(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132077
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】アクリル系異形断面繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/38 20060101AFI20240920BHJP
D01F 6/18 20060101ALI20240920BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20240920BHJP
D01D 5/253 20060101ALI20240920BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D01F6/38
D01F6/18 Z
D01D5/06
D01D5/253
D02G3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042731
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 大暉
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB11
4L035BB89
4L035BB91
4L035DD02
4L035EE20
4L036MA04
4L036MA20
4L036MA37
4L036PA31
4L036UA01
4L045AA02
4L045BA10
4L045BA60
4L045CB19
4L045DA32
4L045DA33
4L045DA34
4L045DA41
(57)【要約】
【課題】良好なハリコシ、ぬめり感があり、高白度かつ高い抗ピル性、加工性に優れた良好な品質を有し、ソフトで風合いに優れたアクリル系異形断面繊維を提供する。
【解決手段】
単繊維繊度が0.3~3.3dtex、単繊維の引張強度が2.0~3.5cN/dtexであり繊維横断面形状が下記条件を満足することを特徴とするアクリル系異形断面繊維。
a)繊維の横断面が楕円の長辺中央部に2個の凹部を対面に有する形状。
b)繊維の横断面の長辺方向の最大長さをA、短辺方向の最大長さをB、凹部の頂点間を結ぶ長さをCとすると、A/C=2.5~5.0、B/C=1.2~2.5であること、
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.3~3.3dtex、単繊維の引張強度が2.0~3.5cN/dtexであり繊維横断面形状が下記条件を満足することを特徴とするアクリル系異形断面繊維。
a)繊維の横断面外周上に2個の凹部を対面に有すること。
b)繊維の横断面の長辺方向の最大長さをA、短辺方向の最大長さをB、凹部間の最短幅をCとすると、A/C=2.5~5.0、B/C=1.2~2.5であること。
【請求項2】
結節強度が1.3~2.2cN/dtex、結節伸度が10~20%、ハンター表色系においてbが+1.5~+5.0であることを特徴とする請求項1記載のアクリル系異形断面繊維。
【請求項3】
アクリロニトリル系共重合体を20~25質量%と、溶剤75~80質量%とからなる紡糸原液を60~80℃に温調し、吐出孔の孔面積が1.26×10-3~3.85×10-3mm2の紡糸ノズルで、紡糸ノズルから引き取り速度/吐出線速度が0.9~1.5で吐出し、糸条が延伸工程を通過する際、該工程の一部または全部において、単一の、あるいは複数に分割された個々の糸条の幅が1m以下であり、その時の個々の糸条の総繊度(ktex)と幅(m)の比が50~300ktex/mで延伸倍率3.5~7.0倍で延伸し、乾燥緻密化し、捲縮付与後、湿熱処理工程として100~125℃で処理することを特徴とする、請求項1または2に記載のアクリル系異形断面繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアクリル系異形断面繊維を少なくとも20wt%以上含んだ紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な品質と性能の繊維製品が得られる、アクリル系異形断面繊維とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維は、他の合成繊維に比べて最も羊毛に類似した柔軟な風合い、保温性、嵩高性ならびに優れた染色性を有し、衣料用素材あるいはインテリア製品用素材等の広範な分野に利用されている。しかしながら近年では、アクリル系繊維からなる繊維製品には、更なる柔軟な風合いと保温性が求められている。また、アクリル系繊維からなる繊維製品は、使用中にその表面に単繊維の絡み合ったピリング(毛玉が脱落しないで布地の表面についている状態)が発生しやすいという問題点を有する。このピリングは、繊維製品の外観や風合いを損ねるために、かねてよりアクリル系繊維においては、ピリングの発生し難いこと、いわゆる抗ピル性の改良が求められていた。また、近年ではインナー用製品での白色または淡色染めにおいて、より鮮明な色合いを出すための繊維の白色化の要望が益々高まってきている。そして、白色の染色加工における作業の簡素化および加工費用低減、更に染色工程での環境負荷低減の要求に対しても、繊維の白色化が必要とされているのが現状である。
