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特開2024-132086MEMSデバイスの製造方法、MEMSデバイス、および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132086
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】MEMSデバイスの製造方法、MEMSデバイス、および電子機器
(51)【国際特許分類】
   B81C 1/00 20060101AFI20240920BHJP
   G01P 15/13 20060101ALI20240920BHJP
   G01P 15/08 20060101ALI20240920BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B81C1/00
G01P15/13 Z
G01P15/08 101A
B81B3/00
H01L29/84 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042742
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山内 幸夫
【テーマコード(参考)】
3C081
4M112
【Fターム(参考)】
3C081AA17
3C081BA04
3C081BA22
3C081BA30
3C081BA32
3C081BA44
3C081BA46
3C081BA48
3C081BA53
3C081CA02
3C081CA15
3C081CA23
3C081CA28
3C081CA29
3C081CA32
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA07
3C081DA43
3C081EA02
3C081EA11
3C081EA14
3C081EA21
4M112AA02
4M112BA07
4M112CA24
4M112CA26
4M112DA04
4M112DA06
4M112DA11
4M112EA03
4M112EA06
(57)【要約】
【課題】サイクルタイム、歩留まり、製造コストなどを改善できる慣性センサーの製造方法を提供すること。
【解決手段】基部2と、基部2に接合される蓋部8を備えたMEMSデバイスとしての慣性センサー1の製造方法であって、シリコン基板からなる蓋部8を準備する準備工程と、蓋部8の基部2との接合面86を含む基板面85に、ハードマスク90を形成するハードマスク形成工程と、接合面86にハードマスク90が残るように、ハードマスク90の一部を除去するパターニング工程と、蓋部8をアルカリ溶液によって異方性エッチングして、ハードマスク90を除去した箇所に凹部81を形成するとともに、ハードマスク90を介して接合面86にボイド87を形成するエッチング工程と、ハードマスク90を除去するハードマスク除去工程と、蓋部8を基部2に接合する接合工程と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、前記第1基板に接合される第2基板とを備えたMEMSデバイスの製造方法であって、
シリコン基板からなる前記第2基板を準備する準備工程と、
前記第2基板の前記第1基板との接合面を含む基板面に、ハードマスクを形成するハードマスク形成工程と、
前記接合面に前記ハードマスクが残るように、前記ハードマスクの一部を除去するパターニング工程と、
前記第2基板をアルカリ溶液によって異方性エッチングして、前記ハードマスクを除去した箇所に凹部を形成するとともに、前記ハードマスクを介して前記接合面にボイドを形成するエッチング工程と、
前記ハードマスクを除去するハードマスク除去工程と、
前記第2基板を前記第1基板に接合する接合工程と、を含む、
MEMSデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記ハードマスクは、前記第2基板を加熱処理して形成した熱酸化膜であり、
前記ボイドは、50個/100μm2から300個/100μm2の間の密度に形成される、
請求項1に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記ボイドは、0.1μm以上0.5μm以下の直径に形成される、
請求項2に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ溶液は、水酸化カリウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液である、
請求項3に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記ハードマスクは、減圧化学気相成長法により形成されたシリコン窒化膜であり、
前記ボイドは、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の密度に形成される、
請求項1に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記ボイドは、0.03μm以上0.1μm以下の直径に形成される、
請求項5に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ溶液は、水酸化カリウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液である、
請求項6に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項8】
第1基板と、
前記第1基板に接合され、シリコン基板からなる第2基板と、を備え、
前記第2基板は、
前記第1基板側に設けられた凹部と、
前記凹部を囲むように設けられ、前記第1基板に接合された接合面と、
前記接合面に設けられたボイドと、を有する、
MEMSデバイス。
【請求項9】
前記ボイドの密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値である、
請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項10】
前記ボイドの直径は、0.1μm以上0.5μm以下である、
請求項9に記載のMEMSデバイス。
【請求項11】
前記ボイドの密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値である、
請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項12】
前記ボイドの直径は、0.03μm以上0.1μm以下である、
請求項11に記載のMEMSデバイス。
