(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131924
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ひび割れ誘発目地付き床版
(51)【国際特許分類】
E04B 5/32 20060101AFI20240920BHJP
E04B 1/62 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E04B5/32 Z
E04B1/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042500
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(72)【発明者】
【氏名】松井 亮夫
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DH34
2E001EA01
2E001EA02
2E001FA11
2E001GA62
2E001HA04
2E001HB01
(57)【要約】
【課題】 増し打ちコンクリートを施すことなくカッター目地の設置が可能な構造床を提供する。
【解決手段】ダブル筋として配筋された一対の主筋もしくは配力筋と、このダブル筋の厚さ方向の中央部に拘束しない状態で設けたひび割れ誘発筋と、前記ダブル筋に対して打設された躯体を構成するコンクリートと、このコンクリートに適宜間隔で設けられたカッター目地とからなり、前記ひび割れ誘発筋と前記カッター目地を対応させた。ひび割れ誘発筋は異形鉄筋である。さらに、カッター目地の方向によって主筋にはそえ筋を設けた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版の構造であって、ダブル筋として直交に配筋された一対の主筋および配力筋と、このダブル筋の厚さ方向の中央部に設けたひび割れ誘発筋と、前記ダブル筋に対して打設された躯体を構成するコンクリートと、このコンクリートに適宜間隔で設けられたカッター目地とからなり、前記ひび割れ誘発筋と前記カッター目地を対応させたことを特徴とする構造床。
【請求項2】
ひび割れ誘発筋は異形鉄筋である請求項1記載の構造床。
【請求項3】
カッター目地は、縦横方向に設けられた請求項2記載の構造床。
【請求項4】
主筋には、さらに補強用の異形鉄筋をそえ筋として設けた請求項1または2記載の構造床。
【請求項5】
一対の主筋と配力筋を比較すると、鉄筋量は両者同等である請求項1記載の構造床。
【請求項6】
一対の主筋と配力筋を比較すると、鉄筋量は主筋のほうが多い請求項1記載の構造床。
【請求項7】
ひび割れ誘発筋は、鋼製ジグによってダブル筋の一部に固定した請求項1記載の構造床。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物流倉庫などの構造床に適用するもので、予め備えられた構成によってひび割れの発生を制御することができる床版構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、物流倉庫や工場等では構造床に対してひび割れを制御するための目地を設置することはできないとされている。これは、カッター目地が断面欠損となるためであり、目地を設けるためにはその深さ分のコンクリートの増し打ちを実施しなければならない。しかしながら、膨大な床面積に増し打ちをするためには多額の費用が必要となり、さらに建物重量が大幅に増加するため、基礎や杭の見直しをする必要があり、さらに確認申請の計画変更が余儀なくされることなどを理由として、実施工ではこのような増し打ちを実施することは少ない。したがって、膨張材入りコンクリートの使用や打設後初期の湿潤養生期間の確保、梁上補強筋を密にすることによってひび割れ発生の低減効果を期待するものの、構造床にはランダムにひび割れが生じてしまうのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-53176号公報
【特許文献2】特開2017-48615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ひび割れを予定した範囲に集中させることを目的とした発明として特許文献1に示された発明がある。しかしながら、特許文献1に記載された発明は壁体に生じるひび割れの処理に関するものであり、本願発明が予定するような構造床に対するものとは重力方向が異なる結果、同様の思想をそのまま適用することはできない。また、特許文献2に記載された発明は接合する二つの構造体がそれぞれコンクリートまたはモルタルからなる場合に、これら二つの構造体の境界面と平行に異形鉄筋を配筋する構成であって、この異形鉄筋の付着応力及び支圧応力によって構造体間にせん断抵抗を付与するものである。しかしながら、当該発明はひび割れを特定箇所に集中させることを本来的な目的とするものではないし、構造体に目地を設けることについても同様に本来的な手段ではない。
【0005】
