(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132115
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】中空ガラスまたは中空シリカ含有熱可塑性樹脂組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 71/12 20060101AFI20240920BHJP
C08K 7/20 20060101ALI20240920BHJP
C08K 7/28 20060101ALI20240920BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20240920BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20240920BHJP
C08J 9/32 20060101ALI20240920BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08L71/12
C08K7/20
C08K7/28
C08K5/13
C08L25/04
C08J9/32 CET
C08J3/20 Z CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042786
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】清水 三奈
(72)【発明者】
【氏名】曽山 誠
【テーマコード(参考)】
4F070
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA18
4F070AA52
4F070AB11
4F070AC23
4F070AC28
4F070AC32
4F070AD03
4F070AE02
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4F070FA01
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4F074AA32
4F074AA33
4F074AA77
4F074AA98
4F074AC32
4F074AC34
4F074AD01
4F074AE07
4F074AG02
4F074CB63
4F074CB83
4F074CC04Y
4F074CC04Z
4F074CC22X
4F074CC22Y
4F074DA24
4F074DA47
4J002AC081
4J002BC031
4J002BC041
4J002CH071
4J002DJ016
4J002DL006
4J002EJ027
4J002FA086
4J002FA106
4J002FD206
4J002FD207
4J002GC00
4J002GG01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】中空ガラスや中空シリカが破損せずに均一に分散された成形体を得るための熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】球状体の中空ガラスまたは中空シリカを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂を40~95質量%、(b)中空ガラスまたは中空シリカを0.1~30質量%、および(c)芳香族系の油脂を0.1~30質量%含有する熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状体の中空ガラスまたは中空シリカを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂を40~95質量%、
(b)中空ガラスまたは中空シリカを0.1~30質量%、および
(c)芳香族系の油脂を0.1~30質量%
含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族系の油脂が、常温で150Pa・s以下の液体である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族系の油脂が、少なくとも1つの芳香族環と、芳香族環に結合している少なくとも一つの鎖状炭化水素基とを有している請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族系の油脂が、下記式(2):
【化1】
(式中、Rは炭素数5~18の鎖状炭化水素基)
で表される化合物である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
球状体の中空ガラスまたは中空シリカを含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
成分(a)、(b)および(c):
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂を40~95質量%、
(b)中空ガラスまたは中空シリカを0.1~30質量%、および
(c)芳香族系の油脂を0.1~30質量%
を用意する工程と、
成分(b)と成分(c)をドライ攪拌して、混合物(bc)を調製する工程と、
成分(a)と混合物(bc)をドライ攪拌する工程と
を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記芳香族系の油脂が、常温で150Pa・s以下の液体である請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族系の油脂が、少なくとも1つの芳香族環と、芳香族環に結合している少なくとも一つの鎖状炭化水素基とを有している請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香族系の油脂が、下記式(2):
【化2】
(式中、Rは炭素数5~18の鎖状炭化水素基)
