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特開2024-13177合成砥石、合成砥石アセンブリ、及び、合成砥石の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013177
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】合成砥石、合成砥石アセンブリ、及び、合成砥石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/32 20060101AFI20240124BHJP
   B24D 3/02 20060101ALI20240124BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20240124BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B24D3/32
B24D3/02 310C
B24D3/00 340
H01L21/304 631
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138397
(22)【出願日】2022-08-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2022115035
(32)【優先日】2022-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000151357
【氏名又は名称】株式会社東京ダイヤモンド工具製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】京島 快
(72)【発明者】
【氏名】八木 健
【テーマコード(参考)】
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB05
3C063BA02
3C063BB01
3C063BB03
3C063BC03
3C063BD04
3C063CC19
3C063EE10
3C063EE26
3C063FF23
3C063FF30
5F057AA14
5F057CA11
5F057DA11
5F057EB18
(57)【要約】
【課題】 例えば乾式の研磨加工を行う際などに、摩擦熱が過大となることを抑制可能な合成砥石を提供すること。
【解決手段】 表面加工を行うための合成砥石は、砥粒率(Vg)が、0体積%より大きく、40体積%以下の、砥粒と、結合剤率(Vb)が、35体積%以上で、90体積%以下である、不織布製の結合剤と、を含む。そして、合成砥石の気孔率(Vp)は、10体積%以上で、55体積%以下である。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削物の表面加工を行うための合成砥石であって、
砥粒率(Vg)が、0体積%より大きく、40体積%以下の、砥粒と、
結合剤率(Vb)が、35体積%以上で、90体積%以下である、不織布製の結合剤と、
を含み、
前記合成砥石の気孔率(Vp)は、10体積%以上で、55体積%以下である、
合成砥石。
【請求項2】
前記不織布製の結合剤は、ポリエステル短繊維、ポリアミド短繊維、ポリプロピレン短繊維の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の合成砥石。
【請求項3】
前記合成砥石は、乾式に前記表面加工を行うために用いられ、
前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーの少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の合成砥石。
【請求項4】
砥粒と、
前記砥粒を分散させた状態に保持する不織布製の結合剤と、
前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーの少なくとも1つを有するフィラーと
を含む、表面加工を行うための合成砥石。
【請求項5】
前記被削物に対して乾式により化学機械研削作用を発揮する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の合成砥石。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載の合成砥石と、
