(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131947
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】光学式測定システムの妥当性確認方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/245 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01B11/245 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042527
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005005
【氏名又は名称】不二サッシ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523099297
【氏名又は名称】ペリージョンソン ラボラトリー アクレディテーション インク
【日本における営業所】東京都渋谷区広尾1丁目1-39 恵比寿プライムスクエアタワー 9F
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 和之
(72)【発明者】
【氏名】神崎 喜和
(72)【発明者】
【氏名】磯本 尚史
(72)【発明者】
【氏名】太田 匡信
(72)【発明者】
【氏名】國富 佳夫
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065BB27
2F065DD03
2F065FF01
2F065FF05
2F065FF09
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ26
2F065MM02
2F065PP22
2F065QQ24
2F065QQ31
(57)【要約】
【課題】光学式の測定装置により測定された物体の変位または変形の妥当性を確認する。
【解決手段】所定方向に変位可能な試験装置(テーブル)14に試験体9を設置するとともに、試験体9にマーカ10a、10bのそれぞれを支持する。試験体9を変位させる以前の状態において、検出装置11によりマーカ10a、10bのそれぞれの位置を検出して、マーカ10a、10bのそれぞれの初期位置を取得しておく。試験装置14を所定方向に変位させた状態で、検出装置11によりマーカ10a、10bのそれぞれの位置を検出して、マーカ10a、10bのそれぞれの初期位置からの変位量を求める。複数個のマーカ10a、10bのうちのいずれか1つである基準マーカ10aの前記変位量に対する、残りのマーカ10bの変位量の誤差を求め、該誤差に基づいて、測定システム13により測定された試験体9の変位または変形の妥当性を確認する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが物体に支持され、かつ、光を反射または発する複数個のマーカと、
前記マーカのそれぞれの位置を検出する検出装置と、
を備え、
前記検出装置により検出した前記マーカのそれぞれの位置の初期位置からのずれを求めることにより、前記物体の変位または変形を測定する、光学式測定システムの妥当性確認方法であって、
所定方向に変位可能な試験装置に物体を設置するとともに、該物体に前記マーカのそれぞれを支持し、
前記物体を変位させる以前の状態において、前記検出装置により前記マーカのそれぞれの位置を検出して、前記マーカのそれぞれの初期位置を取得しておき、
前記試験装置を所定方向に変位させた状態で、前記検出装置により前記マーカのそれぞれの位置を検出して、前記マーカのそれぞれの初期位置からの変位量を求め、
複数個の前記マーカのうちのいずれか1つである基準マーカの前記変位量に対する、残りのマーカの前記変位量の誤差を求め、該誤差に基づいて、前記光学式測定システムにより測定された前記物体の変位または変形の妥当性を確認する、
光学式測定システムの妥当性確認方法。
【請求項2】
前記基準マーカが、前記マーカのうちで前記検出装置により検出可能な範囲の中央位置付近に配置されたマーカである、
請求項1に記載の光学式測定システムの妥当性確認方法。
【請求項3】
前記検出装置が、複数個のカメラを備える、
請求項1に記載の光学式測定システムの妥当性確認方法。
【請求項4】
前記光が、赤外光である、
請求項3に記載の光学式測定システムの妥当性確認方法。
【請求項5】
前記基準マーカの前記変位量に対する前記残りのマーカの前記変位量の誤差が、所定の閾値以下であるかを判定する工程をさらに備える、
請求項1に記載の光学式測定システムの妥当性確認方法。
【請求項6】
前記基準マーカの前記変位量に対する前記残りのマーカの前記変位量の誤差のz値を求め、該z値が所定の閾値以下であるかを判定する工程を備える、
