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特開2024-132076厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、電池の電極用フィルム、および電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132076
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、電池の電極用フィルム、および電池
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042729
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 国光
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄大
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA46
4F071AA84
4F071AA88
4F071AA89
4F071AF11Y
4F071AF15Y
4F071AF39Y
4F071AG12
4F071AG28
4F071AH15
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】電極基材として金属蒸着フィルムを用いることによってピンホールが少なく、加工張力に耐えられるようにする。さらに、電池の高出力、高寿命といった電池性能を向上させるために電極シートの抵抗特性を向上させる厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いた電池の電極用フィルムを提供すること。
【解決手段】
下記(1)~(3)を満たす厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム。
(1)示差走査熱量測定にて求められる結晶化度が30.0~50.0%。
(2)固有粘度(IV、単位dl/g)が0.60~0.80。
(3)ポリエステルフィルム中におけるDEG(ジエチレングリコール)量が1.5質量%以下。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)を満たす厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム。
(1)以下の方法による示差走査熱量測定にて求められる結晶化度が30.0~50.0%。
<測定方法>昇温速度20℃/minで25℃から300℃まで加熱し測定する。結晶化度(Χc)は、得られた示差走査熱量測定チャートから結晶融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)を用い下記式より算出する。
Χc=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm0
ここで、ΔHm0は完全結晶PETの融解熱量の値である140.10J/gを用いる。
(2)固有粘度(IV、単位dl/g)が0.60~0.80。
(3)以下の方法で求めたポリエステルフィルム中におけるDEG(ジエチレングリコール)量が1.5質量%以下。
<測定方法>ポリエステルフィルム1.0gを1,6-ヘキサンジオールを0.4質量%濃度含有したモノエタノールアミン2.5mLを用いて260℃で分解する。次いでメタノール10mLを加えて冷却し、テレフタル酸にて中和後、遠心分離した後に上澄みをガスクロマトグラフィーにてジエチレングリコール(DEG)含有量を測定する。なお、無機粒子などの添加成分は不溶物として遠心分離時に沈降するため、沈降成分について濾過、質量測定を行い、その質量を測定試料質量から差し引いて測定試料質量の補正を実施する。
【請求項2】
微小吸熱ピーク温度(Tmeta)が220℃以上である請求項1に記載の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの厚さが1.5~15μmである、請求項1または2に記載の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルムを用いた電池の電極用フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池の電極用フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用の電極用フィルム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の電池の電極用フィルムを有する、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いた電池の電極用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの推進は、温室効果ガス排出量の削減とエネルギーセキュリティーの確保を同時に実現させるための施策として重要性が高まっている。特に、太陽光発電や風力発電は発電電力量が気象条件に依存するため安定した出力を確保することが困難であり、再生可能エネルギー発電施設ではリチウムイオン二次電池が効果的に活用されている。
【0003】
最近では、電気自動車(EV:electric vehicle)やプラグインハイブリッド車(PHEV:plug-in hybrid electric vehicle)をはじめとする自動車関連での利用も新たに始まっており、さらには、携帯電話、ノートバソコン、携帯音楽プレイヤーなどの小型電子機器を中心に幅広く使用されている。こうした携帯用電子機器市場の発展にあわせてリチウムイオン二次電池の小型化を進めるには、性能および信頼性の向上が必要となっている。
【0004】
これらリチウムイオン二次電池に使用される電極は、正負どちらの電極にもリチウムを吸ったり(吸蔵)、吐き出したり(放出)する機能があり、充電時にはリチウムイオンは負極に、放電時には正極に移動している。そして、それぞれの電極は電解液や固体電解質と接触して電極間でのリチウムイオンのやり取りを担う機能を必要としており、従来10~30μm程度の厚みの金属箔が電極の基材として用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-054339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、リチウムイオン二次電池の大容量化により体積エネルギー密度が向上したことにより、小型化による重量エネルギー密度の向上が必要となり、電極基材の薄膜化が進められている中で、従来技術である金属箔の圧延による薄膜化では、ピンホールが発生して塗工液が裏漏れしたり、加工張力に対して強度が足りず切れたり、シワが入ったりして課題となっている。
