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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013172
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】室内壁紙用塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 131/04 20060101AFI20240124BHJP
   C09D 129/14 20060101ALI20240124BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20240124BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240124BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C09D131/04
C09D129/14
C09D129/04
C09D7/20
A61L9/01 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022125107
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】522311185
【氏名又は名称】ハードプロテクト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510219198
【氏名又は名称】川島 徳道
(72)【発明者】
【氏名】川島 徳道
【テーマコード(参考)】
4C180
4J038
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180BB08
4C180CC01
4C180EB21Y
4C180EB22Y
4C180EB23Y
4C180EB41X
4C180EC01
4C180LL20
4J038CE021
4J038CE061
4J038CF021
4J038GA12
4J038GA15
4J038JA03
4J038JA17
4J038JA18
4J038JC43
4J038KA09
4J038NA27
4J038PB05
4J038PB06
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】撥水性の壁紙に対しても高い密着性を得ることができ、しかも大気中のVOCを効果的に除去することの可能な室内壁紙用塗料を提供する。
【解決手段】本発明の一実施例にかかる室内壁紙用塗料は、大気中のVOCを除去するためのフェノール類と、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)とがエタノールに溶解された塗料である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中のVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)を除去するためのフェノール類と、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)とがエタノールに溶解された室内壁紙用塗料。
【請求項2】
前記フェノール類は、ポリフェノールである
請求項1に記載の室内壁紙用塗料。
【請求項3】
前記ポリフェノールは、柿の葉、イタドリまたはヨモギの抽出液から得られたポリフェノールである
請求項2に記載の室内壁紙用塗料。
【請求項4】
シリコン系もしくはフッ素系の界面活性剤が前記エタノールに溶解されている
請求項1に記載の室内壁紙用塗料。
【請求項5】
当該室内壁紙用塗料において、
前記樹脂の含有量が10重量%(=a重量%)以下であり、
前記界面活性剤が1重量%(=b重量%)以下であり、
前記エタノールの含有量が90重量%(=c重量%)以上であり、
前記フェノール類の含有量が(100-a-b-c)重量%となっている
請求項4に記載の室内壁紙用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中のVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)を除去することの可能な室内壁紙用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の住宅の高気密化に伴い、家具や建材から放出されるホルムアルデヒドなどのVOCによるシックハウス症候群が問題になっている。VOCを除去する方法としては、例えば、酸化チタン光触媒が知られている。酸化チタン光触媒は、紫外光の照射により活性酸素を発生させ、VOCを分解することが可能である。近年では、硫黄ドープ酸化チタン、銅担持酸化チタン、ペルオキソチタン系の可視光対応型の光触媒も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-262941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、室内においては、光の無い(無光)状態においてVOCの除去を求められることが多い。さらに、室内に使用される塗料は、壁紙等の上にコーティングされることが多い。しかし、最近では、汚れ防止のため、撥水性の壁紙が用いられることが多く、その一方で、通常の光触媒では、水系塗料が主流となっていることから、光触媒を含む塗料では、壁紙との密着性が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、撥水性の壁紙に対しても高い密着性を得ることができ、しかも大気中のVOCを効果的に除去することの可能な室内壁紙用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例にかかる室内壁紙用塗料は、大気中のVOCを除去するためのフェノール類と、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)とがエタノールに溶解された塗料である。