前記合成砥石が固定され、導電性及び前記合成砥石よりも高い熱伝導性の少なくとも一方を有する基体と
を有する、
合成砥石アセンブリ。
【請求項7】
請求項1に記載の合成砥石の製造方法であって、
前記砥粒及び前記不織布製の結合剤を混合させて混合材を得ること、
前記混合材を金型に充填し、ホットプレスにより成型すること、
前記成型した成型体を、脱型すること、
を含む、
合成砥石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば化学的機械的研削(CMG)など、表面加工を行うための合成砥石、合成砥石アセンブリ、及び、合成砥石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式の化学的機械的研削(CMG)による表面加工を行う方法が用いられることがある(例えば、特許文献1参照)。CMG工程では、研磨剤(砥粒)を熱可塑性樹脂などの樹脂結合剤で固定化した合成砥石を用いる。そして、ウェーハ及び合成砥石を回転させながら合成砥石をウェーハに押圧させる(例えば、特許文献2参照)。ウェーハ表面の凸部は、合成砥石との摩擦により加熱・酸化されて脆くなって剥がれ落ちる。このようにして、ウェーハの凸部だけが研削され、平坦化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4573492号公報
【特許文献2】特開2004-87912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成砥石は、例えばCMG工程が進むと、合成砥石の被削物に対する結合剤の表面(研磨作用面)から砥粒(研磨剤)が少しずつ脱落し、合成砥石の研磨作用面が平滑になる。このため、研磨作用面においては例えば熱可塑性樹脂による結合剤と被削物との接触機会が増える。その結果、砥粒と被削物との間の接触圧が低下し加工能率が低下する一方、加工レートの向上を狙って乾式加工を行う際は研磨作用面と被削物との間の摩擦熱が過大となり、被削物に焼けや研磨スラッジの巻き込みによるスクラッチを生じさせる可能性がある。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、例えば乾式の研磨加工を行う際などに、摩擦熱が過大となることを抑制可能な合成砥石、合成砥石アセンブリ、及び、合成砥石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る、表面加工を行うための合成砥石は、砥粒率(Vg)が、0体積%より大きく、40体積%以下の、砥粒と、結合剤率(Vb)が、35体積%以上で、90体積%以下である、不織布製の結合剤と、を含む。そして、合成砥石の気孔率(Vp)は、10体積%以上で、55体積%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば乾式の研磨加工を行う際などに、摩擦熱が過大となることを抑制可能な合成砥石、合成砥石アセンブリ、及び、合成砥石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る合成砥石の構造の概略図。
図2】合成砥石(成型体)の製造フロー(製造方法)を示す概略図。
図3】不織布タイプの合成砥石を製作したときの、合成砥石の3要素(砥粒率(Vg)、結合剤率(Vb)、気孔率(Vp))の三相図。
図4図3に対応する各点での合成砥石の硬度測定値。
図5図3に示す不織布タイプの合成砥石の製造の可否の境界を示す概略図。
図6】被削物の加工に用いるCMG装置を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示すように、合成砥石100は、砥粒(研磨剤)101と、結合剤(バインダ)102とにより形成される。合成砥石100は、更に、気孔103を有し得る。本実施形態では、合成砥石100は、結合剤102中に砥粒101を分散させた状態に保持するとともに、気孔103を結合剤102中に分散して配置する。
【0010】
砥粒101としては、以下に限定されるものではないが、被削物がシリコンの場合には、例えば、シリカ、酸化セリウム、又は、これらの混合物を適用することが好適である。同様に、被削物がサファイヤの場合には、酸化クロム、酸化第二鉄、又は、これらの混合物等を適用することが好適である。このほか、適用可能性のある研磨剤としてアルミナ、炭化ケイ素、又は、これらの混合物等も被削物の種類に応じて用いることができる。
【0011】
