(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132075
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】分光分析を用いたエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定方法および繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/359 20140101AFI20240920BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N21/359
C08G59/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042728
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本遠 和範
【テーマコード(参考)】
2G059
4J036
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB08
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059HH06
2G059JJ01
2G059MM01
4J036AA05
4J036AD08
4J036AH07
4J036DA06
4J036DC03
4J036DC10
4J036FB05
4J036JA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、特定のエポキシ主剤成分と硬化剤成分を含む2成分型のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比について極めて高い品質を要求される航空機構造材用途の測定方法の提供を目的とする。
【解決手段】(1)エポキシ主剤成分に、[A]テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを70質量%以上90質量%以下含む。
(2)エポキシ主剤成分に、[B]ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む。
(3)硬化剤成分に、[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)および/または[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)を含む。
(4)硬化剤成分として、[C]の含有量または[D]の含有量が70質量%以上100質量%以下である。
(5)波長1,300以上1,400nm以下の分光分析スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析をして混合比を測定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(5)を満たす、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を含む2成分型のエポキシ樹脂組成物において、前記エポキシ主剤成分と前記硬化剤成分を混合したエポキシ樹脂組成物に対して分光分析を行い、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定する測定方法。
(1)前記エポキシ主剤成分に、[A]テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、70質量%以上90質量%以下含む。
(2)前記エポキシ主剤成分に、[B]ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む。
(3)前記硬化剤成分に、[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)および/または[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)を含む。
(4)硬化剤成分を100質量%としたとき、[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)の含有量または[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)の含有量が70質量%以上100質量%以下である。
(5)前記分光分析で得られた分光スペクトルのうち、波長1,300nm以上1,400nm以下の範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施して、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定する。
【請求項2】
前記分光分析で得られた分光スペクトルのうち、波長1,350nm以上1,400nm以下の範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施して、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定する請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記分光分析が、赤外分光法(IR)または近赤外分光法(NIR)である請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
先端部に吸光度を測定する受光部を有するプローブを、前記エポキシ樹脂組成物中に挿入することで前記分光分析を行う請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
前記分光分析において光路長が5mm以上10mm未満である請求項1に記載の測定方法。
【請求項6】
前記主剤成分が液状で、かつ前記硬化剤成分に含まれる化合物がいずれも融点を有する常温で固体の化合物であり、加熱して液状とした前記硬化剤成分と前記エポキシ主剤成分とを混合してエポキシ樹脂組成物とした後に、前記分光分析を行う請求項1に記載の測定方法。
【請求項7】
前記硬化剤成分に含まれる化合物の融点がいずれも60℃以上90℃以下である請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
前記エポキシ主剤成分に[B]ビスフェノールF型エポキシ樹脂を、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、10質量%以上30質量%以下含む請求項1に記載の測定方法。
【請求項9】
前記硬化剤成分に、[E]4,4’-メチレンビス(3,3’,5,5’-テトライソプロピルアニリン)をさらに含む請求項1に記載の測定方法。
【請求項10】
前記エポキシ主剤成分に、[F]シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子をさらに含み、前記コアシェルゴム粒子の体積平均粒子径が50nm以上300nm以下の範囲内である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項11】
前記エポキシ主剤成分に含まれるエポキシ基総数(E)と前記硬化剤成分中に含まれるアミン化合物の活性水素総数(H)との比であるH/Eが1.1以上1.4以下である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項12】
前記エポキシ主剤成分と前記硬化剤成分を混合しエポキシ樹脂組成物とした後、請求項1に記載の測定方法で前記エポキシ樹脂組成物中のエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定し、その後に加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に前記エポキシ樹脂組成物を注入し、含浸させ、前記成形型内で前記エポキシ樹脂組成物を硬化させる、繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用の2成分型のエポキシ樹脂組成物における、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定方法、およびその測定方法でエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定したエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を生かした材料設計ができるため、航空宇宙分野を始めとして、スポーツ分野、一般産業分野等にも用途が拡大されている。
