(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131969
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】超電導回転電機およびそれを構成する超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20240920BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20240920BHJP
H02K 55/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02K3/04 D
H01F6/06 110
H02K55/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042574
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(74)【代理人】
【識別番号】100234305
【弁理士】
【氏名又は名称】合瀬 恵
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 格
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】下之園 勉
【テーマコード(参考)】
5H603
【Fターム(参考)】
5H603AA03
5H603BB09
5H603CA02
5H603CA04
5H603CC14
5H603EE08
(57)【要約】
【課題】回転電機として運転する際の遠心力による巻線部のねじれやターン間せん断力の発生、それによる超電導特性の劣化の回避を図り、信頼性の高い機器を提供する。
【解決手段】テープ形状の高温超電導線材で巻回したパンケーキコイル1を積層してコイル外側接続部7を設けた積層ユニット2が構成され、複数個の前記積層ユニット2間にコイル内側接続部6が電気的に接続され、外径の大きい積層ユニット2と外径の小さい積層ユニット2の対向する面において、前記外径の大きい積層ユニット2の側面の全面が外径の小さい積層ユニット2およびこの外径の小さい積層ユニット2の外径側に配置されたコイル外側構造物3と接していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ形状の高温超電導線材で巻回した複数個のパンケーキコイルを界磁巻線として回転子のサポートリング内部に複数回転対称に配置してなり、
前記パンケーキコイル間を電気的につなぐコイル内側接続部、およびコイル外側接続部とを有し、
外径が等しい偶数個の前記パンケーキコイルを積層して前記コイル外側接続部を設けた積層ユニットが構成され、
複数個の前記積層ユニット間に前記コイル内側接続部が電気的に接続され、
外径の大きい積層ユニットと外径の小さい積層ユニットの対向する面において、前記外径の大きい積層ユニットの側面の全面が外径の小さい積層ユニットおよびこの外径の小さい積層ユニットの外径側に配置されたコイル外側構造物と接していることを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
前記コイル外側構造物は、前記回転子断面径方向に向かって連続的に外径を大きくさせた形状を有することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記コイル外側構造物は、超電導特性を有しない金属テープが巻き回されて構成したバインド巻線から成り、隣接する巻回数が多い前記積層ユニットと同じ外径を有するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記コイル外側構造物は、複数の前記積層ユニットを前記サポートリング内に多極配置して、その内部に硬化性の樹脂を真空注型した後に硬化させることにより外径の異なる前記積層ユニット同士が隣接する部位を一体化させた樹脂で構成されることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項記載の超電導コイルから成る1極の界磁巻線部分をサポートリング内に2個以上が回転対称に多極配置した回転子を有することを特徴とする超電導回転電機。
【請求項6】
請求項1から4の何れか1項記載の超電導コイルから成る1極の界磁巻線部分をサポートリング内に2個以上が回転対称に多極配置した回転子を有し、
この回転子の内部において、前記界磁巻線部分の等価的な弾性率と、コイル外側構造物の等価的な弾性率が回転子断面径方向に一様になるように構成されていることを特徴とする超電導回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導の巻線型回転子を有する回転電機およびそれを構成するために超電導線材を長円形に巻回した超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高温超電導線材を長円形状(直線部とこの直線部につながる円弧部とからなる形状)に巻き回す技術が開示されている。このような長円形の高温超電導コイルを、回転電機の巻線型回転子として利用することが検討されてきた。
【0003】
しかしながら、高温超電導線材はその製法から基本的にテープ状であり、銅の丸線等とは異なり巻き回す際に曲げ方向の制約が生じ、長円形の高温超電導コイルで回転子の界磁巻線を構成する場合には界磁巻線断面すなわち長円形コイルの直線部の断面は矩形になる。界磁巻線は、回転子断面を極数で割った磁極ピッチに対して高い占積率で配置することが磁場発生効率の観点で望ましい。
【0004】
これに対し、ターン数の異なるパンケーキコイルを複数個配置して効率的に磁場を利用する方法が開示されている。しかし、この構成においては、外形が異なるコイル同士の接触面において遠心力が加わる部材が接触面全面に配置されていないことに起因するせん断力がコイル巻線部に生じてしまい、これによって高温超電導線材の局所的な歪を生じて超電導特性を劣化させてしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5315800号公報
