(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131804
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】セルロース溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 16/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C08B16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042273
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】石川 竣平
(72)【発明者】
【氏名】築田 憲明
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA24
4C090BB52
4C090BC01
4C090CA06
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに十分な物性のセルロース溶液を短時間で得ることができる、セルロース溶液の製造方法を提供すること。
【解決手段】再生セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素とを含む混合物を、その周囲に温度調節ジャケットを有する撹拌槽と、前記撹拌槽の壁面に沿って低速回転することで前記混合物を均一化する低速翼と、前記混合物中で高速回転することで前記再生セルロースに剪断力を加える高速翼とを、備える撹拌装置を用いて撹拌する工程を含む、セルロース溶液の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素とを含む混合物を、その周囲に温度調節ジャケットを有する撹拌槽と、前記撹拌槽の壁面に沿って低速回転することで前記混合物を均一化する低速翼と、前記混合物中で高速回転することで前記再生セルロースに剪断力を加える高速翼とを、備える撹拌装置を用いて撹拌する工程を含む、セルロース溶液の製造方法。
【請求項2】
前記工程にわたって、前記混合物は-15~10℃の温度である、請求項1に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項3】
前記低速翼の翼先端速度が0.2~2m/sであり、前記高速翼の翼先端速度が2~12m/sである、請求項1に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の工程の前に、前記再生セルロースを前記アルカリ水溶液に混合した分散液を、前記撹拌槽と、前記低速翼とを備える撹拌装置を用いて撹拌する工程を更に含む、請求項1に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項5】
前記工程にわたって、前記分散液は0~30℃の温度である、請求項4に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項6】
前記低速翼の翼先端速度が0.2~2m/sである、請求項4に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項7】
前記撹拌装置は、前記分散液中で高速回転することで前記セルロースに剪断力を加える高速翼を更に備える、請求項4に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項8】
前記高速翼の翼先端速度が0~6m/sである、請求項7に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項9】
前記再生セルロースはセルロース成形物に由来するものである、請求項1~8のいずれか一項に記載のセルロース溶液の製造方法。
【請求項10】
前記混合物は5~12質量%の再生セルロース濃度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のセルロース溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース溶液の製造方法に関し、特に原料として再生セルロースを用いるセルロース溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セロファン、レーヨン及びビーズ等のセルロース製品を製造する際には端材及び規格外品などの副産物が発生する。一方、セルロースは熱可塑性を有さず、汎用の溶媒に溶解しないために、セルロース溶液を調製するにはコストを要する。
【0003】