【0007】
上記に鑑み、本発明では電極基材を金属蒸着フィルムとすることによってピンホールが少なく、加工張力に耐えられるようになるとともに、電池の高出力、高寿命といった電池性能の向上につなげるため、電極シートの抵抗特性を向上させるべく厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いた電池の電極用フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の物性を有する二軸配向フィルムを基材フィルムとして用いれば上記課題を解決することを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いた電池の電極用フィルムの好ましい一態様は、以下の構成よりなる。
1.下記(1)~(3)を満たす厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム。
(1)以下の方法による示差走査熱量測定にて求められる結晶化度が30.0~50.0%。
<測定方法>昇温速度20℃/minで25℃から300℃まで加熱し測定する。結晶化度(Χc)は、得られた示差走査熱量測定チャートから結晶融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)を用い下記式より算出する。
Χc=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm0
ここで、ΔHm0は完全結晶PETの融解熱量の値である140.10J/gを用いる。
(2)固有粘度(IV、単位dl/g)が0.60~0.80。
(3)以下の方法で求めたポリエステルフィルム中におけるDEG(ジエチレングリコール)量が1.5質量%以下。
<測定方法>ポリエステルフィルム1.0gを1,6-ヘキサンジオールを0.4質量%濃度含有したモノエタノールアミン2.5mLを用いて260℃で分解する。次いでメタノール10mLを加えて冷却し、テレフタル酸にて中和後、遠心分離した後に上澄みをガスクロマトグラフィーにてジエチレングリコール(DEG)含有量を測定する。なお、無機粒子などの添加成分は不溶物として遠心分離時に沈降するため、沈降成分について濾過、質量測定を行い、その質量を測定試料質量から差し引いて測定試料質量の補正を実施する。
2.微小吸熱ピーク温度(Tmeta)が220℃以上である1.に記載の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム。
3. 前記二軸配向ポリエステルフィルムの厚さが1.5~15μmである、1.または2.に記載の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム。
4.1.~3.のいずれかに記載の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルムを用いた電池の電極用フィルム。
5.4.に記載の二次電池の電極用フィルム。
6.5.に記載のリチウムイオン二次電池用の電極用フィルム。
7.1~6のいずれかに記載の電池の電極用フィルムを有する、電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極基材として金属蒸着フィルムを用いることによってピンホールが少なく、加工張力に耐えられるようにできる。さらに、電池の高出力、高寿命といった電池性能を向上させるために電極シートの抵抗特性を向上させることができる厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いた電池の電極用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルムの好ましい一態様は、下記(1)~(3)を満たす厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、である。
(1)後述する方法による示差走査熱量測定にて求められる結晶化度が30.0~50.0%。
(2)固有粘度(IV、単位dl/g)が0.60~0.80。
(3)後述する方法で求めたポリエステルフィルム中におけるDEG(ジエチレングリコール)量が1.5質量%以下。
【0013】
本態様とすることにより、電極基材として金属蒸着フィルムを用いることによってピンホールが少なく、加工張力に耐えられるようにできる。さらに、電池の高出力、高寿命といった電池性能を向上させるために電極シートの抵抗特性を向上させることができる厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いた電池の電極用フィルムを提供することができる。
【0014】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは無延伸状態の樹脂シートまたはフィルムを長手方向及び幅方向の二方向に延伸されて作られるものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸方向へ延伸する方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法のどちらも使用できる。
【0015】
