(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131742
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 25/08 20060101AFI20240920BHJP
F16C 33/60 20060101ALI20240920BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20240920BHJP
F16C 35/12 20060101ALI20240920BHJP
F16C 35/06 20060101ALI20240920BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240920BHJP
F03D 80/70 20160101ALI20240920BHJP
F03D 80/50 20160101ALI20240920BHJP
【FI】
F16C25/08 Z
F16C33/60
F16C19/36
F16C35/12
F16C35/06 Z
F16C41/00
F03D80/70
F03D80/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042183
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】上野 正典
(72)【発明者】
【氏名】山田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】顔 偉達
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼古 一将
【テーマコード(参考)】
3H178
3J012
3J117
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB35
3H178BB79
3H178DD08X
3J012AB04
3J012BB03
3J012CB01
3J012FB12
3J012HB02
3J117AA05
3J117CA06
3J117DA01
3J217JA02
3J217JA14
3J217JA24
3J217JB07
3J217JB17
3J217JB25
3J217JB70
3J217JB84
3J217JB87
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA64
3J701FA41
3J701FA46
3J701FA48
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】メンテナンス時等における作業効率を高め、軸受予圧を正確に管理することができる軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受装置BAは、単列の円すいころ軸受1を軸方向に複数組み合わせた軸受装置である。各転がり軸受1は、それぞれ円周方向に複数分割され互いに連結された分割型であり、軸方向に組み合わせた複数の円すいころ軸受1,1の予圧を検知する予圧検知手段Ysを備えた。円すいころ軸受1,1は背面組み合わせとされ、背面組み合わせとされた複数の円すいころ軸受1,1に、予圧検知手段Ysにより定められた予圧が付与されている。複数の円すいころ軸受1,1のうちいずれか一方の円すいころ軸受1の内輪2を軸方向内方に押し込み、予圧検知手段Ysで検知される予圧を調整する予圧調整機構Pmを備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単列の転がり軸受を軸方向に複数組み合わせた軸受装置であって、
各転がり軸受は、それぞれ円周方向に複数分割され互いに連結された分割型であり、前記軸方向に組み合わせた複数の前記転がり軸受の予圧を検知する予圧検知手段を備えた軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受装置において、前記転がり軸受は円すいころ軸受であり、この円すいころ軸受が背面組み合わせとされ、背面組み合わせとされた複数の円すいころ軸受に、前記予圧検知手段により定められた予圧が付与された軸受装置。
