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特開2024-131712エンコーダ逓倍回路、ロータリーエンコーダ、及びリニアエンコーダ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131712
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】エンコーダ逓倍回路、ロータリーエンコーダ、及びリニアエンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/347 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01D5/347 110L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042140
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】390009667
【氏名又は名称】セイコーNPC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼八 薫
【テーマコード(参考)】
2F103
【Fターム(参考)】
2F103BA37
2F103CA02
2F103DA01
2F103EA12
2F103EB06
2F103EB12
2F103EB33
2F103FA09
(57)【要約】
【課題】逓倍信号を得るための出力信号の精度を向上させることができるエンコーダ逓倍回路、ロータリーエンコーダ、及びリニアエンコーダを提供する。
【解決手段】本発明に係るエンコーダ逓倍回路は、光学的な変位検出パターンを有するスケールの位置に応じて周期的に値が変化する信号の1周期を分割した第1分割信号と、第1分割信号と位相が異なる第2分割信号とを入力し、第1分割信号及び第2分割信号の周期をn逓倍(nは2以上の自然数)した逓倍信号を得るための出力信号を生成する信号生成回路と、信号生成回路を制御するパルス信号を出力するパルス出力部と、を備え、信号生成回路は、複数のスイッチを含むスイッチ部を有し、スイッチ部は、パルス信号に基づき、複数のスイッチの1つを順に導通状態にしながら残りを非導通状態にする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的な変位検出パターンを有するスケールの位置に応じて周期的に値が変化する信号の1周期を分割した第1分割信号と、前記第1分割信号と位相が異なる第2分割信号とを入力し、前記第1分割信号及び前記第2分割信号の周期をn逓倍(nは2以上の自然数)した逓倍信号を得るための出力信号を生成する信号生成回路と、
前記信号生成回路を制御するパルス信号を出力するパルス出力部と、
を備え、
前記信号生成回路は、複数のスイッチを含むスイッチ部を有し、
前記スイッチ部は、前記パルス信号に基づき、複数の前記スイッチの1つを順に導通状態にしながら残りを非導通状態にする、エンコーダ逓倍回路。
【請求項2】
前記信号生成回路は、前記第1分割信号を入力する第1入力端子と、前記第2分割信号を入力する第2入力端子と、前記第1入力端子及び前記第2入力端子間に接続される複数の抵抗を含む抵抗部を備え、
前記抵抗部は、前記スイッチを介さずに、前記第1入力端子及び前記第2入力端子間に設けられている、請求項1に記載のエンコーダ逓倍回路。
【請求項3】
前記複数の抵抗は、前記第1入力端子及び前記第2入力端子間に直列接続される、請求項2に記載のエンコーダ逓倍回路。
【請求項4】
前記出力信号と前記出力信号の波形を反転した反転信号とに基づき、前記スケールの移動方向を検出し、検出した移動方向を示す検出信号を出力する移動方向検出回路を備える、請求項1から3の何れか一項に記載のエンコーダ逓倍回路。
【請求項5】
前記検出信号に基づき、予め格納したデータを前記スケールの移動方向にシフトすることで、逓倍後の信号を前記スケールの移動方向に対応した順に出力する逓倍信号出力部を備える、請求項4に記載のエンコーダ逓倍回路。
【請求項6】
