(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131720
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】道床安定剤
(51)【国際特許分類】
E01B 37/00 20060101AFI20240920BHJP
E01B 1/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E01B37/00 B
E01B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042152
(22)【出願日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行者名:公益社団法人土木学会、刊行物名:令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会講演概要、該当頁:第VI部門 軌道保守(5)VI-432頁、頒布日:令和4年8月1日 (2)令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会、令和4年9月15日
(71)【出願人】
【識別番号】595006762
【氏名又は名称】株式会社アレン
(71)【出願人】
【識別番号】000101477
【氏名又は名称】アトミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小尾 浩一
(72)【発明者】
【氏名】林 哲史
(72)【発明者】
【氏名】野口 匡史
(72)【発明者】
【氏名】新津 健太
【テーマコード(参考)】
2D056
2D057
【Fターム(参考)】
2D056AA03
2D056AA09
2D057BA33
2D057CB02
(57)【要約】
【課題】道床安定剤において、取り扱いが容易であって且つ、環境及び作業員等にかかる負荷を抑制する。
【解決手段】バラスト式軌道の道床に散布されてバラストを相互に固着させる道床安定剤は、アクリル樹脂を生成するべく、アクリル酸エステル単量体、又はメタクリル酸エステル単量体の少なくとも一方の乳化重合により得られたポリマー粒子を含有する水性アクリルエマルジョンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト式軌道の道床に散布されてバラストを相互に固着させる道床安定剤であって、
アクリル樹脂を生成するべく、アクリル酸エステル単量体、又はメタクリル酸エステル単量体の少なくとも一方の乳化重合により得られたポリマー粒子を含有する水性アクリルエマルジョンである、道床安定剤。
【請求項2】
前記アクリル樹脂の含有量は、40重量%~60重量%の範囲内である請求項1に記載の道床安定剤。
【請求項3】
造膜助剤を更に含有し、
当該道床安定剤の最低造膜温度が10℃未満である請求項2に記載の道床安定剤。
【請求項4】
当該道床安定剤の最低造膜温度が0℃以上且つ5℃以下である請求項3に記載の道床安定剤。
【請求項5】
増粘剤を更に含有し、
当該道床安定剤の粘度が300mPa・s未満である請求項4に記載の道床安定剤。
【請求項6】
当該道床安定剤の粘度が50mPa・s以上且つ250mPa・s以下である請求項5に記載の道床安定剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道のバラスト式軌道に用いられる道床安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
枕木及びバラストにより道床が構成されるバラスト式軌道では、道床の横抵抗力を高めるために、バラストの突き固め作業の後に道床安定剤を散布、固化させることにより、バラスト同士を固結させている。バラスト同士が道床安定剤によって固結されることによってバラストの飛散も防止される。
【0003】
道床安定剤には、ポリウレタンポリマーを生成する一液湿気硬化型のものが公知である(特許文献1参照)。ポリウレタンポリマーは、道床安定剤に含まれるジイソシアネート及びポリオールが、水と反応することにより生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジイソシアネート及びポリオールを含む道床安定剤の取り扱いは煩雑である。例えばジイソシアネート及びポリオールは消防法では危険物第4類に分類されている。またジイソシアネート及びポリオールが水と反応するとき、二酸化炭素が生成される。そのため、保管には湿気及び水分の混入に注意する必要がある。
【0006】
ポリウレタンポリマーを生成する一液湿気硬化型の道床安定剤では、トルエン又はキシレン等の揮発性を有する有機溶剤が使用される。そのため、道床安定剤の散布後、有機溶剤の揮散によって大気汚染につながる虞がある。また揮散した有機溶剤の一部が作業者等に吸引された場合、作業者等の身体に悪影響を及ぼす虞がある。また、現状の一液湿気硬化型の道床安定剤のような化学石油由来製品を精製する際には二酸化炭素が大量に排出されるなどの環境問題が懸念される。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、道床安定剤において、取り扱いが容易であって且つ、環境及び作業員等にかかる負荷を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、バラスト式軌道の道床に散布されてバラストを相互に固着させる道床安定剤であって、アクリル樹脂を生成するべく、アクリル酸エステル単量体、又はメタクリル酸エステル単量体の少なくとも一方の乳化重合により得られたポリマー粒子を含有する水性アクリルエマルジョンである。