【0003】
強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が用いられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂等が用いられる。
【0004】
繊維強化複合材料の成形方法としては、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM(Resin Transfer Molding)法等の方法が適用される。プリプレグ法は、強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸したプリプレグを所望の形状に積層し、加熱することによって成形物を得る方法である。このプリプレグ法は航空機や自動車等の構造材用途で要求される高い材料強度を有する繊維強化複合材料の生産には向いているが、プリプレグの作製、積層等の多くのプロセスを経ることを必要とするため、少量生産しかできず、大量生産には不向きであり、生産性に課題がある。一方、RTM法は、加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に液状のエポキシ樹脂組成物を注入し、含浸させ、当該成形型内で加熱硬化して成形物を得る方法である。この方法であれば成形型を用意することで、プリプレグ作製工程を介さずに短時間で繊維強化複合材料を成形できるだけでなく、複雑な形状の繊維強化複合材料でも容易に成形が可能という利点がある。
【0005】
液状のエポキシ樹脂組成物としては、1成分型あるいは2成分型エポキシ樹脂組成物が用いられる。1成分型エポキシ樹脂組成物とは、エポキシ樹脂、硬化剤を含め、全ての成分が1つにあらかじめ混合されたエポキシ樹脂組成物のことである。それに対し、エポキシ樹脂を主成分として含むエポキシ主剤成分と硬化剤を主成分として含む硬化剤成分とから構成され、使用直前にエポキシ主剤成分と硬化剤成分の2成分を混合して用いるエポキシ樹脂組成物を2成分型エポキシ樹脂組成物という。
【0006】
1成分型エポキシ樹脂組成物の場合、保管中にも硬化反応が進行するため冷凍保管が必要となる。また、1成分型エポキシ樹脂組成物では、硬化剤成分として反応性の低い固形状のものを選択する場合が多く、強化繊維に1液型エポキシ樹脂組成物を含浸させるためにはプレスロール等を使用して高い圧力で押し込まなくてはならない。2成分型エポキシ樹脂組成物では、エポキシ主剤成分および硬化剤成分とも液状とすることで、主剤成分と硬化剤成分の混合物も低粘度な液状とすることができ、エポキシ樹脂組成物を強化繊維へ含浸させることが容易になる。また2成分型エポキシ樹脂組成物では、エポキシ主剤成分と硬化剤成分とを別々に保管するため、保管条件に特に制限なく長期保管も可能である。
【0007】
RTM法等において、繊維強化複合材料を高効率で生産するためには、樹脂硬化時間の短縮化が必要不可欠である。この点において、2成分型エポキシ樹脂組成物は、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を混合して初めて硬化が進行するため、高い反応性の硬化剤や促進剤を配合した高速硬化型エポキシ樹脂組成物を適用しやすく、好ましい。また、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を混合後は硬化反応による粘度上昇が1成分型エポキシ樹脂よりも早いため、2成分の混合、混合比の測定、強化繊維基材への注入、含浸、加熱硬化の一連の作業を連続的かつ速やかに実施する必要がある。また、極めて高い品質を要求される航空機構造材用途においては、耐熱性や力学特性に影響を及ぼす混合比に関して、高精度の測定および制御が要求される。
【0008】
このような現状に対し、赤外吸収スペクトルを利用した樹脂注入方法が開示されており、混合比の測定と制御を可能とする方法が提案されている(特許文献1)。さらに、分光分析によりエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比をインラインで測定後、樹脂を注入する装置が開示されており、混合比の測定と制御を可能とする装置が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公報第2018/007569号
【特許文献2】特表2020-531674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の特許文献1に記載の方法では、赤外吸収スペクトルによるエポキシ樹脂組成物の各成分の混合比測定が可能となるものの、エポキシ樹脂組成物の組成や混合比測定に利用するピークによっては高精度な混合比測定が不可能となる課題がある。
【0011】
前述の特許文献2に記載の装置では、分光分析によりエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比をインラインで測定が可能となるものの、やはりエポキシ樹脂組成物の組成や混合比測定に利用するピークによっては高精度な混合比測定が不可能となる課題がある。
【0012】
このように、従来技術では、特定のエポキシ樹脂組成物に対して、高精度の混合比の測定方法は存在しなかった。そこで、本発明の目的は、特定のエポキシ樹脂組成物に対して、極めて高い品質を要求される航空機構造材用途を満足する精度を有する混合比の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の測定法および繊維強化複合材料の製造方法は、次の構成を有する。
[1]下記(1)~(5)を満たす、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を含む2成分型のエポキシ樹脂組成物において、前記エポキシ主剤成分と前記硬化剤成分を混合したエポキシ樹脂組成物に対して分光分析を行い、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定する測定方法。
(1)前記エポキシ主剤成分に、[A]テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、70質量%以上90質量%以下含む。
(2)前記エポキシ主剤成分に、[B]ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む。
(3)前記硬化剤成分に、[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)および/または[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)を含む。
(4)硬化剤成分を100質量%としたとき、[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)の含有量または[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)の含有量が70質量%以上100質量%以下である。
(5)前記分光分析で得られた分光スペクトルのうち、波長1,300nm以上1,400nm以下の範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施して、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定する。
[2]前記分光分析で得られた分光スペクトルのうち、波長1350nm以上1400nm以下の範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施して、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定する[1]に記載の測定方法。
[3]前記分光分析が、赤外分光法(IR)または近赤外分光法(NIR)である[1]または[2]に記載の測定方法。
