(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132089
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】MEMSデバイスの製造方法、MEMSデバイス、および電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 29/84 20060101AFI20240920BHJP
G01P 15/125 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L29/84 Z
G01P15/125 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042745
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山内 幸夫
【テーマコード(参考)】
4M112
【Fターム(参考)】
4M112AA06
4M112BA07
4M112CA05
4M112DA04
4M112EA03
4M112FA20
(57)【要約】
【課題】接合強度等の不具合を抑制するMEMSデバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】第2シリコン層12Bとシリコン基板19とを備えた振動発電素子1の製造方法であって、第2シリコン層12Bの主面12fの第1領域R1に、ハードマスクHMを用いて凹部162cを形成する工程と、主面12fの第1領域R1とは異なる第2領域R2にシリコン基板19を形成する工程と、を有し、凹部を形成する工程は、第1領域R1と第2領域R2との間の第3領域R3に溝としてのスリット162sを形成する工程と、第1領域R1を露出し、第2領域R2と第3領域R3とを被覆するハードマスクHMを主面12fに形成する工程と、ハードマスクHMを用いて、主面12fをエッチングする工程と、ハードマスクHMを除去する工程と、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とを備えたMEMSデバイスの製造方法であって、
前記第1部材の主面の第1領域に、ハードマスクを用いて凹部を形成する第1工程と、
前記主面の前記第1領域とは異なる第2領域に前記第2部材を形成する第2工程と、を有し、
前記第1工程は、
前記第1領域と前記第2領域との間の前記主面の第3領域に溝を形成する溝形成工程と、
前記第1領域を露出し、前記第2領域と前記第3領域とを被覆する前記ハードマスクを前記主面に形成するハードマスク形成工程と、
前記ハードマスクを用いて、前記主面をエッチングするエッチング工程と、
前記ハードマスクを除去するハードマスク除去工程と、を含む、
MEMSデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記第3領域は、前記溝と前記第1領域との間の第1部分を有し、
前記第1部分には、前記エッチング工程において、ボイドが第1の密度で形成され、
前記第2領域には、前記エッチング工程において、前記ボイドが前記第1の密度より小さい第2の密度で形成される、
請求項1に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記第2の密度は、ゼロ個/100μm2である、
請求項2に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記ハードマスクは、前記第1部材を加熱処理して形成した熱酸化膜であり、
前記第1の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値であり、
前記ボイドの直径は、0.05μmから0.5μmの間の値である、
請求項2に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記ハードマスクは、減圧化学気相成長法により形成されたシリコン窒化膜であり、
前記第1の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値であり、
前記ボイドの直径は、0.01μmから0.1μmの間の値である、
請求項2に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記第1部材と前記第2部材とは、それぞれシリコンからなり、
前記第2工程では、前記第1部材と前記第2部材とを、シリコン-シリコン接合によって接合する、
請求項1に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記MEMSデバイスは、基部と、蓋部と、素子部とを備え、
前記第1工程と前記第2工程とは、前記素子部を形成する工程に含まれる、
請求項1に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項8】
前記MEMSデバイスは、基部と、蓋部と、素子部とを備え、
前記第1工程は、前記蓋部を形成する工程に含まれ、
前記第2工程では、前記蓋部と前記基部とを接合する、
請求項1に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項9】
前記第2部材は、導電性材料からなり、
前記第2工程では、前記第2領域に配線を形成する、
請求項1に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項10】
第1シリコン基板と第2シリコン基板とを備えたMEMSデバイスであって、
前記第1シリコン基板の主面は、
凹部が設けられた第1領域と、
前記第2シリコン基板が接合された第2領域と、
前記第1領域と前記第2領域との間に設けられた溝を有する第3領域と、を有する、
MEMSデバイス。
【請求項11】
前記第3領域は、前記溝と前記第1領域との間の第1部分を有し、
前記第1部分には、ボイドが第1の密度で設けられており、
前記第2領域には、前記ボイドが前記第1の密度より小さい第2の密度で設けられている、
請求項10に記載のMEMESデバイス。
【請求項12】
前記第2の密度は、ゼロ個/100μm2である、
請求項11に記載のMEMSデバイス。
【請求項13】
前記第1の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値であり、
前記ボイドの直径は、0.05μmから0.5μmの間の値である、
請求項11に記載のMEMSデバイス。
【請求項14】
前記第1の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値であり、
前記ボイドの直径は、0.01μmから0.1μmの間の値である、
請求項11に記載のMEMSデバイス。
【請求項15】
第1シリコン基板と、前記第1シリコン基板に設けられた配線とを備えたMEMSデバイスであって、
前記第1シリコン基板の主面は、
凹部が設けられた第1領域と、
前記配線の設けられた第2領域と、
前記第1領域と前記第2領域との間に設けられた溝を有する第3領域と、を有する、
MEMSデバイス。
【請求項16】
請求項10ないし請求項15のいずれか一項に記載のMEMSデバイスを備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSデバイスの製造方法、MEMSデバイス、および当該MEMSデバイスを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造された機能素子としての振動子やセンサー等の素子部を備えたMEMSデバイスがある。
このようなデバイスの製造方法としては、例えば、特許文献1に記載された方法がある。特許文献1には、KOH(水酸化カリウム)水溶液等によってシリコンウエハーを異方性エッチングすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者等による検討の結果、エッチング工程で用いるマスクとしてハードマスクを用いて、KOH水溶液等によって異方性エッチングした場合、ハードマスク下のシリコン基板にボイドが形成される、という知見を得た。このボイドは、接合工程や配線形成工程等の後工程において、不具合の原因となるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願に係る一態様のMEMSデバイスの製造方法は、第1部材と第2部材とを備えたMEMSデバイスの製造方法であって、前記第1部材の主面の第1領域に、ハードマスクを用いて凹部を形成する第1工程と、前記主面の前記第1領域とは異なる第2領域に前記第2部材を形成する第2工程と、を有し、前記第1工程は、前記第1領域と前記第2領域との間の前記主面の第3領域に溝を形成する溝形成工程と、前記第1領域を露出し、前記第2領域と前記第3領域とを被覆する前記ハードマスクを前記主面に形成するハードマスク形成工程と、前記ハードマスクを用いて、前記主面をエッチングするエッチング工程と、前記ハードマスクを除去するハードマスク除去工程と、を含む。
【0006】
本願に係る一態様のMEMSデバイスは、第1シリコン基板と第2シリコン基板とを備えたMEMSデバイスであって、前記第1シリコン基板の主面は、凹部が設けられた第1領域と、前記第2シリコン基板が接合された第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に設けられた溝を有する第3領域と、を有する。
【0007】
本願に係る一態様のMEMSデバイスは、第1シリコン基板と、前記第1シリコン基板に設けられた配線とを備えたMEMSデバイスであって、前記第1シリコン基板の主面は、凹部が設けられた第1領域と、前記配線の設けられた第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に設けられた溝を有する第3領域と、を有する。
【0008】
