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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131774
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L21/78 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042231
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆志
【テーマコード(参考)】
5F063
【Fターム(参考)】
5F063AA05
5F063AA36
5F063BA43
5F063CB02
5F063CB05
5F063CB23
5F063CB26
5F063CC49
5F063DD27
(57)【要約】
【課題】 半導体基板を分割するための改質層を形成するときにクラックを抑制する。
【解決手段】 半導体素子の製造方法であって、下記の工程を有する。半導体基板準備工程では、上面側の表層部に複数の素子領域が設けられた半導体基板を準備する。分解領域形成工程では、前記上面に、複数の前記素子領域の境界に沿って線状に伸びる分解領域を形成する。第1改質層形成工程では、前記半導体基板にレーザを照射することによって第1改質層を形成する。前記第1改質層は、前記分解領域に沿って伸び、前記分解領域よりも広い幅を有するように形成される。前記第2改質層形成工程では、前記素子領域にレーザを照射することによって第2改質層を形成する。第2改質層は、前記第2改質層が前記第1改質層と繋がるように形成される。分割工程では、前記第1改質層と前記第2改質層に沿って前記半導体基板を分割する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の製造方法であって、
上面側の表層部に複数の素子領域(20)が設けられた半導体基板であって、前記上面において複数の前記素子領域がマトリクス状に配列されている前記半導体基板(12)を準備する半導体基板準備工程と、
前記上面に、複数の前記素子領域の境界に沿って線状に伸びる分解領域(30)を形成する分解領域形成工程と、
前記半導体基板にレーザを照射することによって前記半導体基板の内部に第1改質層(61)を形成する工程であって、上側から見たときに前記第1改質層が前記分解領域に重複した状態で前記分解領域に沿って伸び、前記半導体基板の厚み方向において前記分解領域が存在する範囲内の一部に前記第1改質層が存在し、前記第1改質層が前記分解領域よりも広い幅を有するように前記第1改質層を形成する第1改質層形成工程と、
前記素子領域を走査するように前記素子領域にレーザを照射することによって前記素子領域の内部に第2改質層(62)を形成する工程であって、前記半導体基板の厚み方向において前記第2改質層が存在する範囲と前記第1改質層が存在する範囲が重複し、前記第2改質層が前記第1改質層と繋がるように前記第2改質層を形成する第2改質層形成工程と、
前記第1改質層と前記第2改質層に沿って前記半導体基板を分割する分割工程、
を有する、製造方法。
【請求項2】
前記第1改質層形成工程の後であって前記第2改質層形成工程の前に、前記半導体基板にレーザを照射することによって前記半導体基板の内部に第3改質層(63)を形成する工程であって、上側から見たときに前記第3改質層が前記第1改質層と交差し、前記半導体基板の厚み方向において前記第3改質層が存在する範囲と前記第1改質層が存在する範囲が重複するように前記第3改質層を形成する工程、
をさらに有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記素子領域が、長方形であり、
前記第2改質層形成工程では、前記長方形の短辺に平行にレーザの焦点を移動させる処理を前記長方形の長辺に平行な方向に位置をずらしながら繰り返し実施する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2改質層形成工程では、前記第1改質層によって区画された領域内において外周側から中心側に向かって渦巻き状にレーザの焦点を移動させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分解領域形成工程では、ダイシングブレードによって前記上面に溝を形成し、
前記溝が前記分解領域である、