【0003】
そのような要求に対し、これまでに様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、細繊度、かつV断面形状にすることで優れた風合いと抗ピル性を発揮するとあるが、一般的なアクリル系繊維に見られるベータ型断面との差異がほとんどなく、抗ピル性に関しても満足できるものではない。また、特許文献2で提案されている亜鈴型や扁平型のアクリル系繊維では横断面の異形度が低いことから、異形断面化により得られる効果が小さく、また重合方法が水系懸濁重合であることから、熱履歴過多により繊維の黄色味が強いため、風合い、高白度および抗ピル性のいずれをも満足するものではなかった。したがって、柔軟性とハリコシ感の両立、抗ピル性、高い白色度を兼ね揃えたアクリル系繊維が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-217723号公報
【特許文献2】特開2013-174033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、優れた風合い、かつ高白度、抗ピル性を有するアクリル系異形断面繊維およびその工業的に安定した製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の構成を有するものである。
【0007】
すなわち、本発明のアクリル系異形断面繊維およびその製造方法は、
(1)単繊維繊度が0.3~3.3dtex、単繊維の引張強度が2.0~3.5cN/dtexであり繊維横断面形状が下記条件を満足することを特徴とするアクリル系異形断面繊維。
a)繊維の横断面が楕円の長辺中央部に2個の凹部を対面に有する形状。
b)繊維の横断面の長辺方向の最大長さをA、短辺方向の最大長さをB、凹部間の最短幅Cとすると、A/C=2.5~5.0、B/C=1.2~2.5であること、
(2)維結節強度が1.3~2.2cN/dtex、結節伸度が10~20%、ハンター表色系においてbが+1.5~+5.0であることを特徴とする前記(1)記載のアクリル系異形断面繊維、
(3)以下の(a)~(e)の工程を有する、前記(1)または(2)に記載のアクリル系異形断面繊維の製造方法。
(a)アクリロニトリル系共重合体を20~25質量%と、溶剤75~80質量%とからなる紡糸原液を60~80℃に温調する工程
(b)温調された紡糸原液を、吐出孔の孔面積が1.26×10-3~3.85×10-3mm2の紡糸ノズルで、紡糸ドラフトが0.9~1.5の条件で紡糸する工程
(c)工程の一部または全部において、単一の、あるいは複数に分割された個々の糸条の幅を1m以下とし、かつ個々の糸条の総繊度(ktex)と幅(m)の比を50~300ktex/mとして、延伸倍率3.5~7.0倍で延伸する工程
(d)乾燥緻密化し、捲縮付与する工程
(e)100~125℃で湿熱処理する工程
(4)前記(1)、(2)記載のアクリル系異形断面繊維を少なくとも20wt%以上含んだ紡績糸。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル系異形断面繊維およびその製造方法により、優れた風合い、かつ高白度で高い抗ピル性といった、良好な品質と性能を発揮する繊維製品を得ることが可能なアクリル系異形断面繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のアクリル系異形断面繊維の横断面形状を例示説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明のアクリル系異形断面繊維の製造方法について説明する。
