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特開2024-131790クレーンの制御装置およびこれを備えたクレーン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131790
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】クレーンの制御装置およびこれを備えたクレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B66C23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042254
(22)【出願日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月13日に第65回自動制御連合講演会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】田崎 良佑
(72)【発明者】
【氏名】佐野 滋則
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 舜平
(72)【発明者】
【氏名】安和 薫広
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕憲
(72)【発明者】
【氏名】大久保 正基
【テーマコード(参考)】
3F205
【Fターム(参考)】
3F205AA07
3F205AC01
3F205CA01
3F205CA09
3F205DA01
3F205DA16
3F205DA20
(57)【要約】
【課題】平面視における吊り荷の振れの軌道を制御することが可能なクレーンの制御装置およびクレーンを提供する。
【解決手段】振れ止め装置100は、主巻ロープのロープ長さを検出するロープ長さ検出部74と、制御部90とを備える。制御部90は、検出された前記ロープ長さに基づいて吊り荷の振れの振れ周期を演算し、当該演算された振れ周期に基づいて決定したロープ周期に応じて前記ロープ長さを増減させるように、ウインチ駆動部81に長さ指令信号を入力する。ウインチ駆動部81が主巻ロープの巻き取り、繰り出しを行うことで、平面視における吊り荷の軌道が楕円化する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン本体と、所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、入力される長さ指令信号に応じて前記支点から垂下される前記ロープの長さを調整することが可能なロープ長さ調整部とを有するクレーンに用いられ、前記吊り荷の振れを制御することが可能なクレーンの制御装置であって、
前記支点から前記吊り荷までの前記ロープの長さであるロープ長さを検出するロープ長さ検出部と、
少なくとも前記ロープ長さ検出部によって検出された前記ロープ長さに基づいて前記吊り荷の振れの振れ周期を演算し、当該演算された振れ周期に基づいて決定したロープ周期に応じて前記ロープ長さを増減させるように前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力する制御部と、
を備える、クレーンの制御装置。
【請求項2】
所定の時刻において前記ロープ長さ検出部によって検出された前記ロープ長さを初期ロープ長さとすると、前記制御部は、前記ロープ長さが前記初期ロープ長さよりも長い状態と前記初期ロープ長さよりも短い状態との間で前記ロープ周期に応じて交互に変化するように、前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力する、請求項1に記載のクレーンの制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記吊り荷の振れ周期が前記ロープ周期のn倍(nは2以上の整数)となるように、前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力する、請求項1または2に記載のクレーンの制御装置。
【請求項4】
平面視において前記支点を原点とする前記吊り荷の座標(x,y)を検出することが可能な吊り荷位置検出部を更に備え、
前記制御部は、前記吊り荷位置検出部の検出結果に基づいて、平面視における前記吊り荷の回転角度λをλ=arctan2(x,y)として演算することが可能であり、当該演算された回転角度λを基準として前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力する、請求項1または2に記載のクレーンの制御装置。
【請求項5】
平面視における前記吊り荷の楕円軌道の長軸方向が所定の方向となるような前記回転角度λの目標値λtを予め記憶する記憶部を更に備え、
前記制御部は、前記演算された回転角度λが前記目標値λtとなるタイミングで前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力する、請求項4に記載のクレーンの制御装置。
【請求項6】
前記ロープ長さ調整部は、前記ロープを巻き取ることで前記吊り荷を上昇させ、前記ロープを繰り出すことで前記吊り荷を下降させることが可能な吊り荷ウインチを含み、
前記制御部は、前記吊り荷ウインチが前記ロープ周期に応じて前記ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うように前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力する、請求項1に記載のクレーンの制御装置。
【請求項7】
前記クレーンは、前記支点を含み前記クレーン本体に起伏可能に支持される起伏体と、入力される起伏指令信号に応じて前記起伏体を起伏方向に回動させることが可能な起伏装置とを更に有し、
前記制御部は、前記起伏体の先端部が平面視における前後方向の前記吊り荷の位置に追従するように、前記起伏装置に前記起伏指令信号を入力する、請求項1に記載のクレーンの制御装置。
【請求項8】
前記クレーンは、前記支点を含み前記クレーン本体に起伏可能に支持される起伏体と、入力される起伏指令信号に応じて前記起伏体を起伏方向に回動させることが可能な起伏装置とを更に有し、
目標値λtは、平面視における前記吊り荷の楕円軌道の長軸方向が前記クレーン本体の前後方向となるように設定されており、
前記制御部は、前記起伏体の先端部が平面視における前後方向の前記吊り荷の位置に追従するように前記起伏装置に前記起伏指令信号を入力する、請求項5に記載のクレーンの制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記振れ周期の4分の1周期遅れで、前記起伏体の先端部が前記吊り荷の位置に追従するように前記起伏装置に前記起伏指令信号を入力する、請求項8に記載のクレーンの制御装置。
【請求項10】
クレーン本体と、
所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、
入力される長さ指令信号に応じて前記支点から垂下される前記ロープの長さを調整することが可能なロープ長さ調整部と、
前記吊り荷の振れを制御することが可能な請求項1に記載のクレーンの制御装置と、