で表される化合物である請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1の熱可塑性樹脂組成物または請求項5の製造方法で製造された熱可塑性樹脂組成物を、ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂の溶融温度以上に加熱して成型する工程を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ガラスや中空シリカを含有する樹脂成形体を製造するための熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子、機械、自動車分野での開発では、高周波に対応した熱可塑性樹脂の開発が進んでいる。電波は周波数が高くなるに従って伝送損失が大きくなるため、損失を抑制する低誘電率材料が求められる。
【0003】
低誘電率の熱可塑性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が知られているが、フッ素化合物であり、人体への悪影響や環境汚染の問題から、その使用に規制がかけられるようになってきた。一方、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂では、安全面や耐熱性や耐衝撃性の面から広く用いられてきているが、誘電率、誘電損失が比較的高く、より一層の低誘電率化が求められている。
【0004】
特許文献1には、低誘電率化、低誘電正接化の目的のために、熱溶融可能な樹脂に微小中空ガラス球状体(本発明の中空ガラスと同義)を含有させた熱溶融可能な樹脂組成物および成形体が開示されている。また、特許文献2には、特定のポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ガラス繊維及び中空ガラスバルーン(本発明の中空ガラスと同義)から成る強化熱可塑性樹脂組成物が記載されている。その他、特許文献3~6にも、熱可塑性樹脂に、添加剤として、中空シリカや中空ガラスを添加しうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-123011号公報
【特許文献2】特開平05-171032号公報
【特許文献3】特開2022-173091号公報
【特許文献4】特開2018-131519号公報
【特許文献5】特開2015-067738号公報
【特許文献6】特開2002-113822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、熱溶融可能な樹脂と中空ガラスとを、ニ-ディング機能付き同方向二軸押出機により溶融混練しているため、一部の中空ガラスが破損し、低誘電率化の効果は低い。特許文献2においても、樹脂成分と、ガラス繊維および中空ガラスとの混合を溶融混練で行っているため、中空ガラスの破損が問題となる。
【0007】
特許文献3、4および6には、前述のとおり中空シリカや中空ガラスの記載はあるが、単に添加剤の一例として記載されているだけで、具体的実施例での中空ガラス等の使用例はなく、熱可塑性樹脂に中空ガラス等を配合する際の適切な組成は開示していない。特許文献5には、熱可塑性樹脂と中空ガラスとをドライ混合することが記載されているが、単に混合するだけでは、中空ガラスが十分均一に分散した成形体を得られない。
【0008】
以上のとおり、従来技術においてポリフェニレンエーテル系樹脂やポリスチレン系樹脂に中空ガラス等を配合する際の適切な組成およびその混合方法は知られていなかった。従って、本発明は中空ガラス等が均一に分散された成形体を得るための熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
球状体の中空ガラスまたは中空シリカを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂を40~95質量%、
(b)中空ガラスまたは中空シリカを0.1~30質量%、および
(c)芳香族系の油脂を0.1~30質量%
含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明の異なる態様は、
球状体の中空ガラスまたは中空シリカを含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
成分(a)、(b)および(c):
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂を40~95質量%、
(b)中空ガラスまたは中空シリカを0.1~30質量%、および
(c)芳香族系の油脂を0.1~30質量%
を用意する工程と、
成分(b)と成分(c)をドライ攪拌して、混合物(bc)を調製する工程と、
成分(a)と混合物(bc)をドライ攪拌する工程と
を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、中空ガラスや中空シリカが破損せずに均一に分散された成形体を得るための熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法を提供することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を使用することで、軽量で低誘電率を有する成形品を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で製造した成形体の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<成分(a):ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂>
<ポリフェニレンエーテル系樹脂>
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、特に限定されず、ポリフェニレンエーテル樹脂および変性ポリフェニレンエーテル樹脂などの各種公知のものを、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる単独重合体、或いは共重合体等が挙げられる。
【0016】
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、アルコキシ基又は置換基を有していても良いアリール基であり、nは繰り返し数である。)
【0017】
一般式(1)で表される単独重合体としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-n-ブチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレン)エーテル等が挙げられる。
