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特開2024-13169歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013169
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/889 20200101AFI20240124BHJP
   A61K 6/20 20200101ALI20240124BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20240124BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/20
A61K6/836
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115161
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 潤
(72)【発明者】
【氏名】坂本 秀二
(72)【発明者】
【氏名】塚本 雅広
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA04
4C089BA14
4C089BC02
4C089BC08
4C089BC11
4C089BD01
4C089BD03
4C089BE02
4C089BE03
4C089CA04
(57)【要約】
【課題】 煩雑な操作を伴わず、簡便な手順で歯質に対して高い接着性を発現する歯科用歯面処理材組成物と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を含む歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットを提供する。
【解決手段】 歯科用歯面処理材組成物(i)と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を含む歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットであって、歯科用歯面処理材組成物(i)は、(A)水溶性有機溶媒を20質量%以上79質量%以下、(B)水を20質量%以上79質量%以下、及び(C)酸無水物構造を有する重合性単量体を1質量%以上30質量%以下、を含み、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(D)酸反応性ガラス粉末、(B)水、
(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び(H)重合開始剤、を含むものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用歯面処理材組成物(i)と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を含む歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットであって、
前記歯科用歯面処理材組成物(i)は、
(A)水溶性有機溶媒を20質量%以上79質量%以下、
(B)水を20質量%以上79質量%以下、及び
(C)酸無水物構造を有する重合性単量体を1質量%以上30質量%以下、
を含み、
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、
(D)酸反応性ガラス粉末、
(B)水、
(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、
(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、
(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び
(H)重合開始剤、
を含む、ことを特徴とする歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項2】
前記(C)酸無水物構造を有する重合性単量体が下記式(1)で表される化合物である請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【化1】
(式中、Xはエーテル結合、アミド結合、エステル結合及び/又は置換基を有していてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、Aは(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリルアミド基を示す。)
【請求項3】
前記(C)酸無水物構造を有する重合性単量体が4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸アミドの無水物、及び4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸アミドの無水物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項4】
前記(A)水溶性有機溶媒がエタノール、イソプロパノール及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項5】
前記(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に(I)酸性基含有重合性単量体をさらに含む、請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項7】
前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを0.1質量%以上10質量%以下でさらに含む請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項8】
前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(H)重合開始剤を0.01質量%以上10質量%以下でさらに含む請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項9】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を0.1質量%以上30質量%以下含む請求項1に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項10】
前記(C)酸無水物構造を有する重合性単量体が4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸アミドの無水物、及び4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸アミドの無水物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項11】
前記(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(2)で表される化合物である、請求項2に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【化3】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項12】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットに(I)酸性基含有重合性単量体をさらに含む、請求項2に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項13】
前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを0.1質量%以上10質量%以下でさらに含む請求項2に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項14】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を0.1質量%以上30質量%以下含む請求項2に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項15】
前記(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(2)で表される化合物である、請求項3に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【化4】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項16】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットに(I)酸性基含有重合性単量体をさらに含む、請求項3に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項17】
前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを0.1質量%以上10質量%以下でさらに含む請求項3に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項18】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を0.1質量%以上30質量%以下含む請求項3に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項19】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に(I)酸性基含有重合性単量体をさらに含む、請求項5に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項20】
前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを0.1質量%以上10質量%以下でさらに含む請求項5に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項21】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を0.1質量%以上30質量%以下含む請求項5に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項22】
前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを0.1質量%以上10質量%以下でさらに含む請求項6に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項23】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を0.1質量%以上30質量%以下含む請求項6に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項24】
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を0.1質量%以上30質量%以下含む請求項7に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか1項に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットを歯質に適用する方法であって、
前記歯科用歯面処理材組成物(i)を歯面に塗布する第1工程、
その塗布面に対して水洗を行わずに直ぐに乾燥を行う第2工程、
その乾燥面に対して光照射を行わずに前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を適用する第3工程、
適用した歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に対して光照射を行い硬化させる第4工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にう蝕や破折等により部分的に形態が損なわれた歯牙を修復するための、又は歯科補綴装置を形態が損なわれた歯牙に接着又は合着させるための歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科臨床において、う蝕や破折等により部分的に形態が損なわれた歯牙に対して審美的及び機能的回復を行うために、歯科充填用コンポジットレジンや歯科充填用グラスアイオノマーセメントを歯牙に充填する直接修復や、歯科用接着性レジンセメントや歯科合着用グラスアイオノマーセメントを用いて歯科補綴装置を歯牙に接着又は合着させる間接修復が行われている。
【0003】
一般的に、歯科充填用コンポジットレジンや歯科用接着性レジンセメント等に代表される歯科用レジン系材料は、高い機械的特性や高い透明性による優れた審美性を有しており、さらに操作性における利点も有するため、近年広く用いられている。しかし歯科用レジン系材料には歯質に対する自己接着性が無いものが多く、それらの材料を適用する際には歯科用プライマー及び/又は歯科用ボンディング材を併用する必要がある。
【0004】
