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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131802
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】センシング用導電性ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20240920BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08L9/00
G01N3/00 K
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042270
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】浦田 智裕
【テーマコード(参考)】
2G061
4J002
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061BA19
2G061CA10
2G061EA03
2G061EA04
4J002AC011
4J002AC021
4J002AC031
4J002AC081
4J002DA016
4J002DA036
4J002FD030
4J002FD116
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD170
4J002GD00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】ゴム製品に適用することで、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を高精度で推定できるセンシング用導電性ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム成分と、導電性フィラーと、を含み、前記ゴム成分は、少なくともジエン系ゴムを含み、前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であり、10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が、1.00~26.00Ω・mであり、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.12~0.40であることを特徴とする、センシング用導電性ゴム組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、導電性フィラーと、を含み、
前記ゴム成分は、少なくともジエン系ゴムを含み、
前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であり、
10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が、1.00~26.00Ω・mであり、
70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.12~0.40であることを特徴とする、センシング用導電性ゴム組成物。
【請求項2】
前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して60質量部未満である、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項3】
前記導電性フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一種を含む、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項4】
前記10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が、2.50~8.00Ω・mである、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項5】
前記70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.13~0.20である、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項6】
前記導電性フィラーは、カーボンブラックであり、
前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して45質量部以上である、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項7】
前記導電性フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブを含み、
前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して32質量部以上、50質量部以下である、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して2質量部未満である、請求項7に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項9】
前記ゴム成分が、二種以上のゴムを含む、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項10】
前記ゴム成分が、天然ゴムと、ブタジエンゴムと、を含む、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【請求項11】
前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が105m/g以上で、且つジブチルフタレート(DBP)吸収量が105mL/100g~125mL/100gである、請求項1に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシング用導電性ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作動流体を用いて膨張、収縮するチューブゴムと、該チューブゴムの外周面を覆うスリーブ(網組補強構造)と、を有するラバーアクチュエータ(所謂、マッキベン型)が知られている。該ラバーアクチュエータのチューブゴムのように、変形を繰り返すゴム製品に関しては、ゴム部材の電気抵抗値からゴム部材の変形量を推定することができる(下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-037906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、本発明者は、ゴム部材の電気抵抗値と、ゴム部材の変形量の関係をAI(人工知能)に学習させ、その学習結果を利用して、AIにより、ゴム部材の電気抵抗値から、ゴム部材の変形量を推測でき、更には、ゴム部材の歪み、位置変化、角度変化を推測できることを見出した。また、ラバーアクチュエータについては、内圧及び電気抵抗値と、ラバーアクチュエータの歪、位置変化及び角度変化の動的挙動を、AIに学習させておくことで、AIによって、ラバーアクチュエータの内圧及び電気抵抗値から、ラバーアクチュエータの歪、位置変化及び角度変化を推定でき、更には、一方向に曲がる動きを繰り返して行う湾曲型ラバーアクチュエータにおいては、ラバーアクチュエータの歪、位置変化及び角度変化を用いて、ラバーアクチュエータの把持力を推定することもできる。
