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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131877
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】一酸化炭素ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/407 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N27/407
G01N27/416 331
G01N27/416 371G
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042368
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】梶野 仁
(72)【発明者】
【氏名】八島 勇
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 龍之介
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BE26
2G004ZA04
(57)【要約】
【課題】高い測定精度を有し且つ小型化が可能な一酸化炭素ガスセンサを提供すること。
【解決手段】一酸化炭素ガスセンサ10は、固体電解質層11と、第1電極13と、第2電極12とを有する。第1電極13は一酸化炭素ガスの酸化に活性である。第2電極12は、第1電極13よりも一酸化炭素ガスの酸化に不活性である。第2電極12に、一酸化炭素ガスの酸化を促進する材料18が施されている。一酸化炭素ガスセンサ10は、電極12,13間の短絡電流又は起電力を測定するように構成されている。前記材料18にコバルト等が含まれることが好適である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中の一酸化炭素ガスの濃度を測定する一酸化炭素ガスセンサであって、
アニオン伝導性を有する固体電解質層と、
前記固体電解質層の一方の面に配置された第1電極と、
前記固体電解質層の他方の面に配置された第2電極と、を有し、
前記第1電極は一酸化炭素ガスの酸化に活性であり、
前記第2電極は、前記第1電極よりも一酸化炭素ガスの酸化に不活性であり、
前記第2電極に、一酸化炭素ガスの酸化を促進する材料が施されており、
前記電極間の短絡電流又は起電力を測定するように構成されている、一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項2】
前記一酸化炭素ガスの酸化を促進する材料がコバルト、タングステン、バナジウム、マンガン、クロム、モリブデン、ルテニウム、スズ、鉄及びニッケルから選択される金属元素を含む、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項3】
前記固体電解質層を構成するすべての元素(ただし酸素を除く。)のうち、最大検出量の元素の原子数に対する、前記金属元素の原子数の比率が1.0×10-4以上1.0×10-2以下である、請求項2に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項4】
前記固体電解質層が酸化物イオン伝導性を有する、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項5】
前記固体電解質層が希土類元素の酸化物を含む、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項6】
前記固体電解質層がアパタイト型結晶構造を有する化合物を含む、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項7】
前記固体電解質層が、式(1):A9.3+x[T6.0-y]O26.0+z(式中、Aは、La、Ce、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素である。xは、-1.4以上1.5以下の数である。yは、0.0以上3.0以下の数である。zは、-5.0以上5.2以下の数である。Tのモル数に対するAのモル数の比率は1.3以上3.7以下である。)で表される複合酸化物を含む、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項8】
単室型である、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項9】
100ppm以上の一酸化炭素ガスを含む雰囲気下、250℃以上600℃以下の温度にて、7.1μA/cm以上の短絡電流密度が検出される、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項10】
100ppm以上の一酸化炭素ガスを含む雰囲気下、250℃以上600℃以下の温度にて、56mV以上の起電力が検出される、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項11】
前記第2電極が、金単体又は金元素の合金を含む、請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項12】
前記第1電極が、ABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物、白金族元素、又は白金族元素の合金のうち、少なくともいずれか一種を含む請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項13】
前記固体電解質と前記第1電極との間に中間層を有し、
更に前記固体電解質と前記第2電極との間に中間層を有する、
