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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132121
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子、及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N27/41 325D
G01N27/419 327C
G01N27/41 325J
G01N27/419 327J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042794
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガスセンサ出力における温度依存性及び圧力依存性の影響が最小化されたガスセンサ素子等の提供。
【解決手段】ガスセンサ素子30は、固体電解質体311と、排気ガスに含まれる対象ガスを検知する電極と、電極を収容する検出室323と、排気ガスを外部側から検出室323側へ導入するガス導入部315を有するセル340を備える。ガス導入部に含まれる70体積%以上の気孔rは、K/Kの値が、0.001<K/K<0.035の範囲となるように調整された気孔径rを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と、前記固体電解質体上に配置されると共に排気ガスに含まれる対象ガスを検知する1組の電極と、前記1組の電極の少なくとも一方を収容する検出室と、外部と前記検出室とを隔てつつ、前記排気ガスを前記外部側から前記検出室側へ導入する多孔質のガス導入部を有するセルを備えるガスセンサ素子であって、
前記ガス導入部に含まれる70体積%以上の気孔は、以下に示される式(1)で定義されるK/Kの値が、0.001<K/K<0.035の範囲となるように調整された気孔径を備えるガスセンサ素子。
【数1】
上記式(1)中、Mは前記排気ガスに含まれる酸素の分子量であり、Mは前記排気ガスに含まれる窒素の分子量であり、(Σν)は前記酸素の拡散体積であり、(Σν)は前記窒素の拡散体積であり、rは前記気孔径である。
【請求項2】
前記気孔径が、16μm~565μmの範囲である請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ素子を備えるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子、及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関の排気管に取り付けられて、排気管内の排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサが知られている(例えば、特許文献1)。この種の酸素センサとしては、例えば、酸素濃度検出セルと酸素ポンプセルとの間に、排気ガス中の酸素濃度を検出するためのガス検出室を有するガスセンサ素子を備えたものがある。酸素濃度検出セルは、固体電解質体と、それを挟むように配置された一対の電極とを備えており、両電極間に、酸素濃度に応じた起電力が発生する。また、酸素ポンプセルは、固体電解質体と、それを挟むように配置された一対の電極とを備えており、外部からガス検出室内に酸素を汲み入れ、又はガス検出室内から外部へ酸素を汲み出すように機能する。このようなガスセンサ素子では、酸素濃度検出セルの両電極間に生じる起電力と、予め定められた基準電圧(例えば、450mV)とを比較し、その比較結果に基づいて、酸素ポンプセルの両電極間に流す電流(ポンプ電流Ip)の大きさや向きが制御される。酸素センサは、その電流(ポンプ電流Ip)に基づいて、排気ガス中の酸素濃度や空燃比λを算出する。
【0003】
ポンプ電流Ipと、酸素情報(空燃比λ等)との関係は、所定の関係式で表されるため、その関係式と、ポンプ電流Ipとから、酸素情報が求められる。
【0004】
