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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131908
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】パイル織物の重量適否判定装置
(51)【国際特許分類】
   D03D 39/00 20060101AFI20240920BHJP
   D03D 49/04 20060101ALI20240920BHJP
   D03D 47/39 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D03D39/00
D03D49/04
D03D47/39 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042472
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】592134583
【氏名又は名称】愛媛県
(71)【出願人】
【識別番号】391055302
【氏名又は名称】有限会社田崎エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110003959
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】武田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小平 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 慎
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 喜大
【テーマコード(参考)】
4L050
【Fターム(参考)】
4L050AA23
4L050AB09
4L050CA12
4L050CC17
4L050EA02
4L050EA07
4L050EA08
4L050EC03
4L050EC04
4L050ED03
4L050ED04
4L050EE03
(57)【要約】
【課題】パイル織物の重量の異常を製織中にリアルタイムに直感的に把握して素早い対処を可能にし、パイル織機の歩留まり向上を図ることができ、パイル織機の制御に精通した技術者でなくても、既設のパイル織機に比較的簡単に少ない費用で適用することができるパイル織物の重量判定装置を提供する。
【解決手段】
筬打ち毎の筬打ち検知信号Pf、筬打ち毎のパイル経糸の繰り出し長さの計測値Lm、及びパイル経糸長さ補正率S1の設定値に基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸3の予想繰り出し長さLr、及びパイル織物の一単位毎の予想重量Wを算出し、その予想重量Wの算出値Wが、目標値設定部24に設定された所要重量の上限値Wmaxと下限値Wminとの間にあるか否か判定部25を判定し、その判定結果J1及び筬打ち所定回数毎のパイル経糸の予想繰り出し長さLrを出力部28に表示する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製織中のパイル織機における筬打ちを検知して該筬打ち毎に筬打ち検知信号を出す筬打ち検知部と、
前記パイル経糸の繰り出し長さを時々刻々計測する繰り出し長さ計測部と、
前記繰り出し長さ計測部によるパイル経糸の繰り出し長さの計測値の、織り上がったパイル織物中のパイル経糸の長さの実測値に対する誤差を補正するためのパイル経糸長さ補正率を設定するパイル経糸長さ補正率設定部と、
前記パイル織物の一単位の所要重量及び該パイル織物の一単位の所要重量の許容誤差を設定する目標値設定部と、
前記筬打ち検知信号、前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さ、及び前記パイル織物の一単位毎の予想重量を算出し、該パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記パイル織物の一単位の所要重量の上限値と下限値との間にあるか否かを判定する判定部と、
前記判定部からの前記判定結果及び前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さを表示する出力部と、
を備えることを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記筬打ち検知部は、ファーストピック位置及びルーズピック位置のうちのファーストピック位置に移動した筬のみを検知する光電センサを有し、該光電センサによる検知信号を前記筬打ち検知信号として出力することを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記筬打ち検知部は、筬の往復運動を検知する光電センサと、該光電センサからの検知信号を計数し、その計数値が、一つのパイル形成に必要なルーズピック及びファーストピックの回数の合計値に達する度に、前記筬打ち検知信号を出力することを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項4】
請求項1に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記繰り出し長さ計測部は、前記パイル経糸の繰り出しに応じて回転するよう前記パイル経糸の走行経路に設置した計測ローラと、該計測ローラの回転に応じてパルス信号を出すロータリエンコーダとを有し、
前記計測ローラは、パイル織機の緯糸方向の中央部分に配置されることを特徴とするパイル織物重量判定装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記判定部は、
前記筬打ち検知信号及び前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値に基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さ、及び前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の繰り出し長さを算出する第一の算出部と、
前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の送り出し長さ、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づきパイル織物の一単位の予想重量を算出する重量算出部と、
前記パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記目標値設定部に設定された前記パイル織物の一単位の所要重量の上限値と下限値との間にあるか否かを判定する第一の判定部と、
前記第一の算出部からの、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値、及び前記第一の判定部からの判定結果を含む長さ監視用データを作成すると共に、所定数の前記長さ監視用データを新しい順に並べて筬打ち所定回数毎に出力する、長さ監視用データ作成部とを備え、
前記出力部は、前記判定部からの長さ監視用データを所定数同時に時々刻々表示することを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項6】
請求項5に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記パイル織物の一単位毎の始端を検知する始端検知部を備え、
前記判定部は、
前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値及び前記始端検知部からの始端検知信号に基づき、前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の繰り出し長さを算出する第二の算出部と、
前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の送り出し長さ、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づきパイル織物の一単位の予想重量を算出する重量算出部と、
前記パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記目標値設定部に設定された前記パイル織物の一単位の所要重量の上限値と下限値との間にあるか否かを判定する第二の判定部と、
前記重量算出部からのパイル織物の一単位の予想重量の算出値と、前記第二の判定部からの判定結果を含む重量監視用データを作成すると共に、所定数の前記重量監視用データを新しい順に並べて前記パイル織物の一単位毎に出力する重量監視用データ作成部とを備え、
前記出力部は、前記判定部からの長さ監視用データを所定数同時に時々刻々表示することを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項7】
請求項6に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記パイル織物のパイル区間を検知するパイル区間検知部を備え、
