(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131834
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】微生物検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042311
(22)【出願日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本薬学会第142年会(名古屋)、令和4年3月26日 第61回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会 中国四国支部学術大会、令和4年11月5日
(71)【出願人】
【識別番号】523098544
【氏名又は名称】村上 千穂
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】村上 千穂
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QR50
4B063QR66
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】 感度が高く簡易な検出が可能となり、スループットを大きくすることができる微生物検出方法を提供する。
【解決手段】 本発明の微生物検出方法100は、第1~第4ステップ10~40を備えている。第1ステップ10は、濃度が2.0μM未満となるよう鉄イオンを含む培地水溶液11を、複数の区画に分けて並列させる。第2ステップ20は、培地水溶液11に対し、未知微生物21をそれぞれ植え付ける。第3ステップ30は、植え付けた未知微生物21を、培地水溶液11内にて培養する。第4ステップ40は、改良CAS試薬41を培養後の培地水溶液11に対してそれぞれ添加し、改良CAS試薬41の添加後における培地水溶液11の発色に対応する情報に基づいて、シデロフォアを生産する微生物を検出する。当該改良CAS試薬41は、緩衝剤を除外して構成され、且つ、pH値が7.0未満となるよう調整されたクロムアズロールS試薬である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した未知の微生物である未知微生物のうちから、金属イオンを補足する微生物であって、少なくとも前記金属イオンと錯体を形成可能な物質を生産する微生物を検出する微生物検出方法であって、
濃度が2.0μM未満となるよう金属イオンを含む培地水溶液を、複数の区画に分けて並列させる第1ステップと、
前記並列している複数区画における前記培地水溶液に対し、前記未知微生物をそれぞれ植え付ける第2ステップと、
前記植え付けた未知微生物を、前記培地水溶液内にて培養する第3ステップと、
金属イオンと錯体を形成可能な化合物を含み、緩衝剤を除外して構成され、且つ、pH値が7.0未満となるよう調整された発色試薬を前記培養後の前記培地水溶液に対してそれぞれ添加し、少なくとも前記発色試薬の添加後における前記培地水溶液の発色に対応する情報に基づいて、前記物質を生産する微生物を検出する第4ステップと、
を備えた微生物検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物検出方法において、
前記第1ステップにおける前記培地水溶液は、
R2A培地を水で希釈することで、前記濃度が0.030~0.10μMとなるよう前記金属イオンを含むよう調整された
微生物検出方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の微生物検出方法において、
前記第4ステップにおける前記発色試薬は、
前記化合物としてクロムアズロールSを含み、前記pH値が1.0から4.5の範囲に推移するよう調整されて青色を呈する改良CAS試薬である
微生物検出方法。
【請求項4】
請求項1に記載の微生物検出方法において、
更に、前記第4ステップの後に、
前記検出された前記物質を生産する微生物を同定する第5ステップ
を備えた微生物検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物を検出する方法として、微生物の遺伝子情報に基づいて、微生物の菌種を同定する手法が知られている。より具体的には、例えば、採取した未知の微生物を寒天平板培地等にて増殖させ、コロニーを形成させる。コロニーを形成した微生物において、16SリボソームRNA遺伝子の配列を決定し、データベース上にある既知の遺伝子を参照することで相同性を求める。既知の遺伝子との相同性が97%以下であると判定された場合、同定対象の微生物を、新規な微生物としてみることができる。
