(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132130
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】金属超微粉の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/145 20220101AFI20240920BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20240920BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20240920BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240920BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240920BHJP
B22F 9/28 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B22F1/145
C22B23/02
C22B15/00 103
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/05
B22F9/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042806
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】塩川 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 敢
【テーマコード(参考)】
4K001
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001AA19
4K001DB19
4K001DB23
4K017AA03
4K017AA04
4K017BA01
4K017BA03
4K017BA05
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB16
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EK03
4K017FB05
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4K018BA02
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC08
4K018BC09
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】洗浄時において凝集体の形成が抑制される金属超微粉の洗浄方法を提供すること。
【解決手段】金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られる金属超微粉をpHが3.0~6.0の緩衝液を用いて洗浄し、緩衝液を用いて洗浄した金属超微粉をさらにpH10.0未満の液体を用いて洗浄する、金属超微粉の洗浄方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られる金属超微粉をpHが3.0~6.0の緩衝液を用いて洗浄し、前記緩衝液を用いて洗浄した前記金属超微粉をさらにpH10.0未満の液体を用いて洗浄する、金属超微粉の洗浄方法。
【請求項2】
前記金属超微粉が、ニッケル超微粉、ニッケル合金超微粉、銅超微粉、および、銅合金超微粉からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の金属超微粉の洗浄方法。
【請求項3】
前記金属超微粉の個数基準のメジアン径D50が、0.05~0.25μmである、請求項1または2に記載の金属超微粉の洗浄方法。
【請求項4】
前記緩衝液が、前記金属超微粉に含まれる金属の金属イオンとキレート錯体を形成可能な成分を含む、請求項1または2に記載の金属超微粉の洗浄方法。
【請求項5】
前記緩衝液が、クエン酸-クエン酸ナトリウム水溶液、酒石酸-酒石酸ナトリウム水溶液、コハク酸-コハク酸ナトリウム水溶液、および、グルタミン酸-グルタミン酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される、請求項1または2に記載の金属超微粉の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粉の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属超微粉は、種々の用途に用いられている。例えば、金属超微粉は、電子部品の材料(例えば、セラミックコンデンサの内部電極の材料)、磁気デバイスの材料、および、回路材料等として用いられている。
このような金属超微粉においては、近年の電子デバイス等の小型化および高集積化に伴い、更なる微粒化、および、より高い信頼性が求められている。
【0003】
