(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131990
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ラミネート紙およびラミネート紙の分離方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20240920BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240920BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240920BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/30 A
B32B27/32 C
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042608
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 茜
(72)【発明者】
【氏名】加茂 雅康
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD13
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB90
4F100AK01C
4F100AK03C
4F100AK04C
4F100AK06C
4F100AK07C
4F100AK12B
4F100AK25B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG10A
4F100EH23
4F100EH46
4F100EJ86
4F100GB15
4F100JB16C
4F100JL14B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることが可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量が抑制されたラミネート紙を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂層30を備えるラミネート紙100であって、紙基材10と、前記紙基材10の少なくとも一方の面に設けられ、酸価が60mgKOH/g以上であるスチレンアクリル樹脂を含む分離層20と、前記分離層20の前記紙基材10側と反対側の面に設けられ、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層30と、を備える、ラミネート紙100。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層を備えるラミネート紙であって、
紙基材と、
前記紙基材の少なくとも一方の面に設けられ、酸価が60mgKOH/g以上であるスチレンアクリル樹脂を含む分離層と、
前記分離層の前記紙基材側と反対側の面に設けられ、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層と、
を備える、
ラミネート紙。
【請求項2】
請求項1に記載のラミネート紙において、
前記ポリオレフィン樹脂が、エチレンに由来する構成単位およびプロピレンに由来する構成単位の少なくとも一方を持つ、
ラミネート紙。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のラミネート紙において、
前記スチレンアクリル樹脂の塗布量が、固形分換算で、0.5g/m2以上、8.0g/m2以下である、
ラミネート紙。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のラミネート紙において、
剥離紙又は包装紙である、
ラミネート紙。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のラミネート紙において、
アルカリ溶液中で、前記紙基材と、前記熱可塑性樹脂層とを分離したとき、前記熱可塑性樹脂層に付着している残渣の残渣量が、下記数式(数1)で表され、
前記残渣量が、前記紙基材および前記分離層における全体の質量に対して、6質量%以下である、
ラミネート紙。
R=[{TPW-((TPT/104)×TPρ×LS)}/{LW-((TPT/104)×TPρ×LS)}]×100 ・・・(数1)
(前記数式(数1)中、Rは、残渣量(単位:質量%)、TPWは、分離後の熱可塑性樹脂層の重量(単位:g)、TPTは、熱可塑性樹脂層の厚さ(単位:μm)、TPρは、熱可塑性樹脂層の密度(単位:g/cm3)、LSは、分離前のラミネート紙における熱可塑性樹脂層の面積(単位:cm2)、LWは、分離前のラミネート紙の重量(単位:g)を表す。)
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のラミネート紙を分離する方法であって、
前記ラミネート紙を準備する工程と、
前記ラミネート紙を、アルカリ溶液中で、前記紙基材と、前記熱可塑性樹脂層とを分離する工程と、
を有する、
ラミネート紙の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネート紙およびラミネート紙の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂と異種の材料とを積層した積層材料が種々の用途で使用されている。近年、プラスチック廃棄物の処理に伴う環境影響を低減する観点から、リサイクルへの関心が高まっている。
【0003】
特許文献1には、紙素材からなる基材層と合成樹脂層とを備えたラミネート紙が開示されている。特許文献1に開示されるラミネート紙は、基材層と合成樹脂層との間に接着剤層が設けられており、その接着剤層を構成する主要成分が、水溶性接着剤、水分散性接着剤又は水離解性接着剤である。また、特許文献1には、前記ラミネート紙の接着剤層に水分を吸収させ、基材層と合成樹脂層とを分離してそれぞれ再利用する再利用方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、基紙の片面にポリエチレンをラミネートしたラミネート紙が開示されている。特許文献2に開示されるラミネート紙は、基紙表面とポリエチレンとの間に、水溶性樹脂が塗布されている易分離性ラミネート紙である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-227111号公報