特許文献1には、木材パルプ等のセルロースをアルカリ水溶液に浸漬してアルカリセルロースとし(マーセル化)、続いて低温で二硫化炭素を添加することでセルロースをセルロースザンテートに変換してアルカリ水溶液に溶解し、成形に適したセルロース溶液を得る方法が記載されている。特許文献1の方法では、反応混合物を撹拌する際に、ヘンシェル型溶解機が使用されている。
【0004】
特許文献2には、固形分濃度1wt%以上の微細繊維セルロースのスラリーを、高速で自転しながら公転するディスパ翼と、タンク壁付近の内容物をかき取る低速翼とを有するミキサーを用いて分散する、微細繊維状セルロース分散体の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、セロファンやレーヨンなどの再生セルローススクラップを粉砕し、水酸化ナトリウム水溶液と二硫化炭素を用いてセルロース溶液であるスクラップビスコースを調製し、通常の木材パルプ等から調製したビスコースと混合してセルロース成形体を製造する方法が記載されている。しかしながら、特許文献3の方法では、スクラップビスコースのセルロース濃度は3~5wt%と低いため、セロファンを製造する工業用ビスコース(セルロース濃度約10%)とは濃度差が大きく、利用し難い。
【0006】
特許文献4には、再生利用人工セルロース系原材料の溶解によりセルロース溶液を作成し、得られたセルロース溶液を押出し、成形体を形成して人工セルロース成形体を製造する方法が記載されている。特許文献4の方法では、再生利用人工セルロース系原材料のアルカリ化ステージにおいて、前記再生利用人工セルロース系原材料を苛性ソーダ中に浸漬して作製されたアルカリセルロースが、未使用のセルロース系原材料から作製されたアルカリセルロースと混合される。その後、得られたアルカリセルロース混合物をキサントゲン化して溶解し、押出して、新たな人工セルロース成形体が形成される。
【0007】
特許文献4の方法では、未使用のセルロース系原材料と混合される再生利用人工セルロース系原材料の比率が特許文献3の方法よりも向上しているが、両者を混合する場合、反応性が異なるため、その後のキサントゲン化が不均一となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61-252243号公報
【特許文献2】特開2020-100755号公報
【特許文献3】米国特許第4,145,533号
【特許文献4】特表2018-505973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
再生セルロースを成形原料として再利用する技術は提案されているものの、工業的な方法としては未だ確立されていない。そのため、セルロース製品の副産物及び廃棄物はリサイクル不可の製品に分類され、ほとんどは産業廃棄物として焼却処分されており、地球環境に対し大気汚染及び温暖化等の負荷を与えている。
【0010】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに十分な物性のセルロース溶液を短時間で得ることができる、セルロース溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を提供する。
【0012】
[態様1]再生セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素とを含む混合物を、その周囲に温度調節ジャケットを有する撹拌槽と、前記撹拌槽の壁面に沿って低速回転することで前記混合物を均一化する低速翼と、前記混合物中で高速回転することで前記再生セルロースに剪断力を加える高速翼とを、備える撹拌装置を用いて撹拌する工程を含む、セルロース溶液の製造方法。
【0013】
[態様2]前記工程にわたって、前記混合物は-15~10℃の温度である、態様1のセルロース溶液の製造方法。
【0014】
[態様3]前記低速翼の翼先端速度が0.2~2m/sであり、前記高速翼の翼先端速度が2~12m/sである、態様1又は2のセルロース溶液の製造方法。
【0015】
[態様4]態様1に記載の工程の前に、前記再生セルロースを前記アルカリ水溶液に混合した分散液を、前記撹拌槽と、前記低速翼とを備える撹拌装置を用いて撹拌する工程を更に含む、態様1~3のいずれかに記載のセルロース溶液の製造方法。
【0016】
[態様5]前記工程にわたって、前記分散液は0~30℃の温度である、態様4のセルロース溶液の製造方法。
【0017】
[態様6]前記低速翼の翼先端速度が0.2~2m/sである、態様4又は5のセルロース溶液の製造方法。
【0018】
[態様7]前記撹拌装置は、前記分散液中で高速回転することで前記セルロースに剪断力を加える高速翼を更に備える、態様4~6のいずれかのセルロース溶液の製造方法。
【0019】
[態様8]前記高速翼の翼先端速度が0~6m/sである、態様7のセルロース溶液の製造方法。