しかしながら、本発明者が更に検討を進めたところ、一般的な導電性ゴムをゴム製品に適用しても、ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化と、電気抵抗値の変化の相関が十分とは言えず、AIを利用しても、電気抵抗値から、ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を高精度で推定することが難しいことが分かった。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、ゴム製品に適用することで、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を高精度で推定できるセンシング用導電性ゴム組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のセンシング用導電性ゴム組成物の要旨構成は、以下の通りである。
【0007】
[1] ゴム成分と、導電性フィラーと、を含み、
前記ゴム成分は、少なくともジエン系ゴムを含み、
前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であり、
10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が、1.00~26.00Ω・mであり、
70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.12~0.40であることを特徴とする、センシング用導電性ゴム組成物。
上記[1]に記載の本発明のセンシング用導電性ゴム組成物をゴム製品に適用することで、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を高精度で推定することが可能となる。
【0008】
[2] 前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して60質量部未満である、[1]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[2]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物は、体積抵抗率が十分に高く、電気抵抗値の変化を更に検出し易くなると共に、硬さが低く、例えば、ラバーアクチュエータのチューブゴムに適用するのに好適な硬さである。
【0009】
[3] 前記導電性フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一種を含む、[1]又は[2]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[3]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物は、体積抵抗率が低く、電気抵抗値の再現性が向上する。
【0010】
[4] 前記10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が、2.50~8.00Ω・mである、[1]~[3]のいずれか一つに記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[4]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物をゴム製品に適用することで、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を、電気抵抗値から更に高精度で推定することが可能となり、特には、AI解析による推定精度が向上する。
【0011】
[5] 前記70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.13~0.20である、[1]~[4]のいずれか一つに記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[5]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物をゴム製品に適用することで、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を、電気抵抗値から更に高精度で推定することが可能となり、特には、AI解析による推定精度が向上する。
【0012】
[6] 前記導電性フィラーは、カーボンブラックであり、
前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して45質量部以上である、[1]~[5]のいずれか一つに記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[6]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物は、導電バスが形成され易く、電気抵抗値の再現性が向上しており、また、ゴムとしての物性も向上している。
【0013】
[7] 前記導電性フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブを含み、
前記導電性フィラーの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して32質量部以上、50質量部以下である、[1]~[5]のいずれか一つに記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[7]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物をゴム製品に適用することで、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を、電気抵抗値から更に高精度で推定することが可能となり、特には、AI解析による推定精度が向上する。
【0014】
[8] 前記カーボンナノチューブの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して2質量部未満である、[7]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[8]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物は、カーボンブラックの含有量を十分に確保して、ゴムの物性を維持することができる。
【0015】
[9] 前記ゴム成分が、二種以上のゴムを含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[9]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物は、導電性フィラーが二種以上のゴムの内の一種に偏在することで、導電パスが形成され易く、電気が流れ易い。
