(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131900
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】パンの製造方法、生地の製造方法、小麦粉焼成物の製造方法およびパン
(51)【国際特許分類】
A21D 13/02 20060101AFI20240920BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A21D13/02
A21D2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042428
(22)【出願日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)ウェブサイトの掲載 令和4年3月23日,https://www.pref.yamanashi.jp/s-rikouken/seicyous/r4.html https://www.pref.yamanashi.jp/s-rikouken/seicyous/documents/sangise402-2.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】391017849
【氏名又は名称】山梨県
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】樋口 かよ
(72)【発明者】
【氏名】橋本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】長沼 孝多
(72)【発明者】
【氏名】有泉 直子
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 里樹
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DG03
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK16
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK55
4B032DL06
4B032DP08
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】ふすまに起因するにおいを低減する。
【解決手段】パンの製造方法は、パンの生地の材料を混合する混合工程と、混合工程にて得られる生地を発酵させる発酵工程と、発酵された生地を焼成する焼成工程と、を備え、混合工程にて用いる材料には、小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーが含まれることを特徴とする。そして、パンの製造方法によれば、ふすまに起因するにおいの発生が低減される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンの生地の材料を混合する混合工程と、
前記混合工程にて得られる生地を発酵させる発酵工程と、
発酵された前記生地を焼成する焼成工程と、
を備え、
前記混合工程にて用いる前記材料には、小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーが含まれる、ことを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
前記混合工程にて予め攪拌した前記セルロースナノファイバーを用いる、ことを特徴とする請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項3】
前記混合工程では、予め混ぜ合わせた前記ふすま粉と前記セルロースナノファイバーとを用いて、前記小麦粉と混合する、ことを特徴とする請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項4】
前記混合工程で用いる材料において、
前記小麦粉および前記ふすま粉の重量である粉重量に対する当該ふすま粉の重量が10%以上であって20%以下であり、
前記粉重量に対する前記セルロースナノファイバーの重量が0.2%以上であって0.5%以下である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のパンの製造方法。
【請求項5】
前記混合工程で用いる材料において、
前記粉重量に対する前記ふすま粉の重量が10%であり、
前記粉重量に対する前記セルロースナノファイバーの重量が0.2%以上であって0.5%以下である、ことを特徴とする請求項4に記載のパンの製造方法。
【請求項6】
前記混合工程にて1℃以上であって5℃以下に冷やした前記セルロースナノファイバーを用いる、ことを特徴とする請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバーは、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項8】
小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーを混合する混合工程を備える、ことを特徴とする生地の製造方法。
【請求項9】
生地の材料を混合する混合工程と、
前記生地を焼成する焼成工程と、
を備え、
