(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131973
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】遠心圧縮機用のパイプディフューザ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20240920BHJP
F04D 29/62 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F04D29/44 T
F04D29/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042582
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 英二郎
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA13
3H130AB27
3H130AB47
3H130AC03
3H130AC17
3H130BA72A
3H130BA95A
3H130CA07
3H130CA21
3H130DD09Z
3H130DJ01X
3H130EA01A
3H130EA07A
3H130EB01A
3H130EB04A
(57)【要約】
【課題】ディフューザ流路の入口圧力を適切に均一にする。
【解決手段】パイプディフューザ38は、遠心圧縮機のコンプレッサインペラ36の外周に配置される。パイプディフューザ38は、周方向に離間して設けられた複数のディフューザ流路39を備える。ディフューザ流路39のそれぞれは、径方向外側に向けて周方向に傾斜して延在する、円形の断面形状を有するスロート68と、スロート68に連続し、径方向外側に向けて漸増する断面積を有するテーパー部70と、テーパー部70に連続し、周方向からパイプディフューザ38の軸方向へ湾曲する湾曲部72とを有する。パイプディフューザ38は、テーパー部70のそれぞれに連通する一端を有する複数の貫通孔76と、周方向に延在し、貫通孔76の他端を連通させる環状の連通路78とを更に備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心圧縮機のコンプレッサインペラの外周に配置される遠心圧縮機用のパイプディフューザであって、
周方向に離間して設けられた複数のディフューザ流路を備え、
前記ディフューザ流路のそれぞれは、
径方向外側に向けて前記周方向に傾斜して延在する、円形の断面形状を有するスロートと、
前記スロートに連続し、前記径方向外側に向けて漸増する断面積を有するテーパー部と、
前記テーパー部に連続し、前記周方向から当該パイプディフューザの軸方向へ湾曲する湾曲部と、を有し、
当該パイプディフューザが、
前記テーパー部のそれぞれに連通する一端を有する複数の貫通孔と、
前記周方向に延在し、前記貫通孔の他端を連通させる環状の連通路と、を更に備える、パイプディフューザ。
【請求項2】
前記貫通孔の前記一端は、前記湾曲部の内側と同じ側の前記テーパー部の部分に設けられている、請求項1に記載のパイプディフューザ。
【請求項3】
当該パイプディフューザが、
前記コンプレッサインペラの外周に配置され、前記スロートを画定する環状のハウジングと、
前記ハウジングの外周部に取り付けられ、前記湾曲部を画定する複数のディフューザパイプと、を含み、
前記テーパー部のそれぞれが前記ハウジングと対応する前記ディフューザパイプとに亘って形成されている、請求項1又は2に記載のパイプディフューザ。
【請求項4】
前記ハウジングは前記軸方向に分割可能な2つの分割体を含み、
前記連通路は、2つの前記分割体の一方の分割面に設けられた環状溝からなり、
前記貫通孔が前記ハウジングに設けられている、請求項3に記載のパイプディフューザ。
【請求項5】
2つの前記分割体の前記一方が、前記環状溝の内部にて前記軸方向に延在し、前記環状溝の幅よりも小さい幅を有する少なくとも1つの突起を有し、前記突起が前記周方向に隣接する2つの前記貫通孔の間に配置されている、請求項4に記載のパイプディフューザ。
【請求項6】
2つの前記分割体の前記一方が、複数の前記突起を有し、前記突起の先端に、2つの前記分割体の他方を前記一方に固定するためのボルトが螺合する雌ねじが形成されている、請求項5に記載のパイプディフューザ。