これに対して、歯科用(充填用または合着用)グラスアイオノマーセメントは、成分中のポリカルボン酸の作用により歯質に対する自己接着性を発現するため、歯科用ボンディング材又は歯科用プライマーを併用する必要がないことを利点としている。また、硬化物からフッ化物イオンが持続的に徐放されるため、二次う蝕の予防効果が期待できる。その反面、歯科用グラスアイオノマーセメントは、歯科用レジン系材料と比較して機械的特性が低いため、強い応力が掛かりにくい部位の修復に用いられることが多い。また歯科用グラスアイオノマーセメントは不透明であるため、審美性に課題を残している。
【0005】
一方で歯科用レジン系材料と歯科用グラスアイオノマーセメントが有するそれぞれの欠点を補うべく、歯科用レジン系材料の成分組成と歯科用グラスアイオノマーセメントの成分組成とを組み合わせた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントが提案されている。
【0006】
歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントは、歯科用グラスアイオノマーセメントと歯科用レジン系材料が有するそれぞれの長所を兼ね備えており、長期間の持続的なフッ化物イオンの徐放性、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントを上回る透明性や機的特性を有する。また、光硬化性を付与した場合は光照射により術者が意図したタイミングで組成物を硬化させることができるため、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントとは異なり、硬化を待つ必要がない等の利点を有している。
【0007】
また、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントのさらなる特徴として歯質に対する自己接着性が挙げられる。しかし、咬合力が掛かる臼歯部咬合面の修復の様に、歯質に対する接着性を確実に向上させておくことが望ましい場合がある。そのような場合、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントを修復部位に適用する前に歯面処理を行うことがある。
【0008】
特許文献1には窩洞形成後の歯面に残存し、接着阻害因子となるスメアー層(歯質の切削屑)を溶解させて除去するタイプの歯面処理材が提案されている。また、特許文献2にはスメアー層も含めて親水性の歯面を幾分疎水性に改質して、疎水性と親水性の中間的性質を持つ歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントの歯質に対する親和性を向上させるタイプの歯面処理材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8-217612号公報
【特許文献2】特開平9-249514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の歯面処理材はポリカルボン酸水溶液を主成分としており、窩洞形成後の歯面に塗布し、一定時間放置後、水洗し、乾燥する手順で使用される。この歯面処理材の適用により、スメアー層は歯面処理材に溶解し、水洗時に除去されるため、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントの歯質に対する接着性が向上する。しかし、このタイプの歯面処理材は歯面に適用後、水洗により充分に洗い流す必要があり操作が煩雑であった。
【0011】
特許文献2の歯面処理材は、リン酸基等を有する有機化合物、(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び水を主成分としており、窩洞形成後の歯面に塗布し、一定時間放置後、水洗を行わず乾燥のみを行う手順で使用される。この歯面処理材の適用により、スメアー層が溶解するとともに、(メタ)アクリレート系重合性単量体がスメアー層を取り込みつつ歯面に浸透するため、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントに含まれる重合性単量体と歯面との親和性が向上し、接着性が向上する。
【0012】
しかし、このタイプの歯面処理材は、歯質に対する接着性をよりいっそう向上させるには、2液混和型として化学重合開始剤を添加するか、或いは1液型に光重合開始剤を添加して、歯面処理材に重合硬化性を付与する必要があると示唆されている。しかし、前者は2液を混和する必要があるうえ、硬化するまでの待ち時間が生じるため、後者は光照射を行う必要が生じるため操作が煩雑であった。さらに、このタイプの歯面処理材は酸性の水溶液に(メタ)アクリレート系重合性単量体が含まれるために、(メタ)アクリロイルオキシ基のエステル結合が加水分解されることで、重合活性の高いアクリル酸、又はメタクリル酸が生成し、それらの重合が徐々に進行することで、経時的に粘度が上昇するという課題を有していた。
【0013】
そこで本発明は、煩雑な操作を伴わず、簡便な手順で歯質に対して高い接着性を発現する歯科用歯面処理材組成物と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を含む歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットを提供することを課題とする。さらに本発明は保存安定性に優れ、長期にわたり同じ操作感で使用できる歯科用歯面処理材組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、酸無水物構造を有する重合性単量体と水を主成分とする歯科用歯面処理材組成物は保存安定性に優れると共に、3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を配合した歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物と組み合わせた場合において、極めて簡便な歯面処理手順であっても、歯質に対して特異的に高い接着性を発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は、歯科用歯面処理材組成物(i)と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を含む歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットであって、
前記歯科用歯面処理材組成物(i)は、
(A)水溶性有機溶媒を20質量%以上79質量%以下、
(B)水を20質量%以上79質量%以下、及び
(C)酸無水物構造を有する重合性単量体を1質量%以上30質量%以下、
を含み、
前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、
(D)酸反応性ガラス粉末、
(B)水、
(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、
(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、
(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び
(H)重合開始剤、
を含む、ことを特徴とする歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットを提供する。
【0016】
また、本発明は歯科用歯面処理材組成物(i)を歯面に塗布する第1工程、その塗布面に対して水洗を行わずに直ぐに乾燥を行う第2工程、その乾燥面に対して光照射を行わずに前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を適用する第3工程、適用した歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に対して光照射を行い硬化させる第4工程、を含む歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットを歯質に適用する方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットは、歯科用歯面処理材組成物を歯面に塗布後、放置工程、水洗工程、重合工程等の煩雑な操作を行う必要なく、簡便な操作のみで歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の歯質に対する接着性を向上させることができる。また、本発明の前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットを構成する歯科用歯面処理材組成物は経時的な性状変化が少なく、長期間同じ操作感で使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明について詳細に説明する。
本明細書において「水溶性」とは25℃における水に対する溶解度が3質量%以上であることを意味する。
【0019】
また、本明細書においては、(メタ)アクリレートをもってアクリレートとメタクリレートの両者を、(メタ)アクリロイルをもってアクリロイルとメタクリロイルの両者を、(メタ)アクリル酸をもってアクリル酸とメタクリル酸の両者を、(メタ)アクリルアミドをもってアクリルアミドとメタクリルアミドの両者をそれぞれ包括的に表記する。
【0020】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットは、歯科用歯面処理材組成物(i)と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)とを含む。歯科用歯面処理材組成物は、(A)水溶性有機溶媒、(B)水、及び(C)酸無水物構造を有する重合性単量体を必須成分として含む。また、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(D)酸反応性ガラス粉末、(B)水、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び(H)重合開始剤を必須成分として含む。
【0021】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットは、歯科用歯面処理材組成物(i)と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)とから構成することができる。
【0022】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記(C)酸無水物構造を有する重合性単量体が下記式(1)で表される化合物でもよい。
【化1】
(式中、Xはエーテル結合、アミド結合、エステル結合及び/又は置換基を有していてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、Aは(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリルアミド基を示す。)
【0023】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記(C)酸無水物構造を有する重合性単量体が4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸アミドの無水物、及び4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸アミドの無水物からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0024】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記(A)水溶性有機溶媒がエタノール、イソプロパノール及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0025】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(2)で表される化合物であってよい。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0026】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に(I)酸性基含有重合性単量体をさらに含むことができる。
【0027】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを0.1質量%以上10質量%以下でさらに含むことができる。
【0028】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記歯科用歯面処理材組成物(i)に(H)重合開始剤を0.01質量%以上10質量%以下でさらに含むことができる。
【0029】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットにおいては、前記歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を0.1質量%以上30質量%以下含むことができる。
【0030】
先ず、本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)に配合する各成分について説明する。