金属超微粉の製造方法としては、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元する方法が知られている。上記方法では、得られる金属超微粉にハロゲンが残留していることが知られている。このため、従来、得られる金属超微粉を洗浄する処理が行われてきた。例えば、特許文献1には、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られる金属粉を、有機酸を含む水溶液を用いて洗浄する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、近年では、金属超微粉の更なる微粒化が求められている。
本発明者らが近年求められる水準の金属超微粉に対して、有機酸を含む水溶液を用いた洗浄の適用を検討したところ、洗浄時に金属超微粉が凝集するという問題が生じた。洗浄時に金属超微粉が凝集して形成された凝集体は、その後の工程で完全に解砕することが困難であった。
金属超微粉に凝集体が含まれると、後に実施する分級工程での分級歩留の低下を引き起こすこともあり、凝集体の形成の抑制が望まれていた。また、金属超微粉に凝集体が含まれる場合、セラミックコンデンサの薄層化した内部電極の形成時に電極同士を短絡させ、製品不良の原因となり得るため、近年求められる品質水準を充足しないことがあった。
【0006】
そこで、本発明は、洗浄時において凝集体の形成が抑制される金属超微粉の洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定のpHの緩衝液を用いて洗浄後、さらに所定のpHの液体を用いて洗浄すると、凝集体の形成が抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
【0008】
〔1〕 金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られる金属超微粉をpHが3.0~6.0の緩衝液を用いて洗浄し、上記緩衝液を用いて洗浄した上記金属超微粉をさらにpH10.0未満の液体を用いて洗浄する、金属超微粉の洗浄方法。
〔2〕 上記金属超微粉が、ニッケル超微粉、ニッケル合金超微粉、銅超微粉、および、銅合金超微粉からなる群から選択される1種以上である、〔1〕に記載の金属超微粉の洗浄方法。
〔3〕 上記金属超微粉の個数基準のメジアン径D50が、0.05~0.25μmである、〔1〕または〔2〕に記載の金属超微粉の洗浄方法。
〔4〕 上記緩衝液が、上記金属超微粉に含まれる金属の金属イオンとキレート錯体を形成可能な成分を含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の金属超微粉の洗浄方法。
〔5〕 上記緩衝液が、クエン酸-クエン酸ナトリウム水溶液、酒石酸-酒石酸ナトリウム水溶液、コハク酸-コハク酸ナトリウム水溶液、および、グルタミン酸-グルタミン酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の金属超微粉の洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、洗浄時において凝集体の形成が抑制される金属超微粉の洗浄方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0011】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「金属超微粉」とは、金属を主として含む粒子の集合体をいう。金属を主として含むとは、粒子の全質量に対して、金属状態の金属原子を80~100質量%含むものをいう。なお、金属状態の金属原子とは、その金属原子の酸化数が0であるものをいう。
【0012】
<金属超微粉の洗浄方法>
本発明の金属超微粉の洗浄方法は、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られる金属超微粉の処理方法である。なお、以下、本発明の金属超微粉の洗浄方法に供する金属超微粉を、「未処理粉」ともいう。また、以下、本発明の金属超微粉の洗浄方法のことを単に、「本発明の洗浄方法」ともいう。
本発明の洗浄方法は、未処理粉をpHが3.0~6.0の緩衝液を用いて洗浄し、洗浄した未処理粉をさらにpH10.0未満の液体を用いて洗浄する。以下、未処理粉をpHが3.0~6.0の緩衝液を用いて洗浄する工程を、「第1洗浄工程」ともいい、さらにpH10.0未満の液体を用いて洗浄する工程を、「第2洗浄工程」ともいう。
【0013】
本発明の洗浄方法において、凝集体の形成が抑制される機序は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。以下、金属ハロゲン化物として金属塩化物を用いた場合の機序について説明するが、他の金属ハロゲン化物においても、同様の機序で凝集体の形成が抑制されると考えられる。