【請求項7】
前記連通路は、前記ハウジングの軸方向面に当接して前記ハウジングを支持する静止体に向けて開放するように前記ハウジングに形成された環状溝からなり、
前記貫通孔が前記ハウジングに設けられている、請求項3に記載のパイプディフューザ。
【請求項8】
当該パイプディフューザが、前記ディフューザパイプの軸方向面に当接するように設けられた環状部材を更に含み、
前記連通路が前記環状部材の内部に形成され、前記貫通孔の前記一端が、前記ディフューザパイプによって画定される前記テーパー部の部分に設けられている、請求項3に記載のパイプディフューザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機用のパイプディフューザに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠心圧縮機のディフューザとして、翼形状の複数の壁(翼)が周方向に配置され、互いに隣接する2つの翼の間にディフューザ通路(区分された通路)が形成された翼タイプのものが公知である(特許文献1)。
【0003】
このディフューザでは、ディフューザ通路は第1の側壁と第2の側壁との間に形成され、隣接する2つの翼間で最も間隔が狭い入口部分において第1及び第2の壁の一方に均圧開口が形成され、均圧開口の後ろ側に第1のリング通路が形成されている。各ディフューザ通路は均圧開口を介して第1のリング通路に流体接続され、これによりディフューザ通路が互いに流体接続とされている。均圧開口は、互いに隣接する2つの翼の間にスリットとして形成されており、ディフューザ通路の入口の圧力を均一にする効果を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、遠心圧縮機のディフューザには、ディフューザ通路がパイプによって形成される構造を有するパイプディフューザも存在する。そこで、パイプディフューザにおいて、ディフューザ通路の入口圧力を均一にするために、特許文献1に記載の構造をパイプディフューザに適用することが考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のディフューザ通路の入口圧力を均一にする構造をパイプディフューザに適用すると、ディフューザ通路の入口圧力を適切に均一にできないことを本発明者は見出した。これは、両ディフューザにおいては、ディフューザ通路の入口圧力の不均衡を生じる原因及び、ディフューザ通路の形状が異なることが原因と考えられる。つまり、スリットの位置が最適でなく、パイプディフューザにおいてディフューザ通路の入口圧力を適切に均一にするためには、スリットを適切な位置に配置する必要がある。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、パイプディフューザにおいてディフューザ流路の入口圧力を適切に均一にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、遠心圧縮機のコンプレッサインペラの外周に配置される遠心圧縮機用のパイプディフューザ(38)であって、周方向に離間して設けられた複数のディフューザ流路(39)を備え、前記ディフューザ流路のそれぞれは、径方向外側に向けて前記周方向に傾斜して延在する、円形の断面形状を有するスロート(68)と、前記スロートに連続し、前記径方向外側に向けて漸増する断面積を有するテーパー部(70)と、前記テーパー部に連続し、前記周方向から当該パイプディフューザの軸方向へ湾曲する湾曲部(72)と、を有し、当該パイプディフューザが、前記テーパー部のそれぞれに連通する一端を有する複数の貫通孔(76)と、前記周方向に延在し、前記貫通孔の他端を連通させる環状の連通路(78)と、を更に備える。
【0009】
この態様によれば、貫通孔がテーパー部に連通することにより、貫通孔がスロートに連通する場合に比べて、ディフューザ流路の入口圧力が均一化される。これにより、低流量側の運転限界点が低流量側に移動する、即ち運転可能流量域が低流量側に拡大する。そのため、設計流量を増加させた圧縮機を用いて、圧縮機効率が高い低流量領域で遠心圧縮機を運転することが可能である。
【0010】
上記の態様において、前記貫通孔の前記一端は、前記湾曲部の内側と同じ側の前記テーパー部の部分に設けられているとよい。
【0011】