本実施形態では、被削物がシリコンであるとし、砥粒101としては、例えば平均粒径が略1μmの酸化セリウムを用いる例について説明する。砥粒101の粒子径は適宜に設定可能であるが、例えば5μm未満であることが好ましい。
【0012】
結合剤102としては、本実施形態では、不織布を用いる。不織布の一例として、ポリエステル短繊維を用いることができる。ポリエステル短繊維として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を用いることができる。
【0013】
合成砥石(成型体)100は、図2に示すフロー(製造方法)に基づいて形成される。
まず、図3に示す、後述する体積比率の砥粒101、及び、不織布を形成するための短繊維状の結合剤102を混合させて混合材(混合粉体)を得る(ステップST1)。ここでの結合剤102を拡大せずに見ると、例えば略粉体状である。
次に、この混合材を合成砥石100の最終形となる形状に形成するための金型に充填する(ステップST2)。このとき、乾式法、湿式法、その他の方法を用いて繊維を集積させることができる。例えば170℃で30分間、加圧成型(ホットプレス)して成型体として合成砥石100を成型する(ステップST3)。そして、金型内の成型体を脱型する(ステップST4)。
【0014】
図3には、上記のように不織布タイプの合成砥石100を製作したときの、合成砥石100のいわゆる3要素(砥粒率(Vg)、結合剤率(Vb)、気孔率(Vp))の三相図を示す。
【0015】
図3から図5中、合成砥石100の3要素(砥粒率(Vg)、結合剤率(Vb)、気孔率(Vp))を適宜に調整して合成砥石100を製作した実験結果(19点)を示す。この実験により、合成砥石100の作成の可/不可の境界が形成された。合成砥石100が図5に示す境界の内側の組成である場合、合成砥石100として使用可能であった。
【0016】
19点のうち、使用に耐え得る合成砥石100として形成されたのは、13点であった。その13点の範囲は、砥粒の砥粒率(Vg)が0体積%以上40体積%以下の範囲で、結合剤率(Vb)が35体積%以上90体積%以下の範囲で、気孔の気孔率(Vp)が10体積%以上55体積%以下であった。図3から図5中、砥粒率が0体積%の場合も、合成砥石100として形になったことを示す。砥粒率が0体積%の場合は、合成砥石100が砥粒101を含まないことになるため、合成砥石100の砥粒率は、実際には0体積%よりも大きくなる。本実施形態では、合成砥石100は、砥石101の砥粒率(Vg)を先に決め、その後、結合剤102の結合剤率(Vb)を設定する。
【0017】
合成砥石100として使用可能であった13点について、デュロメータ硬度測定(ASTM D 2240-05 Type DO)を行った。図4には、図3に対応する各点での合成砥石100の硬度測定値を示す。図3から図5に示すように、気孔率が高くなると、合成砥石100が比較的軟質となり、気孔率が低くなると、比較的硬質となることが分かる。
【0018】
なお、以後、合成砥石100として形にならなかった6点を成型体と称する。図5に示す境界の外側の組成である場合が、19点の残りの6点であり、合成砥石100として形にならなかった成型体である。図5に示す境界の外側の成型体は、矢印αの領域において、気孔率が高く、充填密度が低い。このため、成型体は、結合剤の結合が不十分で、成型体のカドや表面がボロボロと大きく崩れる結果となったと想定される。図5に示す境界の外側の成型体は、矢印βの領域において、気孔率が低く、充填密度は十分である。しかし、結合剤率が低く、成型体の表面が粉っぽくなったと想定される。図5に示す境界の外側の成型体は、矢印γの領域において、気孔率が低すぎ、充填密度が高すぎると想定される。この成型体は、成型時に規定寸法にならない、といった結果となった。
砥粒率が高すぎる場合も、結合せず、成型体が崩れる結果となることが想定される。砥粒率は、上述したように、例えば、0体積%よりも大きく40体積%以下であることが好適である。
【0019】
このように、砥粒率、結合剤率、気孔率を所定範囲の体積比率に設定することによりはじめて、不織布を結合剤として用いる合成砥石100が成型され得ることが分かる。
【0020】