【請求項13】
前記第1基板と前記第2基板とは、前記接合面を介して、金接合、フリット接合、あるいは接着剤により接合されている、
請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項14】
前記第1基板は、機能素子を含み、
前記機能素子は、前記凹部に対応して設けられる、
請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項15】
請求項8ないし請求項14のいずれか一項に記載のMEMSデバイスを備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSデバイスの製造方法、MEMSデバイス、および当該MEMSデバイスを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて形成された超小型の振動子、センサー等の素子部を備えたデバイスがある。このようなデバイスにおいて、素子部は、シリコン等の材料からなる基板同士を接合して形成した内部空間に設けられている。
【0003】
このようなデバイスの製造方法としては、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。
特許文献1に開示されたものでは、第1工程において、各基板の対向する面に、内部空間を形成するための凹部を形成し、第2工程において、第1工程で形成した凹部を保護層でマスクし、第3工程において、基板の接合面に凹凸を形成し、第4工程において、基板同士を接合している。
ここで、各基板の接合面に設けられた凹凸は、基板同士を接合する際に、各基板の凹凸同士を噛み合わせることで、各基板の位置ずれを防ぐとともに、接合強度を向上させるものである。すなわち、各基板の接合面に設けられた凹凸を形成するための第2工程と第3工程とは、接合強度を向上させるための工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-205361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたものでは、接合強度を向上させるために、第2工程と第3工程との少なくとも2工程を実施する必要があった。
したがって、接合強度が向上できたとしても、サイクルタイム、歩留まり、製造コストなどに、悪化等の影響が生じるおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る一態様のMEMSデバイスの製造方法は、第1基板と、前記第1基板に接合される第2基板とを備えたMEMSデバイスの製造方法であって、シリコン基板からなる前記第2基板を準備する準備工程と、前記第2基板の前記第1基板との接合面を含む基板面に、ハードマスクを形成するハードマスク形成工程と、前記接合面に前記ハードマスクが残るように、前記ハードマスクの一部を除去するパターニング工程と、前記第2基板をアルカリ溶液によって異方性エッチングして、前記ハードマスクを除去した箇所に凹部を形成するとともに、前記ハードマスクを介して前記接合面にボイドを形成するエッチング工程と、前記ハードマスクを除去するハードマスク除去工程と、前記第2基板を前記第1基板に接合する接合工程と、を含む。
【0007】
本願に係る一態様のMEMSデバイスは、第1基板と、前記第1基板に接合され、シリコン基板からなる第2基板と、を備え、前記第2基板は、前記第1基板側に設けられた凹部と、前記凹部を囲むように設けられ、前記第1基板に接合された接合面と、前記接合面に設けられたボイドと、を有する。
【0008】
本願に係る一態様の電子機器は、上記のMEMSデバイスを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る慣性センサーの平面図。
図2図1のA-A線に沿う慣性センサーの断面図。
図3】慣性センサーの蓋部の平面図。
図4A】蓋部の接合面を撮影したSEM写真。
図4B】蓋部の接合面および断面を撮影したSEM写真。
図5】慣性センサーの製造工程を説明するフローチャート。
図6】製造過程における一態様を示す断面図。
図7】製造過程における一態様を示す断面図。
図8】製造過程における一態様を示す断面図。
図9】加工条件とボイドの形成の有無との相関を示す表。
図10】ハードマスクとボイドの形成状況との相関を示す表。
図11】蓋部の接合面を撮影したSEM写真。
図12】実施形態2に係る慣性センサーの断面図。
図13】実施形態3に係る慣性計測装置の概略構成を示す分解斜視図。
図14】慣性センサーが実装された回路基板の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の各図面においては各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがある。
また、以下では、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸およびZ軸とし、X軸に平行な方向を「X軸方向」、Y軸に平行な方向を「Y軸方向」、Z軸に平行な方向を「Z軸方向」とも言う。また、各軸の矢印方向先端側を「プラス側」とも言い、反対側を「マイナス側」とも言う。また、以下では、Z軸方向に見ることを「平面視」とも言う。
【0011】
さらに、以下の説明において、例えば、「基部上に設けられる」との記載は、基部の上に接して設けられる場合、基部の上に他の構造物を介して設けられる場合、または基部の上に一部が接して設けられ、一部が他の構造物を介して設けられる場合のいずれかを表すものとする。また、ある構成の上面との記載は、当該構成のZ軸方向プラス側の面、例えば「基部の上面」は、基部のZ軸方向プラス側の面、を示すものとする。また、ある構成の下面との記載は、当該構成のZ軸方向マイナス側の面、例えば「蓋部の下面」は、蓋部のZ軸方向マイナス側の面、を示すものとする。
【0012】
1.実施形態1
1.1.慣性センサーの構成
実施形態に係るMEMSデバイスとしての慣性センサー1の概略構成について、図1から図4Bを参照して説明する。
図1は、実施形態1に係る慣性センサーを模式的に示す平面図であり、慣性センサー1を、Z軸方向プラス側からZ軸方向マイナス側に見た図である。なお、図1では、説明の便宜上、蓋部8を透明化している。図2は、図1におけるA-A線での断面図であり、A-A線におけるZ軸を含む切断面をX軸方向マイナス側からX軸方向プラス側に見た図である。
【0013】
図3は、慣性センサーの蓋部の平面図であり、蓋部8の下面をZ軸方向マイナス側からZ軸方向プラス側に見た図である。
