(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131747
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】マッド材
(51)【国際特許分類】
C21B 7/12 20060101AFI20240920BHJP
C04B 35/66 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C21B7/12 307
C04B35/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042188
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 祥
(72)【発明者】
【氏名】大坪 祐二
(57)【要約】
【課題】出銑時の孔拡大を抑制できると共に孔深度を確保できるマッド材を提供する。
【解決手段】耐火原料配合物100質量%中にアルミナジルコニア原料及びジルコニアムライト原料のうちの少なくとも一種を合計で2質量%以上30質量%以下含有し、当該耐火原料配合物にバインダーを添加してなるマッド材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料配合物100質量%中にアルミナジルコニア原料及びジルコニアムライト原料のうちの少なくとも一種を合計で2質量%以上30質量%以下含有し、当該耐火原料配合物にバインダーを添加してなるマッド材。
【請求項2】
前記アルミナジルコニア原料及び前記ジルコニアムライト原料のうちの少なくとも一種の合計の含有率が5質量%以上15質量%以下である、請求項1に記載のマッド材。
【請求項3】
前記アルミナジルコニア原料及び前記ジルコニアムライト原料は、使用後の廃耐火物に由来するものである、請求項1又は2に記載のマッド材。
【請求項4】
前記アルミナジルコニア原料及び前記ジルコニアムライ原料は、耐火物組織間にカーボン結合を有するものである、請求項3に記載のマッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の出銑孔を閉塞するために用いるマッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の操業において、出銑終了後の出銑孔にマッド材を圧入充填してこれを閉塞する。そして所定時間(通常は2~5時間)経過後の次の出銑の際に、それまでの時間に炉熱で焼成されたマッド材をドリルで開孔して湯道を形成することが行われる。このようにマッド材をドリルで開孔して湯道を形成するときに、湯道が一定以上の長さ確保される必要がある。このような湯道の長さは孔深度と呼ばれている。
また近年、出銑を行う際の出銑時間の適正化が求められているため、出銑中に溶銑やスラグによって湯道が削られて拡大しないようにする必要がある。出銑中に溶銑やスラグによって湯道が削られて拡大することは、孔拡大と呼ばれている。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されているように、ジルコニア原料を添加して耐用性向上を図ったマッド材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが上記特許文献1の技術の検証を兼ねてジルコニア原料を含むマッド材について各種試験を行ったところ、ジルコニア原料を含むことにより出銑時の孔拡大は抑制できるものの、出銑後の焼成過程でマッド材に亀裂が形成されるため孔深度は確保しにくいことがわかった。
【0006】
このような状況を鑑み本発明が解決しようとする課題は、出銑時の孔拡大を抑制できると共に孔深度を確保できるマッド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上述の試験結果について以下のように考えた。すなわちジルコニア原料は、その主成分であるZrO2成分が溶銑やスラグに対して高い耐食性を示すことから、ジルコニア原料を含むことにより出銑時の孔拡大は抑制できる。一方でジルコニア原料は、熱膨張率が高くしかも相転移により急激な体積変化を伴うことから、出銑後の焼成過程でマッド材に亀裂が形成されるため孔深度は確保しにくい。
そこで、本発明者らは上記課題を解決するために、ZrO2成分の有する高耐食性を活かしつつ焼成過程での熱膨張や体積変化を抑えるとの技術的思想の下、マッド材に使用する耐火原料について試験及び検討を重ねた。その結果、マッド材中にアルミナジルコニア原料又はジルコニアムライト原料が含まれている場合に孔拡大を抑制できると共に孔深度を確保できるという知見を得た。すなわち、ZrO2成分をジルコニア原料としてではなく、アルミナジルコニア原料又はジルコニアムライト原料としてマッド材に導入することが有効であるということである。
【0008】
