(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132146
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水栓バルブ用グリースおよび水栓バルブ
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20240920BHJP
C10M 119/22 20060101ALI20240920BHJP
C10M 107/50 20060101ALN20240920BHJP
C10M 155/02 20060101ALN20240920BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20240920BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240920BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240920BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M119/22
C10M107/50
C10M155/02
C10N20:06 Z
C10N30:00 Z
C10N50:10
C10N40:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042826
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】淺野間 奨
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104CD01B
4H104CD02B
4H104CD04B
4H104CJ02A
4H104CJ03C
4H104EA08B
4H104LA20
4H104PA50
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】増ちょう剤の凝集を抑制できる水栓バルブ用グリースを提供する。
【解決手段】水栓バルブ用グリースは、シリコーン基油、増ちょう剤、および、被膜形成剤を含有し、前記増ちょう剤が一次粒子径が10μm以下のフッ素樹脂粉体を含有し、グリース中の前記フッ素樹脂粉体の含有率が20質量%~55質量%であり、前記被膜形成剤が、4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂であり、グリース中の前記網目状シリコーン樹脂と前記フッ素樹脂粉体との質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が0.03~0.18であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン基油、増ちょう剤、および、被膜形成剤を含有し、
前記増ちょう剤が、一次粒子径が10μm以下のフッ素樹脂粉体を含有し、グリース中の前記フッ素樹脂粉体の含有率が20質量%~55質量%であり、
前記被膜形成剤が、4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂であり、
グリース中の前記網目状シリコーン樹脂と前記フッ素樹脂粉体との質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が、0.03~0.18であることを特徴とする水栓バルブ用グリース。
【請求項2】
前記質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が0.06~0.15である請求項1に記載の水栓バルブ用グリース。
【請求項3】
前記網目状シリコーン樹脂が、トリメチルシロキシケイ酸である請求項1に記載の水栓バルブ用グリース。
【請求項4】
前記フッ素樹脂粉体が、ポリテトラフルオロエチレン粉体である請求項1に記載の水栓バルブ用グリース。
【請求項5】
少なくとも1つの通水孔を有する第1ディスク弁体と、前記第1ディスク弁体に摺接する第2ディスク弁体とを有し、
前記第1ディスク弁体または第2ディスク弁体が摺動することで、通水孔の開閉が可能となるように構成された水栓バルブにおいて、
前記第1ディスク弁体と第2ディスク弁体との摺接面に、請求項1~4のいずれか1項に記載の水栓バルブ用グリースが塗布されていることを特徴とする水栓バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓バルブに使用されるグリースに関する。
【背景技術】
【0002】
レバーの操作により吐水量や湯水の混合割合を調整できる水栓では、2枚のディスク弁体を組み合わせた水栓バルブが使用されている。例えば、シングルレバー式の湯水混合栓では、固定弁体および可動弁体として2枚のディスク弁体が互いに摺接した状態で配置されており、レバーの操作により可動弁体が摺動するように構成されている。そして、レバーの左右回動(旋回操作)により湯と水との混合比を調整することができ、レバーの前後回動(上下回動)により吐水量を調整することができる。
【0003】
このようなディスク弁体を用いた水栓では、ディスク弁体の摺動面に潤滑剤を塗布することが提案されている(例えば、特許文献1(段落0004、0034)参照)。また、ディスク弁体自体の摺動性を高めるための樹脂組成物が提案されており、例えば、特許文献2には、非圧縮性流体存在下に相互に摺動する少なくとも一方の摺動材を成形できる流体潤滑用樹脂組成物であって、前記流体潤滑用樹脂組成物は、樹脂成分に中空ガラス球を配合してなることを特徴とする流体潤滑用樹脂組成物が記載されている(特許文献2(請求項1、段落0009、0012)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7094523号公報