図4Aは、蓋部の接合面を撮影したSEM(Scanning Electron Microscope)写真であり、接合面86をZ軸方向マイナス側からZ軸方向プラス側に見た写真である。図4Bは、蓋部の接合面およびその断面を撮影したSEM写真であり、接合面86およびその断面を斜め方向から見た写真である。
【0014】
図1に示す慣性センサー1は、X軸方向の加速度Axを検出することのできる加速度センサーである。この慣性センサー1は、MEMS技術により形成されたもので、基部2と、基部2上に設けられたセンサー素子3と、センサー素子3を覆うように基部2に接合された蓋部8と、を有している。
【0015】
1.1.1.基部の構成
図1に示すように、基部2は、平面視で、矩形の形状を有する。また、基部2は、上面側に開放する凹部21を有している。また、平面視で、凹部21は、センサー素子3を内包するように、センサー素子3よりも大きく形成されている。
図2に示すように、凹部21は、センサー素子3と基部2との接触を防止するための逃げ部として機能する。基部2の上面において、凹部21の周囲は、蓋部8との接合面26である。
【0016】
図2に示すように、基部2は、凹部21の底面に設けられた突起状のマウント部22を有している。マウント部22には、センサー素子3が接合される。また、図1に示すように、基部2は、上面側に開放する溝部23a,23b,23cを有している。
【0017】
基部2には、例えば、可動イオンであるアルカリ金属イオンを含むガラス材料、例えば、パイレックス(登録商標)ガラスのような硼珪酸ガラスで構成されたガラス基板を用いることができる。なお、基部2は、シリコン基板やセラミックス基板であってもよい。
【0018】
溝部23a,23b,23c内には、配線71,72,73が設けられている。
配線71,72,73の一端部は、それぞれ、基部2の上面において、蓋部8の外側に露出している。配線71,72,73において、蓋部8の外側に露出している部分は、外部装置との電気的な接続を行う端子として機能する。
配線71,72,73の他端部は、それぞれ、基部2の上面において、マウント部22の上面に設けられている。そして、配線71,72,73は、それぞれ、マウント部22上のコンタクト部c1,c2,c3において、センサー素子3と電気的に接続されている。
【0019】
1.1.2.蓋部
図1および図3に示すように、蓋部8の形状は、平面視で、矩形である。本実施形態において蓋部8は、シリコン基板である。また、図2に示すように、蓋部8は、下面側に凹部81を有している。
凹部81は、センサー素子3を収納するためのザグリ部として機能する。蓋部8の下面において、凹部81の周囲は、基部2との接合面86である。
【0020】
蓋部8は、接合部材89を介して、基部2に接合される。
本実施形態において、蓋部8は、金接合によって基部2に接合される。金接合において、接合部材89は、金(Au)の薄膜である。具体的には、金のスパッタ膜である。なお、金接合は、低温金属接合と言い換えることができる。また、金の薄膜は、金以外の金属によるスパッタ膜であってもよい。
【0021】
蓋部8の接合面86と基部2の接合面26とは、低融点ガラスフリットを用いたフリット接合によって、接合されてもよい。また、蓋部8の接合面86と基部2の接合面26とは、接着剤を用いて接合されてもよい。
蓋部8と基部2とが接合されることによって、蓋部8と基部2との間に、センサー素子3を収納する収納空間Sが形成される。
【0022】
図2に示すように、蓋部8の接合面86には、複数のボイド87が設けられる。
複数のボイド87は、図3に示すように、接合面86の全面にわたって設けられる。
ボイド87は、略半球の形状をした穴であり、ボイド87内に、接合部材89としての金のスパッタ膜が、形成されることで、ボイド87内の接合部材89がアンカーとして機能して、基部2と蓋部8との接合強度を向上させることができる。
【0023】
また、接合面86にボイド87が設けられることで、接合面86の表面積が増えて、接合に寄与する接合面積が増えるため、基部2と蓋部8との接合強度を向上させることができる。
さらには、基部2と蓋部8との接合強度が向上することで、収納空間Sの気密性が向上して、慣性センサー1の信頼性を向上させることができる。また、接合面86の接合面26の接合面積を小さくしても所定の接合強度を保つことができるので、慣性センサー1の小型化に適した構成とすることができる。
【0024】
図4Aおよび図4BのSEM写真に示すように、接合面86には、複数のボイド87が設けられる。本実施形態では、ボイド87の密度は、およそ200個/100μm2であり、サイズは、直径が、およそ0.2μmであり、深さは、およそ0.2μmである。
詳しくは後述するが、形成されるボイド87の密度やサイズは、使用するエッチングマスクとエッチャントとの組み合わせに相関関係があることが分かっている。本実施形態では、エッチングマスクとして熱酸化膜を用い、エッチャントとしてKOH(水酸化カリウム)水溶液を用いてボイド87を形成した。
【0025】
図2に示すように、蓋部8は、収納空間Sの内外を連通する連通孔82を有しており、この連通孔82を介して収納空間Sを所望の雰囲気に置換することができる。また、連通孔82内には封止部材83が配置され、封止部材83によって連通孔82が封止されている。
【0026】
収納空間Sは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが封入されて、使用温度(-40℃~80℃程度)で、ほぼ大気圧となっていることが好ましい。収納空間Sを大気圧とすることで、粘性抵抗が増してダンピング効果が発揮され、センサー素子3が有する可動部52の振動を速やかに収束ないし停止させることができる。
【0027】
1.1.3.センサー素子
図1および図2に示すように、センサー素子3は、固定電極部4と可動電極部5とを有する。固定電極部4と可動電極部5とは、それぞれ基部2のマウント部22に接合されている。
【0028】
センサー素子3は、例えば、リン(P)、ボロン(B)等の不純物がドープされたシリコン基板をパターニングすることで形成することができる。また、センサー素子3は、陽極接合によって基部2のマウント部22に接合されている。ただし、センサー素子3の材料や、センサー素子3の基部2への接合方法は、特に限定されない。
また、センサー素子3の厚さは、例えば、本実施形態では、20μm以上50μm以下である。これにより、センサー素子3の機械的強度を十分に維持しつつ、センサー素子3を薄くすることができる。
【0029】
1.1.3.1.可動電極部
可動電極部5は、可動支持部51、可動部52、バネ部53、およびバネ部54を有する。可動支持部51、可動部52、バネ部53、およびバネ部54は、一体に形成されており、且つ、電気的に接続されている。
【0030】
可動支持部51は、マウント部22に接合された支持部511と、支持部511に接続された懸架部512と、を有している。