【0016】
[10] 前記ゴム成分が、天然ゴム(NR)と、ブタジエンゴム(BR)と、を含む、[1]~[9]のいずれか一つに記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[10]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物は、ラバーアクチュエータのチューブゴム用として適切な物性を有する。
【0017】
[11] 前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が105m/g以上で、且つジブチルフタレート(DBP)吸収量が105mL/100g~125mL/100gである、[1]~[10]のいずれか一つに記載のセンシング用導電性ゴム組成物。
上記[11]に記載のセンシング用導電性ゴム組成物は、電気抵抗値が十分に低く、また、電気抵抗値の測定値の再現性が高く、AI学習の結果を利用することで、推定精度をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ゴム製品に適用することで、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を高精度で推定できるセンシング用導電性ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ラバーアクチュエータの一例の側面図である。
図2】ラバーアクチュエータの一例の一部分解斜視図である。
図3】封止機構を含むラバーアクチュエータの一例の軸方向に沿った一部断面図である。
図4】アクチュエータ本体部の径方向に沿った断面図である。
図5】ラバーアクチュエータの挙動の一例の説明図である。
図6】70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)の説明図である。
図7】実施例及び比較例のゴム組成物の、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率と、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)と、推定精度と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明のセンシング用導電性ゴム組成物を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0021】
<定義>
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0022】
本明細書においてセンシングとは、導電性ゴム組成物を適用したゴム製品の歪み量、位置変化、角度変化等を感知(察知、検知、探知)することであり、センシング用導電性ゴム組成物とは、かかる歪み量、位置変化、角度変化等の感知に用いる導電性のゴム組成物を指す。
【0023】
<センシング用導電性ゴム組成物>
本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、ゴム成分と、導電性フィラーと、を含む。ここで、本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物においては、前記ゴム成分が少なくともジエン系ゴムを含み、前記導電性フィラーの含有量が前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であり、10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が1.00~26.00Ω・mであり、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が0.12~0.40であることを特徴とする。
【0024】
本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、ゴム成分と導電性フィラーとを含み、該導電性フィラーの含有量がゴム成分100質量部に対して30質量部以上であるため、ゴム組成物の体積抵抗率が十分に低くなり(電気が十分に流れ)、電気抵抗値の変化を検出することができる。また、本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が26.00Ω・m以下であるため、電気が十分に流れ、電気抵抗値の測定のバラツキが小さい。
また、前記70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)は、高歪ロスの指標であり、高歪での導電性フィラー同士の擦れ合い量に関係する。高歪では、導電性フィラー同士の擦れ合い量が多い方が、より多くの導電パスが形成される。そして、本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が0.12以上であるため、高歪で導電パスが十分に形成され、使用時の伸縮(高歪)による電気抵抗値の変化が大きくなり、歪みに対する電気抵抗値の変化の応答性が良い。また、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が0.40以下の範囲は、変形量と電気抵抗値との関係が線形性に優れる。
従って、本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物をゴム製品に適用することで、別途測定パーツを用いなくても、該ゴム製品そのものの電気抵抗値を利用して、該ゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を高精度で推定することが可能になる。
【0025】
また、上記の通り、本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、歪みに対する電気抵抗値の変化の応答性が良いため、該センシング用導電性ゴム組成物を、電気抵抗値をインプットとしたAI学習と組み合わせることで、電気抵抗値の変化の動的挙動から、歪み、位置変化、角度変化を更に高精度で推定することが可能となる。特に歪量の大きいゴム製品(例えば、引張方向において40%以上歪むゴム製品)でのセンシングでは、好適である。
【0026】
また、本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物をラバーアクチュエータに用いた場合、特には、該ラバーアクチュエータが指の機能を果たすロボットハンドの場合、ラバーアクチュエータの電気抵抗値と内圧を測定し、電気抵抗値と内圧をインプットとしたAI学習と組み合わせることで、ラバーアクチュエータの歪み、位置変化、角度変化を更に高精度で推定することが可能となる。更には、推定したラバーアクチュエータの歪み、位置変化、角度変化を用いて、ラバーアクチュエータの把持力を推定することもできる。
【0027】
(最低体積抵抗率)