【0009】
この態様によれば、溶剤は水である。したがって、取り扱いが容易であって且つ、環境及び作業員等にかかる負荷が抑制される。
【0010】
上記の態様において、前記アクリル樹脂の含有量は、40重量%~60重量%の範囲内であるとよい。
【0011】
バラスト式軌道では、定められた所定の期間の後に、バラストを突き崩して保守する必要がある。この態様によれば、バラスト同士を十分に固結する一方で、バラストを突き崩すことができる。
【0012】
上記の態様において、当該道床安定剤のガラス転移温度が-5℃~0℃の範囲内にあるとよい。
【0013】
この態様によれば、例えば夏場などの高気温下においても、アクリル樹脂が軟化せず、バラスト同士を固結できる。
【0014】
上記の態様において、当該道床安定剤は、造膜助剤を更に含有し、当該道床安定剤の最低造膜温度が10℃未満であるとよい。
【0015】
この態様によれば、低気温の環境下においても、塗膜が形成される。即ち、バラスト同士が十分に固結される。
【0016】
上記の態様において、より好ましくは、当該道床安定剤の最低造膜温度が0℃以上且つ5℃以下であるとよい。
【0017】
この態様によれば、例えば冬場などの低気温の環境下においても、塗膜が形成される。即ち、バラスト同士が十分に固結される。
【0018】
上記の態様において、該道床安定剤は増粘剤を更に含有し、当該道床安定剤の粘度が300mPa・s未満であるとよい。
【0019】
この態様によれば、簡素な散布器でも散布が可能であって且つ、散布後はバラスト表面にアクリル樹脂が適量残る。
【0020】
上記の態様において、より好ましくは、当該道床安定剤の粘度が50mPa・s以上且つ250mPa・s以下であるとよい。
【0021】
この態様によれば、簡素な散布器でも散布が可能であって且つ、散布後はバラスト表面にアクリル樹脂が適量残る。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、道床安定剤において、取り扱いが容易であって且つ、環境及び作業員等にかかる負荷を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明の道床安定剤は、(メタ)アクリル酸エステル単量体の乳化重合により得られたポリマー粒子を含有する水性アクリルエマルジョンである。本実施形態における(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル単量体及び、メタクリル酸エステル単量体を指す。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及び、(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートを含む。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリル酸と炭素数が1~18の脂肪族1価アルコールとの脱水縮合反応によって生成される。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルなどが挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸と炭素数が1~18の脂肪族2価アルコールとの脱水縮合反応によって生成される。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例には、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
【0028】
(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸とエチレンオキシドの数が1~100個のアルコールエトキシレートとの脱水縮合反応によって生成される。(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートの具体例には、(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールなどが挙げられる。
【0029】
なお他の実施形態では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは上記に限定されなくてよい。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル及び、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどであってよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステルは、乳化重合法により、水性アクリルエマルジョンを形成する。乳化重合法は公知の方法であってよく、例えば(メタ)アクリル酸エステル、界面活性剤及び重合開始剤などの混合物を、予め所定量の水の入った反応容器の中に一括して投入し、(メタ)アクリル酸エステルを乳化重合させるとよい。重合開始剤により、(メタ)アクリル酸エステルの炭素-炭素二重結合のラジカル重合が開始される。(メタ)アクリル酸エステルの炭素-炭素二重結合のラジカル重合により、アクリル樹脂が生成される。生成されたアクリル樹脂は、界面活性剤によってポリマー粒子となり、水に懸濁する。これにより、水性アクリルエマルジョン、即ち道床安定剤が得られる。
