(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131899
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】全輪駆動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/348 20060101AFI20240920BHJP
B60K 23/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60K17/348 B
B60K23/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042425
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】牛嶋 克也
(72)【発明者】
【氏名】百々 浩平
(72)【発明者】
【氏名】山本 真史
(72)【発明者】
【氏名】祝 伸広
(72)【発明者】
【氏名】金 兌奐
(72)【発明者】
【氏名】萩野 道久
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康志
【テーマコード(参考)】
3D036
3D043
【Fターム(参考)】
3D036GA22
3D036GA46
3D036GB03
3D036GB05
3D036GE04
3D036GG10
3D036GG37
3D036GG61
3D036GG78
3D036GH16
3D036GJ01
3D036GJ17
3D036GJ20
3D043AA01
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA05
3D043EA13
3D043EA21
3D043EA34
3D043EA40
3D043EB03
3D043EB07
3D043EB12
3D043EF09
3D043EF12
(57)【要約】
【課題】過大な引込みトルクによる切替ショックを抑制しつつ、切替禁止領域を可及的に縮小させて、運転者に与える違和感を抑制することができる全輪駆動車両の制御装置を提供する。
【解決手段】低油温切替禁止領域補正部158により、個別のIoTデータに含まれるクラッチCのパッククリアランスのばらつき及び油温センサ132の検出値のばらつきを見込んで個別に再設定された低油温切替禁止領域Aは、クラッチCのパッククリアランスのばらつきや油温センサ132の検出値のばらつき等を統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域Aが可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、前記動力源からの動力を前輪及び後輪に選択的に分配し且つ高速段及び低速段を選択的に切り替える動力分配装置を有する動力伝達装置と、を備えた全輪駆動車両の、制御装置であって、
前記動力伝達装置の潤滑油温度が所定の第1低温範囲内であり且つイグニッションオン操作からの経過時間が所定の時間範囲内である低油温切替禁止領域において、前記高速段から低速段への切り替えを禁止する切替禁止制御部と、
前記全輪駆動車両の組立て及び作動試験を行なう工場から前記動力伝達装置内のクラッチのパッククリアランスのばらつき及び前記動力伝達装置の潤滑油温度を検出する油温センサの検出値のばらつきの少なくとも一方を含む個別のIoTデータをインターネットを介して取得するIoTデータ取得部と、
前記IoTデータに含まれる前記クラッチのパッククリアランスのばらつき及び前記油温センサの検出値のばらつきの少なくとも一方を見込んで前記切替禁止制御部で用いられる前記低油温切替禁止領域を補正する低油温切替禁止領域補正部と、を含む
ことを特徴とする全輪駆動車両の制御装置。
【請求項2】
前記低油温切替禁止領域は、前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸と、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸との二次元座標において、前記動力伝達装置の潤滑油温度が低くなるほど、前記イグニッションオン操作からの経過時間が大きくなるように設定されたものであり、
前記低油温切替禁止領域補正部は、前記クラッチのパッククリアランスのばらつきが大側となるほど、前記油温センサの検出値のばらつきが低温側となるほど、前記低油温切替禁止領域の前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸方向では低温側に補正し、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸方向では経過時間短縮側に補正する
ことを特徴とする請求項1の全輪駆動車両の制御装置。
【請求項3】
前記動力源は、エンジンを含み、
前記制御装置は、前記エンジンの始動毎に、前記エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきを取得するエンジン回転数ばらつき取得部を含み、
前記低油温切替禁止領域補正部は、前記エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきを見込んで前記低油温切替禁止領域を、前記エンジンの始動毎に再設定する
ことを特徴とする請求項1の全輪駆動車両の制御装置。
【請求項4】