【0003】
また、下記特許文献には、シデロフォアを生産する微生物に対し、クロムアズロールSを含む組成物を用い、微生物を検出する技術が開示されている。この技術は、クロムアズロールSが、金属との結合時及び非結合時のそれぞれで異なる発色を呈することに、基づいている。下記特許文献には、クロムアズロールSの発色の変化を利用して、微生物の量を測定できる旨が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、微生物の培養を経て、その都度同定を実行する手法では、スループットを向上する余地があるといえる。また、微生物によっては、通常の培養にて生産されるシデロフォアが微量となる場合もある。上記特許文献に開示のクロムアズロールSを含む組成物を用いる場合、微量のシデロフォアを感度良く検出することが難しい。このような事情に鑑み、本発明の課題は、感度が高く簡易な検出が可能となり、スループットを大きくすることができる微生物検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微生物検出方法は、採取した未知の微生物である未知微生物のうちから、金属イオンを補足する微生物であって、少なくとも前記金属イオンと錯体を形成可能な物質を生産する微生物を検出する方法である。本発明の微生物検出方法は、濃度が2.0μM未満となるよう金属イオンを含む培地水溶液を、複数の区画に分けて並列させる第1ステップと、前記並列している複数区画における前記培地水溶液に対し、前記未知微生物をそれぞれ植え付ける第2ステップと、前記植え付けた未知微生物を、前記培地水溶液内にて培養する第3ステップと、金属イオンと錯体を形成可能な化合物を含み、緩衝剤を除外して構成され、且つ、pH値が7.0未満となるよう調整された発色試薬を前記培養後の前記培地水溶液に対してそれぞれ添加し、少なくとも前記発色試薬の添加後における前記培地水溶液の発色に対応する情報に基づいて、前記物質を生産する微生物を検出する第4ステップと、を備えている。
【0007】
本発明の微生物検出方法において、前記第1ステップにおける前記培地水溶液は、R2A培地を水で希釈することで、前記濃度が0.030~0.10μMとなるよう前記金属イオンを含むよう調整されている。
【0008】
本発明の微生物検出方法において、前記第4ステップにおける前記発色試薬は、前記化合物としてクロムアズロールSを含み、前記pH値が1.0から4.5の範囲に推移するよう調整されて青色を呈する改良CAS試薬である。
【0009】
本発明の微生物検出方法は、更に、前記第4ステップの後に、前記検出された前記物質を生産する微生物を同定する第5ステップを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、感度が高く簡易な検出が可能となり、スループットを大きくすることができる。特に、シデロフォアを生産する新規な微生物を、効率的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る微生物検出方法における一連の工程を示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示す第1ステップにおいて、96穴プレートの各穴に培地水溶液を滴下する様子を示す図である。
【
図3】
図1に示す第2ステップにおいて、培地水溶液に対して未知微生物を植え付ける様子を示す図である。
【
図4】
図1に示す第4ステップにおいて、培地水溶液に対して改良CAS試薬を添加する様子を示す図である。
【
図5】培養後の培地水溶液のpH値に対応するPSUをプロットすることで得られる、pH値及びPSUの関係を示すグラフである。
【
図6】培養後の培地水溶液のPSUに対応する蛍光強度をプロットすることで得られる、PSU及び蛍光強度の関係を示グラフである。
【
図7】
図1に示す第5ステップにおいて、培養後の未知微生物を同定した場合に得られる菌種名と、対応するPSUとの一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る微生物検出方法100は、第1~第5ステップ10~50の5つのステップを備えている。本実施形態の微生物検出方法100は、採取した未知の微生物である未知微生物のうちから、新規な微生物を検出する方法である。