本願に係る一態様の電子機器は、上記のMEMSデバイスを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1の振動発電素子から第2シリコン層を除去した状態の平面図。
【
図4】可動電極指および第1固定電極指、第2固定電極指の拡大平面図。
【
図5】可動電極指および第1固定電極指、第2固定電極指の拡大断面図。
【
図6A】主面に形成されたボイドを撮影したSEM写真。
【
図6B】主面に形成されたボイドおよびボイドの断面を撮影したSEM写真。
【
図7】振動発電素子の製造工程を説明するフローチャート。
【
図8】
図7の凹部形成工程を説明するフローチャート。
【
図13】ハードマスクとボイドの形成状況との相関を示す表。
【
図18】振動子の製造工程を説明するフローチャート。
【
図21】
図18のフローチャートのSOI基板形成工程を説明するフローチャート。
【
図23】実施形態3に係る電子機器の概略構成を示す分解斜視図。
【
図24】MEMSデバイスが実装された回路基板の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
実施形態1および実施形態2では、MEMSデバイスの例を説明し、実施形態3では、電子機器の例を説明する。なお、実施形態1および実施形態2では、本発明を適用したMEMSデバイスとして、振動発電素子および振動子の例を説明するが、本発明はその他のMEMSデバイス、例えば、加速度、角速度、圧力、重量などの検出機能を有するセンサー素子等にも適用することができる。
【0011】
以下の各図面においては各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがある。
また、以下では、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸およびZ軸とし、X軸に平行な方向を「X軸方向」、Y軸に平行な方向を「Y軸方向」、Z軸に平行な方向を「Z軸方向」とも言う。また、各軸の矢印方向先端側を「プラス側」とも言い、反対側を「マイナス側」とも言う。また、Z軸方向に見ることを「平面視」とも言う。
【0012】
さらに、以下の説明において、例えば、「基部上に設けられる」との記載は、基部の上に接して設けられる場合、基部の上に他の構造物を介して設けられる場合、または基部の上に一部が接して設けられ、一部が他の構造物を介して設けられる場合のいずれかを表すものとする。また、ある構成の上面との記載は、当該構成のZ軸方向プラス側の面、例えば「基部の上面」は、基部のZ軸方向プラス側の面、を示すものとする。また、ある構成の下面との記載は、当該構成のZ軸方向マイナス側の面、例えば「蓋部の下面」は、蓋部のZ軸方向マイナス側の面、を示すものとする。
【0013】
1.実施形態1
1.1.MEMSデバイスの構成
実施形態1に係るMEMSデバイスとしての振動発電素子1の構成について、
図1から
図6Bを参照して説明する。
図1は、実施形態1に係る振動発電素子の平面図である。
図2は、
図1の振動発電素子から第2シリコン層を除去した状態の平面図である。
図3は、
図1中のA-A線断面図である。
図4は、可動電極指および第1固定電極指、第2固定電極指の拡大平面図である。
図5は、可動電極指および第1固定電極指、第2固定電極指の拡大断面図である。
図6Aは、主面に形成されたボイドを撮影したSEM(Scanning Electron Microscope)写真である。
図6Bは、主面に形成されたボイドおよびボイドの断面を撮影したSEM写真である。
【0014】
振動発電素子1は、MEMS技術を活用した振動デバイスであり、外力によって駆動されて発電する静電誘導型の振動発電素子である。この振動発電素子1に電源回路を組み合わせることで、発電装置を構成することができる。
図3に示すように、振動発電素子1は、SOI(Silicon on Insulator)基板12とシリコン基板19との積層体からなる基板を半導体プロセスによってパターニングすることにより製造されている。
【0015】
SOI基板12は、第1シリコン層12Aと第2シリコン層12Bとの間に酸化シリコン層12Cを挿入した基板である。
第2シリコン層12Bの上面には、シリコン基板19が接合されている。
【0016】
図2または
図3に示すように、振動発電素子1は、支持部13、バネ部14、可動部15、可動電極16、第1固定電極17、および第2固定電極18を有する。
可動部15は、バネ部14を介して支持部13に接続されており、バネ部14を弾性変形させつつ支持部13に対してX軸方向に変位する。また、可動部15には、可動電極16が接続されている。支持部13には、第1固定電極17と第2固定電極18とが接続されている。
【0017】
振動発電素子1は、X軸方向の外力を受けると、可動部15がバネ部14を弾性変形させつつX軸方向に振動し、この振動によって可動電極16と第1固定電極17および第2固定電極18との間の容量が変化することで発電する。
【0018】
1.1.1.支持部
支持部13は、SOI基板12とシリコン基板19との積層体から形成されており、平面視で枠状である。
図1に示すように、支持部13は、第1固定電極17が接続された第1固定電極接続領域13Aと、第2固定電極18が接続された第2固定電極接続領域13Bとに分割されており、互いに絶縁されている。また、第1固定電極接続領域13Aには、第1固定電極17と電気的に接続された端子T1が配置されており、第2固定電極接続領域13Bには、第2固定電極18と電気的に接続された端子T2が配置されている。
【0019】
1.1.2.可動部
図2または
図3に示すように、可動部15は、第1シリコン層12Aから形成されており、平面視で、振動発電素子1の中央部に位置している。
【0020】
1.1.3.バネ部
バネ部14は、それぞれX軸方向に弾性変形する2つのバネを有する。一方のバネは、可動部15のX軸方向プラス側に位置し、可動部15のX軸方向プラス側の端部と支持部13とを接続する。他方のバネは、可動部15のX軸方向マイナス側に位置し、可動部15のX軸方向マイナス側の端部と支持部13とを接続する。
バネ部14は、2つのバネで可動部15をX軸方向の両側から支持することにより、可動部15をX軸方向に安定して振動させることができる。
【0021】
1.1.4.可動電極
可動電極16は、第2シリコン層12Bとシリコン基板19との積層体11から形成されている。また、可動電極16は、平面視で、可動部15と重なっている。可動電極16を可動部15に重ねて配置することにより、振動発電素子1の平面寸法を大きくすることなく、可動部15を大きくし、その質量を高めることができる。
【0022】
可動電極16は、マウント部162と可動電極指161とを有する。
マウント部162は、第2シリコン層12Bからなり、酸化シリコン層12Cを介して可動部15に接合される。
【0023】
可動電極指161は、シリコン基板19からなり、その下面がマウント部162に接合され、マウント部162からZ軸方向プラス側へ突出するように設けられる。
図1に示すように、複数の可動電極指161は、行列状に配置され、それぞれ、X軸方向に延在している。複数の可動電極指161は、Y軸方向に沿って櫛歯状に整列してなる列が、X軸方向に3つ並んでいる。
複数の可動電極指161は、マウント部162を介して、互いに電気的に接続されている。また、可動電極指161には、エレクトレット膜ELが形成されている。
【0024】
1.1.5.スリット
図4または
図5に示すように、マウント部162の主面12fには、スリット162sが設けられる。
スリット162sは、マウント部162の主面12fに設けられた溝であり、可動電極指161の周囲を1周するように設けられる。
スリット162sは、第3領域R3に設けられる。ここで、第1領域R1は、マウント部162の主面12fにおいて、凹部162cが設けられた領域である。第2領域R2は、マウント部162の主面12fにおいて、可動電極指161が接合されている領域である。第3領域R3は、第1領域R1と第2領域R2との間の領域である。
本実施形態において第1部材は、第2シリコン層12Bに対応し、第2部材は、シリコン基板19に対応する。また、本実施形態において第1シリコン基板は、SOI基板12に対応し、第2シリコン基板は、シリコン基板19に対応する。
【0025】
1.1.6.ボイド
マウント部162の主面12fには、ボイド162vが形成される。
ボイド162vは、第3領域R3において、スリット162sと凹部162cとの間の部分に形成される。換言すると、ボイド162vは、第3領域R3において、スリット162sと第1領域R1との間の部分に形成される。
図6Aおよび
図6BのSEM写真に示すように、ボイド162vは、小さな穴である。
本実施形態では、ボイド162vのサイズは、直径が、およそ0.2μmであり、深さは、およそ0.2μmである。また、ボイド162vの密度は、およそ200個/100μm
2である。
詳しくは後述するが、ボイド162vは、凹部162cを形成する際に形成される。
【0026】
1.2.MEMSデバイスの製造方法
次に、本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法について、
図7から
図12を参照して説明する。
図7は、MEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法を示すフローチャートである。
図8は、
図7のフローチャートにおいて、凹部162cを形成する凹部形成工程S12の詳細を説明するフローチャートである。
図9Aから
図12は、製造過程における一態様を示す断面図である。
【0027】
図7に示すように、振動発電素子1の製造方法は、SOI基板準備工程S11、凹部形成工程S12、エッチング耐性膜形成工程S13、シリコン基板接合工程S14、パターニング工程S15、およびエレクトレット膜形成工程S16を含む。なお、本実施形態では、凹部形成工程S12が、第1工程に対応し、シリコン基板接合工程S14が第2工程に対応する。
【0028】
1.2.1.SOI基板準備工程