【特許文献2】特開2002-097487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水栓バルブに使用される潤滑剤は、一般的に、原料基油中に増ちょう剤を分散して半固体または固体状にしたグリースが使用されている。しかしながら、水栓を使用していると、流水がグリースに接触したり、バルブ内のグリースが塗布された摺動部品(例えば、ディスク弁体)が繰り返し摺動したりすることで、増ちょう剤の凝集物が発生する場合がある。このような増ちょう剤の凝集物が発生すると、この凝集物が原因となって、水漏れを発生することがあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、増ちょう剤の凝集を抑制できる水栓バルブ用グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができた本発明の水栓バルブ用グリースは、シリコーン基油、増ちょう剤、および、被膜形成剤を含有し、前記増ちょう剤は一次粒子径が10μm以下のフッ素樹脂粉体を含有し、グリース中の前記フッ素樹脂粉体の含有率が20質量%~55質量%であり、前記被膜形成剤が、4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂であり、グリース中の前記網目状シリコーン樹脂と前記フッ素樹脂粉体との質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が0.03~0.18であることを特徴とする。
【0008】
本発明の水栓バルブ用グリースは、増ちょう剤として一次粒子径が10μm以下のフッ素樹脂粉体を所定量含有することで、バルブの摺動性を高めることができる。また、被膜形成剤として4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂を含有し、質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)を制御することで、増ちょう剤であるフッ素樹脂粉体の凝集を抑制できる。よって、増ちょう剤の凝集物が原因となって発生する水漏れを抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水栓バルブ用グリースは、増ちょう剤の凝集を抑制でき、増ちょう剤の凝集物が原因となって発生する水漏れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1ディスク弁体の上面側から見た斜視図である。
【
図2】第2ディスク弁体の上面側から見た斜視図である。
【
図3】第2ディスク弁体の下面側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[水栓バルブ用グリース]
本発明の水栓バルブ用グリース(以下、単に「グリース」と称する場合がある。)は、シリコーン基油、増ちょう剤、および、被膜形成剤を含有する。そして、前記増ちょう剤が、一次粒子径が10μm以下のフッ素樹脂粉体を含有し、グリース中の前記フッ素樹脂粉体の含有率が20質量%~55質量%であり、前記被膜形成剤が4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂であり、グリース中の前記網目状シリコーン樹脂と前記フッ素樹脂粉体との質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が、0.03~0.18であることを特徴とする。
【0012】
前記被膜形成剤として4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂を所定量配合することで、フッ素樹脂粉体の凝集を抑制できる理由は必ずしも明らかでないが、網目状シリコーン樹脂の被膜形成効果により、摺動部品(例えば、ディスク弁体)に塗布されたグリースからの基油成分の流出を抑制することができる。これによって摺動部品の摺動面上において、フッ素樹脂粉体のみが残留することが防止されて、フッ素樹脂粉体同士の接触頻度が低下し、凝集体の形成が抑制されると考えられる。
【0013】
(シリコーン基油)
基油は、グリースのベースとなるオイル分である。なお、シリコーン基油は、4官能のSiO2単位を含まない。
前記シリコーン基油は、特に限定されず、従来グリースの基油として用いられているものを使用できる。前記シリコーン基油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)等のジメチルシリコーンオイル;メチルフェニルポリシロキサン等のメチルフェニルシリコーンオイル;メチルシクロポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状シリコーンオイル;ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、脂肪族アルコール変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン等の変性シリコーン;メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチコノール等が挙げられる。これらのシリコーン基油は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも前記シリコーン基油としては、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。