本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が、1.00~26.00Ω・mであり、2.00~18.00Ω・mであることが好ましく、2.50~8.00Ω・mであることが更に好ましい。歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が1.00Ω・mよりも低いと、電気が流れ過ぎて、センシング用導電性ゴム組成物が損傷を受けたり、炭化する恐れがあり、その結果、推定精度の低下に繋がる。一方、歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が26.00Ω・mよりも高いと、電気が十分に流れず、電気抵抗値の測定のバラツキが現れ易く、再現性が低下する。また、10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率が2.50~8.00Ω・mであると、ゴム組成物を適用したゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を、電気抵抗値から更に高精度で推定することが可能となり、特には、AI解析による推定精度が向上する。
なお、本明細書において、最低体積抵抗率の測定温度は室温(例えば23℃)であり、0~70%の歪入力を加える際の引張速度は6mm/secである。測定用の試験片は4.7mm×40mmの短冊状のものである。そして、12回目の歪入力を加えた際の体積抵抗率の最低値を「最低体積抵抗率」とする。
【0028】
(Wd/Ws)
本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.12~0.40であり、0.13~0.20であることが好ましい。70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.12よりも低いと、導電性フィラーの含有量が少なく、導電パスが十分に形成されないため、測定される電気抵抗値のバラツキが大きくなり、再現性が低くなる。また、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が、0.40以下の範囲であれは、センシング用導電性ゴム組成物の変形量と電気抵抗値との関係の線形性が向上する。また、70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)が0.13~0.20であると、ゴム組成物を適用したゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を、電気抵抗値から更に高精度で推定することが可能となり、特には、AI解析による推定精度が向上する。
【0029】
(ゴム成分)
本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、ゴム成分を含み、該ゴム成分が、組成物にゴム弾性をもたらし、ゴム組成物の伸縮を可能にする。
【0030】
前記ゴム成分は、少なくともジエン系ゴムを含む。ゴム成分がジエン系ゴムを含むことで、例えば、架橋剤(硫黄、過酸化物等)を用いることで、ゴム成分を架橋でき、十分な強度を得ることができる。なお、前記ゴム成分は、ジエン系ゴムに加えて、非ジエン系のゴムを含んでもよい。
前記ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。これらゴム成分は、一種でもよいし、二種以上でもよい。
【0031】
前記ゴム成分は、二種以上のゴムを含むことが好ましく、二種以上のジエン系ゴムを含むことが更に好ましい。センシング用導電性ゴム組成物が二種以上のゴムを含む場合、後述する導電性フィラーが二種以上のゴムの内の一種に偏在することで、導電パスが形成され易くなり、電気が流れ易くなる。
【0032】
前記ゴム成分は、天然ゴム(NR)と、ブタジエンゴム(BR)と、を含むことが好ましい。天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とを含むゴム組成物は、後述するラバーアクチュエータのチューブゴム用として適切な物性を有する。
【0033】
(導電性フィラー)
本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、導電性フィラーを含み、該導電性フィラーが、組成物に導電性をもたらして、ゴム組成物のセンシングを可能とする。
【0034】
前記導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属粉末、金属繊維等が挙げられる。前記導電性フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一種を含むことが好ましい。ゴム組成物がカーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一種を含むことで、ゴム組成物の体積抵抗率が低くなり、電気抵抗値の再現性が向上する。ここで、ゴム組成物がカーボンブラックを含むことで、ゴム組成物の体積抵抗率が低くなり、電気抵抗値の再現性が向上することに加えて、ゴム組成物を適用したゴム製品の強度が向上する。また、ゴム組成物がカーボンナノチューブを含むと、該カーボンナノチューブは、引っ張る際に配向するため、体積抵抗率を更に下げ易くなる。
【0035】
--カーボンブラック--
前記カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFグレードのカーボンブラック等が挙げられる。これらカーボンブラックは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0036】
前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が105m/g以上であることが好ましい。カーボンブラックのNSAが105m/g以上であると、カーボンブラックの粒径が十分に小さく、電気抵抗値が十分に低くなり、電気抵抗値の変化を更に検出し易くなる。
なお、本明細書において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、ISO4652-1に準拠して測定された値である。
【0037】
前記カーボンブラックは、ジブチルフタレート(DBP)吸収量が105mL/100g~125mL/100gであることが好ましい。ジブチルフタレート(DBP)吸収量が105mL/100g以上であれば、カーボンブラックが十分なストラクチャーを有し、ゴム組成物の電気抵抗値が低くなる。また、ジブチルフタレート(DBP)吸収量が125mL/100g以下であれば、ラバーアクチュエータのチューブゴムに適用して、変形を繰り返しても、ストラクチャーが崩れることを抑制でき、混錬によるバラツキを抑制して、再現性が低下することを防止でき、また、再現性が向上することで、AI学習の結果を利用して、推定精度を更に向上させることができる。
なお、本明細書において、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、ISO4656-1に準拠して測定された値である。
【0038】
前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が105m/g以上で、且つジブチルフタレート(DBP)吸収量が105mL/100g~125mL/100gであることが好ましい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が105m/g以上で、且つジブチルフタレート(DBP)吸収量が105mL/100g~125mL/100gであると、電気抵抗値が十分に低く、また、電気抵抗値の測定値の再現性が高く、AI学習の結果を利用することで、推定精度をより一層向上させることができる。