SOI基板準備工程S11では、SOI基板12を準備する。
図9Aに示すように、SOI基板12は、第1シリコン層12Aと第2シリコン層12Bとの間に酸化シリコン層12Cが挿入された基板である。本実施形態において、第2シリコン層12Bの上面が主面12fに対応する。マウント部162は、第2シリコン層12Bから形成される。
なお、第1シリコン層12A、第2シリコン層12B、および酸化シリコン層12Cの厚さは、それぞれ特に限定されないが、例えば、第1シリコン層12Aが300μm程度であり、第2シリコン層12Bが20μm程度であり、酸化シリコン層12Cが10μm程度である。
【0029】
1.2.2.凹部形成工程
凹部形成工程S12では、第2シリコン層12Bの主面12fに凹部162cを形成する。
図8は、凹部形成工程S12の詳細を示すフローチャートである。凹部形成工程S12は、スリット形成工程S121、ハードマスク形成工程S122、パターニング工程S123、エッチング工程S124、およびハードマスク除去工程S125を含む。
【0030】
1.2.2.1.スリット形成工程
スリット形成工程S121では、第2シリコン層12Bの主面12fにスリット162sを形成する。
図9Bに示すように、スリット162sは、有底の溝である。
スリット162sのサイズは、ボイド162vのサイズよりも大きい。好適には、スリット162sのサイズは、深さが2μm以上20μm以下であり、幅が2μm以上20μm以下である。
【0031】
スリット162sは、第3領域R3に形成される。また、スリット162sは、第2領域R2を囲むように形成される。スリット162sによって第2領域R2を囲むことで、第2領域R2にボイド162vが形成されることを回避ないし抑制することができる。
なお、スリット162sは第3領域R3に1つ設けたがこれに限られず、第3領域R3に2以上設けてもよい。この場合、第2領域R2が囲まれるように、2以上のスリット162sを設ける。また、スリット162sの幅は2μm以上20μm以下であることが好ましいが、スリット162sを2以上設ける場合には、2以上のスリット162sの幅の合計が2μm以上20μm以下であってもよい。
【0032】
1.2.2.2.ハードマスク形成工程
ハードマスク形成工程S122では、第2シリコン層12Bの主面12fにハードマスクHMを形成する。
本実施形態において、ハードマスクHMは、第2シリコン層12Bを熱酸化させた熱酸化膜である。熱酸化膜の膜厚は、好ましくは、約1μmである。
ハードマスクHMに熱酸化膜を用いる場合、SOI基板12の下面にもハードマスクHMが形成されるため、SOI基板12の下面に、別途エッチング保護層を形成する必要がなく、サイクルタイム、歩留まり、製造コスト等の面で好ましい。
【0033】
1.2.2.3.パターニング工程
パターニング工程S123では、ハードマスクHMを所定のパターンにパターニングする。
図9Cに示すように、この工程では、第1領域R1のハードマスクHMが除去され、第2領域R2および第3領域R3のハードマスクHMが残るように、ハードマスクHMがパターニングされる。
【0034】
1.2.2.4.エッチング工程
エッチング工程S124では、ハードマスクHMを用いて、第2シリコン層12Bの主面12fをエッチングして、凹部162cを形成する。
図9Dに示すように、この工程において、第1領域R1に凹部162cが形成される。
凹部162cは、第2シリコン層12Bを貫通しない有底の凹部である。凹部162cの深さは、例えば、10μm程度である。
第2シリコン層12Bのエッチングには、KOH水溶液を用いることができる。なお、エッチャントは、KOH水溶液に限定されない。例えば、NaOH(水酸化ナトリウム)水溶液等のアルカリ系のエッチング液を用いることができる。
KOH水溶液を用いた異方性エッチングによって、第2シリコン層12Bの結晶面が表れて、緩やかな傾斜面を有する凹部162cが形成される。
【0035】
凹部162cを形成する際に、ハードマスクHMで覆われた第3領域R3には、ボイド162vが形成される。
ボイド162vは、第3領域R3において、スリット162sと第1領域R1との間の部分に形成される。また、スリット162sで囲まれた第2領域R2では、ボイド162vの形成が回避ないし抑制される。なお、スリット162sを形成しない場合は、第2領域R2にも、第3領域R3と同様のサイズと密度のボイド162vが形成される。
このように、スリット162sを形成することで、第2領域R2において、ボイド162vの形成を制御することができる。
【0036】
1.2.2.5.ハードマスク除去工程
ハードマスク除去工程S125では、第2シリコン層12Bの主面12f上のハードマスクHMを除去する。ハードマスクHMの除去には、1:5DHF(HF:H2O=1:5、Diluted Hydrofluoric acid)やBHF(Buffered Hydrofluoric acid)を用いることができる。
図9Eに示すように、第2領域R2および第3領域R3を覆っていたハードマスクHMが除去される。これによって、第2シリコン層12Bの主面12fに、ボイド162vが露出する。
【0037】
1.2.3.エッチング耐性膜形成工程
エッチング耐性膜形成工程S13では、
図10に示すように凹部162cにエッチング耐性膜ESを形成する。
まず、第2シリコン層12Bの主面12fにエッチング耐性膜ESを成膜し、凹部162cに充填されている部分を残してエッチング耐性膜ESを除去し、第2シリコン層12Bの主面12fを露出させる。
【0038】
エッチング耐性膜ESとしては、酸化シリコン膜を用いることができる。なお、エッチング耐性膜ESは、酸化シリコン膜に限定されない。エッチング耐性膜ESは、後述するシリコン基板19のパターニング工程S15のエッチングに対して十分な耐性を有する材料を用いればよい。
エッチング耐性膜ESの除去方法としては、特に限定されず、例えば、CMP(化学機械研磨)を用いることができる。
【0039】
1.2.4.シリコン基板接合工程
シリコン基板接合工程S14では、
図11に示すように第2シリコン層12Bの主面12fにシリコン基板19を接合する。シリコン基板19の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、300μm程度である。
第2シリコン層12Bとシリコン基板19との接合方法としては、プラズマ接合を用いることができる。プラズマ接合では、接着剤を使用しないでSi(シリコン)面同士を直接結合する。以下、Si面同士の直接接合をシリコン-シリコン接合と称する。
【0040】
第2シリコン層12Bとシリコン基板19とは、第2領域R2および第3領域R3において接合される。
第2シリコン層12Bとシリコン基板19との接合強度は、第2領域R2における接合強度の方が、第3領域R3における接合強度よりも高い。なぜならば、シリコン-シリコン接合は、接合面に高い平坦性が求められるが、接合面となる第2シリコン層12Bの主面12fの第2領域R2には、ボイド162vが形成されないため、高い平坦性を有するからである。
【0041】
1.2.5.パターニング工程
パターニング工程S15では、シリコン基板19をエッチングによりパターニングする。
図12に示すように、シリコン基板19を上面側からエッチングして、可動電極指161、第1固定電極指171、および第2固定電極指181を形成する。この際、エッチング耐性膜ESおよび酸化シリコン層12Cがエッチングストップ層として機能する。
エッチングには、例えば、ドライエッチング、特にRIE(反応性イオンエッチング)を用いることができる。ドライエッチングを用いることにより、高アスペクト比の貫通孔を精度よく形成することができる。
【0042】
なお、パターニング工程S15は、第2シリコン層12Bをパターニングする工程、第1シリコン層12Aをパターニングする工程、エッチング耐性膜ESを除去する工程、および酸化シリコン層12Cを除去する工程を含む。
【0043】
1.2.6.エレクトレット膜形成工程
エレクトレット膜形成工程S16では、
図12に示すように、可動電極指161にエレクトレット膜ELを形成する。
エレクトレット膜ELの形成方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、熱酸化により可動電極指161の表面に酸化シリコン膜を成膜し、次に、この酸化シリコン膜にカリウムイオン等のアルカリ金属イオンをドープし、その後、電界印加して帯電させる方法がある。
【0044】
以上により、振動発電素子1が得られる。
このような製造方法では、SOI基板12とシリコン基板19とを高い強度で接合できる。可動電極指161の剥がれ等の不具合の発生を抑制することができるため、信頼性および耐久性の優れた振動発電素子1を製造することができる。
【0045】
1.3.ハードマスクとボイドの相関について
次に、異方性エッチングを行う際に用いるハードマスクHMと、この際に形成されるボイド162vとの相関について、
図13および
図14を参照して説明する。
第2シリコン層12Bの主面12fに凹部162cを形成する際に使用するハードマスクHMと、ハードマスクMHで覆われた第2シリコン層の主面12fに形成されるボイド162vの密度およびサイズとの間には、相関関係があることが分かっている。
図13は、ハードマスクHMと、形成されるボイド162vとの相関を示す表である。
図14は、主面12fに形成されたボイド162vを撮影したSEM写真である。
【0046】
1.3.1.熱酸化膜
ハードマスクHMとして熱酸化膜を用いて、第2シリコン層12Bの主面12fに凹部162cを形成した場合、ハードマスクHMで覆われた主面12fには、上述した
図6Aおよび
図6Bに示したようなボイド162vが形成される。
ボイド162vの密度は、100μm
2当たり、およそ50個から300個であり、平均的には、約200個である。また、ボイド162vのサイズは、直径が、およそ0.1μmから0.5μmであり、平均的には、0.2μmである。ボイド162vの深さは、およそ直径の半分から同じ程度である。