【0013】
一般に、微生物の増殖においては、鉄等の金属が必須成分となる。特に、好気的な環境では、例えば、pH値が7.0の状況において金属の溶解度が10―18Mと非常に低濃度となるため、金属が不足する場面が多い。このような場面においても、検出される微生物は、下記のように金属を補足する。
【0014】
本実施形態の微生物検出方法100により検出される微生物は、金属イオンを補足し、少なくとも金属と錯体を形成可能な物質を生産するものである。なお、本実施形態では、当該微生物は、鉄イオンを補足し、シデロフォアを生産するものとして説明するが、鉄イオン以外の金属イオンを補足するものが対象となってもよいし、シデロフォア以外の物質を生産するものが対象となってもよい。当該微生物により生産されたシデロフォアは、鉄キレート化合物の一種であり、鉄イオン(Fe3+)と結合親和性を有している。シデロフォアに結合された鉄が、輸送機構により補足されるようになっている。これにより、当該微生物は、その周囲環境から鉄を補足し、補足された鉄は、生物学的プロセスに用いられる。
【0015】
図1及び
図2に示すように、微生物の検出を開始する場合、はじめに実行される第1ステップ10は、培地水溶液11を、複数の区画に分けて並列させる。培地水溶液11は、微生物を培養するためのものであり、本実施形態では、濃度が2.0μM未満となるよう金属イオンを含む。なお、本実施形態では、当該金属イオンは、鉄イオンであるものとして説明するが、その他の金属イオン(例えば、銅イオン、カルシウムイオン等)であってもよく、上記に限定されない。培地水溶液11は、種々の培地を、例えば、比抵抗値が17MΩ・cm以上の超純水で希釈して、調整されてもよい。培地水溶液11には、例えば、NB培地、R2A培地、LB培地、SCD培地等が希釈されたものが、用いられてもよい。なお、用いられる培地の種類や、純水の比抵抗値は、上記に限定されない。
【0016】
培地水溶液11の鉄イオン濃度は、2.0μM未満であればよく、例えば、1.0μM以下、0.10μM以下、0.010μM以下であってもよく、これらに限定されない。より好ましくは、培地水溶液11は、R2A培地を水(例えば、上述した超純水)で希釈することで、濃度が0.030~0.10μMとなるよう鉄イオンを含むよう調整されてもよい。このように、鉄イオン濃度を制限するのは、上述のように、培地水溶液11の環境を、微生物がシデロフォアを生産し易いものとするためである。
【0017】
培地水溶液11は、例えば、汎用的な96(8行×12列)穴プレート12における各穴12aにそれぞれ滴下されることで、複数の区画に分けて並列されるようにしてもよい。各穴12aは、上面視にて開口が円形となるよう構成され、各穴12aでの培地水溶液11の容量は、例えば、数百μL程度であってもよい。より具体的には、予め所定の濃度に調整された培地水溶液11を準備しておき、マイクロピペット等で分取されたものを、各穴12aに同容量ずつ上方から滴下するようにしてもよい。なお、プレート12の穴数、穴の配置・形状・容量等は、上記に限定されない。
【0018】
図1及び
図3に示すように、上記第1ステップ10の次に実行される第2ステップ20は、並列している複数区画における各培地水溶液11に対し、未知微生物21をそれぞれ植え付ける。例えば、96穴プレート12の各穴12aに培地水溶液11が保持されている状態において、各穴12aに対応するよう、白金耳等を介して各培地水溶液11に未知微生物21をそれぞれ植え付けてもよい。未知微生物21は、既知である微生物、及び、新規である微生物が混在していてもよい。また、未知微生物21は、例えば、活性汚泥に基づき採取されたものであってもよく、これに限定されない。
【0019】
図1に示すように、上記第2ステップ20の次に実行される第3ステップ30は、植え付けた未知微生物21を、培地水溶液11内にて培養する。未知微生物21の培養においては、例えば、上記ステップ20にて、未知微生物21を培地水溶液11に植え付けた後に、培地水溶液11、及び、未知微生物21を、96穴プレート12ごとインキュベータ等の培養装置に導入してもよい。当該培養装置は、例えば、培養の環境温度・時間等が調整可能に構成されていてもよい。
【0020】
図1及び