前記移動方向検出回路は、前記エンコーダ逓倍回路が起動してから前記スケールが移動を開始するまでの間に、前記パルス出力部に含まれるリングレジスタに格納されるデータのレジスタ内位置を、前記スケールの位置に設定する、請求項4又は5に記載のエンコーダ逓倍回路。
【請求項7】
特定数のn倍(nは2以上の自然数)の前記複数のスイッチ部と、
特性数のn倍(nは2以上の自然数)の前記複数の抵抗部と、
ビット数を特定数よりも増やした前記リングレジスタと、
を備えた請求項6に記載のエンコーダ逓倍回路。
【請求項8】
請求項1に記載のエンコーダ逓倍回路を備えたロータリーエンコーダ。
【請求項9】
請求項1に記載のエンコーダ逓倍回路を備えたリニアエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダ逓倍回路、ロータリーエンコーダ、及びリニアエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される従来の光学式エンコーダは、位置をコード化するため、回転運動又は直線運動をディジタル出力に変換するように構成される。光学式エンコーダには、逓倍信号を得るためのノコギリ波(出力信号)を用いた逓倍方法がある。逓倍信号は、光学的な変位検出パターンを有するスケールの位置に応じて周期的に値が変化する信号の1周期を分割した分割信号の周期を、n逓倍(nは2以上の自然数)した信号である。
【0003】
この逓倍方法では、ノコギリ波生を生成する相間ノコギリ波生成回路が、第1分割信号を入力する第1入力端子と、第1分割信号と位相が異なる第2分割信号を入力する第2入力端子と、出力信号を出力する出力端子とを備える。また相間ノコギリ波生成回路は、第1入力端子及び第2入力端子のそれぞれに並列接続される複数の抵抗を含む抵抗部と、スイッチ部とを備える。スイッチ部は、第1入力端子及び抵抗部間に接続される複数のスイッチと、第2入力端子及び抵抗部間に接続される複数のスイッチとを備える。
【0004】
このように構成される相間ノコギリ波生成回路は、特定のパルス信号に基づき、2以上のスイッチを同時に導通状態にしながら残りを非導通状態にすることで、第1入力端子及び第2入力端子に印加される電圧、つまり抵抗部に印加される電圧を分圧する。分圧後の電圧はノコギリ状の出力信号となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-160147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来技術では、出力信号を得るためには2以上のスイッチが同時に導通状態になるため、スケールが静止した状態でも2以上のスイッチに直流電流が流れる。従って抵抗部で分圧される過程で、複数のスイッチの電気抵抗が出力信号の誤差要因となり得る。この対策として各スイッチの断面積を大きくした場合、各スイッチの電気抵抗は低下するものの、各スイッチの静電容量が増加するため、各スイッチの動作速度が低下し得る。従って、従来のエンコーダ逓倍回路では、逓倍信号を得るための出力信号を生成する上で改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するために成されたものであり、逓倍信号を得るための出力信号の精度を向上させることができるエンコーダ逓倍回路、ロータリーエンコーダ、及びリニアエンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るエンコーダ逓倍回路は、光学的な変位検出パターンを有するスケールの位置に応じて周期的に値が変化する信号の1周期を分割した第1分割信号と、前記第1分割信号と位相が異なる第2分割信号とを入力し、前記第1分割信号及び前記第2分割信号の周期をn逓倍(nは2以上の自然数)した逓倍信号を得るための出力信号を生成する信号生成回路と、前記信号生成回路を制御するパルス信号を出力するパルス出力部と、を備え、前記信号生成回路は、複数のスイッチを含むスイッチ部を有し、前記スイッチ部は、前記パルス信号に基づき、複数の前記スイッチの1つを順に導通状態にしながら残りを非導通状態にする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、逓倍信号を得るための出力信号の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路の構成例を示す図である。
