の原料、NO除去剤、又はアレルゲン活性低減化剤として利用することができる。抽出物Eの水性層は、例えば、芳香剤、消臭剤、浴用剤などとして利用することができる。密閉容器10に残った原料Mの残渣は、例えば動物用トイレで使用する尿吸収材として利用することができる。
【0058】
原料Mは、上述した目的成分の他に、抽出温度の異なる他の成分を含む。原料Mを加熱する温度を変えることで、原料Mから抽出する成分を変えることができる。また、加熱温度を調整することで、原料Mから特定の成分を抽出した後の残渣に残す成分をコントロールすることもできる。つまり、本実施形態の抽出装置100によると、負圧空間S1、S3、S4の負圧を調整することにより、原料Mの加熱温度を目的成分に合った温度に設定することができ、原料Mから抽出する成分、及び残渣に残る成分を容易にコントロールすることができる。
【0059】
また、本実施形態の抽出装置100によると、抽出物Eの捕集系である負圧空間S1、S3、S4を負圧にするため、捕集系を減圧しない場合と比較して、目的成分を抽出するための原料Mの加熱温度を低くすることができ、目的成分の抽出に要する処理時間を短縮することができ、消費エネルギーを抑えることができる。また、本実施形態によると、原料Mから出る蒸気の温度を低くすることができるため、蒸気を液化するための冷却装置30の冷却能力を低くすることができ、水冷式ではなく空冷式の冷却装置30を使用することもできる。このため、抽出装置100をコンパクトにすることができ、例えば卓上に設置可能なサイズを実現することもでき、移動も容易にできる。
【0060】
また、本実施形態によると、減圧させた負圧空間S1、S3、S4内の酸素濃度は減圧しない場合と比較して低く、原料Mから出た蒸気に含まれる抽出成分が酸化され難く、抽出物Eを酸素含有量の少ないフレッシュで鮮度の高い状態で捕集することができる。また、本実施形態によると、原料Mに水を加えることなく、原料Mに元々含まれている水分をキャリアとして成分を抽出することができるため、抽出物Eに含まれる目的成分の濃度が高く目的成分の捕集効率を高めることができる。
【0061】
モノテルペンは、約150℃~250℃程度の高い沸点を有するため、従来は、抽出工程において比較的高い温度をかける必要があり、抽出する成分が酸化し易かった。なるべく酸化しないように低い温度でモノテルペンを抽出するためには、本実施形態の抽出装置100が適している。従来、モノテルペンをトドマツの枝葉から抽出する場合、水蒸気蒸留を行った後、分画や精製をする必要があったが、本実施形態の抽出装置100であれば分画や精製の必要がなく、鮮度の高いモノテルペンを短時間で効率良く捕集することができる。
【0062】
なお、本実施形態の抽出装置100は、種類の異なる別の原料Mを投入して新たな目的成分を抽出する際の抽出物Eの捕集系の洗浄が容易である。ここで言う捕集系は、原料M、蒸気、及び抽出物Eが接触する、密閉容器10の内面、配管18、32の内面、コネクタ16、31、34、及び容器42を含む。
【0063】
目的成分の抽出が終了した後の抽出装置100の捕集系を洗浄する場合、まず、レギュレータ52を開放して負圧空間S1、S3、S4を大気圧に戻す。負圧空間S1、S3、S4の負圧を解消することにより、コネクタ16、31、34の接続を解除することができる状態になる。この後、コネクタ16による接続を解除して配管18の一端18aと密閉容器10を分離し、コネクタ31による接続を解除して配管18の他端18bと配管32の一端32aを分離し、コネクタ34による接続を解除して配管32の他端32bと負圧チャンバ40を分離する。
【0064】
例えば、図3に示すように、コネクタ16を外すと、配管18の一端18aに固設した栓部161が密閉容器10の蓋体14に固設した受部163の貫通孔164から抜け、配管18の一端18aが貫通孔164から引き抜かれる。図2に示すように、コネクタ16を接続した状態で密閉容器10の内部空間S1から配管18を通って流れる蒸気は、内部空間S1から配管18の一端18aを介して配管18内に流入するため、密閉容器10の内面と配管18の内面のみに触れることになる。つまり、コネクタ16が蒸気に触れる部位はほとんど無く、配管18の内面と密閉容器10の内面を洗浄すればよいことになる。また、配管18は、加熱装置20の筐体22の挿通孔23から引く抜くことにより抽出装置100から分離することができる。よって、配管18は、例えば煮沸洗浄が可能であり、内面を容易且つきれいに洗浄することができる。
【0065】