請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体素子の製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、半導体基板を上下に分割して薄い基板を作成する技術が開示されている。この技術では、半導体基板にレーザを照射することによって、半導体基板の内部に横方向に沿って伸びる改質層を形成する。次に、半導体基板を改質層に沿って分割する。これによって、薄い基板を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-133487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体基板にレーザを照射すると、レーザの照射箇所で結晶が分解され、改質層が形成される。改質層が形成されるときにガスが発生する。従来の技術では、改質層が形成されるときに発生するガスの圧力によって、半導体基板にクラックが生じる場合がある。本明細書では、半導体基板を分割するための改質層を形成するときに、クラックを抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明明細書が開示する半導体素子の製造方法は、半導体基板準備工程と、分解領域形成工程と、第1改質層形成工程と、第2改質層形成工程と、分割工程を有する。前記半導体基板準備工程では、上面側の表層部に複数の素子領域が設けられた半導体基板を準備する。ここでは、前記上面において複数の前記素子領域がマトリクス状に配列されている前記半導体基板を準備する。前記分解領域形成工程では、前記上面に、複数の前記素子領域の境界に沿って線状に伸びる分解領域を形成する。前記第1改質層形成工程では、前記半導体基板にレーザを照射することによって前記半導体基板の内部に第1改質層を形成する。ここでは、上側から見たときに前記第1改質層が前記分解領域に重複した状態で前記分解領域に沿って伸び、前記半導体基板の厚み方向において前記分解領域が存在する範囲内の一部に前記第1改質層が存在し、前記第1改質層が前記分解領域よりも広い幅を有するように前記第1改質層を形成する。前記第2改質層形成工程では、前記素子領域を走査するように前記素子領域にレーザを照射することによって前記素子領域の内部に第2改質層を形成する。ここでは、前記半導体基板の厚み方向において前記第2改質層が存在する範囲と前記第1改質層が存在する範囲が重複し、前記第2改質層が前記第1改質層と繋がるように前記第2改質層を形成する。分割工程では、前記第1改質層と前記第2改質層に沿って前記半導体基板を分割する。
【0006】
なお、「改質層」は、元の半導体基板の結晶が分解されて生成された物質により構成された層を意味する。また、「分解領域」は、元の半導体基板の結晶性が分解されている領域を意味する。分解領域は、溝であってもよいし、改質層であってもよい。
【0007】
第1改質層形成工程では、レーザの照射箇所(すなわち、第1改質層の形成箇所)でガスが発生する。第1改質層は分解領域と重複した箇所に形成されるので、第1改質層の形成箇所で発生するガスは分解領域を介して半導体基板の外部へ抜ける。したがって、第1改質層形成工程では、半導体基板の内部の圧力上昇が抑制され、クラックの発生が抑制される。第2改質層形成工程では、素子領域を走査するように素子領域にレーザを照射することによって素子領域の内部に第2改質層を形成する。第1改質層は分解領域よりも広い幅を有するので、第2改質層の形成箇所から第1改質層までの距離は、第2改質層が形成される箇所から分解領域までの距離よりも短い。したがって、第2改質層の形成箇所で発生するガスは、第1改質層まで到達し易い。このため、第2改質層の形成箇所で発生するガスは、第1改質層と分解領域を介して半導体基板の外部へ抜ける。したがって、第2改質層形成工程でも、半導体基板の内部の圧力上昇が抑制され、クラックの発生が抑制される。以上に説明したように、この製造方法によれば、半導体基板を分割するために改質層を形成するときに、クラックを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】半導体基板12の平面図。
図2】溝30を形成した後の半導体基板12の平面図。
図3】溝30を形成した後の半導体基板12の拡大縦断面図。
図4】第1改質層形成工程を示す半導体基板12の拡大縦断面図。
図5】第1改質層形成工程における焦点Xの移動経路を示す拡大平面図。
図6】第1改質層61を形成した後の半導体基板12の平面図。
図7】第2改質層形成工程を示す半導体基板12の拡大縦断面図。
図8】第2改質層62を形成した後の半導体基板12の平面図。
図9】分割工程を示す半導体基板12の拡大縦断面図。
図10】実施例2の第2改質層形成工程での焦点Xの移動経路を示す拡大平面図。
図11】比較例の第2改質層形成工程での焦点Xの移動経路を示す拡大平面図。
図12】実施例3の第2改質層形成工程での焦点Xの移動経路を示す拡大平面図。
図13】第3改質層63を形成した後の半導体基板12の平面図。
図14】変形例の第1改質層形成工程を示す半導体基板12の拡大縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する一例の半導体素子の製造方法は、前記第1改質層形成工程の後であって前記第2改質層形成工程の前に、前記半導体基板にレーザを照射することによって前記半導体基板の内部に第3改質層を形成する工程を有していてもよい。この工程では、上側から見たときに前記第3改質層が前記第1改質層と交差し、前記半導体基板の厚み方向において前記第3改質層が存在する範囲と前記第1改質層が存在する範囲が重複するように前記第3改質層を形成してもよい。