本発明における厚蒸着用とは、両面もしくは片面に0.5μm以上の金属蒸着が積層される用途をいい、同じ面に複数回蒸着したものでもよい。金属の蒸着膜を設ける方法としては、真空プロセスが用いられる。真空プロセスは、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)等で形成することができる。ただし、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式または誘導加熱方式が好ましい。また、金属層の厚みとしては、一般的には0.5~10μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1~8μmの範囲である。膜厚を上述範囲以上であると、蒸着薄膜のフレキシビリティ(柔軟)性が失われ、製膜後(後加工工程等において)の折り曲げ、引っ張りなどの外力で、薄膜に亀裂やピンホール等の発生を抑制しやすくなり、電極性能を低下させる場合がある。一方、上述範囲以下の膜厚とすることで、導電性が低下し、電極特性(表面抵抗率)を低下させる場合がある。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルとはエステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であるが、耐熱性、製膜性等の点からエチレンテレフタレート及び/またはエチレンナフタレート単位を主構成成分とするものが好ましい。主構成成分の定義については後述する。
【0017】
本発明のポリエステルには特性を損ねない範囲で他の共重合成分を含有してもよく、ジカルボン酸成分としては、例えば、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキシンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多官能酸等を用いることができる。一方、グリコ-ル成分としては例えばプロパンジオ-ル、ブタンジオ-ル、ペンタンジオ-ル、ヘキサンジオ-ル、ネオペンチルグリコ-ル、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコ-ル、シクロヘキサンジメタノ-ル等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール等が用いられる。さらにポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルを共重合してもよい。なお、本発明においてはポリエステル樹脂のジオール成分100モル%中に、エチレングリコール成分を70モル%以上含むことが好ましい。
【0018】
なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用してもよく、2種以上のポリエステルをブレンドして使用してもよい。さらに2層以上に共押出して積層フィルムとして使用してもよい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、耐熱性、製膜性の点からエチレンテレフタレート及び/又はエチレンナフタレート単位を主構成成分とするものが好ましく、エチレンテレフタレート単位を主構成成分とするものがより好ましい。エチレンテレフタレート及び/又はエチレンナフタレート単位を主構成成分とする、とは、ポリエステル樹脂のジオール成分100モル%中に、エチレングリコール成分を70モル%以上含みかつポリエステル樹脂のジカルボン酸成分100モル%中にテレフタル酸及び/又はナフタレンジカルボン酸成分を70モル%以上含むことをいう。
【0020】
さらに、ポリエステル樹脂は、ポリエチレンナフタレートを含有してもよく、その場合、0.5質量%以上20質量%以下含有することが耐熱性の点から好ましい。より好ましくは、1質量%以上10質量%以下である。さらに好ましくは、3質量%以上5質量%以下である。ポリエチレンナフタレートの含有量が0.5質量%未満であると、耐熱性を向上させる効果が働きにくい場合がある。また、ポリエチレンナフタレートの含有量が20質量%を超えると、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートの相溶性が悪く、結晶構造を形成しにくくなり、非晶構造の増加により配向や耐熱性、耐湿熱性が低下する場合がある。前記二軸配向ポリエステルフィルムが二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム/または二軸配向ポリエチレンナフタレートフィルムであることが好ましく、前記二軸配向ポリエステルフィルムが二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムであることがさらに好ましい。また、前記ポリエステルの融点が250℃以上280℃以下であることが好ましい。融点を250℃以上とすることで加工時の熱負荷に対する耐久性が良好となる。
【0021】
また、このポリエステル樹脂の中に本発明の効果を阻害しない範囲で各種の添加剤、例えば耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、核剤などを配合してもよい。
【0022】
上述したポリエステルフィルムの固有粘度(IV、単位dl/g)は0.60以上0.80以下であることが好ましい。蒸着膜の厚みを3μm以上とする場合には、0.65以上0.80以下とすることがより好ましい。IVが0.60以上であることにより、分子鎖が十分長く耐湿熱環境下での分子運動性が抑制されて耐熱性が向上し、また末端部分が減る事で耐加水分解性も向上する。さらに、分子鎖が長く、厚膜蒸着工程時にポリエステルフィルムが高温化した際にも分子運動性が低く、厚膜蒸着した際に蒸着膜が均一となるようすることができ、導電性が向上し、電極性能が安定化する。また、固有粘度が0.80以下であることにより、粘度が高くなりすぎず、フィルム製膜時の破断が減って生産性が良化し、厚みムラが減るようにすることができる。厚みムラが減ることにより、厚膜蒸着した際に蒸着膜が均一となるようすることができ、導電性が向上し、電極性能が安定化する。IVを調整する方法としては、特に限定されないが、ポリエステル原料の段階で常用のポリエステルの場合と同様に、バッチ式あるいは連続式で溶融重合もしくは固相重合を行なう方法が挙げられる。重合時間が比較的短時間であり、粘度上昇と共にカルボキシル末端基濃度を減少させ得ることから固相重合法がより好ましく、固相重合時間や触媒添加量によって調整が可能である。なお、ポリエステル原料をポリエステルフィルムとして溶融製膜する際に、溶融状態において残存する水分による加水分解や熱分解が進行するため、フィルムの原料として用いる溶融押出前のポリエステル原料のIVは、フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるIVの目標値よりも高くすることが好ましい。そのため、フィルム原料のポリエステル樹脂のIVは、フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるIVの目標値よりも高くするとしても、その差は小さい方が好ましく、フィルム原料のポリエステル樹脂のIVは、フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるIVの目標値よりも0.05~0.15高くすることが好ましい。なお、IVは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムの、示差走査熱量測定にて求められる結晶化度は30.0~50.0%であることが好ましい。より好ましくは35.0~50.0%、さらに好ましくは40.0~50.0%である。なお、結晶化度は以下の方法で求めるものとする。