図4に示すように、上記第3ステップ30の次に実行される第4ステップ40は、発色試薬を、ステップ30の培養後の培地水溶液11に対してそれぞれ添加し、少なくとも発色試薬の添加後における培地水溶液11の発色に対応する情報に基づいて、シデロフォアを生産する微生物を検出する。なお、本実施形態では、当該発色試薬は、改良CAS試薬41であるものとして説明するが、発色試薬として、金属イオンと錯体を形成可能な化合物を含み、緩衝剤を除外して構成され、且つ、pH値が7.0未満となるよう調整されていればよく、上記に限定されない。ここにおいて、金属イオンと錯体を形成可能な化合物としては、例えば、トリフェニルメタン誘導体、ビスアゾクロモトロープ酸誘導体、ピリジルアゾ化合物等が挙げられ、上記に限定されない。より具体的には、クロムアズロールS、アルセナゾIII、PAR等であってもよい。
【0021】
改良CAS試薬41は、緩衝剤を除外して構成され、且つ、pH値が7.0未満となるよう調整されたクロムアズロールS試薬である。改良CAS試薬41は、下記化学式で示されるクロムアズロールSを含んでいる。クロムアズロールSは、下記化学式の構造上、種々の金属イオンと鋭敏に反応して錯イオンを形成する。反応する金属が鉄である場合、クロムアズロールSは、一般に、鉄と結合する場合に青色を呈し、鉄が存在しない場合にはオレンジ色を呈する。なお、クロムアズロールSと反応する金属は鉄以外でもよく、例えば、銅、カルシウム等が挙げられる。この性質を利用して、微生物が生産するシデロフォアを定量化することができる。
【0022】
【0023】
また、クロムアズロールSは、pH値の変化に応じても発色が変化する。クロムアズロールSは、一般に、pH値が小さい酸性側(例えば、pH値が7.0未満である場合)において青色を呈し、pH値が大きいアルカリ性側(例えば、pH値が7.0より大きい場合)においては緑色または黄緑色を呈する。
【0024】
改良CAS試薬41は、緩衝剤を除外して構成されている。改良CAS試薬41には緩衝剤が含まれていないため、改良CAS試薬41でのpH値の変化は、許容されることになる。即ち、改良CAS試薬41は、pH値の変化に対応するクロムアズロールSの発色変化に応じて、発色が変化する。改良CAS試薬41においては、培地水溶液11への添加前に、pH値が7.0未満となるよう調整されている。調整されるpH値は、7.0未満であればよく、例えば、6.0以下、5.0以下であってもよい。より好ましくは、pH値は、1.0~4.5の範囲に推移するよう調整されてもよい。
【0025】
改良CAS試薬41を添加する場合には、例えば、予め所定のpH値に調整された改良CAS試薬41を準備しておき、マイクロピペット等で分取されたものを、培地水溶液11が保持されている各穴12aに、同容量ずつ上方から滴下するようにしてもよい。なお、添加前の改良CAS試薬41は、pH値が7.0未満(例えば、pH=1.0~4.5)に調整されているため、青色を呈している。
【0026】
当該改良CAS試薬41が、培養後の培地水溶液11へ添加された後には、培養後の培地水溶液11におけるpH値に応じた発色が得られる。発色の確認としては、例えば、培地水溶液11に改良CAS試薬41を添加した後に、各穴12aの上面視からの目視にて確認してもよいし、機器にて発色を確認するための光学的手法(光度計による測定等)を用いてもよい。
【0027】
図5は、培養後の各穴12aにおける培地水溶液11のpH値に対応するPSU(Percent Siderophore Unit)をプロットすることで得られる、pH値及びPSUの関係を示している。ここにおいて、PSUについては、例えば、1993年にPayne S. M.ら、にて発表された論文に記載されており、これを参照することで詳細な説明を省略する。
【0028】
PSUは、吸光光度計により測定された対照の吸光度Ar、吸光光度計により測定された本実施形態におけるサンプルの吸光度As、及び、下記(1)式に基づいて得られる。なお、測定における波長は630nmである。
図4に示すように、pH値が4.2から7.2へ推移していくに伴って、PSUはゼロから20%以上に単調増加した。このように、630nmの吸光度、及び、pH値を測定することで、シデロフォアが生産されていることを確認できる。
【0029】
PSU=((Ar-As)/Ar)*100 ・・・(1)
【0030】
図6は、培養後の各穴12aにおける培地水溶液11のPSUに対応する蛍光強度をプロットすることで得られる、PSU及び蛍光強度の関係を示している。この関係には、別途同定した微生物として、Ottowia oryzae、Preudomonas fluorescens、Burkholderia stabilis、Preudomonas putidaによる測定結果が含まれている。
