(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131846
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水分散液、水分散液を生産する方法、有機分散液、有機分散液を生産する方法、及び、導電性材料を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20240920BHJP
C08K 5/19 20060101ALI20240920BHJP
C08L 49/00 20060101ALI20240920BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K5/19
C08L49/00
C08L25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042324
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝則
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC102
4J002BM001
4J002CE001
4J002EN136
4J002GQ00
4J002HA06
4J002HA08
(57)【要約】
【解決手段】 π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体の有機分散液が提供される。上記の有機分散液は、分散媒と、複合体と、第四級アンモニウムイオンとを含む。ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する、第四級アンモニウムイオンのモル数の比は、1:0.06~1:1.5である。分散媒は、有機分散媒及び水系分散媒を含む。分散媒における水系分散媒の含有量は、1.5質量%以上90質量%未満である。第四級アンモニウムイオンの炭素数は、8以上18以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体の水分散液であって、
水と、
前記複合体と、
第四級アンモニウムイオンと、
を含み、
前記水分散液の有機溶媒の含有量は、10質量%以下であり、
前記ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する、前記第四級アンモニウムイオンのモル数の比は、1:0.06~1:1.5であり、
前記第四級アンモニウムイオンの炭素数は、18以下である、
水分散液。
【請求項2】
前記水分散液のpHは、2以上12以下である、
請求項1に記載の水分散液。
【請求項3】
π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体の水分散液であって、
水と、
前記複合体と、
第四級アンモニウムイオンと、
を含み、
前記水分散液の有機溶媒の含有量は、10質量%以下であり、
前記水分散液のpHは、2以上12以下であり、
前記第四級アンモニウムイオンの炭素数は、18以下である、
水分散液。
【請求項4】
前記第四級アンモニウムイオンの炭素数は、8以上18以下である、
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の水分散液。
【請求項5】
π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体と、水とを含む酸性の液体を準備する段階と、
前記酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合して、前記複合体の水分散液を調整する段階と、
を有し、
前記水分散液を調整する段階は、
(i)前記ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する前記第四級アンモニウム化合物のモル数の比が1:0.06~1:1.5となるように、前記酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合する段階、又は、
(ii)前記水分散液のpHが2以上12以下となるように前記水分散液のpHを調整する段階、
を含み、
前記水分散液の有機溶媒の含有量は、10質量%以下であり、
前記第四級アンモニウム化合物の炭素数は、18以下である、
水分散液を生産する方法。
【請求項6】
前記第四級アンモニウム化合物は、水酸化物である、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体の有機分散液であって、
分散媒と、
前記複合体と、
第四級アンモニウムイオンと、
を含み、
前記分散媒は、有機分散媒及び水を含み、
前記分散媒における前記水の含有量は、1.5質量%以上90質量%未満であり、
前記ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する、前記第四級アンモニウムイオンのモル数の比は、1:0.06~1:1.5であり、
前記第四級アンモニウムイオンの炭素数は、8以上18以下である、
有機分散液。
【請求項8】
π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体と、水とを含む酸性の液体を準備する段階と、
前記酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合して、前記複合体の水分散液を調整する段階と、
前記複合体の前記水分散液と、有機分散媒とを混合して、前記複合体の有機分散液を調整する段階と、
を有し、
前記水分散液を調整する段階は、
(i)前記ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する前記第四級アンモニウム化合物のモル数の比が1:0.06~1:1.5となるように、前記酸性の液体と、前記第四級アンモニウム化合物とを混合する段階を、又は、
(ii)前記水分散液のpHが2以上12以下となるように前記水分散液のpHを調整する段階、
を含み、
前記有機分散液を調整する段階は、前記有機分散媒及び前記水の合計100質量部に対して1.5質量部以上の前記水を含むように、前記水分散液及び前記有機分散媒を混合する段階を含み、
前記水における有機分散媒の含有量は、10質量%以下であり、
前記第四級アンモニウム化合物の炭素数は、8以上18以下である、
有機分散液を生産する方法。
【請求項9】
前記水分散液を調整する段階は、(i)前記ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する前記第四級アンモニウム化合物のモル数の比が1:0.06~1:1.5となり、且つ、(ii)前記水分散液のpHが2以上12以下となるように、前記酸性の液体と、前記第四級アンモニウム化合物とを混合する段階を含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第四級アンモニウム化合物は、水酸化物である、
請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記有機分散液を調整する段階は、前記有機分散媒及び前記水の合計100質量部に対して1.5質量部以上90質量部未満の前記水を含むように、前記水分散液及び前記有機分散媒を混合する段階を含む、
請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記有機分散媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1つを含む、
請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項13】
請求項8又は請求項9に記載の方法により、前記複合体の前記有機分散液を得る段階と、
基材の少なくとも一部に前記有機分散液又は前記有機分散液を含む塗工液を塗布する段階と、
を有する、導電性材料を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散液、水分散液を生産する方法、有機分散液、有機分散液を生産する方法、及び、導電性材料を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3には、π共役系ポリマー及びドーパントポリマーを含む導電性複合体の分散液が開示されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2022-075086号公報
[特許文献2]特開2022-092876号公報
[特許文献3]特開2022-128793号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の態様においては、複合体の有機分散液が提供される。上記の有機分散液において、複合体は、例えば、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む。上記の有機分散液は、例えば、分散媒を含む。上記の有機分散液は、例えば、複合体を含む。上記の有機分散液は、例えば、第四級アンモニウムイオンを含む。上記の有機分散液において、ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する、第四級アンモニウムイオンのモル数の比は、例えば、1:0.06~1:1.5である。上記の有機分散液において、分散媒は、例えば、有機分散媒及び水を含む。上記の有機分散液において、分散媒における水の含有量は、例えば、1.5質量%以上90質量%未満である。上記の有機分散液において、第四級アンモニウムイオンの炭素数は、例えば、8以上18以下である。