前記第二の判定部は、前記パイル区間検知部がパイル区間を検知していないときは、前記パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記パイル織物の所要重量の上限値と下限値との間になくても重量不適との判定をしないことを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項8】
請求項6に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記パイル織機は、緯糸を通すために地経糸及びパイル経糸を開口運動させる多数のハーネスを有するジャカード機を備えたものであり、
前記始端検知部は、前記ジャカード機においてパイル織物一単位の始端毎に動作するよう設定されたハーネスの動作を検知するセンサであることを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項9】
請求項8に記載のパイル織物の重量適否判定装置であって、
前記パイル織機は、緯糸を通すために地経糸及びパイル経糸を開口運動させる多数のハーネスを有するジャカード機を備えたものであり、
前記パイル区間検知部は、前記ジャカード機においてパイル織物一単位のパイル区間毎に動作するよう設定されたハーネスの動作を検知するセンサであることを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【請求項10】
製織中のパイル織機における筬打ちを検知して該筬打ち毎に筬打ち検知信号を出す筬打ち検知部と、
前記パイル経糸の繰り出し長さを時々刻々計測する繰り出し長さ計測部と、
前記繰り出し長さ計測部によるパイル経糸の繰り出し長さの計測値の、織り上がったパイル織物中のパイル経糸の長さの実測値に対する誤差を補正するためのパイル経糸長さ補正率を設定するパイル経糸長さ補正率設定部と、
前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さ及び該所要繰り出し長さの許容誤差を設定する目標値設定部と、
前記筬打ち検知信号、前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づき、前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さを算出し、該筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値が、前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さの上限値と下限値との間にあるか否かを判定する判定部と、
前記判定部から前記筬打ち所定回数毎の繰り出し長さの算出値、及び、それに対する前記判定結果を受けて、前記判定結果及び前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値を表示する出力部と、
を備えることを特徴とするパイル織物の重量適否判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル織機による製織中にパイル織物の重量の適否を判定することができるパイル織物の重量判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パイル織物は、パイル織機のテリーモーションによって形成された多数のパイルを有している。このパイル織物の品質は、パイル織物の一単位の重量によって評価され、パイル織物の取引時には、パイル織物の一単位の重量と、その許容誤差範囲が指定されることが多い。パイル織物の一単位とは、そのパイル織物から形成される、例えばタオル一枚分に相当する部分の重量であり、パイル織物の一単位の重量が許容誤差の範囲内に収まっていないと、そのパイル織物は規格外となり、その製品価値が低下してしまう。
【0003】
織り上がったパイル織物のパイルは、パイル経糸の供給量等に応じてパイル高さが決まり、パイル織物の一単位の重量にばらつきが生じ易い。そこで、パイル経糸消費量を適切な範囲に調節して、パイル織物の重さを調節できるようにするために、従来においては、例えば特許文献1に開示されているように、パイル製織中における地経糸の消費量とパイル経糸の消費量との比に基づきパイル倍率を算出する手段を備え、パイル倍率に対する許容範囲を設定可能に構成するとともに、求めたパイル倍率が前記許容範囲から逸脱したときに、パイル倍率を前記許容範囲内に戻す方向に、パイル重さに関連する少なくとも1つの製織条件のパラメータを補正することができるパイル織機が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-169227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にパイル織機は機械的に耐久性があり、現在、パイル織物の製造工場には、旧式のパイル織機が多数設置されている。そして、このようなパイル織機に対して歩留まりの改善が強く求められている。そこで、上述のような、パイル倍率の許容範囲からの逸脱に応じて、自動的にパイル倍率を許容範囲内に戻す方向に補正することができるパイル織機のような歩留まりの向上が期待できる最新鋭のパイル織機を導入することも考えられる。
【0006】
しかし、タオル等のパイル織物の製造業者には、資本の規模が小さい企業もあり、そのような製造業者にとっては、多額の設備投資を行って最新式のパイル織機を導入するのは困難な場合が多い。また現在稼働中のパイル織機を廃棄して、上述のような高機能のパイル織機を導入するのは、持続可能な社会を目指す観点からも好ましくない。また現在工場に設置されているパイル織機を、上述のような高性能のパイル織機に改造するためには、パイル織機メーカーの設計技術者のようにパイル織機の機構や制御に精通した技術者が必要であるが、多くのパイル織物の製造工場には、そのような技術者が不在であるのが普通であり、既設のパイル織機を高性能のものに改造するのは、現実には不可能に近い。
【0007】
更に、上述のような、パイル製織中における地経糸の消費量とパイル経糸の消費量との比に基づきパイル倍率を算出する手段を備え、自動的にパイル重さに関連する少なくとも1つの製織条件のパラメータを補正するパイル織機であっても、初期のパイル倍率の設定値の不適合によって、例えば製織開始直後にパイル形成不良が生じる場合がある。その場合、パイル倍率等の設定値が表示されていたとしても、そのパイル倍率の設定値からはパイル経糸の繰り出し状態を直感的に把握できず、他に設定値修正の判断指針となるデータの表示がないためパイル倍率の設定を的確に修正しにくい。そのため設定値の修正が遅れてパイル形成不良部分が多くなり、歩留まりの低下を防ぐことかできない。またパイル経糸の材質、パイル経糸の糊付け状態、製造工場の室温の変化等によって制御誤差が生じる場合があり、そのような場合に、その時のパイル経糸の繰り出し長さやパイル織物一単位の重量の状態を直感的に即座に把握するための手段を有していないので、製織中のパイル織機に対して素早く適切な対処をすることができない。
【0008】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、パイル織物の重量の異常を製織中にリアルタイムに直感的に把握して素早い対処を可能にし、パイル織機の歩留まり向上を図ることができ、パイル織機の制御に精通した技術者でなくても、既設のパイル織機に比較的簡単に少ない費用で適用することができるパイル織物の重量判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の第1の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、製織中のパイル織機における筬打ちを検知して該筬打ち毎に筬打ち検知信号を出す筬打ち検知部と、前記パイル経糸の繰り出し長さを時々刻々計測する繰り出し長さ計測部と、前記繰り出し長さ計測部によるパイル経糸の繰り出し長さの計測値の、織り上がったパイル織物中のパイル経糸の長さの実測値に対する誤差を補正するためのパイル経糸長さ補正率を設定するパイル経糸長さ補正率設定部と、前記パイル織物の一単位の所要重量及び該パイル織物の一単位の所要重量の許容誤差を設定する目標値設定部と、前記筬打ち検知信号、前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さ、及び前記パイル織物の一単位毎の予想重量を算出し、該パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記パイル織物の一単位の所要重量の上限値と下限値との間にあるか否かを判定する判定部と、前記判定部からの前記判定結果、及び前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さを表示する出力部と、を備えるよう構成できる。
【0010】
上記構成により、パイル織機の操作者は、製織中に、パイル経糸の繰り出し長さとその適否の判断結果の表示から、パイル経糸の供給量の状態をパイル経糸の繰り出し長さとして直感的にリアルタイムに把握することができ、パイル織物の重量の異常を素早く察知して適切な素早い対処が可能になる。しかも、本発明は、パイル織機の機構や制御に精通した専門の技術者でなくても、例えばパイル織物の製造工場のメンテナンス技術者やパイル織機の操作者のようにパイル織機について一般的な知識をもつ者であれば、既設のパイル織機に簡単にアタッチメントとして適用することができる。したがって、既設のパイル織機に比較的簡単に少ない費用で適用することができ、既設のパイル織機の歩留まりを大幅に向上させることができるパイル織物の重量判定装置を提供することができる。