請求項1に記載の一酸化炭素ガスセンサ。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか一項に記載のガスセンサを用いる、一酸化炭素ガスの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一酸化炭素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な社会を築く観点から、より安全な人間居住を実現することが求められている。例えば冬場のストーブ使用における一酸化炭素中毒を防止することは安全な人間居住を実現するという目標達成に寄与するものである。したがって一酸化炭素中毒を防止するための一酸化炭素ガス濃度を測定できるセンサの開発は必要不可欠なものである。気相中の一酸化炭素ガスの濃度を測定可能なセンサとして、例えば定電位電解ガスセンサや半導体式ガスセンサなどが知られている。しかし定電位電解ガスセンサは、電解液を使用することに起因して高温環境では寿命が短いという欠点を有する。半導体式ガスセンサは、一酸化炭素以外の可燃性ガスの影響を受けやすいという欠点を有する。
【0003】
上述の種類のセンサに加えて、特許文献1には、イオン伝導性を示すセラミックスであるBaCeO系酸化物又はCeO系酸化物からなる固体電解質と一対の電極とを備えた一酸化炭素ガスセンサが提案されている。このセンサは単室型及び二室型のものである。また、このセンサは短絡電流値、開放電位差又は電極間に電流が流れている状態での電圧値を測定することで一酸化炭素ガスの濃度を測定するように構成されている。
特許文献2にも、固体電解質を用いた一酸化炭素ガスセンサが提案されている。同文献に記載されている固体電解質は、LSGM8282と呼ばれる酸化物イオン伝導体である。同文献に記載のセンサは、電極間に電流が流れている状態での電圧値を測定することで一酸化炭素ガスの濃度測定が可能になっている。
【0004】
これらのセンサとは別に、本出願人は先に、アニオン伝導性を有する固体電解質層と、この固体電解質層の各面に配置された電極とを有する一酸化炭素ガスセンサを提案した(特許文献3)。この一酸化炭素ガスセンサは、一方の電極が一酸化炭素ガスの酸化に活性であり、他方の電極が、一方の電極よりも一酸化炭素ガスの酸化に不活性であるものである。このような構成を有するこの一酸化炭素ガスセンサは、電極間の短絡電流を測定することで一酸化炭素ガスの濃度測定が可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-207482号公報
【特許文献2】特開2012-42222号公報
【特許文献3】国際公開第2022/270448号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている二室型のセンサは、検知極が曝される雰囲気と、対極が曝される雰囲気とを隔離する必要があることから、センサに気密構造を設ける必要があり、センサの構造が複雑化してしまう。
特許文献2に記載されているセンサでは、十分な電圧値が得られない場合があり、そのことに起因して十分な測定精度が得られないことがある。
特許文献3に記載されているセンサは、構造が複雑でなく、また高精度を有するものであるが、一酸化炭素ガスセンサに対する高精度化及び小型化の要求は昨今益々高くなっている。
したがって本発明の課題は、高い測定精度を有し且つ小型化が可能な一酸化炭素ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、気相中の一酸化炭素ガスの濃度を測定する一酸化炭素ガスセンサであって、
アニオン伝導性を有する固体電解質層と、
前記固体電解質層の一方の面に配置された第1電極と、
前記固体電解質層の他方の面に配置された第2電極と、を有し、
前記第1電極は一酸化炭素ガスの酸化に活性であり、
前記第2電極は、前記第1電極よりも一酸化炭素ガスの酸化に不活性であり、
前記第2電極に、一酸化炭素ガスの酸化を促進する材料が施されており、
前記電極間の短絡電流又は起電力を測定するように構成されている、一酸化炭素ガスセンサを提供することによる前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い測定精度を有し且つ小型化が可能な一酸化炭素ガスセンサが提供される。更に、本発明によれば、耐湿性が高い一酸化炭素ガスセンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一酸化炭素ガスセンサの一実施形態を示す厚み方向に沿う断面の模式図である。
図2図2は、図1に示す一酸化炭素ガスセンサの要部を拡大して示す模式図である。
図3図3は、図1に示す構造の一酸化炭素ガスセンサに短絡電流が発生する機序を説明する模式図である。
図4図4は、実施例2及び比較例2で製造した一酸化炭素ガスセンサを用いて測定した短絡電流の結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1及び比較例2で製造した一酸化炭素ガスセンサを用いた一酸化炭素ガスの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には本発明の一酸化炭素ガスセンサの一実施形態が示されている。同図に示す一酸化炭素ガスセンサ10は単室型のものであり、層状の形態を有する固体電解質層11を備えている。一酸化炭素ガスセンサ10は、固体電解質層11の一面に第1電極13を備え、他面に第2電極12を備えている。以下の説明においては、第1電極13のことを対極13ともいい、第2電極12のことを検知極12ともいう。
【0011】
単室型のセンサとは、対極13及び検知極12のいずれもが同じ測定対象雰囲気に曝されるように使用されるセンサのことである。単室型のセンサを使用する場合には、対極13側の雰囲気と、検知極12側の雰囲気とを気密に隔離する必要がない。したがって単室型のセンサは、その構造が簡易であるという利点を有する。
【0012】
本実施形態においては、図1に示すとおり、対極13と固体電解質層11との間に対極側中間層15が配置されていてもよい。更に、検知極12と固体電解質層11との間に、検知極側中間層14が配置されていてもよい。