【請求項3】
請求項2記載の軸受装置において、複数の前記円すいころ軸受のうちいずれか一方の円すいころ軸受の内輪を軸方向内方に押し込み、前記予圧検知手段で検知される予圧を調整する予圧調整機構を備えた軸受装置。
【請求項4】
請求項3に記載の軸受装置において、前記予圧調整機構は、前記内輪の背面に当接し軸方向に移動自在に主軸に支持される環状の端蓋部材と、この端蓋部材を介して前記内輪に軸方向の押圧力を与える押圧部材とを含む軸受装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の軸受装置において、前記予圧検知手段は複数の予圧測定センサを含み、軸方向一端側および他端側の前記円すいころ軸受の両方に、前記予圧測定センサが設けられている軸受装置。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載の軸受装置において、前記予圧検知手段は複数の予圧測定センサを含み、前記円すいころ軸受における内輪の各分割部分である内輪分割体に、前記予圧測定センサが設けられている軸受装置。
【請求項7】
請求項2または請求項3に記載の軸受装置において、前記予圧検知手段は複数の予圧測定センサを含み、前記円すいころ軸受における外輪の各分割部分である外輪分割体に、前記予圧測定センサが設けられている軸受装置。
【請求項8】
請求項2または請求項3に記載の軸受装置において、風力発電装置の主軸受に使用される軸受装置。
【請求項9】
請求項2または請求項3に記載の軸受装置において、円すいころ軸受の外径が1m以上である軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置に関し、例えば、風力発電装置の主軸受用の大型円すいころ軸受等に適用される技術に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置のロータ支持に使用される主軸受は、外径1m以上の超大型サイズが使用される。仮に主軸受に異常が発生した場合、軸、ハウジングの周辺部品を含めたユニットを、クレーン車を使用しユニット毎交換する。洋上に設置された風力発電装置においては、大型クレーン船を用いた大掛かりな工事となるため、多額のコストを要する。そのため、ナセル内で、軸受のみを交換することが望まれる。
【0003】
例えば、特許文献1には、風力発電装置主軸用の分割型複列円すいころ軸受および軸受・ハウジングの交換方法が開示されてる。特許文献1では、主軸等の3点取付システムまたは4点取付システムに使用される複列自動調心ころ軸受に代えて、分割型複列円すいころ軸受を使用する。これにより、軸受とハウジングの交換にクレーンが不要となり、ナセル上で軸受の交換ができる(同特許文献1の段落0006)。また、複列円すいころ軸受を使用することで、予圧を付与することができ、軸受寿命を改善し、ロータの径方向、軸方向の動きを抑制できる(同特許文献1の段落0006)。
【0004】
同特許文献1に開示される分割型複列円すいころ軸受は、複列内輪1個と外輪2個から構成される、所謂、内向き型複列円すいころ軸受である。特許文献1では、フロントエンドプレートのプレートボルトを締め込み外輪を軸方向に押し込むことで軸受予圧を付与できる(同特許文献1の段落0035)。フロントリテーナアセンブリまたはリアリテーナアセンブリの少なくともいずれか一方にシムを使用して軸受予圧を付与することもできる(同特許文献1の段落0035)。
【0005】
例えば、特許文献2には、特許文献1と同様、内向き型複列円すいころ軸受である風力発電装置主軸用の分割型複列円すいころ軸受の予圧付与作業中に、転動体を位置決めする治工具および同軸受を主軸に組み付けて予圧を付与する予圧付与方法について開示されている。
【0006】
転動体位置決め治具は、分割型複列円すいころ軸受への予圧付与作業において、ローラシーティングアクチュエータに取り付けたローラシーティングリングをバイアシングメンバにより軸受内部に押し込み、転動体を適正位置である軸受内輪つばに押し付ける(同特許文献2の段落0006)。
