IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターの特許一覧

<>
  • 特開-前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物 図1
  • 特開-前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物 図2
  • 特開-前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物 図3
  • 特開-前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物 図4
  • 特開-前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物 図5
  • 特開-前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物 図6
  • 特開-前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131703
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4164 20060101AFI20240920BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 15/14 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/277 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/4168 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/4155 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/138 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/565 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/566 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K31/4164
A61P13/08
A61P35/00
A61K31/4184
A61K31/437
A61P43/00 121
A61P15/14
A61K31/277
A61K31/58
A61K31/167
A61K31/4168
A61K31/4439
A61K31/4155
A61K31/138
A61K31/565
A61K31/4196
A61K31/566
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042128
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】高山 賢一
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086BC39
4C086BC60
4C086CB05
4C086DA09
4C086DA12
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA23
4C206GA01
4C206GA31
4C206JA19
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA81
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、ホルモン療法耐性の治療抵抗性癌の治療薬、及び治療方法を提供することである。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物若しくはその塩を有効成分として含む、前立腺癌治療用又は乳癌治療用医薬組成物を提供する。

[式中、R及びRは、H、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基、又はR及びRが結合している炭素原子と一緒になって、環状構造を形成してもよく;Rは、H、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子;Rは、H、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子;Rは、H、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルカルボニル基、炭素数1~6のアルキルエステル基であるか、又はRが2つある場合、2つのRが結合している炭素原子と一緒になって環状構造を形成してもよい]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又はR及びRが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある、5~7員の飽和又は不飽和の複素環、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環であり、
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、
は1つ又は2つであり、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルカルボニル基、又は炭素数1~6のアルキルエステル基であるか、又はRが2つの場合は、2つのRが結合している炭素原子と一緒になって置換基を有することのある5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケンであり、
前記置換基は、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又は2つの置換基が結合している炭素原子と一緒になって、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環である。)
で表される化合物若しくはその塩、