を備える、クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの制御装置およびこれを備えたクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンとして、所定の支点部から垂下された吊り荷ロープにフックが装着されており、当該フックに吊り荷が接続されることで、吊り荷が吊り上げられる技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、クレーンにおいて、吊り荷の前後方向における振れ位置に応じてブームを起伏させ、ブーム先端部を吊り荷の振れ位置の直上に配置することで、吊り荷の振れを低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-74579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クレーンの作業現場では、旋回動作などのクレーンの動作や、風、地面の傾斜などの周囲の環境によって、さまざまな方向に吊り荷の振れが発生する場合がある。このため、たとえば特許文献1に記載された技術のように、吊り荷に対して前後方向および上下方向を含む平面内で外力を付与するブームの起伏動作では、吊り荷の左右方向の振れを低減することが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、平面視における吊り荷の振れの軌道を制御することが可能なクレーンの制御装置およびクレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係るクレーンの制御装置は、クレーン本体と、所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、入力される長さ指令信号に応じて前記支点から垂下される前記ロープの長さを調整することが可能なロープ長さ調整部とを有するクレーンに用いられ、前記吊り荷の振れを制御することが可能なものである。前記制御装置は、前記支点から前記吊り荷までの前記ロープの長さであるロープ長さを検出するロープ長さ検出部と、少なくとも前記ロープ長さ検出部によって検出された前記ロープ長さに基づいて前記吊り荷の振れの振れ周期を演算し、当該演算された振れ周期に基づいて決定したロープ周期に応じて前記ロープ長さを増減させるように前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力する制御部と、を備える。
【0008】
本構成によれば、制御部が少なくとも前記ロープ長さ検出部によって検出された前記ロープ長さに基づいて前記吊り荷の振れの振れ周期を演算し、当該演算された振れ周期に基づいて決定したロープ周期に応じて前記ロープ長さを増減させるため、ロープに作用するコリオリ力に応じて、吊り荷の軌道を楕円形状に変化させることができる。したがって、クレーンにおいて、平面視における吊り荷の振れの軌道を制御することが可能となる。
【0009】
上記の構成において、所定の時刻において前記ロープ長さ検出部によって検出された前記ロープ長さを初期ロープ長さとすると、前記制御部は、前記ロープ長さが前記初期ロープ長さよりも長い状態と前記初期ロープ長さよりも短い状態との間で前記ロープ周期に応じて交互に変化するように、前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力するものでもよい。
【0010】
本構成によれば、前記ロープ長さが前記初期ロープ長さよりも長い状態と前記初期ロープ長さよりも短い状態との間で前記ロープ周期に応じて交互に変化することによって、吊り荷の振れの軌道をより安定して楕円形状に変化させることができる。
【0011】
上記の構成において、前記制御部は、前記吊り荷の振れ周期が前記ロープ周期のn倍(nは2以上の整数)となるように、前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力するものでもよい。
【0012】
本構成によれば、前記ロープ周期が前記吊り荷の振れ周期の1/n倍に設定されるため、吊り荷が周回するにつれてその振れの軌道をより安定して楕円形状に変化させることができる。
【0013】
上記の構成において、平面視において前記支点を原点とする前記吊り荷の座標(x,y)を検出することが可能な吊り荷位置検出部を更に備え、前記制御部は、前記吊り荷位置検出部の検出結果に基づいて、平面視における前記吊り荷の回転角度λをλ=arctan2(x,y)として演算することが可能であり、当該演算された回転角度λを基準として前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力するものでもよい。
【0014】
本構成によれば、吊り荷の座標を検出することで、現在の吊り荷の回転角度λを把握することができる。このため、前記回転角度λを基準としてロープ長さの調整を精度良く実行することができる。
【0015】
上記の構成において、平面視における前記吊り荷の楕円軌道の長軸方向が所定の方向となるような前記回転角度λの目標値λtを予め記憶する記憶部を更に備え、前記制御部は、前記演算された回転角度λが前記目標値λtとなるタイミングで前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力するものでもよい。
【0016】
本構成によれば、予め吊り荷の楕円軌道の長軸方向を制御するための目標値λtが記憶されているため、作業現場においてロープ長さの調整タイミングの設定を試行錯誤する場合と比較して、吊り荷の楕円軌道の長軸方向を精度良く効率的に制御することができる。
【0017】
上記の構成において、前記ロープ長さ調整部は、前記ロープを巻き取ることで前記吊り荷を上昇させ、前記ロープを繰り出すことで前記吊り荷を下降させることが可能な吊り荷ウインチを含み、前記制御部は、前記吊り荷ウインチが前記ロープ周期に応じて前記ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うように前記ロープ長さ調整部に前記長さ指令信号を入力するものでもよい。
【0018】
本構成によれば、吊り荷ウインチによるロープの巻き取り、繰り出しによって、吊り荷の振れの軌道を容易に調整することができる。
【0019】
上記の構成において、前記クレーンは、前記支点を含み前記クレーン本体に起伏可能に支持される起伏体と、入力される起伏指令信号に応じて前記起伏体を起伏方向に回動させることが可能な起伏装置とを更に有し、前記制御部は、前記起伏体の先端部が前後方向の前記吊り荷の位置に追従するように、前記起伏装置に前記起伏指令信号を入力するものでもよい。
【0020】
本構成によれば、ロープ長さの調整に加えて、起伏体の起伏動作によって吊り荷の振れ制御を補助することができる。
【0021】
上記の構成において、前記クレーンは、前記支点を含み前記クレーン本体に起伏可能に支持される起伏体と、入力される起伏指令信号に応じて前記起伏体を起伏方向に回動させることが可能な起伏装置とを更に有し、目標値λtは、平面視における前記吊り荷の楕円軌道の長軸方向が前記クレーン本体の前後方向となるように設定されており、前記制御部は、前記起伏体の先端部が前後方向の前記吊り荷の位置に追従するように前記起伏装置に前記起伏指令信号を入力するものでもよい。
【0022】
本構成によれば、ロープ長さの調整によって吊り荷の振れの軌道を前後方向に延びる楕円軌道に制御するとともに、起伏体の起伏動作によって前後方向の吊り荷の振れを低減させることができる。
【0023】
上記の構成において、前記制御部は、前記起伏体の先端部が前記吊り荷の位置に追従するように、前記振れ周期の4分の1周期遅れで前記起伏装置に前記起伏指令信号を入力するものでもよい。
【0024】
本構成によれば、起伏体の起伏動作によって前後方向の吊り荷の振れを安定して低減させることができる。
【0025】
また、本発明によって提供されるのは、クレーンである。当該クレーンは、クレーン本体と、所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、入力される長さ指令信号に応じて前記支点から垂下される前記ロープの長さを調整することが可能なロープ長さ調整部と、前記吊り荷の振れを制御することが可能な上記に記載のクレーンの制御装置と、を備える。
【0026】
本構成によれば、制御部が少なくとも前記ロープ長さ検出部によって検出された前記ロープ長さに基づいて前記吊り荷の振れの振れ周期を演算し、当該演算された振れ周期に基づいて決定したロープ周期に応じて前記ロープ長さを増減させるため、吊り荷ロープに作用するコリオリ力に応じて、吊り荷の軌道を楕円形状に変化させることができる。したがって、クレーンにおいて、平面視における吊り荷の振れの軌道を制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、平面視における吊り荷の振れの軌道を制御することが可能なクレーンの振れ止め装置およびクレーンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係るクレーンの側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るクレーンのブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係るクレーンの模式的な平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るクレーンの模式的な側面図である。