予圧付与方法は、転動体位置決め治具によって転動体を軸受内輪つばに押し付けている間に、クランピングプレートに取り付けたアジャスタブルクランピングメンバを調整して外輪を軸方向に締め込むことで軸受に予圧を付与する(同特許文献2の段落0007)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/007922号
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0362917号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、風力発電装置の大型化に伴い、主軸受も大型化する。このことから、2個の軸受間の作用点距離を伸ばすことで径方向寸法をコンパクト化にできる円すいころ軸受の背面組み合わせが使用されることが多い。
円すいころ軸受の背面組み合わせを主軸受に使用した風力発電装置においても、万一、主軸受の異常が生じた場合には、クレーンを必要とせず、ナセル上で軸受を交換できることが、メンテナンスコスト、作業労力を抑制する上で望ましい。このためフロント側、リア側の円すいころ軸受の内輪、外輪および保持器を周方向に2分割以上に分割することが考えられる。
【0009】
分割型円すいころ軸受の背面組合せにおいても、軸受寿命等、主軸受が十分な性能、耐久性を発揮するためには適切な軸受予圧を付与することが重要である。
特許文献1,2に開示された分割型複列円すいころ軸受では、外輪を軸方向に押し込むことで軸受予圧を付与することが開示されている。円すいころ軸受の背面組合せと、特許文献1,2に開示された内向き型複列円すいころ軸受とは軌道列の向き(円すいの向き)が異なり、外輪を軸方向に押し込むことでは軸受予圧を付与することはできない。
【0010】
軸受の過大予圧は軸受の過度の昇温等の不具合の原因になる可能性がある。過小予圧は予圧抜けによる軌道表面または転動体表面の異常の原因となる可能性がある。したがって、風力発電装置主軸用軸受には、主軸受の組立作業において適正な予圧が付与されるよう正確な調整が必要である。特許文献1,2には、予圧を付与するため、外輪を軸方向に押し込む方法について記載されているが、軸受予圧付与作業中の予圧の管理方法について具体的な方法については記載されていない。
【0011】
一般に、主軸受として、円すいころ軸受の背面組合せを使用した風力発電装置の製造時には、フロント側軸受とリア側軸受を主軸とハウジングに組付けた後、端ふたを主軸に取り付ける。その後、リア側軸受の内輪を軸方向に押し込むことで軸受予圧を付与する。具体的には、
図10のように、主軸50、主軸受51、ハウジング52を縦軸状態で組み立て、
図11のように、リア側内輪端面53と主軸端面54の段差寸法Xを測定する。この測定結果に応じて
図12のように、端ふた55のY寸法を適正寸法に加工することで、端ふた55を取り付けた際の
図11に示す内輪51aの押し込み量を調整し、適正な予圧を付与する。
【0012】
この方法は、風力発電装置の製造工場内においては可能であるが、メンテナンス時に分割型円すいころ軸受をナセル上で交換する場合には、設備、スペース上の制約から主軸50、主軸受51、ハウジング52を縦軸状態にすることは困難である。横軸状態ではリア側内輪端面53と主軸端面54の段差寸法Xの正確な測定ができず、適正な軸受予圧の付与ができないという課題がある。仮にナセル上でリア側内輪端面53と主軸端面54の段差寸法Xを測定することができても、前記段差寸法Xの測定後に、
図12のように工場で端ふた55を所定の寸法に加工し、ナセル上まで搬送し、その後、端ふた55の取付作業を行うのは、作業効率が悪いという課題がある。
【0013】
本発明の目的は、メンテナンス時等における作業効率を高め、軸受予圧を正確に管理することができる軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の軸受装置は、単列の転がり軸受を軸方向に複数組み合わせた軸受装置であって、
各転がり軸受は、それぞれ円周方向に複数分割され互いに連結された分割型であり、前記軸方向に組み合わせた複数の前記転がり軸受の予圧を検知する予圧検知手段を備えた。
【0015】