凹部162cの形成の際に使用するエッチャントは、濃度26wt%のKOH水溶液を用いることができる。なお、KOH水溶液の濃度は、3~40wt%の範囲のものであればよい。また、エッチャントは、NaOH水溶液等のアルカリ系のエッチング液を用いてもよい。
【0047】
1.3.2.シリコン窒化膜
ハードマスクHMとしてLP-SiN(シリコン窒化)膜を用いて、第2シリコン層12Bの主面12fに凹部162cを形成した場合、ハードマスクHMで覆われた主面12fには、
図14に示したようなボイド162vが形成される。
LP-SiN膜は、減圧化学気相成長法(LPCVD:Low Pressure Chemical Vapor Deposition)によって形成する。LP-SiN膜の膜厚は、例えば、約60nmである。
【0048】
ハードマスクHMとして、LP-SiN膜を用いた場合、ハードマスクHMとして熱酸化膜を用いる場合よりも、形成されるボイド162vの密度は大きくなり、形成されるボイド162vのサイズは小さくなる傾向にある。換言すると、使用するハードマスクHMと、形成されるボイド162vの密度およびサイズとの間には、相関関係があると言える。
【0049】
ボイド162vの密度は、100μm2当たり、およそ500個から3000個であり、平均的には、約1250個である。ボイド162vのサイズは、直径が、およそ0.03μmから0.1μmであり、平均的には、0.05μmである。ボイド162vの深さは、およそ直径の半分から同じ程度である。
【0050】
凹部162cの形成の際に使用するエッチャントは、熱酸化膜の場合と同様に、KOH水溶液を用いることができる。なお、エッチャントは、NaOH水溶液等のアルカリ系のエッチング液を用いてもよい。
【0051】
以上、述べたとおり、本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法は、第1部材としての第2シリコン層12Bと第2部材としてのシリコン基板19とを備えた振動発電素子1の製造方法であって、第2シリコン層12Bの主面12fの第1領域R1に、ハードマスクHMを用いて凹部162cを形成する第1工程としての凹部形成工程S12と、主面12fの第1領域R1とは異なる第2領域R2にシリコン基板19を形成する第2工程としてのシリコン基板接合工程S14と、を有し、凹部形成工程S12は、第1領域R1と第2領域R2との間の主面12fの第3領域R3に溝としてのスリット162sを形成する溝形成工程としてのスリット形成工程S121と、第1領域R1を露出し、第2領域R2と第3領域R3とを被覆するハードマスクHMを主面12fに形成するハードマスク形成工程S122と、ハードマスクHMを用いて、主面12fをエッチングするエッチング工程S124と、ハードマスクHMを除去するハードマスク除去工程S125と、を含む。
【0052】
このように、本実施形態の振動発電素子1の製造方法は、第3領域R3にスリット162sを形成した後、主面12fをエッチングするため、第2領域R2にボイド162vが形成されることを回避ないし抑制することができる。したがって、第2シリコン層12Bとシリコン基板19との間の接合強度等に、不具合が生じることを抑制することができる。
【0053】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法において、第3領域R3は、スリット162sと第1領域R1との間の第1部分を有し、第1部分には、エッチング工程S124において、ボイド162vが第1の密度で形成され、第2領域R2には、エッチング工程S124において、ボイド162vが第1の密度より小さい第2の密度で形成される。
【0054】
このように、本実施形態の振動発電素子1の製造方法は、第2領域R2に形成されるボイド162vの密度を小さくすることができる。したがって、ボイド162vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0055】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法において、第2の密度は、ゼロ個/100μm2である。
このように、本実施形態の振動発電素子1の製造方法は、第2領域R2にボイド162vが形成されることを回避することができる。したがって、ボイド162vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0056】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法において、ハードマスクHMは、第1部材としての第2シリコン層12Bを加熱処理して形成した熱酸化膜であり、第1の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値であり、ボイド162vの直径は、0.05μmから0.5μmの間の値である。
【0057】
このように、ハードマスクHMとして熱酸化膜を用いた場合には、第3領域R3には、ボイド162vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド162vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0058】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法において、ハードマスクHMは、減圧化学気相成長法により形成されたシリコン窒化膜であり、第1の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値であり、ボイド162vの直径は、0.01μmから0.1μmの間の値である。
【0059】
このように、ハードマスクHMとしてシリコン窒化膜を用いた場合には、第3領域R3には、ボイド162vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド162vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0060】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法において、第1部材としての第2シリコン層12Bと第2部材としてのシリコン基板19とは、それぞれシリコンからなり、第2領域R2にシリコン基板19を形成する第2工程としてのシリコン基板接合工程S14では、第2シリコン層12Bとシリコン基板19とを、シリコン-シリコン接合によって接合する。
【0061】
第2シリコン層12Bとシリコン基板19とを、シリコン-シリコン接合によって接合する場合、接合面には、高い平坦性が求められる。本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1の製造方法によれば、接合面にボイド162vが形成されることが回避ないし抑制されるので、接合面の平坦性を高くすることができる。したがって、良好なシリコン-シリコン接合を実現できる。
【0062】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1は、第1シリコン基板としてのSOI基板12と第2シリコン基板としてシリコン基板19とを備えた振動発電素子1であって、SOI基板12の主面12fは、凹部162cが設けられた第1領域R1と、シリコン基板19が接合された第2領域R2と、第1領域R1と第2領域R2との間に設けられた溝としてのスリット162sを有する第3領域R3と、を有する。
【0063】
このように、本実施形態の振動発電素子1は、第3領域R3にスリット162sを有するため、第2領域R2にボイド162vが形成されることを回避ないし抑制することができる。したがって、第2シリコン層12Bとシリコン基板19との間の接合強度等に、不具合が生じることを抑制することができる。
【0064】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1において、第3領域R3は、スリット162sと第1領域R1との間の第1部分を有し、第1部分には、ボイド162vが第1の密度で設けられており、第2領域R2には、ボイド162vが第1の密度より小さい第2の密度で設けられている。
【0065】
このように、本実施形態の振動発電素子1は、第2領域R2に設けられるボイド162vの密度を小さくすることができる。したがって、ボイド162vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0066】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1において、第2の密度は、ゼロ個/100μm2である。
このように、本実施形態の振動発電素子1は、第2領域R2にボイド162vが形成されることを回避することができる。したがって、ボイド162vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0067】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1において、第1の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値であり、ボイド162vの直径は、0.05μmから0.5μmの間の値である。
【0068】
このように、第3領域R3には、ボイド162vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド162vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0069】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動発電素子1において、第1の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値であり、ボイド162vの直径は、0.01μmから0.1μmの間の値である。