電子部品等の製造に供する場合、金属超微粉の表面に付着する不純物を除去することが求められる。ここで、本発明の洗浄方法においては、まず、第1洗浄工程を実施して、未処理粉に付着する金属塩化物の溶解除去を行う。次に、第2洗浄工程で、第1洗浄工程で除去されずに残存した洗浄した未処理粉の金属塩化物、および、洗浄した未処理粉に対して溶解後に再度付着した金属塩化物に由来する成分の少なくとも一方を除去する。また、第1洗浄工程に用いた金属塩化物に由来する成分を含む緩衝液と、洗浄した未処理粉とを分離しきれない場合があるため、第2洗浄工程では、金属塩化物に由来する成分を含む緩衝液の一部も洗浄した未処理粉から除去する。本発明において、第2洗浄工程には、pH10.0未満の液体を用いる。
未処理粉の表面に付着する金属塩化物は、易溶性であると考えられるが、気相還元反応の熱履歴により、表面に対して強固に付着していると考えられる。そのため、未処理粉表面に付着する金属塩化物を効率よく除去するためには、金属塩化物の溶解速度が大きくなる酸性水溶液を用いることが好ましいと考えられる。
一方、酸性水溶液のpHが低すぎると、未処理粉の金属部分の溶解速度も大きくなり、洗浄した未処理粉のスラリーにおいて、金属塩化物由来の金属イオンに加え、未処理粉の金属部分に由来する金属イオンも含まれることになる。したがって、第1洗浄工程において、所定のpHの範囲の緩衝液を用いてpHの変動を抑制すると、洗浄後の未処理粉のスラリーに未処理粉の金属部分由来の過剰な金属のイオンが含有されにくくなる。
第1洗浄工程で得られる未処理粉のスラリーにおいては、易溶性の金属塩化物および未処理粉由来の金属イオン、塩化物イオン、緩衝液に由来するイオンが残留し得る。
金属イオンをpH10.0以上の液体に接触させると、溶解度が低く、かつ、粒径の小さい金属水酸化物の粒子(例えばコロイド状の粒子)を生成しやすい。粒径が小さい金属水酸化物の粒子(例えばコロイド状の金属水酸化物粒子)は、それ自体が凝集しやすく、未処理粉を凝集させるトリガーとなり得る。したがって、pH10.0未満の液体を用いることで、凝集体の形成が抑制された金属超微粉が得られると推測される。
なお、第1洗浄工程において、所定のpHの範囲の緩衝液を用いない場合、未処理粉由来の金属のイオンが多く残留したスラリーとなり、金属水酸化物の生成が促進され凝集が発生しやすくなると考えられる。
【0014】
[未処理粉]
本発明の洗浄方法に供する金属超微粉(未処理粉)は、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られる。未処理粉を得る方法は、公知の方法を採用できる。
未処理粉を得る方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、金属ハロゲン化物の蒸気を発生させ、反応容器内に導入する。さらに、反応容器内に還元性ガス(例えば、水素ガス、および、アンモニアガス等)を導入し、金属ハロゲン化物の蒸気と反応容器内で接触させて金属ハロゲン化物を還元し、金属超微粉を生成させる。生成した金属超微粉は、反応容器から排出され、フィルタ、および、液体等によるトラップ等の方法で回収する。回収された金属超微粉に対しては、適宜、洗浄、分級、および、乾燥等の操作を行う。
なお、反応容器内に導入する金属ハロゲン化物の蒸気の量および分圧、還元性ガスの導入量および分圧、反応容器内における滞留時間、反応温度、冷却速度等を制御することで、金属超微粉の粒径を制御できる。
上述したように、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られる金属超微粉(未処理粉)においては、未反応の金属ハロゲン化物が付着している場合が多い。したがって、本発明の洗浄方法を実施して、金属超微粉(未処理粉)に付着する金属ハロゲン化物を除去する処理を実施する。
なお、金属ハロゲン化物としては、金属フッ化物、金属塩化物、金属臭化物、および、金属ヨウ化物が挙げられ、金属塩化物が好ましい。
【0015】
未処理粉は、金属を含む粒子から構成される。未処理粉は、1種類の金属元素を含む金属超微粉であってもよく、2種以上の金属元素を含む金属超微粉であってもよく、1種以上の金属元素とハロゲン元素(例えば塩素)以外の非金属元素とを含む金属超微粉であってもよい。
未処理粉に含まれる金属元素としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、および、銅(Cu)からなる群から選択される1種以上の金属元素が挙げられる。
未処理粉に含まれるハロゲン元素(例えば塩素)以外の非金属元素としては、例えば、酸素(O)、ケイ素(Si)、および、硫黄(S)からなる群から選択される1種以上の元素が挙げられ、Siが好ましく挙げられる。
【0016】
未処理粉の具体例としては、Fe超微粉、Fe合金超微粉、Co超微粉、Co合金超微粉、Ni超微粉、Ni合金超微粉、Cu超微粉、および、Cu合金超微粉が挙げられる。なかでも、未処理粉は、Ni超微粉、Ni合金超微粉、Cu超微粉、および、Cu合金超微粉からなる群から選択される1種以上が好ましい。
Fe合金超微粉を構成する合金としては、例えば、Fe-Si合金、Fe-Ni合金、Fe-Sn(スズ)合金、Fe-Cr合金、および、Fe-Cr-Si合金が挙げられる。
