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特開2024-131785バリア紙、産業用材、包装材及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131785
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】バリア紙、産業用材、包装材及び積層体
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/82 20060101AFI20240920BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20240920BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20240920BHJP
   D21H 19/18 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240920BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D21H19/82
D21H19/20 A
D21H19/22
D21H19/20 B
D21H19/18
B32B27/30 102
B32B27/30 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042247
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】田中 基晴
(72)【発明者】
【氏名】澤木 恵子
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD02
3E086AD06
3E086AD16
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB51
3E086CA01
3E086DA08
4F100AA01B
4F100AA01D
4F100AA12E
4F100AA17E
4F100AB01E
4F100AC03C
4F100AC03E
4F100AJ11C
4F100AJ11E
4F100AK01E
4F100AK12C
4F100AK12E
4F100AK21B
4F100AK21D
4F100AK25C
4F100AK25E
4F100AK69B
4F100AK69D
4F100AL01C
4F100AL01E
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100DG10A
4F100EH46
4F100EH66
4F100GB15
4F100GB90
4F100JB07
4F100JB16E
4F100JD02B
4F100JD02D
4F100JD04C
4F100JD04E
4F100JK15
4F100JL12E
4F100YY00B
4F100YY00D
4L055AG08
4L055AG51
4L055AG63
4L055AG64
4L055AG71
4L055AG89
4L055AH02
4L055AH09
4L055AH11
4L055AH18
4L055AJ02
4L055AJ04
4L055BE09
4L055CD01
4L055CF03
4L055EA32
4L055FA13
4L055FA19
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性が良好なバリア紙を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るバリア紙は、基材と、上記基紙の片面又は両面に積層されるガスバリア層と、上記ガスバリア層の表面に積層される水蒸気バリア層とを備え、上記ガスバリア層がポリビニルアルコールを主成分とし、上記水蒸気バリア層がワックス樹脂と、主成分としてのスチレンアクリル系共重合体とを含有し、上記ガスバリア層が、上記ポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部以下の無機化合物を含有するか、又は無機化合物を非含有であり、上記水蒸気バリア層が無機化合物を非含有である。上記水蒸気バリア層における上記ワックス樹脂の含有量が、スチレンアクリル系共重合体100質量部に対して1質量部以上15質量部以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
上記基紙の片面又は両面に積層されるガスバリア層と、
上記ガスバリア層の表面に積層される水蒸気バリア層と
を備え、
上記ガスバリア層がポリビニルアルコールを主成分とし、
上記水蒸気バリア層がワックス樹脂と、主成分としてのスチレンアクリル系共重合体とを含有し、
上記ガスバリア層が、上記ポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部以下の無機化合物を含有するか、又は無機化合物を非含有であり、
上記水蒸気バリア層が無機化合物を非含有であるバリア紙。
【請求項2】
上記水蒸気バリア層における上記ワックス樹脂の含有量が、スチレンアクリル系共重合体100質量部に対して1質量部以上15質量部以下である請求項1に記載のバリア紙。
【請求項3】