圧縮空気の流れはディフューザ流路の湾曲部の内側において滞る。この態様によれば、連通路とディフューザ流路とを繋ぐ貫通孔がディフューザ流路の湾曲部の内側と同じ側に設けられることにより、ディフューザ流路の入口圧力がより均一化される。また、圧縮空気の流れが悪い損失領域の成長が抑制されることで、損失領域が小さくなる。
【0012】
上記の態様において、当該パイプディフューザが、前記コンプレッサインペラの外周に配置され、前記スロートを画定する環状のハウジング(40)と、前記ハウジングの外周部に取り付けられ、前記湾曲部を画定する複数のディフューザパイプ(42)と、を含み、前記テーパー部のそれぞれが前記ハウジングと対応する前記ディフューザパイプとに亘って形成されているとよい。
【0013】
この態様によれば、ディフューザ流路を形成する加工が容易である。
【0014】
上記の態様において、前記ハウジングは前記軸方向に分割可能な2つの分割体(80、82)を含み、前記連通路は、2つの前記分割体の一方(80)の分割面に設けられた環状溝(84)からなり、前記貫通孔が前記ハウジングに設けられているとよい。
【0015】
この態様によれば、連通路及び貫通孔を形成する加工が容易である。
【0016】
上記の態様において、2つの前記分割体の前記一方が、前記環状溝の内部にて前記軸方向に延在し、前記環状溝の幅よりも小さい幅を有する少なくとも1つの突起(86)を有し、前記突起が前記周方向に隣接する2つの前記貫通孔の間に配置されているとよい。
【0017】
圧縮空気の圧力はディフューザ流路毎に変化する。この態様によれば、連通路内に空気の移動を阻害する突起が設けられることにより、ディフューザ流路間の圧力変化のばらつきが抑制される。
【0018】
上記の態様において、2つの前記分割体の前記一方が、複数の前記突起を有し、前記突起の先端に、2つの前記分割体の他方を前記一方に固定するためのボルトが螺合する雌ねじ(88)が形成されているとよい。
【0019】
この態様によれば、環状溝を覆う方のハウジングの分割体を、環状溝及び突起が設けられた方のハウジングの分割体に、突起を利用してボルト締結することができる。そのため、ボルトを螺合させるためのボスを形成しなくてよいため、パイプディフューザの大型化を抑制することができる。
【0020】
上記の態様において、前記連通路は、前記ハウジングの軸方向面に当接して前記ハウジングを支持する静止体(28)に向けて開放するように前記ハウジングに形成された環状溝(94)からなり、前記貫通孔が前記ハウジングに設けられているとよい。
【0021】
この態様によれば、連通路を形成する加工が容易である。また、連通路の開放面がハウジングを支持する静止体によって覆われるため、開放面を覆う部材が不要になる。よって、製造コストが低減される。
【0022】
上記の態様において、当該パイプディフューザが、前記ディフューザパイプの軸方向面に当接するように設けられた環状部材(96)を更に含み、前記連通路が前記環状部材の内部に形成され、前記貫通孔の前記一端が、前記ディフューザパイプによって画定される前記テーパー部の部分に設けられているとよい。
【0023】
この態様によれば、連通路を形成する加工が容易である。また、テーパー部の湾曲部に近い部分に貫通孔の一端を設けることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の態様によれば、パイプディフューザにおいてディフューザ流路の入口圧力を適切に均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係る発電用ガスタービンシステムの断面図
【
図2】ラジアルコンプレッサ周りの上半部の拡大断面図
【
図3】ディフューザ流路の空気流れ及び損失を示す図
【
図6】ディフューザ流路における貫通孔位置の説明図
【
図11】第2実施形態に係るラジアルコンプレッサ周りの上半部の拡大断面図
【
図12】第3実施形態に係るラジアルコンプレッサ周りの上半部の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。
【0027】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係るラジアルコンプレッサ14(遠心圧縮機)を備えた発電用ガスタービンシステム10の断面図である。