Co合金超微粉を構成する合金としては、例えば、Co-Si合金、Co-Sn合金、Co-Ni合金、および、Co-Cr合金が挙げられる。
Ni合金超微粉を構成する合金としては、例えば、Ni-Si合金、Ni-Sn合金、および、Ni-Cr合金が挙げられる。
Cu合金超微粉を構成する合金としては、例えば、Cu-Ni合金、および、Cu-Si合金が挙げられる。
【0017】
未処理粉におけるハロゲン元素(例えば塩素)の含有量は、未処理粉の全質量に対して、通常、100~30000質量ppmであり、5000~30000質量ppmの場合が多い。
未処理粉におけるハロゲン元素(例えば塩素)の含有量は、加熱により発生した気体のハロゲン元素含有ガスを、特定の電極に接触させ、その電極の電位変化および電極において反応した電荷量によって測定することができる。上記の測定を行う装置としては、日東精工アナリテック社製のTOX-2100Hが挙げられる。
【0018】
未処理粉の個数基準のメジアン径(D50)は、0.25μm以下が好ましい。上述したように、金属超微粉は微粒化するほど凝集しやすいが、本発明の洗浄方法によれば、金属超微粉が上記のD50の範囲であっても、凝集体の形成が抑制できる。超微粉の個数基準のD50は、0.20μm以下がより好ましく、0.15μm以下がさらに好ましく、0.10μm以下が特に好ましい。
一方、下限は特に限定されないが、実用上の観点から、未処理粉の個数基準のD50は、0.05μm以上が好ましい。
なお、未処理粉の個数基準のD50は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で測定して得る。具体的には、まず、未処理粉粒子をSEMで観察する際に、1視野に観察される粒子数が200個以上600個以下となるような倍率を選定して撮像する。ここで、撮像したSEM像における粒子数が10000粒子以上となるまで視野を変えて撮像を繰り返し、各視野における相当径をそれぞれ測長して、個数基準の粒度分布曲線を得て、個数基準のD50の値を算出する。なお、未処理粉のD50は、個数基準の累積分布で50%に相当する粒子径である。
【0019】
未処理粉の形状は特に制限されない。
未処理粉の形状としては、例えば、球状、板状、柱状、針状、および、多面体状が挙げられる。なかでも、球状、または、多面体状が好ましい。
【0020】
[第1洗浄工程]
本発明の洗浄方法は、未処理粉をpHが3.0~6.0の緩衝液(以下、「特定緩衝液」ともいう。)を用いて洗浄する第1洗浄工程を実施する。
第1洗浄工程においては、主に、未処理粉に含まれる(付着する)ハロゲン化物(例えば、金属塩化物)が除去される。
【0021】
特定緩衝液は、緩衝作用を有し、pHが上記範囲であれば特に制限されず、公知の緩衝液を用いることができる。
緩衝液とは、通常、弱酸とその塩とを含む水溶液である。
特定緩衝液に含まれる弱酸としては、例えば、有機酸、および、無機酸が挙げられる。有機酸としては、カルボキシ基(-COOH)を有するカルボン酸が好ましく挙げられ、カルボキシ基を分子内に複数有するポリカルボン酸がより好ましい。ポリカルボン酸としては、カルボキシ基を分子内に2つ有するジカルボン酸、または、カルボキシ基を分子内に3つ有するトリカルボン酸が好ましい。
特定緩衝液に含まれる弱酸としては、具体的には、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フタル酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、グルタミン酸、リン酸、および、ホウ酸が挙げられ、コハク酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸が好ましい。弱酸との塩に含まれるカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、および、アルカリ土類金属イオンが挙げられ、アルカリ金属イオンが好ましく、ナトリウムイオンがより好ましい。
より具体的には、第1洗浄工程における未処理粉の過剰な溶解を抑制し、凝集体の形成がより抑制できる点で、緩衝液としては、クエン酸-クエン酸ナトリウム水溶液、酒石酸-酒石酸ナトリウム水溶液、コハク酸-コハク酸ナトリウム水溶液、および、グルタミン酸-グルタミン酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される緩衝液がより好ましく、クエン酸-クエン酸ナトリウム水溶液、酒石酸-酒石酸ナトリウム水溶液、コハク酸-コハク酸ナトリウム水溶液、および、グルタミン酸-グルタミン酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される緩衝液がより好ましく、クエン酸-クエン酸ナトリウム水溶液、および、酒石酸-酒石酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される緩衝液がさらに好ましい。