を有効成分として含む、前立腺癌治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、
【化2】
【化3】
【化4】
及び
【化5】
で表される化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の前立腺癌治療用医薬組成物。
【請求項3】
前立腺癌に対する治療薬ビカルタミド、フルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、グロルタミド、及びアビラテロンからなる群から選択される少なくとも1つのホルモン療法薬を更に含む請求項1又は2に記載の前立腺癌治療用医薬組成物。
【請求項4】
下記式(1):
【化6】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又はR及びRが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある、5~7員の飽和又は不飽和の複素環、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環であり、
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、
は1つ又は2つであり、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルカルボニル基、又は炭素数1~6のアルキルエステル基であるか、又はRが2つの場合は、2つのRが結合している炭素原子と一緒になって置換基を有することのある5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケンであり、
前記置換基は、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又は2つの置換基が結合している炭素原子と一緒になって、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環である。)
で表される化合物若しくはその塩、
を有効成分として含む、乳癌治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物が、
【化7】
【化8】
【化9】
及び
【化10】
で表される化合物からなる群から選択される、請求項4に記載の乳癌治療用医薬組成物。
【請求項6】
乳癌に対する治療薬タモキシフェン、フルベストラント、エキセメスタン、及びアナストロゾールらからなる群から選択される少なくとも1つのホルモン療法薬を更に含む請求項4又は5に記載の乳癌治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌又は乳癌治療用医薬組成物に関する。本発明によれば、難治性の前立腺癌又は乳癌を治療することができる。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌及び乳癌は欧米において、男性及び女性が罹患する最も頻度の高い癌である。日本においても、食生活の欧米化及び人口の高齢化に伴い、前立腺癌の患者数は飛躍的に増加している。一般に前立腺癌の増殖は、男性ホルモンであるアンドロゲンにより刺激される。一方、乳癌においては女性ホルモンであるエストロゲンがその増殖を促進する。そのため前立腺癌及び乳癌の治療においては、アンドロゲン・エストロゲン産生、機能を阻害するホルモン療法がしばしば選択される。その効果は極めてよいものの、前立腺癌は数年以内にホルモン療法抵抗性を有する去勢抵抗性前立腺癌(Castration-resistant prostate cancer, CRPC)として再燃する。また、乳癌においてもホルモン療法耐性を獲得することが問題となっている(特許文献1及び2)。そのためホルモン療法に対する治療抵抗性癌の制御が最も重要な課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2014/188775号明細書
【特許文献2】特開2013-17414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、ホルモン療法耐性の治療抵抗性癌の治療薬、及び治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ホルモン療法耐性の治療抵抗性癌の治療薬、及び治療方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定の化学構造を有する化合物群がホルモン療法耐性の治療抵抗性癌を効果的に治療できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]下記式(1):
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又はR及びRが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある、5~7員の飽和又は不飽和の複素環、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環であり、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、Rは1つ又は2つであり、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルカルボニル基、又は炭素数1~6のアルキルエステル基であるか、又はRが2つの場合は、2つのRが結合している炭素原子と一緒になって置換基を有することのある5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケンであり、前記置換基は、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又は2つの置換基が結合している炭素原子と一緒になって、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環である。)で表される化合物若しくはその塩、を有効成分として含む、前立腺癌治療用医薬組成物、
[2]前記式(1)で表される化合物が、
【化2】
【化3】
【化4】
及び
【化5】