なお、ガス検出室と外部との間には、ガス検出室内に排気ガスを導入する際の導入量(流入量)を規制するための多孔質状のガス導入部(拡散層)が設けられている。ガス導入部は、例えば、連続気泡構造を有するアルミナの多孔質体からなる。このようなガス導入部は、例えば、アルミナ粉末と共に焼失性粉末(カーボン粉末等)を含むペースト状の組成物を、焼成することで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-15533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記関係式は、排気ガスの温度及び圧力が、所定の基準条件(例えば、720℃、1気圧)の場合に基づいて定められている。これに対して、ガスセンサの出力であるポンプ電流Ipは、温度依存性及び圧力依存性を有するため、例えば、温度条件や圧力条件が、前記基準条件からずれてしまうと、前記関係式を利用しても、ポンプ電流Ipから酸素情報(空燃比λ等)を正確に求めることが難しくなる。
【0007】
なお、ガスセンサ出力における温度依存性と圧力依存性とは、互いにトレードオフの関係にあり、何れか一方の依存性が高くなると、残りの一方の依存性が低くなる。
【0008】
従来、ガスセンサ出力における温度依存性及び圧力依存性の影響が最小化されるように、ガスセンサ素子のガス導入部を設計することは行われていなかった。
【0009】
本発明の目的は、ガスセンサ出力における温度依存性及び圧力依存性の影響が最小化されたガスセンサ素子及びガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 固体電解質体と、前記固体電解質体上に配置されると共に排気ガスに含まれる対象ガスを検知する1組の電極と、前記1組の電極の少なくとも一方を収容する検出室と、外部と前記検出室とを隔てつつ、前記排気ガスを前記外部側から前記検出室側へ導入する多孔質のガス導入部を有するセルを備えるガスセンサ素子であって、前記ガス導入部に含まれる70体積%以上の気孔は、以下に示される式(1)で定義されるK/Kの値が、0.001<K/K<0.035の範囲となるように調整された気孔径を備えるガスセンサ素子。
【0011】
【数1】
【0012】
上記式(1)中、Mは前記排気ガスに含まれる酸素の分子量であり、Mは前記排気ガスに含まれる窒素の分子量であり、(Σν)は前記酸素の拡散体積であり、(Σν)は前記窒素の拡散体積であり、rは前記気孔径である。
【0013】
<2> 前記気孔径が、16μm~565μmの範囲である前記<1>に記載のガスセンサ素子。
【0014】
<3> 前記<1>又は<2>に記載のガスセンサ素子を備えるガスセンサ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガスセンサ出力における温度依存性及び圧力依存性の影響が最小化されたガスセンサ素子及びガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態1のガスセンサの概略構成を示す説明図
図2】実施形態1のガスセンサが備えるガスセンサ素子を先端側から見た斜視図
図3図2のA-A線断面図
図4】式(12)において、K/Kが所定値であり、かつ温度が一定(720℃)の条件下の場合に、圧力が1気圧から、他の圧力に変化した際のポンプ電流の変化量(%)を示すグラフ
図5図4に示されるグラフの拡大図
図6】式(12)において、K/Kが所定値であり、かつ圧力が一定(1気圧)の条件下の場合に、温度が720℃から、他の温度に変化した際のポンプ電流の変化量(%)を示すグラフ
図7図6に示されるグラフの拡大図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
実施形態1に係るガスセンサ3を、図1図7を参照しつつ説明する。図1は、実施形態1のガスセンサ3の概略構成を示す説明図であり、図2は、実施形態1のガスセンサ3が備えるガスセンサ素子30を先端側から見た斜視図であり、図3は、図2のA-A線断面図である。
【0018】
ガスセンサ3は、例えば、内燃機関の排気管に取り付けられて、排気管内の排気ガスに含まれる酸素(対象ガス)を検知するために使用される。ガスセンサ3は、リニアラムダセンサ(限界電流方式のセンサ)であり、ガスセンサ制御装置31に対して電気的に接続して使用される。ガスセンサ3は、排気ガスに含まれる酸素濃度に応じた出力(ポンプ電流Ip)を生じる。
【0019】