【0031】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)には、(C)酸無水物構造を有する重合性単量体を溶解させる目的で、(A)水溶性有機溶媒が含まれる。(A)水溶性有機溶媒としては、アセトン、エタノール、メタノール、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの(A)水溶性有機溶媒は単独で、或いは2種以上混合して用いてもよい。これらの中で特に乾燥性の観点からエタノール、イソプロパノールまたはアセトンを用いることができる。
【0032】
(A)水溶性有機溶媒は歯科用歯面処理材組成物(i)中に20質量%以上79質量%以下配合される。(A)水溶性有機溶媒の配合量が20質量%未満であると、又は79質量%を超えると充分な接着力が得られない。
【0033】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)には、(C)酸無水物構造を有する重合性単量体を歯質内に浸透させる目的で、(B)水が含まれる。(B)水は、歯科用歯面処理材組成物(i)の歯質接着及び歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の硬化性や機械的特性等の諸特性に悪影響を及ぼすような不純物を含有していないものであれば何等制限なく使用することができる。具体的には蒸留水、精製水又はイオン交換水を使用することができる。(B)水は歯科用歯面処理材組成物(i)中に20質量%以上79質量%以下配合される。(B)水の配合量が20質量%未満であると、又は79質量%を超えると充分な接着力が得られない。
【0034】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)には、親水性の歯面を幾分疎水性に改質し、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に含まれる各種重合性単量体との親和性を向上させる目的で、(C)酸無水物構造を有する重合性単量体が含まれる。酸無水物構造としては、無水コハク酸構造、無水マレイン酸構造、無水フタル酸構造などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、重合性基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。重合性基の数についても特に制限はないが、歯質に浸透しやすいことから単官能とすることができる。重合性基に結合した炭化水素には、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、グリシジル基、エーテル結合、アミド結合、エステル結合等を有していても何ら問題はない。
【0035】
それらの中でも(C)酸無水物構造を有する重合性単量体は式(1)で表される化合物でとすることができる。
【化3】
(式中、Xはエーテル結合、アミド結合、エステル結合及び/又は置換基を有していてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、Aは(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリルアミド基を示す。)
【0036】
(C)酸無水物構造を有する重合性単量体としては4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸アミドの無水物、または4-(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメット酸アミドの無水物とすることができる。
【0037】
(C)酸無水物構造を有する重合性単量体は歯科用歯面処理材組成物(i)中に1質量%以上30質量%以下配合される。(C)酸無水物構造を有する重合性単量体の配合量が1質量%未満であると充分な接着力が得られない。また、30質量%を超えると塗布性が悪くなる。
【0038】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)には、歯質に対する接着性をより向上させる目的で、酸性基含有重合性単量体である(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含ませてもよい。なお、(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートは、本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)に追加で配合しても、他の酸性基含有重合性単量体とは異なり保存安定性を低下させにくい特徴を有する。(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートは歯科用歯面処理材組成物(i)中に0.1質量%以上10質量%以下配合うすることができる。(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートの配合量が0.1質量%未満であると充分な接着力が得られないことがある。また、10質量%を超えると塗布性が悪くなることがある。
【0039】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)には、保存安定性を低下させない範囲であれば、エナメル質に対する接着性と象牙質に対する接着性のバランスを取る目的で、(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート以外の酸性基含有重合性単量体を任意に含ませることができる。具体的には、後述する歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に配合することができる(I)酸性基含有重合性単量体と同じものを用いることができる。但し、その配合量は歯科用歯面処理材組成物(i)に含まれる(C)酸無水物構造を有する重合性単量体の1/3以下、または1/5以下、または1/10以下である。本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)は、(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート以外の酸性基含有重合性単量体を含まないものとすることができる。
【0040】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)には、保存安定性を低下させない範囲であれば、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)との接着界面における重合活性を向上させる目的で、重合開始剤を含ませてもよい。具体的には、後述する歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に配合することができる(H)重合開始剤と同じものを用いることができる。(H)重合開始剤の配合量は特に限定されないが、一般的には歯科用歯面処理材組成物(i)中に0.01質量%以上10質量%以下である。0.01質量%未満であると重合活性が向上しない。また、10質量%を超えると充分な接着力が得られない。
【0041】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)には、酸無水物構造や酸性基を有さない重合性単量体を任意に含ませることができる。そのような重合性単量体としては、後述する歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に配合することができる各種重合性単量体が挙げられる。但し、そのような重合性単量体は配合量が多くなるにつれ、歯科用歯面処理材組成物(i)を歯面に塗布後、乾燥させにくくなったり、乾燥後べたつきが生じやすくなる。そのため、次に適用する歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)との間で滑りが生じて、特に充填操作が行いにくくなる場合がある。そのため、酸無水物構造や酸性基を有さない重合性単量体の合計配合量は歯科用歯面処理材組成物(i)中に10質量%以下とすることができ、5質量%以下とすることができ、配合しないことができる。
【0042】
次に、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に配合する各成分について説明する。尚、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の形態は粉液型、2ペースト型等、様々な形態で提供することができる。
【0043】
粉液型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は例えば、(D)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(B)水、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、及び(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、を含む液材から構成され、粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(H)重合開始剤を含有することができる。
【0044】
また2ペースト型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は例えば、2つのペーストの少なくともいずれか一方に(D)酸反応性ガラス粉末、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、(B)水、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、及び(H)重合開始剤を含有することができる。この場合、(B)水を含むペーストは、(D)酸反応性ガラス粉末及び(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の少なくとも一方を含まないものとすることができる。また、2つのペーストの少なくともいずれか一方に(I)酸性基含有重合性単量体をさらに含み、ここで(B)水を含むペーストは、(D)酸反応性ガラス粉末及び(I)酸性基含有重合性単量体の少なくとも一方を含まないものとすることができる。
【0045】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる(D)酸反応性ガラス粉末は、酸反応性元素、及びフッ素を含んでいる必要がある。(D)酸反応性ガラス粉末は、酸反応性元素を含むことにより(B)水の存在下で、後述する(E)酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基との酸-塩基反応が進行する。酸反応性元素を具体的に例示すると、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、アルミニウム、亜鉛等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの酸反応性元素は1種類又は2種類以上を含むことができ、またこれらの含有量は特に限定されない。
【0046】
さらに、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)にX線造影性を付与するために、(D)酸反応性ガラス粉末にはX線不透過性の元素を含ませることが望ましい。X線不透過性の元素を具体的に例示すると、ストロンチウム、ランタン、ジルコニウム、チタン、イットリウム、イッテルビウム、タンタル、錫、テルル、タングステン及びビスマス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、(D)酸反応性ガラス粉末に含まれるその他の元素については特に制限はなく、本発明における(D)酸反応性ガラス粉末は様々な元素を含むことができる。
【0047】
(D)酸反応性ガラス粉末は、以上に示した酸反応性元素、フッ素、及びX線不透過性の元素を含んだアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス、リン酸ガラス、ホウ酸ガラス及びシリカガラス等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
さらに、(D)酸反応性ガラス粉末の形状も特に限定されず、球状、針状、板状、破砕状、及び鱗片状等の任意の粒子形状のものを何等制限なく用いることができる。これらの(D)酸反応性ガラス粉末は単独又は数種を組み合わせて用いることができる。
【0049】
これらの(D)酸反応性ガラス粉末の製造方法は特に限定されず、溶融法、気相法及びゾル-ゲル法等のいずれの製造方法で製造されたものでも問題なく使用することができる。その中でも、(D)酸反応性ガラス粉末中に含まれる元素の種類やその含有量を制御しやすい溶融法又はゾル-ゲル法により製造された(D)酸反応性ガラス粉末を用いることができる。
【0050】
(D)酸反応性ガラス粉末は充填材として一般に販売されているものを、粉砕等の加工を行うことなく使用することもできるが、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の使用用途又は使用目的に応じて適宜粉砕して所望の平均粒子径に調整することができる。粉砕方法は特に限定されず、湿式法又は乾式法のいずれの粉砕方法を用いて粉砕したものでも使用することができる。具体的には、ハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、サンドグラインダーやアトライター等の媒体撹拌ミル、ジェットミル等を用いて粉砕することができる。