【特許文献2】特開2002-144488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるラミネート紙が備える接着剤層および特許文献2に記載されるラミネート紙が備える水溶性樹脂層は、水との親和性が高く、耐水性および耐湿性が低下する。このため、特許文献1および特許文献2に記載されるラミネート紙は、高湿度環境下での保管性等が低い傾向がある。
【0007】
また、特許文献1に記載される接着剤層を備えるラミネート紙において、基材層と合成樹脂層とを分離するとき、接着剤層の樹脂の種類等によっては、基材層と合成樹脂層との分離時間が長くなり、合成樹脂層側に残留する基材層の紙素材が多量になる場合があった。このため、特許文献1に記載されるラミネート紙は、リサイクル可能な合成樹脂の収率が低下しやすい場合がある。
【0008】
本発明は、紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることが可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量が抑制されたラミネート紙、及び当該ラミネート紙の分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]
熱可塑性樹脂層を備えるラミネート紙であって、
紙基材と、
前記紙基材の少なくとも一方の面に設けられ、酸価が60mgKOH/g以上であるスチレンアクリル樹脂を含む分離層と、
前記分離層の前記紙基材側と反対側の面に設けられ、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層と、
を備える、
ラミネート紙。
【0010】
[2]
[1]に記載のラミネート紙において、
前記ポリオレフィン樹脂が、エチレンに由来する構成単位およびプロピレンに由来する構成単位の少なくとも一方を持つ、
ラミネート紙。
【0011】
[3]
[1]又は[2]に記載のラミネート紙において、
前記スチレンアクリル樹脂の塗布量が、固形分換算で、0.5g/m2以上、8.0g/m2以下である、
ラミネート紙。
【0012】
[4]
[1]から[3]のいずれか一項に記載のラミネート紙において、
剥離紙又は包装紙である、
ラミネート紙。
【0013】
[5]
[1]から[4]のいずれか一項に記載のラミネート紙において、
アルカリ溶液中で、前記紙基材と、前記熱可塑性樹脂層とを分離したとき、前記熱可塑性樹脂層に付着している残渣の残渣量が、下記数式(数1)で表され、
前記残渣量が、前記紙基材および前記分離層における全体の質量に対して、6質量%以下である、
ラミネート紙。
R=[{TPW-((TPT/104)×TPρ×LS)}/{LW-((TPT/104)×TPρ×LS)}]×100 ・・・(数1)
(前記数式(数1)中、Rは、残渣量(単位:質量%)、TPWは、分離後の熱可塑性樹脂層の重量(単位:g)、TPTは、熱可塑性樹脂層の厚さ(単位:μm)、TPρは、熱可塑性樹脂層の密度(単位:g/cm3)、LSは、分離前のラミネート紙における熱可塑性樹脂層の面積(単位:cm2)、LWは、分離前のラミネート紙の重量(単位:g)を表す。)
【0014】
[6]
[1]から[5]のいずれか一項に記載のラミネート紙を分離する方法であって、
前記ラミネート紙を準備する工程と、
前記ラミネート紙を、アルカリ溶液中で、前記紙基材と、前記熱可塑性樹脂層とを分離する工程と、
を有する、
ラミネート紙の分離方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることが可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量が抑制されたラミネート紙、及び当該ラミネート紙の分離方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係るラミネート紙の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[ラミネート紙]
本実施形態に係るラミネート紙は、熱可塑性樹脂層を備える。当該ラミネート紙は、紙基材と、前記紙基材の少なくとも一方の面に設けられ、酸価が60mgKOH/g以上であるスチレンアクリル樹脂を含む分離層と、前記分離層の前記紙基材側と反対側の面に設けられ、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層と、を備える。
【0018】
本発明者らは、スチレンアクリル樹脂の酸価に着目し、特定の酸価以上を有するスチレンアクリル樹脂を、紙基材とポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層との間に設けることによって、紙基材と熱可塑性樹脂層とを容易に分離させることが可能であり、分離させた後の熱可塑性樹脂層に残留する残渣の量が抑制されることを知見した。すなわち、本実施形態に係るラミネート紙は、上記構成を備えることにより、紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることが可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量が抑制される。これについて、本発明者らは、次のように考えている。熱可塑性樹脂層と紙基材との間に設けられた分離層は、特定の値以上の酸価を有するスチレンアクリル樹脂を含むため、スチレンアクリル樹脂中のカルボキシ基の含有量が多くなる。そして、本実施形態に係るラミネート紙をアルカリ溶液に投入すると、分離層に含まれるスチレンアクリル樹脂が、アルカリ溶液中の陽イオン(例えば、Na+およびK+など)と塩を形成して膨潤することにより、分離層と熱可塑性樹脂層との界面強度が弱まると考えられる。その結果、本実施形態に係るラミネート紙をリサイクルするときに、紙をアルカリ性の水溶液中で離解する場合の条件と同様の条件下において、紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを、比較的短時間で容易に分離することが可能となり、熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量が少なくなると推測される。そして、本実施形態に係るラミネート紙から、紙基材を含む残渣の付着量が少ない熱可塑性樹脂層が分離されるため、リサイクル可能な熱可塑性樹脂層の収率が向上する。