【0013】
一酸化炭素ガスセンサ10は、検知極12と対極13との間の短絡電流又は開回路の起電力を測定するように構成されている。この目的のために、検知極12及び対極13とは導体16によって接続されている。導体16の途中には電流計又は電圧計17が介在配置されている。電流計又は電圧計17は、一酸化炭素ガスの濃度を測定している状態において、検知極12と対極13とを短絡させたときに流れる電流又は開回路での両極間での起電力を測定するために用いられる。
【0014】
図1に示す実施形態の一酸化炭素ガスセンサ10においては、固体電解質層11の各面に、対極側中間層15及び検知極側中間層14がそれぞれ直接配置されている。本実施形態においては、固体電解質層11と対極側中間層15との間、及び固体電解質層11と検知極側中間層14との間には何らの部材も介在していない。また本実施形態においては、対極13と対極側中間層15との間には何らの部材も介在していない。検知極12と検知極側中間層14との間の状態については後述する。
【0015】
図1に示す実施形態においては、対極13と対極側中間層15とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば対極13と対極側中間層15とは同じサイズであってもよい。検知極12と検知極側中間層14に関しても同様であり、両者は同じサイズであってもよく、あるいは例えば検知極12よりも検知極側中間層14のサイズの方が大きくなっていてもよい。
また、図1に示す実施形態においては、対極側中間層15のサイズと固体電解質層11のサイズとが同じに示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば固体電解質層11と対極側中間層15とが異なるサイズであってもよい。検知極12側に関しても同様である。
【0016】
固体電解質層11は一般に一定の厚みを有しており、アニオン伝導性を有する材料を含んで構成されている。固体電解質層11としては、典型的には酸化物イオン伝導性を有する材料が用いられる。
固体電解質層11を構成する固体電解質としては単結晶又は多結晶の材料が用いられる。
【0017】
固体電解質層11に含まれる希土類元素の酸化物としては、酸化物イオン伝導性が更に一層高くなる観点からランタンの酸化物を用いることが好ましい。ランタンの酸化物としては、例えばランタン及びガリウムを含む複合酸化物や、該複合酸化物にストロンチウム、マグネシウム又はコバルトなどを添加した複合酸化物、ランタン及びモリブデンを含む複合酸化物などが挙げられる。
特に、酸化物イオン伝導性が高いことから、ランタン及びケイ素の複合酸化物からなる酸化物イオン伝導体を用いることが好ましい。
【0018】
ランタン及びケイ素の複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含むアパタイト型複合酸化物が挙げられる。アパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタンと、四価元素であるケイ素と、Oとを含有し、その組成がLaSi1.5x+12(Xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸化物イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物を固体電解質層11として用いる場合には、c軸を固体電解質層11の厚み方向と一致させることが好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.33Si26である。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0019】
固体電解質層11を構成する材料の別の例として、式(1):A9.3+x[T6.0-y]O26.0+zで表される複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物もアパタイト型結晶構造を有するものである。式中のAは、La、Ce、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。c軸配向性を高める観点から、MはB、Ge及びZnからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素であることが好ましい。
【0020】
前記式中のxは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、-1.4以上1.5以下の数であることが好ましく、0.0以上0.7以下であることが更に好ましく、0.4以上0.6以下であることが一層好ましい。
式中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋める観点から、0.0以上3.0以下の数であることが好ましく、0.4以上2.0以下であることが更に好ましく、0.4以上1.0以下であることが一層好ましい。
式中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.0以上5.2以下の数であることが好ましく、-2.0以上1.5以下であることが更に好ましく、-1.0以上1.0以下であることが一層好ましい。
【0021】
前記式中、Tのモル数に対するAのモル数の比率、言い換えれば前記式における(9.3+x)/(6.0-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.3以上3.7以下であることが好ましく、1.4以上3.0以下であることが更に好ましく、1.5以上2.0以下であることが一層好ましい。なお、式(1):A9.3+x[T6.0-y]O26.0+zにおいて、TとMがともにGeを含む場合には、前記式(9.3+x)/(6.0-y)においては、y=0であるものとする。
【0022】