同様に、冷却装置30を通る配管32の他端32bも、コネクタ34を接続した状態で、負圧チャンバ40の密閉空間S4内に配置されているため、コネクタ34の接続を解除して洗浄する場合には、配管32の内面だけを洗浄すればよいことになる。なお、配管32の一端32aは、コネクタ31により配管18の他端18bと分離することができるため、冷却装置30を容易に交換することもできる。冷却装置30を通る配管32は、抽出装置100から取り外した後、別工程にて洗浄することができ、次の原料Mに対する抽出処理をすぐに開始することができる。なお、2本の配管18、32を接続したコネクタ31の連結部材313の通気孔316の内面に蒸気が触れて付着した抽出物Eは、連結部材313を2本の配管18、32と分離した後、煮沸洗浄することにより容易に洗浄することができる。
【0066】
なお、上述した実施形態では、コネクタ16、34の栓部161の円錐面17と、コネクタ16、34の受部163の円錐凹面19と、コネクタ31の栓部311の円錐面311b、311cと、コネクタ31の固定部材315の円錐凹面317bと、コネクタ31の連結部材313の円錐凹面316bを円錐面とした場合について説明したが、これに限らず、三角錐や四角錐などの多角錐や、楕円推などの錐面であってもよい。また、このようなコネクタ16、31、34の接触面(円錐面17、311b、311c、円錐凹面19、317b、316b、)は、同じ形状同士の組み合わせに限らず、頂角の異なる錐面同士を組み合わせてもよい。いずれにしても、本願の特許請求の範囲に記載した「収束面」は、負圧によりコネクタを気密に接続できるこのような全ての面を含むものである。
【0067】
上述した実施形態では、密閉容器10の内部空間S1を密閉して所定の負圧まで減圧させた状態で原料Mを加熱して目的成分を抽出するようにしたが、例えば、図9に示す変形例のように、目的成分の抽出の途中で、密閉容器10の底に微量の空気を送り込んで原料M内を空気が通過するようにしてもよい。この場合、例えば、密閉容器10の内部空間S1と負圧チャンバ40の密閉空間S4をつないだ配管18の途中に小さな孔181を設けて、この孔181から極細の吸気管70を配管18の内部空間S3へ挿入し、この吸気管70の先端71を密閉容器10の底に配置すればよい。孔181と吸気管70の間の隙間は接着剤などでシールしておく。
【0068】
そして、原料M内に空気を通過させる際には、密閉容器10の内部空間S1を減圧させた状態で、吸気管70の基端部に設けたバルブ72を開いて、密閉容器10の底に微量の空気を取り入れる。これにより、減圧状態の密閉容器10の内部空間S1内から配管18及び配管32を通って負圧チャンバ40内の密閉空間S4への気流が生じ、内部空間S1で発生した蒸気が密閉空間S4へ速やかに移動する。
【0069】
吸気管70を介して密閉容器10の内部空間S1に外気を取り入れると内部空間S1の圧力が変化する。このため、バルブ72を開くタイミングと開度(単位時間内に外気を取り入れる量)は、密閉容器10の内部空間S1の負圧を維持することができるように調整する必要がある。内部空間S1の負圧は、レギュレータ52による調整と合わせて実施してもよい。
【0070】
上述した変形例によると、密閉容器10の底部に微量の空気を取り込むことで原料Mが空気に触れる面積を増やすことができ、目的成分の抽出効率を高めることができる。例えば、上述した実施形態と比較すると、本変形例のように密閉容器10の底部に微量の空気を入れた場合、約10分間の抽出時間で約1.15倍の油性層を得ることができた。また、流入した空気により、原料Mに均一に熱が伝わるため、部分加熱による焦げを防止することができる。
【0071】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
10…密閉容器、 12…容器本体、 14…蓋体、 16…コネクタ、 161…栓部、 163…受部、 17…円錐面、 18…配管、 18a…一端、 18b…他端、 19…円錐凹面、 20…加熱装置、 22…筐体、 23…挿通孔、 30…冷却装置、 31…コネクタ、 311…栓部、 311b、311c…円錐面、 313…連結部材、 316a、316b…円錐凹面、 317b…円錐凹面、 32…配管、 32a…一端、 32b…他端、 34…コネクタ、 35…弾性部材、 40…負圧チャンバ、 42…容器、 50…減圧ポンプ、 52…レギュレータ、 60…コントローラ、 70…吸気管、 100…抽出装置、 E…抽出物、 M…原料、 S1…内部空間、 S2…加熱空間、 S3…内部空間、 S4…密閉空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9