請求項1に記載の光学式測定システムの妥当性確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、物体の変位または変形を測定するための光学式測定システムの妥当性確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の動作や、自動車、建材、または建築物などの物体の動きを測定する装置として、モーションキャプチャシステムと呼ばれる光学式測定システムが、たとえば、特開平10-74249号公報に記載されるなどにより、従来から知られている。光学式測定システムでは、測定対象である物体の表面の複数箇所に支持され、かつ、赤外光などの光を反射または発するマーカのそれぞれの位置をカメラなどの検出装置により検出し、検出装置により検出したマーカのそれぞれの位置の初期位置からのずれを求めることにより、物体の動き(変位または変形)を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学式の測定システムを使用する場合、試験結果の信頼性を確保するために、物体の変位または変形の測定をどの程度の精度で行えているかを把握(確認)しておくことが重要である。
【0005】
たとえば、検出装置としてカメラを使用する場合、カメラには、通常、中央部から縁部に向かうほど厚さが薄くなる凸レンズが使用される。このため、カメラにより取得される画像には、縁部に向かうほど被写体が伸びるように歪んでしまうボリューム歪像などの歪みが生じてしまう。このような歪みが生じると、物体の変位または変形の測定の精度やばらつきに影響を生じる可能性がある。このような問題は、たとえば、建材や建築物などのように、大きな物体を測定対象とした場合に顕著になる。
【0006】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、光学式測定システムにより測定された物体の変位または変形の妥当性を確認することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法の対象となる物体の測定システムは、
それぞれが物体に支持され、かつ、光を反射または発する複数個のマーカと、
前記マーカのそれぞれの位置を検出する検出装置と、
を備え、
前記検出装置により検出した前記マーカのそれぞれの位置の初期位置からのずれを求めることにより、前記物体の変位または変形を測定する。
【0008】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法は、
所定方向に変位可能な試験装置に物体を設置するとともに、該物体に前記マーカのそれぞれを支持し、
前記物体を変位させる以前の状態において、前記検出装置により前記マーカのそれぞれの位置を検出して、前記マーカのそれぞれの初期位置を取得しておき、
前記試験装置を所定方向に変位させた状態で、前記検出装置により前記マーカのそれぞれの位置を検出して、前記マーカのそれぞれの初期位置からの変位量を求め、
複数個の前記マーカのうちのいずれか1つである基準マーカの前記変位量に対する、残りのマーカの前記変位量の誤差を求め、該誤差に基づいて、前記測定システムにより測定された前記物体の変位または変形の妥当性を確認する。
【0009】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法では、前記基準マーカを、前記マーカのうちで前記検出装置により検出可能な範囲の中央位置付近に配置されたマーカとすることができる。
【0010】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法では、前記検出装置は、複数個のカメラを備えることができる。
この場合、前記光を、赤外光(赤外線)とすることができる。
または、前記光を、紫外光(紫外線)若しくは可視光としてもよい。
【0011】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法は、前記基準マーカの前記変位量に対する前記残りのマーカの前記変位量の誤差が所定の閾値以下であるかを判定する工程を備えることができる。
【0012】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法は、前記基準マーカの前記変位量に対する前記残りのマーカの前記変位量の誤差のz値を求め、該z値が所定の閾値以下であるかを判定する工程を備えることができる。
【0013】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法の対象となる光学式測定システムを用いて、カーテンウォールや開口部装置などの建材の耐風圧試験や層間変位試験などの各種性能試験を行う場合には、前記物体として、各種性能試験の対象となる建材を用いることができる。すなわち、妥当性を確認するための試験を実施する際に用いた物体を、そのまま耐風圧試験や層間変位試験などの各種性能試験にも使用することができる。
若しくは、妥当性を確認するための試験を実施する際に用いた物体は、各種性能試験の対象である建材とは別のものを使用することもできる。
【0014】
または、本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法の対象となる光学式測定システムを用いて、人の動作や、自動車などの物体の動きなどを測定することもできる。
この場合も、妥当性を確認するための試験の物体として、測定対象となる人や自動車などの物体を使用することもできるし、別のものを使用することもできる。
【0015】