上記ガスバリア層が上記無機化合物を非含有である請求項1又は請求項2に記載のバリア紙。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のバリア紙を備える産業用材又は包装材。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のバリア紙と、
上記バリア紙の片面又は両面に積層される蒸着層、ヒートシール層又はこれらの組み合わせと
を備え、
上記蒸着層が金属、無機酸化物、又は無機窒化物を主成分とし、
上記ヒートシール層が熱可塑性樹脂を主成分とするフィルム層又は塗工層である積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア紙、産業用材、包装材及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、農業、その他の産業分野等の包装において、従来から内容物の品質低下を防止するために、紙を基紙とし、水蒸気バリア性及びガスバリア性を付与した包装材料が用いられている。
【0003】
このような水蒸気バリア性及びガスバリア性を有する包装材料としては、基紙上に水蒸気バリア層およびガスバリア層が設けられた紙製バリア包装材料が提案されている(特許文献1参照)。上記従来の紙製バリア包装材料においては、水蒸気バリア層が平均粒子径5μm以上、アスペクト比10以上のカオリンを全顔料に対して50質量%~100質量%含有し、ガスバリア層がバインダー樹脂としてポリビニルアルコールを含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/069788号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術の紙製バリア包装材料においては、折り曲げ加工が行われた場合、折り曲げられた箇所のバリア層に圧縮強度がかかることで、バリア層が損傷しやすくバリア性が低下するおそれがある。また、紙製バリア包装材の内容物が水分を含むものである場合、撥水性等の水分に対する耐性がないと包装材料として十分な品質を維持することが困難となる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性が良好なバリア紙の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るバリア紙は、基材と、上記基紙の片面又は両面に積層されるガスバリア層と、上記ガスバリア層の表面に積層される水蒸気バリア層とを備え、上記ガスバリア層がポリビニルアルコールを主成分とし、上記水蒸気バリア層がワックス樹脂と、主成分としてのスチレンアクリル系共重合体とを含有し、上記ガスバリア層が、上記ポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部以下の無機化合物を含有するか、又は無機化合物を非含有であり、上記水蒸気バリア層が無機化合物を非含有である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性が良好なバリア紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るバリア紙は、基材と、上記基紙の片面又は両面に積層されるガスバリア層と、上記ガスバリア層の表面に積層される水蒸気バリア層とを備え、上記ガスバリア層がポリビニルアルコールを主成分とし、上記水蒸気バリア層がワックス樹脂と、主成分としてのスチレンアクリル系共重合体とを含有し、上記ガスバリア層が、上記ポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部以下の無機化合物を含有するか、又は無機化合物を非含有であり、上記水蒸気バリア層が無機化合物を非含有である。
【0010】
当該バリア紙は、ポリビニルアルコールを主成分とするガスバリア層を備えることによって、ガスバリア性が良好である。上記ガスバリア層が、上記ポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部以下の無機化合物を含有するか、又は無機化合物を非含有であり、塗工量が5g/m以上10g/m以下であることで、ガスバリア層の表面に水蒸気バリア層を積層する際の塗工性を良好にできるので、水蒸気バリア層の性状を向上できる。また、当該バリア紙は、折り曲げ加工がされた場合において、バリア性の低下の抑制効果が良好となる。さらに、上記水蒸気バリア層がワックス樹脂と、主成分としてのスチレンアクリル系共重合体とを含有することで、当該バリア紙は水蒸気バリア性を良好にできるとともに、撥水性及び耐水性が向上することができる。また、上記水蒸気バリア層が無機化合物を非含有であることで、柔軟性の低下を招くことなく、バリア紙の折り曲げ時の水蒸気バリア層の損傷を低減できるので、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下をより抑制できる。従って、当該バリア紙は折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性を向上できる。上記「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、含有量が70質量%以上である成分をいう。
【0011】
上記水蒸気バリア層における上記ワックス樹脂の含有量が、スチレンアクリル系共重合体100質量部に対して1質量部以上15質量部以下であることが好ましい。上記水蒸気バリア層における上記ワックス樹脂の含有量が上記範囲であることで、水蒸気バリア層の耐水性を向上できるとともに、バリア紙の折り曲げ時におけるクラック発生の抑制効果を高めることができる。