【0051】
例えば、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を充填用や支台築造用の材料として用いる場合は、高い機械的特性を必要とするために(D)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径は0.01μm以上30.0μm以下の範囲にあることができ、0.01μm以上10.0μm以下の範囲にあることができる。
【0052】
また、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を合着用として用いる場合は、薄い被膜厚さを必要とするために(D)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径は0.01μm以上10.0μm以下の範囲にあることができ、0.01μm以上5.0μm以下の範囲にあることができる。
【0053】
(D)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が0.01μm 未満になると、その表面積が増大し、組成物中に多量に含ませることができなくなるため、機械的特性の低下を引き起こす恐れがある。また練和物の粘度が増大し、操作性が悪くなる場合がある。
【0054】
充填用や支台築造用の材料として使用する場合、(D)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が30.0μm を超えると、研磨後の材料表面が粗造になるため、着色を引き起こす恐れがある。また、合着用として使用する場合、(D)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が10.0μmを超えると、被膜厚さが厚くなるために合着した歯科補綴装置が浮き上がり、意図した適合が得られなくなる恐れがある。
【0055】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の操作性や硬化特性、機械的特性等を調整する目的で、(D)酸反応性ガラス粉末は、後述する(E)酸性基含有重合性単量体の重合体との酸-塩基反応に悪影響を及ぼさない範囲で、種々の表面処理や加熱処理、液相中又は気相中等での凝集処理、表面を有機物で包含するマイクロカプセル化処理、又は表面を有機物で機能化するグラフト化等の処理を施すことができる。また、これらの処理は単独で又は数種を組み合わせて施しても何等問題はない。これらの中でも各種特性を制御しやすく、且つ生産性にも優れることから、表面処理又は加熱処理を施すことができる。
【0056】
(D)酸反応性ガラス粉末の表面処理方法を具体的に例示すると、りん酸又は酢酸等の酸による洗浄、酒石酸又はポリカルボン酸等の酸性化合物による表面処理、フッ化アルミニウム等のフッ化物による表面処理、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、又はテトラメトキシシラン等のシラン化合物による表面処理等が挙げられる。本発明において用いることができる表面処理方法は上記したものに限定されず、またこれらの表面処理方法はそれぞれ単独で又は複合的に組み合わせて用いることができる。
【0057】
(D)酸反応性ガラス粉末の加熱処理方法を具体的に例示すると、電気炉等を用いて100℃以上800℃以下の範囲で1時間以上72時間以下加熱する処理方法等が挙げられる。本発明において用いることができる加熱処理方法は上記したものに限定されず、さらに単一温度、又は多段階温度のいずれの手法で加熱処理を行っても何等問題はない。
【0058】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる(B)水は、歯科用歯面処理材組成物(i)に記載のとおりである。2ペースト型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、(B)水を含むペーストに、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体が含まれることができる。
【0059】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は、少なくとも分子内に1つ以上の酸性基を含有する重合性単量体を重合させた重合体であれば何等制限なく用いることができる。なお、粉液型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の場合、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は、液材に配合することができるが、その一部を粉材に配合しても何等問題はない。
【0060】
(E)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができる酸性基含有重合性単量体は、その酸性基の種類に限定されず、いずれの酸性基を有する重合性単量体であっても用いることができる。また、この酸性基含有重合性単量体が有するラジカル重合可能な不飽和基の数(単官能又は多官能)やその種類についても何等制限なく用いることができる。
【0061】
酸性基含有重合性単量体が有する酸性基を具体的に例示すると、リン酸基、ピロリン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、チオリン酸基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、リン酸基、ピロリン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、チオリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体以外の酸性基含有重合性単量体の重合体を含まないことができる。
【0062】
酸性基含有重合性単量体が有する重合可能な不飽和基を具体的に例示すると、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら不飽和基の中でも(メタ)アクリロイルオキシ基、又は(メタ)アクリルアミド基とすることができ、(メタ)アクリロイルオキシ基とすることができる。
【0063】
さらにこれらの酸性基含有重合性単量体は、分子内にアルキル基、ハロゲン、アミノ基、グリシジル基及び/又は水酸基等のその他の官能基を併せて有することができる。
【0064】
以下に(E)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができ、不飽和基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する酸性基含有重合性単量体を具体的に例示する。
【0065】
リン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシメチルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル2’-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
また、ピロリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]、ピロリン酸ビス[3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]、ピロリンビス[4-(メタ)アクリロイルオキシブチル]、ピロリン酸ビス[5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル]、ピロリン酸ビス[6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル]、ピロリン酸ビス[7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチル]、ピロリン酸ビス[8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル]、ピロリン酸ビス[9-(メタ)アクリロイルオキシノニル]、ピロリン酸ビス[10-(メタ)アクリロイルオキシデシル]、ピロリン酸ビス[12-(メタ)アクリロイルオキシドデシル]、ピロリン酸トリス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]、ピロリン酸テトラ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
また、ホスホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネ-ト、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
また、カルボキシ基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロイルオキシナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸及びその無水物、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネ-ト、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエ-ト、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、p-ビニル安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
また、スルホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレ-ト、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
また、チオリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
以上に示した酸性基含有重合性単量体は、単独で又は数種を組み合わせて(E)酸性基含有重合性単量体の重合体を合成するために用いても何等問題はない。また、少なくとも分子内に1つ以上の酸性基を有した酸性基含有重合性単量体と酸性基を有していない重合性単量体とを共重合させて(E)酸性基含有重合性単量体の重合体を合成しても何等問題はない。
【0072】
これらの酸性基含有重合性単量体の中でも、α,β-不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を用いることができる。このときに用いることができるα,β-不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体は特に限定されず、また分子内に有するカルボキシ基の数やカルボン酸無水物又は他の置換基等の有無に何等関係なく用いることができる。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物においては、α,β-不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体以外の酸性基含有重合性単量体の重合体を含まないものとしてもよい。
【0073】
これらのα,β-不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、チグリン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
各種重合性単量体を重合させる方法は特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれの方法で重合させたものでも何等制限なく用いることができる。また、重合体の合成時に用いることができる重合開始剤や連鎖移動剤は、所望の重合体を得るために適宜選択すればよい。このようにして得られた(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は単独で、又は数種を組み合わせて用いることができる。
【0075】
得られた(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は、操作余裕時間や硬化時間を調整する目的で、或いは保存安定性を向上させる目的で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、又は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属の炭酸塩、或いは炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩等を用いて、その酸性基の一部を中和反応させてから用いてもよい。この中和に用いる化合物はこれらに限定されず、単独で又は数種を組み合わせて用いても何等問題はない。
【0076】
さらに、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は、ラジカル重合可能な不飽和基を有していても何等問題はない。しかし、不飽和基を有する(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は、(B)水に対する溶解性が比較的低く、その配合量が低くなる傾向にあり、それに基因して硬化物の機械的特性が低下する場合があるため、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は不飽和基を有さないことができる。