【0039】
--カーボンナノチューブ--
前記カーボンナノチューブは、組成物の導電性を向上させる作用に特に優れる。
【0040】
前記カーボンナノチューブ(CNT)は、直径数nm~数十nm程度の炭素原子からなる構造体であり、極微細なチューブ状構造を有する。
前記カーボンナノチューブは、単層ナノチューブでも、多層ナノチューブでもよい。
前記カーボンナノチューブとしては、長さが0.1μm~30μmのものが好ましく、5μm~25μmのものがより好ましい。
また、前記カーボンナノチューブとしては、直径が10nm~300nmのものが好ましく、100nm~250nmのものがより好ましい。
【0041】
前記カーボンナノチューブは、プラズマCVD(化学気相成長)法、熱CVD法、表面分解法、流動気相合成法、アーク放電法等により合成することができ、市販品を利用することもできる。市販品のカーボンナノチューブとしては、例えば、KUMHO社製のカーボンナノチューブ、昭和電工社製気相法炭素繊維VGCF(登録商標)、米国マテリアルズテクノロジーズリサーチ(MTR)社製のカーボンナノチューブを用いることができる。
【0042】
--導電性フィラーの含有量--
前記導電性フィラーの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上である。導電性フィラーの含有量が、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であると、ゴム組成物の体積抵抗率が十分に低くなり(電気が十分に流れ)、電気抵抗値の変化を検出できる。
また、前記導電性フィラーの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して60質量部未満であることが好ましい。導電性フィラーの含有量が、ゴム成分100質量部に対して60質量部未満であれば、ゴム組成物の体積抵抗率が十分に高くなり(電気が流れ過ぎず)、電気抵抗値の変化を更に検出し易くなると共に、ゴム組成物の硬さが低くなり、例えば、ラバーアクチュエータのチューブゴムに適用するのに好適な硬さとなる。
【0043】
一好適実施態様のセンシング用導電性ゴム組成物においては、前記導電性フィラーがカーボンブラックであり、前記導電性フィラーの含有量が前記ゴム成分100質量部に対して45質量部以上であることが好ましい。導電性フィラーがカーボンブラックである場合において、導電性フィラーの含有量がゴム成分100質量部に対して45質量部以上であると、導電バスが更に形成され易くなり、電気抵抗値の再現性が向上し、また、ゴムとしての物性も向上する。
【0044】
他の好適実施態様のセンシング用導電性ゴム組成物においては、前記導電性フィラーがカーボンブラック及びカーボンナノチューブを含み、前記導電性フィラーの含有量が前記ゴム成分100質量部に対して32質量部以上50質量部以下であることが好ましい。導電性フィラーがカーボンブラック及びカーボンナノチューブを含む場合において、導電性フィラーの含有量がゴム成分100質量部に対して32質量部以上50質量部以下の範囲であれば、ゴム組成物を適用したゴム製品の歪み、位置変化、角度変化を、電気抵抗値から更に高精度で推定することが可能となり、特には、AI解析による推定精度が向上する。
【0045】
ここで、前記カーボンナノチューブの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して2質量部未満であることが好ましい。カーボンナノチューブの含有量が増えると、体積抵抗率を適切な範囲するために、カーボンブラックの含有量を減らす必要がある場合があり、ゴムの物性に影響する場合があるが、カーボンナノチューブの含有量がゴム成分100質量部に対して2質量部未満であれば、カーボンブラックの含有量を十分に確保して、ゴムの物性を維持することができる。
【0046】
(その他の成分)
前記センシング用導電性ゴム組成物は、上述したゴム成分、導電性フィラーの他、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、加硫促進剤、架橋剤(加硫剤)等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0047】
前記老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6C)、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(77PD)、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)等が挙げられる。該老化防止剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、1~4質量部がより好ましい。
【0048】
前記加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。該加硫促進剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.2~4質量部の範囲が更に好ましい。
【0049】
前記架橋剤としては、硫黄等が挙げられる。該架橋剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.2~4質量部の範囲が更に好ましい。
【0050】
<センシング用導電性ゴム組成物の製造方法>
本実施形態のゴム組成物は、例えば、バンバリーミキサーやロール等を用いて、ゴム成分に、導電性フィラーを配合し、所望により他の成分を更に配合して、混練した後、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0051】
<センシング用導電性ゴム組成物の用途>
上述した本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物は、歪みに対する電気抵抗値の変化の応答性が良いため、歪み量のセンシング(察知、検知、探知、感知)に用いることができる。該センシング用導電性ゴム組成物は、種々のゴム製品に利用でき、特には、ラバーアクチュエータのチューブゴムに好適に利用することができる。
【0052】
(ラバーアクチュエータ)
次に、本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物を用いた好適態様のラバーアクチュエータを図1に示す。
【0053】
図1は、本実施形態に係るラバーアクチュエータ10の側面図である。図1に示すように、ラバーアクチュエータ10は、アクチュエータ本体部100、封止機構200及び封止機構300を具える。また、ラバーアクチュエータ10の両端には、連結部20がそれぞれ設けられている。また、各連結部20には、抵抗値測定装置30が接続されている。
【0054】