【0012】
上記ガスバリア層が上記無機化合物を非含有であることが好ましい。上記ガスバリア層が上記無機化合物を非含有であることで、バリア紙の折り曲げ時のバリア層に損傷が発生し難くなるため、水蒸気バリア性能をより向上できる。
【0013】
本発明の一態様に係る産業用材又は包装材は、当該バリア紙を備える。当該産業用材又は包装材は、当該バリア紙を備えることで、ガスバリア性及び水蒸気バリア性に優れ、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性を向上できる産業用材又は包装材を得ることができる。
【0014】
当該積層体は、当該バリア紙と、上記バリア紙の片面又は両面に積層される蒸着層、ヒートシール層又はこれらの組み合わせとを備える。当該積層体は、当該バリア紙と、上記バリア紙の片面又は両面に積層される蒸着層、ヒートシール層又はこれらの組み合わせとを備えることで、ガスバリア性及び水蒸気バリア性に優れ、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性を向上できる多機能かつ加工性が良好な積層体を得ることができる。
【0015】
[本発明の実施形態の詳細]
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<バリア紙>
当該バリア紙は、基材と、上記基材の片面又は両面に積層されるガスバリア層と、上記ガスバリア層の表面に積層される水蒸気バリア層とを備える。
【0017】
[基材]
基材は、原料パルプを抄紙した紙基材や、さらに透明性を付与する材料により加工を加えたグラシン紙、パルプ原料から得られるセロファン紙やパーチメント紙、ワックス類を含浸させたパラフィン紙などの半透明紙等を用いることができる。紙質や強度が求められる用途については、原料パルプを抄紙した紙基材が好適に用いられる。また、透明性が求められる用途については、グラシン紙、セロファン紙、パーチメント紙、パラフィン紙等の半透明紙が好適に用いられる。
【0018】
上記透明性を付与する材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ニトロセルロース、セラック、ロジン等の透明化樹脂、桐油、亜麻仁油、ヒマシ油、親水ヒマシ油、ヤシ油、大豆油、市販のサラダ油等の植物油、カウナバワックス、パームワックス、蜜蝋、鯨蝋、木蝋等の蝋等のワックス類が挙げられる。
【0019】
上記基材は、原料パルプを含有するスラリーを抄紙して得られる。基材は、単層又は多層のいずれであってもよい。また、基材としては、上質紙、中質紙、塗工紙、片艶紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、晒クラフト紙、グラシン紙、板紙、白板紙、ライナー等の公知のものが挙げられる。これらの中でも、基材として、寸法安定性の観点から、ヤンキードライヤーを用いて乾燥工程を行うことで片面を艶面とした片艶紙を使用してもよく、強度及び印刷適性の観点から、化学パルプ100%からなり、非塗工紙である上質紙を使用してもよい。
【0020】
(原料パルプ)
基材を構成する原料パルプとしては、例えば、バージンパルプ、古紙パルプ、これらのパルプを組み合わせたもの等を使用することができる。
【0021】
バージンパルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ(MP)から、化学的に又は機械的に製造されたパルプ等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。印刷面の見栄えや食品包装用途に使用される観点から、晒クラフトパルプのみを使用することが好ましい。
【0022】
古紙パルプとしては、例えば、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ(DIP)、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0023】
原料パルプのフリーネスの下限としては、300mlが好ましく、310mlがより好ましい。原料パルプのフリーネスの上限としては、400mlが好ましく、390mlがより好ましい。ここで、フリーネスは、JIS-P8220-1-2012のパルプの離解方法に準拠して離解することによって離解パルプとし、この離解パルプをJIS-P8121-2-2012のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定される値である。フリーネスが300ml以上であることで、乾燥時の地合ムラを低減し、バリア性能にムラが発生することを抑制できる。フリーネスが400ml以下であることで、紙層の空隙が低減されて、ガスバリア層の塗工液の基材への浸透量を抑制できる結果、ガスバリア層の表面に均一な水蒸気バリア層を形成するので、水蒸気バリア性能をより向上できる。
【0024】
(その他の添加剤)
基材には、必要によりその他の添加剤を内添することができる。添加剤としては、例えば、填料、顔料、サイズ剤、凝結剤、耐油剤、蛍光増白剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、着色染料、着色顔料、耐水化剤等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0025】
