(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131845
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】SCFAまたは乳酸の産生方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/6409 20220101AFI20240920BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C12P7/6409
C12P7/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042323
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】501176303
【氏名又は名称】日環科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】児玉 浩明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩邦
(72)【発明者】
【氏名】栗原 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】板谷 かえで
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD33
4B064AD85
4B064CA02
4B064DA01
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】乳酸代謝による乳酸またはSCFAの産生を促す方法を提供すること。
【解決手段】一段階目として、乳酸資化菌Megasphaeraelsdenii Y2株を培養し、二段階目として、前記一段階目の培養で得られた培養上清を用いて乳酸菌を培養することを特徴としたこと。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一段階目として、乳酸資化菌Megasphaeraelsdenii Y2株を培養し、
二段階目として、前記一段階目の培養で得られた培養上清を用いて乳酸菌を培養することを特徴とする乳酸またはSCFAの産生方法。
【請求項2】
前記乳酸菌Lactobacillus属の菌種は、Lactobacillusamylovorus4-4株またはL.johnsonii株であることを特徴とする請求項1に記載の乳酸またはSCFAの産生方法。
【請求項3】
一段階目として、乳酸資化菌Megasphaeraelsdenii Y2株を培養し、
前記一段階目の培養で得られた培養上清を熱処理し、
二段階目として、前記熱処理後の培養上清を用いて乳酸菌を培養することを特徴とする乳酸またはSCFAの産生方法。
【請求項4】
前記乳酸菌Lactobacillus属の菌種は、Lactobacillusamylovorus4-4株であることを特徴とする請求項3に記載の乳酸またはSCFAの産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SCFAまたは乳酸の産生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢は、人間や動物の消化管に生息する複雑な微生物群であり、ヒトの腸内細菌叢は体の他の部分と比較して微生物の量、種類が最も多く、1500種、50を超える異なる門に分布している。これらの細菌は細菌同士あるいは宿主との相互作用を介して、複雑な生態系を構成し、宿主の恒常性維持に大きく関わっている。例えば、腸において粘膜表面にコロニーを形成し、様々な抗菌物質を生成することで病原体感染防御を行うこと、上皮細胞の増殖と分化を制御し、恒常性を維持することが示されている。さらに近年では腸だけではなく、宿主の健康維持に大きな役割を果たすことが明らかとなっており、炎症性疾患、肥満、糖尿病、アレルギー、自己免疫疾患、心疾患および鬱病と言った多くの疾患において腸内細菌叢とその代謝産物との関連が示唆されている。これらのことから腸内細菌叢のバランスを整えることは、宿主の健康に様々な効果をもたらすと考えられるようになっている。
【0003】
腸内細菌叢のバランスを変え、宿主の健康に有益な効果をもたらす生きた微生物、またはそれらを含む食品をプロバイオティクスといい、FAO/WHOは「適切な量を投与されると宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義している。乳酸菌は代表的なプロバイオティクスであり、糖質を代謝して乳酸を産生する代謝特徴を持つ。乳酸菌のプロバイオティクス効果としては、腸内細菌叢のバランスと回復、病原体に対する保護、免疫調節、および腸バリアの完全性の維持などがあり、産生された乳酸によって消化管内のpHが低下し、病原体コロニー形成を抑制することができる。その一方で、健康な家畜や人の排泄糞中から乳酸が検出されることは少なく、むしろ血中乳酸濃度が上昇すると乳酸アシドーシスを引き起こす可能性がある。血中乳酸濃度の上昇および乳酸アシドーシスは重度の敗血症と関連し、重大な罹患率および死亡率と関連することが知られている。通常、消化管内で生成された乳酸は乳酸資化菌によって急速に代謝され、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸 (Short-chain fatty acid : SCFA) に変換されるが、乳酸産生菌と乳酸資化菌の間で非同期発酵が起こると、乳酸アシドーシスが誘発される可能性がある。
【0004】
一方、好熱菌発酵産物は未利用の海産資源を70~80℃の高温好気下で発酵させた飼料であり、すでに幅広い農業分野で利用され、有益な効果が確認されている。中でも好熱菌発酵産物を給与したブタにおいては、死産率の低下や仔豚の成長促進 、肉質の向上といった効果が認められている。この好熱菌発酵産物を給与したブタ排泄糞中では有意な乳酸含量の低下が見られることから乳酸代謝に関わる腸内細菌叢の変化が示唆された。そこで、ノンメタポークを飼育している農場においてブタの腸内細菌叢の変化を調べたところ、優占乳酸菌種がStreptococcuS.alactolyticusからLactobacillus amylovorusへと変化すると同時に乳酸資化菌であるMegasphaera elsdeniiが増えていることが確認された。
【0005】
Lactobacillus属細菌は様々な動物種に対するプロバイオティクスとして広く利用されている乳酸菌で、これまでに200菌種以上が分類されてきた。Lactobacillus属細菌は系統的に多様であり、グルコースの代謝方法、運動性など生理・生化学的特徴も菌種間で大きく異なることが報告されている。中でも、今回優先乳酸菌種となったL.amylovorusはブタの腸内細菌叢を代表する菌種であり、腸管上皮細胞に付着し病原体を抑制する効果があること、肥満を改善するといったプロバイオティクス効果を持つことが示されている。また、乳酸資化菌はヒト糞便中から単離されたものとして、Anaerostipes caccaeやEubacterium halliiが挙げられ、乳酸を酪酸に変換することが知られている。一方で、M.elsdeniiはブタ排泄糞中から主要な乳酸資化菌として単離されており、グルコースよりも乳酸を優先的に代謝することが知られている。
【0006】
先行研究では、ブタの盲腸in vitroモデルにおいて乳酸菌によって生成された乳酸が、M.elsdeniiによってn-酪酸に変換されること、M.elsdenii と乳酸産生菌と共培養するとルーメンアシドーシスモデルにおける有機酸蓄積が乳酸から酪酸に移行し、ルーメンのpH が回復することが報告されている。この事から、好熱菌発酵産物給与による糞便中乳酸含量の低下はM.elsdeniiの関与が考えられる。また、M.elsdeniiは乳酸から酢酸・プロピオン酸・酪酸・吉草酸といったSCFAを産生することが知られている。SCFAは宿主に良い生理作用を示すことが知られており、酢酸は体脂肪蓄積の抑制、肝脂肪症の抑制、プロピオン酸は動脈硬化の抑制、酪酸は高血糖の正常化、急性膵炎とそれに伴う腸管障害の改善、腸管マクロファージの制御、吉草酸は神経炎症の抑制といった効果を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020―191793
【特許文献2】特表2022―553017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、乳酸菌と乳酸資化菌の相互作用によりSCFAまたは乳酸の産生方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、一段階目として、乳酸資化菌MegasphaeraelsdeniiY2株を培養し、二段階目として、前記一段階目の培養で得られた培養上清を用いて乳酸菌Lactobacillus属を培養することを特徴としたことにある。
【0010】
前記乳酸菌Lactobacillus属の菌種は、Lactobacillusamylovorus4-4株またはL.johnsoniiであることを特徴としたことにある。
【0011】
一段階目として、乳酸資化菌MegasphaeraelsdeniiY2株を培養し、二段階目として、前記一段階目の培養で得られた培養上清を熱処理し、前記熱処理後の培養上清を用いて乳酸菌Lactobacillus属を培養することを特徴としたことにある。
【0012】
前記乳酸菌の菌種は、Lactobacillusamylovorus4-4株であることを特徴としたことにある。
【発明の効果】
【0013】
また、本発明によれば、乳酸資化菌M.elsdeniiY2株の産生する分子が乳酸菌Lactobacillus属と相互作用し、乳酸またはSCFAの産生を促進することができる。
【0014】
また、本発明によれば、乳酸菌の菌種をLactobacillus amylovorus4-4株とすることで、乳酸またはSCFAの産生の促進効果を高めることができる。
【0015】
また、本発明によれば、乳酸資化菌M.elsdeniiY2株の産生する分子を熱処理後、乳酸菌Lactobacillus属と相互作用することで、乳酸またはSCFAの産生を促進することができる。
【0016】
また、本発明によれば、乳酸菌の菌種をLactobacillus amylovorus4-4株とすることで、乳酸またはSCFAの産生の促進効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】pHの低下を緩和した場合のL.amylovorus4-4株による乳酸産生量への影響(n=4) *p<0.05を示す図である。
【
図2】各種濃度のDL-乳酸含有1/2GAM液体培地中でのL.amylovorus4-4株の乳酸産生量(n=4)を示す図である。
【
図3】(a)Basic+DL-乳酸液体培地におけるM.elsdeniiY2株24時間培養後の有機酸濃度(n=4)を示す図である。(b)M.elsdeniiY2株の培養上清を用いた二段階培養におけるL.amylovorusの乳酸産生量、OD、生菌数(n=4) #p<0.1を示す図である。
【
図4】(a)Basic+DL-乳酸液体培地上でのM.elsdenii Y2株のOD、pH、有機酸濃度の経時的変化を示す図である。(b)M.elsdeniiY2株の各培養時間の培養上清を添加したL.amylovorus4-4株二段階培養後のOD、pH、有機酸濃度(n=4) **p<0.001を示す図である。
【