前記低油温切替禁止領域は、前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸と、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸との二次元座標において、前記動力伝達装置の潤滑油温度が低くなるほど、前記イグニッションオン操作からの経過時間が大きくなるように設定されたものであり、
前記低油温切替禁止領域補正部は、前記エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきが高回転側となるほど、前記低油温切替禁止領域の前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸方向では高温側に補正し、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸方向では経過時間短縮側に補正する
ことを特徴とする請求項3の全輪駆動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源からの動力を前輪及び後輪に分配する全輪駆動車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力源と、前記動力源からの動力を前輪及び後輪に選択的に分配し且つ高速段及び低速段を選択的に切り替える動力分配装置を有する動力伝達装置と、を備えた全輪駆動車両の、制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された全輪駆動車両の制御装置によれば、停車状態であることを第1条件とし、駆動力源と入力軸との間の動力伝達が遮断されたニュートラル状態であることを第2条件とし、ローギヤ走行モードの選択操作によってローギヤ走行モードが選択されたことを第3条件として、ハイギヤ4輪走行モードでの運転時に、第1条件及び第2条件が満たされたとき、ハイギヤ2輪走行モードへ切り替えられ、第1条件及び第2条件が満たされた状態で第3条件が満たされたら、ハイギヤ2輪走行モードからローギヤ走行モードへ切り替えられる。これにより、第1条件乃至第3条件の全てが満たされた後のローギヤ走行モードへの切り替え所要時間が短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、動力伝達装置の潤滑油の低温下且つイグニッションオン操作直後の潤滑油流量が多いときには、動力伝達装置内のクラッチの引き摺りによる過大な引込みトルクが発生する。このような状況下において、動力分配装置(トランスファ)のハイギヤ段からローギヤ段への切り替えを行なった場合には、過大な引込みトルクにより動力分配装置内の噛合クラッチにギヤ鳴りが発生するなどの切替ショックが発生する。
【0006】
これに対して、動力伝達装置の潤滑油の低温下且つイグニッションオン操作直後には、動力分配装置のハイギヤ段からローギヤ段への切り替えを禁止することが、考えられる。この場合、ハイギヤ段からローギヤ段への切替禁止領域は、動力伝達装置の潤滑油温度とイグニッションオン操作からの経過時間に応じて設定され、且つ、品質の観点から、引込みトルクの大きさに関与する動力伝達装置内のクラッチのパッククリアランスのばらつきや動力伝達装置の潤滑油温度を検出する油温センサの検出値のばらつき等を統計的に見込んだ多くの余裕値を以て設定される。
【0007】
しかしながら、このように、動力分配装置のハイギヤ段からローギヤ段への切り替えが禁止されることになると、切替禁止領域が広くなり過ぎて、運転者に違和感を与える場合があった。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、過大な引込みトルクによる切替ショックを抑制しつつ、切替禁止領域を可及的に縮小させて、運転者に与える違和感を抑制することができる全輪駆動車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の要旨とするところは、(a)動力源と、前記動力源からの動力を前輪及び後輪に選択的に分配し且つ高速段及び低速段を選択的に切り替える動力分配装置を有する動力伝達装置と、を備えた全輪駆動車両の、制御装置であって、(b)前記動力伝達装置の潤滑油温度が所定の第1低温範囲内であり且つイグニッションオン操作からの経過時間が所定の時間範囲内である低油温切替禁止領域において、前記高速段から低速段への切り替えを禁止する切替禁止制御部と、(c)前記全輪駆動車両の組立て及び作動試験を行なう工場から前記動力伝達装置内のクラッチのパッククリアランスのばらつき及び前記動力伝達装置の潤滑油温度を検出する油温センサの検出値のばらつきの少なくとも一方を含む個別のIoTデータをインターネットを介して取得するIoTデータ取得部と、(d)前記IoTデータに含まれる前記クラッチのパッククリアランスのばらつき及び前記油温センサの検出値のばらつきの少なくとも一方を見込んで前記切替禁止制御部で用いられる前記低油温切替禁止領域を補正する低油温切替禁止領域補正部と、を含むことにある。
【発明の効果】
【0010】
低油温切替禁止領域補正部により、前記個別のIoTデータに含まれる前記動力伝達装置内のクラッチのパッククリアランスのばらつき及び前記動力伝達装置の潤滑油温度を検出する油温センサの検出値のばらつきの少なくとも一方を見込んで前記切替禁止制御部で用いられる前記低油温切替禁止領域が再設定される。個別のIoTデータに含まれる前記クラッチのパッククリアランスのばらつき及び前記油温センサの検出値のばらつきの少なくとも一方を見込んで個別に再設定された低油温切替禁止領域は、クラッチのパッククリアランスのばらつきや油温センサの検出値のばらつき等を統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域が可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【0011】