ガスセンサ3は、ガスセンサ素子30と、そのガスセンサ素子30を内部で保持するハウジング(不図示)とを備えている。本実施形態のガスセンサ素子30は、2セル式であり、後述するように酸素ポンプセル340と、酸素濃度検出セル350とを備えている。
【0020】
ガスセンサ素子30は、図2に示されるように、全体的に細長く延びた板状をなしており、その先端側に、排気ガス中の酸素を検出する検出部が設けられている。ガスセンサ素子30の先端側は、多孔質体からなる保護層Mによって覆われている。なお、保護層Mは、説明の便宜上、図3等において適宜、省略されている。
【0021】
ガスセンサ素子30は、ジルコニアを主体とする固体電解質体311,313と、アルミナを主体とする絶縁基体312,317,318,324とを備える。それらは、何れも細長い板状に形成されており、絶縁基体318、絶縁基体317、固体電解質体313、絶縁基体312、固体電解質体311、及び絶縁基体324の順に積層された構造となっている。
【0022】
固体電解質体311の両面に、白金を主体とする一対の電極319,320がそれぞれ形成されている。また、同様に、固体電解質体313の両面にも一対の電極321.322がそれぞれ形成されている。電極322は、固体電解質体313と絶縁基体317との間で挟まれた状態で埋設されている。
【0023】
絶縁基体312の長手方向の一端側には、固体電解質体311,313を一壁面としつつ、排気ガスを導入可能な中空のガス検出室(検出室)323が形成されている。なお、ガス検出室323は、固体電解質体313と、固体電解質体311との間に形成される。ガス検出室323の幅方向の両端には、ガス検出室323内に排気ガスを導入する際の導入量(流入量)を規制するための多孔質状のガス導入部(拡散層)315が設けられている。ガス導入部315は、ガスセンサ素子30の厚み方向(積層方向)において、固体電解質体313と固体電解質体311との間に介在されている。ガス検出室323は、ガス導入部315に面しており、外部の排気ガスが、ガス導入部315を通過して、ガス検出室323内に導入される。なお、固体電解質体311上の電極320と、固体電解質体313上の電極321とは、ガス検出室323内にそれぞれ露出されている。ガス導入部315の詳細は、後述する。
【0024】
また、絶縁基体317,318の間には、白金を主体とする発熱抵抗体326がそれらに挟まれた状態で埋設されている。絶縁基体317,318及び発熱抵抗体326は、固体電解質体311,313を加熱して活性化させるためのヒータとして機能する。
【0025】
固体電解質体311上の電極319は、その表面がセラミックス(例えば、アルミナ)からなる多孔質性の保護層325によって覆われている。電極319は、排気ガス中に含まれる被毒成分(例えば、シリコン等)によって劣化しないように、保護層325によって保護されている。固体電解質体311上に積層された絶縁基体324は、電極319を覆わないように開口324aが設けられており、その開口324a内に保護層325が配設されている。
【0026】
このように構成されたガスセンサ素子30において、固体電解質体311とその両面に設けられた一対の電極319,320は、外部からガス検出室323内に酸素を汲み入れ、又はガス検出室323から外部へ酸素を汲み出す酸素ポンプセル340として機能する。一対の電極319,320は、固体電解質体311を挟む形で配置されている。一方の電極320は、ガス検出室323に配置され、他方の電極319は、絶縁基体324の開口
324a内に配置されている。本実施形態の場合、酸素ポンプセル340が、排気ガスに含まれる対象ガス(酸素)を検知するセルに該当する。
【0027】
また、固体電解質体313とその両面に設けられた一対の電極321,322は、両電極間の酸素濃度に応じて起電力を発生させる酸素濃度検出セル350として機能する。電極322は、ガス検出室323内の酸素濃度の検出のための基準となる酸素濃度を維持する酸素基準電極(基準室)として機能する。一対の電極321,322は、固体電解質体313を挟む形で配置される。一方の電極321は、ガス検出室323に配置され、他方の電極322は、後述する基準雰囲気に晒される。
【0028】
