(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131743
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】間質性肺疾患の治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240920BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240920BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240920BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P11/00
C07K14/47 ZNA
C07K19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042184
(22)【出願日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年8月26日にInternational Journal of Molecular Sciences 第23巻、第17号にて発表 令和5年2月22日に第65回九州リウマチ学会、九州リウマチ学会抄録集にて発表 令和5年3月11日に第65回九州リウマチ学会、九州リウマチ学会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】武内 徹
(72)【発明者】
【氏名】池本 正生
(72)【発明者】
【氏名】小谷 卓矢
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA23
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA59
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】治療効果に優れて且つ副作用が少ない、有効な間質性肺疾患の治療のための医薬組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る医薬組成物は、間質性肺疾患を治療するための医薬組成物であり、hMIKO-1を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
hMIKO-1を含む、間質性肺疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
前記間質性肺疾患は、進行性線維化を伴う間質性肺疾患を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記間質性肺疾患は、特発性肺線維症を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記間質性肺疾患は、膠原病性間質性肺疾患を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記膠原病性間質性肺疾患は、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間質性肺疾患の治療のための医薬組成物、すなわちヒトMIKO-1(以下、hMIKO-1と呼ぶ)及びその誘導体に関する事象である。
【背景技術】
【0002】
間質性肺疾患は、肺胞隔壁や小葉間間質、気管支血管束等の広義の間質に炎症や線維化病変が生じる疾患であり、進行すると呼吸不全を引き起こし生命に関わる重篤な疾患である。従来から、進行性間質性肺疾患において、炎症に対してはステロイドや免疫抑制剤が用いられ、線維化病変に対しては抗線維化薬が用いられてきた(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Respiration,Vol.99(2020),p.819-p.829
【非特許文献2】Ann.Pharmacother,Vol.55(2021),p.723-p.731
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、間質性肺疾患に対しての従来の治療では効果が無い患者も見られ、また当該治療による副作用の発生等の有害事象も問題となっており、新たな治療法の開発が強く求められている。
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、間質性肺疾患の治療のためにより優れた治療効果が期待できる新しい医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、間質性肺疾患に対して、hMIKO-1が優れた治療効果を発揮することを見出して本発明を完成した。
【0007】