(基材の坪量)
坪量(g/m)は、JIS-P-8124:2011「紙及び板紙-坪量の測定方法」に準拠して測定する。基材の坪量の下限としては、30.0g/mが好ましく、32.0g/mがより好ましく、35.0g/mがさらに好ましい。基材の坪量の上限としては、80.0g/mが好ましく、75.0g/mがより好ましく、70.0g/mがさらに好ましい。基材の坪量が30.0g/m以上であることで、抄造時におけるピンホールの発生によるバリア性の低下を抑制できる。基材の坪量が80.0g/m以下であることで、基材が厚くなることによる折り曲げた際のバリア層への負荷を低減できる。
【0026】
(基材の平均厚さ)
基材の平均厚さとしては、30μm以上150μm以下が好ましい。基材の平均厚さが上記範囲であることで、低坪量及び軽量化を可能にしつつ強度を維持できる。「平均厚さ」は、JIS-P8118:2014に準拠して測定される。
【0027】
(基材の塗工面のベック平滑度)
上記基材のガスバリア層を設ける表面のベック平滑度の下限としては、50秒であり、60秒が好ましい。一方、ベック平滑度の上限としては、1150秒であり、1100秒が好ましい。上記基材の塗工面のベック平滑度が上記下限以上であることで、ガスバリア層の塗工液の目止め性が向上し、それによりガスバリア層の性状を良好にできる。一方、上記基材の塗工面のベック平滑度が上記上限を超える場合、ガスバリア層にピンホールが発生し、その上部に水蒸気バリア層を形成すると、水蒸気バリア層の性状が低下するおそれがある。ベック平滑度は、JIS-P8119(1998)に記載の「紙及び板紙-ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準拠した値である。上記ベック平滑度は、空気の流通量(エアーリーク)から平滑性を評価するものである。上記ベック平滑度は、被測定物であるシートを光学的平面仕上げのガラス製試料台とゴム製押え板間に100kPaの圧力で挟み、10mlの空気が比較的広い10cmのガラス製標準面との間を通り、水銀柱約370mmlに減圧保持された器内に流入するのに要する時間で表され、いわゆる被測定物の面における平滑性を示す。ベック平滑度は、比較的広い面におけるマクロ的な平滑性を評価する。当該バリア紙においては、ベック平滑度により上記基材の表面のうねり性を評価できる。従って、ベック平滑度にて上記基材の表面をより適切に評価できる。
【0028】
[ガスバリア層]
当該バリア紙は、上記基材の片面又は両面に積層されるガスバリア層を備える。すなわち、上記水蒸気バリア層は、上記ガスバリア層の表面に積層される。当該バリア紙は、ガスバリア層を備えることによって、ガスバリア性を良好にできる。上記ガスバリア層はポリビニルアルコールを主成分とする。
【0029】
(ポリビニルアルコール)
上記ガスバリア層はポリビニルアルコールを主成分とすることで、基材上に密着した皮膜を形成すると同時に、ガスバリア性を良好にできる。ポリビニルアルコールとしては、例えばOH基が置換されない無変性ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、リン酸変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール等を使用することができる。これらの中でも、良好な被膜強度と臭気の抑制性の観点からエチレン変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0030】
エチレン変性ポリビニルアルコールのエチレン変性度は、モノマー単位全体(エチレン単位+ビニルアルコール単位)に対するエチレン単位のモル%で表される。但し、ビニルアルコール単位には、鹸化されていない酢酸ビニル単位も含まれる。エチレン変性度は、2モル%以上12モル%以下が好ましい。
【0031】
ポリビニルアルコールの平均重合度としては、成膜性及び塗工性に観点から800以上1500以下が好ましい。
【0032】
(無機化合物)
上記ガスバリア層は、ガスバリア層塗工液の浸透と抑制のバランスを整える観点から、無機化合物を含有してもよい。無機化合物としては、例えば微粒カオリン、1級カオリン、2級カオリン、デラミネーティッドカオリン、焼成カオリン等のカオリン、ベントナイト、マイカ、コロイダルシリカ等の層状化合物(扁平化合物)が挙げられる。これらの中でもバリア性能と塗工性との両立の観点から、カオリンが好ましい。
【0033】
無機化合物のアスペクト比の下限としては、15が好ましく、18がより好ましい。無機化合物のアスペクト比が15未満であると、ガスバリア性が十分でないおそれがある。一方、上記無機化合物のアスペクト比の上限としては、120が好ましく、100がより好ましい。無機化合物のアスペクト比が120以下であることで、ガスバリア層の塗工液を均一に塗工できるとともに、基材への浸透も抑えられることから、低塗工量で高いガスバリア性を持たせることができる。ここで、「アスペクト比」とは、無機粒子の形状で、その長径(最長径)と厚さ(最短径)との比をいう。上記アスペクト比は、例えば、レーザー回折・散乱式の粒子分布測定装置堀場製作所製、Horiba LA 950)による粒子画像解析や粉体粒子を電子顕微鏡で撮影し、ランダムに抽出した500個について、直径を厚さで割って平均値を求めることで得ることができる。
【0034】