【0018】
また共重合体としては、例えば、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体、2,6-ジメチルフェノールとo-クレゾールとの共重合体、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体等が挙げられる。
【0019】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の種々のフェニレンエーテルユニットを部分構造として含んでいてもよい。前記フェニレンエーテルユニットとしては、例えば、2-(ジアルキルアミノメチル)-6-メチルフェニレンエーテルユニットや、2-(N-アルキル-N-フェニルアミノメチル)-6-メチルフェニレンエーテルユニット等が挙げられる。また、上記ポリフェニレンエーテル樹脂の主鎖中にジフェノキノン等が少量結合したものであっても良い。更には、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸及びこれらの酸無水物等やこれら不飽和ジカルボン酸の2個のカルボキシル基のうちの1個または2個がエステルになっているもの、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレン、エポキシ化天然油脂等、アリルアルコール、4-ペンテン-1-オール、1,4-ペンタジエン-3-オールなどの一般式CnH2n-3OH(nは正の整数)の不飽和アルコール、一般式CnH2n-5OH、CnH2n-7OH(nは正の整数)等の不飽和アルコール等によって変性されているポリフェニレンエーテル樹脂であっても良い。これら変性されたポリフェニレンエーテル樹脂は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、上記の変性されたポリフェニレンエーテル樹脂の融点は、示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度-熱流量グラフで観測されるピークのピークトップ温度で定義され、ピークトップ温度が複数ある場合にはその内の最高の温度で定義される。
【0020】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、上記ポリフェニレンエーテル樹脂と共に、芳香族ビニル系重合体、ポリアミド等のポリフェニレンエーテル以外の樹脂成分を含有する樹脂を挙げることができる。芳香族ビニル系重合体としては、例えば、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体およびハイインパクトポリスチレン等が挙げられる。
【0021】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂が、ポリフェニレンエーテル及び芳香族ビニル系重合体を含む混合物である場合、ポリフェニレンエーテルの含有量は、ポリフェニレンエーテルと芳香族ビニル系重合体との合計量に対して、通常70質量%以上であり、好ましくは80質量%以上である。本発明の一実施形態においては、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物(完全相溶系)である変性ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。
【0022】
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の市販品は、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユピエース」(登録商標)、SABIC社製「NORYL」(登録商標)、旭化成(株)製「ザイロン」(登録商標)等が挙げられる。
【0023】
<ポリスチレン系樹脂>
ポリスチレン系樹脂としては、たとえば、ポリスチレン、スチレン/エチレン共重合体、スチレン/プロピレン共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/イソプレン共重合体、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/イソプレン/ブタジエン共重合体、スチレン/マレイン酸誘導体共重合体、スチレン/アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリロニトリル/アクリル酸エステル/スチレン共重合体、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体等(この重合体に不飽和結合が含まれる場合、水素添加された重合体であってもよい。)を挙げることができる。
【0024】
<成分(a)の性状>
ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂は、少なくとも中空ガラス等と混合する際において、粒子状またはペレット状であることが好ましい。平均粒子径は特に限定はされないが、好ましくは1~2000μm、より好ましくは5~1000μm、さらに好ましくは10~700μm、特に好ましくは30~500μm、最も好ましくは50~300μmである。平均粒子径が1μm未満であると、発塵等により作業性が悪くなるばかりでなく、粉体のブロッキング等が発生しやすくなり、成形が困難になることがある。一方、平均粒子径が2000μmを超えると、成形で使用する金型表面に均一に付着することが困難になり、その結果、得られる成形物の表面および裏面の表面性が低下することがある。
【0025】
<成分(b):中空ガラスまたは中空シリカ>
中空ガラスまたは中空シリカは球状粒子であり、平均粒子径として例えば0.1μm~1000μm、好ましくは0.5μm~200μm、より好ましくは1μm~100μmである。また、真密度は0.05~1g/cm3、好ましくは0.1~0.8g/cm3である。
【0026】
中空ガラスまたは中空シリカは、表面処理がされていても良い。表面処理剤としては特に限定されないが、望ましいものとして、例えば、シラン系、チタン系、アルミニウム系、ジルコニウム系などのカップリング剤が挙げられる。
【0027】
<成分(c):芳香族系の油脂>