前記混合工程にて用いる前記材料には、小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーが含まれる、ことを特徴とする小麦粉焼成物の製造方法。
【請求項10】
小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーを材料に含む、ことを特徴とするパン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンの製造方法、生地の製造方法、小麦粉焼成物の製造方法およびパンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ふすまおよび/または日持向上剤を使用したパンにおける、ふすま、日持向上剤由来の臭い、えぐ味や苦味などの不味さ、パサつきを低減し、食味・食感を改善することを課題とし、ふすまおよび/または日持向上剤と、小麦粉と、有機酸モノグリセリドおよび有機酸モノグリセリドとは異なる乳化剤とを含有するパンに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば小麦のふすまは、食物繊維やビタミンが比較的多く含まれている。そのため、ふすまを材料に含めることによって栄養価の高いパンなどの小麦粉焼成物を作ることが可能になる。しかしながら、ふすまを含む小麦粉焼成物は、ふすまに起因する特有なにおいが発生することが知られている。
本発明は、ふすまに起因するにおいを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、パンの生地の材料を混合する混合工程と、前記混合工程にて得られる生地を発酵させる発酵工程と、発酵された前記生地を焼成する焼成工程と、を備え、前記混合工程にて用いる前記材料には、小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーが含まれる、ことを特徴とするパンの製造方法である。
【0006】
ここで、前記混合工程にて予め攪拌した前記セルロースナノファイバーを用いるとよい。
また、前記混合工程では、予め混ぜ合わせた前記ふすま粉と前記セルロースナノファイバーとを用いて、前記小麦粉と混合するとよい。
また、前記混合工程で用いる材料において、前記小麦粉および前記ふすま粉の重量である粉重量に対する当該ふすま粉の重量が10%以上であって20%以下であり、前記粉重量に対する前記セルロースナノファイバーの重量が0.2%以上であって0.5%以下であるとよい。
また、前記混合工程で用いる材料において、前記粉重量に対する前記ふすま粉の重量が10%であり、前記粉重量に対する前記セルロースナノファイバーの重量が0.2%以上であって0.5%以下であるとよい。
また、前記混合工程にて1℃以上であって5℃以下に冷やした前記セルロースナノファイバーを用いるとよい。
また、前記セルロースナノファイバーは、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含むとよい。
【0007】
また、かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーを混合する混合工程を備える、ことを特徴とする生地の製造方法である。
また、かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、生地の材料を混合する混合工程と、前記生地を焼成する焼成工程と、を備え、前記混合工程にて用いる前記材料には、小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーが含まれることを特徴とする小麦粉焼成物の製造方法である。
また、かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、小麦粉、ふすま粉およびセルロースナノファイバーを材料に含む、ことを特徴とするパンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ふすまに起因するにおいを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のパンの製造方法により作製されるパンの全体図である。
【
図2】本実施形態のパンの製造方法のフロー図である。
【
図3】本実施形態のにおい評価および膨らみ評価の試験結果である。
【
図4】ふすま含有量に応じたパンの膨らみに関する試験結果である。
【
図6】CNF分散液の攪拌に関する試験結果を示す図である。
【
図7】セルロースナノファイバーの種類に応じたにおいの強度の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施形態について説明する。
【0011】
<小麦粉焼成物>
本実施形態では、小麦を用いた焼成物である小麦粉焼成物の製造方法について説明する。小麦粉焼成物は、パン、クッキー、スポンジケーキなどを例示できる。ここで、小麦粒は、胚乳、胚芽およびふすまと呼ばれる表皮から構成されている。本実施形態では、小麦粒を構成する麦芽およびふすまを除いた胚乳のみを製粉したものを「小麦粉」と呼ぶ。また、ふすまのみを製粉したものを「ふすま粉」と呼ぶ。
【0012】