<測定方法>昇温速度20℃/minで25℃から300℃まで加熱し測定する。結晶化度(Χc)は、得られた示差走査熱量測定チャートから結晶融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)を用い下記式より算出する。
Χc=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm0
ここで、ΔHm0は完全結晶PETの融解熱量の値である140.10J/gを用いる。
【0024】
結晶化度を30.0%以上とすることで、耐熱性や寸法安定性が良好となり、フィルムが高温になりやすい厚膜蒸着した際に蒸着金属が規則的に並ぶことによって蒸着膜を均一にでき表面抵抗率を良好にすることができる。また結晶化度を50.0%以下とすることで、フィルム表面の脆化を抑制し、蒸着後の搬送系において蒸着膜に欠陥が生じ、表面抵抗率が低下することを抑制できる。結晶化度を調整する方法としては、結晶核剤を添加する方法と延伸工程と熱処理工程の条件を調整する方法があり、コスト面から延伸工程と熱処理工程にて調整する方法が好ましい。さらには、熱処理工程での調整が好ましく、後述の融解サブピークをコントロールしやすくなる。延伸工程と熱処理工程にて調整する場合には、強度と加熱収縮率とのバランスをとることが重要である。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、ポリエステルフィルム中におけるジエチレングリコール(DEG)量が1.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.2質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。本発明者らは、ポリエステルフィルムのDEGの多い部分ではランダムな非晶部となりやすく、結晶部や配向した非晶の部位と比べて加熱時に分子鎖が動きやすいことを見出し、DEG量を1.5質量%以下とすることにより、厚膜蒸着時においてポリエステルフィルムが高温となってもランダムな非晶部が少ないために分子鎖が動きにくく、耐熱性が良くなり平面性が保たれることを見出した。IVや結晶化度を上述の範囲としつつ、フィルム中のDEG量を前述の範囲内とすることで、厚膜蒸着した際に平面なフィルム表面に蒸発した金属原子が規則的に並び、かつ欠損部分が少なくなることにより蒸着膜が均一となって、電極性能を安定化させることができる。さらに、ポリエステルフィルムが蒸着工程にて受けた熱履歴によりフィルムの耐熱性が落ちてそれ以降の加工工程でフィルムが外力に対して伸びたりしてシワが発生したり、フィルムの走行性が不安定となり、加工性が悪化するという問題や蒸着膜に欠陥が生じ、表面抵抗率が低下することを抑制できる。
【0026】
DEG量を減少させるには、重合時間を短縮する方法、重合触媒として使用されるアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などの量を限定する方法、液相重合と固相重合を組み合わせる方法、アルカリ成分を含有させる方法などが挙げられるが、特に限定されるものではない。例えば、アルカリ成分として水酸化カリウムを含有させDEG量を調節する場合、添加する量をテレフタル酸ジメチル100質量部に対して水酸化カリウムを0.01質量部以上0.10質量部以下とすることでDEG量が0.01質量%以上1.5質量%以下のポリエステル樹脂を得ることができる。なお、フィルム中のDEG量は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムに含有することができる粒子としては、各種核剤により重合時に生成した粒子、凝集体、二酸化珪素粒子、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、硫酸バリウム粒子、珪酸アルミ粒子、リン酸カルシウム粒子、マイカ、カオリン、クレーなどの無機粒子を、また、架橋ポリスチレン粒子、アクリル粒子、イミド粒子、シリコーン粒子等のような有機粒子を、或いは、それらの混合体をその代表例として挙げることができる。なかでも、二酸化珪素粒子、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子、珪酸アルミ粒子等の無機粒子または、これら無機粒子と各種核剤により重合時に生成した粒子との混合物が好ましい。
【0028】
使用される各種粒子の径は特に限定されないが、通常は沈降法あるいは光散乱法により測定した平均粒径が0.05~8.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.1~4.0μmをその代表として挙げることができる。かかる粒子の含有量は、フィルム全体に対して0.01~0.2質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02~0.15質量%である。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、カルボキシル末端基量が25~55当量/トンであることが好ましく、より好ましくは35~50当量/トンである。カルボキシル末端基量が25当量/トン以上とすることで、蒸着した際のポリエステルフィルムと蒸着膜との密着性が向上する。また、カルボキシル末端基量が55当量/トン以下とすることで、ポリエステルフィルムが着色したり、ポリエステルフィルムの製膜性が悪化する等の問題を抑制することができる。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムは、厚さが1.5~15μmであることが好ましい。厚さを1.5μm以上とすることにより、電池内に微小な異物が入って、部分的に応力集中がある状態で、かつ電池動作温度が高くなった際においても、電極用フィルムに穴が開きにくく(つまり、電極用フィルムに穴が開き始める温度が高く)なり、高い動作温度においても電極の変形による効率低下を抑制することができる。同様の観点から、3.0μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。また、厚さが15μm以下とすることにより、電極の重量を減らすことができ、電池のエネルギー密度向上に寄与することができる。同様の観点から、13μm以下であることがより好ましく、6.9μm以下であることがさらに好ましく、6.5μm未満であることが特に好ましい。なお、厚さは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0031】