なお、図3に示されるように、本明細書において、ガスセンサ素子30の幅方向におけるガス導入部315の長さを「L」と表す。また、ガスセンサ素子30の幅方向から見たガス導入部315の断面積を、「S」と表す。
【0029】
次いで、ガスセンサ3の制御に利用されるガスセンサ制御装置31について、説明する。ガスセンサ制御装置31は、マイクロコンピュータ309、及び回路部330を構成主体としている。マイクロコンピュータ309は、CPU306、ROM307、RAM308等を搭載した公知の構成のマイコンチップからなる。なお、ROM307には、CPU306に各処理を実行させるための制御プログラム等が記憶されている。
【0030】
回路部330は、ガスセンサ3を駆動させる回路(例えば、ASIC:Application Specific Integrated Circuit)によって実現される。このような回路部330は、ポンプ電球供給部331、基準電圧生成部332、微小電流供給部333、AD変換部334、PID演算部335、Rpvs演算部336、デューティ演算部337、ヒータ駆動部338を備える。また、回路部330は、酸素ポンプセル340の正極側に電気的に接続されるポンプ電流端子TIp、酸素ポンプセル340の負極側と酸素濃度検出セル350の負極側とに電気的に接続される共通端子TCOM、酸素濃度検出セル350の正極側に電気的に接続される電圧検出端子TVs、ヒータ端子THを備える。
【0031】
基準電圧生成部332は、共通端子TCOMに印加される基準電圧を発生させる。本実施形態において、基準電圧は、2.7Vである。微小電流供給部333は、電圧検出端子TVsを介して酸素濃度検出セル350の電極322に接続されている。微小電流供給部333は、電圧検出端子TVsを介して酸素濃度検出セル350に微小電流Icpを供給することにより、電極322側に酸素イオンを移動させて基準となる基準雰囲気(酸素分圧:約2atm)を生成する。これにより、電極322は、排気ガス中の酸素濃度を検出するための基準となる酸素基準電極として機能する。また、微小電流供給部333は、酸素濃度検出セル350の内部抵抗値を検出するためのパルス電流Irpvsを、電圧検出端子TVsを介して酸素濃度検出セル350に供給する。微小電流供給部333は、微小電流Icp及びパルス電流Irpvsを常時供給するのではなく、マイクロコンピュータ309からの指令に基づいて、微小電流Icp及びパルス電流Irpvsを、それぞれ適切な時期に供給する。
【0032】
ポンプ電流供給部331は、ポンプ電流端子TIpを介して、酸素ポンプセル340の電極319に接続されている。ポンプ電流供給部331は、酸素ポンプセル340に大きさ及び向きが調整されたポンプ電流Ipを供給する。
【0033】
AD変換部334は、電圧検出端子TVsから入力されるアナログ信号の電圧値をデジタル信号へ変換し、PID演算部335とRpvs演算部336とに出力する。
【0034】
PID演算部335は、AD変換部334から入力されるデジタル信号に基づいて、電圧検出端子TVsにおける電圧と、共通端子TCOMにおける電圧との電圧差が、予め設定された目標電圧(例えば、450mV)となるように、ポンプ電流Ipを調整するフィードバック制御を行う。PID演算部335は、前記電圧差が、前記目標電圧となるように、PID(Proportional-Integral-Differential)演算を行うと共に、PID演算で得られた結果(デジタル信号の電流値)を、ポンプ電流供給部331へ出力する。なお、ポンプ電流供給部331は、PID演算部335から入力されるデジタル信号の電流値を、ポンプ電流Ipに変換して、上記のように、酸素ポンプセル340にポンプ電流Ipを供給する。
【0035】
Rpvs演算部336は、微小電流供給部333がパルス電流Irpvsを供給しているときにAD変換部334から入力されるデジタル信号に基づいて、酸素濃度検出セル350の内部抵抗値Rpvsを算出するための演算を実行し、この内部抵抗値Rpvsを示すデジタル信号をデューティ演算部337へ出力する。
【0036】