本発明は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法によれば、非接触光学式の測定システムにより測定された物体の変位または変形の妥当性を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例に関して、光学式測定システムを示す略斜視図である。
【
図2】
図2は、第1例に関して、光学式測定システムを示す略平面図である。
【
図3】
図3は、マーカの取付態様を示す正面図である。
【
図4】
図4は、光学式測定システムにより測定された試験体の変位または変形の妥当性を確認する手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、カメラの設置態様の別例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図4により説明する。本例は、本発明を、躯体やカーテンウォールなどの試験体に支持された複数個の反射式のマーカ10a、10bに、検出装置11を構成するカメラ12a、12bから赤外光(赤外線)を発光し、それぞれのマーカ10a、10bで反射した光をカメラ12a、12bで検出して、その時点におけるそれぞれのマーカ10a、10bの位置を取得することで、試験体の変位または変形を測定する測定システム13に適用した例である。すなわち、測定システム13は、光学式モーションキャプチャシステムと基本的に同じ構成を備える。
【0019】
なお、以下の説明において、上下方向とは、
図1に矢印Xで示す、重力の作用方向をいい、前後方向とは、
図1に矢印Yで示す、カメラ12a、12bに対する試験体9の遠近方向をいい、かつ、左右方向とは、
図1に矢印Zで示す、上下方向と前後方向とに直交する方向をいう。
【0020】
本例では、試験体9として、矩形平板状の石膏ボードを用いた例を説明する。試験体9は、前後方向、左右方向、および上下方向への変位、並びに、それぞれの方向に伸長する軸を中心とする回転方向の変位を独立して行うことができる、試験装置を構成するテーブル14の上面に載置されている。なお、求められる測定精度に応じて、試験装置による各方向の変位が高い精度で機械的または電気的に制御される。
【0021】
なお、試験体9は、放射率が低く、赤外光をほとんど反射しないものが好ましい。本例のような石膏ボードに限らず、他の物体を測定する場合も同様である。
【0022】
それぞれのマーカ10a、10bは、表面に、赤外光を反射する球面部を有する。すなわち、それぞれのマーカ10a、10bが赤外光を反射する(石膏よりも高い放射率を有する)素材により構成されるか、前記球面部が赤外線を反射する素材により覆われている。
【0023】
それぞれのマーカ10a、10bは、試験体9のうち、カメラ12a、12bに対向する表面(前側面)の上下方向および左右方向の等間隔複数箇所(図示の例では25箇所)に支持されている。すなわち、それぞれのマーカ10a、10bは、試験体9の表面に碁盤の目状に支持されている。また、それぞれのマーカ10a、10bは、不用意にずれ動くことがないように、接着やねじ止めなどにより、試験体9の表面に支持固定されている。
【0024】
検出装置11は、マーカ10a、10bのそれぞれの位置を検出する。本例では、検出装置11は、複数個のカメラ12a、12bを備える。それぞれのカメラ12a、12bは、測定中に変位しない部分に設置され、かつ、撮影対象である試験体9を異なる方向から撮影する。
【0025】
それぞれのカメラ12a、12bは、赤外光を発光する発光部と、赤外光の反射光を検出する検出部とを有する。すなわち、カメラ12a、12bは、前記発光部から試験体9に向けて赤外光を発光し、それぞれのマーカ10a、10bで反射した反射光を前記検出部により検出する。
【0026】
具体的には、本例では、検出装置11は、2個のカメラ12a、12bを備える。それぞれのカメラ12a、12bは、試験体9よりも前側に、互いに左右方向に離隔して配置され、かつ、それぞれの画角に、試験体9全体が可能な限り大きく入るように設置されている。
【0027】
なお、2個のカメラ12a、12bの視線、すなわち視点と注視点とを結ぶ線同士のなす角度θは、カメラ12a、12bの性能、試験体9の大きさ、または試験体9とカメラ12a、12bとの距離などに応じて適宜決定される。たとえば、前記角度θは、15度以上120度以下、好ましくは45度以上90度以下、より好ましくは70度以上80度以下とすることができる。
【0028】
次に、測定システム13により測定された試験体9の変位または変形の妥当性を確認する試験方法について説明する。
【0029】
まず、試験装置のテーブル14に載置した試験体9を変位させる前に、検出装置11により、該試験体9の表面に支持されたそれぞれのマーカ10a、10bの位置(三次元座標)を取得する。すなわち、2個のカメラ12a、12bの発光部から試験体9の表面に向けて赤外光を発光し、該試験体9の表面に支持されたそれぞれのマーカ10a、10bで反射した反射光を、それぞれのカメラ12a、12bの検出部により検出する。そして、2個のカメラ12a、12bの検出結果に基づいて、三角測量の原理により、それぞれのマーカ10a、10bの位置を求め、該位置を、それぞれのマーカ10a、10bの初期位置とする。
【0030】