【0077】
これらの中でも、アクリル酸のみを出発原料として合成した(E)酸性基含有重合性単量体の重合体(ポリアクリル酸)、或いはアクリル酸とマレイン酸、アクリル酸と無水マレイン酸、アクリル酸とイタコン酸、アクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等、2種類以上を出発原料として合成した(E)酸性基含有重合性単量体の共重合体を用いることができる。
【0078】
また、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量は10,000以上500,000以下の範囲であることができ、20,000以上300,000以下の範囲であることができ、20,000以上200,000以下の範囲であることができる。(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量が10,000未満になると硬化物の機械的特性が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合がある。一方、重量平均分子量が500,000を超えると歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を練和した際に練和物の粘度が高くなり、操作性に問題が生じる場合がある。
【0079】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体は、分子内に3つ以上の(メタ)アクリルアミド基を有する重合性単量体であれば何等制限なく用いることができる。なお、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体は酸性基及び/又は水酸基を有さないほうが、表面硬化性と耐着色性の向上、及び吸水膨張の低減において効果が得られやすい。
【0080】
(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を具体的に例示すると、下記式(2)及び下記式(3)で表されるものがある。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(2)においては、下記式(2)及び下記式(3)で表される3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体以外の3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含まないものとすることができる。
【0081】
【化4】
【0082】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0083】
【化5】
【0084】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。mは2~4の整数を表す。nは2~4の整数を表す。kは0又は1を表す。複数のR、mは互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0085】
より具体的な(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体としては、下記式(4)及び(5)~(8)で表されるものがある。
【0086】
【化6】
【0087】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0088】
【化7】
【0089】
【化8】
【0090】
【化9】
【0091】
【化10】
【0092】
これらの中でも、4官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体とすることができ、上記式(2)で表される重合性単量体とすることができ、上記式(4)で表される重合性単量体とすることができ、上記式(4)で表されRが全て水素原子である重合性単量体とすることができる。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、4官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体以外の3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含まないことができる。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、上記式(2)で表される重合性単量体以外の3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含まないことができる。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、上記式(4)で表される重合性単量体以外の3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含まないことができる。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、上記式(4)で表されRが全て水素原子である重合性単量体以外の3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含まないことができる。
【0093】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体は、分子内に少なくとも1つ以上の水酸基と、ラジカル重合可能な不飽和基として少なくとも1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性単量体であれば何等制限なく用いることができる。
【0094】
(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体を例示すると、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2-HEMA)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、フェノール類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加生成物、例えば、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-ナフトキシプロピル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体、2-ヒドロキシプロピル-1,3-ジ(メタ)アクリレート(GDMA)、3-ヒドロキシプロピル-1,2-ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(Bis-GMA)、及び2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(GDA)等の多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体が挙げられる。また、糖アルコール(エリスリトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール等)、単糖類(アラビノース、キシロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等)、2糖類(スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等)、及び3糖類(マルトトリオース、ラフィノース等)が有する水酸基のうち2つ以上の水酸基を、重合性可能な不飽和基を有する置換基に置換した多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体も好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
中でも2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(Bis-GMA)、2-ヒドロキシプロピル-1,3-ジ(メタ)アクリレート(GDMA)、及び2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(GDA)が特に好適である。なお、これらの(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体は、所望により2種類以上を適宜併用してもよい。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(Bis-GMA)、2-ヒドロキシプロピル-1,3-ジ(メタ)アクリレート(GDMA)、及び2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(GDA)以外の水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体を含まないことができる。
【0096】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)においては、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体が、水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の両方を含み、且つ水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の配合比率が、質量比で1:2~4:1とすることができる。(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体をこのような組み合わせ及び配合比率とすることにより、(B)水、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が均一に相溶しやすくなるため、硬化後の機械的特性と透明性を向上させることができる。さらに、前記水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体は水酸基を有する2官能(メタ)アクリレート系重合性単量体とすることができる。
【0097】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)及び歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる(H)重合開始剤は、公知の光重合開始剤及び/又は化学重合開始剤を何等制限なく用いることができる。なお、粉液型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の場合、(H)重合開始剤は、充分にレジン成分を硬化させることが出来さえすれば粉材と液材の少なくともいずれか一方に配合されていれば良く、様々な重合開始剤系を用いることができる。
【0098】
光重合開始剤としては、光増感材からなるもの、光増感材/光重合促進材等が挙げられる。光増感材を具体的に例示すると、ベンジル、カンファーキノン、α-ナフチル、アセトナフセン、p,p‘-ジメトキシベンジル、p,p‘-ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2-フェナントレンキノン、1,4-フェナントレンキノン、3,4-フェナントレンキノン、9,10-フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα-ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-メトキシチオキサントン、2-ヒドロキシチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類、2-ベンジル-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ベンジル-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-プロパノン-1等のα-アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2-メトキシエチルケタール)等のケタール類、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)等のクマリン類、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1-ピロリル)フェニル〕-チタン、ビス(シクペンタジエニル)-ビス(ペンタンフルオロフェニル)-チタン、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-ジシロキシフェニル)-チタン等のチタノセン類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