本発明のアクリル系繊維を構成するアクリル系重合体は繊維形成が可能であれば特に限定はないが、アクリロニトリルを80質量%以上、好ましくは90質量%以上含むアクリロニトリル系重合体が好適に用いられ、アクリロニトリル単体からなる重合体のほか、共重合成分を任意に含むことができる。共重合成分としてはアクリル酸、メタクリル酸またはこれらのエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのオレフィン系モノマー、あるいはアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタリルスルホン酸及びP-スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはこれらの塩類などを用いることができ、特にアクリル酸メチルやメタリルスルホン酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0011】
本発明で用いられるアクリロニトリル系重合体の重合方法は、懸濁重合法、乳化重合法および溶液重合法等のうちいずれでも良い。また、使用する有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOということがある。)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられるが、その効果が、DMSO系湿式紡糸において特に顕著であることから、重合方法もDMSOを使った溶液重合法が望ましい。
アクリロニトリル系重合体の割合は、紡糸原液として20~25質量%であり、その際有機溶媒の割合を75~80質量%にする必要があり、好ましくはアクリロニトリル系重合体の割合は21~24質量%であり、有機溶媒の割合は76~79質量%である。紡糸原液において、アクリロニトリル系重合体が20質量%より少ないと得られる繊維が失透し光沢が失われるとともに発色性低下をきたすことがある。一方、アクリロニトリル系重合体が25質量%を超えると紡糸性が著しく悪化する。このようにして作製された紡糸原液は、通常の湿式紡糸装置を使用して紡糸される。
【0012】
凝固浴としては、DMSO、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミド等の有機溶媒が挙げられ、特にDMSO水溶液が好ましく用いられる。紡糸原液を凝固浴のDMSO水溶液中に紡出する際、紡糸原液温度を60~80℃、好ましくは65~75℃の範囲の条件が用いられる。紡糸原液温度が60℃未満の場合は、紡糸原液の曳糸性が不足するだけでなく、粘度が高いためにノズル圧上昇などの設備破損の原因となる。また、紡糸原液温度が80℃より高い場合は、紡糸原液のゲル化等の変性を引き起こすことが多く、安定した紡糸が望めなくなる。
【0013】
紡糸ノズルの吐出孔の孔面積は1.26×10-3~3.85×10-3mm2ことが好ましい。吐出孔の孔面積が1.26×10-3mm2未満では、バラス効果により、異形断面が得られなくなり、3.85×10-3mm2を超えると背面圧の低下により紡糸ドラフトが高くなり口金面で糸切れを起こすことがある。
【0014】
また、紡糸ドラフトが0.9未満では、口金から引取ローラーまでの糸が弛み、凝固浴液の乱流で糸が揺れ口金面で糸が切れることが多発し、また、バラス効果により断面形成性の悪化が見られ、紡糸ドラフトが1.5を超えると糸が張りすぎ口金面で糸が切れることが多発する。
【0015】
糸条が延伸工程を通過する際、該工程の一部または全部において、単一の、あるいは複数に分割された個々の糸条束の幅が1m以下であり、その時の個々の糸条束の総繊度(ktex)と幅(m)の比が50~300ktex/mであることが望ましい。50ktex/m以上であることで延伸浴中における液流の乱れの影響が軽減され、延伸切れを抑制することができ、また300ktex/m以下であることで糸条束の昇温バラツキを抑制し、均一に延伸することが可能となる。
【0016】
紡糸工程以降、延伸、水洗工程を経て乾燥緻密化工程と、一般的なアクリル繊維の製造工程を経て製造される。ここでの延伸工程の延伸倍率は、4倍以上、7倍以下とすることが好ましく、4.5倍以上、5.5倍以下であることがより好ましく、繊維として使用できる強度を発現するための最低限度の延伸倍率であることが好ましい。最終的に延伸した後の工程収縮はできるだけとらず、緊張状態で製造し、乾燥緻密化後いずれかの工程で捲縮付与後に湿熱又は乾熱による熱処理を施し、所望の繊維長となるよう切断することによって短繊維を得る。捲縮の付与方法としては公知の機械捲縮付与方法を用いることができるが、特に均一で安定した捲縮付与性に優れる点から押し込みクリンパーが好適に使用できる。各種の捲縮付与方法において、適切な条件設定により本発明のアクリル系繊維に必要な捲縮数、及び捲縮率を与えることができる。例えば押し込みクリンパーを用いる方法において、該押し込みクリンパーに入るトウの温度は60℃以上75℃以下であることが好ましく、より好ましくは65℃以上70℃以下である。60℃以上とすることでトウの柔軟性を付与し、捲縮付与性を向上させることができる。トウの昇温方法はスチームによる湿熱処理の他、ホットローラーや熱風による乾熱処理など公知の方法が採用できる。捲縮付与後の湿熱処理温度は100~125℃が好ましく、100℃未満では染色時に単繊維収縮が起こり、単繊維繊度が変わってしまう。また、125℃を超えると乾強伸度のバランスが崩れ、低乾強度、高乾伸度となり、紡績加工性が悪くなる。