本発明は、以上の技術的思想と知見に基づき想到されたもので、その要旨は次の通りである。
耐火原料配合物100質量%中にアルミナジルコニア原料及びジルコニアムライト原料のうちの少なくとも一種を合計で2質量%以上30質量%以下含有し、当該耐火原料配合物にバインダーを添加してなるマッド材。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマッド材によれば、出銑時の孔拡大を抑制できると共に孔深度を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態であるマッド材は、耐火原料配合物100質量%中にアルミナジルコニア原料及びジルコニアムライト原料のうちの少なくとも一種を合計で2質量%以上30質量%以下含有し、当該耐火原料配合物にバインダーを添加してなる。
アルミナジルコニア原料及びジルコニアムライト原料のうちの少なくとも一種(以下、総称して「ジルコニア含有複合酸化物原料」という。)の含有率が2質量%未満では、ジルコニア含有複合酸化物原料による孔拡大抑制と孔深度確保の効果が十分に得られない。一方、ジルコニア含有複合酸化物原料の含有率が高くなる毎に強度が高くなることからジルコニア含有複合酸化物原料の含有率が30質量%を超えると、マッド材の強度が過剰に高くなり開孔性が悪くなるためいわゆる孔切れ現象が発生しやくなり、孔深度の確保が困難になる。ジルコニア含有複合酸化物原料の含有率は5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0011】
ジルコニア含有複合酸化物原料のうちアルミナジルコニア原料としては、例えばアルミナとジルコニアを電気炉で溶融して製造される電融アルミナジルコニアが市販品として入手できる。またジルコニアムライト原料の市販品としては、例えばアルミナとジルコンを電気炉で溶融して製造される電融ジルコニアムライトが挙げられる。
更にジルコニア含有複合酸化物原料としては、上述の市販品すなわち新品のほかに、使用後の廃耐火物に由来するいわゆる使用後品を使用することができる。ここで、使用後の廃耐火物とは製鉄プロセスで使用された後回収された耐火物のことであり、この廃耐火物に由来する使用後品とは、廃耐火物を粉砕して得られる耐火原料粒子のことである。なお、使用後品を得る過程においては、磁選、分級等の処理を適宜行う。
【0012】
使用後の廃耐火物としては、ジルコニア含有複合酸化物原料を含有する耐火物であれば使用することができるが、例えばジルコニア含有複合酸化物原料を10~60質量%、残部にアルミナを40~80質量%、炭素質原料及び炭化物原料のうちの少なくとも一種を合計で10質量%以下(0を含む)、並びに金属を10質量%以下(0を含む)含むものを使用することができる。より具体的には、スライディングノズルプレート、上部ノズル、及び下部ノズル等のアルミナカーボン系れんが等を使用することができる。
なお、使用後品を本発明の耐火原料配合物に使用する際には、ジルコニア含有複合酸化物原料の質量割合に換算して使用する。
【0013】
廃耐火物は通常、その耐火物組織間に、耐火物製造時に使用した有機バインダー等に由来するカーボン結合を有する。このため、使用後品も通常、耐火物組織間にカーボン結合を有する。このようにカーボン結合を有する使用後品をマッド材の耐火原料配合物に含むと、マッド材のカーボン結合をより増強する効果が得られる。その結果、マッド材の耐食性が向上して、孔拡大抑制と孔深度確保の効果がより高まる。
なお、本発明のマッド材においてジルコニア含有複合酸化物原料の原料形態としては、新品のみ、新品と使用後品との併用、又は使用後品のみとすることができる。ただし、廃耐火物の有効利用、及び上述のカーボン結合による有利な効果を得る観点からは、使用後品のみとすることが好ましい。
【0014】
このように本発明のマッド材は、耐火原料配合物100質量%中に、新品と使用後品とを問わずジルコニア含有複合酸化物原料を合計で2質量%以上30質量%以下含有することを技術的特徴とするものである。そのため、耐火原料配合物の残部は特に限定されず、マッド材の耐火原料として一般的に使用されているものを残部とすることができ、例えば残部は、アルミナ、炭化珪素、シャモット、カーボン、ろう石、粘土、窒化珪素、窒化珪素鉄、金属粉のうちの一種又は二種以上を主原料とすることができる。なお、これら残部を構成する耐火原料にも、使用後の廃耐火物に由来する使用後品を使用することができる。
また、残部を含め耐火原料配合物全体の粒度構成もマッド材の耐火原料配合物として一般的な粒度構成でよく、例えば最大粒径を3mmとし、その範囲内で適宜調整することができる。
【0015】
耐火原料配合物に添加するバインダーの種類や添加率も特に限定されず、マッド材において一般的なものとすることができる。例えばバインダーとしては、コールタールやフェノール樹脂等が挙げられる。またバインダーの添加率は、耐火原料配合物100質量%に対して10質量%以上25質量%以下とすることができる。
