(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131923
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】浴中ロール及び浴中ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/10 20160101AFI20240920BHJP
C23C 2/00 20060101ALI20240920BHJP
C23C 4/16 20160101ALI20240920BHJP
【FI】
C23C4/10
C23C2/00
C23C4/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042499
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】390030823
【氏名又は名称】日鉄ハードフェイシング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】野口 正広
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲ユ▼
(72)【発明者】
【氏名】河野 晃大
【テーマコード(参考)】
4K027
4K031
【Fターム(参考)】
4K027AB48
4K027AC32
4K027AD15
4K031AA01
4K031AA02
4K031AB03
4K031CB42
4K031DA01
4K031DA04
(57)【要約】
【課題】本発明は、摩擦低減層で覆われたトップコート層を有する従来の浴中ロールと比べて、摩擦低減効果の低下を抑えることができるとともに、トップコート層の耐摩耗性を向上させた、浴中ロールを提供することを目的とする。
【解決手段】 金属浴中で使用される浴中ロールであって、外周面にトップコート層が配置され、前記トップコート層は、ZrO
2、Y
2O
3、Al
2O
3及びSiO
2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料と、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤と、を溶射皮膜成分として含む溶射皮膜であり、前記トップコート層を100質量%としたとき、前記セラミックス材料の含有量は50質量%以上99質量%以下であり、前記固体潤滑剤の含有量は1質量%以上50質量%以下であることを特徴とする、浴中ロール。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属浴中で使用される浴中ロールであって、
外周面にトップコート層が配置され、
前記トップコート層は、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料と、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤と、を溶射皮膜成分として含む溶射皮膜であり、
前記トップコート層を100質量%としたとき、前記セラミックス材料の含有量は50質量%以上99質量%以下であり、前記固体潤滑剤の含有量は1質量%以上50質量%以下である
ことを特徴とする、浴中ロール。
【請求項2】
前記トップコート層は、前記浴中ロールの基材の表面に形成されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の浴中ロール。
【請求項3】
前記トップコート層は、前記浴中ロールの基材の表面に形成されたアンダーコート層の上に形成されており、
前記アンダーコート層は、少なくとも一層の溶射皮膜からなり、セラミックス系溶射皮膜またはサーメット系溶射皮膜の少なくとも一方から構成される
ことを特徴とする、請求項1に記載の浴中ロール。
【請求項4】
請求項1に記載の浴中ロールを製造する製造方法であって、
前記セラミックス材料と、前記固体潤滑剤と、を含有する溶射材料を溶射することによって、前記トップコート層を形成する
ことを特徴とする、浴中ロールの製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の浴中ロールを製造する製造方法であって、
前記セラミックス材料と、前記固体潤滑剤と、を含有する溶射材料を溶射して、前記浴中ロールの基材表面に前記トップコート層を形成する
ことを特徴とする、浴中ロールの製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の浴中ロールを製造する製造方法であって、