【0010】
この構成によれば、改質層を形成するときにクラックの発生をより効果的に抑制できる。
【0011】
本明細書が開示する一例の半導体素子の製造方法においては、前記素子領域が長方形であってもよい。前記第2改質層形成工程では、前記長方形の短辺に平行にレーザの焦点を移動させる処理を前記長方形の長辺に平行な方向に位置をずらしながら繰り返し実施してもよい。
【0012】
この構成によれば、第2改質層の形成箇所で発生したガスが半導体基板の外部により抜けやすい。
【0013】
本明細書が開示する一例の半導体素子の製造方法においては、前記第2改質層形成工程では、前記第1改質層によって区画された領域内において外周側から中心側に向かって渦巻き状にレーザの焦点を移動させてもよい。
【0014】
この構成によれば、第2改質層の形成箇所で発生したガスが半導体基板の外部により抜けやすい。
【0015】
本明細書が開示する一例の半導体素子の製造方法においては、前記分解領域形成工程では、ダイシングブレードによって前記上面に溝を形成してもよい。前記溝が前記分解領域であってもよい。
【実施例0016】
実施例1の製造方法では、半導体基板準備工程、分解領域形成工程、第1改質層形成工程、第2改質層形成工程、及び、分割工程を順に実施する。
【0017】
まず、半導体基板準備工程において、図1に示す半導体基板12を準備する。本実施例では、半導体基板12はGaNにより構成されている。ただし、半導体基板12が、Gaなどの他の半導体材料によって構成されていてもよい。半導体基板12の上面側の表層部には、複数の素子領域20が設けられている。図示していないが、各素子領域20には、p型半導体層、n型半導体層、電極等により構成された半導体素子構造が設けられている。各素子領域20は、半導体基板12の上面において縦横にマトリクス状に配列されている。
【0018】
次に、分解領域形成工程を実施する。実施例1では、分解領域として溝30を形成する。ここでは、図2、3に示すように、上面に各素子領域20の境界に沿って線状に伸びる溝30を形成する。すなわち、溝30は、半導体基板12の上面において格子状に伸びている。溝30は、ダイシングブレード等によって半導体基板12を切削することで形成できる。
【0019】
次に、第1改質層形成工程を実施する。ここでは、図4に示すように、半導体基板12の内部で焦点Xが形成されるように、半導体基板12に対してレーザLを照射する。本実施例では、レーザLをパルス照射する。しかし、他の実施例では、レーザを連続照射してもよい。半導体基板12にレーザLを照射すると、焦点XにおいてGaNが分解され、ガリウムが析出する。析出したガリウムによって改質層が形成される。以下では、第1改質層形成工程で形成される改質層を、第1改質層61という。ここでは、図4に示すように、半導体基板12の厚み方向において、溝30が存在する深さ範囲の最下部に第1改質層61を形成する。また、ここでは、図5に示すように、半導体基板12を上から見たときに溝30を横切るように焦点Xを往復させながら溝30に沿って焦点Xを移動させる。これにより、図4に示すように、第1改質層61が溝30と重複するように形成される。すなわち、図6に示すように、上側から見たときに第1改質層61が溝30に重複した状態で溝30に沿って伸びるように第1改質層61が形成される。また、第1改質層61は、溝30よりも広い幅を有するように形成される。改質層を形成するとき(すなわち、GaNが分解するとき)に、窒素ガスが発生する。第1改質層61の形成時に発生する窒素ガスは、溝30を介して半導体基板12の外部に排出される。第1改質層61が溝30に隣接しているので、第1改質層61で発生した窒素ガスが溝30を介して外部へ排出され易い。したがって、第1改質層形成工程では半導体基板12でのクラックの発生が抑制される。
【0020】
なお、第1改質層形成工程では、図5とは別の移動経路で焦点Xを移動させてもよい。例えば、溝30と平行に焦点Xを移動させる処理を、第1改質層61を形成すべき範囲で繰り返し実施してもよい。また、例えば、半導体基板12全体を走査するように焦点Xを移動させ、溝30の周辺以外の部分ではレーザの出力をオフしてもよい。
【0021】