前記式で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.3+x[T6.0-y]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.3+x[T6.0-y]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.3+x(Si4.71.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.7Ge1.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.7Zn1.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.71.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.7Sn1.3)O26.0+x、La9.3+x(Ge4.71.3)O26.0+zなどを挙げることができる。前記式で表される複合酸化物は、例えば国際公開2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0023】
固体電解質層11の厚みは、一酸化炭素ガスセンサ10の電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上700μm以下であることが更に好ましく、100nm以上500μm以下であることが一層好ましい。この固体電解質層11の厚みは、例えば触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0024】
次に対極13について説明する。
対極13は、本実施形態の一酸化炭素ガスセンサ10において、後述する検知極12の対極として作用するものである。対極13は、一酸化炭素ガスの酸化に活性であることが好ましい。「一酸化炭素ガスの酸化に活性である」とは、一酸化炭素ガスセンサ10の使用環境において、電極表面で一酸化炭素ガスが酸素分子と反応し二酸化炭素ガスに変換させる触媒活性を有することをいう。
以上の観点から、対極13は、ペロブスカイト構造を有する酸化物、白金族元素又は白金族元素を含む合金のうち、少なくともいずれか一種を有することが好ましい。これらの材料は、粒子の形態であり得る。
【0025】
前記酸化物としては、例えばABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有するものが好適に用いられる。式中、Aはランタノイド元素やアルカリ土類金属元素を表す。Bは遷移金属元素を表し、例えばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta及びWである。δは、A、B及びOの価数及び量に起因して生じる端数である。
白金族元素としては、例えば白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムが挙げられる。白金族元素の合金としては、白金族元素を50モル%以上含み、合金成分として例えばPt―Pd、Pt―Rh、Pt-Ni、Pt-Au、Pt-W、Pt-Cuを含むものが挙げられる。
ペロブスカイト構造を有する酸化物、白金族元素又は白金族元素の合金が粒子の形態である場合、該粒子は、ペロブスカイト構造を有する酸化物、白金族元素又は白金族元素を含む合金のうち少なくともいずれか一種を有していればよく、その粒子径は、粒子と気相との界面における粒子の表面積を確保する観点と、対極の製造時に粒子の焼結による変質を抑制する観点から、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して、0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0026】
一方、検知極12は、本実施形態の一酸化炭素ガスセンサ10において、被測定雰囲気に曝されて、被測定雰囲気に含まれる一酸化炭素ガスの濃度を測定するために用いられる電極である。検知極12は、一酸化炭素の酸化に対して、対極13よりも不活性であることが好ましい。特に検知極12は、一酸化炭素の酸化に対して不活性であることが好ましい。「一酸化炭素の酸化に不活性である」とは、一酸化炭素ガスセンサ10の使用環境において、対極13よりも電極表面で、一酸化炭素ガスを二酸化炭素ガスに変換させる触媒活性が低いことをいう。
以上の観点から、検知極12としては、金単体又は金元素の合金からなることが好ましい。これらの材料は、粒子の形態であり得る。金元素の合金としては、金を50モル%以上含み、合金成分として例えばAu-Ag、Au-Pt、Au-Pd、Au-In、Au-Sn、Au-Feなどを含むものが挙げられる。
【0027】
金単体又は金元素の合金が粒子の形態である場合、その粒子径は、一酸化炭素を効率的に検知する観点から、つまり検知極12が固体電解質層11又は検知極側中間層14と接触する三相界面における粒子の表面積を確保する観点から、体積累積粒径D50で表して、0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0028】
検知極12及び対極13の厚みは、一酸化炭素ガスセンサ10の電気抵抗を効果的に低下させる観点から、それぞれ独立に10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上700μm以下であることが更に好ましい。
【0029】
検知極12には、一酸化炭素ガスの酸化を促進する材料(以下、この材料のことを便宜的に「触媒材料」ともいう。)が施されている(図示せず)。検知極12に触媒材料が施されていることで、本実施形態のセンサ10においては、検知極12において一酸化炭素ガスの酸化反応が促進されるので、センサ全体としての内部抵抗が低下する。その結果、電極12,13間での短絡電流が増大し、あるいは電極12,13間での開回路起電力が増大する。つまり、センサの感度が向上する。また、短絡電流の増大は、センサの小型化を可能にする。更に、後述する実施例から明らかなとおり、耐湿性が向上する。