本実施形態では、合成砥石100が円板状に形成され、機械的作用と化学成分による複合作用で加工する、乾式の化学的機械的研削(CMG)加工に用いられるものとする。すなわち、合成砥石100は、被削物であるウェーハWの表面に対して乾式により化学機械研削作用を発揮し、被削物であるウェーハWの表面加工を行う。そして、合成砥石100が、砥石保持部材(基体)43に両面テープや接着剤などで固定されて合成砥石アセンブリ200として形成され、図6に示すCMG装置10に取り付けられて被削物であるウェーハWの表面加工に使用される。砥石保持部材43は、CMG加工に耐え得る適宜の剛性があり、合成砥石100の使用により上昇し得る温度での耐熱性を有し、熱軟化しないものであればよく、例えばアルミニウム合金材等が用いられる。
【0021】
砥石保持部材43及び合成砥石100を有する合成砥石アセンブリ200及び被削物であるウェーハWを図6中矢印方向に回転させながらウェーハWを合成砥石100に押圧させる。このとき、合成砥石100の周速を例えば、600m/minで回転させるとともに、加工圧力300g/cmでウェーハWを押圧する。このため、合成砥石100とウェーハWの表面とが摺動する。このように加工が開始されると、合成砥石100とウェーハWの表面とが摺動し、結合剤102に外力が作用する。この外力が連続して作用することで、不織布内に保持された固定砥粒101、もしくはそれと脱粒した砥粒101による化学的機械的作用により、ウェーハWの表面が研磨される。
【0022】
本実施形態では、熱可塑性樹脂材(例えばエチルセルロース)を結合剤として用いるのではなく、不織布を結合剤102として用いる。このため、熱可塑性樹脂材を結合剤として用いる場合に比べて結合剤102の弾性変形量をより大きくすることができる。このため、本実施形態に係る合成砥石100は、被削物(被加工物)であるウェーハWの表面への追従性が優れる。
熱可塑性樹脂材を結合剤として用いる場合、合成砥石とウェーハWとの間に熱が溜まると結合剤としての熱可塑性樹脂材が柔らかくなり、合成砥石表面の平坦化が生じる。そして、結合剤としての熱可塑性樹脂材が溶け、スティッキングと称される、ウェーハWの表面に対する溶着が生じると、急激に合成砥石による研削抵抗が上昇し、ウェーハWの表面荒れやスクラッチを生じさせ得る。
これに対し、本実施形態に係る合成砥石100のように、不織布を結合剤102として用いる場合、結合剤102に熱が溜まるとしても、合成砥石100の表面の平坦化が生じることがない。したがって、合成砥石100とウェーハWとの間に熱が溜まっても、結合剤102が溶けることを防止できる。したがって、本実施形態に係る合成砥石100は安定した加工性能をより長期間にわたって維持することができる。したがって、被削物であるウェーハWの表面に対して、不意にスクラッチを生じさせることを防止することができる。このため、本実施形態に係る、不織布製の結合剤102を用いることにより、熱可塑性樹脂材を結合剤として用いる場合よりソフトに被削物(被加工面)削ることができ、被削物の低ダメージ化に寄与することができる。
【0023】
これは、乾式の研磨加工を行う際などに、摩擦熱が過大となることを改善すべく鋭意努力した本願発明者が、上述した三相図の砥石としての3要素を満たすように合成砥石100を形成することで、被削物に対する加工性を優れたものにすることができることを見出したことによるものである。すなわち、例えば乾式の表面加工を行うために好適な合成砥石100は、砥粒率(Vg)が、0体積%より大きく、40体積%以下の、砥粒101と、結合剤率(Vb)が、35体積%以上で、90体積%以下である、不織布製の結合剤102と、を含み、合成砥石100の気孔率(Vp)は、10体積%以上で、55体積%以下である。
本実施形態によれば、例えば乾式の研磨加工を行う際などに、摩擦熱が過大となることを抑制可能な合成砥石100、合成砥石アセンブリ200、及び、合成砥石100の製造方法を提供することができる。
【0024】
本実施形態では、結合剤102の不織布としてPET短繊維を用いる例について、合成砥石100として形成可能な範囲を設定した。結合剤102としての不織布は、ポリエステル短繊維のほか、ポリアミド(PA)短繊維、又は、ポリプロピレン(PP)短繊維を用いることができる。なお、不織布としては、ポリエステル短繊維、ポリアミド(PA)短繊維、及び、ポリプロピレン(PP)短繊維の1つ又は複数を選択して用いてもよい。そして、これら不織布を結合剤102として用いる場合も、上述した砥粒率(Vg)、結合剤率(Vb)、気孔率(Vp)の体積比率の範囲は、PET短繊維を用いる場合と同様に設定できる。なお、結合剤102としての不織布は、これらに限定されるものではない。例えば、長繊維の不織布を用いることができる。長繊維の不織布としては、ポリエステル長繊維、ポリプロピレン長繊維等、又は、これらの混合物を用いることができる。