図5】(a)Basic+DL-乳酸液体培地でのM.elsdenii Y2株18時間培養後OD、有機酸濃度(b)M.elsdeniiY2株培養上清に対する熱処理の有無がL.amylovorus4-4株二段階培養後のOD、pH、乳酸産生量に与える影響(n=4) #p<0.1、*p<0.05を示す図である。
【
図6】(a)DL-乳酸液体培地上のM.elsdenii Y2株18時間培養後のOD、有機酸濃度(b)L.amylovorusによる二段階目の培養試験後の乳酸濃度(n=4) **p<0.001(c)M.elsdenii Y2株培養上清の添加により増加したL.amylovorusの乳酸産生量に占めるD/L乳酸異性体の割合(二段階目として2×Basic+デンプン改変培地を用いた)(n=4)。(d)M.elsdenii Y2株培養上清の添加により増加したL.amylovorusの乳酸産生量に占めるD/L乳酸異性体の割合(二段階目として2×Basic+Glucose改変培地を用いた) を示す図である。
【
図7】(a)Basic+DL-乳酸液体培地上のM.elsdenii Y2株18時間培養後有機酸濃度(b)M.elsdeniiY2株培養上清を用いた各種乳酸菌の二段階培養後の乳酸産生量 *p<0.05を示す図である。
【
図8】(a)DL-乳酸液体培地上のM.elsdenii Y2株18時間培養後OD、有機酸濃度(b)M.elsdenii Y2株培養上清を用いたL.johnsoniiによる二段階培養後の乳酸産生量(n=3) *p<0.05を示す図である。
【
図9】(a)Basic+Glucose液体培地上でM.elsdeniiY2株を24時間培養した際の有機酸濃度(n=3)(b)Basic+Glucose液体培地をM.elsdeniiY2株の一段階目の培養に使用した際のL.amylovorus4-4株二段階培養後OD、pH、乳酸産生量(n=3)を示す図である。
【
図10】(a)DL-乳酸・L-乳酸液体培地を用いたM.elsdenii Y2株18時間培養後OD、有機酸濃度(b)一段階目の培養に異なる組成の乳酸異性体を用いたM.elsdeniiY2株培養上清を用いたL.amylovorusにおける二段階培養(n=4)を示す図である。
【
図11】(a)DL-乳酸液体培地上のM.elsdenii Y2株18時間培養後OD、有機酸濃度(b)M.elsdenii Y2株培養上清を用いたL.amylovorus4-4株の二段階培養(培地にGAM液体培地を用いた)対象区(n=3)、DL―乳酸、L―乳酸(n=4)を示す図である。
【
図12】(a)Basic+デンプン改変培地+酢酸、Basic+デンプン改変培地+プロピオン酸液体培地におけるL.amylovorus4-4株24時間培養後のOD、pH、乳酸濃度(n=3)(b)Basic+デンプン改変培地+酪酸、Basic+デンプン改変培地+吉草酸液体培地におけるL.amylovorus4-4株24時間培養後のOD、pH、乳酸濃度(n=3)を示す図である。
【
図13】(a)Basic+DL-乳酸液体培地におけるM.elsdeniiY2株24時間培養後の有機酸濃度(b)M.elsdeniiY2株の凍結乾燥培養上清を用いた二段階培養における乳酸産生量(n=4)を示す図である。
【
図14】(a)DL-乳酸液体培地上のM.elsdenii Y2株18時間培養後OD、有機酸濃度(b)M.elsdenii Y2株培養上清から調製したアセトン沈殿物を用いたL.amylovorus二段階培養による乳酸産生量(n=3) を示す図である。
【
図15】(a)Basic+DL-乳酸液体培地上のM.elsdenii Y2株18時間培養後有機酸濃度(b)M.elsdeniiY2株培養上清に対する限外濾過処理の有無と、二段階培養後のL.amylovorus4-4株乳酸産生量(n=4)*p<0.05、**p<0.001(対照区ではBasic液体培地を、試験区ではBasic+DL-乳酸液体培地で培養したM.elsdeniiY2株培養上清を二段階目に添加している。)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、段落[0019]~[0104]まで、実験方法、実験手法について述べる。
【0019】
1-1. 使用した菌株
本実験では、好熱菌発酵産物給与区のブタ糞便サンプルより単離された M.elsdeniiY2 株、L.amylovorus 4-4 株、好熱菌発酵産物非給与区のブタ糞便サンプルより単離された S.alactolyticus 1-12 株、好熱菌発酵産物非給与区の採卵鶏糞便サンプルから単離されたEnterococcus caselifravusC3-38株、および好熱菌発酵産物給与区の採卵鶏糞便サンプルから単離されたLactobacillus johnsonii を用いて、実験を行った。
【0020】
1-2. 培地組成
M.elsdenii、L.amylovorus、S.alactolyticus、E. caselifravus、L.johnsoniiをそれぞれ培養するために以下の培地を作成した。
【0021】
(1)1/2GAM培地
一般嫌気性菌培養用のGAMブイヨン (日水製薬株式)を規定量の半分用いた。固体培地を作成する場合は、1.5% (w/v) agarを添加した。その後、121℃、15分のオートクレーブ滅菌を行った。
【0022】
(2)GAM培地
一般嫌気性菌培養用のGAMブイヨン (日水製薬株式)を規定量用いた。固体培地を作成する場合は、1.5 % (w/v) agarを添加した。その後、121℃、15分のオートクレーブ滅菌を行った。
【0023】
(3)Basic培地
M.elsdeniiの培養実験を行った論文を参考に、その組成を改変し作成した。この培地は実験の目的に応じて炭素源を変更できるように、基本組成には炭素源を含まない。
組成を以下に示す。
【0024】
【0025】
(4)Basic+DL-乳酸培地
Basic培地に3.25mL/LのDL-乳酸(和光純薬工業株式会社)を添加し、KOHを用いてpH=7.0に調整した後、121℃、15minオートクレーブ滅菌を行った。
【0026】
(5)Basic+L-乳酸培地
Basic培地に3.25mL/LのL-乳酸(和光純薬工業株式会社)を添加し、KOHを用いてpH=7.0に調整した後、121℃、15minオートクレーブ滅菌を行った。
【0027】
(6)Basic+Glucose培地
Basic培地にGlucose 3.0g/Lを添加し、KOHを用いてpH=7.0に調整した後、121℃、15minオートクレーブ滅菌を行った。
【0028】
(7)Basic+デンプン改変培地
炭素源を含まないBasic培地に唯一の炭素源としてデンプン、ビタミンを供給する肝臓エキス、各細菌の培養による培地pHの低下を防ぐためにCaCO3を加えた培地を作成した。具体的にはGAMブイヨン(日水製薬株式会社)を参考に、デンプンの量を設定した。組成を以下に示す。
【0029】
【0030】
(8)Basic+Glucose改変培地
炭素源を含まないBasic培地に唯一の炭素源としてGlucose、ビタミンを供給する肝臓エキス、各細菌の培養による培地pHの低下を防ぐためにCaCO3を加えた培地を作成した。具体的にはGAMブイヨン(日水製薬株式会社)を参考に、Glucoseの量を設定した。組成を以下に示す。
【0031】
【0032】
(9)2×Basic+デンプン改変培地
二段階培養で乳酸菌を培養する際に、炭素源含有量を同等にするために、Basic+デンプン改変培地のうちデンプン、肝臓エキス、CaCO3を2倍量添加した培地を作成した。
【0033】
(10)2×Basic+Glucose改変培地
二段階培養で乳酸菌を培養する際に、炭素源含有量を同等にするために、Basic+Glucose改変培地のうちGlucose、肝臓エキス、CaCO3を2倍量添加した培地を作成した。
【0034】
1-3. 有機酸産生能試験
本実験における、各代表菌株の単独培養を以下の手順で行った。なお、嫌気条件での培養は、固体培養の際はシャーレと共にアネロパウチ・ケンキ(Mitsubishigas Chemical)を専用のビニール袋に入れて嫌気状態とした。液体培養の際には2.5リットル角型ジャー(Mitsubishigas Chemical)を用いて、培養容器と共にアネロパック・ケンキ(Mitsubishigas Chemical)を入れて嫌気条件とした。なお、実験(1)、(3)、(9)、 (12)においては三角フラスコを培養容器として使用し、実験(2)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(10)、(11)、(13)、(14)、(15)では24 Wellプレート(FALCON REF353047)を使用した。
【0035】
以下に今後の実験において内容が重複する手法をまとめて記載する。
【0036】
~実験手法(1):各嫌気性細菌のプレ培養液の調製~
各菌株を1/2GAM固体培地上で37℃、嫌気条件下で一晩培養した。次に、プレ培養として、GAM液体培地を作成し、乾熱滅菌した50mL三角フラスコに20mLずつ分注した。固体培地上から白金耳を用いて各菌株を植菌し、37℃、80rpm嫌気条件下で24時間振盪培養を行った。
【0037】
~実験手法(2):三角フラスコにおける各代表菌株の本培養~
乾熱滅菌した50mL三角フラスコに121℃、15minでオートクレーブ滅菌を行った液体培地を20mLずつ分注し、実験手法(1)の手順で作成した各菌株のプレ培養液を培地の1/100量となる200μL接種した。
【0038】
~実験手法(3):生菌数の測定~
菌体の増殖をコロニー形成単位(CFU)によって測定した。ODでは菌種、および死菌と生菌の判別が不可能であるため、測定を行った。
手順を以下に示す。
クリーンベンチ内で、回収した培養液を滅菌水で102~105倍に希釈した。この希釈液100μLを1/2GAM固体培地に塗布した。その後37℃、嫌気条件下で24時間培養し、コロニー数を測定した。1mLあたりのCFUの算出には以下の式を用いた。
【0039】
CFU/mL =(コロニー数×希釈倍率)/ (プレーティングした溶液mL)
【0040】
~実験手法(4):二段階培養試験における一段階目の培養上清回収~
一段階目の培養上清をKOHでpH 7.0に調整し、培養液を10,000rpm、5min、4℃で遠心し、菌体を沈殿させた。さらに遠心培養上清をクリーベンチ内で0.22μシリンジフィルター(RJP3222SH,AS ONE CORPORATION)を用いて濾過することで菌体を除去し、一段階目の培養上清とした。
【0041】
〈実験(1):L.amylovorusに対するpHの乳酸生成阻害試験〉
M.elsdeniiとの相互作用によりL.amylovorus乳酸生成促進効果が生じるが、M.elsdeniiによる乳酸資化の結果、pH低下が抑制されたことによるものか確認するためにGAM培地に対して2g/LのCaCO3を添加した液体培地と添加しない液体培地上でL.amylovorusの単独培養を行った。
実験手法(1)の手順でL.amylovorus4-4株をプレ培養後、GAM+CaCO3液体培地もしくはGAM液体培地を用いて実験手法(2)の手順でL.amylovorus4-4株プレ培養液をn=4で接種し、37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養、24時間後に菌懸濁液OD測定を行った。その後、培養上清を回収してpH、有機酸測定に用いた。
【0042】
〈実験(2):L.amylovorusに対するDL-乳酸による乳酸生成阻害試験〉
M.elsdeniiとの相互作用によりL.amylovorus乳酸生成促進効果が生じるが、M.elsdeniiの乳酸資化による培養液中の乳酸濃度低下によるものか確認するために、1/2GAM液体培地にDL-乳酸を各濃度で添加し、L.amylovorusの単独培養を行った。