セラミックス系溶射材料及び/またはサーメット溶射材料を溶射して、前記浴中ロールの基材表面に前記アンダーコート層を形成する第1溶射工程と、
前記セラミックス材料と、前記固体潤滑剤と、を含有する溶射材料を溶射して、前記アンダーコート層の上に前記トップコート層を形成する第2溶射工程と、
を備える
ことを特徴とする、浴中ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属浴中で使用される浴中ロールの表面を改質する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の表面にメッキ皮膜を形成する方法として、溶融金属が収容されたポット内に鋼板を浸漬させる方法が知られている。このポットには、鋼板を連続メッキするための溶融金属浴中ロール(例えば、シンクロール、サポートロール)が設置されている。一般的に、溶融金属浴中ロールの表面には、耐溶融金属反応性、耐食・耐摩耗性を持つ保護層が形成されている。
【0003】
特許文献1には、Alを少なくとも50質量%以上含む金属浴中で使用され、ロール表面に、アンダーコート層と、セラミック溶射皮膜のトップコート層と、からなる二層溶射皮膜が形成された、浴中ロールが開示されている。特許文献1におけるトップコート層の表面には、BNと、TiO2,ZrO2,SiO2,MgO及びCaOのうち少なくとも1種と、からなる摩擦低減層が形成されている。当該摩擦低減層によって、トップコート層に加わる摩擦力が低減され、トップコート層の損傷や肌荒れを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に開示されている浴中ロールでは、摩擦低減層は、BNと、TiO2,ZrO2,SiO2,MgO及びCaOのうち少なくとも1種と、を含有した水溶液をトップコート層に塗布して焼成することで形成される。この構成では、金属浴中での使用中に、摩擦低減層が摩耗して消失する恐れがある。かかる場合には、摩擦低減層に覆われていたトップコート層(セラミック溶射皮膜)が露出し、搬送される鋼板との摩擦によって、鋼板を疵つけるおそれがある。
【0006】
上記点に鑑み、本発明は、摩擦低減層で覆われたトップコート層を有する従来の浴中ロールと比べて、摩擦低減効果の低下を抑え、潤滑性を長時間維持することができる浴中ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る浴中ロールは、(1)金属浴中で使用される浴中ロールであって、外周面にトップコート層が配置され、前記トップコート層は、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料と、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤と、を溶射皮膜成分として含む溶射皮膜であり、前記トップコート層を100質量%としたとき、前記セラミックス材料の含有量は50質量%以上99質量%以下であり、前記固体潤滑剤の含有量は1質量%以上50質量%以下であることを特徴とする、浴中ロール。
【0008】
(2) 前記トップコート層は、前記浴中ロールの基材の表面に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の浴中ロール。
【0009】
(3) 前記トップコート層は、前記浴中ロールの基材の表面に形成されたアンダーコート層の上に形成されており、前記アンダーコート層は、少なくとも一層の溶射皮膜からなり、セラミックス系溶射皮膜またはサーメット系溶射皮膜の少なくとも一方から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の浴中ロール。
【0010】
(4) (1)に記載の浴中ロールを製造する製造方法であって、前記セラミックス材料と、前記固体潤滑剤と、を含有する溶射材料を溶射することによって、前記トップコート層を形成することを特徴とする、浴中ロールの製造方法。
【0011】
(5) (2)に記載の浴中ロールを製造する製造方法であって、前記セラミックス材料と、前記固体潤滑剤と、を含有する溶射材料を溶射して、前記浴中ロールの基材表面に前記トップコート層を形成することを特徴とする、浴中ロールの製造方法。
【0012】