可動部52は、可動支持部51に対してX軸方向に変位可能に設けられる。また、可動部52は、可動電極部56を有する。
【0031】
可動電極部56は、第1可動電極部561および第2可動電極部562を有している。
第1可動電極部561は、懸架部411のY軸方向両側に位置し、Y軸方向に延在する複数の第1可動電極指561a、561bを有している。
第1可動電極指561a,561bは、対応する第1固定電極指412に対してX軸方向プラス側に位置し、この第1固定電極指412とギャップを介して対向している。
【0032】
第2可動電極部562は、懸架部421のY軸方向両側に位置し、Y軸方向に延在する複数の第2可動電極指562a,562bを有している。
第2可動電極指562a,562bは、対応する第2固定電極指422に対してX軸方向マイナス側に位置し、この第2固定電極指422とギャップを介して対向している。
【0033】
支持部511は、接合部511aを有する。接合部511aは、図2に示すように、支持部511において、マウント部22に接合された部分である。また、支持部511は、コンタクト部c1を介して配線71と電気的に接続されている。
【0034】
懸架部512は、図1に示すように、支持部511のX軸方向プラス側に位置し、X軸方向に延在する細長い板状の形状をしている。なお、以下では、平面視で、懸架部512をY軸方向に二等分する仮想軸を中心軸Lとする。
【0035】
可動部52は、平面視で、枠状の形状を有し、可動支持部51、バネ部53、バネ部54、第1固定電極部41、および第2固定電極部42を囲むように設けられている。
また、可動部52は、Y軸方向に並んで配置された第1開口部528および第2開口部529を有している。
【0036】
可動部52は、枠状部521、第1Y軸延在部522、第1X軸延在部523、第2Y軸延在部524、および第2X軸延在部525を有している。
また、可動部52は、第1開口部528の余ったスペースを埋めるように、枠状部521から第1開口部528内へ突出する第1突出部526と、第2開口部529の余ったスペースを埋めるように、枠状部521から第2開口部529内へ突出する第2突出部527と、を有している。
このように、第1突出部526および第2突出部527を設けることで、可動部52の大型化を招くことなく、可動部52の質量をより大きくして、より感度の高い慣性センサー1とすることができる。
【0037】
バネ部53とバネ部54とは、可動支持部51と可動部52とを連結する。
バネ部53およびバネ部54は、可動部52をX軸方向の両側で支持する。したがって、可動部52の姿勢および挙動が安定して、より高い精度で、加速度を検出することができる。
【0038】
1.1.3.2.固定電極部
固定電極部4は、第1固定電極部41および第2固定電極部42を有している。
第1固定電極部41は、第1開口部528内に位置し、第2固定電極部42は、第2開口部529内に位置する。また、第1固定電極部41と第2固定電極部42とは、中心軸Lを対称の軸として線対称に設けられている。
【0039】
第1固定電極部41は、マウント部22に接合された支持部413と、支持部413に支持された懸架部411と、懸架部411からY軸方向両側に延出した複数の第1固定電極指412と、を有している。なお、支持部413、懸架部411および各第1固定電極指412は、一体形成されている。
図2に示すように、支持部413は、接合部413aを介してマウント部22に接続されている。また、支持部413は、コンタクト部c2を介して配線72と電気的に接続されている。
【0040】
図1に示すように、懸架部411は、細長い棒状の形状をなし、その一端が支持部413に接続されている。また、懸架部411は、平面視で、その先端側に向けて中心軸Lとの離間距離が徐々に大きくなるように傾斜している。このような配置とすることで、支持部413を支持部511の近くに配置し易くなる。これにより、第1固定電極部41のY軸方向への広がりを抑制することができ、センサー素子3の小型化を図ることができる。
【0041】
第1固定電極指412は、懸架部411からY軸方向両側に延出している。すなわち、第1固定電極指412は、懸架部411のY軸方向プラス側に位置する第1固定電極指412aと、Y軸方向マイナス側に位置する第1固定電極指412bと、を有している。
【0042】
第2固定電極部42は、マウント部22に接合された支持部423と、支持部423に支持された懸架部421と、懸架部421からY軸方向両側に延出した複数の第2固定電極指422と、を有している。
図2に示すように、支持部423は、接合部423aを介してマウント部22に接続されている。また、支持部423は、コンタクト部c3を介して配線73と電気的に接続されている。
図1に示すように、懸架部421は、棒状の長手形状をなし、その一端が支持部423に接続されている。
【0043】
第2固定電極指422は、懸架部421からY軸方向両側に延出している。すなわち、第2固定電極指422は、懸架部421のY軸方向プラス側に位置する第2固定電極指422aと、Y軸方向マイナス側に位置する第2固定電極指422bと、を有している。
【0044】
このようなセンサー素子3にX軸方向の加速度が加わると、その加速度の大きさに基づいて、可動部52がバネ部53,54を弾性変形させながらX軸方向に変位する。
このような変位に伴って、第1可動電極指561a,561bと第1固定電極指412とのギャップおよび第2可動電極指562a,562bと第2固定電極指422とのギャップがそれぞれ変化する。この変位に伴って、第1可動電極指561a,561bと第1固定電極指412との間の静電容量および第2可動電極指562a,562bと第2固定電極指422との間の静電容量の大きさがそれぞれ変化する。そして、これら静電容量の変化に基づいて、X軸方向の加速度Axを検出することができる。
【0045】
1.2.慣性センサーの製造方法
図5は、慣性センサーの製造方法を示すフローチャート図であり、主として、蓋部8の接合面86にボイド87を形成する工程を示す。図6から図8は、製造過程における蓋部8の断面図である。
【0046】
1.2.1.準備工程
ステップS101では、蓋部8を形成するための単結晶シリコン材料からなるシリコン基板80を準備する。シリコン基板80は、単結晶シリコンウエハーである。なお、図6から図8では、シリコン基板80において、1個のチップの蓋部8に対応する構成のみを図示している。
【0047】
1.2.2.ハードマスク形成工程
ステップS102では、シリコン基板80の基板面85にエッチング保護層となるハードマスク90を形成する。本実施形態において、ハードマスク90は、シリコン基板80を熱酸化させた熱酸化膜である。熱酸化膜の膜厚は、好ましくは、約1μmである。ハードマスク90に熱酸化膜を用いる場合、シリコン基板80の両面にハードマスク90が形成されるため、基板面85の反対側の面に、別途保護層を形成する必要がなく、サイクルタイム、歩留まり、製造コストなどの面で好ましい。