次に、第2改質層形成工程を実施する。第2改質層形成工程では、図7に示すように、半導体基板12の内部で焦点Xが形成されるように、半導体基板12に対してレーザLを照射する。これにより、半導体基板12の内部に改質層を形成する。ここでは、第2改質層形成工程で形成された改質層を、第2改質層62という。ここでは、半導体基板12の厚み方向において第1改質層61が存在する範囲と重複する範囲に第2改質層62を形成する。より詳細には、第1改質層61と同じ深さに第2改質層62を形成する。また、ここでは、上側から見たときに半導体基板12の全域を走査するように焦点Xを移動させる。これによって、図8に示すように、上側から見たときに各素子領域20の全域に第2改質層62を形成する。第2改質層62は、第1改質層61と繋がる。したがって、第2改質層62の形成時に発生する窒素ガスは、第1改質層61と溝30を介して半導体基板12の外部に排出される。上述したように、第1改質層形成工程において溝30の周囲に溝30よりも広い幅を有する第1改質層61が形成されている。このため、素子領域20内に第2改質層62を形成するときに、第2改質層62から第1改質層61までの距離が短い。したがって、第2改質層62で発生した窒素ガスが、第1改質層61と溝30を介して外部へ排出され易い。このため、第2改質層62の形成時に素子領域20内でガス溜まり(すなわち、窒素ガスが溜まっている空間)が形成されがたい。したがって、素子領域20内でのクラックの発生を抑制できる。
【0022】
次に、分割工程を実施する。分割工程では、図9に示すように、半導体基板12の上面に支持部材40を貼り付け、半導体基板12の上部12aを半導体基板12の下部12bから引き離す方向に力を加える。改質層61、62の強度が元の半導体結晶の強度よりも低いので、改質層61、62を境界として半導体基板12の上部12aが半導体基板12の下部12bから剥離する。これによって、各素子領域20における半導体基板12の厚さが薄くなる。また、これによって、各素子領域20が複数の半導体チップ(すなわち、半導体素子)に分割される。また、半導体基板12の下部12bは、半導体素子の製造に再利用される。その後、各素子領域20の下面に電極を形成することで、半導体素子が完成する。
【実施例0023】
図10に示すように、実施例2では、素子領域20が長方形である。その他の点において、実施例2は実施例1と等しい。
【0024】
実施例2でも、第2改質層形成工程において、半導体基板12の全域を走査するように焦点Xを移動させる。図10の破線矢印は、実施例2の第2改質層形成工程における焦点Xの移動経路を示している。実施例2では、長方形の短辺に平行な方向に焦点Xを移動させる処理を、長方形の長辺に平行な方向に位置をずらしながら繰り返し実施する。なお、図10では焦点Xを往復させるように破線矢印が記載されているが、焦点Xを短辺に沿って一方向に移動させてもよい。また、図11の破線矢印は、比較例の第2改質層形成工程における焦点Xの移動経路を示している。比較例では、長辺に平行な方向に焦点Xを移動させる処理を、短辺に平行な方向に位置をずらしながら繰り返し実施する。図10、11において、破線矢印が描かれている領域(すなわち、焦点Xが通過済みの領域)には、既に第2改質層62が形成されている。
【0025】
図11では、図11中において下側に位置する第1改質層61と焦点Xの間に改質層62が形成されていない。したがって、焦点Xで発生した窒素ガスは、主に矢印100~102に示す経路で、図11中において上側、左側及び右側に位置する第1改質層61へ流れる。この場合、経路100の距離は短辺の長さとほぼ等しく、経路101、102の距離は長辺の長さの1/2とほぼ等しい。これに対し、図10では、図10中において右側に位置する第1改質層61と焦点Xの間に改質層62が形成されていない。したがって、焦点Xで発生した窒素ガスは、主に矢印200~202に示す経路で、図10中において左側、上側及び下側に位置する第1改質層61へ流れる。この場合、経路201、202の距離は短辺の長さの1/2とほぼ等しく、短い。このように、実施例2の方法によれば、比較例の方法に比べて、焦点Xで発生する窒素ガスの排出経路が短く、窒素ガスが半導体基板12の外部に排出され易い。したがって、実施例2の構成によれば、第2改質層形成工程において半導体基板12のクラックをより効果的に抑制できる。
【実施例0026】
実施例3では、第2改質層形成工程において、図12に示すように焦点Xを移動させる。すなわち、焦点Xを、各素子領域20の外周部から中心部に向かって渦巻き状に移動させる。この構成によれば、焦点Xがいずれの位置にある場合でも、焦点Xから最も近い溝30までの最短距離で窒素ガスの排出経路を確保できるので、窒素ガスが半導体基板12の外部に排出され易い。したがって、実施例3の構成によれば、第2改質層形成工程において半導体基板12のクラックをより効果的に抑制できる。
【実施例0027】
実施例4では、第1改質層形成工程よりも後であって第2改質層形成工程よりも前に、第3改質層形成工程を実施する。第3改質層形成工程では、半導体基板12の内部で焦点が形成されるように、半導体基板12に対してレーザを照射する。これにより、半導体基板12の内部に改質層を形成する。ここでは、第3改質層形成工程で形成された改質層を、第3改質層63という。また、ここでは、半導体基板12の厚み方向において第1改質層61が存在する範囲と重複する範囲に第3改質層63を形成する。より詳細には、第1改質層61と同じ深さに第3改質層63を形成する。ここでは、図13に示すように、上側から見たときに第3改質層63が第1改質層61と交差するように線状(言い換えると、格子状)に第3改質層63を形成する。なお、第3改質層63の幅が狭いので、第3改質層63を形成するときに半導体基板12内にガス溜まりが形成され難い。したがって、第3改質層63を形成するときに半導体基板12にクラックは生じ難い。