次に、テーブル14を、所定方向、すなわち前後方向、左右方向、または、回転方向に変位させる。その後、再び、検出装置11により、該試験体9の表面に支持されたそれぞれのマーカ10a、10bの位置を取得し、それぞれのマーカ10a、10bの初期位置からの変位量を求める。なお、テーブル14を所定方向に変位させながら、それぞれのマーカ10a、10bの位置を取得し、それぞれのマーカ10a、10bの初期位置からの変位量を求めることもできる。
【0031】
次いで、複数個のマーカ10a、10bのうちのいずれか1つである基準マーカ10aの変位量に対する、残りのマーカ10bの変位量の誤差を求める。本例では、複数個のマーカ10a、10bのうち、試験体9の表面の中央位置に支持されたマーカ10aを基準マーカとし、かつ、基準マーカ10aの変位量に対する、残りすべてのマーカ10bの変位量の誤差を求めている。
【0032】
そして、上述のようにして求めた誤差に基づいて、測定システム13により測定された試験体9の変位または変形の妥当性を評価(確認)する。すなわち、前記誤差に基づいて、測定システム13が、所望の測定精度を備えているかを確認する。
【0033】
本例では、試験体9は石膏ボードにより構成されている。したがって、テーブル14を、所定方向に変位させた場合でも、試験体9が変位することはない。このため、測定システム13により測定される、基準マーカ10aの変位量に対する残りのマーカ10bの変位量の誤差は、理想的にはゼロである。ただし、実際には、測定システム13により測定されるマーカ10a、10bの変位量には、ばらつきが生じる。
【0034】
そこで、本例では、まず、基準マーカ10aの変位量に対する残りすべてのマーカ10bの変位量の誤差(ei)の絶対値が、所定の第1閾値(t)以下であるか否か(|ei|≦t)を判定する。
【0035】
なお、iは、基準マーカ10aを除く残りのマーカ10bに付された通し番号であり、eiは、それぞれのマーカ10bの変位量の誤差である。第1閾値tの値は、測定システム13を用いて行う試験内容などに基づいて該測定システム13に求められる精度に応じて適宜設定される。
【0036】
基準マーカ10aの変位量に対する残りのマーカ10bのうち、いずれか1つでも変位量の誤差が、第1閾値(t)よりも大きいと判定された場合、測定システム13が精度を備えていないと判断される。この場合には、マーカ10a、10bの取付位置やカメラ12a、12bの位置を調整するなどした後、再度試験を行う。
【0037】
基準マーカ10aの変位量に対する残りすべてのマーカ10bの変位量の誤差が、第1閾値t以下であると判定された場合、次いで、基準マーカ10aの変位量に対する残りのマーカ10bの変位量の誤差のz値(zi)が、所定の第2閾値(tz)以下であるかを判定する。
【0038】
基準マーカ10aの変位量に対する残りのマーカ10bの変位量の誤差のz値(z
i)は、次の(1)式で表される。
【数1】
(1)式中、e
iは、基準マーカ10aの変位量に対する残りのマーカ10bの変位量の誤差であり、Eは、それぞれのマーカ10bの変位量の誤差の平均値であり、sは、それぞれのマーカ10bの変位量の誤差の標準偏差である。
【0039】
前記変位量の誤差e
iは、次の(2)式で表される。
【数2】
(2)式中、Xaは、基準マーカ10aの変位量であり、Xb
iは、残りのマーカ10bの変位量である。
【0040】
前記誤差の平均値Eは、次の(3)式で表される。
【数3】
(3)式中、nは、基準マーカ10aを除く残りのマーカ10bの総数(本例では、n=24)である。
【0041】
また、前記誤差の標準偏差sは、次の(4)式で表される。
【数4】
【0042】
上述のように求めたマーカ10bの変位量の誤差のz値(zi)のそれぞれの絶対値が、第2閾値tz以下であるか否か(|zi|≦tz)を判定することで、測定システム13によって測定された試験体9の変位または変形の妥当性を評価する、すなわち測定システム13の測定精度のばらつきが所望の範囲に収まっているか確認する。
【0043】
すなわち、基準マーカ10aを除く残りすべてのマーカ10bについての変位量の誤差のz値(zi)の絶対値が、第2閾値tz以下であれば、測定システム13のばらつきが、所望の範囲に収まっていると判断することができる。
【0044】
一方、基準マーカ10aを除く残りのマーカ10bのうち、いずれか1つでも変位量の誤差のz値(zi)の絶対値が、第2閾値tzよりも大きい場合には、測定システム13の測定精度のばらつきは、所望の範囲に収まっていないと判断される。この場合、マーカ10a、10bの取付位置やカメラ12a、12bの位置を調整するなどした後、再度試験を行う。
【0045】
なお、第2閾値tzの値は、測定システム13を用いて行う試験内容などに基づいて該測定システム13に求められる性能に応じて適宜設定されるが、たとえば、3よりも小さくすることができ、2以下であることが好ましい。
【0046】
上述のように、本例によれば、光学式の測定システム13により測定されたマーカ10a、10bの変位量の妥当性を確認(評価)する、すなわち測定システム13が、所望の性能を備えているかを確認することができる。そして、性能を正確に把握した測定システム13を用いて、耐風圧試験や層間変位試験などの各種性能試験を行うことができるため、試験結果の信頼性を十分に確保することができる。
【0047】