【0004】
本発明の第2の態様においては、有機分散液を生産する方法が提供される。上記の方法は、例えば、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体と、水とを含む酸性の液体を準備する段階を有する。上記の方法は、例えば、酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合して、複合体の水分散液を調整する段階を有する。上記の方法は、例えば、複合体の水分散液と、有機分散媒とを混合して、複合体の有機分散液を調整する段階を有する。上記の方法において、水分散液を調整する段階は、例えば、ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する第四級アンモニウム化合物のモル数の比が1:0.06~1:1.5となるように、酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合する段階を含む。上記の方法において、有機分散液を調整する段階は、例えば、有機分散媒及び水の合計100質量部に対して1.5質量部以上の水を含むように、水分散液及び有機分散媒を混合する段階を含む。上記の方法において、第四級アンモニウム化合物の炭素数は、例えば、8以上18以下である。上記の方法において、水における有機分散媒の含有量は、例えば、10質量%以下である。
【0005】
本発明の第3の態様においては、有機分散液を生産する方法が提供される。上記の方法は、例えば、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体と、水とを含む酸性の液体を準備する段階を有する。上記の方法は、例えば、酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合して、複合体の水分散液を調整する段階を有する。上記の方法は、例えば、複合体の水分散液と、有機分散媒とを混合して、複合体の有機分散液を調整する段階を有する。上記の方法において、水分散液を調整する段階は、例えば、水分散液のpHが2以上12以下となるように水分散液のpHを調整する段階を含む。上記の方法において、有機分散液を調整する段階は、例えば、有機分散媒及び水の合計100質量部に対して1.5質量部以上の水を含むように、水分散液及び有機分散媒を混合する段階を含む。上記の方法において、第四級アンモニウム化合物の炭素数は、例えば、8以上18以下である。上記の方法において、水の有機分散媒の含有量は、例えば、10質量%以下である。
【0006】
上記の方法において、水分散液を調整する段階は、(i)水分散液のpHが2以上12以下となり、且つ、(i)ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する第四級アンモニウム化合物のモル数の比が1:0.06~1:1.5となるように、酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合する段階を含んでもよい。
【0007】
上記の第2の態様又は第3の態様に係る何れかの方法において、有機分散液を調整する段階は、有機分散媒及び水の合計100質量部に対して1.5質量部以上90質量部未満の水を含むように、水分散液及び有機分散媒を混合する段階を含んでよい。上記の何れかの方法において、第四級アンモニウム化合物は、水酸化物であってよい。上記の何れかの方法において、有機分散媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1つを含んでよい。
【0008】
本発明の第4の態様においては、導電性材料を生産する方法が提供される。上記の方法は、例えば、上記の第2の態様又は第3の態様に係る何れかの方法により、上述された複合体の有機分散液を得る段階を有する。上記の方法は、例えば、基材の少なくとも一部に有機分散液又は有機分散液を含む塗工液を塗布する段階を有する。
【0009】
本発明の第5の態様においては、複合体の水分散液が提供される。上記の水分散液において、複合体は、例えば、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む。上記の水分散液は、例えば、水を含む。上記の水分散液は、例えば、複合体を含む。上記の水分散液は、例えば、第四級アンモニウムイオンを含む。上記の水分散液において、水分散液の有機溶媒の含有量は、例えば、10質量%以下である。上記の水分散液において、ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する、第四級アンモニウムイオンのモル数の比は、例えば、1:0.06~1:1.5である。上記の水分散液において、第四級アンモニウムイオンの炭素数は、例えば、18以下である。
【0010】
上記の水分散液において、水分散液のpHは、2以上12以下であってよい。
【0011】
本発明の第6の態様においては、複合体の水分散液が提供される。上記の水分散液において、複合体は、例えば、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む。上記の水分散液は、例えば、水を含む。上記の水分散液は、例えば、複合体を含む。上記の水分散液は、例えば、第四級アンモニウムイオンを含む。上記の水分散液において、水分散液の有機溶媒の含有量は、例えば、10質量%以下である。上記の水分散液において、水分散液のpHは、例えば、2以上12以下である。上記の水分散液において、第四級アンモニウムイオンの炭素数は、例えば、18以下である。
【0012】
上記の第5の態様又は第6の態様の何れかに係る水分散液において、第四級アンモニウムイオンの炭素数は、8以上18以下であってよい。
【0013】
本発明の第7の態様においては、水分散液を生産する方法が提供される。上記の方法は、例えば、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体と、水とを含む酸性の液体を準備する段階を有する。上記の方法は、例えば、酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合して、複合体の水分散液を調整する段階を有する。上記の方法において、水分散液を調整する段階は、例えば、(i)ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する第四級アンモニウム化合物のモル数の比が1:0.06~1:1.5となるように、酸性の液体と、第四級アンモニウム化合物とを混合する段階、又は、(ii)水分散液のpHが2以上12以下となるように水分散液のpHを調整する段階を含む。上記の方法において、水分散液の有機溶媒の含有量は、例えば、10質量%以下である。上記の方法において、第四級アンモニウムイオンの炭素数は、例えば、18以下である。
【0014】
上記の方法において、第四級アンモニウム化合物は、水酸化物であってよい。
【0015】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】複合体の有機分散液を作製する方法の一例を概略的に示す。
【
図2】導電性材料を作製する方法の一例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本明細書において、数値範囲が「A~B」と表記される場合、当該表記はA以上B以下を意味する。
【0018】
近年、導電性材料を生産するための原材料として、導電性ポリマー組成物が注目されている。導電性ポリマー組成物は、例えば、π共役系ポリマーと、当該π共役系ポリマーをドーピングするドーパントポリマーとを含む複合体である。導電性材料は、例えば、電子機器、電磁波シールド、帯電防止フィルム、導電性塗料などの用途に用いられる。電子機器としては、電子部品、当該電子部品を含む電気製品などが例示される。
【0019】
導電性ポリマー組成物は、例えば、水相中において、酸化剤及びドーパントポリマーの存在下で、π共役系ポリマーを構成するモノマーを重合させることで、π共役系ポリマー及びドーパントポリマーの錯体(π共役系ポリマー/ドーパントポリマー錯体と称される場合がある。)として得られる。導電性ポリマー組成物を含む組成物含有液(例えば、塗工液である。)が調製される場合において、当該組成物含有液の用途、当該組成物含有液に要求される物性などに応じて、導電性ポリマー組成物の溶媒又は分散媒(単に、分散媒と称される場合がある。)として、有機溶剤が用いられることがある。例えば、塗工液の乾燥時間を短くすること、水に溶解又は分散しにくい化合物を含有する塗工液を作製することなどを目的として、導電性ポリマー組成物の水分散液の分散媒である水を有機溶媒(有機溶剤と称される場合もある。)に置換して得られる有機分散液が調整される。
【0020】