【0011】
本発明の第2の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、前記筬打ち検知部は、ファーストピック位置及びルーズピック位置のうちファーストピック位置に移動した筬のみを検知する光電センサを有し、該光電センサによる検知信号を前記筬打ち検知信号として出力するよう構成できる。前記構成によれば、光電センサをパイル織機に比較的簡単に取り付けることができるので都合がよい。
【0012】
本発明の第3の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、前記筬打ち検知部は、筬の往復運動を検知する光電センサと、該光電センサからの検知信号を計数し、その計数値が、一つのパイル形成に必要なルーズピック及びファーストピックの回数の合計値に達する度に、前記筬打ち検知信号を出力するよう構成できる。
【0013】
前記構成により、筬が後退位置と一定の前進位置との間のみで往復運動し、かつルーズピック時にパイル織機のパイル織物の織前が筬に対して所定距離だけ前方へ移動して筬から退避するように構成されているパイル織機であっても筬打ちを検知することが可能になる。
【0014】
本発明の第4の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、前記繰り出し長さ計測部は、外周を前記パイル経糸が巻きかけて走行するよう前記パイル経糸の走行経路に設置した計測ローラと、該計測ローラの回転に応じてパルス信号を出すロータリエンコーダとを有し、前記計測ローラは、パイル織機の緯糸方向の中央部分に配置されるよう構成できる。前記構成により、計測ローラとロータリエンコーダとをパイル織機に比較的簡単に取り付けることができるので都合がよい。また、前記構成により、計測ローラによる計測誤差を、その他の部分に配置する場合に比べて小さく抑えることができる。
【0015】
本発明の第5の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、前記判定部は、前記筬打ち検知信号及び前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値に基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さ、及び前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の繰り出し長さを算出する第一の算出部と、前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の送り出し長さ、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づきパイル織物の一単位の予想重量を算出する重量算出部と、前記パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記目標値設定部に設定された前記パイル織物の一単位の所要重量の上限値と下限値との間にあるか否かを判定する第一の判定部と、前記第一の算出部からの、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値、及び前記第一の判定部からの判定結果を含む長さ監視用データを作成すると共に、所定数の前記長さ監視用データを新しい順に並べて筬打ち所定回数毎に出力する、長さ監視用データ作成部とを備え、前記出力部は、前記判定部からの長さ監視用データを所定数同時に時々刻々表示するよう構成できる。
【0016】
前記構成により、直近の筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの変化履歴を容易に把握することができ、製織中のパイル織機におけるパイル経糸の繰り出し長さの調整を的確に行うことができるようになる。
【0017】
本発明の第6の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、更に、前記パイル織物の一単位毎の始端を検知する始端検知部を備え、前記判定部は、前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値及び前記始端検知部からの始端検知信号に基づき、前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の繰り出し長さを算出する第二の算出部と、前記パイル織物の一単位毎のパイル経糸の送り出し長さ、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づきパイル織物の一単位の予想重量を算出する重量算出部と、前記パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記目標値設定部に設定された前記パイル織物の一単位の所要重量の上限値と下限値との間にあるか否かを判定する第二の判定部と、前記重量算出部からのパイル織物の一単位の予想重量の算出値と、前記第二の判定部からの判定結果を含む重量監視用データを作成すると共に、所定数の前記重量監視用データを新しい順に並べて前記パイル織物の一単位毎に出力する重量監視用データ作成部とを備え、前記出力部は、前記判定部からの長さ監視用データを所定数同時に時々刻々表示するよう構成できる。
【0018】
前記構成により、直近の所定数のパイル織物の一単位の予想重量の変化履歴を容易に把握することができ、製織中のパイル織機を調整した場合に、その調整結果をリアルタイムで知ることができる。そして、織り上げたパイル織物の不良を的確に把握すること可能になり、不良品の見逃し出荷を未然に防ぐことができる。
【0019】
本発明の第7の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、更に、前記パイル織物のパイル区間を検知するパイル区間検知部を備え、前記第二の判定部は、前記パイル区間検知部がパイル区間を検知していないときは、前記パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値が、前記パイル織物の所要重量の上限値と下限値との間になくても重量不適との判定をしないよう構成できる。
【0020】
前記構成により、パイル織物がタオルのようにパイルを形成するパイル区間とパイルを形成しないヘム区間とを有するものであっても、正確な判定が可能になる。
【0021】
本発明の第8の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、前記パイル織機は、緯糸を通すために地経糸及びパイル経糸を開口運動させる多数のハーネスを有するジャカード機を備えたものであり、前記始端検知部は、前記ジャカード機においてパイル織物一単位の始端毎に動作するよう設定されたハーネスの動作を検知するセンサであるよう構成できる。
【0022】
前記構成により、ハーネスの動作を検知するためのセンサを、パイル織機の機枠等の所定位置に設置すれば前記始端検知部を構成できるので、パイル織機の本来の制御部を改造する必要がなく、パイル織機の制御部の構造や制御技術に精通していない者であっても、比較的容易に本発明をパイル織機に適用できる。
【0023】
本発明の第9の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、前記パイル織機は、緯糸を通すために地経糸及びパイル経糸を開口運動させる多数のハーネスを有するジャカード機を備えたものであり、前記パイル区間検知部は、前記ジャカード機においてパイル織物一単位のパイル区間毎に動作するよう設定されたハーネスの動作を検知するセンサであるよう構成できる。
【0024】
本発明の第10の側面に係るパイル織物の重量適否判定装置によれば、製織中のパイル織機における筬打ちを検知して該筬打ち毎に筬打ち検知信号を出す筬打ち検知部と、前記パイル経糸の繰り出し長さを時々刻々計測する繰り出し長さ計測部と、前記繰り出し長さ計測部によるパイル経糸の繰り出し長さの計測値の、織り上がったパイル織物中のパイル経糸の長さの実測値に対する誤差を補正するためのパイル経糸長さ補正率を設定するパイル経糸長さ補正率設定部と、前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さ及び該所要繰り出し長さの許容誤差を設定する目標値設定部と、前記筬打ち検知信号、前記パイル経糸の繰り出し長さの計測値、及び前記パイル経糸長さ補正率の設定値に基づき、前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さを算出し、該筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値が、前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さの上限値と下限値との間にあるか否かを判定する判定部と、前記判定部から前記筬打ち所定回数毎の繰り出し長さの算出値、及び、それに対する前記判定結果を受けて、前記判定結果及び前記筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値を表示する出力部とを備えるよう構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明を適用したパイル織機の一例を示す説明図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るパイル織物の重量適否判定装置のブロック線図である。