芳香族系の油脂は、少なくとも1つの芳香族環、好ましくはベンゼン環と、芳香族環に結合している少なくとも一つの鎖状炭化水素基とを有する化合物が好ましい。また、常温(25℃)で液体であり、粘度は、好ましくは常温で150Pa・s(1500ポイズ)以下であり、より好ましくは50Pa・s以下である。
【0028】
芳香族系の油脂の好ましい例としては、式(2):
【0029】
【化2】
(式中、Rは鎖状炭化水素基)
で表される化合物を挙げることができる。Rは好ましくは1~20個、より好ましくは2~20個、さらにより好ましくは5~18個、さらにより好ましくは10~17個、最も好ましくは12~16個の炭素を有する鎖状炭化水素基である。鎖状炭化水素基は、飽和炭化水素基(即ち、アルキル基)であっても不飽和2重結合を有していてもよく、その場合の不飽和二重結合の個数は好ましくは5個以下、より好ましくは3個以下であり、二重結合の位置は任意である。鎖状炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基およびアルカトリエニル基を挙げることができる。鎖状炭化水素基は直鎖構造が好ましい。
【0030】
式(2)においてRの炭素数は成分(a)のポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂との相溶性に関係し、大きすぎても少なく過ぎても樹脂との相溶性が悪くなる。炭素数が前述の好ましい範囲、特に5~18個の場合は、成分(a)のポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂との相溶性がよく、ブリードアウトの発生が少なく、また、粘度が適切であるため中空ガラスの破損を防止できる。
【0031】
式(2)に包含される化合物として、「カルダノール」が知られており、Rの炭素数が5~18個のカルダノールが好ましく、特に上述の好ましい炭素数を有するものがより好ましい。
【0032】
<成分(a)~(c)の混合割合>
成分(a)、成分(b)および成分(c)の混合割合は、目的の誘電率、軽量化等を考慮し、かつ成分(b)が均一に分散するように適宜選択することができる。好ましい1形態では成分(a)が40~95質量%、成分(b)が0.1~30質量%、成分(c)を脂が0.1~30質量%であることが好ましい。それぞれの成分のさらに好ましい範囲は、成分(a)が70~90質量%、成分(b)が1~20質量%、成分(c)が1~15質量%である。尚、質量%は、成分(a)、成分(b)および成分(c)の合計100質量%に対する割合を表す。
【0033】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、
工程1:成分(a)、成分(b)および成分(c)を用意する工程と、
工程2:成分(b)および成分(c)をドライ攪拌して、混合物(bc)を調製する工程と、
工程3:成分(a)と混合物(bc)をドライ攪拌する工程と
を含む。
【0034】
まず工程1で、成分(a)~(c)を用意する際には、成分(a)は、粒子状で予備乾燥された状態で提供され、成分(b)は必要により表面処理された状態で提供される。成分(c)は液状で提供される。
【0035】
工程2で、成分(b)および成分(c)をドライ攪拌して調製された混合物(bc)は、中空ガラスまたは中空シリカの表面が芳香族系の油脂で十分に覆われた状態となるため、工程3で、成分(a)のポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂とドライ混合すると、樹脂成分中における中空ガラスまたは中空シリカの均一性が向上する。
【0036】
ドライ攪拌とは、空気等の気体を媒体にして、粉体を流動させて混合する方法であり、たとえば、ロータリードラムミキサー、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー等の攪拌機を用いて実施することができる。本発明におけるドライ攪拌は、熱可塑性樹脂成分が加熱溶融されることなく、粒子状態で混合されることを意味し、ニーダーのような剪断応力を掛けないことも意味する。そのため、中空ガラスまたは中空シリカを破損することなく均一に分散させることができる。
【0037】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、成分(c):芳香族系の油脂の代わりに可塑剤(成分(c2))を使用することもできる。可塑剤としては、エステル系の可塑剤が好ましく、例えばリン酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、フタル酸エステルのような可塑剤を使用することもできる。
【0038】
<成形および用途>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物および本実施形態により製造された熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種公知の成形法により成形体を製造することができる。具体的には、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、延伸フィルム成形、インフレーション成形、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、プレス成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。中でも、成形は射出成形法により行われることが好ましい。射出成形機としては、超高速射出成形機、射出圧縮成形機等の公知の射出成形機等が挙げられる。
【0039】
成形体は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。また、本発明の成形体は、低誘電特性に優れることから、特に無線LAN、ETC、衛星通信用アンテナや車載レーダーなどの高周波領域に対応した電気・電子部品、自動車部品に有用である。また、インサート成形により金属部品と複合化して使用される成形体(金属複合成形品)に有用であり、この金属複合成形品は、移動用通信機器部品に好適に使用することができる。
【実施例0040】
<実施例1>
まず次の材料を用意した。
熱可塑性樹脂:旭化成株式会社製変性ポリフェニレンエーテル樹脂ザイロン442Z(ポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物)