本明細書において、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層を、単に、熱可塑性樹脂層と称する場合がある。
【0019】
本実施形態に係るラミネート紙において、熱可塑性樹脂層と紙基材とを分離させたとき、熱可塑性樹脂層と紙基材とは、例えば、分離層とともに紙基材が熱可塑性樹脂層から分離して、熱可塑性樹脂層と分離層との界面で分離している状態に近いと考えられる。
【0020】
なお、本実施形態に係るラミネート紙は、熱可塑性樹脂層と紙基材との間に設けられた分離層に、特定の値以上の酸価を有するスチレンアクリル樹脂を含むため、水による分離はできず、水溶性接着剤などの接着剤層を備えた従来のラミネート紙に比べ、耐水性および耐湿性に優れると考えられる。このため、ラミネート紙は、高湿度環境下での保管性等が良好であり、高湿度環境下での保管した場合であっても、紙基材と熱可塑性樹脂層との密着性に優れる。また、本実施形態に係るラミネート紙は、熱可塑性樹脂層と紙基材とを分離するときに、水で分離する場合に比べ、アルカリ溶液での分離性に優れる。
【0021】
本実施形態に係るラミネート紙について、図面を参照して説明する。図面においては、説明を容易にするために、拡大または縮小して図示した部分がある。
図1に示されるラミネート紙100は、紙基材10と、紙基材10の一方の面(第一紙基材面11)に積層された分離層20と、分離層20の紙基材10側とは反対側の面(第一分離層面21)に積層された熱可塑性樹脂層30とを備えており、紙基材10、分離層20、及び熱可塑性樹脂層30が、紙基材10から熱可塑性樹脂層30に向かって、厚さ方向に、この順で順次積層されている。紙基材10と、分離層20とは、直接、接しており、分離層20と、熱可塑性樹脂層30とは、直接、接している。
図1に示されるラミネート紙100において、紙基材10の第一紙基材面11と反対側の第二紙基材面12には、分離層20及び熱可塑性樹脂層30が設けられておらず、第二紙基材面12が露出している。また、熱可塑性樹脂層30の第二熱可塑性樹脂層面32は、分離層20と接しており、その反対側の第一熱可塑性樹脂層面31は、露出している。分離層20は、酸価が60mgKOH/g以上のスチレンアクリル樹脂を含み、熱可塑性樹脂層30は、ポリオレフィン樹脂を含む。
【0022】
以上、
図1を参照して、本実施形態に係るラミネート紙の一例を説明したが、本実施形態に係るラミネート紙は、これに限定されるものではない。本実施形態に係るラミネート紙は、上記構成を有していれば、種々の形態を採用し得る。例えば、ラミネート紙100は、紙基材10の第一紙基材面11側に、分離層20及び熱可塑性樹脂層30が設けられているが、第一紙基材面11側だけでなく、第二紙基材面12側にも、分離層20及び熱可塑性樹脂層30が設けられてもよい。第二紙基材面12側に設けれた分離層20及び熱可塑性樹脂層30は、紙基材10から熱可塑性樹脂層30に向かって、厚さ方向に、この順で設けられる。この場合、熱可塑性樹脂層30、分離層20、紙基材10、分離層20、及び熱可塑性樹脂層30が、厚さ方向に、この順で設けられる。
【0023】
また、ラミネート紙100を剥離紙の用途に適用する場合は、第一熱可塑性樹脂層面31に、剥離剤層(不図示)を設けてもよい。当該剥離剤層は、シリコーン系剥離剤を含むことが好ましい。
また、ラミネート紙100を包装紙の用途に適用する場合は、必要に応じて、第一熱可塑性樹脂層面31および第二紙基材面12の少なくとも一方の面に、印刷層等の装飾層(不図示)を設けてもよい。
【0024】
(紙基材)
紙基材としては、分離層を支持できれば、特に限定されるものではない。紙基材としては、例えば、クラフト紙、上質紙、グラシン紙、及びコート紙(例えば、アート紙、クレーコート紙、及びキャストコート紙など)などが挙げられる。
【0025】
本明細書において、コート紙は、パルプ繊維を主成分とする原紙と、原紙の上に設けられた顔料コート層とを備えている。原紙は、例えば、パルプ繊維を主成分として、目的とする添加剤が添加され、公知の方法で得られる。顔料コート層は、原紙の上に、公知の方法で設けられる。顔料コート層は、単層構造でもよく、多層構造でもよい。顔料コート層は、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、サチンホワイト、酸化チタン、及びプラスチックピグメントなどの一種又は二種以上の顔料100質量部に対して、例えば、水性樹脂などの接着剤を、2質量部以上、50質量部以下の範囲で含有する。本明細書において、水性樹脂とは、水に分散し得る樹脂、又は水に溶解し得る樹脂を指す。水性樹脂とは、水溶性の樹脂だけでなく、エマルション型、及びディスパージョン型のように、水に分散可能な樹脂も含む。
【0026】
紙基材の坪量は、特に限定されない。紙基材の坪量は、例えば、50g/m2以上であることが好ましく、60g/m2以上であることがより好ましい。
紙基材の坪量は、例えば、200g/m2以下であることが好ましく、150g/m2以下であることがより好ましい。
【0027】
紙基材の厚さは、特に限定されない。紙基材の厚さは、例えば、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。
紙基材の厚さは、例えば、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0028】
(分離層)
分離層は、酸価が60mgKOH/g以上のスチレンアクリル樹脂を含有する。分離層は、紙基材に、直接、接して設けられることが好ましい。本明細書において、スチレンアクリル樹脂の酸価(単位:mgKOH/g)は、樹脂構成単位比から導かれる理論酸価であり、スチレンアクリル樹脂1gを中和するために必要な水酸化カリウム(KOH)の質量(単位:mg)を表す。スチレンアクリル樹脂の酸価は、紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることがより可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量がより抑制される観点で、80mgKOH/g以上であることが好ましく、140mgKOH/g以上であることがより好ましい。