この塗料に含まれるフェノール類は、例えば、ポリフェノールである。このポリフェノールは、例えば、柿の葉、イタドリまたはヨモギの抽出液から得られたポリフェノールである。この塗料は、さらに、シリコン系もしくはフッ素系の界面活性剤がエタノールに溶解された塗料であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施例にかかる室内壁紙用塗料では、フェノール類と、上述の樹脂とをエタノールに溶解させることにより塗料が形成されている。これにより、フェノール類によって、大気中のVOCを除去することができ、さらに、上述の樹脂によって、撥水性の壁紙に対して高い密着性を得ることができる。
【0008】
また、本発明において、フェノール類がポリフェノールである場合には、大気中のVOCをより効果的に除去することができる。また、本発明において、ポリフェノールが、柿の葉、イタドリまたはヨモギの抽出液から得られたポリフェノールである場合には、抽出液自体が自然由来のものであることから、人体に対して安全性の高い塗料を提供することができる。また、本発明において、シリコン系もしくはフッ素系の界面活性剤がエタノール(溶媒)に溶解されている場合には、塗料をローラーコーティングで容易に塗布することができる。また、本発明において、VOCがホルムアルデヒドである場合には、大気中のホルムアルデヒドをより効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ホルムアルデヒドとフェノール類の置換反応を表す図である。
図2】柿の葉から抽出されるポリフェノール(柿カテキン)の組成式を表す図である。
図3】イタドリから抽出されるポリフェノール(ネオクロロゲン酸)の組成式を表す図である。
図4】ヨモギから抽出されるポリフェノールの組成式を表す図である。
図5】ホルムアルデヒドの実験結果を表す図である。
図6図5の実験結果をグラフで表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施例について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は本発明の一実施例であって、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0011】
<1.VOC除去および殺菌のメカニズム>
本発明では、VOCを除去する方法として、VOCにおけるフェノール類との置換反応が利用される。本発明では、例えば、図1に示したように、ホルムアルデヒドがフェノール類との置換反応により除去される。この置換反応は、酸性、アルカリ性のいずれの条件でも進行する。さらに、ポリフェノールは、フェノール性水酸基のプロトン移動により、マイナスの電荷を持つことから、プラスの電荷を持つ細菌の膜成分に結合後、膜傷害を引き起こし、殺菌作用を示す。
【0012】
フェノール類としては、例えば、ポリフェノールが挙げられる。ポリフェノールとしては、例えば、アントシアニン、カテキン、カカオポリフェノール、ルチン、フェルラ酸、クロロゲン酸、クルクミン、ショウガオール等が挙げられる。ポリフェノールは、植物抽出液からも得られる。ポリフェノールが得られる植物抽出液としては、例えば、柿の葉、イタドリまたはヨモギの抽出液が挙げられる。柿の葉、イタドリおよびヨモギの抽出液に含まれる代表的なポリフェノールの組成式を図2図3図4に示す。
【0013】
<2.実施例>
[構成]
本発明の一実施例にかかる室内壁紙用塗料の構成について説明する。本実施例にかかる室内壁紙用塗料(以下、単に「本実施例にかかる塗料」と称する。)は、大気中のVOC(例えばホルムアルデヒド)を除去するためのフェノール類を含む。本実施例にかかる塗料は、ホルムアルデヒドの様なVOCのフェノール類との置換反応を利用して、大気中のVOCを除去する。
【0014】
本実施例にかかる塗料に含まれるフェノール類としては、例えば、ポリフェノールが挙げられる。ポリフェノールは、大気中のVOCをより効果的に除去することができる。本実施例にかかる塗料に含まれるポリフェノールとしては、例えば、アントシアニン、カテキン、カカオポリフェノール、ルチン、フェルラ酸、クロロゲン酸、クルクミン、ショウガオール等が挙げられる。ルチンは、水に溶解し難い難溶性ポリフェノールの1つであり、エタノールなどのアルコールには溶解する。本実施例にかかる塗料に含まれるフェノール類が、ルチンのような難溶性ポリフェノールであってもよい。
【0015】
本実施例にかかる塗料は、植物抽出液から得られたポリフェノールを含むことが好ましい。本実施例にかかる塗料は、例えば、柿の葉、イタドリまたはヨモギの抽出液から得られたポリフェノールを含むことが好ましい。ポリフェノールが植物抽出液から得られたものである場合、植物抽出液自体が自然由来のものであることから、植物抽出液から得られたポリフェノールを、VOCを除去する材料として用いることにより、人体に対して安全性の高い塗料を提供することができる。
【0016】
本実施例にかかる塗料に含まれるフェノール類が大気中のVOCと反応するためには、フェノール類が本実施例にかかる塗料に溶解し、本実施例にかかる塗料の表面で大気中のVOCと接触することが必要である。さらに、本実施例にかかる塗料は、撥水性の壁紙に対しても高い密着性を有することが必要である。撥水性の壁紙の表面には、例えば、フッ素加工が施されていることが多い。壁紙用塗料として市販されている水溶性アクリル樹脂やウレタン樹脂の塗料は、撥水性の壁紙の表面に接着しない。
【0017】
「フェノール類が本実施例にかかる塗料に溶解し、本実施例にかかる塗料の表面で大気中のVOCと接触すること」と、「本実施例にかかる塗料が撥水性の壁紙に対しても高い密着性を有すること」とを両立させるために、本実施例にかかる塗料は、エタノールを溶媒として含む。エタノールとしては、例えば、工業用アルコール、変性エチルアルコール等も用いられる。