好適には、前記低油温切替禁止領域は、前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸と、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸との二次元座標において、前記動力伝達装置の潤滑油温度が低くなるほど、前記イグニッションオン操作からの経過時間が大きくなるように設定されたものであり、前記低油温切替禁止領域補正部は、前記クラッチのパッククリアランスのばらつきが大側となるほど、前記油温センサの検出値のばらつきが低温側となるほど、前記低油温切替禁止領域の前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸方向では低温側に補正し、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸方向では経過時間短縮側に補正する。この補正により再設定された低油温切替禁止領域は、クラッチのパッククリアランスのばらつきや油温センサの検出値のばらつき等を統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域が可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【0012】
好適には、前記動力源は、エンジンを含み、前記制御装置は、前記エンジンの始動毎に、前記エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきを取得するエンジン回転数ばらつき取得部を含み、前記低油温切替禁止領域補正部は、前記エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきを見込んで前記低油温切替禁止領域を、前記エンジンの始動毎に再設定する。これにより、エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきを見込んで個別に再設定された低油温切替禁止領域は、エンジン回転数のばらつきを統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域が可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【0013】
好適には、前記低油温切替禁止領域は、前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸と、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸との二次元座標において、前記動力伝達装置の潤滑油温度が低くなるほど、前記イグニッションオン操作からの経過時間が大きくなるように設定されたものであり、前記低油温切替禁止領域補正部は、前記エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきが高回転側となるほど、前記低油温切替禁止領域の前記動力伝達装置の潤滑油温度を示す軸方向では高温側に補正し、前記イグニッションオン操作からの経過時間を示す軸方向では経過時間短縮側に補正する。この補正により再設定された低油温切替禁止領域は、エンジン回転数のばらつきを統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域が可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明が適用される車両の駆動系統を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能の要部を説明する図である。
【
図2】
図1の車両が備える動力伝達装置の骨子図であって、(a)はHV用伝動装置及び自動変速機の骨子図、(b)はトランスファの骨子図である。
【
図3】
図1の低油温切替禁止制御部により動力分配装置の高速段から低速段への切り替えを禁止する低油温切替禁止領域を説明する図である。
【
図4】
図1の低油温切替禁止領域補正部による、クラッチのパッククリアランスのばらつきに応じた低油温切替禁止領域の補正を説明する図である。
【
図5】
図1の低油温切替禁止領域補正部による、油温センサの検出値のばらつきに応じた低油温切替禁止領域の補正を説明する図である。
【
図6】
図1の低油温切替禁止領域補正部による、エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきに応じた低油温切替禁止領域の補正を説明する図である。
【
図7】
図1の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【
図8】
図1の電子制御装置の制御作動の他の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態において、トランスファは、ハイロー噛合クラッチ機構を備えており、そのハイロー噛合クラッチ機構は同期噛合機構を備えていないが、同期噛合機構を備えるものとしても良い。
【0016】
走行モード切替制御部は、ハイロー選択装置による選択に応じて、例えばH4モード、L4モード、H2モード、及びL2モードの4種類の走行モードを成立させるように構成されるが、H4モード、L4モード、及びH2モードの3種類の走行モードに切り替えるだけでも良い。