【0028】
第3改質層形成工程の後に、第2改質層形成工程が実施される。第2改質層形成工程においては、第2改質層62の形成位置(すなわち、焦点Xの位置)で発生した窒素ガスは第1改質層61または第3改質層63を介して溝30へ流れる。素子領域20が第1改質層61と第3改質層63によって細かく区画されているので、第2改質層62の形成位置から第1改質層61または第3改質層63までの距離は短い。すなわち、窒素ガスが流れる経路の距離が短い。このように、実施例4では、第2改質層62の形成時に発生する窒素ガスの排出経路を短くできるので、窒素ガスが半導体基板12の外部に排出され易い。したがって、実施例4の構成によれば、第2改質層形成工程において半導体基板12のクラックをより効果的に抑制できる。
【0029】
なお、上述した各実施例では、溝30の下端の深さに第1改質層61を形成した。しかしながら、図14に示すように、溝30の途中の深さに第1改質層61を形成してもよい。
【0030】
また、上述した各実施例では、分解領域として溝30を形成した。しかしながら、溝30に変えて、改質層(以下、第4改質層という)を形成してもよい。すなわち、各素子領域20の境界に沿って溝30に相当する深さ範囲(すなわち、上面から所定の深さまでの範囲)にレーザの焦点を移動させて、各素子領域20の境界に沿って伸びる第4改質層を形成してもよい。この構成では、半導体基板12の内部で発生した窒素ガスが第4改質層を介して外部へ排出される。なお、分解領域として第4改質層を形成した場合には、分割工程の後に、半導体基板12の上部12aをエキスパンド処理によって第4改質層に沿ってさらに分割することで、半導体素子を製造することができる。
【0031】
以下に、本明細書が開示する技術の構成を列挙する。
(構成1)
半導体素子の製造方法であって、
上面側の表層部に複数の素子領域(20)が設けられた半導体基板であって、前記上面において複数の前記素子領域がマトリクス状に配列されている前記半導体基板(12)を準備する半導体基板準備工程と、
前記上面に、複数の前記素子領域の境界に沿って線状に伸びる分解領域(30)を形成する分解領域形成工程と、
前記半導体基板にレーザを照射することによって前記半導体基板の内部に第1改質層(61)を形成する工程であって、上側から見たときに前記第1改質層が前記分解領域に重複した状態で前記分解領域に沿って伸び、前記半導体基板の厚み方向において前記分解領域が存在する範囲内の一部に前記第1改質層が存在し、前記第1改質層が前記分解領域よりも広い幅を有するように前記第1改質層を形成する第1改質層形成工程と、
前記素子領域を走査するように前記素子領域にレーザを照射することによって前記素子領域の内部に第2改質層(62)を形成する工程であって、前記半導体基板の厚み方向において前記第2改質層が存在する範囲と前記第1改質層が存在する範囲が重複し、前記第2改質層が前記第1改質層と繋がるように前記第2改質層を形成する第2改質層形成工程と、
前記第1改質層と前記第2改質層に沿って前記半導体基板を分割する分割工程、
を有する、製造方法。
(構成2)
前記第1改質層形成工程の後であって前記第2改質層形成工程の前に、前記半導体基板にレーザを照射することによって前記半導体基板の内部に第3改質層(63)を形成する工程であって、上側から見たときに前記第3改質層が前記第1改質層と交差し、前記半導体基板の厚み方向において前記第3改質層が存在する範囲と前記第1改質層が存在する範囲が重複するように前記第3改質層を形成する工程、
をさらに有する構成1に記載の製造方法。
(構成3)
前記素子領域が、長方形であり、
前記第2改質層形成工程では、前記長方形の短辺に平行にレーザの焦点を移動させる処理を前記長方形の長辺に平行な方向に位置をずらしながら繰り返し実施する、構成1または2に記載の製造方法。
(構成4)
前記第2改質層形成工程では、前記第1改質層によって区画された領域内において外周側から中心側に向かって渦巻き状にレーザの焦点を移動させる、構成1または2に記載の製造方法。
(構成5)
前記分解領域形成工程では、ダイシングブレードによって前記上面に溝を形成し、
前記溝が前記分解領域である、
構成1~4のいずれか1つに記載の製造方法。
【0032】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0033】
12:半導体基板、20:素子領域、30:溝、61:第1改質層、62:第2改質層
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