図5】クレーンの吊り荷の振れを説明するための斜視図である。
図6】吊り荷に作用する力を説明するための側面図である。
図7】ロープの巻上げ、巻下げによって吊り荷に作用する力を説明するための平面図である。
図8】吊り荷の座標と回転角度との関係を示す平面図である。
図9A】ロープの巻上げ、巻下げのタイミングを示す平面図である。
図9B図9Aに対応する吊り荷の振れの挙動を示すグラフである。
図10A】ロープの巻上げ、巻下げのタイミングを示す平面図である。
図10B図10Aに対応する吊り荷の振れの挙動を示すグラフである。
図11A】ロープの巻上げ、巻下げのタイミングを示す平面図である。
図11B図11Aに対応する吊り荷の振れの挙動を示すグラフである。
図12A】ロープの巻上げ、巻下げのタイミングを示す平面図である。
図12B図12Aに対応する吊り荷の振れの挙動を示すグラフである。
図13】吊り荷の振れ制御のフローチャートである。
図14】ロープ長さ、ブーム角度、吊り荷の振れ角度の各推移を示すグラフである。
図15図14のロープ長さのグラフの一部を拡大したグラフである。
図16】吊り荷の位置に応じたブームの起伏動作を示す側面図である。
図17】吊り荷の振れの挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るクレーン10の側面図である。なお、図1を含む各図には、クレーン10の上部旋回体12を基準として、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、本実施形態に係るクレーン10の構造を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係るクレーンの移動方向や使用態様などを限定するものではない。
【0030】
クレーン10は、走行体14と、走行体14に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部旋回体12(クレーン本体)と、上部旋回体12に起伏可能に支持されるブーム16(起伏体)およびマスト20と、を備える。また、上部旋回体12の後部には、クレーン10のバランスを調整するためのカウンタウエイト13が積載されている。また、上部旋回体12の前端部には、キャブ15が備えられている。キャブ15は、クレーン10の運転席に相当する。
【0031】
図1に示されるブーム16は、いわゆるラチス型であり、下部ブーム16A(起伏体基端部)と、一または複数(図例では3個)の中間ブーム16B,16C、16Dと、上部ブーム16E(前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部)とから構成される。具体的に、下部ブーム16Aは、上部旋回体12の前部に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能となるように支持される。中間ブーム16B,16C,16Dは、その順に下部ブーム16Aの先端側に着脱可能に継ぎ足される。上部ブーム16Eは中間ブーム16Dの先端側に着脱可能に継ぎ足される。下部ブーム16Aは、その下端部に備えられたブームフット16Sにおいて上部旋回体12に回動可能に軸支される。
【0032】
また、ブーム16は、アイドラシーブ34S、36Sを有する。アイドラシーブ34S、36Sは、下部ブーム16Aの基端部の後側面にそれぞれ回転可能に支持されている。
【0033】
ただし、本発明ではブームの具体的な構造は限定されない。例えば、当該ブームは、中間部材がないものでもよく、また、上記とは中間部材の数が異なるものでもよい。更に、ブームは、単一の部材で構成されたものでもよい。また、ブームは、伸縮可能なテレスコピックブームでも良い。
【0034】
マスト20は、基端及び回動端を有し、その基端が上部旋回体12に回動可能に連結される。マスト20の回動軸は、ブーム16の回動軸と平行でかつ当該ブーム16の回動軸のすぐ後方に位置している。すなわち、このマスト20はブーム16の起伏方向と同方向に回動可能である。
【0035】
更に、クレーン10は、左右一対のバックストップ23と、左右一対のブーム用ガイライン24と、を備える。
【0036】
左右一対のバックストップ23はブーム16の下部ブーム16Aの左右両側部に設けられる。これらのバックストップ23は、ブーム16が図1に示される起立姿勢まで到達した時点で、上部旋回体12の前後方向の中央部に当接する。この当接によって、ブーム16が強風等で後方に煽られることが規制される。
【0037】
左右一対のブーム用ガイライン24は、マスト20の回動端をブーム16の先端部に連結する。この連結は、マスト20の回動とブーム16の回動とを連携させる。
【0038】
また、クレーン10は、各種ウインチを更に備える。具体的には、クレーン10は、ブーム16を起伏させるためのブーム起伏用ウインチ30(起伏装置)と、吊り荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34(ロープ長さ調整部、吊り荷ウインチ)及び補巻用ウインチ36とを備える。また、クレーン10は、ブーム起伏用ロープ38と、上部ブーム16E(ブーム16の先端部)から垂下され吊り荷に接続される主巻ロープ50(ロープ)と、補巻ロープ60と、を備える。本実施形態に係るクレーン10では、主巻用ウインチ34および補巻用ウインチ36がブーム16の基端近傍部位に据え付けられる。また、ブーム起伏用ウインチ30が上部旋回体12に据え付けられる。これらのウインチ30,32,34,36の位置は、上記に限定されるものではない。
【0039】
ブーム起伏用ウインチ30は、ブーム起伏用ロープ38の巻き取り及び繰り出しを行う。そして、この巻き取り及び繰り出しによりマスト20が回動するようにブーム起伏用ロープ38が配索される。具体的には、マスト20の回動端部及び上部旋回体12の後端部にはそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック40,42が設けられ、ブーム起伏用ウインチ30から引き出されたブーム起伏用ロープ38がシーブブロック40,42間に掛け渡される。従って、ブーム起伏用ウインチ30がブーム起伏用ロープ38の巻き取りや繰り出しを行うことにより、両シーブブロック40,42間の距離が変化し、これによってマスト20さらにはこれと連動するブーム16が起伏方向に回動する。
【0040】
主巻用ウインチ34は、主巻ロープ50による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。主巻ロープ50は、ブーム16の上部ブーム16Eから垂下され、吊り荷に接続される。また、上部ブーム16Eには主巻用ガイドシーブ54が配置され、当該主巻用ガイドシーブ54に隣接する位置に複数の主巻用ポイントシーブ56が幅方向に配列された主巻用シーブブロックが設けられている。主巻用ウインチ34から引き出された主巻ロープ50が、アイドラシーブ34S、主巻用ガイドシーブ54に順に掛けられ、かつ、シーブブロックの主巻用ポイントシーブ56と、吊り荷用の主フック57に設けられたシーブブロックのシーブ58との間に掛け渡される。従って、主巻用ウインチ34が主巻ロープ50の巻き取りや繰り出しを行うと、両シーブ56,58間の距離が変わって、ブーム16の先端から垂下された主巻ロープ50に連結された主フック57の巻き上げ及び巻き下げが行われる。この結果、吊り荷の巻き上げ、巻き下げが可能となる。
【0041】
同様にして、補巻用ウインチ36は、補巻ロープ60による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。この補巻については、主巻用ガイドシーブ54と同軸に補巻用ガイドシーブ64が回転可能に設けられ、補巻用ガイドシーブ64に隣接する位置に不図示の補巻用ポイントシーブが回転可能に設けられている。補巻用ウインチ36から引き出された補巻ロープ60は、アイドラシーブ36S、補巻用ガイドシーブ64に順に掛けられ、かつ、補巻用ポイントシーブから垂下される。従って、補巻用ウインチ36が補巻ロープ60の巻き取りや繰り出しを行うと、補巻ロープ60の末端に連結された図略の吊り荷用の補フックが巻き上げられ、または巻き下げられる。