図3図2に示す判定部のブロック線図である。
図4図3に示す筬打ち所定回数毎のデータ算出部のブロック線図である。
図5】長さ監視用データ表示部の表示画面の表示例を示す説明図である。
図6図3に示すパイル織物の一単位毎のデータ算出部のブロック線図である。
図7】重量監視データ表示部の表示画面の表示例を示す説明図である。
図8図3及び図5に示す重量算出部のブロック線図である。
図9】筬打ち検知部の光電スイッチ及び始端検知部のリミットスイッチの設置例を示す斜視図である。
図10】計測ローラ及びロータリエンコーダの設置例を示す斜視図である。
図11】計測ローラの設置位置に関する実験結果を示す線図である。
図12】本発明の第二実施形態に係るパイル織物の重量適否判定装置の判定部のブロック線図である。
図13】本発明の第二実施形態に係る筬打ち所定回数毎のデータ作成部のブロック線図である。
図14】本発明の第三実施形態に係るパイル織物の重量適否判定装置のブロック線図である。
図15】本発明の第三実施形態に係る筬打ち所定回数毎のデータ作成部のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのパイル織物の重量適否判定装置を例示するものであって、本発明はそれらを以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
(第一実施形態)
【0027】
図1は、本発明の一実施形態のパイル織物の重量適否判定装置を適用したパイル織機の一例を示す。図1において、パイル織機1は、それ自体公知のものである。パイル織物の重量適否判定装置2は、その本体部2aを、小型コンピュータを用いて構成したものであり、例えばパイル織物工場に既に設置して稼働しているパイル織機1に追加して装着し、パイル織機1の製織運転に連動するようにしたものである。
(パイル織機)
【0028】
パイル織機1において、パイル経糸3は、ビーム4から繰り出され、案内ローラ5、6、7、8、巻取ローラ9、案内ローラ10を経て巻取ビーム11に至る。地経糸13は、ビーム14から繰り出され、案内ローラ15、8、巻取ローラ9、案内ローラ10を経て巻取ビーム11に至る。パイル経糸3及び地経糸13は夫々所定の多数の本数あり、図1の紙面に対して垂直方向つまりパイル織機1の左右方向に密に並んでいる。
【0029】
パイル織機1には、緯糸16を通すための開口を形成するためにパイル経糸3と地経糸13とを上下に分ける開口装置としてジャカード機17と、緯糸16を開口に通す緯糸通し装置(図示しない)と、開口に通した緯糸16をパイル織物18の織前18aに打ち付けるために用いる筬19を、図1の左右方向つまりパイル織機1の前後方向に往復移動させる筬打ち機構(図示せず)と、織り上がったパイル織物を巻き取る巻取機構(図示しない)が備えてある。
【0030】
筬19は、パイル経糸3から一つのループ状のパイルを形成するために往復運動を3回する。そして往復運動の1回目は、図1に実線で示す後退位置と、図1の右側の二点鎖線で示すルーズピック位置との間を往復して一番目の緯糸16をパイル織物18の織前18aから一定間隔をおいた位置に移動させるルーズピックを行い、往復運動の2回目は、1回目と同様に後退位置とルーズピック位置との間を往復して2番目の緯糸16をルーズピック位置につけるルーズピックを行なう。往復運動の3回目は、後退位置と、図1の左側の二点鎖線で示すファーストピック位置との間で往復して、パイル経糸3を挟んで保持した1番目と2番目の緯糸と3番目の緯糸16とをパイル織物18の織前18aに打付けるファーストピックを行う。この実施形態での1回の筬打ちは、2回のルーズピックと1回のファーストピックとからなることとする。
【0031】
案内ローラ7は、図1の左右方向に揺動運動可能であり、製織中、図1の略右方向へ付勢されている。案内ローラ7の付勢力は、図示しないパイル経糸繰り出し張力制御装置の設定部に設定した張力値に基づき調節可能になっている。ビーム4は、図示しないモータにより回転駆動することができ、このモータの回転速度は、パイル経糸繰り出し速度制御装置の速度設定部に設定された所要速度になるよう、かつ案内ローラ7を略一定位置に保つよう、該案内ローラ7の変位の検出信号に基づきフィードバック制御されるようになっている。したがって、製織中、パイル経糸3の張力は、設定部に設定され張力を維持するよう制御される。また筬打やジャカード機17による開口運動や筬19による筬打ち等によってパイル経糸3の走行経路の長さが多少変化したとしても、案内ローラ7が付勢力を維持したまま変位することで、パイル経糸3の急激な張力変動を吸収できるようになっている。そしてパイル経糸3の繰り出し速度は、ビーム4を駆動するモータの速度制御装置の速度設定部を操作することで変えることができる。
【0032】
案内ローラ15は、図1の上下方向に揺動運動可能であり、製織中、上向きに付勢されている。ビーム14は、図示しないモータによって回転駆動することができ、このモータの回転速度は、地経糸繰り出し張力制御装置の設定部に設定された所要速度になるよう、かつ案内ローラ15を略一定位置に保つよう、該案内ローラ15の変位検出信号に基づきフィードバック制御されるようになっている。そして案内ローラ15を付勢する機構を操作して案内ローラ15の付勢力を変えることにより、地経糸13の張力を所要値に調節することができる。そして地経糸13の繰り出し速度は、その駆動モータの速度制御装置の速度設定部を操作することで変えることができる。
【0033】
パイル織物18を織るには、ビーム4及びビーム14からパイル経糸3及び地経糸13を繰り出しながら、ジャカード機17により開口を形成し、その開口に緯糸16を通して筬打ちを行う動作を繰り返す。織り上がったパイル織物18は巻取ビーム11に巻取られる。製織中、案内ローラ8へ向かうパイル経糸3の張力は小さくし、案内ローラ8へ向かう地経糸は緊張させておく。筬19による2回のルーズピックにより、1番目の緯糸16と2番目の緯糸16は、パイル織物18の織前18aから一定間隔をおいて両者の間にパイル経糸3を挟んだ状態となり、筬19によるファーストピックにより、張力の小さなパイル経糸3の、1番目と2番目の緯糸16に挟まれた部分は、1番目から3番目の緯糸16と一緒に、緊張している地経糸13上を滑りながら前進してパイル織物18の織前18aに打付けられる。その結果、パイル経糸3はパイルに形成される。
【0034】
パイル織物18は、この実施形態の場合、タオルの原反となるものであり、パイルを形成するパイル区間と、パイルを形成しないヘム区間とからなり、パイル織機1には、パイルの長さを設定長さに調節するためのパイル長さ調節機構(図示せず)が設けてある。そして、パイル織物18のパイル区間では、パイルの長さに異常があった場合、パイル長さ調節機構が有する調整レバー等を操作して筬19の往復運動のストロークを変えることによって、パイルの長さを随時調節可能になっている。またパイル織物18のヘム区間ではパイル経糸3の繰出し速度が地経糸13の繰り出し速度と同じになるよう自動的に切り換わり、パイルが形成されないようになっている。
(重量適否判定装置の本体部)
【0035】
図2に示すように、パイル織物の重量適否判定装置2は、製織中のパイル織機1における筬打ちを検知して該筬打ち毎に筬打ち検知信号Pfを出す筬打ち検知部21と、パイル経糸3の繰り出し長さを時々刻々計測する繰り出し長さ計測部22と、この繰り出し長さ計測部22によるパイル経糸3の繰り出し長さの計測値の、織り上がったパイル織物18中のパイル経糸の長さの実測値に対する誤差を補正するためのパイル経糸長さ補正率S1を設定するパイル経糸長さ補正率設定部23と、パイル織物18の一単位の所要重量Ws1及び該パイル織物18の一単位の所要重量の許容誤差Δw1、Δw2を設定する目標値設定部24と、織筬打ち検知部21からの筬打ち検知信号Pf、繰り出し長さ計測部22からのパイル経糸の繰り出し長さの計測値Lm、及びパイル経糸長さ補正率設定部23からのパイル経糸長さ補正率の設定値S1に基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の送り出し長さLr、及びパイル織物18の一単位の予想重量Wを算出し、該パイル織物18の一単位の予想重量の算出値Wが、パイル織物の一単位の所要重量及び許容誤差の各設定値に基づき算出したパイル織物の一単位の所要重量の上限値Wmaxと下限値Wminとの間にあるか否かを判定する判定部25と、その判定結果J、及び筬打ち所定回数毎のパイル経糸3の繰り出し長さLrを表示する出力部28とを備えている。
【0036】
パイル経糸長さ補正率設定部23は、パイル経糸長さ補正率S1を入力するための入力部23aを有している。目標値設定部24は、パイル織物18の一単位の所要重量Ws1を入力するための入力部24a、許容誤差Δw1、Δw2を入力するための入力部24b、24cを有しており、入力されたWs1、Δw1、Δw2に基づき、所要重量の上限値Wmaxを、計算式Wmin=Ws1+Δw1により算出し、下限値Wminを、計算式Wmin=Ws1-Δw2により算出して記憶する。