で表される化合物からなる群から選択される、[1]に記載の前立腺癌治療用医薬組成物、
[3]前立腺癌に対する治療薬ビカルタミド、エンザルタミド、及びアビラテロンからなる群から選択される少なくとも1つのホルモン療法薬を更に含む[1]又は[2]に記載の前立腺癌治療用医薬組成物、
[4]下記式(1):
【化6】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又はR及びRが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある、5~7員の飽和又は不飽和の複素環、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環であり、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、Rは1つ又は2つであり、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルカルボニル基、又は炭素数1~6のアルキルエステル基であるか、又はRが2つの場合は、2つのRが結合している炭素原子と一緒になって置換基を有することのある5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケンであり、前記置換基は、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又は2つの置換基が結合している炭素原子と一緒になって、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環である。)で表される化合物若しくはその塩、を有効成分として含む、乳癌治療用医薬組成物、
[5]前記式(1)で表される化合物が、
【化7】
【化8】
【化9】
及び
【化10】
で表される化合物からなる群から選択される、[4]に記載の乳癌治療用医薬組成物、及び
[6]乳癌に対する治療薬タモキシフェン、及びフルベストラントらからなる群から選択される少なくとも1つのホルモン療法薬を更に含む[4]又は[5]に記載の乳癌治療用医薬組成物、
に関する。
本明細書は、
【化11】
(以下、化合物N-4と称する)、
【化12】
(以下、化合物N-16と称する)、又は
【化13】
(以下、化合物N-18と称する)、
で表される化合物、若しくはその塩を有効成分として含む、前立腺癌治療用医薬組成物又は乳癌治療用医薬組成物を開示する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の医薬組成物によれば、ホルモン療法耐性前立腺癌又はホルモン療法耐性乳癌を効果的に治療することができる。更に、本発明の医薬組成物はホルモン療法耐性前立腺癌又は乳癌に限ることなく、ホルモン療法耐性ではない前立腺癌又は乳癌やその他の機序による治療抵抗性前立腺癌又は乳癌も効果的に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ホルモン療法抵抗性前立腺癌モデル細胞株22Rv1、及びアンドロゲン応答性前立腺癌細胞株LNCapに対する化合物A-1、化合物N-4、化合物N-16、及び化合物N-18の増殖抑制作用を示したグラフである。
図2】化合物A-1、化合物N-4、及び化合物N-16のPSFとの結合能をRNAプルダウン法によって検討した写真及びグラフである。
図3】化合物A-2のPSFとの結合能をRNAプルダウン法によって検討した写真である。
図4】化合物A-1及び化合物A-2の、前立腺癌22Rv1細胞、乳癌OHTR細胞、前立腺癌DU145細胞、および乳癌MDA-MB231細胞に対する細胞増殖抑制効果を示したグラフである。
図5】マウス皮下への22Rv1細胞移植モデルを使用し、in vivoにおける化合物A-1及び化合物A-2の抗癌作用を検討した写真及びグラフである。
図6】化合物A-1及びA-2を投与した癌組織におけるSchLAP1及びARのmRNAの発現(A)、及びAR、p21、p27、p53の発現(B)を検討した写真及びグラフである。
図7】化合物A-1及びA-2とホルモン療法剤の併用により、ホルモン療法の感受性をMTS assayにより検討したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の前立腺癌治療用医薬組成物又は乳癌治療用医薬組成物は、下記式(1):
【化14】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又はR及びRが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある、5~7員の飽和又は不飽和の複素環、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環であり、
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、
は1つ又は2つであり、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルカルボニル基、又は炭素数1~6のアルキルエステル基であるか、又はRが2つの場合は、2つのRが結合している炭素原子と一緒になって置換基を有することのある5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケンであり、
前記置換基は、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基であるか、又は2つの置換基が結合している炭素原子と一緒になって、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環である。)で表される化合物(以下、化合物Aと称することがある)若しくはその塩、を有効成分として含む。
【0009】
炭素数1~6アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、第三級ペンチル基、ノルマルへキシル基、及びイソへキシル基が挙げられる。炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0010】