光重合促進材を具体的に例示すると、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ-n-ブチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、p-ブロモ-N,N-ジメチルアニリン、m-クロロ-N,N-ジメチルアニリン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノフェニルアルコール、p-ジメチルアミノスチレン、N,N-ジメチル-3,5-キシリジン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチル-α-ナフチルアミン、N,N-ジメチル-β-ナフチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2‘-(n-ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N-フェニルグリシン等の第二級アミン類、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5-トリメチルバルビツール酸カルシウム等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル-1,3-ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
さらに、光重合促進能の向上のために、上記光重合促進材に加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α-オキシイソ酪酸、2-ヒドロキシプロパン酸、3-ヒドロキシプロパン酸、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的であるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
化学重合開始剤としては、過酸化物/アミン化合物、過酸化物/アミン化合物/芳香族スルフィン酸又はその塩、又は芳香族スルホニル化合物、過酸化物/アミン化合物/(チオ)バルビツール酸化合物又は(チオ)バルビツール酸塩化合物、過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物、過酸化物/アスコルビン酸化合物、過酸化物/チオ尿素/バナジウム化合物又は銅化合物からなるレドックス型の重合開始剤系、酸素や水と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤系が挙げられる。さらには芳香族スルフィン酸塩類、ボレート化合物類、及び(チオ)バルビツール酸塩類は酸性化合物を作用させることにより重合を開始させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0102】
過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二リン酸ナトリウム、ペルオキソ二リン酸カリウム、ペルオキソ二リン酸アンモニウム、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-アミルハイドロパーオキサイド、iso-プロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、5-フェニル-4-ペンテニルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0103】
アミン化合物としては、芳香族第二級又は芳香族第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとN-メチル-p-トルイジン、N-(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、p-メチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルアニリン、N-(2-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アニリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0104】
芳香族スルフィン酸又はその塩、又は芳香族スルホニル化合物としては、ベンゼンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩又はアンモニウム塩、又はベンゼンスルホニルクロライド、ベンゼンスルホニルフルオライド、ベンゼンスルホンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルクロライド、p-トルエンスルホニルフルオライド、p-トルエンスルホンアミド、p-トルエンスルホニルヒドラジド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
(チオ)バルビツール酸化合物又は(チオ)バルビツール酸塩化合物としては、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3-ジフェニルバルビツール酸、1,5-ジメチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、5-エチルバルビツール酸、5-イソプロピルバルビツール酸、5-シクロヘキシルバルビツール酸、5-ラウリルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-n-ブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-フェニル-5-ベンジルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、チオバルビツール酸、1,3-ジメチルチオバルビツール酸、5-フェニルチオバルビツール酸、及びそれらのアルカリ金属塩(リチウム、ナトリウム、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、ストロンチウム、バリウム塩等)、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、又はテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0106】
ボレート化合物としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリス(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等)のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0107】
アスコルビン酸化合物としては、L(+)-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、L(+)-アスコルビン酸ナトリウム、L(+)-アスコルビン酸カリウム、L(+)-アスコルビン酸カルシウム、イソアスコルビン酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0108】
チオ尿素化合物としては、1,3-ジメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1-ジエチルチオ尿素、1,1,3,3-テトラエチルチオ尿素、1-アリル-2-チオ尿素、1,3-ジアリルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、1,3-ジフェニル-2-チオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
バナジウム化合物としては、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
銅化合物としては、塩化銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、サリチル酸銅、グルコン酸銅、オレイン酸銅、安息香酸銅、銅アセチルアセトネート、ナフテン酸銅等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
有機金属型の重合開始剤としては、トリフェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
これらの(H)重合開始剤は重合様式や重合方法を問わず、単独又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの(H)重合開始剤は必要に応じてマイクロカプセルに内包する等の二次的な処理を施しても何等問題はない。
【0113】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)は、歯質、卑金属、アルミナ及びジルコニア等に対する接着性を向上させるために、所望により(I)酸性基含有重合性単量体を含有させることができる。(I)酸性基含有重合性単量体は、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができる酸性基含有重合性単量体と同じものを用いることができる。また、(I)酸性基含有重合性単量体は、単独で又は数種を組み合わせて用いても何等問題はない。なお、粉液型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の場合、(I)酸性基含有重合性単量体は、粉材及び/又は液材の少なくとも何れか一方に配合されていれば良い。本発明において(I)酸性基含有重合性単量体とは、(C)酸無水物構造を有する重合性単量体及び(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート以外の酸性基含有重合性単量体を意味するものである。
【0114】
中でも(I)酸性基含有重合性単量体は、カルボキシ基含有重合性単量体であることが好ましく、2つ以上のカルボキシ基を有することができる。カルボキシ基含有重合性単量体を含有させることにより、歯質等に対する接着性と機械的特性のバランスに優れた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)が得られやすくなる。
【0115】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いる主要成分は、以上に示した(D)酸反応性ガラス粉末、(B)水、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(H)重合開始剤及び(I)酸性基含有重合性単量体であり、その好適な含有量は以下の通りである。
【0116】
(D)酸反応性ガラス粉末は、(H)重合開始剤を除いた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の総質量の100質量%中に20質量%以上85質量%以下含まれることができる。(D)酸反応性ガラス粉末の含有量が20質量%未満では、硬化物の機械的強度が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合がある。85質量%を超えると練和した際に練和物の粘度が高くなり、操作性に問題が生じる場合がある。また硬化が速くなり充分な操作余裕時間が得られない場合がある。
【0117】
(B)水は、粉液型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の場合は、(H)重合開始剤を除いた液材の総質量100質量%中に1質量%以上55質量%以下含まれることができる。(B)水の含有量が1質量%未満では、酸-塩基反応が起こりにくくなり、硬化不良を引き起こす場合がある。55質量%を超えると硬化物の機械的強度が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合がある。
【0118】
また(B)水は、2ペースト型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の場合は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の総重量100質量%中に1~30質量%含まれることが好ましく、5~25質量%含まれることができる。水の含有量が1質量%未満では、酸-塩基反応が起こりにくくなり、硬化不良を引き起こす場合がある。30質量%を超えると硬化物の機械的強度が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合がある。
【0119】
(E)酸性基含有重合性単量体の重合体は、(H)重合開始剤を除いた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の総質量の100質量%中に0.1質量%以上40質量%以下含まれることができる。(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の含有量が0.1質量%未満では、酸-塩基反応が起こりにくくなり、硬化不良を引き起こす場合がある。40質量%を超えると練和した際に練和物の粘度が高くなり、操作性に問題が生じる場合がある。また硬化が速くなり充分な操作余裕時間が得られない場合がある。
【0120】
(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)中の全重合性単量体、(B)水、及び(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の総質量の100質量%中に1質量%以上30質量%以下含まれることができる。(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体の含有量が1質量%未満では、重合性単量体混合物の硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。また、保存安定性も悪くなる場合がある。30質量%を超えると各重合性単量体、(B)水及び(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の相溶性が悪くなり、硬化物が不均一となることで、機械的特性と透明性が低下する場合がある。