【0030】
センサ10が図1に示すような単室型のものである場合、検知極12に施す触媒材料は、酸素に対して不活性であることが望ましい。そうすることで、測定対象雰囲気中に酸素が含まれている場合であっても、一酸化炭素ガスの濃度を正確に測定することが可能となる。一方、センサ10が二室型のものである場合は、検知極12側と対極13側とが気密に隔てられるので、検知極12に施す触媒材料が酸素に対して不活性であることを要さない。
【0031】
検知極12に触媒材料を施すことの利点を一層顕著なものとする観点から、触媒材料として特定の金属元素が含まれていることが好ましい(以下、この金属元素のことを「特定金属元素」ともいう。)。特に触媒材料は、コバルト(Co)、タングステン(W)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、スズ(Sn)、鉄(Fe)及びニッケル(Ni)などを含むことができる。これらの特定金属元素は一元素を単独で用いることができ、あるいは二種以上の元素を組み合わせて用いることができる。これらの特定金属元素を含む触媒材料のうち、特に酸素に対して不活性であり且つ一酸化炭素ガスの酸化に対する触媒活性が高いことからCo又はWを含む材料を用いることが好ましい。
前記特定金属元素を含む材料としては、例えば前記特定金属元素の酸化物が挙げられる。
【0032】
触媒材料を検知極12に施すには、例えば図2に示すとおり、検知極12を構成する材料の粒子と、触媒材料18の粒子が混在した状態にすればよい。同図に示す形態に代えて、例えば図1に示す実施形態において、検知極12と検知極側中間層14との間に、触媒材料の層を形成してもよい(図示せず)。あるいは、図1に示す実施形態において、検知極12の上面(つまり、検知極側中間層14と対向する面と反対側の面)に、触媒材料の層を形成してもよい。
【0033】
検知極12に触媒材料を施す量は、固体電解質層11を構成するすべての元素(ただし酸素を除く。)のうち、最大検出量の元素の原子数に対する、前記特定金属元素の原子数の比率が好ましくは1.0×10-4以上であり、更に好ましくは1.5×10-4以上であり、一層好ましくは2.0×10-4以上である。この範囲の触媒材料を施すことで、検知極12において一酸化炭素ガスの酸化反応を十分に促進させることが可能となる。
また、検知極12に触媒材料を施す量は、固体電解質層11を構成するすべての元素(ただし酸素を除く。)のうち、最大検出量の元素の原子数に対する、前記特定金属元素の原子数の比率が好ましくは1.0×10-2以下であり、更に好ましくは7.0×10-3以下であり、一層好ましくは5.0×10-3以下である。この値以下の触媒材料を施すことで、検知極12における一酸化炭素ガスの酸化反応が妨げられにくくなる。
前記最大検出量の元素の原子数及び前記特定金属元素の原子数は、固体電解質11と検知極12の界面の定量分析で得ることができる。例えばエネルギー分散型X線分光法EDS、電子線マイクロアナライザーEPMA又はX線光電子分光法XPSを用いることができる。前記界面の分析は、一酸化炭素ガスセンサの断面方向からの測定又は検知極12の材料(例えばAu)を取り除いた固体電解質11側の表面の測定によって行うことができる。
【0034】
本発明においては、図1に示す実施形態のとおり、固体電解質層11と対極13との間に対極側中間層15を配置してもよい。これに加えて、又はこれに代えて、固体電解質層11と検知極12との間に検知極側中間層14を配置してもよい。対極側中間層15及び検知極側中間層14(以下、便宜的に両者を総称して単に「中間層」ということがある。)は本発明の一酸化炭素ガスセンサにおいて必須の部位ではないが、本発明の一酸化炭素ガスセンサが、対極側中間層15及び/又は検知極側中間層14を備えることで、該センサの性能が向上する。
【0035】
中間層は、一種以上の希土類元素を含む酸化セリウム(以下「LnDC」ともいう。)から構成されていることが好ましい。ただし「希土類元素」はセリウムを含まない。LnDCにおいては、母材である酸化セリウム(CeO)に、希土類元素が固溶(ドープ)した形で含まれている。ドープ元素である希土類元素は、通常、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在している。
【0036】
一酸化炭素ガスセンサ10の酸化物イオン伝導性を一層高める観点から、中間層は、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)とを含む酸化セリウム(以下「La-LnDC」ともいう。)から構成されていることが好ましい。La-LnDCにおいてランタンは、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在し得るか、あるいは希土類元素がドープされた酸化セリウムの結晶粒の粒界に存在し得る。
【0037】
一酸化炭素ガスセンサ10の酸化物イオン伝導性を更に一層高める観点から、中間層は、ランタンと、サマリウム、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム及びジスプロシウムからなる群より選択されるいずれか一種以上とを含む酸化セリウムから構成されていることが好ましい。
特に中間層は、ランタンと、サマリウム及びガドリニウムのいずれか一方とを含む酸化セリウムを含んで構成されることが、一酸化炭素ガスセンサ10全体の酸化物イオン伝導性を更に一層高め得る点から好ましい。なお、両中間層14,15を構成する該La-LnDCは同種でもよく、あるいは異種でもよい。また、対極側中間層15及び検知極側中間層14のうちの一方が、La-LnDCを含んで構成されており、他方が他の物質から構成されていてもよい。
【0038】