なお、短繊維の不織布とは、繊維がカットされたものを使用したものであり、長繊維の不織布とは、繊維がエンドレスのように繋がったものを使用したものである。短繊維の不織布は、カットした繊維を用いており、短繊維の不織布の繊維長は、適宜に設定可能である。短繊維の不織布の繊維長の一例は、ミクロンオーダーである。また、長繊維の不織布は例えば巻取長と同じ長さに繋がった繊維である。例えば100mの巻取りがあるとすると、1本の繊維は略100mとなる。
【0025】
本実施形態では、合成砥石100は、円盤状に設けられる例について説明した。合成砥石100は、ペレット状や、細長い直方体状など、種々の形状に形成され得る。合成砥石アセンブリ200は、合成砥石100を保持するように、適宜の形状に形成される。
【0026】
本実施形態に係る合成砥石100は、乾式加工を用いる例について説明したが、例えば研削水(例えば純水)を用いた湿式加工でも使用可能である。
【0027】
(第1変形例)
本変形例に係る合成砥石100は、第1のフィラーとして、適宜の大きさの粗大粒子が含まれる場合について説明する。
【0028】
第1のフィラーは、例えば球状であることが好適であるが、必ずしも球体に限られず、塊状のものであれば多少の凹凸や変形は含まれる。第1のフィラーは、例えばシリカであり、不織布製の結合剤102により分散されて固定されている。第1のフィラーは、砥粒101の粒径よりも大きい粒径のシリカと、大きい粒径のシリカの周りに固定される小さい粒径のシリカとを含むことが好適である。小さい粒径のシリカは、砥粒101の粒径に比べて小さいことが好適である。合成砥石100における第1のフィラーの体積比率は、例えば砥粒101の砥粒率(Vg)に基づいて、結合剤102の結合剤率(Vb)との相関により設定される。すなわち、本変形例では、合成砥石100は、砥粒101の砥粒率(Vg)を先に決め、その後、結合剤102の結合剤率(Vb)及び第1のフィラーの体積比率を結合剤102及び第1のフィラーの相関により設定する。第1のフィラーは、0体積%より多く、40体積%以下であることが好適である。
【0029】
なお、被削物であるシリコンを主成分とするウェーハWに対して、酸化セリウムからなる砥粒101はウェーハWまたはその酸化物と同等か又は軟質である。また、砥粒101に対して、シリカからなる第1のフィラーはウェーハWまたはその酸化物と同質又は軟質である。
【0030】
砥粒101、不織布製の結合剤102、第1のフィラーを含む合成砥石100は、上述した実施形態で説明したように製造される。
【0031】
第1のフィラーは砥粒101よりも平均粒径が大きいため、加工中の合成砥石100とウェーハWとはほとんど第1のフィラーの頂点を介して接触する。すなわち、合成砥石100の母材(砥粒101及び不織布製の結合剤102)とウェーハWとの間には、第1のフィラーが存在していることから、母材とウェーハWとは直接接触せず、一定の隙間が生じる。
【0032】
第1のフィラーがウェーハWと接触した状態で、加工が開始されると、母材に外力が作用する。この外力が連続して作用することで、母材から砥粒101が脱粒する。遊離した砥粒101は、合成砥石100とウェーハWとの隙間において、第1のフィラーに付着した状態で加工界面に存在する。このため、加工中の砥粒101とウェーハWとはほとんど第1のフィラーの頂点を介して接触する。このため、砥粒101とウェーハWとの実接触面積は大幅に小さくなり、加工点での作用圧力は高まる。したがって、高い加工能率で研削加工が進む。
【0033】
隙間によって、ウェーハWの表面付近は外気との循環が促進され、加工面が冷却される。また、砥粒101によって生じたスラッジは隙間を介してウェーハWから外部に排出され、ウェーハWの表面が傷つくことを防止できる。この結果、摩擦熱によるウェーハWの表面の焼けやスクラッチを防止できる。
【0034】
このようにして、合成砥石100により、ウェーハWの表面を平坦、かつ、所定の表面粗さに研削する。
【0035】
本変形例に係る合成砥石100によれば、加工が進行しても砥粒101とウェーハWとの接触圧を十分に維持して加工能率を維持し、しかも結合剤102とウェーハWとの直接的な接触を抑制することでウェーハWの品質低下及びスクラッチの発生を防止できる。本変形例では、上述した実施形態で説明したように、合成砥石100と被削物との間に生じた熱により、摩擦熱が過大となることを抑制可能である。
【0036】
第1のフィラーとしては、シリカ、カーボンとそれらの多孔質体であるシリカゲル、活性炭、球状樹脂等が適用可能である。なお、気孔形成剤として用いられる中空体バルーンは加工中に割れてスクラッチの原因となるため不適である。