スチレンアクリル樹脂の酸価の上限は、特に限定されず、例えば、300mgKOH/g以下であってもよく、250mgKOH/g以下であってもよい。
【0029】
スチレンアクリル樹脂の酸価は、例えば、後述のアクリルモノマーの種類および量を変更することによって調整することができる。
【0030】
紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることがより可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量がより抑制される観点で、スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されず、例えば、80℃以上であることが好ましい。スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度の上限は特に限定されず、例えば、130℃以下であってもよい。スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度が80℃以上であれば、熱可塑性樹脂層を分離層に、直接、接して設けるときに、スチレンアクリル樹脂の染み出しが抑制されやすい。
スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により、示差走査熱量計を用いて、スチレンアクリル樹脂のDSC曲線を測定し、得られたDSC曲線の変曲点の温度で表される。具体的には、JIS K7121:1987に準拠して測定できる。
【0031】
スチレンアクリル樹脂は、例えば、アクリルモノマーとスチレンモノマーとを共重合することによって得られる。
【0032】
本明細書において、アクリルモノマーは、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸の誘導体の両者を含む。(メタ)アクリル酸の誘導体は、例えば、(メタ)アクリル酸の低級アルキル基置換体および(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
本明細書において、スチレンモノマーは、スチレンおよびスチレンの誘導体の両者を含む。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0033】
アクリルモノマーは、特に限定されない。アクリルモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
アクリルモノマーは、例えば、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、及び(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。酸価が60mgKOH/g以上のスチレンアクリル樹脂を得るために、アクリルモノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。
【0034】
スチレンモノマーは、特に限定されない。スチレンモノマーは、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、メトキシスチレン、及び、スチレンスルホン酸又はスチレンスルホン酸の塩等が挙げられる。スチレンモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。これらの中でも、スチレンモノマーは、スチレン、及びαメチルスチレンの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0035】
スチレンアクリル樹脂を重合する方法は、特に限定されず、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、及び無溶剤バルク重合等の公知の重合方法を採用できる。スチレンアクリル樹脂は、酸価を60mgKOH/g以上になるように、アクリルモノマー、及びスチレンモノマーを選択して重合させればよい。スチレンアクリル樹脂は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体、及びランダム共重合体のいずれであってよい。スチレンアクリル樹脂は、市販品のスチレンアクリル樹脂を用いてもよく、合成させたスチレンアクリル樹脂を使用してもよい。
【0036】
紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることがより可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量がより抑制される観点で、分離層中、酸価が60mgKOH/g以上のスチレンアクリル樹脂の含有量は、分離層の全体量基準で、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることがよりさらに好ましい。
分離層中の当該スチレンアクリル樹脂の含有量が100質量%(すなわち、分離層が、当該スチレンアクリル樹脂のみからなる層)であれば、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層がよりリサイクルしやすくなる。
【0037】
紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることがより可能であり、かつ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量がより抑制される観点で、酸価が60mgKOH/g以上のスチレンアクリル樹脂の塗布量は、固形分換算で、0.5g/m2以上、8.0g/m2以下であることが好ましい。なお、分離層中に、当該スチレンアクリル樹脂以外の成分が含まれていても、当該スチレンアクリル樹脂の塗布量が上記範囲であればよい。
当該スチレンアクリル樹脂の塗布量は、固形分換算で、0.8g/m2以上であることがより好ましく、1.0g/m2以上であることがさらに好ましい。