【0042】
図2は、本実施形態に係るクレーン10のブロック図である。図2を参照して、クレーン10は、操作部70と、入力部71と、カメラ72(吊り荷位置検出部)と、ブーム角度計73と、ロープ長さ検出部74と、吊り重量検出部75と、ブーム起伏駆動部80と、ウインチ駆動部81と、旋回駆動部82と、制御部90とを更に備える。
【0043】
操作部70は、一例としてキャブ15内に配置されており、オペレータによるクレーン10の各部材を駆動するための操作を受け付ける。操作部70は、起伏操作部70Aと、ウインチ操作部70Bと、旋回操作部70Cとを含む。なお、クレーン10が遠隔操作される場合、操作部70はクレーン10とは異なる場所に配置されてもよい。
【0044】
起伏操作部70Aは、ブーム起伏駆動部80によってブーム16を起伏するための操作を受け付ける。起伏操作部70Aは、ブーム16を起伏させるための起伏用位置とブーム16の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。たとえば、起伏操作部70Aはレバーであり、当該レバーを一の方向に倒すことでブーム16が起立方向に回動し、当該レバーを前記一の方向とは逆の他の方向に倒すことでブーム16が倒伏方向に回動し、前記レバーを中立位置に配置することで、ブーム16の起伏動作が停止する。当該レバーの操作方向および操作量に対応する信号は制御部90に入力される。
【0045】
ウインチ操作部70Bは、ウインチ駆動部81によって吊り荷を昇降させるための操作を受け付ける。ウインチ操作部70Bは、吊り荷を昇降させるための昇降用位置と吊り荷の昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。たとえば、ウインチ操作部70Bはレバーであり、当該レバーを一の方向に倒すことで吊り荷が上昇するように主巻用ウインチ34が回転し、当該レバーを前記一の方向とは逆の他の方向に倒すことで吊り荷が下降するように主巻用ウインチ34が回転し、前記レバーを中立位置に配置することで、吊り荷の昇降動作(主巻用ウインチ34の回転動作)が停止する。当該レバーの操作方向および操作量に対応する信号は制御部90に入力される。
【0046】
旋回操作部70Cは、旋回駆動部82によって上部旋回体12を旋回駆動するための操作を受け付ける。旋回操作部70Cは、上部旋回体12を第1旋回方向および前記第1旋回方向とは逆の第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と上部旋回体12の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。たとえば、旋回操作部70Cはレバーであり、当該レバーを一の方向に倒すことで上部旋回体12が前記第1旋回方向に旋回し、当該レバーを前記一の方向とは逆の他の方向に倒すことで上部旋回体12が前記第2旋回方向に旋回し、前記レバーを中立位置に配置することで、上部旋回体12の旋回動作が停止する。当該レバーの操作方向および操作量に対応する信号は制御部90に入力される。
【0047】
入力部71は、一例としてキャブ15内に配置されており、オペレータによるクレーン10に関する各種の入力情報を受け付ける。入力部71は、後記の振れ止め制御の実行を開始するための実行スイッチを含む。
【0048】
カメラ72は、図4に示すように、ブーム16の上端部に配置されており、その撮像範囲が下方を向くように設定されている。カメラ72は、基準線CL(図4)に対する吊り荷Rの相対位置を検出することが可能であり、より詳しくは平面視においてブーム16の先端部(支点)を原点とする吊り荷Rの座標(x,y)を検出することが可能である。本実施形態では、カメラ72によって撮像された画像が制御部90に入力され、吊り荷Rの位置情報などが取得される。この際、主フック57に予め不図示のマーカーが装着されていることで、カメラ72は前記マーカーの位置を追従し、吊り荷Rの位置を正確に検出(撮影)することができる。
【0049】
ブーム角度計73は、ブームフット16Sの近傍に配置されており(図1)、ブーム16の起伏角α(図4)を検出する。起伏角αは、ブーム16の長手方向に延びる中心線とブームフット16Sから前方に延びる水平線とがなす角度である。なお、起伏角αは、その他の角度に基づいて検出されるものでもよい。
【0050】
ロープ長さ検出部74は、主巻ロープ50がブーム16の上端部から垂下されるロープ長さを検出する。なお、一例として、前記ロープ長さは、ブーム16の上端部の主巻用ポイントシーブ56(主巻ロープ50の振れ支点)から吊り荷R(より詳しくはその重心)までの長さであるが、主巻用ポイントシーブ56から主フック57(シーブ58)までの長さなどでもよい。ロープ長さ検出部74は、主巻用ウインチ34の回転量を検出可能な回転量検出部と、主巻用ウインチ34の外周面上における主巻ロープ50の巻き層数を検出する巻き層検出部とを含む。ロープ長さ検出部74は、主巻用ウインチ34のウインチ径、前記回転量検出部が検出するウインチ回転量に加え、前記巻き層検出部が検出する主巻ロープ50の巻き層から推定される主巻用ウインチ34から繰りだされる主巻ロープ50の繰り出し量と、主巻用ポイントシーブ56とシーブ58のシーブブロックとの間における主巻ロープ50の掛け数とから、前記距離を算出し出力する。前記ロープ長さは、その他の手法によって算出されるものでもよい。
【0051】
なお、ブーム16の長さ、ロープ長さ検出部74によって検出されるロープ長さ、ブーム角度計73によって検出されるブーム16の起伏角αは、吊り荷R(主フック57)の地面に対する相対的な高さH(図4)の算出にも用いられる。高さHは、吊り荷Rが基準線CL上に静止していると仮定した場合の高さである。なお、高さHの基準は地面以外でもよい。
【0052】
図2のブーム起伏駆動部80は、前述のブーム起伏用ウインチ30を含むとともに、当該ブーム起伏用ウインチ30を回転させるための駆動力を発生し、ブーム16を前記回転中心軸回りに回動させることが可能とされている。ブーム起伏駆動部80は、作動油の供給を受けることでブーム起伏用ウインチ30を回転させる油圧式モータを含む。
【0053】
ウインチ駆動部81は、前述の主巻用ウインチ34を含むとともに、当該主巻用ウインチ34を回転させるための駆動力を発生し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しを行うことで吊り荷を地面に対して相対的に昇降させることが可能とされている。補巻用ウインチ36についても同様である。ウインチ駆動部81は、作動油の供給を受けることで主巻用ウインチ34および補巻用ウインチ36をそれぞれ回転させる油圧式モータを含む。
【0054】
なお、ウインチ駆動部81は、本発明のロープ長さ調整部を構成する。当該ロープ長さ調整部は、入力される長さ指令信号に応じて前記支点から垂下されるロープの長さを調整することが可能である。
【0055】
旋回駆動部82は、上部旋回体12を前記旋回中心軸回りに前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させることが可能な駆動力を発生する。旋回駆動部82は、作動油の供給を受けることで上部旋回体12を旋回させる油圧式モータを含む。
【0056】
制御部90は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部90は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部901、荷振れ制御部902および記憶部903の各機能部を備えるように機能する。これらの機能部は、実体を有するものではなく、前記制御プログラムによって実行される機能の単位に相当する。なお、制御部90のすべてまたは一部は、クレーン10内に設けられるものに限定されず、クレーン10がリモート制御される場合には、クレーン10とは異なる位置に配置されても良い。また、前記制御プログラムは遠隔地のサーバ(管理装置)やクラウドなどからクレーン10内の制御部90に送信され実行されるものでもよいし、前記サーバやクラウド上で前記制御プログラムが実行され、その指令がクレーン10に送信されるものでもよい。制御部90は、前述のカメラ72、ブーム角度計73およびロープ長さ検出部74などとともに、本発明の振れ止め装置100(図2)(制御装置)を構成する。振れ止め装置100は、ブーム16の先端部を支点とした吊り荷Rの振れを制御するとともに、前記振れを抑える振れ止め制御を実行することが可能である。