【実施例0017】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された全輪駆動車両(以下、車両という)10の駆動系統を説明する骨子図で、車両10における各種制御の為の制御機能の要部を併せて示した図である。車両10は、前置エンジン後輪駆動方式(FR)を基本とするハイブリッド方式の前後輪駆動車両(全輪駆動車両或いは4輪駆動車両)である。車両10は、動力源としてのエンジン12と、左右一対の前輪14と、左右一対の後輪16と、動力伝達装置18と、を備えている。動力伝達装置18は、エンジン12に連結されたHV用伝動装置20、自動変速機45、及びHV用伝動装置20に連結されたトランスファ22を有している。エンジン12及びHV用伝動装置20からトランスファ22へ伝達された駆動力は、フロントプロペラシャフト24及びリヤプロペラシャフト26に分配され、フロントプロペラシャフト24からは、ディファレンシャル28を介して左右の前輪14に伝達される一方、リヤプロペラシャフト26からは、ディファレンシャル30を介して左右の後輪16に伝達される。エンジン12は、ガソリンエンジン等の内燃機関であり、走行用の動力源として用いられる。エンジン12のトルクであるエンジントルクTeは、電子制御装置150から出力されるエンジン制御信号Seによって制御される。
【0018】
図2(a)は、HV用伝動装置20及び自動変速機45の具体例を説明する骨子図である。動力源としての電動機MG、モータ連結軸42、トルクコンバータ44、自動変速機45、及びトランスファ22は、非回転部材であるケース40内において共通の第1軸線CL1上に配設されている。
図2では第1軸線CL1の下半分が省略されている。
【0019】
エンジン12とモータ連結軸42との間には、エンジン断接クラッチK0が設けられている。モータ連結軸42には、エンジン12と共に走行用の動力源として用いられる電動機MGが、モータ断接クラッチK2を介して連結されている。エンジン断接クラッチK0及びモータ断接クラッチK2は、油圧制御回路48(
図1参照)から供給される係合油圧が、それぞれ電子制御装置150から出力されるK0切替信号Sk0、K2切替信号Sk2によって制御されることにより、個別に係合解放状態が切り替えられる。電動機MGは、電動機及び発電機としての機能を有するモータジェネレータで、図示しないインバータを介して蓄電装置に連結されており、電動機MGのトルクであるMGトルクTmgは、電子制御装置150から出力されるMG制御信号Smgによって制御される。
【0020】
トルクコンバータ44は、モータ連結軸42と連結されたポンプ翼車44a、及び変速機入力軸46と連結されたタービン翼車44bと、ポンプ翼車44a及びタービン翼車44bを連結するロックアップクラッチLUと、を備えている。ロックアップクラッチLUは、油圧式の摩擦係合装置であり、油圧制御回路48から供給される係合油圧が、電子制御装置150から出力されるLU制御信号Sluによって制御されることにより、係合解放状態が切り替えられる。
【0021】
自動変速機45は、例えば3組の遊星歯車装置PG1、PG2、PG3と、複数の油圧式の摩擦係合装置、すなわちクラッチC1~C4及びブレーキB1~B2と、を備えている、8速の自動変速機である。上記油圧式の摩擦係合装置は、油圧制御回路48から供給される係合油圧が、電子制御装置150から出力されるCB制御信号Scbによって制御されることにより、係合解放状態が切り替えられる。自動変速機45は、複数の係合装置CBの係合解放状態に応じて変速比γが異なる複数のギヤ段を択一的に形成することができる有段変速機である。
【0022】
図1の油圧制御回路48には、エンジン12によって直接的に或いはトルクコンバータ44のポンプ翼車44aを介して間接的に回転駆動される図示しない機械式油圧ポンプから吐出される油圧が元圧として供給されている。油圧制御回路48は、電磁切替弁や電磁調圧弁等を備えており、エンジン断接クラッチK0の係合油圧、ロックアップクラッチLUの係合油圧、自動変速機45の摩擦係合装置の係合油圧が、出力される。
【0023】
図2(b)は、トランスファ22の具体例を説明する骨子図である。トランスファ22は、ケース40の車両後方側に収容されている。トランスファ22は、ケース40内において、入力軸52、副変速機54、第1出力軸56、第2出力軸58、センターディファレンシャル60、及びデフロック噛合クラッチ機構62などを備えている。
【0024】
入力軸52は、自動変速機45の出力軸47に連結されており、エンジン12から自動変速機45を介して入力された動力によって回転駆動させられる。第1出力軸56は、リヤプロペラシャフト26に連結されている。第2出力軸58は、フロントプロペラシャフト24に連結されている。副変速機54は、シングルピニオン型の遊星歯車装置66と、ローギヤ段L又はハイギヤ段Hを選択的に成立させるハイロー噛合クラッチ機構68と、を備えている。
【0025】
ハイロー噛合クラッチ機構68には、サンギヤS1との噛合に関与する同期噛合機構が設けられていない。キャリアCA1には、ハイロー噛合クラッチ機構68のうちの、ローギヤ段Lの成立に関与するクラッチギヤ72が連結されている。
【0026】
ハイロー噛合クラッチ機構68は、ハイギヤ段Hを成立させる為にのサンギヤS1に連結されたサンギヤ連結歯70と、ローギヤ段Lを成立させる為の噛合クラッチ74を有している。噛合クラッチ74は、センターディファレンシャル60に備えられたデフケース76に対して第1出力軸56の軸心まわりの相対回転不能且つ第1出力軸56の軸心方向の相対移動可能に設けられた円筒状のスリーブ78を備えている。また、噛合クラッチ74は、スリーブ78の外周部に設けられた外周歯80と噛み合うクラッチギヤ72を備えている。
【0027】