【0043】
実験手法(1)の手順でL.amylovorus4-4株をプレ培養した。続いて、1/2GAM+DL-乳酸液体培地を作成した。DL-乳酸濃度は、60mM、70mM、80mM、110mMとなる様に添加し、KOHを用いてpH7.0に調整、滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここで1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でL.amylovorusプレ培養液を作成した。L.amylovorusプレ培養液をn=4で培地の1/100量となるように20 μL接種し、37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し24時間後に菌懸濁液OD測定を行った。その後、培養上清を回収して有機酸測定に用いた。
【0044】
〈実験(3): M.elsdenii の培養上清を用いた二段階培養試験〉
M.elsdeniiが産生する分子がL.amylovorusの乳酸産生を促進するか確認するために、一段階目としてM.elsdeniiY2株の24時間培養を行い、その培養上清を用いて二段階目としてL.amylovorus4-4株の24時間培養を行った。その後、L.amylovorus培養上清の有機酸濃度を測定した。
【0045】
実験手法(1)の手順でM.elsdeniiY2株をプレ培養後、Basic+DL-乳酸培地を用いて、実験手法(2)の手順でM.elsdeniiY2株プレ培養液を接種、37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0046】
続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清を実験手法(4)の手順で調製した。この調整済みM.elsdeniiY2株培養上清10mLと2×Basic+デンプン改変培地10mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル20mLずつ分注した。分注後、1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でL.amylovorusプレ培養液を作成し、n=4で培地の1/100量となるように200μL接種した。37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し24時間後に菌懸濁液のOD測定を実験手法(3)の手順で生菌数の測定を行った。また、培養上清のpH、有機酸測定を行った。
【0047】
また、対照区として一段階目に使用したBasic液体培地と2×Basic+デンプン改変培地を等量混合した培養液を用意し、同様の方法でL.amylovorus4-4株プレ培養液を接種、各測定に用いた。
【0048】
〈実験(4):M.elsdenii培養上清の経時変化〉
M.elsdenii培養上清のL.amylovorusの乳酸生成促進効果における、M.elsdeniiの培養時間の影響を明らかにするために、一段階目としてM.elsdeniiY2株培養上清を各時間で回収し、その培養上清を用いて二段階目としてL.amylovorus4-4株の24時間培養を行った。その後、L.amylovorus4-4株培養上清の有機酸濃度を測定した。
【0049】
実験手法(1)の手順でM.elsdeniiY2株をプレ培養後、Basic+DL乳酸液体培地を用いて、実験手法(2)の手順で、M.elsdeniiY2株プレ培養液を接種、その後37℃、80rpm嫌気条件下で6時間、12時間、18時間、24時間振盪培養した。各時間に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0050】
続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清を実験手法(4)の手順で調整した。この調整済みM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+デンプン改変培地 7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れ、混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここで1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でL.amylovorusプレ培養液を作成し、n=4で培地の1/100量となるように20 μL接種した。37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0051】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地と2×Basic+デンプン改変培地を等量混合した培養液を用意し、同様の方法でL.amylovorus4-4株を接種、各測定に用いた。
【0052】
〈実験(5):M.elsdenii培養上清の耐熱性試験〉
M.elsdenii培養上清がL.amylovorusの乳酸産生を促進することが確認された。そのため、この乳酸産生促進成分は耐熱性があるのか確認するために本実験を行った。
【0053】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養した。その後、Basic+DL-乳酸培地を用いて、実験手法(2)手順でM.elsdeniiY2株プレ培養液をn=4で接種し、37℃、80rpm、嫌気条件下で18時間振盪培養後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0054】
得られたM.elsdenii培養上清を以下に示す3つの手法で処理し、二段階培養に使用した。
1.オートクレーブ処理を行わないM.elsdenii培養上清
得られたM.elsdenii培養上清を実験手法(4)の手順で、菌体除去した。
2.菌体除去後にオートクレーブ処理を行うM.elsdenii培養上清
実験手法(4)の手順で菌体除去したのち、M.elsdenii培養上清を121℃、15minでオートクレーブ処理した。
3. 菌体除去前にオートクレーブ処理を行うM.elsdenii培養上清
菌体除去する前に121℃、15minでオートクレーブ処理し、その後実験手法(4)の手順で菌体除去した。
【0055】
このM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+デンプン改変培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここで1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でL.amylovorusプレ培養液を作成し、n=4で培地の1/100量となるように20μL接種した。37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0056】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地と2×Basic+デンプン改変培地を等量混合した培養液を用意し、同様の方法でL.amylovorus4-4株を接種、各測定に用いた。
【0057】
〈実験(6):F-キットを用いた乳酸異性体濃度の定量〉
実験(5)の結果から、M.elsdeniiY2株培養上清を菌体込みでオートクレーブ処理を行ったのちに精製した培養上清によりL.amylovorus4-4株の乳酸産生促進効果が増強されることが明らかとなった。そのため、本実験では、M.elsdeniiY2株の培養上清によって乳酸産生が促進されたL.amylovorus4-4株培養上清と、M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない対照となるL.amylovorus培養上清中の乳酸異性体濃度の違いを調べた。
【0058】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養した。Basic+DL乳酸液体培地を用いて実験手法(2)の手順でM.elsdeniiY2株プレ培養液を培地の1/100量となるよう200μL接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で18時間振盪培養した。その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。
【0059】
続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清の菌体除去を行う前に、121℃、15minでオートクレーブにかけ、その後実験手法(4)の手順で菌体除去した。この調整済みM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+デンプン改変培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここに1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でプレ培養を行ったL.amylovorus4-4株をn=4で培地の1/100量となる20μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0060】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地をオートクレーブ処理した溶液と2×Basic+デンプン改変培地を等量混合した培養液を用意し、二段階培養に使用した。
その後F-キットを用いて、乳酸異性体濃度の定量を行った。
【0061】
また実験(7)において、2×Basic+Glucose改変培地を用いた二段階培養後のL.amylovorus4-4株の培養上清においてもF-キットを用いて、乳酸異性体濃度の測定を行った。
【0062】
F-キットによる乳酸異性体濃度の定量方法を以下に示す。
培養上清を80℃、15minでインキュベートした。また、4℃に保管していたF-キット付属溶液1を20~25℃に戻した。
以下の通りに溶液をセルに分注し、優しくピペッティングして混和した。
【0063】
【0064】
5分間室温で静置した後、吸光度(340nm)を測定した。この値をA1とした。
溶液4を10μL添加し、優しくピペッティングして混和した。30分間室温に静置した後、吸光度(340nm)を測定した。この値をA2とした。
溶液5を10μL添加し、やさしくピペッティングして混和した30分間室温で静置した後、吸光度(340nm)を測定した。この値をA3とした。
ΔAD-乳酸とΔAL-乳酸の比を、D-乳酸とL-乳酸の濃度比として算出した。
ΔAD-乳酸=(A2-A1)試料 - (A2-A1)ブランク
ΔAL-乳酸=(A3-A2)試料 - (A3-A2)ブランク
【0065】
〈実験(7):M.elsdeniiの培養上清を用いた各乳酸菌の二段階培養試験〉