上記無機化合物の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。一方、上記無機化合物の平均粒子径の上限としては、10.0μmが好ましく、5.0μmがより好ましい。上記無機化合物の平均粒子径が上記範囲であることで、ガスバリア層の表面の凹凸が軽減されることにより、水蒸気バリア層の塗工液の塗工性が向上し、水蒸気バリア層の性状を良好にできる。上記平均粒子径は、レーザー回析散乱法により測定された粒度分布曲線の50%体積粒子径であるメジアン径(D50)である。
【0035】
上記ガスバリア層は、ポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部以下の無機化合物を含有するか、又は無機化合物を非含有である。上記ガスバリア層の表面に水蒸気バリア層を積層する際の塗工性を良好にできるので、水蒸気バリア層の性状を向上できる。また、当該バリア紙は、折り曲げ加工がされた場合において、バリア性の低下の抑制効果が良好となる。ガスバリア層は無機化合物を非含有であることが好ましい。ガスバリア層が無機化合物を非含有であることで、バリア紙の折り曲げ時のバリア層の損傷が発生し難くなる。
【0036】
上記ガスバリア層におけるポリビニルアルコールの含有量の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、85質量%がさらに好ましい。上記ポリビニルアルコール含有量が上記範囲であることで、ガスバリア層のガスバリア性をより向上できる。
【0037】
上記ガスバリア層は、ポリビニルアルコール及び無機化合物の他、例えば増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、滑剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、染料、定着剤等の通常の添加剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【0038】
ガスバリア層の塗工量の下限としては、5g/mが好ましく、6g/mがより好ましい。一方、上記塗工量(固形分換算)の上限としては、10g/mが好ましく、8g/mがより好ましい。ガスバリア層の塗工量が5g/m以上であることで、基材の表面にガスバリア層を均一に被覆することができる。一方、ガスバリア層の塗工量が10g/m以下であることで、ガスバリア層の塗工液の乾燥性を良好にできる。
【0039】
(ガスバリア層の表面のベック平滑度)
上記ガスバリア層の表面のベック平滑度の下限としては、50秒であり、60秒が好ましい。一方、ベック平滑度の上限としては、1150秒であり、1100秒が好ましい。上記ガスバリア層の表面のベック平滑度が上記下限以上であることで、ガスバリア層の表面に積層される水蒸気バリア層の塗工液の塗工性が向上し、水蒸気バリア層の性状を良好にできる。一方、上記ガスバリア層の表面のベック平滑度が上記上限を超える場合、ガスバリア層の表面に水蒸気バリア層を形成してもガスバリア層の高い平坦性(滑り性の向上)を示すため、製袋加工適性の低下が生じるおそれがある。
【0040】
[水蒸気バリア層]
水蒸気バリア層は、上記ガスバリア層の表面に積層される。上記水蒸気バリア層は、ワックス樹脂と、主成分としてのスチレンアクリル系共重合体とを含有する。上記水蒸気バリア層がスチレンアクリル系共重合体とともにワックス樹脂を含有することで、当該バリア紙は水蒸気バリア性を良好にできるとともに、撥水性及び耐水性が向上することができる。
【0041】
スチレンアクリル系共重合体としては、各種スチレンモノマーと各種(メタ)アクリルモノマーとを共重合させたものであれば特に限定されない。
【0042】
上記水蒸気バリア層におけるスチレンアクリル系共重合体の含有量の下限としては、固形分換算で87質量%が好ましく、89質量%がより好ましい。上記スチレンアクリル系共重合体の含有量の上限としては、固形分換算で99質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。上記スチレンアクリル系共重合体の含有量が上記範囲であることで、水蒸気バリア層の水蒸気バリア性をより向上できる。
【0043】
ワックス樹脂としては、特に制限されず、アルカン化合物を主体とするパラフィン系ワックス樹脂、カルナバやラノリンなどの動植物由来の天然油脂系ワックス樹脂、シリコーンまたはシリコーン化合物を含有するシリコーン系ワックス樹脂、フッ素化合物を含有するフッ素含有ワックス樹脂などを用いることができる。ワックス樹脂は、1種あるいは2種類以上を混合して使用することができる。
【0044】
ワックス樹脂の含有量は、スチレンアクリル系共重合体100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下が好ましく、5質量部以上12質量部以下がより好ましい。上記ワックス樹脂の含有量が1質量部未満の場合、耐水性が低下する傾向がある。上記ワックス樹脂の含有量が15質量部を超えると、水蒸気バリア層の塗工液を基材に塗工した後に、基材の表面が滑りやすくなり、作業性が低下するおそれがある。また、上記ワックス樹脂の含有量が15質量部を超えると、水蒸気バリア層が脆くなり、バリア紙の折り曲げ時にクラックが生じやすくなる。
【0045】
上記水蒸気バリア層は無機化合物を非含有である。上記水蒸気バリア層が無機化合物を非含有であることで、バリア紙の折り曲げ時の水蒸気バリア層の損傷がなくなるため、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下をより抑制できる。上記無機化合物は、ガスバリア層において例示されたものと同様のものを意味する。