図2図2は、エンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図3図3は、エンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図4図4は、エンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図5図5は、エンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図6図6は、エンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図7図7は、比較例にかかるエンコーダ逓倍回路が備える相間ノコギリ波生成回路の構成を示す図である。
図8図8は、比較例にかかるエンコーダ逓倍回路が備える相間ノコギリ波生成回路の動作を説明するための図である。
図9図9は、本開示の実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路の変形例を説明するための図である。
図10図10は、変形例にかかるエンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図11図11は、変形例にかかるエンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図12図12は、変形例にかかるエンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
図13図13は、変形例にかかるエンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、本開示の実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路の構成例を示す図である。エンコーダ逓倍回路100は、光学透過型エンコーダ逓倍(補間)回路である。エンコーダ逓倍回路100は、フォトダイオードアレー1、I-V変換器2、波形切り出し回路3、第1リングレジスタ4、相間ノコギリ波生成回路5(信号生成回路)、第2リングレジスタ6、コンパレーション電圧源8、コンパレータ7、及び遅延回路9を備える。第1リングレジスタ4及び第2リングレジスタ6はパルス出力部30を構成する。
【0013】
フォトダイオードアレー1は、A+相、B+相、A-相、B-相と呼ばれる独立した複数のフォトダイオードが周期的に配置された構造を有する。各フォトダイオードは、光学スケール20の明部の幅又は暗部の幅と、同じ幅を有する。
【0014】
フォトダイオードアレー1は、光学スケール20から特定距離空けて光学スケール20と対向する位置に設けられている。特定距離は、光学スケール20からLED光源10までの距離と等しい。光学スケール20は、LED光源10から発せられた光が透過するスリット部(明部)と、当該光が遮られる非スリット部(暗部)とを有する。以下では、明部及び暗部を、明暗部と称する場合がある。フォトダイオードアレー1は、光学スケール20を介して、LED光源10から発せられた光により、A+相、B+相、A-相、及びB-相の光電流を生成する。
【0015】
I-V変換器2は、フォトダイオードアレー1で生成された光電流を電圧に変換する。当該電圧の波形は、光学スケール20の等速移動に伴い三角波に似た波形となる。電圧の波形については後述する。
【0016】
波形切り出し回路3は、I-V変換器2で変換された各相の電圧の特定部分を切り出し、切り出した電圧を再合成することで、I相及びQ相の二種類の電圧の波形を出力する。
【0017】
具体的には、波形切り出し回路3は、第1リングレジスタ4に予め格納されたデータに従いオンオフ動作するスイッチを含む。当該スイッチは、I-V変換器2で変換された各相に対応して複数設けられている。複数のスイッチが、第1リングレジスタ4に予め格納されたデータ(パルス信号)に従い動作することで、I-V変換器2で変換された各相の電圧の特定部分が切り出される。第1リングレジスタ4に予め格納されたデータは、光学スケール20の位置に対応する。切り出された電圧は、I相用加算器及びQ相用加算器でそれぞれ合成されることにより、I相波形及びQ相波形として出力される。