【0031】
道床安定剤は、バラスト同士の固着力を確保する一方で、バラスト軌道の保守作業時に、マルチプルタイタンパによってバラストが突き崩される程度の脆弱性を有する必要がある。そのため、アクリル樹脂の含有量は、40重量%~60重量%の範囲内である。
【0032】
界面活性剤は、一方の側に設けられた親水基及び、他方の側に設けられた親油基を有する。水中において界面活性剤は、その親油基がアクリル樹脂に付着するように配置される。これにより、アクリル樹脂を内包しつつ、界面活性剤の親水基が外部を向くように配置されたポリマー粒子が形成される。界面活性剤は、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩などのアニオン型界面活性剤であってよい。また界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどの非反応性ノニオン型界面活性剤であってもよい。
【0033】
重合開始剤は、熱又は還元性物質などにより、それ自身がラジカル分解することで(メタ)アクリル酸エステルのラジカル重合を開始させる。重合開始剤の具体例には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、tert-ブチルハイドパーオキサイド及び、クメンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
【0034】
道床安定剤に含まれるアクリル樹脂のガラス転移温度(以下Tg)は、TgはFOXの式(下式(1))を用いて算出される。算出されたTgの値は参考値であるが、-5℃~0℃の範囲内であることが好ましい。
(数1)
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)/100 ・・・(1)
ただし、Wn:単量体nの質量%、Tgn:単量体nのホモポリマーのTgである。計算に使用する各単量体のホモポリマーのTgは、例えばポリマーハンドブック(JhonWilley&Sons)、塗料用合成樹脂入門などに記載されている。
【0035】
道床安定剤は、最低造膜温度(以下MFT)を10℃未満、より好ましくは0℃以上且つ5℃以下の範囲内にするための造膜助剤を更に含有する。MFTは、後述する塗膜の過程、特にポリマー粒子同士の変形及び融着が起こるべき温度の最低温度であって、典型的にはTgと略一致する。造膜助剤は、ポリマー粒子を軟化させることにより、ポリマー粒子に易変形性を付与する。これにより、MFTがTgと異なる温度に設定される。造膜助剤は、エチレングリコール、ジエチレングリコール等であってよい。
【0036】
道床安定剤は、じょうろ等の簡単な散布器でも散布が可能であり、且つ、十分な固着力を発揮する必要があるため、散布後はバラスト表面にアクリル樹脂が適量残るように、流動性を調整する必要がある。このため、増粘剤をポリウレタンプレポリマー合成樹脂に加えて粘度を300mPa・s未満、より好ましくは50mPa・s以上且つ250mPa・s以下の範囲内にあるように調整されている。道床安定剤の粘度が、50mPa・s以上且つ250mPa・s以下の範囲内であることによって、じょうろ等の簡単な散布器での散布が容易になり、且つバラスト表面への付着が良好になる。
【0037】
道床安定剤には、必要に応じて消泡剤、顔料、分散剤、チクソトロピック剤及び、光安定剤が添加されてよい。界面活性剤、重合開始剤、造膜助剤及び、増粘剤など、添加されるべき添加剤の含有量は、合計で略1重量%に設定した。
【0038】
道床安定剤は、バラスト式軌道の道床に散布された後、硬化することによってバラストを相互に固着させる。具体的には、道床安定剤がバラスト式軌道に散布されると、道床安定剤は、各バラストの表面を濡らしつつ、バラスト式軌道の内部に浸透していく。その後、MFT以上の環境下において道床安定剤の溶剤である水が蒸発することにより、各バラストが塗膜、即ちポリマー粒子同士の変形及び融着を経て、各バラスト表面に均一な膜が形成される。バラスト同士が当接する部分では、一方のバラストに塗膜された道床安定剤と、他方のバラストに塗膜された道床安定剤とが結合している。これにより、バラスト同士が固着する。
【0039】
以下、本発明の道床安定剤の実施例を挙げて詳細に説明する。具体的には、物性の異なる7つの道床安定剤を挙げているが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【0040】
各道床安定剤の物性を表1に示す。粘度は、JIS Z 8803に記載されている液体の粘度測定方法に準拠して測定された。
【0041】
【0042】
上記各道床安定剤が散布及び硬化したバラスト式軌道の性能の評価を行った。以下、試験は試験者によって行われた。
【0043】
<圧縮強度>
各道床安定剤を、対応する珪砂に混合した後、各道床安定剤を硬化させることによって対応する立方体形状をなす供試体を作成した。供試体の寸法は、JIS K 5665を参考にした。次に圧縮試験機によって、各供試体に鉛直方向の下方に作用する荷重を与えた。各供試体の縦変位量が2mmとなる時点の応力を測定した。このときの結果を表2に示す。
(判定基準)◎:3N/mm2以上、○:2N/mm2以上3N/mm2未満、△:1N/mm2以上2N/mm2未満、×:1N/mm2未満