そして、ふすま粉は、食物繊維やビタミンなどの栄養価を高めることができる材料である。一方で、ふすま粉を含む小麦粉焼成物は、ふすま粉を含まない小麦粉焼成物と比較して特有なにおいを生じさせる。本実施形態では、このふすまに起因するにおい(以下、ふすま臭と呼ぶ)を低減する方法について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態のパンの製造方法により作製されるパン1の全体図である。
本実施形態では、小麦粉焼成物のうちパンを製造する方法を一例として説明する。そして本実施形態の説明では、パン生地を直方体など形状の焼型に入れて焼いたパン1(食パン)を製造する例を用いる。
図1に示すように、本実施形態のパン1は、直方体形状をしている。また、パン1は、焼型における下側に対向する底部10と、焼型において開口している上側を向く上部20とを有する。なお、後述するパン1の高さHは、底部10から上部20における最も高い部分までの長さである。
【0014】
<パンの製造方法>
図2は、本実施形態のパンの製造方法のフロー図である。
図2に示すように、本実施形態のパンの製造方法は、材料を準備する準備工程S101と、材料を混合する第1混合工程S102と、混合したパン生地(ドウ)をねかせるねかし工程S103と、パン生地をさらに混合する第2混合工程S104と、パン生地を発酵させる発酵工程S105と、発酵させたパン生地を焼成する焼成工程S106と、を備える。
【0015】
(準備工程)
準備工程S101では、パン生地を作るための材料を準備する。本実施形態のパン生地の材料は、小麦粉、ふすま粉、食塩、ドライイースト、ショートニング、グラニュー糖、スキムミルク粉、水およびセルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)である。
【0016】
ここで、セルロースは、植物細胞壁の主成分であるβ-グルコースが直鎖状につながった天然高分子である。そして、セルロースナノファイバーは、セルロースをナノレベルまで解繊したものである。本実施形態のセルロースナノファイバーは、植物素材を機械的に解繊したものである。また、セルロースナノファイバーは、結晶部、準結晶部、非晶部からなるセルロースミクロフィブリル(シングルナノファイバー)単独または縦に引き裂かれたもの、もつれたもの、または網目状の構造を持つその集合体である。例えば、セルロースナノファイバーは、幅3~100nmであり、アスペクト比10以上であって、長さ100μmまでのものを例示できる。
【0017】
本実施形態では、セルロースナノファイバーを水に分散させた液体(以下、CNF分散液と呼ぶ)を用いる。本実施形態では、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを用いることができる。また、本実施形態のCNF分散液におけるセルロースナノファイバーの固形分(すなわち、セルロースナノファイバーそのもの)は、重量パーセントで2%である。本実施形態の説明において、材料として用いるCNF分散液は、水分とセルロースナノファイバーとを含むものである。その重量は、水分の重量とセルロースナノファイバーの重量の和である。一方で、本実施形態の説明において、セルロースナノファイバーの重量は、セルロースナノファイバーのみの量である。
【0018】
そして、準備工程S101では、各々の材料を計量する。本実施形態では、小麦粉は、208g(グラム)である。ふすま粉は、42gである。すなわち、小麦粉およびふすま粉の合計の重量は、250gとしている。さらに、ショートニングは、10gである。グラニュー糖は、17gである。スキムミルクは、6gである。食塩は、3.5gである。ドライイーストは、2.8gである。
【0019】
また、CNF分散液は、34gである。水は、166gである。CNF分散液と水との合計の重量は、200gになるようにしている。ここで、本実施形態のパンの製造方法では、パンの材料におけるセルロースナノファイバーの添加量に応じて、水の量を変化させるようにしている。上述のとおり、CNF分散液は、水分を含む液体である。したがって、本実施形態では、CNF分散液に含まれる水分の重量と、添加する水の重量との合計でパン生地の材料の水分量を取り扱うようにしている。
【0020】
また、本実施形態の準備工程S101において、水およびCNF分散液の温度を予め1℃以上であって5℃以下にしたものを準備する。本実施形態では、5℃の水およびCNF分散液を用いる。本実施形態では、水およびCNF分散液の温度を比較的低温にしたものを用いることで、例えば気温の変化に応じたパン生地の温度の変化が小さくなるようにしている。
【0021】
そして、本実施形態のパンの材料は、小麦粉およびふすま粉の重量(以下、粉重量)に対するふすま粉の重量(以下、ふすま含有量)を10%以上であって20%以下に設定している。そして、本実施形態のパンの材料は、粉重量に対するセルロースナノファイバーの重量(以下、CNF含有量)が0.2%以上であって0.5%以下になっている。より好ましくは、ふすま含有量は、10%であって、CNF含有量が0.2%以上であって0.5%以下になっている。
【0022】
(第1混合工程)
第1混合工程S102では、準備工程にて準備した材料を混合する。まず、混合ケース(焼型)に、準備した材料のうち粉体の材料を先に投入し、その後に液体の材料を投入する。すなわち、混合ケースには、小麦粉、ふすま粉、食塩、ショートニング、グラニュー糖およびスキムミルク粉を先ず入れる。その後、混合ケースに、CNF分散液および水を入れる。