【0046】
上記水蒸気バリア層には、スチレンアクリル系共重合体及びワックス樹脂の他、例えば増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、滑剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、染料、定着剤等の通常の添加剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【0047】
水蒸気バリア層の塗工量の下限としては、2.0g/mが好ましく、3.0g/mがより好ましい。一方、上記塗工量の上限としては、目止め性を向上させる観点から、10.0g/mが好ましく、9.0g/mがより好ましい。水蒸気バリア層の塗工量が上記下限未満の場合、水蒸気バリア性が低下するおそれがある。一方、水蒸気バリア層の塗工量が上記上限を超える場合、製品巻き取り時にブロッキングが発生し包装材としての使用ができなくなるおそれがある。
【0048】
上記基材の両面にガスバリア層及び水蒸気バリア層が積層される場合、ガスバリア層及び水蒸気バリア層の成分、塗工量等の構成を上記構成とすることができる。
【0049】
上記基材の片面にガスバリア層及び水蒸気バリア層が積層される場合、上記基材におけるガスバリア層及び水蒸気バリア層が積層される面の反対面(裏面)において、グラビア印刷機、デジタル印刷機、インクジェット印刷、レーザー印刷等への印刷適性を向上させる目的のために、顔料層等の印刷向上塗工層を設けることができる。印刷向上塗工層としては、印刷用塗工紙、インクジェット用紙、レーザープリンター用紙分野で従来公知のものを採用できる。
【0050】
[バリア紙の物性値]
(バリア紙の坪量)
当該バリア紙の坪量としては、37.0g/m以上100.0g/m以下が好ましい。当該バリア紙の坪量が上記範囲であることで、軽量化を可能にしつつ強度を維持できる。
【0051】
(バリア紙の平均厚さ)
当該バリア紙の平均厚さの下限としては、40μmが好ましく、45μmがより好ましい。上記平均厚さの上限としては、150μmが好ましく、100μmがより好ましい。当該バリア紙の平均厚さが上記範囲であることで、低坪量及び軽量化を可能にしつつ加工適性を向上できる。
【0052】
(バリア紙の平面の酸素透過度及び透湿度)
当該バリア紙の平面の酸素透過度としては、20g/m・24hr以下が好ましく、10g/m・24hr以下がより好ましい。当該バリア紙の平面の透湿度としては、50g/m・24hr以下が好ましく、20g/m・24hr以下がさらに好ましい。当該バリア紙の平面の酸素透過度及び透湿度が上記範囲であることで、当該バリア紙はバリア性が良好である。
【0053】
[バリア紙の製造方法]
当該バリア紙の製造方法としては、特に限定されず、例えば原料パルプスラリーを抄紙し、プレスパート及びドライヤーパートに供して基材を製造する工程と、基材の表面にアンダーコーターパートにてガスバリア層塗工液を塗工した上、乾燥処理してガスバリア層を積層する工程と、ガスバリア層の表面に水蒸気バリア層の塗工液を塗工する工程とを有する。基材、ガスバリア層塗工後の両方、若しくは一方にカレンダーによる平滑処理を行っても良い。
【0054】
ガスバリア層の塗工液又は水蒸気バリア層の塗工液を塗工する際の塗工装置としては、例えばサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードコーター、バーコータ、ゲートロールコーター、ロッドコータ、エアナイフコータ等が挙げられる。
【0055】
また、カレンダー処理の際のカレンダー装置としては、例えばスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトコンパクトカレンダー等の金属又はドラムと弾性ロールとの組み合わせによる各種カレンダーがオンマシン又はオフマシン仕様で適宜使用される。
【0056】
<産業用材又は包装材>
当該産業用材又は当該包装材は、当該バリア紙を備える。当該産業用材又は包装材は、当該バリア紙を備えることで、ガスバリア性及び水蒸気バリア性に優れ、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性を向上できる産業用材又は包装材を得ることができる。
【0057】
当該産業用材としては、例えば農業用シート、挿間紙、音響・衣類・建材等に使用されるシート、電気電子機器に使用されるシートに使用されるプラスチック素材に代替される用途が挙げられる。また、当該産業用材は、酸素や湿気の侵入を抑制できるので、内容物の腐敗、劣化を抑制するとともに、内容物の臭気が漏れ出るのを抑制できる。
【0058】
当該包装材としては、例えば食品などの包装材、容器、カップ等の包装用途に用いられる紙製バリア性包装材料、パック、パウチ、箱、シュリンク包装、缶、ラミネート包装等のプラスチック素材に代替される用途が挙げられる。当該包装材は、内容物の酸素による酸化や湿気などによる劣化を抑制し、保存期間の延長を図ることができる。
【0059】
<積層体>