なお、例えば、「クエン酸ナトリウム」とは、クエン酸のナトリウム塩を指し、クエン酸一ナトリウム、クエン酸見二ナトリウム、および、クエン酸三ナトリウムのいずれであってもよい。なかでも、クエン酸三ナトリウムが好ましい。また、上記に記載した多価の酸のナトリウム塩についても、ナトリウムイオンの含有数が異なる塩のいずれであってもよいが、多価の酸における酸基の数と、含まれるナトリウムイオンの数とが同じである塩(正塩)が好ましい。具体的には、酒石酸ナトリウムとしては、酒石酸二ナトリウムが好ましく、コハク酸ナトリウムとしては、コハク酸二ナトリウムが好ましく、グルタミン酸ナトリウムとしては、グルタミン酸二ナトリウムが好ましい。
また、「クエン酸-クエン酸ナトリウム水溶液」とは、クエン酸およびクエン酸ナトリウムを含む水溶液を意味する。
【0022】
特定緩衝液における緩衝剤(例えば、弱酸およびその塩)の含有量は、0.001~5.0mol/Lが好ましく、0.01~1.0mol/Lがより好ましい。
【0023】
また、特定緩衝液が、凝集体の形成がより抑制される点で、未処理粉に含まれる金属の金属イオンとキレート錯体を形成可能な成分(キレート剤)を含むことも好ましい。
キレート剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、コハク酸、グルタミン酸およびグルコン酸、ならびに、それらの塩が挙げられる。
キレート剤は、緩衝作用を発現する弱酸の役割を兼ねていてもよく、キレート剤は、緩衝作用を発現する弱酸およびその塩として特定緩衝液に含まれることが好ましい。
【0024】
特定緩衝液のpHは、3.0~6.0であるが、本明細書において、pHは、公知のpHメーターで測定する。なお、pHは、25℃における値である。
【0025】
第1洗浄工程においては、特定緩衝液を用いて未処理粉を洗浄するが、洗浄が実施されればその方法は特に制限されない。例えば、第1洗浄工程においては、未処理粉と、特定緩衝液とを接触させればよい。
未処理粉と特定緩衝液とを接触させる方法としては、例えば、特定緩衝液中に未処理粉を分散させる方法、および、未処理粉に対して特定緩衝液を通液する方法が挙げられ、特定緩衝液中に未処理粉を分散させる方法が好ましい。
【0026】
特定緩衝液中に未処理粉を分散させる方法としては、特定緩衝液中に未処理粉を入れ、特定処理液を撹拌する方法が挙げられる。特定緩衝液の撹拌は、公知の方法で実施でき、例えば、機械的に特定緩衝液を撹拌する方法が挙げられ、例えば、特定緩衝液を収容する容器内に設置された撹拌羽根を回転させる方法が挙げられる。特定緩衝液を収容する容器の側面においては、バッフル板が設置されていることも好ましい。
【0027】
第1洗浄工程を実施する際の特定緩衝液の温度は、適宜調整できる。上記温度は、例えば、80℃以下であるが、60℃未満が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下が更に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、上記温度は、5℃以上であり、10℃以上が好ましい。
第1洗浄工程を実施する時間は、上記温度とともに適宜調整できる。上記時間としては、例えば、30秒~2時間が挙げられ、未処理粉に付着した金属ハロゲン化物をより確実に溶解する点で、5~60分が好ましく、10~30分がより好ましい。
【0028】
特定緩衝液中に未処理粉を分散させる方法において、特定緩衝液の液量に対する未処理粉の質量は、適宜調整できるが、例えば、0.01~2kg/Lが挙げられ、0.1~1kg/Lが好ましい。
【0029】
第1洗浄工程は、不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。不活性ガス雰囲気中で第1洗浄工程を実施する方法としては、例えば、特定緩衝液を収容する容器内を不活性ガスで置換して、特定緩衝液および未処理粉を容器内に導入し、容器内の気体で満たされる部分に不活性ガスを供給しながら未処理粉の洗浄を行えばよい。不活性ガス雰囲気中で第1洗浄工程を実施すると、未処理粉の酸化を抑制できる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスおよびアルゴンガスが好ましく挙げられる。
また、特定緩衝液の溶存酸素を除去してから未処理粉の洗浄を行うことも好ましい。溶存酸素の除去方法は特に制限されず、公知の方法を適用できる。溶存酸素の除去方法としては、例えば、不活性ガスと接触させる方法、減圧する方法、および、脱酸素剤と接触させる方法等が挙げられ、不活性ガスと接触させる方法が好ましい。
【0030】
なお、第1洗浄工程は、1回のみ実施してもよいし、繰り返し実施してもよいが、1回のみ実施して後述する第2洗浄工程を実施することが好ましい。
【0031】
また、第1洗浄工程と、後述する第2洗浄工程との間に、特定緩衝液と、洗浄された未処理粉とを分離する工程を実施することが好ましい。
上記工程としては、通常この分野で実施される固液分離の方法を適用でき、例えば、加圧ろ過、減圧ろ過、遠心分離、および、デカンテーション等が挙げられる。