【0031】
図6(a)は、比較例として、クロムアズロールS、及び、緩衝剤を含む通常のCAS試薬を添加した場合における、PSU及び蛍光強度の関係である。
図6(b)は、本実施形態の改良CAS試薬41を添加した場合における、PSU及び蛍光強度の関係である。なお、
図6(a),(b)の両方の関係を取得した際の条件としては、460nmの波長での蛍光強度を測定した。
【0032】
図6(b)に示すPSU及び蛍光強度の相関(丸印で囲った領域を参照)は、PSU=10%よりも大きい領域にて、PSUが大きいほど蛍光強度が単調的に増加するものとなった。この相関は、
図6(a)のものに比して、より右側(即ち、よりPSUが大きい側)にシフトしている。従って、通常のCAS試薬を用いる場合に比して、本実施形態の改良CAS試薬41を用いることにより、PSUの検出感度を向上させることができる。
【0033】
発明者による鋭意研究の結果、上述した第1~第3ステップ10~30を経た場合に、既知の微生物が存在する際の培地水溶液11において、pH値がアルカリ性側にシフトする(pH>7.0)ことを見出した。この場合、改良CAS試薬41が添加されると、培地水溶液11が、緑色または黄緑色を呈する。
【0034】
このことから、改良CAS試薬41の発色である青色と比較して、改良CAS試薬41の添加後における培地水溶液11の発色が、緑色または黄緑色を呈すると判定される場合、シデロフォアを生産する既知の微生物が存在しているとする検出がなされる。一方、改良CAS試薬41の発色である青色と比較して、改良CAS試薬41の添加後における培地水溶液11の発色が、変わらずに青色を呈すると判定される場合、シデロフォアを生産する新規な微生物が存在しているとする検出がなされる。
【0035】
比較対象の基準となる青色は、例えば、培養前の培地水溶液11に改良CAS試薬41を別途添加しておき、改良CAS試薬41を含む培地水溶液11が呈する発色を確認・測定してもよいし、改良CAS試薬41そのものが呈する発色を確認・測定してもよい。発色は、例えば、目視により確認してもよいし、機器により測定されてもよい。
【0036】
図1に示すように、上記第4ステップ40の次に実行される第5ステップ50は、検出されたシデロフォアを生産する微生物を同定し、その後、微生物の検出を終了する。第5ステップ50における同定においては、例えば、第4ステップ40にて新規な微生物が検出された場合、即ち、培養後における96穴プレート12の各穴12aに対し改良CAS試薬41をそれぞれ添加した後に、各穴12aにおける培地水溶液11の発色が、変わらずに青色を呈するものが確認された場合に、微生物の同定が実行されてもよい。
【0037】
他方、第4ステップ40にて新規な微生物が検出されない場合(既知の微生物のみが検出された場合)、即ち、培養後における96穴プレート12の各穴12aに対し改良CAS試薬41をそれぞれ添加した際に、各穴12aにおける培地水溶液11の発色が、全て緑色または黄緑色を呈していると確認された場合には、微生物の同定が実行されないようにしてもよい。
【0038】
微生物の同定を実行する場合、例えば、16SリボソームRNA遺伝子の配列を決定し、データベース上にある既知の遺伝子を参照することで相同性を求めてもよい。既知の遺伝子との相同性が、97%以下であると判定された場合、新規な微生物として同定がなされる。上述した第1ステップ10~第4ステップ40を経た上で、第4ステップ40にて新規な微生物を検出したとして、第5ステップ50にて同定を行う場合、例えば、
図7に示すように、同定した微生物を列挙できる。同定された複数の微生物(菌種名)ごとに、第4ステップ40にて測定されたPSUを対応させるようにしてもよい。
図7に示す一例では、*印で示すBurkholderia stabillis、及び、**印でしめすBradyrhizobium japonicumは、既知のシデロフォア生産菌であった。他方、それ以外の菌種名を挙げたように、
図7より、新規なシデロフォア生産菌の候補を確認することができる。