従来の有機分散液の調整手順によれば、まず、水相中でπ共役系ポリマー/ドーパントポリマー錯体として存在している導電性ポリマー組成物を疎水化させることを目的として、導電性ポリマー組成物の水分散液に各種の化合物が添加される。上記の化合物としては、有機溶媒、アミン化合物、エポキシ化合物などが例示される。導電性ポリマー組成物の水分散液に上記の化合物が添加されると、導電性ポリマー組成物が析出し、固体の導電性ポリマー組成物を含む懸濁液が得られる。次に、例えばろ過により、上記の懸濁液から固体の導電性ポリマー組成物が分離される。その後、上記の固体の導電性ポリマー組成物と、有機溶媒とが混合される。導電性ポリマー組成物の水分散液に添加される有機溶媒の種類又は組成と、固体の導電性ポリマー組成物を分散させるための有機溶媒の種類又は組成とは、同一であってもよく、異なってもよい。従来は、このような手順により、有機溶剤中に導電性ポリマー組成物が分散した有機分散液が調製されていた。
【0021】
本発明者らは、導電性ポリマー組成物の水分散液に、炭素数が18以下の第四級アンモニウム化合物を添加することで、導電性ポリマー組成物の析出を抑制しつつ、導電性ポリマー組成物と、第四級アンモニウム化合物又はそのイオンとを含む溶液(調整液と称される場合がある。)が得られることを見出した。本発明者らは、導電性ポリマー組成物の水分散液と、炭素数が18以下の第四級アンモニウム化合物とを適切な条件で混合することで、導電性ポリマー組成物の析出が特に効果的に抑制されることを見出した。
【0022】
上述されたとおり、従来の有機分散液の調整手順によれば、導電性ポリマー組成物に疎水性を付与することを目的として、導電性ポリマー組成物の水分散液に、有機溶媒と、炭素数の比較的大きな第四級アンモニウム化合物とが添加されていた。そのため、従来の手法により得られた懸濁液は有機溶媒の含有量が大きく、また、液体中に析出した導電性ポリマー組成物は比較的大きな粒子径を有していた。
【0023】
これに対して、本発明者らが見出した調整液は、実質的に有機溶媒を含まない。上記の調整液における有機溶媒の含有率は、例えば、10質量%以下である。また、本発明者らが見出した調整液は、当該調整液中で容易に沈殿するような大きな粒子を実質的に含まない。つまり、本発明者らは、導電性ポリマー組成物の水分散液に、炭素数が18以下の第四級アンモニウム化合物を添加することで、導電性ポリマー組成物と、炭素数が18以下の第四級アンモニウム化合物又はそのイオンとを含む新規な溶液が得られることを見出した。
【0024】
さらに、本発明者らは、上記の調整液と、有機分散媒(第1有機分散媒と称される場合がある。)とを混合することで、導電性ポリマー組成物の有機分散液が得られることを見出した。上記の有機分散液は、分散媒と、導電性ポリマー組成物と、第四級アンモニウムイオンとを含む。第四級アンモニウムイオンの炭素数は18以下であり、8以上18以下であることが好ましい。上記の有機分散液の分散媒は、調整液に由来する水系分散媒と、第1有機分散媒とを含む。水系分散媒は、水であってもよく、実質的に水であってもよい。
【0025】
つまり、本発明者らは、従来の有機分散液と比較して多量の水又は水系分散媒を含む、新規な有機分散液が得られることを見出した。有機分散液に含まれる分散媒における水系分散媒の含有量は、1.5質量%以上であってもよく、2質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよい。上記の分散媒中の水系分散媒の含有量の上限は、85質量%であってもよく、80質量%であってもよい。上述されたとおり、水系分散媒は実質的に有機溶媒(第2有機分散媒と称される場合がある。)を含まない。つまり、上記の水系分散媒は実質的に水であってよい。
【0026】
上述されたとおり、調整液又は水系分散媒が、水と、第2有機分散媒とを含む場合がある。第1有機分散媒の種類又は組成と、第2有機分散媒の種類又は組成とは、同一であってもよく、異なってもよい。このような場合において、有機分散液に含まれる分散媒における水の含有量は、1.5質量%以上であってもよく、2質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよい。上記の分散媒中の水の含有量の上限は、85質量%であってもよく、80質量%であってもよい。
【0027】
また、本発明者らは、上述された導電性ポリマー組成物の有機分散液を用いることで、導電性ポリマー組成物の塗工性が向上することを見出した。具体的には、本発明者らは、上記の有機分散液を調整して得られた塗工液を、コロナ処理が実施されていないポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に塗布された場合であっても、当該塗工液が当該PETフィルムの表面で弾かれることが抑制され、当該塗工液が当該PETフィルムの表面で全体的に塗布され得ることを見出した。
【0028】
図1は、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む複合体の有機分散液を作製する方法の一例を概略的に示す。本実施形態によれば、まず、ステップ122及びステップ124(ステップがSと省略される場合がある。)により、上述された調整液が作製される。本実施形態において、調整液は、上記の複合体と、第四級アンモニウム化合物又はそのイオンとを含む。
【0029】
(I.原料液)
本実施形態によれば、S122において、π共役系ポリマー及びポリアニオンの複合体を含む原料液が準備される。上述されたとおり、原料液中の複合体は、例えば、水相中でπ共役系ポリマー/ドーパントポリマー錯体として存在する。原料液の組成、物性などの詳細は、例えば、下記のとおりである。
【0030】
(I-1.原料液の組成)
原料液は、上記の複合体と、水系分散媒とを含む。上記の水系分散媒は、有機溶媒を含まなくてもよく、有機溶媒を実質的に含まなくてもよい。上述されたとおり、上記の水系分散媒は、実質的に水であってよい。原料液における有機溶媒の含有量は、10質量%以下であってよい。原料液における有機溶媒の含有量は、10質量%未満であってもよい。原料液における有機溶媒の含有量は、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよい。
【0031】
原料液における有機溶媒の含有量が10質量%を大きく超える場合、後述されるステップ124において原料液及び第四級アンモニウム化合物が混合されたときに、原料液中の複合体が析出し、当該複合体の沈殿物が生成し得る。一方、原料液中の有機溶媒の含有量が10質量%以下である場合には、第四級アンモニウム化合物の添加工程における複合体の析出及び沈殿物の生成が抑制される。
【0032】
原料液のpHは、酸性であってよい。原料液のpHは、1以上6以下であってよく、1.5以上5以下であってもよい。例えば、水相中において、酸化剤及びポリアニオンの存在下で、π共役系ポリマーを構成するモノマーを重合させて得られた上記の複合体の水分散液が原料液として用いられる場合、当該原料液のpHは2~3以下になり得る。
【0033】
(a.複合体)
複合体は、π共役系ポリマー及びポリアニオンを含む。複合体に含まれるπ共役系ポリマーは、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。複合体に含まれるポリアニオンは、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。複合体は、例えば、水相中において、酸化剤及びポリアニオンの存在下で、π共役系ポリマーを構成するモノマーを重合させること得られる。
【0034】
原料液中における複合体の含有割合は、水系分散媒100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であってよい。原料液中における複合体の含有割合は、水系分散媒100質量部に対して0.5質量部以上8質量部以下であってもよく、0.8質量部以上5質量部以下であることが好ましい。
【0035】
(π共役系ポリマー)
π共役系ポリマーは、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子である。π共役系ポリマーとしては、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体などが例示される。π共役系ポリマーは、無置換であってもよく、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基などの官能基が導入されていてもよい。
【0036】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)などが例示される。
【0037】
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)などが例示される。
【0038】
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)などが例示される。
【0039】