アクチュエータ本体部100は、流体圧によって膨張及び収縮する筒状のチューブゴム110と、所定方向に配向されたコードを編み込んだ筒状の構造体であって前記チューブゴム110の外周面を覆うスリーブ120と、によって構成される。アクチュエータ本体部100には、接続口211aを介して作動流体が流入する。ここで、ラバーアクチュエータ10は、流体圧で作動し、空気圧式でも、液圧式でもよく、また、作動流体として液体が用いられる場合、該液体としては、油、水等が挙げられる。なお、ラバーアクチュエータが、油圧式の場合、作動流体としては、従来、油圧駆動システムに使用されている作動油を使用することができる。
【0055】
アクチュエータ本体部100は、基本的な特性として、チューブゴム110内へ作動流体が流入することによって、アクチュエータ本体部100の軸方向DAXに収縮し、径方向Dに膨張する。また、アクチュエータ本体部100は、チューブゴム110から作動流体が流出することによって、アクチュエータ本体部100の軸方向DAXに膨張し、径方向Dに収縮する。このようなアクチュエータ本体部100の形状変化によって、ラバーアクチュエータ10は、アクチュエータとしての機能を発揮する。
【0056】
また、このようなラバーアクチュエータ10は、いわゆるマッキベン型であり、人工筋肉用として適用できることは勿論のこと、より高い能力(収縮力)が要求されるロボットの体肢(上肢、下肢等)用としても好適に用い得る。連結部20には、当該体肢を構成する部材等が連結される。なお、本実施形態においては、連結部20に、抵抗値測定装置30が接続されているが、抵抗値測定装置30の接続箇所は、これに限られず、例えば、チューブゴム110の両端部に直接接続されていてもよい。
【0057】
本実施形態では、このような基本的な特性を有するマッキベン型のラバーアクチュエータを用いつつ、軸方向DAXの圧縮を拘束する(規制又は制限する)拘束部材150(図1において不図示、図2,3等参照)を設けることによって、軸方向DAXに直交する直交方向、即ち、径方向Dに湾曲(カール)することができる。
【0058】
封止機構200及び封止機構300は、軸方向DAXにおけるアクチュエータ本体部100の両端部を封止する。具体的には、封止機構200は、封止部材210及びかしめ部材230を含む。封止部材210は、アクチュエータ本体部100の軸方向DAXの端部を封止する。また、かしめ部材230は、アクチュエータ本体部100を封止部材210と共にかしめる。かしめ部材230の外周面には、治具によってかしめ部材230がかしめられた痕である圧痕231が形成される。
【0059】
封止機構200と封止機構300との相違点は、接続口211aが設けられているか否かである。接続口211aには、ラバーアクチュエータ10の駆動圧力源、具体的には、作動流体のコンプレッサと接続されたホース(管路)が取り付けられる。接続口211aを介して流入した作動流体は、通過孔(図示せず)を通過してアクチュエータ本体部100の内部、具体的には、チューブゴム110の内部に流入する。
【0060】
図2は、ラバーアクチュエータ10の一部分解斜視図である。図2に示すように、ラバーアクチュエータ10は、アクチュエータ本体部100及び封止機構200を具える。アクチュエータ本体部100は、前述したように、チューブゴム110とスリーブ120とによって構成される。
【0061】
チューブゴム110は、流体圧によって膨張及び収縮する円筒状の筒状体である。チューブゴム110は、作動流体による収縮及び膨張を繰り返し、上述した本実施形態のセンシング用導電性ゴム組成物が適用されている。チューブゴム110は、1層構造でもよいし、2層構造でもよいし、3層以上の積層構造を有してもよい。
【0062】
ここで、アクチュエータ本体部100の収縮率が高くなると、アクチュエータ本体部100(チューブゴム110)の電気抵抗値が低くなる。これは、アクチュエータ本体部100に流体が流入してアクチュエータ本体部100が軸方向DAXに収縮すると、チューブゴム110は、スリーブ120によって規制された所定範囲内において径方向Dに膨張する際、チューブゴム110の厚みが薄くなることにより、チューブゴム110に含まれる導電性フィラー間の距離が狭められる。
具体的には、アクチュエータ本体部100が収縮する際、チューブゴム110は拡張するため、チューブゴム110の膜厚が薄くなる。この結果、導電性フィラーの膜厚方向における寸法(距離)が狭まり、導電性フィラーが接近することとなる。即ち、アクチュエータ本体部100の収縮率が高くなり、長さが短くなると、導電性フィラー間の距離が狭くなるため、チューブゴム110の導電率が増大、換言すれば、チューブゴム110の電気抵抗値が低下する。
【0063】
また、チューブゴム110内の内圧と、チューブゴム110電気抵抗値とは、チューブゴム110の歪、位置変化、角度変化と相関がある。ここで、チューブゴム110内の内圧及び電気抵抗値と、チューブゴム110の歪、位置変化及び角度変化の動的挙動を、AI(人工知能)に学習させておくことで、チューブゴム110内の内圧及び電気抵抗値から、チューブゴム110の歪、位置変化及び角度変化を高度に推定することが可能となる。更には、チューブゴム110の歪、位置変化及び角度変化を用いて、ラバーアクチュエータ10の把持力を高度に推定することもできる。
【0064】
スリーブ120は、円筒状であり、チューブゴム110の外周面を覆う。スリーブ120は、所定方向に配向されたコードを編み込んだ構造体であり、配向されたコードが交差することによって菱形の形状が繰り返されている。スリーブ120は、このような形状を有することによって、パンタグラフ変形し、チューブゴム110の収縮及び膨張を規制しつつ追従する。
スリーブ120を構成するコードとしては、芳香族ポリアミド(アラミド)やポリエチレンテレフタレート(PET)の繊維コードを用いることが好ましい。但し、このような種類の繊維コードに限定されるものではなく、例えば、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維等の高強度繊維のコードでもよい。
【0065】
また、本実施形態では、チューブゴム110とスリーブ120との間には、拘束部材150が設けられる。拘束部材150は、軸方向DAXには圧縮せず、径方向D(撓み方向と呼んでもよい)に沿ってのみ変形可能である。つまり、拘束部材150は、軸方向DAXに沿った圧縮に対して抵抗し、軸方向DAXに直交する直交方向(径方向D)に変形可能である。換言すると、拘束部材150は、軸方向DAXに沿って変形し難く、径方向Dに沿って撓める特性を有している。なお、変形可能とは、湾曲、或いはカール可能と言い換えてもよい。
【0066】
また、拘束部材150は、拘束部材150が設けられているチューブゴム110の外周上の位置において、径方向D外側へのチューブゴム110(及びスリーブ120)の膨張を拘束(規制)する機能も有している。
【0067】
本実施形態では、拘束部材150は、スリーブ120の内側、具体的には、スリーブ120の径方向内側の空間において、軸方向DAXの一端側から他端側に亘って設けられている。また、本実施形態では、拘束部材150は、板バネ(leaf spring)を用いて形成されている。板バネの寸法は、ラバーアクチュエータ10のサイズ、及び必要とされる発生力等に応じて選択すればよく、特に限定されない。また、板バネの材料についても特に限定されないが、典型的には、ステンレス鋼等の金属等、曲げ易く、圧縮に強い材料であればよい。例えば、拘束部材150は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の薄板等によって形成されてもよい。CFRPは、金属に比べて塑性変形をし難いため、ラバーアクチュエータ10が湾曲後、元の真っ直ぐな状態に戻り易い。