デューティ演算部337は、Rpvs演算部336から入力されるデジタル信号に基づいて、ガスセンサ素子30の温度を予め設定された目標温度(例えば、720℃)に維持するために必要な発熱抵抗体326の発熱量を算出する。そしてデューティ演算部337は、算出した発熱抵抗体326の発熱量に基づいて、発熱抵抗体326に供給する電力のデューティ比を算出し、算出したデューティ比に応じたPWM(Pulse Width Modulation)制御信号をヒータ駆動部338へ出力する。ヒータ駆動部338は、デューティ演算部337から入力されるPWM制御信号に基づいて、発熱抵抗体326の両端に供給される電圧VhをPWM制御して、発熱抵抗体326を発熱させる。
【0037】
マイクロコンピュータ309のCPU306は、ROM307に記憶されたプログラムに基づいて、ガスセンサ素子30を制御する処理を実行する。例えば、CPU306は、予め設定された取得周期(例えば、10ms)が経過する毎に、回路部330から、ポンプ電流Ipの流れる向き及びポンプ電流Ipの大きさに関する値を示すデジタルデータを取得する。
【0038】
以上のようなガスセンサ3を使用して、排気ガスに含まれる酸素の濃度情報(空燃比λ)が得られる。なお、空燃比は、通常、空気とガソリンとの混合比(質量比)を指すが、本明細書では、空気過剰率λ(=実際の空燃比/理論空燃比)を空燃比と称し、空燃比λ=1が理論空燃比を示すものとする。
【0039】
本実施形態のガスセンサ3は、ガスセンサ出力(ポンプ電流Ip)における温度依存性及び圧力依存性の影響が最小化されるように、ガスセンサ素子30のガス導入部(拡散層)315内に含まれる気孔が最適化されている。ガス導入部315は、アルミナ、ジルコニア等のセラミックを主成分として含有する多孔質体であり、内部に多数の気孔(気泡)を含んでいる。ガス導入部315は、連続気泡構造であり、ガス透過性である。
【0040】
このような本実施形態のガス導入部315に含まれる70体積%以上の気孔は、以下に示される式(1)で定義されるK/Kの値が、0.001<K/K<0.035の範囲となるように調整された気孔径rを備える。
【0041】
【数2】
【0042】
上記式(1)中、Mは排気ガスに含まれる酸素(拡散溶質)の分子量であり、Mは排気ガスに含まれる窒素(拡散溶媒)の分子量であり、(Σν)は酸素の拡散体積であり、(Σν)は窒素の拡散体積であり、rはガス導入部(拡散層)315の気孔径である。
【0043】
は、ガス導入部315をガスが拡散(分子拡散)するときの分子拡散係数Dの比例係数である。ガス導入部315の気孔径が酸素の平均自由行程より大きい場合、酸素はガス導入部315が無い場合と同じように分子間で衝突しながら拡散する(分子拡散)。分子拡散係数Dは、以下に示される式(2)で表される。
【0044】
【数3】
【0045】
式(2)中、Mは酸素(拡散溶質)の分子量であり、Mは窒素(拡散溶媒)の分子量であり、(Σν)は酸素の拡散体積であり、(Σν)は窒素の拡散体積であり、Tは温度であり、Pは圧力(全圧)である。この式(2)中の比例係数部分がKとなる。つまり、Kは、以下に示される式(3)で表される。
【0046】
【数4】
【0047】
また、Kは、ガス導入部(拡散層)315をガスが拡散(クヌーセン拡散)するときのクヌーセン拡散係数Dの比例係数である。ガス導入部315の気孔径が酸素の平均自由行程より小さい場合、酸素分子間の衝突よりも気孔壁との衝突が支配的になる(所謂、クヌーセン拡散)。クヌーセン拡散係数Dは、以下に示される式(4)で表される。
【0048】
【数5】
【0049】
式(4)中、rはガス導入部(拡散層)315の気孔径であり、Tは温度であり、Mは酸素(拡散溶質)の分子量である。この式(4)中の比例係数部分がKとなる。つまり、Kは、以下に示される式(5)で表される。
【0050】
【数6】
【0051】
以上のようなKとKとで表されるパラメータ(K/K)は、ガス導入部(拡散層)315内をガスが拡散するときの分子拡散とクヌーセン拡散の2種類の複合具合を表したパラメータである。上記(1)式に示されるように、K/Kは、ガス導入部315の気孔径rに依存するパラメータである。なお、本実施形態において、上記(1)式で表されるK/Kは、排気ガスがリーン状態の場合のものである。
【0052】
このようなパラメータ(K/K)は、ガスセンサ3の出力(ポンプ電流Ip)の温度依存性及び圧力依存性を表したパラメータでもある。以下、その理由を説明する。
【0053】
ガスセンサ3が備える酸素ポンプセル340の電極319,320間を流れるポンプ電流Ipは、以下に示される理論式(6)で表される。