本発明は、増し打ちコンクリートを施すことなくカッター目地の設置が可能な構造床を提供することを目的とする。すなわち、本発明ではひび割れ誘発目地を配置した部分で、外力によって圧縮領域となるコンクリート領域に、異形鉄筋のひび割れ誘発材に直交する補強異形鉄筋を設置し、圧縮抵抗力を増すことにより、カッター目地による断面欠損による構造床の鉛直荷重に対する曲げ性能の低下を補うことによって、増し打ちコンクリートを省略するものである。同時に、異形鉄筋のひび割れ誘発材が誘発されたひび割れ面に生じる床面内方向のずれを抑制し、地震時の建物の剛床として梁フレーム同士を剛結し、建物全体の耐震性能を確保する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では上記目的を達成するために、床版の構造であって、ダブル筋として配筋された一対の主筋もしくは配力筋と、このダブル筋の厚さ方向の中央部に設けたひび割れ誘発筋と、前記ダブル筋に対して打設された躯体を構成するコンクリートと、このコンクリートに適宜間隔で設けられたカッター目地とからなる手段を採用した。ひび割れ誘発筋の位置決めについては、鋼製ジグで固定することによる。ここで、ひび割れ誘発筋を設けることによって、コンクリートの断面欠損率がその他の箇所よりも大きくなるため、適宜間隔で設けられたカッター目地をきっかけとしてひび割れが成長する。また、カッター目地はひび割れ誘発筋の設置位置に対応して設けられるので、ひび割れはひび割れ誘発筋の付近に集中することになる。カッター目地によって損なわれたコンクリートの圧縮性能は、カッター目地下にひび割れ誘発筋と直交する方向に適宜配置する補強用の異形鉄筋によって補完する。補強用の異形鉄筋を適用する対象は主筋、配力筋を問わない。また、ひび割れの集中によって生じる構造床の耐震性能の低下を防ぐためにひび割れ誘発筋としては異形鉄筋を採用した。異形鉄筋を採用することによって、この異形鉄筋を境界として床版が分断されてもコンクリートとこの異形鉄筋の境界には付着応力と支圧応力が生じるため、ひび割れ面に沿った横ずれを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上述した手段を用いたので、例えば重量物を積載した荷台やフォークリフトなどが床上を走行するような場合でも、床一面にランダムにひび割れが発生することがない床の構造を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明で採用する構造床(床版)を示す横断面図
【
図2】同、応力が加えられた場合の曲げ抵抗を示す横断面の模式図
【
図3】本発明で採用するひび割れ誘発材とコンクリートに生じる応力を模式的に示した断面図
【
図5】本発明の構造において縦筋の径を横筋よりも太くした場合におけるひび割れの発生を示した横断面図
【
図7】増し打ちを施してその部分にカッター目地を設けた構造を示した横断面図
【
図8】
図5の構成においてひび割れ誘発筋を省略したところを示した横断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施形態を図面に従って説明する。
図1は本発明の床版の横断面を示したもので、1は倉庫などの構造床を構成する床版、2、3はそれぞれ床版1内に配筋された主筋と配力筋であり、それぞれの鉄筋は上側の主筋2aと配力筋3aを一対とし、下側の主筋2bと配力筋3bを一対とした上下ダブル筋に一対ずつ配筋されている。4は図面において主筋2と配力筋3のうちの主筋2・2の間に配筋された主筋2と直交する方向に配置されたひび割れ誘発筋である。このひび割れ誘発筋4の配筋位置は厳密に主筋2・2の中間である必要はなく、おおよそ中間部で足りる。また、ひび割れ誘発筋4は鋼製のジグによって位置決めのための主筋2あるいは配力筋3の適宜位置に固定するが、これを実現することができるものであれば特にその形状や構造は問わない。一方、主筋2と平行する方向に配置されたひび割れ誘発筋の場合も同様である。要は、コンクリートを打設した際にひび割れ誘発筋4が所定位置に配置できることであり、これを充足できるのであればよい。
【0010】
5はひび割れ誘発筋4に対応する位置に設けられたカッター目地であり、本発明では当該カッター目地5を基点としてひび割れが集中することになる。なお、本実施形態ではカッター目地5は床版1に直接切込みを設ける構成としており、従来のようなカッター目地のためのコンクリートの増し打ちは行わない。コンクリートの増し打ちを省略できることについては、本発明のように予めコンクリートの圧縮領域にコンクリートの断面欠損を補う補強用の異形鉄筋6を配置するためであり、この構成により耐力には影響しない。なお、カッター目地5の深さが深いほどコンクリートの断面欠損が大きくなってひび割れを集中させやすいが、深すぎると床版1の耐力が弱くなることに留意が必要である。必要な条件は、ひび割れ誘発筋4によってコンクリートの断面欠損をひび割れ誘発筋4が存在しない部分よりも大きくすることであり、この条件を満たすことができれば本発明に期待するひび割れ集中効果を奏することができる。ところで、本発明では構造床の面積に応じてカッター目地を適宜間隔で縦横に設けるが、この場合にはひび割れ誘発筋4についてもカッター目地の設置方向に縦横に設けられることはいうまでもない。