【0048】
ハードマスク90は、熱酸化膜に限定されない。例えば、減圧化学気相成長法(LPCVD:Low Pressure Chemical Vapor Deposition)によって形成されたシリコン窒化(LP-SiN)膜を用いることができる。シリコン窒化膜の膜厚は、好ましくは、約60nmである。ハードマスク90にLP-SiN膜を用いる場合も、シリコン基板80の両面にハードマスク90が形成されるため、基板面85の反対側の面に、別途保護層を形成する必要がなく、好ましい。
また、ハードマスク90として、プラズマCVDによって形成されたTEOS(Tetra Eth Oxy Silane)膜、または、HTO(High Temperature Oxide)膜を用いることができる。
【0049】
1.2.3.パターニング工程
ステップS103では、図6に示すように、凹部81を設ける箇所が開口するように、ハードマスク90をフォトリソグラフィー法等によってパターニングする。
【0050】
1.2.4.エッチング工程
ステップS104では、シリコン基板80をエッチングする。
アルカリ溶液をエッチャントとして、シリコン基板80をアルカリ異方性エッチングして、図7に示すように、凹部81とボイド87とを形成する。
本実施形態では、アルカリ溶液として、KOH水溶液を用いる。
【0051】
シリコン基板80のアルカリ異方性エッチングは、KOH水溶液を濃度26wt%および温度85℃の条件で、70分間行った。これによって、シリコン基板80に、約85μmの深さの凹部81とボイド87とが形成された。ボイド87は、ハードマスク90に覆われた接合面86に形成された。なお、ボイド87は、シリコン基板80において、ハードマスク90に覆われた部分の全面に形成される。なお、KOH水溶液の濃度は、濃度26wt%に限定されない。KOH水溶液の濃度は、3~40wt%の範囲であればよい。
【0052】
アルカリ溶液は、NaOH(水酸化ナトリウム)水溶液を用いてもよい。NaOH水溶液を用いてアルカリ異方性エッチングした場合であっても、KOH水溶液を用いた場合と同様に、ボイド87が形成される。
【0053】
1.2.5.ハードマスク除去工程
ステップS105では、図8に示すように、ハードマスク90を除去する。ハードマスク90の除去には、1:5DHF(HF:H2O=1:5、Diluted Hydrofluoric acid)やBHF(Buffered Hydrofluoric acid)を用いることができる。
【0054】
1.2.6.接合工程
次に、ステップS106では、図2に示したように、蓋部8の接合面86と基部2の接合面26とを接合部材89を介して、接合させる。その後、ウエハーを個々のチップに分割して、慣性センサー1が製造される。
【0055】
1.3.ボイドの形成条件
次に、ボイド87の形成条件について、図4A図4B図9図10、および図11を参照して説明する。
図9は、加工条件とボイドの形成の有無との相関を示す表であり、上述したステップS104のシリコン基板80のエッチング工程において使用されたエッチャントおよびハードマスク90の組み合わせと、その組み合わせにおけるボイド87の形成の状況とをまとめた表である。
図10は、ハードマスクとボイドの形成状況との相関を示す表であり、ステップS104のシリコン基板80のエッチング工程において使用されたハードマスク90と、その際に形成されるボイド87の密度およびサイズをまとめた表である。
【0056】
図4A図4B、および図11は、蓋部の接合面を撮影したSEM写真である。図4A図4Bとは、ハードマスク90として熱酸化膜を用いた場合のSEM写真であり、図11は、ハードマスク90としてLP―SiN膜を用いた場合のSEM写真である。
【0057】
ボイド87の形成については、使用するエッチャントとハードマスク90との組み合わせによって、ボイド87が形成される場合と、形成されない場合とがあることが確認されている。さらには、使用するエッチャントとハードマスク90との組み合わせによって、形成されるボイド87の密度やサイズも異なることが確認されている。
したがって、ボイド87を形成するに際しては、使用するエッチャントとハードマスク90とを適切に選択することが要求される。
【0058】
1.3.1.ボイドが形成される場合
1.3.1.1.KOH水溶液、熱酸化膜
エッチャントとしてKOH水溶液およびハードマスク90として熱酸化膜を用いてシリコン基板80のエッチングを行った場合は、ハードマスク90を形成したシリコン基板80の面に、ボイド87が形成されることが確認されている。
図4Aおよび図4Bは、エッチャントとしてKOH水溶液およびハードマスク90として熱酸化膜を用いた場合に形成されたボイド87のSEM写真の一例である。図10に示したボイド87の密度やサイズは、これらのSEM写真を解析して求めた。
【0059】
図10に示したように、ボイド87の密度は、100μm2当たり、およそ50個から300個であり、平均的には、約200個である。ボイド87のサイズは、直径が、およそ0.1μmから0.5μmであり、平均的には、0.2μmである。ボイド87の深さは、およそ直径の半分から同じ程度である。
【0060】
1.3.1.2.KOH水溶液、LP-SiN膜
エッチャントとしてKOH水溶液およびハードマスク90としてLP-SiN膜を用いてシリコン基板80のエッチングを行った場合は、ハードマスク90を形成したシリコン基板80の面に、ボイド87が形成されることが確認されている。
図11は、エッチャントとしてKOH水溶液およびハードマスク90としてLP-SiN膜を用いた場合に形成されたボイド87のSEM写真の一例である。
【0061】
図10に示したように、ハードマスク90としてLP-SiN膜を用いた場合、ハードマスク90として熱酸化膜を用いる場合よりも、形成されるボイド87の密度は大きくなり、形成されるボイド87のサイズは小さくなる傾向にあることがわかる。換言すると、使用するハードマスク90と、形成されるボイド87の密度およびサイズとの間には、相関関係があると言える。
【0062】
ボイド87の密度は、100μm2当たり、およそ500個から3000個であり、平均的には、約1250個である。ボイド87のサイズは、直径が、およそ0.03μmから0.1μmであり、平均的には、0.05μmである。ボイド87の深さは、およそ直径の半分から同じ程度である。
【0063】
1.3.1.3.その他
エッチャントとして、KOH水溶液の代わりにNaOH水溶液を用いても、ボイド87が形成されることが確認されている。この場合、形成されるボイド87の密度およびサイズは、使用するハードマスク90に応じて、同じ傾向のボイド87が形成される。