中空ガラス:3M社製グラスバブルズS4630;平均粒子径20μm、真密度0.46g/cm3)
芳香族系の油脂:カルダノール(カシュー株式会社製カルダノール;粘度255Pa・s、鎖状炭化水素基の炭素数15個)
【0041】
中空ガラス6.75質量%と、カルダノール5質量%を、ロータリードラムミキサー RODM 攪拌機(日東金属工業会社)を使用して、室温にて15分間ドライ攪拌して中空ガラスと油脂の混合物を得た。
【0042】
次に、混合物(中空ガラスと油脂)の全量と、変性ポリフェニレンエーテル樹脂88.25質量%とを、ロータリードラムミキサー RODM 攪拌機(日東金属工業会社)を使用して、室温にて10分間ドライ攪拌して熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0043】
熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機のホッパーに投入し、シリンダ温度320℃、金型温度80℃にて型に注入して成形体を得た。
【0044】
表1に成形体の評価結果を示す。また、
図1に実施例1の成形品の断面写真(ハイロックス社、デジタルマイクロスコープ、50倍)を示す。
尚、表1中の評価は次のように行った。
誘電率の測定は、フリースペース法による電波測定器(キーサイト・テクノロジー社製 ベクトルネットワークアナライズ N5290A)により測定した。
中空ガラスの破損の有無は、試験片の断面を、電子顕微鏡(キーエンス社)を用いて、中空ガラスの破損の有無を確認した。
分散性は成形品の断面写真(ハイロックス社、デジタルマイクロスコープ、50倍)で判断した。
【0045】
<実施例2>
熱可塑性樹脂として、ポリスチレン(PSジャパン社製、グレードHF77)、を用いた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機のホッパーに投入し、シリンダ温度200℃、金型温度50℃にて型に注入して成形体を得た。成形体の評価結果を表1に示す。
【0046】
<比較例1>
変性ポリフェニレンエーテル樹脂88.25質量%、中空ガラス6.75質量%、およびカルダノール5質量%を、ロータリードラムミキサー RODM 攪拌機(日東金属工業会社)を使用して、温度320℃にて混練機により、混練して熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を使用して、実施例1と同様に射出成形により成形体を得た。成形体の評価結果を表1に示す。
【0047】
<比較例2>
比較例2として、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(100質量%)を使用して実施例と同様に射出成形により成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0048】
<比較例3>
比較例1において、熱可塑性樹脂としてポリスチレンを使用した以外は比較例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た後、実施例2と同様に成形体を得た。評価結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
【0051】
(付記1)
球状体の中空ガラスまたは中空シリカを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂を40~95質量%、
(b)中空ガラスまたは中空シリカを0.1~30質量%、および
(c)芳香族系の油脂を0.1~30質量%
含有する熱可塑性樹脂組成物。
【0052】
(付記2)
前記芳香族系の油脂が、常温で150Pa・s以下の液体である付記1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0053】
(付記3)
前記芳香族系の油脂が、少なくとも1つの芳香族環と、芳香族環に結合している少なくとも一つの鎖状炭化水素基とを有している付記1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0054】
(付記4)
前記芳香族系の油脂が、下記式(2):
【0055】
【化3】
(式中、Rは炭素数5~18の鎖状炭化水素基)
で表される化合物である付記3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0056】
(付記5)
球状体の中空ガラスまたは中空シリカを含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
成分(a)、(b)および(c):
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂を40~95質量%、
(b)中空ガラスまたは中空シリカを0.1~30質量%、および
(c)芳香族系の油脂を0.1~30質量%
を用意する工程と、
成分(b)と成分(c)をドライ攪拌して、混合物(bc)を調製する工程と、
成分(a)と混合物(bc)をドライ攪拌する工程と
を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0057】
(付記6)
前記芳香族系の油脂が、常温で150Pa・s以下の液体である付記5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0058】
(付記7)
前記芳香族系の油脂が、少なくとも1つの芳香族環と、芳香族環に結合している少なくとも一つの鎖状炭化水素基とを有している付記5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0059】
(付記8)
前記芳香族系の油脂が、下記式(2):
【0060】
【化4】
(式中、Rは炭素数5~18の鎖状炭化水素基)
で表される化合物である付記7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0061】
(付記9)
付記1の熱可塑性樹脂組成物または付記5の製造方法で製造された熱可塑性樹脂組成物を、ポリフェニレンエーテル系樹脂またはポリスチレン系樹脂の溶融温度以上に加熱して成型する工程を含む、成形体の製造方法。