この構成によると、各転がり軸受がそれぞれ円周方向に複数分割され互いに連結された分割型であるため、メンテナンス時等において、大掛かりな設備を準備することなく所望の装置から転がり軸受のみを円滑に交換し得る。軸方向に組み合わせた複数の転がり軸受の予圧を検知する予圧検知手段を備えたため、軸受装置が縦軸状態、横軸状態のいずれの状態で使用される場合においても、軸受の予圧を正確に管理し得る。
【0016】
前記転がり軸受は円すいころ軸受であり、この円すいころ軸受が背面組み合わせとされ、背面組み合わせとされた複数の円すいころ軸受に、前記予圧検知手段により定められた予圧が付与されてもよい。
この明細書において、円すいころ軸受を、単に、軸受と称す場合がある。
前記定められた予圧は、設計等によって任意に定める予圧であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な予圧を求めて定められる。
この構成によると、円すいころ軸受が背面組み合わせとされたため、例えば、正面組合わせの円すいころ軸受よりもモーメントの負荷能力を高めることができる。このような背面組み合わせとされた複数の円すいころ軸受に、定められた予圧が付与されることで、軸受の剛性を高めることができる。
【0017】
複数の前記円すいころ軸受のうちいずれか一方の円すいころ軸受の内輪を軸方向内方に押し込み、前記予圧検知手段で検知される予圧を調整する予圧調整機構を備えてもよい。この場合、従来技術のように、工場で予め端ふたを加工し、装置内に搬送する等の作業工数を削減することができる。
【0018】
前記予圧調整機構は、前記内輪の背面に当接し軸方向に移動自在に主軸に支持される環状の端蓋部材と、この端蓋部材を介して前記内輪に軸方向の押圧力を与える押圧部材とを含んでもよい。この場合、端蓋部材は、内輪の背面に当接し、例えば、軸端面に形成されたねじ穴にボルト等の押圧部材で締結される。前記ボルトを締め付けることで、端蓋部材が前記内輪を軸方向に押し込み、複数の円すいころ軸受に予圧を付与することができる。
【0019】
前記予圧検知手段は複数の予圧測定センサを含み、軸方向一端側および他端側の前記円すいころ軸受の両方に、前記予圧測定センサが設けられていてもよい。この場合、軸方向一端側および他端側の円すいころ軸受の軸受予圧荷重を管理することができる。
【0020】
前記予圧検知手段は複数の予圧測定センサを含み、前記円すいころ軸受における内輪の各分割部分である内輪分割体に、前記予圧測定センサが設けられていてもよい。この場合、内輪の各分割部分の複数箇所に予圧測定センサを取り付けることが可能となる。したがって、前記分割部分に均等に軸受予圧が付与されていることを確認することができる。
【0021】
前記予圧検知手段は複数の予圧測定センサを含み、前記円すいころ軸受における外輪の各分割部分である外輪分割体に、前記予圧測定センサが設けられていてもよい。この場合、外輪の各分割部分の複数箇所に予圧測定センサを取り付けることが可能となる。したがって、前記分割部分に均等に軸受予圧が付与されていることを確認することができる。
【0022】
前記予圧検知手段は予圧測定センサを含み、前記円すいころ軸受における内輪と、この内輪を支持する主軸の肩部または前記内輪の背面に当接する部材と、の当接面以外の部分に前記予圧測定センサが設けられていてもよい。この場合、予圧を付与する当接面間に予圧測定センサが介在せず、当接面間に予圧測定センサを設けた構成よりも、軸受の周方向により均等に予圧を付与することができる。
【0023】
前記予圧検知手段は予圧測定センサを含み、前記円すいころ軸受における外輪と、この外輪が設置されるハウジングの肩部と、の当接面以外の部分に前記予圧測定センサが設けられていてもよい。この場合にも、予圧を付与する当接面間に予圧測定センサが介在せず、当接面間に予圧測定センサを設けた構成よりも、軸受の周方向に、より均等に予圧を付与することができる。
【0024】
前記円すいころ軸受の円すいころに前記予圧測定センサが設けられていてもよい。この場合、複数の円すいころにおいて、少なくとも一部の円すいころを中空ころとし、中空孔に予圧測定センサを設けることで、軸受予圧を検出し得る。
【0025】
前記円すいころ軸受の内輪を支持する主軸の軸方向ひずみを検出対象とする前記予圧測定センサが設けられていてもよい。