当該スチレンアクリル樹脂の塗布量は、固形分換算で、6.0g/m2以下であることがより好ましく、5.0g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0038】
分離層には、必要に応じて、無機充填剤、着色剤料等の各種添加剤を含有してもよい。
【0039】
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層は、ポリオレフィン樹脂を含む。熱可塑性樹脂層は、分離層に、直接、接して設けられることが好ましい。ポリオレフィン樹脂は、特に限定されない。ポリオレフィン樹脂は、例えば、炭素数2以上、18以下のオレフィンモノマーを含むモノマーから重合された重合体が挙げられる。
【0040】
ポリオレフィン樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン、及び4-メチル-1-ペンテン等のオレフィンモノマーの単独重合体が挙げられる。ポリオレフィン樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン、及び4-メチルペンテン等からなる群から選択されるオレフィンモノマーの共重合体も挙げられる。オレフィンモノマーの共重合体は、例えば、エチレンと、炭素数3以上、18以下のαオレフィン(例えば、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン、及び4-メチルペンテン等からなる群から選択される少なくとも一つのオレフィンモノマー)との共重合体も挙げられる。オレフィンモノマーの共重合体は、2種以上のオレフィンモノマーを併用してもよい。ポリオレフィン樹脂は、一種単独の樹脂でもよいし、二種以上の樹脂の組み合わせでもよい。
【0041】
ポリオレフィン樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、及び4-メチル-1-ペンテン等のオレフィンモノマーの一種または二種以上と、水酸基、カルボキシ基、酢酸ビニル構造、及び酸無水物構造等を有するモノマーの一種または二種以上との共重合体も挙げられる。ポリオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、及び4-メチル-1-ペンテン等のオレフィンモノマーを重合させることによって得られた重合体に、水酸基、カルボキシ基、酢酸ビニル構造、及び酸無水物構造等の一つ又は二つ以上の構造を導入させた樹脂も挙げられる。
【0042】
ポリオレフィン樹脂は、例えば、具体的には、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、及び高密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-2-ブテン、ポリ-1-ヘキセン、ポリ-1-オクテン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群から選択される少なくとも一種であることが挙げられる。
【0043】
これらの中でも、ポリオレフィン樹脂は、エチレンに由来する構成単位およびプロピレンに由来する構成単位の少なくとも一つを持つ樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂は、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることがより好ましく、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることがさらに好ましい。
【0044】
ポリオレフィン樹脂の密度は、特に限定されず、例えば、0.85g/cm3以上、0.97g/cm3以下であることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂がポリエチレンである場合、例えば、密度が0.91g/cm3以上、0.93g/cm3未満の低密度ポリエチレン、密度が0.93g/cm3以上、0.942g/cm3未満の中密度ポリエチレン、及び、密度が0.942g/cm3以上、0.97g/cm3以下の高密度ポリエチレンのいずれでもよい。
ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンである場合、例えば、密度が0.90g/cm3以上、0.91g/cm3以下のポリプロピレンであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂の密度は、JIS K7112:1999に準拠して測定できる。
【0045】
熱可塑性樹脂層の厚さは、特に限定されず、10μm以上、30μm以下であることが好ましい。
熱可塑性樹脂層の厚さは、11μm以上であることがより好ましく、13μm以上であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂層の厚さは、28μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが好ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂層中、ポリオレフィン樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂層の全体量基準で、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることがよりさら好ましい。
熱可塑性樹脂層のポリオレフィン樹脂の含有量が100質量%(すなわち、熱可塑性樹脂層が、ポリオレフィン樹脂のみからなる層)であれば、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層をよりリサイクルしやすくなる。
【0047】
熱可塑性樹脂層は、ポリオレフィン樹脂以外に、無機充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び安定剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0048】