【0057】
次に、制御部90の各機能部について説明する。駆動制御部901は、起伏操作部70A、ウインチ操作部70Bおよび旋回操作部70Cが受け付ける操作の操作方向および操作量に応じた指令信号をブーム起伏駆動部80、ウインチ駆動部81および旋回駆動部82にそれぞれ入力し、各駆動部を駆動する。
【0058】
荷振れ制御部902は、上部旋回体12の旋回動作停止後などに、主巻ロープ50に接続された吊り荷Rが上部ブーム16Eの主巻用ポイントシーブ56を支点として振れる現象である吊り荷Rの振れを制御するとともに、前記振れを抑えることが可能である(振れ止め制御)。当該吊り荷Rの振れの制御には、平面視における吊り荷Rの振れの軌道を変化させることを含む。
【0059】
なお、吊り荷Rの振れには、クレーン10の静止状態において風などの影響によって発生するものも含まれる。また、荷振れ制御部902が振れ止め制御を実行する場合、起伏操作部70A、ウインチ操作部70Bおよび旋回操作部70Cが受け付ける操作の操作方向および操作量に関わらず、振れ止め制御のための指令信号が荷振れ制御部902から各駆動部に入力される。
【0060】
記憶部903は、駆動制御部901が実行する通常の駆動制御、および荷振れ制御部902が実行する振れ止め制御において参照される各種の閾値、パラメータなどを予め記憶している。一例として、記憶部903は、ブーム16の長さであるブーム長を予め記憶している。なお、作業者が入力部71を通じてブーム長を入力し、記憶部903が記憶してもよい。更に、本実施形態では、記憶部903は、回転角度λの目標値λtを予め記憶している。目標値λtは、平面視における吊り荷Rの楕円軌道の長軸方向が所定の方向となるような回転角度λの目標値である。
【0061】
上記のような各機能部を有する制御部90は、ブーム起伏駆動部80またはウインチ駆動部81を制御することで、吊り荷Rの振れ止め制御を実行する。特に、制御部90は、少なくともロープ長さ検出部74によって検出された前記ロープ長さに基づいて吊り荷Rの振れの振れ周期を演算し、当該演算された振れ周期に基づいて決定したロープ周期に応じて前記ロープ長さを増減させるようにウインチ駆動部81に指令信号(長さ指令信号)を入力する。
【0062】
なお、振れ止め装置100が振れ止め制御を実行するスイッチを有する場合、前記スイッチがオンにされると制御部90は振れ止め制御が許容された状態であると判定し、前記スイッチがオフにされると制御部90は振れ止め制御が禁止された状態であると判定すればよい。
【0063】
<吊り荷の振れ制御について>
クレーンの作業現場では、旋回動作などのクレーンの動作や、風、地面の傾斜などの周囲の環境によって、さまざまな方向に吊り荷Rの振れが発生する場合がある。一方、吊り荷Rに対して前後方向および上下方向を含む平面内で外力を付与するブーム16の起伏動作では、吊り荷Rの左右方向の振れを充分に低減することが難しい。また、吊り荷Rに対して左右方向および上下方向を含む平面内で外力を付与する旋回動作では、吊り荷Rの前後方向の振れを充分に低減することが難しい。
【0064】
更に、平面視において吊り荷Rの振れの軌道が真円に近い場合、吊り荷Rはブーム16の先端部の下方を実質的に水平に周回しており上下方向における移動量が少ないため、ブーム16の起伏動作や上部旋回体12の旋回動作などによってその振れを低減する効果を得にくいことが新たに知見された。
【0065】
加えて、クレーン10の作業現場では、クレーン10の周辺に他の構造物などが位置する場合もあるため、クレーン10の静止状態において風などの影響で吊り荷Rが大きく振れ始めると、周囲の構造物と干渉する可能性がある。このため、速やかな振れ低減が難しい場合でも少なくともその軌道の形状、向きを制御することは、上記のような干渉問題を回避することに繋がる。
【0066】
本発明の発明者は上記のような諸問題について鋭意検討した結果、吊り荷Rの振れの軌道の形状を制御すること、特に、平面視における吊り荷Rの振れの軌道を楕円形状に制御することに着目し、その実現に至った。更に、本発明者は、このような振れの軌道を制御しつつ、その振れ量を低減することも実現するに至った。
【0067】
図3は、実施形態に係るクレーン10の模式的な平面図である。図4は、クレーン10の模式的な側面図である。図5は、クレーン10の吊り荷Rの振れを説明するための斜視図である。図3乃至図5に示すように、ブーム16の先端部(支点)を通る鉛直線を基準線CLとする。基準線CL上に位置する場合の主フック57(図1)を原点として、左右方向、前後方向および上下方向に、それぞれX軸、Y軸、Z軸を定義する。基準線CLに対する主巻ロープ50の角度(振れ角度)は、図5に示すように、ZY平面に投影した振れ角度θyと、ZX平面に投影したθxの各々の成分に分けることができる。吊り荷Rの移動について、基準線CLから後方に向かう方向、すなわち、上部旋回体12に向かう水平な方向を-Y方向、基準線CLから前方に向かう水平な方向を+Y方向と定義する。また、基準線CLから右方に向かう方向を+X方向、基準線CLから左方に向かう方向を-X方向と定義する。また、上方向を+Z方向と定義し、下方向を-Z方向と定義する。
【0068】
更に、図6は、吊り荷Rに作用する力を説明するための側面図である。主巻ロープ50の巻上げ動作時のクレーン10を可変長振子系として扱うと、吊り荷Rには、図6に示す力がそれぞれ作用し、この際のコリオリ力Fcは以下の式1で表すことができる。
【数1】
【0069】
このコリオリ力は、ロープ長さlの増加時には吊り荷Rの振れを減衰させる向きに働き、ロープ長さlの減少時には吊り荷Rの振れを増大させる向きに働く。したがって、吊り荷Rの振れを効率よく減衰させるためには、振れ角速度の絶対値が大きい範囲でロープ長さlを増加させ、振れ角速度の絶対値が小さい範囲でロープ長さlを減少させることが望ましい。ここでは、急激な速度変動が生じないように、ロープ長さlを正弦波状に変化させるものとする。この場合、θ=0でロープ長さlの変動速度l’(lの微分)が最大になり、θ’(θの微分)=0でロープ長さの変動速度l’が最小になるタイミングで 、巻上げ動作を行うことで、振れの減衰効果が最大となる。なお、各式では変数の上にドットを付すことでその微分を表しているが、本文では代わりに変数の後にアポストロフィを付している。
【0070】
上記の減衰効果を得るために、以下の式2で表わされる吊り荷の振れ角θ(t)に対して、式3に示すようにロープ長さl(t)を変化させることで、吊り荷Rを制振することができる。
【数2】
【数3】
なお、上記の式において、A(rad)は初期の吊り荷Rの振れから決まる振幅であり、ω(rad/sec)は吊り荷Rの振れの固有角振動数であり、l(m)は初期のロープ長さであり、Δl(m)は最大ロープ長さ変動量であり、ω(rad/sec)は振れ制御を行うことで変化する吊り荷Rの振れの角振動数である。
【0071】
次に、上記のような主巻ロープ50のロープ長さの調整によって、吊り荷Rの振れの軌道が楕円形状になる原理について詳述する。図7は、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げによって吊り荷Rに作用する力を説明するための平面図である。図7に示すように、平面視において反時計回りに吊り荷Rの振れが起きている場合に、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げを交互に行うと、吊り荷Rに対して図7の太矢印で示す方向にコリオリ力がそれぞれ発生する。各コリオリ力の向きは、巻上げ時には反時計回り、巻下げ時には時計回りに発生する。