[4]先端部に吸光度を測定する受光部を有するプローブを、前記エポキシ樹脂組成物中に挿入することで前記分光分析を行う[1]~[3]のいずれかに記載の測定方法。
[5]前記分光分析において光路長が5mm以上10mm未満である[1]~[4]のいずれかに記載の測定方法。
[6]前記主剤成分が液状で、かつ前記硬化剤成分に含まれる化合物がいずれも融点を有する常温で固体の化合物であり、加熱して液状とした前記硬化剤成分と前記エポキシ主剤成分とを混合してエポキシ樹脂組成物とした後に、前記分光分析を行う[1]~[5]のいずれかに記載の測定方法。
[7]前記硬化剤成分に含まれる化合物の融点がいずれも60℃以上90℃以下である[6]に記載の測定方法。
[8]前記エポキシ主剤成分に[B]ビスフェノールF型エポキシ樹脂を、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、10質量%以上30質量%以下含む[1]~[7]のいずれかに記載の測定方法。
[9]前記硬化剤成分に、[E]4,4’-メチレンビス(3,3’,5,5’-テトライソプロピルアニリン)をさらに含む[1]~[8]のいずれかに記載の測定方法。
[10]前記エポキシ主剤成分に、[F]シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子をさらに含み、前記コアシェルゴム粒子の体積平均粒子径が50nm以上300nm以下の範囲内である、[1]~[9]のいずれかに記載の測定方法。
[11]前記エポキシ主剤成分に含まれるエポキシ基総数(E)と前記硬化剤成分中に含まれるアミン化合物の活性水素総数(H)との比であるH/Eが1.1以上1.4以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の混合比測定方法。
[12]前記エポキシ主剤成分と前記硬化剤成分を混合しエポキシ樹脂組成物とした後、[1]~[11]のいずれかに記載の測定方法で前記エポキシ樹脂組成物中のエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定し、その後に加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に前記エポキシ樹脂組成物を注入し、含浸させ、前記成形型内で前記エポキシ樹脂組成物を硬化させる、繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定のエポキシ樹脂組成物に対して、極めて高い品質を要求される航空機構造材用途を満足する精度を有する混合比の測定方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、説明する。
【0016】
まず、本発明における、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を含む2成分型のエポキシ樹脂組成物に関する、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定方法について、説明する。
【0017】
本発明のエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定方法は、当該エポキシ主剤成分と当該硬化剤成分を混合したエポキシ樹脂組成物に対して分光分析を行うものであり、かつ下記(1)~(5)を満たす。
(1)前記エポキシ主剤成分に、[A]テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、70質量%以上90質量%以下含む。
(2)前記エポキシ主剤成分に、[B]ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む。
(3)前記硬化剤成分に、[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)、および/または[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)を含む。
(4)硬化剤成分を100質量%としたとき、[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)の含有量または[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)の含有量が70質量%以上100質量%以下である。
(5)前記分光分析で得られた分光スペクトルのうち、波長1,300nm以上1,400nm以下の範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施して、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定する。
なお、以下では、上記各成分をそれぞれ単に成分[A]、成分[B]、成分[C]、成分[D]という場合がある。
【0018】
成分[A]が上記質量%含まれ、および成分[B]が含まれ、かつ成分[C]および/または成分[D]が含まれるエポキシ樹脂組成物に対して、分光分析を行って得られる分光スペクトルのうち、上記波長の範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施することで、従来技術では困難であった精度で、混合比を測定できる。これによって、極めて高い品質(耐熱性や力学特性)を要求される航空機構造材用途を満足する繊維強化複合材料が得られる。
【0019】
本発明における成分[A]は、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンである。成分[A]は、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料に高い耐熱性や機械特性を与えるために必要な成分である。ここで成分[A]のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとは、N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、またはこれらの誘導体もしくは異性体を意味する。例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジブロモ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、等を挙げることができる。また、成分[A]として、これらのテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを2種類以上含んでも構わない。
【0020】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学工業(株)製)、YH434L(新日鉄住金化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、“アラルダイト(登録商標)”MY721(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)等が挙げられる。
【0021】
本発明における成分[A]は、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、70質量%以上90質量%以下含まれていることが必要である。70質量%以上含まれる場合は、エポキシ樹脂硬化物が高い耐熱性を発現し、かつ繊維強化複合材料としたときの湿熱時の0°圧縮強度が向上する。また、成分[A]が90質量%以下含まれる場合は、樹脂含浸温度におけるエポキシ樹脂組成物の粘度が低減し、強化繊維基材への含浸性が向上する。かかる観点から、成分[A]のエポキシ主剤成分における含有量は、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、80質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましい。なお、本発明において、エポキシ樹脂硬化物とは、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物を指す。
【0022】