本発明に用いられる基材フィルム構成は、単層でもよいし、また、異なる組成の樹脂組成物A、B、Cにより構成される積層構成、例えば、A/Bの2層構成、A/B/AあるいはA/B/Cの3層構成、3層よりも多層の積層構成でもよい。その際の積層厚み比も任意に設定してよい。これらの積層構成は共押出による積層フィルムとして製造することができる。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムは、両面とも中心面平均粗さ(SRa)が40~100nmであることが好ましい。より好ましくは50~100nmである。ここでいう中心面平均粗さSRaは、後述する測定方法により求められる3次元表面粗さのパラメーターである。SRaを前述の範囲内とすることで、蒸着加工時に蒸着膜との密着表面積が増加し、電極として十分な密着性が得ることができる。さらに滑り性も良好となることで、加工工程での巻取りが容易となり、ブロッキングの発生も抑制することができる。一方、SRaが40nm未満であると、蒸着膜との密着表面積が減少し、電極として十分な密着力を得ることができなくなる場合がある。また、100nmを超えると、蒸着加工時の巻き取りの際に突起が蒸着膜を傷つけて電極性能を低下させる場合がある。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムは、長手方向の5%伸長時の強度が110MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、120MPa以上である。長手方向の5%伸長時の強度が110MPa未満であると、蒸着工程における蒸着後の搬送工程において、工程張力によりシワが発生したり、基材フィルムが伸びて蒸着膜が割れたり亀裂が入ったりしやすくなり、電極性能を悪化させる場合がある。なお、長手方向の5%伸長時の強度は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0034】
破断強度、5%伸長時の強度を前述の範囲とする方法は特に限られるものでは無いが、縦延伸工程において延伸温度と延伸倍率を調整する方法などが挙げられる。その際、端部加熱用の赤外線ヒーターを用いてフィルム端部を加熱しておくと、縦延伸工程が安定化し、より制御がしやすくなる。この時、横延伸工程での延伸温度、延伸倍率、熱固定処理の温度と時間によりいずれの強度も影響を受けるため、それぞれの強度が範囲内になるようにバランスをとることが好ましい。
【0035】
本発明のポリエステルフィルムは、190℃で20分加熱後の熱収縮率について、長手方向と幅方向の各値の和が3~8%であることが好ましい。より好ましくは4~7%である。熱収縮率を上述の範囲内とすることで、釘が刺さるなどといった、リチウムイオン二次電池内にて導電性の針状物が突き刺さるなどして電極が短絡した際、一度は短絡による発熱が発生するが、フィルムの破損部(孔)が熱収縮により瞬時に広がり、この時、蒸着膜もフィルムと一緒に孔となることによって短絡が継続することを防止することができる。3%未満であると熱収縮が十分ではないため、フィルムの破損部(孔)が小さく短絡が継続することを防止することができなくなる場合がある。また、8%を超えると、フィルムの破損部(孔)が大きくなり電解液の漏れなど不具合を発生させる場合があったり、フィルム自体の変形が大きく、蒸着膜自体により電極が短絡する場合がある。
【0036】
さらに、本発明のポリエステルフィルムは、190℃で20分加熱後の熱収縮率が長手方向と幅方向のいずれも1.0%以上であることが好ましい。より好ましくは1.5%以上である。熱収縮率が上述の範囲以内であると、破損部(孔)の形状のバランスがよくなり、短絡の継続を防止することができる。1%未満の場合には、破損部(孔)の形状に偏りができたり、孔の面積が小さすぎて、電極の短絡の継続を防止しきれないことがあり、さらには、収縮速度も遅くなり、短絡防止に遅れることとなる場合がある。長手方向、幅方向の190℃で20分加熱後の熱収縮率を前述の範囲とする方法は特に限られるものでは無いが、縦延伸工程における延伸温度と延伸倍率、横延伸工程における延伸温度と延伸倍率、さらには熱固定工程における温度と時間を制御する方法や、熱固定工程における緊張熱処理あるいは弛緩熱処理、さらには熱固定工程の後に低温下(例えば190℃)において弛緩処理をする方法が挙げられる。なお、190℃で20分加熱後の熱収縮率は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0037】
本発明のポリエステルフィルムは、面配向係数(fn)が0.155~0.168であることが好ましい。より好ましくは0.158~0.165である。上述の範囲以内であると、フィルムの配向性が良好であり、強度低下や外力に対して伸びにくく蒸着加工適性が良好となる。また、蒸着膜との密着性も良好となり、蒸着後の加工工程において蒸着膜の剥離脱落を抑制することができる。0.155未満であると、加工時にしわ等のトラブルが生じやすくなり、0.168を超えるとフィルムの劈開等により蒸着膜が剥がれやすくなり、加工時のトラブルが生じやすくなる場合がある。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムは、平均結晶粒径(χc)が5.0~8.0nmであることが好ましく、更に好ましくは5.3~6.8nmである。χcが5.0以上であることにより蒸着した際に蒸着膜が均一となり、また、フィルムと蒸着膜との密着性が良好となることで電極性能を向上させることができる。生産性やフィルム強度の観点からχcが8.0nm以下であることが好ましいが、6.8nmを超過するとフィルムが脆化し突刺し強さが低下する場合がある。