【0020】
[態様9]前記再生セルロースはセルロース成形物に由来するものである、態様1~8のいずれかのセルロース溶液の製造方法。
【0021】
[態様10]前記混合物は5~12質量%の再生セルロース濃度を有する、態様1~9のいずれかのセルロース溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに十分な物性のセルロース溶液を短時間で得ることができる、セルロース溶液の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0024】
<セルロース>
本発明の方法において原料として使用するセルロースは、好ましくは、再生セルロースである。再生セルロースとは、従来公知のビスコース法や銅アンモニア法により液化された後に所定の形状に凝固して成形したセルロースをいう。再生セルロースには、セルロース成形物、セルロース成形物を裁断等して製造されたセルロース製品、セルロース成形物を製造する際の副産物等が含まれる。再生セルロースの具体例としては、セロファン、レーヨン及びビーズ等のセルロース成形物を製品化する際に発生する端材、規格外品、不良品、及びセルロース製品の廃棄物等が挙げられる。
【0025】
原料として使用するセルロースの重合度が高すぎる場合は、反応混合物の粘度増大により、系内の温度及び反応が不均一になりやすく、溶解性が低下することがある。セルロースの重合度が低すぎる場合は、再生されるセルロース成形物の強度等の性能が不十分になることがある。
【0026】
本発明の方法では、本発明の目的を損なわない範囲の使用量であれば、再生セルロースに加えて、木材パルプ、綿、これらの加水分解物等の通常使用されるセルロース原料を使用してもよい。また、通常使用されるセルロース原料が各種セルロース成形物の成形原料として好ましい重合度を有するものであれば、再生セルロースの代わりにこれを使用してもよい。
【0027】
<マーセル化>
セルロースは、アルカリ水溶液に接触させて反応させ、アルカリセルロースに変換する。この工程は、一般にマーセル化と呼ばれる。マーセル化によってセルロースは膨潤し、結晶構造が変化して、アルカリセルロースを硫化する際の反応効率が向上する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等の強アルカリ化合物を使用することができる。
【0028】
使用するアルカリ水溶液のアルカリ濃度は原料として用いたセルロースの水分に応じて調節されるが、セルロースをアルカリ水溶液に混合した分散液中のアルカリ濃度として5~12質量%、好ましくは6~11質量%、より好ましくは7~10質量%となるように調節する。また、前記分散液中のセルロース濃度は5~13質量%、好ましくは6~12質量%、より好ましくは7~11質量%となるように調節する。前記分散液中のアルカリ濃度及びセルロース濃度を前記範囲に調節することで、二硫化炭素を加えて得られる混合物の粘度が硫化及び溶解を行うのに適したものになる。
【0029】
次いで、アルカリ水溶液とセルロースとを混合及び撹拌する。混合及び撹拌は、撹拌装置を使用して行うことができる。撹拌装置は撹拌槽を有し、撹拌槽の周囲に温度調節することが可能な温度調節ジャケットを有するものを使用する。
【0030】
セルロースのマーセル化は、0~30℃、好ましくは0~25℃、より好ましくは0~20℃の温度にて行う。マーセル化時の温度が0℃未満であると前記分散液の粘度が増大して、次工程の硫化及び溶解にてアルカリセルロースを二硫化炭素やアルカリ水溶液に均一に接触させることが困難になり、30℃を超えると硫化に適した温度に冷却するために、手間及び時間を要することになる。
【0031】
マーセル化をより低温で行うほど、反応が進行するに従ってアルカリセルロースが著しく膨潤し、前記分散液の粘度が上昇する。それにより、前記分散液の流動性が低下して、撹拌槽の周囲から温度調節しても壁面に近い部分しか調温されないため、前記分散液全体の温度分布は不均一となり、反応温度を精度よく調節できないという問題がある。
【0032】
この問題を解決するため、マーセル化において、反応中は撹拌槽の壁面近傍から反応系内全体をかき混ぜることで前記分散液の温度を均一化する。そのために、撹拌装置としては、撹拌槽の壁面に沿って低速回転することで前記分散液を均一化する低速翼を備えるものを使用する。つまり、低速翼で壁面の前記分散液を掻き取って、前記分散液の温度分布を均一化し、結果として調温の精度及び反応効率が向上することになる。低速翼の回転速度は、低速翼の翼先端速度が0.2~2m/s、好ましくは0.3~1.5m/s、より好ましくは0.4~1m/sになるように調節する。低速翼の翼先端速度が0.2m/s未満であると混合が不十分となり、2m/sを超えると前記分散液が飛散したり、撹拌するモーターの負荷が大きくなり過ぎたりするおそれがある。