ハードマスク90を熱酸化膜とLP-SiN膜との積層にしてもよい。この場合、形成されるボイド87の密度とサイズは、シリコン基板80側のハードマスク90に応じて、同じ傾向のボイド87が形成される。
ハードマスク90として、プラズマCVDによって形成されたTEOS膜、または、HTO膜を用いることもできる。この場合にも、ボイド87が形成される。
【0064】
1.3.2.ボイドが形成されない場合
1.3.2.1.KOH水溶液、PE-SiN膜
エッチャントとしてKOH水溶液およびハードマスク90としてプラズマCVDによって形成されたPE-SiN膜を用いてシリコン基板80のエッチングを行った場合は、ハードマスク90で覆ったシリコン基板80の面に、ボイド87が形成されないことが確認されている。
【0065】
1.3.2.2.TMAH水溶液、熱酸化膜またはLP-SiN膜
エッチャントとしてTMAH(Tetramethyl ammonium hydroxide)水溶液およびハードマスク90として熱酸化膜を用いてシリコン基板80のエッチングを行った場合は、ハードマスク90で覆ったシリコン基板80の面に、ボイド87が形成されないことが確認されている。
また、エッチャントとしてTMAH水溶液およびハードマスク90としてPE-SiN膜を用いてシリコン基板80のエッチングを行った場合も、ハードマスク90で覆ったシリコン基板80の面に、ボイド87が形成されないことが確認されている。
【0066】
以上、述べたとおり、本実施形態のMEMSデバイスとしての慣性センサー1の製造方法は、第1基板としての基部2と、基部2に接合される第2基板としての蓋部8を備えた慣性センサー1の製造方法であって、シリコン基板からなる蓋部8を準備する準備工程と、蓋部8の基部2との接合面86を含む基板面85に、ハードマスク90を形成するハードマスク形成工程と、接合面86にハードマスク90が残るように、ハードマスク90の一部を除去するパターニング工程と、蓋部8をアルカリ溶液によって異方性エッチングして、ハードマスク90を除去した箇所に凹部81を形成するとともに、ハードマスク90を介して接合面86にボイド87を形成するエッチング工程と、ハードマスク90を除去するハードマスク除去工程と、蓋部8を基部2に接合する接合工程と、を含む。
【0067】
このように、本実施形態の慣性センサー1の製造方法は、凹部81とボイド87とを同じ工程で形成することができるため、サイクルタイム、歩留まり、製造コストなどを改善することができる。
【0068】
本実施形態の慣性センサー1の製造方法において、ハードマスク90は、蓋部8を加熱処理して形成した熱酸化膜であり、ボイド87は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の密度に形成される。
このように、ハードマスク90に熱酸化膜を用いる場合、シリコン基板80の両面にハードマスク90が形成されるため、基板面85の反対側の面に、別途保護層を形成する必要がなく、サイクルタイム、歩留まり、製造コストなどの面で好ましい。
さらには、ボイド87を、使用するハードマスク90に応じた所望の密度に形成することができる。したがって、蓋部8と基部2との接合強度のバラツキを抑えて、品質の揃った慣性センサー1を製造することができる。
【0069】
本実施形態の慣性センサー1の製造方法において、ボイド87は、0.1μm以上0.5μm以下の直径に形成される。
このように、ボイド87を、使用するハードマスク90に応じた所定の密度および所定のサイズに形成することができる。したがって、蓋部8と基部2との接合強度のバラツキを抑えて、品質の揃った慣性センサー1を製造提供することができる。
【0070】
本実施形態の慣性センサー1の製造方法において、アルカリ溶液は、水酸化カリウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液である。
このように、所定のアルカリ溶液および所定のハードマスク90を用いることで、所定の密度および所定のサイズにボイド87を形成することができる。したがって、蓋部8と基部2との接合強度のバラツキを抑えて、品質の揃った慣性センサー1を提供することができる。
【0071】
本実施形態の慣性センサー1の製造方法において、ハードマスク90は、減圧化学気相成長法により形成されたシリコン窒化膜であり、ボイド87は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の密度に形成される。
このように、ハードマスク90に減圧化学気相成長法により形成されたシリコン窒化膜を用いる場合、シリコン基板80の両面にハードマスク90が形成されるため、基板面85の反対側の面に、別途保護層を形成する必要がなく、サイクルタイム、歩留まり、製造コストなどの面で好ましい。
さらには、ボイド87を、使用するハードマスク90に応じた所定の密度に形成することができる。したがって、蓋部8と基部2との接合強度のバラツキを抑えて、品質の揃った慣性センサー1を製造提供することができる。
【0072】
本実施形態の慣性センサー1の製造方法において、ボイド87は、0.03μm以上0.1μm以下の直径に形成される。
このように、ボイド87を、使用するハードマスク90に応じた所望の密度およびサイズに形成することができる。したがって、蓋部8と基部2との接合強度のバラツキを抑えて、品質の揃った慣性センサー1を製造することができる。
【0073】
本実施形態の慣性センサー1の製造方法は、さらに、アルカリ溶液は、水酸化カリウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液である。
このように、所定のアルカリ溶液および所定のハードマスク90を用いることで、所定の密度および所定のサイズにボイド87を形成することができる。したがって、蓋部8と基部2との接合強度のバラツキを抑えて、品質の揃った慣性センサー1を提供することができる。
【0074】
本実施形態の慣性センサー1は、第1基板としての基部2と、基部2に接合され、シリコン基板からなる第2基板としての蓋部8と、を備え、蓋部8は、基部2側に設けられた凹部81と、凹部81を囲むように設けられ、基部2に接合された接合面86と、接合面86に設けられたボイド87と、を有する。
このように、接合面86にボイド87を備えるため、基部2との接合強度を向上させることができる。
【0075】
本実施形態の慣性センサー1は、さらに、ボイド87の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値である。
このように、ボイド87は、所定の密度に形成されるため、蓋部8と基部2との接合強度を向上させることができる。