本実施形態に係るラミネート紙において、アルカリ溶液中で、紙基材と、熱可塑性樹脂層とを分離したとき、前記熱可塑性樹脂層に付着している残渣の残渣量が、紙基材および前記分離層における全体の質量に対して、6質量%以下であることが好ましい。当該残渣量は、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0(ゼロ)質量%であることがよりさらに好ましい。熱可塑性樹脂層に付着している残渣は、紙基材を含む残渣である。紙基材と、熱可塑性樹脂層とを分離したときに、熱可塑性樹脂層に付着している残渣の残渣量は、下記数式(数1)で表される。
【0049】
R=[{TPW-((TPT/104)×TPρ×LS)}/{LW-((TPT/104)×TPρ×LS)}]×100 ・・・(数1)
(前記数式(数1)中、Rは、残渣量(単位:質量%)、TPWは、分離後の熱可塑性樹脂層の重量(単位:g)、TPTは、熱可塑性樹脂層の厚さ(単位:μm)、TPρは、熱可塑性樹脂層の密度(単位:g/cm3)、LSは、分離前のラミネート紙における熱可塑性樹脂層の面積(単位:cm2)、LWは、分離前のラミネート紙の重量(単位:g)を表す。)
【0050】
当該残渣量が、6質量%以下であれば、熱可塑性樹脂層を再利用しやすくなり、リサイクル可能なポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層の収率が向上する。
【0051】
(ラミネート紙の用途)
本実施形態に係るラミネート紙の用途は、特に限定されず、例えば、剥離紙および包装紙などが例示される。本実施形態に係るラミネート紙が剥離紙又は包装紙の用途に適用される場合、剥離紙又は包装紙は、本実施形態に係るラミネート紙を含む。剥離紙は、一般的な剥離シートの用途に適用できる。剥離紙としては、例えば、剥離紙が備える剥離剤層の剥離面にシート状物を形成する工程において用いられる工程紙として使用可能である。剥離紙は、具体的には、各種樹脂シート、合成皮革、又は各種複合材料などを作製するときの各種工程紙として適用できる。
【0052】
本実施形態に係るラミネート紙を剥離紙の用途に適用する場合、本実施形態に係るラミネート紙自体を剥離紙として適用してもよく、剥離紙の基材として適用してもよい。本実施形態に係るラミネート紙を剥離紙の基材として適用する場合、本実施形態に係るラミネート紙における熱可塑性樹脂層の上に、剥離剤層を設けることが好ましい。例えば、剥離剤層は、本実施形態に係るラミネート紙における熱可塑性樹脂層に、直接、接するように積層されていてもよい。例えば、本実施形態に係るラミネート紙における熱可塑性樹脂層の上に、中間層を向け、当該中間層の上に、剥離剤層が積層されていてもよい。中間層としては、例えば、プライマー層等の易接着層などが挙げられる。剥離剤層に含まれる剥離剤は、特に限定されず、シリコーン系剥離剤など、公知の剥離剤が使用できる。シリコーン系剥離剤は、特に限定されず、溶剤型、無溶剤型、又はエマルション型のいずれの形態でも用いることができる。
【0053】
本実施形態に係るラミネート紙を包装紙の用途に適用する場合、包装紙は、一般的な包装紙の用途に適用できる。包装紙としては、特に限定されず、例えば、防湿包装紙などが挙げられる。防湿包装紙は、例えば、コピー用紙(PPC用紙)、コート紙、キャストコート紙、その他一般用紙、及び新聞紙等の各種紙材を包装する包装紙として用いることができる。
【0054】
本実施形態に係るラミネート紙を包装紙として適用する場合、例えば、本実施形態に係るラミネート紙自体を包装紙として適用してもよく、本実施形態に係るラミネート紙における紙基材の分離層側とは反対側の面(第二紙基材面)、及び、熱可塑性樹脂層の分離層側とは反対側の面(第一熱可塑性樹脂層面)の少なくともいずれかの面に、印刷層等の装飾層を設けてもよい。装飾層としての印刷層を設けることにより、ラミネート紙に、被包装物の内容等に関する情報、その他の情報を印刷により表示することができる。
【0055】
[ラミネート紙の製造方法]
本実施形態に係るラミネート紙の好ましい製造方法の一例としては、以下の製造方法が挙げられる。本実施形態に係るラミネート紙の好ましい製造方法は、例えば、紙基材を準備する工程と、前記紙基材の少なくとも一方の面に、酸価が60mgKOH/g以上のスチレンアクリル樹脂を含む塗布液を塗布することにより分離層を設ける工程と、前記分離層の前記紙基材側とは反対側の面に、ポリオレフィン樹脂を溶融押出ラミネートすることにより、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層を設ける工程と、を備える。
【0056】
紙基材を準備する工程は、前述の紙基材で説明した紙基材を準備すればよい。紙基材は、公知の製造方法によって得られる。
【0057】
分離層を設ける工程は、前述の分離層で説明した酸価が60mgKOH/g以上のスチレンアクリル樹脂を準備する工程を含む。当該スチレンアクリル樹脂は、取り扱いやすさ等の観点で、エマルションタイプであることが好ましい。次いで、準備したスチレンアクリル樹脂を含む塗布液を調製し、スチレンアクリル樹脂を含む塗布液を紙基材の一方の面に塗布する。スチレンアクリル樹脂を含む塗布液を塗布するに当たり、目的とする固形分換算の塗布量となるように、希釈することが好ましい。当該スチレンアクリル樹脂を含む塗布液を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、カーテンコート法、及びグラビアコート法などの塗布方法が挙げられる。
【0058】
分離層を設ける工程では、紙基材の表面に分離層を設けた後、分離層と熱可塑性樹脂層との密着性を高めるために、分離層の表面に対し、コロナ処理、プラズマ処理、及び火炎処理などの易接着処理が施されてもよい。
【0059】
熱可塑性樹脂層を設ける工程は、前述の熱可塑性樹脂層で説明したポリオレフィン樹脂を準備する工程を含む。次いで、前記分離層の前記紙基材側とは反対側の面に、準備したポリオレフィン樹脂を溶融押出ラミネートする。ポリオレフィン樹脂を溶融押出ラミネートする方法は、特に限定されず、例えば、Tダイを用いて、ポリオレフィン樹脂を溶融押出ラミネートすることが好ましい。ポリオレフィン樹脂を溶融押出ラミネートするときの押出温度は、ポリオレフィン樹脂の種類によって設定すればよい。ポリオレフィン樹脂がポリエチレンである場合、例えば、290℃以上、350℃以下であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンである場合、例えば、240℃以上、300℃以下であることが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂を溶融押出ラミネートするときの押出温度は、ダイから押し出されるときのポリオレフィン樹脂の温度である。押出温度は、押出機のダイ内におけるポリオレフィン樹脂の温度として測定できる。