前記円すいころ軸受の外輪が設置されるハウジングの軸方向ひずみを検出対象とする前記予圧測定センサが設けられていてもよい。
これらの場合、当接面間に予圧測定センサを設けた構成よりも、軸受の周方向により均等に予圧を付与することができる。
【0026】
前記円すいころ軸受における前記内輪の背面に当接する環状の端蓋部材の軸方向ひずみを検出対象とする前記予圧測定センサが設けられていてもよい。この場合、環状の端蓋部材の軸方向ひずみを検出対象とするため、当接面間に予圧測定センサを設けた構成よりも、軸受の周方向により均等に予圧を付与することができる。さらに予圧測定センサを交換する作業効率の改善を図れる。
【0027】
風力発電装置の主軸受に使用される軸受装置であってもよい。この場合、風力発電装置の例えばナセル内において、メンテナンス時等における作業効率を高め、軸受予圧を正確に管理することができる。このため、大型クレーン等を用いる従来構造よりも軸受交換コストを低減することができるうえ、軸受の剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の軸受装置は、単列の転がり軸受を軸方向に複数組み合わせた軸受装置であって、各転がり軸受は、それぞれ円周方向に複数分割され互いに連結された分割型であり、軸方向に組み合わせた複数の前記転がり軸受の予圧を検知する予圧検知手段を備えた。このため、メンテナンス時等における作業効率を高め、軸受予圧を正確に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る軸受装置の縦断面図である。
【
図2】同軸受装置における円すいころ軸受の縦断面図である。
【
図3】同円すいころ軸受における内輪分割体または外輪分割体に、予圧測定センサを取り付けた例を示す概念図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る軸受装置の円すいころに予圧測定センサを内蔵した円すいころ軸受の縦断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る軸受装置の縦断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係る軸受装置の縦断面図である。
【
図7】本発明の第5の実施形態に係る軸受装置の縦断面図である。
【
図8】本発明の第6の実施形態に係る軸受装置の縦断面図である。
【
図9】第1~第5の実施形態のいずれかの軸受装置を風力発電装置の主軸受として用いた風力発電装置の断面図である。
【
図11】従来構造の軸受予圧方法を説明する要部の部分拡大断面図である。
【
図12】同軸受予圧を付与するための端ふたの加工部位を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る軸受装置を
図1ないし
図3と共に説明する。この軸受装置は、例えば、風力発電装置の主軸用の特に外径が1m以上の大型の転がり軸受に適用される。
【0031】
<軸受装置の概略構成>
図1のように、軸受装置BAは、単列の転がり軸受である円すいころ軸受1を軸方向に複数(この例では2個)組み合わせとした軸受装置である。軸受装置BAは、主軸26を支持する2個の円すいころ軸受1,1が、ハウジング24と主軸26との間に設置されている。この例では、主軸26として中空軸が適用されているが、用途、使用条件等によっては中実軸を適用することも可能である。
【0032】
この例の円すいころ軸受1,1は、背面組み合わせとされ、軸方向に所定間隔を隔てて配置されている。
図1左側の円すいころ軸受1がフロント側軸受であり、同図右側の円すいころ軸受1がリア側軸受である。軸受装置BAは、円すいころ軸受1,1と、各円すいころ軸受1の予圧を検知する予圧検知手段Ysと、円すいころ軸受1,1の予圧を調整する予圧調整機構Pmとを備える。各円すいころ軸受1は、それぞれ円周方向に複数分割され互いに連結された分割型である。
【0033】
<円すいころ軸受について>