【0018】
I相波形は、光学的な変位検出パターンを有する光学スケール20の位置に応じて周期的に値が変化する信号の1周期を分割した第1分割信号である。Q相波形は、第1分割信号と位相が異なる(例えば位相が90度異なる)第2分割信号である。
【0019】
第1リングレジスタ4は、第1リングレジスタ4に予め格納されたデータを、遅延回路9からのインパルス列に同調して1ビットずつシフトする。
【0020】
相間ノコギリ波生成回路5は、波形切り出し回路3からのI相波形及びQ相波形に基づき、一定周期の細かいノコギリ波を生成する。具体的には、相間ノコギリ波生成回路5は、I相波形である第1分割信号と、Q相波形である第2分割信号とを入力し、第1分割信号及び第2分割信号の周期をn逓倍(nは2以上の自然数)した逓倍信号を得るためのノコギリ波(出力信号)を生成する。
【0021】
相間ノコギリ波生成回路5は、第1分割信号を入力する第1入力端子51aと、第2分割信号を入力する第2入力端子51bと、出力信号を出力する出力端子52とを備える。また相間ノコギリ波生成回路5は、第1入力端子51a及び第2入力端子51b間に接続される複数の抵抗を含む抵抗部53と、抵抗部53及び出力端子52間に接続される複数のスイッチを含むスイッチ部54とを備える。
【0022】
抵抗部53は、スイッチを介さずに、第1入力端子51a及び第2入力端子51b間に設けられている。抵抗部53に含まれる複数の抵抗は、第1入力端子51a及び第2入力端子51b間に直列接続される。具体的には、抵抗部53は、直接接続される第1抵抗R1、第2抵抗R2、第3抵抗R3、及び第4抵抗R4を備える。
【0023】
第1抵抗R1は、一端が第1入力端子51aに接続され、他端が第2抵抗R2に接続される。第2抵抗R2は、一端が第1抵抗R1に接続され、他端が第3抵抗R3に接続される。第3抵抗R3は、一端が第2抵抗R2に接続され、他端が第4抵抗R4に接続される。第4抵抗R4は、一端が第3抵抗R3に接続され、他端が第2入力端子51bに接続される。
【0024】
スイッチ部54は、パルス信号に基づき、複数のスイッチの1つを順に導通状態にしながら残りを非導通状態にする。具体的には、スイッチ部54は、第2リングレジスタ6に予め格納されたデータ(パルス信号)に従いオンオフ動作する。
【0025】
スイッチ部54に含まれる第1から第8までの複数のスイッチは、抵抗部53及び出力端子52間に接続される。
【0026】
第1スイッチS1は、一端が第1入力端子51a及び第1抵抗R1に接続され、他端が出力端子52に接続される。
【0027】
第2スイッチS2は、一端が第1抵抗R1及び第2抵抗R2に接続され、他端が出力端子52に接続される。第3スイッチS3は、第2スイッチS2と並列接続される。
【0028】
第4スイッチS4は、一端が第2抵抗R2及び第3抵抗R3に接続され、他端が出力端子52に接続される。第5スイッチS5は、第2スイッチS2と並列接続される。
【0029】
第6スイッチS6は、一端が第3抵抗R3及び第4抵抗R4に接続され、他端が出力端子52に接続される。第7スイッチS7は、第6スイッチS6と並列接続される。
【0030】
第8スイッチS8は、一端が第2入力端子51b及び第4抵抗R4に接続され、他端が出力端子52に接続される。
【0031】
このように構成される相間ノコギリ波生成回路5は、スイッチ部54が第2リングレジスタ6に予め格納されたデータに従い開閉動作することで、I相波形及びQ相波形に基づき逓倍信号を得るための出力信号(ノコギリ波)を生成する。第2リングレジスタ6に予め格納されたデータは、光学スケール20の位置に対応する。
【0032】
第2リングレジスタ6は、第2リングレジスタ6に予め格納されたデータを、遅延回路9からのインパルス列に同調して1ビットずつシフトする。
【0033】
コンパレーション電圧源8は、基準電圧であるコンパレーション電圧を生成してコンパレータ7に対して出力する。コンパレータ7は、相間ノコギリ波生成回路5からのノコギリ波とコンパレーション電圧源8からのコンパレーション電圧とを比較することで、光学スケール20の移動に連動したインパルス列を出力する。遅延回路9は、コンパレータ7からのインパルス列に、特定のパルス幅と時間遅延を持たせて第1リングレジスタ4及び第2リングレジスタ6に出力する。