そして、混合ケースに入れた材料を混合する。本実施形態では、混合ケースに設けられた回転可能な羽根を用いて材料を混合(所謂、ねり)する。混合時間は、約20分間である。その後、材料が混合されることで作製されたパン生地にドライイーストを投入する。
【0023】
(ねかし工程)
ねかし工程S103では、パン生地を混合せずに、単に静置する。本実施形態のねかし工程S103では、約26℃で約32分間、パン生地をねかす。
【0024】
(第2混合工程)
第2混合工程S104では、上述した混合ケースに設けられた羽根を用いて、再度、パン生地を混合する。混合時間は、約13分間である。
【0025】
(発酵工程)
発酵工程S105では、各混合工程を経て作製したパン生地を発酵させる。本実施形態の発酵工程S105では、パン生地を約33℃で約87分間、発酵させる。さらに、発酵工程S105では、パン生地を約39℃で約41分間、発酵させる。このように、発酵工程S105では、異なる温度による複数の発酵の工程を設けている。また、発酵工程S105では、後段の工程において、前段の工程よりも温度を高くするとともに時間を短くしている。
【0026】
(焼成工程)
焼成工程S106では、発酵工程で発酵されたパン生地を焼成する。具体的には、焼成工程S106では、焼成ケースにパン生地を収容する。そして、焼成工程S106では、パン生地を約150℃で約38分間、加熱する。
【0027】
焼成工程S106が完了し、焼き上がったパンは、焼成ケースから取り出す。このとき、焼き上がってから直ぐにパンを焼成ケースから取り出してもよく、例えば約3時間など比較的長い時間が経過した後にパンを焼成ケースから取り出してもよい。特に、本実施形態のパンには、セルロースナノファイバーが含まれている。そのため、焼成ケースから焼き上がったパンを取り出すまでに比較的長い時間が経過した場合であっても、パンが腰折れしにくくなっている。
【0028】
そして、本実施形態のパンの材料には、上述のとおりセルロースナノファイバーが添加されている。そして、セルロースナノファイバーの作用によって、ふすま臭の低減されたパンを製造することができる。
【0029】
なお、本実施形態のパンの製造方法は、上記の工程に限定されない。例えば、予めふすま粉をCNF分散液、あるいはCNF分散液および水と混合する。そして、予め混ぜ合わせたふすま粉とCNF分散液とを用いて、ふすま粉を除く他の材料である小麦粉などと混合させてもよい。このように、ふすま粉にセルロースナノファイバーを含むCNF分散液を密接させることで、ふすま臭をより低減することができる。
【0030】
<試験および評価>
続いて、ふすま含有量に応じたふすま臭の低減およびパンの膨らみについての試験および評価について説明する。本実施形態では、ふすま含有量とCNF含有量とについて複数パターンのパンを作製した。なお、作製したパン材料の構成は、本実施形態のパンの製造方法に従うものである。そして、作製した複数のパンについて、ふすま臭に関する官能試験およびパンの膨らみ評価を行った。
【0031】
(官能試験)
官能試験では、ふすま粉が添加されたパンを準備した。さらに、パンには、セルロースナノファイバーを添加したものと、セルロースナノファイバーを添加しないパンを準備した。ふすま粉のふすま含有量は、10%、20%、25%、30%および35%の5種類を準備した。セルロースナノファイバーのCNF含有量は、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%および0.7%の5種類を準備した。なお、試験結果において、サンプルの準備ができなかったものについては「-(ブランク)」を表示している。
【0032】
官能試験では、複数の評価員によって、パンのにおい(香り)の評価を行った。評価は、例えばにおいが良好とする肯定的な評価をした人数の割合に基づいて特定した。すなわち、70%以上100%の評価員が良好とした場合には、評価Aとした。50%以上70%未満の評価員が良好とした場合には、評価Bとした。また、50%未満の評価員だけが良好とした場合には、評価Cとした。
【0033】
(膨らみ評価)
膨らみ評価は、焼きあがったパンの高さの測定と、比容積との測定とに基づいて行った。
パンの高さの測定は、焼きあがったパンの底面から、鉛直方向における最も高い部分をパンの高さとした(
図1参照)。パンの高さは、パンが膨らんでいることを把握するための指標となる。
比容積は、単位質量の物質が占める容積のことである。そして、本実施形態で用いた比容積の測定方法は、菜種置換法によるものである。本実施形態において、比容積は、パンが膨らんでいることを把握するための指標となる。
【0034】
本実施形態の膨らみ評価では、高さおよび比容積の結果に基づいて、最も良い評価を「A」、次に好ましい評価を「B」、悪い評価を「C」とした。膨らみ評価が良いパンは、サイズが比較的大きく、食感も比較的柔らかく好ましいものである。一方で、膨らみ評価が悪いパンは、サイズが比較的小さく、食感も比較的硬く、パサパサとしていて好ましくないものである。
【0035】
図3は、本実施形態のにおい評価および膨らみ評価の試験結果である。
図4は、ふすま含有量に応じたパンの膨らみに関する試験結果である。
【0036】
ふすま含有量およびCNF含有量を異ならせて作製したパンについて、ふすま臭の低減効果を検討した。
【0037】
まず、ふすま粉を含むパンについて、セルロースナノファイバーを添加した場合には、セルロースナノファイバーを添加しないものと比較して、ふすま臭の低減に一定の効果があることが見いだされた。
【0038】