χcを制御する方法は特に限られるものでは無いが、熱固定条件などによりポリエステル樹脂の結晶化を制御する方法が挙げられる。例えば、延伸後の熱固定温度を高くしたり、熱固定時間を長くしたりすると、ポリエステル樹脂の結晶化を促進できるため、χcは高くなる傾向がある。一方で、熱固定温度を高くし過ぎたり、熱固定温度を長くし過ぎたりすると、いったん結晶化したものが融解するため、χcは低下する傾向がある。ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂に応じて、熱固定温度や時間を適宜調整することで所望のχcの値を有するフィルムを得ることができる。なお、χcは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの微小吸熱ピーク温度(Tmeta)が220℃以上であることが好ましい。より好ましくは、225℃以上であり、更に好ましくは230℃以上である。Tmetaが220℃以上であると、ポリエステルフィルムの熱結晶化が十分に進行し、上述の結晶化度を前述の範囲としやすくなる。そのため、蒸着した際に蒸着膜が均一となり電極性能を向上させることができる。さらには高温における熱寸法安定性を良好にでき、蒸着加工時の蒸着金属による熱により伸びにくくし、蒸着膜の均一性を保つことができる。
【0040】
フィルムの微小吸熱ピーク温度は以下の測定によって得られるものである。フィルムを示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC Q100)により、20℃/分の昇温速度で測定し、融解ピーク温度(融点)を求め、この測定の際に発生する擬結晶の変態により発生する微小吸熱ピーク温度をTmetaとする。なお、Tmetaはポリエステルフィルムに対する熱処理温度の履歴として出現する。
【0041】
以下に、本発明の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法の好ましい一態様を具体的に説明する。本発明は以下の製造方法に限られるものではない。
【0042】
本発明の厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルムは、2層以上の共押出し積層フィルムとしての構成を有してもよい。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムで使用するポリエステル樹脂は、耐熱性、製膜性の点から、融点が250℃以上であることが好ましい。また、市販されているポリエステル樹脂をそのまま用いることができるが、以下のように重縮合反応を経て製造し、使用してもよい。
【0044】
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部の混合物に0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に加熱し、最終的に220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行い、ポリエチレンテレフタレートの前駆体を合成する。ついで、該前駆体に0.02質量部のリン酸85%水溶液(モル濃度14.6mol/L)を添加し、重縮合反応釜に移行する。重縮合反応釜で加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で重縮合反応を行い、所望の分子量であるポリエステル樹脂を得ることができる。なお、粒子を添加する場合には、エチレングリコールに粒子を分散させたスラリーを所定の粒子濃度となるように重縮合反応釜に添加して、重縮合反応を行うことが好ましい。固有粘度やDEG量については、前述の方法により調整する。
【0045】
次にポリエステル樹脂を用いて本発明のポリエステルフィルムを製造する好ましい方法について具体的に記述する。まず、使用するポリエステル樹脂を減圧下や窒素雰囲気下で加熱し、たとえば150℃で5時間の乾燥を行い、好ましくは樹脂中の水分率を50ppm以下とする。
【0046】
その後、押出機に供給し溶融押出を行う。なお、ベント式二軸押出機を用いる場合は、乾燥工程を省略してもよい。また、複数のポリエステル樹脂を混合して使用する場合は、所定の混合比率となるように乾燥工程で混合してもよいし、押出機に供給する際に、混合比率を計量しながら供給してもよい。このようにして、溶融押出を行った樹脂は、溶融状態のままフィルターで異物を除去し、ギアポンプにて押出量を計量し、スリット状の吐出口を有するTダイから溶融シートとして押し出し、冷却ロールに密着固化してキャストフィルム(未配向フィルム(未延伸フィルム))を得る。溶融シートと冷却ロールの密着性を向上させるには、通常、静電印加密着法および/または液面塗布密着法を採用することが好ましい。
【0047】
該キャストフィルムは二軸に延伸される。まず、好ましくは、ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上、例えば全幅加熱用と端部加熱用の2本以上の赤外線ヒーターによる加熱を加えて、90℃以上135℃以下、より好ましくは100℃以上130℃以下に加熱したロール群による加熱を施し、フィルム長手方向(MD)に4.0~5.5倍延伸し、一軸配向フィルム(一軸延伸フィルム)を得る。次いでフィルム幅方向(TD)に好ましくは100℃以上130℃以下で3.5~5.0倍に延伸する。
【0048】
かくして得られたフィルムを引き続きインラインおよび/またはオフラインで熱固定することが好ましい。さらに、必要に応じ熱固定を行う前または後に再度MDおよび/またはTDに延伸してもよい。熱固定温度は220~245℃とするのが好ましく、蒸着面側のフィルム表面の結晶化を促進させることによって蒸着熱による熱負けを防ぎ、蒸着膜を均一化(金属粒子を規則正しく並べること)させることで電極特性(表面抵抗率)を向上させることができる。そのため、225~245℃とするとより好ましく、230~245℃だと特に好ましい。熱処理時間は通常1秒~1分である。また、この熱固定工程において、長手方向および/または幅方向に弛緩(リラックス)処理を施すことで熱収縮特性を調整することができる。
【0049】
熱固定処理後に、100~200℃の冷却ゾーンを経て、結晶配向の完了したポリエステルフィルムを得ることができる。例えば、熱固定後、フィルムを急冷あるいは徐冷、あるいは中間冷却ゾーンを設けることで熱収縮応力を調整することができる。
【0050】