【0068】
図2において、封止機構200は、アクチュエータ本体部100の軸方向DAXにおける端部を封止する。封止機構200は、封止部材210、係止リング220及びかしめ部材230によって構成される。
【0069】
封止部材210は、管状のアクチュエータ本体部100に挿通される。具体的には、封止部材210は、頭部211と胴体部212とを有し、胴体部212は、チューブゴム110に挿通される。封止部材210としては、ステンレス鋼等の金属を好適に用い得るが、このような金属に限定されず、硬質プラスチック材料等を用いてもよい。
【0070】
係止リング220は、封止部材210にスリーブ120を係止する。具体的には、スリーブ120は、係止リング220を介して径方向D外側に折り返される(図2において不図示、図3参照)。係止リング220には、封止部材210と係合できるように一部が切り欠かれた切欠き部221が形成されている。係止リング220としては、封止部材210と同様の金属、硬質プラスチック等の材料や、天然繊維(天然繊維の糸)、ゴム(例えば、Oリング)等を用いることができる。
【0071】
かしめ部材230は、アクチュエータ本体部100を封止部材210と共にかしめる。具体的には、かしめ部材230は、アクチュエータ本体部100の封止部材210が挿通された部分の外周面に設けられ、アクチュエータ本体部100を封止部材210にかしめる。かしめ部材230としては、アルミニウム合金、真鍮及び鉄等の金属を用いることができる。かしめ部材230には、かしめ用の治具によってかしめ部材230がかしめられると、図1に示したような圧痕231が形成される。
【0072】
図3は、封止機構200を含むラバーアクチュエータ10の軸方向DAXに沿った一部断面図である。図3に示すように、チューブゴム110は、胴体部212に挿通される。また、スリーブ120は、係止リング220を介して径方向D外側に折り返されている。
スリーブ120の径方向D内側には、拘束部材150が設けられる。具体的には、拘束部材150は、チューブゴム110とスリーブ120との間に設けられる。
【0073】
また、拘束部材150は、アクチュエータ本体部100の周方向における一部に設けられる。つまり、拘束部材150は、チューブゴム110(及びスリーブ120)の周方向における一部のみに設けられる。
拘束部材150は、アクチュエータ本体部100(つまり、チューブゴム110及びスリーブ120)の軸方向DAXにおける一端側から他端側に亘って設けられる。具体的には、拘束部材150は、封止機構200から封止機構300に亘って設けられてもよい。但し、拘束部材150は、必ずしも完全に封止機構200から封止機構300に亘って設けられていなくてもよく、封止機構200及び封止機構300の何れか一方(特に、湾曲時に自由端となる可能性が高い封止機構300側)には、拘束部材150が延在していなくてもよい。
【0074】
かしめ部材230は、封止部材210の胴体部212の外径よりも大きく、胴体部212に挿通された上で治具によってかしめられる。かしめ部材230は、アクチュエータ本体部100を封止部材210と共にかしめる。具体的は、かしめ部材230は、胴体部212に挿通されたチューブ110、及びチューブ110の径方向D外側に位置するスリーブ120をかしめる。つまり、かしめ部材230は、チューブ110及びスリーブ120を封止部材210とともにかしめる。
【0075】
図4は、アクチュエータ本体部100の径方向Dに沿った断面図である。図4に示すように、拘束部材150は、チューブゴム110とスリーブ120との間に設けられる。拘束部材150は、チューブゴム110及びスリーブ120と密着していてもよいし、拘束部材150と、チューブゴム110及び/又はスリーブ120との間、及び拘束部材150の側方には、多少隙間が形成されても構わない。
【0076】
拘束部材150は、チューブゴム110の周方向における一部に設けられる。拘束部材150の幅は、特に限定されないが、チューブゴム110の外径を基準とすれば、概ね当該外径の半分程度としてよい。
なお、本実施形態では、拘束部材150は、平板状であるが、撓み方に影響がない範囲において、チューブゴム110及びスリーブ120の断面形状に沿って多少湾曲させてもよい。
【0077】
図5は、ラバーアクチュエータ10の挙動の説明図である。図5に示すラバーアクチュエータ10は、封止機構200側が固定されており、封止機構300側は自由に移動できる状態である。つまり、封止機構200側が固定端であり、封止機構300側が自由端である。
【0078】
上述したように、ラバーアクチュエータ10の内部に流体が流入すると、軸方向DAXに収縮しようとするが、拘束部材150が設けられているため、軸方向DAXに沿った収縮が拘束(規制)される。つまり、板バネなどの硬質な部材によって形成された拘束部材150が、背骨のような役割を果たし、拘束部材150が設けられているチューブゴム110及びスリーブ120の外周上の位置と反対側(図5における下側)において、径方向D外側に膨張することによって、軸方向DAXにおけるラバーアクチュエータ10の寸法が短くなり、方向D1に沿ってラバーアクチュエータ10(具体的には、アクチュエータ本体部100)が撓む。なお、方向D1は、可撓方向と呼んでもよい。
【0079】
拘束部材150は、チューブゴム110と、スリーブ120との間に設けられ、軸方向DAXにおける圧縮に対して抵抗し、軸方向DAXに直交する直交方向(径方向D)に沿って変形できる部材であり、アクチュエータ本体部100の周方向における一部に配置される。つまり、アクチュエータ本体部100への流体の流入(加圧)によって、アクチュエータ本体部100(マッキベン)が軸方向DAXに沿って収縮しようとすると、拘束部材150の部分は圧縮剛性が高いため、拘束部材150が配置された部分は収縮することができない。一方、その他のアクチュエータ本体部100の部分は収縮しようとするため、直交方向(径方向D)に沿った曲げ方向の力が発生し、拘束部材150を背面として湾曲する。そのため、ラバーアクチュエータ10は、ヒトの指に似た挙動を実現し得る。また、複数のラバーアクチュエータ10を組み合わせることで、ヒトの手に似た挙動を実現でき、鶏卵のような柔らかくて壊れ易い物体を損傷させずに把持することも可能となる。
【実施例0080】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
<ゴム組成物の調製>
表1に示す配合のゴム組成物を、通常の方法で混練して調製した。なお、表1に示す配合物以外にも、例えばビスマレイミド化合物、ワックスなどを適宜配合してもよい。それらの配合物の配合量については、ゴム組成物の最低体積抵抗率及びヒステリシスロスが所望の範囲内となるよう、公知の方法で適宜調整することができる。また、表1に示す配合物の内、加硫促進剤、加硫助剤、加工助剤、老化防止剤については、それぞれの合計量を表1に示す。内訳については、ゴム組成物の最低体積抵抗率及びヒステリシスロスが所望の範囲内となるよう、公知の方法で適宜調整することができる。
【0082】
<加硫ゴムでの試験>