【0017】
次に、以上のようにして製造された本発明のアクリル系異形断面繊維について説明する。
本発明のアクリル系異形断面繊維は、単繊維繊度が0.3~3.3dtex、単繊維の引張強度が2.0~3.5cN/dtexであり繊維横断面形状が下記条件を満足することを特徴とするアクリル系異形断面繊維である。
a)繊維の横断面が楕円の長辺中央部に2個の凹部を対面に有する形状。
b)繊維の横断面の長辺方向の最大長さをA、短辺方向の最大長さをB、凹部間の最短幅をCとすると、A/C=2.5~5.0、B/C=1.2~2.5であること。
【0018】
本発明のアクリル系異形断面繊維において、横断面形状の外周上に存在する凹部が2個未満では、従来のベータ型横断面のアクリル繊維と同一であり、凹部が2個を超えると繊維表面の凹凸が増え、風合いが悪くなる。横断面形状は楕円または扁平形状の長辺側中央部に2個の凹部を有することにより、断面2次モーメントが大きくなり、独特のハリコシが得られる。更に、単繊維間に空隙を形成することが可能となり、保温性が良好となる。
図1に、本発明のアクリル系異形断面繊維の単繊維横断面形状の一例を示す。
図1では、繊維断面の長辺側中央部に凹部を2個有する本発明のアクリル系異形断面繊維の断面形状を例示している。ここで凹部とは繊維断面形状のへこんでいる部分を意味し、対面とはアクリル系異形断面繊維の横断面の最大長さAに対して線対称に位置することを意味する。具体的には、亜鈴型ドッグボーン型と呼ぶことが多い。
図1において、Aは、上記アクリル系異形断面繊維の横断面の最大長さである。Bは、アクリル系異形断面繊維の横断面の最大幅であって、前記の最大長さAに垂直に交わる線分の長さをいう。そしてCは、凹部間の最短幅であって、前記の最大長さAに垂直に交わる線分の長さをいう。
【0019】
繊維横断面の長辺方向の最大長さをA、短辺方向の最大長さをB、凹部間の最短幅Cとすると、A/C=2.5~5.0、B/C=1.2~2.5であることが好ましい。A/Cが2.5未満では扁平度が低く繊維の毛倒れ性が悪くなりソフトな風合いが得られなくなる。一方、5.0を超えると、ハリコシ感が小さくへたり易くなり、また、製糸性が悪くなる。A/Cは好ましくは、3.0~4.8であり、さらに好ましくは3.5~4.8である。また、B/Cは1.2未満では繊維表面の凹凸が小さく、適度なハリコシ感が得られなくなる。一方、2.5を超えると繊維が対面にある凹部を起点に単繊維が割れてしまい、異形断面繊維でなくなってしまう。B/Cは好ましくは、1.5~2.3であり、さらに好ましくは1.7~2.2である。
【0020】
本発明のアクリル系異形断面繊維の単繊維繊度は、0.3~3.3dtex、好ましくは0.5~2.2dtexである。一般的なアクリル系繊維の製造方法においては、繊維を細くするためには紡糸原液吐出量を下げる必要がある。紡糸原液吐出量を下げることにより、紡糸口金面での糸切れ等が発生し、生産性が低下する傾向にあるが、本発明の製造方法を用いることにより、単繊維繊度を0.3~3.3dtexの繊維として顕著なソフト風合いと抗ピル性能を発現させた繊維を、生産性を実質的に損なうことなく、安定して製造することができる。また、本発明のアクリル系異形断面繊維の引張強度が2.0cN/dtex以上、3.5cN/dtex以下であり、好ましくは2.5cN/dtex以上、3.3cN/dtex以下である。引張強度が2.0cN/dtex以上であることで細繊度繊維であっても紡績時のフライ発生を抑え、紡績工程の通過性を良好に保つことが可能である。一方、3.5cN/dtex以下とすることで、延伸工程での張力負荷が低減し、延伸バラツキによる繊度バラツキを抑えることが可能となる。さらに、本発明のアクリル系異形断面繊維においては、結節強度が1.3~2.2cN/dtex、好ましくは1.7~2.1cN/dtexで、結節伸度が10~20%、好ましくは11~19%であるという2つの条件を満たす必要がある。結節強度が2.2cN/dtexより高い場合、結節伸度が20%より高い場合、いずれの場合も抗ピル性が著しく低下する。
【0021】
本発明のアクリル系異形断面繊維は、ハンター表色系においてbが+1.5~+5.0であることが好ましい。実質、公知であるアクリル系繊維の製造方法を用いて製造すると+1.5未満の繊維の製造は困難である。一方、+5.0を超えると黄色味が強くなり、淡色系の染色において発色性が悪くなり、鮮明な色合いを出すことが困難になる。
【0022】