【0054】
【数7】
【0055】
式(6)におけるFはファラデー定数[C/mol]、Rは気体定数[J/K/mol]、Tは絶対温度[K]、DO2はガス導入部(拡散層)315における酸素の拡散係数[m/s]、Sはガス導入部315の断面積[m]、Lはガス導入部315の長さ[m]、Peは酸素分圧[Pa]、Pは排気ガスの全圧[Pa]である。
【0056】
実際のガス導入部315における拡散は、分子拡散と、クヌーセン拡散とが複合したものと考えられる。そのため、DO2は、以下に示される式(7)で表される。
【0057】
【数8】
【0058】
式(7)におけるDは分子拡散係数であり、Dはクヌーセン拡散係数である。
【0059】
分子拡散係数Dは、上記式(2)及び式(3)より、以下に示される式(8)により表される。
【0060】
【数9】
【0061】
また、クヌーセン拡散係数Dは、上記式(4)及び式(5)より、以下に示される式(9)により表される。
【0062】
【数10】
【0063】
上記式(7)、式(8)及び式(9)より、DO2は、以下に示される式(10)で表される。
【0064】
【数11】
【0065】
得られた式(10)より、上記理論式(6)は、以下に示される式(11)で表される。
【0066】
【数12】
【0067】
ここで、基準となる状態1(温度T、酸素分圧P、圧力(全圧)P)において、ガスセンサ3が備える酸素ポンプセル340の電極319,320間を流れるポンプ電流Ipを、「Ip」とする。また、状態1に対して、温度条件及び圧力条件が異なる状態2(温度T、酸素分圧Pe、圧力(全圧)P)におけるポンプ電流Ipを、「Ip」とする。温度条件及び圧力条件が、状態1から状態2へ変化した場合におけるポンプ電流Ipの変化量ΔIpは、式(11)を用いると、以下に示される式(12)で表される。なお、排気ガス雰囲気は一定であるため、P/P=P/Pである。
【0068】
【数13】
【0069】
式(12)を変形すると、K/Kは、以下に示される式(13)で表される。
【0070】
【数14】
【0071】
式(13)で表されるように、K/Kは、状態1及び状態2の各条件(T、T、P、P、Ip、Ip)により定められる値である。このような式(13)より、K/Kが、ガスセンサ3の出力(ポンプ電流Ip)の温度依存性及び圧力依存性を表したパラメータであることが分かる。
【0072】
/Kの値が、0.001<K/K<0.035の範囲であると、上記式(12)で示されるポンプ電流Ipの変化量ΔIp(%)が、±15%以内となり、温度依存性及び圧力依存性の影響が最小化される。
【0073】
上述したように、K/Kは、ガス導入部315の気孔径rに依存するパラメータであるため(式(1)参照)、気孔径rの値を適宜、調整することで、K/Kの値を、0.001<K/K<0.035の範囲に設定することができる。
【0074】
ここで、図4及び図5を参照しつつ、K/Kの上限値について説明する。図4は、式(12)において、K/Kが所定値であり、かつ温度が一定(720℃)の条件下の場合に、圧力が1気圧から、他の圧力に変化した際のポンプ電流Ipの変化量ΔIp(%)を示すグラフであり、図5は、図4に示されるグラフの拡大図である。
【0075】
図4及び図5には、K/Kの値が、0.001(c)、0.035(a)、0.0005(d)、又は0.04(b)である4つのグラフが示されている。図4及び図5に示されるように、温度が一定の場合(つまり、T=720℃、T=720℃)において、圧力が1気圧(P)から、他の圧力(P)に変化した際のポンプ電流Ipの変化量ΔIp(%)は、K/Kの値が大きい程、大きくなる(つまり、圧力依存性が大きくなる)。これに対して、K/Kの値が小さいと、変化量ΔIp(%)が非常に小さくなる(つまり、圧力依存性が非常に小さくなる)。本実施形態の場合、図5に示されるように、K/Kの値が0.035の場合のグラフにおいて、圧力Pが80kPaの場合に、変化量ΔIpが-15%となる。
【0076】
次いで、図6及び図7を参照しつつ、K/Kの下限値について説明する。図6は、式(12)において、K/Kが所定値であり、かつ圧力が一定(1気圧)の条件下の場合に、温度が720℃から、他の温度に変化した際のポンプ電流Ipの変化量ΔIp(%)を示すグラフであり、図7は、図6に示されるグラフの拡大図である。