本発明における成分[B]は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂である。成分[B]は、樹脂含浸温度におけるエポキシ樹脂組成物の粘度を低減し、強化繊維基材への含浸性を向上させるために必要な成分である。また、成分[B]は、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料にしたときに高い機械特性を与えるために必要な成分である。ここで成分[B]のビスフェノールF型エポキシ樹脂とは、ビスフェノールFの2つのフェノール性水酸基がグリシジル化された構造を有するものである。
【0023】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”1750、“jER(登録商標)”4004P、“jER(登録商標)”4007P、“jER(登録商標)”4009P(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”830(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF-170、“エポトート(登録商標)”YDF2001、“エポトート(登録商標)”YDF2004(以上、新日鐵住金化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”GY282(ハンツマン・ジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0024】
本発明において、成分[B]の50℃における樹脂粘度η(mPa・s)が1,000≦η≦10,000を満たすことが好ましい。ηが1,000mPa・s以上である場合は、樹脂注入温度での粘度が低くなりすぎず、強化繊維基材への注入時に空気を巻き込んで発生するピットによる未含浸が生じにくくなる。また、樹脂注入温度において、エポキシ樹脂組成物の反応性が高いと、注入過程で粘度が増加してしまい含浸性が低下し未含浸部が生じたり、成形に時間がかかったりする等、成形が困難になる場合があるが、ηが10,000mPa・s以下である場合は、樹脂注入温度における粘度が十分低いため、強化繊維基材への含浸性が向上し、未含浸が生じにくくなる。かかる観点から、樹脂粘度η(mPa・s)が1,000≦η≦8,000を満たすことがより好ましい。樹脂粘度η(mPa・s)が上記範囲を満たす樹脂の市販品としては、例えば、“EPICLON(登録商標)”830(DIC(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”GY282(ハンツマン・ジャパン(株)製)が挙げられる。なお、本発明における樹脂粘度η(mPa・s)は、JIS Z8803(1991)における「円すい-板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、B型粘度計を使用して測定される。
【0025】
本発明における成分[B]は、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、10質量%以上30質量%以下含まれていることが好ましい。10質量%以上含まれる場合は、樹脂含浸温度におけるエポキシ樹脂組成物の粘度を低減し、強化繊維基材への含浸性を向上させ、未含浸を防ぐことができ、さらにエポキシ樹脂硬化物において高い靭性および弾性率を発現する。また、成分[B]が30質量%以下である場合は、高い耐熱性を発現する。かかる観点から、成分[B]のエポキシ主剤成分中の含有量は、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、10質量%以上25質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、成分[A]および成分[B]以外のエポキシ樹脂を含んでもよい。かかる成分[A]および成分[B]以外のエポキシ樹脂としては、成分[B]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。成分[A]および成分[B]以外のエポキシ樹脂は、1種類含まれていても2種類以上含まれていてもよい。
【0027】
成分[A]および成分[B]以外のエポキシ樹脂としては、より具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、2,2’,6,6’-テトラメチル-4,4’-ビフェノールジグリシジルエーテル、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル、トリス(p-ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル、テトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタンのテトラグリシジルエーテル、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテル、フェノールとジシクロペンタジエンの縮合物のグリシジルエーテル、ビフェニルアラルキル樹脂のグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、5-エチル-1,3-ジグリシジル-5-メチルヒダントイン、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンイソシアネートの付加により得られるオキサゾリドン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミノフェノール等が挙げられる。その中でも成分[B]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂は、靭性、耐熱性のバランスに優れたエポキシ樹脂硬化物が得られやすいため好ましく用いられる。特に液状ビスフェノール型エポキシ樹脂は強化繊維への含浸性に優れた寄与を与えるため、成分[A]および成分[B]以外のエポキシ樹脂として、好ましく用いられる。なお、本発明において、「液状」とは、25℃における粘度が1,000Pa・s以下であることを指す。また、「固体状」とは、25℃において流動性をもたない、もしくは極めて流動性が低く、具体的には25℃における粘度が1,000Pa・sより大きいことを指す。ここで、粘度は、JIS Z8803(1991)における「円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計(例えば、(株)トキメック製TVE-30H)を使用して測定する。
【0028】
ここで、成分[B]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂とは、ビスフェノールFを除くビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものである。成分[B]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのビスフェノール型エポキシ樹脂のビスフェノール化合物部分がハロゲン置換されたもの、アルキル置換されたもの、水添されたもの等も含まれる。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。エポキシ樹脂硬化物の靭性、耐熱性のバランスの観点から、成分[B]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂をエポキシ主剤成分に含有させる場合の含有量は、エポキシ主剤成分を100質量%としたとき、20質量%以下であることが好ましい。
【0029】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、“jER(登録商標)”826、“jER(登録商標)”827、“jER(登録商標)”828、“jER(登録商標)”834、“jER(登録商標)”1001、“jER(登録商標)”1002、“jER(登録商標)”1003、“jER(登録商標)”1004、“jER(登録商標)”1004AF、“jER(登録商標)”1007、“jER(登録商標)”1009(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(新日鐵住金化学(株)製)、“DER(登録商標)”-331、“DER(登録商標)”-332(以上、ダウケミカル社製)等が挙げられる。