【0037】
(第2変形例)
本変形例に係る合成砥石100は、第2のフィラーとして、第1変形例で説明した第1のフィラーよりも小さい、適宜の大きさの導電性の物質が含まれる場合について説明する。また、上述したCMG装置10の砥石保持部材43は、本変形例では、導電性を有するとともに、適宜の熱伝導性を有する素材として、例えばアルミニウム合金材を用いる例について説明する。
【0038】
導電性の物質として、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらの物質は、砥粒101の平均粒径よりも小さい。合成砥石100における第2のフィラーの体積比率は、例えば砥粒101の砥粒率(Vg)に基づいて、結合剤102の結合剤率(Vb)との相関により設定される。すなわち、本変形例では、合成砥石100は、砥粒101の砥粒率(Vg)を先に決め、その後、結合剤102の結合剤率(Vb)及び第2のフィラーの体積比率を結合剤102及び第2のフィラーの相関により設定する。第2のフィラーは、0体積%より多く、10体積%以内で付加されることが好適である。また、第2のフィラーは、例えばカーボンナノチューブなどを用いることにより、合成砥石100の構造体としての強度を向上させることができる。
【0039】
CMG装置10でウェーハWの加工が開始されると、合成砥石100とウェーハWとが摺動し、結合剤102に外力が作用する。この外力が連続して作用することで、砥粒101が脱粒する。遊離した砥粒101は、合成砥石100とウェーハWとの隙間において摺動される。砥粒101の化学的機械的作用により、ウェーハWの表面が研磨される。
【0040】
ウェーハWの表面が研磨され、摩擦が生じると、ウェーハWの表面に静電気が生じ得る。このとき、導電性の第2のフィラーは、ウェーハWの表面の静電気を砥石保持部材43(図6参照)に流す。したがって、本実施形態に係る合成砥石100を用いることで、ウェーハWの表面を研磨しながら、ウェーハWの表面に生じる静電気を除去することができる。この結果、ウェーハWの表面に塵埃等が付着することを防止できる。
【0041】
また、本変形例では、合成砥石100に比べて砥石保持部材43の熱伝導性が高い。ウェーハWの表面が研磨され、摩擦が生じると、ウェーハWの表面に摩擦熱が生じる。このとき、第2のフィラーで摩擦熱を吸熱し、第2のフィラーで吸熱した熱を、砥石保持部材43に熱伝導する。したがって、本変形例に係る合成砥石100を用いることで、ウェーハWの表面を研磨しながら、ウェーハWの表面に生じる摩擦熱を除去することができる。この結果、合成砥石100の表面とウェーハWの表面との間の摩擦熱によりウェーハWの表面に焼けが生じることを防止でき、また、スクラッチを防止できる。したがって、本変形例に係る合成砥石100は、良好にウェーハWの表面を加工することができるだけでなく、合成砥石100の長寿命化を図ることができる。
【0042】
なお、合成砥石100とともに回転する砥石保持部材43に放熱フィン等の放熱部を設け、すなわち、合成砥石アセンブリ200が放熱部(熱伝達部)を有することも好適である。この場合、回転により放熱部が空気に触れ、合成砥石100の熱が効果的に放熱される。
また、砥石保持部材43の内部に、冷却水などの配水管を講じることで砥石保持部材43及び合成砥石100を冷却することも可能である。
本変形例では、砥石保持部材43が導電性及び合成砥石100よりも高い熱伝導性を有する例について説明したが、導電性及び合成砥石100よりも高い熱伝導性の少なくとも一方を有する素材で形成されていてもよい。導電性を有する場合、被削物と合成砥石100との間の静電気を除去することができ、合成砥石100よりも高い熱伝導性を有する場合、合成砥石100に生じ得る熱を効果的に放熱することができる。
【0043】
なお、第1変形例では第1のフィラーを用いる例について説明し、第2変形例では第2のフィラーを用いる例について説明した。合成砥石100は、第1のフィラー及び第2のフィラーの両方を含むことも好適である。
【0044】
(第3変形例)
本変形例に係る合成砥石100は、第3のフィラーとして、第1変形例で説明した第1のフィラーよりも小さい、適宜の大きさの粒子が含まれる場合について説明する。
【0045】
第3のフィラーの粒子として、グリーンカーボランダム(GC)等が挙げられる。これら粒子は、被削物であるウェーハWより硬い。GC等の第3のフィラーの粒子は、砥粒101の平均粒径よりも大きくても小さくてもよい。もちろん、GC等の粒子は、砥粒101の平均粒径と同程度の大きさであってもよい。