【0077】
図6及び図7には、K/Kの値が、0.001(c)、0.035(a)、0.0005(d)、又は0.04(b)である4つのグラフが示されている。図6及び図7に示されるように、圧力が一定の場合(つまり、P=1気圧、P=1気圧)において、温度が720℃(T)から、他の温度(T)に変化した際のポンプ電流Ipの変化量ΔIp(%)は、K/Kの値が小さいきい程、大きくなる(つまり、温度依存性が大きくなる)。これに対して、K/Kの値が大きいと、変化量ΔIp(%)が非常に小さくなる(つまり、温度依存性が非常に小さくなる)。本実施形態の場合、図7に示されるように、K/Kの値が0.001の場合のグラフにおいて、温度Tが950℃aの場合に、変化量ΔIpが15%となる。
【0078】
このようなK/Kの値の範囲(0.001<K/K<0.035)に対応した、ガス導入部315の気孔径rは、上記式(1)より、16μm~565μmの範囲となる。
【0079】
したがって、本実施形態のガスセンサ素子30のガス導入部315に含まれる70体積%以上の気孔は、16μm~565μmの範囲に調整されている。
【0080】
次いで、本実施形態のガスセンサ素子30の製造方法を説明する。ガスセンサ素子30のうち、ガス導入部(拡散部)315以外の構成については、従来と同様であり、複数のグリーンシート等を積層した積層物を焼成する、公知の製造方法により製造される。そのため、ここでは、ガス導入部(拡散部)315の製造方法についてのみ説明する。
【0081】
ガス導入部315は、例えば、主成分としてアルミナ粉末を含有すると共に、焼成時に焼失する所定量の焼失性粉末(例えば、カーボン粉末)等を含有する組成物からなる所定形状の未焼成導入部を、前記積層物の所定箇所に配置した状態で焼成することで得られる。
【0082】
ガス導入部315内に形成される気孔は、焼成時に、焼失性粉末が焼失した痕(焼失痕)として形成される。そのため、使用する焼失性粉末の粒径や、焼失性粉末の含有量を、適宜、調整することで、ガス導入部315に含まれる70体積%以上の気孔を、16μm~565μmの範囲に設定することができる。
【0083】
なお、ガス導入部315の気孔率(%)は、30以上60以下の範囲が好ましい。気孔率は、ガス導入部315と同じ条件で作製した試験体について、JIS R1655に規定される水銀圧入法に従って気孔径分布を測定し、測定した気孔径分布を用いて算出できる。
【0084】
また、ガス導入部315と同じ条件で作製した試験体について、気孔径に対する対数微分気孔体積の分布を測定し、測定した対数微分気孔体積分布を用いて、70体積%以上の気孔の気孔径が、16μm~565μmの範囲であることを確認できる。
【0085】
以上のように、ガス導入部315を備えた本実施形態のガスセンサ素子30は、ガスセンサ出力であるポンプ電流Ipの温度依存性及び圧力依存性の影響が最小化されている。そのため、本実施形態のガスセンサ素子30を備えたガスセンサ3を用いると、ポンプ電流Ipを、所定の関係式(ポンプ電流Ipと空燃比λとの関係式)を使用して空燃比λに変換する際に、その変換精度が向上する。したがって、本実施形態のガスセンサ3(ガスセンサ素子30)を使用すれば、精度の高い空燃比λの情報(酸素の濃度情報)が得られる。
【0086】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
(1)上記実施形態では、2セル式のガスセンサ素子を含むガスセンサを利用したが、他の実施形態においては、公知の1セル式のガスセンサ素子を含むガスセンサを利用してもよい。
【0088】
(2)他の実施形態においては、ガス導入部に含まれる70体積%以上の気孔について、排気ガスがリッチ状態の場合におけるK/Kの値が、所定の範囲となるように調整された気孔径を備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
3…ガスセンサ、30…ガスセンサ素子、31…ガスセンサ制御装置、331…固体電解質体、319,320…電極、315…ガス導入部、323…検出室(ガス検出室)、340…セル(酸素ポンプセル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7