π共役系ポリマーは、3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、及び/又は、その誘導体であってよい。3,4-エチレンジオキシチオフェンは、EDOTと称される場合がある。ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は、PEDOTと称される場合がある。PEDOTは、導電性、透明性及び耐熱性に優れる。
【0040】
複合体中において、ポリアニオンの質量に対するπ共役系ポリマーの質量の割合は、1/5より大きくてよい。ポリアニオンの質量に対するπ共役系ポリマーの質量の割合は、1/2~1/3であってよい。ポリアニオンの質量に対するπ共役系ポリマーの質量の割合が1/5よりも大きい場合、上記の複合体を含む導電性材料に十分な導電性が付与され得る。
【0041】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位の重合体である。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。ポリアニオンに含まれるアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能する。これにより、π共役系ポリマーの導電性が向上する。ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、カルボキシ基などが例示される。
【0042】
ポリアニオンとしては、スルホ基を有する高分子、カルボキシ基を有する高分子などが例示される。スルホ基を有する高分子としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸などが例示される。スルホ基を有するポリメタクリル酸エステルとしては、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸などが例示される。カルボキシ基を有する高分子としては、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸などが例示される。
【0043】
ポリアニオンは、スルホ基を有する高分子であってよい。例えば、ポリスチレンスルホン酸は、π共役系ポリマーの導電性を向上させる効果に優れる。
【0044】
ポリアニオンの質量平均分子量は、0.1万以上150万以下であってよく、1万以上100万以下であることが好ましい。上記の質量平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定される。上記の質量平均分子量は、例えば、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0045】
複合体中におけるポリアニオンの含有割合は、π共役系ポリマー100質量部に対して1質量部以上1000質量部未満であってよい。複合体中におけるポリアニオンの含有割合は、π共役系ポリマー100質量部に対して100質量部以上500質量部以下であってもよく、100質量部以上500質量部未満であることが好ましく、100質量部以上300質量部以下であることがより好ましい。ポリアニオンの含有割合が上記の下限値以上であれば、π共役系ポリマーへのドーピング効果が強くなり、複合体の導電性が向上する。一方、ポリアニオンの含有量が上記の上限値以下であれば、複合体中のπ共役系ポリマーの含有量が向上し、優れた導電性を有する複合体が得られる。
【0046】
(b.水系分散媒)
水系分散媒としては、水、水を主成分とする液体などが例示される。水系分散媒における水の含有量は、90質量%以上であってよい。水系分散媒における水の含有量は、90質量%超であってよい。上述されたとおり、上記の水系分散媒は、実質的に水であってよい。水系分散媒は、有機溶媒を含まなくてもよく、有機溶媒を実質的に含まなくてもよい。水系分散媒における有機溶媒の含有量は、10質量%以下であってもよく、10質量%未満であってもよい。水系分散媒における有機溶媒の含有量は、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよい。
【0047】
(I-2.原料液の製造方法)
一実施形態において、原料液は、水相中において、触媒、酸化剤及びポリアニオンの存在下で、π共役系ポリマーを構成するモノマーを重合させることで得られる。触媒としては、例えば、遷移金属化合物が用いられる。遷移金属化合物としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅などが例示される。酸化剤としては、例えば、過硫酸塩が用いられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが例示される。他の実施形態において、原料液として、市販されている複合体の水分散液が用いられる。市販されている複合体の水分散液に適切なpH調整剤を添加することで、原料液が準備されてもよい。
【0048】
(II.調整液)
次に、S124において、原料液と、第四級アンモニウム化合物とが混合される。これにより、調整液が得られる。S124においては、原料液と、1種類の第四級アンモニウム化合物とが混合されてもよく、原料液と、2種類以上の第四級アンモニウム化合物とが混合されてもよい。S124において、調整液のpHが調整されてもよい。
(II-1.調整液の組成)
調整液は、複合体の水分散液であってよい。調整液は、例えば、水系分散媒と、複合体と、第四級アンモニウムイオンとを含む。調整液中において、第四級アンモニウムイオンは、ポリアニオンに含まれるフリーのアニオン基に付加していると推定される。
【0049】
調整液は、有機溶媒を含まなくてもよく、有機溶媒を実質的に含まなくてもよい。調整液における有機溶媒の含有量は、10質量%以下であってもよく、10質量%未満であってもよい。調整液における有機溶媒の含有量は、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよい。
【0050】
(c.第四級アンモニウム化合物)
第四級アンモニウム化合物としては、(i)第四級アンモニウムカチオンと、水酸化物イオンとの塩(第四級アンモニウム水酸化物と称される場合がある)、(ii)第四級アンモニウムカチオンと、ハロゲン化物イオンとの塩(第四級アンモニウムハロゲン化物と称される場合がある)などが例示される。第四級アンモニウム化合物は、第四級アンモニウム水酸化物であることが好ましい。
【0051】
第四級アンモニウム化合物に含まれる炭素原子の個数(炭素数と称される場合がある。)は、18以下であってよい。上記の炭素数は、4以上18以下であってよい。上記の炭素数は、6以上18以下であってもよく、8以上18以下であってもよい。上記の炭素数は12以上18以下であってもよい。上記の炭素数が4以上18以下である場合、調整液の作製工程における複合体の析出が抑制され、懸濁の少ない調整液が得られる。その結果、調整液と、有機分散媒(有機溶媒と称される場合がある。)とを混合することで、複合体の有機分散液が得られる。これにより、有機分散液の製造工程が簡素化され、有機分散液の生産効率が向上する。上記の炭素数が8以上18以下である場合、有機分散液を塗布及び乾燥させることで、緻密な塗膜が得られる。
【0052】
(II-2.調整液の製造方法)
一実施形態によれば、S124において、ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する第四級アンモニウム化合物のモル数の比(アニオン基のモル数:第四級アンモニウム化合物のモル数)が1:0.06以上1:1.5以下となるように、複合体の水分散液と、第四級アンモニウム化合物とが混合される。上記のモル数の比は、1:0.125よりも大きく1:1.27より小さくてもよく、1:0.5~1:1.2であってもよく、1:0.7~1:1.15であってもよい。上記のモル数の比は、実質的に1:1であってもよい。
【0053】
他の実施形態によれば、S124において、調整液のpHが2以上12以下に調整される。例えば、原料液に第四級アンモニウム化合物が添加されることで、混合液のpHが調整される。これにより、十分な量の第四級アンモニウム化合物が添加され得る。例えば、ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する第四級アンモニウム化合物のモル数の比(アニオン基のモル数:第四級アンモニウム化合物のモル数)が1:0.06以上1:1.5以下となる。
【0054】
より具体的には、まず、酸性の原料液が準備される。例えば、pHが2未満の原料液が準備される。次に、調整液のpHが予め定められた値又は数値範囲の範囲内になるまで、当該原料液に第四級アンモニウム化合物の水溶液が添加される。なお、第四級アンモニウム化合物の水溶液は、一般的にアルカリ性を示す。上記の予め定められた数値範囲は、2以上12以下であってもよく、2以上11.5以下であってもよく、2以上11以下であってもよく、2以上10以下であってもよい。上記の予め定められた数値範囲は、2超12以下であってもよく、2超12未満であってもよく、2超11.5以下であってもよく、2超11以下であってもよく、2超10以下であってもよい。上記の予め定められた数値範囲は、2.5以上11.5以下であってもよく、3以上11以下であってもよい。上記の予め定められた値は、上記の数値範囲内の任意の値であってよい。
【0055】