【0037】
図3に示すように、判定部25は、この実施形態の場合、筬打ち所定回数毎のデータ作成部26とパイル織物の一単位毎のデータ作成部27とからなり、場合によっては、筬打ち所定回数毎のデータ作成部26のみのこともある。
【0038】
図4に示すように、筬打ち所定回数毎のデータ作成部26は、第一の算出部29と、重量算出部30、第一の判定部31を備えている。第一の算出部29は、繰り出し長さ計測部22から刻々入力されるパイル経糸3の繰り出し長さの計測値Lmと、筬打ち検知部21からの筬打ち検知信号Pfに基づき、筬打ち毎つまり筬打ち検知信号Pfを受ける度に、筬打ち毎のパイル経糸の繰り出し長さの計測値Lmiを算出する。筬打ち毎のパイル経糸の繰り出し長さは、筬打ち周期の間つまり前回の筬打ち検知信号Pfを受けてから今回の筬打ち信号Pfを受けるまでの間にパイル経糸3が繰り出された長さである。そして第一の算出部29は、記憶部33に筬打ち毎のパイル経糸3の繰り出し長さの計測値Lmiを筬打ち毎に順次記憶させると共に、その記憶回数iを計数する。この記憶回数iの計数は、筬打ち検知信号Pfの出力回数を計数する計数回路32で行う。この計数回路32により筬打ち信号Pfの計数値iが設定部32aに設定された所定回数Iに達すると、第一の算出部29は、その所定回数Iの間に記憶部33に記憶した所定回数分の筬打ち毎のパイル経糸3の繰り出し長さLmiの記憶値(Lm1,Lm2・・・LmI)に基づき、各記憶値の総和Lrを算出すると共に、その総和Lrに基づきパイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1を算出して計数回路32の計数値iをリセットする。後述するように重量算出部30にパイル織物の一単位の緯糸の本数n3が入力されて設定されるようになっている。そして、その設定値n3が第一の算出部29にも入力されるようになっているので、そのパイル織物の一単位の緯糸の本数n3を用いて、パイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1は、計算式L1=Lr・n3/Iによって算出される。
【0039】
重量算出部30は、筬打ち所定回数毎に第一の算出部29からパイル織物の一単位のパイル経糸の予想長さの算出値L1を受け、この算出値L1と、パイル経糸長さ補正率設定部23からのパイル経糸長さ補正率S1とに基づきパイル織物の一単位の予想重量Wを算出し、第一の判定部31は、筬打ち所定回数毎に重量算出部30からのパイル織物の一単位の予想重量の算出値Wと、目標値設定部24からの所要重量の上限値Wmaxと下限値Wminとを比較して、パイル織物の一単位の予想重量の算出値Wが、所要重量の上限値Wmaxと下限値Wminとの間にあるか否かを判定する。そして重量不適との判断をしたときは、直ちに警報信号を出力して警報部37に警報を出すよう指令する。
【0040】
第一の算出部29において算出した、所定回数Iの間に記憶部33に記憶した所定回数分の筬打ち毎のパイル経糸の繰り出し長さの総和Lrは、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さとし、パイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1に基づく第一の判定部31による判定結果は、筬打ち所定回数毎の判定結果J1として、パイル経糸3の繰り出し量を長さの観点で監視するための長さ監視用データ作成部34に入力される。この実施形態の場合、計数回路32には計数回数Iの設定値として「10」が設定してあり、筬打ち10回毎にパイル経糸の繰り出し長さが算出されと共に判定が行われる。
【0041】
筬打ち毎に判定結果を出すようにした場合、パイル経糸3の送り出し長さに突発的な不良があり、それが総合的に判断して不良とならないときでも、重量不適の判定結果が出て警報が出ることになり、運転者が不要な緊張を強いられることになる。一方、判定結果が出て次の判定結果が出るまでの筬打ち回数を、多過ぎる回数に設定した場合、パイル経糸3の送り出し長さに不良があったとしても、それに対する不適の判定結果が出るまでの時間にズレが生じて、運転者による不良への対処が遅れてしまう。そこでこの実施形態では、試行錯誤により所定回数Iを10回とし、その結果、上述のような問題が生じなかった。必要に応じて、入力部32aを操作して所定回数Iの設定値を変えるとよい。また製織条件に応じて所定回数Iを1回にする場合もあり得る。
【0042】
長さ監視用データ作成部34は、計数回路32における計数回数iが設定値Iに達する度に、第一の算出部29からの筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さLr、及び第一の判定部31からの筬打ち所定回数毎の判定結果J1を受け、そのLr、J1を含む一つのパイル経糸繰り出し長さ監視用データD1hを作成し、そのパイル経糸繰り出し長さ監視用データD1hを順次記憶すると共に、記憶している全てのパイル経糸繰り出し長さ監視用データ(D11,D12・・・D1h)を時々刻々出力部28へ出力する。そして計数回路35により記憶回数hを計数し、その記憶回数が計数回路35に設定された計数回数Hに達すると、その後は、新しいパイル経糸繰り出し長さ監視用データD11を作成する度に、記憶している最も古いデータD1Hを削除して、最も新しいデータD11を含むH個のパイル経糸繰り出し長さ監視用データ(D11,D12・・・D1H)に記憶を更新する。
【0043】
出力部28は、判定部25からの複数個のパイル経糸繰り出し長さ監視用データ(D11,D12・・・D1H)を長さ監視用データ表示部36に同時に表示する。この実施形態では、監視データ表示部36には、図5に例示する長さ監視用データが表示されるようになっている。更に、出力部28は、第一の判定部31から警報指令信号がでたとき、その判定結果を警報するための警告灯や警報ブザー等のように視覚や聴覚に訴える警報部37を備えている。
【0044】
なお、長さ監視データ表示部36に一度に表示できるパイル経糸繰り出し長さ監視用データD1の個数は、入力部35aを操作して計数回路35の設定値Hを変えることで変更することができる。また長さ監視用データ作成部34は、第一の算出部29から筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さLrだけでなく、パイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1を受け、Lr,L1,J1を含むパイル経糸繰り出し長さ監視用データD1を作成してもよいし、重量算出部30から、パイル織物の一単位の予想重量の算出値Wを受け、Lr,J1,W又はLr,L1,J1,Wを含むパイル経糸繰り出し長さ監視用データD1を作成してもよい。そして出力部28は、それらを長さ監視用データ作成部34から受けて長さ監視データ表示部36に表示するようにしてもよい。また第一の算出部29は、更に、パイル経糸長さ補正率設定部23からパイル経糸長さ補正率S1を受け、このパイル経糸長さ補正率S1と、記憶部33に記憶した所定回数分の筬打ち毎のパイル経糸の繰り出し長さLmiの記憶値(Lm1,Lm2・・・LmI)に基づき算出した各記憶値の総和Lrとの積(Lr・S1)を算出し、この算出した積を筬打ち所定回数毎のパイル繰出し長さLrとして記憶し、この記憶した筬打ち所定回数毎のパイル繰出し長さLrを、長さ監視用データ作成部34へ出力する場合もある。したがって、この場合は長さ監視データ表示部36には、パイル経糸長さ補正率S1によって補正された筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さLrが表示される。
【0045】
図2に示すように、パイル織物の重量適否判定装置2は、パイル織物の一単位毎の始端を検知して始端検知信号P1を出す始端検知部41と、パイル織物18のパイル区間を検知してパイル区間検知信号P2を出すパイル区間検知部42を備えている。
【0046】
パイル織物の一単位毎のデータ作成部27は、図6に示すように、第二の算出部43と、重量算出部30と、第二の判定部44とを備えている。第二の算出部43は、繰り出し長さ計測部22からのパイル経糸の繰出し長さの計測値Lmと、始端検知部41からの始端検知信号P1とに基づき、前回の始端検知信号P1を受けてから今回の始端検知信号P1を受ける間のパイル経糸3の繰り出し長さを、パイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1として記憶し、重量算出部30は、第二の算出部43からのパイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1の記憶値を受け、このパイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1と、パイル経糸長さ補正率設定部23からのパイル経糸長さ補正率S1とに基づきパイル織物の一単位毎の予想重量Wを始端検知信号を受ける度に算出する。
【0047】