(6) (3)に記載の浴中ロールを製造する製造方法であって、セラミックス系溶射材料及び/またはサーメット溶射材料を溶射して、前記浴中ロールの基材表面に前記アンダーコート層を形成する第1溶射工程と、前記セラミックス材料と、前記固体潤滑剤と、を含有する溶射材料を溶射して、前記アンダーコート層の上に前記トップコート層を形成する第2溶射工程と、を備えることを特徴とする、浴中ロールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、摩擦低減層で覆われたトップコート層を有する従来の浴中ロールと比べて、摩擦低減効果の低下を抑え、潤滑性を長時間維持することができる浴中ロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】溶融アルミニウムめっき装置の概略構成図である。
【
図3】本体部21及びトップコート層23の拡大断面図である。
【
図4】本体部21、トップコート層23及びアンダーコート層24の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、溶融アルミニウムめっき装置の概略構成図である。溶融アルミニウムめっき装置は、ポット1と、シンクロール2と、サポートロール3とを、含む。ポット1には、金属浴10が貯留されている。
【0017】
金属浴10は、例えば、アルミニウムを主成分とした溶融金属であり、アルミニウムの他に亜鉛などが含まれている。アルミニウムは、金属浴10の中に少なくとも50質量%含まれている。ただし、金属浴10の種類はこれに限られず、例えば、100質量%亜鉛であってもよい。
【0018】
シンクロール2は、金属浴10の中に配置されている。シンクロール2によって、鋼板Aの搬送方向が変更される。サポートロール3は、鋼板Aを挟む位置に設けられている。サポートロール3によって、鋼板Aの通過位置が安定するとともに、メッキ付着厚みが平準化される。
【0019】
鋼板Aは、金属浴10に浸漬した後、シンクロール2で方向転換され、サポートロール3でメッキ付着厚みが平準化された後、ポット1の外側に搬出される。
【0020】
図2及び
図3を参照して、シンクロール2の表面に形成された溶射皮膜について説明する。
図2は、シンクロール2の一部の概略断面図である。
図3は、本体部21及びトップコート層23の拡大断面図である。
図2を参照して、シンクロール2は、本体部21と、本体部21の両端部に形成された軸部22と、シンクロール2の外周面に配置されたトップコート層23と、を備える。
図3に示すように、本実施形態におけるトップコート層23は、本体部21の基材表面に形成されている。
【0021】
本体部21が備える基材として、例えば、鉄基材料や、コバルト基材料、ニッケル基材料などを用いることができる。
【0022】
軸部22は、図示しない軸受部に回転可能に支持されている。軸部22を回転軸として、シンクロール2を矢印方向(
図1参照)に回転させることによって、鋼板Aを搬送することができる。
【0023】
トップコート層23は、セラミックス系溶射皮膜である。このセラミックス系溶射皮膜は、成分として、セラミックス材料と、固体潤滑剤と、を含む。セラミックス材料としては、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種が用いられる。固体潤滑剤としては、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種が用いられる。
【0024】
トップコート層23が、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料を含有することにより、搬送される鋼板が本体部21の基材に接触することを抑制できるため、耐摩耗性を向上させることができる。好ましくは、トップコート層23が含有するセラミックス材料は、ZrO2、Y2O3及びAl2O3のうち少なくとも1種を含有する。この構成によれば、トップコート層23の耐溶融金属性及び耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0025】
トップコート層23が、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤を成分として含有することの効果について、以下に記載する。
従来の、所定成分を含有する水溶液を溶射皮膜の上に塗布して焼成することで、摩擦低減層が最外周面に形成されたロール(以下、従来ロールとも称す)では、上述の通り、金属浴中での使用中に、摩擦低減層が摩耗して消失する恐れがある。これに対し、本発明に係る浴中ロールでは、トップコート層23を形成するセラミックス系溶射皮膜が、成分として固体潤滑剤を含有しているため、トップコート層23自体の潤滑性(摩擦低減効果)が向上している。そのため、従来ロールの摩擦低減層に比べて消失速度が低下し、摩擦低減効果の低下を抑えることができる。