第四級アンモニウム化合物の添加量は、(i)調整液のpHと、(ii)ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する第四級アンモニウム化合物のモル数の比とに基づいて決定されてもよい。例えば、(i)調整液のpHが予め定められた第1の値又は第1の数値範囲の範囲内となり、且つ、(ii)ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数に対する第四級アンモニウム化合物のモル数の割合が予め定められた第2の値又は第2の数値範囲の範囲内となるように、原料液と、第四級アンモニウム化合物の水溶液とが混合される。上記の割合は、例えば、第四級アンモニウム化合物のモル数を、ポリアニオンに含まれるアニオン基のモル数で除して得られる。
【0056】
第1の数値範囲は、2以上12以下であってもよく、2以上11.5以下であってもよく、2以上11以下であってもよく、2以上10以下であってもよい。第1の数値範囲は、2超12未満であってもよく、2超12以下であってもよく、2超11.5以下であってもよく、2超11以下であってもよく、2超10以下であってもよい。第1の数値範囲は、2.5以上11.5以下であってもよく、3以上11以下であってもよい。第1の値は、上記の数値範囲内の任意の値であってよい。
【0057】
第2の数値範囲は、0.06以上1.5以下であってもよく、0.125超1.27未満であってもよく、0.5以上1.2以下であってもよく、0.7以上1.15以下であってもよい。第2の値は、第2の数値範囲の範囲内の任意の値であってよい。第2の値は、実質的に1であってもよい。
【0058】
(III.有機分散液)
次に、S132において、上述された調整液と、有機分散媒とが混合される。より具体的には、上述された調整液が、適切な有機溶媒により希釈される。これにより、複合体の有機分散液が作製される。
【0059】
本実施形態において、有機分散液は、分散媒と、上記の複合体と、上記の第四級アンモニウムイオンとを含む。上述されたとおり、調整液は、水系分散媒を含む。そのため、本実施形態において、分散媒は、有機分散媒と、水系分散媒とを含む。
【0060】
本実施形態において、分散媒における水系分散媒の含有量(分散媒中の水系分散媒の含有量と称される場合がある。)は、1.5質量%以上であってよい。分散媒中の水系分散媒の含有量は、3質量%以上であってもよく、3質量%超であってもよい。分散媒中の水系分散媒の含有量は、5質量%以上であってもよく、5質量%超であってもよい。分散媒中の水系分散媒の含有量は、30質量%以上であってもよく、30質量%超であってもよい。
【0061】
分散媒中の水系分散媒の含有量は、1.5質量%以上90質量%未満であってもよく、1.5質量%以上85質量%以下であることが好ましく、3質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。分散媒中の水系分散媒の含有量は、5質量%以上90質量%未満であってもよく、30質量%以上90質量%未満であってもよい。分散媒中の水系分散媒の含有量は、5質量%以上85質量%以下であってもよく、30質量%以上85質量%以下であってもよい。分散媒中の水系分散媒の含有量は、5質量%以上80質量%以下であってもよく、30質量%以上80質量%以下であってもよい。
【0062】
上述されたとおり、上記の水系分散媒は、実質的に水であってよい。本実施形態に係る有機分散液は、従来の有機分散液と比較して、比較的多量の水と、第四級アンモニウム化合物又はそのイオンとを含む。これにより、本実施形態に係る有機分散液を用いて調整された塗工液の塗工性が向上する。
【0063】
有機分散液は、水性分散液と比較して、例えば、疎水性の基材への塗布性、乾燥性、油溶性化合物との混和性などに優れる。例えば、有機分散液(単に、分散液と称される場合がある。)を基材の表面に塗布した後、当該分散液を乾燥させることで、当該基材の表面に導電性被膜が形成される。基材の形状は特に限定されない。基材の形状としては、板状、フィルム状若しくシート状、糸状若しくは繊維状、網目状などが例示される。板状、フィルム状又はシート状の基材は、多孔質膜であってもよい。繊維状又は網目状の基材は、不織布であってもよい。
【0064】
分散液を塗布する方法としては、スピンコーター、バーコーター、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などが例示される。分散液を乾燥する方法としては、熱風循環炉、ホットプレートなどによる加熱が例示される。
【0065】
(d.有機分散媒又は有機溶媒)
有機分散媒又は有機溶媒としては、水溶性有機溶剤、非水溶性有機溶剤、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤などが例示される。水溶性有機溶剤は、例えば、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。非水溶性有機溶剤は、例えば、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。1種の水溶性有機溶剤が単独で使用されてもよく、2種以上の水溶性有機溶剤が併用されてもよい。1種の非水溶性有機溶剤が単独で使用されてもよく、2種以上の非水溶性有機溶剤が併用されてもよい。
【0066】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤などが例示される。アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどが例示される。エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが例示される。ケトン系溶剤としては、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコールなどが例示される。窒素原子含有溶剤としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどが例示される。エステル系溶剤としては、エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルなどが例示される。
【0067】
非水溶性有機溶剤としては、炭化水素系溶剤が例示される。炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが例示される。脂肪族炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカンなどが例示される。芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼンなどが例示される。
【0068】
より具体的には、有機溶媒として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)などが用いられる。有機溶媒の種類は、上述された固体の組成物に含まれる第四級アンモニウム塩又は第四級アンモニウム化合物の炭素数に基づいて決定されてよい。
【0069】
例えば、メタノールは、上記の炭素数が18以下である場合に用いられる。メタノールは、上記の炭素数が15以下である場合に用いられてもよく、上記の炭素数が12以下である場合に用いられてもよい。なお、上記の炭素数の下限値は4であってよい。上記の炭素数の下限値は6であってもよく、8であってもよい。特に、上記の炭素数が8以上18以下である場合、有機分散液を用いて緻密な塗膜が得られる。
【0070】
上記の炭素数が18以下である場合、メタノールの代わりに又はメタノールに加えて、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノール(IPA)の少なくとも1つが用いられてよい。特に、上記の炭素数が8以上18以下である場合、これらの有機溶媒を含む有機分散液を用いて緻密な塗膜が得られる。
【0071】
(e.分散剤)
分散剤としては、低分子型界面活性剤、高分子型界面活性剤などが例示される。界面活性剤は、アニオン性であってもよく、ノニオン性であってもよく、カチオン性であってもよく、両性であってもよい。
【0072】
調整液は、水分散液の一例であってよい。
【0073】
図2は、導電性材料を作製する方法の一例を概略的に示す。本実施形態によれば、まず、S222において、複合体の有機分散液が準備される。複合体の有機分散液は、例えば、
図1に関連して説明された手順に基づいて準備される。
【0074】
次に、S224において、複合体の有機分散液を用いて導電性塗料が作製される。次に、S226において、基材の少なくとも一部に導電性塗料が塗布される。次に、S228において、導電性塗料が乾燥させられる。これにより、導電性部材が得られる。
【0075】
(IV.導電性塗料)
本実施形態によれば、上記の複合体を含む導電性塗料が提供される。導電性塗料は、水系塗料であってもよく、溶剤系塗料であってもよく、反応硬化型塗料であってもよい。
【0076】
一実施形態において、導電性塗料は、例えば、(i)導電剤と、(ii)導電剤を分散又は溶解させて保持する分散媒又は溶媒とを含む。導電剤は、例えば、上記の複合体を含む。導電剤は、上記の複合体であってもよい。
【0077】