なお、上記工程では、完全に緩衝液と洗浄された未処理粉とを分離しなくてもよい。例えば、湿潤した状態(例えば、加圧ろ過または減圧ろ過で得られるケーキ)であってもよい。
【0032】
[第2洗浄工程]
本発明の洗浄方法は、第1洗浄工程で洗浄した未処理粉(以下、「第1洗浄粉」ともいう。)をさらにpH10.0未満の液体(以下、「特定洗浄液」ともいう。)を用いて洗浄する第2洗浄工程を実施する。
第2洗浄工程においては、主に、第1洗浄粉に含まれうるハロゲン元素(例えば、金属塩化物)、金属イオン、および、第1洗浄粉に付着した特定緩衝液に含まれる成分が除去され、凝集体の形成が抑制された金属超微粉が得られる。
【0033】
特定洗浄液は、pH10.0未満であれば特に制限されないが、水を主成分とすることが好ましい。また、凝集を促進しないイオン濃度の低い溶液(10μS/cm以下)が好ましい。特定洗浄液のpHは、9.0未満が好ましく、8.0未満がより好ましい。一方、特定洗浄液のpHは、6.0超が好ましい。
なかでも、特定洗浄液は、純水が好ましい。純水は、公知の方法で得ることができ、例えば、蒸留、イオン交換法、および、逆浸透膜法等で得ることができる。なお、純水とは、電気抵抗率が1.0MΩ・cm以上の水をいう。
【0034】
第2洗浄工程においては、特定洗浄液を用いて第1洗浄粉を洗浄するが、洗浄が実施されればその方法は特に制限されない。例えば、第2洗浄工程においては、第1洗浄粉と、特定洗浄液とを接触させればよい。
第1洗浄粉と特定洗浄液とを接触させる方法としては、第1洗浄工程で記載した方法が挙げられ、その好ましい態様(例えば、特定洗浄液の温度)も第1洗浄工程と同様である。
【0035】
第2洗浄工程は、不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。不活性ガス雰囲気中で第2洗浄工程を実施すると、得られる金属超微粉の酸化を抑制できる。不活性ガス雰囲気中で第2洗浄工程を実施する方法の例、および、不活性ガスの例は、第1洗浄工程で説明したものと同様である。
また、特定洗浄液の溶存酸素を除去してから未処理粉の洗浄を行うことも好ましい。溶存酸素の除去方法は特に制限されず、公知の方法を適用できる。溶存酸素の除去方法の例は、第1洗浄工程で説明したものと同様である。
【0036】
なお、第2洗浄工程は、繰り返し実施することが好ましい。
第2洗浄工程を繰り返し実施する場合、洗浄した第1洗浄粉と、特定洗浄液とを分離する工程を実施して洗浄した第1洗浄粉(以下、「第2洗浄粉」ともいう。)を得て、第2洗浄粉を再度特定洗浄液と接触させて洗浄すればよい。第2洗浄粉と、特定洗浄液とを分離する方法は、上述した特定緩衝液と、洗浄された未処理粉とを分離する工程の方法と同様である。なお、第2洗浄粉と、特定洗浄液とを分離する際には、完全に特定洗浄液と第2洗浄粉とを分離しなくてもよい。例えば、湿潤した状態(例えば、加圧ろ過または減圧ろ過で得られるケーキ)で分離してもよい。
また、再度特定緩衝液と接触させ、第2洗浄粉と特定洗浄液とを分離して得られた第2洗浄粉は、さらに特定緩衝液と接触させることも好ましい。なお、第2洗浄粉と特定洗浄液とを分離して得られた第2洗浄粉についても、「第2洗浄粉」とする。
第2洗浄工程を繰り返し実施する場合、用いられる特定洗浄液は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。なかでも、第2洗浄工程を繰り返し実施する場合に用いられる特定洗浄液は、それぞれ純水であることが好ましい。
ここで、繰り返し実施する第2洗浄工程に用いる特定洗浄液がいずれも純水である場合、第2洗浄粉から分離した特定洗浄液(例えば、加圧ろ過または減圧ろ過におけるろ液)の伝導度を測定し、伝導度が100μS/cm以下となるまで第2洗浄工程を繰り返し実施することが好ましい。第2洗浄粉から分離した特定洗浄液の伝導度をモニターすることで、第2洗浄粉の洗浄の程度を判定できる。伝導度は、第2洗浄粉に含まれうるハロゲン元素(例えば、金属塩化物)等に対応すると考えられる。したがって、伝導度が上記範囲となるまで第2洗浄工程を実施すると、第2洗浄粉に含まれうるハロゲン元素(例えば、金属塩化物)等が十分に除去される。
【0037】
なお、第1洗浄工程と、第2洗浄工程との間では、第1洗浄粉に他の液体を接触させないことが好ましい。すなわち、第1洗浄工程と、第2洗浄工程との間において、他の洗浄工程を実施しないことが好ましい。他の洗浄工程を実施しないとは、第1洗浄工程と、第2洗浄工程との間において、第1洗浄工程で得られた第1洗浄粉と、液体(例えば、pH10.0以上のアルカリ溶液)とを接触させないことを意味する。
【0038】
[他の工程]
本発明の洗浄方法は、上述した以外の他の工程を含んでいてもよい。
他の工程としては、例えば、修飾処理工程、乾燥工程、解砕工程、および、分級工程等が挙げられる。
【0039】
表面修飾工程は、金属超微粉の表面に対して所望の化合物を修飾する工程を意味する。表面修飾工程は、例えば、第2洗浄工程中または第2洗浄工程終了後に実施できる。
表面修飾工程で金属超微粉の表面に対して修飾する化合物としては、例えば、分散剤、および、酸化防止剤が挙げられる。
【0040】