具体的に、本発明に係る医薬組成物は、間質性肺疾患を治療するための医薬組成物であり、hMIKO-1及びその誘導体を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る医薬組成物において、前記間質性肺疾患は、進行性線維化を伴う間質性肺疾患を含む。
【0009】
本発明に係る医薬組成物において、前記間質性肺疾患は、特発性肺線維症を含む。
【0010】
本発明に係る医薬組成物において、前記間質性肺疾患は、膠原病性間質性肺疾患を含む。
【0011】
本発明に係る医薬組成物において、前記膠原病性間質性肺疾患は、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患も含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る医薬組成物、すなわちhMIKO-1より優れた治療効果を発揮する新しい誘導体の開発に繋がる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、hS100A8、hS100A9及びhMIKO-1の構造を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、実施例において、無処理マウス(正常群)、ブレオマイシン誘発性間質性肺疾患を有するマウス(BLM群)及びブレオマイシン誘発性間質性疾患を有し且つhMIKO-1を投与したマウス(BLM+hMIKO-1群)から肺組織を摘出し、それぞれの肺組織パラフィン包埋切片を用いてマッソントリクローム染色を行った結果を示す写真である。
【
図3】
図3は、実施例において、正常群、BLM群及びBLM+hMIKO-1群のマッソントリクローム染色を施行した肺病理切片を用いて、重複しない5病変部位について修正Ashcroftスケールを用いて肺の線維化を評価しスコア化した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例において、正常群、BLM群及びBLM+hMIKO-1群マウスの肺組織におけるヒドロキシプロリン量(コラーゲン量を反映する)を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)~(g)は、実施例において、正常群、BLM群及びBLM+hMIKO-1群マウスのそれぞれの肺から総RNAを抽出し、定量的逆転写PCR(qRT-PCR)法を用いて炎症及び線維化に関連する遺伝子の発現量について評価した結果を示すグラフである。(a)は腫瘍壊死因子α(TNF-α)、(b)はインターロイキン(IL)-6、(c)はIL-1β、(d)はF4/80、(e)は組織メタロプロテアーゼ阻害剤(TIMP)-1、(f)はマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)-9のそれぞれの遺伝子発現量を測定した結果を示し、(g)はMMP-9/TIMP-1比を示す。
【
図6】
図6は、実施例において、マウス腹腔から得られたマクロファージに対してhMIKO-1処理群と対照群における細胞表面抗原のCD64及びCD163の発現を評価した結果を示すグラフである。上段は左から解析した細胞分画、CD64発現量及びCD163発現量の測定結果を示し、下段は左からCD64の発現比率、CD163の発現比率及びCD163/CD64比について、対照群とhMIKO-1群を比較検討した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)~(c)は、実施例において、対照群とhMIKO-1処理群においてマウスマクロファージの培養上清中IL-10及びIL-12濃度を測定した結果を示すグラフである。(a)はIL-12の測定結果、(b)はIL-10の測定結果、(c)はIL-10/IL-12比をそれぞれ示す。
【
図8】
図8(a)~(f)は、実施例において、対照群とhMIKO-1処理群のマウスマクロファージから総RNAを抽出し、qRT-PCR法を用いて各標的遺伝子を定量測定した結果を示すグラフである。(a)はCD64、(b)はCD163、(c)はIL-12、(d)はIL-10の測定結果をそれぞれ示し、(e)はCD163/CD64比、(f)はIL-10/IL-12比をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0015】
本発明の一実施形態は、間質性肺疾患を治療するための主たる医薬組成物、すなわちhMIKO-1及びその誘導体である。
【0016】
hMIKO-1とは、骨髄系免疫細胞及び血管内皮細胞から産生されるカルシウム結合タンパク質であるヒトS100タンパク質の一次構造をモチーフとして開発された遺伝子