【特許文献2】特開2012-227178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、長円形の高温超電導コイルで回転電機の回転子を構成しようとしたとき、外径が同じ長円形である高温超電導のパンケーキコイルを積層して多極配置しても磁極ピッチに占める線材の占積率を高く出来ないため磁場発生効率が低く、一方で線材の占積率を高めるために外径が異なる長円形のパンケーキコイルを積層すると外径の大きな長円形コイルの軸方向上下端面の一部すなわち外径の小さな長円形コイルの輪郭に沿った部分に応力集中が発生してしまい、超電導特性が劣化してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、外径の異なる超電導コイルを積層しながら超電導コイル外径側に追加の構造物を付与することで、回転電機として運転する際の遠心力による巻線部のねじれやターン間せん断力の発生、それによる超電導特性の劣化の回避を図り、信頼性の高い機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記実施形態に係る超電導コイルは、テープ形状の高温超電導線材で巻回した複数個のパンケーキコイルを界磁巻線として回転子のサポートリング内部に複数回転対称に配置してなり、前記パンケーキコイル間を電気的につなぐコイル内側接続部、およびコイル外側接続部とを有し、外径が等しい偶数個の前記パンケーキコイルを積層して前記コイル外側接続部を設けた積層ユニットが構成され、複数個の前記積層ユニット間に前記コイル内側接続部が電気的に接続され、外径の大きい積層ユニットと外径の小さい積層ユニットの対向する面において、前記外径の大きい積層ユニットの側面の全面が外径の小さい積層ユニットおよびこの外径の小さい積層ユニットの外径側に配置されたコイル外側構造物と接していることを特徴とする。
【0009】
また、上記実施形態に係る超電導回転電機は、上記超電導コイルから成る1極の界磁巻線部分をサポートリング内に2個以上が回転対称に多極配置した回転子を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態は、外径の異なる積層ユニットに冷却応力や遠心力が加わった際にも超電導コイル端面に不連続な応力が加わらず、コイル巻線部への応力集中を回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイルの断面図。
【
図2】
図1に示す1極の界磁巻線部分を多極配置した超電導回転電機の回転子の断面図。
【
図3】超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイルの従来例を示す断面図。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイルの断面図。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイルの断面図。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイルの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施し得るものである。
【0013】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイル10の断面図である。
図2は、
図1に示す1極の界磁巻線部分をサポートリング4内に回転対称に多極配置した超電導回転電機の回転子8の断面図である。
【0014】
図1および
図2において、テープ形状の高温超電導線材を長円形に巻き回した同じ外径のパンケーキコイル1a,1bが積層されて積層ユニット2aを構成している。巻き始めとなる内径側は一般に機械加工により製作した巻枠(図示せず)を用いるため、積層ユニット2を構成するパンケーキコイル1間で内径寸法はほぼ同一に製作が可能であり、コイル内側接続部6を比較的容易に設けることができる。
【0015】
また、
図1では積層ユニット2を構成するパンケーキコイル1は2個であるが、最低2個で偶数個のパンケーキコイル1からなる積層ユニット2とすることで、コイル外側接続部7を隣接した外径の同じコイル間にのみ設けることが可能になる。
【0016】
図1において積層ユニット2a,2b,2cは互いの巻線部の外径が異なる。
図1では回転子断面径方向(外側方向)Aに向かって外径を増やした積層ユニット2を配置しているが、回転子断面径方向Aに向かって外径を減らした積層ユニット2を配置してもよい。
【0017】
図1,2において、積層ユニット2bは積層ユニット2aの外径B1に対して大きい外径C1を有するが、積層ユニット2aの外径側すなわちコイル最外層の外側にはコイル外側構造物3(3a)が配置され、このコイル外側構造物3aの外径B2が積層ユニット2bの外径位置に達している。すなわち、積層ユニット2aと積層ユニット2bの対向面において、積層ユニット2bの側面の全面が積層ユニット2aとコイル外側構造物3aと接している構造になっている。同様に、積層ユニット2bの外径側にもコイル外側構造物3(3b)が配置されて、この寸法C2が積層ユニット2cの外径D位置に達しており、積層ユニット2bと積層ユニット2cの対向面において、積層ユニット2cの側面の全面が積層ユニット2bとコイル外側構造物3bと接している構造になっている。
【0018】
図1に示す第1の実施形態においては、外径の異なる積層ユニット2の組み合わせと配置とによって回転子断面において高い占積率で線材を配置し、磁場発生効率を高めるように作用する。また、回転電機として運転する際に各積層ユニット2には遠心力Eが働くため、
図3に示す従来構成においてはコイル外径の異なる界面において黒丸F部において応力集中を発生させていた。
【0019】