【0060】
以上の工程を経ることによって、本実施形態に係るラミネート紙が得られる。
【0061】
[ラミネート紙の分離方法]
本実施形態に係るラミネート紙を分離する好ましい方法の一例としては、以下の分離方法が挙げられる。本実施形態に係るラミネート紙の好ましい分離方法は、例えば、本実施形態に係るラミネート紙を準備する工程と、前記ラミネート紙を、アルカリ溶液中で、前記紙基材と、前記熱可塑性樹脂層とを分離する工程と、を有する。
【0062】
ラミネート紙を準備する工程は、前述のラミネート紙で説明したラミネート紙を準備する。ラミネート紙は、例えば、前述のラミネート紙の好ましい製造方法によって得ることができる。
【0063】
ラミネート紙を分離する工程は、アルカリ溶液中で、紙基材と、熱可塑性樹脂層とを分離する。紙基材と、熱可塑性樹脂層とを分離する方法は、特に限定されない。熱可塑性樹脂層と紙基材とを短時間に分離させ、当該熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量を抑制しやすくする観点で、紙基材と、熱可塑性樹脂層とを分離する方法は、アルカリ溶液中に浸漬し、アルカリ溶液中で撹拌する方法を採用することが好ましい。アルカリ溶液中で、紙基材と、熱可塑性樹脂層とが分離する時間は、15分以下であることが好ましく、5分以下であることがより好ましく、3分以下であることがさらに好ましい。アルカリ溶液は、例えば、pHが、13以上、15以下のアルカリ水溶液であることが好ましい。アルカリ溶液を調製するためのアルカリ剤は、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ溶液の温度は、例えば、23℃以上、70℃以下であることが好ましい。アルカリ溶液は、アルカリ水溶液であることが好ましい。
【0064】
本実施形態に係るラミネート紙において、分離層が、特定の値以上の酸価を有するスチレンアクリル樹脂を含むため、耐水性および耐湿性が確保されやすい。このため、ラミネート紙を分離する工程において、本実施形態に係るラミネート紙を、水中で、紙基材と、熱可塑性樹脂層とを分離することは難しい。これに対し、ラミネート紙を分離する工程において、本実施形態に係るラミネート紙を、アルカリ溶液中で、紙基材と、熱可塑性樹脂層とを分離する場合は、分離層中のスチレンアクリル樹脂がアルカリ溶液によって膨潤することで、分離層と熱可塑性樹脂層との界面強度が弱まると考えられるため、紙基材と、熱可塑性樹脂層とが分離しやすくなり、さらに、熱可塑性樹脂層に、紙基材を含む残渣が付着しにくくなる。
【0065】
以上の工程を経ることによって、本実施形態に係るラミネート紙は、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層と、紙基材とが分離される。分離された熱可塑性樹脂層と、分離された紙基材とは、それぞれリサイクルすることが可能である。また、本実施形態に係るラミネート紙の好ましい分離方法によって、分離された熱可塑性樹脂層に付着している残渣(紙基材を含む残渣)が抑制される。例えば、熱可塑性樹脂層に付着している残渣の残渣量としては、前述の数式(数1)で表される残渣量が、6質量%以下であることが挙げられる。このため、本実施形態に係るラミネート紙の好ましい分離方法によって、リサイクル可能なポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層の収率が向上する。
【0066】
本発明は、前記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形および改良などを含むことができる。
【実施例0067】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0068】
各実施例および各比較例のラミネート紙を作製するための材料として、下記の原材料を準備した。
【0069】
(紙基材)
「P-1」:上質紙(日本製紙株式会社製、「WMシ-ル64.0G」、坪量64g/m2)
「P-2」:グラシン紙(リンテック株式会社製グラシン、坪量73g/m2)
【0070】
(分離層)
「St・Ac-1」:スチレンアクリル樹脂(星光PMC株式会社製、「TE-1048」、酸価200mgKOH/g、ガラス転移温度Tg123℃)
「St・Ac-2」:スチレンアクリル樹脂(星光PMC株式会社製、「KE-1062」、酸価149mgKOH/g、ガラス転移温度Tg96℃)
「St・Ac-3」:スチレンアクリル樹脂(星光PMC株式会社製、「HE-1335」、酸価84mgKOH/g、ガラス転移温度Tg15℃)
「St・Ac-4」:スチレンアクリル樹脂(星光PMC株式会社製、「NE-2186」、酸価59mgKOH/g、ガラス転移温度Tg107℃)
「St・Ac-5」:スチレンアクリル樹脂(酸価50mgKOH/g、ガラス転移温度Tg23℃)
【0071】
(熱可塑性樹脂層)
「LDPE」:低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製、「スミカセンL405」、密度0.924g/cm3)
「PP」:ポリプロピレン(サンアロマー株式会社製、「サンアロマーPHA03A」、密度0.90g/cm3)
【0072】
<実施例1>
紙基材(P-1:上質紙)の片面に、スチレンアクリル樹脂(St・Ac-1)を、固形分換算の塗布量として、5.0g/m2になるように、アプリケーターでコーティングした後、120℃、1分間で乾燥して、分離層を形成した。次いで、低密度ポリエチレン(LDPE)を加熱溶融し、溶融したポリエチレンを、分離層に、直接、接するように、300℃の押出温度でTダイから押し出すことにより、厚さ16μmの熱可塑性樹脂層を形成した。このようにして、紙基材、分離層、及び熱可塑性樹脂層の順で積層された実施例1のラミネート紙を得た。