ヘム区間を有するパイル織物18の場合、地経糸方向の全ての区間をパイル区間としてパイル織物の一区間の予想重量を算出すると誤差が大きくなると共に、ヘム区間でのパイル経糸3の重量を判定しても通常不適となり誤判定が出ることになるので、これを解消するために、第二の判定部44は、パイル区間検知部42がパイル区間を検知しているときに、重量算出部30からのパイル織物の一単位毎の予想重量の算出値Wと、目標値設定部24からの所要重量の上限値Wmaxと下限値Wminとを比較して、パイル織物の一単位毎の予想重量の算出値Wが所要重量の上限値Wmaxと下限値Wminとの間にあるか否かを判定する。そして第二の判定部44は、重量不適との判定をしたとき、直ちに警報部37に警報を出すよう警報指令信号を出力する。第二の判定部44による判定結果J2は、パイル織物の一単位毎の判定結果J2として、重量算出部30で算出されたパイル織物の一単位毎の予想重量Wと一緒に重量監視用データ作成部48に入力される。
【0048】
重量監視用データ作成部48は、始端検知部41からの始端検知信号P1を受ける度に、重量算出部30からのパイル織物の一単位毎の予想重量の算出値W、及び第二の判定部44からの筬打ち所定回数毎の判定結果J2を受け、それらW,J2を含む一つの重量監視用データD2hを作成し、その重量監視用データD2hを順次記憶すると共に、記憶している全ての重量監視用データ(D21,D22・・・D2h)を時々刻々出力部28へ出力する。そして記憶回数hを計数し、その記憶回数hが計数回路35に設定された計数回数Hに達すると、その後は、新しいパイル経糸繰り出し長さ監視用データD21を作成する度に、記憶している最も古いデータD1Hを削除して、最も新しいデータD21を含むH個の重量監視用データ(D21,D22・・・D1H)に記憶を更新する。
【0049】
出力部28は、重量監視用データ作成部48からのパイル織物の一単位毎の予想重量Wと判定結果J2を含んでいる複数個の重量監視用データ(D21,D22・・・D2H)を重量監視用データ表示部49に同時に表示する。この実施形態では、監視データ表示部49には、図7に例示する重量監視用データが表示されるようになっている。更に、出力部28は、第二の判定部44から警報指令信号がでたとき警報部37を作動させて警報を出す。
【0050】
この実施形態では、出力部28は、長さ監視用データ表示部36に、第一の判定部31が、重量算出部30からのパイル織物の一単位の予想重量の算出値Wが所要重量の上限値Wmaxより大きいとの判定結果を出したとき、「High」と表示し、第一の判定部31が、重量算出部30からのパイル織物の一単位の予想重量の算出値Wが所要重量の下限値Wminより小さいとの判定結果を出したとき、「Low」と表示する。また重量監視用データ表示部49に、第二の判定部44が、重量算出部30からのパイル織物の一単位の予想重量の算出値Wが所要重量の上限値Wmaxより大きいとの判定結果を出したとき、「High」と表示し、重量算出部30からのパイル織物の一単位の予想重量の算出値Wが所要重量の下限値Wminより小さいとの判定結果を出したとき、「Low」と表示する。またパイル区間検知部42がパイル区間を検知していないときは、第一の判定部31が「ヘム」との判定結果を出し、長さ監視用データ表示部36に「ヘム」と表示するようになっている。また出力部28は、図2に示すパイル経糸長さ補正率設定部23のパイル経糸長さ補正率S1の設定値、図8に示す設定部51~61の各設定値、図4に示す計数回路32の設定値等を表示する表示画面を備えている。また、出力部28は、織り上げたパイル織物18について、製織開始から終了までの間の、図8に示す設定部51~61の各設定値、計数回路32の設定値、繰り出し長さ計測部22によるパイル経糸の繰り出し長さの計測値、長さ監視用データや重量監視用データ等を含むデータを筬打ち毎及びパイル織物の一単位毎に記憶する外部記憶装置も備えている。
【0051】
図8に示すように、重量算出部30は、パイル織物の一単位中のパイル経糸の本数n1を設定するパイル経糸本数設定部51と、パイル経糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W10を設定するパイル経糸単位重量設定部52と、パイル経糸の伸び以外の要因による誤差を補正するための、その他の補正率Sを設定する、その他の補正率設定部53と、パイル織物の一単位の織り上げ長さL2を設定する織り上げ長さ設定部54、地経糸の弛み時の長さに対する前記地経糸の製織中の長さの誤差を補正するための地経糸長さ補正率S2を設定する地経糸長さ補正率設定部55と、パイル織物の一単位中の地経糸の本数n2を設定する地経糸本数設定部56と、地経糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W20を設定する地経糸単位重量設定部57と、パイル織物の一単位の織り上げ幅L3を設定する織り上げ幅設定部58と、緯糸の弛み時の長さに対する前記緯糸の製織中の長さの誤差を補正するための緯糸長さ補正率S3を設定する緯糸長さ補正率設定部59と、パイル織物の一単位中の緯糸の本数n3を設定する緯糸本数設定部60と、緯糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W30を設定する緯糸単位重量設定部61とを備えており、各設定部51~61は、それらが夫々有する入力部51a~61aを操作して各々の設定値を変えるこができるようになっている。パイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1及びパイル経糸補正率S1が変数として入力される。そして、W1をパイル織物18の一単位中の地経糸の弛み時の予想重量、W2をパイル織物18の一単位中の地経糸の弛み時の予想重量、W3をパイル織物18の一単位中の緯糸の弛み時の予想重量、Wをパイル織物の一単位の予想重量とするとき、重量算出部30は、W1=n1・W10・L1・S1、W2=n2・W20・L2・S2、W3=n3・W30・L3・S3、W=W1・S+W2+W3の計算式により、パイル織物の一単位毎の予想重量Wを筬打ち毎に算出し、その算出値を出力することができる。
【0052】
なお、必要に応じて、パイル経糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W10、地経糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W20、及び緯糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W30の代わりに、パイル経糸3、地経糸13、緯糸16に対し、共通の糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W0を用いる場合もあり得る。その場合、設定部52、57、61及びその入力部52a、57a、61aの代わりに、共通の糸の弛み時の単位長さ当たりの重量W0の設定部及びその設定値の入力部を設ける。
【0053】
図2に示す筬打ち検知部21は、図9に示すようにパイル織機1の所定位置に設置した光電センサ62を有している。この光電センサ62は、ファーストピック位置に移動した筬19を検知する。この実施形態では筬打ち検知部21は、光電センサ62からの検知信号Pdを計数し、その計数値が、入力部21aから入力された設定値に達したとき筬打ち検知信号Pfを出すと共に、それまでの計数値をリセットして光電センサ62からの検知信号の新たな計数を開始する、図示しないカウンターを備えており、このカウンターに目標とする計数値を設定するための入力部21aを有している。
【0054】
光電センサ62は、図1に示すパイル織機1ではファーストピック位置とルーズピック位置のうちのファーストピック位置に前進した筬19のみを検出するので、光電センサ62からの検知信号Pdのカウンターへの入力部21aからの設定値は「1」にしてある。なお、このような場合、筬打ち検知部21は、上述のようなカウンター機能を有さず、光電センサ62による検知信号Pdを筬打ち検知信号Pfとして出力するものでもよい。
【0055】
パイル織機1には、筬19がファーストピック時でもルーズピック時でも常に同じストロークで往復運動する形式のものがある。この場合、ルーズピック時にパイル織物18の織前18aが案内ローラ8及び案内ローラ15と共に下流側へ移動して筬19から退避するようになっている。この形式のパイル織機の場合、光電センサ62が、ファーストピック時もルーズピック時も筬19を検知してしまう。このような場合には、通常、筬19の三往復で一回の筬打ちが完了するので、筬打ち検知部21の入力部21aから「3」を入力しておく。この重量適否判定装置2は、それを適用したパイル織機1の筬打ち形式に応じて筬打ち検知部21の入力部21aを設定操作することで、筬打ち形式の違いに簡単に対処できるので便利である。
【0056】
光電センサ62は、図9に示すようにパイル織機1の機枠の梁部1aに取付具63を用いて取り付けてあり、その投光部から出た光が筬19の枠部19aに当たり、その反射光を受光部で検出したとき検知信号を出すようになっている。
【0057】
繰り出し長さ計測部22は、図10に示す計測ローラ64と、この計測ローラ64の回転に応じてパルス信号を出すロータリエンコーダ65とを有しており、ロータリエンコーダ65から時々刻々出力されるパルス信号を計数し、その計数値に応じたパイル経糸の繰り出し長さLmの計測値を出力する。また繰り出し長さ計測部22は、パイル経糸の繰り出し長さLmを、その計測と同時に図示しない表示部に表示することができるようになっている。