【0034】
なお、本実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路100は、光学透過型エンコーダに限定されず、光学反射型エンコーダにも適用可能である。
【0035】
次にエンコーダ逓倍回路100の動作を説明する。図2図3図4図5及び図6は、エンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
【0036】
図2に示すように、LED光源10から発せられた光は、光学スケール20を経てフォトダイオードアレー1に照射される。フォトダイオードアレー1は各相の光電流を生成し、この光電流をI-V変換器2が電圧に変換する。変換された電圧は、光学スケール20の等速移動に伴い三角波に似た形状を有する。
【0037】
図3には、A+窓クロック(AC1)、A-窓クロック(AC2)、B+窓クロック(AC3)、及びB-窓クロック(AC4)が示される。図3には、A+相から切り出した波形W1、A-相から切り出した波形W2、B+相から切り出した波形W3、B-相から切り出した波形W4が示される。図3に示すように、当該電圧を入力した波形切り出し回路3は、各相の電圧の波形の所望部分を切り出し、さらに再合成して出力する。合成した電圧の波形(ノコギリ波Sb1、ノコギリ波Sb2)は相間ノコギリ波生成回路5に対して出力される。波形切り出しの位置タイミングは、光学スケール20の位置に対応する第1リングレジスタ4に予め格納されたデータに従う。これによりI相及びQ相の二種類の波形が出力される。
【0038】
図4には、Q相電圧>I相電圧時の窓クロックCK1、I相電圧>Q相電圧時の窓クロックCK2が示される。図4に示すように、波形切り出し回路3からの波形は相間ノコギリ波生成回路5に入力され、相間ノコギリ波生成回路5は一定周期の細かいノコギリ波V
sを生成する。ノコギリ波Vsは、光学スケール20の位置に対応する第2リングレジスタ6に予め格納されたデータに従い生成される。生成されたノコギリ波Vsはコンパレータ7に入力される。コンパレータ7は、ノコギリ波Vsをコンパレーション電圧Vcに比較することで、光学スケール20の移動に同期したインパルス列を出力する。
【0039】
インパルス列は遅延回路9に入力される。遅延回路9は、扱いが容易なパルス幅と時間遅延をインパルス列に持たせて、第1リングレジスタ4及び第2リングレジスタ6のクロック信号として出力する。第1リングレジスタ4及び第2リングレジスタ6は、これらリングレジスタのデータをインパルス列に同調してシフトする。
【0040】
以上の一連の動作により、光学スケール20の移動に伴い、光学スケール20の位置に相当する波形を切り出して再合成し、さらに細かいノコギリ波の生成とインパルス列の出力が行われる。インパルス列が各リングレジスタのデータシフトを行い、各回路の波形出力のための情報を与えるフィードバック構造を成している。なお、前述のインパルス列は逓倍(補間)のベース信号と解釈してよい。このベース信号により、A相及びB相の各逓倍(補間)波形を生成する。インパルス列は、各相の1周期に対し16個のインパルス(16発出力)を有する。これより出力可能なA相・B相出力は、元波形の4逓倍となる。
【0041】
次に図5及び図6を参照して、エンコーダ逓倍回路100の動作を説明する。図5及び図6は、エンコーダ逓倍回路100の動作を説明するための図である。
【0042】
前述の通り、エンコーダ逓倍回路100は、抵抗値R(Ω)の4つの抵抗器と8つのスイッチとを備える。図5に示す等価回路は、I相及びQ相の入力電圧波形の1周期を、図4の左下のグラフのようにスイッチが切り換わる(1)から(8)までの8つの区間に分解した出力電圧を、オン状態(導通状態)のスイッチの経路のみに整理したものである。
【0043】