【0030】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON(登録商標)”EXA-1515(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0031】
本発明におけるエポキシ主剤成分は液状であることが好ましい。エポキシ主剤成分が液状の場合、硬化剤成分と良好に混合され、その後の混合樹脂注入温度における粘度も十分低くなるため、強化繊維基材への含浸性が良好で、未含浸が生じにくくなる。
【0032】
本発明における成分[C]は、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)である。成分[C]は、樹脂組成物の高速硬化を実現し、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料に高い機械特性を与えるために好ましい成分である。かかる4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)の市販品としては、“Lonzacure(登録商標)”M-MIPA(Lonza(株)製)等が挙げられる。
【0033】
本発明における成分[D]は、4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)である。成分[D]は、強化繊維基材への樹脂注入中の樹脂粘度が長時間低粘度を保ち、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料に高い機械特性を与えるために好ましい成分である。かかる4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)の市販品としては、“プリマキュア(登録商標)”M-CDEA(アークサーダジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0034】
本発明において硬化剤成分には成分[C]および/または成分[D]が含まれる必要がある。また、硬化剤成分を100質量%としたとき、成分[C]の含有量または成分[D]の含有量が70質量%以上100質量%以下であることが必要である。
【0035】
硬化剤成分中に、硬化剤成分を100質量%としたとき、成分[C]が70質量%以上含まれる場合は、180℃での高温時の高速硬化性が発現する。また、-20℃での低温粘度が高く、冷凍輸送時の取扱性が良好である。さらに25℃での常温粘度も高く、エポキシおよび硬化剤の分子運動が抑制され、硬化反応が抑制される。そのため、常温保持下でも長時間粘度の上昇が抑えられ安定となる。また、一方で80℃での樹脂含浸温度での粘度は十分低く、含浸性が良好である。さらに、繊維強化複合材料の湿熱時の0°圧縮強度が向上する。かかる観点から、硬化剤成分中における成分[C]の含有量は、硬化剤成分を100質量%としたとき、80質量%以上100質量%以下の範囲内であることが好ましい態様の一つである。
【0036】
一方、硬化剤成分中に、硬化剤成分を100質量%としたとき、成分[D]が70質量%以上含まれる場合は、エポキシ樹脂組成物の反応性が適度に抑えられやすくなり、強化繊維基材への樹脂注入中の樹脂粘度が特に長時間低粘度を保ちやすくなり、大型部材の成形に好適に使用できる。また、硬化剤成分中に成分[D]が、硬化剤成分を100質量%としたとき、70質量%以上90質量%以下含まれることも好ましい態様の一つである。90質量%以下含まれる場合は、加熱硬化時の昇温速度が遅い場合に強化繊維基材を連結するバインダーが樹脂に溶融し過ぎることなく、バインダー形状を保ちやすいため、繊維強化複合材料において十分な塑性変形が可能な層間厚みを均一に確保しやすく、十分な衝撃後圧縮強度が発現しやすい。
【0037】
本発明における成分[E]は、4,4’-メチレンビス(3,3’,5,5’-テトライソプロピルアニリン)である。成分[E]は、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料に高い耐熱性および機械特性を与えるために、硬化剤成分に加えられる成分として好ましい成分である。かかる4,4’-メチレンビス(3,3’,5,5’-テトライソプロピルアニリン)の市販品としては、“プリマキュア(登録商標)”M-DIPA(アークサーダジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0038】
本発明における成分[E]は、硬化剤成分を100質量%としたとき、5質量%以上30質量%以下含まれることが好ましい。5質量%以上含まれる場合は、高い耐熱性が発現しやすい。また、30質量%以下含まれる場合は、加熱硬化時の昇温速度が遅い場合に強化繊維基材を連結するバインダー表層が樹脂に溶融し、樹脂とバインダーとの接着性が良好となりやすいため、十分な圧縮強度が発現しやすい。かかる観点から、硬化剤成分に成分[E]を含む場合の含有量は、硬化剤成分を100質量%としたとき、5質量%以上20質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明の硬化剤成分は、成分[C]、成分[D]および成分[E]以外の硬化剤として、エポキシ樹脂と反応しうる活性基を有する化合物を含んでもよい。エポキシ樹脂と反応しうる活性基としては、例えば、アミノ基、酸無水基等が挙げられる。硬化剤成分は保存安定性が高いほど好ましいが、一般的に液状の硬化剤は反応性が高いため、成分[C]、成分[D]および成分[E]以外の硬化剤は、室温で固形であることが好ましい。
【0040】
成分[C]、成分[D]および成分[E]以外の硬化剤は、芳香族アミンであることが好ましい。また、成分[C]、成分[D]および成分[E]以外の硬化剤は、耐熱性、および機械特性の観点から、分子内に1~4個のフェニル基を有する芳香族アミンであることがより好ましい。さらに、分子骨格の屈曲性を付与することで樹脂弾性率が向上し、機械特性向上に寄与できることから、骨格に含まれる少なくとも1個のフェニル基が、オルト位またはメタ位にアミノ基を有するフェニル基である芳香族ポリアミン化合物であることがさらに好ましい。
【0041】
芳香族ポリアミン化合物の具体例をあげると、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、ジフェニル-p-ジアニリンやこれらのアルキル置換体等の各種誘導体やアミノ基の位置の異なる異性体等が挙げられる。これらの硬化剤は単独もしくは2種類以上を併用することができる。中でも、エポキシ樹脂硬化物に高い耐熱性を与える面からジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンが好ましい。
【0042】
芳香族ポリアミン化合物の硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA-220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(三菱ケミカル(株)製)、3,3’-DAS(三井化学(株)製)、“プリマキュア(登録商標)”M-DEA(アークサーダジャパン(株)製)、“カヤハード(登録商標)”A-A(PT)(日本化薬(株)製)および“プリマキュア(登録商標)”DETDA 80(アークサーダジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0043】
本発明において、エポキシ主剤成分が液状で、かつ硬化剤成分に含まれる化合物がいずれも融点を有する常温で固体の化合物であり、加熱して液状とした当該硬化剤成分と当該エポキシ主剤成分とを混合してエポキシ樹脂組成物とした後に分光分析を実施することは好ましい態様の一つである。硬化剤成分に含まれる化合物がいずれも融点を有する常温で固体の化合物である場合、常温での樹脂混合設備への充填にかかる作業性が良好で、樹脂混合時には融点以上に加熱することで一気に液状とすることができ、エポキシ主剤成分とも良好に混合が可能である。さらに、硬化剤成分に含まれる化合物の融点がいずれも60℃以上90℃以下であることがより好ましい。硬化剤成分に含まれる化合物の融点がいずれも60℃以上である場合は、硬化剤成分に含まれる化合物の分子骨格が十分剛直なため、高い耐熱性や力学特性を発現しやすい。また、硬化剤成分に含まれる化合物の融点がいずれも90℃以下である場合は、エポキシ樹脂との混合時の、硬化剤成分を液状とするための融点以上の予熱による硬化反応が抑えられ、粘度上昇による未含浸を抑制することができる。液状のエポキシ主剤成分と融点以上に加熱して液状とした硬化剤成分とが良好に混合されたエポキシ樹脂組成物に対して、分光分析を実施することで、再現性良く、精度良好な混合比の測定結果が得られる。