【0014】
前記シリコーン基油の25℃における動粘度は、1,000mm2/s以上が好ましく、より好ましくは5,000mm2/s以上、さらに好ましくは10,000mm2/s以上であり、100,000mm2/s以下が好ましく、より好ましくは50,000mm2/s以下、さらに好ましくは30,000mm2/s以下である。前記25℃における動粘度が1,000mm2/s以上であればグリースの耐水性がより向上し、100,000mm2/s以下であればグリースの摺動性向上効果がより大きくなる。
【0015】
前記グリース中のシリコーン基油の含有率は、40質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、79.4質量%以下が好ましく、より好ましくは74質量%以下、さらに好ましくは67質量%以下である。シリコーン基油の含有率が40質量%以上であればグリースの耐水性がより向上し、79.4質量%以下であればグリースがバルブ部品の摺動面に留まりやすく、摺動性向上効果がより大きくなる。
【0016】
前記グリースは、基油として、菜種油、ピーナッツ油、コーン油、綿実油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、パーム油、やし油、ベニバナ油、ツバキ油、オリーブ油、落花生油等の食用植物油(天然植物性油);ラード、牛脚油、サナギ油、イワシ油、ニシン油等の食用動物性油(水産動物油);食品として経口される中鎖脂肪酸トリグリセリド、食品添加物であるジグリセリンカプリル酸エステル、ジグリセリンカプリル酸オレイン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンカプリル酸オレイン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル等の合成油や半合成油;流動パラフィン等を含有してもよい。
【0017】
(増ちょう剤)
前記増ちょう剤は、一次粒子径が10μm以下のフッ素樹脂粉体を含有する。前記フッ素樹脂粉体は、撥水性を有しており、水栓バルブ用グリースの耐水性が向上する。また、前記フッ素樹脂粉体は、固体潤滑剤としても作用する。よって、増ちょう剤として一次粒子径が10μm以下のフッ素樹脂粉体を含有することで、グリースの耐水性が向上し、かつ、バルブの摺動性も向上する。
【0018】
前記フッ素樹脂粉体の一次粒子径は、増ちょう効果の観点から、10μm以下が好ましい。前記フッ素樹脂粉体の一次粒子径は、5μm以下が好ましく、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下、一層好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。前記フッ素樹脂粉体の一次粒子径が1.0μm以下であれば増ちょう効果が一層向上し、増ちょう剤としてのフッ素樹脂粉体の使用量を低減することが可能となる。前記フッ素樹脂粉体の一次粒子径の下限は特に限定されないが、一次粒子径が大きい程、フッ素樹脂粉体の耐摩耗性が向上し、潤滑性能が高くなる傾向があるため、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。なお、フッ素樹脂粉体の一次粒子径は、走査電子顕微鏡、電子線マイクロアナライザーを用いて測定する。
【0019】
前記フッ素樹脂粉体を構成するフッ素樹脂は、フッ素を含有するオレフィンを重合して得られる合成樹脂である。
前記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のホモポリマー;テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体(ETFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体(ECTFE)等が挙げられる。フッ素樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体(ETFE)、および、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体(ECTFE)よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0021】
前記フッ素樹脂粉体としては、ポリテトラフルオロエチレンの粉体が特に好ましい。ポリテトラフルオロエチレン粉体は、乳化重合型、懸濁重合型のいずれも使用できるが、乳化重合型が好ましい。
【0022】
前記グリース中のフッ素樹脂粉体の含有率は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、55質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。フッ素樹脂粉体の含有率が20質量%以上であればグリースの摺動性向上効果がより大きくなり、55質量%以下であればフッ素樹脂粉体の凝集体の発生がより抑制できる。
【0023】
前記グリースは、前記フッ素樹脂粉体以外の他の増ちょう剤を含有してもよい。他の増ちょう剤としては、金属石けん系増ちょう剤、複合体金属石けん系増ちょう剤、ポリウレア等が挙げられ、好ましくはリチウム石けん系増ちょう剤である。