他の実施形態において、導電性塗料は、(i)導電剤と、(ii)高導電化剤及び被膜形成剤の少なくとも一方と、(iii)導電剤、並びに、高導電化剤及び被膜形成剤の少なくとも一方を分散又は溶解させて保持する分散媒又は溶媒とを含む。導電剤は、例えば、上記の複合体を含む。導電剤は、上記の複合体であってもよい。高導電化剤は、例えば、水溶性有機溶剤を含む。高導電化剤は、水溶性有機溶剤であってもよい。水溶性有機溶剤としては、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールなどが例示される。被膜形成剤としては、任意の樹脂が例示される。上記の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコールなどが例示される。
【0078】
導電性塗料は、例えば、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.001質量部以上2質量部以下の導電剤を含む。導電性塗料は、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下の導電剤を含んでもよい。
【0079】
上記の分散媒又は溶媒としては、ゾル、ゲル、液体などが例示される。上記の分散媒又は溶媒は、水であってもよく、有機溶媒であってよい。上記の分散媒又は溶媒は、単一の有機溶媒を含んでもよく、複数の種類の有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、上述された分散液に関連して説明された化合物と同様の化合物が使用され得る。
【0080】
導電性塗料は、分散剤をさらに含んでもよい。導電性塗料は、単一の分散剤を含んでもよく、複数の種類の分散剤を含んでもよい。分散剤としては、上述された分散液に関連して説明された化合物と同様の化合物が使用され得る。
【0081】
導電性塗料は、例えば、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.0001質量部以上10質量部以下の分散剤を含む。導電性塗料は、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.001質量部以上5質量部以下の分散剤を含んでもよい。
【0082】
導電性塗料は、導電性を大きく損なわない範囲で、各種の材料をさらに含んでよい。上記の材料としては、(i)ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、酸変性されていないポリエチレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、ロジン系やテルペン系などの粘着付与樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料;(ii)炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン、炭化クロム、炭化モリブテン、炭化カルシウム、ダイヤモンドカーボンラクタムなどの炭化物;(iii)窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウムなどの窒化物;(iv)ホウ化ジルコニウムなどのホウ化物;(v)酸化チタン(チタニア)、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化アルミニウム、シリカ、コロイダルシリカなどの酸化物;(vi)チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸化合物;(vii)二硫化モリブデンなどの硫化物;(viii)フッ化マグネシウム、フッ化炭素などのフッ化物;(xi)ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸;(x)滑石、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、カオリン、ガラス繊維、雲母などの無機材料などが例示される。
【0083】
上記の材料は、単独で用いられてもよく、複数の材料が併用されてもよい。導電性塗料における上記の材料の含有量は特に限定されるものではないが、当該含有量は、導電性塗料100質量%に対して50質量%以下であってよい。上記の含有量は、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0084】
導電性塗料は、導電性を大きく損なわない範囲で、各種の添加剤をさらに含んでよい。上記の添加剤としては、チキソ性付与剤、消泡剤、ブロッキング防止剤、難燃剤、粘着付与剤、加水分解防止剤、レベリング剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、染料などが例示される。
【0085】
上記の添加剤は、単独で用いられてもよく、複数の添加剤が併用されてもよい。導電性塗料における添加剤の含有量は特に限定されるものではないが、当該含有量は、導電性塗料100質量%に対して50質量%以下であってよい。上記の含有量は、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0086】
一実施形態において、導電性塗料が物品の表面に塗布されることで、当該物品に導電性が付与される。導電性塗料は、例えば、後述される導電性材料又は電子機器の作製に用いられる。他の実施形態において、導電性塗料が物品の表面に塗布されることで、当該物品に防汚機能又は撥水機能若しくは撥油機能が付与される。さらに他の実施形態において、導電性塗料が物品の表面に塗布されることで、当該物品に電磁波遮蔽機能が付与される。
【0087】
(V.導電性材料)
本実施形態によれば、上記の複合体を含む導電性材料が提供される。上記の導電性材料は、例えば、板状又は線状の形状を有する。板状の導電性材料は、例えば、電子基板として用いられる。線状の導電性材料は、例えば、配線として用いられる。上記の導電性材料は、例えば、フィルム状若しくはシート状、糸状若しくは繊維状、又は、網目状の形状を有する。フィルム状又はシート状の導電性材料は、例えば、フレキシブル基板、偏光板、保護フィルム、キャリアテープ、指紋防止フィルムなどとして用いられる。糸状又は繊維状の導電性材料は、例えば、テキスタイル、カーペット、ベッドなどに用いられる。網目状の導電性材料は、例えば、電極、太陽電池などに用いられる。
【0088】
(VI.電子機器)
本実施形態によれば、上記の導電性材料を備える電子機器が提供される。電子機器としては、電子部品、当該電子部品を含む電気製品などが例示される。電子部品としては、有機EL素子、色素増感太陽電池パネル、電解コンデンサーなどが例示される。例えば、上記の複合体は、有機EL素子の透明電極層又は正孔注入層として機能する。電気製品としては、有機ELディスプレイ、太陽光発電装置、家電製品、携帯機器、通信機器などが例示される。
【実施例0089】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、下記の製造例・合成例又は実施例に限定されるものではない。また、特に断りの無い限り、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0090】
(製造例1)
6gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、120gのポリスチレンスルホン酸水溶液(固形分10%、GPC-Mw30万)と、850gの水とを混合した。
【0091】
上記の混合液を攪拌しながら、上記の混合液に、64gの水に3.6gの硫酸第二鉄を溶解させて得られる硫酸第二鉄水溶液を添加した。この間、上記の混合液の温度は、30℃に維持された。次に、上記の混合液に、72gの水に8gの過硫酸アンモニウムを溶解させて得られる過硫酸アンモニウム水溶液を添加した。その後、混合液を4時間撹拌し、反応を進行させた。
【0092】
4時間の反応により得られた反応液に、160gの陽イオン交換樹脂と、160gの陰イオン交換樹脂とを添加して半日静置した。その後、ろ過により陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を除去し、固形分が1.2%となるように水を添加した。これにより、複合体及び水を含む原料液が得られた。
【0093】
(製造例2)
ポリスチレンスルホン酸水溶液に含まれるポリスチレンスルホン酸として、平均分子量が10万のポリスチレンスルホン酸(固形分10%、GPC-Mw10万)を使用した点を除き、製造例1と同様の手順により、複合体及び水を含む原料液を作製した。
【0094】
(製造例3)
6gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、180gのポリスチレンスルホン酸水溶液(固形分10%、GPC-Mw30万)と、900gの水とを混合した。
【0095】
上記の混合液を攪拌しながら、上記の混合液に、64gの水に3.6gの硫酸第二鉄を溶解させて得られる硫酸第二鉄水溶液を添加した。この間、上記の混合液の温度は、30℃に維持された。次に、上記の混合液に、72gの水に8gの過硫酸アンモニウムを溶解させて得られる過硫酸アンモニウム水溶液を添加した。その後、混合液を4時間撹拌し、反応を進行させた。