【0070】
このように、第3領域R3には、ボイド162vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド162vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0071】
2.実施形態2
2.1.MEMSデバイスの構成
実施形態2に係るMEMSデバイスとしての振動子200の構成について、
図15から
図17を参照して説明する。
図15は、実施形態2に係る振動子の平面図である。
図16は、
図15中のB-B線断面図である。
図17は、振動子の蓋部をZ軸方向マイナス側からZ軸方向プラス側に見た平面図である。なお、
図15において、振動子200の内部の構成を説明する便宜上、蓋部6を取り外した状態を図示している。
【0072】
振動子200は、MEMS技術を活用した振動デバイスであり、駆動電圧の印加によって振動する静電駆動型の振動子である。この振動は固有の共振周波数において大きく励起されて、インピーダンスが最小となる。したがって、この振動子200に発振回路を組み合わせることで、共振周波数によって決定される発振周波数で発振する発振器を構成することができる。
【0073】
本実施形態に係る振動子200は、
図15および
図16に示すように、素子部2を気密封止するための蓋部6と、素子部2が形成されたSOI基板3と、を含む。
蓋部6は、単結晶シリコン等で構成され、SOI基板3側に開口する凹部6cからなるキャビティー7を有している。
蓋部6の外周の下面は、SOI基板3の上面に接合されている。蓋部6とSOI基板3との接合面7jは、4つの角部7a,7b,7c,7dを有している。
【0074】
図16および
図17に示すように、蓋部6とSOI基板3との接合面7jには、凹部6cに沿って、溝としてのスリット6sが設けられている。蓋部6の接合面7jにおいて、スリット6sとキャビティー7との間には、ボイド6vが設けられている。なお、
図15では、スリット6sを破線で示している。
【0075】
図16に示すように、SOI基板3は、シリコン層31と、BOX(Buried Oxide)層32と、表面シリコン層33とが、この順で積層された基板である。例えば、シリコン層31および表面シリコン層33は、単結晶シリコンで構成され、BOX層32は、酸化ケイ素(SiO
2等)で構成される。
なお、本実施形態において、蓋部6とSOI基板3との関係では、蓋部6が第1部材に対応し、SOI基板3が、第2部材に対応する。また、表面シリコン層33と配線46との関係では、表面シリコン層33が第1部材に対応し、配線46が第2部材に対応する。
【0076】
図15および
図16に示すように、SOI基板3には、素子部2、素子調整層90、圧電駆動部40、配線46、電極パッド50、貫通電極59、および封止用貫通孔54が設けられている。
【0077】
素子部2は、根元部21と可動部22とを有する。根元部21は、表面シリコン層33とBOX層32とからなり、可動部22は、表面シリコン層33のみからなる。可動部22は、隙間33aによって根元部21以外の周囲の表面シリコン層33から分離されている。
【0078】
表面シリコン層33の上面には、凹部としての隙間33aに沿って、溝としてのスリット33sが設けられている。また、スリット33sと隙間33aとの間には、ボイド33vが設けられている。
【0079】
本実施形態で例示する素子部2は、3つの可動部22を有している。
可動部22に対向する位置のシリコン層31およびBOX層32には、キャビティー8が設けられている。キャビティー7とキャビティー8とは、内部空間を構成し、内部空間に可動部22が設けられる。
【0080】
素子部2の上面には、素子調整層90と、素子調整層90の少なくとも一部を覆う圧電駆動部40と、が設けられている。
素子調整層90は、可動部22の共振周波数の温度特性を補正するために設けられている。シリコンは、温度が高くなるにつれて低下する共振周波数を有しており、一方、シリコン酸化膜は、温度が高くなるにつれて上昇する共振周波数を有している。従って、シリコンの素子部2上にシリコン酸化膜である素子調整層90を配設することにより、素子部2の可動部22と素子調整層90とで構成される複合体の共振周波数の温度特性をフラットに近付けることができる。
【0081】
圧電駆動部40は、ポリシリコン膜41、第1電極42、圧電体層43、および第2電極44を含む。
ポリシリコン膜41は、不純物がドープされていないポリシリコンで構成され、例えば、アモルファスシリコンで構成されても良い。本実施形態において、ポリシリコン膜41は、素子部2上に配設されている素子調整層90を覆うように設けられている。このように、ポリシリコン膜41と素子部2との間に素子調整層90があることによって、ポリシリコン膜41が、圧電駆動部40の周囲のシリコン酸化膜のエッチングから素子調整層90を保護することができる。
【0082】
第1電極42および第2電極44は、圧電体層43を挟むように配設されている。本実施形態においては、3つの可動部22に対応して、3組の第1電極42、圧電体層43および第2電極44が設けられている。
【0083】
配線46は、隣り合う可動部22を逆相で振動させるように、第1電極42および第2電極44に電気的に接続されている。また、複数の配線46は、電極パッド50と電気的に接続されており、2つの電極パッド50間に貫通電極59を介して外部から電圧を印加することにより、隣り合う可動部22を逆相で振動させることができる。
【0084】
2つの電極パッド50を介して、第1電極42と第2電極44との間に電圧が印加されると、それによって圧電体層43が伸縮して可動部22が振動する。
可動部22の振動方向は、平面視と交差する方向である。3つの可動部22において、中央の可動部22が蓋部6方向に変位すると、両端の可動部22は、シリコン層31方向に変位する。逆に、中央の可動部22がシリコン層31方向に変位すると、両端の可動部22は、蓋部6方向へ変位する。
【0085】
このように、本実施形態で例示する素子部2は、隣り合う可動部22が逆相で振動する振動子である。その振動は固有の共振周波数において大きく励起されて、インピーダンスが最小となる。その結果、この振動子200を発振回路に接続することで、主に可動部22の共振周波数によって決定される発振周波数で発振する発振器を構成することができる。
【0086】
なお、これらを構成する材料としては、例えば、圧電体層43は、窒化アルミニウム(AlN)等で構成され、第1電極42および第2電極44は、窒化チタン(TiN)等で構成され、配線46および電極パッド50は、アルミニウム(Al)又は銅(Cu)等の導電部材により形成されている。
【0087】
貫通電極59は、電極用貫通孔52内に配設され、電極層56と電極層58とが積層されて構成されている。貫通電極59は、チタニウム(Ti)やタングステン(W)や銅(Cu)等で構成されており、電極層56はスパッタ法により成膜したスパッタ層で、電極層58はメッキ法により形成されたメッキ層である。
【0088】
2つの貫通電極59は、
図15に示すように、平面視で、蓋部6のキャビティー7の領域で、各々、素子部2を挟み対向する2つの角部7a,7cに接する領域の一部に配設され、つまり、一方の貫通電極59は、素子部2より角部7aに近い領域に、また、他方の貫通電極59は、素子部2より角部7cに近い領域に配設されている。
【0089】
電極パッド50は、平面視で、貫通電極59と重なる位置に配設されており、貫通電極59と重なる位置では、電極用貫通孔52に配設された貫通電極59と、配線46を介して電気的に接続されるよう配設される。また、貫通電極59と重ならない位置では、表面シリコン層33上に素子調整層90、ポリシリコン膜41および配線46を介して配設されている。そのため、電極パッド50と貫通電極59とが電気的に接続され、素子電極である第1電極42および第2電極44を、SOI基板3の素子部2が形成されている側とは反対側の面に引き出すことができる。
【0090】
2.2.MEMSデバイスの製造方法
次に、MEMSデバイスとしての振動子200の製造方法について、
図18から
図22Dを参照して説明する。
図18は、MEMSデバイスとしての振動子200の製造方法を示すフローチャートである。
図19は、
図18のフローチャートにおいて、蓋部形成工程S21の詳細を説明するフローチャートである。
図20Aから
図20Dは、製造過程における一態様を示す断面図である。
図21は、
図18のフローチャートのSOI基板形成工程S22の詳細を説明するフローチャートである。
図22Aから
図22Dは、製造過程における一態様を示す断面図である。
図18に示すように、振動子200の製造方法は、蓋部形成工程S21、SOI基板形成工程S22、接合工程S23、および貫通電極形成工程S24を含む。
【0091】
2.2.1.蓋部形成工程
図19に示すように、蓋部形成工程S21は、準備工程S211、スリット形成工程S212、ハードマスク形成工程S213、パターニング工程S214、エッチング工程S215、およびハードマスク除去工程S216を含む。なお、本実施形態では、蓋部形成工程S21が、第1工程に対応し、接合工程S23が、第2工程に対応する。
【0092】
2.2.1.1.準備工程
準備工程S211では、単結晶シリコン基板からなる蓋部6を準備する。
【0093】
2.2.1.2.スリット形成工程
スリット形成工程S212では、蓋部6の主面6fにスリット6sを形成する。
図20Aに示すように、スリット6sは、主面6fの第3領域R3に形成される。
【0094】
2.2.1.3.ハードマスク形成工程
ハードマスク形成工程S213では、主面6fにハードマスクHMを形成する。ハードマスクHMは、蓋部6を熱酸化させた熱酸化膜である。なお、ハードマスクHMとしてLP-SiN膜を用いてもよい。
【0095】
2.2.1.4.パターニング工程
パターニング工程S214では、ハードマスクHMを所定のパターンにパターニングする。