図2のように、円すいころ軸受1は、内外輪2,3と、これら内外輪2,3間に介在される複数の円すいころ4と、これら円すいころ4を円周方向一定間隔おきに保持する保持器5とを備える。内輪2の外周面にテーパ状の軌道面2aが設けられ、外輪3の内周面にテーパ状の軌道面3aが設けられている。内外輪2,3および保持器5は、それぞれ円周方向に複数分割(この例では二分割)され互いに連結された、内外輪分割体2A,3A、保持器分割体5Aを含む。
【0034】
内輪2の外周面のうち、軌道面2aの小径側部分に隣接する部分には小鍔部6が設けられ、軌道面2aの大径側部分に隣接する部分には大鍔部7が設けられている。複数の円すいころ4は、内外輪2,3の軌道面2a,3a間に転動自在に配置され、各円すいころ4の外周面にテーパ状の転動面が形成されている。内外輪2,3および円すいころ4は、例えば、軸受鋼またはステンレス鋼等から成る。保持器5は、鋼製、黄銅製または樹脂製である。
【0035】
内外輪分割体2A,3Aの分割面である繋ぎ目は、いわゆるエッジ応力を低減するため、軸方向に平行ではなく、軸方向に対して定められた角度を有する。さらに内外輪分割体2A,3Aの前記繋ぎ目に、径方向に逃がし加工を施すことでエッジ応力を緩和し得る。前記定められた角度は、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な角度に定められる。
【0036】
<連結用リング>
内輪2の幅方向両端部における外周部には、例えば、図示外の連結用リングがそれぞれ設けられている。連結用リングは、円周方向に隣接する内輪分割体2Aを連結するためのものである。連結用リングは半円状に二分割された連結用リング分割体である。2個の連結用リング分割体をボルト等により締結することで全周にわたる連結用リングが構成される。内輪分割体2Aを主軸26(
図1)の外周面に保持するため、前記連結用リングが必要となる。内輪2の幅方向両端部における連結用リングのうち、小鍔部6側に位置する連結用リングは、大鍔部7側に位置する連結用リングよりも小径に形成されている。外輪3はハウジング24(
図1)に倣うため、外輪分割体3Aを連結するための締結用リングは不要である。
【0037】
<予圧検知手段等>
図1のように、背面組み合わせとされた2個の円すいころ軸受1,1に、予圧検知手段Ysにより定められた予圧が付与される。ハウジング24の内周面には、軸方向に所定間隔を隔てて段差面であるハウジング肩部8,8が形成されている。これらハウジング肩部8,8に、フロント側およびリア側の円すいころ軸受1,1における外輪背面3hが当接する。
【0038】
フロント側軸受1の内輪背面2hは、主軸肩部10等の軸方向端面に当接する。リア側軸受1の内輪背面2hは、後述する端蓋部材11に当接する。ハウジング24の軸方向先端部には、例えば、フロント側軸受1の外輪正面3sを押さえる押さえ蓋12が着脱自在に設けられている。
【0039】
予圧検知手段Ysは、複数の予圧測定センサ13を含む。フロント側である軸方向一端側およびリア側である他端側の円すいころ軸受1,1の両方に、予圧測定センサ13が設けられている。各円すいころ軸受1において、外輪背面3hとハウジング肩部8との当接面に予圧測定センサ13が介在するように設けられている。フロント側の円すいころ軸受1において、内輪背面2hと、この内輪背面2hに当接する主軸肩部10との当接面に予圧測定センサ13が介在するように設けられている。リア側の円すいころ軸受1において、内輪背面2hと、この内輪背面2hに当接する端蓋部材11との当接面に予圧測定センサ13が介在するように設けられている。
【0040】
予圧測定センサ13は、例えば、圧電素子を用いた荷重センサ、または磁歪式の荷重センサ等から成り、各当接面に作用する軸方向荷重をそれぞれ検出する。センサ出力である軸方向荷重は、軸受予圧に比例する。したがって、予圧測定センサ13で検知されるセンサ出力に基づいて、予圧調整機構Pmを用いて軸受予圧を調整し得る。
予圧測定センサ13の軸方向取付位置は、同
図1におけるA位置またはB位置、およびC位置またはD位置とするのが望ましい。このように予圧測定センサ13を取り付けることで、フロント側軸受1、リア側軸受1各々について軸受予圧荷重を管理し得る。
【0041】