炭素数1~6のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、イソブトキシ基、第二級ブトキシ基、第三級ブトキシ基、ノルマルペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、又はイソヘキシルオキシ基が挙げられる。炭素数1~3のアルコキシ基が好ましい。
【0011】
炭素数1~6のアルキルエステル基は、炭素数1~6のアルキル基に、エステル基(-COO-)が結合した基である。炭素数1~6のアルキル基は、前記の通りである。炭素数1~3のアルキルエステル基が好ましい。
【0012】
炭素数1~6のアルキルカルボニル基は、炭素数1~6のアルキル基に、カルボニル基(-C(=O)-)が結合した基である。炭素数1~6のアルキル基は、前記の通りである。炭素数1~3のアルキルカルボニル基が好ましく、具体的にはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、又はピバロイル基が挙げられる。
【0013】
及びRは、それらが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある飽和又は不飽和の5~7員の複素環を形成してもよい。置換基を有することのある、飽和又は不飽和の5~7員の複素環は、好ましくは5又は6員の複素環であり、最も好ましくは6員の複素環である。限定されるものではないが、好ましくは不飽和の複素環である。5~7員の複素環としては、モルホリン(テトラヒドロ-1,4-オキサジン)、ピペラジン、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピペリジン、イミダゾール、ピリジン、テトラヒドロ-1,3-オキサジン、又はテトラヒドロ-1,2-オキサジンが挙げられる。
【0014】
及びR、又は2つのRは、それらが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある5~7員のシクロアルカンでもよい。置換基を有することのある5~7員のシクロアルカンは、炭素数5~7のC2nで表される環状炭化水素であり、好ましくは5又は6員のシクロアルカンであり、最も好ましくは6員のシクロアルカンである。例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、又はシクロヘプタンが挙げられる。
【0015】
及びR、又は2つのRは、それらが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある5~7員のシクロアルケンでもよい。置換基を有することのある、5~7員のシクロアルケンは、炭素数5~7のC2n-2で表され、炭素原子間に二重結合を1個有する環状炭化水素であり、好ましくは5又は6員のシクロアルケンであり、最も好ましくは6員のシクロアルケンである。例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、又はシクロヘプテンが挙げられる。
【0016】
及びR、又は2つのRは、それらが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有することのある炭素数6~12のアリール環でもよい。置換基を有することのある、炭素数6~12のアリール環としては、ベンゼン環、又はナフタレン環が挙げられるが、好ましくはベンゼン環である。
【0017】
前記複素環、シクロアルカン、シクロアルケン、又はアリール環の置換基としては、例えば、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基が挙げられる。ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基は、前記環構造の炭素原子に結合している1つの水素原子が置換されるものである。また、酸素原子は二価であるため、前記環構造の炭素原子に結合している2つの水素原子が酸素原子に置換されるものである。
また、前記複素環、シクロアルカン、シクロアルケン、又はアリール環の置換基としては、2つの置換基が結合している炭素原子と一緒になって、5~7員のシクロアルカン若しくはシクロアルケン、又は炭素数6~12のアリール環でもよい。
【0018】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。ヒドロキシ基は、-OHで表される基である。
【0019】
前記化合物Aは、下記式(2):
【化15】
で表される化合物の誘導体である。すなわち、式(2)で表される化合物を骨格として有する化合物群である。
【0020】
化合物Aは限定されるものではないが、下記式(3)、(4)、及び(5)で表される化合物が挙げられる。
【化16】
(以下、化合物A-1と称することがある)
【化17】
(以下、化合物A-2と称することがある)
【化18】
(以下、化合物A-3と称することがある)
【0021】
化合物Aとして、更に下記の化合物を挙げることができる。
【化19】
【0022】
前記化合物Aの塩は、製薬学的に許容される塩であり、置換基の種類によって、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩、アセチルロイシン等の各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
更に、本発明に用いられる有効成分は、化合物及びその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0024】
本発明の医薬組成物の治療対象である前立腺癌は、前立腺に発生する癌であり、ホルモン療法として、抗アンドロゲン剤の投与が行われることもある。治療対象の前立腺癌の種類は、特に限定されるものではないが、ホルモン療法耐性を獲得した去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に特に有効である。後述の実施例に示すように、AR陽性CRPC及びAR陰性のCRPCに顕著な抗がん作用を示し、本発明の医薬組成物は、ホルモン療法耐性を獲得したCRPCに有効に用いることができる。しかしながら、ホルモン療法耐性ではない前立腺癌やその他の機序による治療抵抗性前立腺癌も治療することができる。
【0025】