【0096】
4時間の反応により得られた反応液に、160gの陽イオン交換樹脂と、160gの陰イオン交換樹脂とを添加して半日静置した。その後、ろ過により陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を除去し、固形分が1.2%となるように水を添加した。これにより、複合体及び水を含む原料液が得られた。
【0097】
(製造例4)
ポリスチレンスルホン酸水溶液に含まれるポリスチレンスルホン酸として、平均分子量が20万のポリスチレンスルホン酸(固形分10%、GPC-Mw20万)を使用した点を除き、製造例3と同様の手順により、複合体及び水を含む原料液を作製した。
【0098】
(調整液に関する実施例及び比較例)
実施例1-1~1-17においては、製造例1~4の何れかにより得られた原料液と、炭素数が18以下の第四級アンモニウム化合物の水溶液とを混合することで、調整液を作製した。これに対して、比較例1-1においては、製造例4で得られた原料液と、炭素数が19の第四級アンモニウム化合物の水溶液とを混合することで、調整液を作製した。実施例1-1~1-17及び比較例1-1の詳細は下記のとおりである。
【0099】
(実施例1-1)
製造例1で得られた原料液300gを攪拌しながら、当該原料液にテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)をゆっくりと添加して、調整液を作製した。具体的には、調整液のpHが3になるまで、当該原料液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液を添加した。これにより、複合体の水分散液である調整液が得られた。
【0100】
(実施例1-2)
調整液pHが7になるまで、原料液にテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液を添加した点を除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
【0101】
(実施例1-3)
調整液pHが10になるまで、原料液にテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液を添加した点を除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
【0102】
(実施例1-4)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例2で得られた原料液300gを用いた点を除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
【0103】
(実施例1-5)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例2で得られた原料液300gを用いた点を除き、実施例2と同様の手順により、調整液を作製した。
【0104】
(実施例1-6)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例2で得られた原料液300gを用いた点を除き、実施例3と同様の手順により、調整液を作製した。
【0105】
(実施例1-7)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例3で得られた原料液300gを用いた点と、調整液pHが2.3になるまで、原料液にテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液を添加した点とを除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
【0106】
(実施例1-8)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例3で得られた原料液300gを用いた点を除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
【0107】
(実施例1-9)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例3で得られた原料液300gを用いた点を除き、実施例2と同様の手順により、調整液を作製した。
【0108】
(実施例1-10)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例3で得られた原料液300gを用いた点を除き、実施例3と同様の手順により、調整液を作製した。
(実施例1-11)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例3で得られた原料液300gを用いた点と、調整液pHが12になるまで、原料液にテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液を添加した点とを除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
(実施例1-12)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例4で得られた原料液300gを用いた点と、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液の代わりにテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)を用いた点とを除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
【0109】
(実施例1-13)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例4で得られた原料液300gを用いた点と、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液の代わりにテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)を用いた点とを除き、実施例2と同様の手順により、調整液を作製した。
【0110】
(実施例1-14)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例4で得られた原料液300gを用いた点と、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液の代わりにテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)を用いた点とを除き、実施例3と同様の手順により、調整液を作製した。
【0111】
(実施例1-15)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例4で得られた原料液300gを用いた点と、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液の代わりにテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)を用いた点とを除き、実施例1と同様の手順により、調整液を作製した。
【0112】
(実施例1-16)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例4で得られた原料液300gを用いた点と、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液の代わりにテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)を用いた点とを除き、実施例2と同様の手順により、調整液を作製した。
【0113】
(実施例1-17)
製造例1で得られた原料液300gの代わりに製造例4で得られた原料液300gを用いた点と、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液の代わりにテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)を用いた点とを除き、実施例3と同様の手順により、調整液を作製した。
【0114】
(比較例1-1)
TPAOHの40%水溶液の代わりに、C19H43NO(Hexadecyltrimethylammonium Hydroxide)の40%水溶液(東京化成工業株式会社製)を用いた点を除き、実施例13と同様の手順により、調整液を作製した。比較例1-1においては、調整液の作製中に複合体が粗大化し、調整液中に青色の浮遊物が発生した。
【0115】
(調整液に関する評価)
(外観)
目視により、各調整液の懸濁の状態と、各調整液の色とを確認した。実施例1-1~1-6における調整液の作製条件と、評価結果とを表1に示す。実施例1-7~1-11における有機分散液の作製条件と、評価結果とを表2に示す。実施例1-12~1-17における有機分散液の作製条件と、評価結果とを表3に示す。上述されたとおり、比較例1-1においては、調整液の作製中に複合体が粗大化し、調整液中に青色の浮遊物が発生した。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