副変速機54は、ハイロー噛合クラッチ機構68においてスリーブ78が第1出力軸56の軸心方向に摺動することでスリーブ78の内周歯とサンギヤ連結歯70とが噛み合うことにより、ハイギヤ段Hが成立させられる。又、副変速機54は、ハイロー噛合クラッチ機構68においてスリーブ78が第1出力軸56の軸心方向に摺動することでスリーブ78の外周歯80とクラッチギヤ72とが噛み合うことにより、ローギヤ段Lが成立させられる。副変速機54は、トランスファ22に設けられた、エンジン12の回転を変速してエンジン12からの動力を前輪14及び後輪16に伝達する有段変速機である。
【0028】
センターディファレンシャル60は、第1出力軸56及び第2出力軸58に対して、それらの間の回転差動を許容しつつ動力を分配する中央差動装置である。センターディファレンシャル60は、デフケース76、リングギヤR2、サンギヤS2、及びキャリアCA2などを備えている。デフケース76は、第1出力軸56の軸心まわりの回転可能に第1出力軸56に支持されている。リングギヤR2は、第1出力軸56に連結されている。
【0029】
トランスファ22は、ドライブスプロケット82、ドリブンスプロケット84、及びチェーン86を備えている。ドライブスプロケット82は、第1出力軸56に対して回転可能に支持されており、サンギヤS2に連結されている。ドリブンスプロケット84は、第2出力軸58に対して回転不能に連結されている。チェーン86は、ドライブスプロケット82及びドリブンスプロケット84に巻き掛けられている。ドライブスプロケット82の回転は、チェーン86を介してドリブンスプロケット84に伝達される。
【0030】
デフロック噛合クラッチ機構62は、トランスファ22を、選択的に、第1出力軸56と第2出力軸58との間の回転差動が制限されたデフロック状態と、回転差動が制限されないフリー状態と、2輪駆動状態とする。つまり、デフロック噛合クラッチ機構62は、トランスファ22の状態を前輪14と後輪16との間の回転差動が制限された差動制限状態とする差動制限機構である。
【0031】
デフロック噛合クラッチ機構62は、スリーブ88、及びクラッチギヤ90などを備えている。スリーブ88は、デフケース76に対して第1出力軸56の軸心まわりの相対回転不能且つ第1出力軸56の軸心方向の相対移動可能に設けられている。クラッチギヤ90は、スリーブ88の内周歯に噛み合う外周歯を有しており、ドライブスプロケット82とデフケース76との間に配置され、ドライブスプロケット82に連結されている。デフロック噛合クラッチ機構62は、スリーブ88がデフケース76と噛み合いつつクラッチギヤ90と噛み合うことにより、トランスファ22をセンターディファレンシャル60の差動が制限されたデフロック状態とする。
【0032】
トランスファ22は、シフトアクチュエータ92を備えている。ハイロー噛合クラッチ機構68及びデフロック噛合クラッチ機構62は、各々、後述する電子制御装置150によってシフトアクチュエータ92が駆動させられることで係合させられる。ハイロー噛合クラッチ機構68は、シフトアクチュエータ92の第1出力部材94が第1出力軸56の軸心方向へ作動させられることによってスリーブ78がその軸心方向へ作動させられ、ローギヤ段L又はハイギヤ段Hを選択的に成立させる。デフロック噛合クラッチ機構62は、シフトアクチュエータ92の第2出力部材96が第1出力軸56の軸心方向へ作動させられることによってスリーブ88がその軸心方向へ作動させられ、係合と解放とが切り替えられる。トランスファ22は、デフロック噛合クラッチ機構62の係合によって、デフロック状態とされ、デフロックがオンの4輪走行(例えばL4Lモード)とされる。トランスファ22は、デフロック噛合クラッチ機構62の解放によって、センターディファレンシャル60の差動が制限されないフリー状態とされ、デフロックがオフ状態の4輪走行(例えばH4又はL4モード)とされる。トランスファ22は、デフロック噛合クラッチ機構62をスリーブ88がクラッチギヤ90のみと噛み合う位置とすることにより、2輪走行状態(H2又はL2モード)とする。
【0033】
図1に戻り、車両10は、エンジン12の制御などに関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置150を備えている。電子制御装置150には、例えば、エンジン回転速度センサ112、MG回転速度センサ114、AT入力回転速度センサ116、AT出力回転速度センサ118、アクセル開度センサ120、スロットル弁開度センサ122、ブレーキ力センサ124、車輪速センサ126、ハイロー状態検出センサ128、デフ状態検出センサ130、油温センサ132、無線通信機134などから、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nmg、AT入力回転速度Ni、AT出力回転速度No、アクセルペダルの踏込み操作量に対応するアクセル開度θacc、エンジン12の電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ブレーキペダルの踏込み操作力に対応するブレーキ力Fbr、前輪14及び後輪16の各車輪速Nwfl、Nwfr、Nwrl、Nwrr、副変速機54がハイギヤ段Hかローギヤ段Lかを表すハイロー状態Phl、センターディファレンシャル60がフリー状態かデフロック状態かを表すデフ状態Pdiff、動力伝達装置18の潤滑油温度Toil、IoTデータSiotなどを表す信号がそれぞれ供給される。
【0034】
無線通信機134は、携帯無線網、無線LAN網、インターネット等の無線通信ネットワークを介して、車両10の組立て及び作動試験を行なった工場のサーバから、車両10個別の実際の自動変速機45のパッククリアランスのばらつきを含む個別のIoTデータSiotを、インターネットを介して取得する。