図6には、図5に示す各区間での出力電圧がグラフ化して示される。光学スケール20の移動に伴い、I相-Q相間の対応する分圧カーブに沿って(1)~(8)までの各タイミングにおいて、電圧が上昇し、次のタイミングに入ると別の対応する分圧カーブに遷移し、またそれに沿って電圧が上昇すると言う動作を繰り返す。その結果、図4の左下のグラフのカーブのように、出力電圧はノコギリ波となって現れる。
【0044】
(比較例)
図7は、比較例にかかるエンコーダ逓倍回路が備える相間ノコギリ波生成回路の構成を示す図である。比較例の相間ノコギリ波生成回路5Aは、図1に示す抵抗部53及びスイッチ部54に代えて、抵抗部53A及びスイッチ部54Aを備える。
【0045】
抵抗部53Aは、第1入力端子51a及び第2入力端子51bのそれぞれに並列接続される複数の抵抗を含む。スイッチ部54Aは、第1入力端子51a及び抵抗部53A間に接続される複数のスイッチと、第2入力端子51b及び抵抗部53A間に接続される複数のスイッチとを備える。
【0046】
このように構成される相間ノコギリ波生成回路5Aは、特定のパルス信号に基づき、4つのスイッチを同時に導通状態にしながら残りを非導通状態にすることで、第1入力端子51a及び第2入力端子51bに印加される電圧、つまり抵抗部53Aに印加される電圧を分圧する。分圧後の電圧はノコギリ状の出力信号となる。
【0047】
図8は、比較例にかかるエンコーダ逓倍回路が備える相間ノコギリ波生成回路の動作を説明するための図である。図8に示す等価回路は、I相及びQ相の入力電圧波形の1周期を、図7の左下のグラフのようにスイッチが切り換わる(1)から(8)までの8つの区間に分解した出力電圧を、オン状態(導通状態)のスイッチの経路のみに整理したものである。
【0048】
図8に示すように、相間ノコギリ波生成回路5Aは、I相-Q相間の電圧を分圧して出力する。(1)~(4)までの区間では、Q相が高い電圧となり、分圧された電圧がI相電圧に足される形となる。一方、(5)~(8)までの区間では、I相が高い電圧となり、分圧された電圧がQ相電圧に足される形となる。
【0049】
ここで、相間ノコギリ波生成回路5Aでは、出力信号を得るためには2以上のスイッチが同時に導通状態になるため、光学スケール20が静止した状態でも2以上のスイッチに直流電流が流れる。従って、抵抗部53Aで分圧される過程で、複数のスイッチの電気抵抗が出力信号の誤差要因となり得る。この対策として各スイッチの断面積を大きくした場合、各スイッチの電気抵抗は低下するものの、各スイッチの静電容量が増加するため、各スイッチの動作速度が低下し得る。
【0050】
これに対して本開示の実施形態にかかる相間ノコギリ波生成回路5は、パルス信号に基づき、複数のスイッチの1つを順に導通状態にしながら残りを非導通状態にするように構成される。このため、光学スケール20が静止した状態に於いてスイッチに直流電流が流れずスイッチでの電圧降下が起こらない。また電気降下が起こらないため、スイッチの断面積を大きくする必要がない。従って、スイッチの静電容量の増加に起因する影響(スイッチの動作速度の低下)を回避し得る。
【0051】
(変形例)
図9は、本開示の実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路の変形例を説明するための図である。図9には、エンコーダ逓倍回路100Aの実用例が示される。
【0052】
(1)エンコーダ逓倍回路100Aは、光学スケール20の移動方向が順方向及び逆方向の何れにも対応している。(2)エンコーダ逓倍回路100Aは、逓倍(補間)されたA相及びB相の信号を光学スケール20の移動方向に対応した順番で出力する。(3)エンコーダ逓倍回路100Aは、システム起動時に光学スケール20の移動が開始される前に、各リングレジスタに搭載されるコードをこの時点の光学スケールの位置に相当するレジスタ内位置に初期設定する。
【0053】
図9に示すエンコーダ逓倍回路100Aは、図1に示す構成に加え、移動方向検出回路200及び逓倍信号出力部40を備える。
【0054】
移動方向検出回路200は、順方向用コンパレータ60、順方向用コンパレーション電圧源61、順方向用スイッチ62、順方向用スイッチ63、OR回路64、逆方向用コンパレータ65、逆方向用コンパレーション電圧源66、逆方向用スイッチ67、及び逆方向用スイッチ70を備える。
【0055】