なお、図7の太矢印は吊り荷Rから見たコリオリ力の向きであるので、外部から見ると太矢印の逆向きに力が掛かることになる。このため、図7の巻下げ領域では吊り荷Rの加速度が増加し、単位時間当たりの移動量が大きくなるため、振れの回転半径が大きくなる。一方、巻上げ領域では吊り荷Rの加速度が減少し、単位時間当たりの移動量が小さくなるため、振れの回転半径が小さくなる。この結果、吊り荷Rの振れの軌道が、巻下げから巻上げに切り換わる境目のあたりを長半径とする楕円形状に変化していく。
【0072】
図8は、吊り荷Rの座標と回転角度との関係を示す平面図である。図9Aは、ロープの巻上げ、巻下げのタイミングを示す平面図である。図9Bは、図9Aに対応する吊り荷の振れの挙動を示すグラフである。なお、図9Aにおいて、吊り荷Rは反時計回りに回転しているとする。上記については、図10Aから図12Bまでについても同様である。
【0073】
図8を参照して、本実施形態では、平面視においてブーム16の先端部(支点)を原点とする吊り荷Rの座標(x,y)が検出される。具体的に、カメラ72が撮像する画像情報が制御部90に入力されると、荷振れ制御部902が当該画像情報を解析することによって、吊り荷Rの位置が検出される。前述のように定義されたX座標、Y座標に基づいて、荷振れ制御部902が上記の座標を検出する。なお、カメラ72および荷振れ制御部902は、本発明の吊り荷位置検出部を構成する。
【0074】
更に、制御部90の荷振れ制御部902は、上記の吊り荷Rの座標の検出結果に基づいて、平面視における吊り荷Rの回転角度λを以下の式4に基づいて演算することが可能である。
【数4】
したがって、荷振れ制御部902は、上記の演算された回転角度λを基準としてウインチ駆動部81に指令信号(長さ指令信号)を入力することで、吊り荷Rに対する主巻ロープ50の巻上げ、巻下げのタイミングを制御することができる。以下の例では、吊り荷Rの振れ周期(吊り荷Rが図9Aの円軌道上を1周する周期)の間に、吊り荷Rの巻上げ、巻下げを含む動作が2回(2周期)実行される(n=2)。換言すれば、この場合、吊り荷Rの振れ周期(単位:時間)が主巻ロープ50の巻上げ、巻下げの周期(ロープ周期)の2倍となる。
【0075】
たとえば、図9Aに示すように、λ=0のタイミングで吊り荷Rの巻上げ、巻下げを交互に実行すると、図9Bに示すように、略真円形状の吊り荷Rの振れ軌道が楕円軌道に変化する。この際、楕円形状の長軸は、図9Bの右上から左下に向かって延びている。
【0076】
同様に、図10Aに示すように、λ=π/4のタイミングで吊り荷Rの巻上げ、巻下げを交互に実行すると、図10Bに示すように、略真円形状の吊り荷Rの振れ軌道が楕円軌道に変化する。この際、楕円形状の長軸は、図10Bの略上から略下に向かって延びている。
【0077】
また、図11Aに示すように、λ=π/2のタイミングで吊り荷Rの巻上げ、巻下げを交互に実行すると、図11Bに示すように、略真円形状の吊り荷Rの振れ軌道が楕円軌道に変化する。この際、楕円形状の長軸は、図11Bの左上から右下に向かって延びている。
【0078】
更に、図12Aに示すように、λ=3π/4のタイミングで吊り荷Rの巻上げ、巻下げを交互に実行すると、図12Bに示すように、略真円形状の吊り荷Rの振れ軌道が楕円軌道に変化する。この際、楕円形状の長軸は、図12Bの略左から略右に向かって延びている。
【0079】
上記のように、本発明者は、吊り荷Rの振れが平面視で円運動となっている場合に、所定のタイミングで主巻ロープ50の巻き取り、繰り出しを行うと、吊り荷Rの振れの軌道が楕円軌道に変化することを新たに知見した。なお、図9A図12Bの結果では、楕円の長軸方向とλの位置とが必ずしも合致していない。これはクレーン10における主巻ロープ50の特性、吊り荷Rの重量などの外乱の影響によるものと推察される。このような場合であっても、予め実験によって、図9A図12Bの結果を取得し、各データ間の情報を補完することで、平面視における吊り荷Rの楕円軌道の長軸方向が所定の方向となるような回転角度λの目標値λtを予め把握することができる。したがって、荷振れ制御部902は、前記演算された回転角度λがこの目標値λtとなるタイミングでウインチ駆動部81に指令信号を入力すればよい。そして、本実施形態では、この目標値λtの情報が予め記憶部903に記憶されている。一例として、楕円軌道の長軸方向が、上部旋回体12の前後方向(Y軸方向)、左右方向(X方向)を向くような2つの目標値λtがそれぞれ記憶されている。
【0080】
<振れ止め制御の流れについて>
次に、本実施形態に係る振れ止め装置100による吊り荷Rの振れ止め制御の流れについて説明する。以下の説明では、主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出し、更にはブーム16の起伏動作によって吊り荷Rの振れを抑制する態様について説明する。
【0081】
図13は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御のフローチャートである。一例として、キャブ15内の作業者が入力部71(図2)に含まれる振れ止め制御の実行スイッチを入れると、制御部90が振れ止め制御を開始する。この際、オペレータが操作部70を操作しても、当該操作に関わらず、振れ止め制御が自動的に実行される。
【0082】
制御部90が振れ止め制御を開始すると、荷振れ制御部902が吊り荷Rの振れ量を測定する(図13のステップS1)。当該測定では、カメラ72が吊り荷Rを含む画像を連続的に撮影し、当該画像情報が制御部90に入力される。荷振れ制御部902は、前記画像情報から基準線CLに対する吊り荷Rの相対位置を特定し、その振れ角度θx、θyを取得する。
【0083】
次に、荷振れ制御部902は、上記のように取得されたθx、θyが予め記憶部903に記憶された閾値角度以下か否かを判定する(図13のステップS2)。一例として、閾値角度は5度に設定される。なお、吊り荷Rがいずれの方向に振れている場合でも、その振れ角度を精度良く判定するために、θx、θyの各々の絶対値が上記の閾値角度と比較されることが望ましい。
【0084】
ステップS2において、θx、θyの少なくとも一方が閾値角度よりも大きい場合(ステップS2でNO)、荷振れ制御部902は、主巻ロープ50のロープ長さ、ブーム16の起伏角をそれぞれ取得する(図13のステップS3)。なお、前述のように、前記ロープ長さはロープ長さ検出部74によって測定され、ブーム16の起伏角はブーム角度計73によって測定される。
【0085】
次に、荷振れ制御部902は、上記のロープ長さに基づいて吊り荷Rの振れ周期Tおよび各振動数ωを演算する(図13のステップS4)。吊り荷Rの振れが単振り子として仮定すると、以下の式5に基づいて、周期T、角振動数ωを算出することができる。
【数5】
【0086】
次に、荷振れ制御部902は、現在の吊り荷Rの振れ位置を確認する。具体的に、荷振れ制御部902は、前述の式4によって特定される吊り荷Rの回転角度λが予め設定された目標値λtに合致するか否かを判定する(図13のステップS5)。この際、本実施形態では、吊り荷Rの楕円軌道の長軸が上部旋回体12の前後方向(Y軸方向)を向くように、目標値λtが設定されている。
【0087】
回転角度λ=目標値λtの場合(ステップS5でYES)、荷振れ制御部902は主巻ロープ50のロープ長さを変化させる(ステップS6)。具体的に、荷振れ制御部902は、前述の式3に示すように、各振動数ωの2倍の角振動数で吊り荷Rの巻上げ、巻下げが交互に実行されるようにウインチ駆動部81に指令信号を入力する。すなわち、ステップS5は、適切なタイミングで吊り荷Rの巻上げ、巻下げが開始されるように設定されている。なお、ステップS5において、現在の回転角度λが目標値λtとは異なる場合、ステップS1以降が繰り返される。この際、ステップS1まで戻ることなく、ステップS5が繰り返されてもよい。
【0088】
ステップS6において主巻ロープ50の長さが変化されると、次第に吊り荷Rの振れ軌道が楕円形状に変化する(ステップS7)。
【0089】