得られたゴム組成物から厚さ1mmのゴムシートを作製し、155℃で45分間加硫を行って、加硫ゴムシートを作製した。該加硫ゴムシートから4.7mm×40mmの短冊状の試験片を作製した。該試験片に対して、以下の方法で、(1)10V印加時、0~70%の歪入力を加えた際の最低体積抵抗率、(2)70%伸長時のヒステリシスロス(Wd/Ws)を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
(1)最低体積抵抗率
株式会社システムワン製の引張試験機(model K18003)を用いて、作製した試験片に対して、室温(23℃)において、10Vの電圧を印加し、6mm/secの引張速度で0~70%の歪を入力した際の体積抵抗率を測定し、12回目の歪入力を加えた際の体積抵抗率の最低値を求めた。
【0084】
(2)ヒステリシスロス(Wd/Ws)
作製した試験片をシステムワン製の引張試験機(K18003)を用いて、室温(23℃)、チャック間距離20mmで、12回、70%伸長させた後(0%→70%伸長→0%のサイクルを10回繰り返した後)、引張速度6mm/secでのヒステリシスロス[-](Wd/Ws、損失エネルギー/貯蔵エネルギー)を算出した。ヒステリシスロスは、図6に示す応力-歪み曲線図におけるABCDAに相当する面積とABCEAに相当する面積との比(ABCDA/ABCEA)によって算出した。
【0085】
<ラバーアクチュエータでの試験>
得られたゴム組成物から円筒形状のチューブゴムを作製した。
一方、原糸として、2200dtexのアラミド繊維を2本用い、12回/10cmの下撚りをかけ、更に12回/10cmの上撚りをかけて、直径0.7mmのアラミド繊維コードを作製した。該アラミド繊維コード64本を編み込んで作製した網目状のスリーブを用意した。このスリーブは、横断面において円周上にアラミド繊維コードが48本観察される網目状筒状体であった。具体的には、このスリーブは、等間隔、平行かつ螺旋状に配置された32本のアラミド繊維コードと、この32本のアラミド繊維コードと斜交するとともに、等間隔、平行かつ螺旋状に配置された他の32本のアラミド繊維コードとが交互に編み込まれてなる網目状筒状体であり、各コードのスリーブの軸方向に対する角度は25度であった。
前記チューブゴムと前記網目状のスリーブとを用いて、図1図5に示す構造のラバーアクチュエータを作製した。なお、封止機構200と封止機構300との間の長さは250mmである。また、チューブゴムの作動流体としては、空気を用いた。
【0086】
(3)AI解析による把持力の推定精度
作製したラバーアクチュエータの内圧及び電気抵抗値と、掴む物品の物理的変化から換算された把持力を教師データとして用いて、AIに学習させた。使用したAIは、リザーバーコンピューティング(Reservoir Computing)の「Echo State Network」というモデルである。
次に、該学習結果を利用して、電気抵抗値と内圧をインプットとして、AIにラバーアクチュエータの歪み、位置変化、角度変化を推定させ、更には、ラバーアクチュエータの把持力を推定させた。AIで推定した把持力と、測定した実際の把持力から、リザーバーコンピューティング(Reservoir Computing)の「Echo State Network」というモデルを通して、推定精度を求め、比較例1の推定精度を100として指数表示した。結果を表1及び図7に示す。指数値が小さい程、AI解析による把持力の推定精度が高いことを示す。
【0087】
【表1】
【0088】
*1 SBR: スチレン-ブタジエンゴム、ENEOSマテリアル社製、商品名「ESBR 1500」
*2 NR: 天然ゴム、 RSS#2
*3 BR: ハイシスブタジエンゴム、宇部興産社製、商品名「UBEPOL-BR150L」
*4 CB N220: 東海カーボン社製、商品名「シースト6」、窒素吸着比表面積(NSA)=114m/g、DBP吸収量=114mL/100g
*5 CB N234: 旭カーボン社製、商品名「旭#78」、窒素吸着比表面積(NSA)=126m/g、DBP吸収量=124mL/100g
*6 CNT: カーボンナノチューブ、Kumho社製、商品名「CNT K-Nanos-100P」
*7 CB+CNT: カーボンブラック(CB)とカーボンナノチューブ(CNT)の総量
*8 加硫促進剤: ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(三新化学社製、商品名「サンセラーDM」)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(三新化学社製、商品名「サンセラーNS-G」)、1,3-ジフェニルグアニジン(住友化学社製、商品名「ソクシノールD」)から選ぶ1種又は2種以上であって、その内1,3-ジフェニルグアニジンを使用する場合、その配合量は0.35質量部以下とする
*9 加硫助剤: ステアリン酸、亜鉛華の混合物であって、それぞれが1質量部以上配合
*10 加工助剤: プロセスオイル、リターダーの混合物であって、その内リターダーの配合量は0.2質量部以下とする
*11 老化防止剤: N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(住友化学社製、商品名「アンチゲン6C」)、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(EASTMAN社製、商品名「Santoflex 77PD」)から選ぶ1種又は2種以上
*12 硫黄: 鶴見化学工業社製、商品名「サルファックス5」
【0089】
表1及び図7から、本発明に従う実施例のゴム組成物は、AI解析による把持力の推定精度が高いことが分かる。
また、実施例3~4、実施例6~7の結果から、ゴム成分が天然ゴム一種のみからなると、最低体積抵抗率が大きくなる傾向があることが分かる。なお、実施例5及び8の結果から、ゴム成分がブタジエンゴム一種のみからなると、最低体積抵抗率は低いものの、耐久性については、天然ゴムとブタジエンゴムとのブレンドの方が優位である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のセンシング用導電性ゴム組成物は、一例として、ラバーアクチュエータのチューブゴムに適用でき、また、ラバーアクチュエータのチューブゴムに適用することで、内圧と電気抵抗値から、歪み、位置変化、角度変化を高い精度で推定でき、更には、ラバーアクチュエータの把持力を高い精度で推定することもできる。
【0091】
[国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は、「No.9_産業と技術革新の基盤を作ろう」などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【符号の説明】
【0092】
10:ラバーアクチュエータ
20:連結部
30:抵抗値測定装置
100:アクチュエータ本体部
110:チューブゴム
120:スリーブ
150:拘束部材
200:封止機構
210:封止部材
211:頭部
211a:接続口
212:胴体部
220:係止リング
221:切欠き部
230:かしめ部材
231:圧痕
300:封止機構
AX:軸方向
:径方向
D1:可撓方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7