また移動方向検出回路200は、起動時初期設定パルス発生回路68、起動時初期設定パルス発生回路69、波形生成・遅延回路71、遅延回路72、遅延回路73、及びフリップフロップ74を備える。逓倍信号出力部40は、逓倍AB相生成用リングレジスタ40aを備える。
【0056】
次に、変形例にかかるエンコーダ逓倍回路100Aの動作を説明する。図10図11図12及び図13は、変形例にかかるエンコーダ逓倍回路の動作を説明するための図である。
【0057】
図10の上側には、I-V変換器2から出力される電圧が示される。普通実線は、A+相電圧を示す。普通鎖線は、A-相電圧を示す。太実線は、B+相電圧を示す。太鎖線は、B-相電圧を示す。図10の下側には、光学スケール20の位置が示される。
【0058】
図11の上側には、波形切り出し回路3から出力される波形が示される。普通実線は、I相の波形を示す。太実線は、Q相の波形を示す。図11の下側には、光学スケール20の位置が示される。
【0059】
図12の上側には、上から順に、(1)光学スケール20の移動方向の検出信号、(2)順方向・逆方向を合成したインパルス列、(3)順方向相間ノコギリ波をコンパレートしたインパルス列、(4)逆方向相間ノコギリ波をコンパレートしたインパルス列、及び(5)I相Q相間のノコギリ波が示される。なお(5)には、相間ノコギリ波、及び相間ノコギリ波と比較される、順方向用コンパレーション電圧Vc1、及び逆方向用コンパレーション電圧Vc2が示される。図12の下側には、光学スケール20の位置が示される。
【0060】
図13の上側には、上から順に、(1)順方向・逆方向を合成したインパルス列、(2)A相逓倍出力Voa、(3)B相逓倍出力Vob、及び(4)移動方向の検出信号が示される。図13の下側には、光学スケール20の位置が示される。
【0061】
動作例(1):
エンコーダ逓倍回路100Aの波形切り出し回路3は、光学スケール20が順方向前半はB+とA+の波形を、順方向後半はA+とB-の波形を切り出す。また波形切り出し回路3は、光学スケール20が逆方向に移動するとき、これらの波形を上下反転した波形(図10に示す逆方向前半はA+とB-の波形を、逆方向後半はB+とA+の波形)を切り出す。
【0062】
また、エンコーダ逓倍回路100Aの相間ノコギリ波生成回路5は、図11に示す普通実線の波形と太実線の波形を入力して、順方向時のノコギリ波と、当該ノコギリ波を上下反転した逆方向時のノコギリ波とを生成する。
【0063】
エンコーダ逓倍回路100Aの移動方向検出回路200は、これらのノコギリ波をコンパレーション電圧と比較する。具体的には、順方向用コンパレータ60は、順方向時のノコギリ波と、当該ノコギリ波の上側頂点を捉える高い電圧とを比較する。逆方向用コンパレータ65は、逆方向時のノコギリ波と、当該ノコギリ波の下側頂点を捉える低い電圧とを比較する。
【0064】
順方向用コンパレータ60及び逆方向用コンパレータ65の出力は、OR回路64を介して、リングレジスタ駆動用のインパルスとして利用される。
【0065】
フリップフロップ74は、波形生成・遅延回路71から出力されるこれらのインパルスを利用することで、光学スケール20の移動方向を検出する。つまり、フリップフロップ74を利用することで、いずれのコンパレータがインパルスを出力しているのかを検出することができる。このように、移動方向検出回路200のフリップフロップ74は、順方向時のノコギリ波(出力信号)に基づくインパルスと、逆方向時のノコギリ波(順方向時のノコギリ波を反転した反転信号)に基づくインパルスとに基づき、光学スケール20の移動方向を検出し、検出した移動方向を示す検出信号200aを出力する。
【0066】
エンコーダ逓倍回路100Aは、検出信号200aを利用することで、各リングレジスタのデータシフトの方向を制御することができる。
【0067】
動作例(2):
エンコーダ逓倍回路100Aの逓倍信号出力部40は、検出信号200aに基づき、予め格納したデータを光学スケール20の移動方向にシフトすることで、逓倍後の信号を光学スケール20の移動方向に対応した順に出力する。
【0068】