組換えペプチドであり、特開2020-83759号公報に記載されたものである。具体的に、hMIKO-1は、ヒトS100タンパク質のうちS100A8タンパク質(以下、hS100A8と呼ぶ)とS100A9タンパク質(以下、hS100A9と呼ぶ)のC末端領域とが連結されたハイブリッドペプチドである。hS100A8及びhS100A9のアミノ酸配列および塩基配列は、既存のデータベースに登録されており、これらの情報を参照できる。hS100A8の情報は、例えば、NCBIアクセッション番号BC005928(塩基配列)、AAH05928(アミノ酸配列)に登録されており、hS100A9の情報は、例えば、NCBIアクセッション番号BC047681(塩基配列)、AAH47681(アミノ酸配列)に登録されている。なお、hS100A8及びhS100A9、並びにhMIKO-1を構成するhS100A9のC末端領域のアミノ酸配列は以下の通りである。
hS100A8:MLTELEKALN SIIDVYHKYS LIKGNFHAVY
RDDLKKLLET ECPQYIRKKG ADVWFKELDI NTDGAVNFQE FLILVIKMGV AAHKKSHEES HKE(配列番号1)
hS100A9:MTCKMSQLER NIETIINTFH QYSVKLGHPD
TLNQGEFKEL VRKDLQNFLK KENKNEKVIE HIMEDLDTNA DKQLSFEEFI MLMARLTWAS HEKMHEGDEG PGHHHKPGLG EGTP(配列番号2)
hS100A9のC末端領域:MHEGDEG PGHHHKPGLG EGTP(配列番号3)
【0017】
hMIKO-1は、上記hS100A8(配列番号1)のC末端側に21アミノ酸からなるhS100A9(配列番号3)のC末端領域が連結されてなる114アミノ酸(配列番号4)で構成されている。
hMIKO-1:MLTELEKALN SIIDVYHKYS LIKGNFHAVY
RDDLKKLLET ECPQYIRKKG ADVWFKELDI NTDGAVNFQE FLILVIKMGV AAHKKSHEES HKE MHEGDEG PGHHHKPGLG EGTP(配列番号4)
【0018】
hMIKO-1は、上記配列番号4のアミノ酸配列からなるものであるが、タンパク質の機能を実質的に改変しないようなアミノ酸の保存的置換を含むものであってもよい。このようなアミノ酸の保存的置換は、本技術分野において周知であり、例えば疎水性および親水性の指標(ハイドロパシー)、極性、電荷等の化学的性質、または、二次構造等の生化学的性質等が類似しているアミノ酸による置換である。具体的に、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)は、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン等が挙げられ、極性アミノ酸(中性アミノ酸)は、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等が挙げられ、陽電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ)酸は、アルギニン、ヒスチジン、リジン等が挙げられ、負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸)は、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0019】
本実施形態に係る医薬組成物において、hMIKO-1は、その安定性等の特性向上のために、例えばポリエチレングリコール(PEG)等の分子によって修飾されていても構わない。その他に、特定薬物等を目的(標的)組織にデリバリーできるようにするための担体として、hMIKO-1が各種処理されても構わない。このようなペプチドに対する各種の修飾方法は、本技術分野において周知である。
【0020】
本実施形態に係る医薬組成物は、上記hMIKO-1が主成分であるが、医薬的に種々の許容可能な添加剤を含んでいても構わない。例えば、添加剤としては基剤原料、賦形剤、着色剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、保存剤、香料等の矯味矯臭剤等があげら
れる。本発明において、前記添加剤の配合量は、前記hMIKO-1の機能を妨げるものでなければ、特に制限されない。
【0021】
本実施形態において、医薬組成物の投与方法は特に限定されず、経口投与でも、非経口投与でもよい。例えば、前記非経口投与は、静脈注射(静脈内投与)、筋肉注射(筋肉内投与)、経皮投与、皮下投与、皮内投与、経腸投与、直腸投与、経膣投与、経鼻投与、経肺投与、腹腔内投与、局所投与等を用いることができる。
【0022】
本実施形態において、医薬組成物の剤形は特に限定されない。例えば、液体状や固体状が挙げられる。具体例として、1)カプセル剤、経口液剤、顆粒剤、散剤、錠剤、丸剤、経口ゼリー剤等の経口投与用製剤、2)注射剤、凍結乾燥注射剤、粉末注射剤、充填済シリンジ剤、カートリッジ剤等の注射投与用製剤、3)腹膜透析用剤、血液透析用剤等の透析用製剤、4)吸入剤、5)坐剤、注腸剤等の直腸適用製剤等を用いることができる。