【0033】
低速翼の形状としては、アンカー翼、リボンアンカー翼、ヘリカルリボン翼、ゲート翼などがあるが、中でもアンカー翼やリボンアンカー翼が好ましい。
【0034】
マーセル化の好ましい一形態において、セルロースのサイズによっては剪断力を印加することで微細化し、アルカリ水溶液との接触面積を増大させても良い。そうすることで、マーセル化の反応時間が短縮される。この場合、撹拌装置としては、前記撹拌槽と前記低速翼に加えて、分散液中で高速回転する高速翼を備えるものを使用する。高速翼の回転速度は、高速翼の翼先端速度が0~6m/s、好ましくは0~3m/s、より好ましくは0~2.5m/sになるように調節する。高速翼の翼先端速度が6m/sを超えると分散液の温度が上昇して反応温度を適温に調節しにくくなる。
【0035】
高速翼の形状としては、ディスパ翼、タービン翼、プロペラ翼、パドル翼、ローター・ステーターなどがあるが、中でもディスパ翼が好ましい。
【0036】
マーセル化の反応時間は、通常5分~2時間、好ましくは10分~1.5時間、より好ましくは20分~1時間の範囲である。
【0037】
<硫化及び溶解>
次いで、マーセル化で生成したアルカリセルロースは、二硫化炭素に接触させて反応させ、セルロースザンテートに変換する。この工程は、一般に硫化と呼ばれる。硫化は、マーセル化後のアルカリセルロースをアルカリ水溶液と混合した分散液に、二硫化炭素を加えて混合及び撹拌する。また、セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素を一度に混合して、マーセル化と硫化及び溶解を同時に行うこともできる。
【0038】
セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素とを含む混合物について、セルロース濃度及びアルカリ化合物の濃度は、新たに調整する必要のない限り、マーセル化の後に添加される二硫化炭素で希釈された値となる。前記混合物中の二硫化炭素濃度はセルロースの質量に対して1~50質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%に調節する。二硫化炭素濃度が1質量%未満であるとアルカリセルロースの溶解性が不十分となり、50質量%を超えると副反応が多くなったり、未反応の二硫化炭素が残存したりするおそれがある。
【0039】
混合及び撹拌は、撹拌装置を使用して行うことができる。撹拌装置は撹拌槽を有し、撹拌槽の周囲に温度調節することが可能な温度調節ジャケットを有するものを使用する。
【0040】
アルカリセルロースの硫化及び溶解は、-15~10℃、好ましくは-12~8℃、より好ましくは-10~6℃の温度にて行う。硫化時の温度が-15℃未満であるとアルカリ溶液の凝固点との関係から前記混合物の粘度が増大し、二硫化炭素液滴が混合物全体に均質に微分散しにくくなり、10℃を超えると、セルロースの溶解性が低下する。
【0041】
硫化及び溶解の間は、撹拌槽の壁面近傍から反応系内全体をかき混ぜることで混合物の温度を均一化する。そのために、撹拌装置としては、撹拌槽の壁面に沿って低速回転することで混合物を均一化する低速翼を備えるものを使用する。それによって、温度調節の精度だけでなく、反応効率も向上する。低速翼の回転速度は、低速翼の翼先端速度が0.2~2m/s、好ましくは0.3~1.5m/s、より好ましくは0.4~1m/sになるように調節する。低速翼の翼先端速度が0.2m/s未満であると混合が不十分となり、2m/sを超えると混合物が飛散したり、撹拌するモーターの負荷が大きくなり過ぎたりするおそれがある。
【0042】
二硫化炭素は水に難溶のため、混合物中で液だまりや液滴となり易いことから、硫化での反応を円滑に進行させるには、二硫化炭素を系内に微分散させてアルカリセルロースと効率的に接触させる。この場合、撹拌装置としては、前記撹拌槽と前記低速翼と前記高速翼とを備えるものを使用する。
【0043】
高速翼の回転速度は高速翼の翼先端速度が2~12m/s、好ましくは3~10m/s、より好ましくは4~9m/sになるように調節する。高速翼の翼先端速度が12m/sを超えると混合物の温度が上昇して反応温度を適温に調節しにくくなり、セルロースの溶解性が低下する。高速翼にはアルカリセルロースに剪断をかけて細かくする効果もあり、その相乗効果で硫化及び溶解が促進される。
【0044】
硫化及び溶解の反応時間は沈殿率が所望する値に到達、完結する様に設定され、通常30分~12時間、好ましくは45分~9時間、より好ましくは1~6時間の範囲である。
【0045】
<セルロース溶液>