本発明の前立腺癌治療用医薬組成物は、更に前立腺癌に対する治療薬を含むことができる。前立腺癌に対する治療薬としては、限定されるものではないが、ビカルタミド、フルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、グロルタミド、又はアビラテロンが挙げられる。
【0026】
本発明の医薬組成物の治療対象である乳癌は、乳房組織に発生した癌腫であり、ホルモン療法として、抗エストロゲン剤の投与が行われることがある。治療対象の乳癌の種類は、特に限定されるものではないが、ホルモン療法耐性を獲得したエストロゲン非依存性乳癌に特に有効である。しかしながら、ホルモン療法耐性ではない乳癌やその他の機序による治療抵抗性乳癌も治療することができる。
【0027】
本発明の乳癌治療用医薬組成物は、更に乳癌に対する治療薬を含むことができる。乳癌に対する治療薬としては、限定されるものではないが、タモキシフェン、フルベストラント、エキセメスタン又はアナストロゾールが挙げられる。
【0028】
本発明者らは、ホルモン療法抵抗性を獲得した前立腺癌又は乳癌において、RNA結合タンパク質PSF(PTB-Associated Splicing Factor)が、癌の悪性化に関与する因子を制御することを見出した。例えば、PSFは、去勢抵抗性前立腺癌(Castration-resistant prostate cancer, CRPC)で増加するアンドロゲン受容体(AR)又はその変異体であるAR-V7の発現を上昇させる。また、ホルモン治療抵抗になった乳癌組織において、PSFの発現が上昇している。
本発明に用いる化合物Aは、PSFとその標的RNAの結合を阻害することができる。実施例に示したように、ホルモン療法抵抗性の前立腺癌モデル細胞である22Rv1細胞において、PSFのRNAレベルでの標的遺伝子であるAR、AR-V7、及びSchLaP1の発現を抑制することができる。また、乳がんのホルモン療法抵抗性モデル細胞であるOHT-TamR細胞において、PSFの下流遺伝子であるERα、及びSCFD2の発現を抑制することができる。
すなわち、化合物Aは、PSFとその標的RNAの結合を阻害することによって、PSFの機能を抑制し、ホルモン療法抵抗性の前立腺癌又は乳癌の治療に有効であると考えられる。
【0029】
前記化合物A又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0030】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0031】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、更に等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0032】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0033】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0034】
投与量は病気の種類、症状、年齢、性別など個々の患者によって異なるが、通常、経口投与の場合、成人1日あたり0.001mg/kg~500mg/kg程度であり、これを1回、あるいは2回から4回に分けて投与する。注射で投与する場合は、成人1日あたり0.0001mg/kg~10mg/kg程度を1回乃至2回、急速静注するかあるいは点滴静注する。吸入の場合は成人1日あたり0.0001mg/kg~10mg/kg程度を1回、又は複数回投与する。経皮剤の場合は成人1日あたり0.01mg/kg~10mg/kg程度を1日1回乃至2回貼付する。
【0035】
化合物A又はその塩は、前記化合物A又はその塩が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【0036】
《前立腺癌又は乳がんの治療方法》
前記化合物A又はその塩を前立腺癌又は乳癌の治療方法に用いることができる。すなわち、本明細書は、前記式(1)で表される化合物若しくはその塩の治療有効量を前立腺がん患者又は乳癌患者に投与する工程を含む、前立腺がんの治療方法を開示する。
【0037】
《前立腺癌又は乳がんの治療方法における使用のための化合物A》
前記化合物A又はその塩は、前立腺癌又は乳癌の治療方法に使用することができる。すなわち、前立腺癌又は乳癌の治療方法に使用するための、前記式(1)で表される化合物若しくはその塩を開示する。
【0038】
《化合物Aの医薬組成物の製造への使用》
前記化合物A又はその塩は、前立腺癌又は乳癌の治療用医薬組成物の製造へ使用することができる。すなわち、本明細書は、前記式(1)で表される化合物若しくはその塩の、前立腺癌又は乳癌の治療用医薬組成物の製造への使用を開示する。
【0039】
《作用》
化合物Aが前立腺癌又は乳癌の治療に有効であるメカニズムは、詳細に解析されているわけではないが、以下のように推定することができる。化合物Aは、式(2):
【化20】
で表される化合物(2)の誘導体であるが、化合物(2)の骨格が、PSFとの結合(抗癌作用)に重要であると考えられる。更に、化合物(2)のベンゼン環がカルボニル基(-CO-)を有することで、抗癌作用が向上していると考えられる。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
《実施例1》
本実施例では、化合物A-1、化合物N-4、化合物N-16、及び化合物N-18のホルモン療法抵抗性前立腺癌モデル細胞株22Rv1及びホルモン療法感受性前立腺癌細胞株LNCapに対する増殖能への影響を検討した。
各細胞を、96ウエルプレートに3×10になるように播種し、化合物A-1、化合物N-4、化合物N-16、及び化合物N-18を0.03μM~100μMの濃度で添加した。3日後にMTSアッセイにより細胞増殖能の評価を実施した。MTSアッセイは、以下の通り行った。
Cell titer 96(Promega)を用いて1時間反応させた。MTSアッセイは、PES(phenazine ethosulfate)を介して、テトラゾリウム塩[MTS;3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium, inner salt]を発色物質であるホルマザン産物へ変換する還元反応に基づいて、生細胞数を測定するものである。反応後に、マイクロプレートリーダーにて吸光度490nmで細胞増殖能を測定した。