図1に示されているように、発電用ガスタービンシステム10は、回転軸12によって互いに同軸上に連結されたラジアルコンプレッサ14及びラジアルタービン16と、燃焼器18と、回転軸12に連結された発電機20とを有する。
【0028】
発電用ガスタービンシステム10は、軸線方向に順に互いに連結された前部端板22と前部ハウジング24と中間ハウジング26と後部ハウジング28とを有する。
【0029】
ラジアルコンプレッサ14は、前部ハウジング24に取り付けられてコンプレッサ室30を画定するコンプレッサシュラウド32と、前部端板22に取り付けられた空気取入案内部材33とを有する。空気取入案内部材33はコンプレッサシュラウド32と協働して空気取入口34を画定している。コンプレッサ室30には回転軸12に取り付けられたコンプレッサインペラ36が回転可能に配置されている。コンプレッサインペラ36はラジアルタービン16の出力軸である回転軸12により回転駆動される。
【0030】
コンプレッサインペラ36の外周には環状のパイプディフューザ38が設けられている。パイプディフューザ38は、遠心圧縮機用のものであり、周方向に離間して設けられた複数のディフューザ流路39を画定する。パイプディフューザ38は、その内側、即ちコンプレッサインペラ36の外周近傍に配置された環状のハウジング40と、ハウジング40の外周部に取り付けられた複数のディフューザパイプ42とを有する。ハウジング40は前部ハウジング24及び後部ハウジング28に取り付けられている。
【0031】
ラジアルコンプレッサ14は、空気取入口34から空気(外気)を取り入れ、コンプレッサインペラ36の回転により空気を圧縮加圧し、圧縮加圧された空気(圧縮空気)をパイプディフューザ38のディフューザ流路39に噴出する。
【0032】
後部ハウジング28内には回転軸12の中心軸線周りに燃焼器18が設けられている。後部ハウジング28はパイプディフューザ38から各燃焼器18に圧縮空気を導く圧縮空気通路44を画定する部分を含んでいる。各燃焼器18は燃焼室46を画定している。各燃焼器18には燃料噴射ノズル48が取り付けられている。燃料噴射ノズル48は燃焼室46に燃料を噴射する。
【0033】
各燃焼室46では、燃料噴射ノズル48により燃焼室46に噴射された燃料とラジアルコンプレッサ14からの圧縮空気との混合気が燃焼し、高圧の燃焼ガス(圧縮流体)が発生する。燃焼器18のガス出口部には、ラジアルタービン16のタービンノズル50が設けられている。
【0034】
ラジアルタービン16は、後部ハウジング28の内側部分によって画定され、燃焼器18のガス出口部に連通するタービン室52を有する。タービン室52は隔壁部材54によってコンプレッサ室30と隔てられている。タービン室52の隔壁部材54と離反する側はタービンシュラウド56によって画定されている。タービン室52には回転軸12を一体的に有するラジアルタービンインペラ58が回転可能に配置されている。
【0035】
タービンノズル50は、ラジアルタービンインペラ58を外囲するように円環状をなし、燃焼ガスをラジアルタービンインペラ58に向けて径方向内側且つ周方向に噴射する。ラジアルタービンインペラ58は、タービンノズル50から噴射された燃焼ガスによって回転駆動される。ラジアルタービンインペラ58を回転駆動した燃焼ガスは排気ガスとして排気ガス通路60から大気中に排出される。
【0036】
回転軸12には発電機20のロータ軸62が連結されている。これにより、発電機20は、ラジアルタービン16の回転軸12によって回転駆動され、発電を行う。
【0037】
次に、パイプディフューザ38の詳細を、
図2を参照して説明する。
図2はラジアルコンプレッサ14周りの上半部の拡大断面図である。ラジアルコンプレッサ14は、回転軸12の周りに設けられた略円錐形のハブ64と、下部の外周面に周方向に離間して設けられた複数のブレード66(66A、66B)とを有する。ブレード66は、ハブ64の前縁からハブ64の外周縁まで延在する複数のフルブレード66Aと、フルブレード66Aの前縁よりも後方位置からハブ64の外周縁まで延在する複数のスプリッタブレード66Bとを含んでいる。フルブレード66A及びスプリッタブレード66Bは周方向に交互に配置される。ブレード66は後方に向けて径方向外側に湾曲しており、ブレード66の後縁はラジアルコンプレッサ14の径方向外側を向いている。
【0038】