【0024】
(被膜形成剤)
前記グリースは、被膜形成剤として、4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂(以下、単に「網目状シリコーン樹脂」と称する場合がある。)を含有する。前記4官能のSiO2単位(以下、「Q単位」と称する場合がある。)を含む網目状シリコーン樹脂は、Q単位を含有することで3次元網目構造を有している。この4官能のSiO2単位を含む網目状シリコーン樹脂を所定量含有することで、フッ素樹脂粉体の凝集が抑制される。
【0025】
前記網目状シリコーン樹脂は、前記Q単位以外に、1官能性のR3SiO1/2単位(以下、「M単位」と称する場合がある。)、2官能性のR2SiO単位(以下、「D単位」と称する場合がある。)、3官能性のRSiO3/2単位(以下、「T単位」と称する場合がある。)を含有してもよい。なお、M単位、D単位、T単位において、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、または、ヒドロキシ基を表す。
【0026】
前記網目状シリコーン樹脂は、Q単位とM単位とを含むことが好ましい。前記網目状シリコーン樹脂がQ単位とM単位を含むことで、フッ素樹脂粉体の凝集を抑制する効果が一層向上する。
前記網目状シリコーン樹脂は、Q単位とM単位とから構成されるトリメチルシロキシケイ酸が好ましい。前記トリメチルシロキシケイ酸は、[(CH3)3SiO1/2]m[SiO2]n(mは1~3の範囲の値を表す。nは0.5~8の範囲の値を表す。)で表される組成を有するものが好ましい。
【0027】
前記グリース中の網目状シリコーン樹脂の含有率は、0.6質量%以上が好ましく、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは3.0質量%以上であり、10.0質量%以下が好ましく、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下である。網目状シリコーン樹脂の含有率が0.6質量%以上であればグリースの耐水性がより向上し、10.0質量%以下であればグリースの摺動性向上効果がより大きくなる。
【0028】
前記グリース中の前記網目状シリコーン樹脂と前記フッ素樹脂粉体との質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が、0.03以上であることが好ましく、より好ましくは0.06以上、さらに好ましくは0.08以上であり、0.18以下が好ましく、より好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.10以下である。前記質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が、0.03以上であればグリースからの基油成分の流出が抑制され、フッ素樹脂粉体の凝集が生じにくくなり、0.18以下であればグリースの摺動性向上効果がより大きくなる。
【0029】
(他の添加剤)
前記グリースは、シリコーン基油、増ちょう剤および被膜形成剤以外に、他の添加剤を含有してもよい。前記他の添加剤としては、例えば、固体潤滑剤、酸化防止剤、キレート剤等が挙げられる。
【0030】
前記固体潤滑剤としては、グラファイト粉体、二硫化モリブデン粉体、金属酸化物粉体、有機モリブデン等が挙げられる。
前記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
前記キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、サリチルアルドキシム等の多座化合物が挙げられる。
【0031】
前記他の添加剤の含有率は、本発明の効果が損なわれない程度であれば特に制限されない。前記グリース中の前記他の添加剤の含有率は、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下である。
【0032】
前記グリースは、基油以外の成分の合計含有率が、60質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0033】
(グリースの調製方法)
前記グリースの調製方法は、特に限定されない。前記グリースは、例えば、シリコーン基油、増ちょう剤、および、被膜形成剤、必要によりその他の添加剤を、容器に投入し、撹拌、混合することで調製できる。なお、撹拌および混合は、公知の撹拌機等を使用できる。
【0034】
[水栓バルブ]
本発明の水栓バルブは、少なくとも1つの通水孔を有する第1ディスク弁体と、前記第1ディスク弁体に摺接する第2ディスク弁体とを有し、前記第1ディスク弁体または第2ディスク弁体が摺動することで、通水孔の開閉が可能となるように構成された水栓バルブにおいて、前記第1ディスク弁体と第2ディスク弁体との摺接面に、前記水栓バルブ用グリースが塗布されていることを特徴とする。
【0035】
前記水栓バルブ用グリースは増ちょう剤の凝集を抑制し、凝集物に起因する水漏れの発生を抑制できる。よって、前記水栓バルブは、長期間使用しても第1ディスク弁体と第2ディスク弁体との摺接面からの水漏れの発生が抑制される。
【0036】
前記水栓バルブは、混合栓に組み込まれて使用される。具体的には、前記第1ディスク弁体または第2ディスク弁体が水栓のハンドル(レバー)と連動するように接続される。そして、水栓のハンドルを操作することによって、前記第1ディスク弁体または第2ディスク弁体が摺動することで、止水状態、吐水状態の切り替えや、吐水量の調節が可能となる。