M.elsdeniiが産生する分子がL.amylovorus以外の腸内乳酸産生菌による乳酸産生を促進するか確認するために、一段階目としてM.elsdeniiY2株の18 時間培養を行い、その培養上清を用いて二段階目としてL.amylovorus4-4株、S.alactolyticus1-12株およびE.casseliflavus C3-38株の24時間培養を行った。その後L.amylovorus、S.alactolyticus、E.casseliflavus 培養上清の有機酸濃度を測定した。なお、本実験では二段階目の培養において唯一の炭素源がGlucoseである2×Basic+Glucose改変培地を使用している。これは、L.amylovorusはデンプンを分解菌で、デンプンを糖源として利用することが可能であるが、S.alactolyticusおよびE.casseliflavusは、デンプンの資化性が低いためM.elsdenii培養上清の乳酸産生促進効果を確認することが難しいためである。
【0066】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養した。Basic+DL乳酸液体培地を用いて実験手法(2)の手順でM.elsdeniiY2株プレ培養液を培地の1/100量となるよう200μL接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で18時間振盪培養した。その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。
【0067】
続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清の菌体除去を行う前に、121℃、15minでオートクレーブにかけ、その後実験手法(4)の手順で菌体除去した。この調整済みM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+Glucose改変培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここに1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でプレ培養を行ったL.amylovorus4-4株、S.alactolyticus1-12株またはE.casseliflavus C3-38株n=3で培地の1/100量となる20μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0068】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地と2×Basic+Glucose改変培地を等量混合した培養液を用意し、二段階培養に使用した。
【0069】
〈実験(8):M.elsdeniiの培養上清を用いたLactobacillus属の二段階培養試験〉
M.elsdeniiが産生する分子がL.amylovorus以外のLactobacillus属による乳酸産生を促進するか確認するために、好熱菌発酵産物を給与した採卵鶏の排泄糞中において検出数が多かったL.johnsoniiを用いてM.elsdeniiの培養上清を用いた二段階培養試験を行った。
【0070】
一段階目としてM.elsdeniiY2株の18 時間培養を行い、その培養上清を用いて二段階目としてL.johnsoniiの24時間培養を行った。その後L.johnsonii培養上清の有機酸濃度を測定した。なお、本実験では二段階目の培養において唯一の炭素源がGlucoseである2×Basic+Glucose改変培地を使用している。これは、実験(7)において2×Basic+Glucose改変培地を使用した際に、L.amylovorusのより顕著な乳酸産生促進効果が確認されたためである。
【0071】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養した。Basic+DL乳酸液体培地を用いて実験手法(2)の手順でM.elsdeniiY2株プレ培養液を培地の1/100量となるよう200μL接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で18 時間振盪培養した。その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。
【0072】
続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清の菌体除去を行う前に、121℃、15minでオートクレーブにかけ、その後実験手法(4)の手順で菌体除去した。この調製済みM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+Glucose改変培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に1mLずつ分注した。ここに1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でプレ培養を行ったL.johnsoniiをn=3で培地の1/100量となる10μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。なおODは菌懸濁液をPCRチューブに30μL分注したのち、吸光度計Picoexplorerを用いて測定しており、波長はOD=615である。
【0073】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地と2×Basic+Glucose改変培地を等量混合した培養液を用意し、二段階培養に使用した。
【0074】
〈実験(9):Basic+Glucose液体培地M.elsdenii培養上清による二段階培養試験〉
Basic+DL-乳酸液体培地で回収したM.elsdenii培養上清によるL.amylovorusの乳酸産生促進が確認されたことから、異なる炭素源においてもM.elsdeniiが乳酸促進物質を放出することができるのか確認するためにBasic+Glucose液体培地によるM.elsdenii培養上清を用いて二段階培養試験を行った。
【0075】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養後、Basic+Glucose液体培地を用いて実験手法(2)の手順で、M.elsdeniiY2株のプレ培養液を培地の1/100量となるように200μL接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で24時間振盪培養した。
【0076】
その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清を実験手法(4)の手順で菌体除去したのち、この調整済みM.elsdeniiY2株培養上清10mLと2×Basic+デンプン改変培地10mLを、n=3で乾熱滅菌した50ml三角フラスコにトータル20mLずつ分注した。ここに1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でプレ培養したL.amylovorus4-4株をn=3で培地の1/100量となるように200μL 接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0077】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地と2×Basic+デンプン改変培地を等量混合した培養液を用意し、二段階培養試験に用いた。
【0078】
〈実験(10):乳酸異性体の違いによるM.elsdenii培養上清のL.amylovorus乳酸産生促進効果〉
Basic+DL-乳酸液体培地から回収されたM.elsdenii培養上清はL.amylovorus乳酸促進効果を確認できたことから、乳酸異性体の違いによるL.amylovorus乳酸促進効果を確認するためにBasic+DL-乳酸液体培地、Basic+L-乳酸液体培地から回収したM.elsdenii培養上清を二段階培養試験に用い、乳酸産生量の違いを確認した。
【0079】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養後、Basic+DL-乳酸液体培地もしくはBasic+L-乳酸液体培地を用いて実験手法(2)の手順でM.elsdeniiY2株のプレ培養液を培地の1/100量となるように200μL接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で24時間振盪培養した。その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清を実験手法(4)の手順で菌体除去した。この調整済みM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+デンプン改変培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここに1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でプレ培養したL.amylovorus4-4株を、n=4で培地の1/100量となるように20μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0080】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地と2×Basic+デンプン改変培地を等量混合した培養液を用意し、二段階培養を行った。
【0081】
〈実験(11):M.elsdenii培養上清を用いた二段階培養試験・GAM液体培地〉
M.elsdenii培養上清が二段階目培養として2×Basic+デンプン改変培地および2×Basic+Glucose改変培地を用いた際、L.amylovorusの乳酸産生を促進する結果が得られた(
図3(b):
図7(b))。そのため、本実験では一段階目としてBasic+DL-乳酸液体培地でM.elsdenii培養上清を回収した後、二段階目の培養としてGAM液体培地を用いることで、栄養源が豊富な培地上でもL.amylovorusの乳酸産生促進効果が得られるのか検証した。
【0082】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養した。Basic+DL乳酸液体培地を用いて実験手法(2)の手順でM.elsdeniiY2株プレ培養液を培地の1/100量となるよう200μL接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で18時間振盪培養した。その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。
【0083】
続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清の菌体除去を行う前に、121℃、15minでオートクレーブにかけ、その後実験手法(4)の手順で菌体除去した。この調整済みM.elsdeniiY2株培養上清7mLとGAM液体培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここに1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でプレ培養を行ったL.amylovorus4-4株をn=3で培地の1/100量となる20μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0084】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地とGAM液体培地を等量混合した培養液を用意し、二段階培養に使用した。
【0085】
〈実験(12):M.elsdenii 培養上清中に含まれる短鎖脂肪酸がL.amylovorus乳酸産生に与える影響〉