当該積層体は、当該バリア紙と、上記バリア紙の片面又は両面に積層される蒸着層、ヒートシール層又はこれらの組み合わせとを備える。当該積層体は、当該バリア紙と、上記バリア紙の片面又は両面に積層される蒸着層、ヒートシール層又はこれらの組み合わせとを備えることで、ガスバリア性及び水蒸気バリア性に優れ、折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性を向上できるとともに、多機能かつ加工性が良好な積層体を得ることができる。
【0060】
(蒸着層)
当該積層体は蒸着層を備えることで、バリア性をより向上できる。上記蒸着層は、上記バリア紙の片面又は両面に積層される。上記蒸着層は、金属、無機酸化物、又は無機窒化物を主成分とする。上記金属としては、アルミニウム、スズ、ニッケル、銅、金、白金、銀、コバルト、クロムを用いることができる。上記無機酸化物としては、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、マグネシウム、鉛、ホウ素、ナトリウム等の酸化物を用いることができる。上記無機窒化物としては、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、マグネシウム、鉛、ホウ素、ナトリウム等の窒化物を用いることができる。上記蒸着層の形成方法は、特に制限されず、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD)等の公知の方法を用いることができる。
【0061】
(ヒートシール層)
当該積層体はヒートシール層を備えることで、製袋工程において加工性が向上する。ヒートシール層は上記バリア紙の片面又は両面に積層される。当該積層体が蒸着層及びヒートシール層を備える場合、上記ヒートシール層は最外層であることが好ましい。上記ヒートシール層は、熱可塑性樹脂を主成分とするフィルム層又は塗工層である。
【0062】
(フィルム層)
フィルム層は、熱可塑性樹脂を主成分とする。フィルム層の材料となる熱可塑性樹脂としては、例えば、密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエステル樹脂(PET)、エチレンメタクリル酸共重合樹脂(EMAA)、エチレンメチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレンアクリル酸共重合樹脂(EAA)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、スチレンアクリル酸エステル共重合樹脂、ポリ乳酸樹脂が挙げられる。フィルム層の積層方法については特に限定されず、従来の溶融押し出しラミネート法やフィルムを用いたドライラミネート法、直接溶融コート法等、公知の方法を用いることができる。
【0063】
(塗工層)
塗工層は熱可塑性樹脂を主成分とする。塗工層の材料となる熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体等のオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体、生分解性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル共重合体、スチレン-メタクリル共重合体等のアクリル系樹脂等が挙げられる。塗工方法については特に限定されず、従来のロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーター等、公知の塗工装置を用いることができる。
【0064】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【実施例0065】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各薬剤の含有量及び塗工量については、固形分換算での数値をさす。
【0066】
[実施例1、実施例2、実施例4~実施例7、実施例9、実施例10及び比較例1~比較例5]
始めに、表1に記載の原料パルプ組成のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーには、添加剤として、10kg/tの硫酸バンド、0.1kg/tの歩留剤、5kg/tのサイズ剤をそれぞれ内添した。得られたパルプスラリーは、長網抄紙機にて抄紙し、ヤンキードライヤーにて乾燥させることにより、実施例1、実施例2、実施例4~実施例7、実施例9、実施例10及び比較例1~比較例5の基材を得た。
【0067】
次に、基材のベック平滑度が高い方の面を塗工面として、表1に記載の組成の塗工液を塗工してガスバリア層を形成した。ガスバリア層の塗工液の材料は以下の通りである。
エチレン変性ポリビニルアルコール:クラレ社製「エクセバールAQ-4104」
未変性ポリビニルアルコール:クラレ社製「クラレポバール5-98」
実施例2及び比較例4-5で使用したカオリン:イメリス社製「バリサーフHX」(アスペクト比100)
【0068】
(水蒸気バリア層)
ガスバリア層の表面に、表2に記載の組成の水蒸気バリア層の塗工液を塗工して水蒸気バリア層を形成した。
水蒸気バリア層の塗工液の材料として、スチレン-アクリル系共重合体及びパラフィンワックスを用いた。
また、水蒸気バリア層の塗工液として、下記の3種の組成の塗工液を用いた。
(1)実施例1~実施例3
パラフィンワックス及びスチレン-アクリル系共重合体を含有し、パラフィンワックスの含有量がスチレン-アクリル系共重合体100質量部に対して10質量部である塗工液を用いた。
(2)実施例4~実施例10、比較例4、5