【0073】
<実施例2~実施例11>
表1にしたがって、紙基材の種類、分離層を形成するスチレンアクリル樹脂の種類、スチレンアクリル樹脂の塗布量、及び熱可塑性樹脂層を形成するポリオレフィン樹脂の種類のうちの少なくともいずれかの条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、各実施例のラミネート紙を得た。なお、ポリオレフィン樹脂として、プロピレン樹脂(PP)を用いた場合の押出温度は、270℃に変更した。
【0074】
<比較例1>
分離層を設けず、紙基材に、直接、接するように、熱可塑性樹脂層を設けた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のラミネート紙を得た。
【0075】
<比較例2>
スチレンアクリル樹脂(St・Ac-1)を、スチレンアクリル樹脂(St・Ac-5)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2のラミネート紙を得た。
【0076】
<易分離性評価>
各例で得られたラミネート紙を、50mm×50mmの寸法にカットして、易分離性評価用試料を採取した。易分離性評価用試料を、60℃に加温した1.5質量%水酸化ナトリウム水溶液(pH13.6)の1リットル中に投入して、撹拌機(アズワン株式会社製、ハイパワースターラー HPS-100)を用い、回転数420rpmで撹拌した。撹拌時間は、熱可塑性樹脂層から紙基材が剥がれた時間まで行った。熱可塑性樹脂層から紙基材が剥がれた時間を記録し、下記評価基準にしたがって易分離性の評価を行った。なお、熱可塑性樹脂層から紙基材が剥がれない場合、撹拌時間は、最大30分とした。結果を表1に示す。
【0077】
また、別途、50mm×50mmの寸法にカットした易分離性評価用試料を採取し、60℃に加温した1.5質量%水酸化ナトリウム水溶液(pH13.6)を、温水(水道水、温度60℃)に代えて、上記と同様の試験方法で、易分離性の評価を行った。その結果、撹拌時間が30分を経過しても、紙基材が熱可塑性樹脂層から分離しなかった。また、30分間攪拌しても、紙基材の離解もほぼできなかった。
【0078】
(評価基準)
「5」:3分以内に、熱可塑性樹脂層に付着している紙基材を含む残渣がみられず、すべて剥がれる。
「4」:3分超、8分以内に、熱可塑性樹脂層から紙基材を含む残渣がみられず、すべて剥がれる。
「3」:8分超、15分以内に、熱可塑性樹脂層から紙基材を含む残渣がみられず、すべて剥がれる。
「2」:15分超、30分以内に、熱可塑性樹脂層から紙基材が剥がれるが、紙基材を含む残渣がみられる。
「1」:30分経過後でも、熱可塑性樹脂層から紙基材が剥がれない。水酸化ナトリウム水溶液から易分離性評価用試料を取り出し直後に、熱可塑性樹脂層に付着している紙基材を擦っても、紙基材が剥がれにくい。
【0079】
<残渣量評価>
各例で得られたラミネート紙を、厚さ方向に平行な方向に沿って、100mm×100mmの寸法にカットして、残渣量評価用試料を採取した。採取した残渣量評価用試料における熱可塑性樹脂層の面積は10000mm2である。採取した残渣量評価用試料の重量を測定した。その後、残渣量評価用試料を、60℃に加温した1.5質量%水酸化ナトリウム水溶液(pH13.6)の1リットル中に投入して、撹拌機(アズワン株式会社製、ハイパワースターラー HPS-100)を用い、回転数420rpmで撹拌した。撹拌時間は、熱可塑性樹脂層から紙基材が剥がれた時間まで行った。熱可塑性樹脂層から紙基材が剥がれない場合は、最大30分間攪拌した。残渣量評価用試料から分離した熱可塑性樹脂層を前記水酸化ナトリウム水溶液から取り出し、熱可塑性樹脂層の重量を測定した。前記水酸化ナトリウム水溶液に投入する前に測定した残渣量評価用試料の重量と、前記水酸化ナトリウム水溶液から取り出した後に測定した熱可塑性樹脂層の重量から、前述の数式(数1)にしたがって、熱可塑性樹脂層に付着した残渣の残渣量を算出した。結果を表1に示す。なお、表1中の%は、質量%である。
【0080】
数式(数1)中のTPρに代入する値として、熱可塑性樹脂層に低密度ポリエチレンを用いた場合、低密度ポリエチレンの密度は、0.924g/cm3とし、熱可塑性樹脂層にポリプロピレンを用いた場合、ポリプロピレンの密度は、0.90g/cm3とした。
また、数式(数1)中のTPTに代入する値として、残渣量評価用試料から分離した後の熱可塑性樹脂層の厚さを測定した。当該熱可塑性樹脂層の厚さは、残渣が存在する部分を避けて、当該熱可塑性樹脂層の4隅付近と中央付近1箇所の合計5カ所を測定し、その平均値とした。熱可塑性樹脂層に付着する残渣が多い場合は、当該熱可塑性樹脂層の厚さは、前述のTダイから押出して形成した熱可塑性樹脂層の厚さを採用した。
【0081】
<接着強度>
各例で得られたラミネート紙を手で剥がし、熱可塑性樹脂層と紙基材との接着性を目視にて確認した。
【0082】
(評価基準)
「A」:手で剥がしても剥がすことができず、十分に接着している。
「F」:手で容易に剥がれる。
【0083】
【0084】
以上の結果から、各実施例のラミネート紙は、各比較例のラミネートに比べ、紙基材と、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂層とを短時間に分離させることが可能であること、及び、各実施例のラミネート紙は、各比較例のラミネートに比べ、熱可塑性樹脂層に残留する紙基材を含む残渣の量が抑制されていることが分かる。
【0085】
なお、実施例1で作製したラミネート紙を易分離性試験と同様にして熱可塑性樹脂を分離した後、当該熱可塑性樹脂層の分離層および紙基材が設けられていた側の面(第二熱可塑性樹脂層面)について、赤外分光法(IR:Infrared spectroscopy)により分析を行ったところ、熱可塑性樹脂層の第二熱可塑性樹脂層面には、スチレンアクリル樹脂に由来するピークの存在が確認できなかった。このため、実施例1のラミネート紙は、分離層とともに紙基材が熱可塑性樹脂層から分離して、熱可塑性樹脂層と分離層との界面で分離している状態であることが確認された。
10…紙基材、11…第一紙基材面、12…第二紙基材面、20…分離層、21…第一分離層面、22…第二分離層面、30…熱可塑性樹脂層、31…第一熱可塑性樹脂層面、32…第二熱可塑性樹脂層面、100…ラミネート紙。