また、従来ロールでは、溶射皮膜自体が有する摩擦低減効果が小さいため、摩擦低減層が摩耗して覆われていた溶射皮膜が露出すると、搬送する鋼板との摩擦によって鋼板を疵つけるおそれがある。これに対し、本発明に係る浴中ロールでは、トップコート層23を形成するセラミックス系溶射皮膜が、成分として固体潤滑剤を含有している。そのため、トップコート層23自体が十分な摩擦低減効果を有し、搬送する鋼板との摩擦による鋼板に発生する疵が抑制される。
【0026】
ただし、トップコート層23を100質量%としたとき、セラミックス材料の含有量は50質量%以上99質量%以下であり、固体潤滑剤の含有量は1質量%以上50質量%以下である。トップコート層23に含有されるセラミックス材料が99質量%超の場合、相対的に、固体潤滑剤の含有量が1質量%未満となる。固体潤滑剤の含有量が1質量%未満の場合、トップコート層23が十分な摩擦低減効果を有しない。また、トップコート層23に含有される固体潤滑剤が50質量%超の場合、相対的に、セラミックス材料の含有量が50質量%未満となる。セラミックス材料の含有量が50質量%未満の場合、トップコート層23が十分な耐摩耗性を有しない。そのため、トップコート層23を100質量%としたとき、セラミックス材料の含有量は50質量%以上99質量%以下であり、固体潤滑剤の含有量は1質量%以上50質量%以下である。
【0027】
好ましくは、トップコート層23を100質量%としたとき、固体潤滑剤の含有量は10質量%以上20質量%以下である。固体潤滑剤の含有量を10質量%以上とすることで、摩擦低減効果がより十分に発現し、トップコート層23の潤滑性をより高めることができる。また、固体潤滑剤の含有量を20質量%以下とすることで、トップコート層23を形成するセラミックス系溶射皮膜の強度を、より向上させることができる。
【0028】
好ましくは、トップコート層23は、固体潤滑剤として少なくとも窒化ホウ素を含有する。この構成によれば、窒化ホウ素は潤滑性の他に耐溶融金属性や耐熱性を備えるため、トップコート層23の耐溶融金属性や耐熱性をさらに高めることができる。
【0029】
トップコート層23は、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料と、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤と、を含む溶射材料を溶射することによって形成することができる。具体的には、上記の溶射材料の配合比率を適宜な値に設定し、造粒してパウダーにしたうえで、本体部21の基材表面に溶射することによって、本体部21の基材表面にトップコート層23を形成することができる。溶射方法としては、プラズマ溶射もしくは高速フレーム溶射を用いることができるが、これらに限られず、既知の溶射方法を用いることができる。 プラズマ溶射は、一対の電極間に不活性ガスを流しながら放電したときに発生する高温・高速のプラズマを溶射の熱源として用いる方法である。高速フレーム溶射は、高圧状態の酸素と炭化水素系燃料ガスなどの燃焼炎を利用したフレーム溶射法の一種である。
【0030】
好ましくは、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料と、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤と、を溶射材料として予め混合しておく。これにより、溶射材料中に固体潤滑剤をより均一に分布させることができるため、これを溶射して形成された溶射皮膜の組織中に固体潤滑剤をより均一に分散させる(溶射皮膜における固体潤滑剤の分布の偏りを抑制する)ことができる。したがって、溶射皮膜の表面位置に応じた摩擦低減効果の変動を、より抑制することができる。
【0031】
トップコート層23は、上記のセラミックス材料及び固体潤滑剤の他に、本願発明の目的・効果を損なわない範囲で、他の成分を含有してもよい。例えば、トップコート層23はセラミックス材料及び固体潤滑剤の他に、WB、WC、W2B2Co、Co3W3C、Coなどを含有してもよい。
【0032】
トップコート層23の好ましい厚みは、100μm以上500μm以下である。トップコート層23の厚みを100μm以上とすることで、トップコート層23がより十分な厚みを有するため、摩耗低減効果(潤滑性)の低下をより長期的に抑制することができる。トップコート層23の厚みを500μm以下とすることで、トップコート層23が剥離する可能性をより低めることができる。
【0033】
(第2実施形態)
第1実施形態では、本体部21の基材表面にトップコート層23が形成された構成について説明した。本実施形態では、トップコート層23が、本体部21の基材表面に形成されたアンダーコート層24の上に形成される構成について、
図4を参照して説明する。