パラフィンワックス及びスチレン-アクリル系共重合体を含有し、パラフィンワックスの含有量がスチレン-アクリル系共重合体100質量部に対して5質量部である塗工液を用いた。
(3)比較例1
スチレン-アクリル系共重合体からなる塗工液を用いた。
【0069】
各原料の添加量は、絶乾パルプ量に対する固形分換算した量で記載した。また、ガスバリア層及び水蒸気バリア層は基材の片面のみに塗工し、その塗工量は、表2の通りとした。このようにして、実施例1~実施例4、実施例6、実施例7及び比較例1~比較例7のバリア紙を得た。
【0070】
[実施例3]
基材として市販のグラシン紙を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3のバリア紙を得た。
【0071】
[実施例8]
基材の製造工程において、抄紙後にヤンキードライヤーを多筒式ドライヤーに変更して乾燥させて上質紙とした以外は実施例1と同様にして、実施例8のバリア紙を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
[評価]
得られたバリア紙について下記の方法にて評価した。
【0075】
<坪量>
基材の坪量(g/m)は、JIS-P-8124(2011)「紙及び板紙-坪量の測定方法」に準拠して測定した。
【0076】
<基材の原料パルプのフリーネス>
基材の原料パルプのフリーネスは、JIS-P8220-1:2012のパルプの離解方法に準拠して離解することによって離解パルプとし、この離解パルプをJIS-P8121-2:2012のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定した。
【0077】
<基材の塗工面のベック平滑度>
基材の塗工面のベック平滑度は、JIS-P8119(1998)に記載の「紙及び板紙-ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準拠して測定した。
【0078】
<十字折り後の酸素透過度>
下記の手順で測定した。
初めに、得られたバリア紙におけるガスバリア層及び水蒸気バリア層の積層面を内側にし、十字折りした。十字折りの方法は、上記バリア紙を重さ2kgのローラーを2往復させて、折り目の角度が180°になるように折り曲げた後に開き、折れ線と垂直になる線に沿って2kgのローラーを2往復させて、折り目の角度が180°になるように再度折り曲げた後に開いた。そして、2つの折れ線の交点が測定部の中央に来るようにして、下記に記載の通り、酸素透過度を測定した。
酸素透過度は、JIS-K-7126-1:2006「プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法」に準拠して、GTRテック社の「GTR-11AET」を用いて、23℃の雰囲気下におけるバリア紙の酸素透過度を測定した。
【0079】
<十字折り後の透湿度>
次に、上記十字折り後の酸素透過度と同様に、得られたバリア紙を十字折りした。そして、2つの折れ線の交点が測定部の中央に来るようにして、下記に記載の通り、透湿度を測定した。
透湿度は、JIS-Z0208[1976]防湿包装材料の透湿度試験方法[カップ法]に準拠して、条件Bに基づいて測定した。
【0080】
(撥水性評価)
JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.68「紙及び板紙-はっ水性試験方法」に準拠し、水蒸気バリア層側を測定した。上記試験方法では、Rの値が高いほど撥水性に優れ、最高値はR10である。
【0081】
(耐水性評価)
耐水性の評価は、バリア紙の塗工面に約2mlの水滴を滴下した。滴下した水滴が、染み込む程度を目視で観察し、以下の4段階の評価基準で評価した。A及びBの場合、合格である。
A:染み込みが無く、及び滲み出しが認められない。
B:染み込みが僅かに認められるが使用できる範囲である。
C:染み込みが認められる。
D:明らかな染み込みが認められ、使用できるものではない。
【0082】
上記測定結果及び評価結果について、表2に示す。
【0083】
表2に示すように、ガスバリア層がポリビニルアルコールを主成分とし、水蒸気バリア層がワックス樹脂と、主成分としてのスチレンアクリル系共重合体とを含有し、ガスバリア層が、ポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部以下の無機化合物を含有するか、又は無機化合物を非含有であり、上記水蒸気バリア層が無機化合物を非含有である実施例1~実施例10のバリア紙は、十字折り後のガスバリア性及び水蒸気バリア性に優れ、撥水性及び耐水性が良好であった。
また、実施例1と実施例5との比較から、ガスバリア層が上記無機化合物を非含有であることで、水蒸気バリア性能をより向上できることがわかる。
【0084】
一方、水蒸気バリア層を備えていない比較例2及び比較例3、並びにガスバリア層がポリビニルアルコール100質量部に対して含有量が15質量部を超える無機化合物を含有する比較例4及び比較例5のバリア紙は、十字折り後のガスバリア性及び水蒸気バリア性のいずれか又は双方が劣っていた。また、水蒸気バリア層がワックス樹脂を含有しない比較例1、並びに水蒸気バリア層を備えていない比較例2及び比較例3は耐水性及び撥水性が劣っていた。
【0085】
以上の結果、当該バリア紙は折り曲げ加工がされた場合におけるバリア性の低下を抑制できるとともに、撥水性及び耐水性を向上できることがわかる。従って、当該バリア紙は薄くて多機能な産業用材又は包装材として好適であることが示された。