図3のように、予圧測定センサ13は、各円すいころ軸受における内輪の各分割部分である内輪分割体2Aに設けられている。これと共に、予圧測定センサ13は、各円すいころ軸受における外輪の各分割部分である外輪分割体3Aに設けられている。より望ましくは、予圧測定センサ13を各分割部分の周方向複数箇所に取り付けるのがよい。このように予圧測定センサ13を各分割部分の周方向複数箇所に取り付けることで、周方向複数箇所のセンサ出力から分割部分に均等に軸受予圧が付与されていることを確認し得る。
【0042】
<予圧調整機構>
図1のように、予圧調整機構Pmは、一方の円すいころ軸受1であるリア側軸受の内輪2を軸方向内方に押し込み、予圧検知手段Ysで検知される予圧を調整する。予圧調整機構Pmは、環状の端蓋部材11と、この端蓋部材11を介して内輪2に軸方向の押圧力を与える押圧部材14とを含む。押圧部材14として、例えば、ボルトが適用される。端蓋部材11は、内輪背面2hに当接し主軸26の端面に形成されたねじ穴に前記ボルトで締結される。ボルトを締め付けることとで、端蓋部材11をがリア側軸受の内輪2を軸方向に押し込み、フロント側軸受、リア側軸受に予圧を付与することができる。端蓋部材11は、軸方向に移動自在に主軸26に支持される。
【0043】
<作用効果>
以上説明した軸受装置BAによると、各円すいころ軸受1がそれぞれ円周方向に複数分割され互いに連結された分割型であるため、メンテナンス時等において、大掛かりな設備を準備することなく所望の装置から円すいころ軸受1のみを円滑に交換し得る。軸方向に組み合わせた複数の円すいころ軸受1,1の予圧を検知する予圧検知手段Ysを備えたため、軸受装置BAが縦軸状態、横軸状態のいずれの状態で使用される場合においても、軸受1の予圧を正確に管理し得る。
【0044】
円すいころ軸受1,1が背面組み合わせとされたため、例えば、正面組合わせの円すいころ軸受よりもモーメントの負荷能力を高めることができる。このような背面組み合わせとされた複数の円すいころ軸受1,1に、定められた予圧が付与されることで、軸受1,1の剛性を高めることができる。したがって、軸受回転中に、内外輪2,3の軌道面と円すいころ4の滑りが生じない。複数の円すいころ軸受1,1のうちいずれか一方の円すいころ軸受1の内輪2を軸方向内方に押し込み、予圧検知手段Ysで検知される予圧を調整する予圧調整機構Pmを備えたため、従来技術のように、工場で予め端ふたを加工し、装置内に搬送する等の作業工数を削減することができる。
【0045】
予圧調整機構Pmは、内輪2の背面2hに当接し軸方向に移動自在に主軸26に支持される環状の端蓋部材11と、この端蓋部材11を介して内輪2に軸方向の押圧力を与える押圧部材14とを含む。このため、端蓋部材11は、内輪2の背面2hに当接し、軸端面に形成されたねじ穴にボルトである押圧部材14で締結される。前記ボルトを締め付けることで、端蓋部材11が内輪2を軸方向に押し込み、フロント側軸受1、リア側軸受1に予圧を付与することができる。
予圧検知手段Ysは複数の予圧測定センサ13を含み、軸方向一端側および他端側の円すいころ軸受1,1の両方に、予圧測定センサ13が設けられている。このため、軸方向一端側および他端側の円すいころ軸受1,1の軸受予圧荷重を管理することができる。
【0046】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0047】
[第2の実施形態:荷重センサ内蔵ころ、
図4]
図4のように、各円すいころ軸受に1おいて、円周方向に並ぶ複数の円すいころ4のうち、一部の円すいころ4は、中空孔4aが形成された中空ころとしてもよい。この円すいころ4の回転軸心C1に沿って前記中空孔4aが形成され、この中空孔4aに荷重センサ等から成る予圧測定センサ13が設けられている。荷重センサからの出力信号は、有線または無線で出力する。前記有線の場合、予圧測定後配線を除去する必要がある。前記無線の場合、軸受装置には、荷重センサ等への電力供給を行う電源、および荷重センサからの出力信号をワイヤレスで送信する通信設備等が必要になる。
【0048】
定められた荷重センサ検出方向におけるセンサ出力信号と軸受予圧との関係は、予め、試験またはシミュレーション等において設定されている。この構成によると、前述の当接面以外の部分である円すいころ4に荷重センサが設けられているため、予圧を付与する当接面間に予圧測定センサを設けた前述の実施形態よりも軸受の周方向に、より均等に予圧を付与することができる。その他前述の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0049】