【0023】
本実施形態に係る医薬組成物において、後に実施例にて示す通りhMIKO-1が肺線維化を効果的に抑制し、炎症や線維化に関連する遺伝子の発現を抑制することができる。その結果、間質性肺疾患の治療に有効性を示し得る。ここで特に限定されないが、間質性肺疾患として,例えば進行性線維化を伴う間質性肺疾患、特発性肺線維症、膠原病性間質性肺疾患、又は全身性強皮症に伴う間質性肺疾患等、種々の間質性肺疾患を対象とすることができる。
【0024】
また、hMIKO-1は、後に実施例にて示す通りマクロファージのM2優位への分極を抑制することができる。間質性肺疾患の初期炎症過程において、肺マクロファージはMMPやTNF-α、IL-6及びIL-1β等の炎症性サイトカインを産生し、肺損傷に関与することが知られている。また、間質性肺疾患の肺線維化の過程には主にM2マクロファージが関与していることが知られており、炎症の慢性期において、M2マクロファージが肺胞に浸潤し、線維化促進因子の産生を介して線維芽細胞の分化と増殖を誘導することが知られている。特に、特発性肺線維症患者では、M2マクロファージが肺胞に過剰に浸潤し、肺損傷の修復過程で線維化を引き起こすこと、また膠原病性間質性肺疾患では、肺胞にCD163+マクロファージが浸潤しており、ILDの重症度と関連していることも知られている。これに対して、hMIKO-1は、上述の通りマクロファージのM2優位への分極を抑制することができ、これにより間質性肺疾患を改善できることが考えられる。
【実施例0025】
以下に、本発明に係る医薬組成物について詳細に説明するための実施例を示す。
【0026】
(hMIKO-1の調製)
hS100A8ペプチド(配列番号1の前記hS100A8)及びhS100A9ペプチドのC末端領域(配列番号3の前記hS100A9のC末端領域)から設計したhMIKO-1(配列番号4の前記hMIKO-1)を、遺伝子工学的手法により調製した(
図1を参照)。前記hMIKO-1の全長は、アミノ酸の数においてhS100A9ペプチド(配列番号2)と同じであり、その分子量もhS100A9とほぼ同等である。得られたhMIKO-1を以下の実験に供した。
【0027】
(hMIKO-1の間質性肺疾患モデルマウスに対する効果)
13週齢の雌のC57/BL6Jマウス(清水実験材料株式会社)を用い、麻酔は1.5~2.0%のイソフルラン吸入を用いた。実験群は、無処理マウス(正常群)、ブレオマイシン誘発性間質性肺疾患を有するマウス(BLM群)及びブレオマイシン誘発性間質性疾患を有し且つhMIKO-1を投与したマウス(BLM+hMIKO-1群)の3群
を設定し、1群当たり10匹のマウスを使用した。ブレオマイシン溶液は、滅菌ブレオマイシン硫酸塩粉末(日本化薬)を滅菌生理食塩水に混合して調製した。BLM群及びBLM+hMIKO-1群のマウスに100μLの滅菌生理食塩水に含まれる3mgのブレオマイシンを、浸透圧ミニポンプ(ALZET社)を用いて0日目から7日目に持続皮下投与した。また、BLM+hMIKO-1群のマウスに0.2mLのhMIKO-1(0.1mgのhMIKO-1、50mMのリン酸緩衝液(pH7.4)、0.9%のNaCl)を0日目から14日目まで腹腔内投与した。他の対照群のマウスには、同量(0.2mL)の50mMリン酸バッファー(pH7.4)/0.9%NaCl(以下緩衝液Aと呼ぶ)を投与した。マウスを21日目に頸椎脱臼により安楽死させ、肺を解析用に採取した。
【0028】
採取した肺のうち、右中葉を4%パラホルムアルデヒド/PBSで6時間固定した後、20%スクロース/PBSに一晩置換した。その後、パラフィン包埋した右中葉の5μm切片を用いてマッソントリクローム染色を行った。各切片について、肺の実質組織における最も重症である5つの非重複視野(顕微鏡倍率200倍)を取得した。各群の代表的な視野を
図2に示す。また、各群で得られた視野において肺の線維化について数値スケールを用いて定量化した。具体的に、各視野における線維化の重症度は、周知の修正Ashcroftスケール(Biotechniques,Vol.44(2008),p.507-p.517を参照)を用いて評価し、スコア化した。当該スケールでは0から8までの数値で評価し、数値が大きいほど重症と評価される。各群の重症度は、観察された顕微鏡野のスコアの平均値として表し、当該評価は、3人の独立した観察者によって行われた。その結果を
図3に示す。
【0029】
図3に示すように、正常群ではほぼ0から1の低いスコアを示し、BLM群では5以上の高いスコアを示した。しかしながら、BLM+hMIKO-1群では、BLM群と比較してスコアが低減して2程度となった。この結果から、hMIKO-1によってブレオマイシン誘発性の肺線維化が改善されることが明らかとなり、hMIKO-1が間質性肺疾患を改善できることが示唆された。