La-LnDCにおいて、酸化セリウムにドープされる希土類元素(ただしランタン及びセリウムは除く。)の割合は、セリウムに対する希土類元素(Ln)の原子比であるLn/Ceで表して、0.05at%以上0.5at%以下であることが好ましく、0.1at%以上0.4at%以下であることが更に好ましく、0.2at%以上0.3at%以下であることが一層好ましい。希土類元素のドープの程度をこの範囲内に設定することによって、固体電解質層11と検知極12及び/又は対極13との間の酸化物イオン伝導性の向上が図られる。
希土類元素が酸化セリウム中に固溶していることは、X線回折法による結晶構造解析およびエネルギー分散型X線分光法、並びに電子線マイクロアナライザー等の組成分析によって確認される。
【0039】
中間層を構成するLa-LnDCにおいて、ランタンは、一酸化炭素ガスセンサ10の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で含有される。この目的のために、La-LnDCにおける、セリウムに対するランタンの原子比であるLa/Ce(at%)の値を0.3以上とすることが好ましい。また、ランタンが多過ぎる場合には酸化物イオン伝導性が却って低下することから、La/Ce(at%)の値を1.2以下とすることが好ましい。La/Ce(at%)の値は0.4以上1.1以下とすることが更に好ましく、0.5以上1.0以下とすることが一層好ましい。
【0040】
中間層を構成する酸化セリウムにドープされる希土類元素の総量、すなわちランタンの量及びランタン以外の希土類元素の量の総和LnTは、セリウムに対する原子比、すなわちLnT/Ceで表して0.3at%以上1.5at%以下であることが、一酸化炭素ガスセンサ10の酸化物イオン伝導性を向上させる観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、LnT/Ceの値は0.4at%以上1.4at%以下であることが更に好ましく、0.5at%以上1.3at%以下であることが一層好ましい。LnT/Ceの詳細な測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0041】
中間層の厚みは、一定以上の厚みがあれば、固体電解質層11と検知極12及び/又は対極13との間の酸化物イオン伝導性を効果的に向上させ得ることができる。中間層の厚みは、検知極12側及び対極13側それぞれ独立に、1nm以上1000nm以下であることが好ましく、10nm以上700nm以下であることが更に好ましい。この中間層の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。対極側中間層15の厚みと検知極側中間層14の厚みとは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0042】
図1に示す実施形態の一酸化炭素ガスセンサ10は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば特開2013-51101号公報や国際公開2016/111110に記載の方法を採用することができる。
【0043】
次いで固体電解質層11における2つの主面に、対極側中間層15及び検知極側中間層14をそれぞれ形成する。各中間層14,15の形成には例えばスパッタリングを用いることができる。スパッタリングに用いられるターゲットは例えば次の方法で製造することができる。すなわち、希土類元素(ただしセリウムを除く。)の酸化物の粉末及び酸化セリウムの粉末を、乳鉢や、ボールミル等の攪拌機を使用して混合し、酸素含有雰囲気下で焼成し原料粉を得る。この原料粉をターゲットの形状に成形し、ホットプレス焼結する。焼結条件は、温度1000℃以上1400℃以下、圧力20MPa以上35MPa以下、時間60分以上180分以下とすることができる。雰囲気は、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気とすることができる。このようにして得られたスパッタリングターゲットは、LnDCから構成されている。なお、スパッタリングターゲットの製造方法は、この製造方法に限定されるものではなく、例えばターゲット形状の成形体を大気雰囲気下又は酸素含有雰囲気下で焼成してもよい。
【0044】
このようにして得られたターゲットを用い、例えば高周波スパッタリング法によって固体電解質層11の各面にスパッタリング層を形成する。基板の温度を予め300~500℃の範囲内に昇温し、該温度を保持しながらスパッタリングしてもよい。スパッタリング層はLnDCから構成されていることが好ましい。
【0045】
スパッタリングの完了後に、スパッタリング層をアニーリングする。アニーリングは、固体電解質層11に含まれているランタンを、熱によってスパッタリング層に拡散させて、該スパッタリング層を構成するLnDCにランタンを含有させる目的で行われる。この目的のために、アニーリングの条件は、温度1300℃以上1600℃以下、時間10分以上120分以下、より好ましくは温度1400℃以上1600℃以下、時間10分以上90分以下、とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。その他の成膜方法として、例えばアトミックレイヤデポジション、イオンプレーティング、パルスレーザーデポジション、めっき法、化学気相成膜法などを用いることができる。
【0046】
上述のアニーリングによってランタンを含有するLnDC(La-LnDC)から構成される各中間層が得られる。次いで一方の中間層の一方の表面に、対極13を形成する。対極13の形成には、白金族元素単体又は白金族元素の合金の粒子を含むペーストを用いることができる。該ペーストを対極側中間層15の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなる対極13が形成される。焼成条件は、温度600℃以上900℃以下、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
対極13の形成に白金族元素単体又は白金族元素の合金の粒子を含むペーストを用いる代わりに、ペロブスカイト構造を有する酸化物を用いる場合には、該酸化物の粒子を含むペーストを対極側中間層15の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで対極13が形成される。