【0035】
電子制御装置150には、レンジ選択装置140、副変速機54をハイギヤ段Hにするかローギヤ段Lにするかを選択操作するハイロー選択装置142、センターディファレンシャル60をフリー状態にするかデフロック状態にするかを選択するデフ状態選択装置144から、それぞれ選択レンジ信号Srang、ハイロー選択信号Shl、デフ状態選択信号Sdiff、が供給される。これ等のレンジ選択装置140、ハイロー選択装置142、デフ状態選択装置144は、何れも運転席の近傍に配置されて運転者によって操作される。レンジ選択装置140は、例えばシフトレバーなどで、前進走行が可能なDレンジ、後進走行が可能なRレンジ、駐車用のPレンジなどを選択できる。ハイロー選択装置142は、例えばローギヤ段Lを選択する場合に操作されるローギヤ選択スイッチなどで、操作されない場合はハイギヤ段Hの選択になる。デフ状態選択装置144は、例えばデフロック状態を選択する場合に操作されるデフロック選択スイッチなどで、操作されない場合はフリー状態の選択になる。これ等のハイロー選択装置142、デフ状態選択装置144は、例えば走破性を高める場合に、副変速機54をローギヤ段Lにしたり、センターディファレンシャル60をデフロック状態にするために操作される。
【0036】
電子制御装置150は、アクセル開度θacc及び車速V等に基づいて要求駆動トルク等を算出し、その要求駆動トルク等が得られるようにエンジントルクTe及びMGトルクTmgを制御するとともに、予め定められた変速マップに従って自動変速機45の変速制御等を実行する他、トランスファ22の作動状態が異なる複数種類の走行モードを切り替える走行モード切替制御部152、低油温切替禁止制御部154、IoTデータ取得部156、低油温切替禁止領域補正部158、及びエンジン回転数ばらつき取得部160を、機能的に備えている。
【0037】
走行モード切替制御部152は、ハイロー選択装置142による選択及びデフ状態選択装置144による選択に応じて、ハイロー噛合クラッチ機構68及びデフロック噛合クラッチ機構62の作動状態を変更することにより、トランスファ22を、走行モードのいずれかに択一的に切り替える。具体的には、トランスファ22がハイギヤ段Hで4輪走行のH4モード、トランスファ22がハイギヤ段Hで2輪走行のH2モード、トランスファ22がローギヤ段Lで4輪走行のL4モード、トランスファ22がローギヤ段Lで2輪走行のL2モードのいずれかに切り替える。
【0038】
低油温切替禁止制御部154は、動力伝達装置18の潤滑油温度Toilが所定の第1低温範囲たとえば5℃~-40℃の範囲内であり且つパワーオンスイッチ操作であるイグニッションオン操作(低温時では直ちにエンジン12が起動される)からの経過時間teが所定の時間範囲内である低油温切替禁止領域A(
図3に示す領域A)内において、ハイロー選択装置142の操作に拘わらずトランスファ22のハイギヤ段H(以下、「高速段」という)からローギヤ段L(以下、「低速段」という)への切り替えを禁止する。
図3の低油温切替禁止領域Aは、潤滑油温度Toilを示す縦軸と、イグニッションオン操作からの経過時間teを示す横軸との二次元座標において、動力伝達装置18の潤滑油温度Toilが低くなるほど、イグニッションオン操作からの経過時間teが大きくなるように設定されている。
【0039】
エンジン12の始動時には潤滑油流量が多く、潤滑油温度Toilが低温となるほどその潤滑油の粘性が高いので、自動変速機45に供給される潤滑油は、機械式油圧ポンプに近い自動変速機45の入力側に位置するクラッチC4、C3、C1へ順に到達することで、クラッチC4、C3、C1(以下、これ等のクラッチを総称して「クラッチC」という)の引き摺りトルクが順に大きくなる。イグニッションオン操作(エンジン12の始動)直後にハイロー噛合クラッチ機構68による高速段から低速段への切り替え操作が行なわれると、クラッチCの引き摺りによる過大な引込みトルクによってハイロー噛合クラッチ機構68にギヤ鳴りが発生するなどの切替ショックが発生するため、上記のようにイグニッションオン操作からの経過時間teが所定の時間範囲内では、ハイロー噛合クラッチ機構68による高速段から低速段への切り替えが禁止されている。上記低油温切替禁止領域Aでは、過大な引込みトルクによる切替ショックの発生は抑制されるものの、低油温切替禁止領域Aが広くなり過ぎて、運転者に違和感を与える場合がある。このため、本実施例では、過大な引込みトルクによる切替ショックの抑制と運転者に与える違和感の抑制とを両立させるために、IoTデータ取得部156及び低油温切替禁止領域補正部158が設けられている。
【0040】
IoTデータ取得部156は、車両10の組立て及び作動試験を行なった工場のサーバから、車両10の個別の実際のクラッチCのパッククリアランスのばらつき、個別の潤滑油温度Toilを検出する油温センサ132の検出値のばらつきを含む個別のIoTデータを、インターネットに接続された無線通信機134を介して取得する。クラッチCのパッククリアランスのばらつきとは、クラッチC3、C4及びC1に関する、ピストンのリターン位置からパック詰め位置までのストローク(mm)、係合圧供給開始からトルクの発生までの時間すなわち上記ストロークの移動時間(sec)、或いは、クラッチC3、C4及びC1のパッククリアランスが寄与する合計引き摺りトルク(Nm)の統計的な標準値に対するずれ値である。また、油温センサ132の検出値のばらつきとは、たとえば油温センサ132の検出温度と実油温とのずれ値である。
【0041】