【0030】
次に、各群における肺組織中のヒドロキシプロリン量(線維性コラーゲン量を反映)を測定した。具体的に、上記各群のマウスの左肺を採取し、-70℃で保存した後、各サンプルに対してペプシン(0.3mg/10mg組織)を含む0.5mol/Lの酢酸を用いて4℃で18時間処理した。その後、SircolSoluble Collagen
Assay Kit(Biocolor社)を用いて肺におけるヒドロキシプロリン量を測定した。その結果を
図4に示す。
【0031】
図4に示すように、正常群では約300μg程度のヒドロキシプロリン量を示すのに対し、BLM群では約800μg程度の高いヒドロキシプロリン量を示した。一方、BLM+hMIKO-1群では、約400μg程度を示し、BLM群と比較してヒドロキシプロリン量が顕著に低下した。この結果からも、
図3の結果と同様にhMIKO-1によってブレオマイシン誘発性の肺線維化が改善されることが明らかとなり、hMIKO-1が間質性肺疾患を改善できることが示唆された。
【0032】
次に、hMIKO-1における抗炎症及び抗線維化効果をさらに評価するために、上記各群のマウスの肺から常法によって総RNAを抽出し、炎症及び線維化に関連する分子の遺伝子発現について、定量的逆転写PCR(qRT-PCR)法を用いて定量評価した。具体的な項目は、TNF-α、IL-6、IL-1β、F4/80、MMP-9、メタロプロテイナーゼ-1組織阻害剤(TIMP-1)、及びGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)である。測定結果を
図5に示す。なお、各測定のために用いたプライマーは以下の通りである。
TNF-α(フォワード):ACCTTGTTGCCTCCTCTT(配列番号5)
TNF-α(リバース):GTTCAGTGATGTAGCGACAG(配列番号6)
IL-6(フォワード):AAATGAGAAAAGAGTTGTG(配列番号7)
IL-6(リバース):TTTGTATCTCTGGAAGTTT(配列番号8)
IL-1β(フォワード):GATACCACTCCCAACAGA(配列番号9)
IL-1β(リバース):GCCATTGCACAACTCTTT(配列番号10)
F4/80(フォワード):TGTCTGAAGATTCTCAAAACATGGA(配列番号11)
F4/80(リバース):TGGAGCTTCATAGTTGTAAGGCA(配列番号12)
MMP-9(フォワード):CGATTCCAAACCTTCAAA(配列番号13)
MMP-9(リバース):GCAAGTCTTCAGAGTAGT(配列番号14)
TIMP-1(フォワード):AAGATGACTAAGATGCTAA(配列番号15)
TIMP-1(リバース):GATGAGAAACTCTTCACT(配列番号16)
GAPDH(フォワード):ACAATGAATACGGCTACAG(配列番号17)GAPDH(リバース):GGTCCAGGGTTTCTTACT(配列番号18)
【0033】
図5に示すように、炎症又は線維化に関わるTNF-α、IL-6、IL-1β、F4/80及びTIMP-1の相対的遺伝子発現レベルは(
図5(a)~(e))、BLM群では正常群と比較して有意に増加しており、BLM+hMIKO-1群ではBLM群と比較して有意に減少していた。一方、MMP-9の相対的遺伝子発現レベルは(
図5(f))、BLM群では正常群と比較して有意に減少していたが、BLM+hMIKO-1群ではBLM群と比較して有意差は無かった。また、MMP-9/TIMP-1比(
図5(g))は、BLM単独群では正常群に比べ有意に低く、BLM+hMIKO-1群ではBLM群と比較して有意な差は無かったが増加する傾向にあった。
【0034】
以上の結果から、ブレオマイシンによって炎症及び線維化に関する分子の遺伝子発現が増大したが、hMIKO-1の投与によりそれらの発現を抑制できることが示唆された。従って、これらの結果からもhMIKO-1によって肺の炎症及び線維化を改善できると考えられ、hMIKO-1が間質性肺疾患を改善できることが示唆された。
【0035】
(hMIKO-1のチオグリコレート誘導マウス腹腔マクロファージに対する効果)
13週齢の雌のC57/BL6Jマウス(清水実験材料株式会社)に対して、緩衝液A中に含まれた4%チオグリコレート(Sigma)1mLを腹腔内注射することによって、マウスマクロファージを誘導した。その4日後にマウスを安楽死させて、マウスの腹腔内を5mLの氷冷緩衝液Aによって洗浄し、常法によって細胞を採取し、1000rpm、4℃で10分間遠心分離後、10%のウシ胎児血清添加RPMI-1640培地に再懸濁した。6ウェルプレートに採取した細胞を播種し、各サンプル(3×105個/ウェル)に対して、hMIKO-1(約25μg/mL)を添加して(hMIKO-1投与群)又は無添加(対照群)で、37℃で24時間培養した。その後に非接着細胞を除去し、培養上清を後のサイトカイン測定のために-30℃で保存した。接着細胞は、緩衝液Aで2回洗浄した後、スクレイパーを用いて1mLの緩衝液A中に回収した。得られた細胞懸濁液を112×g、4℃で10分間遠心し上清を除去した。