そして、ふすま含有量が10%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.1%である場合が評価C、0.2%である場合が評価A、0.3%である場合が評価A、0.5%である場合が評価A、0.7%である場合が評価Aとなった。
【0039】
ふすま含有量が20%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.1%である場合が評価C、0.2%である場合が評価B、0.3%である場合が評価A、0.5%である場合が評価A、0.7%である場合が評価Aとなった。
【0040】
ふすま含有量が25%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.2%である場合が評価C、0.3%である場合が評価A、CNF含有量が0.5%である場合が評価A、0.7%である場合が評価Aとなった。
【0041】
ふすま含有量が30%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.2%である場合が評価C、0.5%である場合が評価B、0.7%である場合が評価Aとなった。
【0042】
ふすま含有量が35%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.5%である場合が評価B、0.7%である場合が評価Aとなった。
【0043】
以上の結果から、ふすま粉がふすが含有量が10%以上であって20%以下である場合、セルロースナノファイバーのCNF含有量を0.2%以上にすることで、ふすま臭の低減の効果があるという傾向が見いだされた。ふすま含有量25%である場合には、CNF含有量が0.3%以上であれば効果があることが見いだされた。また、ふすま含有量30%である場合には、CNF含有量が0.5%以上であれば効果があることが見いだされた。そして、ふすま含有量35%である場合には、CNF含有量が0.5%以上であれば効果があることが見いだされた。
【0044】
続いて、パンの膨らみについて検討する。
【0045】
セルロースナノファイバーを添加していない材料を用いて、ふすま含有量を異ならせて作製したパンについて膨らみ評価を行った。
図4に示すように、セルロースナノファイバーを添加せずに、ふすま含有量が10%である場合には、比容積が4.4であって高さが14.0cmとなった。ふすま含有量が20%である場合には、比容積が3.5であって高さが13.5cmとなった。ふすま含有量が25%である場合には、比容積が2.9であって高さが12.0cmとなった。ふすま含有量が30%である場合には、比容積が2.7であって高さが11.0cmとなった。ふすま含有量が35%である場合には、比容積が2.4であって高さが10.0cmとなった。
【0046】
そして、上記のパンの高さおよび比容積の結果に応じた、膨らみ評価は以下のとおりであった。ふすま含有量が10%である場合には、評価Aとなった。ふすま含有量が20%である場合には、評価Aとなった。ふすま含有量が25%である場合には、評価Bとなった。ふすま含有量が30%である場合には、評価Bとなった。また、ふすま含有量が35%である場合には、評価Cとなった。
このように、ふすま含有量が大きくなるにしたがって、パンが膨らみにくくなる傾向が見いだされた。また、膨らみ評価が低いパンは、パンとしても硬く、パサパサな食感となってパンとして好ましくなかった。
【0047】
以上より、ふすまの含有量が20%より大きくなると、パンの膨らみの観点において評価が低くなることが分かった。そして、ふすまの含有量が30%より大きくなると、パンの膨らみの観点において評価がさらに低くなることが分かった。パンの膨らみは、パンの美味しさにも影響する。特に、膨らみが悪くなると、パンが硬く感じられパンとして美味しくなくなるという傾向が明らかとなった。
【0048】
次に、セルロースナノファイバーのCNF含有量に応じた、パンの膨らみについて検討する。
ふすま含有量が10%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.1%である場合が評価A、0.2%である場合が評価A、0.3%である場合が評価A、0.5%である場合が評価A、0.7%である場合が評価Cとなった。
【0049】
ふすま含有量が20%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.1%である場合が評価A、0.2%である場合が評価A、0.3%である場合が評価B、0.5%である場合が評価B、0.7%である場合が評価Cとなった。
【0050】
ふすま含有量が25%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.2%である場合が評価C、0.3%である場合が評価C、0.5%である場合が評価C、0.7%である場合が評価Cとなった。
【0051】
ふすま含有量が30%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.2%である場合が評価C、0.5%である場合が評価C、0.7%である場合が評価Cとなった。
【0052】
ふすま含有量が35%である場合は、以下の結果となった。CNF含有量が0.5%である場合が評価C、0.7%である場合が評価Cとなった。
【0053】