図20Bに示すように、この工程では、第1領域R1のハードマスクHMが除去され、第2領域R2および第3領域R3のハードマスクHMが残るように、ハードマスクHMがパターニングされる。
【0096】
2.2.1.5.エッチング工程
エッチング工程S215では、ハードマスクHMを用いて、主面6fをエッチングして、凹部6cを形成する。
図20Cに示すように、この工程において、第1領域R1に凹部6cが形成される。
主面6fをエッチングする際のエッチャントには、KOH水溶液を用いることができる。なお、エッチャントは、NaOH水溶液等のアルカリ系のエッチング液を用いてもよい。
【0097】
凹部6cを形成する際に、ハードマスクHMで覆われた第3領域R3に、ボイド6vが形成される。
ボイド6vは、第3領域R3において、スリット6sと第1領域R1との間の部分に形成される。また、第2領域R2では、ボイド6vの形成が回避ないし抑制される。なお、スリット6sを形成しない場合は、第2領域R2にも、ボイド6vが、第3領域R3と同様に形成される。
このように、スリット6sを形成することで、第2領域R2において、ボイド6vの形成を制御することができる。
【0098】
2.2.1.6.ハードマスク除去工程
ハードマスク除去工程S216では、主面6f上のハードマスクHMを除去する。ハードマスクHMの除去には、1:5DHFやBHFを用いることができる。
図20Dに示すように、第2領域R2および第3領域R3を覆っていたハードマスクHMが除去される。これによって、主面6fに、ボイド6vが露出する。
【0099】
2.2.2.SOI基板形成工程
図21に示すように、SOI基板形成工程S22は、準備工程S221、スリット形成工程S222、ハードマスク形成工程S223、パターニング工程S224、エッチング工程S225、ハードマスク除去工程S226、圧電駆動部&配線形成工程S227、キャビティー形成工程S228、および貫通孔形成工程S229を含む。なお、本実施形態では、スリット形成工程S222、ハードマスク形成工程S223、エッチング工程S225、およびハードマスク除去工程S226が第1工程に対応し、圧電駆動部&配線形成工程S227が第2工程に対応する。
【0100】
2.2.2.1.準備工程
準備工程S221では、SOI基板3を準備する。
【0101】
2.2.2.2.スリット形成工程
スリット形成工程S222では、SOI基板3の表面シリコン層33の主面33fにスリット33sを形成する。
図22Aに示すように、スリット33sは、主面33fの第3領域R3に形成される。
【0102】
2.2.2.3.ハードマスク形成工程
ハードマスク形成工程S223では、主面33fにハードマスクHMを形成する。ハードマスクHMは、表面シリコン層33を熱酸化させた熱酸化膜である。なお、ハードマスクHMとしてLP-SiN膜を用いてもよい。
【0103】
2.2.2.4.パターニング工程
パターニング工程S224では、ハードマスクHMを所定のパターンにパターニングする。
図22Aに示すように、この工程では、第1領域R1のハードマスクHMが除去され、第2領域R2および第3領域R3のハードマスクHMが残るように、ハードマスクHMがパターニングされる。なお、本実施形態では、第1領域R1のハードマスクHMは、すべてが除去されるのではなく、一部が残される。
【0104】
2.2.2.5.エッチング工程
エッチング工程S225では、ハードマスクHMを用いて、SOI基板3の主面33fをエッチングして、凹部33cを形成する。
図22Bに示すように、この工程において、第1領域R1に、SOI基板3のBOX層32を露出する凹部33cが形成される。
【0105】
主面33fをエッチングする際のエッチャントには、KOH水溶液を用いることができる。なお、エッチャントは、NaOH水溶液等のアルカリ系のエッチング液を用いてもよい。
【0106】
凹部33cを形成する際に、ハードマスクHMで覆われた第3領域R3に、ボイド33vが形成される。
ボイド33vは、第3領域R3において、スリット33sと第1領域R1との間の部分に形成される。また、第2領域R2では、ボイド33vの形成が回避ないし抑制される。なお、スリット33sを形成しない場合は、第2領域R2にも、第3領域R3と同様にボイド33vが形成される。このように、スリット33sを形成することで、第2領域R2において、ボイド33vの形成を制御することができる。
【0107】
2.2.2.6.ハードマスク除去工程
ハードマスク除去工程S226では、主面33f上のハードマスクHMを除去する。ハードマスクHMの除去には、1:5DHFやBHFを用いることができる。
ハードマスクHMを除去することで、主面33fにボイド33vが露出する。
【0108】
2.2.2.7.圧電駆動部&配線形成工程
圧電駆動部&配線形成工程S227では、主面33fの第2領域R2に圧電駆動部40および配線46を形成する。
この工程では、まず、主面33f上に素子調整層90を形成する。素子調整層90には、表面シリコン層33を露出する溝が形成される。
その後、ポリシリコン膜41を形成して、ポリシリコン膜41を所定のパターンにパターニングする。
【0109】
図22Cに示すように、素子部2の所定の領域に形成されたポリシリコン膜41上に第1電極42、圧電体層43、および第2電極44を、この順でフォトリソグラフィー法により形成することで、圧電駆動部40を形成する。
また、第1電極42および第2電極44を形成する際には、配線46を同時に形成する。その後、配線46上の所定の箇所に、電極パッド50を形成する。
【0110】
このように圧電駆動部40および配線46は、ボイド33vの形成が回避ないし抑制される第2領域R2に設けられるため、圧電駆動部40ないし配線46の形成に形成不良等の不具合が生じることを抑制することができる。
【0111】
2.2.2.8.キャビティー形成工程
キャビティー形成工程S228では、SOI基板3のシリコン層31にキャビティー8となる凹部31cを形成する。
図22Cに示すように、圧電駆動部40、配線46、電極パッド50、および素子調整層90を覆うように、シリコン酸化膜92を形成する。その後、シリコン酸化膜92、素子調整層90、およびBOX層32に設けた開口を介して、シリコン層31にキャビティー8となる凹部31cを形成する。
【0112】
2.2.2.9.貫通孔形成工程
貫通孔形成工程S229では、電極用貫通孔52を形成する。この工程では、電極用貫通孔52の一部を形成する。すなわち、シリコン層31およびBOX層32を貫通して、表面シリコン層33の下面を露出する貫通孔を形成する。なお、封止用貫通孔54の一部もこの工程で形成する。
【0113】
2.2.3.接合工程
接合工程S23では、SOI基板3と蓋部6とを接合する。
SOI基板3と蓋部6とは、いずれもシリコンであり、両者の接合方法としては、プラズマ接合を用いることができる。
SOI基板3と蓋部6とは、第2領域R2および第3領域R3において接合される。SOI基板3と蓋部6との接合強度は、第2領域R2における接合強度の方が、第3領域R3における接合強度よりも高い。
なぜならば、シリコン-シリコン接合には、接合面7jに高い平坦性が求められるが、接合面7jに対応する蓋部6の主面6fの第2領域R2は、ボイド6vが形成されないため、高い平坦性を有するからである。
【0114】
2.2.4.貫通電極形成工程
貫通電極形成工程S24では、貫通電極59を形成する。
まず、
図22Dに示すように、電極用貫通孔52と封止用貫通孔54との底に、ポリシリコン膜41を露出させる。
次に、CVD法によりシリコン層31の表面と、電極用貫通孔52および封止用貫通孔54内とにシリコン酸化膜91を成膜する。その後、ポリシリコン膜41に成膜されたシリコン酸化膜91を除去する。
次に、電極層56となるチタニウム(Ti)やタングステン(W)や銅(Cu)等の金属層をスパッタする。
本工程により、貫通電極59の一部となる電極層56を形成することができる。また、本工程では、電極層56が封止膜として作用し、封止用貫通孔54を塞ぐため、キャビティー7,8で構成される内部空間を真空雰囲気(減圧雰囲気)に封止することができる。
【0115】
次に、貫通電極59の一部となる電極層56の表面にメッキ法等で電極層56に用いた金属層と同等の金属層を積層し貫通電極59の一部となる電極層58を作成する。
次に、SOI基板3の下面を研磨装置等で平坦化加工することで、振動子200が完成する。
【0116】
以上、述べたとおり、実施形態2のMEMSデバイスとしての振動子200によれば、実施形態1の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法は、第1部材としての蓋部6と第2部材としてのSOI基板3とを備えた振動子200の製造方法であって、蓋部6の主面6fの第1領域R1に、ハードマスクHMを用いて凹部6cを形成する第1工程としての蓋部形成工程S21と、主面6fの第1領域R1とは異なる第2領域R2にSOI基板3を形成する第2工程としての接合工程S23と、を有し、蓋部形成工程S21は、第1領域R1と第2領域R2との間の主面6fの第3領域R3に溝としてのスリット6sを形成する溝形成工程としてのスリット形成工程S212と、第1領域R1を露出し、第2領域R2と第3領域R3とを被覆するハードマスクHMを主面6fに形成するハードマスク形成工程S213と、ハードマスクHMを用いて、主面6fをエッチングするエッチング工程S215と、ハードマスクHMを除去するハードマスク除去工程S216と、を含む。
【0117】
このように、本実施形態の振動子200の製造方法は、第3領域R3にスリット6sを形成した後、主面6fをエッチングするため、第2領域R2にボイド6vが形成されることを回避ないし抑制することができる。したがって、蓋部6とSOI基板3との間の接合強度等に、不具合が生じることを抑制することができる。