例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化セリウム(セリア)、酸化シリコン(シリカ)等の金属酸化物系の砥粒101の平均粒径は、GCよりも大きいもの、小さいもの、同程度の大きさのものがあり得る。例えば、アルミナ、ジルコニア、セリア系の砥粒101の平均粒径は、GCよりも大きなものが殆どである。例えば、アルミナ系の砥粒101の平均粒径は、GCと同程度の大きさ(~200nm)のものがあり得る。例えば、GC等の粒子が10nmである場合、シリカ等の砥粒101の平均粒径は1nmの場合があり得る。合成砥石100における第3のフィラーの体積比率は、例えば砥粒101の砥粒率(Vg)に基づいて、結合剤102の結合剤率(Vb)との相関により設定される。第3のフィラーは、0体積%より多く、10体積%以内で付加されることが好適である。
【0046】
ウェーハWの表面とは反対側の裏面に細かいキズ等のゲッタリングサイトを形成し、そのゲッタリングサイトで不純物を捕獲する技術(ゲッタリング効果)がある。GCは、ウェーハWの裏面よりも硬質で、ウェーハWの裏面にわざとキズを付けるために用いる。
【0047】
本変形例では、上述した実施形態で説明したように、合成砥石100と被削物との間に生じた熱により、摩擦熱が過大となることを抑制可能である。また、導電性を備えたGCであれば、合成砥石100と被削物との間に生じ得る静電気を抑制できる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0049】
10…CMG装置、43…砥石保持部材、100…合成砥石、101…砥粒、102…結合剤、200…合成砥石アセンブリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-12-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削物の表面加工を行うための合成砥石であって、
砥粒率(Vg)が、0体積%より大きく、40体積%以下の、砥粒と、
結合剤率(Vb)が、35体積%以上で、90体積%より小さい、不織布製の結合剤と、
を含み、
前記合成砥石の気孔率(Vp)は、10体積%より大きく、55体積%以下である、
合成砥石。
【請求項2】
前記不織布製の結合剤は、ポリエステル短繊維、ポリアミド短繊維、ポリプロピレン短繊維の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の合成砥石。
【請求項3】
前記合成砥石は、乾式に前記表面加工を行うために用いられ、
前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーの少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の合成砥石。
【請求項4】
砥粒と、
前記砥粒を分散させた状態に保持する不織布製の結合剤と、
前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーの少なくとも1つを有するフィラーと
を含む、表面加工を行うための合成砥石。
【請求項5】
前記被削物に対して乾式により化学機械研削作用を発揮する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の合成砥石。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載の合成砥石と、
前記合成砥石が固定され、導電性及び前記合成砥石よりも高い熱伝導性の少なくとも一方を有する基体と
を有する、
合成砥石アセンブリ。
【請求項7】
請求項1に記載の合成砥石の製造方法であって、
前記砥粒及び前記不織布製の結合剤を混合させて混合材を得ること、
前記混合材を金型に充填し、ホットプレスにより成型すること、
前記成型した成型体を、脱型すること、
を含む、
合成砥石の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の一態様に係る、表面加工を行うための合成砥石は、砥粒率(Vg)が、0体積%より大きく、40体積%以下の、砥粒と、結合剤率(Vb)が、35体積%以上で、90体積%より小さい、不織布製の結合剤と、を含む。そして、合成砥石の気孔率(Vp)は、10体積%より大きく、55体積%以下である。