[第3の実施形態:センサ付き主軸、
図5]
図5のように、主軸26の軸方向ひずみを検出対象とする予圧測定センサ13が設けられてもよい。主軸26は、中空軸が採用されているため中実軸よりも軸方向に変位し易く、主軸26の軸方向ひずみを精度よく検出し得る。よって、軸受予圧を精度よく測定することが可能となる。この場合にも、予圧を付与する当接面間に予圧測定センサを設けた実施形態よりも軸受1,1の周方向に、より均等に予圧を付与することができる。
【0050】
[第4の実施形態:センサ付きハウジング、
図6]
図6のように、ハウジング24の軸方向ひずみを検出対象とする予圧測定センサ13が設けられてもよい。この場合、ハウジング24において、軸方向ひずみを検出し易い箇所を選択することが可能となる。さらに予圧を付与する当接面間に予圧測定センサを設けた実施形態よりも、軸受1,1の周方向に、より均等に予圧を付与することができる。
【0051】
[第5の実施形態:センサ付き端蓋部材、
図7]
図7のように、環状の端蓋部材11の軸方向ひずみを検出対象とする予圧測定センサ13が設けられてもよい。この場合、環状の端蓋部材11の軸方向ひずみを検出対象とするため、当接面間に予圧測定センサを設けた構成よりも、軸受1,1の周方向により均等に予圧を付与することができる。さらに予圧測定センサ13を交換する作業効率の改善を図れる。
【0052】
[第6の実施形態:アンギュラ玉軸受、
図8]
図8のように、軸受装置BAの転がり軸受1,1として、アンギュラ玉軸受を適用することも可能である。この軸受装置BAでは、アンギュラ玉軸受1,1が背面組み合わせとされ、背面組み合わせとされた複数のアンギュラ玉軸受1,1に、予圧検知手段YSにより定められた予圧が付与される。
【0053】
<風力発電装置への適用例>
図9のように、軸受装置BAは、風力発電装置の主軸受26に使用される。同
図9は、第1~第5の実施形態のいずれかの軸受装置を風力発電装置の主軸受26として用いた風力発電装置の断面図である。
【0054】
支持台21上に旋回軸受22を介してナセル23のケーシング23aが水平旋回自在に設置されている。ケーシング23a内には、ハウジング24に設置された2個の円すいころ軸受1,1を介して主軸26が回転自在に設置されている。主軸26のケーシング23a外に突出した部分に、旋回翼となるブレード27が取り付けられている。主軸26の他端は、増速機28に接続され、増速機28の出力軸が発電機29のロータ軸に結合されている。
【0055】
単列の円すいころ軸受1は、背面組み合わせで所定間隔を隔てて設置される。このように一軸上に2個の単列円すいころ軸受1,1を組み合わせて使用することで、径方向荷重と軸方向荷重を受けることができる。2個の単列円すいころ軸受1,1を背面組み合わせとすることで、正面組み合わせ等よりもモーメントの負荷能力が高くなる。風車の稼働中つまり軸受回転中に、内外輪2,3の軌道面2a,3a(
図2)と円すいころ4(
図2)の滑りが生じないように、軸受装置BAの組立時またはメンテナンス時において予圧検出手段および予圧調整機構等を用いて軸受1,1に適切な予圧を付与する。
【0056】
2個の円すいころ軸受またはアンギュラ玉軸受を正面組み合わせで使用してもよい。この場合、背面組み合わせとするよりもモーメントの負荷能力が低いものの許容傾き角を大きくすることができる。
転がり軸受は、円周方向に3分割以上に分割された分割型であってもよい。
軸受装置を産業機械に適用することも可能である。
【0057】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1…円すいころ軸受、2…内輪、2A…内輪分割体、3…外輪、3A…外輪分割体、4…円すいころ、5…保持器、5A…保持器分割体、8…ハウジング肩部(ハウジングの肩部)、9…主軸肩部(主軸の肩部)、11…端蓋部材、13…予圧測定センサ、24…ハウジング、26…主軸、BA…軸受装置、Pm…予圧調整機構、YS…予圧検知手段