【0076】
本実施形態の慣性センサー1は、さらに、ボイド87の直径は、0.1μm以上0.5μm以下である。
このように、ボイド87は、所定の密度および所定のサイズに形成されるため、蓋部8と基部2との接合強度を向上させることができる。
【0077】
本実施形態の慣性センサー1は、さらに、ボイド87の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値である。
このように、ボイド87は、所定の密度に形成されるため、蓋部8と基部2との接合強度を向上させることができる。
【0078】
本実施形態の慣性センサー1は、さらに、ボイド87の直径は、0.03μm以上0.1μm以下である。
このように、ボイド87は、所定の密度および所定のサイズに形成されるため、蓋部8と基部2との接合強度を向上させることができる。
【0079】
本実施形態の慣性センサー1は、さらに、基部2と蓋部8とは、接合面86を介して、金接合、フリット接合、あるいは接着剤により接合されている。
このように、金接合、フリット接合、あるいは接着剤により接合させる場合、接合面86のボイド87内の接合部材が、アンカーとして機能するため、基部2と蓋部8との接合強度を向上させることができる。
【0080】
本実施形態の慣性センサー1は、さらに、基部2は、機能素子としてのセンサー素子3を含み、センサー素子3は、凹部81に対応して設けられる。
基部2と蓋部8との接合強度が向上することで、凹部81により形成される収納空間Sの気密性が向上するとともに、収納空間Sに収容されるセンサー素子3の動作が安定して、慣性センサー1の信頼性を向上させることができる。
【0081】
2.実施形態2
実施形態2に係るMEMSデバイスとしての慣性センサー1について、図12を参照して説明する。
図12は、実施形態2に係る慣性センサーの断面図であり、図2と同様に、図1のA-A線に沿う断面を示す図面である。
実施形態2では、基部2が蓋部8と同様にシリコン基板であること、および、基部2の接合面26にボイド27を有すること以外の構成は、実施形態1と同様である。なお、実施形態1と同じ構成には、同じ符号を付して、説明を省略する。
【0082】
ボイド27は、ボイド87と同様の工程で形成することができる。すなわち、基部2に凹部21を形成する際に、接合面26をハードマスク90で覆っておくことで、接合面26にボイド27を形成することができる。
【0083】
ボイド27内に、接合部材89としての金のスパッタ膜が、形成されることで、ボイド27内の接合部材89がアンカーとして機能するため、基部2と蓋部8と基部2との接合強度を向上させることができる。
【0084】
以上、述べたとおり、実施形態2の慣性センサー1によれば、実施形態1の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
本実施形態の慣性センサー1の製造方法は、第1基板としての蓋部8と、蓋部8に接合される第2基板としての基部2を備えた慣性センサー1の製造方法であって、シリコン基板からなる基部2を準備する準備工程と、基部2の蓋部8との接合面26を含む基板面に、ハードマスク90を形成するハードマスク形成工程と、接合面26にハードマスク90が残るように、ハードマスク90の一部を除去するパターニング工程と、基部2をアルカリ溶液によって異方性エッチングして、ハードマスク90を除去した箇所に凹部21を形成するとともに、ハードマスク90を介して接合面26にボイド27を形成するエッチング工程と、ハードマスク90を除去するハードマスク除去工程と、基部2を蓋部8に接合する接合工程と、を含む。
【0085】
このように、本実施形態の慣性センサー1の製造方法は、凹部21とボイド27とを同じ工程で形成することができるため、サイクルタイム、歩留まり、製造コストなどを改善することができる。
【0086】
本実施形態の慣性センサー1は、第1基板としての蓋部8と、蓋部8に接合され、シリコン基板からなる第2基板としての基部2と、を備え、基部2は、蓋部8側に設けられた凹部21と、凹部21を囲むように設けられ、蓋部8に接合された接合面26と、接合面26に設けられたボイド27と、を有する。
このように、接合面26にボイド27を備えるため、蓋部8との接合強度を向上させることができる。
【0087】
3.実施形態3
次に、図13および図14を参照して、MEMSデバイスとしての慣性センサー1を備えた電子機器としての慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)3000について、説明する。
図13は、本実施形態に係る慣性計測装置の概略構成を示す分解斜視図である。図14は、慣性センサーが実装された回路基板の斜視図である。
【0088】
慣性計測装置3000は、自動車、ロボット、スマートホン、携帯型の活動量計などの被装着装置に搭載され、被装着装置の姿勢や、挙動などを検出する装置として用いられる。
【0089】
図13に示すように、慣性計測装置3000は、アウターケース301、接合部材310、センサーモジュール325を含み、アウターケース301の内部に、接合部材310を介在させて、センサーモジュール325を篏合または挿入した構成となっている。
【0090】
アウターケース301は、外形が直方体で蓋のない箱状の容器であり、その内部に内部空間を有する。アウターケース301の材質は、例えば、アルミニウムである。なお、亜鉛やステンレスなど他の金属や、樹脂、または、金属と樹脂の複合材などを用いても良い。
【0091】
アウターケース301の外形は、平面形状が略正方形の直方体であり、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、それぞれ通し孔302が形成されている。通し孔302は、被装着装置に、慣性計測装置3000を取り付ける際に用いる。
【0092】
センサーモジュール325は、インナーケース320と、回路基板315とから構成されている。
回路基板315には、慣性センサー1が組み込まれた加速度検出ユニット100や外部接続用のコネクター316などが実装されている。
【0093】
インナーケース320は、回路基板315を支持する部材であり、アウターケース301の内部に収まる形状となっている。インナーケース320の厚さ、換言すると、Z軸方向の高さは、アウターケース301の上面から接合面までの高さと、同等か、それよりも、低くなっている。インナーケース320の材質には、アウターケース301と同様の材質を用いることができる。
インナーケース320の下面には、回路基板315との接触を防止するための凹部331やコネクター316を露出させるための開口321が形成されている。
【0094】
図14を参照して、慣性センサー1が実装された回路基板315の構成について説明する。