【0044】
本発明において、エポキシ主剤成分に含まれるエポキシ基総数(E)と硬化剤成分に含まれるアミン化合物の活性水素総数(H)との比であるH/Eは1.1以上1.4以下であることが好ましい。H/Eは、1.1以上1.3以下であることがより好ましい。H/Eが1.1以上である場合、エポキシ樹脂硬化物の塑性変形能力向上の効果が得られやすくなる。また、H/Eが1.4以下である場合、高い耐熱性を発現しやすくなる。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、コアシェルゴム粒子を含んでいてもよい。コアシェルゴム粒子は繊維強化複合材料に高い靭性を与えやすい点で優れている。ここでコアシェルゴム粒子とは、架橋ゴム等のポリマーを主成分とする粒子状のコア部分と、コア部分とは異なるポリマーをグラフト重合する等の方法でコア表面の一部あるいは全体を被覆した粒子を意味する。
【0046】
上記コアシェルゴム粒子のコア部分を構成する成分としては、共役ジエン系モノマー、アクリル酸エステル系モノマーおよびメタクリル酸エステル系モノマーからなる群より選ばれる1種または複数種から重合されたポリマー、またはシリコーン樹脂等が挙げられる。共役ジエン系モノマーの具体例としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。コア部分を構成する成分として用いられるポリマーは、これらの共役ジエン系モノマーを単独でもしくは複数種用いて構成される架橋したポリマーであることが好ましい。特に得られる重合体の性質が良好であり、重合が容易であることから、かかる共役ジエン系モノマーとしてブタジエンを用いること、すなわち、コア部分を構成する成分として用いられるポリマーは、ブタジエンを含むモノマーから重合されたポリマーであることが好ましい。
【0047】
コアシェルゴム粒子のシェル部分は、上記コア部分にグラフト重合されており、コア部分を構成するポリマー粒子と化学結合していることが好ましい。かかるシェル部分を構成する成分としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルおよび/または芳香族ビニル化合物等1種または複数種から重合された重合体が挙げられる。また、分散状態を安定化させやすいことから、当該シェル部分を構成する成分には、エポキシ樹脂組成物に含まれる成分、すなわちエポキシ樹脂またはその硬化剤と反応する官能基が導入されていることが好ましい。このような官能基が導入されている場合、エポキシ樹脂との親和性が向上し、また最終的にはエポキシ樹脂組成物と反応してエポキシ樹脂硬化物に取り込まれることが可能であるため、良好な分散性が達成できる。この結果、少量の配合でも十分な靱性向上効果が得られ、ガラス転移温度Tg、弾性率を維持しつつ靱性向上が可能となる。かかる官能基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられる。中でも、当該シェル成分と本発明のエポキシ樹脂組成物との親和性を高め、良好な分散性が発現可能となる点でエポキシ基が好ましい。すなわち、上記コアシェルゴム粒子は、シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子であることが好ましい。
【0048】
上記で列記した官能基をシェル部分に導入する方法としては、例えば、上記で列記した官能基を含むアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等の一種類または複数の成分を、モノマーの一部成分としてコア表面にグラフト重合する等の方法が挙げられる。
【0049】
コアシェルゴム粒子は、体積平均粒子径が50nm以上300nm以下であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがより好ましい。なお、体積平均粒子径はナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製、動的光散乱法)を用いて測定する。ナノトラック粒度分布測定装置で測定できないコアシェルゴム粒子の体積平均粒子径を測定する場合は、マイクロトームで作成したエポキシ樹脂硬化物の薄切片を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)観察し、得られたTEM像から画像処理ソフトを用いて体積平均粒子径を測定する。この場合、少なくとも100個以上の粒子の平均値を用いることが必要である。体積平均粒子径が50nm以上の場合、コアシェルゴム粒子の比表面積が適度に小さくエネルギー的に有利になるため凝集が起きにくく、靱性向上効果が高い。一方、体積平均粒子径が300nm以下の場合、コアシェルゴム粒子間の距離が適度に小さくなり、靱性向上効果が高い。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、[F]シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子を含み、前記コアシェルゴム粒子の体積平均粒子径が50nm以上300nm以下の範囲内にあることが、より好ましい。以下、[F]シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子を単に成分[F]という場合がある。エポキシ樹脂組成物が、かかる条件を満たすコアシェルゴム粒子を含むことにより、エポキシ樹脂組成物中に特に一様に良好に分散しやすくなり、優れた靭性向上効果を発現しやすくなる。
【0051】
コアシェルゴム粒子の製造方法については特に制限はなく、公知の方法で製造されたものを使用できる。コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL-2655(Rohm&Haas社製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC-3355、TR-2122(以上、ガンツ化成(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“パラロイド(PARALOID)(登録商標)”EXL-2611、EXL-3387(以上、Rohm&Haas社製)等を使用することができる。また、スタフィロイドIM-601、IM-602(以上、ガンツ化成(株)製)等の、ガラス転移温度が室温以上のガラス状ポリマーのコア層をTgの低いゴム状ポリマーの中間層で被い、さらにその周りをシェル層で被った、3層構造を有するコアシェルゴム粒子も使用することができる。
【0052】
通常、これらのコアシェルゴム粒子は塊状で取り出されたものを粉砕して粉体として取り扱われており、粉体状コアシェルゴムを再度熱硬化性樹脂組成物中に分散させることが多い。しかしながら、この方法では粒子を凝集のない状態、すなわち一次粒子の状態で安定に分散させることが難しいという問題がある。この問題に対して、コアシェルゴム粒子の製造過程から一度も塊状で取り出すことなく、最終的にはエポキシ主剤成分中に一次粒子で分散したマスターバッチの状態で取り扱うことができるものを用いることで、好ましい分散状態を得ることができる。
【0053】
このようなマスターバッチの状態で取り扱えるコアシェルゴム粒子は、例えば、特開2004-315572号公報の実施例1~3のいずれかに記載の方法で製造することができる。この製造方法では、まず、コアシェルゴムを乳化重合、分散重合、懸濁重合に代表される水媒体中で重合する方法を用いてコアシェルゴム粒子が分散した懸濁液を得る。次に、かかる懸濁液に水と部分溶解性を示す有機溶媒、例えばアセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒や、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒を混合後、水溶性電解質、例えば塩化ナトリウムや塩化カリウムを接触させ、有機溶媒層と水層を相分離させ、水層を分離除去して得られたコアシェルゴム粒子が分散した有機溶媒を得る。その後、エポキシ樹脂を混合した後、有機溶媒を蒸発除去し、コアシェルゴム粒子がエポキシ樹脂中に一次粒子の状態で分散したマスターバッチを得る。かかる方法で製造されたコアシェルゴム粒子分散エポキシマスターバッチとしては、(株)カネカから市販されている“カネエース(登録商標)”を用いることができる。