L.amylovorus乳酸生成促進効果が確認されたM.elsdenii培養上清中には酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸といった短鎖脂肪酸SCFAが含有されている。そのためこれらの短鎖脂肪酸がL.amylovorus乳酸産生に与える影響を確かめるためにBasic+デンプン改変液体培地に各短鎖脂肪酸を含有させた液体培地を作成し、L.amylovorus乳酸産生量を確認した。
【0086】
L.amylovorusを実験手法(1)の手順でプレ培養後、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにBasic+デンプン改変培地+酢酸(約9.8mM)、Basic+デンプン改変培地+プロピオン酸(約7.9mM)、Basic+デンプン改変培地+酪酸(約7.0mM)、Basic+デンプン改変培地+吉草酸(約8.8mM)をn=3で20mLずつ分注し、L.amylovorusプレ培養液を培地の1/100量となる200μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。
【0087】
〈実験(13):M.elsdenii 培養上清の凍結乾燥試験〉
L.amylovorusの乳酸生成促進効果が確認されたM.elsdenii培養上清は凍結乾燥させた場合でも、乳酸促進効果を発揮するか確認するために、M.elsdenii培養上清の凍結乾燥を行い、回収した粉末状のM.elsdenii培養上清を高濃度で蒸留水に溶解した培養液を二段階培養に使用した。
【0088】
実験手法(1)の手順でM.elsdeniiY2株をプレ培養後、Basic+DL乳酸液体培地を用いて、実験手法(2)の手順で、M.elsdeniiY2株プレ培養液を接種、その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清のpHと有機酸測定を行った。続いて、得られたM.elsdeniiY2株培養上清を実験手法(4)の手順で調整した。この菌体除去を行った培養上清を15mLファルコンチューブに約5mLずつ分注し、液体窒素で予備凍結を行った。予備凍結した培養上清を凍結乾燥機に24時間かけた。凍結乾燥が完了したM.elsdenii培養上清の重量を測定したところ、5mLのM.elsdenii培養上清の凍結乾燥物は約0.07gであったため、M.elsdenii培養上清の約3倍の濃度となる10mLの滅菌水に対して0.4g溶解し、一段階目のM.elsdenii培養上清とした。このM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+デンプン改変培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に2mLずつ分注した。ここで1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順で調製したL.amylovorusプレ培養液を、n=4で培地の1/100量となるよう20μL接種した。37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し24時間後に培養上清の有機酸測定を行った。
【0089】
また、対照として一段目に使用したBasic液体培地を同様に凍結乾燥し、10mLの滅菌水に対して0.4g溶解した後、2×Basic+デンプン改変培地を等量混合した。その後、L.amylovorus4-4株プレ培養液を接種、有機酸濃度を測定した。
【0090】
〈実験(14):M.elsdenii培養上清のアセトン沈殿がL.amylovorusの乳酸産生に与える影響〉
M.elsdenii の培養上清に含まれる乳酸産生促進物質がタンパク質であった場合、アセトン沈殿により培養上清から回収できる可能性がある。そこで、M.elsdenii培養上清をアセトン沈殿によって回収し、二段階培養試験に用いることで、乳酸産生促進物質の回収が可能かどうか検証した。
【0091】
M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養した。Basic+DL乳酸液体培地を用いて実験手法(2)の手順でM.elsdeniiY2株プレ培養液を培地の1/100量となるよう200μL接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で18時間振盪培養した。その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。
【0092】
続いて、対照として利用するBasic液体培地と得られたM.elsdeniiY2株培養上清を菌体除去前に、121℃、15minでオートクレーブにかけ、その後実験手法(4)の手順で菌体除去した。
【0093】
事前に-20℃で一晩冷却したアセトン30mLに回収されたM.elsdeniiY2株培養上清3mLと対照として使用するBasic液体培地3mLを各アセトンに少しずつ添加し、-20℃で一晩静置させて、沈殿物を作成した。
【0094】
得られたアセトン沈殿物を回収する為に、10,000rpm、4℃、15minで遠心分離し、大まかに上清を捨てた。その後再度10,000rpm、4℃、15minで遠心分離し上澄みをチップでできる限り捨て、滅菌水3mLで沈殿物を溶解した。
【0095】
このアセトン沈殿物を溶解して得たM.elsdeniiY2株培養上清3mLと2×Basic+Glucose改変液体培地3mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル6mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に1mLずつ分注した。ここに1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でプレ培養を行ったL.amylovorus4-4株をn=3で培地の1/100量となる10μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。なおODは菌懸濁液をPCRチューブに30μL分注したのち、吸光度計Picoexplorerを用いて測定しており、波長はOD=615である。
【0096】
また、対照として一段目に使用し、アセトン沈殿によって同様に回収したBasic液体培地と2×Basic+Glucose改変液体培地を等量混合した培養液を用意し、二段階培養に使用した。
【0097】
〈実験(15):M.elsdenii培養上清の限外ろ過試験〉
M.elsdenii培養上清中に含まれるL.amylovorusの乳酸生成促進物質の分子量を推定するために、M.elsdenii培養上清を限外ろ過した上清を二段階培養試験に用いた。M.elsdeniiY2株を実験手法(1)の手順でプレ培養後、Basic+DL乳酸液体培地を用いて実験手法(2)の手順で、M.elsdeniiY2株プレ培養液を接種した。その後、37℃、80rpm、嫌気条件下で18時間振盪培養した。その培養液の一部を回収し、ODと有機酸を測定した。
【0098】
得られたM.elsdeniiY2培養上清を菌体除去する前に121℃、15minでオートクレーブ滅菌し実験手法(4)の手順で菌体除去した。続いて、M.elsdenii培養上清を3000Daの限外ろ過膜(Amicon Ultra-0.5mL Centrifugal Filters,Merck Millipore Ltd.)に供し、12,000rpm、15min、4℃で遠心し、その濾液を分子量3000 Da以下のM.elsdenii培養上清とした。
【0099】
このM.elsdeniiY2株培養上清7mLと2×Basic+Glucose改変培地7mLを、乾熱滅菌した50mL三角フラスコにトータル14mLずつ入れて混合した。この培養液を滅菌済み24 Wellプレート(FALCON REF353047)に1mLずつ分注した。ここで1/2GAM液体培地を用いて実験手法(1)の手順でL.amylovorusプレ培養液を作成し、n=4で培地の1/100量となるように10μL接種した。その後37℃、80rpm嫌気条件下で振盪培養し、24時間後に菌懸濁液のODを測定、培養上清の有機酸測定を行った。なおODは菌懸濁液をPCRチューブに30μL分注したのち、吸光度計Picoexplorerを用いて測定しており、波長はOD=615である。
【0100】
対象として、限外ろ過を行う前のM.elsdenii培養上清と、Basic液体培地、Basic液体培地を限外ろ過処理した培養液を一段階目の培養液として用いた。
【0101】
1-4. 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による有機酸濃度の測定
微生物を培養した培養液中には、菌体、培地由来のタンパク質、および菌体から放出されたタンパク質などの不純物が多数含まれるため、そのままではHPLCを用いた有機酸分析を行うには不適である。そこで、シリンジフィルターおよび限外ろ過膜を用いて培養上清の前処理を行い、その後有機酸濃度の測定を行った。手順を以下に示す。
【0102】
培養上清を0.45μmのシリンジフィルター(SYNN0302MNXX104,ADVANCED MICRODEVICES PVT.LTD)でろ過した。
ろ過済みサンプルを滅菌水で20倍に希釈した。
希釈したサンプルを3000 Daの限外ろ過膜(Amicon Ultra-0.5mL Centrifugal Filters,Merck Millipore Ltd.)に供し、12,000rpm、15min、4℃で遠心し、タンパク質を除いた。
徐タンパク質したサンプルを50μL、HPLC専用のチューブに入れ、HPLC(CBM-20A,Shimadzu Corporation)で測定した。
【0103】
1-5. 吸光度計Picoexplorerを用いた菌懸濁液の濁度測定
24 Wellプレート(FALCON REF353047)を用いた液体培養試験のうち、培養液を1mLで培養を行った実験においては、液体量が不足しており、分光光度計による濁度測定が難しい。そこで、実験(8)、(14)、(15)においては光度計Picoexplorerを用いてODの測定を行った。手順としては、PCRチューブに菌懸濁液を30 μL分注したのち測定を行った。測定波長は575~660nmで、最大吸収波長は615nmである。なお、一般的な分光光度計では波長の光を角セル内の試料に照射して濁度測定を行うが、Picoexplorerでは白色光をPCRチューブ内の試料に照射してカラーセンサRedによって濁度測定を行う。PCRチューブを使用しているため、分光光度計の角型セルより光路長が短く、濁度が分光光度計より小さくなる。そこで乳酸菌の濁度測定(Picoexplorerを用いた乳酸菌の濁度測定)を参考に、補足係数によって、セルを用いた分光光度計で測定した濁度に近い値を算出した。計算式を以下に示す。
【0104】
y = 0.1543 x (y= Picoexplorer測定値:x= OD600)
【0105】
以下、段落[0106]~[0185]まで、上記実験の結果を述べる。
【0106】
〈実験(1):L.amylovorusに対するpHの乳酸産生阻害試験〉
本実験ではGAM液体培地に対して2g/LのCaCO
3を添加した培地と添加しない培地上でL.amylovorusの単独培養を行い、pHとOD、乳酸産生量の違いを調べた。OD、pH、乳酸産生量の結果を
図1に示す。
【0107】