【0121】
(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)中の全重合性単量体、(B)水、及び(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の総質量の100質量%中に3質量%以上60質量%以下含まれることができる。(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体の含有量が3質量%未満では、各重合性単量体、(B)水及び(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の相溶性が悪くなり、硬化物が不均一となることで、機械的特性と透明性が低下する場合がある。60質量%を超えると重合性単量体混合物の硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。
【0122】
(H)重合開始剤は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)中の全重合性単量体の総質量の100質量%に対して0.01質量%以上10質量%以下の割合で添加されることができる。(H)重合開始剤の含有量が0.01質量%未満では、硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。10質量%を超えると保存安定性が悪くなる場合がある。
【0123】
(I)酸性基含有重合性単量体は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)中の全重合性単量体、(B)水、及び(E)酸性基含有重合性単量体の重合体の総質量の100質量%中に1質量%以上20質量%以下含まれることができる。(I)酸性基含有重合性単量体の含有量が1質量%未満では、歯質に対する接着性が低下する場合がある。20質量%を超えると硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。また、保存安定性が悪くなる場合がある。
【0124】
さらに本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)が2ペースト型の場合には、諸特性に悪影響を与えない範囲であれば、ペースト性状を調整する目的で増粘剤を含ませることができる。本発明の2ペースト型の場合の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる増粘剤は、無機増粘剤、有機増粘剤のいずれも用いることができる。
【0125】
無機増粘剤としては、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、さらにサポナイト、モンモリロナイト、バイデライト、バーミキュライト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、スメクタイト、ネクタイト及びセピオライト等の粘土鉱物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0126】
有機増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシポリメチレン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カーヤガム、アラビアガム、カラヤガム、グアガム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら増粘剤は単独で或いは2種類以上を混合して用いることができる。
【0127】
増粘剤は、各ペースト中に0.1~20.0重量%の範囲で含まれることができる。
【0128】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)には、諸特性に悪影響を与えない範囲であれば機械的特性を向上させる目的で、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(I)酸性基含有重合性単量体、以外の重合性単量体を含ませることができる。そのような重合性単量体としては、ラジカル重合可能な不飽和基の数(単官能又は多官能)やその種類に何等制限はなく公知のものが使用できる。以下に不飽和基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する該重合性単量体を代表例として具体的に示す。
【0129】
単官能重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0130】
芳香族系2官能重合性単量体としては、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)-2(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0131】
脂肪族系2官能重合性単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0132】
3官能重合性単量体としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0133】
4官能重合性単量体としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0134】
ウレタン系重合性単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有する重合性単量体とメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導される2官能又は3官能以上のウレタン結合を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0135】
上記の(メタ)アクリート基含有重合性単量体以外に、硫黄原子を分子内に有する重合性単量体、フルオロ基を有する重合性単量体、少なくとも1個以上の重合性基を有するオリゴマー又はポリマーを用いても良い。これら重合性単量体は単独で或いは必要に応じて複数を組み合わせて用いることができる。
【0136】
なお、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の諸特性に影響を与えない範囲であれば、分子内に1つ又は2つの(メタ)アクリルアミド基を有する重合性単量体を含ませても何等問題はない。
【0137】
粉液型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の場合、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(I)酸性基含有重合性単量体、以外の重合性単量体は、液材の総質量100質量%中に5.0質量%以内の範囲で含まれることができる。
【0138】
また2ペースト型の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の場合、(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(I)酸性基含有重合性単量体、以外の重合性単量体は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の総質量100質量%中に10重量%以内の範囲で含まれることができる。
【0139】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)には、(D)酸反応性ガラス粉末と(E)酸性基含有重合性単量体の重合体との酸-塩基反応を制御し、操作余裕時間や硬化時間を調整する目的で、多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸、又はトリポリリン酸等を含ませることができるが、これらに限定されるものではない。
【0140】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる多塩基性カルボン酸を具体的に例示すると、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、アコニット酸、トリカルバリール酸、イタコン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等が挙げられる。以上に記載した多塩基性カルボン酸は、これらに限定されるものではなく、何等制限なく用いることができる。
【0141】
また、これらの多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸及び/又はトリポリリン酸は、単独で又は数種を組み合わせて用いることができる。多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸及び/又はトリポリリン酸は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の総質量の100質量%中に0.1質量%以上15.0質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。
【0142】
さらに本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)には、諸特性に影響を与えない範囲であれば、練和性を向上させる目的で、界面活性剤を含ませることができる。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる界面活性剤は、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0143】
イオン性界面活性剤を具体的に例示すると、アニオン性界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪族カルボン酸金属塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の硫酸化脂肪族カルボン酸金属塩類、ステアリル硫酸エステルナトリウム等の高級アルコール硫酸エステルの金属塩類等が挙げられる。
【0144】
また、カチオン性界面活性剤としては、高級アルキルアミンとエチレンオキサイドの付加物、低級アミンからつくられるアミン類、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩類等が挙げられる。さらに両性界面活性剤としては、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム等の高級アルキルアミノプロピオン酸の金属塩類、ラウリルジメチルベタイン等のベタイン類等が挙げられる。
【0145】
また、非イオン性界面活性剤としては、高級アルコール類、アルキルフェノール類、脂肪酸類、高級脂肪族アミン類、脂肪族アミド類等にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたポリエチレングリコール型あるいはポリプロピレングリコール型、又は多価アルコール類、ジエタノールアミン類、糖類と脂肪酸がエステル結合した多価アルコール型等が挙げられる。
【0146】
以上に記載した界面活性剤はこれらに限定されるものではなく、何等制限なく用いることができる。また、これら界面活性剤は単独で又は数種を組み合わせて用いることができる。界面活性剤は歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の総質量の100質量%中に0.001質量%以上5.0質量%以下の範囲で含まれることができる。
【0147】
さらに本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)には、諸特性に悪影響を与えない範囲であれば、操作性、機械的特性又は硬化特性を調整する目的で、非酸反応性粉末を含ませることができる。
【0148】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に用いることができる非酸反応性粉末は、(E)酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基と反応する元素を含有しないものであれば特に限定されることなく用いることができる。
【0149】
非酸反応性粉末としては歯科用充填材として公知なもの、例えば、無機充填材、有機充填材及び有機-無機複合充填材等が挙げられ、これらは単独で又は数種を組み合わせても何等制限なく用いることができる。それらの中でも無機充填材を用いることができる。また、これら非酸反応性粉末の形状は特に限定されず、球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の粒子形状のものやそれらの凝集体であってもよく、これらに限定されるものではない。これら非酸反応性粉末の平均粒子径は特に制限はないが、0.001μm以上30μm以下の範囲にあることができる。
【0150】