【0058】
計測ローラ65は、そのゴム製の摩擦係数が大きい外周面をパイル経糸3が巻き掛けて走行するようパイル経糸3の走行経路の近くに設置してあり、パイル織機1に設けた梁部材1bに装着した取付具66によって所定位置に保持されている。そして図1に示すように計測ローラ64は、パイル経糸3の伸びをパイル経糸3の走行路の案内ローラ7の上流側であって案内ローラ7に近い箇所に設置してあり、また複数本のパイル経糸3に係合するようパイル織機1にあるパイル織物18の幅方向の中央付近に部分的に配置してある。計測ローラ64をパイル織物18の幅方向の中央付近に部分的に配置するのは、パイル経糸3の繰り出し量の計測精度を高めるためであり、実験結果に基づくものである。
【0059】
図11において、線図の横軸はパイル織機1の緯糸方向の位置に対応し、縦軸は繰り出し長さ計測部22による計測誤差に対応している。また「W=6mm」とあるのは、計測に使用した計測ローラ64の幅が6mmであることを示し、「W=12mm」とあるのは、計測に使用した計測ローラ64の幅が12mmであることを示し、「15本」とあるのは、計測ローラ64に掛けるパイル経糸の本数が15本であることを示している。また「R2」は、計測ローラ64の取付位置がパイル織機1の緯糸方向の中央位置であること、「R3」は計測ローラ64の取付位置がパイル織機1の緯糸方向のメインモータ側であること、「R1」は、計測ローラ64の取付位置がパイル織機1の緯糸方向の反メインモータ側であることを示している。また「切替え無し」とあるのは、パイル織物18の両面にパイルを形成しながら30cmの長さを織ったときの実験結果であること、「25mm間隔」とあるのは、25mmの間隔毎に、先ず両面にパイルを形成し、次に表面にのみパイルを形成し、次に裏面のみにパイルを形成したときの実験結果であること、「50mm間隔」とあるのは、50mmの間隔毎に、先ず両面にパイルを形成し、次に表面にのみパイルを形成し、次に裏面のみにパイルを形成したときの実験結果であることを示している。図11の線図では、中央位置で、繰り出し長さ検出部22によるパイル経糸繰り出し長さの計測値と、その実測値との誤差が最も小さくなっている。「R3」では、パイル織機1のメインモータの振動で計測ローラ64とパイル経糸3とに滑りが生じることの影響が誤差の原因として考えられ、更に「R1」及び「R3」ではパイル織物18の巻取時に中央方向にパイル経糸3が寄り、両端に近付くほどパイル経糸が引っ張られてしまうことが誤差の原因であると考えられる。
【0060】
図1において、ジャカード機17は、緯糸16を通すために地経糸13及びパイル経糸3を開口運動させる多数のハーネス17aを有しており、パイル織機1で織るパイル織物18の織柄を、その入力部で設定し、それに基づき各ハーネス17aの動作を制御することができるものである。そして、このジャカード機17は、予備のハーネス17b、17cも有しており、予備のハーネス17bを、パイル織物18の一単位の始端毎に上下に往復運動するよう設定することができ、予備のハーネス17cをパイル織物18の一単位のパイル区間毎にそのパイル区間の開始時に上昇し、パイル区間の終了時に降下するよう設定することができるようになっている。図2に示す始端検知部41は、ジャカード機17においてパイル織物18の一単位の始端毎に上下に往復運動するよう設定されたハーネス17bの動作を検知することで、パイル織物18の一単位の始端を検知するものであり、パイル区間検知部42は、パイル織物18の一単位のパイル区間毎に、そのパイル区間の開始時に上昇し、パイル区間の終了時に降下するよう設定された予備のハーネス17cの動作を検知することでパイル区間を検知するものである。そして図9に示すように、予備のハーネス17bの動作を検知するセンサとしてリミットスイッチ67を用い、予備のハーネス17cの動作を検知するセンサとしてリミットスイッチ68を用いている。この実施形態の場合、リミットスイッチ67、68は、揺動型の検知レバー67b、68bを有しており、検知レバー67b、68bは、予備のハーネス17b、17cの下端部に連結してあり、検知レバー67b、68bの長さを調節することにより、ハーネス17b、17cのストロークにリミットスイッチ67、68の作動範囲を適合させている。
(使用方法)
【0061】
次に、上述のように構成されたパイル織物の重量適否判定装置2の使用方法について説明する。
【0062】
まず、図2に示す入力部23aから入力するパイル経糸長さ補正率S1、図8に示す入力部55a、59a、53aから入力する地経糸長さ補正率S2、緯糸長さ補正率S3、その他の補正率Sを準備して、夫々の設定部23、55、59、53に設定しておく。更に所要のパイル織物18に関して、パイル織物の一単位の織り上げ長さL2、パイル織物の一単位の織り上げ幅L3、パイル織物18の一単位中のパイル経糸の本数n1、パイル織物の一単位中の地経糸の本数n2、パイル織物18の一単位中の緯糸の本数n3、パイル経糸3の弛み時の単位長さ当たりの重量W10、地経糸13の弛み時の単位長さ当たりの重量W20、緯糸16の弛み時の単位長さ当たりの重量W30を把握して、夫々の設定部54、58、51、56、60、52、57、61に、各入力部54a、58a、51a、56a、60a、52a、57a、61aを操作して設定しておく。
(補正率の算出)
【0063】
パイル経糸補正率S1は、織り上がったパイル織物18の一単位中のパイル経糸3の長さを実測して求め、その実測値を、パイル経糸の予想長さの算出値L1で除算することで求めることができる。そして、その除算の結果得られた商の値をパイル経糸補正率S1として用いる。
【0064】
地経糸長さ補正率S2は、織り上がったパイル織物の一単位中の地経糸13の重量の実測値を、地経糸の弛み時の一単位の予想重量W2の算出値で除算することで算出することができ、緯糸長さ補正率S3も、織り上がったパイル織物の一単位中の緯糸の重量の実測値を、緯糸16の弛み時の一単位の予想重量W3の算出値で除算することにより算出することができる。この実施形態の場合、パイル経糸補正率S1は、パイル織機1による製織中であってパイル形成時(パイル区間での製織中)とパイル非形成時(ヘム区間での製織中)に夫々同じ長さの一定期間中のパイル経糸3の繰り出し長さを繰り出し長さ計測部22により計測する。この一定期間中のパイル形成時のパイル経糸3の繰り出し長さの計測値をLpとし、この一定期間中のパイル非形成時のパイル経糸3の繰り出し長さの計測値をLhとし、ΔL=Lp-Lhとすると、S1=(Lh+ΔL)/Lhとなる。
【0065】
その他の補正率Sについては、図8に示す設定部51~61のうちの設定部53を除く各設定部について補正率S1、S2、S3等の設定値を設定し、補正率Sが不明の場合は、例えばS=1を設定して、実際にパイル織機1を運転してパイル織物の一単位を織りあげ、その実測した重量と目標値設定部24に設定した所要重量とを比べて、重量の実測値と所要重量の間に許容誤差を超える誤差があれば、その誤差を極力小さくするよう湿度等の条件を考慮して適宜修正する。またパイル経糸長さ補正率S1、地経糸長さ補正率S2、緯糸長さ補正率S3等の設定値についても、それらの設定値と織り上がったパイル織物についての実測値と誤差がなくなるよう随時修正を行う。
【0066】
次いで、各設定部への設定が完了した後、パイル織機1を起動して製織運転を行う。それに連動してパイル織物の重量適否判定装置2も起動する。そうすると、出力部28の長さ監視用データ表示部36には、長さ監視用データ作成部34から出力された、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さLrと、判定結果J2が表示されると共に、始端検知部41からの始端検知信号P1を受けて、重量監視データ表示部49には、重量監視用データ作成部48から出力された、パイル織物の一単位毎の予想重量Wと判定結果J2とを含む重量監視データが表示される。
【0067】
図5は、長さ監視用データ表示部36を例示した説明図であり、図5において、「No.5」のとき「10パイル分繰出量」が「110.2」となり、「判定」が「High」となっている。つまり筬打ち10回分のパイル経糸の繰り出し長さLrの算出値「110.2」は、誤差の許容範囲外であり不適正であることを意味している。この場合、パイル織機1の運転者は、パイル織機1のパイル長さ調節機構の設定操作部を操作してパイルの長さが小さくなるよう微調整することが必要である。
【0068】
図5において「No.9」では10パイル分繰出量が「100.7」となり、判定の「High」の表示が消えており、パイル経糸3の繰り出し長さLmが誤差範囲内にもどったことが判る。
【0069】
「Low」の判定が出た場合、パイル経糸の繰り出し長さが足りないので、パイル織機1の運転者は、パイル織機1のパイル長さ調節機構が有するパイル長さ設定部を操作してパイルの長さが大きくなるよう微調整する必要がある。
【0070】
図7は、重量監視データ表示部49を例示した説明図であり、重量監視データ表示部49は、図5に示す長さ監視データ表示部36の近くに見やすいように並べてある。図7において、「No.1」の「タオル重量」が「190.1」であり、「判定」の欄には何も表示されていない。つまりパイル織物の一単位毎の予想重量「190.1」の判定結果は許容範囲内にあることを意味している。この図7の「No.1」のパイル織物の一単位は、図5における「No.1」のパイル織物の一単位に対応しており、図5に示す「No.1」のパイル織物の一単位の重量を示すものである。そして製織過程で図5に示す「No.5」のように一時的に判定結果が誤差の許容範囲外であっても、「No.1」のパイル織物の一単位は、最終的には誤差の許容範囲内に戻って良品となると予想できる。