その結果、化合物A-1、化合物N-4、化合物N-16、及び化合物N-18のいずれも、有意に細胞増殖が抑えられていた(図1)。
【0042】
《実施例2》
本実施例では、化合物A-1、化合物N-4、及び化合物N-16について、PSFとの結合能をRNAプルダウン法によって検討した。
Biotin RNA Labeling Mix(Roche)を用いて、ビオチンラベルしたCTBP1-ASのプローブを作成した。T7 RNA polymeraseにより、T7プロモーターにCTBP1-AS 1.5kbを組み込んだDNA鎖を鍵型としてRNAプローブを作成した。RNAは細胞よりRIP(RNA immunoprecipitation)bufferにより、22Rv1細胞から抽出した核抽出液と混合し、8時間4℃で回転させ結合させた。更にアビジンビーズを添加し2時間回転させビーズによりビオチン化したRNAプローブの回収を行った。遠心によりビーズを回収し、バッファーで洗浄を3回繰り返した後、ビーズにSDSサンプルバッファーを添加し、Western blotにより結合した蛋白質を解析した。
図2に示すように、いずれもの化合物もPSFとRNAとの結合を阻害した。結合のシグナルが半減するIC50の値を示す。
【0043】
《実施例3》
本実施例では、化合物A-2について、PSFとの結合能をRNAプルダウン法によって検討した。
化合物A-2を用いたことを除いては、実施例2の操作を繰り返した。図3に示すように、化合物A-2のIC50は0.02μMで、非常に低い濃度で有効であった。
【0044】
《実施例4》
本実施例では、化合物A-1及び化合物A-2の、前立腺癌22Rv1細胞、乳癌OHTR細胞、HR陰性でp53に変異のある前立腺癌DU145細胞、およびHR陰性でp53に変異のある乳癌MDA-MB231細胞に対する細胞増殖抑制効果を検討した。
化合物A-1及び化合物A-2を用いたこと、及び前記の細胞を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。図4に示すように、化合物A-1及び化合物A-2ともに、細胞増殖抑制効果を示したが、化合物A-2の方が優れた細胞増殖抑制効果を示した。図中に細胞増殖が半減するIC50の値を示している。
更に、化合物A-3についても前立腺癌22Rv1細胞に対する細胞増殖抑制効果を検討した。化合物A-3も優れた細胞増殖抑制効果を示した。
更に、下記表に記載する化合物も優れた細胞増殖抑制効果を示す。
【0045】
【表1-1】
【0046】
【表1-2】
【0047】
【表1-3】
【0048】
【表1-4】
【0049】
《実施例5》
本実施例では、マウス皮下への22Rv1細胞移植モデルを使用し、in vivoにおける化合物A-1及びA-2の抗癌作用を検討した。
腫瘍移植のために22Rv1細胞を6×10に調整したらマトリゲルと1:1で混合し、5週齢♂ヌードマウスへ皮下注射した。マウスは♂BALB/cAJcl-nu/nuマウスを用いた。マウス皮下注射後5~8週、腫瘍体積が100mmくらいに達したところで精巣摘除を行い、難治性のホルモン療法耐性の腫瘍に対する治療効果を検討するモデルとした。
それぞれ8匹のマウスに、化合物A-1及びA-2を10mg/kgの濃度で腹腔内に注射し、コントロールではVehicle(DMSO)を投与した。投与は3回/週を3週間繰り返し、腫瘍径も測定した。図5に示すように化合物A-1及びA-2の投与はマウスにおける腫瘍の増殖を有意に抑制した。
【0050】
《実施例6》
本実施例では、腫瘍における化合物A-1及びA-2投与がPSFのシグナルを抑制しているかの確認をqRT-PCR法により検討した。
腫瘍をISOGEN中にホモジェナイズすることでRNAを抽出しqRT-PCRによりPSFの下流シグナルであるSchLAP1及びARのmRNA発現量を計測した。その結果化合物A-2投与においてAR、及びSchLAP1のmRNA発現量の有意な低下を確認した(図6A)。
更に、Western blot法を用いてPSFシグナル、アポトーシスへ与える影響を検討した。タンパク質の抽出のため腫瘍だけを取り除き、さらに5~10mmの大きさに分けた。腫瘍に500μL NP40 lysis bufferを加え、ホモジナイザーですりつぶした。その溶液を15,000rpm、4℃、30分で遠心し、上清を回収した。タンパク質をSDS lysis bufferにより可溶化した後、Western blot法によるPSFおよびAR、p21、p27、p53の解析を行った。その結果、図6Bに示すように化合物A-1及びA-2のマウスへの投与はARの発現抑制とp53、p21、p27の発現上昇を確認し、PSFのシグナルを抑制させていた。また、アポトーシスマーカーであるCleaved-PARP1の発現も上昇を認め、アポトーシスをもたらしていることが示唆された。以上より化合物A-1及びA-2の全身への投与は腫瘍内においてもPSFのシグナルを抑制しPSFとRNAの結合を標的として抑制することで腫瘍増殖の抑制を促すことが示唆された。
【0051】
《実施例7》
本実施例では、化合物A-1及びA-2により、ホルモン療法の感受性が亢進するかをMTS assayにより検討した。
前立腺癌細胞の22Rv1細胞にAR阻害剤であるエンザルタミド(Enz)10μM を添加し、併せてA-1またはA-2を10、5、又は1μMの濃度で添加し、6日後MTS assayを行い、ホルモン療法への感受性を検証した。また、乳癌細胞であるOHTR細胞にER阻害剤である4-ヒドロキシタモキシフェン(OHT)10μMを添加し、併せてA-1またはA-2を10、5、又は1μMの濃度で添加し、6日後MTS assayを行いホルモン療法への感受性を検証した。
その結果、両者の併用により単独でホルモン受容体阻害剤を添加したとき、A-1、A-2を添加したときよりも増殖抑制がより効率的に認められることが示された(図7)。以上より既存のホルモン療法薬との併用による癌治療への応用の可能性が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の医薬組成物は、難治性の前立腺癌又は乳癌の治療に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7