図4は、本体部21、トップコート層23及びアンダーコート層24の拡大断面図である。
【0034】
アンダーコート層24は、少なくとも一層の溶射皮膜からなり、セラミックス系溶射皮膜またはサーメット系溶射皮膜の少なくとも一方から構成される。そのため、アンダーコート層24は、セラミックス系溶射皮膜またはサーメット系溶射皮膜が一層のみ形成された構成であってもよく、セラミックス系溶射皮膜またはサーメット系溶射皮膜のいずれか一方が複数積層した構成であってもよい。また、アンダーコート層24は、セラミックス系溶射皮膜及びサーメット系溶射皮膜が積層した構成であってもよく、この場合には、アンダーコート層24を構成する複数の積層した溶射皮膜のうち、一部の層がセラミックス系溶射皮膜であり、残りの層がサーメット系溶射皮膜であってよい。
【0035】
アンダーコート層24を構成するセラミックス系溶射皮膜は、例えば、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料を含有する。好ましくは、アンダーコート層24が含有するセラミックス材料は、ZrO2、Y2O3及びAl2O3のうち少なくとも1種を含有する。この構成によれば、アンダーコート層24の耐溶融金属性及び耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0036】
アンダーコート層24を構成するサーメット系溶射皮膜は、例えば、炭化物及びホウ化物のうち少なくとも1種を含むコバルト基材料を含有する。好ましくは、アンダーコート層24が含有するコバルト基材料は、ホウ化物を含有する。この構成によれば、アンダーコート層24の耐溶融金属性をさらに向上させることができる。
【0037】
トップコート層23を、本体部21の基材表面に形成されたアンダーコート層24の上に形成する構成によれば、基材に溶融金属が浸入することをさらに抑制することができ、耐溶融金属性を更に高めることができる。また、当該構成によれば、アンダーコート層24を介して、トップコート層23と基材との熱膨張差を緩和することができるため、トップコート層23が剥離する可能性をより低めることができる。
【0038】
アンダーコート層24は、所定の組成を有するセラミックス系溶射材料及び/またはサーメット系溶射材料を、本体部21の基材表面に溶射することによって形成することができる(第1溶射工程)。溶射方法としては、プラズマ溶射もしくは高速フレーム溶射を用いることができるが、これらに限られず、既知の溶射方法を用いることができる。本体部21の基材表面にアンダーコート層24を形成した後、第1実施形態に記載した溶射材料をアンダーコート層24の上に溶射することによって、アンダーコート層24の上にトップコート層23を形成することができる(第2溶射工程)。トップコート層23を形成するための溶射方法については、第1実施形態で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0039】
アンダーコート層24の好ましい厚みは、100μm以上300μm以下である。アンダーコート層24の厚みを100μm以上とすることで、トップコート層23と基材との熱膨張差をより緩和することができるため、トップコート層23が剥離する可能性をより低めることができるとともに、耐溶融金属性をより向上させることができる。アンダーコート層24の厚みを300μm以下とすることで、トップコート層23及びアンダーコート層24が剥離する可能性をより低めることができる。
【0040】
(変形例)
上述の実施形態では、シンクロール2のトップコート層23について説明したが、本発明におけるトップコート層23は、サポートロール3にも適用することができる。ここで、サポートロール3は、鋼板Aの搬送時に発生する振動による影響を吸収するために、鋼板Aのライン速度よりも低速に速度制御されている。具体的には、サポートロール3の場合、シンクロール2よりも回転速度が低速に速度制御されているため、速度差による摩擦・摩耗の問題が、より顕著となる。したがって、本発明は、サポートロール3に対してより好適に用いることができる。
【0041】
(実施例)
次に、実施例を示して、本発明についてより具体的に説明する。各種実施例及び比較例を準備し、溶射皮膜の耐摩耗性及び摩擦低減効果を評価した。
【0042】
<試験方法>
図5を参照して、実施例の試験方法について説明する。
図5は、実施例の試験方法を示す概略図である。まず、丸棒状の基材の表面に、各実施例材料及び比較例材料をプラズマ溶射によって溶射し、丸棒状の各溶射サンプルを準備した。基材としては、SUS304を用いた。なお、一部の溶射サンプルでは、基材の表面にトップコート層を形成し、他の溶射サンプルでは、基材の表面にトップコート層及びアンダーコート層を形成した。トップコート層の層厚は、全て200μmを目標値とした。アンダーコート層の層厚は、全て150μmを目標値とした。