【0118】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、第3領域R3は、スリット6sと第1領域R1との間の第1部分を有し、第1部分には、エッチング工程S215において、ボイド6vが第1の密度で形成され、第2領域R2には、エッチング工程S215において、ボイド6vが第1の密度より小さい第2の密度で形成される。
【0119】
このように、本実施形態の振動子200の製造方法は、第2領域R2に形成されるボイド6vの密度を小さくすることができる。したがって、ボイド6vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0120】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、第2の密度は、ゼロ個/100μm2である。
このように、本実施形態の振動子200の製造方法は、第2領域R2にボイド6vが形成されることを回避することができる。したがって、ボイド6vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0121】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、ハードマスクHMは、第1部材としての蓋部6を加熱処理して形成した熱酸化膜であり、第1の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値であり、ボイド6vの直径は、0.05μmから0.5μmの間の値である。
【0122】
このように、ハードマスクHMとして熱酸化膜を用いた場合には、第3領域R3には、ボイド6vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド6vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0123】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、ハードマスクHMは、減圧化学気相成長法により形成されたシリコン窒化膜であり、第1の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値であり、ボイド6vの直径は、0.01μmから0.1μmの間の値である。
【0124】
このように、ハードマスクHMとしてシリコン窒化膜を用いた場合には、第3領域R3には、ボイド6vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド6vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0125】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、第1部材としての蓋部6と第2部材としてのSOI基板3とは、それぞれシリコンからなり、第2領域R2にSOI基板3を形成する形成工程としての接合工程S23では、蓋部6とSOI基板3とを、シリコン-シリコン接合によって接合する。
【0126】
蓋部6とSOI基板3とを、シリコン-シリコン接合によって接合する場合、接合面7jには、高い平坦性が求められる。本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法によれば、接合面7jにボイド6vが形成されることが回避ないし抑制されるので、接合面の平坦性を高くすることができる。したがって、良好なシリコン-シリコン接合を実現できる。
【0127】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、振動子200は、基部としてのSOI基板3と、蓋部6と、素子部2とを備え、第1工程は、蓋部6を形成する蓋部形成工程S21に含まれ、形成工程としての接合工程S23では、蓋部6とSOI基板3とを接合する。
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法によれば、蓋部6とSOI基板3との接合強度に不具合が生じることを抑制することができる。
【0128】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200は、第1シリコン基板としての蓋部6と第2シリコン基板としてSOI基板3とを備えた振動子200であって、蓋部6の主面6fは、凹部6cが設けられた第1領域R1と、SOI基板3が接合された第2領域R2と、第1領域R1と第2領域R2との間に設けられた溝としてのスリット6sを有する第3領域R3と、を有する。
【0129】
このように、本実施形態の振動子200は、第3領域R3にスリット6sを有するため、第2領域R2にボイド6vが形成されることを回避ないし抑制することができる。したがって、蓋部6とSOI基板3との間の接合強度等に、不具合が生じることを抑制することができる。
【0130】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200において、第3領域R3は、スリット6sと第1領域R1との間の第1部分を有し、第1部分には、ボイド6vが第1の密度で設けられており、第2領域R2には、ボイド6vが第1の密度より小さい第2の密度で設けられている。
【0131】
このように、本実施形態の振動子200は、第2領域R2に設けられるボイド6vの密度を小さくすることができる。したがって、ボイド6vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0132】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200において、第2の密度は、ゼロ個/100μm2である。
このように、本実施形態の振動子200は、第2領域R2にボイド6vが形成されることを回避することができる。したがって、ボイド6vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0133】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200において、第1の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値であり、ボイド6vの直径は、0.05μmから0.5μmの間の値である。
【0134】
このように、第3領域R3には、ボイド6vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド6vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0135】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200において、第1の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値であり、ボイド6vの直径は、0.01μmから0.1μmの間の値である。
【0136】
このように、第3領域R3には、ボイド6vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド6vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0137】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法は、第1部材としての表面シリコン層33と第2部材としての配線46とを備えた振動子200の製造方法であって、表面シリコン層33の主面33fの第1領域R1に、ハードマスクHMを用いて凹部33cを形成する第1工程と、主面33fの第1領域R1とは異なる第2領域R2に配線46を形成する第2工程としての圧電駆動部&配線形成工程S227と、を有し、第1工程は、第1領域R1と第2領域R2との間の主面33fの第3領域R3に溝としてのスリット33sを形成する溝形成工程としてのスリット形成工程S222と、第1領域R1を露出し、第2領域R2と第3領域R3とを被覆するハードマスクHMを主面33fに形成するハードマスク形成工程S223と、ハードマスクHMを用いて、主面33fをエッチングするエッチング工程S225と、ハードマスクHMを除去するハードマスク除去工程S226と、を含む。
【0138】
このように、本実施形態の振動子200の製造方法は、第3領域R3にスリット33sを形成した後、主面33fをエッチングするため、第2領域R2にボイド33vが形成されることを回避ないし抑制することができる。したがって、配線46に成膜不良等による断線や高抵抗化等の不具合が生じることを抑制することができる。
【0139】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、第3領域R3は、スリット33sと第1領域R1との間の第1部分を有し、第1部分には、エッチング工程S225において、ボイド33vが第1の密度で形成され、第2領域R2には、エッチング工程S225において、ボイド33vが第1の密度より小さい第2の密度で形成される。
【0140】
このように、本実施形態の振動子200の製造方法は、第2領域R2に形成されるボイド33vの密度を小さくすることができる。したがって、ボイド33vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0141】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、第2の密度は、ゼロ個/100μm2である。
このように、本実施形態の振動子200の製造方法は、第2領域R2にボイド33vが形成されることを回避することができる。したがって、ボイド33vに起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0142】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、ハードマスクHMは、第1部材としての表面シリコン層33を加熱処理して形成した熱酸化膜であり、第1の密度は、50個/100μm2から300個/100μm2の間の値であり、ボイド33vの直径は、0.05μmから0.5μmの間の値である。