乾燥工程は、第2洗浄工程を実施して得られる金属超微粉に対して実施することが好ましい。
乾燥方法は特に制限されず、公知の方法を適用できる。乾燥方法としては、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥、および、スプレードライ、ならびに、これらの組み合わせが挙げられる。また、第2洗浄工程に用いた液体とは別の液体(例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒等)を用いて、第2洗浄工程に用いた液体と、上記別の液体を置換しながら乾燥を行ってもよい。
乾燥工程は、不活性ガス雰囲気中もしくは真空雰囲気で実施することも好ましい。
【0041】
解砕工程は、上記乾燥工程を実施して得られる金属超微粉に対して実施することが好ましい。
解砕方法は特に制限されず、公知の方法を適用できる。解砕方法としては、例えば、ピンミル、ジェットミル、ボールミル、および、ビーズミル等を用いる方法が挙げられる。
解砕工程は、不活性ガス雰囲気中で実施することも好ましい。
【0042】
分級工程は、任意のタイミングで実施できる。分級工程によって、粗大粒子を除去してもよいし、微細粒子を除去してもよい。
分級方法は特に制限されず、公知の方法を適用できる。分級方法は乾式分級でも湿式分級でもよい。分級方法としては、重力分級、慣性分級、および、遠心分級が挙げられる。
乾式分級は、不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。
湿式分級は、溶存酸素を除去した溶液を用いて行うことが好ましい。
【0043】
<得られる金属超微粉の特性>
本発明の洗浄方法によれば、凝集体の形成が抑制された金属超微粉が得られる。以下、得られる金属超微粉の好ましい特性について説明する。
【0044】
得られる金属超微粉のD50は、未処理粉のD50と同様であること(具体的には、例えば、0.05~0.25μm)が好ましい。得られる金属超微粉のD50の測定方法は、未処理粉のD50の測定方法と同様(SEMによる測定)である。
【0045】
また、得られる金属超微粉においては、凝集体の形成が抑制される。
金属超微粉における凝集体の形成の程度は、レーザー回折法によって得られるD95L(体積基準の累積分布で95%に相当する粒子径)を指標として判断できる。測定方法は、後段の実施例の手順に従う。
金属超微粉をレーザー回折法によって測定した際のD95Lは、5.0μm未満が好ましく、3.0μm未満がより好ましい。下限は特に限定されず、D95Lは、例えば0.5μm以上である。
【0046】
得られる金属超微粉のハロゲン元素(例えば塩素)の含有量は、得られる金属超微粉の全質量に対して、100質量ppm以下が好ましい。下限は、特に限定されず、例えば、0.1質量ppmである。ハロゲン元素(例えば塩素)の含有量の測定方法は、未処理粉のハロゲン元素(例えば塩素)の含有量の測定方法と同様である。
【実施例0047】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0048】
<洗浄>
以下に示す手順で未処理粉を洗浄し、金属超微粉を得た。以下、各実施例および比較例の洗浄手順を説明する。
[実施例1]
まず、未処理粉(金属塩化物の蒸気を気相還元して得られる金属超微粉)として、Ni超微粉(以下、「未処理Ni粉」ともいう。)を準備した。未処理Ni粉のD50を上述した方法(SEMによる測定)で測定したところ、0.1μmであった。
次に、溶存酸素を除去した純水で調整した0.1mol/Lの濃度のクエン酸水溶液(後段の表中では溶液1)50Lと、溶存酸素を除去した純水で調整した0.1mol/Lの濃度のクエン酸三ナトリウム水溶液(後段の表中では溶液2)50Lとを混合し、第1洗浄工程に供する特定緩衝液を調製した。調製した特定緩衝液のpHは、4.4であった。
調製した特定緩衝液全量を、撹拌羽根を備える洗浄容器に入れ、さらに上記未処理Ni粉25kgを洗浄容器に入れ、撹拌羽根を回転させて20分間洗浄を行った(第1洗浄工程)。なお、洗浄中の特定緩衝液の温度は、25℃であった。また、上記洗浄容器は、外気を遮断することができるものであり、洗浄中、洗浄容器の内側における特定緩衝液と未処理Ni粉との混合物の上部の空間には、不活性ガスとしての窒素ガスをフローした。
第1洗浄工程を実施した後、特定緩衝液と未処理Ni粉との混合物を加圧ろ過して、第1洗浄工程を実施した未処理Ni粉(以下、「第1洗浄Ni粉」ともいう。)のケーキを得た。
【0049】
上記第1洗浄工程に用いた洗浄容器と同様の洗浄容器に、純水(イオン交換水、電気抵抗率:1MΩ・cm、溶存酸素濃度0.01mg/L以下、特定洗浄液に該当)を100L入れ、上記得られた第1洗浄Ni粉のケーキを入れた。純水および得られた第1洗浄Ni粉のケーキを入れた洗浄容器の撹拌羽根を回転させて20分間洗浄を行った(第2洗浄工程)。なお、洗浄中の純水の温度は、25℃であった。また、上記洗浄容器は、外気を遮断することができるものであり、洗浄中、洗浄容器の内側における純水と第1洗浄Ni粉との混合物の上部の空間には、不活性ガスとしての窒素ガスをフローした。