図5を参照して、溶射サンプルの径方向中央に、SUS304からなる軸部を挿通させ、軸部を回転軸として溶射サンプルが軸部と一体に回転するよう固定した。溶射サンプルの外周を覆うように摩耗相手材を配置した後、軸部に固定された溶射サンプル及び摩耗相手材を700℃の溶融アルミメッキ浴内に浸漬させた。この浸漬状態で、1時間、摩耗相手材を一定の負荷圧力(5kg)で溶射サンプルに押し付けながら、軸部を一定の回転速度(150rpm)で回転させた。なお、摩耗相手材として、SUS304を用いた。
【0043】
<耐摩耗性の評価方法>
耐摩耗性は、以下の評価方法で評価した。上記試験後に溶射サンプルを切断して、切断面の断面組織を観察し、トップコート層の最大摩耗深さT1を測定することで、トップコート層の膜厚変化を確認した。上記試験前のトップコート層の厚みを100%としたとき、T1が20%超の場合には「摩耗が十分に抑制されていない」として評価を「×」とし、T1が10%以上20%以下の場合には「摩耗が十分に抑制されている」として評価を「○」とし、T1が10%未満の場合には「摩耗がさらに十分に抑制されている」として評価を「◎」とした。
【0044】
<摩擦低減効果の評価方法>
摩擦低減効果は、以下の評価方法で評価した。上記試験後に摩耗相手材を切断して、切断面の断面組織を観察し、当該断面曲線の算術平均高さPaを算出した。Pa>2.0μmの場合「十分な摩擦低減効果が得られていない」として評価を「×」とし、1.0μm≦Pa≦2.0μmの場合「十分な摩擦低減効果が得られた」として評価を「○」とし、Pa<1.0μmの場合「さらに十分な摩擦低減効果が得られた」として評価を「◎」とした。
【0045】
各実施例及び比較例における、溶射皮膜の組成と、耐摩耗性及び摩擦低減効果の評価結果と、を表1に示す。
【表1】
【0046】
<試験結果>
実施例1~32では、トップコート層に対して、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料の含有量が50質量%以上であったため、耐摩耗性の評価が「○」以上となった。特に、実施例1~3、5~7、9~32においては、トップコート層に含まれるセラミックス材料が、ZrO2、Y2O3及びAl2O3のうち少なくとも1種を含有しているため、耐摩耗性の評価が「◎」となった。
【0047】
また、実施例1~32では、トップコート層に対して、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤の含有量が1質量%以上であったため、摩擦低減効果の評価が「○」以上となった。特に、実施例10~12、14、16~18、22~24、26~28、30~32においては、トップコート層に対して、固体潤滑剤の含有量が10質量%以上であったため、摩擦低減効果の評価が「◎」となった。
【0048】
一方、比較例1、3、5、7、9では、トップコート層に対して、ZrO2、Y2O3及びAl2O3のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料の含有量が50質量%以上であるため、耐摩耗性の評価が「◎」となったものの、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤の含有量が1質量%未満であったため、摩擦低減効果の評価が「×」となった。
【0049】
また、比較例2、4、6、8、10では、トップコート層に対して、窒化ホウ素及びグラファイトのうち少なくとも1種からなる固体潤滑剤の含有量が10質量%以上であったため、摩擦低減効果の評価が「◎」となったものの、ZrO2、Y2O3、Al2O3及びSiO2のうち少なくとも1種からなるセラミックス材料の含有量が50質量%未満であったため、耐摩耗性の評価が「×」となった。
【0050】
なお、従来ロールを模擬した溶射サンプルとして、丸棒状の基材表面に、Al2O3からなるトップコート層を形成し、該トップコート層の表面に、窒化ホウ素とTiO2とを含有した水溶液を塗布して焼成することで、最外層に摩擦低減層(窒化ホウ素:20質量%、TiO2:80質量%)が形成された溶射サンプルを別途準備し、この溶射サンプルに対して上述と同様の試験を行った。その結果、摩擦低減層が消失し、トップコート層が露出した。なお、上述の実施例1~32、比較例1~10において、最外層であるトップコート層の消失は生じなかった。
【符号の説明】
【0051】
2 シンクロール 3 サポートロール 23 トップコート層 24 アンダーコート層