【0054】
成分[F]を含む場合の成分[F]のエポキシ主剤成分中の含有量は、成分[F]を除いたエポキシ主剤成分を100質量部としたとき、1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。1質量部以上とした場合、高靱性のエポキシ樹脂硬化物が得られやすい。また、10質量部以下とした場合、高弾性率のエポキシ樹脂硬化物が得られやすく、さらに樹脂中のコアシェルゴム粒子の分散性も良好となりやすい。
【0055】
エポキシ樹脂組成物にコアシェルゴム粒子を混合する方法としては、一般に用いられる分散方法を用いることができる。例えば三本ロール、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモジナイザー、自転・公転ミキサー等を用いる方法があげられる。また、前述のコアシェルゴム粒子分散エポキシマスターバッチを混合する方法も好ましく用いることができる。ただし、一次粒子の状態で分散していても、必要以上の加熱や粘度の低下によって再凝集が起こることがある。したがって、コアシェルゴム粒子の分散・配合、および分散後に他成分と混合・混練する場合は、コアシェルゴム粒子の再凝集が起こらない温度・粘度の範囲で行うことが好ましい。具体的には、組成物により異なるが、例えば、150℃以上の温度で混練した場合、組成物の粘度が下がり凝集が起こる可能性があるので、それより低い温度で混練することが好ましい。ただし、硬化プロセス中で150℃以上に達する場合については、昇温時にゲル化が伴って再凝集が妨げられるから、150℃を超えることができる。
【0056】
本発明におけるエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定に用いる分光分析は、赤外分光法(IR)または近赤外分光法(NIR)が好ましい。分光分析において吸収度は各成分特有の吸収ピークの分離性に寄与し、透過度は各成分の定量性に寄与するため、測定対象による入射光の吸収と透過のバランスが良好であるIRとNIRは各成分の定性に優れ、かつ、吸光度を基にした定量も精度が高いため、好ましい。本発明におけるエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定においては定量性の観点からNIRが特に好ましい。
【0057】
本発明におけるエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比測定に用いる分光スペクトルの波長は1,300nm以上1,400nm以下であることが必要であり、1,350nm以上1,400nm以下であることがより好ましい。波長が1,300nm以上の場合は、本発明に係るエポキシ主剤成分や硬化剤成分由来の混合比の測定に利用する吸収ピークを検出しやすいため好ましく、1,400nm以下の場合は、吸収ピークの吸光度が適度な強度に制限され、高い定量精度で混合比を測定することができる。
【0058】
本発明におけるエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定では、上記波長範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施することが必要である。上記波長範囲の分光スペクトルにおいては鋭敏かつ定量性の高い吸収ピークを検出することは難しく、吸収ピークは各成分の吸収が互いに影響したブロードなものになる傾向があり、そのままでは混合比の測定を行うことができない。当該分光スペクトルに対して、二次微分スペクトルに変換することで、元のスペクトルの極大吸収を、比較的鋭敏な極大値を有するピークに変換でき、定量精度を向上できる。また、上記波長範囲の二次微分スペクトルに変換された分光スペクトルに対して、重回帰分析を実施する必要があり、この分析から得られるエポキシ主剤成分および硬化剤成分の検量線を用いることで混合比を精度良く測定することができる。
【0059】
本発明におけるエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定に用いる分光分析機器は、入射光に対する測定対象の各波長の吸光度を検出可能な測定機器を用いることができる。例えば、測定対象を充填した石英やガラスセルに対して光を照射し、透過光を分析することで吸光度を測定する装置や、生産ラインにおいて連続的に測定する場合には、先端部に吸光度を測定する受光部を有するプローブをライン中に挿入する装置や、ラインを分岐させて一部の製品を石英やガラスセルに連続的に通しながら測定する装置等を用いる方法があげられる。その中でも、先端部に吸光度を測定する受光部を有するプローブを有し、当該プローブをエポキシ樹脂組成物中に挿入することで分光分析を実施する装置が好ましい。上記のようにプローブを用いる場合、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を混合した静置状態のエポキシ樹脂組成物に対して、プローブを挿入することで測定できる。また、エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に注入する直前のラインにプローブを挿入して測定することは、生産ラインを分岐させることなく、簡便に樹脂を注入しながら、連続的に混合比を測定することができるため好ましい態様の一つである。
【0060】
本発明におけるエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定に用いる分光分析において、入射光が樹脂組成物中を進み、透過光として受光部に到達するまでの距離である光路長は5mm以上10mm未満であることが好ましい。光路長が5mm以上の場合は、混合直後の樹脂を強化繊維基材に注入しながら連続的に混合比を測定する際に、光路間に樹脂が堆積しにくく、混合直後の樹脂の混合比を正確に測定することができ、光路長が10mm未満の場合は、吸収ピークの吸光度が適度な強度に制限され、高い定量精度で混合比を測定することができる。光路長は、所望の光路長に応じた測定セルやプローブを使用することで調節できる。
【0061】
本発明における繊維強化複合材料の製造方法は、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を混合しエポキシ樹脂組成物とした後、波長1,300nm以上1,400nm以下の範囲の分光スペクトルに対して、二次微分および重回帰分析を実施することで、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を測定し、その後に加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に上記エポキシ樹脂組成物を注入し、含浸させ、上記成形型内で上記エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法が好ましい。本方法により製造した繊維強化複合材料は、繊維強化複合材料に含まれるエポキシ樹脂組成物中のエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比を精度良く測定、制御することが可能となるため、高い耐熱性と力学特性を発現させることができる。
【実施例0062】
以下、実施例により、本発明におけるエポキシ樹脂組成物のエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定法等についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<樹脂原料>
各実施例・比較例のエポキシ樹脂組成物を得るために、以下の樹脂原料を用いた。なお、表中のエポキシ樹脂組成物の欄における各成分の数値は含有量を示し、その単位は、特に断らない限り「質量部」である。
【0064】