まずGAM液体培地を用いたL.amylovorus4-4株24時間培養後のpHの値は4.52と低く、ODは1.65、乳酸産生量は約67.9mMであった。一方でGAM+CaCO3液体培地のL.amylovorus4-4株24時間培養後のpHの値は5.06とCaCO3を培地上に含むことで高い値となり、ODは2.29とpHが低いGAM液体培養の値よりも高くなった。しかし、乳酸産生量は約57.9mMであり、pH、ODが共にGAM液体培養よりも高い値にも関わらず、乳酸量は低い値となった。
【0108】
このことから、pHが低下することでL.amylovorus4-4株の増殖は抑制される可能性があるが、pHの低下によって必ずしも乳酸産生が減少することではないことが示唆された。
【0109】
〈実験(2):L.amylovorusに対するDL-乳酸による乳酸産生阻害試験〉
本実験ではL.amylovorus4-4株による乳酸産生において、乳酸によるフィードバック阻害のメカニズムがあるのか検討した。1/2GAM液体培地に各濃度のDL-乳酸を添加し、L.amylovorus4-4株が産生する乳酸量を測定した。乳酸濃度の結果は
図2に示されている。
【0110】
はじめに、1/2GAM+DL-乳酸培地中に実際に含まれていた乳酸量を測定したところ、低濃度から83.5mM (44.75μL)、102.2mM (52.25μL)、113.6mM (59.5μL)、141.1mM (82μL)含まれていた。(()内の数字は培地10mLに対して添加したDL-乳酸量を示す。)
【0111】
続いて、24時間培養後のL.amylovorus4-4株乳酸産生量およびODを測定した。ODは()内の数字に示す。DL-乳酸を含まない1/2GAM液体培地において36.5mM(1.12)、83.5mM DL-乳酸を含む培地において40.1mM(0.86)、102.2mM DL-乳酸を含む培地において42.4mM(0.67)、113.6mM DL-乳酸を含む培地において35.7mM(1.05)、141.1mM DL-乳酸を含む培地において48.8mM(0.52)乳酸を産生することが示された。
【0112】
このように培地中に乳酸が高濃度に含まれるとODは減少する一方で、L.amylovorusの乳酸産生量が減少しないことが示されたことから、L.amylovorus4-4株においては0~約190mM乳酸の濃度範囲では乳酸によるフィードバック阻害のような作用は認められないことが示された。
【0113】
〈実験(3): M.elsdeniiの培養上清を用いた二段階培養試験〉
乳酸産生が増加する理由を明らかにするために、M.elsdeniiとL.amylovorusとの間の相互作用により本実験では一段階目としてM.elsdeniiY2株の24時間培養を行い、その培養上清を用いて二段階目としてL.amylovorus4-4株の24時間培養を行った。その後、L.amylovorus培養上清の有機酸濃度を測定した。
はじめに一段階目としてBasic+DL-乳酸液体培地上でM.elsdeniiY2株の24時間培養を行った。実験(1)~(2)ではGAM液体培地を用いたが、GAM液体培地には炭素源としてグルコースとデンプンが含まれており、M.elsdeniiの前培養時にこれらの炭素源が消費尽くされなかった場合、L.amylovorusによって乳酸産生に使われる可能性が高い。そこで、炭素源として乳酸のみを含むBasic+DL-乳酸液体培地を用いた。一段階目のODと有機酸濃度を
図3(a)に示す。ODは1.02であり、M.elsdeniiY2株がBasic+DL-乳酸液体培地で十分に増殖したことが確認された。すると、Basic+DL-乳酸液体培地上に含まれていた乳酸濃度は約56.3mMであったが、24時間培養後には含まれていた乳酸がM.elsdeniiY2株によってすべて消費されていることが確認された。さらに、M.elsdeniiY2株は酢酸を約14.2mM、プロピオン酸を約13.0mM、イソ酪酸を約4.8mM、酪酸を約5.9mM、イソ吉草酸を約2.7mM、吉草酸を約8.3mM産生することが確認された。
【0114】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株のOD、生菌数、有機酸濃度を
図3(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.32、生菌数は3.68×10
4であり、M.elsdeniiY2株の培養上清を含む培地においてはODが0.12、生菌数が2.32×10
4とM.elsdeniiY2株の培養上清を含む培地上ではOD、生菌数共に減少傾向にあることが確認された。この理由としては、一段階目の培養として用いたBasic+DL-乳酸培地中の成分がM.elsdeniiY2株によって消費され、L.amylovorus4-4株の生育に必要な培地成分が不足したことが考えられる。有機酸濃度は、M.elsdeniiY2株培養上清を含まない培地上で最も多く産生された有機酸が乳酸であり、約4.90mM、酢酸が約0.69mMであった。一方で、M.elsdeniiY2株培養上清を含む培地上では乳酸が約7.30mMで、その他の有機酸はほとんど計測されなかった。
【0115】
このことはM.elsdenii培養上清はL.amylovorus4-4株の増殖を促進することはないものの、乳酸産生を促進することが示された。
【0116】
〈実験(4):M.elsdenii培養上清の経時変化〉
M.elsdeniiY2株の一段階目の培養において、どの培養時間で最もL.amylovorus4-4株の乳酸産生促進効果があるのか確認するために、M.elsdeniiY2株をBasic+DL-乳酸液体培地で6、12、18、24時間培養後、これらの培養上清を用いてL.amylovorus4-4株の二段階培養試験を行った。
【0117】
はじめに、一段階目としてBasic+DL-乳酸培地で各時間培養したM.elsdeniiY2株のOD、pHと有機酸濃度を
図4(a)に示す。Basic+DL-乳酸液体培地中に含まれていた乳酸は53.8mMであった。
【0118】
培養時間6時間におけるODは0.11、pHは6.19であった。また有機酸濃度は乳酸が46.6mMと約7.23mM消費されたことが示された。また、酢酸は1.46mM、プロピオン酸は0.99mM、イソ酪酸は3.14mM産生された。
【0119】
培養時間12時間におけるODは1.04、pHは6.62と12時間培養でM.elsdeniiY2株が十分に増殖したことが示された。また、有機酸濃度においてBasic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸はすべて消費されており、酢酸が約9.16mM、プロピオン酸が約8.9mM、イソ酪酸が約6.95mM、酪酸が約4.64mM、イソ吉草酸が約1.76mM、吉草酸が約6.38mM産生された。
【0120】
培養時間18時間におけるODは1.00で、pHは6.78であった。また有機酸濃度はBasic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸はすべて消費されており、酢酸が約9.06mM、プロピオン酸が約8.53mM、イソ酪酸が約6.55mM、酪酸が約4.73mM、イソ吉草酸が約2.07mM、吉草酸が約6.89mM産生された。
【0121】
培養時間24時間におけるODは0.91で、pHは6.72であった。また有機酸濃度はBasic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸はすべて消費されており、酢酸が約9.29mM、プロピオン酸が約8.79mM、イソ酪酸が約7.46mM、酪酸が約4.4mM、イソ吉草酸が約1.77mM、吉草酸が約6.8mM産生された。
【0122】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株のOD、有機酸濃度を
図4(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.44、pHは6.36であった。また有機酸は乳酸が6.14mM、酢酸が0.6mM産生することが確認された。
培養6時間のM.elsdeniiY2株上清を用いた結果は、ODが0.26、pHが6.42であった。また有機酸は乳酸が5.21mM、酢酸が約0.33mMであり、M.elsdeniiY2株培養上清による乳酸産生促進効果は確認されなかった。
【0123】
続いて、培養12時間のM.elsdeniiY2株培養上清を用いた結果は、ODは0.47、pHは6.57であった。また有機酸は乳酸が約6.98mM、酢酸が約0.74mMであった。
【0124】
続いて培養18時間のM.elsdeniiY2株培養上清を用いた結果は、ODは0.31、pHは6.47であった。また有機酸は乳酸が約9.9mM、酢酸が約0.10mMであった。
【0125】
続いて培養24時間のM.elsdeniiY2株培養上清を用いた結果は、ODは0.28、pHは6.57であった。また、有機酸は乳酸が約8.07mM、酢酸が約0.3mMであった。
【0126】
これらのことから、培養時間18時間のM.elsdeniiY2株培養上清を用いると、最もL.amylovorus4-4株の乳酸産生促進効果が確認されることが示された。
【0127】
〈実験(5):M.elsdenii培養上清の耐熱性試験〉
L.amylovorus4-4株の乳酸産生を促進するM.elsdeniiY2株培養上清に含まれる成分は耐熱性を有するのか確認するために、Basic+DL-乳酸液体培地上から回収したM.elsdeniiY2株培養上清を121℃、15minオートクレーブにかけ、二段階培養試験に用いることで耐熱性を評価した。
【0128】
一段階目としてBasic+DL-乳酸培地で18時間培養したM.elsdeniiY2株のODと有機酸濃度を
図5(a)に示す。ODは0.96であり、Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸56.8mMはすべて消費され酢酸が約 9.69mM、プロピオン酸が約7.65mM、イソ酪酸が約4.1mM、酪酸が約4.72mM、イソ吉相酸が約1.69mM、吉草酸が約6.44mM産生された。
【0129】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株のOD、有機酸濃度を
図5(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.49、pHは6. 33であった。また有機酸は乳酸が6.18mM、酢酸が1.39mM産生することが確認された。続いて、フィルター滅菌のみ行ったM.elsdenii培養上清を二段階培養に使用した際のODは0.42、pHは6.52であった。また有機酸は乳酸が約8.43mM、酢酸が約0.10mMであった。
【0130】
続いて、フィルター滅菌でM.elsdeniiY2株の菌体を除去後、オートクレーブにかけたM.elsdenii培養上清を用いた二段階培養では、ODは0.39、pHは6.36であった。また有機酸は乳酸が約7.7mMであった。
【0131】
続いて、M.elsdeniiY2株の菌体を含む培養液をオートクレーブ後、フィルター滅菌を行ったM.elsdenii培養上清を用いた二段階培養では、ODは0.47、pHは6.34であった。また有機酸は乳酸が約10.8mMであった。
【0132】
これらのことから、L.amylovorus4-4株の乳酸産生を促進するM.elsdeniiY2株由来の物質は耐熱性あることに加え、M.elsdeniiY2株を菌体込みでオートクレーブに処理すると、乳酸産生促成効果が増加することが確認された。
【0133】
〈実験(6):F-キットを用いた乳酸異性体濃度の定量〉