表1~表3に示されるとおり、第四級アンモニウム化合物の炭素数が18以下である実施例1-1~1-17においては、原料液と、第四級アンモニウム化合物の水溶液とを混合しても、目視により、粗大な懸濁物質の発生を確認することはできなかった。一方、第四級アンモニウム化合物の炭素数が19である比較例1-1においては、原料液と、第四級アンモニウム化合物の水溶液とを混合した際に、粗大な懸濁物質が発生した。
【0120】
(有機分散液に関する実施例及び比較例)
実施例2-1~2-17においては、実施例1-1~1-17により得られた調整液をメタノールで希釈することで、有機分散液を作製した。実施例2-18~2-20においては、実施例1-14により得られた調整液をメタノールで希釈することで、希釈倍率の異なる有機分散液を作製した。
【0121】
これに対して、比較例2-1においては、比較例1-1により得られた調整液をメタノールで希釈して、有機分散液を作製することを試みた。比較例2-2においては、製造例4で得られた原料液と、アンモニア水とを混合して得られた調整液をメタノールで希釈することで、有機分散液を作製した。比較例2-3においては、実施例1-14により得られた調整液を少量のメタノールで希釈することで、有機分散液を作製した。実施例2-1~2-20及び比較例2-1~2-3の詳細は下記のとおりである。
【0122】
(実施例2-1)
実施例1-1で得られた調整液と、メタノール(富士フイルム和光純薬株式会社、特級)とを混合した。具体的には、上記の調整液をメタノールで希釈した。調整液の質量に対するメタノールの質量の比(調整液の質量:メタノールの質量)は、1:1であった。これにより、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOTと称される場合がある。)及びポリスチレンスルホン酸(PSSと称される場合がある。)の複合体(PEDOT/PSSと称される場合がある。)の有機分散液が得られた。
【0123】
(実施例2-2~2-17)
実施例1-1で得られた調整液の代わりに、実施例1-2~1-17のそれぞれで得られた調整液を用いた点を除き、実施例2-1と同様の手順により、有機分散液を作製した。
【0124】
(実施例2-18)
調整液の質量に対するメタノールの質量の比(調整液の質量:メタノールの質量)が8:2であった点を除き、実施例2-14と同様の手順により、有機分散液を作製した。
【0125】
(実施例2-19)
調整液の質量に対するメタノールの質量の比(調整液の質量:メタノールの質量)が1:19であった点を除き、実施例2-14と同様の手順により、有機分散液を作製した。
【0126】
(実施例2-20)
調整液の質量に対するメタノールの質量の比(調整液の質量:メタノールの質量)が1:29であった点を除き、実施例2-14と同様の手順により、有機分散液を作製した。
【0127】
(比較例2-1)
実施例1-1で得られた調整液の代わりに、比較例1-1で得られた調整液を用いて有機分散液を作製することを試みた。しかしながら、上述されたとおり、比較例1-1の調整液の作製中に析出した複合体が粗大化し、調整液中に青色の浮遊物が発生した。そのため、比較例1においては、有機分散液を作製することができなかった。
【0128】
(比較例2-2)
テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液の代わりに、25%アンモニア水を原料液に添加した点を除き、実施例2-14と同様の手順により、有機分散液を作製した。
【0129】
(比較例2-3)
調整液の質量に対するメタノールの質量の比(調整液の質量:メタノールの質量)が9:1であった点を除き、実施例2-14と同様の手順により、有機分散液を作製した。
【0130】
(有機分散液に関する評価)
(調整液の粘度)
振動式粘度計(株式会社エー・アンド・デイ社製、SV-10)を用いて、各実施例及び各比較例において作製された調整液の粘度を測定した。粘度の測定において、各調整液の温度は、23~27度の範囲に調整した。調整液の粘度が130mPasを超えると、調整液及びメタノールを均一に混合することが難しくなる。そこで、調整液の粘度が10~130mPasである場合、調整液の粘度が適切であると判定した。
【0131】
(有機分散液の分散性)
実施例及び各比較例において固形分濃度が調整された有機分散液を12時間静置した後、目視により有機分散液の状態を確認した。目視により沈殿物が確認できない場合に、有機分散液の分散性が良好であると判断した。
【0132】
(有機分散液を用いて作製された塗工膜の物性)
実施例2-1~2-20及び比較例2-2~2-3で得られた有機分散液を塗工液として用いて、複合体の塗工膜を作製した。具体的には、コロナ処理が実施されていないPETフィルム(東レルミラー社製)の上に、バーコーターNo.8を用いて、1mlの塗工液を塗布した。塗工液が塗布されたPETフィルムを、100℃のオーブンで1分間乾燥させた。これにより、塗工膜を作製した。
【0133】
次に、抵抗率計(日東精工アナリティック株式会社製、ハイレスタ)を用いて、上記の各塗工膜の表面抵抗を測定した。具体的には、各塗工膜の表面にURSプローブを押し当てながら、10Vの電圧を印加した。塗工膜の表面抵抗の値が1×109Ω/□以下である場合、塗工膜の表面抵抗が良好であると判定した。
【0134】
また、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH-5000)を用いて、塗工膜のHAZE値及び透過率を測定した。HAZE値及び透過率の測定は室温で実施した。塗工膜のHAZE値が6%以下である場合、塗工膜のHAZE値が良好であると判定した。塗工膜の透過率が85%以上である場合、塗工膜の透過率が良好であると判定した。
【0135】
HAZE値が6%以下である場合、PETフィルムの表面における塗工液のはじきが抑制されていると判定され得る。同様に、透過率が85%以上である場合、PETフィルムの表面における塗工液のはじきが抑制されていると判定され得る。
【0136】
実施例2-1~2-6における有機分散液の作製条件と、評価結果とを表4に示す。実施例2-7~2-11における有機分散液の作製条件と、評価結果とを表5に示す。実施例2-12~2-17における有機分散液の作製条件と、評価結果とを表6に示す。実施例2-18~2-20及び比較例2-1~2-3における有機分散液の作製条件と、評価結果とを表7に示す。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
実施例2-1~2-20に示されるとおり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOTと称される場合がある。)及びポリスチレンスルホン酸(PSSと称される場合がある。)の複合体(PEDOT/PSSと称される場合がある。)の水分散液に、炭素数の比較的小さな第四級アンモニウム水酸化物を添加することで、EDOTの沈殿物を実質的に含まない調整液が得られた。また、上記の調整液と、有機分散媒とを混合することで、有機分散液が得られた。上記の有機分散液を用いて作製された塗工膜は、電子部品及び/又は帯電防止剤として利用可能な程度の導電性を有していた。また、塗工膜のHAZE値及び透過率が良好であったことから、PETフィルムの表面における塗工液のはじきが抑制されていることがわかる。
【0142】
一方、比較例2-1に示されるとおり、PEDOT/PSSの水分散液に添加される第四級アンモニウム水酸化物の炭素数が19になると、調整液の作製中にEDOTの浮遊物が発生した。また、有機分散液を作製することができなかった。
【0143】
比較例2-2に示されるとおり、PEDOT/PSSの水分散液に、第四級アンモニウム水酸化物と比較して界面活性能力に劣るアンモニアを添加することで、EDOTの沈殿物を実質的に含まない調整液が得られた。しかしながら、比較例2-2の調整液をメタノールで希釈して得られた有機分散液を用いて作製された塗工液は、PETフィルムの表面で球状にまとまってしまい、PETフィルムの表面に当該塗工液を塗布することができなかった。なお、比較例2-2においては、目視により塗布液の弾きが観測されたことから、塗布膜の物性が測定されていない。
【0144】
比較例2-3に示されるとおり、有機分散媒による調整液の希釈が不十分である場合、有機分散液を用いて作製された塗工液は、PETフィルムの表面で球状にまとまってしまい、PETフィルムの表面に当該塗工液を塗布することができなかった。なお、比較例2-3においては、目視により塗布液の弾きが観測されたことから、塗布膜の物性が測定されていない。
【0145】
加えて、実施例2-1~2-20及び比較例2-2~2-3によれば、複合体と、炭素数が18以下の第四級アンモニウムイオンとを含む水分散液は、有機溶媒で適度に希釈することにより、良好な塗工膜又は導電性部材の原材料となり得ることがわかる。水分散液は、有機溶媒を実質的に含んでおらず、ハンドリング性にも優れる。
【0146】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0147】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。