【0011】
図2は、
図1の構成において構造床に応力が加わったときの力の働きを模式的に示したもので、
図1の必要部分を拡大して示している。ここで、
図1に示した同じ番号は同じ構成を示している。そして、周知のように構造床には全体に下向き(鉛直方向)の重力が加わるために、下側の主筋2bと配力筋3bには引張力が加わる一方、上側の主筋2aおよび配力筋3aには圧縮力が加わることになる。そうすると、コンクリートのカッター目地5に近い側には全体的に圧縮応力が働くことになるが、カッター目地5を設けることにより、本来圧縮力に抗していたコンクリートが減少する。本発明の構成では、減少したコンクリートの圧縮抵抗力を補強用の異形鉄筋6で補って構造床の曲げ強度の低下を防いでいる。なお、補強用の異形鉄筋6の形状や構造は特に限定する必要はなく、圧縮抵抗力を補強することができるものであれば広く適用することができる。
【0012】
図3ではコンクリート中に埋没された異形鉄筋に働く応力について説明する。コンクリートが凝固した場合には、この異形鉄筋を境界として図示における上側コンクリートと下側コンクリートには逆方向にせん断力が生じるが、異形鉄筋にはこのせん断力に抗して付着応力Aと支圧応力Bが働くことになる。これらの付着応力Aと支圧応力Bは、異形鉄筋の上下において逆方向に発生することになる。なお、
図3に示した異形鉄筋は、本発明では
図1のひび割れ誘発筋4として機能する。
図4には一例としてスパンが10~11m程度のコンクリートを打設した構造床の中間に
図3に示す異形鉄筋を配置したところを概略的に示す。そして、ここでは
図2に示した概略図で説明したように、ひび割れ誘発筋4として機能する異形鉄筋の近傍に設けられたカッター目地5にひび割れを集中させることができる。
【0013】
図5は本発明の別の実施形態を示したもので、ひび割れの誘発をより集中するための構成である。すなわち、ひび割れ誘発筋4に直交する方向に配筋された配力筋3を太くすることによってひび割れ誘発筋4を含む構造床厚に対するコンクリートの断面欠損率が増える。そして、このことによって、コンクリートの断面欠損が大きくなり、その結果付近のコンクリートにひび割れを集中しやすくなっている。
【0014】
本発明の構成と対比するための参考としてひび割れ誘発筋を設けていない構造床の構成を
図6に示す。この構成は従来から採用されているように、一対の主筋もしくは配力筋をダブル配筋した状態であるが、配筋構造に対してコンクリートが均一に打設されている。このような構造では、コンクリートの構造に予想できないきっかけがあれば外部応力によって予期できない部分にひび割れが発生し、このひび割れの成長についても制御することができないという問題を基本的に解決することはできない。また、
図7はコンクリートの増し打ち面にカッター目地を設けているので、このカッター目地をきっかけとしてひび割れを発生させることができるが、上記説明したように構造床の耐力に寄与しない増し打ちコンクリートを必要とするために合理的ではない。また、ひび割れそのものはカッター目地をきっかけとして成長するが、どの方向にひび割れが成長するかについては予測することができないので、根本的なひび割れ対策には十分ではない。
【0015】
また、
図8には
図5に示したように、主筋2の径を配力筋3よりも太い径とする構成を採用して構造床の曲げ強度は上昇するものの、有効にひび割れを誘発させるには至らない。
【0016】
上記説明したように、本発明では従来からの課題であったコンクリート製の床スラブには必然的に生じていたひび割れを、カッター目地を設けるという公知の手段を採用しながら、コンクリートの内部にひび割れ誘発筋を設置することによって、その発生場所を集中させることができるようになった。しかも、従来ではカッター目地を設ける場合にはコンクリートの躯体耐力の減退を考慮して増し打ちを余儀なくされ、これによって消費コンクリートが膨大になっていたことについて、
図3に示したように補強用の異形鉄筋6で欠損したコンクリートによる失った圧縮抵抗力を補完し、構造床の曲げ強度を上昇させることにより、増し打ち部分にカッター目地を設ける必要がないとの知見から増し打ちを省略したので、経済効率を維持しながら躯体耐力をも維持できる構造とすることができる。
【0017】
ところで、本実施形態ではひび割れ誘発筋4に異形鉄筋を採用することについて説明したが、コンクリートの断面欠損を主要な問題とした場合にはひび割れ誘発筋に丸鋼を採用することを考えることが可能である。しかしながら、この構成に丸鋼を採用した場合には特に
図3に示す支圧応力に十分な期待をすることができないため、構造床の耐震性能を確保できない。この意味では、本発明においてひび割れ誘発筋の構成としては、異形鉄筋を必須とする。
【符号の説明】
【0018】
1 構造床
2 主筋
3 配力筋
4 ひび割れ誘発筋
5 カッター目地
6 補強用の異形鉄筋