【0044】
<散布試験>
熱による軟化を確認するべく、各道床安定剤を、夏場にて対応する道床に散布した。このとき、各道床安定剤はじょうろを用いて散布され、その散布量は2.0kg/m2であった。散布後、各道床安定剤が硬化した後、バラストの固着状況を、試験者の手による感触にて評価した。このときの結果を表2に示す。
(判定基準)◎:固着良好、○:やや軟らかい、△:軟らかい、×:固着せず
【0045】
<耐水試験>
上記散布試験に加え、降雨等による各道床安定剤の変質の有無を視認した。このときの結果を表2に示す。
(判定基準)◎:ほぼ変化なし、○:わずかに白化、△:部分的に白化、×:全体的に白化
【0046】
<浸透深さ>
各道床安定剤を、対応する道床に散布した。各道床安定剤はじょうろを用いて散布され、その散布量は2.0kg/m2であった。散布後、各道床安定剤が硬化した後、各道床安定剤が浸透した道床の部分が視認できる程度まで各道床の一部を掘り起こした。次に、各道床の表面から各道床安定剤が浸透した道床の部分までの鉛直方向の長さ(深さ)を定規などにより測定した。このときの結果を表2に示す。
(判定基準)◎:15cm以上20cm未満、○:20cm以上、△:10cm以上15cm未満、×:10cm未満
【0047】
<引張強度>
各道床安定剤を、対応する道床に散布した。各道床安定剤はじょうろを用いて散布され、その散布量は2.0kg/m2であった。散布後、各道床安定剤が硬化した後、対応する道床の1つのバラストの上に治具を接着した。次にばねばかりを治具に連結した後、ばねばかりを略鉛直方向の上方に引っ張った。治具に接着されたバラストと、他のバラストとの固着が解除されたときの値を測定した。このときの結果を表2に示す。
(判定基準)◎:30kgf以上、○:20kgf以上30kgf未満、△:10kgf以上20kgf未満、×:10kgf未満
【0048】
<道床横抵抗力>
道床横抵抗力では、実施例1、実施例3、実施例4及び、実施例5の道床安定剤を用いて評価を行った。各道床安定剤が散布されないバラスト式軌道及び、各道床安定剤の散布した後、各道床安定剤が硬化した対応するバラスト式軌道の、道床横抵抗力を測定した。具体的には、道床抵抗力測定器(製品名:デジタル式簡易マクラギ抵抗測定器、製品番号:KS6240A、(株)カネコ製)を用いて、枕木1本引き試験を行った。枕木の横変位量が2mmとなる時点の抵抗力が、枕木の横抵抗力に対応する。枕木1本引き試験を3箇所にて行い、枕木の横抵抗力の平均値を求めた後、下式(2)によって道床横抵抗力が算出された。
(数2)
横抵抗力=0.7×P×n/50 ・・・(2)
ただし、P:枕木の横抵抗力の平均、n:25mあたりの枕木の本数、である。各道床安定剤が硬化した対応するバラスト式軌道の横抵抗力と、各道床安定剤が散布されないバラスト式軌道の横抵抗力との比率を求めた。その結果を表2に示す。
(判定基準)◎:130%以上、×:130%未満
【0049】
<6か月経過後の道床横抵抗力>
上記各道床安定剤を散布してから6か月が経過したときの、各バラスト式軌道の道床横抵抗力を測定した。測定方法は、上記道床横抵抗力の測定と同様であった。各道床安定剤を散布してから6か月が経過したときの対応するバラスト式軌道の道床横抵抗力と、各道床安定剤が散布されないバラスト式軌道の横抵抗力との比率を求めた。その結果を表2に示す。
(判定基準)◎:130%以上、×:130%未満
【0050】
<道床安定剤の使用可否>
上記バラスト式軌道の性能の結果に基づいて、道床安定剤の使用可否について評価を行った。
(判定基準)◎:使用可能、○:使用可能であるが、好ましくない、×:使用不可
【0051】
【0052】
表2の結果から、実施例3及び実施例4が、道床横抵抗力を確保できる一方で、バールによってバラストの固着が容易に崩されることとなった。また、夏場の気温による軟化及び、降雨等による各道床安定剤の変質は確認されなかった。
【0053】
このように、本発明の道床安定剤は水性アクリルエマルジョンであって、溶剤は水である。したがって、溶剤である水が蒸発するため、本発明の道床安定剤の取り扱いが容易であって且つ、環境及び作業員等にかかる負荷が抑制される。
【0054】
道床安定剤の加熱残分が、40重量%~60重量%に設定されている。これにより、バラスト同士を十分に固結する一方で、バラスト軌道の保守作業時に、マルチプルタイタンパによってバラストを突き崩すことができる。
【0055】
道床安定剤のガラス転移温度(以下Tg)は、-5℃~0℃の範囲内である。これにより、例えば夏場などの高気温下においても、アクリル樹脂が軟化することなく、バラスト同士が固結される。
【0056】
道床安定剤は、造膜助剤を更に含有し、当該道床安定剤の最低造膜温度が10℃未満、より好ましくは0℃以上且つ5℃以下の範囲内にある。これによって冬場などの低気温下においても、塗膜が形成される。即ち、バラスト同士が十分に固結される。
【0057】
道床安定剤は増粘剤を更に含有し、道床安定剤の粘度が300mPa・s未満、より好ましくは50mPa・s以上且つ250mPa・s以下の範囲内にある。これにより、じょうろなどの簡素な散布器でも散布が可能であって且つ、散布後はバラスト表面にアクリル樹脂が適量残る。
【0058】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。各組成の具体的構成や含有比率等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。