【0143】
このように、ハードマスクHMとして熱酸化膜を用いた場合には、第3領域R3には、ボイド33vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド33vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0144】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、ハードマスクHMは、減圧化学気相成長法により形成されたシリコン窒化膜であり、第1の密度は、500個/100μm2から3000個/100μm2の間の値であり、ボイド33vの直径は、0.01μmから0.1μmの間の値である。
【0145】
このように、ハードマスクHMとしてシリコン窒化膜を用いた場合には、第3領域R3には、ボイド33vが、所定の密度とサイズで、形成されるが、第2領域R2では、このようなボイド33vの形成を回避ないし抑制することができる。
【0146】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法において、振動子200は、基部としての表面シリコン層33と、蓋部6と、素子部2とを備え、第1工程と第2工程とは、素子部2を形成する工程に含まれる。
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法によれば、素子部2の形成に不具合が生じることを抑制することができる。
【0147】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200において、第2部材としての配線46は、導電性材料からなり、圧電駆動部&配線形成工程S227では、第2領域R2に配線46を形成する。
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200の製造方法によれば、配線46の形成に不具合が生じることを抑制することができる。
【0148】
本実施形態のMEMSデバイスとしての振動子200は、第1シリコン基板としての表面シリコン層33と、表面シリコン層33に設けられた配線46とを備えたMEMSデバイスとしての振動子200であって、表面シリコン層33の主面33fは、凹部33cが設けられた第1領域R1と、配線46の設けられた第2領域R2と、第1領域R1と第2領域R2との間に設けられた溝としてのスリット33sを有する第3領域R3と、を有する。
【0149】
このように、本実施形態の振動子200は、第3領域R3にスリット33sを有するため、第2領域R2にボイド33vが形成されることを回避ないし抑制することができる。したがって、配線46に、不具合が生じることを抑制することができる。
【0150】
3.実施形態3
次に、
図23から
図25を参照して、MEMSデバイスを備えた電子機器について、説明する。
図23は、本実施形態に係るMEMSデバイスを備えた電子機器の概略構成を示す分解斜視図である。
図24は、MEMSデバイスが実装された回路基板の斜視図である。
図25のその他の例に係る電子機器の斜視図である。
【0151】
電子機器3000は、自動車、ロボット、スマートホン、携帯型の活動量計等の被装着装置に搭載される。電子機器3000の好適な例は、例えば、被装着装置に電源を供給する電源装置、被装着装置に基準信号を供給する発振器、被装着装置の姿勢や挙動等を検出する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)である。
【0152】
電子機器3000が発電装置である場合、電子機器3000が備えるMEMSデバイスは、振動発電素子1である。また、電子機器3000が発振器である場合、電子機器3000が備えるMEMSデバイスは、振動子200である。また、電子機器3000が慣性計測装置である場合、電子機器3000が備えるMEMSデバイスは、加速度や角速度の検出機能を有する機能素子である。また、電子機器3000が備えるMEMSデバイスは、圧力検出機能を有する機能素子、重量検出機能を有する機能素子、これらの機能素子を複合した複合機能素子であってもよい。また、電子機器3000は、複数種類の機能素子を備えていてもよい。
【0153】
図23に示すように、電子機器3000は、アウターケース301、接合部材310、モジュール325を含み、アウターケース301の内部に、接合部材310を介在させて、モジュール325を篏合または挿入した構成となっている。
【0154】
アウターケース301は、外形が直方体で蓋のない箱状の容器であり、その内部に内部空間を有する。アウターケース301の材質は、例えば、アルミニウムである。なお、亜鉛やステンレス等の金属や、樹脂、または、金属と樹脂の複合材等を用いても良い。
【0155】
アウターケース301の外形は、平面形状が略正方形の直方体であり、正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、それぞれ通し孔302が形成されている。通し孔302は、被装着装置に、電子機器3000を取り付ける際に用いる。
【0156】
モジュール325は、インナーケース320と、回路基板315とから構成されている。
インナーケース320は、回路基板315を支持する部材であり、アウターケース301の内部に収まる形状となっている。
インナーケース320には、回路基板315との接触を防止するための凹部331やコネクター316にケーブルを接続させる際に使用する開口321が設けられている。
【0157】
図24を参照して、回路基板315の構成について説明する。
回路基板315の上面には、コネクター316、振動発電装置100、発振器500、角速度センサー401,402,403、通信装置600等が実装されている。
【0158】
コネクター316は、プラグ型のコネクターである。振動発電装置100は、振動発電素子1と電源回路を備える。発振器500は、振動子200と発振回路とを備える。角速度センサー401,402,403は、それぞれZ軸方向,Y軸方向,X軸方向における1軸の角速度を検出する検出素子を備えたジャイロセンサーである。
【0159】
回路基板315の下面には、制御部としての制御IC319が実装されている。
制御IC319は、MCU(Micro Controller Unit)であり、不揮発性メモリーを含む記憶部や、A/Dコンバーター等を内蔵しており、電子機器3000の各部を制御する。記憶部には、各種制御プラグラムや付随するデータ等が記憶されている。なお、回路基板315には、その他にも複数の電子部品が実装されている。
【0160】
このような電子機器3000によれば、上述した実施形態に係るMEMSデバイスを用いているため、信頼性を向上させた電子機器3000を提供することができる。
【0161】
また、電子機器は、上述した形態に限定されない。電子機器は、スマートホン、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、パーソナルコンピューター、インクジェットプリンター、テレビ、プロジェクター、カーナビゲーション等であってもよい。
【0162】
図25は、電子機器としてのスマートホン7000の構成の概略を示す斜視図である。
スマートホン7000は、筐体701に、複数の操作ボタン702、受話口705および送話口703、ディスプレイ704が配置されている。このようなスマートホン7000には、例えば、基準クロック等として機能する振動子200を備えた発振器500が内蔵されている。
【0163】
以上、述べたとおり、本実施形態のMEMSデバイスを備えた電子機器3000または電子機器7000によれば、上述した実施形態の効果に加え、信頼性の高い電子機器を提供することができる。
【0164】
以上、好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。また、本発明の各部の構成は、上述の実施形態の同様の機能を発揮する任意の構成に置換でき、また、任意の構成を付加できる。
【符号の説明】
【0165】
1…振動発電素子、6…蓋部、6c…凹部、6f…主面、6s…スリット、6v…ボイド、7…キャビティー、7a,7b,7c,7d…角部、7j…接合面、8…キャビティー、11…積層体、12…SOI基板、12A…第1シリコン層、12B…第2シリコン層、12C…酸化シリコン層、12f…主面、13…支持部、13A…第1固定電極接続領域、13B…第2固定電極接続領域、14…バネ部、15…可動部、16…可動電極、161…可動電極指、162…マウント部、162c…凹部、162s…スリット、162v…ボイド、17…第1固定電極、171…第1固定電極指、18…第2固定電極、181…第2固定電極指、19…シリコン基板、2…素子部、21…根元部、22…可動部、3…SOI基板、31…シリコン層、31c…凹部、32…BOX層、33…表面シリコン層、33a…隙間、33c…凹部、33f…主面、33s…スリット、33v…ボイド、40…圧電駆動部、41…ポリシリコン膜、42…第1電極、43…圧電体層、44…第2電極、46…配線、50…電極パッド、52…電極用貫通孔、54…封止用貫通孔、56…電極層、58…電極層、59…貫通電極、90…素子調整層、91…シリコン酸化膜、92…シリコン酸化膜、100…振動発電装置、200…振動子、301…アウターケース、302…通し孔、310…接合部材、315…回路基板、316…コネクター、319…制御IC、320…インナーケース、321…開口、325…モジュール、331…凹部、401,402,403…角速度センサー、500…発振器、600…通信装置、701…筐体、702…操作ボタン、703…送話口、704…ディスプレイ、705…受話口、3000…電子機器、7000…スマートホン、R1…第1領域、R2…第2領域、R3…第3領域、T1,T2…端子、EL…エレクトレット膜、ES…エッチング耐性膜、HM…ハードマスク。