パイプディフューザ38は、ラジアルコンプレッサ14から径方向外側に噴出される圧縮空気を流通させる複数のディフューザ流路39を画定する。各ディフューザ流路39は、上流側から順に、スロート68、テーパー部70、湾曲部72及び軸方向部74を有している。
【0039】
スロート68は、ディフューザ流路39のなかで最も断面積が狭い部分であり、本実施形態では所定の長さを有している。スロート68は、ハウジング40の内側部分に形成され、パイプディフューザ38の径方向外側に向けて周方向に傾斜して延在する。スロート68は、長さ方向に一定の円形の断面形状を有している。ここで円形とは、真円を意味するものではなく、実質的に円形であればよく、楕円形や長円形であってもよい。
【0040】
テーパー部70は、スロート68に連続し、径方向外側に向けて漸増する断面積を有する。テーパー部70は、ハウジング40及びディフューザパイプ42に亘って形成されている。テーパー部70も、スロート68と同様に円形の断面形状を有している。ただし、テーパー部70の断面形状は、径方向外側ほど周方向に長い長円形となっている。
【0041】
湾曲部72は、ディフューザパイプ42の後部であってパイプディフューザ38の外周部に形成されている。湾曲部72は、テーパー部70に連続し、周方向からパイプディフューザ38の軸方向に沿う後方へ湾曲する。軸方向部74は、湾曲部72に連続し、軸方向に対して周方向へ傾斜している。軸方向部74の後端は圧縮空気通路44内で後方及び周方向に向いて圧縮空気通路44と連通している。
【0042】
上記のように、パイプディフューザ38は、環状のハウジング40と、ハウジング40の外周部に取り付けられた複数のディフューザパイプ42とを含み、テーパー部70はハウジング40と対応するディフューザパイプ42とに亘って形成されている。これにより、ディフューザ流路39を形成する加工が容易になっている。
【0043】
図3はディフューザ流路39の空気流れ及び損失を示す図である。図示されたディフューザ流路39の部分は、テーパー部70の下流部及び湾曲部72である。図中の曲線は一部の圧縮空気の流れを表している。圧縮空気は
図3の右から左へ流れる。網掛けは空気の流れが悪い(流速が低い、もしくは逆流している)損失領域を表している。図示されるように湾曲部72の内側において、曲線が互いに交差している。つまり、圧縮空気の流れが入り乱れており、圧縮空気の流れが滞る。そのため、湾曲部72の内側は損失領域になっている。燃焼器18に燃料が投入され、ラジアルコンプレッサ14の下流側の圧力が高くなることでその作動点が低流量側に移動すると、この損失領域は上流側に広がるように成長する。損失領域が上流側に広がることにより、圧縮空気の流速は低下し、ラジアルコンプレッサ14の限界性能が低下する。
【0044】
ラジアルコンプレッサ14の性能低下を抑制するため、
図2に示すように、パイプディフューザ38は複数の貫通孔76及び連通路78を備えている。貫通孔76は、ディフューザ流路39毎にハウジング40に形成され、一端においてディフューザ流路39のテーパー部70に連通し、他端において連通路78に連通している。貫通孔76がテーパー部70に連通することにより、ディフューザ流路39の入口圧力が均一化される。これにより、コンプレッサインペラ36からパイプディフューザ38に流れる圧縮空気の流量が安定し、低流量側の運転限界点が低流量側に移動する。詳細については後に説明する。
【0045】
なお、ディフューザ流路39の入口圧力は、貫通孔76が設けられない場合に比べて均一化されるだけでなく、貫通孔76がスロート68に連通する位置に設けられた場合に比べてもより均一化される。即ち、圧縮空気の流量をコントロールするスロート68に連通するように貫通孔76が設けられた場合には、貫通孔76によってスロート68の断面積が変化し、貫通孔76の製造誤差によってチョーク流量の差異が大きくなる。これに対し本実施形態では、貫通孔76がテーパー部70に連通する位置に設けられたことにより、貫通孔76の製造誤差によるチョーク流量の差異増大が抑制される。これにより、ディフューザ流路39の入口圧力がより均一化される。
【0046】
貫通孔76の一端は、具体的にはテーパー部70の後部に連通している。即ち、貫通孔76の一端は、湾曲部72の内側と同じ側であるテーパー部70の後ろ側に設けられている。これにより、ディフューザ流路39の入口圧力がより均一化される。また、圧縮空気の流れが悪い損失領域の成長が抑制されることで、損失領域が小さくなる。