低油温切替禁止領域補正部158は、車両10の組立て及び作動試験を行なう工場からの個別のIoTデータに含まれる車両10に該当するクラッチCのパッククリアランスのばらつき及び潤滑油温度Toilを検出する油温センサ132の検出値のばらつきを見込んで車両10の低油温切替禁止制御部154で用いられる低油温切替禁止領域Aを補正する。
【0042】
図4は、低油温切替禁止領域補正部158による車両10のクラッチCのパッククリアランスのばらつきを見込んだ低油温切替禁止領域Aの補正を説明する図である。
図4は、
図3の一部を示していて、不利側を示す破線は、クラッチCのパッククリアランスのばらつきの統計的な最大値を見込んだベースマップである。低油温切替禁止領域補正部158は、クラッチCのパッククリアランスのばらつきが大側であるほど引き摺りトルクが小さいので、低油温切替禁止領域Aを有利側を示す1点鎖線側へ補正し、補正後の低油温切替禁止領域Aを低油温切替禁止制御部154の使用に供する。低油温切替禁止領域補正部158は、たとえば、ベースマップを示す破線を、縦軸方向において低油温側に補正し、横軸方向において経過時間短縮側に補正する。
【0043】
図5は、低油温切替禁止領域補正部158による車両10の油温センサ132の検出値のばらつきを見込んだ低油温切替禁止領域Aの補正を説明する図である。
図5は、
図3の一部を示していて、不利側を示す破線は、油温センサ132の検出値のばらつきの統計的な最大値を見込んだベースマップである。低油温切替禁止領域補正部158は、油温センサ132の検出値のばらつきが低温側であるほど実際の油温が高く、引き摺りトルクが小さいので、低油温切替禁止領域Aを有利側を示す1点鎖線側へ補正し、補正後の低油温切替禁止領域Aを低油温切替禁止制御部154の使用に供する。低油温切替禁止領域補正部158は、たとえば、ベースマップを示す破線を、縦軸方向において低油温側に補正し、横軸方向において経過時間短縮側に補正する。
【0044】
エンジン回転数ばらつき取得部160は、エンジン12の始動直後のエンジン回転速度Neのばらつきを、エンジン12の始動毎に取得する。エンジン回転速度Neのばらつきとは、電子制御装置150からの始動時の指令回転速度とエンジン回転速度センサ112により検出された実際のエンジン回転速度Neのずれ値である。
図6は、低油温切替禁止領域補正部158によるエンジン12の始動時のエンジン回転速度Neのばらつきを見込んだ低油温切替禁止領域Aの補正を説明する図である。
図6は、
図3の一部を示していて、不利側を示す破線は、エンジン回転速度Neのばらつきの統計的な最大値を見込んだベースマップである。始動時のエンジン回転速度Neが高いほどエンジン始動直後の潤滑油流量が多くなり、エンジン始動直後の引き摺りトルクは大きくなるものの、イグニッションオン操作からの経過時間teに対し、潤滑油流量の低下するタイミングが早まり、引き摺りトルクの低下するタイミングが早まる。そこで、低油温切替禁止領域補正部158は、エンジン回転速度Neのばらつきが高回転側であるほど、低油温切替禁止領域Aを有利側を示す1点鎖線側へ補正し、補正後の低油温切替禁止領域Aを低油温切替禁止制御部154の使用に供する。低油温切替禁止制御部154は、たとえば、ベースマップを示す破線を、縦軸方向において高油温側に補正し、横軸方向において経過時間短縮側に補正する。
【0045】
図7は、電子制御装置150の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図7のステップS1(以下、ステップを省略する)では、たとえばパワーオンスイッチが操作されることによってイグニションがオン状態とされる。次いで、IoTデータ取得部156に対応するS2では、車両10の組立て及び作動試験を行なった工場のサーバから、車両10の個別の実際のクラッチCのパッククリアランスのばらつき、個別の潤滑油温度Toilを検出する油温センサ132の検出値のばらつきを含む個別のIoTデータが、インターネットに接続された無線通信機134を介して取得される。そして、低油温切替禁止領域補正部158に対応するS3では、車両10の組立て及び作動試験を行なう工場からの個別のIoTデータに含まれる車両10に該当するクラッチCのパッククリアランスのばらつき及び潤滑油温度Toilを検出する油温センサ132の検出値のばらつきを見込んで車両10の低油温切替禁止制御部154で用いられる低油温切替禁止領域A(リジェクト制御マップ)が補正される。
【0046】
図8は、電子制御装置150の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図8のS11では、たとえばパワーオンスイッチが操作されることによってイグニションがオン状態とされ、エンジン12の始動が行なわれる。次いで、S12では、エンジン回転速度センサ112及び油温センサ132から、エンジン12の始動直後のエンジン回転速度Ne及び潤滑油温度Toilが取得される。
【0047】
S13では、エンジン12の始動直後のエンジン回転速度Neのばらつきが前回の制御サイクルにおけるエンジン12の始動直後のエンジン回転速度Neのばらつきと一致しているか否かが判断される。エンジン12の始動直後のエンジン回転速度Neのばらつきが前回の制御サイクルにおけるエンジン12の始動直後のエンジン回転速度Neのばらつきと不一致であれば、S14において、
図6を用いて説明したように低油温切替禁止領域Aが補正され、S15において、低油温切替禁止領域Aが補正後のものに更新される。一方、S13において、エンジン12の始動直後のエンジン回転速度Neのばらつきが前回の制御サイクルにおけるエンジン12の始動直後のエンジン回転速度Neのばらつきと一致していれば、S16において、低油温切替禁止領域Aが更新されない。
【0048】