特に本例では、光学式の測定システム13として、カメラ12a、12bを備えるものを使用している。カメラ12a、12bには、レンズとして、中央部から縁部に向かうほど厚さが薄くなる凸レンズが使用されている。このため、カメラ12a、12bにより取得される画像には、縁部に向かうほど被写体が伸びるように歪んでしまうボリューム歪像などの歪みが生じてしまう。
【0048】
光学式の測定システム13を用いて各種性能試験を行う場合、カメラ12a、12bの使用台数をできるだけ少なく抑えるために、それぞれのカメラ12a、12bの画角のほぼ全体が、試験体の変位または変形を測定するために使用される。このため、カメラ12a、12bにより取得される画像の歪みが、測定システム13による試験体の変位または変形の測定の精度やばらつきに影響を与えやすい。したがって、光学式の測定システム13として、カメラ12a、12bを備えるものを使用する場合、上述のような本例の方法により、測定システム13により測定される試験体9の変位または変形の妥当性を事前に確認しておくことが重要になる。
【0049】
なお、測定システム13により測定される試験体9の変位または変形の妥当性を確認(評価)するための評価試験と、耐風圧試験や層間変位試験などの各種性能試験とは、評価試験を実施した後、試験体9を移動させたり、マーカ10a、10bおよび検出装置11を設置しなおしたりすることなく、そのままの環境下で性能試験を実施することが好ましい。この場合、試験体9は、性能試験の対象である試験体により構成することができる。ただし、評価試験の結果を有効に利用することができる限り、評価試験と性能試験とを異なる環境で実施することもできる。
【0050】
測定システム13により測定されるマーカ10a、10bの変位量の妥当性を確認するための評価試験において、試験体9を、前後方向、左右方向、上下方向、および回転方向のそれぞれの方向に変位させる量または角度は、実施する性能試験の内容に応じて適宜決定される。したがって、前後方向、左右方向、上下方向、および回転方向のそれぞれの方向ごとに、評価試験を実施することもできる。
【0051】
本例では、試験体9は、矩形平板状の石膏ボードにより構成されているが、本発明を実施する場合、試験体は、特に限定されず、たとえば躯体、カーテンウォール、または、サッシ若しくはドアなどの開口部装置などにより構成することができる。また、妥当性を確認するための評価試験の結果を有効に利用することができる限り、評価試験で使用する試験体と、性能試験の対象となる試験体とを異なるものとすることもできる。
【0052】
本例では、マーカ10a、10bとして、赤外光を反射する反射マーカを使用しているが、本発明を実施する場合には、マーカとして、赤外光を発光するアクティブマーカを使用することもできる。または、測定システムとして、カメラから可視光を発光し、試験体に支持されたマーカで反射した可視光をカメラで検出するか、若しくは、試験体に支持されたマーカが発光した可視光をカメラで検出するものを使用することもできる。
【0053】
本例では、2個のカメラ12a、12bを、試験体9よりも前側に、互いに左右方向に離隔して配置した検出装置11を使用している。ただし、検出装置11は、
図5に示すように、2個のカメラ12a、12bを、試験体9よりも前側に、互いに上下方向に離隔して配置することもできる。また、本例では、検出装置11は、カメラ12a、12bを2個備えるが、本発明を実施する場合、検出装置は、カメラを3個以上備えることもできる。
【0054】
あるいは、本発明を実施する場合、検出装置は、カメラを備えるものに限らず、マーカが反射または発した光を検出して該マーカの位置を検出することができるものであれば、任意の構造を備えることができる。具体的には、たとえば、検出装置として、マーカにレーザ光を照射し、かつ、マーカからの反射光により該マーカとの距離を検出するレーザ測定器を使用することもできる。
【0055】
また、大きな試験体を対象とする場合、対象を複数の領域に区切り、それぞれの領域ごとに、複数個のマーカを設置し、かつ、該マーカを検出するための検出装置を設けることができる。
【0056】
本例では、基準マーカ10aの変位量に対する残りのマーカ10bの変位量の誤差、および誤差のz値を求めることにより、測定システム13により測定される試験体9の変位または変形の妥当性を確認(評価)している。ただし、本発明を実施する場合、測定システムにより測定される試験体の変位または変形の妥当性を確認する方法については、特に限定されず、たとえば標準偏差や誤差の平均値などを使用して行うこともできる。
【0057】
本例では、本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法を、光学式の測定システム13を、躯体やカーテンウォールなどの試験体の耐風圧試験や層間変位試験などの各種性能試験に使用する準備として、その性能を把握するために行う場合について説明した。ただし、本発明の一態様の光学式測定システムの妥当性確認方法は、本例に限らず、光学式の測定システムにより、人の動作、または、自動車や建材、建築物などの物体の動きを測定する準備として、測定システムの性能を把握するために行うことができる。
【符号の説明】
【0058】
9 試験体(パネル)
10a、10b マーカ
11 検出装置
12a、12b カメラ
13 測定システム
14 テーブル