【0047】
連通路78は、貫通孔76の一端の近傍であるハウジング40の後部に環状に形成されている。連通路78は、貫通孔76の他端を互いに連通させている。本実施形態では、連通路78が完全な環状に形成されている。そのため、全ての貫通孔76の他端が連通路78を介して互いに連通する。ただし、連通路78は隔壁79(
図5参照)によって周方向に分割されていてもよい。この場合、連通路78の各分割部分に複数の貫通孔76の他端が連通するとよい。
【0048】
ハウジング40は、軸方向に分割可能な2つの分割体であるハウジング前部80とハウジング後部82とによって構成されている。ハウジング前部80は、ディフューザ流路39を形成するハウジング本体である。ハウジング前部80の分割面である後面には、連通路78を構成する環状溝84が形成されている。貫通孔76は環状溝84の底壁に形成されている。ハウジング後部82は、環状板からなり、環状溝84を塞ぐようにハウジング前部80に取り付けられる。これにより、ハウジング前部80とハウジング後部82との間、即ちハウジング40の内部に、連通路78が形成されている。そのため、連通路78及び貫通孔76を形成する加工が容易である。
【0049】
図4はハウジング前部80の要部を後方から視た斜視図であり、
図5はハウジング前部80の要部背面図である。
図4及び
図5に示すように、貫通孔76は、ディフューザ流路39の軸線直角方向に長い長孔形状を有するスロットとして形成されている。貫通孔76の他端は環状溝84の底面に設けられる。スロート68及びテーパー部70が径方向に対して周方向に傾斜していることから、貫通孔76は環状溝84の周方向に対して傾斜している。
【0050】
図6はディフューザ流路39における貫通孔76の位置の説明図であり、
図5のVI部の拡大断面図に相当する。
図6に示すように、貫通孔76の一端はテーパー部70の上流端近傍、即ちスロート68の近傍に設けられている。これにより、ラジアルコンプレッサ14内を流れる流体の失速が効果的に抑制される。
【0051】
図4及び
図5に示すように、ハウジング前部80には、環状溝84の底面から後方に向けて突出して軸方向に延在する複数の突起86が形成されている。突起86は、環状溝84の幅よりも小さい幅を有し、環状溝84の深さと同程度の高さを有する。突起86は、周方向に互いに隣接するディフューザ流路39の間の部分、即ち周方向に隣接する2つの貫通孔76の間に配置されている。突起86は、4つや5つのディフューザ流路39毎に設けられている。したがって、周方向に互いに隣接する2つの突起86の間には、4つや5つの貫通孔76が形成される。
【0052】
圧縮空気の圧力はディフューザ流路39毎に変化する。本実施形態では、ハウジング前部80が2つの貫通孔76の間に配置される少なくとも1つの突起86を有するため、ディフューザ流路39間の圧力変化のばらつきが抑制される。
【0053】
各突起86の先端面には、ハウジング後部82をハウジング前部80に取り付けるためのボルトを螺合させるための雌ねじ88が形成されている。これにより、環状溝84を覆うハウジング後部82を、環状溝84及び突起86が設けられたハウジング前部80に、突起86を利用してボルト締結することができる。そのため、ボルトを螺合させるためのボスを形成しなくてよいため、パイプディフューザ38の大型化が抑制される。
【0054】
パイプディフューザ38は以上のように構成されている。次に、このように構成されたパイプディフューザ38の効果について説明する。
【0055】
図7は、遠心圧縮機の流量-圧力比特性を示すグラフである。
図7には、本実施形態のパイプディフューザ38を用いた本発明に係る遠心圧縮機が実線で示され、貫通孔76が設けられていない従来の遠心圧縮機との性能が破線で示されている。両遠心圧縮機とも、遠心圧縮機の設計回転速度を100%Nとした場合の80%N、90%N、100%Nの3つの回転速度における結果が示されている。本実施形態のパイプディフューザ38を用いた遠心圧縮機では、運転限界を示す限界線L1が、従来の遠心圧縮機の限界線L2に比べて左方(低流量域)へシフトし、運転可能領域が拡大している。
【0056】
つまり、
図8に示すように、本実施形態では、従来の遠心圧縮機に比べてグラフ中に示す流量レンジ増加分だけ運転可能な流量レンジが増加する。したがって、