1.[A]テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、エポキシ当量:113g/mol、液状、ハンツマン・ジャパン(株)製)。
【0065】
2.[B]ビスフェノールF型エポキシ樹脂
・“EPICLON(登録商標)”830(ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、エポキシ当量:170g/mol、液状、DIC(株)製)。
【0066】
3.[C]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)
・“プリマキュア(登録商標)”M-MIPA(3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、活性水素当量:78g/mol、融点:72℃、アークサーダジャパン(株)製)。
【0067】
4.[D]4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)
・“プリマキュア(登録商標)”M-CDEA(4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン、活性水素当量:95g/mol、融点:88℃、アークサーダジャパン(株)製)。
【0068】
5.[E]4,4’-メチレンビス(3,3’,5,5’-テトライソプロピルアニリン)
・“プリマキュア(登録商標)”M-DIPA(4,4’-メチレンビス(3,3’,5,5’-テトライソプロピルアニリン)、活性水素当量:93g/mol、融点:61℃、アークサーダジャパン(株)製)。
【0069】
6.[F]シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子
・“カネエース(登録商標)”MX-416(“アラルダイト(登録商標)”MY721:75質量%/コアシェルゴム粒子(体積平均粒子径:100nm、コア部分:架橋ポリブタジエン、シェル部分:メタクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合ポリマー):25質量%のマスターバッチ、(株)カネカ製)。
【0070】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
各実施例に対して、それぞれ計11水準のエポキシ樹脂組成物を調製した。各水準における各成分の含有量について第1の水準は表1および2に記載の含有割合の通り、第2~11の水準については、エポキシ樹脂組成物100質量%中のエポキシ主剤成分量を表1および表2に記載の中央値から±2、±4、±6、±8、±10質量%変更、およびそれに対応するように硬化剤成分量を変更した量とした。このとき、エポキシ主剤成分中の成分比率、および硬化剤成分中の成分比率は変わらないよう、各成分の量を調整した。なお、硬化剤成分は、融点以上に加熱し、液状としてからエポキシ主剤成分と混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0071】
<エポキシ樹脂組成物中のエポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定方法と精度の検証>
各実施例における評価は以下の通りに行った。なお、測定n数は特に断らない限り、n=1である。
【0072】
<1>エポキシ樹脂組成物の近赤外吸収スペクトルの測定方法
近赤外分析装置XDS SmartProbeアナライザ(メトロームジャパン(株)製)に、所望の光路長のプローブを接続し、上記<エポキシ樹脂組成物の調製>の通りに調製したエポキシ樹脂組成物にプローブを挿入して、波長範囲400nm以上2,500nm以下の範囲において、積算回数32回の条件で近赤外吸収スペクトルを測定した。
【0073】
<2>近赤外吸収スペクトルを基にしたエポキシ樹脂組成物中のエポキシ主剤成分量の検量線の導出
各実施例に対して、上記<エポキシ樹脂組成物の調製>の通りに調製した計11水準のエポキシ樹脂組成物について上記<1>エポキシ樹脂組成物の近赤外吸収スペクトルの測定方法の通りに近赤外吸収スペクトルを測定し、各スペクトルに対し二次微分を実施後、所定の波長における吸光度とエポキシ主剤成分の実配合量に対して重回帰分析を実施することで、所定の波長における吸光度からエポキシ主剤成分量を算出する検量線を導出した。
【0074】
<3>近赤外吸収スペクトルから求めたエポキシ主剤成分量と実配合量の比較による測定法の精度の検証
上記<2>近赤外吸収スペクトルを基にしたエポキシ樹脂組成物中のエポキシ主剤成分量の検量線の導出で導出した検量線を用いて所定の波長における吸光度から算出したエポキシ主剤成分量とエポキシ実配合量との相関係数を算出し、本発明の近赤外吸収スペクトルからエポキシ主剤成分量を求める測定法の精度を検証した。本発明の測定法から算出したエポキシ主剤成分量が実配合量と完全に一致する場合は相関係数が1となる。本検証では、相関係数が0.990以上の場合は精度最良A、相関係数が0.980以上0.990未満の場合は精度良好B、相関係数が0.980未満の場合は精度不良Cと判定した。なお、精度に関してA、Bを合格とし、Cを不合格と判断した。
【0075】
(実施例1)
表1に示すとおり、成分[A]として“アラルダイト(登録商標)”MY721、成分[B]として“EPICLON(登録商標)”830、成分[C]として“プリマキュア(登録商標)”M-MIPAを用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製>の通りに計11水準のエポキシ樹脂組成物を調製した。このとき、混合時の温度は80℃で、混合後1時間撹拌してエポキシ樹脂組成物を調製した。それぞれの含有量については、表1に記載の含有割合を中央値とし、エポキシ主剤成分と硬化剤成分を混合したエポキシ樹脂組成物を100質量%とした際に、エポキシ主剤成分を中央値から±2、±4、±6、±8、±10質量%に変更した値とした。すなわち、エポキシ主剤成分を52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72質量%含み、それに対応するように成分量を変更した硬化剤成分を含む、計11水準を調製した。上記<3>近赤外吸収スペクトルから求めたエポキシ主剤成分量と実配合量の比較による測定法の精度の検証の通りに、エポキシ樹脂組成物の近赤外吸収スペクトルを測定、エポキシ主剤成分量の検量線を導出し、その精度を検証した。上記検量線を用いて所定の波長における吸光度から算出したエポキシ主剤成分量とエポキシ実配合量との相関係数は0.992であり、近赤外吸収スペクトルからエポキシ主剤成分量を求める測定法の精度はA判定と合格であった。
【0076】
(実施例2~11)
エポキシ樹脂組成物の各成分の配合量、分光分析における測定波長と光路長を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、近赤外吸収スペクトルを測定、エポキシ主剤成分量の検量線を導出した。上記検量線を用いてエポキシ樹脂組成物の所定の波長における吸光度から算出したエポキシ主剤成分量とエポキシ実配合量との相関係数を求めた結果、いずれも相関係数は0.99以上であり、近赤外吸収スペクトルからエポキシ主剤成分量を求める測定法の精度はAあるいはB判定と合格であった。
【0077】
(比較例1、2)
分光分析における測定波長を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、近赤外吸収スペクトルを測定、エポキシ主剤成分量の検量線を導出した。上記検量線を用いてエポキシ樹脂組成物の所定の波長における吸光度から算出したエポキシ主剤成分量とエポキシ実配合量との相関係数を求めた結果、いずれも相関係数は0.99未満であり、近赤外吸収スペクトルからエポキシ主剤成分量を求める測定法の精度はC判定と不合格であった。
【0078】
【0079】
本発明の2成分型のエポキシ樹脂組成物における、エポキシ主剤成分と硬化剤成分の混合比の測定方法によれば、特定のエポキシ樹脂組成物に対して、極めて高い精度で混合比を測定、管理することが可能となるため、高品質を要求される航空機構造材用途において、高いレベルの物性(耐熱性、力学特性)を安定的に繊維強化複合材料に付与できる。これにより、特に航空機用途への繊維強化複合材料の適用が進み、更なる軽量化による燃費向上、地球温暖化ガス排出削減への貢献が期待できる。