次に、荷振れ制御部902は、現在の吊り荷Rが側面視(図4)においてどの領域に位置するかを判定する。具体的に、荷振れ制御部902は、θy=0か否かを判定する(ステップS8)。当該判定は、吊り荷Rに大きな運動エネルギが生じている場合に、ブーム16の起伏動作による振れ制御を開始するために行われる。すなわち、θy=0の場合、吊り荷Rは、側面視において基準線CLを通過する位置にあり、その移動速度も大きい状態となる。なお、ステップS8の判定処理は必須ではない。また、ステップS8において、θy≠0の場合(ステップS8でNO)、ステップS1以降が繰り返される。この際、ステップS1まで戻ることなく、ステップS8が繰り返されてもよい。
【0090】
本実施形態では、ステップS8においてθy=0の場合(ステップS8でYES)、荷振れ制御部902は、更に吊り荷Rが基準線CLの前方に位置するか否かを判定する(ステップS9)。そして、吊り荷Rが基準線CLの前方に位置する場合(ステップS9でYES)、荷振れ制御部902はブーム起伏駆動部80に対してブーム16を下げる(倒伏方向に回動させる)ように指令信号(ブーム起伏信号)を入力する(ステップS10、ブーム下げ動作)。この際、予め設定された角度分だけブーム16が回動される。一例として、5度だけブーム16の起伏角が小さくなるように、ブーム16が回動される。
【0091】
一方、吊り荷Rが基準線CLの後方に位置する場合(ステップS9でNO)、荷振れ制御部902はブーム起伏駆動部80に対してブーム16を上げる(起立方向に回動させる)ように指令信号(ブーム起伏信号)を入力する(ステップS11、ブーム上げ動作)。この際も、予め設定された角度分だけブーム16が回動される。一例として、5度だけブーム16の起伏角が大きくなるように、ブーム16が回動される。
【0092】
ステップS10またはステップS11が実行されると、再びステップS1以降が繰り返される。そして、やがてステップS2においてθx、θyのいずれもが閾値角度以下になった場合(ステップS2でYES)、フック昇降(主巻ロープ50の巻上げ、巻下げ)およびブーム16の起伏動作がいずれも停止される(ステップS12)。この結果、吊り荷Rの振れが低減される。
【0093】
図14は、上記の振れ制御におけるロープ長さ、ブーム角度、吊り荷の振れ角度の各推移を示すグラフである。図14のグラフ(A)は、主巻ロープ50のロープ長さの変化量の推移を示している。同グラフ(B)は、ブーム16の起伏角の変化量の推移を示している。同グラフ(C)は、振れ角度θxの推移を示し、同グラフ(D)は、振れ角度θyの推移を示している。また、図15は、図14のロープ長さのグラフ(A)の一部を拡大したグラフである。
【0094】
図14の例では、時刻0secから2secまでの間に、振れ角度θxが1周期分、変化している。この間に、荷振れ制御部902が図13のステップS1からS4までを実行し、振れ周期T(=2sec)、振動数ωを演算する。この結果、図13のステップS6では、前述の式3で示されるように周期的にロープ長さが変化される。この際、ロープ長さが変化する周期(ロープ周期)は、振れ周期Tの2分の1倍となる。すなわち、図14(A)およびその拡大図である図15で示されるように、吊り荷Rの振れ周期Tの1周期分の間に、吊り荷Rの昇降(主巻ロープ50の巻上げ、巻下げ)が2周期分実行される。図15の極値は、それぞれ吊り荷Rの昇降変化点に相当する。なお、図14(A)、図15では、時刻2secにおいてλ=λtが成立し、吊り荷Rの昇降が開始されている。図14(A)で示すような吊り荷Rの昇降、すなわち、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げによって、図14(C)で示すようにθxが収束していく。すなわち、吊り荷Rの楕円軌道が前後方向に長く延びる楕円形状となっていることがわかる。
【0095】
一方、図14(D)においては時刻が約3secの際にθy=0となっている。すなわち、この際に図13のステップS8の条件が成立するため、ブーム16の起伏動作が開始される。換言すれば、図14(D)のグラフに対して図14(B)のグラフで示されるように、ブーム16の先端部が吊り荷Rの前後方向(Y軸方向)における位置に追従するように、θyの振れ周期に対してその4分の1周期だけ遅らせてブーム16の起伏が実行される。この場合、ブーム16の先端部の動きは、吊り荷Rのθyの変化に同期して制御される。
【0096】
図16は、この際の吊り荷の位置に応じたブームの起伏動作を示す側面図である。各図において、実線矢印は吊り荷Rの軌跡、破線矢印は吊り荷Rの水平方向の速度、一点鎖線矢印はブーム16の起伏動作における水平方向の速度を意味する。図16(A)では、吊り荷Rが基準線CLよりも後方(上部旋回体12側)に位置し、基準線CLに近づくように前方に移動している。また、図16(D)では、吊り荷Rが基準線CLよりも後方(上部旋回体12側)に位置し、基準線CLから離れるように後方に移動している。このように、吊り荷Rが基準線CLよりも後方に位置する場合には、前述のように図13のステップS11においてブーム16の上げ動作が実行される。この際、図16(A)では、ブーム16の上げ動作が吊り荷Rの移動速度に対して減速効果をもたらす(減速上げ動作)。また、図16(D)では、ブーム16の上げ動作が吊り荷Rの移動速度に対して加速効果をもたらす(加速上げ動作)。
【0097】
一方、図16(B)では、吊り荷Rが基準線CLよりも前方に位置し、基準線CLから離れるように前方に移動している。また、図16(C)では、吊り荷Rが基準線CLよりも前方に位置し、基準線CLに近づくように後方に移動している。このように、吊り荷Rが基準線CLよりも前方に位置する場合には、前述のように図13のステップS10においてブーム16の下げ動作が実行される。この際、図16(B)では、ブーム16の下げ動作が吊り荷Rの移動速度に対して加速効果をもたらす(加速下げ動作)。また、図16(C)では、ブーム16の下げ動作が吊り荷Rの移動速度に対して減速効果をもたらす(減速上げ動作)。図13のステップS9、S10およびS11の処理、並びに図16の各図で示されるブーム16の起伏動作は、いわゆる追いノッチ操作に相当する。このような動作によって、図14(D)に示すように、振れ角度θyが収束していく。
【0098】
図17は、吊り荷の振れの挙動を示すグラフであって、上記で説明した主巻ロープ50の巻上げ、巻下げ動作、ならびにブーム16の起伏動作の組み合わせに応じた吊り荷Rの振れの挙動を示すものである。図17(A)では、吊り荷Rの振れの軌道を真円から楕円に変化させるために、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げのみを行ったものである(図13のステップS1~S7)。図17(B)は、本実施形態のように、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げ動作、ならびにブーム16の起伏動作を組み合わせた場合の吊り荷Rの振れの挙動を示すものである(図13のステップS1~S10、S11)。更に、図17(C)は、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げを行わずに、ブーム16の起伏動作のみを行った場合の吊り荷Rの挙動を示すものである。
【0099】
クレーン10の作業現場の制約によって、吊り荷Rの振れの軌道を所定の方向に沿った楕円軌道に調整したい場合には、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げを所定のタイミングで周期的に実行することで、図17(A)のように軌道の楕円化が実行される。また、吊り荷Rの振れの軌道を楕円化するとともに速やかにその振れ量を低減させたい場合には、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げに加えて、ブーム16の起伏動作を行うことで、図17(B)のように吊り荷Rの位置を点状に収束させることができる。一方、吊り荷Rの振れの軌道の向きを考慮することなく、ブーム16の起伏動作のみを行った場合には、図17(C)のように左右方向の振れ量が直線状に残存する結果となる。なお、吊り荷Rの振れの軌道の向きを考慮することなく、上部旋回体12の旋回動作のみを行った場合には、図17(C)のグラフを90度回転させたように前後方向の振れ量が直線状に残存する結果となる。
【0100】