【0018】
そして、本実施例にかかる塗料において、フェノール類と、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)とがエタノール(溶媒)に溶解されている。アルキルアセタール化ポリビニルアルコールは、撥水性の壁紙に対して極めて高い密着性を有する。
【0019】
ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールは、水に対して不溶であり、エタノールに対しては容易に溶解する。本実施例にかかる塗料では、フェノール類と、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)とをともに溶解させるための溶媒として、エタノールが用いられている。
【0020】
本実施例にかかる塗料をローラーコーティングで塗布することを想定した場合、本実施例にかかる塗料は、ローラーコーティングに適した粘度および接着性を有することが好ましい。本実施例にかかる塗料に対してそのような粘度および接着性を持たせるためには、本実施例にかかる塗料は、シリコン系やフッ素系の界面活性剤を微量含むことが好ましい。本実施例にかかる塗料において、シリコン系やフッ素系の界面活性剤がエタノール(溶媒)に溶解されている。フッ素系の界面活性剤としては、例えば、表面張力の低いパーフルオロアルキル化合物が低粘度の塗料に適している。本実施例にかかる塗料では、フェノール類、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)、および界面活性剤を全て溶解させるための溶媒として、エタノールが用いられている。
【0021】
本実施例にかかる塗料は、いわゆる低粘度塗料である。本実施例にかかる塗料において、上述の樹脂が10重量%(=a重量%)以下含まれており、上述の界面活性剤が1重量%(=b重量%)以下含まれており、エタノール(溶媒)が90重量%(=c重量%)以上含まれており、上述のフェノール類が(100-a-b-c)重量%含まれている。本実施例にかかる塗料において、このような配合としたのは、塗布適正とコストを考慮したためである。上述の樹脂の含有量が多すぎると、本実施例にかかる塗料の粘度が上昇し、塗布厚が厚くなってしまう。その結果、塗布適正が悪くなり、コストが上昇してしまう。界面活性剤についても、価格が高価であるので、できるだけ少量にして、コスト上昇を抑えている。なお、エタノールは引火性を有するので、エタノールの濃度が95%以上となっている溶液を噴霧することは避ける必要がある。従って、本実施例にかかる塗料を、例えばローラーコーティング等で塗布することは、エタノールの引火性を考慮した適切な方法であると言える。
【0022】
次に、本実施例にかかる塗料(上述の配合で形成された塗料)に対して行った実験の結果について説明する。
【0023】
本実施例にかかる塗料におけるホルムアルデヒド除去効果を図5図6に示した。図5図6において、実施例とは、初期のホルムアルデヒド濃度が約40ppmとなっている密閉空間内の壁に、本実施例にかかる塗料を塗布した場合を指しており、空試験とは、上述の密閉空間内の壁に何も塗布しなかった場合を指している。図5図6から、実施例では、密閉空間内のホルムアルデヒドを劇的に除去することができていることがわかる。また、図5図6から、実施例では、ホルムアルデヒドが除去された後、継続して、ホルムアルデヒドの濃度が一定値を維持していることもわかる。
【0024】
なお、本実施例にかかる塗料に対して、経口毒性試験と、皮膚一次刺激性試験とを行ったが、これらの試験の結果、本実施例にかかる塗料には全く問題が無いことがわかった。さらに、本実施例にかかる塗料には、黄色ブドウ球菌や大腸菌等に対する抗菌特性が認められた。
【0025】
[効果]
次に、本実施例にかかる塗料の効果について説明する。
【0026】
本実施例にかかる塗料では、フェノール類と、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)とをエタノールに溶解させることにより、塗料が形成されている。このように、本実施例にかかる塗料では、水に対して難溶であるフェノール類が、樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびアルキルアセタール化ポリビニルアルコールのうち少なくとも1つの樹脂)とともに溶媒(エタノール)に溶解されている。これにより、フェノール類は、塗料の表面で大気中のVOCと接触することができるので、フェノール類によって、大気中のVOCを除去することができる。さらに、上述の樹脂によって、撥水性の壁紙に対して高い密着性を得ることができる。
【0027】
また、本実施例にかかる塗料において、フェノール類がポリフェノールである場合には、大気中のVOCをより効果的に除去することができる。また、本実施例にかかる塗料において、ポリフェノールが、柿の葉、イタドリまたはヨモギの抽出液から得られたポリフェノールである場合には、抽出液自体が自然由来のものであることから、人体に対して安全性の高い塗料を提供することができる。また、本実施例にかかる塗料において、シリコン系もしくはフッ素系の界面活性剤がエタノールに溶解されている場合には、塗料をローラーコーティングで容易に塗布することができる。
【0028】
また、本実施例にかかる塗料において、上述の樹脂が10重量%(=a重量%)以下含まれており、上述の界面活性剤が1重量%(=b重量%)以下含まれており、エタノール(溶媒)が90重量%(=c重量%)以上含まれており、上述のフェノール類が(100-a-b-c)重量%含まれていることにより、塗布適正とコストを最適にすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6