第2洗浄工程を実施した後、特定洗浄液と第1洗浄Ni粉との混合物を加圧ろ過して、Ni超微粉のケーキを得た。ここで、加圧ろ過で得られた第2洗浄工程後のろ液の導電率を測定し、その導電率が100μS/cm以下か否かを確認した。導電率が100μS/cm以下でない場合、再度、第2洗浄工程を実施した。
第2洗浄工程後のろ液の導電率が100μS/cm以下となったら、洗浄を終了し、得られたNi超微粉のケーキを60℃に設定した真空乾燥機で乾燥し、Ni超微粉を得た。
【0050】
[実施例2~36および比較例1~24]
実施例2~36においては、後段の表に示すように未処理粉、特定緩衝液の調製に用いる成分、および、特定緩衝液の調製時の混合量を変更した以外は、実施例1と同様にして洗浄を行った。
比較例1~24においては、後段の表に示すように未処理粉を変更し、特定緩衝液の代わりに表に示す洗浄液を用いた以外は、実施例1と同様にして洗浄を行った。
表中、「Ni-Si」は、Ni-Si合金の金属超微粉を表し、NiとSiとの合計含有量に対するNiの含有量は99質量%であり、Siの含有量は1質量%である。
表中、「Cu-Ni」は、Cu-Ni合金の金属超微粉を表し、CuとNiとの合計含有量に対するCuの含有量は67質量%であり、Niの含有量は33質量%である。
【0051】
なお、各実施例および各比較例に用いた未処理粉の塩素含有量は、1000~30000質量ppmの範囲であった。
【0052】
<評価>
[凝集体の評価]
各実施例および各比較例で得られた金属超微粉のレーザー回折法によって得られるD95L(体積基準の累積分布で95%に相当する粒子径)を比較した。
得られた金属超微粉のD95Lは、以下の手順で測定される。
測定には、日機装株式会社製のマイクロトラックMT3300を用いた。
まず、未処理粉0.3gを、4質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mLに添加した液を準備し、日本精機製作所 US-300T チップ径26Φ、チタン合金製を用いて超音波を250μA(出力75W)で6分間照射して測定用分散液を得た。
次いで、上記測定用分散液を、所定の透過率となるように上記装置中を循環する水中に導入した。測定用分散液を導入後、上記装置に付属する超音波照射機構を所定時間作動させた後、測定を実行し、体積基準の粒度分布曲線を得た。得られた体積基準の粒度分布曲線から、体積基準の累積分布で95%に相当する粒子径(D95L)を得た。
洗浄によって凝集体が形成されると、D95Lの値がより大きくなる。
金属超微粉のD95L測定結果は、後段の表に示す。
【0053】
[塩素の含有量の評価]
各実施例および各比較例で得られた金属超微粉の塩素の含有量を上述した方法で測定した。
金属超微粉の塩素の含有量の測定結果は、後段の表に示す。
【0054】
<結果>
各実施例および各比較例の洗浄方法の概要、および、洗浄によって得られた金属超微粉の評価結果を表に示す。
表中に示すpHの測定方法は上述した通りである。
【0055】
【0056】
【0057】
表に示す結果から、所定のpHの特定緩衝液を用いて洗浄し、さらにpH10.0未満の液体を用いて洗浄した場合には、凝集体の形成が抑制されることが確認された。また、塩素の含有量も低減されていることが確認された(実施例1~36)。
一方、所定のpHの特定緩衝液を用いて洗浄しなかった場合には、同様の未処理粉を用いた実施例(種類およびD50が同じ未処理紛を使用した実施例)と比較して、凝集体の形成が抑制できなかった(比較例1~24)。
具体的には、例えば、未処理粉の種類が「Ni」、D50が「0.10μm」である実施例1~5および比較例1~2を対比すると、所定のpHの特定緩衝液を用いて洗浄した実施例1~5は、所定のpHの特定緩衝液を用いて洗浄しなかった比較例1~2よりもD95Lの値が小さく、凝集体の形成が抑制できたことが分かった。
なお、未処理紛のD50が0.20μm未満の場合(例えば、未処理紛の種類が「Ni」である実施例1~5および比較例1~2、ならびに、実施例29~30および比較例17~18)は、これが0.20μmの場合(例えば、未処理粉の種類が「Ni」である実施例21~22および比較例9~10)と比べて、実施例と比較例とのD95Lの差が大きく、凝集体の形成をより抑制できたことが分かった。
【0058】
なお、本発明の洗浄方法は、金属超微粉が実施例で確認した以外の金属種であっても適用可能である。
例えば、FeおよびCo等の金属種において、これら金属種のハロゲン化物(例えば塩化物)は、水に易溶である。また、これら金属種のイオンは、pH3.0~6.0の緩衝液中で錯イオンを形成して水溶液中に溶解する。したがって、実施例で効果を確認したNi超微粉およびCu超微粉、ならびに、Ni合金超微粉およびCu合金超微粉の場合と同様に、本発明の洗浄方法によれば、FeおよびCo等の金属超微粉、ならびに、FeおよびCo等を含む合金超微粉においても、上述した機序により、凝集体の形成が抑制されると考えられる。なお、FeおよびCo等を含む合金超微粉を構成する合金については、上述した通りである。