硫化及び溶解の終了後に得られる本発明のセルロース溶液は、各種セルロース成形物の成形原料であるビスコース等のセルロース溶液と同等の物性を有している。本発明のセルロース溶液は、5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下の沈殿率を示す。かかる沈殿率は、セルロースザンテートが溶解性に優れたものであることを意味している。沈殿率の計算方法を以下に示す。即ち、
【0046】
【0047】
また、本発明のセルロース溶液は、5~12質量%のセルロース濃度を有するのが好ましい。かかるセルロース濃度は各種セルロース成形物の成形原料であるビスコース等のセルロース溶液と同等の水準である。
【0048】
本発明のセルロース溶液は、塩溶液、硫酸や塩酸等の希酸、有機溶媒等に投入すると容易に凝固し、酸で再生することによりセロファン、レーヨン及びビーズ等の成形物を得ることができる。また、凝固に希酸を使用した場合は、凝固と再生が同時に進行する。
【実施例0049】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
<実施例1>
セルロース試料として、セロファン(レンゴー(株)製「PT #300」(商品名))を機械粉砕して直径1mmΦの丸網を通過させ、水洗して付着している柔軟剤(グリセリン)を除去した湿潤品(セルロース分43質量%)を調製した。撹拌装置として、分散、混練機(プライミクス(株)製「コンビミックス」(商品名)3M5型、容量5L)を準備した。この撹拌装置は、撹拌槽の周囲に、温度調節することが可能な温度調節ジャケットを備え、低速翼として径20cmΦのアンカー翼、及び高速翼として径4cmΦのディスパ翼を備えるものである。
【0051】
各々予め5℃に予冷したセルロース試料の前記湿潤品893gと10質量%水酸化ナトリウム水溶液3,030gを、撹拌装置の撹拌槽に投入して混合し、セルロース濃度9.8質量%、水酸化ナトリウム濃度7.7質量%の分散液を調製した。この分散液をアンカー翼で撹拌しながら、4~6℃でマーセル化を行った。
【0052】
マーセル化終了後に得られた分散液に、セルロースの質量に対して20質量%に相当する二硫化炭素77gを加えて全量を4,000g(セルロース濃度9.6質量%、水酸化ナトリウム濃度7.6質量%)とし、撹拌槽の温度調節ジャケットにブラインを流して冷却しながら、アンカー翼とディスパ翼の両方を回転させて、硫化及び溶解を行った。このとき、より低温の方がセルロースの溶解に有利なため、マーセル化終了後の温度6℃から溶解終了時には-4℃まで冷却した。反応条件を表1に示す。
【0053】
硫化及び溶解の終了後に得られたセルロース溶液について、粘度及びセルロース濃度を測定し、セルロースの溶解性は沈殿率から評価した。結果を表2に示す。
【0054】
(粘度)
セルロース溶液を約0℃に冷却し、B型粘度計(No.5ローター×20rpm)を使用して粘度を測定した。
【0055】
(セルロース溶解性)
セルロース溶液を、4℃に冷却した7.6質量%水酸化ナトリウム水溶液でセルロース濃度が5質量%となるように希釈し、25℃で高速冷却遠心機(ベックマン・コールター社製、Avanti JXN-26)を用いて遠心分離(25,000G×1hr)を行った。上澄みをデカンテーションして遠沈管底部に残った沈殿の質量を測定し、前記計算方法に従って沈殿率を算出した。溶解性の評価基準は以下の通りにした。
【0056】
○(優)沈殿率0~1質量%
△(良)沈殿率2~5質量%
×(劣)沈殿率6質量%以上
【0057】
(セルロース濃度)
セルロース溶液を、予め秤量したガラス板上にベーカー式アプリケーター(テスター産業(株)製、SA-201)を使って薄く広げてから質量を測定し、セルロース溶液の質量を計算した。その後、70℃の定温乾燥機内に40分間静置し、ガラス板毎、10質量%塩化アンモニウム水溶液に30分間浸漬して、凝固したセルロース溶液をガラス板から剥離した。それを蒸留水で水洗後、105℃の熱風乾燥機で乾燥して質量を測定し、次式からセルロース溶液のセルロース濃度を算出した。
【数2】
【0058】
<実施例2~3、比較例1~3>
反応条件を表1に示す通りに変更すること以外は実施例1と同様にしてマーセル化と硫化及び溶解を行い、得られたセルロース溶液の物性を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
所定の条件の下で、低速翼としてのアンカー翼と高速翼としてのディスパ翼の両方を使用して撹拌を行うことで、セルロース成形物製造用ビスコースと同等の物性を有するセルロース溶液を調製できることが確認された。
また、こうして得られたセルロース溶液を、木材パルプから調製した通常のセルロース成形物製造用ビスコースに10質量%混合して厚さ21μmのセロファンを製造したところ、成形には問題なく、フィルム物性としての引張強度は市販のセロファンと同等(3.6kgf/15mm)のものが得られた。