【0037】
前記第1ディスク弁体および第2ディスク弁体の材質は特に限定されないが、セラミック製が好ましく、アルミナ製、炭化ケイ素製がより好ましい。前記第1ディスク弁体および第2ディスク弁体は、それぞれの摺接面に耐摩耗層(例えば、アモルファスカーボン層)が形成されていてもよい。
【0038】
前記第1ディスク弁体の通水孔の個数は、用途に応じて適宜変更すればよく、2つまたは3つ形成してもよい。
前記第2ディスク弁体は、水栓バルブの通水態様に応じて、通水孔、通水溝を有していてもよい。第2ディスク弁体の通水溝は、第1ディスク弁体との対向面に形成され、第1ディスク弁体に複数の通水孔が形成されている場合に、1つの通水孔と、他の1つまたは複数の通水孔とを連通する。
【0039】
前記水栓バルブとしては、例えば、第1ディスク弁体と前記第1ディスク弁体に摺接する第2ディスク弁体とを有し、前記第1ディスク弁体が湯供給孔、水供給孔および排出孔を有し、前記第2ディスク弁体が第1ディスク弁体との対向面に湯水混合凹部を有する湯水混合栓用の水栓バルブが挙げられる。
【0040】
図1~3を参照し、第1ディスク弁体、第2ディスク弁体の一例を説明する。
図1は第1ディスク弁体の上面側から見た斜視図である。
図2は第2ディスク弁体の上面側から見た斜視図である。
図3は第2ディスク弁体の下面側から見た斜視図である。
図1に示した第1ディスク弁体10は、平面視形状が角丸四角形状であるディスク部材である。前記第1ディスク弁体10は、上面11が摺接面となっている。前記第1ディスク弁体10は、水供給孔12、湯供給孔13および排出孔14を有しており、これらはいずれも下面から上面まで貫通する貫通孔となっている。また、排出孔14の周囲には凹部15が形成されている。
図2、3に示した第2ディスク弁体20は、平面視形状が略円形状であるディスク部材である。前記第2ディスク弁体20は、下面21が摺接面となっている。前記第2ディスク弁体20は、下面21の中央部に湯水混合凹部22が形成されている。
【0041】
図1~3に示した第1ディスク弁体10および第2ディスク弁体20は、それぞれの摺接面である第1ディスク弁体10の上面11と第2ディスク弁体20の下面21が摺接するように配置される。そして、第2ディスク弁体20を摺動させることで、止水状態と通水状態との切り替えや、吐水量の調節が可能となる。
【0042】
前記水栓バルブが組み込まれる湯水混合栓は特に限定されず、従来公知の湯水混合栓に組み込むことができる。前記湯水混合栓としては、例えば、特許第7094523号公報に記載されている湯水混合栓が挙げられる。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0044】
[水栓バルブ用グリースの調製]
表1に示した原料を混合し、水栓バルブ用グリースを調製した。
【0045】
【0046】
グリースNo.1:シリコーン基油の含有率63.9質量%、ポリテトラフルオロエチレン粉体(一次粒子径:0.2μm)の含有率36.1質量%
グリースNo.2:シリコーン基油の含有率45.1質量%、ポリテトラフルオロエチレン粉体(一次粒子径:0.2μm)の含有率54.9質量%
KF-7312K:信越化学工業社製、トリメチルシロキシケイ酸とジメチルシリコーンオイルとの混合物(トリメチルシロキシケイ酸含有率:60質量%)
【0047】
[水栓バルブの作製]
上記で調製した水栓バルブ用グリースを、湯水混合栓(タカギ社製、品番JY297MN)の水栓バルブの固定弁体と可動弁体との摺動部に塗布し、水栓バルブを作製した。
【0048】
(グリース評価)
水栓バルブ用グリースを塗布した水栓バルブを湯水混合栓(タカギ社製、品番JY297MN)に取り付け、レバーを操作し、吐水(水圧:静水圧0.3MPa、水温:45℃)と止水とを繰り返し行った。所定回数の吐水と止水とを行った後、固定弁体を取り出し、増ちょう剤の凝集の有無を確認し、下記の評価基準で評価した。なお、凝集物の確認は、マイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-5000)を用いて行い、凝集物が存在する場合は凝集物の最大径を測定した。結果を表1に示した。
◎:凝集物が存在しない、または、大きさが0.25mm未満の凝集物が存在する。
〇:大きさが0.25mm以上、0.50mm未満の凝集物が存在する。
×:大きさが0.5mm以上の凝集物が存在する。
【0049】
上記のグリース評価において、水栓バルブ用グリースNo.1~12のいずれについても、固定弁体と可動弁体との摺動性については問題なかった。
表1に示したように、被膜形成剤を含有しない水栓バルブ用グリースNo.1、8では、大きさが0.5mm以上である大きな凝集物が発生した。また、グリース中の質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が0.03未満である水栓バルブ用グリースNo.2では、大きさが0.5mm以上である大きな凝集物が発生した。
【0050】
これに対して、被膜形成剤と含有し、かつ、グリース中の質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が0.03~0.18である水栓バルブ用グリースNo.3~7および10~12は、発生した凝集物の大きさが0.5mm未満であり、凝集物の生成が抑制されていた。特に、質量比(網目状シリコーン樹脂/フッ素樹脂粉体)が0.06以上である水栓バルブ用グリースNo.6、7、11および12は、発生した凝集物の大きさが0.25mm未満であり、凝集物の生成が一層抑制されていた。