M.elsdeniiIY2株培養上清により促進されたL.amylovorus4-4株の乳酸産生では産生される乳酸異性体の差があるのかどうか確認するために本実験を行った。M.elsdeniiY2株の18時間培養を行いその培養上清を用いてL.amylovorus4-4株の24時間培養を行った。その後、一段目の有機酸濃度をHPLCで測定し、二段目のL.amylovorus4-4株によって産生された乳酸異性体濃度をF-キットを用いて測定した。結果を以下に示す。
【0134】
Basic+DL-乳酸培地で18時間培養したM.elsdeniiY2株のODと有機酸濃度を
図6(a)に示す。ODは0.97であり、Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸53.9mMはすべて消費され酢酸が約9.07mM、プロピオン酸が約8.75mM、イソ酪酸が約3 .97mM、酪酸が約4.53mM、イソ吉相酸が約1.79mM、吉草酸が約6.40mM産生された。
【0135】
続いて、M.elsdeniiY2株培養上清中でL.amylovorus4-4株を24時間培養した際の乳酸異性体濃度を
図6(b)に示す。対照となるBasic液体培地をオートクレーブ処理した溶液を含むサンプルではD-乳酸が約2.18mM、L-乳酸が約2.91mM測定されたのに対して、M.elsdeniiY2株培養上清を含むサンプルではD-乳酸が約3.32mM、L-乳酸が約3.35mM測定された。これは
図6(c)に示すように、M.elsdeniiY2株培養上清により促進された乳酸産生のうちD-乳酸が約72 %、L-乳酸が約28 %を占めることを表す。
【0136】
また具体的な有機酸濃度は実験(7)の結果に記載するが、2×Basic+Glucose改変培地を用いた二段階培養後のL.amylovorus4-4株の培養上清の乳酸異性体濃度を測定したところ、
図6(d)に示すように、M.elsdeniiY2株培養上清により促進された乳酸産生のうちD-乳酸が約84 %、L-乳酸が約16 %を占めることが明らかとなった。
【0137】
このことから、M.elsdeniiY2株によるL.amylovorus4-4株乳酸産生促進効果は特にD-乳酸の産生に影響を及ぼすことが示された。
【0138】
〈実験(7):M.elsdeniiの培養上清を用いた各乳酸菌の二段階培養試験〉
M.elsdeniiY2株の乳酸産生促進効果がL.amylovorus4-4株以外の乳酸菌に対しても有効であるか確認するために実験を行った。Basic+DL-乳酸液体培地上でM.elsdeniiY2株を18時間培養後、オートクレーブ、フィルター滅菌処理した培養上清をL.amylovorus4-4株、S.alactolyticus1-12株またはE.casseliflavus C3-38株の二段階培養に使用した。OD、pH、有機酸濃度の結果を以下示す。なお二段階目の培養は2×Basic+Glucose改変液体培地を使用している。
【0139】
一段階目としてBasic+DL-乳酸培地で18時間培養したM.elsdeniiY2株のODとpH、有機酸濃度を
図7(a)に示す。M.elsdeniiY2株培養液のODは0.99であり、オートクレーブ後のpHは7.12であった。Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸約55.7mMはほとんど消費され酢酸が約12.0mM、プロピオン酸が約10.2mM、イソ酪酸が約2.21mM、酪酸が約6.90mM、イソ吉相酸が約2.68mM、吉草酸が約9.56mM産生された。
【0140】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株の有機酸濃度を
図7(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.35 、pHは6.46であり、有機酸は乳酸を8.79mM産生することが確認された。続いて、M.elsdeniiY2株培養上清を用いた二段階培養試験の結果、ODは0.27、pHは6.16であり、有機酸濃度は乳酸を約18.8mM産生することが示された。
【0141】
続いて、二段階目に培養したS.alactolyticus1-12株の有機酸濃度を
図7(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.91、pHは6.13であり、有機酸は乳酸を27.3mM産生することが確認された。続いて、M.elsdeniiY2株培養上清を用いた二段階培養試験の結果、ODは0.81、pHは6.03であり、有機酸濃度は乳酸を約29.3mM産生することが示された。
【0142】
続いて、二段階目に培養したE.casseliflavusC3-38株の有機酸濃度を
図7(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは1.49、pHは5.62であり、有機酸は乳酸を45.5mM産生することが確認された。続いて、M.elsdeniiY2株培養上清を用いた二段階培養試験の結果、ODは1.30、pHは5.69であり、有機酸濃度は乳酸を約45.8mM産生することが示された。
【0143】
このことからM.elsdeniiY2株培養上清はS.alactolyticus1-12株およびE.casseliflavus C3-38株に対しては乳酸産生促進効果を示さないことが確認された。
【0144】
さらに、M.elsdeniiY2株培養上清のL.amylovorus4-4株に対する乳酸産生促進効果は炭素源がデンプンのみの培地である2×Basic+デンプン改変培地(
図5(b))よりも炭素源がGlucoseのみである2×Basic+Glucose改変培地(
図7(b))の方がより乳酸産生増加量が顕著であることが確認された。
【0145】
〈実験(8):M.elsdeniiの培養上清を用いたLactobacillus属の二段階培養試験〉
M.elsdeniiが産生する分子がL.amylovorus以外のLactobacillus属細菌による乳酸産生を促進するか確認するために、好熱菌発酵産物を給与した採卵鶏の排泄糞中において検出数が多かったL.johnsoniiを用いてM.elsdeniiの培養上清を用いた二段階培養試験を行った。
【0146】
Basic+DL-乳酸液体培地上でM.elsdeniiY2株を18時間培養後、オートクレーブ、フィルター滅菌処理した培養上清をL.johnsoniiの二段階培養に使用した。OD、有機酸濃度の結果を以下示す。なお二段階目の培養は2×Basic+Glucose改変液体培地を使用している。
【0147】
一段階目としてBasic+DL-乳酸培地で18時間培養したM.elsdeniiY2株のODとpH、有機酸濃度を
図8(a)に示す。M.elsdeniiY2株培養液のODは1.03であった。Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸約55.1mMはほとんど消費され酢酸が約6.42mM、プロピオン酸が約6.96mM、イソ酪酸が約0.21mM、酪酸が約4.81mM、イソ吉相酸が約1.76mM、吉草酸が約7.46mM産生された。
【0148】
続いて、二段階目に培養したL.johnsoniiの有機酸濃度を
図8(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.15であり、有機酸は乳酸を4.26mM産生することが確認された。続いて、M.elsdeniiY2株培養上清を用いた二段階培養試験の結果、ODは0.04であり、有機酸濃度は乳酸を約12.9mM産生することが示された。
【0149】
このことからM.elsdeniiY2株培養上清はL.amylovorus以外のLactobacillus属に対しても乳酸産生促進効果を持つことが示唆された。
【0150】
〈実験(9):Basic+Glucose液体培地M.elsdenii培養上清による二段階培養試験〉
M.elsdeniY2株の一段落目の培養において、炭素源としてDL-乳酸を用いて培養すると、L.amylovorusに対する乳酸産生促進物質を作ることが示されている。そこで、炭素源がGlucoseのみのBasic+Glucose 液体培地を用いて一段落目のM.elsdeniiY2株の培養上清を回収し、L.amylovorus4-4株の二段階培養試験を行うことで、M.elsdeniiY2株の乳酸産生促進物質は異なる炭素源においても産生されるのか確認した。OD、有機酸濃度の結果を以下に示す。
【0151】
一段階目としてBasic+Glucose液体培地上で24時間培養した際のM.elsdeniiY2株のOD、pH、有機酸濃度を
図9(a)に示す。ODは1.58でpHは5.92であった。また、有機酸濃度は酢酸が約3.04mM、プロピオン酸が約0.18mM、酪酸が約8.59mM、イソ吉草酸が約2.16mM産生された。
【0152】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4-株のOD、pH、有機酸濃度の結果を
図9(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.33 、pHは6.39であり、有機酸は乳酸が9.06mM、酢酸が0.53mM産生することが確認された。続いて、M.elsdeniiY2株培養上清を用いた二段階培養試験の結果、ODは0.36、pHは6.46であり、有機酸濃度は乳酸が約7.15mM、酢酸が約0.44mM産生することが示された。
【0153】
これらのことから、Basic+Glucose液体培地上で培養したM.elsdeniiY2株培養上清はL.amylovorus4-4株の乳酸産生促進効果を示さなかった。
【0154】
〈実験(10):乳酸異性体の違いによるM.elsdenii培養上清のL.amylovorus乳酸産生促進効果〉
L.amylovorus4-4株の乳酸産生促進物質をM.elsdeniiが産生するためには、M.elsdeniiの培養時の産生系としてグルコースではなく乳酸である必要があることが明らかとなった。そこで、M.elsdeniiY2株による一段階目の培養において用いる乳酸異性体の違いがL.amylovorus4-4株の乳酸産生を促進する物質の産生に変化を与えるのか確認するために、実験を行った。
【0155】
一段階目としてBasic+DL-乳酸液体培地とBasic+L-乳酸液体培地上で18時間培養した際のM.elsdeniiY2株のOD、有機酸濃度を
図10(a)に示す。はじめに、Basic+DL-乳酸培地で18時間培養したM.elsdeniiY2株のODとpH、有機酸濃度を示す。ODは0.93であり、pHは6.75であった。Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸53.9mMはすべて消費され酢酸が約9.08mM、プロピオン酸が約8.75mM、イソ酪酸が約3.97mM、酪酸が約4.53mM、イソ吉相酸が約1.79mM、吉草酸が約6.40mM産生された。
【0156】
続いて、Basic+L-乳酸培地で18時間培養したM.elsdeniiY2株のODとpH、有機酸濃度を示す。ODは1.00であり、pHは6.79であった。Basic+L-乳酸液体培地に含まれていた乳酸56.4mMはすべて消費され酢酸が約9.06mM、プロピオン酸が約8.32mM、イソ酪酸が約4.25mM、酪酸が約4.85mM、イソ吉相酸が約1.85mM、吉草酸が約6.02mM産生された。
【0157】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株のOD、pH、有機酸濃度の結果を