図14に示すように、回路基板315は、複数のスルーホールが形成された多層基板であり、ガラスエポキシ基板を用いている。なお、ガラスエポキシ基板に限定するものではなく、例えば、コンポジット基板やセラミック基板などのリジット基板を用いても良い。
【0095】
回路基板315の上面には、コネクター316、加速度検出ユニット100、および角速度センサー317x,317y,317zなどが実装されている。
加速度検出ユニット100は、慣性センサー1を搭載し、Z軸方向の加速度を測定するための加速度センサーである。
コネクター316は、プラグ型のコネクターであり、X軸方向に等ピッチで配置された二列の接続端子を備えている。本実施形態では、一列10ピンで二列の合計20ピンの接続端子を備えるが、接続端子の数は、設計仕様に応じて適宜変更しても良い。
【0096】
角速度センサー317zは、Z軸方向における1軸の角速度を検出するジャイロセンサーである。好適例として、水晶を振動子として用い、振動する物体に加わるコリオリの力から角速度を検出する振動ジャイロセンサーを用いている。なお、振動ジャイロセンサーに限定するものではなく、振動子としてセラミックや、シリコンを用いたセンサーを用いても良い。
【0097】
また、回路基板315のX軸方向の側面には、実装面がX軸と直交するように、X軸方向における1軸の角速度を検出する角速度センサー317xが実装されている。同様に、回路基板315のY軸方向の側面には、実装面がY軸と直交するように、Y軸方向における1軸の角速度を検出する角速度センサー317yが実装されている。
【0098】
なお、角速度センサー317x,317y,317zは、X軸、Y軸、Z軸の軸ごとの三つの角速度センサーを用いる構成に限定するものではなく、3軸の角速度が検出可能なセンサーであれば良く、例えば、一つのデバイスまたはパッケージで3軸の角速度が検出可能なセンサーデバイスを用いても良い。
【0099】
加速度検出ユニット100は、Z軸方向の加速度を測定するための加速度センサーであるが、X軸方向またはY軸方向を測定するものであってもよい。また、複数の慣性センサー1を搭載して、二軸方向、例えばZ軸方向とY軸方向、Z軸方向とX軸方向など、あるいは、三軸方向、すなわち、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の加速度を検出するものとしてもよい。
【0100】
回路基板315の下面には、制御部としての制御IC319が実装されている。
制御IC319は、MCU(Micro Controller Unit)であり、不揮発性メモリーを含む記憶部や、A/Dコンバーターなどを内蔵しており、慣性計測装置3000の各部を制御する。記憶部には、加速度、および角速度を検出するための順序と内容を規定したプログラムや、検出データをデジタル化してパケットデータに組込むプログラム、付随するデータなどが記憶されている。なお、回路基板315には、その他にも複数の電子部品が実装されている。
【0101】
このような電子機器としての慣性計測装置3000によれば、慣性センサー1を含む加速度検出ユニット100を用いているため、信頼性を向上させた慣性計測装置3000を提供することができる。
【0102】
以上、述べたとおり、本実施形態のMEMSデバイスとしての慣性センサー1を備えた電子機器としての慣性計測装置3000によれば、実施形態1の効果に加え、信頼性の高い慣性計測装置を提供することができる。
【0103】
上述の実施形態では、慣性センサー1として、加速度の検出機能を有するセンサー素子3を備えた加速度センサーの例を説明したが、慣性センサー1は、これに限定されない。例えば、慣性センサー1は、角速度の検出機能を有する機能素子を備えた角速度センサー、圧力検出機能を有する機能素子を備えた圧力センサー、重量検出機能を有する機能素子を備えた重量センサー、または、これらの機能素子が複合した複合センサーを備えたMEMSデバイスであってもよい。
また、MEMSデバイスは、慣性センサーに限定されない。例えば、機能素子としての振動素子を備えた振動発電デバイス、発振器、周波数フィルターなどであってもよい。
【0104】
また、上述の実施形態では、電子機器として慣性計測装置の例を説明したが、電子機器は、これに限定されない。例えば、電子機器は、スマートホン、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、パーソナルコンピューター、インクジェットプリンター、テレビ、プロジェクター、カーナビゲーションなどであってもよい。
【0105】
以上、好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。また、本発明の各部の構成は、上述の実施形態の同様の機能を発揮する任意の構成に置換でき、また、任意の構成を付加できる。
【符号の説明】
【0106】
1…慣性センサー、2…基部、21…凹部、22…マウント部、23a…溝部、26…接合面、27…ボイド、3…センサー素子、4…固定電極部、41…第1固定電極部、411…懸架部、412…第1固定電極指、412a…第1固定電極指、412b…第1固定電極指、413…支持部、413a…接合部、42…第2固定電極部、421…懸架部、422…第2固定電極指、422a…第2固定電極指、422b…第2固定電極指、423…支持部、423a…接合部、5…可動電極部、51…可動支持部、511…支持部、511a…接合部、512…懸架部、52…可動部、511…支持部、511a…接合部、512…懸架部、53…バネ部、54…バネ部、56…可動電極部、561…第1可動電極部、561a…第1可動電極指、562…第2可動電極部、562a…第2可動電極指、3000…慣性計測装置、c1,c2,c3…コンタクト部、S…収納空間、71,72,73…配線、8…蓋部、80…シリコン基板、81…凹部、82…連通孔、83…封止部材、85…基板面、86…接合面、87…ボイド、89…接合部材、90…ハードマスク、100…加速度検出ユニット、301…アウターケース、302…通し孔、310…接合部材、315…回路基板、316…コネクター、317x,317y,317z…角速度センサー、319…制御IC、320…インナーケース、321…開口、325…センサーモジュール、331…凹部。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
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図8
図9
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図11
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図14