本発明によれば、製造条件を最適化しつつその相乗効果を最大限に発揮させることにより、適度な柔軟性とハリコシおよび抗ピル性のみならず、ぬめり、光沢および高白度かつ発色性等を具備し、汎用性に富み、商品価値の高い繊維が生産性よく安定的に得られる。
【0023】
本発明のアクリル系異形断面繊維は、カットして短繊維とされた後、紡績され、紡績糸として用いられることが好ましい。紡績糸の構成は、本発明のアクリル系異形断面繊維を100wt%としても良いし、他の繊維、例えば、ポリエステル系繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維等の合繊繊維または化学繊維、綿、ウールおよび絹等の天然繊維と20wt%以上の割合で混紡して、紡績糸とすることにより、繊維製品におけるハリコシ、風合いが良くなる。アクリル系異形断面繊維の混率が20wt%未満では、紡績糸におけるアクリル系異形断面繊維の効果が小さく、繊維製品にしたときに特長が出にくい。
【実施例0024】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
[繊度]
JIS L 1015(2021)(化学繊維ステープル試験法)に基づいて求めた。
【0026】
[引張強度、結節強度、結節伸度]
JIS L 1015(2021)(化学繊維ステープル試験法)に基づいて求めた。
なお、結節強さを測定した際の伸び率を結節伸度とした。
【0027】
[ハンター表色系b]
JIS L 1015(2021)(化学繊維ステープル試験法)に基づいて求めた。
【0028】
[抗ピル性]
通常の方法により、番手が1/52の紡績糸とし、しかる後常法により編成し染色を行い作製した編地について、ICI 5Hrにより抗ピル性を評価した。
【0029】
[繊維断面]
測定試料である繊維束を任意の長さにカットし、その中から構成本数が100~1000本となるよう試料を取り、手で引き揃えて繊維の方向を揃えた後、先端をこより状に細め、孔径1mmの孔が開いた厚み0.5mmの銅板に繊維試料を通し、観察時に繊維試料が抜け落ちない程度に引き入れた。剃刀を用い、銅板の表面に沿って繊維試料を水平に切断し、厚み0.5mmの繊維束薄板サンプルを作成した。走査型電子顕微鏡を使用し、繊維断面観察サンプルの各繊維断面を観察、繊維の横断面の長辺方向の最大長さAと、短辺方向の最大長さB、凹部の頂点間を結ぶ長さCを測定し、50本の繊維で平均値を求め、A/CおよびB/Cを算出した。
【0030】
[製糸性]
生産量100t当たりの巻付き回数により評価した。1回/100t未満を優良(S)、1回以上15回未満/100tを普通(G)、15回以上/100tを不良(NG)とした。
【0031】
[編地風合い]
5人判定員が、その風合い評価用の編地を触感判定し、十分なソフト性を有していると判断されるものに「良」、ソフト性は有してしているもののシャリ感が出ていると判断されるものに「不可」をつけた。5人全員が良をつけた場合の判定結果をSとし、良が3人以上いた場合の判定結果をAとし、不可が3人以上いた場合の判定結果をBとして評価した。
【0032】
[実施例1]
アクリロニトリル92質量%、アクリル酸メチル7質量%およびメタリルスルホン酸ソーダ1質量%をDMSO中で共重合し、紡糸原液濃度を22質量%とした。前記の紡糸原液を、68℃の温度に調節し、DMSO48質量%および水52質量%の浴液を温度40℃に調節した凝固浴中に、ドッグボーン型のノズル孔から紡糸ドラフト1.0で押し出して湿式紡糸し、熱水中で4.0倍の延伸を施し、続いて水洗、油剤を付着させ、熱風乾燥機を用いて温度167℃、弛緩率5%で乾燥緻密化を行って、捲縮を付与した後、105℃の湿熱処理を施し、カット長51mmとし単繊維繊度2.2dtexのアクリル系異形断面繊維を得た。得られたアクリル系異形断面繊維を通常の方法により、番手が1/52の紡績糸とし、しかる後常法により編成し染色を行った。作製した編地の抗ピル性と編地風合いを評価したところ、抗ピル性は5級で、編地風合いは良好(S)であった。結果を表1に示す。
【0033】
[実施例2~3および比較例1~5]
実施例1における、アクリロニトリル系重合体、紡糸原液中のポリマー割合、紡糸原液
温度、凝固浴条件、紡糸ノズル孔面積、紡糸ドラフト、延伸倍率、乾燥条件、および目標繊度を、表1の通り変更して得られた原綿を、紡績し編地を作製し、それらの抗ピル性と編地風合いを評価した結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
表1の結果から明らかなように、本発明に関わる諸工程要件を満たす条件で製造されたアクリル系異形断面繊維は、それ自身が優れた編地風合い、高白度かつ抗ピル性能を有するだけでなく、他の繊維と混綿した後も良好な編地風合いと抗ピル性能を発現することが分かる。