フィルムには必要に応じコーティングを施すこともできる。フィルムに塗布層を設けることにより、特に蒸着層や導電性インク層との接着性を向上できる。塗液は防爆性や環境汚染の点で水溶解、乳化または懸濁したものが用いられる。塗布層は結晶配向完了後の二軸延伸フィルムに塗布する方法あるいは結晶配向完了前のフィルムに塗布した後に延伸する方法があるが、本発明の効果をより顕著に発現させるためには後者の方法が特に好ましい。塗布する方法は特に限定されないが、ロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、キスコーター、バーコーター等を用いて塗布するのが好ましい。また、塗布する前に必要に応じて塗布面に空気中その他種々の雰囲気中でコロナ放電処理を施しておいてもよい。
【0051】
塗布層には、必要に応じて消泡剤、塗布性架橋剤、増粘剤、有機系潤滑剤、無機系粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発砲剤、染料、顔料等を含有させてもよい。
【0052】
本発明の電池の好ましい一態様は、上記した厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルムを有する、電池、である。本態様とすることにより、ピンホールが少なく、加工張力に耐えられるようになるとともに、電極シートの抵抗特性を向上させることにより電池の高出力、高寿命といった電池性能の向上につなげることができる。
【実施例0053】
[特性値の測定法]
(1)厚さ
JIS C2151(2019年)に準じて、マイクロメーターを用い、10枚に重ねた試験片の測定をおこなった。厚さの測定値を10で除した値を各測定点の厚みとし、その平均値を厚さとした。
【0054】
(2)固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mLにポリエステル樹脂又はポリエステルフィルムを溶解させ(溶液濃度C=1.2g/mL)、その溶液の25℃での粘度をオストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(C)により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C ・・・式(C)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
【0055】
なお、ポリエステル樹脂又はポリエステルフィルムを溶解させた溶液に無機粒子などの不溶物がある場合は、溶液を濾過して質量測定を行い、濾物の質量を測定試料質量から差し引いた値を測定試料質量とする補正を実施した。
【0056】
(3)微小吸熱ピーク温度(Tmeta)
フィルムを示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC Q100)により、20℃/分の昇温速度で測定し、融解ピーク温度(融点)を求め、この測定の際に発生する擬結晶の変態により発生する微小吸熱ピーク温度をTmetaとする。なお、Tmetaはポリエステルフィルムに対する熱処理温度の履歴として出現する。
【0057】
(4)ジエチレングリコール(DEG)含有量
測定試料(ポリエステル樹脂またはポリエステルフィルム)1.0gを1,6-ヘキサンジオールを0.4質量%濃度含有したモノエタノールアミン2.5mLを用い260℃で分解した。次いでメタノール10mLを加えて冷却し、テレフタル酸にて中和後、遠心分離した後に上澄みをガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製 GC-14A)にてジエチレングリコール(DEG)含有量を測定した。なお、無機粒子などの添加成分は不溶物として遠心分離時に沈降するため、沈降成分について濾過、質量測定を行い、その質量を測定試料質量から差し引いて測定試料質量の補正を実施した。なお、例えば測定試料1.0gを加水分解し、ガスクロマトグラフィーでDEG含有量が0.0020g検出された場合、DEG含有量としては0.20質量%とする。
【0058】
(5)結晶化度
サンプルパンにフィルムサンプルを5mgずつ秤量し、示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC Q100)を用いて、昇温速度は20℃/minで25℃から300℃まで加熱し測定した。結晶化度(Χc)は、得られた示差走査熱量測定チャートから結晶融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)を用い下記式より算出した。
Χc=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm0
ここで、ΔHm0として完全結晶PETの融解熱量である140.10J/gを用いた。
【0059】
(6)表面抵抗率
温度25℃、相対湿度65%RHの環境下に蒸着フィルムを24時間放置後、その雰囲気下で、デジタル超高抵抗/微小電流計R8340A(アドバンテスト(株)製)を用い、印加電圧100V、10秒間印加後、測定を行った。
【0060】
(7)平均結晶粒径(χc)
試料を回折式X線装置PHILIPS社Compact X-ray Diffractrometer System PW1840、光源にCuのKα線(波長0.1542nm)を用い、下記条件にて回折強度を測定した。
走査範囲 18~32°
走査速度 0.05°/秒
加速電圧 35kV
管球電流 15mA
平均結晶粒子径(χc)は最大ピークの半価幅(rad)から
χc=0.9λ/βcosθ
λ:X線の波長(nm)、β:最大ピークの半価幅(rad)、θ:最大ピークの回折角にて算出した。
【0061】
(8)蒸着膜の密着性
東洋モートン社製“アドコート”(登録商標)503(AD503)と硬化剤CAT-10と酢酸エチルを100:5:100質量%の割合で調合した接着剤を#12のメイヤリングバーにて試料の蒸着面に塗布した。塗布後70℃の熱風オーブンにて30秒間乾燥後、60μm厚みの未延伸ポリプロピレンフィルムのコロナ処理面と貼合せ、熱風オーブンを用い40℃で72時間エージングを行った。貼合せサンプルを15mm幅にカットし、オリエンテック社製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気下においてにてポリプロピレンフィルムとポリエステルフィルム間を剥離角度90°にて剥離力を測定した。