図9に示すように、流量レンジが増えた分だけ設計流量を増大側にずらして遠心圧縮機を設計することができる。これにより、
図10に示すように、所定の流量をもって運転する場合に、圧縮機効率の高い領域で発電用ガスタービンシステム10を運転することができる。よって、発電用ガスタービンシステム10の燃費が向上する。
【0057】
≪第2実施形態≫
次に、
図11を参照して本発明の第2実施形態を説明する。なお、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。以降の実施形態においても同様である。
【0058】
図11は第2実施形態に係るラジアルコンプレッサ14周りの上半部の拡大断面図である。本実施形態では、ハウジング40が前後に分割されていない。ハウジング40は、後部ハウジング28の軸方向面の1つである前面に、図示しないボルトによって締結されている。ハウジング40の後面には、連通路78を構成する環状溝94が形成されている。環状溝94は後方に向けて開放されており、ハウジング40が後部ハウジング28に取り付けられた状態では後部ハウジング28によって閉鎖される。貫通孔76は環状溝94の底壁に設けられている。
【0059】
パイプディフューザ38がこのように構成されていても、第1実施形態と同様の作用が行われ同様の効果が奏される。本実施形態では、連通路78が環状溝94からなるため、連通路78を形成する加工が容易である。また、連通路78の開放面が、ハウジング40を支持する静止体である後部ハウジング28によって覆われるため、第1実施形態のハウジング後部82のような開放面を覆う部材が不要になる。よって製造コストが低減される。
【0060】
≪第3実施形態≫
次に、
図12を参照して本発明の第3実施形態を説明する。
図12は第3実施形態に係るラジアルコンプレッサ周りの上半部の拡大断面図である。本実施形態では、ハウジング40に連通路78が形成されていない。代わりに、パイプディフューザ38は、ディフューザパイプ42の後面、即ち湾曲部72の内側と同じ側である後ろ側の面に当接するように設けられた環状部材96を有している。環状部材96は丸パイプ又は角パイプからなり、ハウジング40の外側に完全な環状に形成されている。連通路78は環状部材96の内部に形成され、貫通孔76の一端は、ディフューザパイプ42によって画定されるテーパー部70の部分、即ちテーパー部70の下流側部分であって湾曲部72よりも上流の部分に設けられている。
【0061】
パイプディフューザ38がこのように構成されていても、第1実施形態と同様の作用が行われ同様の効果が奏される。本実施形態では、連通路78がパイプ部材によって形成されるため、連通路78を形成する加工が容易である。また、テーパー部70の湾曲部72に近い部分に貫通孔76の一端を設けることができる。
【0062】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、パイプディフューザ38は、発電用ガスタービンシステム10の遠心圧縮機にして利用される必要はなく、航空機のガスタービンエンジンの遠心圧縮機に利用されてもよい。また、貫通孔76の形状は長孔形状以外の形状、例えば、円形や矩形であってもよい。第1実施形態では、環状溝84がハウジング前部80の後面に形成されているが、環状溝84はハウジング後部82の前面に形成されてもよい。また第1実施形態では、突起86がハウジング前部80に設けられているが、ハウジング後部82に突起86が設けられてもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態は、構成の一部又は全部を互いに組み合わせてもよい。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 :発電用ガスタービンシステム
14 :ラジアルコンプレッサ(遠心圧縮機)
36 :コンプレッサインペラ
38 :パイプディフューザ
39 :ディフューザ流路
40 :ハウジング
42 :ディフューザパイプ
68 :スロート
70 :テーパー部
72 :湾曲部
76 :貫通孔
78 :連通路
80 :ハウジング前部(分割体)
82 :ハウジング後部(分割体)
84 :環状溝
86 :突起
88 :雌ねじ
94 :環状溝
96 :環状部材