図10(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.68 、pHは6.29であり、有機酸は乳酸が6.00mM、酢酸が0.72mM産生することが確認された。Basic+DL-乳酸液体培地上で培養したM.elsdeniiY2株を二段階培養で用いたサンプルではODが0.40、pHが6.44、有機酸濃度は乳酸が8.94mM産生されることが確認された。
【0158】
Basic+L-乳酸液体培地上で培養したM.elsdeniiY2株を二段階培養で用いたサンプルではODが0.33、pHが6.46、有機酸濃度は乳酸が9.9mM、酢酸が0.71mM産生されることが確認された。
【0159】
この結果より、M.elsdeniiY2株の一段階目の培養で用いる乳酸異性体の違いがL.amylovorus4-4株の乳酸産生促進効果に与える影響は少ないことが考えられる。
【0160】
〈実験(11):M.elsdenii培養上清を用いた二段階培養試験・GAM液体培地〉
二段階目のL.amylovorusの培養としてBasic+デンプン改変培地およびBasic+Glucose改変培地を用いた際、M.elsdenii培養上清がL.amylovorusの乳酸産生を促進する結果が得られた(
図7(b))。そのため、本実験では一段階目としてBasic+DL-乳酸液体培地でM.elsdenii培養上清を回収した後、二段階目のL.amylovorusの培養としてGAM液体培地を用いることで、栄養源が豊富な培地上でもL.amylovorusの乳酸産生促進効果が得られるのか検証した。
【0161】
一段階目としてBasic+DL-乳酸液体培地で18時間培養した際のM.elsdeniiY2株のOD、有機酸濃度を
図11(a)に示す。
【0162】
ODは1.02であり、Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸約40.0mMはほとんど消費され酢酸が約9.18mM、プロピオン酸が約9.20mM、イソ酪酸が約2.13mM、酪酸が約4.81mM、イソ吉相酸が約1.77mM、吉草酸が約6.68mM産生された。
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株の有機酸濃度の結果を
図11(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは1.36 、pHは4.83であり、有機酸は乳酸が24.4mM、酢酸が5.76mM産生することが確認された。
【0163】
Basic+DL-乳酸液体培地上で培養したM.elsdeniiY2株を二段階培養で用いたサンプルではODが1.29、pHが5.00、有機酸濃度は乳酸が24.3mM、酢酸が5.94mM産生されることが確認された。
【0164】
このことから、M.elsdenii培養上清によるL.amylovorusの乳酸産生促進効果は栄養源が豊富であるGAM液体培地では確認されないことが示された。
【0165】
〈実験(12):M.elsdenii培養上清中に含まれる短鎖脂肪酸がL.amylovorus乳酸産生に与える影響〉
乳酸産生促進効果が示されたM.elsdeniiY2株培養上清中にはM.elsdeniiY2株が産生した短鎖脂肪酸が含まれている。そこで、これらの短鎖脂肪酸がL.amylovorusの乳酸産生を刺激している可能性について検証した。Basic改変液体培地にSCFAを添加しL.amylovorusを24時間培養後、ODと有機酸を測定した。なお、Basic改変液体培地に添加したSCFAの濃度は、Basic+DL-乳酸液体培地上でM.elsdeniiY2株を18時間培養した際のSCFA産生量を参考としている。結果を
図12(a)、
図12(b)に示す。
【0166】
はじめに対照となるBasic改変液体培地上でL.amylovorus4-4株を24時間培養した際のOD、有機酸濃度を示す。ODは0.54でpHは6.27であった。有機酸濃度は乳酸が約7.9mM、酢酸が約0.43mMであった。Basic改変培地+酢酸(約9.8mM)ではODが0.54、pHが6.24であった。有機酸濃度は乳酸が約8.33mM、酢酸が約0.7mMであった。Basic改変培地+プロピオン酸(約7.9mM)ではODが0.42、pHが6.3であった。有機酸濃度は乳酸が約6.69mM、酢酸が約0.71mMであった。
【0167】
これらのことから、M.elsdeniiY2株培養上清中に含まれていた酢酸、プロピオン酸はL.amylovorus4-4株の乳酸産生促進効果に影響しないことが確認された。
【0168】
さらに、対照となるBasic改変培地とBasic改変培地+酪酸(約7.0mM)、Basic改変培地+吉草酸(約8.8mM)で比較を行った。結果を
図12(b)に示す。対照となるBasic改変液体培地上でL.amylovorus4-4株を24時間培養した際のOD、有機酸濃度を示す。ODは0.53でpHは6.34であった。有機酸濃度は乳酸が約7.77mM、酢酸が約0.84mMであった。
【0169】
Basic改変培地+酪酸(約7.0mM)ではODが0.45、pHが6.34であり、有機酸濃度は乳酸が約8.58mM、酢酸が約0.65mMであった。
【0170】
Basic改変培地+吉草酸(約8.8mM)ではODが0.54、pHが6.32であり、有機酸濃度は乳酸が約8.68mM、酢酸が約0.67mMであった。
これのことから、M.elsdeniiY2株培養上清中に含まれたSCFAはL.amylovorus4-4株の乳酸産生促進効果に影響しないことが確認された。
【0171】
〈実験(13):M.elsdenii培養上清の凍結乾燥試験〉
これまでの結果より、M.elsdeniiY2株培養上清中にL.amylovorus4-4株の乳酸産生を促進する成分が含まれている可能性が示唆された。そこで、乳酸産生促進成分を推定するために、M.elsdeniiY2株培養上清を凍結乾燥し、L.amylovorus4-4株の二段階培養試験を行った。
【0172】
M.elsdenii培養上清の凍結乾燥を行い、回収した粉末状のM.elsdenii培養上清を高濃度で蒸留水に溶解した培養液を二段階培養に使用、L.amylovorus4-4株を24時間培養後に有機酸濃度を測定した。
【0173】
はじめに、一段階目としてBasic+DL-乳酸培地で24時間培養したM.elsdeniiY2株のODと有機酸濃度を
図13(a)に示す。ODは1.14であり、 M.elsdeniiY2株がBasic+DL-乳酸液体培地で十分に増殖したことが確認された。またBasic+DL-乳酸液体培地上に含まれていた乳酸濃度は約55.7mMであったが、24時間培養後には含まれていた乳酸がすべて消費されていることが確認された。さらに、M.elsdeniiY2株は酢酸を約10.3mM、プロピオン酸を約9.63mM、イソ酪酸を約3.29mM、酪酸を約4.32mM、イソ吉草酸を約2.22mM、吉草酸を約7.03mM産生することが確認された。この培養上清30mLを凍結乾燥して粉末化したのち、10mLの滅菌水に溶解し、二段階目の培養に用いた。
【0174】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株の有機酸濃度
図13(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地上においては乳酸を約6.73mM、酢酸を0.26mM産生することが確認された。また、M.elsdeniiY2株培養上清凍結乾燥物を含む培地上においては乳酸を約7.16mM産生し、その他の有機酸はほとんど測定されなかった。
この結果より、M.elsdeniiY2株培養上清中に含まれるL.amylovorus乳酸産生促進成分は凍結乾燥処理を行うことで、その活性を失う可能性が示唆された。
【0175】
〈実験(14):M.elsdenii培養上清のアセトン沈殿がL.amylovorusの乳酸産生に与える影響〉
M.elsdeniiの培養上清に含まれる乳酸産生促進物質がタンパク質であった場合、アセトン沈殿により培養上清から回収できる可能性がある。そこで、M.elsdenii培養上清をアセトン沈殿によって回収し、二段階培養試験に用いることで、乳酸産生促進物質の回収が可能かどうか検証した。
【0176】
一段階目としてBasic+DL-乳酸液体培地で18時間培養した際のM.elsdeniiY2株のOD、有機酸濃度を
図14(a)に示す。
【0177】
ODは0.99であり、Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸55.7mMはすべて消費され酢酸が約11.9mM、プロピオン酸が約10.2mM、イソ酪酸が約2.21mM、酪酸が約6.90mM、イソ吉相酸が約2.68mM、吉草酸が約9.56mM産生された。
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株の有機酸濃度の結果を
図14(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.15であり、有機酸は乳酸が15.1mM産生することが確認された。
【0178】
Basic+DL-乳酸液体培地上で培養したM.elsdeniiY2株を二段階培養で用いたサンプルではODが0.04、有機酸濃度は乳酸が16.9mM産生されることが確認された。
【0179】
このことから、M.elsdenii培養上清をアセトン沈殿し、二段階培養に使用すると菌数は大幅に減少するが、乳酸産生量はわずかに増加することが示されたが、有意差は確認されなかった。
【0180】
〈実験(15):M.elsdenii 培養上清の限外ろ過試験〉
M.elsdeniiY2株の乳酸産生促進物質の分子量を推定するために、Basic+DL-乳酸液体培地で18時間培養し、回収した上清を限外ろ過にかけて、L.amylovorus4-4株の二段階培養試験を行った。有機酸濃度の結果を以下に示す。
【0181】
一段階目としてBasic+DL-乳酸培地で18時間培養したM.elsdeniiY2株のODと有機酸濃度を
図15(a)に示す。ODは1.03であり、Basic+DL-乳酸液体培地に含まれていた乳酸約54.7mMはすべて消費され酢酸が約 7.25mM、プロピオン酸が約7.86mM、酪酸が約6.06mM、イソ吉相酸が約2.09mM、吉草酸が約7.61mM産生された。
【0182】
続いて、二段階目に培養したL.amylovorus4-4株の有機酸濃度を
図15(b)に示す。M.elsdeniiY2株の培養上清を含まない培地においてODは0.09、有機酸は乳酸が6.94mM産生することが確認された。続いて、M.elsdeniiY2株培養液をオートクレーブ後にフィルター滅菌し、二段階培養に使用した際はODが0.05、有機酸濃度は乳酸が約17.6mM産生された。
【0183】
さらに、Basic液体培地を限外ろ過により分子量3,000 Da以下の分子を二段階培養に使用した際はODが0.06、有機酸濃度は乳酸が約 7.14mM産生された。M.elsdeniiY2株培養液をオートクレーブ後、フィルター滅菌し、限外ろ過により分子量3,000 Da以下の分子を二段階培養に使用した際はODが0.06、有機酸濃度は乳酸が約 9.87mM産生された。
【0184】
つまり、培養液を限外ろ過処理することで分子量3000 Da以下の分子を二段階培養した結果、分子量3000Da以下M.elsdenii培養上清は対照と比較して有意に乳酸産生量が増加した一方で、限外ろ過処理を行う前のM.elsdenii培養上清を二段階培養に用いた結果と比較すると乳酸産生促進効果が減少することが示された。
【0185】
これらの結果がM.elsdenii培養上清に含まれる乳酸産生促進物質は単一のものではなく、複数存在している可能性を示している。