A:400g/15mm巾以上
B:200g/15mm巾以上400g/15mm巾未満
C:200g/15mm巾未満。
【0062】
次に、実施例を挙げて、具体的に本発明のポリエステルフィルムについて説明する。実施例中で「部」とは、特に注釈のない限り「質量部」である。
【0063】
[ポリエチレンテレフタレートの製造]
ポリエチレンテレフタレート樹脂は以下のように準備した。
【0064】
(1)ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET-1)
テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール61質量部の混合物に、0.04質量部の酢酸マグネシウム、0.02質量部の三酸化アンチモンを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行った。ついで、該エステル交換反応生成物に、0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行した。さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET-1」)を作製した。
【0065】
(2)イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET-2)
ジメチルテレフタル酸150.4質量部、ジメチルイソフタル酸43.6質量部(M=22.5)とし、PET-1と同様に重合し、重合時間を調整してイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET-2)を作成した。
【0066】
(3)粒子マスター
上記(1)のポリエチレンテレフタレートを製造する際、エステル交換反応後にレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-700(株式会社堀場製作所製)によって測定されるメジアン径(平均粒子径)2.1μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行い、粒子濃度2.0質量%の粒子マスター(以下、「PET-3」)を得た。
【0067】
なお、ジエチレングリコール量については水酸化カリウムの添加量により調整し、固有粘度については固相重合法による重合時間により調整した。表のジエチレングリコール量および固有粘度はフィルムの状態にて測定した数値である。
【0068】
(実施例1)
PET-1を90質量部、PET-3を10質量部の割合で混合して使用した。PET-1とPET-3の混合物を真空乾燥した後、押出機に供給して、280℃で溶融押出し、14μmカットのステンレスパウダー焼結フィルター(PSS)で濾過した後、T字型口金からシート状に押出し、これを表面温度25℃の冷却ドラムに静電密着法で冷却固化せしめた。このようにして得られた未延伸(未配向)PETフィルムを、127℃に加熱して長手方向に一段目を2.21倍、二段目を1.14倍、三段目を2.30倍とした三段延伸にて一軸延伸フィルムとした。このフィルムを112℃に加熱しつつ幅方向に3.8倍に延伸した(横延伸)。このフィルムを227℃の熱風中に導き入れ、3秒間MD方向、TD方向に弛緩させずに熱処理(熱固定)した後、150℃で幅方向にTD延伸後のフィルム幅に対して3.0%の弛緩処理(リラックス)を施し冷却した。このようにして最終的に厚さ5.7μmのポリエステルフィルムを得た。
【0069】
このようにして得られた厚さ5.7μmのポリエステルフィルムにアルミニウム蒸着を所定の蒸着速度で行った。アルミニウムを蒸着する方法は、フィルムを連続式真空蒸着機の巻き出し装置にセットし、冷却金属ドラムを介して走行させフィルムを巻き取る。この時、連続式真空蒸着機を10-4Torr以下に減圧し、冷却ドラムの下部よりアルミナ製ルツボに純度99.99%の金属アルミニウムを装填して金属アルミニウムを加熱蒸発させ、フィルム上に付着堆積させ、厚さ1μmのアルミニウム膜を形成させる工程を3回行った。さらに、反対面も同様に3回蒸着し、両面に3μmのアルミ蒸着膜を形成させ、トータル11.7μmの蒸着フィルムを得た。
【0070】
表中の固有粘度およびジエチレングリコール量(DEG量)はフィルムの状態(蒸着前)での値であり、この値に近づけるべく、固有粘度は固相重合法による重合時間により、ジエチレングリコール量は水酸化カリウムの添加量により調整した。
【0071】
(実施例2~8、比較例2~3)
製膜条件(延伸条件、熱固定条件、冷却条件)を変更し、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム、アルミ蒸着フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
PET-2を80質量部、PET-3を20質量部の割合で混合して使用した。PET-2とPET-3の混合物を真空乾燥した後、押出機に供給して、270℃で溶融押出し、14μmカットのステンレスパウダー焼結フィルター(PSS)で濾過した後、T字型口金からシート状に押出し、これを表面温度25℃の冷却ドラムに静電密着法で冷却固化せしめた。このようにして得られた未延伸(未配向)PETフィルムを、110℃に加熱して長手方向に一段目を2.20倍、二段目を1.10倍、三段目を1.50倍とした三段延伸にて一軸延伸フィルムとした。このフィルムを110℃に加熱しつつ幅方向に3.6倍に延伸した(横延伸)。このフィルムを125℃の熱風中に導き入れ、2秒間MD方向、TD方向に弛緩させずに熱処理(熱固定)した後、105℃でTD方向に弛緩せず冷却した。このようにして最終的に厚さ12.0μmのイソフタル酸共重合ポリエステルフィルムを得た。
【0073】
実施例により得られたポリエステルフィルムを基材として用いた蒸着フィルムは、蒸着膜との密着性、表面抵抗率に優れていた。一方、比較例1~3により得られたポリエステルフィルムを基材として用いたアルミ蒸着フィルムは、劣るものであった。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、電池の高出力、高寿命といった電池性能の向上につなげられる電極シートの抵抗特性を向上させた厚蒸着用二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができる。そして当該フィルムは特に電池の電極用フィルムとして好適に用いることができる。