無機充填材を具体的に例示すると、石英、無定形シリカ、超微粒子シリカ、酸性基と反応する元素を含まない種々のガラス(溶融法によるガラス、ゾル-ゲル法による合成ガラス、気相反応により生成したガラス等を含む)、チッ化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0151】
非酸反応性粉末は歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)の総質量の100質量%中に0.001質量%以上40質量%以下の範囲で含まれることができる。
【0152】
本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)及び歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)には、必要に応じて、公知の各種添加材を任意に配合することができる。本発明に用いることができる添加材としては、重合禁止材、連鎖移動材、着色材、変色防止材、蛍光材、紫外線吸収材、抗菌材、防腐剤等が挙げられる。
【0153】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットの使用方法は、次に示す通りであるが、本発明はこれら手順に限定されるものではない。
う蝕の除去や窩洞形成等を行い、次いで水洗と乾燥を行った歯面において、本発明の歯科用歯面処理材組成物(i)を歯面に塗布する第1工程、その塗布面に対して水洗を行わずに直ぐに乾燥を行う第2工程、その乾燥面に対して光照射を行わずに本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を適用する第3工程、適用した歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)に対して光照射を行い硬化させる第4工程、を含むものである。このように、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットは、歯面に適用した歯科用歯面処理材組成物(i)に対して水洗や光照射による重合を必要としない。
【0154】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットは、充填材料及び合着材料としての用途以外に、小窩裂溝封鎖材、裏層(装)材料、支台築造材料等、歯科治療における幅広い用途に用いることができる。
【実施例0155】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例の歯科用歯面処理材組成物(i)及び歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(ii)を調製するために用いた成分(A)~(J)及びその他の成分、並びにそれらの略称は次の通りである。
【0156】
[(A)水溶性有機溶媒]
・エタノール
・アセトン
・プロピレングリコール
【0157】
[(B)水]
・蒸留水
【0158】
[(C)酸無水物構造を有する重合性単量体]
・4-META:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
・4-AETA:4-アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
【0159】
[(D)酸反応性ガラス粉末]
・CK-Si-1:シラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末1
(50%粒子径:4.5μm)
【0160】
[(E)酸性基含有重合性単量体の重合体]
・PCA1:アクリル酸ホモポリマー粉末(重量平均分子量:5万)
【0161】
[(F)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体]
4官能のアクリルアミド系重合性単量体
・FAM-401(富士フイルム株式会社製):式(4)で表され、R1が全て水素原子である化合物
3官能のアクリルアミド系重合性単量体
・FAM-302L(富士フイルム株式会社製):式(8)で表される化合物
【0162】
[(G)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体]
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
・GDMA:グリセリンジメタクリレート
【0163】
[(H)重合開始剤]
・CQ:dl-カンファーキノン
・DMBE:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
・DM-3B:ジメチルアミノエチルメタクリレート
・p-TSNa:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム
・KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム
・AA:アスコルビン酸
・DEPT:N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
【0164】
[(I)酸性基含有重合性単量体]
・4-MET:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸
・4-AET:4-アクリロイルオキシエチルトリメリット酸
【0165】
[(J)10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート]
・10-MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0166】
[その他]
・14EG:ポリエチレングリコール#600ジメタクリレート
・HEAA:ヒドロキシエチルアクリルアミド
・2AM:N,N’-メチレンビスメタクリルアミド
・PEG400:ポリエチレングリコール
・アエロジルR972:ヒュームドシリカ平均粒子径約16nm
【0167】
シラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末の製造方法は以下の通りである。
【0168】
[シラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末1の製造]
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料(ガラス組成:SiO 26.4質量%、Al 29.3質量%、SrO 20.5質量%、P 10.9質量%、NaO 2.5質量%、F 10.4質量%)を混合した後、その原料混合品を溶融炉中で1400℃にて溶融した。融液を溶融炉から取り出し、それを水中で急冷することでガラスを得た。得られたガラスを粉砕し、フルオロアルミノシリケートガラス粉末1を得た。このガラス粉末の50%粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックMT3300EXII:日機装社製)により測定した結果、4.5μmであった。さらに、このフルオロアルミノシリケートガラス粉末1:200gを500mLの水に分散させた後、2gの3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加え、室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、さらに100℃で5時間乾燥することでシラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末1を得た。
【0169】
[歯科用歯面処理材組成物の調製]
表1~2に示す比率にて各成分を混合することで、実施例及び比較例に用いた歯科用歯面処理材組成物を調製した。
【0170】
[歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の粉材、液材及びペースト材の調製]
表3~6に示す比率にて各成分を混合することで、実施例及び比較例に用いた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の粉材、液材及びペースト材を調製した。歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の組み合わせは表7の通りとした。
【0171】
【表1】
【0172】
【表2】
【0173】
【表3】
【0174】
【表4】
【0175】
【表5】
【0176】
【表6】
【0177】
【表7】
【0178】
これら歯科用歯面処理材組成物(C1~23)と歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(R1~R13)を表8、9の通りに組み合わせた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットについて、塗布性、乾燥性、エナメル質及び象牙質に対するせん断接着強さ、保存安定性を評価した。また、市販の歯科充填用コンポジットレジン(ライトフィルII:(株)松風製)についてもエナメル質及び象牙質に対するせん断接着強さを評価した(比較例11)。それらの試験結果を表8、9に示す。なお、評価方法は以下に示した通りである。
【0179】
<塗布性>
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させた後、さらにその面を流水下にて#600シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨することで平滑面を得た。水洗、乾燥後の平滑面に歯科用歯面処理材組成物を塗布した際の塗布性を評価した。
評価基準は以下の通り。
A:塗布しやすく、均一な塗布面が得られる。
B:粘着性があって塗布しにくく、塗布面は不均一である。
なお、Aを良好な塗布性を有するものとした。
【0180】
<乾燥性>
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させた後、さらにその面を流水下にて#600シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨することで平滑面を得た。水洗、乾燥後の平滑面に歯科用歯面処理材組成物を塗布した後、直ぐに0.05MPaの吐出圧力にて5秒間エア乾燥を行い、その際の乾燥性を評価した。
評価基準は以下の通り。
A:乾燥面にべたつきがほとんど残らない。
B:乾燥面にべたつきが残っている。
なお、Aを良好な乾燥性を有するものとした。
【0181】
<エナメル質及び象牙質に対するせん断接着強さ>
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して、エナメル質又は象牙質の平坦面を露出させた後、さらにその面を流水下にて#600シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨することで平滑面を得た。水洗、乾燥後の平滑面にΦ4mmの空洞を有する厚さ2mmのシリコンリングを静置し、接着面積を規定した。
歯科用歯面処理材組成物を前記空洞内の歯面に塗布した後、直ぐに0.05MPaの吐出圧力にて5秒間エア乾燥を行った。次に歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を充填した後、光重合照射器(ペンブライト:松風製)を用いて10秒間光照射し、硬化させることで接着試験体を作製した。接着試験体は計5個作製した。
接着試験体を37℃湿度90%以上の恒温水槽内に60分間静置した後、37℃の蒸留水中に24時間浸漬した。シリコンリングを取り外した後、接着試験体を万能試験機(島津製作所社製)を用いてクロスヘッドスピードを1mm/分の条件にてせん断接着強さを測定した。表の数値は5個の接着試験体の平均値を示す。尚、対エナメル質及び対象牙質の両方の接着強さが5MPa以上であった場合、良好な接着強さを示すものと判断した。
【0182】
<保存安定性>
歯科用歯面処理材組成物を50℃の恒温器内に2ヶ月間保存した後、前記<塗布性>の試験方法に従い、塗布性を評価し、調製直後の歯科用歯面処理材組成物の塗布性と比較した。
評価基準は以下の通り。
A:塗布性にほとんど変化がない。
B:粘着性が上昇しており、塗布しにくくなっている。
C:液材の分離又はゲル化が生じており、使用できない。
なお、Aを良好な保存安定性を有するものとした。
【0183】
【表8】
【0184】
【表9】
【0185】
表8に示した通り、実施例1~13の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットは、歯科用歯面処理材(i)の塗布性及び乾燥性に優れ、高い接着強さを示した。また、50℃、2ヶ月間保存後においても調製直後の塗布性を維持していた。一方、表9に示した通り、比較例1~15の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキット、及び市販の歯科用コンポジットレジン(比較例11)は、実施例1~13の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物と比較して、塗布性、乾燥性、接着強さ、又は保存安定性のいずれかの特性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントキットは、う蝕や破折等により部分的に形態が損なわれた歯牙の充填修復や、形態が損なわれた歯牙への歯科補綴装置の合着等に用いることができる。