【0036】
hMIKO-1によるマクロファージの細胞表面抗原レベルの変化を評価するために、上記のようにして得られた細胞をPBSで洗浄した後、10μLのPE-シアニン7標識マウス抗マウスCD64モノクローナル抗体(BioLegend)又はAPC標識ラット抗マウスCD163モノクローナル抗体(BioLegend)と共に4℃、暗所で30分インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、Naviosサイトメーター(Bec
kman Coulter)を用いて解析した。その結果を
図6に示す。
【0037】
図6に示すように、hMIKO-1処理群では、対照群と比較してマクロファージの細胞表面抗原のうちM1マクロファージのマーカーであるCD64の発現が有意に増加した。一方、M2マクロファージのマーカーであるCD163の発現が有意に減少した。また、hMIKO-1処理群では、対照群と比較してCD163/CD64比は有意に減少した。この結果から、hMIKO-1は、マクロファージのM2への分極を抑制することが示唆された。
【0038】
次に、上記の通り-30℃で保存した培養上清について、マウスIL-10 ELIS
Aキット(Proteintech Group)及びLBISマウスIL-12 EL
ISAキット(富士フィルム和光純薬)を用いて、主にM2マクロファージから分泌されるIL-10及び主にM1マクロファージから分泌されるIL-12を測定し、それらの分泌レベルを評価した。その結果を
図7に示す。
【0039】
また、上記の実験で得られたマクロファージから総RNAを抽出し、CD64、CD163、IL-12、IL-10及びGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)の遺伝子発現を定量評価した。具体的に、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて総RNAを抽出した後、Exscript RT kit(Takara)を用いてcDNAを合成し、ABI PRISM7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いて、遺伝子増幅を行った。各標的遺伝子の相対的なmRNA発現量は、比較CT法を用いて算出し、その結果を
図8に示す。なお、各標的遺伝子増幅のために用いたプライマーは以下の通りである。
CD64(フォワード)):CTTCTCCTTCTATGTGGGCAGT(配列番号19)
CD64(リバース):GCTACCTCGCACCAGTATGAT(配列番号20)CD163(フォワード):TCACTCCTGGGCTGCACGTAAAC(配列番号21)
CD163(リバース):GATGTTATTTGCCATACAGGAGAATTG(配列番号22)
IL-12(フォワード):AAGATGAAGGAGACAGAG(配列番号23)
IL-12(リバース):CATTGGACTTCGGTAGAT(配列番号24)
IL-10(フォワード):GTGGAGCAGGTGAAGAGTGA(配列番号25)
IL-10(リバース):TTCATGGCCTTGTAGACACCT(配列番号26)
GAPDH(フォワード):ACAATGAATACGGCTACAG(配列番号17)GAPDH(リバース):GGTCCAGGGTTTCTTACT(配列番号18)
【0040】
図7に示すように、マウスマクロファージの培養上清中のIL-10及びIL-12濃度は、hMIKO-1処理群では対照群と比較していずれも有意に高かったが、IL-10/IL-12比は、hMIKO-1処理群において対照群と比較して有意に低かった。また、
図8に示すように、hMIKO-1処理群におけるマウスマクロファージにおける上記遺伝子発現は、対照群と比較してCD64(a)、IL-12(c)及びIL-10(a)レベルが有意に増大したが、CD163については差が無かった。また、hMIKO-1処理群において、CD163/CD64比は対照群と比較して有意に低かった。これらの結果からも、hMIKO-1は、マクロファージのM2優位への分極を抑制することが示唆された。
【0041】
これらの結果から、hMIKO-1はブレオマイシン誘発性の肺の線維化及び炎症を有
意に改善することができ、特に炎症性サイトカインや線維化に関わる分子の発現を抑制すること、またマクロファージのM2優位への分極を抑制することで、上記のような肺の線維化及び炎症を改善することに寄与していると考えられる。
【0042】
以上から、本発明に係るhMIKO-1を含む医薬組成物は、間質性肺疾患の治療に有用であるといえる。