【0039】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本発明の実施形態に係る微生物検出方法100は、未知微生物21のうちから、鉄イオンを補足する微生物であって、少なくともシデロフォアを生産する微生物を検出する方法である。当該方法は、第1~第4ステップ10~40を備えている。第1ステップ10は、濃度が2.0μM未満となるよう鉄イオンを含む培地水溶液11を、96穴プレート12等を用いて、複数の区画に分けて並列させる。第2ステップ20は、96穴プレート12等により並列している複数区画における培地水溶液11に対し、未知微生物21をそれぞれ植え付ける。第3ステップ30は、植え付けた未知微生物21を、培地水溶液11内にて培養する。第4ステップ40は、改良CAS試薬41を培養後の培地水溶液11に対してそれぞれ添加し、少なくとも改良CAS試薬41の添加後における培地水溶液11の発色に対応する情報に基づいて、シデロフォアを生産する微生物を検出する。当該改良CAS試薬41は、緩衝剤を除外して構成され、且つ、pH値が7.0未満となるよう調整されたクロムアズロールS試薬である。
【0040】
上記構成によれば、緩衝能を除した改良CAS試薬41により、微生物からのシデロフォアの生産と、培地水溶液11のpH値の変化とが、同時に検出され得る。また、濃度が2.0μM未満の鉄イオンを含むように、培地水溶液11は希釈されている。既知の微生物が存在する際の培地水溶液11においては、pH値がアルカリ性側にシフトする(pH>7.0)。
【0041】
ここにおいて、改良CAS試薬41は、培地水溶液11への添加前には、pH値が7.0未満となるよう調整されており、pH値が7.0未満からアルカリ性側にシフトする場合、発色に変化が生じる。このことを利用して、改良CAS試薬41の添加後に、発色の変化が認められた場合には、シデロフォアを生産する既知の微生物が存在しているとする検出が可能となる。他方、改良CAS試薬41の添加後に、発色の変化が認められなかった場合には、シデロフォアを生産する新規な微生物が存在しているとする検出が可能となる。このように、緩衝能を除した改良CAS試薬41と、2.0μM未満の鉄イオンを含むように希釈された培地水溶液11と、を組合せることで、感度が高く簡易な検出が可能となり、スループットを大きくすることができる。特に、シデロフォアを生産する新規な微生物を、効率的に検出することができる。
【0042】
また、本実施形態では特に、第1ステップ10における培地水溶液11は、R2A培地を水で希釈することで、濃度が0.030~0.10μMとなるよう鉄イオンを含むよう調整される。このように、希釈前の培地の種類、及び、希釈後の濃度を限定することで、より感度が高く簡易な検出が可能となる。
【0043】
また、本実施形態では特に、第4ステップ40における改良CAS試薬41は、pH値が1.0から4.5の範囲に推移するよう調整されて青色を呈する。この場合、改良CAS試薬41の添加後に、青色から緑色または黄緑色への発色変化が認められた場合には、シデロフォアを生産する既知の微生物が存在しているとする検出が可能となる。他方、改良CAS試薬41の添加後に、青色のまま発色の変化が認められなかった場合には、シデロフォアを生産する新規な微生物が存在しているとする検出が可能となる。このように、発色の変化の有無を確実に判定できるため、より感度が高く簡易な検出が可能となる。
【0044】
また、本発明の実施形態に係る微生物検出方法100は、第4ステップ40の後に、更に、第5ステップ50を備えている。第5ステップ50は、検出されたシデロフォアを生産する微生物を同定する。例えば、第4ステップ40にて新規な微生物が検出された場合、即ち、培養後における96穴プレート12の各穴12aに対し改良CAS試薬41をそれぞれ添加した後に、各穴12aにおける培地水溶液11の発色が、変わらずに青色を呈するものが確認された場合に、微生物の同定が実行されてもよい。
【0045】
他方、第4ステップ40にて新規な微生物が検出されない場合(既知の微生物のみが検出された場合)、即ち、培養後における96穴プレート12の各穴12aに対し改良CAS試薬41をそれぞれ添加した際に、各穴12aにおける培地水溶液11の発色が、全て緑色または黄緑色を呈していると確認された場合には、微生物の同定が実行されないようにしてもよい。このように、新規な微生物が検出された場合のみに同定を実行でき、全体として、更に効率化することができる。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
10…第1ステップ、11…培地水溶液、12…96穴プレート、20…第2ステップ、21…未知微生物、30…第3ステップ、40…第4ステップ、41…改良CAS試薬、50…第5ステップ