【0047】
検知極12の形成に関しても対極13と同様であり、金単体又は金元素の合金の粒子を含むペーストを用いて、多孔質体からなる検知極12を形成することができる。
【0048】
検知極12の形成に先立ち、検知極側中間層14の表面に触媒材料の層を形成する。触媒材料が例えば前記特定金属元素としてCoを含む場合には、コバルトの水溶性化合物が溶媒に溶解した塗布液を検知極側中間層14の表面に塗布する。溶媒としては、例えば水及び/又は水に可溶な有機溶媒などを用いることができる。塗布液には、触媒材料の分散性を高める目的で、高分子化合物、例えばポリビニルピロリドンなどを共存させておいてもよい。
【0049】
検知極側中間層14の表面に塗布液を塗布し塗膜を形成したら、該塗膜を乾燥させた後に、大気雰囲気下で該塗膜を焼成する。これによって前記特定金属元素を含む触媒材料の層が検知極側中間層14の表面に形成される。次いで、上述の方法で、触媒材料の層上に検知極12を形成する。
【0050】
以上の方法で目的とする一酸化炭素ガスセンサが得られる。このようにして得られた本発明の一酸化炭素ガスセンサは、これを測定対象雰囲気に置いた状態で、対極と検知極を導体によって短絡させると、両極間の化学ポテンシャル差に応じて酸素ポンピングが生じ短絡電流が発生する。測定対象雰囲気中に、可燃性ガスである一酸化炭素ガスが存在する場合、図3に示すとおり、酸化活性の高い電極である対極13の表面で一酸化炭素が燃焼する(2CO+O→2CO)。これに対して酸化活性が低い電極である検知極12においては、一酸化炭素が検知極12に吸着して、該検知極12と固体電解質層11との界面(検知極側中間層14が存在する場合には、検知極12と検知極側中間層14との界面)にまで到達する。その結果、両極12,13間に化学ポテンシャル差が生じることから、対極13で酸素還元反応(O+4e→2O2-)が生じるとともに、検知極12で一酸化炭素ガスの酸化反応(CO+O2-→CO+2e)が生じる。それによって、両極12,13間に短絡電流が発生する。短絡電流の値と、測定対象雰囲気に含まれる一酸化炭素ガスの濃度とについて予め検量線を作成しておくことで、任意の測定対象雰囲気に含まれる一酸化炭素ガスの濃度を、短絡電流の測定値から求めることができる。本発明の一酸化炭素ガスセンサは、上述した構成、特に検知極に触媒材料が施されていることから、短絡電流の値が大きく、そのことに起因して、広い濃度範囲にわたって気相中の一酸化炭素ガスの濃度を測定できる。しかも一酸化炭素ガスが低濃度であっても精度よく測定が可能である。
【0051】
以上の方法に代えて、一酸化炭素ガスセンサにおける両電極12,13の開回路起電力を測定することによっても、短絡電流の測定と同様に、気相中の一酸化炭素ガスの濃度を測定することが可能である。この場合には、起電力の値と、測定対象雰囲気に含まれる一酸化炭素ガスの濃度とについて予め検量線を作成しておくことで、任意の測定対象雰囲気に含まれる一酸化炭素ガスの濃度を、起電力の測定値から求めることができる。
【0052】
本発明の一酸化炭素ガスセンサは、以上の機序によって短絡電流又は起電力が発生することから、単室型のセンサとして用いることが可能となる。これに代えて、二室型のセンサとして用いてもよい。
【0053】
一酸化炭素ガスの濃度を一層精度よく測定し得る観点から、本発明の一酸化炭素ガスセンサは、100ppm以上の一酸化炭素ガスを含む雰囲気下、250℃以上600℃以下の温度にて、好ましくは7.1μA/cm以上の短絡電流密度が検出されるように構成されていることが好ましく、7.4μA/cm以上であることが更に好ましい。短絡電流密度の上限値に特に制限はなく、高ければ高いほど一酸化炭素ガスの濃度を精度よく測定可能であるが、10μA/cm程度に短絡電流密度が高ければ、本発明の所期の目的は十分に達成される。
なお、本発明においては、検知極12から対極13に向けて流れる電流を正の電流と定義する。
【0054】
起電力を測定する場合には、100ppm以上の一酸化炭素ガスを含む雰囲気下、250℃以上600℃以下の温度にて、56mV以上の起電力が検出されるように構成されていることが好ましく、57mV以上であることが更に好ましい。起電力の上限値に特に制限はなく、高ければ高いほど一酸化炭素ガスの濃度を精度よく測定可能であるが、58mV程度に起電力が高ければ、本発明の所期の目的は十分に達成される。
【0055】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば図1及び図3に示す実施形態の一酸化炭素ガスセンサ10においては、対極13と固体電解質層11との間に対極側中間層15が配置され、また検知極12と固体電解質層11との間に検知極側中間層14が配置されていたが、これに代えて、対極側中間層15及び/又は検知極側中間層14を配置しなくてもよい。
【0056】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0057】
〔実施例1〕
本実施例では、以下の(1)-(5)の工程に従い図1に示す構造の一酸化炭素ガスセンサ10を製造した。
(1)固体電解質層11の製造
Laの粉体とSiOの粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に600MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体をX線回折測定及び化学分析に付したところ、LaSiOの構造であることが確認された。
【0058】