以上のように、本実施形態では、制御部90の荷振れ制御部902が、少なくともロープ長さ検出部74によって検出されたロープ長さに基づいて吊り荷Rの振れの振れ周期Tを演算し、当該演算された振れ周期Tに基づいて決定したロープ周期に応じて前記ロープ長さを増減させるようにウインチ駆動部81に長さ指令信号を入力する。
【0101】
このような構成によれば、ロープに作用するコリオリ力に応じて、吊り荷Rの軌道を楕円形状に変化させることができる。したがって、クレーン10の作業現場における要求に応じて、平面視における吊り荷Rの振れの軌道を制御することが可能となる。
【0102】
なお、吊り荷Rの振れの軌道が平面視において真円に近い軌道から楕円軌道に変化することは、側面視における吊り荷Rの上下移動がより顕著に発生することを意味する。したがって、このような軌道の制御によって、その後のブーム16の起伏動作や上部旋回体12の旋回動作などによる振れの低減効果を高めることが可能になる。
【0103】
更に、このような構成によれば、作業現場において、平面視における吊り荷Rの楕円形状の軌道の長軸方向を異なる方向に変化させることができる。
【0104】
また、本実施形態では、所定の時刻においてロープ長さ検出部74によって検出された前記ロープ長さを初期ロープ長さ(式3、図14(A)のl)とすると、荷振れ制御部902は、前記ロープ長さが前記初期ロープ長さよりも長い状態と前記初期ロープ長さよりも短い状態との間で前記ロープ周期に応じて交互に変化するように、ウインチ駆動部81に前記長さ指令信号を入力する。
【0105】
このような構成によれば、前記ロープ長さが前記初期ロープ長さよりも長い状態と前記初期ロープ長さよりも短い状態との間で前記ロープ周期に応じて交互に変化することによって、吊り荷Rの振れの軌道をより安定して楕円形状に変化させることができる。
【0106】
また、本実施形態では、荷振れ制御部902が、吊り荷Rの振れ周期がロープ周期のn倍(nは2以上の整数)となるように、ウインチ駆動部81に前記長さ指令信号を入力する。
【0107】
このような構成によれば、前記ロープ周期が吊り荷Rの振れ周期の1/n倍に設定されるため、吊り荷Rの振れの軌道をより安定して楕円形状に変化させることができる。なお、先の実施形態では、n=2の場合に基づいて説明したが、上記のnは偶数であってもよいし、2の乗数であってもよい。なお、nは自然数であればよいが、nが大きいほど制御性能が相対的に低くなるため、nの値は小さいことが望ましい。
【0108】
また、本実施形態では、荷振れ制御部902は、カメラ72を含む吊り荷位置検出部の検出結果に基づいて、平面視における吊り荷Rの回転角度λを式4に基づいて演算することが可能であり、当該演算された回転角度λを基準としてウインチ駆動部81に前記長さ指令信号を入力する。
【0109】
このような構成によれば、吊り荷Rの座標を検出することで、現在の吊り荷Rの回転角度λを把握することができる。このため、前記回転角度λを基準としてロープ長さの調整を精度良く実行することができる。
【0110】
また、本実施形態では、平面視における吊り荷Rの楕円軌道の長軸方向が所定の方向となるような回転角度λの目標値λtを予め記憶部903が記憶しており、荷振れ制御部902は、前記演算された回転角度λが前記目標値λtとなるタイミングでウインチ駆動部81に前記長さ指令信号を入力する。
【0111】
このような構成によれば、予め吊り荷Rの楕円軌道の長軸方向を制御するための目標値λtが記憶されているため、作業現場においてロープ長さの調整タイミングの設定を試行錯誤する場合と比較して、吊り荷Rの楕円軌道の長軸方向を精度良く効率的に制御することができる。
【0112】
更に、本実施形態では、本発明に係るロープ長さ調整部として、クレーン10が備える主巻用ウインチ34を利用し、当該主巻用ウインチ34による主巻ロープ50の巻き取り、繰り出しによって、吊り荷Rの振れ軌道を容易に制御することができる。
【0113】
また、本実施形態では、荷振れ制御部902は、ブーム16の先端部が前後方向の吊り荷Rの位置に追従するように、ブーム起伏駆動部80に起伏指令信号を入力する。
【0114】
このような構成によれば、主巻ロープ50のロープ長さの調整に加えて、ブーム16の起伏動作によって吊り荷Rの振れ制御を補助することができる。
【0115】
また、本実施形態では、吊り荷Rの巻上げ、巻下げを行う際に、楕円軌道の長軸方向が前後方向となるように、回転角度λの目標値λtが設定されている。そして、吊り荷Rの軌道を楕円化することに加えて、吊り荷Rに対して前後方向の強制力を付与することが可能なブーム16の起伏動作が組み合わされる。この結果、ロープ長さの調整によって吊り荷Rの振れの軌道を前後方向に延びる楕円軌道に制御するとともに、ブーム16の起伏動作によって前後方向の吊り荷Rの振れを低減させることができるため、吊り荷Rの振れを早期に収束させることができる。
【0116】
更に、本実施形態では、荷振れ制御部902は、ブーム16の先端部が前後方向における吊り荷Rの位置に追従するように、吊り荷Rの振れ周期Tの4分の1周期遅れでブーム起伏駆動部80に起伏指令信号を入力する。このような構成によれば、ブーム16の起伏動作によって前後方向の吊り荷Rの振れを安定して低減させることができる。なお、ブーム16の起伏動作を開始するタイミングは、上記のタイミングに限定されるものではない。
【0117】
以上、本発明の各実施形態に係る振れ止め装置100およびこれを備えたクレーン10について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明は、例えば以下のような変形実施形態を取ることができる。
【0118】
(1)本発明に係る振れ止め装置100が適用されるクレーンの構造は、図1に示されるクレーン10に限定されるものではなく、他の構造を有するクレーンであってもよい。すなわち、本発明が適用されるクレーンは、ラチスマストやガントリが備えられるものや、ウインチ34、36が上部旋回体12の上部フレーム(後側)に配置されるものでもよい。また、クレーンは、ブームの先端部にジブやストラットが装着されたものでもよい。
【0119】
(2)上記の実施形態では、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げに際して、主巻ロープ50の長さをSin波形状に変化させる態様にて説明したが、本発明はこれに限定されない。巻上げ、巻下げ時の主巻ロープ50の長さのプロファイルは、矩形状など異なるものでもよい。更に、Sin波状のプロファイルであっても、一の極値に向かうカーブと前記一の極値から離れるカーブとが互いに異なる形状のものでもよい。
【0120】
(3)先の実施形態では、吊り荷Rの振れ周期(単位:時間)が主巻ロープ50の巻上げ、巻下げの周期(ロープの動作周期)の2倍となる、換言すれば、主巻ロープ50の巻上げ、巻下げの周期が、吊り荷Rの振れ周期の2分の1になる態様にて説明した。なお、ロープの動作周期については、ロープの巻上げ、巻下げのための入力信号を一時的に入力しないことでロープの動作周期を低く設定するものでもよい。
【0121】
(4)また、先の実施形態では、図13のフローチャートにおいて吊り荷Rの振れを楕円化したのちにブーム16の動きを制御(追いノッチ)する態様にて説明したが、図14のグラフに示すように、楕円化の完了を待たずに追いノッチ制御を開始してもよい。すなわち、楕円化および追いノッチの順序は上記の各態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0122】
10 クレーン
100 振れ止め装置(制御装置)
12 上部旋回体(クレーン本体)
14 走行体
15 キャブ
16 ブーム(起伏体)
16S ブームフット
20 マスト
30 ブーム起伏用ウインチ(起伏装置)
34 主巻用ウインチ(吊り荷ウインチ)
50 主巻ロープ(ロープ)
57 主フック
57M マーカー
70 操作部
71 入力部
72 カメラ(吊り荷位置検出部)
73 ブーム角度計
74 ロープ長さ検出部
75 吊り重量検出部
80 ブーム起伏駆動部
81 ウインチ駆動部
82 旋回駆動部
90 制御部
901 駆動制御部
902 荷振れ制御部
903 記憶部
CL 基準線
R 吊り荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17