S17では、油温条件である、潤滑油温度Toilが低油温切替禁止領域A内であるか否かが判断される。潤滑油温度Toilが低油温切替禁止領域A内でない場合は、S18において、通常制御が実行される。しかし、潤滑油温度Toilが低油温切替禁止領域A内である場合は、S19において、ハイロー選択装置142の操作に応答したトランスファ22の高速段から低速段への切り替えを禁止する低油温切替禁止制御(リジェクト制御)が実行される。
【0049】
上述のように、本実施例の電子制御装置150によれば、低油温切替禁止領域補正部158により、個別のIoTデータに含まれる動力伝達装置18内のクラッチCのパッククリアランスのばらつき及び前記動力伝達装置18の潤滑油温度Toilを検出する油温センサ132の検出値のばらつきを見込んで低油温切替禁止制御部154で用いられる低油温切替禁止領域Aが補正により再設定される。個別のIoTデータに含まれるクラッチCのパッククリアランスのばらつき及び油温センサ132の検出値のばらつきを見込んで個別に再設定された低油温切替禁止領域Aは、クラッチCのパッククリアランスのばらつきや油温センサ132の検出値のばらつき等を統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域(
図4、
図5の破線に示す領域)よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域Aが可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【0050】
また、本実施例の電子制御装置150によれば、低油温切替禁止領域Aは、動力伝達装置18の潤滑油温度Toilを示す縦軸と、イグニッションオン操作からの経過時間teを示す横軸との二次元座標において、動力伝達装置18の潤滑油温度Toilが低くなるほど、イグニッションオン操作からの経過時間teが大きくなるように設定されたものであり、低油温切替禁止領域補正部158は、クラッチCのパッククリアランスのばらつきが大側となるほど、油温センサ132の検出値のばらつきが低温側となるほど、低油温切替禁止領域Aの動力伝達装置18の潤滑油温度Toilを示す縦軸方向では低温側に補正し、イグニッションオン操作からの経過時間teを示す横軸方向では経過時間短縮側に補正する。この補正により再設定された低油温切替禁止領域Aは、クラッチCのパッククリアランスのばらつきや油温センサ132の検出値のばらつき等を統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域Aが可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【0051】
また、本実施例の電子制御装置150によれば、エンジン12の始動毎に、エンジン始動時のエンジン回転速度Neのばらつきを取得するエンジン回転数ばらつき取得部160を、備え、低油温切替禁止領域補正部158は、エンジン始動時のエンジン回転速度Neのばらつきを見込んで低油温切替禁止領域Aを、エンジン12の始動毎に再設定する。これにより、エンジン始動時のエンジン回転数のばらつきを見込んで個別に再設定され低油温切替禁止領域Aは、エンジン回転速度Neのばらつきを統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域(
図6の破線に示す領域)よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域Aが可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【0052】
また、本実施例の電子制御装置150によれば、低油温切替禁止領域Aは、動力伝達装置18の潤滑油温度Toilを示す縦軸と、イグニッションオン操作からの経過時間teを示す横軸との二次元座標において、動力伝達装置18の潤滑油温度Toilが低くなるほど、イグニッションオン操作からの経過時間teが大きくなるように設定されたものであり、低油温切替禁止領域補正部158は、エンジン始動時のエンジン回転速度Neのばらつきが高回転側となるほど、低油温切替禁止領域Aの動力伝達装置18の潤滑油温度Toilを示す軸方向では高温側に補正し、イグニッションオン操作からの経過時間teを示す軸方向では経過時間短縮側に補正する。この補正により再設定された低油温切替禁止領域Aは、エンジン回転数のばらつきNeを統計的に見込んで汎用的に設定された低油温切替禁止領域よりも小さくされるので、過大な引込みトルクによる切替ショックが抑制されつつ、低油温切替禁止領域Aが可及的に縮小されて、運転者に与える違和感が抑制される。
【0053】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0054】
たとえば、前述の実施例において、低油温切替禁止領域補正部158は、電子制御装置150に設けられていたが、車両10の組立て及び作動試験を行なった工場のサーバに設けられていてもよい。
【0055】
また、前述の実施例では、低油温切替禁止領域補正部158は、動力伝達装置18内のクラッチCのパッククリアランスのばらつき及び動力伝達装置18の潤滑油温度Toilを検出する油温センサ132の検出値のばらつきの両方に基づいて低油温切替禁止領域Aを補正していたが、動力伝達装置18内のクラッチCのパッククリアランスのばらつき及び動力伝達装置18の潤滑油温度Toilを検出する油温センサ132の検出値のばらつきの一方に基づいて低油温切替禁止領域Aを補正していてもよい。
【0056】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において変更が加えられ得る。