(第二実施形態)
【0071】
図12及び図13を参照して、本発明の第二実施形態に係るパイル織物の重量適否判定装置について説明する。図12に示すように、このパイル織物の重量適否判定装置2における判定部25は、図2における目標値設定部24に設定されたパイル織物の一単位毎の所要重量Ws1、許容誤差Δw1、Δw2より、パイル織物の一単位毎のパイル経糸の送り出し長さの上限値Lmaxと下限値Lminとを算出する目標長さ算出部71を備えている点、及び図13に示す筬打ち所定回数毎のデータ作成部70において、図4に示す筬打ち重量算出部30及び第一の判定部31の代わりに第三の判定部72を備えている点が第一実施形態と相違している。
【0072】
目標長さ算出部71は、図8に示す重量算出部30とは逆に、所要重量Ws1から、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さLsrを求めるものであり、Lsr=(Ws1-W2-W3)/(n1・W10・S1・S)により算出することができる。W2、W3、n1、W10、S1は重量算出部30でパイル織物の一単位の予想重量Wを算出する際に用いるものと同じものであり、Lmax=Lsr+Δl1、Lmin=Lsr-Δl2となる。
【0073】
図13に示す第一の算出部29は、図4に示すものと同じ機能を有しており、第三の判定部72は、第一の算出部29からの筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値Lrに基づき算出されたパイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さL1が、目標長さ算出部71からのパイル織物の一単位毎のパイル経糸のり出し長さの上限値Lmaxと下限値Lminの間にあるか否かを判定する。なお、目標長さ算出部71には、パイル織物の一単位中の緯糸の本数n3と計数回路32からの所定回数Iとを入力して設定することとし、そのパイル織物の一単位中の緯糸の本数n3と計数回路32からの所定回数Iとに基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さの上限値Lrmax及び下限値Lrminを計算式Lrmax=Lma・I/n3、Lrmin=Lmin・I/n3により算出し、第三の判定部72は、第一の算出部29からの筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値Lrが、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さの上限値Lrmaxと下限値Lrminとの間にあるか否かを判定するようにしてもよい。
(第三実施形態)
【0074】
図14は、本発明の第三実施形態に係るパイル織物の重量適否判定装置を示し、パイル織物の重量適否判定装置2は、製織中のパイル織機における筬打ちを検知して該筬打ち毎に筬打ち検知信号Pfを出す筬打ち検知部21と、パイル経糸3の繰り出し長さを時々刻々計測する繰り出し長さ計測部22と、この繰り出し長さ計測部22によるパイル経糸の繰り出し長さの計測値の、織り上がったパイル織物中のパイル経糸の長さの実測値に対する誤差を補正するためのパイル経糸長さ補正率S1を設定するパイル経糸長さ補正率設定部23と、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さLsr及び該所要繰り出し長さの許容誤差Δl1及びΔl2を設定する目標値設定部74と、筬打ち検知信号Pf、パイル経糸の繰り出し長さの計測値Lm、及びパイル経糸長さ補正率の設定値S1に基づき、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さLrを算出し、該筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値Lrが、筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さの上限値Lrmaxと下限値Lrminとの間にあるか否かを判定する判定部75と、この判定部75から筬打ち所定回数毎の繰り出し長さの算出値Lr、及び、それに対する判定部75による判定結果J1を受けて、判定結果J1及び筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値Lrを表示する出力部28とを備えている。
【0075】
目標値設定部74は、上限値Lrmaxを、計算式Lrmax=Ls1+Δl1により計算され、下限値Lrminを、計算式Lrmin=Ls1-Δl2により算出する。
【0076】
判定部75は、図3に示す判定部25における筬打ち所定回数毎のデータ作成部26の代わりに、図15に示す筬打ち所定回数毎のデータ作成部73を備えたものであり、この筬打ち所定回数毎のデータ作成部73は、図13に示す第三の判定部27の代わりに、図15に示すように第一の算出部29からの筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さの算出値Lrと、目標長さ算出部74からのパイル織物の一単位毎のパイル経糸のり出し長さの上限値Lrmaxと下限値Lrminの間にあるか否かを判定する第四の判定部76を備えている点で、図13に示す、筬打ち所定回数毎のデータ作成部70と相違している。
【0077】
本発明によれば、パイル織物の一単位がヘム区間を有しない場合には、図1図2図14に示すパイル区間検知部42を省くことができる。また、目標値設定部は、所要重量と、その許容誤差、或いはパイル経糸の所要長さと、その許容誤差とを入力して設定する代わりに、所要重量又は所要長さの上限値と下限値を直接入力して設定するものであってもよく、また許容誤差として誤差率を入力して設定してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…パイル織機
2…パイル織物の重量適否判定装置;2a…重量適否判定装置の本体
3…パイル経糸
4…ビーム
5…案内ローラ;6…案内ローラ;7…案内ローラ;8…案内ローラ;9…巻取ローラ;10…案内ローラ;15…案内ローラ
11…巻取ビーム
13…地経糸
14…ビーム
16…緯糸
17…ジャカード機;ハーネス…17a;ハーネス…17b;ハーネス…17c
18…パイル織物;18a…織前
19…筬;19a…筬の枠部
21…筬打ち検知部;21a…入力部
22…繰り出し長さ計測部
23…パイル経糸長さ補正率設定部;23a…入力部
24…目標値設定部;24a…入力部;24b…入力部;24c…入力部
25…判定部
26…筬打ち所定回数毎のデータ作成部
27…パイル織物の一単位毎のデータ作成部
28…出力部
29…第一の算出部
30…重量算出部
31…第一の判定部
32…計数回路;32a…入力部
33…記憶部
34…長さ監視用データ作成部
35…計数回路;35a…入力部
36…長さ監視用データ表示部
37…警報部
41…始端検知部
42…パイル区間検知部
43…第二の算出部
44…第二の判定部
45…計数回路
48…重量監視用データ作成部
49…重量監視用データ表示部
51…パイル経糸本数設定部;51a…入力部
52…パイル経糸単位重量設定部;52a…入力部
53…その他の補正率設定部;53a…入力部
54…織り上げ長さ設定部;54a…入力部
55…地経糸長さ補正率設定部;55a…入力部
56…地経糸本数設定部;56a…入力部
57…地経糸単位重量設定部;57a…入力部
58…織り上げ幅設定部;58a…入力部
59…緯糸長さ補正率設定部;59a…入力部
60…緯糸本数設定部;60a…入力部
61…緯糸単位重量設定部;61a…入力部
62…光電センサ
63…取付具
64…計測ローラ
65…ロータリエンコーダ
66…取付具
67…リミットスイッチ
68…リミットスイッチ
70…筬打ち所定回数毎のデータ作成部
71…目標長さ算出部
72…第三の判定部
73…筬打ち所定回数毎のデータ作成部
74…目標値設定部
75…判定部
76…第四の判定部
S…その他の補正率
S1…パイル経糸長さ補正率
S2…地経糸長さ補正率
S3…緯糸長さ補正率
J1…筬打ち所定回数毎の判定結果
J2…パイル織物の一単位毎の判定結果
Lm…パイル経糸の繰り出し長さ
Lmi,Lmk…筬打ち毎のパイル経糸の繰り出し長さ
Lr…筬打ち所定回数毎のパイル経糸の繰り出し長さ
Lsr…筬打ち所定回数毎のパイル経糸の所要繰り出し長さ
L1…パイル織物の一単位のパイル経糸の予想繰り出し長さ
L2…パイル織物の一単位の織り上げ長さ
L3…パイル織物の一単位の織り上げ幅
n1…パイル織物の一単位中のパイル経糸の本数
n2…パイル織物の一単位中の地経糸の本数
n3…パイル織物の一単位中の緯糸の本数
Pf…筬打ち検知信号
W…パイル織物の一単位の予想重量
W10…パイル経糸の弛み時の単位長さ当たりの重量
W20…地経糸の弛み時の単位長さ当たりの重量
W30…緯糸の弛み時の単位長さ当たりの重量
Ws1…所要重量;Δw1,Δw2…許容誤差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15