【実施例0016】
表1に、本発明の実施例であるマッド材の構成と評価結果を比較例と共に示している。なお、表1において、「その他1」は、粘土、カーボンの一種であるコークス等である。また、「使用後品」は、アルミナジルコニア及びジルコニアムライトとこれら以外の含有率を分けて表示している。例えば、実施例10は使用後品を30質量%使用し、この使用後品は、耐火原料配合物100質量%中に占める割合においてアルミナジルコニアを9質量%、並びにアルミナジルコニア及びジルコニアムライト以外(「その他2」)を21質量%含有するということである。
なお、実施例で使用した使用後品中のアルミナジルコニア及びジルコニアムライトの含有率は製造時の原料構成が分かっており、原料構成比から算出したものである。また、使用後品はスライディングノズルプレートから得られたものであり、実施例10ではアルミナジルコニアを30質量%、アルミナを60質量%、及び炭素質原料を3質量%含有するものを、実施例11ではジルコニアムライトを30質量%、アルミナを60質量%、炭素質原料を3質量%含有するものを、実施例12ではアルミナジルコニアを17質量%、ジルコニアムライトを17質量%、アルミナを60質量%、炭素質原料を3質量%含有するものを、それぞれ使用した。
なお、耐火原料配合物の粒度構成は最大粒径を3mmとし、その範囲内で適宜調整した。
【0017】
【0018】
マッド材の評価は耐食性と強度について、以下の要領で行った。
<耐食性>
マッド材を7MPaで加圧成形した後、500℃加熱のベーキング処理を行って得た試験片を、高炉スラグを侵食剤とする小型回転炉に内張りし、1600℃×5時間の侵食試験を行った。なお、侵食試験中30分毎に侵食剤を交換(10回)した。侵食試験後、試験片の溶損寸法(最大溶損部位)を測定し、比較例2の溶損寸法を100とする耐食性指数を求めた。そして、その耐食性指数が70未満の場合を◎(優良)、70以上100未満の場合を〇(良好)、100以上の場合を×(不良)とした。この耐食性指数が小さいほど耐食性に優れているということであり、特に孔拡大の抑制に寄与する。
<強度>
マッド材を7MPaで加圧成形した後、500℃加熱のベーキング処理を行って得た試験片を、コークスブリーズ中で1200℃×3h還元焼成して得られたサンプルの圧縮強度の測定を行った。そして、その強度測定値が20MPa以上30MPa未満の場合◎(優良)、10MPa以上20MPa未満の場合を〇(低)(良好)、30MPa以上40MPa未満の場合を〇(高)(良好)、10MPa未満の場合を×(低)(不良)、40MPa以上の場合を×(高)(不良)とした。この強度測定値はマッド材が充填されて熱を受けた後、開孔するときの強度に対応し、この強度を適正範囲とすることで孔切れの発生率が低下し、特に孔深度の確保に寄与する。
【0019】
表1中、実施例1~12はいずれも本発明の範囲内にあるマッド材であり、耐食性及び強度の評価は「◎(優良)」又は「〇(良好)」であった。なかでも、ジルコニア含有複合酸化物原料の含有率が5質量%以上15質量%以下という好ましい範囲内にある実施例2、3、9~12は、耐食性及び強度の評価がいずれも「◎(優良)」となり、特に優れた評価結果が得られた。
ここで、実施例9~12は、ジルコニア含有複合酸化物原料として使用後品を使用した例であり、ジルコニア含有複合酸化物原料として新品をほぼ同じ含有率で使用した実施例3と比べると、耐食性の評価において特に優れた評価結果が得られた(表1において実施例9~12と実施例3の耐食性の評価結果はいずれも「◎(優良)」であるが、上述の侵食試験後に求めた耐食性指数に有意差が見られた。)。
なお、実施例9はジルコニア含有複合酸化物原料として新品のアルミナジルコニア原料とジルコニアムライト原料を併用した例、実施例12はジルコニア含有複合酸化物原料として使用後品のアルミナジルコニア原料とジルコニアムライト原料を併用した例であり、いずれも優れた評価結果が得られた。
【0020】
一方、比較例1はジルコニア含有複合酸化物原料であるアルミナジルコニア原料の含有率、比較例2はジルコニア含有複合酸化物原料であるジルコニアムライト原料の含有率が、本発明の下限値を下回る例であり、耐食性の評価が「×(不良)」となった。そのため、孔拡大を抑制することができない。
また、比較例3はジルコニア含有複合酸化物原料であるアルミナジルコニア原料の含有率、比較例4はジルコニア含有複合酸化物原料であるジルコニアムライト原料の含有率が、本発明の上限値を上回る例であり、強度の評価が「×(高)(不良)」となった。そのため、孔切れが多くなり孔深度を確保することができない。
更に、比較例5はZrO2成分源として、ジルコニア含有複合酸化物原料ではなくジルコニア原料を使用した例であり、強度の評価が「×(高)(不良)」となった。そのため、孔切れが多くなり孔深度を確保することができない。