得られたペレット800mgと、B粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れて、電気炉を用い、大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB蒸気を発生させるとともにB蒸気とペレットとを反応させ、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.3+x[Si6.0-y]O26.0+zにおいて、x=0.50、y=1.17、z=0.16であり、LaとBのモル比は8.38であった(以下、この化合物を「LSBO」と略称する。)。500℃におけるLSBOの酸化物イオン伝導率は3.0×10-2S/cmであった。固体電解質層11の厚みは350μmであった。
LSBOを構成するすべての元素(ただし酸素を除く。)のうち、最大検出量の元素はLaであった。
【0059】
(2)対極側中間層15及び検知極側中間層14の製造
Sm0.2Ce1.8の粉体を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度1200℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波スパッタリング法によって、固体電解質層11の各面にスパッタリングを行い、サマリウムがドープされた酸化セリウム(以下「SDC」ともいう。)のスパッタリング層を形成した。スパッタリングの条件は、RF出力が30W、アルゴンガスの圧力が0.8Paであった。
スパッタリング後、大気中、1500℃にて1時間のアニーリングを行い、LSBO中に含まれるランタンをスパッタリング層に熱拡散させてSDCにランタンを含有させた。このようにしてランタンを含むSDC(以下「La-SDC」ともいう。)からなる対極側中間層15及び検知極側中間層14をそれぞれ形成した。各中間層14,15の厚みはいずれも300nmであった。エネルギー分散型X線分光法(EDS)による定量分析の結果、対極側中間層15及び検知極側中間層14におけるLa/Ceの原子比(at%)は0.98であった。
【0060】
(3)対極13の形成〔1〕
ペロブスカイト構造を有する酸化物であるLa0.6Sr0.4Co0.78Fe0.2Ni0.023-δ(以下「LSCFN」ともいう。)の粒子を含むペーストを用い、対極側中間層15の表面に塗布して塗膜を形成した。この塗膜を大気中、120℃で1時間乾燥させ、引き続き900℃で5時間焼成して、多孔質体からなる対極を形成した。
【0061】
(4)触媒材料の層の形成
硝酸コバルト及びポリビニルピロリドンを、水とエタノールとの混合溶媒に溶解させて塗布液を調製した。塗布液中のコバルトの濃度を5.7×10―4mol/kgに設定した。この塗布液を検知極側中間層14の表面に20μL滴下して塗膜を形成した。
この塗膜を大気下、200℃で30分間乾燥させ、引き続き850℃で6時間焼成した。このようにして触媒材料の層を形成した。
【0062】
(5)検知極12の形成
触媒材料の層の表面に、金粉を含むペーストを塗布して塗膜を形成した。この塗膜を大気中、120℃で3時間乾燥させ、引き続き750℃で1時間焼成して、多孔質体からなる検知極12を形成した。検知極12の厚みは10.0μmであった。
【0063】
(6)対極13の形成〔2〕
前項(3)で形成したLSCFNからなる対極の表面に、白金の粉末を含むペーストを塗布して塗膜を形成した。この塗膜を大気中で、120℃で3時間乾燥させ、引き続き750℃で1時間焼成して、多孔質体からなる対極13を得た。対極13の厚みは10.0μmであった。
【0064】
〔実施例2〕
触媒材料の層の形成において、塗布液中のコバルトの濃度を2.8×10―4mol/kgに変更した。これ以外は実施例1と同様にして一酸化炭素ガスセンサ10を得た。
【0065】
〔実施例3〕
触媒材料の層の形成において、塗布液中のコバルトの濃度を5.7×10―5mol/kgに変更した。これ以外は実施例1と同様にして一酸化炭素ガスセンサ10を得た。
【0066】
〔比較例1〕
実施例1において触媒材料の層を形成しなかった。また、対極の形成においてLSCFNからなる層を形成しなかった。これら以外は実施例1と同様にして一酸化炭素ガスセンサ10を得た。
【0067】
〔比較例2〕
実施例1において触媒材料の層を形成しなかった。これ以外は実施例1と同様にして一酸化炭素ガスセンサ10を得た。
【0068】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた一酸化炭素ガスセンサを、CO及びO含有N雰囲気(CO濃度100ppm、O濃度20.1%)中に置き、短絡電流密度及び開回路起電力を測定した。雰囲気の温度は500℃に設定した。測定結果を表1に示す。
また、実施例2及び比較例2で製造した一酸化炭素ガスセンサの測定対象雰囲気におけるCO濃度(100-600ppm)と、短絡電流密度との関係を図4に示す。
【0069】
更に、実施例1及び比較例2で製造した一酸化炭素ガスセンサを乾燥空気の流れる雰囲気下、又は240ppmH0の空気が流れる雰囲気下にそれぞれ置き、CO及びO含有N雰囲気のガス(CO濃度100ppm、O濃度20.1%)を間欠的に流し、短絡電流密度の変化を測定した。雰囲気の温度は450℃に設定した。測定結果を図5に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の一酸化炭素ガスセンサは高い短絡電流密度及び起電力が得られることが分かる。
図4に示す結果から明らかなとおり、対数表示したCO濃度に対して短絡電流密度の値は直線的に変化することが分かる。したがって、対極と検知極とのCO酸化活性の差を利用した本発明の一酸化炭素ガスセンサは、単室型の短絡電流式のセンサとして特に有用であることが確認された。
また、図5に示す結果から明らかなとおり、比較例2のガスセンサは湿気のある雰囲気下では一酸化炭素ガスへの応答性が著しく低下したのに対し、実施例1のガスセンサは湿気のある雰囲気下でも一酸化炭素ガスへの応答性は殆ど低下せず、耐湿性が著しく向上していることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
10 一酸化炭素ガスセンサ
11 固体電解質層
12 検知極
13 対極
14 検知極側中間層
15 対極側中間層
18 触媒材料
図1
図2
図3
図4
図5