以上より、ふすまの含有量が25%以上になると、セルロースナノファイバーによるふすま臭の低減に関わらず、パンの膨らみの観点から評価が著しく低くなることが分かった。
そして、ふすま臭の低減およびパンの膨らみの観点からは、ふすま含有量が10%以上であって20%以下、かつ、CNF含有量が0.2%以上であって0.5%以下が好ましいことが見いだされた。より好ましくは、ふすま含有量が10%であって、CNF含有量が0.2%以上かつ0.5%以下が好ましいことが見いだされた。
【0054】
続いて、CNF分散液の攪拌について説明する。
図5は、CNF分散液の攪拌に関する説明図である。
図6は、CNF分散液の攪拌に関する試験結果を示す図である。
【0055】
ふすま含有量が20%であって、セルロースナノファイバーのCNF含有量が0.3%となる材料を用いてパンを作製した。さらに、材料に攪拌したCNF分散液を用いたものと、攪拌しないCNF分散液を用いたものとをそれぞれ作製した。
【0056】
CNF分散液は、ミキサーを用いて攪拌した。本実施形態では、電動ハンドミキサー(ヒロ・コーポレーション製HM-006)を用いて、強さ3~4の設定で1分間、CNF分散液を攪拌した。
図5(A)に示す攪拌前のCNF分散液30の粘度を測定したところ、4100mPa・sであった。一方、
図5(B)に示す攪拌後のCNF分散液30の粘度を測定したところ、3200mPa・sであった。このように、攪拌されたCNF分散液30は、攪拌前のCNF分散液30と比較して粘度が低下した。そして、攪拌されたCNF分散液30は、攪拌前のCNF分散液30と比べてよりサラサラとした状態になった。
【0057】
なお、粘度の測定は、B型粘度計(東機産業製TVB-10M、ロータTHM-12アダプタ)と、25℃の循環恒温槽(ユラボジャパン製CORIO CD-200F)とを用いて実施した。CNF分散液のサンプル10mLを、アダプタにセットし5分後に粘度の測定を行った。ストップタイムは30秒であり、9rpmの条件とした。
【0058】
図6(A)に示すように、攪拌したCNF分散液を用いたパンは、他のパンと比較して最も大きい外形をしていることが確認できた。また、
図6(B)に示すように、セルロースナノファイバーを添加しないパン(Control)は、パンの高さが12.2cmであり、比容積が3.1となった。これに対して、攪拌したCNF分散液を用いたパンは、パンの高さが12.9cmであって比容積が3.2となった。一方で、攪拌しないCNF分散液を用いたパンは、パンの高さが12.4cmであって比容積が3.0となった。
この結果より、攪拌したCNF分散液を用いることで、パンが膨らみ易くなることが見いだされた。
【0059】
また、攪拌したCNF分散液を用いたパンと、攪拌しないCNF分散液とを用いたパンとについて、複数(5人)の評価者によって、ふすま臭の低減について評価を行った。そして、評価者全員が、攪拌したCNF分散液を用いたパンは、攪拌したCNF分散液を用いたパンと比較してふすま臭が低減されたと評価した。
【0060】
上述のとおり、CNF分散液を攪拌することで、セルロースナノファイバーの粘度が低下し、パン生地の材料を作成する際に粉の材料と混ざり易くなったと推察される。その結果として、材料とCNF分散液とがより混合し、パンを焼成した際に膨らみ易くなったものと考えられる。また、セルロースナノファイバーがふすま粉をより覆い易くなり、ふすま臭の発生が低減されたと考えられる。
【0061】
<セルロースナノファイバーの種類の比較>
続いて、セルロースナノファイバーの種類とふすま臭の低減の程度との比較について説明する。
図7は、セルロースナノファイバーの種類に応じたにおいの強度の実験結果を示す図である。
【0062】
ふすま含有量が20%であって、セルロースナノファイバーのCNF含有量が0.3%となる材料を用いてパンを作製した。そして、セルロースナノファイバーについては、以下の異なる複数種類についてそれぞれ作成した。
カルボキシメチル化セルロースナノファイバー(以下、CM化CNF)、生物由来のセルロースナノファイバー(以下、BioCNF)、ふすま由来のセルロースナノファイバー(以下、ふすまCNF)、ブドウ由来のセルロースナノファイバー(以下、ブドウCNF)である。
【0063】
以上のように、複数のセルロースナノファイバーを用いて作製したパンを準備し、機器分析によるにおいの評価を行った。
ガスクロマトグラフ分析機器(フラッシュGCテクノロジー:Heracles NEO)を用いてにおいの成分を分析した。この評価では、揮発成分を分離し、多変量分析手法を組み合わせ、においの成分に応じたパターン認識と成分分析を行った。
【0064】
なお、においの強度は、空のサンプルと、各サンプルの距離を算出し、空のサンプルに対して距離が大きいほどにおいが強いという評価を行った。
【0065】
図7に示すように、においの強度の比較結果が得られた。そして、においの強度は、高い方から低い方に向けて、Control(セルロースナノファイバーの添加なし)、ブドウCNF、BioCNF、ふすまCNF、CM化CNFの順になった。すなわち、CM化CNFは、最もにおいが低減されることが見いだされた。
【0066】
また、本実施形態において、実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してもよい。
さらに、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…パン、10…底部、20…上部、30…CNF分散液