しかしながら、本発明の構成においてはコイル外側構造物3にも遠心力Eが働いて断面径方向A外側のコイルの端面に作用するため、積層ユニット2bのパンケーキコイル1cと隣接するパンケーキコイル1bの外径部、あるいは積層ユニット2cのパンケーキコイル1eと隣接するパンケーキコイル1dの外径部における応力集中を緩和するように作用する。回転子断面径方向Aにおいて最も外側のパンケーキコイル1fに対しては、外側の回転子8のサポートリング4との間隙にサポートリング内壁構造物5を設けており、パンケーキコイルに加わる遠心力Eをコイル巻線部端面全体で受ける構成としている。
【0020】
そして、超電導回転電機の回転子8の内部において、パンケーキコイル1a~1fの巻線部とコイル外側構造物3との等価的な弾性率が、回転子断面径方向Aにほぼ一様になるように構成されている。これは、回転子断面径方向Aに向かって外径を減らした積層ユニット2を配置したとして、例えば内側のパンケーキコイル1dが、外側のパンケーキコイル1eとコイル外側構造物3bの面を押したとき、パンケーキコイル1eとコイル外側構造物3bの径方向の縮み方に違いがあると応力集中してしまうため、パンケーキコイル1eとコイル外側構造物3bの等価的な弾性率をほぼ同じにしたものである。
【0021】
上記の作用により、回転電機の回転子8を構成する超電導コイル10が応力集中によって特性劣化してしまうことを回避することが可能になる。これにより、長円形の超電導コイルでの磁場発生効率を上げて超電導回転電機の回転子8の能力向上が可能になるとともに、超電導回転電機の回転子8の信頼性向上を図ることができる。
【0022】
(実施例2)
図4を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイル11の断面図である。
【0023】
図4において、超電導コイル11を構成する積層ユニット2a,2bの外径側すなわちコイル最外層の外側にはコイル外側構造物3(3a,3b)が配置されており、このコイル外側構造物3(3a,3b)の形状は回転子断面径方向Aに向かって連続的に変化し、断面におけるその周長が回転子断面径方向A側に向かって大きくなるように構成されている。
【0024】
図4に示す第2の実施形態においては、コイル外側構造物3(3a,3b)が回転子断面径方向A外側のコイルの端面全面に遠心力Eを伝えるために必要最小限の大きさで配置されており、隣接する極のコイルとの干渉を避けてパッキングの良い界磁電流配置が可能になる。
【0025】
よって磁場発生効率を向上させることができる。
【0026】
(実施例3)
図5を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイル12の断面図である。
【0027】
図5において、テープ形状の高温超電導線材を長円形に巻き回したパンケーキコイル1を2個で構成する積層ユニット2の回転子断面径方向A外径側すなわちコイル最外層の外側に、コイル外側構造物3であるすなわち金属テープが巻き回されてなるバインド巻線31が配置されている。バインド巻線31にはステンレスやハステロイなど、磁性を有さず剛性の高い金属のテープ材を用いることが望ましい。
【0028】
図5に示す第3の実施形態においては、バインド巻線31から成るコイル外側構造物3が断面径方向外側の超電導コイル12を構成するパンケーキコイル2の最外周まで巻き回されて対向するパンケーキコイル2に端面(側面)全面で遠心力Eを伝えるよう作用すると同時に、励磁時に外側に膨らもうとする超電導コイル巻線部をバインド巻線31によって外側から機械的に支持してその変形を抑制するように作用する。
【0029】
この作用により、コイル外側構造物3であるバインド巻線31が励磁時のフープ力に対する補強としても働いて、巻線部の対電磁力耐性を向上させることが可能になる。
【0030】
(実施例4)
図6を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。
図6は、本発明の実施形態に係る超電導回転電機を構成する長円形の超電導コイル13の断面図である。
【0031】
図6において、テープ形状の高温超電導線材を長円形に巻き回したパンケーキコイル1を2個で構成する積層ユニット2を複数個配置して界磁巻線とし、回転子のサポートリング4の内部に配置した後、その1極の磁極ピッチ内に硬化性の樹脂を真空注型して空間内を充填し、これを硬化させて、外径の異なる前記積層ユニット同士が隣接する部位を一体化させた構成としている。一体化にはエポキシ樹脂などの極低温において機械特性の顕著な劣化を生じない材料を使うのが望ましい。なお、上記実施例においては1極の磁極ピッチ内に硬化性の樹脂を真空注型した例で説明したが、複数の積層ユニット2をサポートリング4内に多極配置して、その内部に硬化性の樹脂を真空注型しても良いのはもちろんである。
【0032】
図6に示す第4の実施形態においては、回転子断面径方向A外側のコイルの端面に対して、回転子断面径方向A内側のコイルの外径側に注入された樹脂がコイル外側構造物として働き、回転子断面径方向A外側のコイルの端面全体に遠心力Eを伝達するように作用する。
【0033】
よって上記の作用により、外径の大きなコイルの端面における応力の不連続部分をなくし、巻線部の対電磁力(遠心力)耐性を向上させることが可能になる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0035】
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
【0036】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0037】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f:パンケーキコイル、2,2a,2b,2c:積層ユニット、3,3a,3b:コイル外側構造物、4:サポートリング、5:サポートリング内壁構造物、6:コイル内側接続部、7:コイル外側接続部、8:回転子、10、11、12、13:超電導コイル、31:バインド巻線、32:樹脂。