逓倍信号出力部40は、出力されるべき期待値を、逓倍AB相生成用リングレジスタ40aに予め格納しておき、逓倍(補間)されたA相とB相の出力を異なるポートより出力する。逓倍信号出力部40は、他のリングレジスタと同様に、検出信号200aにより、データシフト方向を制御し、逓倍後のA相・B相信号を光学スケール20の移動方向に対応した順番で出力する。
【0069】
動作例(3):
移動方向検出回路200は、エンコーダ逓倍回路100Aが起動してから光学スケール20が移動を開始するまでの間に、パルス出力部30に含まれる全てのリングレジスタに格納されるデータのレジスタ内位置を、光学スケール20の位置に設定する。
【0070】
各リングレジスタにおけるレジスタ内位置の初期設定は、順方向用コンパレータ60の入力をVSSに設定し、逆方向用コンパレータ65の入力をVDDに設定し、システム起動後の異なる時刻のわずかな時間だけ設定する。
【0071】
また、前述の合成されたインパルス列を各コンパレータの出力の代わりとして帰還させることにより、順方向用スイッチ63、逆方向用スイッチ70、OR回路64、波形生成・遅延回路71、遅延回路72、及び遅延回路73を含む系が発振する。そして、光学スケール20の位置と各リングレジスタに格納されるデータのレジスタ内位置とが一致した点で、同発振は停止する。以後、エンコーダ逓倍回路100Aは、光学スケール20の移動に伴った動作をする。なお、図9に示す構成例では、光学スケール20の周期の4逓倍波が出力される。ただし、初期化期間のインパルス列及び逓倍出力は本来のスケール動作と誤認されるため、使用を禁止することが望ましい。
【0072】
なお、本開示の実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路100Aは、回転電機の回転に応じて駆動する光学スケール20の移動量を検出するエンコーダに適用してよい。また、本開示の実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路100Aは、ロータリーエンコーダ、及びリニアエンコーダにも適用可能である。
【0073】
なお、本開示の実施形態にかかるエンコーダ逓倍回路100Aは、逓倍数が4のエンコーダに限定されず、逓倍数が4のn倍(nは1以上の自然数)の回路として構成してもよい。例えば、図示しないが、相間ノコギリ波生成回路5の抵抗アレイ(抵抗部53)とスイッチアレイ(スイッチ部54)の数を増やし、更にそれに伴い、各リングレジスタのビット数を増やすことで、逓倍数を増やしたエンコーダー逓倍回路100Aを構成してよい。具体的には、エンコーダ逓倍回路100Aは、特定数のn倍(nは2以上の自然数)の複数のスイッチ部54と、特性数のn倍(nは2以上の自然数)の複数の抵抗部53と、ビット数を特定数よりも増やしたリングレジスタ(第1リングレジスタ4、第2リングレジスタ6、及び逓倍AB相生成用リングレジスタ40a)とを備える。特定数は、例えは逓倍数(=4)と解釈してよい。この構成により、逓倍数を増加させることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 フォトダイオードアレー
2 I-V変換器
3 波形切り出し回路
4 第1リングレジスタ
5 相間ノコギリ波生成回路
5A 相間ノコギリ波生成回路
6 第2リングレジスタ
7 コンパレータ
8 コンパレーション電圧源
9 遅延回路
10 LED光源
20 光学スケール
30 パルス出力部
40 逓倍信号出力部
40a 逓倍AB相生成用リングレジスタ
51a 第1入力端子
51b 第2入力端子
52 出力端子
53 抵抗部
53A 抵抗部
54 スイッチ部
54A スイッチ部
60 順方向用コンパレータ
61 順方向用コンパレーション電圧源
62 順方向用スイッチ
63 順方向用スイッチ
64 OR回路
65 逆方向用コンパレータ
66 逆方向用コンパレーション電圧源
67 逆方向用スイッチ
68 起動時初期設定パルス発生回路
69 起動時初期設定パルス発生回路
70 逆方向用スイッチ
71 波形生成・遅延回路
72 遅延回路
73 遅延回路
74 フリップフロップ
100 エンコーダ逓倍回路
100A エンコーダ逓倍回路
200 移動方向検出回路
200a 検出信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13